文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
当社グループは、建設を通じて社会における相互補完の一翼を担うことを経営理念とし、お客様、お取引先様、株主様をはじめとするステークホルダーの皆様はもちろん、地域社会を含めた全ての人々に対し、グループ会社がそれぞれの事業を通じて高い評価を得ることを目指し、もってグループトータルの企業価値の増大を計ることを経営目標に掲げております。
この経営目標達成のため、よりビッグでよりハイプロフィットなグループを目指しておりますが、不正や不当な手段による社益の追求は勿論のこと、浮利を追うなどの利益第一主義に陥ってはならないことを経営の基本姿勢としております。
当連結会計年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症における行動制限の緩和や各種政策の効果により、社会経済活動が徐々に正常化に向かう動きがみられ、本格的に景気回復への期待が高まりつつあります。その一方で、米国での銀行破綻などの金融不安による世界的な金融資本市場の変動等により、海外景気の下振れが日本経済にも影響を及ぼす可能性があります。また、ウクライナ情勢が長期化し、世界的なエネルギーコストの高騰、原材料価格や資機材価格の高騰による家計や企業への影響、供給面での制約等に十分注意する必要があるなど、景気の先行きについては依然として不透明な状況が続いております。
このような事業環境のもと、公共建設投資は、国土強靭化計画等を背景とする補正予算等の効果により底堅く推移しており、民間建設投資においてはコロナ禍で先送りされた設備投資の再開により持ち直しの動きがみられます。また、民間住宅投資は、新設住宅着工戸数が持家は前年比で減少したものの貸家および分譲住宅は増加となり、底堅い状況が続きました。一方で、建設業界を取り巻く環境は、建設資機材、労務価格の高騰や建設資機材の調達、建設従事者の人財確保の問題、人財の高齢化など依然として厳しい経営環境が続いております。
当社グループは、“地域のあらゆる人々の「もの」と「こころ」の幸せにつながる『循環型・持続型社会インフラ』の創生に貢献する”というビジョンのもと、2022年5月に2023年3月期~2025年3月期を対象とする中期経営計画「共創×2025」を策定いたしました。
その中期経営計画初年度となる当年度は、引き続き新型コロナウイルス感染症の影響等もあり、売上高は計画を若干下回ったものの、営業利益および親会社株主に帰属する当期純利益は、計画を達成し、概ね予定どおりに事業を進めることができました。
しかし、我々を取り巻く環境は、依然として厳しく、世界経済はコロナ禍からの完全回復には至っていないこと、かつ、ウクライナ情勢も収束には程遠く予断を許さない状況であり、それらに起因する資源価格の高騰や通貨動向等、景気の不透明感は拭えず、ますます不確実性が高まっております。
このようななか、将来の事業成長を狙い、建設請負事業を伸ばす一方で、より高い成長が見込まれる川上領域にあたるソリューション提供型事業に進出するとともに、川下領域においてはストックビジネスの強化をはかっており、今後はそれらの事業変革をより一層加速してまいります。また、人財の高齢化等、建設業界を取り巻く環境はますます厳しさを増すなか、人財が重要なリソースと位置づけ、「トップクラスのホワイト企業への挑戦」にも取り組み、当社グループの事業成長を実現してまいります。
なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2023年6月22日)現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループでは、持続可能性の観点から企業価値を向上させるため、サステナビリティ推進体制を強化しており、当社代表取締役社長がサステナビリティ課題に関する経営判断の最終責任を有しております。
企業を取り巻く環境が大きく変化しているなかで、人的資本に関する重要課題や気候変動をはじめとする環境問題について理解し、事業活動を通じてそれらの課題を解決するための取り組みを推進し、持続可能な社会を実現し企業価値を向上させる経営を推進することを目的として、2023年4月1日付で人財育成推進委員会、女性活躍推進委員会、および気候変動対策推進委員会の3つの委員会を設置しております。
各委員会は、当社代表取締役社長を委員長として、中核会社の社長や専門的知見から適切と認められるメンバーにて構成し、人財育成、女性活躍、気候変動に関する基本方針や重要課題に対する基本計画の策定、活動の実績評価、進捗管理、情報開示に関する事項等の審議をおこないます。また、重要事項は定期的に取締役会に上程・報告し、取締役会が監督・指示をおこないます。取締役会で審議・決定された議案は、各部門に展開され、それぞれの経営計画・事業運営に反映します。

① 人的資本経営への取り組み
当社グループにおける、人財の多様性の確保を含む人財の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針は以下のとおりであります。
当社グループでは、「トップクラスのホワイト企業への挑戦」という方針を推進するべく、優秀な人財の維持・獲得に向けた様々な人財戦略に取り組んできました。社員の個を生かしつつベクトルは揃えて最大の力を出し、積極果敢に変化革新に挑戦することで、それぞれの立場にて、しっかりと付加価値を生み出していける企業基盤の構築および活性化を目指しております。その人財戦略のベースとなる「人財育成」「働き方改革」「ダイバーシティ推進」「エンゲージメント向上」の4つの分野に対して、継続的に施策を講じ、持続的な企業価値向上を目指します。
a.人財育成
2022年度につきましては、経営の根幹となる人財の育成を推進するため、当社グループの全役員に対し、集合研修やeラーニング等を通して、戦略立案・組織マネジメント等について学びの場を設け、育成の強化をはかってまいりました。また、グループ各社において、社員層に対し、階層別教育、専門知識教育、新人教育など計画的に各種研修の機会を設け、早期に高いパフォーマンスへつなげられるように取り組んでおります。2023年度からは、社長を委員長とする人財育成推進委員会を設置し、役員・社員ともに成長できる仕組みづくりを推進していきます。併せて、グループ人財の成長促進のため、グループ内の適材適所の配置や専門分野の人財獲得に向けた施策を講じていきます。
b.働き方改革
社員一人一人の仕事と家庭の両立や良好な健康状態の維持の観点を踏まえ、ノー残業デーの設定等による長時間労働の削減や年次有給休暇取得の促進に向けて、グループ全社で働き方改革に取り組んでいます。その主な施策としては、ICT機器の活用、業務フローの見直し、在宅勤務や時差勤務等の多様な勤務制度の整備があり、社員の働きやすさを実現するため、より効率・効果的な生産性向上ならびに業務改善策に取り組んでいきます。
c.ダイバーシティ推進
当社グループでは、人財の多様性を尊重し、近年では65歳定年制度の導入や同性婚についてのルール整備等、協働し合える企業風土の構築に取り組んでいます。特に重要な課題として位置づけている女性活躍推進については、キャリア形成の推進や労働環境の整備という側面から、取り組み強化をはかってきました。2023年度からは、社長を委員長とする女性活躍推進委員会を設置し、女性社員が活躍できる多様性のある会社を目指す施策を推進していきます。女性社員が自身のキャリアと向き合い、長期的な就業が可能となるような仕組みづくりを目指します。
d.エンゲージメント向上
当社グループの成長戦略を実現していくためには、社員が仕事を通して成長ができ、働く喜びを感じられるように、社員と会社の結び付きを強固にしていく必要があります。2020年度から中核会社にて調査を開始しましたエンゲージメントに関する調査は、2022年度にはグループ全社にまで拡大いたしました。2023年度からは、毎年度同調査をおこなう予定であり、今後とも調査結果の分析を適切におこない、そこから得られた課題設定とその対応策の着実な実行を推進することで、エンゲージメントの向上に取り組んでいきます。
② 気候変動対応への取り組み
当社グループにおける、気候変動への対応に関する方針は以下のとおりであります。
a.シナリオ分析の実施
中長期的なリスクの一つとして「気候変動」を捉え、関連リスクおよび機会を踏まえた戦略と組織のレジリエンスについて検討するため、当社はIEA(国際エネルギー機関)やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)による気候変動シナリオ(2℃未満シナリオおよび4℃シナリオ)を参照し、2050年までの長期的な当社への影響を考察し、戸建住宅を含む建築・土木事業を中心にシナリオ分析を実施しました。
なお、シナリオ分析に関する詳細な情報につきましては、当社ウェブサイトをご参照ください。
※2℃未満シナリオ:気温上昇を最低限に抑えるための規制の強化や市場の変化などの対策が取られるシナリオ(IEA-WEO2022-APS、IPCC-AR5(第5次評価報告書)-RCP2.6 等)
※4℃シナリオ:気温上昇の結果、異常気象などの物理的影響が生じるシナリオ(IPCC-AR5(第5次評価報告書)-RCP8.5 等)
b.サステナビリティ・リンク・グリーンボンド(SLGB)の発行
当社グループは、ESG/SDGs経営の一環として2021年3月に国内初の「サステナビリティ・リンク・グリーンボンド(SLGB)」を発行しました。SLGBはSDGsが掲げる17のゴールに対応した「SDGs貢献売上高」を目標値に定め、調達資金を全額グリーンプロジェクトに充当するSDGs債です。SDGs貢献売上高に目標未達の場合には、償還時に投資家へプレミアムを支払います。本件発行は、年限5年・発行額100億円とし、環境性能に優れた事業拠点となる、新東京本社ビル建設を資金調達使途としました。
SDGs貢献売上高について当社グループは、環境に配慮した取り組みとして、再生可能エネルギー関連工事、自然共生素材・工法を用いた法面工事、CASBEE・ZEB等の規格に適合した建築工事、水陸両用ブルドーザを利用した漁場・漁港等の保全工事の建設出来高、社会の豊かさに向けた取り組みとして、建築基準法の耐震性能を15%以上超過する建築物や耐震補強工事の出来高などを対象としています。本件発行における目標額は、2021年度から2024年度までの4年間累計で3,911億円以上と定め、2021年度・2022年度の2年間累計で1,851億円を計上しました。残る2年間で合計2,060億円以上の出来高を確保すべく、グループを挙げて取り組みを進めていきます。新東京本社ビルには太陽光発電設備と蓄電池を組み合わせた電力自給システムを設置しており、これを事業モデルとしてお客様への提案に活用し、SDGs貢献売上高の獲得につなげていきます。
c.気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同
また、当社グループは、気候変動への対応およびカーボンニュートラルを目指す取り組みとして、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)による提言に賛同し、情報開示をおこなっております。CO2排出量の削減については再生可能エネルギー関連工事やゼロ・エネルギー・ビルディング(ZEB)化の設計・施工の推進、水素エネルギー事業への参画、低炭素素材の開発などへの注力とともに、自社における省エネルギー化や再生可能エネルギー活用の促進、重機のハイブリッド化・電動化などを実行し、2030年までにScope1およびScope2の排出量削減を目指します。
当社グループでは、サステナビリティに係るリスク・機会の自社への発生可能性と影響度の大きさを勘案しながら、リスクを優先順位づけし、重点リスク要因に注力して取り組んでおります。
リスクの管理プロセスとしては、人財育成推進委員会、女性活躍推進委員会、および気候変動対策推進委員会により、リスクに関する分析、対策の立案と推進、進捗管理等を実践するとともに、事業会社および当社のグループ内部監査部や経営管理部等と連携することで、グループのリスクを統合しています。
また、必要に応じ、取締役会と連携し、全社的なリスクマネジメント体制を構築しています。
当社グループでは、上記「(2) 戦略」において記載した、人財の多様性の確保を含む人財の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標および実績は、次のとおりであります。
(注) エンゲージメント調査における総合満足度は、7段階評価における結果になります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フローの状況に影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のようなものがあります。
なお、文中における将来に関する事項については、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループでは、こうした事業を取り巻くリスクや不確定要因等に対して、その予防や分散、リスクヘッジを実施することにより企業活動への影響について最小限にとどめるべく対応をはかっております。
<特に重要なリスク>
(1) 受注環境の変化によるリスク
ウクライナ危機に端を発するエネルギー・食料価格等の高騰により世界的にインフレ傾向が強まっており、直近景気後退も懸念されつつあります。日本においても、欧米との金利差を主要因とする円安基調によるコストプッシュ型のインフレが進んでおり、建設業においては、資材価格高騰やその他建設コスト上昇による投資意欲減退、ひいては価格上昇による住宅取得意欲減退が生じた場合には、受注の減少要因となり、当社グループの業績および財政状況に影響を及ぼす可能性があります。
また、財政健全化等を目的として公共投資の削減がおこなわれた場合も、当社グループの業績や財政状況に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 自然災害(感染症等を含む)によるリスク
地震、台風等の自然災害の発生や火災等の人災により、施工中の物件に被害が生じた場合、本社、本店、営業所等の営業拠点に被害が生じた場合、さらには大規模災害や復興に長時間を要する場合には資材価格の高騰など事業環境の変化により、業績に影響を及ぼす可能性があります。
なお、新型コロナウイルス感染症は5類に引き下げられたものの、同様のパンデミックが発生し、営業活動の自粛や資材の調達の遅れ、さらには工事現場の一時停止など、受注や施工に何らかの制限が生じた場合には、当社グループの業績や財政状況に影響を及ぼす可能性がありますが、その影響額を合理的に見積ることは困難であります。
(3) コンプライアンスに関するリスク
当社グループが属する建設業界は、建設業法、建築基準法、宅地建物取引業法、国土利用計画法、都市計画法、独占禁止法、さらには環境・労務関連の法令など様々な法的規制を受けており、万が一違法な行為があった場合には、業績や企業評価に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、コンプライアンスに関するリスクに対応するため、グループ憲章、経営理念、企業理念のもと、社員の考え方や意識の方向性を明確にするものとして「行動指針」を定め、コンプライアンスの重要性を浸透させるとともに、eラーニングの活用や研修等を通じ、役員・社員への啓蒙活動につとめております。
(4) 資産の保有リスク
当社グループでは2023年3月期において、国内および海外に販売用不動産を234億円、投資有価証券を89億円保有しており、これらについて予想を上回る市場価格の下落や為替相場の変動等が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクを低減するため、一定額の資産等を取得する際は、取締役会にてその必要性や見通しを十分に協議のうえ、取得を決定することとしております。
(5) 施工上の不具合や重大な事故によるリスク
設計施工などで重大な瑕疵があった場合や、人身・施工物などに重大な事故が生じた場合には、その改修や損害賠償および信用失墜により、業績に影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクに備えるため、グループ各社において安全衛生に関する教育を定期的におこない、また、内部監査において業務手順の遵守状況を確認するなど問題の早期発見と改善につとめております。
(6) 建設資材価格・労務単価の上昇および人手不足のリスク
建設資材価格や労務単価などが請負契約締結後に大幅に上昇し、競争激化によりそれを請負金額に反映することが困難な場合、および建設技術者・技能労働者の確保が困難な場合は利益率の低下などを招き、業績に影響を及ぼす可能性があります。
これらのリスクを低減するため、各事業会社を中心に仕入先や発注者との協議、交渉をおこなうなど対応を進めております。
<重要なリスク>
(1) 新規事業(海外、M&A)に関するリスク
海外での事業展開の中で、進出国での政治・経済状況、為替や法的規制等に著しい変化が起こった場合や、不動産市況等の変化等が起こった場合には、工事進捗や利益確保に影響を及ぼす恐れがあります。特に米国では金利高止まりや信用収縮による景気後退観測もあり、それらが回避されなかった場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。また、M&Aで取得した企業との融合によるシナジー効果が実現されない場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 税制改正および金融環境の変化によるリスク
当社グループが優位性を発揮してきた個人資産家に対するマンション建築事業について、相続税・資産課税強化や金融機関の融資スタンスの変化および金利上昇等の金融情勢に変化があった場合、ならびにマンションの空室率等に変化があった場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。
また、新築住宅にかかる固定資産税の減額措置および住宅建設・売買にともなう登録免許税の軽減措置の延長が廃止された場合や、相続税の改正等により、建設需要が減少した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度における当社グループ(当社および連結子会社)の財政状態、経営成績およびキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要ならびに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
(1) 経営成績の分析
当連結会計年度の受注高は337,680百万円(前期比7.9%増)と過去最高となり、売上高についても282,495百万円(前期比7.0%増)となりました。利益につきましても、営業利益は12,038百万円(前期比7.2%増)、経常利益は11,768百万円(前期比2.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は7,534百万円(前期比12.0%増)と、増収、増益となりました。
セグメント別の業績は、次のとおりです。
なお、セグメント利益は、連結損益計算書の営業利益と調整をおこなっております。
(建築事業)
受注高は183,241百万円(前期比10.2%増)、完成工事高は136,774百万円(前期比9.3%増)となり、セグメント利益は7,035百万円(前期比40.4%増)となりました。
(土木事業)
受注高は103,438百万円(前期比0.8%減)、完成工事高は94,902百万円(前期比4.0%減)となり、セグメント利益は6,702百万円(前期比8.2%減)となりました。
(不動産事業)
不動産の売買および賃貸等による売上高は木造戸建住宅事業の伸張により、50,818百万円(前期比27.2%増)となり、セグメント利益も3,761百万円(前期比16.5%増)となりました。
当連結会計年度における受注および売上の実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
売上実績
(注) 当社グループ(当社および連結子会社)では生産実績を定義することが困難であるため、「生産の状況」は記載しておりません。
なお、提出会社個別の事業の状況につきましては、持株会社であるため、記載を省略しています。
(2) 財政状態の分析
(資産の部)
総資産は、前連結会計年度末に比べ2,755百万円減少し、233,963百万円となりました。
その主な要因は、受取手形・完成工事未収入金等が11,793百万円増加、木造戸建て住宅事業の伸張にともなう仕入れの増加により販売用不動産が9,644百万円、不動産事業支出金が2,896百万円増加、東京事務所ビルの建設にともない、建設仮勘定が5,127百万円増加した一方で、現金預金が31,852百万円減少したことによるものです。
(負債の部)
負債は、前連結会計年度末に比べ9,043百万円減少し、106,204百万円となりました。
その主な要因は、未成工事受入金が5,301百万円増加した一方で、短期借入金が17,200百万円減少したことによるものです。
(純資産の部)
純資産は、前連結会計年度末に比べ6,287百万円増加し、127,759百万円となりました。
その主な要因は、親会社株主に帰属する当期純利益7,534百万円を計上した一方、配当金の支払2,192百万円により利益剰余金が5,340百万円増加したことに加え、その他の包括利益累計額が949百万円増加したことによるものです。
以上の結果、純資産の額から非支配株主持分を控除した自己資本の額は127,723百万円となり、自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ3.3ポイント増加し54.6%となりました。
(3) キャッシュ・フローの分析
当連結会計年度末の連結ベースの現金及び現金同等物(以下「資金」という)の残高は、前連結会計年度末より31,360百万円減少の36,047百万円となりました。
各キャッシュ・フローの状況は、次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により資金は6,281百万円の減少(前連結会計年度は2,513百万円の増加)となりました。これは、税金等調整前当期純利益11,755百万円の計上、未成工事受入金の増加5,318百万円、預り金の増加2,522百万円等の収入があった一方、売上債権の増加11,988百万円、棚卸資産の増加12,423百万円、法人税等の支払額4,025百万円等の支出があったことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動により資金は5,351百万円の減少(前連結会計年度は6,547百万円の減少)となりました。これは、投資有価証券の売却による収入742百万円等があった一方、有形固定資産の取得による支出6,969百万円等があったことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動により資金は19,556百万円の減少(前連結会計年度は1,179百万円の減少)となりました。これは、短期借入金の減少17,200百万円、配当金の支払額2,192百万円等の支出があったことによるものです。
(4) 当社グループの資本の財源および資金の流動性
当社グループの主な資金需要は、建設工事の施工にともなう材料費・外注費等の営業費用であり、これらの支出は回収した工事代金によって賄っております。また、事業用固定資産の取得についてもグループ内の資金を効率的に運用するとともに、金融機関からの借入、および社債の発行により調達を実施する方針としております。2021年度において、当社初の起債となります普通社債(第1回債)の発行により50億円、また、当社が建設中の環境性能に優れた東京事務所ビル(髙松CG東京本社ビル)の建築資金を調達するため、サステナビリティ・リンク・ボンドとグリーン・ボンドを組み合わせた、国内初となるサステナビリティ・リンク・グリーンボンド(第2回債)の発行により100億円の計150億円を調達いたしました。
当社グループは永続的な発展に向けた経営基盤の強化拡充と着実な株主還元の最適なバランスをはかる規律ある資本政策を遂行するため、財務の安全性を重視しつつ、成長に必要な資金については手元流動性を確保しながら、金融機関を中心とした借入および社債の発行等により、資金調達を実施してまいります。
今後、中期計画における成長戦略事業投資等の資金需要に対応するため、機動的な資金調達を目的として主要取引銀行とコミットメントライン契約を締結しており、流動性リスクに備えております。
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準にもとづき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益および費用の報告額に影響を及ぼす見積りおよび仮定を用いておりますが、これらの見積りおよび仮定にもとづく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積りおよび仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。
該当事項はありません。
当社は、グループ全体の技術向上をはかるため、髙松コンストラクショングループ技術研究所を設けております。中核子会社の髙松建設㈱および青木あすなろ建設㈱は、当研究所内で、その他の子会社は自社施設で、各社が得意とする技術分野において研究開発活動をおこなっております。その主なものは次のとおりであり、当連結会計年度における研究開発費の総額は
(1) 髙松建設㈱
① 新型免震構造の実用化研究
大地震に対する安心感をもたらすことができる免震構造のニーズが高まっています。髙松建設㈱では、東京都市大学との共同研究開発により、中低層の新型免震構造の実用化研究を進めております。従来の免震構造用積層ゴム支承は、建物の規模に応じて一品生産されてきましたが、新たに開発する積層ゴム支承は、建物の規模に応じて形状を大型にするのではなく、個数を調節することで設計する方式を採用し、「積層ゴムの製造+品質管理」と「構造設計+施工管理」の二つのプロセスを分離することが可能であり、免震部品の大量生産と品質管理の合理化が見込めます。この新しい積層ゴム支承を用いた免震構造を「新型免震構造」と呼んでおります。トータルコストで安価な免震構造の実用化をめざしております。
② 耐震設計の高度化研究
髙松建設㈱では、建築基準法で定められる地震力を15%上回る厳しい耐震設計基準を設けています。しかし、10階を超える中高層建物では、配筋が高密度化し、杭の設計に苦慮する場合が多くなっています。この問題を解決するために、限界耐力計算の導入を検討しております。限界耐力計算は、従来の保有水平耐力計算と比べて高度で難解な計算方法ですが、より精緻な耐震強度を求めることが可能です。特に、10階建て程度以上では保有水平耐力計算よりも合理的な耐震設計が可能になるケースがあります。限界耐力計算に関する技術ノウハウを蓄積し、地震応答変形に立脚した耐震性能の明確化と配筋設計の適正化をはかっていきます。
③ スラブ重量低減技術の開発
設計地震力は建物の重量に比例するため、建物の重量を減らすことができれば、柱・梁をスリム化し、鉄筋量を削減することが可能になります。そこで、スラブの軽量化に着目し、集成材とコンクリートの合成構造によるスラブを開発します。本来コンクリートだけが担う曲げモーメントとせん断力を集成材にも負担をさせることで、コンクリートを減らし、建物重量を削減します。合成構造の細部の検討をすすめ、各種性能(構造・耐火・遮音)試験を実施しております。
④ コンクリートの品質向上技術に関する研究開発
建築物の主要な材料であるコンクリートについては、施工性と出来上がり品質の向上が求められています。様々な課題がある中で、特に、土間・スラブコンクリートのひび割れ低減対策に取り組んでおります。土間・スラブコンクリートにおいては、様々な要因でひび割れが発生しますが、温度ひび割れ・収縮ひび割れに焦点を絞り、混和材・鉄筋・誘発目地・養生などを組み合わせた、有効なひび割れ低減対策の確立をめざしております。
⑤ サイホン排水システムの開発
サイホン排水とは、1つ下の階に排水を落とすことでサイホン力を発生させて、強い水流により排水性能を向上させる技術です。従来の重力式排水システムと異なり、小口径で無勾配の配管システムであるため、水回り設備の自由な配置が可能となります。将来の改装時も既存の設備配置にとらわれない大幅な間取り変更が可能です。満流で高速に排水されるため自浄作用もあり、排水管内の汚れが付きにくくメンテナンス性にも優れた排水システムです。㈱ブリヂストンとの共同開発にて、髙松建設㈱の賃貸マンション仕様に適合するシステムを構築し、設計・施工指針を整備しております。2024年3月期より実装を開始し、普及展開をはかっていきます。
⑥ 配筋検査システムの開発
近年、熟練工の減少や品質管理の厳格化から、ICT技術活用による省人化、生産性向上が急務となっています。髙松建設㈱では、他社ゼネコンと共同で、AI(人工知能)および画像解析を活用した配筋検査システムを開発しております。撮影された画像より、鉄筋の径と本数、ピッチ等を算出、図面データと照合し、配筋検査の半自動化をはかるものです。現在、立体配筋のAI検知精度向上段階であり、2025年3月期からの本格運用をめざしております。
(2) 青木あすなろ建設㈱
(建築事業)
① 制震ブレースを用いた耐震補強工法
日本大学と共同開発した摩擦ダンパーを用いた既存建物の制震補強工法は、高性能・居ながら(居住しながら)補強がおこなえ、短工期・低コストを特長としており、制震補強工法として、我が国で初めて日本建築防災協会技術評価を取得しました(累計施工実績は100件)。2023年3月期は、実施適用物件に対する補強効果の確認およびデータの蓄積に加え、新築建物の制震化に用いる摩擦ダンパーの実機試験体を製作し、性能確認試験をおこないました。
② 折返しブレースを用いた耐震補強工法
折返しブレースは、断面の異なる3本の鋼材を一筆書きの要領で折り返して接合させた形状を有し、優れた変形性能を示すので、耐震性に優れた合理的な鉄骨造建物を建設できます。2023年3月期は、ブレース材の終局メカニズムの改善に向けた試験体を製作し、性能確認実験をおこないました。(累計実績は10件)
③ 耐震天井工法(AA-TEC工法)の開発
大地震時の大空間建物の天井被害を軽減するため、耐震天井の開発に取り組んでいます。従来の耐震天井よりも約1.5倍の耐震性能に優れた工法を開発し、2016年10月には建築技術性能証明を取得しました。今期は、建物の柱、梁、壁との隙間をなくした天井の技術資料を整備し、「格子固定天井」として、2022年7月に建築技術性能証明を取得しました。(累計施工実績は2件)
④ 柱RC梁Sハイブリッド構法の適用範囲拡大
物流施設などでニーズの高い柱RC梁Sハイブリッド構法について、使用材料の適用範囲の拡大および施工工法の合理化をはかりました。構造性能確認実験をおこない、設計施工指針を改定し、技術評価を取得しました。
⑤ 鉄骨梁の横補剛省略工法の開発
鉄骨造建物の施工合理化およびコストダウンをはかるため、鉄骨梁にとりつくスラブによる補剛効果を適切に評価することによって小梁を省略できる工法を開発しています。2023年3月期は既往の研究結果および設計指針を用いて、第三者機関による構造性能評価を取得しました。
(土木事業)
① 既設橋梁の耐震性向上技術に関する研究
2013年6月より、首都高速道路グループと、摩擦ダンパーを既設橋梁の耐震性向上に応用する共同研究を実施しています。その成果により、2020年には首都高速道路11号台場線において摩擦ダンパーを用いた耐震補強が初めて採用され、摩擦ダンパー6基の設置工事が完了しました。今期は、実装第二弾として、首都高速道路1号上野線において1200kN摩擦ダンパー24基、800kN摩擦ダンパー2基の設置工事が完了しました。また、「スライド機構」という新たな機構を組み込んだ摩擦ダンパーの開発に、首都高速道路技術センターと共同で取り組んでいます。スライド機構によって、橋軸方向の地震動の直角方向への影響が解消され、摩擦ダンパーの更なる採用増加が期待できます。2023年3月期は、大規模な振動台実験をおこない、スライド機構が実際の地震動を再現した条件で適正に可動することを実証しました。2024年3月期は、耐久性確認などスライド機構の実用化に向けた種々の検証試験をおこなう予定です。
② カーボンプール(CP)コンクリートの開発
セメント焼成工程などで発生する二酸化炭素(CO2)を、コンクリート由来の産業廃棄物に固定化させるという「地域内循環の構築」、さらに新たな技術を用いて引渡しまでにCO2固定量を最大化する「カーボンプール(CP)コンクリートの開発」に取り組んでいます。これは、当社を含む企業・大学・国立研究開発法人がコンソーシアムを構成し応募したNEDO(※)・グリーンイノベーション基金事業「CO2を用いたコンクリート等製造技術開発プロジェクト」に採択されたものです。事業期間は、2021年度~2030年度の10年間となっております。
(※)NEDOとは、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の略称です。
③ 電気的性質を利用した盛土材(複合土質)の締固め管理方法の開発
建設発生土など複合的な土質特性を持つ材料を用いた盛土の締固め管理において、複合的な土質をいかに適切に管理するかという課題を解決し、その適正化をはかるため、電気的性質を利用した締固め管理手法を開発しました。これは、小型・軽量な計測器をハンマードリルなど簡便な方法で土中に貫入し、導電率や比抵抗値を計測するもので、計測した比抵抗値等から、盛土の乾燥密度を算出することが可能です。2024年3月期以降は、早期の現場実装に向けて測定精度の更なる向上をはかる予定です。
④ トンネル覆工コンクリートの充填性向上技術の開発
自社開発の「排気排水・注入ホース」を使用した技術により、覆工コンクリートの充填性が良くなり品質が向上します。国土交通省発注の立野ダム仮排水路工事、掛田トンネル工事やニューマチックケーソン基礎等において効果が検証され、当技術をNETIS(新技術情報提供システム)へ登録しました。
⑤ AIを用いた省力化技術の開発
AIを用いたトンネル施工の省力化技術を開発しています。AIモデルの構築に必要なデータは質と量が重要となるため、施工現場での各種データ蓄積後にデータ間の解析、関連付けをおこないディープラーニング(深層学習)に供する予定です。
(3) みらい建設工業㈱
① クレーン吊荷接近警告システム(NETIS:QSK-220003-A)
本技術は、クレーンを使用する作業において吊荷と作業員の位置を超小型RTK-GNSSデバイスで把握し、あらかじめ設定した距離内に吊荷と作業員が接近した際、作業員とクレーンオペレータに警告するシステムです。作業員の位置はモニタで視覚的に確認もでき、危険を回避することで安全性が向上します。
GNSS衛星の電波が受信できないエリア(ユニットハウス内、高架下、ケーソン製作現場など)に作業員がいる場合は、無線装置と作業員検知装置の組み合わせにより作業員の位置を把握します。
(4) 東興ジオテック㈱
① 高圧噴射撹拌工法の開発
近年、高圧噴射撹拌工法は適用範囲が広がりつつあり、河川水域部や大径化、大深度での適用例が増加しております。これらに対応するため、独自工法であるウルトラジェット工法の基本技術をベースにバージョンアップをはかり、受注機会の拡大を目指しております。
2022年3月期までに、東京機材センター内の実験用立坑を拡幅して大口径開発の環境を整備しました。また、新規二重管高圧噴射工法の基本特許出願を完了しております。2023年3月期は、水中噴射実験および改良体の造成実験によるデータ測定ならびに検証、分析を実施いたしました。
② UAV吹付技術の開発
ドローンを用いた植生基材吹付技術の開発に向け、無線型試験機による吹付試験をおこない、生育基盤の造成可否や、プロペラ風圧が飛行および造成基盤に与える影響等を検証しました。また検証結果から、吹付材料の供給に用いるホース部材を改良したうえで再度試験をおこない、法面近接飛行による影響や材料吐出による反力を計測しました。吹付ドローンの実機製作に向け、実証実験や試験機改良による吹付安定化を進めております。