当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)企業理念
当社は「医薬品を通して人々の健康に貢献する」を企業理念としています。
この企業理念のもと、遺伝子・タンパク・細胞を軸とした研究とモノづくりを続け、画期的な新薬と基盤技術を創出し、希少疾患の患者さんとその家族に貢献することを、重要なミッションとしております。その実践にあたっては、社員一人ひとりが患者さんとその家族のことを第一に考え、以下のコアバリュー(価値観)に則り挑戦を続けております。
コアバリュー(価値観)
信頼:私たちは、法令遵守はもとより、高い倫理観をもって行動することにより、全てのステークホルダーから信頼される会社を築きます。
自信:私たちは、世界へ通用する医薬品提供を目標に、独自の視点で研究・開発を進め、自信をもって品質の高い製品と情報を提供します。
信念:私たちは、基本理念のもと、“自ら考え、自ら行動する”を信念として、更なる企業成長を目指します。
基本経営方針
以下に提唱する経営方針は3つのコアバリューをもとに、より具体的に企業のあり方を示したものです。
1.顧客満足を念頭に置いた経営
顧客に対し、常に高品質の製品、正確な情報及びきめ細かなサービスを提供し、顧客満足を高めます。
2.法令・社内規則を遵守する社会的良識に基づいた経営
円滑に企業活動を行うために、コーポレート・ガバナンスに基づくコンプライアンスを推進し、内部統制システムの確立を図ります。その為の医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(「医薬品医療機器等法」)、会社法、独占禁止法などの関係法令及び、業界内の規約・ガイドライン等を遵守します。
3.世界に通用する医薬品開発を目指した経営
希少疾病分野での研究を基盤に、未来への更なる発展を目指して、世界に通用する治療薬の研究・開発に、独自の視点も盛り込みながら、積極的に取り組みます。
4.職場環境への配慮を忘れない経営
製薬企業として信頼性の高い商品提供のために、各事業所の安全かつ働きやすい環境づくりを徹底します。
5.自ら考え、自ら行動する人材を育成する経営
「自ら考え、自ら行動する」ため、部署間の連携を基盤に、明確な目的意識と責任感を持つ仕事のプロの育成を目指します。
6.経営効率を高め、JCRファーマの長所を最大限にのばせる経営
競争の激しい医薬品市場でビジネスを展開する為、市場を見極める視点を忘れずに経営の基本となる「人・物・経費」の効率化を図ります。 また、社内連携をより強化することで、JCRファーマだからこそ取り組める個性ある事業を展開していきます。
(2)製薬産業の環境認識および対処すべき課題
国内製薬産業を取り巻く環境は、大きく変化し続けています。
少子高齢化の進展に伴い増加する社会保障費の圧縮が喫緊の課題とされ、薬剤費抑制政策の推進や後発品の使用促進等が進められています。その一方で、アンメットメディカルニーズへの対応、人々の健康寿命延長やQuality of Life向上の実現を目指し、個別化医療に応じた、これまで以上に安全性と有効性が高い、革新的な医薬品等を生み出すイノベーションを評価する制度の拡充を求める議論が活発に行われており、一部は薬価制度等において実現されてきました。また、生活習慣病を中心に、多くの疾患では薬剤の貢献により治療満足度が上昇した結果、新薬開発の難易度が高くなりました。そのため、世界有数の製薬企業においても、抗体医薬品や再生医療等製品へのモダリティ変化を進めているほか、アンメットメディカルニーズの高い希少疾患に対する医薬品の開発に取り組んでおります。
当社においては、独創的な研究開発により医薬品を創製し、さらに、革新的な創薬基盤技術を創出し続けることで、希少疾病領域をはじめとした様々な疾患の患者さんとその家族の方々に貢献することを使命と考えております。
(3)経営戦略等
中期経営計画~変革~(2020年度-2023年度)を振り返って
「グローバルで存在感のある研究開発型企業」を目指す当社は、2020年5月に、3ヵ年中期経営計画「変革」を公表し、以下に記載する6つの重要経営課題に対する取り組みを進めました。2021年5月には、独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」を適用したイズカーゴ®を日本で発売し、患者さんとそのご家族のもとにお届けすることができました。
また、このJ-Brain Cargo®技術を適応した17種類を超えるライソゾーム病治療薬の開発に取り組んでおり、グローバル臨床試験および将来の商用品製造を見据えた戦略的な設備投資を実施しました。
さらに、本格的なグローバル活動の実現のため、2020年にブラジル連邦共和国にJCR DO BRASIL、2022年にオランダ王国へJCR Europeとルクセンブルク大公国にJCR Luxembourgを設立しております。
これらの成果を基盤とし、新たな価値創出のための戦略的な投資を続け、2020年代後半以降の本格的なグローバル化を果たします。
<前中期経営計画「変革」における6つの重要経営課題>
①希少疾病領域におけるJCRの重要性がさらに高まることを踏まえた品質保証体制の質・量的拡充
②今後数年間の収益基盤強化に向けた既存製品の持続的成長のための取り組み
③ライソゾーム病領域の次を見据えた基礎研究・応用研究の拡充
④本格的なグローバル化を見据えた生産・研究への積極的な設備投資の検討・着手
⑤将来におけるライソゾーム病治療薬の事業価値最大化のためのエビデンス構築を含む製品戦略の立案
⑥本格的なグローバル化以降の業容拡大を見据えた業務および組織構造改革・人財育成
前々中期経営計画「飛躍」の初年度である2015年度と比較すると、売上高、営業利益ともに倍増、研究開発費は約3倍に拡大、社員数も約1.6倍と着実に成長しましたが、様々な挑戦の結果、ガイダンスとして掲げておりました2022年度の各数値に対しては営業利益が未達という結果になりました。
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売上高 |
営業利益 |
研究開発費率 |
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22年度(目標) |
320-360億円 |
70-100億円 |
20.0%目安 |
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22年度(実績) |
343億円 |
49億円 |
25.6% |
営業利益が未達となった主な要因は、ライソゾーム病開発品目であるJR-171、JR-441、JR-446といったライソゾーム病治療薬およびそれ以外の分野で想定していたライセンス契約が2022年度中に契約締結には至らなかったことなどによる契約金収入の計画未達によるもの、ならびに売上高研究開発費率がガイダンスを上回ったことによるものです。
また、配当性向は30%を目安に対し、営業利益の未達により65.9%という結果になりました。
当社は、2023年5月に、5ヵ年中期経営計画「Reach Beyond, Together」を公表しました。本計画はこれからの5年間を過去の中期経営計画である「飛躍」と「変革」において見出した強みをさらに強化し、「創業以来培ってきた独自の「研究開発力」と「モノづくり力」を結集し、患者さんが極めて少ない疾患であっても、患者の皆さんとそのご家族のために、「JCRでなければできないこと」を追求していきます。」という当社のありたい姿の実現に向けて進むプロセスと位置付けています。そしてこの5年間の取り組みとして以下の5つを挙げています。
「革新的な基盤技術の創製」
当社は血液脳関門(Blood Brain Barrier)を通過して薬剤を脳内に届ける独自技術J-Brain Cargo®を創製し、2021年に世界で初めて血液脳関門通過を実証した酵素補充療法治療薬イズカーゴ®を日本で上市しました。このJ-Brain Cargo®には豊富なバリエーションがあり、薬剤の特性に合わせた最適な分子が選択可能であり、タンパク質工学の応用によって受容体との結合親和性を最適化したバイオ医薬品を創製することができます。基盤技術であるJ-Brain Cargo®の有用性を背景として、脳以外の臓器、例えば眼、骨格筋、軟骨等に様々なモダリティ(タンパク、核酸、遺伝子・細胞治療薬、抗体等)を運ぶことを可能とする新たな基盤技術の創出に取り組みます。これにより、現在取り組んでいるライソゾーム病のみならず、神経変性疾患、眼疾患、骨系統疾患、筋疾患等を標的とした薬剤を創製できる可能性があります。自社での研究開発活動と並行して他社とのアライアンスの機会を活用しつつ、革新的な医薬品の創製に挑戦して行きます。
「グローバル基準の生産能力発揮」
「グローバル品質保証体制の質・量的拡充」
当社は創業以来、バイオ医薬品の製造に携わり、研究開発と並んでモノづくりを強みの一つとしています。我々は15年以上のシングルユース技術を用いた製造経験を有しており、研究段階から製品までの統合された品質管理体制を敷いています。製造に携わる社員は現在約400名、いずれも創業以来の「モノづくり」への思いを継承し、高いスキルを有しています。また当社の5つの生産拠点と2つの研究拠点はいずれも近接しており、部門を超えた緊密な連携が我々の強みとなっています。
一方で当社はグローバルサプライを視野に入れ、自社での設備投資、海外のCMOへの投資に400億円投じて供給能力を拡大中です。原薬製造では2,000ℓのバイオリアクターを8基有しております。また、2027年度の稼働を目指して新製剤工場の建設準備を進めております。またロジスティクス面ではグローバル流通管理の欧州拠点をルクセンブルク大公国に2022年に設立しました。
「希少疾病品目の早期上市」
当社は現在基礎段階から臨床試験第3相に至るまで17のライソゾーム病治療薬のパイプラインを有しています。これらをできるだけ早く進捗させ、世界で数百例しか報告されていないような超希少疾患群においても、当社が創業以来培ってきた「研究開発力」と「モノづくり力」を結集して治療薬開発に成功させることが、当社が果たすべき責務だと考えております。
「成長を支える人材育成」
2020年以降、研究開発の進捗やワクチン事業への早急な対応により、社員数は約150名増加しております。2020年代後半に予測される更なる事業拡大を担う次世代リーダー育成のため、「人材管理」「貢献度の評価」「貢献度に応じた賃金処遇」「人材開発」を軸とした人材戦略に取り組んでまいります。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)サステナブルな社会の実現に向けた挑戦
①サステナビリティに対する当社の考え方
当社は、「医薬品を通して人々の健康に貢献する」という企業理念のもと、希少疾病領域のスペシャリティファーマとして、常に世界中の患者の皆さんとそのご家族を第一に考えております。顧客満足を念頭に置き、世界に通用する医薬品開発に積極的に取り組むことで、「誰一人取り残さない(No one will be left behind)」持続可能な価値を社会に提供し、社会と当社の持続可能な発展、すなわちサステナビリティの実現を目指しております。
その実現に向けて、下記の3つの取り組みを通じ、「当社だからこそできるサステナビリティ」の実現を目指してまいります。
・持続可能な医療の実現
「事業活動を通じて創出された価値を最大化し、患者の皆さんを中心とした全ての人々に還元し続けます。」
「研究開発」と「モノづくり」を軸に、患者の皆さんとそのご家族のアンメット・メディカルニーズに革新的な創薬で応えられるよう、さらなる取り組みを続けてまいります。
・人と組織の成長(人的資本経営の推進)
「社員一人ひとりがキャリア展望をもって成長し、新たな価値を社会に還元できる組織を構築します。」
型にとらわれない独自の企業文化・コアバリューを大切に、社員の豊かな創造力をさらに引き出し、誰もが働きやすく、活躍できる環境の整備を図ってまいります。
・社会課題への挑戦(環境保全に向けた取り組み)
「社会の持続可能な発展のため、自然環境に配慮した事業活動を推進します。」
限りある資源を有効に活用することが社会に活力を与え、その恩恵の中で新たな道を切り拓き、次代へと繋いでいくことで社会が持続可能な発展に繋がることを社員一人ひとりが自覚できるよう、意識の向上を図ってまいります。
②ガバナンス
当社は、常に変化する社会および当社を取り巻く状況・課題に対して、経営と一体となって深度ある議論や戦略の策定を行うため、2022年7月に「サステナビリティ諮問委員会」、「サステナビリティ委員会」、「環境委員会」を設立いたしました。新たな推進体制のもと、今後も全社一丸となって、「当社だからこそできるサステナビリティ」の実現に取り組んでまいります。各委員会の役割は、下記のとおりであります。
③リスク管理
当社では、リスクマネジメントの基本方針として、自社製品の安定供給、事業の安定的継続、社員の安全の確保、企業価値の向上によるステークホルダーの信頼維持を掲げております。社長が選任したリスクマネジメント統括管理者の下で、各本部長や指定の部門長からなる経営リスク管理者が参加するリスクマネジメント推進会議を開催し、リスクマネジメント活動の現状分析、課題抽出、改善検討を協議し、必要な情報共有、活動の連携を行っております。
また、サステナビリティ委員会、環境委員会のほか、コンプライアンス委員会、内部統制委員会、安全衛生委員会等の専門委員会を設けることで、リスクの特性に応じたリスクマネジメント活動を実施しております。それぞれの委員会における詳細なリスクシナリオ分析は、現在策定中であります。
(2)人と組織の成長(人的資本経営の推進)
①戦略
当社は、中長期経営ビジョン「Toward 2030」の実現を目指して、“当社の価値の源泉は「チームJCR」である”という共通認識のもと、多様性に富む社員一人ひとりが輝ける職場環境づくり、人材育成の促進に取り組んでおります。今後の本格的なグローバル事業の展開を見据え、次世代リーダーの育成・採用を強化するため、下記の3つの取り組みを積極的に推進しております。
・戦略遂行に資する「動的人財ポートフォリオ」の構築
当社では、人事企画部と各部署との間で適切な意思疎通を図るため、定期的に将来的な人材に対する考え方のすり合わせを行い、人員計画を策定しております。また、採用に関するデータ分析や採用活動の効率化に必須となる採用管理システムの最適化、採用サイトのリニューアルを行い、人材採用についてのPDCAサイクルの構築を進めるなど、戦略的に人材採用を行っていくための取り組みを推進しております。
・ダイバーシティ&インクルージョンの展開と組織浸透
当社は、「チームJCR」こそが価値の源泉であるとの確信のもと、性別、年齢、国籍、障がいの有無などの属性の違いを尊重しあい、多様性に富む社員一人ひとりの能力を最大限に活かすことが重要であると考えております。この実現に向け、女性の職域拡大や管理職への登用、事業所内保育所の整備、男性の育児参加促進など、様々な状況や環境の下でも、社員の能力や意欲をより活かせる企業風土の醸成を推進しております。
・個人と組織の活性化、エンゲージメントの向上推進
当社では、社員のスキルアップが会社の成長へつながるという観点から社員研修に注力しており、次世代リーダーを育成するための新たな取り組みとして、2022年に「JCRアカデミー」を設立いたしました。この取り組みでは、グローバルで活躍できるスキルを身に付けたグローバルリーダーを、実践的なプログラムで育成することを目標としており、今後のグローバル事業展開に合わせた人材の育成を推進しております。
②指標及び目標
当社は現在業容拡大中であり、「人と組織の成長」の取り組みにおける詳細な指標及び目標については現在策定中であります。現在、この取り組みの目安としております人材関連投資金額の実績は、下記のとおりであります。
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(3)社会課題への挑戦(環境保全に向けた取り組み)
①戦略
当社は、事業活動を通じた環境負荷を長期的なビジネスや社会に影響を及ぼしうるリスク要因として捉え、下記の3つの取り組みを中心に、環境に配慮した事業活動の実践に取り組んでおります。その上で、気候変動に関する物理的リスク・移行リスクと機会について、事業・戦略・財務に与える短期・中期・長期的な影響の重要性評価を進めております。その結果を踏まえ、経営に与える影響が高いものを「重要リスク」ならびに「機会」として特定し、サステナブルな社会の実現に積極的に取り組んでまいります。
・エネルギー使用量
当社では業容の拡大に伴い、総エネルギー使用量(電気、ガス等)は増加傾向にあります。研究本部では総エネルギー使用量が増加しておりますが、生産本部ではエネルギー効率の高い設備の導入やエネルギー使用方法の見直しなどにより、総エネルギー使用量が一定レベルで推移するよう努めております。今後、社員一人ひとりが効率的な資源の利用を心がけ、一歩進んだ行動につなげられるよう、さらなる意識の向上に努めてまいります。
・水資源
当社では、研究および生産工程に使用する水量の削減や廃蒸気の回収・再利用等を積極的に推進した結果、業容の拡大にも関わらず、水資源の利用量は減少傾向となっております。特に生産活動に伴う水資源の消費量は一貫して減少しており、今後も効率的な水資源の利用に努めてまいります。
・TCFD提言に沿った情報開示
当社は、2021年に英国で開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)で採択された、産業革命以来の気候上昇を「1.5℃」に抑える「パリ協定」に賛同しており、この実現に向けた取り組みを行っております。今後、各企業が設定した温室効果ガス(GHG)の排出削減目標などのイニシアチブと当社の事業計画を踏まえ、中長期的なGHG排出削減目標の設定など、「パリ協定」の実現に向けた取り組みをさらに進めてまいります。
②指標及び目標
当社は現在業容拡大中であり、「社会課題への挑戦」の取り組みにおける詳細な指標及び目標については現在策定中であります。現在、この取り組みの目安としております国際的な算定基準であるGHGプロトコルに準拠して算定したGHG排出量のScope1、2および3(一部のカテゴリー)の実績値は、下記のとおりであります。
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当社グループの戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項を以下に記載いたします。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)コンプライアンスに関するリスク
医薬品産業等は、医薬品等の有効性及び安全性を担保するために様々な法規制を受けます。さらに、法規制の範囲に限らず、製薬企業が高い倫理観を以て事業活動にあたることが重要です。当社グループでは、社内規範と企業倫理に沿った経営並びに法令遵守のためコンプライアンス委員会を設置し、コンプライアンス行動基準の制定と従業員へのハンドブックの配布、および研修を通じてコンプライアンス周知・啓発を行っております。加えて、薬機法に基づく法令遵守ガイドラインが施行されており、当社はその体制として、法令遵守担当取締役を含む責任役員を選任したほか社内研修等を実施しております。
しかしながら、社会規範あるいは企業倫理に反する行為が認められ、社会的信用が失墜することにより、結果的に当社グループの業績及び財政状態に重要な影響を受ける可能性があります。
(2)特定製品への依存のリスク
当社グループの販売品目のうち、ヒト成長ホルモン製剤の売上高が総売上高に占める割合は、当連結会計年度において35.7%になります。ヒト成長ホルモンは主に小児成長障害に使用される医薬品であることから、日本国内における少子化の影響を受けます。市場統計によれば、ヒト成長ホルモン市場は各社の新たな適応追加や疾患啓発活動の結果、これまでのところ拡大を続けてきましたが、将来的には減少に転じる可能性が高いと認識しております。また、ヒト成長ホルモン市場における競合品として持続性製剤の参入もあり、当社品シェアへの影響も想定されます。したがって、これらの不確定要因が当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
さらに、本製剤は当社グループとPHC株式会社で共同開発した専用注入器グロウジェクター®Lを使用しなければ、自己注射することができません。グロウジェクター®LはPHC株式会社が製造し、同社とはリスク管理も含めた契約を締結しており、繰り返し使用できる機器(耐用年数3年)であることから、同社の生産に支障を生じた場合であっても、業績への影響は低いと認識しております。ただし、長期に渡り支障を生じた場合は、新規患者の獲得や機器の更新が滞り、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、J-Brain Cargo®(血液脳関門通過技術)を用いた新薬「イズカーゴ®点滴静注用10mg」を2021年5月に月に薬価基準収載し、上市後の年間売上高は伸長しております。当製品については、特定地域における独占的な共同開発およびライセンス契約を2021年9月に武田薬品工業株式会社と締結し、海外における上市を計画しております。さらに、イズカーゴ®に引き続き、J-Brain Cargo®技術を基盤とした複数の研究開発を着実に進捗させ、ヒト成長ホルモン製剤への依存状態から脱却することを目指しております。
(3)安定供給・設備投資に関するリスク
当社グループでは、国民皆保険制度の下、全国の患者さんに平等かつ安定的に医薬品を供給する責務があると認識しております。そのため、供給不安のリスク対策として、製造に必要な資材及び原料確保状況を定期的に確認し、それら供給元の事業状況を把握しつつ、可能な限りダブルソース化を図っております。また、GLPやGMP等のガイドラインを遵守するなど、品質保証体制を徹底しております。しかしながら、当社グループの製造施設等や原材料供給元において、技術的もしくは法規制上の問題、大規模災害による影響、国際紛争による政治的混乱等が発生することにより、製品の安定供給に支障が発生する可能性があります。特に、昨今の新型コロナウイルス感染症やロシア・ウクライナ情勢の状況によって、世界的に天然資源、建材、電子部品等の供給不足の影響があるなか、今後、新規施設建設計画や研究・生産機器等の発注納期について、影響を受ける可能性は否定できません。その動向によっては、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。
(4)法規制に関するリスク
当社グループの事業は、関連法規の厳格な規制を受けており、各事業活動の遂行に際して種々の許認可等を受けております。これらの許認可等を受けるための諸条件および関連法令の遵守に努めており、現時点においては当該許認可等が取り消しとなる事由は発生しておりません。しかしながら、法令違反等によりその許認可等が取り消しとなる場合等には、規制の対象となる製商品の回収、または製造ならびに販売を中止することを求められる場合もあり、これらにより当社グループの事業に重大な影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループが取り扱う医療用医薬品の薬価は、医療制度が国民皆保険を前提としていることから、健康保険法の規定に基づき、厚生労働大臣の定める薬価基準収載価格とされております。薬価基準の改定頻度が高まることや、競合品との競争激化など、薬価改定による売上低下のリスクが存在します。当社は、製品固有の価格リスクを継続的に評価し、製品価値に見合った仕切価の設定を行うなど、対応を行っております。
(5)研究開発に係るリスク
当社グループは、希少疾病領域での積極的な研究開発活動に取り組んでいますが、医薬品は所轄官庁の定めた有効性と安全性に関する厳格な審査により承認されてはじめて上市することが可能となります。したがって、研究開発の途上において、当該開発品の有効性もしくは安全性が承認に必要とされる基準を満たさない懸念があることが判明し、研究開発の中止もしくは遅延を要する場合は、研究開発費の回収や期待される収益の確保が困難もしくは遅延するリスクがあります。そのような場合は当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。
また、当社グループの売上高は、主に医薬品・医療機器・再生医療等製品の製造販売の他、開発投資や技術ライセンスに基づく契約金収入により構成されております。また、これら契約金収入は、営業利益等の各利益に大きな影響を及ぼすことがあります。したがって、パイプラインの研究開発に中止・遅延を要する事象が発生した場合、当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(6)グローバル展開に向けた活動のリスク
当社グループでは、J-Brain Cargo®という技術基盤を活用し、希少疾病を適応とした革新的医薬品を提供することで、グローバルスペシャリティーファーマを目指しております。その先駆けとして、2021年度にはイズカーゴ®のグローバル展開活動として武田薬品工業株式会社との共同開発およびライセンス契約の締結を完了し、海外における迅速な上市に向けた臨床試験及び当局交渉を実施中です。本契約においては、両社間で適切なガバナンス体制を構築し、適時的に合意・意思決定を行うこととしております。
しかしながら、各国固有の法規制・特許・医療制度等において事業展開のリスクが異なります。両社間の契約上規定のない事案あるいは想定外の事態が発生することで、事業の進捗や、提携先の企業から得られるロイヤリティの見込み時期もしくは有無に変動が生じるリスクがあり、この規模によっては業績への影響を受ける可能性があります。
(7)競合品に係るリスク
当社グループの製品およびパイプラインには、いずれも競合となりうる他社の開発品目が存在します。これら競合品目の開発が進捗し、発売された場合、当社グループの業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。
(8)人的リソースに係るリスク
近年の売上高の増加と研究開発の進捗に伴い研究開発部門、生産部門を中心に人的リソースを拡充しております。今後も複数のパイプラインのグローバル臨床試験、上市を見込んでいることから、引き続き人的リソースの拡大傾向が継続するものと認識しております。近年では、グローバル経験のある人材の確保に取り組み、さらにグローバルに活躍できる人材の教育計画を立案するなど、将来のJCRを牽引する人材を育む取り組みを進めております。しかしながら、人材の採用が困難になる場合あるいは離職率が上昇する場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(9)副作用の発現リスク
現在のパイプラインには、人体にとっては未知の物質に相当する融合たんぱく質であるものが含まれています。新規医薬品では、未知の副作用の発生は常にリスクとして認識すべきものと考えられます。また一般的に、人体は未知の物質に対して抗原抗体反応により体内より排除する機構を持っていることから、これらの薬物が抗原抗体反応を惹起することにより、好ましくない副作用の発現リスクが存在します。現在までの臨床試験において、特段留意が必要なリスクは顕在化しておりませんが、今後、長期に投与した際に看過できない副作用が発現した場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(10)知的財産権の侵害リスク
当社グループの血液脳関門通過技術については、競争力のある形で知的財産権の確保に努めております。2020年に米国ArmaGen社を買収することで、米国等におけるJ-Brain Cargo®(血液脳関門通過技術)に関する知的財産権を取得したため、現段階において当該技術に関して他社の知的財産権を侵害するリスクは低いものと判断しております。しかしながら、血液脳関門通過技術を有した他社製品が開発されている状況にあり、将来において知的財産権を巡る訴訟が起こる場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(11)訴訟に関するリスク
当社グループは製造物責任(PL)関連、独占禁止法関連、環境関連やその他に関して訴訟を提起される可能性があります。これらの訴訟に対応すべく、損害保険への加入等のリスク対策を講じておりますが、訴訟が発生した場合、当社グループの業績および財政状態に重要な影響を与える可能性があります。
(12)自然災害に係るリスク
当社グループの製品に係る原薬、製剤工場は神戸市西区に集中しております。
地震、風水害には強い立地条件ではあるものの、大規模停電、想定を超える事象が発生した場合は一定期間操業できなくなることで当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(13)筆頭株主との関係
当社グループは、筆頭株主である株式会社メディパルホールディングスとの間で、複数のパイプラインに関する開発投資契約等を締結しており、今後、両社が出資し米国に設立した合弁会社を通じて各種医薬品候補物質の臨床開発を行うほか、2022年には超希少疾病に対するグローバル事業化の独占的交渉権の付与、およびフコシドーシス治療薬の事業化についての実施許諾契約を締結するなど広範囲な業務提携をおこなっております。当社グループは、同社との戦略的提携関係を維持し、両社の更なる企業価値の向上に努める所存でありますが、何らかの理由により同社との戦略的提携に変更があった場合、当社グループの業績および財政状態に重要な影響を与える可能性があります。
(14)金融市況の影響について
株式市況、為替相場および金利の動向によっては、保有する有価証券等の時価の下落、原材料等の輸入価格上昇、退職給付債務および支払利息の増加等、当社グループの業績および財政状態に重要な影響を受ける可能性があります。また、新型コロナウイルス感染症の影響により社会情勢が大きく変化する可能性を加味し、運転資金を確保することを目的として、2020年4月にバックアップラインとして各金融機関との間で、既存の当座借越枠に加え、コミットメントライン契約を締結しております。
上記のほか、環境保全上の問題の発生、製品を取り巻く環境の変化、ライセンスまたは提携の解消、システム障害および情報流出等、様々なリスクがあり、ここに記載されたものが当社グループの全てのリスクではありません。
(1)経営成績等の状況の概要
① 当期の経営成績
売上高は343億43百万円(前期比32.8%減)となりました。
遺伝子組換え天然型ヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」は、販売数量は増加しましたが、2022年4月の薬価改定の影響を受けました。同じく薬価改定があった腎性貧血治療薬は減収幅が大きかったものの、2021年5月に薬価収載された「イズカーゴ®点滴静注用10mg」が大きく寄与したことなどにより、主力製品の売上合計は前期とほぼ同水準となりました。
主力製品以外では、契約金収入の減少およびアストラゼネカ株式会社の新型コロナウイルスに対するワクチン原液の国内製造の受託を予定どおり終了したことなどにより、売上高合計は前年同期に比べて減収となりました。
利益面におきましては、売上高の減収に伴い売上総利益が減少(前期比37.3%減)したことなどにより、営業利益は49億75百万円(前期比75.0%減)、経常利益は54億18百万円(前期比73.6%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は37億72百万円(前期比74.0%減)となりました。
積極的な研究活動および臨床試験の進捗に応じた開発活動の結果、研究開発費は22.7%増加し88億2百万円(前期比16億26百万円増)となりました。
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前連結会計年度 (自 2021年4月1日 至 2022年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
増減 |
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金額(百万円) |
金額(百万円) |
% |
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売上高 |
51,082 |
34,343 |
△32.8 |
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営業利益 |
19,933 |
4,975 |
△75.0 |
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経常利益 |
20,512 |
5,418 |
△73.6 |
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親会社株主に帰属する当期純利益 |
14,507 |
3,772 |
△74.0 |
営業利益の増減は以下のとおりであります。
・主力製品の減収による売上高の減少 △16,738百万円
・売上原価の減少 1,574百万円
・売上高減少に伴う販売費・一般管理費の減少 1,832百万円
・研究開発費の増加 △1,626百万円
② 主要な売上
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前連結会計年度 (自 2021年4月1日 至 2022年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
増減 |
|
金額(百万円) |
金額(百万円) |
% |
|
|
ヒト成長ホルモン製剤 グロウジェクト® |
12,945 |
12,261 |
△5.3 |
|
ムコ多糖症Ⅱ型治療剤 イズカーゴ®点滴静注用 |
3,003 |
4,428 |
47.4 |
|
腎性貧血治療薬 エポエチンアルファBS注「JCR」 ダルベポエチンアルファBS注「JCR」 |
5,875 2,876 2,998 |
4,696 2,710 1,986 |
△20.1 △5.8 △33.7 |
|
再生医療等製品 テムセル®HS注 |
3,497 |
3,404 |
△2.7 |
|
ファブリー病治療薬 アガルシダーゼベータBS点滴静注「JCR」 |
711 |
964 |
35.6 |
|
医療機器 |
102 |
103 |
1.3 |
|
契約金収入 |
10,571 |
6,546 |
△38.1 |
|
AZD1222原液 |
14,375 |
1,931 |
△86.6 |
(注)1 契約金収入は事業化に向けた契約および販売提携に関する契約が締結されたこと等に由来します。
2 医薬品売上高は前連結会計年度26,032百万円、当連結会計年度25,755百万円であります。
③ 研究開発の状況
[ライソゾーム病治療薬]
・当社では現在、17種類を超えるライソゾーム病治療薬について、独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」を適用した新薬の研究開発に重点的に取り組んでおります。
・血液脳関門通過型ハンター症候群治療酵素製剤パビナフスプ アルファ(開発番号:JR-141)については、米国において米国食品医薬品局(FDA)より2022年12月にRare Pediatric Disease(※)の指定を受けております。2022年2月にはグローバル臨床第3相試験において最初の被験者への投薬が開始されており、現在、被験者の登録を進めております。なお、2020年12月にブラジル国家衛生監督庁(ANVISA)に製造販売承認申請を行っておりましたが、2022年8月に非承認となりました。現在実施中のグローバル臨床第3相試験の結果を用いて再度申請を行うことを予定しております。
・血液脳関門通過型ムコ多糖症Ⅰ型治療酵素製剤lepunafusp alfa(開発番号:JR-171)については、現在、日本・ブラジル・米国での臨床第1/2相試験において、2022年3月に計画した全例の登録を完了し、最終解析を実施しております。グローバルでの臨床第3相試験の早期開始に向けて、準備を進めております。
・血液脳関門通過型ムコ多糖症ⅢA型治療酵素製剤(開発番号:JR-441)については、現在、2023年度早期のグローバル臨床試験開始に向けた取り組みを進めております。
・血液脳関門通過型ムコ多糖症ⅢB型治療酵素製剤(開発番号:JR-446)については、現在、2024年度中のグローバル臨床試験開始に向けた取り組みを進めております。
・その他のJ-Brain Cargo®を適用したライソゾーム病治療薬(ポンペ病治療薬(開発番号:JR-162)、スライ症候群治療薬(開発番号:JR-443)、GM2ガングリオシドーシス治療薬(開発番号:JR-479)についても、研究開発を順次行うとともにグローバル展開を推進してまいります。なお、フコシドーシス治療薬(開発番号:JR-471)につきましては、2022年10月に締結した実施許諾契約に基づき、株式会社メディパルホールディングスに対し、日本を除く全世界における研究・開発、製造および販売などの事業化に関する再実施許諾権付の独占的実施権を許諾いたしました。本治療薬を創出した企業としてライセンサーの立場で参画し、本治療薬の早期事業化に貢献いたします。
[基盤技術の創出]
・JCR 独自の血液脳関門通過技術「J-Brain Cargo®」技術の様々なモダリティへの応用可能性を広げる研究の他、J-Brain Cargo®技術に続く新たな基盤技術の創出に注力しております。
・2023年3月にライソゾーム病に対する J-Brain Cargo®技術を適用した遺伝子治療に関する武田薬品工業株式会社との共同研究開発契約に基づく、非臨床PoCを達成しました。
・2023年3月にアレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズと神経変性疾患を対象疾患として、J-Brain Cargo®技術を適用した非公開の治療薬候補物質の共同研究、選択権およびライセンス契約を締結しました。
[再生医療等製品]
・「テムセル®HS注」の新たな適応拡大として新生児低酸素性虚血性脳症(開発番号:JR-031HIE)に対する臨床第1/2相試験を終了し、現在解析中です。
・帝人株式会社との共同開発であった他家(同種)歯髄由来幹細胞(DPC)を用いた急性期脳梗塞を適応症とする再生医療等製品(開発番号:JTR-161/JR-161)については、2022年4月に共同開発を終結することで合意いたしました。
[ヒト成長ホルモン製剤]
・「グロウジェクト®」へのSHOX異常症(開発番号:JR-401X)の効能追加については、2022年7月に製造販売承認申請を行いました。
・遺伝子組換え持続型成長ホルモン製剤(開発番号:JR-142)の臨床第2相試験を実施しており、予定していた統計解析を完了し、臨床第3相試験の開始に向けた準備を進めています。
※1 Rare Pediatric Disease指定
希少小児疾患の予防と治療のための新薬および生物製剤の開発を促進することを目的としているもの。今後の米国における製造販売承認のための優先審査バウチャーを取得できる可能性がある。
④ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ174億54百万円減少して132億78百万円となりました。各キャッシュ・フローの状況および主な要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は、55億0百万円(前連結会計年度比147億89百万円の支出増)となりました。これは主に、棚卸資産の増加額38億77百万円、法人税等の支払額82億79百万円があった一方で、税金等調整前当期純利益の計上額54億12百万円があったことなどによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は、150億2百万円(前連結会計年度比117億52百万円の支出増)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出76億54百万円、関係会社株式の取得による支出67億17百万円があったことなどによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果得られた資金は、19億48百万円(前連結会計年度比41億27百万円の収入増)となりました。これは主に、長期借入金の増加額47億50百万円があった一方で、配当金の支払額27億39百万円があったことなどによるものであります。
⑤ 生産、受注及び販売の実績
(1)生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
|
|
生産高(百万円) |
前年同期比(%) |
|
|
医薬品事業 |
25,881 |
57.6 |
|
合計 |
25,881 |
57.6 |
(注) 金額は販売価格により表示しております。
(2)受注実績
当社グループは見込生産によっており、受注生産は行っておりません。
(3)販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
|
|
販売高(百万円) |
前年同期比(%) |
|
|
医薬品事業 |
34,343 |
67.2 |
|
合計 |
34,343 |
67.2 |
(注) 主な相手先別の販売実績およびそれぞれの総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
|
相手先 |
前連結会計年度 (自 2021年4月1日 至 2022年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
||
|
販売高(百万円) |
割合(%) |
販売高(百万円) |
割合(%) |
|
|
株式会社メディセオ |
7,922 |
15.5 |
11,020 |
32.1 |
|
キッセイ薬品工業株式会社 |
5,969 |
11.7 |
4,792 |
14.0 |
⑥ 経営成績への影響
新型コロナウイルス感染症の影響につきましては、当連結会計年度につきましては影響を受けておりません。
また、本報告書作成時点においては、パイプラインの臨床試験の遅延等は発生しておらず、製品や原材料、製造用資材についても当面の生産に必要な在庫は確保しており、大きな影響はないと判断しております。
なお、当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成に当たりましては、棚卸資産、有価証券、特許権、貸倒引当金、退職給付に係る負債および繰延税金資産などについて、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項」および「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項」に記載のとおり、資産・負債および収益・費用の数値に影響を与える見積りおよび判断を行っております。従いまして、実際の結果は、見積りの不確実性により異なる場合があります。
新型コロナウイルス感染症の影響につきましては、収束まではある程度の期間を要すると想定しておりますが、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載のとおり、当社グループの業績への影響は軽微であると判断しております。従いまして、当連結会計年度における会計上の見積りへの影響はありません。また、本報告書提出日現在において、翌連結会計年度におきましても同様であると判断しております。
② 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
・財政状態
当連結会計年度末における資産合計は949億37百万円(前連結会計年度末比21億96百万円減)、負債合計は425億23百万円(前連結会計年度末比35億21百万円減)、純資産合計は524億13百万円(前連結会計年度末比13億24百万円増)となりました。
流動資産は、現金及び預金および売掛金及び契約資産が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ143億85百万円減少して478億2百万円となりました。固定資産につきましては、有形固定資産が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ121億88百万円増加して471億35百万円となりました。
流動負債は、未払法人税等が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ62億92百万円減少して357億62百万円となりました。固定負債は、長期借入金が増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ27億70百万円増加して67億61百万円となりました。
純資産につきましては、配当金の支払があった一方で親会社株主に帰属する当期純利益の計上などにより、前連結会計年度末に比べ13億24百万円増加して524億13百万円となりました。
これらの結果、当連結会計年度末における自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ2.4ポイント上昇して54.2%となりました。
現時点では当社グループにおいて、新型コロナウイルス感染症の影響は受けておりませんが、今後の世界情勢の見通しが立たない中、当社グループがグローバルで持続的な成長を行うために、機動的かつ安定的に資金調達手段を確保する必要があり、各金融機関との間で、バックアップラインとして運転資金を確保する事を目的として、総額155億円のコミットメントライン契約を締結しております。
・経営成績
売上高は前連結会計年度に比べ167億38百万円(32.8%)減少して343億43百万円となりました。
主力製品であるヒト成長ホルモン製剤「グロウジェクト®」につきましては、販売数量は増加しましたが、2022年4月の薬価改定の影響を受け、前期比6億83百万円(5.3%)の減収となりました。2024年3月期につきましては、薬価改定の影響や少子化による市場の縮小傾向を踏まえ、減収を見込んでおります。
「イズカーゴ®点滴静注用10mg」につきましては、販売開始以降順調に市場への浸透が進んでおり、前期比14億24百万円(47.4%)の増収となりました。2024年3月期につきましても、引き続き増収を見込んでおります。
腎性貧血治療薬につきましては、短期型腎性貧血治療薬「エポエチンアルファBS注JCR」・持続型腎性貧血治療薬「ダルベポエチンアルファBS注JCR」の売上高は、2022年4月の薬価改定の影響を受けていずれも減少し、腎性貧血治療薬合計で46億96百万円(前期比11億78百万円・20.1%減)となりましたが、2024年3月期につきましては増収を見込んでおります。
再生医療等製品「テムセル®HS注」につきましては、前期比92百万円(2.7%)の減収となりました。2024年3月期につきましても、減収を見込んでおります。
国産初のライソゾーム病治療薬であるファブリー病治療薬「アガルシダーゼベータBS点滴静注JCR」につきましては、販売体制を強化したことにより前期比2億53百万円(35.6%)の増収となりました。2024年3月期につきましても、引き続き増収を見込んでおります。
契約金収入につきましては、契約交渉の期ずれなどにより前期比40億25百万円(38.1%)の減収となりました。2024年3月期につきましては、新たな契約締結を計画しており増収となる見込みです。
一方で、研究開発費につきましては88億2百万円と前期比16億26百万円(22.7%)の増加となりました。研究開発費は対売上高比率20%を目安に投資を行っておりますが、2024年3月期につきましては、引き続き将来の成長に向けて積極的にグローバルで開発を行う計画であり、97億円(当期比10.2%増・対売上高比26.3%)の研究開発費を見込んでおります。
③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
a.当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析
「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ④キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
b.当社グループの資本の財源および資金の流動性
・資金需要の主な内容
当社グループにおきましては、原材料等の仕入れ、研究開発費、人件費および販売費などの運転資金、ならびに生産および研究開発を目的とする設備投資に主たる資金需要が生じます。
なお、研究開発費につきましては、対売上高比率20%を目安に投資を行っております。
また、株主還元についても、経営上の重要な施策の一つとして位置づけております。剰余金の配当等につきましては、将来の利益の源泉となる新薬開発や経営体質強化のための内部留保を確保しつつ、業績およびキャッシュ・フローの状況を勘案しながら継続的かつ安定的な配当を行うことを基本方針としており、ご期待に応える株主還元と財務の健全性のバランスを重視し、配当性向につきましては30%を目安としております。
・資金調達
これらの資金需要に対しましては、営業活動によるキャッシュ・フローからの充当を基本とし、不足する場合は金融機関からの借入金による調達を実施しております。
当連結会計年度末時点の現金及び現金同等物残高は132億78百万円となっており、事業遂行に必要な資金を十分確保しております。
なお、現時点では当社グループにおいて、新型コロナウイルス感染症の影響は受けておりませんが、今後の世界情勢の見通しが立たない中、当社グループがグローバルで持続的な成長を行うために、機動的かつ安定的に資金調達手段を確保する必要があり、各金融機関との間でバックアップラインとして運転資金を確保する事を目的として、当連結会計年度に総額155億円のコミットメントライン契約を締結しております。
(1)技術等導入契約
|
契約会社名 |
相手先の名称 |
契約内容 |
対価の支払 |
契約期限 |
|
当社 |
Mesoblast社 |
移植片対宿主病、表皮水庖症、新生児低酸素性虚血性脳症適応症における骨髄由来ヒト間葉系幹細胞(MSC)の国内独占開発、製造および販売 |
マイルストーンおよびロイヤルティ |
製品発売から15年または適応拡大承認から10年間のいずれか遅い日まで |
(2)技術等導出契約
|
契約会社名 |
相手先の名称 |
契約内容 |
対価の受取 |
契約期限 |
|
当社 |
住友ファーマ㈱ |
中枢神経系疾患治療薬創製に関する血液脳関門通過技術のライセンス契約 |
契約金・マイルストーンおよびロイヤルティ |
特許期間満了またはロイヤルティの支払終了のいずれか遅い日まで |
|
当社 |
武田薬品工業㈱ |
次世代組換え融合タンパク質JR-141(INN: pabinafusp alfa)の特定地域における独占的な共同開発およびライセンス契約 |
契約金・マイルストーンおよびロイヤルティ |
ロイヤルティの支払終了まで |
|
「J-Brain Cargo®」を適用した遺伝子治療に関する共同研究開発および独占的なライセンス契約 |
契約金・マイルストーンおよびロイヤルティ |
ロイヤルティの支払終了まで |
以下について、当連結会計年度において独占交渉権付与契約および実施許諾契約、ならびに共同研究及びライセンス契約を締結いたしました。
|
契約会社名 |
相手先の名称 |
契約内容 |
対価の支払 |
契約期限 |
|
当社 |
㈱メディパルホールディングス |
超希少疾病4疾患に対するグローバル事業化の独占的交渉権付与およびフコシドーシスに対する治療薬の事業化についての実施許諾契約 |
契約金およびロイヤルティ |
ロイヤルティの支払終了まで |
|
当社 |
アレクシオン・アストラゼネカ・レアディジーズ |
「J-Brain Cargo®」を適用した非公開の治療薬候補物質の共同研究、選択権およびライセンス契約 |
契約金・マイルストーンおよびロイヤルティ |
特許期間満了またはロイヤルティの支払終了のいずれか遅い日まで |
(3)取引契約等
|
契約会社名 |
相手先の名称 |
契約内容 |
対価の支払 |
契約期限 |
|
当社 |
Ferring社 |
遺伝子組換えヒト成長ホルモン原体の独占輸入権および同製剤の国内独占販売権 |
- |
2023年10月まで(以降5年毎の更新) |
|
当社 |
キッセイ薬品工業㈱ |
腎性貧血治療薬「エポエチンアルファBS注JCR」および持続型赤血球造血刺激因子製剤ダルベポエチンアルファ(一般名)のバイオ後続品の国内独占販売権 |
- |
2024年3月まで(以降1年毎自動更新) |
|
当社 |
㈱メディパルホールディングス |
㈱メディパルホールディングスによる研究開発費の一部負担および当社によるロイヤルティの支払 |
ロイヤルティ |
ロイヤルティの支払終了まで |
|
米国合弁会社を通じた各種医薬品候補物質の臨床開発の実施 |
- |
特定期間を定めず |
||
|
当社 |
住友ファーマ㈱ |
ファブリー病治療薬「アガルシダーゼベータBS点滴静注JCR」の国内独占販売権 |
- |
2032年3月まで(以降1年毎自動更新) |
当社グループにおきましては、医薬品事業において、長年にわたり培ってきたバイオ技術および細胞培養技術を基礎として、小児領域を中心とした難病や希少疾病の分野における革新的な医薬品、再生医療等製品の研究開発に取り組んでおります。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
なお、2023年6月1日現在の医薬品の研究開発状況は下記のとおりであります。
遺伝子組換医薬
|
開発番号 (一般名) |
開発段階 |
適応症等 |
備考 |
|
JR-141 (血液脳関門通過型遺伝子組換え イズロン酸-2-スルファターゼ) |
グローバル: 臨床 第3相試験 |
ムコ多糖症Ⅱ型 (ハンター症候群) |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 |
|
JR-171 (血液脳関門通過型遺伝子組換え α-L-イズロニターゼ) |
グローバル: 臨床 第1/2 相試験 |
ムコ多糖症Ⅰ型 (ハーラー症候群等) |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 「J-MIG System®」採用 |
|
JR-162 (J-Brain Cargo®適用遺伝子組換え 酸性α-グルコシダーゼ) |
前臨床 |
ポンぺ病 |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 |
|
JR-441 (血液脳関門通過型遺伝子組換え へパランN-スルファターゼ) |
前臨床 |
ムコ多糖症ⅢA型 (サンフィリッポ症候群A型) |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 |
|
JR-443 (血液脳関門通過型遺伝子組換え β-グルクロニダーゼ) |
前臨床 |
ムコ多糖症Ⅶ型 (スライ症候群) |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 |
|
JR-446 (血液脳関門通過型遺伝子組換え α-N-アセチルグルコサミニダーゼ) |
前臨床 |
ムコ多糖症ⅢB型 (サンフィリッポ症候群B型) |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 |
|
JR-479 (血液脳関門通過型遺伝子組換え β‐ヘキソサミニダーゼA) |
前臨床 |
GM2ガングリオシドーシス (テイ・サックス病、サンドホフ病) |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 |
|
JR-471 (血液脳関門通過型遺伝子組換え α‐L‐フコシダーゼ) |
前臨床 |
フコシドーシズ |
酵素補充療法 「J-Brain Cargo®」採用 |
|
JR-401X (遺伝子組換えソマトロピン) |
承認申請 |
SHOX異常症における低身長症 |
「グロウジェクト®」効能追加 |
|
JR-142 (遺伝子組換え持続型成長ホルモン) |
臨床 第2相試験 |
小児成長ホルモン分泌不全性低身長症 |
「J-MIG System®」採用 |
再生医療等製品
|
開発番号 (一般名) |
開発段階 |
適応症等 |
備考 |
|
JR-031HIE (ヒト体性幹細胞加工製品) |
臨床 第1/2 相試験 |
新生児低酸素性虚血性脳症 |
「テムセル®HS注」適応拡大 |