文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。
当社は、2021年12月1日に公表いたしました2021年度から2025年度までの経営方針「Forging the future 未来を拓く」(以下「経営方針」といいます。詳細は当社ウェブサイト掲載の資料をご覧ください:https://www.mcgc.com/ir/01165.html)に基づき、企業価値最大化のための各種施策に取り組んでおりますが、2023年2月、経営方針に基づく今後の実行計画を策定するとともに、2025年度における財務目標のアップデートを以下のとおり公表しました。
①背景
当社は、経営方針における効率性を追求した事業運営と事業の成長力を引き出す明確な戦略のもと、以下項目を重要施策として、全てのステークホルダーにとっての価値の最大化をめざして各種施策に取り組んでおります。
・市場の成長性、競争力、サステナビリティにフォーカスしたポートフォリオ
・グループ全体におけるコスト構造改革
・分離・再編し、独立化を進める事業
・スリム化、デジタル化、エンパワーメント
・戦略的なキャピタル・アロケーション
このたび、経営方針に基づく成長や利益率拡大に向けた実行計画を策定するとともに、グループ全体におけるコスト構造改革の進捗等を踏まえ、最終年度である2025年度に向けた財務目標のアップデートを行うことといたしました。
②財務目標


③今後の実行計画
今後の実行計画の詳細につきましては、当社ウェブサイト掲載の資料をご参照ください。
https://www.mcgc.com/ir/pdf/01505/01743.pdf
(2) 経営環境
当社グループを取り巻く経営環境については、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (2) 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 ②経営環境と今後の見通し」に記載のとおりです。
(3) 対処すべき課題
当社グループは、経営方針の下、収益性の向上及び事業の成長に取り組んでまいりました。2023年2月には、上記のとおり、経営方針に基づく成長や利益率拡大に向けた実行計画を策定するとともに、グループ全体におけるコスト構造改革の進捗等を踏まえ、2025年度における財務目標をアップデートしました。経営方針における5つの重要施策の進捗状況・課題は以下のとおりです。
○ 市場の成長性、競争力、サステナビリティにフォーカスしたポートフォリオ
市場の成長性、競争力(グループの強み)、サステナビリティ(カーボンニュートラル)という3つの評価基準に基づき注力事業を選別し、当社グループが競争優位性を有する成長市場にフォーカスしたポートフォリオ運営を進めています。機能商品については、マーケット志向型の組織へ転換し、すべての製品ラインアップをグローバルに展開していきます。ヘルスケアにおいて構造改革を推進するとともに、グローバルに事業基盤を有する産業ガス、MMAではさらなる競争力の強化を図ります。これらの施策により、2025年度には、2021年度比でEBITDAを700億円増加させます。
○ グループ全体におけるコスト構造改革
英国のキャッセル工場におけるMMA関連製品の生産終了、メディカゴ社の事業撤退等の事業の再構築、調達の最適化、拠点の統合等を進めており、2025年度には、2021年度比で年間1,350億円のコスト削減を達成します。そのうち、今年度(2023年度)までに合計800億円のコスト削減を実現させます。
○ 分離・再編し、独立化を進める事業
石油化学事業の再編、炭素事業の売却に向け、協議・折衝を進めています。
○ スリム化、デジタル化、エンパワーメント
「One Company, One Team」の考えによるフラットな組織体制への移行を進め、組織の簡素化を図っています。また、複雑で一元化されていない業務プロセスの整備・統一を進めつつ、従業員がより能力を発揮できる組織への変革に取り組んでいます。
○ 戦略的なキャピタル・アロケーション
負債を削減し、ネットD/Eレシオの改善を進めつつ、株主還元の拡充に努め、2025年度までの期間において、配当性向35%を目標とします。戦略的資本枠約2,500億円については、企業価値向上に向け、M&Aだけでなく自社株購入も選択肢とし検討します。
当社グループを取りまく事業環境は、ウィズコロナの下で社会活動が正常化に向かい景気の持ち直しが期待される一方で、地政学的リスクや欧米を中心とした金融資本市場の変動等による景気減速のリスクが懸念されます。このような中、当社グループは、経営方針を完遂し、収益性の向上及び事業の成長を実現させ、スペシャリティマテリアルグループへの転換を進めます。加えて、企業の持続的成長の基盤となる、安全管理・コンプライアンスの徹底、内部統制システム及びリスク管理体制の構築を通じたグループガバナンスの強化に努めてまいります。
また、本年1月、当社は、新しいグループ理念(Purpose, Slogan, Our Way)を策定しました。
Purpose「私たちは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていきます」は、当社グループが何をめざし、なぜ存在するのかを示したものです。当社グループは、新たなグループ理念の下、KAITEKIの実現をめざし、よりよいイノベーションによって(Science)、すべてのステークホルダーへ価値を提供し(Value)、人々の健康な暮らしや社会と地球の持続可能性に貢献して(Life)まいります。
各種指標の算定式
文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。
当社グループは、「私たちは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていきます。」というPurposeのもと、サステナビリティを経営の中核の1つに据えた企業活動を行っています。
カーボンニュートラルの実現や、働く環境の整備と人材の育成・開発などの人的資本の拡充を含めた事業基盤の強化を通じて、サステナビリティの向上に取り組み、持続的成長をめざしてまいります。
(1)サステナビリティ全般
当社グループは、機能商品、ケミカルズ、産業ガス、ヘルスケアのセグメントで多岐にわたる事業活動を展開していることから、当社グループを取り巻く環境・社会課題は多様であり、また、その解決に貢献するソリューションを提供することが、当社グループの持続的成長につながる事業機会でもあります。そのため、様々な環境・社会課題を踏まえ、当社グループが取り組む重要課題(マテリアリティ)を特定しています。
特定したマテリアリティの詳細については、「②戦略」をご参照ください。
マテリアリティには、目標及び、その進捗を測る指標を設定し、当社執行役社長をはじめとした経営陣のリーダーシップのもと、定期的に進捗をモニタリングすることを通じ、関連施策を着実に推進してまいります。
指標等の詳細については、「④指標と目標」をご参照ください。
当社は、サステナビリティの諸活動のモニタリング、統括に加え、当社グループのサステナビリティに関する方針や関連事項の審議を行う機関として、当社執行役社長を委員長とし、当社の執行役等から構成するサステナビリティ委員会を設置しております。

また、経営の透明性の向上という基本方針のもと、サステナビリティに関する情報や指標、データを、統合報告書「KAITEKIレポート」等で積極的に開示することを通じ、ステークホルダーへの説明責任を果たしてまいります。KAITEKIレポート等に記載する環境パフォーマンス指標及び社会パフォーマンス指標に対して、独立した第三者保証を取得し、信頼性の高い情報の開示に努めております。
当社は、これらの諸活動の客観的な状況を把握するため、当社が重要と考えるESG評価をベンチマークとしています。その結果、ESG投資の世界的な指数であるDow Jones Sustainability Indicesの構成銘柄に6年連続で選定されるなど、相対的に競争力のある評価を得ております。今後も、評価結果から得られた視点や課題を検討し、関連する諸活動の一層の強化につなげてまいります。
当社は、執行役の報酬を構成する業績連動報酬を、年度ごとの目標値の達成状況の結果に応じて決定し、支払っています。評価は、経済効率性やイノベーションに加え、サステナビリティの向上に係る指標を用いるKAITEKI価値評価及び個人評価にて決定しています。2022年度の業績連動報酬の評価指標のうちサステナビリティに関するものは、温室効果ガスの排出量削減や従業員エンゲージメント向上等、KAITEKI価値評価のなかで執行役が特に注力すべきものを選定しました。詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (4)役員の報酬等」をご参照ください。
当社グループは、グループ理念のもと、成長を実現し、企業価値を向上させることにより、顧客や株主の皆様をはじめとするすべてのステークホルダーへ貢献していくことをめざしております。
このめざす姿の実現に向けた指針として、当社グループを取り巻く経営環境を踏まえ、ステークホルダーの視点を取り入れながら、取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を特定しています。
マテリアリティは、当社グループが重要と考える視点に基づき分類、整理した以下の5つのカテゴリーから構成されています。

当社グループは、低炭素社会、さらには、その先のカーボンニュートラルが実現した社会における成長性と収益性の最大化を図るべく、市場の成長、競争力、サステナビリティにフォーカスしたポートフォリオの運営を推進しています。その考え方に基づき、経営方針「Forging the future 未来を拓く」では、EV/モビリティ、デジタル、食品、メディカルといった領域を注力市場と位置付けています。いずれの注力市場とも世界的な主要トレンドに沿っていることに加え、エネルギー効率化や電気自動車などによるGHG低減や、水資源の保全と食品ロス削減による持続可能な食糧・水供給といったサステナビリティの観点でも捉えることができます。

ロ 事業基盤として重要な課題
当社グループは、経営方針「Forging the future 未来を拓く」で示す成長を実現するには、従業員のエンパワーメントや健康・安全が不可欠という強い思いから、「人材の育成・開発」や、「ダイバーシティとインクルージョン」といったマテリアリティのもと、企業文化の変革を進めております。
詳細については、「(2)人的資本」をご参照ください。
当社グループは、企業活動を通じてステークホルダーに様々な価値を提供する一方、事業特性上、環境や社会に対するインパクトが大きい事業を展開しています。そのため、地球環境への負荷削減という観点からは、環境インパクトの削減やサーキュラーエコノミーといったマテリアリティに対して、ライフサイクル全体を通じて、資源を有効利用する取り組みを推進し、最適化された循環型社会の実現をめざしております。また、持続的な成長を達成しつつ、2050年度までにカーボンニュートラルを実現するため、製造プロセスの合理化や、自家発電用設備の燃料転換といった施策を着実に講じてまいります。
当社グループは、「3 事業等のリスク」に記載のとおり、グループ全体に影響のある重大なリスクとして、事故・災害、法規制・コンプライアンスを認識し、事業活動の最優先事項として、そのリスク低減のための対策をとっております。これに加え、情報セキュリティや人権といった重大リスクに対し、加速度的に変化する事業環境や社会ニーズを踏まえ、適切な対応を図ってまいります。
当社グループは、2022年4月より「One Company, One Team」の考え方のもと、グループ全体を一体的に運営する体制に移行し、それに伴い、当社グループの事業活動に関わるリスクを統合的に管理するリスク管理のスキームとして、ERM(Enterprise Risk Management)を導入しました。今後は、マテリアリティの視点で抽出された重要課題に関連する、当社グループの事業活動に関わるリスクを統合的に管理し、全社的な観点から損失の最小化と適切なリスクテイクを促してまいります。そのため、サステナビリティに関連するリスクも、ERMの本格的な運用の中で、一体的な管理を志向してまいります。
加えて、当社グループでは、2030年にかけて直面する社会課題に関連するリスクの定量評価を実施し、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)の提言に沿った形で、開示しております。
詳細については、当社ホームページのTCFD提言に基づく報告をご参照ください。
https://www.mcgc.com/ir/library/tcfd.html
当社グループは、特定したマテリアリティに対する目標と、その進捗を測る指標として、「MOS(Management of Sustainability)指標」を設定し、運用しています。各指標について毎年の進捗をモニタリングすることで、マテリアリティへの取り組みを着実に推進してまいります。
2022年度実績は、2023年9月以降に当社ホームページ上で公表する統合報告書「KAITEKIレポート」をご参照ください。
https://www.mcgc.com/ir/library/kaiteki_report.html
(注) 2021年度実績は、前連結会計年度(自 2021年4月1日 至 2022年3月31日)の数値です。
上表の指標に加え、従業員エンゲージメント、経営層のダイバーシティ、ウェルネス意識の3つの指標については、「(2)人的資本」をご参照ください。
当社グループにとって、人材は価値創造の源泉であり、企業としての成長やPurpose実現の原動力そのものです。
従業員一人ひとりの可能性は無限大であり、そのポテンシャルを最大限発揮し、意欲のある人材がより活躍できる会社になるべく、以下の方針のもと、人事施策に取り組んでまいります。
・「スペシャリティケミカルカンパニー」をめざすうえで、従来の製品重視型組織からマーケット志向型組織への転換を実現するため、自律的に課題を発見し、解決に導ける人材を育成する。
・Purpose実現に向けてイノベーションを継続的に生み出すため、意欲のある人材がより活躍できる環境を創ることに加え、Diversity of Thought(多様な思考)を活かし、果敢な挑戦と多様な共創を実現する組織風土を醸成する。
・「One Company, One Team」のフラットでスリムな組織において、グループ全体の人的資本を最大化するためのグループ共通の組織基盤を構築する。
このような方針の実現を通じて、従業員がそのポテンシャルを最大限発揮し、エンゲージメントとウェルネス意識が向上することで、高い創造性や生産性が発揮されている状態をめざします。
以下に人的資本に関する「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」を示します。
当社グループでは、人材戦略や人事組織の有効性を確保するために、以下の施策を行っております。
当社グループのサステナビリティ指標であるMOS指標において、「従業員エンゲージメント」、「経営層のダイバーシティ」、「ウェルネス意識」を人材戦略・人事施策に関する指標として設定し、当社執行役社長をはじめとする経営陣のリーダーシップのもとで定期的に進捗をモニタリングしています。また、重要な人事施策の執行状況を執行役会議でモニタリングするほか、定期的に実施するエンゲージメントサーベイの執行役会議及び取締役会への報告により、人事戦略・人事施策の有効性を経営が確認しています。
人事ファンクションの組織運営は、HQ(Head Quarter、グローバル本社機能)が策定する全体戦略・方針に基づき、各リージョン・グループ各社が自律的に人事施策を実行する形態を採っています。これにより、「One Company, One Team」の下での施策の整合性や組織としての一体感を維持したうえで、よりスピーディな組織運営を実現しています。
各施策の整合性を維持するために、人事業務におけるガバナンスポリシーを設けているほか、世界各地域の人事責任者(リージョンCHRO)との定期的な会議により戦略・方針の共有や人事施策のブラッシュアップを図るほか、リージョン内での対話を促進することで、戦略・方針の浸透に繋げています。

グローバルや各リージョンの単位で人事施策・オペレーションの統合・共通化を進めることで、その有効性や効率性の向上を図っています。例えば、人事基盤システムの統合によるグローバルでの要員管理・タレントマネジメントの強化や、人事評価制度・プロセスの統合・共通化による評価尺度の統一と、それによる評価への納得感や従業員エンゲージメントの向上、給与計算を始めとする共通機能の集約による効率化などが挙げられます。新たな施策の導入・推進は人事ファンクション内でプロジェクト的に管理するほか、その重要度に応じて執行役会議で審議するなどして、その妥当性を確保しています。
上記のとおり、Purpose実現のためには従業員がそのポテンシャルを最大限発揮する必要があり、そのために「次世代リーダー層の育成」、「企業文化の変革と価値創造マインドの醸成促進」、「人材戦略としてのDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)の推進」、「働きやすい環境の整備」、「全体最適実現のためのグローバル一体運営体制の構築」、「グローバルでの人事ガバナンスの強化」の6つの施策を重点的に進めています。
従来の製品重視型組織からマーケット志向型組織への転換を実現するためには、「自律的に課題を発見し、解決に導ける人材」の育成が必須です。そのために、変化を先読みして、正解がない中でも自ら一歩前に踏み出しアジャイルに意思決定を行える変革リーダーの育成、及びグループ・グローバルレベルでの経営リーダー候補の育成加速に取り組んでいます。
[具体的な施策]
・経営リーダーに求められる人材要件を定めるとともに、候補人材を継続的に育成するための仕組みとして、グローバルでの人材育成プログラムを推進しています。
・個々のポジションについてその人材要件を定め、重要ポジションについては後継者計画を継続的に運用することで、人材パイプラインを強化しています。
意欲を持った人材がより活躍し、それぞれの強みを活かしてチャレンジできる環境を創るため、従業員一人ひとりが自律的にキャリアを開発するための支援の提供と環境の整備に取り組んでいます。また、挑戦の機会を前向きに捉え、行動変容に繋がるマインド創りにも取り組んでいます。
[具体的な施策]
・従業員の主体的なキャリア形成を支援するため、キャリア開発に関するイベントやセミナーを開催するほか、個々人のキャリア志向に応じて選択可能なプログラムを増やしています。また、高頻度の1on1ミーティングなど、上司/部下間のコミュニケーションを強化することで、キャリア意識の醸成や能力開発を図り、従業員のキャリア形成を支援しています。
・社内公募など、自身のキャリアを選択できる制度を積極的に活用し、挑戦の機会を提供しています。
・タウンホールミーティングや経営陣からのメッセージ発信を継続的に行い、経営層と従業員との間のコミュニケーションを強化することで、変革に向けたマインドの醸成を促進しています。
果敢な挑戦と多様な共創を実現できる組織風土を醸成するべく、様々な考えや特性を持った人材が属性に関わらずチャレンジできる環境の創出・整備に取り組んでいます。また、多様な人材を包摂する文化を醸成するための理念(Purpose, Slogan, Our Way)の浸透と、多様な人材が触発しあい、Diversity of Thought(多様な思考)によりイノベーションが生み出される場の創出と、多様性を活かすための能力開発にも取り組んでいます。
[具体的な施策]
・経営人材の多様化を進め、社内外の幅広い経験を有する人材による活発な議論を通じた経営判断を行っています。当社グループのサステナビリティ指標であるMOS指標にも「経営層のダイバーシティ」を組み入れており(「④ 指標と目標」をご参照ください。)、KPIとして管理することで、その推進を全社で共有しています。
・女性や海外人材、マイノリティ人材の登用・活躍促進のためのプロジェクトや育成プログラム、DE&Iの理解醸成のためのワークショップ・セミナーなどを継続的に行い、多様な人材の知を組織の強さに繋げていきます。
・年功序列の廃止(年齢に連動しない、職務や業績による処遇、社内公募や職位・ポジション任用など)や定年年齢の引き上げなど、属性を超えて多様な考えや特性を持つ人材がそれぞれの強みを活かしてチャレンジできる環境の創出・整備に取り組んでいます。
従業員がその能力を最大限発揮していくための土台として、安心して働ける環境の整備に取り組んでいます。
[具体的な施策]
・リモートワークを促進するほか、デジタルツールの活用や業務プロセスの改善、オフィスレイアウトの見直しを進めることで、自律的でワーク・ライフ・バランスにも配慮した新たな働き方を実現していきます。
・ライフステージに応じた両立支援制度やライフプラン・介護支援のためのセミナーの開催、従業員の健康増進のための取組みを通じ、従業員の能力発揮を支援しています。
・従業員のウェルネス意識を定期的に実施するエンゲージメントサーベイで把握し、施策のブラッシュアップに繋げています。
「One Company, One Team」の考え方に基づくスリムでフラットな組織体制により、効率的かつ全体最適視点でのマネジメントを可能にするための体制構築に取り組んでいます。
[具体的な施策]
・グローバルでのコーポレート機能のレポートライン一本化や、グループ会社のガバナンス体制統一を進めることで、効率的な組織運営に繋げています。
・経営戦略の実現に向けた最適な要員配置(再配置)を進めています。グローバルで人材情報の可視化を進めるほか、デジタルリテラシーの向上など、最適な要員配置をスピーディに実現させるための継続的なリスキリングにも取り組んでいます。
グループ全体の人的資本を最大化するため、グループ共通の組織基盤を整備しています。人事業務におけるテクノロジーの活用や、グローバルでの人事施策・人事管理の共通化を進めることで、人事ガバナンスを強化するとともに人材マネジメントの高度化に取り組んでいます。
[具体的な施策]
・グローバルで共通の人事基盤システムを用いて人材情報を統合管理し、可視化することで、タレントマネジメントの高度化や経営人材候補の計画的な育成に繋げます。
・グローバルや各リージョンの単位で人事制度・人事施策を統一・共通化することで、人事施策運営の効率化を図っています。
・経営戦略の達成に必要となる人材ポートフォリオを継続的に実現するべく、要員動態を可視化し、モニタリングしています。
・ロボティクスやITツールを活用し、人事業務の高度化・効率化を進めています。
上述の人事戦略における重要なリスク、及びそれに対する主な対応策は以下のとおりです。
当社グループのサステナビリティ指標であるMOS指標において、「従業員エンゲージメント」、「経営層のダイバーシティ」、「ウェルネス意識」を人材戦略・人事施策に関する指標として設定しています。
「従業員エンゲージメント」、「ウェルネス意識」は、定期的に実施するエンゲージメントサーベイにおける関連設問に対する好意的回答者の割合を示しており、その平均値に基づいて目標設定するほか、個別設問の結果・回答傾向を人事施策に反映させています。
また、上記3指標のほか、DE&Iや働きやすい環境の整備に関する各種項目を指標として管理・把握することで、人材戦略の進捗状況をモニタリングしています。
<参考>
非財務データ集(https://www.mcgc.com/sustainability/data21.pdf)
管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率および労働者の男女の賃金の差異については、「第1 企業の概況 5 従業員の状況」をご参照ください。
当社グループの経営成績及び財務状況等に影響を与える可能性がある主要なリスクを以下に記載しております。
当社グループでは、2022年4月より「One Company, One Team」の考え方のもと、グループ全体を一体的に運営する体制に移行し、それに伴い、当社グループの事業活動に関わるリスクを統合的に管理するリスク管理のスキームとして、ERM(Enterprise Risk Management)を導入しております。2022年10月にERM基本規程を制定すると共に、ERM委員会を設置して、社内体制を整備しました。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであり、また、事業等のリスクは、これらに限定されるものではありません。
(1) グループ全体に影響のある重大なリスク
当社グループは、製品の輸出及び海外における現地生産等、幅広く海外に事業展開しております。当社グループの事業に関連する国・地域における紛争、テロリズム、内乱、暴動、デモ、治安悪化等の地政学的問題、法規制、税務、労働環境や慣習等に起因する予測不可能な事態の発生等のカントリーリスク、大規模な自然災害、パンデミック、人材の採用・確保の困難、ユーティリティ供給不足等インフラの未整備、貿易摩擦などの経済や金融環境の変動等、国・地域固有のリスクなどが業績に影響を与える可能性があります。
近年は、環境などの社会的価値や健康、安全・安心への意識の高まり、バーチャルでのサービス享受の機会拡大等、個人の生活スタイルも大きく変容し始めており、企業においてもこのような環境変化への対応の誤りが新たなリスク要因になりうるなど、企業が直面するリスクも多様化、複雑化しております。
新型コロナウイルス感染症による影響については、日本を含む各国におけるワクチン投与の進展及び治療薬の普及等により収束に向かいつつあります。それに合わせて、国内外の人の往来も増え、経済活動も回復の兆しが見られていますが、変異株の発現や感染の再拡大などの不確定要素も依然孕んでおり、国内外の感染症の動向を引き続き注視しながら対応をする必要があります。
また、2022年2月から始まったロシア・ウクライナ情勢については長期化の様相を呈しており、その影響が更に他の地域・事業に波及するだけでなく、原燃料の価格上昇及び輸送コストの上昇などによって経済活動にも影響を及ぼしている状況です。また、経済安全保障をめぐる国際情勢の変化によるサプライチェーンの途絶などの可能性も孕んでおり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性のある重要度の高いリスクと考えています。本件に関する状況を引き続き注視しながら、あらゆる選択肢を排除せず適切に対応してまいります。
このような状況において、当社グループは「KAITEKIの実現」というPurposeのもと、以下の事項をグループ全体に影響のある重大なリスクとして認識し、そのリスク低減のための対策をとっております。
①事故・災害
当社グループは、製造設備の定期点検を確実に実施するなど、設備事故等の発生防止に努めております。しかしながら、製造設備等で発生する事故や震災を含む様々な自然災害による影響を完全に防止し、軽減することはできません。万が一、事故により、物的・人的被害や環境汚染等が生じた場合は、生産への影響や社会的信頼の低下等、業績に影響を与える可能性があります。また、自然災害による物的・人的被害又は社会インフラの重大な障害・機能低下が生じた場合は、当社グループの活動が長期にわたり影響を受けるなど、業績に影響を与える可能性があります。これらの緊急事態発生に備え、当社グループでは、事業継続計画(BCP)に基づく情報収集体制を整え、中核となる事業の継続や事業の早期復旧への取り組みを進めております。
②法規制・コンプライアンス
当社グループが行っている事業は、国内外の関連法規制を受け、その規制内容には保安安全、品質、環境や化学物質、医薬品の安全対策、その他事業活動に関するものなど様々なものがあります。
当社グループは、これらの法規制を遵守し、種々の事業活動を行っております。近年は、海外法令への対応が一層求められていることから、競争法、個人情報保護法、経済安全保障関連法、贈収賄防止法等に関する法執行機関の運用状況を注視するなどリスクの最小化に努めております。
それにもかかわらず、将来的に法令の大幅な変更や規制強化が行われた場合には、当社グループの活動の制限やコストの増加につながる可能性があります。また、万が一これらの法規制に違反し、刑事・民事上の責任を問われ、また、行政処分を課された場合には、当社グループの事業展開及び経営成績に影響を与える可能性があります。
当社グループは、コンプライアンスを“法令遵守”にとどまらず、企業倫理や社会の一般的ルールの遵守までを含めたより広い意味で捉え、ステークホルダーや社会からの信頼に応える企業であり続けるために、コンプライアンスを経営上の最重要課題と位置づけております。コンプライアンスを当社グループに着実に浸透させるために、グローバル・コンプライアンス推進規程をはじめとする規則、基準を策定し、その周知に努め、また、各国・各地域に応じたコンプライアンス推進のための教育研修を行うとともに、その浸透度をモニタリングするための意識調査を行っております。また、コンプライアンス・ガイドブックの作成、階層別の教育研修・講習会などの啓発活動を実施し、さらに内部通報制度を設け社外窓口を含むホットラインを整備し、その積極的な活用を図っております。
③情報セキュリティ
当社グループが保有する企業情報及び個人情報については、当社グループが事業活動を進める上での重要な資産であることから、情報資産ガイドラインを始めとする関連規則類を整備し、グループ内に周知するとともに、グループとしての情報セキュリティ施策を検討、実施するために情報セキュリティ実行委員会を設置し厳正な管理に努めております。しかし、これらの情報が一度流出し、不正使用されるなどの問題が発生した場合には、競争力や社会的信頼の低下等、業績に影響を与える可能性があります。また、近年被害が増えているランサムウェアなどのサイバー攻撃については、当社グループの情報システムに対する外部からの侵入を検知するシステムの導入や標的型攻撃メールに対する訓練など様々な防御策を講じておりますが、万が一、事業所のプラント制御系システムに問題が発生した場合等には、安全を確保するために生産量を調整するなど、業績に影響を与える可能性があります。
④人権
当社グループは、世界人権宣言、国連グローバル・コンパクト、国連のビジネスと人権に関する指導原則、及びISO26000などの国際規範に準拠した人権に対する基本的な考え方をグループ構成員に示すとともに、具体的な指針として「人権の尊重並びに雇用・労働に関するグローバルポリシー」を定めております。また、海外グループ会社においては、各国で適用される法令や人権に関する最善の慣行の遵守、従業員満足度の向上に努め、適切なバリューチェーン・マネジメントを構築しながら事業活動を展開しております。しかし、近年欧米を中心とした児童労働や強制労働などを禁止する人権に関する法規制の強化がなされるなか、当社グループだけでなく、当社グループと取引のあるサプライチェーン先において、人権侵害に関与する事案が発生し、社会的信頼の低下や取引停止などに繋がり、業績に影響を与える可能性があります。
⑤気候変動等環境課題
気候変動や資源・エネルギーをはじめとする環境課題の包括的な解決に向けて、当社グループは、サーキュラーエコノミーを重要な戦略と位置付け、マテリアルリサイクル・ケミカルリサイクルや、人工光合成、バイオプラスチックといったキーテクノロジーを軸に、製造プロセス(原料調達~加工)から製品使用後に至るまでのライフサイクル全体を通じて、資源を有効利用する取り組みを推進し、最適化された循環型社会の実現をめざしております。また、温室効果ガス(GHG)排出削減や省エネルギー活動の推進など、気候変動関連の施策にも取り組んでおります。これらに加え、当社は「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しており、情報開示の拡充に努めております。
一方で、当社グループが事業展開する各国において、炭素税の賦課や排出権取引制度に代表される温室効果ガス排出規制が導入された場合、業績に影響を与える可能性があります。また、気候変動による自然災害の増加や渇水による水資源の不足等は、当社グループの製造拠点に影響を与える可能性があります。
(2) 事業分野ごとのリスク
当社グループの製品の多くは、国内外の需要や製品市況、原油・ナフサ・ユーティリティ等の原燃料・材料の価格や調達数量、為替、関連法規制等によって影響を受ける可能性があります。事業分野ごとに想定されるリスクは以下のとおりです。
①機能商品分野(機能商品セグメント)
機能商品分野の製品は、品質・性能面で絶えず高度化が求められており、市場ニーズに合致した製品を適時に開発・提供する必要があります。市場ニーズが当社グループの予想を超えて大きく変化した場合や、市場ニーズに合致した製品を適時に提供できない場合は、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、特定の地域やサプライヤーに依存している原材料もあり、複数購買化や代替原料によるリスク低減を図っておりますが、必要な原材料を適時に確保できない場合は業績に影響を与える可能性があります。
情報電子関連製品の中には、アジア等海外の製造メーカーから原材料を購入しているものも多く、複数購買化等のリスク低減を図っていますが、その生産拠点で災害その他の要因により生産が停滞するなど、供給体制に不測の事態が生じた場合は、業績に影響を与える可能性があります。また、各種フィルム、シート製品については液晶パネル等の需要に負うところが大きく、新規顧客の獲得及び新規用途の開発などによりリスク低減を図っておりますが、需要動向が予測以上に変化した場合は、業績に影響を与える可能性があります。
②素材分野(ケミカルズセグメント及び産業ガスセグメント)
素材分野では、ナフサ等の原料を大量に消費するとともに、製造プロセスにおいて相当量の電気や蒸気を使用しております。そのため、原油価格、原燃料又はナフサの需給バランス、為替レート等の影響による急激なナフサ・燃料等の価格変動に対し、製品価格の是正を十分に行うことができない場合又は製品価格の是正が遅れた場合は、業績に影響を与える可能性があります。このような事態に備え、ナフサ価格の動向に関する早期の情報収集、販売動向の予測に基づく生産計画の調整なども含めた在庫数量管理の徹底などを行っております。また、特定の地域やサプライヤーに依存している原燃料もあり、複数購買化によるリスク低減を図っておりますが、必要な原燃料を適時に確保できない場合は、業績に影響を与える可能性があります。さらに、世界的な景気後退や他社による生産能力増強等により、各製品の需給バランスが崩れ、設備投資に見合う収益、成果を上げられない場合などには、業績に影響を与える可能性がありますので、引き続き製造コストダウンによる競争力の確保、特許対応による知的財産の保護に努めております。
また、素材分野の製品には特定の取引先への依存度が高いものがあり、例えば、特定の鉄鋼メーカーへの依存度が高いコークス事業は、粗鋼の需給状況の大きな変動等により当該鉄鋼メーカーの粗鋼生産量が減少した場合はその影響を受けるなど、特定の取引先における需要等が、業績に影響を与える可能性があります。この対策として、コークス炉の高効率化による競争力の強化、輸出販売拡大のための出荷設備の増強など、最適な生産及び販売体制に向けた構造改革に取り組んでおります。
③ヘルスケア分野(ヘルスケアセグメント)
一般的に新薬の研究開発期間は他業種に比べて長期にわたる上、新薬が承認取得に至る確率も高くないことから、製品化の確度及び時期について正確な予測が困難な状況にあり、計画どおりに新薬を製品化できなかった場合には、業績に影響を与える可能性があります。新薬が製品化した場合においても、新薬が広く普及した段階で新たな副作用等が報告されたことにより販売数量が減少した場合、特許満了時等に後発品が上市された場合、あるいは承認が取り消された場合などは、業績に影響を与える可能性があります。
医療用医薬品事業は、診療報酬や薬価基準等の各種医療保険制度による影響を強く受けることから、各国の医療費抑制策の動向等によっては、業績に影響を与える可能性があります。
共同研究・開発、製品導出入、製造、販売など各種業務に関し各種業務の委受託を行っております。提携先との契約の変更・解消、提携先の経営環境の悪化及び経営方針の変更並びにこれら企業からの医薬品供給の遅延又は停滞が発生した場合、業績に影響を与える可能性があります。加えて、医薬中間体・原薬事業・医薬用カプセル事業においては、薬価改定や顧客製品の特許切れ等により、顧客の医薬品の販売数量が減少した場合、業績に影響を与える可能性があります。
④サービス業務(その他)
エンジニアリングや物流といった当社グループのサービス業務を担う会社において、これらの会社は当社グループ外からの受注もあります。これらの顧客とは、日常的にコミュニケーションをとり、顧客要望の的確な把握、提案型営業の強化に努めておりますが、グループ内外の需要や市況等の大幅な変動が、業績に影響を与える可能性があります。
(3) その他のリスク
①有利子負債
当社グループは、成長・創造戦略とのバランスを考慮しつつ財務体質の改善に努めており、有利子負債の着実な削減を目標としておりますが、今後の金利の上昇、当社グループの業績変動等に伴い格付けが低下した場合は、有利子負債にかかる支払利息が増加し、又は設備増強等のための資金調達が不可欠な場合には当社グループに不利な条件による資金調達を余儀なくされるなど、業績に影響を与える可能性があります。
②知的財産
当社グループは、第三者の知的財産権に対する侵害については、十分注意しておりますが、第三者から特許等への抵触を理由として差止訴訟、損害賠償請求訴訟等を提起された場合は、業績に影響を与える可能性があります。
③研究開発
当社グループは、企業の持続的成長を支える原動力は研究開発にあると認識し、従来から積極的に研究開発を進めており、今後についても長期的視点で計画的・継続的に安定した資源を投入していく方針です。しかしながら、これらの研究開発の結果が目標と大きく乖離した場合は、業績に影響を与える可能性があります。
また、AIやIoTといったデジタル技術が産業界全体のビジネスモデルやサプライチェーンに劇的な変化をもたらしていますが、この変化に適正に対応できない場合には、当社グループの競争力が低下し、業績に影響を与えるリスクがあります。そこでAI・IoT分野の技術を応用した新たな素材・医薬品開発などを推進し、競争力の維持・獲得をめざしております。
④買収、合弁、事業再編等
事業規模の拡大や事業ポートフォリオの変革をめざした国内外における合併、買収や合弁事業等を通じた事業展開が、当初期待していたシナジーその他のメリットを獲得できなかった場合や、そのための資金負担や合併、買収等の後に当社グループが想定していない新たな負債その他の問題が生じ又は発見された場合は、業績に影響を与える可能性があります。また、事業の選択と集中に伴い、不採算事業からの撤退や関係会社の整理等の事業再編を行った場合には、業績に影響が及ぶ可能性があります。
⑤繰延税金資産
当社グループでは、将来減算一時差異及び繰越欠損金について、予測される将来の課税所得の見積りに基づいて将来課税所得を減算できる可能性が高いものに限って繰延税金資産を認識しております。将来課税所得の基礎となる将来の事業計画は、売上収益の予測など、経営者の判断を伴う主要な仮定により影響を受けます。当社はこれらの仮定は妥当なものと考えておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、将来の課税所得の結果が予測・仮定と異なる場合は、繰延税金資産の回収可能性の評価が異なる可能性があります。
⑥有価証券の評価
当社グループは、株式及び出資金については主にその他の包括利益を通じて公正価値で測定する資本性の金融資産に分類しており、その評価方法は活発な市場における無調整の公表価格もしくは合理的に入手可能なインプットにより、類似企業比較法等の適切な評価技法を用いて算定しております。これらの評価方法は適切な権限者に承認されており、当社は妥当と考えておりますが、観測可能な市場情報や発行企業の財務状況等の前提条件の変化により、公正価値が変動し、その他の包括利益や財政状態に影響を与える可能性があります。
⑦非金融資産の減損
当社グループは有形固定資産、のれん及び無形資産について、減損の兆候がある場合、及び資産に年次の減損テストが必要な場合、その資産の回収可能価額の算定を行っております。収益性の低下等により帳簿価額が回収可能価額を超過する場合には、減損損失が発生し、業績に影響を与える可能性があります。
⑧退職給付関係
確定給付制度債務は年金数理計算により算定しており、その前提条件には割引率等の見積りが含まれております。当社は、使用した仮定は妥当なものと考えておりますが、年金資産の公正価値の下落、金利環境の変動、退職金・年金制度の変更等に伴う退職給付債務及び退職給付費用の変動により、業績に影響を与える可能性があります。
⑨在庫評価の影響
当社グループは、棚卸資産の評価を主として加重平均法による原価法で行っており、期中にナフサや重油等の原燃料価格が下落した場合は、期初の相対的に高価な在庫の影響により売上原価が押上げられ、損益に対するマイナス要因となります。一方、期中に原燃料価格が上昇した場合は、期初の相対的に安価な在庫の影響により売上原価が押下げられ、損益に対するプラス要因となります。このため、原燃料価格の変動は、業績に影響を与える可能性があります。また、収益性の低下に基づく簿価切下げを行った場合は、業績に影響を与える可能性があります。
⑩為替レートの変動
当社グループは、輸出入を中心とした外貨建取引に係る為替レートの変動による影響について、為替予約等を通じて短期的な影響を抑制するよう努めておりますが、短期及び中長期の為替レートの変動が業績に影響を与える可能性があります。また、当社グループは、アジア、欧州、北米等、海外において生産・販売活動を展開しており、各地域における外貨建の売上、費用、資産等は、連結財務諸表作成のために円換算されております。これらの項目は外貨における価値が変わらなかったとしても、換算に使用する為替レートの変動に伴い円換算後の価値が変動するため、為替レートの変動が業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
⑪製造物責任
当社グループでは、国際的な品質マネジメントシステム規格であるISO9001等に従って各種製品を製造・販売しており、新製品上市時や品質改善時には、事前に製造物責任(PL)のリスク検討を確実に実施することでPL問題の未然防止を図っております。しかしながら、すべての製品について欠陥がなく、PL問題が発生しないという保証はありません。製造物責任賠償については、PL保険に加入し、万一の事故に備えておりますが、賠償額が保険の補償範囲を超える大規模な製造物責任につながるような製品の欠陥が発生した場合は、業績に影響を与える可能性があります。
⑫訴訟等
当社グループは様々な事業を行っておりますが、事業活動を展開する又は事業再編・再構築を推進していく中で、取引先等の第三者から知的財産権や当社グループの製品等について訴訟の提起等を受ける可能性があります。これらの訴訟の結果を予測又は判断することは不可能であり、かかる訴訟が業績に影響を与える可能性があります。
当連結会計年度における当社グループの経営成績、財政状態及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。なお、文中における将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において判断したものです。
ⅰ 業績全般
当社グループの当連結会計年度における事業環境は、経済社会活動の正常化が進む中で、世界経済全体では緩やかな持ち直しの動きが継続しました。しかしながら、原燃料価格の上昇やサプライチェーンの混乱に加え、各国のインフレ抑制のための金融引き締め等により景気減速のリスクが高まりました。
このような状況下、売上収益は、4兆6,345億円(前連結会計年度比6,576億円増)となりました。利益面では、コア営業利益は3,256億円(同533億円増)、営業利益は非経常項目においてケミカルズ及びヘルスケアセグメントに関連する減損損失等を計上したことにより1,827億円(同1,205億円減)、税引前利益は1,680億円(同1,224億円減)、親会社の所有者に帰属する当期利益は、961億円(同811億円減)となりました。
(注)1 当社グループは、IFRS(国際会計基準)に基づいて、連結財務諸表を作成しております。
2 コア営業利益は、営業利益(又は損失)から非経常的な要因により発生した損益(事業撤退や縮小から生じる損失等)を除いて算出しております。
3 それぞれ、2021年4月~2022年3月、2022年4月~2023年3月の概算平均値です。
各セグメントにおける売上収益及びコア営業利益の状況は、以下のとおりです。
(金額単位:億円)
(注) セグメント間の取引については、相殺消去しております。
<コア営業利益 増減要因>
(金額単位:億円)
(注) その他には、在庫評価益の前連結会計年度(471億円)と当連結会計年度(200億円)の差額△271億円、持分法投資損益の前連結会計年度(214億円)と当連結会計年度(119億円)の差額△95億円、2022年3月に結晶質アルミナ繊維事業を譲渡したことによる影響やインフレを背景とした費用増加等の金額が含まれております。

セグメント別の業績の概要の詳細は、以下のとおりです。
イ 機能商品セグメント
(ポリマーズ&コンパウンズ、フィルムズ&モールディングマテリアルズ、アドバンストソリューションズ)
当セグメントの売上収益は1兆2,527億円(前連結会計年度比1,164億円増)となり、コア営業利益515億円(同272億円減)となりました。
ポリマーズ&コンパウンズサブセグメントにおいては、自動車用途を中心に販売数量が減少したものの、原料価格上昇に伴い販売価格への転嫁を推し進めたことや為替の影響等により、売上収益は増加しました。
フィルムズ&モールディングマテリアルズサブセグメントにおいては、2022年3月に結晶質アルミナ繊維事業を譲渡したことに加えディスプレイ用途の急激な需要減退による減少があるものの、原料価格上昇に伴う販売価格の是正や為替の影響等により、売上収益は増加しました。
アドバンストソリューションズサブセグメントにおいては、ディスプレイ用途を中心に販売数量が減少したものの、原料価格上昇に伴う販売価格の是正及び為替の影響等により、売上収益は増加しました。
当セグメントのコア営業利益は、原料価格上昇の影響等がある中で価格転嫁を推し進めたものの、ディスプレイ用途をはじめとして総じて需要が減退したことやインフレを背景とした費用の増加等により、減少しました。
当連結会計年度に当セグメントにて実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・リチウムイオン電池向け負極材の旺盛な需要に対応するため、中国において、新規開発製品である低膨張を特長とする天然系負極材の生産能力を、現在の2,000トン/年から12,000トン/年に増強することを決定しました。2023年度前半の稼働を目標としています。
・食品包装材の世界的な需要拡大に対応するため、英国において、エチレン・ビニルアルコール共重合樹脂「ソアノール™」の生産能力を、現在の18,000トン/年から39,000トン/年に増強することを2022年7月に決定しました。2025年7月の稼働を目標としています。
・ポートフォリオ改革の一環として、広島事業所で製造しているアクリル繊維「ボンネル™」・「ボンネル™M.V.P」の事業から2023年中に撤退することを、2022年12月に決定しました。
・注力市場における機能商品の事業拡大に向け、ポリビニルアルコール樹脂の特殊銘柄である「ゴーセネックス™」および「ニチゴーGポリマー™」について、岡山事業所に新たなプラントを建設し、生産能力を現行の約2倍に増強することを2023年2月に決定しました。2024年10月の稼働を目標としています。
・ポートフォリオ改革の一環として、当社グループが保有する三菱ケミカルアグリドリーム株式会社の全株式を、2023年9月を目途に住化積水フィルム株式会社(本社:東京都台東区)へ譲渡することで同社と合意し、同年3月31日付で株式譲渡契約を締結しました。
当セグメントの売上収益は1兆4,302億円(前連結会計年度比1,423億円増)となり、コア営業利益は92億円(同930億円減)となりました。
MMAサブセグメントにおいては、為替の影響等による増加はあるものの、需要の減退に伴い販売数量が減少したことやMMAモノマー等の市況が下落したことにより、売上収益は減少しました。
石化サブセグメントにおいては、需要の減退やエチレンセンターの定期修理の影響が拡大したことにより販売数量が減少したものの、原燃料価格の上昇等に伴い販売価格が上昇したことにより、売上収益は増加しました。
炭素サブセグメントにおいては、需要の減退により販売数量が減少したものの、原燃料価格の上昇等に伴いコークスの販売価格が上昇したことにより、売上収益は増加しました。
当セグメントのコア営業利益は、需要の減退等により販売数量が減少したことに加え、総じて原料と製品の価格差が縮小したことや、在庫評価益が縮小したことにより、減少しました。
当連結会計年度に当セグメントにて実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・当社グループの独自技術である新エチレン法(アルファ法)を用いたMMAモノマーのプラント新設プロジェクト(生産能力:35万トン/年を予定)を米国において進めていますが、市場の変動性等を踏まえ、当初2022年半ばに予定していた最終投資決定を2023年度に延期することとしました。
・MMA事業の競争力の強化と供給体制の最適化を図るため、英国のキャッセル工場(生産能力:約20万トン/年)におけるMMA関連製品の生産を、2023年2月に終了しました。
ハ 産業ガスセグメント(産業ガス)
当セグメントの売上収益は1兆1,779億円(前連結会計年度比2,278億円増)となり、コア営業利益は1,210億円(同221億円増)となりました。
産業ガスにおいては、国内外の需要が堅調に推移したことに加え、燃料価格の上昇に伴う販売価格の上昇や為替影響等により、売上収益及びコア営業利益はともに増加しました。
当連結会計年度に当セグメントにて実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・ペルーの国営石油会社Petroleos del Peru(本社:ペルー・リマ)と、同社のTalara製油所向けで、水素及び窒素プラントの運転、保守、供給に関する契約を締結しました。HyCO事業におけるこれまでの実績や、同社に対する提案が評価され、今回の契約締結に至りました。水素及び窒素の供給は、2023年2月から開始しています。
・Vertex Energy(本社:米国・テキサス州)と、同社がアラバマ州モービルに保有する生産量7万5千バレル/日の製油所向けに、既設設備からの水素供給に加え、新たに再生可能燃料を原料とした水素の長期供給契約を締結しました。再生可能炭化水素燃料を原料としたHyCOプラントの設置は今回が初めてとなります。
・インド政府系公社ヌマリガル製油所(本社:インド・アッサム州)と、20年間の水素及び副生蒸気の長期供給を受注しました。製油所に隣接するプラントを新たに建設し、水素及び副生蒸気を供給します。本プラントは2025年に完成し、稼働する予定です。
・アストモスエネルギー株式会社(本社:東京都千代田区)と、民生用LPガス事業の経営統合並びにLPガスに関する脱炭素・産業用需要開拓・卸販売に関する共同検討に向けた基本合意書を2023年2月に締結しました。同事業の経営統合は、2024年1月を予定しています。
当セグメントの売上収益は5,471億円(前連結会計年度比1,435億円増)となり、コア営業利益は1,418億円(同1,488億円増)となりました。
医薬品においては、国内医療用医薬品で薬価改定等の影響を受けたものの、重点品や米国で発売した筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬「RADICAVA ORS®」の販売が順調に推移したこと、Novartis Pharma社に導出した多発性硬化症治療剤「ジレニア®」のロイヤリティ収入等により、売上収益、コア営業利益ともに増加しました。なお、「ジレニア®」のロイヤリティ収入については、2019年2月に仲裁手続きに入ったためロイヤリティ収入の一部について、IFRS第15号に従い売上収益の認識を行っておりませんでしたが、2023年2月に仲裁廷より本件契約の規定は全部有効であるとの判断がなされた結果、当連結会計年度の第4四半期連結会計期間に売上収益1,259億円を認識しております。
当連結会計年度に当セグメントにて実施又は発生した主な事項は、以下のとおりです。
・エダラボン経口懸濁剤(開発コード:MT-1186)について、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を適応症として、2022年5月に米国(製品名:「RADICAVA ORS®」)で承認を取得しました。さらに、11月にカナダ(製品名:「RADICAVA® Oral Suspension」)、12月に日本(製品名:「ラジカット®内用懸濁液2.1%」)において承認を取得しました。エダラボンの投与経路はこれまで点滴静注に限られていましたが、本剤の承認により経口で服用できるため、注射による痛みや投与のための通院などALS患者さんの負担を軽減することが期待できます。
・「カナグル®錠100mg」(開発コード:TA-7284、一般名:カナグリフロジン水和物)について、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)の適応追加承認を日本において2022年6月に取得しました。今回の適応追加により、腎臓疾患に苦しんでいる患者さんのQOL向上に寄与していきます。
・世界初の持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」について、日本イーライリリー株式会社(本社:兵庫県神戸市)と2022年7月に日本における販売提携契約を締結しました。なお、本剤は日本イーライリリー株式会社が、2型糖尿病を効能・効果として、日本における製造販売承認を同年9月に取得しております。
・ポートフォリオ改革の一環として、㈱エーピーアイコーポレーションの全株式を、2022年12月にUBE株式会社(本社:山口県宇部市)へ譲渡しました。
・新型コロナウイルス感染症の予防を適応として開発してきた植物由来のウイルス様粒子(Virus Like Particle)ワクチン「COVIFENZ®」について、市場環境等を包括的に検討した結果、商用化を断念するという結論に至りました。また、メディカゴ社が保有する開発品の今後の事業化においても、更なる投資を継続的に行うことが困難であると判断し、当該事業から撤退し清算を進めることを2023年2月に決定しました。
・Muse細胞を用いた再生医療等製品「CL2020」について、最新の臨床開発状況や事業化までのタイムライン、今後の医薬品事業戦略などを総合的かつ慎重に検討した結果、本製品の開発を中止することを2023年2月に決定しました。
・一般財団法人阪大微生物病研究会(本部:大阪府吹田市)との共同開発による沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」について、2023年3月に、日本における製造販売承認を取得しました。接種回数の削減により、乳幼児及び保護者の負担を軽減することが期待できます。
・抗サイトメガロウイルス化学療法剤「バリキサ®ドライシロップ5000mg」(一般名:バルガンシクロビル塩酸塩)について、症候性先天性サイトメガロウイルス感染症の適応追加承認を日本において2023年3月に取得しました。同疾患の治療薬として世界で初めての承認であり、患者さんに新たな治療の選択肢を提供します。
その他部門の売上収益は2,266億円(前連結会計年度比276億円増)となり、コア営業利益は165億円(同15億円増)となりました。
なお、当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、また、受注生産形態をとらない製品も多く、セグメント毎に生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
また、主な販売先別の販売実績及び総販売額実績に対する割合については、当該割合が100分の10未満であるため、記載を省略しております。
② キャッシュ・フロー
(金額単位:億円)
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、原料価格上昇等による運転資本の増加等があったものの、税引前利益や減価償却費等により、3,552億円の収入(前連結会計年度比83億円の収入の増加)となりました。
当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、投資の売却及び償還による収入等があったものの、有形固定資産及び無形資産の取得2,810億円等により、2,476億円の支出(同1,188億円の支出の増加)となり、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動及び投資活動によるキャッシュ・フロー)は、1,076億円の収入(同1,105億円の収入の減少)となりました。
当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、社債及び借入金の増加があったものの、配当金の支払い618億円等により、608億円の支出(同2,755億円の支出の減少)となりました。
これらの結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物残高は、前連結会計年度末と比べて514億円増加し、2,972億円となりました。
③ 財政状態
(金額単位:億円)
当連結会計年度末の資産合計は、メディカゴ社(カナダ)と三菱ケミカル・ユーケー社(イギリス)のキャッセル工場の減損による固定資産の減少等がありましたが、円安の進行に伴う在外連結子会社の資産の円貨換算額の増加や原料価格上昇等による棚卸資産の増加等により、前連結会計年度末に比べ2,000億円増加し、5兆7,739億円となりました。
当連結会計年度末の負債合計は、仕入減少に伴う営業債務の減少等がありましたが、社債及び借入金の増加等により、前連結会計年度末に比べ562億円増加し、3兆7,858億円となりました。
なお、当連結会計年度末のリース負債を含む有利子負債は、前連結会計年度末に比べ859億円増加し、2兆3,758億円となりました。
当連結会計年度末の資本合計は、配当による減少がありましたが、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上や在外営業活動体の換算差額の増加等により、前連結会計年度末に比べ1,438億円増加し、1兆9,881億円となりました。
これらの結果、当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末と比べて0.9ポイント増加し、27.1%となりました。なお、ネットD/Eレシオは、前連結会計年度末と比べて0.07減少し、1.33となりました。
(2) 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
① 経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
経営方針「Forging the future 未来を拓く」(以下「経営方針」といいます。)で設定した財務目標に対する達成・進捗状況については、以下のとおりです。
売上収益・コア営業利益・EBITDA推移

注)ジレニア仲裁判断の結果(1,259億円の収益認識)を控除して算定したFY22(当連結会計年度)の実績は
売上収益 45,086億円、コア営業利益 1,997億円、コア営業利益率 4.4%です。

注)ジレニア仲裁判断の結果を控除して算定したFY22の実績は
EBITDA 4,574億円、EBITDAマージン 10.1%です。
収益性・安定性指標推移

注)EPSは継続事業に係る1株当り利益を表示しています。
ジレニア仲裁判断の結果を控除して算定したFY22の実績は、
EPS 4.6円、ROIC 3.6%、ROE 0.4%です。
当連結会計年度は、ディスプレイ・半導体市場における各製品の調整局面やMMA・石化・炭素製品の需要減退により、機能商品分野及び素材分野の事業環境が厳しいものとなりましたが、原燃料価格の上昇等の影響に対し価格転嫁活動を継続しコア営業利益の確保に努めたことに加え、ヘルスケアにおいて多発性硬化症治療剤ジレニアのロイヤリティにかかる仲裁判断の結果を受けて収益を認識したこと等に伴い、コア営業利益は前連結会計年度比20%の増益となりました。一方、親会社の所有者に帰属する当期利益は構造改革に伴う関連損失等の計上により前連結会計年度比46%の減益となりました。
② 経営環境と今後の見通し
当社グループを取り巻く事業環境は、ウィズコロナの下で社会活動や人流が増加し、景気が持ち直していくことが期待されます。一方で、地政学的リスクや欧米を中心とした金融資本市場の変動等による景気減速の影響が懸念されます。
このような状況下、当社グループにおいては、当連結会計年度において低調に推移した機能商品分野におけるディスプレイ・半導体市場向けや自動車用途等の需要および素材分野におけるMMAや石化製品の需要が、翌連結会計年度に緩やかに回復することを見込んでおります。ヘルスケア分野においては国内医療用医薬品の薬価改定影響がある一方、メディカゴ社清算によるコスト削減効果を見込んでおります。
以上を踏まえ、翌連結会計年度の連結業績につきましては、売上収益は4兆5,550億円、コア営業利益は2,500億円、営業利益は2,390億円、税引前利益は2,010億円、当期利益は1,430億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は970億円となる見込みです。
上記の見通しにおける主要指標の想定値は以下のとおりです。
(金額単位:億円)
(注)それぞれ、2022年4月~2023年3月、2023年4月~2024年3月の平均
(3) 資本の財源及び資金の流動性
① 財務方針及び企業価値の向上
当社グループは、経営方針で定めた財務目標を達成すべく、策定したロードマップに従って諸施策を実施することにより、企業価値の向上をめざしてまいります。

当社グループでは資本コストを意識した経営に取り組んでおり、経営指標の策定や投資判断に活用しております。企業価値向上のため、株主資本コストを上回るROEを経営指標として設定するとともに、ROICを注力事業の選別基準の一つとし、市場の成長性、競争力、サステナビリティにフォーカスしてポートフォリオ運営を進めてまいります。

② 資金調達及び資金配分方針
当社グループは、運転資金及び設備資金については、内部資金に加え借入金、社債等による調達を実施しているほか、複数の金融機関とのコミットメント・ラインの設定に加え複数の金融機関との間のアンコミットメントベースの当座借越契約、コマーシャル・ペーパー発行枠及び国内社債発行登録枠等の確保により資金調達手段の多様化を図り、十分な流動性の確保を行っております。
資金配分の方針につきましては、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)対処すべき課題 〇戦略的なキャピタル・アロケーション」をご参照ください。
(4) 重要な会計上の見積り
連結財務諸表の作成にあたっては、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積り及び判断を行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるために、これらの見積りと異なる場合があります。見積り及びその基礎となる仮定は、継続して見直されます。会計上の見積りの変更による影響は、その見積りが変更された会計期間及び影響を受ける将来の会計期間において認識されます。
当社グループの連結財務諸表に重要な影響を与える可能性のある会計上の判断、見積り及び仮定に関する主な情報は、以下のとおりです。
① 非金融資産の減損
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
当社グループは、連結財政状態計算書に、有形固定資産1,907,898百万円、のれん727,655百万円、無形資産459,213百万円(うち、耐用年数を確定できない無形資産及び未だ使用可能でない無形資産63,127百万円)を計上しております。
なお、当連結会計年度において減損損失を96,782百万円計上し、連結損益計算書の「その他の営業費用」に含めております。その主な内訳は、三菱ケミカル・ユーケー社キャッセル工場のMMA生産設備並びにメディカゴ社のワクチン製造設備及び同社の事業に関連するのれんです。減損損失の詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 14.減損損失」をご参照ください。
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
(ⅰ)算出方法
当社グループは有形固定資産、のれん及び無形資産について、減損の兆候がある場合、及び資産に年次の減損テストが必要な場合、その資産の使用価値や処分費用控除後の公正価値の算定を行っております。
使用価値の算定にあたっては、貨幣の時間価値及びその資産に特有のリスクについて現在の市場の評価を反映した税引前の割引率を用いて、見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値を計算しております。なお、将来キャッシュ・フローの見積りにあたって利用する事業計画は原則として5年を限度とし、事業計画の予測の期間を超えた後の将来キャッシュ・フローは個別の事情に応じた5年を超える期間の長期平均成長率をもとに算定しております。
(ⅱ)主要な仮定
使用価値の算定における主要な仮定は以下のとおりです。
(技術に係る無形資産(仕掛研究開発費、開発段階にある導入契約により取得した権利))
規制当局の販売承認の取得の可能性、上市後の売上収益の予測及び割引率
(有形固定資産、上記を除く無形資産、のれん)
原則として5年を限度とする事業計画における将来キャッシュ・フローの見積り、割引率及び5年を超える期間の長期成長率。
将来キャッシュ・フローの見積額は主として、売上収益の予測及び市場の成長率に影響を受けます。
(ⅲ)翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響
主要な仮定について、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、前提とした状況が変化すれば回収可能価額の算定結果が異なる可能性があります。なお、提出日現在において、これらの見積りの見直しが必要となる事象は生じておりません。
② 繰延税金資産の回収可能性
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
繰延税金資産(純額) 94,088百万円
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
(ⅰ)算出方法
当社グループでは、将来減算一時差異及び税務上の繰越欠損金に対して、予定される繰延税金負債の取崩、予測される将来課税所得及びタックス・プランニングを考慮し、繰延税金資産を計上しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針 (7) 法人所得税」をご参照ください。
(ⅱ)主要な仮定
将来課税所得の基礎となる将来の事業計画における主要な仮定は売上収益の予測です。
(ⅲ)翌連結会計年度の連結財務諸表に与える影響
認識された繰延税金資産については、過去の課税所得水準及び将来減算一時差異と繰越欠損金の解消が予測される期間における将来課税所得の予測に基づき、回収される可能性が高いと考えております。これらの仮定は、経営者は妥当と判断しておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、将来課税所得の結果が予測・仮定と異なる場合は繰延税金資産の回収可能性の評価が異なる可能性があります。
③ 確定給付制度債務の測定
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
退職給付に係る負債 102,292百万円
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
確定給付制度に係る負債又は資産は、確定給付制度債務の現在価値から制度資産の公正価値を控除して算定しております。確定給付制度債務は年金数理計算により算定しており、その前提条件には割引率等の見積りが含まれております。経営者は、使用した仮定は妥当なものと考えておりますが、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、金利環境の変動等により前提条件と実際の結果が異なる場合又は前提条件に変化がある場合には、確定給付制度債務の評価額が異なる可能性があります。
確定給付制度債務に係る詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 26.退職給付」をご参照ください。
④ 金融商品の公正価値
ⅰ 当連結会計年度の連結財務諸表に計上した金額
公正価値ヒエラルキーがレベル3の株式及び出資金(売却目的で保有する資産を除く) 96,727百万円
なお、上記の金額は、連結財政状態計算書の「その他の金融資産」に含めております。
ⅱ 連結財務諸表利用者の理解に資するその他の情報
当社グループにおいて活発な市場における公表価格が入手できない非上場株式及び出資金の公正価値は、合理的に入手可能なインプットにより、類似企業比較法又はその他の適切な評価技法を用いて算定しております。経営者は選択された価値評価技法と使用した仮定は、金融商品の公正価値を評価する際において適切であると判断しておりますが、これらの評価技法とインプットは将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、予測不能な前提条件の変化等により金融商品の評価に関する見積りが変化した場合には、公正価値の評価額が異なる可能性があります。
詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 34.金融商品 (8) 金融商品の公正価値」をご参照ください。
また、上記のほか、当連結会計年度において見積りを行う上での特に重要な仮定は以下のとおりです。
(ロシア・ウクライナ情勢の影響に関する仮定)
ロシア・ウクライナ情勢については長期化の様相を呈しておりますが、現時点では事業上の直接的な影響は軽微であり、当連結会計年度末での会計上の見積りにおいては、当社グループ業績に重要な影響を及ぼすという仮定は置いておりません。
(1) 事業提携、事業再編等
・2022年7月、田辺三菱製薬㈱は、持続性GIP/GLP-1受容体作動薬「マンジャロ」について、日本イーライリリー㈱と日本における販売提携契約を締結しました。なお、本剤は日本イーライリリー㈱が、2型糖尿病を効能・効果として、日本における製造販売承認を同年9月に取得しております。
・2022年8月、㈱生命科学インスティテュートは、保有する㈱エーピーアイコーポレーションの全株式を、UBE㈱に譲渡する旨の株式譲渡契約を締結しました。
・2023年2月、当社は、当社の完全子会社である㈱地球快適化インスティテュートとの間で、当社を吸収合併存続会社、同社を吸収合併消滅会社とする旨の吸収合併契約を締結しました。
(2) 合弁会社の設立
(注) 1 関西熱化学㈱設立に関する合弁契約は、三菱化成工業㈱(現 三菱ケミカル㈱)、㈱神戸製鋼所及び尼崎製鉄㈱(現 ㈱神戸製鋼所)との間で締結されましたが、その後、大阪瓦斯㈱が、1963年5月30日付にて、上記3社からの株式譲渡により、また、神鋼商事㈱が、2008年3月31日付にて、㈱神戸製鋼所からの株式譲渡により、それぞれ資本参加しております。
2 三菱エンジニアリングプラスチックス㈱に対する出資比率は、同社株式の三菱ケミカル㈱から三菱瓦斯化学㈱への一部譲渡により、2023年4月3日付にて、25%となっています。
(3) 外国との技術提携(技術導入関係)
(三菱ケミカル㈱)
(田辺三菱製薬㈱)
当社グループは、各社において独自の研究開発活動を行っているほか、グループ会社間での技術や市場に関する緊密な情報交換や共同研究、研究開発業務の受委託等を通じて、相互に協力し、連携の強化を図るとともに、グループ外の会社等との間でも共同での研究開発を積極的に行うなど、新技術の開発や既存技術の改良に鋭意取り組んでおります。
当社グループの研究開発人員は4,632名、当連結会計年度における研究開発費の総額は
(1) 機能商品セグメント
ポリマーズ&コンパウンズ、フィルムズ&モールディングマテリアルズ、アドバンストソリューションズに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・5G等の次世代通信においては、従来の素材に比べ電波を損失させず通信に支障をきたさない新素材の開発が求められている中、高周波領域における伝送損失を軽減させたプリント配線基板用熱可塑性樹脂フィルム「New-IBUKI」の新グレード及び超低誘電フィルム「BeLight」を2022年6月に開発しました。
・独自の製膜技術と材料設計技術により開発した高感度圧電フィルムを用い、ヘルスセンシング㈱の技術と組み合わせることで、従来のベッドセンサでは実現できなかった睡眠の質の検知と心身のバランスの解析が可能な睡眠センサを2022年10月に開発しました。
・軽量で強度があり、透明性や成形加工性に優れる二軸延伸ポリスチレンシートについて、植物由来の樹脂添加剤を配合した二軸延伸ポリスチレンシートを2022年12月に開発しました。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(2) ケミカルズセグメント
MMA、石化、炭素に関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・自動車のテールランプ等に使用されているアクリル樹脂について、ケミカルリサイクルの事業化に向け、東京海上日動火災保険㈱及び㈱ABTと共同で、使用済自動車からアクリル樹脂を回収するスキームについての実証実験を2023年3月に開始しました。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(3) 産業ガスセグメント
産業ガスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・カーボンフリー燃料である水素ガスに注目し、工業炉分野でのCO2排出削減への貢献に取り組んでいます。日本電気硝子㈱と水素-酸素バーナを共同開発し、2022年4月、水素100%燃焼によるガラス溶融の実証試験に成功しました。大手自動車用鋳物メーカーと誘導炉向け水素-酸素バーナを2022年7月に共同開発しました。
・液化窒素式プログラムフリーザの新製品として、細胞凍結保存用バイアル(10cc)を最大 1,575本処理できる、庫内容量300Lの「クライオセルマスターTM」CM-300を2022年9月に商品化しました。
・石灰製造炉などの高濃度CO2排出源をターゲットとして、10t/日規模のCO2回収装置(回収CO2濃度98%)を2023年3月に開発・商品化しました。中小規模排出源(排ガス量1,000Nm3/hクラス)向けの装置であり、ユニット化して導入・設置が容易に行えます。
・導電性ペースト・インク用途向け表面改質銅ナノ粒子を2023年3月に開発しました。銅ナノ粒子が有機溶媒中に均一に分散するため、小型電子部品の電極薄膜やセラミック基板の微細配線を実現するための銅ペーストの製造に有効です。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(4) ヘルスケアセグメント
医薬品、ライフサイエンスに関する研究開発を行っており、当連結会計年度の主な成果は次のとおりです。
・エダラボン経口懸濁剤(開発コード:MT-1186)について、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を適応症として、2022年5月に米国(製品名:「RADICAVA ORS®」)で承認を取得しました。さらに、11月にカナダ(製品名:「RADICAVA® Oral Suspension」)、12月に日本(製品名:「ラジカット®内用懸濁液2.1%」)において承認を取得しました。エダラボンの投与経路はこれまで点滴静注に限られていましたが、本剤の承認により経口で服用できるため、注射による痛みや投与のための通院などALS患者さんの負担を軽減することが期待できます。
・「カナグル®錠100mg」(開発コード:TA-7284、一般名:カナグリフロジン水和物)について、2型糖尿病を合併する慢性腎臓病(ただし、末期腎不全又は透析施行中の患者を除く)の適応追加承認を日本において2022年6月に取得しました。今回の適応追加により、腎臓疾患に苦しんでいる患者さんのQOL向上に寄与していきます。
・一般財団法人阪大微生物病研究会(本部:大阪府吹田市)との共同開発による沈降精製百日せきジフテリア破傷風不活化ポリオヘモフィルスb型混合ワクチン「ゴービック水性懸濁注シリンジ」について、2023年3月に、日本における製造販売承認を取得しました。接種回数の削減により、乳幼児及び保護者の負担を軽減することが期待できます。
・抗サイトメガロウイルス化学療法剤「バリキサ®ドライシロップ5000mg」(一般名:バルガンシクロビル塩酸塩)について、症候性先天性サイトメガロウイルス感染症の適応追加承認を日本において2023年3月に取得しました。同疾患の治療薬として世界で初めての承認であり、患者さんに新たな治療の選択肢を提供します。
本セグメントにおける当連結会計年度の研究開発費は
(5) その他
エンジニアリング等に関する研究開発を行っており、その他部門における当連結会計年度の研究開発費は
上記のほか、研究開発費には、特定の事業部門に区分できない基礎研究に要した研究開発費が133億円あります。