第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社の経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

(1)経営方針

 当社は、常に本質を究め、誠実性と公正性をもって真の社会的付加価値を創造するという経営理念の下、次世代の医療を支える革新的な技術及びサービスを迅速かつ効率的に社会に提供することにより、人々の健康と“Quality of Life(生活の質)”の向上に資することを使命として事業を展開しており、独自の研究開発、技術開発はもとより、国内外の医療機関や研究機関、企業その他との広範で柔軟なコラボレーションを積極的に推進することにより、事業の成長スピードを早め、より大きな事業機会の創出を図ることを経営の基本方針とします。

 

(2)経営環境

 2014年11月に再生・細胞医療を、より安全により早く患者に届けることができる、新たな2つの法的枠組みが設けられました。1つは「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」(以下、「再生医療等安全性確保法」)で、これまでは医療機関のみが許されていた治療に用いる細胞加工について、特定細胞加工物製造許可を取得した企業が細胞加工を受託できるようになりました。もう1つは「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下、「医薬品医療機器等法」)で、従来の医薬品、医療機器とは別に「再生医療等製品」という新たなカテゴリーが設けられ、安全性が確保され効果が推定されれば、条件・期限付きで早期に承認される仕組みが導入されました。これらの新たな法的枠組みの下、当社は、新たなビジネス展開による事業拡大に向けた取り組みを進めております。

 当社は、1999年から免疫細胞治療に用いる細胞の加工のほか、免疫細胞治療を実施する際に必要となる細胞培養加工施設の設置・運営管理を始め、細胞加工技術者、信頼性保証、技術開発などを医療機関に対して提供してまいりました。これまで経験してきた細胞加工件数は約19.7万件に及びます。また、国家戦略特区に位置する羽田空港近隣に細胞培養加工施設(以下、「品川CPF」)を保有しております。品川CPFは、2015年5月に特定細胞加工物製造許可を取得し、続いて2020年1月には再生医療等製品製造業許可を取得したことにより、特定細胞加工物の開発・製造受託と再生医療等製品の開発から商業生産まで、様々な細胞や組織の加工を行うことが可能な施設となっております。当社は、これらを当社の競合他社に対する競争優位性と考えております。

 現在はこれらの当社の強みを生かすことができる主力事業の特定細胞加工物の製造受託において、主に医療機関等から免疫細胞治療に用いる細胞の加工を受託しております。今後はさらに、体細胞や体性幹細胞を用いた細胞などの加工を受託するとともに、バリューチェーン事業において、研究から開発、製造、マーケティングといった再生・細胞医療のバリューチェーンをワンストップで実現するトータルソリューションを提供することで、お客様がスムーズに再生・細胞医療を実施できるよう、様々な支援を行ってまいります。これらに加えて、CDMO事業において、企業から再生医療等製品や治験製品の開発・製造受託を図ってまいります。

 

 当社を取り巻く経営環境は、緩やかな回復が続くと期待されておりますが、不安定な国際情勢や円安の進行に伴う物価の上昇等により、依然として先行きは不透明な状況が続くものと想定されます。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略

 当社は、「再生医療等安全性確保法」及び「医薬品医療機器等法」による新たな規制環境の変化を捉え、これまで事業の中核をなしていた医療機関向けの特定細胞加工物の製造に加えて、企業等に向けた細胞加工業への展開等、新たなビジネス領域を拡大することで、早期の黒字化を目指してまいります。さらに、再生医療等製品の開発を加速させ、製造販売承認を取得することで、飛躍的な成長を目指してまいります。

 

 中長期的には、当社は、「VISION2030」をビジョンに掲げ、その達成のための経営方針に基づき、事業を推し進めてまいります。

 

VISION2030

メディネットは、病気やけがを治すとともに、健康維持・改善に寄与することにより、Well-Being社会(“身体的・精神的・社会的に良好な状態にある社会“)に貢献するHealthcare Innovating Companyを目指す。

 

「VISION2030」を達成するための経営方針

1.メディネットの強み・経験を最大限に活かした成長

2.環境の変化に対応し、継続的成長に向けた変革の推進

3.会社基盤の強化

 

(4)優先的に対処すべき会社の課題

 「(3)中長期的な会社の経営戦略」を踏まえ、当社が対処すべき特に重要な課題は、以下のとおりであります。

 

1.経営方針「メディネットの強み・経験を最大限に活かした成長」における課題

①特定細胞加工物製造受託の拡大

②CDMO事業の基盤強化

③再生医療等製品の開発の加速化と新規シーズの育成

 

2.経営方針「環境の変化に対応し、継続的成長に向けた変革の推進」における課題

①当社事業の収益性及び生産性の向上

②当社事業へのシナジー効果、VISIONに合致する新規事業の育成

 

3.経営方針「会社基盤の強化」における課題

①「先を見据え、自ら一歩先の考動ができる」人財への活性化

②DX実現に向けた社内環境整備の加速化

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

当社は、「常に本質を究め、誠実性と公正性をもって真の社会的付加価値を創造する」という経営理念の下、「次世代の医療を支える革新的な技術及びサービスを迅速かつ効率的に社会に提供し続ける」ことにより、人々の健康と“Quality of Life(生活の質)”の向上に資することを使命として、細胞加工業及び再生医療等製品事業を展開しております。これらの活動が法令及び定款等に適合する活動であることの確認と事業活動の潜在する様々な内外のリスクを全社的かつ適切に管理する機関として、取締役会の下に代表取締役社長を委員長とするコンプライアンス委員会及びリスク管理委員会を設置しており、各委員会の活動については取締役会に報告・共有されています。

 

(2)戦略

人財の多様性の確保を含む人財育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は次のとおりであります。

①人財の育成に関する方針

当社では、当社の持続的な成長・発展のために人財は最も重要な経営資源であると認識しております。「先を見据え、自ら考え一歩先の考動ができる」人財の育成・活性化の推進のため、社内外の環境変化に応じて人事関連制度を見直すことや、必要な研修などの人的資本への投資を積極的に行ってまいります。

(具体的な取り組み例)

・eラーニングの導入による基本メニューと学習機会の提供

・コンプライアンス強化に向けたセミナーの実施

 

②社内環境整備に関する方針

当社では、性別・年齢・国籍・学歴などにとらわれず多様な人財を採用ならびに登用し、社員個々のワーク・ライフ・バランスや多様な働きかたを尊重することを通じて、従業員一人ひとりが活躍でき、働きやすい職場を目指します。

当社は、働きやすい職場づくりの一環として次のような制度を導入しており、柔軟な働き方を推進しております。

・育児休職・・・最長子が2歳に達する月末まで

・介護休職・・・最大93日

・子の看護休暇・・・5日/年・人まで、時間単位で取得可

・介護休暇・・・5日/年・人まで

・育児短時間勤務制度・・・所定労働時間を2時間の範囲で短縮可能、子が小学校一年生修了まで

             ※子が3歳までは短縮時間の内1時間を限度とし有給

・特別育児短時間勤務制度・・・所定労働時間を2時間の範囲で短縮可能、子が小学校六年生修了まで

・介護短時間勤務制度・・・所定労働時間を2時間の範囲で短縮可能

             ※短縮時間の内1時間を限度とし有給

 

(3)リスク管理

当社は、サステナビリティを含む様々な内外のリスクを全社的かつ適切に管理するため、リスク管理基本方針をリスク管理規程に定めるとともに、取締役の下に代表取締役社長を委員長とするリスク管理委員会を設置しております。リスク管理委員会においては、社内各部門の業務に関連するリスクの抽出と評価を行ったうえで優先的に管理をするリスクの特定を行い、社内各部門に対してリスクの予防、軽減、移転及び回避対策を講じるなどのリスク管理活動を推進しております。また、企業経営及び日常業務に関して、その内容に応じた各分野の専門家から適宜助言を受けられる体制をとり、戦略及び法務リスクの管理強化を図っております。

 

(4)指標及び目標

当社では、上記「(2)戦略」において記載した、人財の多様性の確保を含む人財育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。

当該指標に関する目標及び実績は、次のとおりであります。

指標

目標

実績(2024年3月末時点)

有給休暇取得率

2026年9月期までに70.0以上

75.8

 

3【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。また、当社は必ずしも事業上のリスクとは考えていない事項についても、投資家の投資判断上、重要であると考えられる事項については、投資家に対する情報開示の観点から積極的に開示しております。

なお、当社は、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応等に努める方針でありますが、投資判断は、以下の記載事項及び本項以外の記載事項を慎重に検討した上で行われる必要があります。以下の記載は、当社に関連するリスクを全て網羅するものではないことにご留意ください。

なお、文中の将来に関する事項は、当有価証券報告書提出日現在において当社が判断したものであります。

 

① 価格に係るリスク

免疫細胞治療は先進的な医療技術であるため、一般的な治療として行われている外科療法、放射線療法、化学療法(抗がん剤治療等)等のように、現時点では保険診療の対象とはなっておらず、当社契約医療機関における免疫細胞治療1クールの治療費総額は、医師が適切と判断する治療の種類等にもよりますが、およそ200万円であります。当社は、免疫細胞治療に用いる細胞加工物の製造の対価として細胞加工の種類と回数に基づく変動課金制による加工料を頂いておりますが、その金額は当該契約医療機関の患者が負担する治療費に依存します。また、免疫細胞治療は先端医療であるがゆえに、医師の治療方法に対する考え方に相違があること、関連技術が急速な進歩過程にあること等の理由により、標準的な価格水準が定まっていません。今後、免疫細胞治療の治療費水準の変化等に伴い、加工料の見直しがなされた場合には、当社の業績に影響を与える可能性があります。2014年11月に「再生医療等安全性確保法」が施行され、免疫細胞治療は医療機関により適切に提供されることになりましたが、今後、本法令を遵守した運用の中で新たな対応策が求められる可能性も考えられることから、細胞加工物の製造の対価そのものの形態が変更される可能性があります。

今後、再生医療分野の産業化に向けた環境が整備され、多くの新規企業による市場参入及び競争激化に伴い、特定細胞加工物の製造の対価及び新たなビジネスの価格競争が生じた場合には、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

② 市場動向に関するリスク

再生医療は、未だ日進月歩の新技術であるため、大学や研究機関並びに製薬会社等多くの医療関係者により、様々な技術や治療方法が開発、発表されております。その中には、不治の病を改善する画期的な新薬もありますが、新技術であるがゆえに、想定しえない甚大な副作用を起こすリスクもあります。甚大な副作用等の損害が発生した場合、再生医療という新技術に対してイメージの悪化による患者の減少が見込まれます。

業界イメージの悪化による患者数の減少は当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

③ 競合及び競合他社に係るリスク

(1)再生医療に係る分野への企業参入状況

「再生医療等安全性確保法」及び「医薬品医療機器等法」により再生医療に関して、明確な法的枠組みが整い、複数の企業が、当社のビジネスと類似したモデルで免疫細胞治療を含む再生医療に係る分野に参入しております。再生医療に関連する画期的な新技術や技術革新の進展により、再生医療市場の拡大が見込まれております。競争が激化して、当社の競争優位が保てなくなる場合には、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

(2)バイオテクノロジーの進歩に伴う競合

当社の属するバイオテクノロジー業界は急速に変化・拡大しておりますが、特にがん治療分野では新しい治療薬の研究開発が進んでおります。大手製薬企業が、がんをターゲットとして開発を進める免疫チェックポイント阻害薬、分子標的薬、遺伝子治療薬等、保険適用される画期的な新薬が開発、販売されております。仮に免疫細胞治療との併用とは関連なく、治療効果の高い医薬品が開発された場合には、当社の業績に影響を与える可能性があります。また、当社においては、積極的な研究開発投資により、常に最先端の技術への対応、業界に先駆けた新技術の開発等に注力しておりますが、当該技術革新への対応が遅れた場合、あるいは、現在の主力事業の対象となっている免疫細胞治療に代わる画期的な治療法が開発された場合等には、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

④ 品質管理体制に係るリスク

当社は、「再生医療等安全性確保法」及び「医薬品医療機器等法」の下、これまで培った経験・知見、再生医療分野の事業ノウハウを用いて効率的に適合させ、信頼ある細胞加工業・再生医療等製品事業を推進しております。現在、当社では以下のような品質管理体制を整備・運用しております。

 

(1)細胞培養加工施設

当社の品川CPFは、「再生医療等安全性確保法」に基づく特定細胞加工物製造事業者許可、並びに「医薬品医療機器等法」に基づく再生医療等製品製造業許可を取得しており、医療機関、企業等からの細胞加工を受託する体制を整備しております。

しかしながら、人材の流出や人為的過失が発生し、正しく運用できなくなった場合、これらの許可が取り消される可能性があり、許可が取り消された場合、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

(2)細胞加工技術者の育成・確保

当社では、これまでの経験に裏付けられた細胞加工を適正かつ安全に行うための細胞加工技術者の育成システムを有しており、技術者の育成及び優秀な人材の確保に努めております。しかしながら、新規参入が相次ぎ、業界内で人材の争奪戦が発生した場合、優秀な人材の確保が困難になる可能性があります。人材の流出や確保が難しくなった場合、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

(3)製造管理

細胞加工の工程においては、標準業務手順書(SOP)に基づいて実施することにより品質確保に努めておりますが、人的な過失、予期せぬ装置の故障等により品質基準を満たしていない加工物を出荷した場合、当社の信用失墜に繋がる可能性があります。

 

当社は、今後とも常に品質管理体制の強化に努めてまいりますが、人材流出、培地や試薬の不良品の混入、劣化、細胞加工の過程における人為的な過失、地震や火災の災害等が発生した場合には、重大な事故に繋がる恐れもあり、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

⑤ 法的規制の影響に関係するリスク

当社は、事業の遂行にあたって、関連法令を含めた法令を遵守しております。主には、次に挙げる法的規制の適用を受けています。

しかしながら、新たな法律や規制ができた場合、当社の業績に影響を与える可能性があります。

(1)「再生医療等安全性確保法」との関連

「再生医療等安全性確保法」は、再生医療等に用いられる再生医療等技術の安全性の確保及び生命倫理への配慮や医療機関が再生医療技術を用いた治療を行う場合に講じるべき措置、治療に用いる細胞組織の加工を医療機関以外が実施する場合の細胞加工物の製造の許可等の制度を定めた法律です。治療に用いる細胞加工を行う場合には、細胞培養加工施設ごとに「特定細胞加工物製造業許可」を取得する必要があります。医療機関が再生医療を行おうとする場合には、再生医療等提供計画の作成、認定再生医療等委員会における審議、厚生労働省への計画書等の提出が義務付けられています。

当社は、特定細胞加工物製造事業者許可を取得しており当社が保有する細胞培養加工施設で医療機関からの細胞加工を受託しておりますが、関係官庁の動向や当社が想定し得ない規制強化が生じた場合には、その対応のためのコストが発生する可能性があり、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

(2)「医薬品医療機器等法」との関連

「医薬品医療機器等法」は、医薬品、医薬部外品、化粧品、医療機器及び再生医療等製品の品質、有効性及び安全性の確保並びにこれらの使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品、医療機器及び再生医療等製品の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的とした法律です。当社は、再生医療等製品製造業許可を取得しておりますが、関係官庁の動向や当社が想定し得ない規制強化が生じた場合には、その対応のためのコストが発生する可能性があり、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

⑥ 研究開発の不確実性に関わるリスク

当社が事業展開する再生医療分野は、日進月歩に進化するがゆえに、継続的な研究開発活動は持続的成長にとって大変重要な役割を担っております。当社では、研究開発を通して将来に渡る企業価値向上を図るべく、研究開発を戦略的に遂行していくための体制を構築し、積極的な活動を行っております。今後は、再生医療等製品製造販売承認を取得することにより、再生医療等製品事業を細胞加工業に続く新たな収益の柱とすることを目指してまいります。

これらに必要な研究開発費は、2021年9月期325,718千円(売上高に対する比率47.7%)、2022年9月期565,224千円(同比率89.2%)、2023年9月期 496,674千円(同比率75.1%)、2024年9月期 452,775千円(同比率58.9%)となっており、将来に渡る企業価値向上を図るための先行投資と認識しております。

しかしながら、研究開発投資に見合うだけの事業化等による研究成果が得られなかった場合や、再生医療等製品の臨床試験において必ずしも当社の期待したとおりの結果が得られるとは限らず、結果として再生医療等製品の製造販売承認が得られなかった場合には、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

⑦ 知的財産権に係るリスク

医療技術や細胞加工に密接に関わる重要な(周辺)技術については、積極的に知的財産権の出願を行い、当社の技術を適切に保護しております。

また、これら先端医療技術の中には、特許として知的財産権を獲得するよりも、ノウハウとして保有する方が事業戦略上優位であると考えられるものも少なからずあり、ノウハウについては、取引先あるいは共同研究先との秘密保持契約等で守ることにより、外部に流出しないよう厳しく管理しております。

しかしながら、以上のような対応している中においても、出願した案件が権利化できないという可能性もあり、また、権利化できた場合でも、実際にその権利を行使できない可能性や、第三者の権利に抵触している可能性もあります。

 

⑧ 特定の取引先への依存

2024年9月期の売上高768,501千円のうち、医療法人社団滉志会に対する売上は、459,697千円(売上高に占める割合59.8%)と、現時点では同医療法人に対する依存度が高い状態にあります。医療法人社団滉志会は、当社と緊密かつ安定的な関係にありますが、今後両者の関係が悪化した場合や、万が一同医療法人において受診患者数の減少、閉鎖等の事態に至った場合には、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

⑨ 資金調達に関する事項

当社は、2020年9月及び2021年9月に第17回及び第18回並びに2023年3月に第19回新株予約権の発行による資金調達を実施したこともあり、当事業年度末の手元資金(現金及び預金)残高は4,651,181千円となり財政基盤は安定しております。しかしながら当事業年度においては営業活動によるキャッシュ・フローがマイナスであり、今後の当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況、また金融市場の状況等によっては、資金調達が困難になる可能性があります。その場合には、再生医療等製品の開発や細胞培養加工施設等への設備投資等が計画通りに進められず、当社の事業の推進に影響が及ぶ可能性があります。

 

⑩ 継続企業の前提に関する重要事象等

当社は、がん免疫療法市場の環境変化に伴う細胞加工業の売上急減後、回復が十分でないことに加え、再生医療等製品事業分野における自社製品の開発進捗に伴う支出が累増しているため、継続的に営業損失及びマイナスの営業キャッシュ・フローが発生しており、継続企業の前提に疑義を生じさせるリスクが存在しております。

しかしながら、当社は、2018年4月に開始した事業構造改革を着実に実行し、細胞加工業セグメントにおいては、細胞加工施設の統廃合等を通じて製造体制の適正化を図り、同セグメントのセグメント利益の早期黒字回復を目指しております。また、再生医療等製品事業セグメントにおいては、早期の製造販売承認の取得に向けて有望でかつ可能性の高いシーズを優先して開発を進めるとともに、再生医療等製品の開発費等については資金状況を勘案の上、機動的に資金調達を実施してまいります。現状では、構造改革の着実な実行を通じた資金の確保、さらに2019年6月の第14回及び第15回、2020年7月の第16回、2020年9月の第17回、2021年9月の第18回並びに2023年3月の第19回新株予約権の発行による再生医療等製品開発費等の資金調達等により、安定的なキャッシュポジションを維持しており、当面の資金繰りに懸念はないものと判断しております。これらに加えて、当社における当事業年度末の資金残高の状況を総合的に検討した結果、事業活動の継続性に疑念はなく、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないものと判断しております。

 

⑪ 情報システムに関わるリスク

(1)サイバー攻撃に関するリスク

当社は、業務上、各種ITシステムを利用しておりますが、悪意をもった第三者による攻撃(サイバーアタック)により社内ネットワークやシステムの運用停止といった問題が発生する可能性があります。これらのリスクを低減するためサイバー攻撃・ウイルス感染の検知機能・監視体制や情報セキュリティインシデント対応体制の強化を図っておりますが完全に防げるとは限りません。社内ネットワークやシステムの運用停止が発生した場合、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

(2)情報漏洩に関するリスク

当社は、従業員の個人情報に加え、取引先等の情報を含む技術・営業・その他事業に関わる機密情報を保持しております。それらの情報の保護については、社内規程の制定、従業員への教育、情報インフラの整備、業務委託先も含めた指導等の対策を実施しておりますが、情報漏洩を完全に防げるとは限りません。万が一、情報漏洩が起きた場合、当社の信用は低下し、当社の業績に影響を与える可能性があります。

 

⑫ 大規模災害等の影響

地震、火災、台風等に加え、洪水、津波等の自然災害により、当社の事業所に大規模な損害が発生した場合、もしくは新型コロナ感染症等、感染症の拡大によるパンデミックが発生し、事業継続に支障が発生した場合、当社の業績に影響を与える可能性があります。

当社は、事業継続への影響を最小化するため、従業員の安全を確保するとともに、事業継続計画(BCP)を作成し、訓練を実施しております。

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1)経営成績等の状況の概要

① 財政状態及び経営成績の状況

当事業年度(2023年10月1日から2024年9月30日まで)においては、雇用・所得環境の改善やインバウンド需要の拡大等により、景気は緩やかな回復基調となりましたが、一方では不安定な国際情勢や円安の進行に伴う物価の上昇等により、依然として先行きは不透明な状況が続いております。

こうした状況の中、当社は引き続き、「再生医療等の安全性の確保等に関する法律」と「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」による法的枠組みの下、新たなビジネス展開による事業拡大に向けた取り組みを進めるとともに収益構造の改善に注力しております。当社を取り巻く事業環境は依然として厳しさが続いておりますが、特定細胞加工物の受託拡大やCDMO事業の基盤強化に注力しております。

当事業年度においては、前事業年度と比べ特定細胞加工物製造業やCDMO事業の売上が増加したことにより、売上高は768百万円(前期比16.2%増)となりました。損益面につきましては、売上高の増加等により、売上総利益は112百万円(前期比14.7%増)、研究開発費の減少により販売費及び一般管理費は1,497百万円(前期比1.8%減)となり、営業損失は1,384百万円(前期は営業損失1,425百万円)となりました。また、加工中断収入10百万円(前期比13.1%減)、投資事業組合運用益73百万円(前期は投資事業組合運用損10百万円)、貸倒引当金戻入額37百万円(前期比500.0%増)等の営業外損益により、経常損失は1,261百万円(前期は経常損失1,419百万円)となり、投資有価証券評価損10百万円を特別損失に計上したこと等により、当期純損失は1,276百万円(前期は当期純損失1,437百万円)となりました。

 

 報告セグメント別の業績の概況は、以下のとおりであります。

Ⅰ 細胞加工業

細胞加工業については、細胞加工業の3つのビジネス領域(「特定細胞加工物製造業」・「CDMO事業」・「バリューチェーン事業」)の拡大に向けて積極的な活動を展開しております。当事業年度においては、「特定細胞加工物製造業」では、一部取引先との価格改定、製造受託に向けた技術移転による一時金等により、「CDMO事業」では製造受託料の価格改定を伴う安定受注等により、売上高が増加しております。その結果、売上高は768百万円(前期比16.2%増)となりましたが、細胞加工受託の拡大に向けた体制整備に係る先行投資や販売費等が増加したことにより、セグメント損失は373百万円(前期はセグメント損失346百万円)となりました。

Ⅱ 再生医療等製品事業

再生医療等製品事業については、再生医療等製品の早期の収益化を目指すとともに、国内外で行われている再生医療等製品の開発動向にも注目し、それらのパイプライン取得、拡充を視野に入れた活動を行っております。当事業年度においては、売上高は0百万円(前期比47.5%減)、研究開発費の減少等によりセグメント損失は434百万円(前期はセグメント損失496百万円)となりました。

 

(資産)

当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べて65百万円増加し、5,700百万円となりました。流動資産は5,013百万円と前事業年度末に比べ244百万円増加しており、主な要因は現金及び預金の増加254百万円、売掛金の増加10百万円によるものです。固定資産は686百万円と前事業年度末に比べ178百万円減少しており、主な要因は、投資有価証券の減少110百万円、建物(純額)の減少64百万円によるものです。

(負債)

当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べて80百万円減少し、509百万円となりました。流動負債は268百万円で前事業年度末に比べて77百万円減少しており、主な要因は、契約負債の減少57百万円によるものです。固定負債は240百万円と前事業年度末に比べて3百万円減少しており、主な要因は、株式報酬引当金の増加24百万円、繰延税金負債の減少28百万円によるものです。

(純資産)

当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べて146百万円増加し、5,190百万円となりました。主な要因は、新株予約権の行使等による資本金749百万円及び資本剰余金749百万円の増加、並びに当期純損失計上に伴う利益剰余金1,276百万円の減少、その他有価証券評価差額金54百万円の減少、新株予約権20百万円の減少等によるものです。

 

 以上の結果、自己資本比率は、前事業年度末の89.2%から91.1%となりました。

 

 

②キャッシュ・フローの状況

 当事業年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前事業年度末に比べ254百万円増加し、当事業年度末には4,651百万円となりました。

 当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 営業活動に使用した資金は1,271百万円(前期は1,263百万円の使用)となりました。

 主な増加は、減価償却費114百万円であり、主な減少は、税引前当期純損失1,273百万円、投資事業組合運用益73百万円、貸倒引当金の減少額40百万円です。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 投資活動によって獲得した資金は65百万円(前期は3百万円の獲得)となりました。

 主な収入は、投資事業組合からの分配金による収入77百万円、長期貸付金の回収による収入36百万円、主な支出は、有形固定資産の取得による支出53百万円です。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 財務活動によって獲得した資金は1,460百万円(前期は1,157百万円の獲得)となりました。

 収入は、株式の発行による収入1,462百万円、支出は、リース債務の返済による支出1百万円です。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

該当事項はありません。

 

b. 受注実績

該当事項はありません。

 

c. 販売実績

当事業年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当事業年度

(自 2023年10月1日

至 2024年9月30日)

前期比(%)

細胞加工業(千円)

768,255

116.2

再生医療等製品事業(千円)

245

52.5

合計(千円)

768,501

116.2

(注)1.最近2事業年度における主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前事業年度

(自 2022年10月1日

至 2023年9月30日)

当事業年度

(自 2023年10月1日

至 2024年9月30日)

金額(千円)

割合(%)

金額(千円)

割合(%)

医療法人社団滉志会

398,845

60.3

459,697

59.8

ヤンセンファーマ株式会社

69,642

10.5

100,328

13.1

株式会社資生堂

84,909

11.0

2.前事業年度の株式会社資生堂の販売実績については、当該販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10未満であるため、記載を省略しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

(経営成績の分析)

 当社の当事業年度の売上高は768百万円(前期比106百万円増、16.2%増)となりました。

 

(細胞加工業)

 細胞加工業の売上高は、768百万円(前期比107百万円増、16.2%増)となりました。当事業年度の売上高の増加は、特定細胞加工物製造業での価格改定、技術移転による一時金に加え、CDMO事業の製造受託料の価格改定や安定受注等が主な要因であります。今後も引き続き、既存の細胞加工に加え、新たな細胞加工の拡充やCDMOの展開等に注力し、収益の拡大を図ってまいります。

(再生医療等製品事業)

 再生医療等製品事業の売上高は、0百万円(前期比47.5%減)となりました。再生医療等製品事業の売上高は、現時点では上市できている再生医療等製品がないため、ライセンス収入に留まっており、再生医療等製品の製造販売に向けて、研究開発投資が先行している状況にあります。

 

 当事業年度の営業損失は1,384百万円(前期は営業損失1,425百万円)となり、前期に比べて41百万円損失が減少しました。これは、売上高の増加の一方、原材料・労務費等の高騰に加え、細胞加工受託の新規案件の受託に向け、細胞加工技術者を先行して獲得したことによる一時的な原価率の増加等により、売上総利益は112百万円(前期比14百万円増、14.7%増)となったことに対して、販売費及び一般管理費は、研究開発費の支出時期の遅れによる支払手数料の減少等により、1,497百万円(前期比26百万円減、1.8%減)となったことによるものです。その内訳は、研究開発費は452百万円(前期比43百万円減、8.8%減)、販売費は174百万円(前期比6百万円増、3.6%増)、一般管理費は870百万円(前期比11百万円増、1.3%増)となりました。

 

(細胞加工業)

 当事業年度においては、前事業年度に引き続き、セグメント利益の計上を目指してまいりましたが、特定細胞加工物製造業やCDMO事業の売上が増加したこと等により、売上高は増加となった一方、原材料・労務費等の高騰に加え、細胞加工技術者を先行して獲得したこと等により、セグメント損失373百万円(前期はセグメント損失346百万円)となりました。今後は、多種多様な細胞の培養・加工に対応する製造体制の強化を図り、事業の拡大を図ることにより、早期の黒字回復を目指してまいります。

(再生医療等製品事業)

 当事業年度においては、研究開発費の支出時期の遅れによる支払手数料の減少等により、セグメント損失は434百万円(前期はセグメント損失496百万円)となりました。今後は、現在進めている再生医療等製品の開発を加速し、早期の製造販売承認の獲得を目指してまいります。

 

(財政状態の分析)

 当事業年度末の総資産は、前事業年度末に比べて65百万円増加し、5,700百万円となりました。これは主に現金及び預金の増加254百万円、投資有価証券の減少110百万円、建物(純額)の減少64百万円によるものです。

 当事業年度末の負債は、前事業年度末に比べて80百万円減少し、509百万円となりました。これは主に契約負債の減少57百万円、株式報酬引当金の増加24百万円、繰延税金負債の減少28百万円によるものです。

 当事業年度末の純資産は、前事業年度末に比べて146百万円増加し、5,190百万円となりました。主な要因は新株予約権の行使等による資本金749百万円及び資本剰余金749百万円の増加、新株予約権20百万円の減少、並びに当期純損失計上に伴う利益剰余金1,276百万円の減少、その他有価証券評価差額金54百万円の減少等によるものです。

 

② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

(資金の需要)

 当社の資金需要の主なものは、製造費用や販売費及び一般管理費等の営業費用による運転資金と品川CPF等への設備投資及び再生医療等製品の研究開発投資等によるものであります。

 

(資金の源泉及び資金の流動性)

 当社の資金の源泉の主なものは、運転資金については自己資金と金融機関からの借入により、設備投資や研究開発投資については、新株予約権の発行による資金調達であります。

 当事業年度末におけるリース債務による有利子負債残高は0百万円となっております。また、当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は4,651百万円となっております。

 資金の流動性については、当事業年度においては、第19回の新株予約権の行使により資金を調達しております。今後も細胞加工の新規顧客の獲得や研究開発の効率化等によりキャッシュ・フローの改善を図り、資金の流動性の確保に努めてまいります。

 なお、当面の資金繰りのための資金は十分に確保していると判断しております。

 

③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この財務諸表の作成にあたっては、当事業年度における財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に影響を与えるような見積り、予測を必要としております。当社は、過去の実績値や状況を踏まえ合理的と判断される前提に基づき、継続的に見積り、予測を行っております。そのため実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

 当社の財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等(1)財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

5【経営上の重要な契約等】

(1)特定細胞加工物製造委受託契約

契約先

契約期間

契約の概要

医療法人社団滉志会

2017年10月2日から2022年10月1日まで

(双方から契約終了の申し出がない場合には、1年間延長し、以後同様。)

当社は、本契約に基づき、特定細胞加工物の製造を受託し、その対価を受け取るものであります。

 

(2)技術ライセンスを受けている契約

該当事項はありません。

 

(3)開発・販売ライセンスを受ける契約

契約先

契約期間

契約の概要

Ocugen,Inc.

(アメリカ)

上市後10年または重要特許の期間満了までのどちらか長い期間

日本における自家細胞培養軟骨

「NeoCart」に係るライセンス契約

 

6【研究開発活動】

当社は、がん免疫療法及び難治性疾患治療のための再生医療等製品についての基礎研究、商業化を目指した技術開発からその臨床応用まで、幅広い研究開発活動を推進しており、マイルストーンに沿った進捗が得られるように管理、運営を図っております。各事業における研究内容は次のとおりであります。

なお、当事業年度における研究開発費は452,775千円であり、2024年9月末日現在、研究開発部門スタッフは総計21名おり、これは総従業員の約16%に当たります。

 

(1)細胞加工業

当事業では、細胞加工に関する技術の改良や様々な再生・細胞医療技術の開発を行っております。

当事業年度においては、再生医療等製品の開発を目的とした製造工程の検討等を実施しました。

なお、当事業年度における細胞加工業に係る研究開発費は78,072千円であります。

 

(2)再生医療等製品事業

当事業では、当社が行っている再生医療等製品の製造販売承認に向けた研究開発・技術開発に加え、国内外の有望な技術等を持つアカデミア等とのアライアンスを推進し、再生医療等製品の開発を加速し、製造販売承認の早期実現を目指しております。

九州大学と慢性心不全の治療に用いる再生医療等製品(α-GalCer/DC)の実用化を目指して共同で実施しておりました医師主導第Ⅱb試験(以下「PⅡb試験」)については、九州大学病院を含む5医療機関において、予定症例登録期間である2023年9月末までに30症例を登録することを目標に被験者募集を進めておりましたが、PⅡb試験において発生した有害事象等の影響により症例登録に遅延が生じ目標症例数には到達せず、予定登録症例期間満了をもって、症例登録の募集を終了いたしました。その後、被験者の観察期間を経て、現在九州大学においてPⅡb試験のデータ解析が行われており、その結果が得られた後、九州大学とも協議を行い今後の開発方針を決定する予定です。

自家細胞培養軟骨「MDNT-01」(米国製品名NeoCart®)の開発に関して、当社においてはOcugen社がFDAと合意した米国で実施予定のPhaseⅢ試験プロトコルを参考に国内臨床試験デザインについてPMDAと協議を行っています。一方、NeoCart®の資産を保有しておりますOcugen社(所在地:米国ペンシルベニア州モルバーン市)は、米国での治験開始に向け治験製品製造体制確立等の準備を行っておりましたが、製造体制確立が遅延しており、2024年中に米国でのPhaseⅢ試験の開始が困難な状況です。これにともない、当社においても国内開発方針を今期中に決定することができませんでした。今後、国内試験デザインについてのPMDAとの協議結果を考慮し、Ocugen社での治験製品製造体制が確立された後、国内における自家細胞培養軟骨「MDNT-01」の開発方針を決定する予定です。

2019年10月に国立がん研究センターと締結いたしました、がん抗原タンパク質の1つであるHeat Shock Protein 105 (HSP105)に関連した新たながん免疫療法の実用化に向けた共同研究契約に基づき、研究員を国立がん研究センターに派遣し共同研究を推進しております。これまでの共同研究の結果、HSP105特異的TCR遺伝子を導入したTCR-T細胞の作製に成功し、HSP105発現がん細胞に対して細胞傷害活性効果を示すことを確認し、特許出願いたしました。今後、担がんマウスを用いた薬効試験を行い、インビボでの抗腫瘍効果を確認する予定です

2020年12月に滉志会瀬田クリニックと、先制医療(病気の発生を未然に防ぐことを目的に、様々な背景因子等による予測・診断を踏まえ、症状や障害が起こる以前の段階から実施する医療)としての免疫細胞治療の有用性を評価するために、免疫細胞投与前後で種々の免疫パラメーターがどのように変化するかを検討する臨床研究を実施しておりました。その結果、免疫細胞治療前後で、割合が有意に増加した免疫パラメーター及び有意に減少した免疫パラメーターを同定することができ、これらの変動の意義を明らかにするため追加の臨床研究を開始しました。

さらに、滉志会瀬田クリニックとは「免疫チェックポイント阻害薬治療後のがん患者を対象としたαβT細胞療法の忍容性と有効性を確認する臨床研究」を行っております。これは、免疫チェックポイント阻害薬治療後のがん患者において、免疫チェックポイント阻害薬と免疫細胞治療の併用効果が得られるのではないかと推察し、この臨床研究を進めております。

岡山大学大学院ヘルスシステム統合科学研究科二見教授が開発された血液中の自己抗体を高感度で検出できる技術、MUSCAT assay (Multiple S-cationized antigen beads array assay)に関して、共同で腫瘍免疫学分野、例えばがん免疫療法の効果予測や効果判定の診断薬等への応用を検討しております。その一つとして、健康人と肺がん患者の自己抗体測定結果を機械学習で解析した結果、きわめて高い精度で健康人とがん患者の識別が可能であることが明らかになりました。これらの知見をもとに診断薬及びリスク検査法としての実用化を目指して研究を推進いたします。

なお、当事業年度における再生医療等製品事業に係る研究開発費は374,702千円であります。