文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社は、「難治性疾患治療薬の研究開発を行い、難病に苦しむ患者さんに対して画期的な治療手段を提供し社会に貢献すること」を企業理念とし、組換えヒトHGFタンパク質の研究開発によって創薬イノベーションを起こすことが事業機会の創出・獲得につながると考え、組換えヒトHGFタンパク質プロジェクトに経営資源を集中し、事業展開をしております。希少疾患を主な対象疾患とし、臨床試験の成果をより確実に医薬品として社会実装するため、自社開発により自社で医薬品製造販売承認を取得することを基本方針としております。
(2)会社を取り巻く経営環境
製薬業界におきましては、高齢化に伴う医療費の増大に対応してジェネリック医薬品による代替が進むとともに、薬価改定期間が短縮され、高額医薬品の薬価が著しく低下しております。また、臨床試験の大規模化等に起因する新薬開発のためのコスト増大により、国内外での製薬企業の合従連衡が進みM&Aによる企業規模が拡大するとともに、自社創薬開発において重点領域の絞込みが行われており、社外から開発品目を導入する動きも活発化しております。
一方、新薬開発については、対象患者が多く、将来安定した多額の収益が得られるいわゆるブロックバスター医薬品から、特定の患者群に効果的な治療が行える医薬品の開発に移行しており、経営資源が特定分野に集中し、短期に意思決定が行われる創薬ベンチャーがその中心的役割を担うと言われております。これに対応すべく、政府は、厚生労働省や経済産業省の中央省庁を中心に、日本発の創薬を積極的に支援するため、特に、創薬ベンチャー支援の取り組みとして、医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)の開始や「伊藤レポート2.0 バイオメディカル産業版」の作成がなされております。また、日本国内での創薬を促進するため、医薬品の条件付き早期承認制度や先駆的医薬品指定制度が法制化されました。
(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は創薬バイオベンチャーとして当社開発品の実用化に向けて、研究開発を促進しておりますが、継続的な売上を計上する段階には至っておりません。従って経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等の設定はしておりません。
しかしながら、開発の進捗を経営目標とし、その達成状況を今後の利益計上に至るまでの会社経営の指標と考えております。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、創薬バイオベンチャーとして、難治性疾患を対象とした組換えヒトHGFタンパク質の研究開発を行い、医薬品として実用化すべく事業を推進しております。
一方で医薬品としての事業化は、製品化までに多額の資金と長い時間を要する等の特性があり、当社は継続的な営業損失を計上している状況にあり、すべての開発投資を補うに足る収益は生じておりません。
このような事業環境下、当社は、以下の点を対処すべき課題として取り組んでおります。
① 進行パイプラインの開発の促進
当社は、国内臨床パイプラインとして難治性神経疾患である脊髄損傷(SCI)急性期、線維化疾患である声帯瘢痕(VFS)及び筋萎縮性側索硬化症(ALS)の治療薬の開発を行っております。
脊髄損傷急性期については、第Ⅲ相試験の患者組入れは2023年4月に完了し、最終症例の経過観察は2023年10月に終了しました。その後、データ固定・解析を経て2024年2月に速報結果を得ました。今後、総括報告書を完成させ、医薬品としての製造販売承認申請を目指して取り組んでまいります。また、脊髄損傷急性期を対象とする米国での臨床開発及び製造開発(組換えヒトHGFタンパク質の製造法効率化)を資金調達の主たる目的とし、2023年9月に第13回新株予約権の発行を行い、2024年5月に全ての行使が完了しました。
声帯瘢痕については、第Ⅲ相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)の治験計画届書をPMDAに提出し受理され、2022年11月に京都府立医科大学附属病院において治験を開始しました。2023年5月には、久留米大学医学部附属病院、東北大学病院、川崎医科大学附属病院、日本大学病院を治験実施医療機関として加え、2024年5月には、新たに山王メディカルセンターを追加し、現在合計6施設で症例登録を推進しております。なお、治験の実施費用並びに治験薬の製造及び商用製剤の開発費用の調達を目的として、第10回新株予約権の発行を行い、2022年7月に全ての行使が完了しました。さらに、本プロジェクトは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」課題として採択され、公的資金の活用も進めております。
ALSについては第Ⅱ相試験(医師主導治験)の患者組入れを終了し、2021年12月に最終症例の最終観察日が終了しております。その後、データ解析が進められた結果、主要及び副次評価項目に関して実薬群とプラセボ群の間で統計的な有意差は認められませんでした。一方、実薬群において進行が遅い症例もあり、本試験結果の解釈には、さらに詳細な解析が必要と考えております。2024年4月には、東北大学と、本第Ⅱ相臨床試験の追加解析として、検体試料のバイオマーカー解析に関する共同研究契約を締結しました。本共同研究によって、効果の検出しやすい患者集団の特定など、次相試験のデザイン策定に重要な情報が得られることが期待されます。
② 新たなパイプラインの開発
当社は前述の3件のパイプラインのほか、米国において急性腎障害の第Ⅰa、Ⅰb相の臨床試験を終了しております。現在、資金的観点から当該疾患に対する開発を一旦中止しておりますが、資金的余裕が出た段階で再開する計画であります。また、多様な生物活性を持つHGFではその他多くの治療の論文が公表されており、今後の企業価値最大化の観点から、これらに対する医薬品を開発するパイプラインを新たに立ち上げる必要があります。
また、組換えヒトHGFタンパク質の臨床試験を複数実施した当社のこれまでの知見をもとに、新たなバイオ医薬品の開発等、難治性疾患のQOL(Quality of Life:生活の質)の向上のためのパイプライン開発を行ってまいります。
③ 原薬の量産・供給体制の確立
当社は現在、前述の4件の臨床パイプラインを開発中でありますが、これらのすべてが治療薬として実用化された場合、HGF原薬の量産体制を強化する必要があります。また、当社の提携先(クラリス・バイオセラピューティクス社)において組換えヒトHGFタンパク質を用いた眼科領域での治療薬の開発が行われており、同社にHGF原薬を供給する契約を締結しております。当社は2023年9月に同社と業務提携し、組換えヒトHGFタンパク質の製造法効率化に着手いたしました。今後のグローバルでの必要量増大に対応し、全世界での安定供給を目指すことを目的としております。
④ 財務体質の強化
当社は創薬バイオベンチャーであるため、研究開発費を補うための十分な収益を得るまでに長期の時間を要します。そのため、資金的余裕を生じさせることが困難であります。
しかしながら、研究開発の促進を図るためには十分な資金を研究開発に投入する必要があることから、今後も引き続き、増資はもとより、HGF原薬供給や事業提携(共同開発等)による収益計上により、財務体質の強化を図ってまいります。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものです。
当社は、「難治性疾患治療薬の研究開発を行い、難病に苦しむ患者さんに対して画期的な治療手段を提供し、社会に貢献すること」という企業理念のもと、本業である医薬品の研究開発を通じて、社会課題を解決し、産業や社会の発展に貢献してまいりました。
昨今、人口増加、資源の枯渇、環境破壊、貧困の格差、人権問題、気候変動などの社会課題により社会全体の持続性が脅かされ、企業を取り巻く環境は大きく変化しサステナビリティ経営が非常に重要な課題となっています。これまで当社が培ってきた強みや技術を結集し、事業を通じて社会課題の解決に貢献していきたいと考えています。
(1)ガバナンス
当社ではサステナビリティ関連のリスク及び機会を、その他の経営上のリスク及び機会と一体的に監視及び管理しております。詳細は、「
(2)戦略
当社では、人材の増強、組織の強化が重要な経営課題と考えており、人的資本の拡充に向けて積極的に取り組んでまいります。
具体的には、フルフレックス勤務制度の導入、社員のワークライフバランスの実現や生産性向上に向けたデジタル化を前提としたリモートワーク体制の構築、ストックオプション制度等、人材確保のための各種制度の整備並びに社内外の機会をとらえた社員教育を実施しております。
(3)リスク管理
当社のサステナビリティへの取組には、様々なリスクの発生可能性があります。それらのリスク管理への取り組みとしましては、複雑・多様化したリスクを一元的に把握、取集した上で評価、予防を行い、また、リスクが顕在化した場合は迅速かつ的確に対応することにより被害を最小限に食い止め、再発を防止することを目的に「リスクマネジメント規程」、「コンプライアンス規程」を制定し、コンプライアンス・リスクマネジメント委員会により統制を図っております。コンプライアンス・リスクマネジメント委員会は 取締役会の下に設置され、コンプライアンス及びリスクマネジメントに係る体制の構築及びその推進に関する事項について検討、審議等を行います。当該委員会は、原則四半期に1回の開催とし、議事録を作成して取締役会に報告をしています。
(4)指標及び目標
当社の事業運営及び展開等について、リスク要因として考えられる主な事項を以下に記載しております。中には当社として必ずしも重要なリスクとは考えていない事項も含まれておりますが、投資判断上、若しくは当社の事業活動を十分に理解する上で重要と考えられる事項については、投資家や株主に対する積極的な情報開示の観点からリスク要因として挙げております。
当社はこれらのリスクの発生の可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、当社株式に関する投資判断は、以下の事項及び本項以外の記載もあわせて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。また、これらは投資判断のためのリスクを全て網羅したものではなく、さらにこれら以外にも様々なリスクを伴っていることにご留意いただく必要があると考えます。
また、当社は、医薬品等の開発を行っていますが、医薬品等の開発には長い年月と多額の研究費用を要し、各パイプラインの開発が必ずしも成功するとは限りません。特に研究開発段階のパイプラインを有する製品開発型バイオベンチャー企業は、事業のステージや状況によっては、一般投資家の投資対象として供するには相対的にリスクが高いと考えられており、当社への投資はこれに該当します。
本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を及ぼす可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1)医薬品開発に係るリスク
① 開発中パイプラインの不確実性について
当社は主要なパイプラインとして難治性神経疾患である脊髄損傷急性期、ALS及び声帯瘢痕の治療薬の開発を行っております。脊髄損傷急性期については、第Ⅲ相試験の患者組入れは2022年4月に完了し、最終症例の経過観察は2023年10月に完了しております。2024年2月に第Ⅲ相試験の速報結果を得ており、国内での医薬品製造販売の承認申請に向けて本試験の結果をもとに、PMDAと協議を行い、粛々と申請準備を進めております。声帯瘢痕については、第Ⅲ相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)の治験計画届書をPMDAに提出し受理され、2022年11月に治験を開始し、現在合計6施設で症例登録を推進しております。ALSについては、第Ⅱ相試験を終了しておりますが、追加解析として検体試料のバイオマーカー解析を東北大学と共同で進めております。
しかしながら、臨床試験で期待どおりの結果を得ることは不確実であり、PMDAとの協議において当該開発品が有効性を示していないと判断される可能性があります。また、臨床試験中に重篤な副作用が発生した場合、安全性に疑義が生じ臨床試験を中断する可能性があります。
このような場合は、パイプラインの開発が遅延又は中止となり、その結果収益自体が計上できる状況に至らない可能性があります。
② 開発の遅延について
①に示したように、当社は複数パイプラインで研究開発を行っておりますが、それぞれの開発段階で予想できない結果等(有効性や安全性の評価項目の未達、重篤な副作用発生、新型コロナウイルス感染症等の流行による症例組入れ停止等)が発生し、その後の開発について遅延が生じる可能性があります。当該開発の遅延により、当初の予算を上回る資金需要やスケジュールの遅延が生じる可能性があります。
③ 将来収益の不確実性について
当社は、多く有用な情報から最も確度の高い価格、市場規模、市場占有率等を考慮して将来の収益の計画を策定しております。しかしながら、当社は、難治性疾患の治療薬を開発しており、類似製品の選定が困難な場合、及び類似製品からの価格の推定が困難な場合があり、将来の収益の計画が大きく変更する可能性があります。また、製品の販売を開始するまでの時期については、収益が発生する場合の主な内容が契約一時金収入やマイルストーン収入であることから、収益の発生時期及び金額は開発の進捗により大きく変動する可能性があります。
④ 潜在競合品について
当社が開発しているパイプラインについては、競合品の開発状況を注視しております。当社開発製品の将来収益予想に影響を及ぼす可能性のある競合品は少ないと判断しておりますが、今後の競合品の開発状況の変化により、将来の収益性に大きな影響を及ぼす可能性があります。
⑤ 知的財産侵害について
当社は事業展開において種々の知的財産権を使用しており、これらは当社所有若しくは適正に使用許諾を受けた権利であると認識しており、今後も第三者の知的財産権を使用することもあります。当社では、第三者の知的財産権に抵触することを回避するため、調査、検討及び評価等を随時実施しておりますが、第三者の知的財産権に関連して係争が生じる可能性もあります。
今後、事業の進捗により、このようなリスクは増大するものと思われます。
また、当社は他社による特許権等知的財産権の侵害を未然に防止するため、当社として必要と考える調査を実施しております。これまでに、当社の知的財産権について第三者との間で訴訟が発生した事実はありませんが、研究開発型企業である当社は、知的財産権侵害の問題を完全に回避することは困難であり、第三者との間で知的財産権に関する紛争が生じた場合は、当社の業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
当社は株式会社ニューロゲン(代表取締役:米田喜子氏)より、組換えヒトHGFタンパク質を製造するためのマスターセルバンクの使用許諾を受けております(「第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等 (1)技術受入契約」をご参照ください)。株式会社ニューロゲンは、HGFのインデューサー(中国の生薬等に含まれ、摂取することにより体内のHGF産生を上昇させる活性を持つ物質)の研究開発を行うとともに、HGF関連資産を保有しております。マスターセルバンクは組換えヒトHGFタンパク質の製造における起点となる細胞株であるため、当該使用許諾は主要な事業活動の前提となる事項でありますが、株式会社ニューロゲンとは長年にわたり良好な関係を維持しており、現時点でマスターセルバンクの継続的な使用に支障をきたす要因は発生しておりません。マスターセルバンクは、当該使用許諾契約に基づき、当社がGMP準拠により適切に保管しております。今後、当社がマスターセルバンクを使用できなくなる可能性は極めて低いと考えておりますが、何らかの理由により当該使用許諾契約が解除された場合には、当社の医薬品開発事業に重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、以下に主要なパイプラインに関する当社所有の特許を記載しております。
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対象 |
表題 |
出願国(地域) |
登録(出願)の状況 |
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脊髄損傷急性期 |
脊髄損傷治療薬剤 |
日本 |
権利化 |
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欧州 |
14カ国(英国、フランス、ドイツ、スイスほか)で権利化 |
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米国 |
権利化 |
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カナダ |
権利化 |
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中国 |
権利化 |
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韓国 |
権利化 |
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香港 |
権利化 |
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脊髄損傷急性期 ALS 声帯瘢痕 |
神経疾患の治療に適したHGF製剤 |
日本 |
権利化 |
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欧州 |
権利化 |
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米国 |
権利化 |
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カナダ |
権利化 |
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韓国 |
権利化 |
⑥ 医薬品に関する規制等について
当社は、医薬品を販売するにあたり「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「薬機法」という)に基づき第1種医薬品製造販売業の許可を得た後に、組換えヒトHGFタンパク質による製品の製造販売承認を取得できるよう、薬機法に準拠した体制整備と医薬品開発の推進に努めております。また、製造販売承認を得るため、申請書類に必要なデータ(品質、有効性、安全性)の取得、及び信頼性保証体制の整備に努めております。
しかしながら、製造販売業の許可については、薬機法に違反した事実が認められたり、薬機法の改正に対応することができない場合は、取り消される可能性があります。また、組換えヒトHGFタンパク質による製品の品質、有効性及び安全性が認められない場合は、当該製品の製造販売承認が得られない可能性があります。
医薬品については前述の薬機法以外にもいくつかの法令によって規制されており、これらの規制に抵触することにより、販売の規制などの行政処分が執行される可能性があります。
⑦ 医療制度改革について
我が国の医療制度は国民皆保険制度を基盤として、すべての国民が十分な医療行為を受けられる体制が敷かれております。しかしながら、高齢化社会による昨今の医療費の増大を踏まえ、当該制度を維持すべく薬価改定を中心とした医療制度改革が実施されており、当社が予定している製品の販売価格に大きく影響する可能性があります。
⑧ 損害賠償責任について
医薬品の臨床試験の実施に際しては、治験薬による重篤な副作用が発生する可能性があります。当社は、当該リスクに対して損害賠償保険に加入しておりますが、当該保険の範囲外での賠償義務が生じる可能性があります。また、医薬品として販売の承認を受けた後も、同様の重篤な副作用の発生の可能性を否定することは困難であり、これに対しても損害賠償保険に加入する予定にしておりますが、当該保険の範囲外での賠償義務が生じる可能性があります。
(2)製造に関するリスク
① 原材料等の不足
当社は、製造受託機関に委託して、臨床試験の治験薬製造を行っており、また、今後の医薬品の製造を行う予定であります。今後の医薬品製造に当たっては、汎用的ではない特殊な原材料等があるため、原材料等の不足が生じないように一定の原材料等の確保及び事前の原材料の確認、発注等一定の手当を行っておりますが、当該原材料が不足した場合、医薬品の安定的な供給に問題が生じる可能性があり、当社の業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 少数サプライヤーへの依存
当社は前述のように特殊な原材料、消耗品等を使用しているため、少数のサプライヤーに依存して製造を行っております。このため、サプライヤーサイドの事情により原材料等の供給が滞る可能性があります。当社はセカンドサプライヤーの検討や一定程度の在庫量の確保等を進めておりますが、前述のとおり、原材料や消耗品等の供給に不足が生じた場合、将来製品の製造に遅延が生じ、当社の業績及び財政状態に重大な影響を及ぼす可能性があります。
③ 製造の外部委託について
当社は原薬及び製剤の製造を外部委託することにより、製造に係る人件費や固定資産の減価償却費等、固定費を削減するとともに現預金残高を増加させ財務基盤を安定化させております。また、製造を外部委託することにより、機動的な製造も可能となると考えております。製造委託先との緊密な連絡体制や契約により当社製品の製造に支障が生じないようリスク管理を十分に行っておりますが、何らかの事情により委託先が当社が製造委託した原薬又は製剤を製造できなくなる可能性があります。また、当社及び委託先それぞれにおいて品質管理体制を構築して、一定の品質を確保した原薬及び製剤の製造を実行しておりますが、管理の不備により品質上問題のある原薬又は製剤が使用された場合には、当社の信頼性が担保されず、事業推進に支障が生じる可能性があります。
④ 技術・ノウハウの流出
組換えヒトHGFタンパク質を有効成分とする医薬品の製造に関しては、原薬の製造と凍結乾燥製剤の製造に分けることができますが、いずれも製造方法を特許として出願せず、ノウハウとして公表しない戦略をとっております。
当社役職員や製造委託先については、秘密保持契約等の締結によりこれらの製造に関する技術・ノウハウが流出しないような措置はとられているものの、何らかの理由により製造に関する技術・ノウハウが流出した場合、製造に関する優位性が失われ、他社により製造される可能性があります。
(3)事業開発に係るリスク
① 提携先企業について
ア 製薬企業との提携について
丸石製薬株式会社とは、当社が開発中である脊髄損傷急性期を対象とした製品が製造販売承認を得た際に独占的販売権を許諾する契約を締結しております。この提携により同製品の販売網が構築されておりますが、何らかの事象(相手先企業の経営環境の悪化や経営方針の変更等)により、同社への販売が実現されない場合、同製品の売上が計画を下回る可能性があります。当社は、販売数の低下を回避するためのバックアップ体制の構築を想定しておりますが、一時的な売上低下を回避することは難しいと考えております。
イ 医薬品卸企業との提携について
東邦ホールディングス株式会社とは、当社が開発中である脊髄損傷急性期を対象とした製品が製造販売承認を得た際に独占的卸売販売を行う契約を締結しております。この提携により同製品を市場に供給するためのサプライチェーンが構築されております。しかしながら、何らかの事象(相手先企業の経営環境の悪化や経営方針の変更等)により、提携先である同社による市場供給が困難になった場合、一時的に同製品の市場供給が難しくなる可能性があります。当社は、市場供給の停止を回避するためのバックアップ体制を構築しておりますが、一時的な供給停止を回避することは難しいと考えております。
ウ クラリス・バイオセラピューティクス社との提携について
当社は米国のクラリス・バイオセラピューティクス社とHGF原薬の供給契約を締結しております。しかしながら、何らかの事象(相手先企業の経営環境の悪化や経営方針の変更等)により同社が行っている医薬品開発が進捗しなかった場合、当社製品であるHGF原薬の供給がなくなり、売上が減少する可能性があります。
② 国内外への事業展開について
ア 国内での事業展開について
前述のとおり、開発が成功した場合の脊髄損傷急性期治療薬についての国内における独占的販売に関する契約については丸石製薬株式会社と、独占的卸売販売に関する契約については東邦ホールディングス株式会社と締結しており、今後の製品供給に関するサプライチェーンが構築されております。しかしながら、現時点においては開発が成功した場合のVFS治験薬及びALS治療薬についての販売に関する提携がなされておらず、今後の事業開発の状況によっては、有効なサプライチェーンの構築が困難になることも考えられます。
イ 海外での事業展開について
前述のとおり、国内市場において、脊髄損傷急性期治療薬についてのサプライチェーンの構築を含め、製造販売承認がなされた後の市場供給過程が設定されておりますが、海外においては、製薬会社等との提携により、臨床試験の設定から構築する必要が生じます。しかしながら、海外製薬会社等との提携が適時適切に行われない場合は、海外での事業展開が遅延する可能性が生じます。
(4)会社組織に係るリスク
① 小規模組織について
当社組織は、取締役7名(非常勤取締役3名を含む。)、監査役3名(非常勤監査役2名を含む。)及び従業員15名から構成されております。これは、当社が社外組織や個人を活用することにより固定費を低減し、収益を獲得するまでの期間における費用を低く抑える経営戦略に沿った組織体制を構築したことによるものであります。
当社の研究開発を行う医薬開発部及び信頼性保証部は取締役2名と従業員10名で構成されております。今後の積極的な事業展開を踏まえて、人員の拡充を計画しておりますが、計画どおりの人材採用が行われない場合は、研究開発活動が遅延する可能性があります。
また、管理及び経営戦略業務を行う経営管理部及び経営戦略室は取締役1名と従業員5名で構成されております。今後は、事業拡大に応じた内部管理体制の充実を考慮し、人員の拡充を計画しておりますが、計画どおりの人材採用が行われない場合は、内部管理体制が十分に構築できない可能性があります。
② 資本構成について
ア ベンチャーキャピタル等の株式保有比率
2024年9月30日現在、当社発行済株式総数は6,810,700株(潜在株式を除く。)であり、うちベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合等(以下、「VC等」という。)が所有する株式数は6.0%を占めております。
一般に、VC等の出資目的は、公開後に当該株式を売却することによるキャピタルゲインの獲得であることから、今後もVC等による所有株式の売却が想定されます。当該株式売却により、一時的に需給のバランスの悪化が生じる可能性があり、当社株式の市場価格が低下する可能性があります。
イ 新株予約権による希薄化
当社は、ストック・オプション制度を採用しており、取締役、従業員等に対して新株予約権を付与しており、今後も優秀な人材確保及び取締役、従業員等の企業価値向上への貢献意識を高めることを目的として、新株予約権を発行する可能性があります。
ストック・オプションを含めた新株予約権による潜在株式数は当事業年度末現在で354,000株となり、発行済株式総数と潜在株式数を合計した株式数に対して4.9%を占めております。
新株予約権の行使が進んだ場合、発行済株式総数が増加し、当社株式の市場価格が低下する可能性があります。
③ 特定人物への依存
代表取締役社長の安達喜一は経営方針の決定及び当社の事業活動全般に重要な役割を果たしております。また、研究開発については専門的な知識が必要となるため特定の従業員に強く依存するところがあります。当社では特定人物への依存が強くなり過ぎないよう業務内容を複数で共有するとともに人材の確保及び育成に努めておりますが、人材の拡充が進まない、人材が流出する等の事態が生じた場合には、当社の事業活動に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(5)業績に係るリスク
① 経営成績について
当社は研究開発型の創薬バイオベンチャー企業であり、多額の研究開発費を先行投資するビジネスモデルであるため、継続して当期純損失を計上しております。計画どおりに開発を進め、当社製品が医薬品として承認されることにより早期に利益を計上することを目指しておりますが、研究開発の遅延により利益の計上が遅れる可能性があります。
② 配当政策について
当社は、当事業年度末現在において、会社法上の配当可能利益がなく、創業以来、配当を実施しておりません。早期に利益を計上したのち、財務体質の強化及び研究開発への投資とともに株主への利益還元を行うべく利益配当を考えております。
しかしながら、研究開発の遅延や収益見込が下回る等により利益配当が十分になされない可能性があります。
③ 資金繰り及び資金調達について
当社のような創薬バイオベンチャー企業は、研究開発が先行して行われるため、研究開発期間中においては継続的に営業損失を計上し、営業活動によるキャッシュ・フローは通常マイナスとなります。現在、開発中であるKP-100ITが実用化され販売が本格的に開始されるまでの間、研究開発資金を含む事業資金は過去における増資資金、株式公開における調達資金で賄う予定でありますが、研究開発等、本格的な販売開始の遅延により資金がひっ迫する可能性があります。
この場合、新たな増資等によって追加の資金調達を行う必要が生じますが、適切なタイミングで資金調達ができなかった場合には、当社の事業継続に重要な懸念が生じる可能性があります。また、新たな増資を行った場合、発行済株式総数が増加することにより、1株当たりの株式価値が希薄化する可能性があります。
④ 多額の研究開発費の発生について
当社の第22期事業年度における研究開発費の総額は、716,792千円(販売費及び一般管理費の74.8%)、第23期事業年度においては、643,266千円(販売費及び一般管理費の71.6%)であります。
一般に、新薬の開発には、長期に渡る年月と多額の費用が必要になります。当社では現在、難治性神経疾患である脊髄損傷急性期及び声帯瘢痕を対象疾患とした臨床試験を実施中ですが、これら研究開発が当初計画よりも遅延する場合、又は当初期待していた結果が得られない場合、研究開発費が当初計画よりも増大し、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
① 経営成績の状況
製薬業界の概況としましては、高齢化に伴う医療費の増大に対応してジェネリック医薬品による代替が進むとともに、薬価改定期間が短縮され、高額医薬品の薬価が著しく低下しております。また、臨床試験の大規模化等に起因する新薬開発のためのコスト増大により、国内外での製薬企業の合従連衡が進みM&Aにより企業規模が拡大するとともに、自社創薬開発において重点領域の絞込みが行われており、社外から開発品目を導入する動きも活発化しております。
一方、新薬開発については、対象患者が多く将来安定した多額の収益が得られる、いわゆるブロックバスター医薬品から、特定の患者群に効果的な治療が行える医薬品の開発に移行しており、経営資源が特定分野に集中し短期に意思決定が行われる創薬ベンチャーが、その中心的役割を担うと言われております。これに対応すべく、政府は、厚生労働省や経済産業省の中央省庁を中心に、日本発の創薬を積極的に支援するため、特に、創薬ベンチャー支援の取り組みとして、医療系ベンチャー・トータルサポート事業(MEDISO)の開始や「伊藤レポート2.0バイオメディカル産業版」が作成されております。日本国内での創薬を促進するため、医薬品の条件付き早期承認制度や先駆的医薬品指定制度も法制化されました。
このような事業環境下、当社は、組換えヒトHGFタンパク質(開発コード:KP-100)の研究開発によって創薬イノベーションを起こすことが事業機会の創出・獲得につながると考え、組換えヒトHGFタンパク質プロジェクトに経営資源を集中して、以下の各事業活動を展開しました。
1.医薬開発活動について
(ア)脊髄損傷(SCI)急性期
慶應義塾大学整形外科中村雅也教授を治験調整医師とする治験実施体制のもとで、脊髄損傷急性期患者を対象として第Ⅰ/Ⅱ相試験を実施し、安全性を確認するとともに有効性を示唆する結果を得ました。第Ⅰ/Ⅱ相試験で得られたPOC(プルーフ・オブ・コンセプト:研究開発中である新薬候補物質の有用性・効果が、ヒトに投与することによって認められること)を検証する目的で第Ⅲ相試験の計画を策定し、2020年6月9日付で医薬品医療機器総合機構(以下「PMDA」という。)に治験計画届書を提出しました。
2020年7月より第Ⅲ相試験を総合せき損センター、北海道せき損センター及び村山医療センターの3施設で開始しました。2021年3月より神戸赤十字病院及び愛仁会リハビリテーション病院を加えた合計5施設を治験実施医療機関としており、2023年4月に患者組入れを終了し、2023年10月に最終症例の最終観察日が終了しました。2024年2月に第Ⅲ相試験の速報結果を得ており、国内での医薬品製造販売の承認申請に向けて本試験の結果をもとに、PMDAと協議を行い、粛々と申請準備を進めております。
一方、米国での臨床開発の準備として、2023年9月に米国食品医薬品局(FDA)との事前相談を開始し、2023年11月にFDAよりpre-INDミーティングにかかる回答を受領しました。その後、北米のKOL(キー・オピニオン・リーダー)との連携体制を構築し、IND申請*に向けた準備を進めております。
*米国食品医薬品局(FDA)に対する新薬治験開始申請
脊髄損傷急性期治療薬としての製造販売承認取得に向けて、組換えヒトHGFタンパク質の製造プロセスに関する各種試験も進めております。原薬製造につきましては、承認申請に必要とされる実製造と同様のプロセスで行う試験製造(プロセスバリデーション)を前々事業年度に終了しました。製剤製造のプロセスバリデーションも前事業年度に終了しました。
また、脊髄損傷を対象に、組換えヒトHGFタンパク質製剤のより効果的な投与方法や投与のタイミングを検討するために、2021年2月より慶應義塾大学医学部と共同研究を開始しております。本共同研究において、慢性期完全脊髄損傷モデル動物に対して、慶應義塾大学が保有するiPS細胞由来神経幹/前駆細胞と当社が開発するHGF及びスキャフォールド(足場基材)を併用することにより運動機能の回復が得られることを見出し、2022年3月に同大学と当社は共同で特許出願を行い、2023年3月には当該特許出願に基づく優先権主張出願を行っております。さらに、重度の脊髄損傷モデル動物に対して、急性期にHGFを投与することに加え、亜急性期にiPS細胞由来神経幹/前駆細胞を移植したところ、各単独投与群に比べ顕著な運動機能の回復がみられたことから、2022年9月に本共同研究に基づく2件目の特許共同出願を行い、2023年9月には当該特許出願に基づく優先権主張出願を行いました。HGF及びiPS細胞由来神経幹/前駆細胞の単独治療は既にヒトでの臨床段階に進んでいることから、両者の併用治療は、急性期及び亜急性期の脊髄損傷に対する次世代複合治療法として早期の実用化が期待されます。
2021年6月には、アジア太平洋脊椎外科学会とアジア太平洋小児整形外科学会の第13回合同学会(APSS-APPOS 2021、2021年6月9日~12日、於神戸国際会議場)において、脊髄損傷急性期での第Ⅰ/Ⅱ相試験に関する発表がAPSS CONGRESS Best Clinical Research Award(APSS会議最優秀臨床研究賞)を受賞しました。
2021年12月には、「神経疾患の治療に適したHGF製剤」の特許が欧州で登録されました。本製剤は脊髄損傷急性期のみならず、筋萎縮性側索硬化症及び声帯瘢痕に対する臨床試験においても治験薬として使用されており、HGF製剤の適応拡大の基盤となるものです。既に権利化されている日本、米国、カナダ、韓国に、欧州が加わることで、HGF医薬品のグローバルでの事業展開に有利な知財環境が構築できました。
(イ)声帯瘢痕(VFS)
声帯粘膜が硬く変性(線維化)する疾患であるVFSを対象とした医師主導による第Ⅰ/Ⅱ相試験によって、KP-100製剤の声帯内投与の安全性が確認され、声帯の機能回復を示す症例も確認されました(J Tissue Eng Regen Med. 2017;1–8.)。その後、2019年7月に実施したPMDAとの事前面談を踏まえ、次相試験について京都府立医科大学と協議を重ね、2022年10月に第Ⅲ相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)の治験計画届書をPMDAに提出し受理されました。その後、京都府立医科大学附属病院において治験を開始し、2023年1月には第1例目の被験者が症例登録されました。2023年5月には、久留米大学医学部附属病院、東北大学病院、川崎医科大学附属病院、日本大学病院を治験実施医療機関として加え、2024年5月には、新たに山王メディカルセンターを追加し、現在合計6施設で症例登録を推進しております。
なお、治験の実施費用並びに治験薬の製造及び市販製剤の開発費用の調達を目的として、2021年11月に新株予約権の発行を行っており、2022年7月には全ての行使が完了しました。さらに、本プロジェクトは国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)による「医療研究開発革新基盤創成事業(CiCLE)」課題として採択され、2022年4月より公的資金の活用も進めております。
(ウ)筋萎縮性側索硬化症(ALS)
2016年5月より東北大学神経内科青木正志教授による医師主導治験として、東北大学病院及び大阪大学医学部附属病院において第Ⅱ相試験(プラセボ対照二重盲検比較試験)が実施されました。2020年11月には患者組入れを終了し、2021年12月に最終症例の最終観察日が終了しております。その後、東北大学においてデータ解析が進められた結果、主要及び副次評価項目に関して実薬群とプラセボ群の間で統計的な有意差は認められませんでした。一方、実薬群において進行が遅い症例もあり、本試験結果の解釈には、さらに詳細な解析が必要となります。なお、安全性に関しては、実薬群とプラセボ群で有害事象の発現率は同程度であり、忍容性が確認されました。2024年4月には、東北大学と、本第Ⅱ相臨床試験の追加解析として、検体試料のバイオマーカー解析に関する共同研究契約を締結しました。本共同研究によって、効果の検出しやすい患者集団の特定など、次相試験のデザイン策定に重要な情報が得られることが期待されます。
(エ)クラリス・バイオセラピューティクス社への原薬供給
当社は、2020年4月に米国のクラリス・バイオセラピューティクス社とLicense and Supply Agreementを締結し、同社が米国において眼科疾患を対象に臨床開発を進めるためのHGF原薬の供給を行っております。
当事業年度においては、同社の開発進捗に応じてHGF原薬の供給を行いました。当社が提供した各種情報をもとに、同社は神経栄養性角膜炎を対象とする第Ⅰ/Ⅱ相試験を開始するためのIND申請を2021年5月に実施しており、同年8月には1例目の投与が開始されております。当社はこれを起点として、毎年定額の技術アクセスフィー(ロイヤリティ収入)を受領し、該当期間分を売上高に計上しております。同社はカナダにおいても本試験を開始するベく、2022年7月に、Health Canada(カナダ保健省)に治験申請を行い承認されました。米国とカナダの両国における本試験は、症例組入れが完了し、現在解析が進められております。
また、当社は2023年9月に同社と業務提携し、組換えヒトHGFタンパク質の製造法効率化に着手いたしました。今後のグローバルでの必要量増大に対応し、全世界での安定供給を目指すことを目的としております。
(オ)その他の共同研究
2022年7月には、京都大学と、HGFの再生医療への応用研究に関する共同研究契約を締結しました。バイオマテリアル技術を応用し、対象疾患に最適で効果的な次世代治療法の探索研究を行い、KP-100を他の難治性疾患に適応拡大することを目的としています。
また、当社は、2018年10月より、東京医科歯科大学と共同研究を実施しております。2022年7月、潰瘍性大腸炎の難治性潰瘍の修復を目指した、自家腸上皮オルガノイド移植による臨床研究において、同大学により1例目の移植が行われました。本移植治療に用いる腸上皮オルガノイドの作製には、当社のKP-100が用いられております。
2022年9月には、HGFタンパク質のさらなる可能性を追求するために、「HGFタンパク質を利活用した新しい研究テーマ」を幅広く多くの研究者から募集するオープンイノベーションを推進していくことを決定しました。
2024年4月には、岐阜大学と、HGFの特発性大腿骨頭壊死症への応用研究に関する共同研究契約を締結しました。HGFは血管新生作用と骨再生作用を併せ持ち、既存薬のない特発性大腿骨頭壊死症の新たな治療薬になる可能性があります。
2024年6月には、金沢大学と、HGFの特発性肺線維症への応用研究に関する共同研究契約を締結しました。当社は現在、線維化疾患のひとつである声帯瘢痕を対象に国内で第Ⅲ相臨床試験を実施しており、声帯瘢痕においてHGFタンパク質の医薬品開発に成功すれば、声帯瘢痕のみならず他の線維化が原因となる慢性疾患への適応拡大の可能性につながると考えております。当社は、本共同研究の成果を活用し、線維化疾患の次のターゲットとして肺線維症への適応拡大を積極的に検討してまいります。
なお、当社は2023年9月に新株予約権を発行しており、調達資金の一部を非臨床段階の共同研究の推進・拡大を含む新規パイプラインの創製に用いることを決定しておりましたが、2024年5月に全ての行使が完了しました。
2.事業開発活動について
当事業年度においては、脊髄損傷急性期での海外展開を見据えて、海外製薬企業等との事業提携協議を中心に、事業開発活動を行いました。2024年6月には、米国での脊髄損傷に関するシンポジウム「2nd Annual Spinal Cord Injury Investor Symposium」にて講演を行い、関係者とのネットワーキングを行いました。また、脊髄損傷急性期を対象とする米国での臨床開発及び製造開発(組換えヒトHGFタンパク質の製造法効率化)の費用の一部を調達することを目的に、2023年9月に新株予約権を発行しておりましたが、2024年5月に全ての行使が完了しました。これにより最大の医薬品市場である米国での開発戦略を明確化し、事業提携の協議を加速することを期待しております。
2021年9月には、当社パイプラインの主成分である組換えヒトHGFタンパク質(5アミノ酸欠損・糖鎖付加型、開発コード:KP-100)の国際一般名が、「Oremepermin Alfa」(オレメペルミン アルファ)に決定されました。また、2024年5月には、日本医薬品一般的名称が、「オレメペルミン アルファ(遺伝子組換え)」に決定され、今後、国内での製造販売承認申請書類等、公式な場で本名称を使用することが可能になりました。
以上の結果、当事業年度の業績は以下のとおりとなりました。
当事業年度における売上高は80,038千円(前事業年度比15.6%の増加)となり、営業損失は817,882千円(前事業年度は、888,762千円の営業損失)、経常損失は754,961千円(前事業年度は、852,660千円の経常損失)、当期純損失は756,453千円(前事業年度は、854,151千円の当期純損失)となりました。
なお、当社は医薬品開発事業のみの単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
② 財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における流動資産は、前事業年度末に比べて138,373千円増加(前事業年度末比5.3%増)し、2,755,990千円となりました。これは主として、新株予約権の行使に伴う増資等により現金及び預金が176,985千円増加したことによるものであります。固定資産は、前事業年度末に比べて82千円増加(前事業年度末比7.9%増)し、1,122千円となりました。これは、差入保証金が82千円増加したことによるものであります。
この結果、資産合計は、前事業年度末に比べて138,455千円増加(前事業年度末比5.3%増)し、2,757,113千円となりました。
(負債)
当事業年度末における流動負債は、前事業年度末に比べて80,881千円減少(前事業年度末比38.7%減)し、128,172千円となりました。これは主として、前受金が38,751千円増加した一方で、未払金が135,219千円減少したことによるものであります。固定負債は、前事業年度末に比べて132,847千円増加(前事業年度末比34.2%増)し、520,748千円となりました。これは主として、長期預り金の増加121,281千円によるものであります。
この結果、負債合計は、前事業年度末に比べて51,966千円増加(前事業年度末比8.7%増)し、648,921千円となりました。
(純資産)
当事業年度末における純資産は、前事業年度末に比べて86,489千円増加(前事業年度末比4.3%増)し、2,108,192千円となりました。これは主として、当期純損失を756,453千円計上した一方、新株予約権行使に伴う増資により、資本金及び資本準備金がそれぞれ419,711千円増加したことによるものであります。
なお、2024年9月に資本金505,957千円、資本準備金680,023千円をそれぞれ減少し、同額をその他資本剰余金に振り替えるとともに、当該その他資本剰余金1,185,981千円を繰越利益剰余金の欠損填補に充当しております。
この結果、資本金11,300千円、資本剰余金2,835,204千円、利益剰余金△756,453千円となりました。
③ キャッシュ・フローの状況
当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、1,816,943千円となり、前事業年度末と比較して55,703千円増加しました。
当事業年度のキャッシュ・フローの概況は以下のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、661,166千円の支出(前事業年度は689,095千円の支出)となりました。これは主として、棚卸資産の減少額69,541千円の資金増加はあるものの、税引前当期純損失754,961千円及び未払金の減少額135,219千円の資金減少によるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは121,363千円の支出(前事業年度は120,875千円の支出)となりました。これは主として、定期預金の預入による支出121,281千円によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは838,233千円の収入(前事業年度は69,164千円の収入)となりました。これは主として、新株予約権の行使による株式の発行による収入838,265千円によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
該当事項はありません。
b.受注実績
当社は受注生産を行っていませんので、受注実績の記載はしておりません。
c.販売実績
当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメントごとの情報は記載しておりません。当事業年度の販売実績は以下のとおりです。
|
セグメントの名称 |
当事業年度 (自 2023年10月1日 至 2024年9月30日) |
前年度比(%) |
|
医薬品開発事業(千円) |
80,038 |
15.6 |
|
合計(千円) |
80,038 |
15.6 |
(注) 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりです。
|
相手先 |
前事業年度 (自 2022年10月1日 至 2023年9月30日) |
当事業年度 (自 2023年10月1日 至 2024年9月30日) |
||
|
金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
|
クラリス・バイオセラピューティクス社 |
69,250 |
100.0 |
80,038 |
100.0 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。
① 重要な会計方針及び見積り
当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。また、財務諸表の作成に当たっては、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性のある見積りや予測を行っており、見積りの不確実性による実績との差異が生じる場合があります。
当社の財務諸表の作成に係る重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1財務諸表等(1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載のとおりであります。
② 経営成績の分析
当事業年度におきましては、「(1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、売上高80,038千円(前事業年度比15.6%増加)、売上原価は発生なし(前事業年度は発生なし)、販売費及び一般管理費897,920千円(前事業年度比6.3%減少)、営業外収益62,920千円(前事業年度比44.9%増加)、営業外費用は発生なし(前事業年度は7,330千円)となりました。
この結果、当事業年度の営業損失は817,882千円(前事業年度は営業損失888,762千円)、経常損失は754,961千円(前事業年度は経常損失852,660千円)、当期純損失は756,453千円(前事業年度は当期純損失854,151千円)となりました。
(売上高)
当事業年度の売上高は、クラリス・バイオセラピューティクス社からのLicense and Supply Agreementに基づく技術アクセスフィー収入及びHGF原薬供給による売上であります。
(販売費及び一般管理費)
当事業年度の販売費及び一般管理費は、主に声帯瘢痕の治験費用及び、製造開発に係る各種試験費用等の増加はあるものの、脊髄損傷の国内承認申請費用の期ずれ等により、研究開発費が減少しております。
(営業外収益)
当事業年度の営業外収益は、主に補助金収入が発生したことによるものです。
(営業外費用)
当事業年度の営業外費用は、発生しておりません。
③ 財政状態の分析
当事業年度におきましては、当社は、「(1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、資産合計は、2,757,113千円となり、前事業年度末と比較して138,455千円増加し、負債合計は、648,921千円となり、前事業年度末と比較して51,966千円増加するとともに、純資産の残高は、2,108,192千円となり、前事業年度末と比較して86,489千円増加しました。
④ キャッシュ・フローの状況の分析
当事業年度におきましては、当社は、「(1)経営成績等の状況の概要」に記載のとおり、営業活動によるキャッシュ・フローは661,166千円の支出、投資活動によるキャッシュ・フローは121,363千円の支出、財務活動によるキャッシュ・フローは838,233千円の収入となっております。
⑤ 経営成績に重要な影響を与える要因について
経営成績に重要な影響を与える要因については「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください。
⑥ 資本の財源及び資金の流動性についての分析
当社は、複数のパイプラインの開発を行っておりますが、POCが確認されている脊髄損傷急性期の開発に優先的に資金を充当しております。当事業年度において、脊髄損傷パイプライン関連の研究開発費は、その製品化に必要な製造関連研究開発費を含めて、208,529千円を計上しております。また、新たに第Ⅲ相試験を開始した声帯瘢痕に208,688千円を計上しております。
当社は、事業上必要な資金については、手元資金で賄う方針としており、売上高や営業外収益による収入が現時点では限定的であるため、第三者割当増資並びに補助金等により調達を行っております。手元資金については、資金需要に迅速かつ確実に対応するため、流動性の高い銀行預金により確保しております。
今後も、売上高、営業外収益による収入及び、補助金等による収入が生じることによる一定の財源は確保できる予定ですが、研究開発費の全額を賄うことは困難であるため、主要なパイプラインである神経疾患を中心に資金配分を行い、事業の黒字化を早急に達成するよう開発を進捗させる計画であります。
(1)技術受入契約
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相手先の名称 |
相手先の 所在地 |
契約の名称 |
契約 締結日 |
契約期間 |
契約内容 |
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株式会社 ニューロゲン 中村敏一氏 |
日本 |
マスターセルバンクの使用許諾およびアドバイザリー契約書 |
2017年 10月1日 |
2017年10月1日から当社が組換えヒトHGFタンパク質の商業化のための努力を継続している間 |
同社が同氏から使用許諾を受けている組換えヒトHGFタンパク質を産生するマスターセルバンクについて、当社に対し独占的に使用許諾する。 |
(注)1.原契約は2005年4月20日付けで締結されております。
2.2019年9月8日付けの中村敏一氏から株式会社ニューロゲンへのマスターセルバンクの譲渡にかかる契約により、中村敏一氏は契約当事者としての地位から離脱しております。
(2)脊髄損傷急性期を対象とした製品(KP-100IT)のバリューチェーンに関する契約
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相手先の名称 |
相手先の 所在地 |
契約の名称 |
契約 締結日 |
契約期間 |
契約内容 |
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東邦 ホールディングス 株式会社 |
日本 |
株式引受契約書 |
2020年 2月21日 |
2020年2月21日から当社株式を保有する期間中、右許諾は存続 |
出資契約の付帯条項として、同社及びそのグループ会社に対し、国内における本製品の独占的卸売販売権を許諾する。 |
|
丸石製薬株式会社 |
日本 |
KP-100ITの独占的販売許諾等に関する契約書 |
2020年 8月28日 |
2020年8月28日から本製品の発売開始後15年間 |
同社に対し、国内における本製品の販売及びプロモーションを行う独占的権利を許諾する。 当社は許諾の対価として、以下を収受する。 ・契約一時金:契約締結時に受領済。 ・開発マイルストーン収入:製造販売承認申請時、薬価収載時(先駆指定審査制度の対象品目に指定された場合は一部を先行して受領)及び適応追加承認時に受領する。 ・販売マイルストーン収入:売上が年間で一定額を達成した際に受領する。 ・販売後ロイヤリティ収入:年間売上に一定の料率を掛けた金額を本製品の販売日から15年が経過するまで受領する。 ・当社は本製品を製造し、商業販売する全量を、薬価に一定率を乗じた単価で同社に販売する。 |
(3)組換えヒトHGFタンパク質(KP-100)の供給契約
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相手先の名称 |
相手先の 所在地 |
契約の名称 |
契約 締結日 |
契約期間 |
契約内容 |
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クラリス・ バイオセラ ピューティクス社 |
米国 |
License and Supply Agreement |
2020年 4月13日 |
2020年4月13日から同社が技術アクセスフィーを支払っている期間中 |
同社に対し、眼科領域におけるKP-100を有効成分とした医薬品の開発、製造、販売、輸出入等を全世界で行うための独占的実施権を許諾する。 当社は許諾の対価として、以下を収受する。 ・契約一時金(受領済) ・技術アクセスフィー収入:同社が実施する最初の臨床試験における初回投与を起点として、毎年定額を受領する。 ・当社は同社による開発(非臨床及び臨床試験)に必要なKP-100を定額の単価で販売する。 |
国内臨床パイプラインごとの研究開発活動については「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績の状況 1.医薬開発活動について」に記載のとおりです。なお、当社は医薬品開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載はしておりません。
以上の結果、当事業年度の研究開発費の総額は