第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)  会社の経営の基本方針

当社グループは、創立当初より安全で環境負荷の少ない農薬の開発に傾注し、国産第1号農薬の開発・製品化以来、国内のみならず、世界各地で自社開発品を中心とした製品の普及を進め、「いのちと自然」を守り育てることをテーマに、世界規模での農作物の生産性向上に貢献できるよう取り組んでおります。

当社グループは、事業の中核をなす農薬の研究開発を根幹として、効率的な経営資源の投入を図ります。また、生産、物流、販売の連携を図り、収益本位の経営に徹底し、売上、利益の確保、増大ができる企業体質を確立することを経営の基本方針としております。

 

(2)  目標とする経営指標

今後も持続的な成長を続け、収益力の一層の強化を目指し、企業価値の向上につなげていくため、当社グループは、「売上高」、「営業利益」ならびに株主資本及び総資本の運用効率を示す指標である「自己資本利益率(ROE)」等を重要な指標として認識しております。

中期経営計画における2026年10月期の目標は、売上高185,000百万円、営業利益16,000百万円、自己資本利益率(ROE)11.0%以上と設定しております。

 

(3)  経営環境

農薬を取り巻く環境に関しては、海外の景気減速の可能性や、燃料や原材料価格の高騰などによる物価高、及びウクライナ情勢や中東情勢等の地政学的リスクの高まりや、米国の政権交代による政策変更の可能性等により、先行きは依然として不透明な状況が続くことが予想されております。

国内では農業従事者の高齢化・人手不足による耕作面積の減少など依然として課題が多くありますが、みどりの食料システム法が2022年7月に施行され、環境負荷低減や労働生産性向上に向けた取り組みが活発化しております。

新型コロナウイルス感染症の5類感染症移行に伴い、経済活動が徐々に正常化、緩やかに景気回復が続いておりますが、原材料価格の高騰や為替相場の変動もあり、今後の動向に注視する必要があります。

 

(4) 中長期的な経営戦略及び優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

中国を中心とした海外の景気減速の可能性や、燃料や原材料価格の高騰などによる物価高、及びウクライナ情勢や中東情勢等の地政学的リスクの高まりや、米国の政権交代による政策変更の可能性等により、先行きは依然として不透明な状況が続くことが予想されます。

当社グループの中核事業である農薬及び農業関連事業は、世界の人口増加に伴う食料及び飼料需要の増加などを背景として今後も拡大するものと考えられますが、上記のような不透明な状況や流通在庫の増加に起因した世界的な在庫適正化の動きを背景に、市場環境は一層厳しさを増しております。

 

このような情勢の下、当社グループにおきましては、2024年10月期を初年度とする中期経営計画「Create the Future ~できる。をひろげる~」を策定し、企業価値の向上に向けた重点施策の遂行に全力で取り組んでおります。

 

国内販売部門におきましては、水稲用除草剤の「エフィーダ剤」及び「ベンスルフロンメチル剤」の更なる普及基盤の拡大により、水稲一発処理除草剤市場におけるシェア1位の維持を図ってまいります。また、水稲用殺菌剤「ディザルタ剤」の育成と拡販に注力するとともに、スマート農業推進のための継続的な取り組みを進めてまいります。

園芸剤分野では「ピリベンカルブ剤」など自社開発剤の推進活動を強化するとともに、マーケティング戦略に基づく新規導入剤の早期最大化に取り組んでまいります。

さらに、当社微生物農薬であるエコシリーズの再プロモーション等により、「みどりの食料システム戦略」で求められる環境負荷の低減に貢献してまいります。

 

海外販売部門におきましては、事業の中核をなす「アクシーブ剤」について米国、ブラジル、オーストラリア、アルゼンチン等の主要市場において新規混合剤の開発を推進し、適切な販売促進支援を行い、継続的な販売拡大・維持を図ります。オーストラリアでジェネリック品が市場参入、アルゼンチンでも参入見込みですが、ジェネリック品の分析等によって当社保有の特許権の侵害が認められた場合には、知的財産権の保護のため提訴を含めた対応を実施する等、様々なジェネリック品対策を施します。同時に、当社在庫の適正化を図っていきます。また、「エフィーダ剤」の韓国での販売拡大、及びその他欧州、米州、アジアでの開発、「ディザルタ剤」の韓国における新規混合剤の上市、販売推進、アジアを中心とした開発を行います。

今後も自社製品の普及、技術指導を通して、世界の農業の生産性向上と生産者の収入増加へ寄与してまいります。

 

特販部門におきましては、自社農薬製剤技術の有効活用による新規製剤受託加工品目の獲得、「エフィーダ剤」、「ベンスルフロンメチル剤」等の自社開発品目の農耕地・非農耕地分野での拡充により、売上・利益の最大化を図ってまいります。また、自社原体を他社メーカーに向けさらに導出するべく、販売ルートの多様性確保を図ってまいります。

 

化成品事業におきましては、アラミド繊維原料となるクロロキシレン系化学品の更なる成長への展開と、ビスマレイミド・アミン硬化剤・産業用薬品・発泡スチロール類等の拡販、市場動向に合わせた受託製造ビジネスの拡大により売上・利益の最大化に努めてまいります。また、研究開発部門及びグループ化成品事業の連携強化と推進による高付加価値な新規ビジネスの創出により、化成品事業領域の拡大を図ってまいります。

 

その他の事業におきましては、建設業では、引き続き自社ブランド確立と一般顧客に対する認知度向上に取り組み、工事受注量拡大を図ってまいります。印刷事業では、機械化の促進など生産効率の向上による原価低減に一層取り組むとともに、販売手法の開拓を通じて既存顧客の維持及び新規顧客の拡大を図ってまいります。物流事業では、ホワイト物流推進運動の継続と機械化による労働負荷軽減や業務効率化を図るとともに、顧客に合わせた最適な物流サービスの提供に取り組んでまいります。また、物流データの見える化や物流業務のデジタル化による効率化と収益改善にも注力してまいります。

 

生産資材部門におきましては、安全操業を前提に原体・製剤の効率的生産、製造条件改善による原価低減、効率的生産のための設備投資と工場機能の強化に取り組んでまいります。また、温室効果ガス排出量削減や廃棄物削減を加速し、よりクリーンな工場の実現を図ってまいります。調達に関しては、海外営業部と協働しアクシーブの在庫の適正化に注力するとともに、各種原体及び原材料のコスト低減に向けたサプライヤーとの交渉を進めて参ります。

 

研究開発部門におきましては、従来の化学農薬に加え、微生物農薬、バイオスティミュラント等の開発により「みどりの食料システム戦略」にも対応した、環境にやさしく自然と調和した新たな製品の創出に取り組んでまいります。新規殺ダニ剤「バネンタ」と、果樹やバラの根頭がんしゅ病防除用の微生物農薬「エコアーク」は国内での農薬登録の申請をし、審査が進められている中で、上市に向けた準備を進めており、継続して海外評価にも着手しております。

農薬事業の中核をなす「アクシーブ」はジェネリック品に対する知財戦略を推し進めるとともに、新規混合剤、新製剤開発による差別化を進めてまいります。「エフィーダ」、「ディザルタ」については、欧州、米国をはじめとするグローバル開発を進めると同時に、原体製造の最適化による利益性改善も進め、事業の最大化を目指してまいります。また、地球温暖化による環境変化、人口増加、PFAS等の規制を見据えた新技術の開発研究に取り組むなど、研究段階から社会課題の解決を視野に入れた製品開発・新技術開発に一層取り組んでまいります。

化学研究所Shimizu Innovation Park(ShIP)は2023年10月より本格稼働を始め、統合した3研究センター間で大きなシナジー効果を発揮しております。ShIPとともに研究開発の原動力となる生物科学研究所につきましても、2027年に新研究棟の稼働を目指し建設を進めております。化学研究所と生物科学研究所を両輪として、新農薬創製・製品開発のスピードアップと、研究領域の拡大を目指してまいります。

 

サステナビリティ経営におきましては、当社のコア事業である農薬及び農業関連事業に深く関わる気候変動や環境負荷低減に対する取り組みとして、当社グループで排出する温室効果ガス排出量を2030年までに2019年比30%削減とする目標を設定し、CO2フリー電力の導入やCO2排出量の少ない燃料への転換により着実に削減を進めています。さらに100年企業となる2048年までのカーボンニュートラルの実現に向けて効果的な削減策の検討を継続します。また、地域の生物多様性、豊かな景観を維持する活動として、北海道福島町の自社保有林640haの適正な維持・管理や静岡県菊川市において希少な生物や植物も生存できるような3,030㎡のビオトープ(クミカレフュジア)の造成を行っています。環境省が主導する「30 by 30アライアンス」にも参加し、生態系の維持や回復に向けた活動に取り組んでまいります。

社会に関わる取り組みとして、当社は2023年9月18日に「国連グローバル・コンパクト」への取り組みを表明しました。「国連グローバル・コンパクト」とは企業による自主行動原則で、署名した企業は、「人権」「労働」「環境」「腐敗防止」の4分野10原則に対して、経営トップ自らがコミットメントし、実践してまいります。また、人的資本経営を目指した人財戦略として、当社の期待する人財像を設定し、その人財像を確保するため、採用、育成、配置/キャリア、人事制度、評価、報酬、ダイバーシティ、ワークライフバランスの課題別に人事施策を策定し、取り組んでまいります。

 

2024年11月1日に横山新社長の下、新体制に移行し、これまでに築いた経営基盤を引き継ぎ、更なる企業価値の向上を目指してまいります。そのためには、100年企業に向けた当社グループのあるべき姿を追求し、役職員の皆が「誇れる会社」となるよう、経営に邁進してまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取り組み】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) サステナビリティ全般

当社グループでは2022年度に、事業戦略や当社グループを取り巻く社会変化などの事業環境を踏まえ、従来のマテリアリティの全面的な見直しを行いました。当社グループの20~30年後のあるべき姿を「独自技術で豊かなくらしを支え、自然と調和した社会の持続的発展に貢献するフレキシブルで存在感のある企業グループ」、「食の安定供給を支える農業に貢献し、革新的な技術と独自の事業領域を確立した最先端の化学メーカー」と定めました。このあるべき企業像の実現に向けて、ESGの要素を経営戦略に反映させ、事業の成長を通じての企業の経済的価値の向上とともに、非財務指標の向上を通じて企業の社会的価値をも向上させていくことを目指しています。各マテリアリティにはKPIを設定し、中期経営計画等の事業計画と連動させることにより、達成のための取り組みを確実に実行してまいります。

 

マテリアリティ・マトリックス

 


 

 ① ガバナンス

代表取締役社長がサステナビリティ推進委員会の議長となり、「気候変動・環境負荷の低減」、「人財の育成/人的資本の考え方をベースにした人財戦略」等のサステナビリティ課題について、戦略の策定や取り組み課題の実行計画の進捗管理、また情報開示戦略の立案を行っています。また、「レスポンシブル・ケア推進委員会」でも労働安全衛生や化学物質管理等に関する方針決定や課題への対応策の協議を行っています。サステナビリティ推進委員会等での重要な審議事項については、取締役会に報告され、決定や監督が行われています。指名・報酬委員会においてはGHG削減の取り組みの達成状況について確認を行い役員報酬の決定に反映させています。

 

サステナビリティ推進体制図


 

② 気候変動に対する戦略

気候変動は、気温上昇による病害虫の増加、異常気象増加による農業生産への悪影響等、様々な問題をもたらす深刻な社会課題といえます。そのため、当社グループは、気候変動の緩和と適応に向けて、温室効果ガス(GHG)排出量を継続的に削減するなどの取り組みを進めるとともに、2022 年11 月に、「TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言」への賛同を表明し、TCFD 提言を踏まえた情報開示に取り組んでいます

気候変動に関して、マテリアリティの一つに「気候変動・環境負荷の低減」を掲げ、気候変動が当社グループにもたらすリスクや機会を洗い出しています。またシナリオ分析を行い、当社グループが目指す「安全・安心で豊かな社会」シナリオ(いわゆる1.5℃シナリオ)、気候変動等の社会課題が深刻化する「持続可能ではない社会」シナリオ(いわゆる4℃シナリオ)を設定し、リスクや機会の当社グループへの影響度を評価しています。また、影響度の大きい重大なリスクや機会に対する対策を検討しています。検討の内容については、サステナビリティ推進委員会に報告し、代表取締役社長をはじめとした経営陣が気候変動リスク・機会について協議しています

気候変動に関するリスク・機会の分析、GHGデータ開示の詳細については、当社コーポレートサイト(https://www.kumiai-chem.co.jp/sustainability/management/tcfd/)及び統合報告書で開示しております。

主なリスクや機会、その対策については、以下のとおりです。当社グループが目指す「安全・安心で豊かな社会」の実現が、当社グループにとってプラスになることが改めて確認できました。



 

 ③ リスク管理

当社グループでは、社内各部門が認識するリスクと機会を洗い出すとともに、TCFD 等外部機関の提言や同業他社が認識している気候関連リスクや機会も参考として課題を抽出しています。抽出した課題については、財務上のインパクトを考慮した影響度評価を行い、重要度を決定します。抽出されたリスク課題は全社委員会である「リスク・コンプライアンス委員会」で年1回審議され、課題への対応策が決定されます

 ④ 気候変動に対する指標・目標

当社グループでは、2019年度を基準年とし、当社グループ主要7社のScope1+2 のGHG排出量を2030 年度までに2019 年度比30%削減とする目標を掲げています。具体的には、静岡工場をはじめとする主要な工場・研究所において再生可能エネルギー等由来のCO₂フリー電力を採用する等の目標達成に向けた取り組みを行っております。また、当社が100年企業を迎える2048年までに、当社グループ主要7社のScope1+2 のGHG排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現を目標としております。既存技術だけではカーボンニュートラルに向けた目標達成が困難なことから、将来的に低炭素燃料(水素・アンモニア等)や革新的なカーボンネガティブ技術およびカーボンクレジットの活用も考慮します。

 


(2) 人的資本経営に関する考え方及び取り組み

新中期経営計画(2024-2026年度)に掲げる目標を達成し、持続的な成長を実現するためには、多様で意欲あふれる人財が集まり、育ち、能力を発揮し、のびのびと働くことができる組織風土づくりが不可欠です。当社では、中期経営計画を推進するうえで必要な人財像を特定し、これに基づく人財戦略を明確化しています。

 ① 目指すべき人財像

新中期経営計画では、事業戦略を支える基盤として「人財の育成/人的資本の考え方をベースにした人財戦略」を重要方針の一つとして掲げています。具体的には、今後の事業戦略を推進するうえで、次のスキルを有する人財を重点強化人財としています。

・コアビジネスの研究開発力をさらに強化する人財

・全社的なガバナンス体制強化のための専門人財

・海外で活躍できるグローバル人財、事業の仕組みづくりができる人財

・製品・サービスの安定供給に向けて、生産・調達に精通し、その改善を推進する人財

さらに、全社的に共通して求められるマインドセットや多様性を実現するため、次の期待人財像を掲げています。

・新しい分野にチャレンジし、イノベーション・新規事業を創出できる人財

・リーダーシップを発揮し、経営感覚を持つゼネラリスト人財

・組織の同質性を打破するキャリア採用・女性・外国・シニア人財

 ② 人財戦略ビジョン

当社は、〈「夢」と「幸せの三角形」〉というスローガンを掲げています。これは、各自が夢を持ちそれに向かって努力し、成果を通じて達成感、充実感を味わう、つまり幸せになるという流れを創っていこうというものです。

上記に掲げる人財が当社に集まり、仕事を通じて成長し、達成感と働きがいを感じながら持続的に働くことができる仕組みづくりに向けて、〈「夢」と「幸せの三角形」〉のモチーフに沿って人財戦略ビジョンを打ち出しています。


 

まず、努力を後押しする環境の整備です。すなわち、夢をもって努力する人財が、集まり、育つ仕組みづくりを行います。また、多様な人財が強みを生かして努力できる環境整備に向けて、ダイバーシティを強力に推進します。

次に、成果を通じて達成感を得られる仕組みづくりです。社員が成果の達成実感を得られるよう、貢献と処遇の連動性を高めたり、チャレンジが報われるような評価制度の構築を行います。また、キャリアの道筋を可視化し、個々人の継続的な努力と成果創出を支援します。

これらの取り組みを通じて、皆の幸せの実現、すなわち、エンゲージメントの更なる向上を実現していきます。

 ③ ビジョン実現のためのアクション・プラン

人財戦略ビジョンの実現に向けて、「採用」「育成」「ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)」「ワークライフバランス(WLB)」「人事制度」「評価」「報酬」「配置・キャリア」の8つの施策カテゴリ別に具体的なアクション・プランを策定しています。

 


 

「努力を後押しするための環境の整備」に向けて、新中期経営計画と連動した重点強化人財のスペックを明確化し、これに即した採用を推進しています。また、全社教育研修体系の整備や、管理職研修の拡充、計画的OJTのためのツールの整備を進め順次実行に移しています。さらに、D&Iのビジョンを明確化するとともに、課題抽出と施策推進のためのワーキンググループを設置し、施策推進のための検討を深掘りしてきました。

合わせて、有給休暇取得の促進や男性育児休業取得率の向上等、各部門の事情に即したワークライフバランス向上策を推進していきます。

カテゴリ

KPI

2024年度の実績

2026年度の目標

ワークライフバランス

時間外労働時間

12.3時間

10時間未満

有給休暇取得率

69.2

70.0

育児休業取得率(男性)

63.6

100.0

 

 

「成果を通じて達成感を得られる仕組みづくり」のためのアクション・プランとして、専門職制度の拡充、多様な働き方の実現など、人事処遇制度の見直しを行います。また、公平性・納得性の更なる向上に向けた評価制度の見直しを行い、透明性ある運用を目指します。さらに、職責や貢献を重視した報酬制度の見直しや、働きがい向上に向けた諸手当の見直しを行います。同時に、キャリア形成支援策の拡充を通じて、多様な人財が持続的に働くことができる環境を整えます。

これらのアクション・プランを総合的に推進し、重点強化人財をはじめとしたすべての社員の幸せとエンゲージメントの向上を実現します。

 ④ D&Iワーキンググループの目指す姿とロードマップ

当社では、D&Iの推進をマテリアリティとして位置付け、「誰もが働きやすい・活躍できる会社の実現」と「女性活躍の推進」に向けた取り組みを進めています。

 

カテゴリ

KPI

2024年度の実績

2026年度の目標

ダイバーシティ&

インクルージョン

女性管理職(課長級以上)の割合

2.2

4.9

男女賃金差異(注)全労働者

71.4

         うち正規雇用労働者

79.0

         うち非正規雇用労働者

65.0

 

(注)男女賃金差異理由

人事処遇制度において性別による差異はありません。管理職を含む上位等級における男性比率が高いこと、実労働時間に差があること(所定外労働時間は男性の方が長い一方、短時間勤務利用率は女性の方が高いこと)が男女の賃金格差の要因となっております。

 

具体的には、社員の生の声を反映させるべく、D&I研修、D&Iサーベイ、D&Iワーキンググループの組成・検討という施策を組み合わせて進めてきました。ワーキンググループのメンバーは全社的に公募し、D&I推進に意欲のある多様な社員の参画(全社全本部より28名のメンバー[内、女性16名])をもって進めてきました。ワーキンググループでは、「目指す姿の策定」「課題の特定」「D&I推進計画の策定」を行いました。まず、「目指す姿」はワーキンググループでの議論に加え、経営陣の意見も反映させ、当社として目指していくべきD&I推進の姿を定めました。次に、課題の特定にあたり、まずはワーキンググループのメンバーが日々感じている課題感を洗い出しました。これに加え、組織のD&I推進状況や課題を把握するD&Iサーベイの結果も活用することにより、全社的な傾向も加味し、目指す姿の実現に向けて解決すべき課題を特定しました。最後に、課題の解決に向けて、施策の洗い出しを行い、2030年までのD&I推進計画のロードマップを策定しました。また、ロードマップに記載のある施策の内、次年度(2025年度)に実施すべき内容の具体化を行いました。2025年度は具体化された施策の実行フェーズに移っていきます。

 

1) 目指す姿

当社では、農薬に関する豊富な知識を持つ専門家集団として長年にわたり農業の発展に貢献してきました。今後、世界人口の増加による食料問題や気候変動等、農業に関わる世界的な社会課題の解決に向けて、新しい価値創造が会社にとって欠かせないと考えています。これまでのクミアイ化学の高い技術力や深い知識を守りつつ、新たな価値創造に向けて様々な知識・経験・モノの見方等を持つ多様な人財が不可欠だと考えています。

当社のD&Iは、多様な人財が当社で働きたいと思える「選ばれる会社」になることを目指しています。そのためには、全役職員があらゆる面で公平な機会を得られ、自分たちが希望する働き方や活躍ができる環境を整えることが必要です。また、農業業界を牽引する企業として業界にも影響を与える存在であることも重要だと考えています。


 

2) 推進ロードマップ


 

 

3 【事業等のリスク】

1.当社グループのリスク管理体制

リスク管理については、クミアイ化学グループリスク管理に関する基本方針の下、代表取締役社長が委員長を務めるリスク・コンプライアンス委員会において、リスクの網羅性の確認・評価、リスク管理に関する施策の立案等を行っております。また、サステナビリティ推進委員会及びレスポンシブル・ケア推進委員会では、気候変動や労働安全衛生などの課題への取り組みも進めております。

 


 

2.当社グループの主要なリスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の経営成績、財政状態及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、将来において発生の可能性がある全てのリスクを網羅したものではありません。

 

(1) 農業及び農業関連事業領域におけるリスク

 ① 国内における事業活動

当社グループは、事業環境の定期的な見直しと市場動向の把握に努めて事業活動を行っておりますが、当社グループの主要な製品である農薬の需要は様々な外部環境要因による影響を受けます。天候や自然環境の影響、病害虫や雑草の薬剤耐性・抵抗性の発達、開発段階では予期できなかった農作物への薬害発生、農作物の価格低迷等による農薬需要の減少、新規他社製品との競合、法規制の強化や事故等による製品製造中止や欠品の発生、自然災害に伴う翌年度以降の耕作面積の減少等により、予想を上回る需要減が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。ゴルフ場等の農耕地以外で使用される薬剤等の需要もゴルフ場の減少など様々な外部環境要因による影響を受けます。

また、農薬の再評価(全ての既存登録農薬に対して、最新の科学的知見を基に、国がその安全性を定期的に確認する制度)では、将来の製品の経済性評価、追加の安全性データ作成のための投資判断が必要となります。取扱い製品で他社から原体の供給を受けるものがあり、それら原体の再評価の際に農薬登録が維持されず、原体供給が停止となった場合には売上高や利益が減少し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、農林水産省や各都道府県発表の病害虫発生予察情報、病原菌の薬剤耐性や害虫や雑草の薬剤抵抗性の発生動向、作物の作付け状況などを常に見極めています。また、当社の販売員・普及員からの情報を活用するとともに、法規制の強化にも自社製品を網羅したタイムリーな対応を図っています。

 

 ② 海外における事業活動

当社グループは、海外での事業活動をさらに拡大していく方針でありますが、それぞれの国での法令や規制、政治、経済、農業情勢、各地域における異常気象等による病害虫・雑草の発生量、農作物価格や作付面積の変動等により、事業活動に影響を受ける可能性があります。当社グループの海外売上高は6割以上を占め、主要市場の経済情勢の悪化、農作物の価格下落による農薬需要の減少や販売価格の値下げ要求が発生した場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

国家間の貿易協定の失効、優遇税制の適用除外、輸出入に関する経済政策の変更、国家間の対立や交渉等により、輸出入に係る関税が引き上げられるリスクがあります。これによりコストが上昇し、販売価格に転嫁せざるを得ない場合には、市場での価格競争力の低下により販売数量が減少し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループの主力製品である畑作除草剤「アクシーブ」は、他社除草剤では防除が難しい抵抗性雑草に対して有効という性能面での優位性により販売が拡大しておりますが、世界的な農薬市場の激しい競争のなか、「アクシーブ」のシェア低下や強力な競合製品の登場による販売減が起きた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

農薬では医薬品と同様に、物質特許期間満了後にジェネリック品が市場に参入してくることがあります。当社グループは、当社製品のジェネリック品に対して優位を保つため、製品付加価値の向上やコスト低減に努めておりますが、価格競争を克服できない場合には、売上高や利益が減少する可能性があります。

また、当社グループは、農業情勢や市場の解析を進めるとともに、需要予測精度の向上に努めておりますが、需要予測に反する状況に至り、その影響を受ける場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、各国販売提携先、海外子会社との連携、密な情報交換に加え、提携コンサルタントからの情報収集、外部データベースの購入、当局等のWEBサイトの監視等により、市場環境変化の早期把握を図り、売上維持のための対策を実施することで販売計画未達リスクの低減に努めています。

 

(2) 化成品事業領域におけるリスク

当社グループの化成品は、多くが素材の中間体であることから、末端製品の需要や在庫状況の影響を受けます。また、中間体や末端製品の仕様変更やニーズの変化への対応が遅れた場合には、販売数量が減少し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、海外販売では、輸出先の規制強化や地政学的リスクなどの影響を受けます。

発泡スチロール事業では、魚箱、梱包材、断熱材及び電化製品の緩衝材等を販売しておりますが、これら用途の性質上、外部環境要因による影響を受けます。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、販売提携先と販売予測数量を共有し、変動要因の解析を行い、早期に対策を実施するとともに、製造委託先への定期的な訪問による安全管理状況、品質管理状況の把握及び複数購買による安定調達を実施しています。また、既存製品の市場開拓や用途開発を進めております。

発泡スチロール事業では、家電向けなど新規販売ルートの開拓にも取り組みます。

 

(3) その他の事業領域におけるリスク

建設業では、資材価格などの急激な高騰により建設コストが大幅に増加した場合には、業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、予期しない重大な事故、労働災害、品質問題などが発生した場合には、社会的信用を失うとともに、受注機会の喪失や工期遅延などにより、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。 

かかるリスクへの対応として、安全管理・施工管理を徹底し、安全教育の実施、日常的な安全点検やリスクアセスメントに取り組んでいます。

物流事業では、万一、重大事故が発生した場合には、顧客からの信用低下や行政処分による営業活動の停滞等を招く可能性があり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、燃料価格の上昇により運送費用が増加する可能性があります。

かかるリスクへの対応として、安全確保のためのルールの策定や設備・システムの整備、従業員への安全教育及び安全意識の浸透などに取り組んでいます。

建設業や物流事業では、許認可など多くの法的規制があり、各種法令の改正や新たな法令の制定があった場合には、それらに対応するための費用負担が生ずる可能性があります。また、時間外労働の規制強化と技能労働者を含めた人財不足の課題があります。

かかるリスクへの対応として、法令・制度の改正等の情報を適宜且つ早期に把握し、十分な時間を持って準備を行い適切に対処できる体制づくりに取り組むとともに、高い技術と経験を備えた人財の採用及び育成を図りながら、職場環境の改善等にも注力し、多様な人財が活躍できる環境づくりに取り組んでいます。

バイオ関連事業では、競合品の状況や市場ニーズなどの外部環境変化への対応が遅れる場合には、販売量が低下する可能性があります。

かかるリスクへの対応として、市場動向の把握に努めるとともに、新規分野への進出に取り組みます。

 

(4) 新製品の開発に関するリスク

当社グループの主要な製品である農薬は、各国の法令の下、登録制度による規制がなされ、薬効・薬害、人畜に対する安全性、環境影響等に関する所定の試験成績を提出して厳しい審査を受けて農薬登録を取得する必要があります。新規有望化合物の探索研究から新農薬の製品化までには、人的資源をはじめとして、多額の研究開発経費を必要とし、長期間に亘り各種試験研究を実施することが必要になります。開発段階から多くの試験を重ねて鋭意検討しておりますが、登録に必要な試験の結果、期待通りの有効性が得られない場合や安全性等に疑義が生じた場合には、開発を中止または対象作物や対象病害虫等を制限することも想定され、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、各国の法規制の改正で販売機会を逸する場合や開発期間中の市場の環境変化、技術水準の進歩、競合製品の開発状況等により開発の成否、将来の成長と収益性に影響を受ける場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、自社開発原体や独自製剤技術、有機合成技術を活用する研究開発型企業ですが、顧客ニーズを満足させる新製品を有効に開発できなかった場合には、将来の成長と経営成績に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、新しく導入される、または改正される農薬登録に関する法規制を早期に把握し、自社化合物への影響を検証し、対応策を立てています。また、各国の農薬登録要件や審査方法を把握するとともに、農薬登録に特化した専門のコンサルタントを起用し、登録可能性の試算を早期段階から行っております。

一方で、研究開発型企業の強みを活かして、当社グループが革新的な農薬原体を創製し、「みどりの食料システム戦略」などの持続可能な食料システムに合致した新製品の開発を実現した場合には市場優位性獲得が期待されます。

 

(5) 為替変動に関するリスク

当社グループの海外売上高比率は高く、さらに、海外に連結子会社6社及び持分法適用関連会社3社を有しております。急激な為替レートの変動は、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは、農薬原体を含む原材料や化成品の原材料を輸入しているため、為替変動は調達コストに影響を及ぼす可能性があります。

海外子会社や持分法適用関連会社の経営成績は、連結財務諸表作成のために円換算されていることから、換算時の為替レートにより、円換算後の計上額が影響を受ける可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、先物為替予約の実施や、三国間貿易における仕入と売上の決済通貨を統一することで為替リスクをヘッジするとともに、市場動向を注視し、為替変動を織り込んだ経営計画を作成しています。

 

(6) コンプライアンス及び法令等の変更に関するリスク

当社グループは、コンプライアンスに対するステークホルダーからの要求が多様化・高度化するなか、コンプライアンスに基盤を置いた企業文化の醸成が必須であると考えております。

企業間の競争が激化する中で、製品の差別化要求、販売スケジュールや製品納期の遵守、業績目標達成の圧力などに起因した不正などの重大なコンプライアンス違反事案が発生した場合、その対応に要するコストに加え、顧客からの信頼を失い、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、役職員に対する定期的なコンプライアンス意識調査を実施し、その結果に基づく課題を反映させながら、実効性のあるコンプライアンス啓発活動に努めるとともに、内部公益通報を含む内部通報制度の的確な運用などを行い、不正リスクの発見的統制に努めます。

一方で、当社グループがコンプライアンス体制の強化を進め、攻めのコンプライアンスに転じることで、ステークホルダーからの信頼を得ることや社会での評価を高めることにつながることが期待されます。

当社グループは、化学物質の取扱いに関する国内外の法令による規制を受けております。環境問題に関する世界的な意識の高まりなどから、化学製品に対する規制は強化される傾向にあります。当社グループにおいてはレスポンシブル・ケア活動により「環境・安全・健康」の確保に努めておりますが、将来において環境に関する規制が予想を超えて厳しくなり、新たに多額の対策コストが必要になった場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、環境関連法令改正の情報収集及び改正に伴う対応を実施しています。環境事故が発生した場合、会社に与える有事の対応コスト及び風評被害の影響は大きいため、未然防止のための先取対応(設備、人財等)への投資も行っています。

 

(7) 製品の品質に関するリスク

当社グループは、各工場の品質マネジメントシステムのもと、品質保証体制の充実に努め、原料調達管理及び製造・品質管理に万全を期しておりますが、品質保証の取り組みの範囲を超えて、予期しない品質の欠陥、瑕疵、偶発的なトラブル等が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。製造物責任に基づく損害賠償に関しては、保険付保で万一に備えておりますが、賠償額を十分にカバーできない可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、ISO管理による定期的な品質管理状況の確認を通じて、適切な品質管理の徹底を図っています。

 

(8) 生産・原料調達に関するリスク

当社グループは、代替調達先の確保に努めておりますが、海外からの輸入に頼る原材料や、製造技術のノウハウや製造コスト面から原材料の一部に調達先が限定されている原材料があります。当該調達先が生産設備の故障・事故や所在国の法規制等の理由により供給契約の履行ができない場合には、必要な原材料が確保できず、製造が遅延・停止し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、生産拠点の分散化やグローバル展開に対応する生産体制の強化を進めておりますが、予想を上回る需要増等により、製品の安定供給に影響を及ぼす可能性があります。

ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢等により海上・航空輸送の混乱や輸送費の高騰が想定を上回る場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループが調達を行う国・地域において、テロ・戦争等による政治・経済・社会的混乱、施策や法令の変更、国際貿易摩擦、文化や慣習の違いに起因するトラブルの発生等の地政学リスクが顕在化しております。ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢を巡る当社グループへの影響は現時点では軽微と考えますが、状況を引き続き注視し、適切に対応してまいります。また、中国政府による脱炭素政策等の影響で調達先において製造の遅延・停止や設備投資が必要となった場合や、経済安全保障に関し他国・地域から経済的威圧を被るなどした場合には、原材料が確保できず、当社グループでの製造が遅延・停止するリスクや予想を上回る原材料コストの増加が利益を圧迫するリスクがあります。このような影響で、当社グループや調達先の事業活動が制限を受けた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループの生産設備では、安全確保のため定期的な保守・点検を行っております。しかしながら、予期しない故障・事故等により生産が一時的に減産・遅延・停止した場合や役職員や周辺地域に大きな被害や環境汚染等が発生した場合には、当社グループの製品販売の機会損失や社会的信用の失墜等が発生する可能性があります。また、生産再開に長時間を要する場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループ製品の製造は、当社グループの自社工場だけでなく、他社に製造委託をしております。委託先の工場において、予期しない故障・事故等により生産に影響が生じたり、環境や生命に損害を与えた場合には、当社グループの販売の機会損失や補償等が発生する可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、海外など調達先においては、原材料の早期発注による在庫確保と代替品の手配、供給元の多元化などを進めています。また、当社グループにおいては、生産設備の定期点検、修繕により生産機能を維持するとともに、新技術の導入も図りながら老朽化設備の計画的な更新を進めています。

 

(9) 人財の確保・育成に関するリスク

当社グループが研究開発型企業の強みを活かして、企業理念の実現と経営計画を実行するためには、高度な専門性を持つ人財や組織運営、経営戦略を企画推進するマネジメント人財などの確保・育成を着実に行う必要があります。しかしながら、人財の確保及び育成が想定どおりに進まない場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、目指す人財像に必要なスペックを明確化し、計画的、かつ効率的に人財の獲得を進めるとともに、人財の育成を強化、働き甲斐のある制度の構築や働きやすい職場づくり、ワークライフバランスの充実を図っています。

当社グループは、中期経営計画の重要方針に「人財の育成/人的資本の考え方をベースにした人財戦略」を掲げ、目指す人財像として、「新しい分野にチャレンジし、イノベーション・新規事業を創出できる人財」、「リーダーシップを発揮し、経営感覚を持つゼネラリスト人財」、「組織の同質性を打破する女性・外国・シニア人財」を設定し、人財の育成と確保に取り組んでいます。

 

(10) 減損会計適用に関するリスク

当社グループは、事業の維持・成長や新たな事業機会の獲得のために、継続的な設備やM&Aへの投資を必要としていますが、当社グループの事業資産の価値が大幅に下落した場合、あるいは収益性の低下等により投資額の回収が見込めなくなった場合、減損処理を行うことにより当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、グループ各社の経営状況の的確な把握に加えて、重要案件の進捗や課題の共有化などを行っています。また、政策保有株式については、時価のモニタリングを行い、減損の要否を判断しています。

 

(11) 知的財産に関するリスク

当社グループは、保有する知的財産権を厳正に管理しておりますが、一部の国では知的財産権が完全には保護されておらず、第三者による侵害を防止できない場合には、当社グループの製品の売上高や利益が減少する可能性があります。また、予期しない事態により技術情報・ノウハウが漏洩し、第三者が類似製品を製造・販売する可能性があります。

さらに、他社の知的財産権を十分に調査・解析した上で事業活動を行っておりますが、他社から知的財産権の侵害を訴えられた場合には、製品の製造・販売等の差し止めや損害賠償金等が発生して、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

農薬の研究開発では、有効性や安全性の確認のための開発期間が長期にわたることから、販売開始に至るまでの間に物質特許の残続期間が短くなる場合があります。当社グループの主力製品である「アクシーブ」の物質特許が満了したため、他社のジェネリック品が参入して売上が減少し、他地域での「アクシーブ」や他製品の売上増で補填できない場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、各国におけるジェネリック品の登録・生産状況を確認するとともに、様々な対抗策を構築することでジェネリック品の市場参入に備えています。また、第三者が当社グループの保有する知的財産権を侵害して類似製品を製造し、販売した場合、当社製品の売上やレピュテーションに影響を及ぼす可能性があります。当該第三者に対しては、法的な手段も含め、厳正な態度で対応していきます。

 

(12) 情報セキュリティに関するリスク

当社グループは、事業活動を行ううえで、顧客及び取引先、株主、役職員等のすべての個人情報及び研究開発、生産などに関する機密情報の適切な管理に努めております。また、事業活動に関わる情報を財産と考え、継続的に情報セキュリティ体制の構築・強化を図っております。しかしながら、想定を超えるサイバー攻撃やその他の不測の事態による情報セキュリティ事故、地震等の自然災害の発生による情報システムの停止または一時的な混乱に伴う事業への影響が発生した場合、当社グループの社会的信用の失墜、訴訟の提起、社会的制裁等により、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

また、各国の個人情報・データ保護法の制定・改定や運用の強化が行われるなか、事業運営において違反が発生した場合には、社会的信頼を喪失し、事業が行えなくなったり、多額の罰金が課されたりする可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、従業員一人ひとりの情報セキュリティに対する意識向上を目的とした情報セキュリティ教育を進めるとともに、各種情報セキュリティインシデントが発生した際の迅速な対応を可能とする体制への強化を進めています。

 

(13) 人権に関するリスク

当社は国連グローバル・コンパクトの人権、労働、環境、腐敗防止の4分野に関わる10原則を支持し、実践することで、グローバル企業として持続可能な社会の実現を目指しています。加えて当社グループは、「人権尊重」をサステナビリティ経営の基盤であると考え、「クミアイ化学グループ人権に関する基本方針」を制定しています。また、「人権デュー・ディリジェンスのためのガイドライン」を制定し、同ガイドラインに基づき、人権デュー・ディリジェンスを行うとともに、当社グループの全ての役職員をはじめステークホルダーの皆さまと協働して、人権の尊重を推進していきます。しかしながら、欧米を中心とした人権に関する法規制の強化などの国際的な潮流のなか、当社グループのサプライチェーン上で人権問題が発生した場合、社会的信頼の低下や取引停止などにつながり、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

また、職場においてハラスメント行為が発生した場合には、従業員の健康の悪化やモチベーションの低下、離職率の増加などにつながる可能性があります。

かかるリスクへの対応として、「人権デュー・ディリジェンスのためのガイドライン」に基づき、主要サプライヤーを対象にアンケート調査を実施しています。加えて、コンプライアンス意識調査を実施して、人権課題に対する理解度を確認するとともに、当社グループにおけるハラスメントの実態を把握しています。

 

(14) DXに関するリスク

デジタル技術の進化により、ビジネスにおける様々な側面で変化のスピードが高まっていますが、ITインフラの整備やデジタル人財の確保・育成が継続的に行われないことにより、DXの推進やデジタル技術の効果的な活用ができない場合、新たな市場機会を失う可能性や業務変革や開発力の強化が進まない可能性があります。

かかるリスクへの対応として、中期経営計画に「DXの推進/デジタル化の実践」を掲げ、AI等の新規技術を活用した研究開発や生産性向上を目指しております。

一方で、当社グループがDXの推進を進めることで、経営効率の向上や新規市場創出につなげることが期待できます。

 

(15) 気候変動に関するリスク

気候変動の緩和のため温室効果ガス(GHG)の排出規制や脱炭素社会に向けた動きが加速するなか、各国の法規制の強化に伴うエネルギー価格の上昇や炭素税導入、GHG排出削減のための追加設備投資などの影響により事業コストが増加する可能性があります。また、気候変動の影響により農耕地面積や農産物の収穫量が減少した場合には、農薬需要が低下し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、各国の法規制の動向を把握し、効果的な対応計画を策定するとともに、GHG排出量の削減に資する製造工程の見直しや効率性の高い設備導入、製品や技術の開発に取り組んでいます。また、当社グループは気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に賛同し、気候変動の緩和のための対応策を実施し情報開示を推進しています。

 

(16) 自然災害・感染症に関するリスク

当社グループは、防災管理体制を整備し事業継続計画(BCP)を策定していますが、当社グループの重要な製品である農薬は製造場所の登録が必要になるため、突発的な地震等の自然災害や感染症が発生した場合には、緊急に代替生産場所を確保することが難しく、生産・供給が一時的に停止する可能性があります。

最近の自然災害の大規模化や新たな感染症の発生等を考慮した場合、想定していない規模の災害や感染症の拡大に伴って、広域での社会機能の停止、事業活動の停止や事業所等の閉鎖、サプライチェーンの分断等が起こる可能性があります。当社グループは、本社・工場の施設・設備の利用不能対応BCP、役職員の出社困難対応BCPに加え、役職員の安否確認システムを運用する等、有事への備えに努めておりますが、万一想定を超える災害等が発生し、生産・販売活動等において甚大な影響を受ける場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかるリスクへの対応として、当社グループは、災害を想定した各事業所での定期訓練、BCPの結果事象アプローチへの更新を通じて、有事の際に確実な対応を取ることにより、生産体制・供給体制や販売活動などの実被害を最小限に抑えることができるよう備えています。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの経営成績及びキャッシュ・フローならびに財政状態(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)  経営成績等の状況の概要

① 経営成績の状況

中国を中心とした海外の景気減速の可能性や、燃料や原材料価格の高騰などによる物価高、及びウクライナ情勢や中東情勢等の地政学的リスクの高まりや、米国の政権交代による政策変更の可能性等により、先行きは依然として不透明な状況が続くことが予想されます。

当社グループの中核事業である農薬及び農業関連事業は、世界の人口増加に伴う食料及び飼料需要の増加などを背景として今後も拡大するものと考えられますが、上記のような不透明な状況や流通在庫の増加に起因した世界的な在庫適正化の動きを背景に、市場環境は一層厳しさを増しております。

このような情勢の下、当社グループにおきましては、2024年10月期を初年度とする中期経営計画「Create the Future ~できる。をひろげる~」を策定し、企業価値の向上に向けた重点施策の遂行に全力で取り組んでおります。

 

この結果、売上高は、161,049百万円となり、前連結会計年度と比べて47百万円(0.0%)の増加となりました。

また、利益面では、次のとおりとなりました。

営業利益は、11,350百万円となり、前連結会計年度と比べて2,739百万円(19.4%)の減少となりました。経常利益は、18,300百万円となり、前連結会計年度と比べて5,816百万円(24.1%)の減少となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、13,590百万円となり、前連結会計年度と比べて4,433百万円(24.6%)の減少となりました。

 

各セグメントの業績は次のとおりであります。

 1) 農薬及び農業関連事業

農薬及び農業関連事業の売上高は128,134百万円となり、前連結会計年度と比べて1,332百万円(1.0%)の減少となりました。営業利益は12,147百万円となり、前連結会計年度と比べて2,658百万円(18.0%)の減少となりました。

 

 2) 化成品事業

化成品事業の売上高は24,965百万円となり、前連結会計年度と比べて2,493百万円(11.1%)の増加となりました。営業利益は772百万円となり、前連結会計年度と比べて244百万円(46.2%)の増加となりました。

 

 3) その他

その他全体の売上高は7,949百万円となり、前連結会計年度と比べて1,115百万円(12.3%)の減少となりました。営業利益は849百万円となり、前連結会計年度と比べて0百万円(0.0%)の増加となりました。

 

② 財政状態の状況

当連結会計年度末の総資産は275,474百万円で、前連結会計年度末と比べ48,535百万円の増加となりました。流動資産が36,360百万円増加し、固定資産が12,175百万円増加しました。流動資産の増加は商品及び製品ならびに受取手形、売掛金及び契約資産の増加等によるもの、固定資産の増加は投資有価証券ならびに建物及び構築物の増加等によるものです。

負債は122,532百万円で、前連結会計年度末と比べ35,438百万円の増加となりました。流動負債が24,334百万円増加し、固定負債が11,104百万円増加しました。流動負債の増加は短期借入金の増加ならびに支払手形及び買掛金の増加等によるもの、固定負債の増加は長期借入金の増加等によるものです。

純資産は152,941百万円で、前連結会計年度末と比べ13,097百万円の増加となりました。

この結果、自己資本比率は53.0%、1株当たり純資産額は1,212円20銭となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

営業活動によるキャッシュ・フローは、16,725百万円の減少(前年同期は4,762百万円の増加)となりました。これは、税金等調整前当期純利益16,981百万円及び仕入債務の増加6,254百万円等の資金の増加に対し、棚卸資産の増加26,355百万円及び売上債権の増加9,837百万円等の資金の減少によるものです。

投資活動によるキャッシュ・フローは、8,756百万円の減少(前年同期は10,099百万円の減少)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出9,016百万円等の資金の減少によるものです。

財務活動によるキャッシュ・フローは、23,608百万円の増加(前年同期は6,864百万円の増加)となりました。これは、長期借入れによる収入21,200百万円及び短期借入金の増加13,528百万円等の資金の増加に対し、長期借入金の返済による支出6,306百万円及び配当金の支払額4,439百万円等の資金の減少によるものです。

以上の結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末残高に比べ516百万円増加し、27,088百万円となりました。

 

 

④生産、受注及び販売の状況

1) 生産実績

 当連結会計年度における生産実績を各セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

農薬及び農業関連事業

44,627

88.1

化成品事業

19,742

100.2

その他

1,950

125.6

合計

66,320

92.3

 

 

(注)1.生産金額は販売価格をもって算出しております。

  2.各セグメントの区分に基づき開示しております。

 

2) 受注状況

 当連結会計年度におけるその他事業の受注状況を示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

その他

4,617

160.7

2,879

253.7

 

 

3) 販売実績

 当連結会計年度における販売実績を各セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

農薬及び農業関連事業

128,134

99.0

化成品事業

24,965

111.1

その他

7,949

87.7

合計

161,049

100.0

 

 

(注)1.各セグメントの区分に基づき開示しております。

  2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

全国農業協同組合連合会

24,723

15.4

24,908

15.5

BASF AGROCHEMICAL PRODUCTS B.V.

22,909

14.2

22,356

13.9

FMC Corporation

20,184

12.5

16,752

10.4

 

 

 

(2)  経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている企業会計の基準に基づき作成されております。当社グループは、連結財務諸表を作成するに当たり、繰延税金資産の回収可能性について、特に重要な見積りを行っております。この連結財務諸表作成にあたって、必要と思われる見積りは合理的な基準に基づいて実施しており、繰延税金資産の回収可能性につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

1) 経営成績

(売上高)

売上高は、農薬及び農業関連事業が前年を下回ったものの、化成品事業が前年を大きく上回ったことから、161,049百万円(前連結会計年度比0.0%の増加)となりました。

(営業利益)

売上総利益は農薬及び農業関連事業が前年を下回ったことにより35,379百万円(前連結会計年度比3.5%の減少)となりました。

また、販売費及び一般管理費は、新化学研究所の稼働に伴う減価償却費の発生や、アクシーブの特許侵害品対策としての訴訟関連費用、試験研究費の増加等により24,029百万円(前連結会計年度比6.5%の増加)となりました。

以上の結果、営業利益は11,350百万円(前連結会計年度比19.4%の減少)となり、減益となりました。なお、営業利益率は7.0%で前連結会計年度比1.8ポイントの減少となりました。

(経常利益)

経常利益は、持分法による投資利益の減少に加え、為替差益が減少し、18,300百万円(前連結会計年度比24.1%の減少)となりました。

(親会社株主に帰属する当期純利益)

親会社株主に帰属する当期純利益は、13,590百万円(前連結会計年度比24.6%の減少)となりました。

 

(セグメント別の状況)

 (農薬及び農業関連事業)

国内向けは、水稲用殺菌剤「ディザルタ」を含む箱処理剤、水稲用除草剤「エフィーダ剤」の販売が好調に推移したものの、一部の製品が終売となる影響等もあり、前連結会計年度並みとなりました。

海外向けは、畑作用除草剤「アクシーブ剤」がアルゼンチン、ブラジル向けの出荷が増加したものの、その他主要地域において世界的な農薬の在庫調整の影響を受け出荷が進まなかったことなどから、前連結会計年度の業績を下回りました。

以上の結果、農薬及び農業関連事業の売上高は128,134百万円、前連結会計年度比1,332百万円(1.0%)の減少となりました。営業利益は12,147百万円、前連結会計年度比2,658百万円(18.0%)の減少となりました。

 (化成品事業)

半導体の需要が回復していることから、ビスマレイミド類の出荷が大幅に増加しました。また、発泡スチロールは前連結会計年度並みに推移しました。

その結果、化成品事業の売上高は24,965百万円、前連結会計年度比2,493百万円(11.1%)の増加となりました。営業利益は、772百万円、前連結会計年度比244百万円(46.2%)の増加となりました。

 (その他)

印刷事業や物流事業が堅調に推移したものの、建設業において前年よりも繰越工事高が減少したことで、その他の売上高は、7,949百万円、前連結会計年度比1,115百万円(12.3%)の減少となりました。営業利益は、建設業において収益性の高い大型工事の出来高が計上されたことから、売上高減少による減益幅が縮小し、849百万円、前連結会計年度比0百万円(0.0%)の増加となりました。

 

2) 財政状態

当連結会計年度末の総資産は275,474百万円で、前連結会計年度末に比べ48,535百万円の増加となりました。流動資産が36,360百万円増加し、固定資産が12,175百万円増加しました。流動資産の増加は商品及び製品ならびに受取手形、売掛金及び契約資産の増加等によるもの、固定資産の増加は投資有価証券ならびに建物及び構築物の増加等によるものです。

負債は122,532百万円で、前連結会計年度末に比べ35,438百万円の増加となりました。流動負債が24,334百万円増加し、固定負債が11,104百万円増加しました。流動負債の増加は短期借入金ならびに支払手形及び買掛金の増加等によるもの、固定負債の増加は長期借入金の増加等によるものです。

純資産は152,941百万円で、前連結会計年度末に比べ13,097百万円の増加となりました。

この結果、自己資本比率は53.0%、1株当たり純資産額は1,212円20銭となりました。

 

3) キャッシュ・フロー

営業活動によるキャッシュ・フローは、16,725百万円の減少(前年同期は4,762百万円の増加)となりました。これは、税金等調整前当期純利益16,981百万円及び仕入債務の増加6,254百万円等の資金の増加に対し、棚卸資産の増加26,355百万円及び売上債権の増加9,837百万円等の資金の減少によるものです。

投資活動によるキャッシュ・フローは、8,756百万円の減少(前年同期は10,099百万円の減少)となりました。これは、有形固定資産の取得による支出9,016百万円等の資金の減少によるものです。

財務活動によるキャッシュ・フローは、23,608百万円の増加(前年同期は6,864百万円の増加)となりました。これは、長期借入れによる収入21,200百万円及び短期借入金の増加13,528百万円等の資金の増加に対し、長期借入金の返済による支出6,306百万円及び配当金の支払額4,439百万円等の資金の減少によるものです。

以上の結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末残高に比べ516百万円増加し、27,088百万円となりました。

 

4) 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因としては、原燃料調達や価格の動向、為替動向、市場動向、国内外の法令や政治・経済動向、ESG課題への対応、人的資本に係る対応の影響等があります。

資材調達につきましては、サプライチェーンの安定化と適正な在庫管理、委託先・調達先との関係強化等、生産と販売のバランスの調整、物流体制の最適化に努め、為替の影響によるリスクヘッジを含めた安定的な調達に取り組んでおります。また、当社グループをはじめサプライチェーン全体のホワイト物流推進運動への協力のため、発注の早期化を含めた資材調達計画の立案、実行を進めます。

市場の変化に対しましては、国内販売部門において、市場動向の把握によるマーケティング戦略に基づく新規導入剤の早期最大化を行うとともに、「エフィーダ剤」や「ディザルタ剤」等の自社原体含有剤の拡販を進めます。海外販売部門においては、畑作用除草剤「アクシーブ剤」の混合剤開発支援による販売拡大に取り組んでおります。研究開発部門では、新規高性能殺ダニ剤「バネンタ剤」、果樹やバラの根頭がんしゅ病防除用の微生物農薬「エコアーク」の開発のほか、「バイオスティミュラント」の開発等を推進しております。また、「みどりの食料システム戦略」をはじめとする各国の政策への対応として、環境や省力化に配慮した新たな製品・パッケージの開発や技術の創出に取り組んでおります。化成品の開発では、グループ化成品事業の連携強化による高付加価値の新規事業の創生と新技術の事業化に取り組んでおります。

国内外の法令や政治・経済動向等につきましては、情報入手に努めるとともに、関係会社や開発・販売提携会社と連携し情報共有を図ることで対応を行っております。

ESG課題への対応につきましては、気候変動・環境負荷の低減のため、当社グループの温室効果ガス排出量を2030年度に2019年度比30%減とし、創業100年の2048年度までにカーボンニュートラルを実現することを目標に取り組んでおります。

人的資本に係る対応につきましては、期待する人財像を確保するための人事課題を深掘りし、人財戦略ビジョンを明確に打ち出すとともに、課題別に人事施策を策定し、取り組みを進めております。

なお、当社グループの経営成績及び財政状態に重要な影響を与える主要なリスクにつきましては、「第2 事業の状況 3事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

5) 資本の財源及び資金の流動性

当社グループの資金需要のうち主なものは、新剤開発・登録等に係る研究開発費や開発途中の剤の生産設備の設置及び既存剤の生産効率化に係る設備投資であります。これらを主に自己資金ならびに金融機関からの借入金により調達しております。

金融機関からの借入金については、取引金融機関との間でコミットメントライン契約(シンジケート方式)を締結し、安定的な資金調達の体制を構築しております。

なお、当連結会計年度末における借入金及びリース債務を含む有利子負債残高は、75,097百万円となっております。また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は27,088百万円であり、資金の流動性を確保しております。

 

6) 目標とする経営指標の達成状況等

当社グループは、2024年10月期を初年度とする中期経営計画「Create the Future ~できる。をひろげる~」(2024年10月期~2026年10月期)を策定し、各事業において「持続可能な農業への貢献/高品質な製品・サービスの安定供給」、「気候変動・環境負荷の低減」、「研究開発力の強化」、「事業領域の拡大と新規事業の推進」、「人財の育成/人的資本の考え方をベースにした人財戦略」、「コーポレートガバナンスの高度化」、「DX化の推進/デジタル化の実践」の7つの重要方針に基づく重点施策の遂行に取り組んでいます。

中期経営計画の初年度となる当連結会計年度の売上は、化成品事業が前年を大きく上回ったものの、農薬及び農業関連事業が前年を下回った結果、161,049百万円となり、売上目標167,000百万円に未達となりました。営業利益は、農薬及び農業関連事業の減収に加え、新化学研究所の稼働に伴う減価償却費の増加等により11,350百万円となり、営業利益計画12,000百万円に未達となりました。自己資本利益率(ROE)は9.7%となりました。

 

2025年10月期は、当社グループの中期経営計画に基づく施策を着実に実行し、連結売上高159,300百万円、営業利益10,400百万円の達成、さらには経営基本方針にある「社会の持続的発展に貢献できる企業集団」の実現を目指してまいります。

また、業績や目標達成だけでなく、全てのステークホルダーの幸せを追求し、社会貢献や環境対策なども含めたサステナビリティ経営を推進してまいります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1)売買契約(契約会社:クミアイ化学工業株式会社)

契約締結先

契約内容

契約締結年月日

有効期間

全国農業協同組合連合会

農薬製品の売買に関する売買基本契約(更改)

2003年12月11日

2003年10月1日から2004年11月30日までとし、いずれかの申出がない限り、さらに1年間延長。以後同様。

全国農業協同組合連合会

売買基本契約に基づく2024年度農薬の売買に関する契約

2024年2月27日

2023年12月1日から2024年11月30日まで。

 

 

(2)吸収合併契約(契約会社:クミアイ化学工業株式会社)

 2023年12月5日の取締役会において、当社を吸収合併存続会社、当社の完全子会社であるケイアイ情報システム株式会社を吸収合併消滅会社とする吸収合併をすることを決議し、同日付で合併契約を締結しました。

 詳細は「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載のとおりであります。

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、研究開発型企業としてグループが保有する技術及び資産を最大限活用し、新たな製品および技術の開発を行っております。農薬及び農業関連事業セグメントでは、国内外の農耕地および非農耕地における除草剤、殺虫剤、殺菌剤および植物成長調整剤の研究を通して、食料生産に貢献しうる新製品の開発に注力しております。また、化成品事業を第二の柱に位置付け、様々な社会課題を解決するための新製品の開発を進めております。さらに、研究領域および事業領域の拡大に向けて、社内外と協働した取り組みを積極的に実施しており、事業全体にわたって持続可能な社会の実現につながる新しい価値の創出を推進しております。

 

農薬及び農業関連事業セグメントは、新農薬の創製、開発から販売までを一貫して実施しており、環境の変化に対応した農家の方々のニーズにこたえる新農薬製品の開発に注力しております。

新規自社開発園芸用殺ダニ剤「バネンタ」(農薬一般名:フルペンチオフェノックス)の開発を進めており、登録認可後の上市に向けて準備を進めております。本剤は当社独自骨格で新規作用性を有する殺ダニ剤であり、薬剤抵抗性を発達させたハダニ個体群に対して高い効果を示します。果樹、野菜、花きのハダニ剤として高い実用性が認められており、韓国をはじめとした海外開発も同時に進めてまいります。

自社開発水稲用殺菌剤「ディザルタ」(農薬一般名:ジクロベンチアゾクス)は、現在までに「ディザルタ」を有効成分に含有する箱粒剤などの混合剤を5剤上市しており、2024年には新たに西日本向け「ブーンハーデス箱粒剤」を追加いたしました。「ディザルタ」を含有する水稲用箱粒剤は地域ごとの需要に応じた新たな剤の開発を継続しており、さらなるラインナップの充実を図ります。また、ライセンスすることにより、他社からも「ディザルタ」混合剤が開発、販売されており、今後も「ディザルタ」の普及拡大を強化してまいります。さらに、韓国においても「ディザルタ」は農薬登録されており、提携各社から「ディザルタ」を含有する水稲用箱処理剤が4剤販売されております。引き続き国内外での継続した開発・普及により「ディザルタ」の最大化を進めてまいります。

自社開発水稲用除草剤「エフィーダ」(農薬一般名:フェンキノトリオン)は、水田広葉雑草に対して幅広く除草活性を示すだけでなく、薬剤抵抗性が発達したイヌホタルイなどにも有効な水稲用除草剤です。国内水稲栽培の各種栽培体系において、食用米だけでなく、飼料用米や多収米などの新規需要米品種を含めた多くの品種に対して高い安全性を示す特長を有しています。2024年6月時点でエフィーダ混合剤は他社も含めて59剤が販売されており、日本国内での普及面積は2024年6月で506,840haとなっています(日植調データより)。海外では韓国で水稲向けに販売を行っております。さらに、欧州のムギ類等での開発に加え、米国、アジア各国での評価・開発も進めており、「エフィーダ」を最大化することにより、グローバルでの食料生産に貢献してまいります。

当経営の中核をなす自社開発畑作用除草剤「アクシーブ」(農薬一般名:ピロキサスルホン)は、ジェネリック品に対する知財戦略を推し進めるとともに、新規混合剤、新製剤開発による差別化を進めてまいります。米国、ブラジル、オーストラリア、アルゼンチンなどの主要穀物生産国においてダイズ、トウモロコシ、コムギ等で販売しており、これらの国での適用作物拡大および混合剤開発も進んでおります。世界各国での新規登録状況は、2024年にエジプト、ザンビア、パキスタンを加え、合計25か国で登録となっております。国内では、2021年に北海道コムギ用除草剤として上市した「キタシーブフロアブル」は順調に売上を伸ばしています。今後も国内外での開発を推進することにより、「アクシーブ」グローバルブランドのさらなる拡大および販売・普及促進を進めてまいります。

2019年に事業を譲受いたしました除草剤「ベンスルフロンメチル」は水稲における広葉、カヤツリグサ科雑草に広く効果を示し、移植、直播栽培のいずれにも適用可能な水稲用除草剤として農業の発展に大きな貢献をしてきました。当社においても「トップガンR」をはじめとして、本剤を含有する水稲用除草剤を数多く開発、販売しており、2023年には「ラオウ剤」を上市し、これに続く新たな混合剤の開発も進めております。また、2020年に日本国内の独占販売権を獲得しました殺菌剤「ペンシクロン」は、2021年から販売会社に製品を供給しております。「ペンシクロン」は水稲を中心とした農耕地及びゴルフ場を主とした非農耕地で使用される主要殺菌剤で、今後も、安定供給と新たな製品開発を進めてまいります。

環境負荷低減型農薬の開発にも積極的に取り組んでおり、代表的な技術が水稲用の水面施用製剤「豆つぶ」です。「豆つぶ」は当社独自の製剤技術を活かした軽量・省力・簡便な散布が可能な剤型です。手撒き、ひしゃく、無人ヘリコプターでの散布に加え、スマート農業として注目されている「ドローン」、「ラジコンボート」での散布にも適しています。商品ラインナップとして、除草剤では「トップガン剤」、「エンペラー剤」、「ツイゲキ剤」をはじめとする多くの製品をそろえるとともに、殺菌剤「オリブライト剤」、「コラトップ剤」、殺虫剤「スタークル剤」、殺虫殺菌混合剤「ワイドパンチ剤」など除草剤以外でも販売しており、今後も製品ラインナップの拡充を進めます。また、「豆つぶ」を水溶性フィルムでパックした「ジャンボ剤」もあわせて販売しております。

微生物農薬は環境負荷が少なく化学農薬では手が届かない分野に向けて研究開発を進めています。当社はこれまでに、水稲用種子処理剤「エコホープDJ」、園芸殺菌剤「エコショット」などの「エコシリーズ」を開発・販売しております。現在は、難防除病害である果樹類やバラの根頭がんしゅ病に対して卓効を示す新規微生物農薬「エコアーク」の開発を進めており、登録認可後の上市に向けて準備を進めております。また、近年注目されているバイオスティミュラントについても研究開発を進めており、病害虫や雑草の防除に留まらず、作物の栽培においても商品を提供してまいります。性能が高く環境負荷の低い化学農薬の開発に加え、微生物農薬、バイオスティミュラントといった様々な課題・ニーズに対応した製品の開発を通じて、持続可能な農業生産に貢献することを目指しております。

 

化成品事業セグメントにおいては、従前からのクロロトルエン・クロロキシレン系化学品、農薬原体製造で培った有機合成技術を駆使した医農薬中間体や電子材料、高耐熱樹脂等に使用されるビスマレイミド類をはじめとする精密化学品、様々な分野で使用されているウレタン樹脂製工業製品の原料であるウレタン硬化剤、産業用薬剤、環境衛生薬剤、医療用殺菌剤原体等の産業薬品、発泡スチロールを主体とした化成品の開発、製造、販売を行っております。さらに、農薬、化成品の製造で培った有機合成技術を活用した製造受託も行っております。引き続き、グループ全社保有の原料および独自の技術・設備を生かした市場競争力のある製品開発に取り組んでまいります。

 

また、研究開発型企業として最先端技術の開発・導入を目的に、大学や国立研究開発法人などとの共同研究に積極的に取り組んでおります。その一例として、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の推進する「機能性化学品の連続精密生産プロセス技術の開発」、ライフサイエンス分野におけるAIならびにビッグデータ技術の進展・応用を図り、関連諸分野の産業振興を推進する「一般社団法人ライフインテリジェンスコンソーシアム(LINC)」などに参画しており、研究開発力の向上および研究領域の拡大に努めております。

さらには、農薬開発で培った周辺技術を活用し、農地から発生する温室効果ガスを低減する技術の開発やゲノム編集技術を応用した環境ストレスおよび病害虫耐性作物の研究開発など、農業生産にかかわる様々な技術の研究開発にも積極的に取り組んでおります。

 

以上のように、当社では蓄積した研究成果の活用によって、新たな製品および独自技術の創出に取り組んでおります。農薬及び農業関連事業は、日本国内では、政府が策定した持続可能な食料生産戦略である「みどりの食料システム戦略」に対応した製品開発を進めます。海外では、アクシーブに続く製品として、エフィーダ、ディザルタ等の自社原体の各国での開発を進めます。化成品事業は、保有技術の最大化を進めるとともに、半導体関連を中心とした技術の創出によって、より豊かな社会を実現するための製品開発を進めます。両事業ともに、持続可能な社会の実現につながる新しい価値の創出に向けた取り組みを継続してまいります。

 

当社の研究開発は、生物科学研究所および化学研究所(ShIP:Shimizu Innovation Park)の二つの研究所が協働し、新たな価値、イノベーションを生み出しています。生物科学研究所には、農薬研究センター、生命・環境研究センターを組織しており、現在は2027年の竣工を目指して農薬研究センターの研究棟の整備を進めています。化学研究所(ShIP)は2023年に稼働した最新の研究施設で、プロセス化学研究センター、製剤技術研究センター、創薬研究センターを組織しており、専門性の高い技術集団が能動的かつ共創的に研究開発を進めております。異分野の研究者が一堂に会したことによるシナジー効果によって、新農薬創製、製品開発のスピードアップと研究開発領域の拡大に向けた取り組みの促進を図ってまいります。また、化成品事業におけるグループ横断的な研究開発力強化のために新設した新素材開発研究室では、当社の研究員のみならず、グループ会社の研究員も協働するオープンラボとすることで、当社グループの英知を結集し、さらには産・官・学との連携も取り入れながら、グループ独自技術を活かした付加価値の高い電子材料分野などの新製品開発を行っております。

また、連結子会社の株式会社理研グリーンでは、非農耕地における農薬製品の研究開発・販売を行っております。農薬及び農業関連事業においてはグリーン研究所とも協働し、新農薬の探索合成から生物評価、安全性・環境科学評価、製剤技術開発、工業的製造法確立まで一貫した研究開発体制を確立しており、よりスピーディで効率的な研究開発を推進しております。

海外では、米国に拠点を置く連結子会社のK-I CHEMICAL U.S.A. INC.が農薬の現地評価を行うミシシッピ試験場を有しております。また、韓国では子会社のKUMIKA KOREA CO., LTD.が開発業務を担っております。また、欧州、南米をはじめとした主要農業生産国では現地の外部試験圃場を活用した研究開発活動を実施しております。これら社内外の各研究開発拠点の有機的かつ効率的な運営により、自社新規農薬、自社独自製剤技術を用いた新製品の開発スピードアップと品質保証を含むグループ全社の研究開発技術の更なる向上を図っております。

 

なお、当連結会計年度における研究開発費の総額は6,988百万円であり、各セグメントの内訳は以下のとおりであります。

①農薬及び農業関連事業      6,542百万円

②化成品事業             432百万円

③その他              14百万円