第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループは、いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展することを経営の基本方針としております。

 

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
 

(1)経営環境及び対処すべき課題

①当社グループの対処すべき課題

当社グループは昨年、2023年度~2025年度の3ヵ年を対象とする「2023中期経営計画」を策定・公表しました。今回の中計では、まず2030年のありたい姿として「人を活かし、技術を活かし、時代の波に乗りつづける企業でありたい」と定め、そこからバックキャストしたこの3年間の実行施策を立案しました。2022年度で終了した「2020中期経営計画」で残された経営課題や非財務課題の解決と、「2030年のありたい姿」に向けた次なる飛躍の助走を同時に行ってまいります。

 

   2023年度は中計初年度として、前中計より大きな課題となっていた北米ばね事業では、撤退覚悟で顧客との売価アップの交渉を粘り強く行った結果、ほぼすべての顧客と妥結し、大幅な損益改善を果たしました。これは当社の存在意義を認めて貰った結果であり、事業再建にも目途が立ったことで、財務体質を強化するため増資も実施しました。一方、特殊鋼鋼材事業では、主要需要先である建設機械向けは中間在庫調整の影響もあり需要が急減、また産業機械・工作機械向けも需要低迷が継続しています。さらには原材料市況の高止まりと円安進行による調達コスト上昇等の影響もあり、前期に比べ損益が悪化しました。加えてばね事業の海外子会社で減損損失を計上したことにより、当期純利益は大幅に悪化し損失を計上しました。

 

   こうした業況の中で、当社としては以下を課題と認識し、取り組みを推進することで市場評価を改善させてPBRを向上させることが重要と認識しています。

 

(当社の対処すべき課題)

   ① 稼ぐ力の徹底的な強化(ROE向上)

  ② 戦略事業の育成

  ③ 非財務関連の取り組み推進(カーボンニュートラル、人材への投資等)

 

     当社のPBRは1倍を下回る状態が長期に渡って続いておりますが、その最大の要因としては十分なROEを確保できていないことが挙げられます。コスト削減と売価改善によるマージンの維持・拡大に加えて、成長分野である洋上風力等向けの高付加価値製品の開発・市場投入や、採算性による製品ポートフォリオの見直しなど、稼ぐ力の徹底した強化を図っていきます。またROICを用いて資本効率性の点から事業ポートフォリオの最適化を進め、不採算事業の撤退・売却を含めた事業性判断を速やかに行っていきます。これら施策によりROE向上を実現し、安定して利益成長を続けていくことのできる事業構造を構築してまいります。

    また「環境対応」「海外事業」「EVシフト」をキーワードとした5つの戦略事業の育成を進めています。足元では海外鋼材事業において、増産に向けた設備増強投資を行っている他、精密部品事業では2024年度より大型案件が立ち上がることで収益への貢献が期待されます。また特殊合金粉末事業や洋上風力関連でも、設備増強による生産体制強化を進めています。これにより、成熟市場である基盤事業に依存している現在の収益構造から脱却し、将来性が期待できる分野へのシフトを進めてまいります。

    これらの取り組みを進めることで、景気変動や不採算事業の損益悪化の影響を大きく受ける現在の事業ポートフォリオからの変革を果たし、業績のボラティリティを改善させるとともに、時代の変化に対応しながら持続的な成長を実現してまいります。

 

    非財務関連の取り組みも重視しています。社会からの高まる要請に応えるべく、カーボンニュートラル目標について、特に排出量が多い特殊鋼鋼材部門にて再生エネルギー由来の電力使用を前倒しで進めることで、当社の2030年の排出量削減目標を総排出量30%減(従来は約15%減)に引き上げました。また自社で発生するCO2排出量の削減に留まらず、例えば燃費向上に資する軽量化した自動車用ばねなど、社会全体のCO2削減に貢献する製品の開発・販売を進めることで、2050年カーボンニュートラル実現という社会課題の解決に対して、当社の技術力・製品力を用いて貢献してまいります。

    当社の持続的成長を実現するためには、人的資本経営の推進も必要不可欠と考えています。昨年当社として初めて従業員向けエンゲージメントサーベイを実施し、課題の抽出と組織全体での課題認識、改善策の立案と実行、その評価を踏まえたさらなる改善といったサイクルを進めています。特に、経営層が先頭に立って社員の声を聞くタウンホールミーティングを全国の各拠点にて行うなど、トップ主導で企業文化の変革を推進しております。

    こうした事業活動を支える基盤としてのガバナンス体制の強化としては、執行役員の業績連動における非財務比率を高めること、取締役会の議論活性化、安全・品質保証やハラスメント対策を含むコンプライアンス遵守、サイバーセキュリティ対策といったリスク管理の強化も推進してまいります。

 

    持続的な成長と経営リスクの低減を進めるとともに、株主・投資家の皆様との対話の深化と認識ギャップの解消を進めていくことで、資本コストの低減を図ってまいります。

 

    一方、株主還元も重要施策と位置付けており、2024年2月には配当方針を見直し、従来の配当性向30%に加え、今中計期間は1株当たり最低60円配当としました。一定金額の配当をお約束することで、株主の方に安心して当社株式を購入して頂きたいとの思いから、今回の方針修正を行いました。

 

    こうした当社の課題認識とその対応策を実行することで、「2023中期経営計画」で掲げた目標の達成、さらには2030年のあるべき姿の実現を図ってまいります。

 

 ② 中長期的な経営計画

 1.2030年のありたい姿


 

 

  2.2023中期経営計画(2023年度~2025年度)

  [基本方針]

  ①  稼ぐ力の強化

マージン維持・拡大とコスト削減で稼ぐ力を徹底して追求し、戦略事業拡大および財務基盤強化の原資とする。

    ②  戦略事業の育成

     2023中計で事業拡大に向けた準備と刈り取りを進め、2030年に向けて大きく伸ばす。

      戦略事業に経営資源を積極的に配分し、事業の育成を進める。

    ③  人材への投資

     「人材への投資」を通じて、生産性向上とイノベーションを実現する。

    ④  サステナビリティ経営

      ESGなど財務項目以外の課題を明確にし、持続的企業価値向上を図る。

 

これらの基本方針に基づいた各種施策を進め、実績を出していくことで、中長期的な企業価値向上とPBR1倍以上を目指してまいります。

 

「2023中期経営計画」の詳細については当社ウェブサイト(https://www.mitsubishisteel.co.jp/ir/mid-plan/)をご覧ください。

 

(2)各事業における重点施策

[特殊鋼鋼材事業]

当期後半より低迷した国内鋼材の需要動向は、中間在庫調整の影響は徐々に解消を見込むものの、実需ベースでの回復は不透明であり、回復のスピードによっては損益改善が遅れる可能性があります。こうした中でも、円安の追い風を受けた輸出向け鋼材の拡販等を進めることで、損益の確保を図ってまいります。また中長期的には、今後需要の拡大が期待できる海外鋼材事業の強化やEV・洋上風力向け鋼材への参入等、中長期的な需要構造変化への対応も進めてまいります。

さらに、円安の進行による輸入原材料価格の高騰や、物流費・労務費等の諸コストの高騰に対しては、引き続き売価改善を進めることで、マージンの維持・改善を図るとともに、工場DXによる製造コスト削減や営業系DXの推進による顧客満足度の向上により、基盤事業として稼ぐ力の強化を進めてまいります。

また、カーボンニュートラルについては、当社の排出量の大部分を占める鋼材部門の室蘭製作所について、2030年度削減目標の引き上げを行いました。目標達成に向け、引き続き施策を進めるとともに、海外事業では、再生可能エネルギー電力等を活用したカーボンニュートラル鋼製造の検討も進める等、社会課題の解決に向けた取り組みも推進してまいります。

 

 [ばね事業]

基盤事業である自動車向けばねについては、さらなる軽量化等による競争力強化に加え、損益悪化の要因となっている低採算事業について、事業ポートフォリオの最適化を進めることで、稼ぐ力の強化を図ってまいります。

当期のばね事業は、長年の課題であった北米MSSCの損益改善により、6期ぶりの黒字となりました。北米MSSCについては、今後は生産性の改善を加速させ、持続的な利益成長ステージに入っていきます。一方で、需要環境悪化等の影響を受け低採算が続く事業については、撤退・売却も含めた事業ポートフォリオの最適化を進めることで、ばね事業全体としてさらなる利益成長を図ってまいります。 
 また、2024年度では戦略事業の一つである高機能ヒンジの大型案件の量産開始を予定しているほか、インド拠点でも現地自動車需要の高まりに応えるべく、生産増強投資を行っています。これらの立上りと収益貢献を計画どおり進めるとともに、将来的には商用車用板ばねにおいて、鋼材事業とのシナジーが発揮できる新拠点への投資等も検討してまいります。

 

 [素形材事業]

不採算製品からの撤退と、タイ子会社における売価改善及び固定費大幅圧縮により、損益改善が進んでいます。

今後に向けては、自動車内燃機関向け部品中心の製品構成からのシフトを進め、戦略事業として位置付ける特殊合金粉末の事業拡大を進めます。顧客の新製品開発にマッチした高性能粉末製品の開発を継続すると共に、生産能力増強投資の検討を進め、収益貢献に向けた準備を進めてまいります。
  さらに将来に向けて、顧客の脱炭素化ニーズに対応すべく、カーボンニュートラル特殊合金粉末の商品化を目指し、市場調査を進めてまいります。

 

 [機器装置事業]

環境課題の解決をテーマに事業拡大を目指します。サーキュラーエコノミーに貢献する磁力選別機については、足元の売上は好調に推移しており、事業拡大に向け引き続き拡販を進めてまいります。
  さらに戦略事業の一つである洋上風力発電関連機器向けでは、次期中計期間中で本格化するプロジェクト案件の受注に向け、当社グループの強みである大型化対応の生産能力をさらに強化すべく、増強投資を進めております。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当社グループが有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前 提に基づいており、実際の結果とはさまざまな要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)サステナビリティ戦略

  当社グループでは、社会課題解決への取り組みを企業が果たすべき重要な責務の一つと認識し、ESGをはじめとする諸課題解決に向けた取り組みを進めています。

 また、2023年度~2025年度を対象とする「2023中期経営計画」の基本方針の一つに「サステナビリティ経営」を掲げ、カーボンニュートラルや人的資本等をはじめとしたESG関連の各種取り組みを推進し、持続的成長と企業価値向上を図っていくこととしています。

 

① ガバナンス

当社では、サステナビリティ委員会(委員長:社長執行役員)にて、サステナビリティに関する重要課題を審議するとともに、取締役会においても原則毎月、サステナビリティに関する審議を行っております。

サステナビリティ委員会の下部組織として、「地球環境委員会」、「カーボンニュートラル委員会」と「ESG推進室」を設け、サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する評価、管理を含む当社のサステナビリティ推進に向けて、全社横断的に対応できるマネジメント体制としております。

なお、2024年4月1日付にて、ESG各課題への取り組み強化、情報開示のさらなる充実・高度化を推進し、社内外への浸透を図るため非財務情報を統括することを目的に、従来のESG分科会を発展・組織化した「ESG推進室」を新設しています。

 


 

 ② 戦略

三菱製鋼グループは、「経営理念」と「三菱製鋼グループ企業行動指針」「三菱製鋼グループ行動規範」に基づき「サステナビリティに関する基本方針」を策定し、これに即してサステナビリティ活動を推進しています。「事業活動」「コンプライアンス」「情報開示」「社員の尊重」「環境保全」「国際化」の6つの柱からなる「三菱製鋼グループ企業行動指針」で、11項目を明文化するとともに、さらにそれを細分化した「三菱製鋼グループ行動規範」を定めることで、事業を通じた企業価値の向上と、持続可能な健全な社会の実現に向けて取り組むべき姿勢を従業員と共有しています。

 

(サステナビリティに関する基本方針)

三菱製鋼グループは、いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展することを経営の基本方針としております。この方針の下、「経営理念」と「三菱製鋼グループ企業行動指針」「三菱製鋼グループ行動規範」に基づき、自らの社会的使命を果たすことでより信頼される企業を目指し、お客様・お取引先様・株主・従業員・地域社会など各ステークホルダーとの対話を通じて、持続可能な社会の実現に貢献します。

 〔Environment(環境)〕

三菱製鋼グループは地球環境の保全が人類共通の最重要課題の一つであると認識し、事業活動のあらゆる面で環境の保全に積極的に取り組みます。

 〔Social(社会)〕

三菱製鋼グループは人権、人格、個性と多様性を尊重し、安全で働きやすい職場環境を確保するとともに、人材の育成を通じて企業活力の維持・向上を図ります。

 〔Governance(ガバナンス)〕

三菱製鋼グループはグローバルな事業活動において法令や社会規範を遵守し、公正で透明、自由な競争並びに適正な取引を行うとともに、企業価値の最大化を図るため常に最良のコーポレートガバナンスを追求し、その充実に継続的に取り組みます。

 

 また当社は、サステナビリティ経営をより効果的に推進するため、「社内における重要度」と「社外から当社グループへの期待度」を軸としてテーマを洗い出し、5つの重要課題の特定を行い、加えてSDGsの各目標との関わりを整理しております。

なお、以下の重要課題については、今日の社会環境や当社を取り巻く事業環境等を踏まえ、適宜再検証・見直しを行っております。

今後これらの活動をより拡大・進めていくことで、持続的な社会の実現に貢献するとともに、当社グループの企業価値の向上と持続的成長を実現していきます。

 


 

③ リスク管理

  サステナビリティ関連のリスク管理のプロセスとしては、リスク管理委員会・サステナビリティ委員会を通して全社的な短期・中期・長期リスクの特定・評価・対応策の検討を行い、取締役会にて監督を行っています。

 


 

 ④ 指標と目標

当社が掲げているサステナビリティに関する指標と目標は、以下のとおりです。

[気候変動関連]

   ・CO2削減目標(2030年度削減目標及び2050年度カーボンニュートラル)

    ⇒2030年度削減目標の見直しを行い、従来比約2倍の「30%削減」(2013年度比)に引き上げを行いました。

   ※詳細は、「(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)-④指標と目標」をご覧ください。

 

  [人的資本関連]

   ・有給休暇取得率

   ・女性従業員比率、女性管理職比率

     ・エンゲージメントサーベイ結果

    ※詳細は、「(3)人的資本-④指標と目標」をご覧ください。

 

また役員報酬制度の見直しを行い、2023年度より賞与と株式報酬の評価指標に、CO2排出量削減をはじめとする非財務指標を導入しています。中期経営計画の財務目標とあわせて、非財務項目の施策もインセンティブに組み込み、目標達成を目指してまいります。

 

(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)

  当社は、2021年11月にTCFD提言の趣旨に対し賛同を表明し、2022年にはTCFD提言に基づく開示を初めて実施いたしました。 2023年には、事業部ごとにリスク・機会を再評価し、シナリオ分析、財務インパクト評価を行ったうえで、対応策についても改めて再整理するとともに、 鋼材部門のCO2削減目標の引き上げを行いました。

 

① ガバナンス

気候変動に関するガバナンスについては、サステナビリティ戦略のガバナンスに組み込まれています。詳細は、「(1)サステナビリティ戦略-①ガバナンス」をご覧ください。

 

② 戦略

当社は、国内事業を対象とし、2030年、2050年の時間軸にて、今世紀末の平均気温上昇を1.5℃未満に抑えるために、世界的な気候変動対策が成功するシナリオ(気候変動関連規制等により主に「移行リスク」が顕在化する1.5℃シナリオ)と、不十分なままとなるシナリオ(自然災害の増加等により主に「物理リスク」が顕在化する4℃シナリオ)の2つのシナリオを用いてシナリオ分析を実施いたしました。

 

◆リスク・機会と時間軸・影響度


◆移行リスク・機会への対応

 


 なお当社は、シナリオ分析において大きな財務影響を与える機会への対応策として特定した各製品を、今後育成すべき戦略事業として「2023中期経営計画」へと織り込んでおります。これらの戦略事業の育成を進め、戦略事業構成比率を50%に引き上げることで事業ポートフォリオの変革を進め、サステナビリティ経営を実現してまいります。

 


 

リスク管理

  気候変動に関する主なリスクについては、サステナビリティ戦略のリスクに含めて管理しています。詳細は、「(1)サステナビリティ戦略-③リスク管理」をご覧ください。

  なお、移行リスクはサステナビリティ委員会、物理リスクやその他のリスクはリスク管理委員会で管掌しています。

 また、カーボンニュートラル関連を含む設備投資については、企画部門を主体とした投融資委員会で事業計画及びリスクを精査し、審議を実施しています。

  BCPについては、リスク管理委員会にて、災害発生時に各部門・事業所・子会社での対応や復旧が滞りなく行われるよう、策定・検証及び見直しを行っています。

 

  ④ 指標と目標

[CO2削減目標]

  当社は、2050年のカーボンニュートラル(Scope1,2)を掲げ、 そのマイルストーンとなる2030年度目標について、鋼材部門は原単位で10%削減、その他部門は75%削減の全体で15%削減で設定しておりましたが、目標値の見直しを行い、全体で30%削減の159千㌧までに拡大いたしました。(2013年度比)


 

◆カーボンニュートラル達成ロードマップ


[足元の進捗]

鋼材部門以外のその他の部門については、2030年度75%削減目標の達成に向け、以下の通り進捗しております。

◆ばね事業(千葉製作所): 2022年度~ 使用する電力の100%をCO2フリー電力へ移行したことにより、CO2排出量約50%削減を達成。2025年度からの再生可能エネルギーへの一部置換えに向け準備中。

◆素形材事業(広田製作所):2023年度~ 使用する電力の100%をCO2フリー電力へ移行したことにより、CO2排出量約90%削減を達成

※ CO2フリー電力および再生可能エネルギーはどちらもCO2排出量ゼロで発電されますが、発電に用いられる設備もリサイクルが可能な再生可能エネルギーの方が、よりカーボンニュートラルに寄与する電力を指しております。

 

今後、今回引き上げた目標達成に向け、鋼材部門についても取り組みを進めていきます。

 

[インターナルカーボンプライシング(ICP)の導入]

当社は、2022年度下期より国内事業においてICPを用いてCO2削減効果を仮想金額で上乗せすることで、カーボンニュートラル関連の設備投資を推進しております。

- 内部炭素価格:10,000円/t-CO2

- 適用範囲:国内外すべての設備投資

 

[Scope3 カテゴリー別CO2排出量]

(単位:千㌧-CO2)

カテゴリー

2022年度

2023年度

算定方法

1.購入した製品・サービス

1,444

1,481

原材料の購入量または購入額にCO2排出原単位を乗じて算出

2.資本財

6

10

設備投資額にCO2排出原単位を乗じて算出

3.Scope1、2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動

16

14

購入電力量、燃料の使用量にCO2排出原単位を乗じて算出

4.輸送・配送(上流)

3

8

省エネ法報告の燃料使用量及びカテゴリー1購入量にCO2排出原単位を乗じて算出

5.事業から出る廃棄物

2

2

廃棄物量にCO2排出原単位を乗じて算出

6.出張

0

0

従業員数にCO2排出原単位を乗じて算出

7.雇用者の通勤

1

1

従業員数にCO2排出原単位を乗じて算出

9.輸送、配送(下流)

6

6

省エネ法報告の燃料使用量および個別輸送毎にCO2排出原単位を乗じて算出

15.投資

3

4

保有株会社のCO2排出量に資本比率を乗じて算出

合計

1,479

1,525

 

 

 

※「TCFD提言に基づく情報開示」の詳細につきましては、当社ウェブサイト「サステナビリティ」ページ(https://www.mitsubishisteel.co.jp/sustainability/environment/tcfd/)をご覧ください。

 

 

(3)人的資本

  当社グループでは、社員一人ひとりが持つ力を伸ばし、会社の強みとしていく人的資本の活用が、当社グループにとって持続的成長の必須条件であると認識し、人材育成とダイバーシティ、職場環境の改善を重視し、社内におけるサステナビリティ対応として取り組みを進めています。

 

  ① ガバナンス

  人的資本に関するガバナンスについては、サステナビリティ戦略のガバナンスに組み込まれています。詳細は、「(1)サステナビリティ戦略-①ガバナンス」をご覧ください。

 

  ② 戦略

[従業員エンゲージメントの向上]

 当社では、人的資本経営の実現に向けて、以下のサイクルを継続して実施し、経営層が先頭に立って変革を推進していくことで、“すべての社員がその能力を十分に発揮できる環境”を目指してまいります。

 具体的には、「2030年のありたい姿」の実現に向けて、人的資本経営に向けた各施策を進めつつ、タウンホールミーティング実施による意見の吸い上げや、エンゲージメントサーベイを通した評価・分析を行うことで、継続的に改善を進めることのできる体制を構築しています。

 


 

1.課題達成に向けた計画の立案

 当社グループでは、2023年度~2025年度を対象とする「2023中期経営計画」にて、2030年のありたい姿「人を活かし、技術を活かし、時代の波に乗り続ける企業でありたい」に向けた4つの基本方針の一つとして「人材への投資」を掲げています。

 同計画で掲げた以下の施策を進めることで、生産性向上とイノベーションを実現してまいります。

 


2.改善施策・実行

 人的資本経営の実現に向け、近年実施した主な取り組みは以下の通りです。

・過去最高水準となる大幅な賃金改善を実行(定期昇給と合わせると約9%の賃金改善)

・福利厚生・手当の拡充

・語学・資格取得プログラムの強化

・異動を希望する従業員への機会提供の仕組みを導入

 

3.モニタリング・可視化(エンゲージメントサーベイ)

2023年8月に、当社として初となるエンゲージメントサーベイを実施しました。

今回の調査により明らかになった当社の主な弱みとしては、

・職場環境(施設・設備面)

・上司と部下のコミュニケーションや部下の育成

等が挙げられます。

今回の結果を受け、明らかになった課題に対し改善に向けた施策に取り組むとともに、今後も調査を毎年実施することで、定期的にモニタリングを行ってまいります。また、中期経営計画のKPIとしても「エンゲージメントサーベイスコアの前年比改善」を掲げており、継続的な改善を行うことで、従業員エンゲージメントの向上を図ってまいります。

 

4.さらなる改善に向けた結果の分析と共有

[結果の共有]

エンゲージメントサーベイの結果については、経営会議・取締役会で報告を行うとともに、社内広報媒体にて、結果概要の報告を行っています。また管理職については、各拠点にて別途「エンゲージメントサーベイ結果共有会」を実施し、サーベイ結果の読み解き方やそれに対するアクションプランの立て方を外部の専門業者の方から説明いただく機会を設けています。

[改善に向けた取り組み]

今回のサーベイで明らかになった課題に対し、現在以下の取り組みを進めています

・職場環境(施設・設備面)

主に各製作所の現場において、夏季の暑さ対策や、駐車場・風呂場等の職場環境の改善の要望が多く挙がりました。これを受け、各事業所における施設環境の改善費用として、2024年度に約5億円の予算を設け、施設環境の改善を進めています。

・上司と部下のコミュニケーションや部下の育成

ロールプレイングを用いた研修を実施し、部下の自律性を促進し、モチベーションを維持するための効果的なコミュニケーションの習得を図るとともに、個々のレベルを測定し課題の抽出を進め、マネジメント層の質の底上げを行うことで、部下育成の強化を進めています。

さらに、部門ごとの重点課題については、結果共有会を活用して各管理職がアクションプランを作成し、計画に沿って改善を進めています。

 

 ●改善サイクルを支える仕組み(会社と従業員の対話の機会) 

 当社では、会社と従業員が対話できる機会を積極的に設けることで、さらなるエンゲージメント向上に向けた改善活動を進めています。 

 従来から、人事部や各事業所と労働組合との対話の機会を定期的に設けているほか、「生活総点検活動」として、従業員の要望を労働組合から書面で会社側に提出する仕組みを構築しています。

  また当社では、従業員の日頃の困りごとや要望等の“生の声”を吸い上げることを目的に、タウンホールミーティングを実施しています。ここで出た意見や要望は、エンゲージメントサーベイの結果等とあわせて、改善に向けた施策に取り入れることで、より実効性の高い従業員エンゲージメントの向上策につなげてまいります。

[タウンホールミーティング]

  「離職防止による優秀な人財の確保」、「中堅社員の業務における成果を福利厚生などの施策で還元していく仕組み作り」、「社員一人ひとりのワークエンゲージメントの向上」を目的として、社長・専務が本社及び各主要生産拠点を回り、対面で直接従業員との対話を行っています。

 

[人材育成]

 当社では2030年のありたい姿「人を活かし、技術を活かし、時代の波に乗り続ける」の実現に向け、人材の育成を進めています。

 現在のフェーズでは主に、事業環境の変化が激しい中で、新たな価値を生み出し企業価値の向上につなげるために必要と考えられる「DX人材」や「イントラプレナーシップ人材」等の育成を進めることで、当社の持続的成長に向けた人材育成の土壌づくりを進めています。

 

・DX人材の育成

 当社では、各事業(製品)に精通した多様な人材が多く働いていますが、その多くはビジネス人材(A)です。一方、システム部門のメンバーは、高いデジタルリテラシーを保有しており、その多くはDX技術人材(B)です。

 目標の達成には、ビジネスとデジタルの双方を深く理解して、ビジネス人材(A)とDX技術人材(B)をつなぐDXビジネス人材(C,C+)が必要不可欠です。そのために、全社員にDXリスキリングを行い、デジタルを標準装備します。

 当社では、このDXビジネス人材(C+)を全社で拡大していく方針です。新しいデジタル技術の活用やRPAによる業務改善推進等を通じて、2025年度までに 100名育成を目指します。

 


 

・イントラプレナーシップ人材の育成

 当社は「2030年のありたい姿」の実現に向けて、戦略事業の育成を推進しており、「新規事業創出」も重要なテーマの一つと位置付けています。一方で、新規事業を生み出すことのできる人材の不足や、アイデアが生まれやすい風土醸成・仕組みづくりといった課題も多く存在していました。こうした状況を踏まえ、2023年度より公募型研修『新規事業創出チャレンジ』を開始しています。このプログラムは自ら課題を見つけ自ら解決していくイントラプレナーシップ人材の育成を目的としたもので、外部支援業者の全面的なサポートを受けながら、考案した新規事業アイデアをビジネスに進化させるためのノウハウ獲得を目指しています。

 初年度となる今年度は25件の応募があり、専門的かつ実践的なトレーニングによる事業アイデアのブラッシュアップや3回に渡るオーディションを経て、最終選考まで勝ち残った3名が経営層に対して報告会を行いました。今後は、発案者が中心となってビジネスモデルの実現可能性を検証し、事業化を目指していく予定です。

 こうした取り組みを今後も継続して実施していくことで、新規事業のアイデアが生まれやすい社内の風土づくりとそれを担う人材の育成を進めてまいります。

 

 

 リスク管理

  人的資本に関する主なリスクについては、サステナビリティ戦略のリスクに含めて管理しています。詳細は、「(1)サステナビリティ戦略-③リスク管理」をご覧ください。

 

  ④ 指標と目標

項目

目標値

2023年度実績

有給休暇取得率

75

75.0

エンゲージメントサーベイ

前年以上の得点

―(※1)

女性従業員比率

2025年まで15

13.6

女性管理職比率

2025年まで10

3.9%(※2)

 

※1 エンゲージメントサーベイは、2023年度より新たに実施のため、前年との比較は2024年度より実施。

※2 女性管理職比率は当期未達となりましたが、管理職候補層の女性比率は、2022年度1.8%から2024年4月時点では8.3%と大きく改善しており、次世代管理職の女性人材の育成が進んでいます。

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

[経営環境に関するリスク]

(1)製品需要の変動

当社グループの製造する特殊鋼鋼材は、国内外の需給や市況等、需要分野の動向によって数量、価格とも影響を受けます。また、中国の粗鋼生産膨張や新興国の増産が世界の鋼材価格の引き下げ要因となり、当社グループの生産活動に悪影響を及ぼす可能性があります。

また当社の主要製品の多くは、主に自動車・建設機械業界に納入されており、日本、北米、アジアを中心とした当社グループの主要市場における製品需要の動向は、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。特に建設機械業界向けは需要変動のボラティリティが高く、また業界の特性上、需要変動によりサプライチェーン上で中間在庫調整が行われるため、当社グループは実需変動以上の影響を受ける可能性があります。また、中長期的にはEVやCASEの進展による需要構造の変化の影響等を受ける可能性があります。 

当社といたしましては、素材となる特殊鋼から製品までを一貫して製造するメーカーであることを強みとし、既存にとらわれない顧客のニーズに対応した製品を提供することで、受注量の維持・拡大を図り、需要変動影響を軽減してまいります。また中長期的には、国内特殊鋼鋼材や自動車ばね等の基盤事業の強化を図るとともに、需要が旺盛な海外鋼材事業、EV・CASE進展に伴い需要拡大が見込まれる特殊合金粉末と精密部品、再生可能エネルギー関連の洋上風力関連機器等の戦略事業の育成を進めることで、事業ポートフォリオの変革を推進し、持続的成長に向けた事業体質を構築してまいります。

 

(2)原材料・副資材・エネルギー価格等の上昇

当社グループの主要製品は、鉄鉱石、石炭を使用して生産される溶鋼及び合金鉄を主要原料としており、これ らを外部調達しております。また、電極・耐火物等の副資材につきましても同様であり、さらには電力・ガス等のエネルギーを消費しております。これらの主要原料及び副資材等の価格上昇分に加え、高騰する労務費や物流費につきましても売価転嫁に努めておりますが、売価転嫁が不十分な場合には、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

 

(3)海外拠点及び周辺国におけるリスク

当社グループは、北米・中国・東南アジア等に海外事業拠点を有しております。当該国及び周辺国における政治・経済・社会的混乱(戦争・内乱・紛争・暴動・テロを含む。)や法的規制等、更には国際的な貿易規制や関税の変更、国家・経済圏間における貿易協定に起因する影響を受けるリスクがあり、これらの影響を受けた場合には、業績に影響が生じる可能性があります。

貿易規制や関税の変更等に対しては、適切な対応を行うとともに、各拠点の原材料調達構造改革を進めることで影響の軽減に努めております。

 

(4)外国為替相場の変動

当社グループは、原材料等の輸入及び製品等の輸出において外貨建取引を行っております。また、当社グループの外貨建取引及び連結財務諸表作成のための海外子会社の財務諸表数値は、外貨から円貨への換算において、為替相場変動の影響を受けることとなります。ヘッジ契約等の対応をしておりますが、為替相場変動のリスクを完全に排除することは困難であり、変動影響を大きく受けた場合には、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

なお、為替変動リスク回避のため、海外子会社への親子ローンに実施している為替ヘッジについて、日本と諸外国の金利差により、当期において為替ヘッジコストが増大しました。これについては、特に為替ヘッジコストの負担が大きかった北米MSSCにおいて、さらなる成長に向けた増資を実行し、融資から資本へ切り替えたことにより、今後のコスト増大リスクは軽減されています。

 

(5)金融市場の変動や資金調達環境の変化

当社グループは、事業活動に必要な資金を金融機関からの借入により調達しており、金利情勢、その他の金融市場の変動が業績等に影響を与える可能性があります。また、健全な財務体質の維持に努めておりますが、景気の後退や金融市場が悪化した場合や、当社グループの信用低下等により必要な資金を必要な時期に適切な条件で調達できない場合には、資金調達コストが増加することにより、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

 

[事業戦略・計画の遂行に関するリスク]

(6)固定資産の減損損失

当社グループは、これまで行った設備投資による有形固定資産・無形固定資産等を有しており、今後も持続的成長に向けた新たな設備投資を計画しております。しかし、経営環境の変化等により、収益性が低下し、投資額が回収できない場合、固定資産の減損損失の計上等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。これらのリスクに対し、投資判断については、投融資委員会による妥当性やリスク等を精査する体制を整えています。また投資実施後は、ROICを用いた事業分析を活用することで、不採算事業については早期に改善策を講じるとともに、必要に応じて撤退や売却の検討を行うことで、リスクの軽減を図ってまいります。

 

 

(7)競争優位性及び新技術・新製品の開発・事業化に係るリスク

当社グループは、国内鋼材事業と自動車ばね事業の基盤事業に加え、「環境対応」「海外事業」「EVシフト」をキーワードとした5つの戦略事業の育成を推進しています。戦略事業を含めた当社グループが展開する各事業において、当社グループと同種の製品を供給する競合会社が存在しております。顧客ニーズの把握、脱炭素社会を実現するための環境負荷低減に向けた製品を含む新技術・新製品の開発・事業化に努めておりますが、顧客ニーズの変化に適切に対応できなかった場合や新技術・新製品の開発・事業化が長期化した場合、開発案件が事業化できなかった場合には、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社業績や中長期計画に影響が生じる可能性があります。

当社グループといたしましては、素材となる特殊鋼から製品までを一貫して製造するメーカーである競争優位性の維持・強化に向けて、工場DXによる製造コスト削減や営業系DXの推進による顧客満足度の向上で競争力の強化を進めてまいります。また、基盤事業で創出した利益を戦略事業に積極的に投資することで、顧客ニーズの変化に対応できる技術開発・生産能力強化を進めてまいります。

 

[事業運営に関するリスク]

(8)自然災害・事故・感染症等の発生

当社グループは、大規模な自然災害等不測の事態の発生に備え、耐震面の強化など防災対策を強化しております。また、当社グループの生産設備の中には、高温、高圧での操業を行っている設備があり、高熱の生産物等を取り扱っている事業所もあります。対人・対物を問わず、事故の防止対策には万全を期しておりますが、万が一重大な労働災害、設備事故等が発生した場合には、当社グループの生産活動等に支障をきたし、業績に影響が生じる可能性があります。また、新型コロナウイルス等の感染症が世界的に流行した場合には、感染拡大防止による法令等に基づく事業活動及び社会活動の自粛要請等により、当社グループの事業活動に制約が生じる可能性があります。これらの不測の事態に備えるためにもBCP(事業継続計画)に関する施策としてサプライチェーンのリスクを想定し、国内外の供給体制を維持してまいります。

 

(9)環境規制や気候変動に伴う社会変革への対応に関するリスク

当社グループでは、事業活動において廃棄物、副産物等が発生いたします。そのため、環境マネジメントシステムを構築・運用し国内外の法規制を遵守し、環境保全活動を行っております。過去、現在、将来の事業活動に関し、環境に関する責任リスクを有しており、関連法規制の強化等によっては対応するための費用が発生し、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

また、国際社会では、2050年カーボンニュートラルへの要請が高まり、脱炭素化の動きが加速しております。当社グループは、2022年6月より、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づき、気候変動に起因する事業リスクやビジネス機会とその財務的影響等についての情報開示を行っております。自社のCO2排出量削減を進め、2050年のカーボンニュートラル実現を目指すとともに、お客様や社会全体のCO2削減に貢献する当社製品の開発・販売を進めることで、環境負荷低減に貢献するとともに、需要構造の変化にも対応してまいります。開示内容の詳細につきましては、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組-(2)気候変動(TCFD提言に基づく情報開示)」をご覧ください。
 

(10)製品の瑕疵・欠陥に係るリスク

当社グループの製品には、重要保安部品に該当するもの等、高い信頼性を要求されるものが存在し、各製造拠点において、世界的に認められた品質管理基準に従って製品を製造しております。製品の製造に当たっては、瑕疵・欠陥の生じた製品及び顧客とあらかじめ取り決めた仕様に満たない製品が市場に流出することのないよう厳格な品質管理体制を構築しております。また、本社管理部門にリスク管理室を置き、品質データー改ざん・偽装の防止が効果的にかつ確実に実施されることを目的とする監査マニュアルを作成し、それに基づいた各拠点の監査を実施しております。それでも尚、瑕疵・欠陥のある製品又は顧客とあらかじめ取り決めた仕様に満たない製品が万が一市場へ流出し、製品の補修、交換、回収、損害賠償請求又は訴訟等に対応する費用が発生した場合には、当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

 

(11)情報システムの障害、情報漏洩等

当社グループの事業活動は、情報システムの利用に大きく依存しており、情報システムの利用とその重要性は増しております。震災等による情報システムのBCP対策としてシステムのクラウド化または二重化等でより安定的なシステム運用の取り組みを行っております。また、自社及び顧客・取引先の営業機密や技術情報、個人情報等の機密情報を保有しておりますが、機密情報の漏洩対策については最重要の経営課題として認識し、システムによる防御対策に加えて従業員への教育を含む、情報セキュリティ強化を行っております。しかしながら、当社グループの情報システムにおいて、悪意ある第三者からのウイルス感染等のサイバー攻撃により、システム停止、機密情報の外部漏洩や棄損・改ざん等の事故が起きた場合、生産や業務の停止、知的財産における競争優位性の喪失、訴訟、社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。なお、これら万が一の不測の事態に対し被害を最小限に留められるよう、グループ全社でサイバーセキュリティ保険の加入を推進しています。

 

(12)人材確保に係るリスク

当社グループは、事業の維持、成長のため、必要な人材の確保に努めておりますが、今後、国内生産年齢人口の減少傾向や人材の流動化の進展等により、人材の確保が想定どおりに進まない場合、安定的な生産体制が損なわれたり、当社の持続的成長の実現が難しくなる等、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。当社グループといたしましては、多様な背景を持つ従業員が持てる力を最大限に発揮するため、働き方改革や女性活躍の推進といったダイバーシティ&インクルージョンに取り組んでまいります。「2023中期経営計画」でも、「人材への投資」を基本方針の一つに掲げ、教育・福利厚生の拡充等を積極的に行い、優秀な人材の安定的確保に向け努めてまいります。また、DXを活用した製造工程自動化による省人化等で、生産人口減少による人材不足への対応も行ってまいります。人的資本の取り組みの詳細は、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組-(3)人的資本」をご覧ください。

 

[その他のリスク]

(13)法令・公的規制

当社グループは、日本国内及び事業展開する各国において、環境、労働・安全衛生、通商・貿易・為替、知的財産、租税、独占禁止法等の事業関連法規、その他関連する様々な法令・公的規制の適用を受けております。

当社グループは、内部統制体制の充実を図り、従業員に向けての周知、徹底を行い、法令・公的規制の遵守に努めておりますが、万が一、遵守できなかった場合、課徴金や行政処分を課されるなどにより業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、これら法令・公的規制が改正もしくは変更される場合、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

 

 (14)人権

当社グループは、国内外で事業を行い、サプライヤーも国内外多数の国に及んでいます。当社グループやサプライチェーンにおいて、差別やハラスメント、強制労働や児童労働など人権に係る問題が発生し、適正に対応がされなかった場合、訴訟や行政罰、社会的信用の低下等が生じ、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。

当社グループは人権の尊重が事業活動の基本であるとの考えのもと、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、「三菱製鋼グループ人権方針」を定めております。本指針は当社グループのすべての役員および従業員に適用されます。従業員向けの人権に関する研修の実施に加え、人権デューデリジェンスの実施や救済メカニズムの構築等により、当社の人権尊重の取り組みを強化してまいります。なお、2023年度は国内外のグループ会社を対象とした人権デューデリジェンスを実施し、是正が必要な問題は無いことを確認しております。2024年度は対象範囲をサプライヤーまで広げ、人権デューデリジェンスを実施する予定です。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。

 

(1) 経営成績の状況の概要

 

当連結会計年度(2023年4月~2024年3月)において、当社グループの主要需要先である自動車業界では、半導体等の部品不足の緩和等により、前期と比べ生産台数の回復が進みました。一方、建設機械業界では東南アジア主要国での選挙戦によるインフラ投資の停滞や欧州での金利高止まり等の影響により、下期以降需要が減少したほか、産業機械・工作機械業界でも、中国の景気悪化の影響が大きく、需要減少となりました。
 また調達コスト面では、高値圏が続く原材料市況と円安の進行により原材料輸入コストが増加しているほか、エネルギー価格の高止まりに加え、物流費や労務費等の諸コストも上昇しています。
  このような状況下、当社グループの連結売上高は、ばね事業において自動車需要回復に伴う売上数量増や売価転嫁の効果があったものの、特殊鋼鋼材事業の売上数量減影響等により、前期比5億9千4百万円(0.3%)減収1,699億4千3百万円となりました。連結営業利益は、北米ばね子会社の損益が著しく改善したものの、国内特殊鋼鋼材事業の大幅な損益悪化により、前期比7億3千9百万円(13.3%)減益48億8百万円となりました。

  また、親会社株主に帰属する当期純損失は、金利上昇に伴う支払利息の増加及び前期に計上した保険金収入等の減少に加え、ばね事業のドイツ及び中国子会社で減損損失を計上したことにより、前期比31億5千9百万円減益9億6千9百万円の損失(前期は親会社株主に帰属する当期純利益21億9千万円)となりました。

   セグメントの業績を示すと、次のとおりであります。

 

特殊鋼鋼材事業の売上高は、前期比112億9千4百万円(11.3%)減収888億5千万円となりました。建設機械の需要減とそれに伴うサプライチェーンにおける中間在庫調整の影響に加え、産業機械・工作機械の需要減が継続していることにより、減収となりました。営業利益は、前期比40億3千8百万円(63.6%)減益23億1千1百万円となりました。インドネシア海外事業ではスクラップ価格の下落等により増益となったものの、国内事業の売上数量減とそれに伴う生産性・原単位の悪化に加え、前期における価格急騰前の安価な原材料在庫使用による増益影響が無くなること等から、減益となりました。

 

ばね事業の売上高は、前期比107億1千1百万円(17.9%)増収705億7千万円となりました。原材料やエネルギー価格等の高騰に対する売価転嫁の効果や自動車生産の回復に伴う売上数量増に加え、円安による換算影響が大きく寄与しました。営業利益は、前期比31億2千9百万円改善し、9億6千2百万円と6期ぶりの営業黒字(前期は営業損失21億6千6百万円)となりました。北米子会社の損益が、不採算製品の値上げ等による売価改善の進展により、大幅に改善しました。

 

素形材事業の売上高は、前期比7億9千1百万円(7.8%)減収94億1千9百万円となりました。タイ子会社での精密鋳造品の売上回復は進んだものの、鋳鋼製品(エスコ)生産終了に伴う売上数量減により減収となりました。一方、営業利益はタイ子会社での不採算製品の値上げ及び固定費削減を含むコスト改善により、前期比2億2千9百万円(43.9%)増益7億5千1百万円となりました。

 

機器装置事業の売上高は、前期比2億8千4百万円(2.8%)減収100億1千8百万円となりました。リサイクル需要の高まりで磁力選別機等の売上は増加したものの、洋上風力関連の大型案件が前期に終了したことにより、前期比減となりました。営業利益は、各種製品の生産性向上により、売上減の影響を最小限に抑え、前期比2千万円(2.9%)減益7億4百万円となりました。

 

その他の事業は、流通及びサービス業等でありますが、売上高は、前期比1億5千2百万円(4.3%)減収34億1千1百万円、営業利益は、前期比2千9百万円(27.3%)減益7千8百万円となりました。

 

(2) 財政状態

①資産

当連結会計年度末の総資産は1,470億7千1百万円で、前連結会計年度末と比較し93億3千8百万円の減少となりました。その内訳は次のとおりであります。

1 流動資産:128億9千1百万円減少

借入金の返済等による現金同等物の減少33億8千3百万円、有価証券(譲渡性預金等)の減少50億円、棚卸資産の減少15億8千6百万円等によるものであります。

 

2 有形固定資産:4億5千5百万円増加

設備投資による増加41億7千2百万円、為替の変動による増加13億3千6百万円、減価償却等による減少36億9千7百万円、減損損失による減少13億1千5百万円等によるものであります。

 

3 無形固定資産:4千6百万円増加

設備投資による増加4億2千3百万円、減価償却による減少3億3千9百万円等によるものであります。

 

4 投資その他の資産:30億5千1百万円増加

退職給付に係る資産の増加23億3千9百万円等によるものであります。

 

②負債

当連結会計年度末の負債総額は992億3千8百万円で、前連結会計年度末と比較し74億8千3百万円の減少となりました。その内訳は次のとおりであります。

1 流動負債:7億2千9百万円減少

買掛金の増加11億5千4百万円、契約負債の減少額10億5千3百万円、未払法人税等の減少6億6千7百万円等によるものであります。

 

2 固定負債:67億5千3百万円減少

長期借入金の返済89億6千7百万円、退職給付に係る負債の増加11億6千3百万円等によるものであります。

 

③純資産

当連結会計年度末の純資産は、478億3千2百万円となり、前連結会計年度末と比較して18億5千5百万円の減少となりました。これは当期純損失及び配当金の支払いによる利益剰余金の減少19億7千3百万円、為替換算調整勘定の減少12億1千万円、退職給付に係る調整累計額の増加6億7千1百万円等によるものであります。

この結果、自己資本比率は28.0%となり、前連結会計年度末と比較して2.2%減少いたしました。

また、1株当たりの純資産額は、前連結会計年度末の2,831円47銭から2,704円29銭となりました。

 

(3) キャッシュ・フロー

当連結会計年度のキャッシュ・フローは営業活動で64億7千7百万円の収入、投資活動で39億7千1百万円の支出、財務活動では116億7百万円の支出となりました。

この結果、現金及び現金同等物は当連結会計年度に83億8千3百万円減少し、当連結会計年度末残高は222億1千5百万円となりました。

 

〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕

法人税等の支払額20億4千万円、利息の支払額17億8千2百万円、その他の増加額53億4千3百万円等の支出があった一方、税金等調整前当期純利益7億3千8百万円、減価償却費41億3千9百万円、売上債権の減少額38億2千9百万円、棚卸資産の減少額31億5千7百万円等の収入がありましたので、営業活動全体として64億7千7百万円の収入となりました。

 

〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕

有形固定資産の取得による支出36億3千7百万円等の支出がありましたので、投資活動全体として39億7千1百万円の支出となりました。

 

〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕

借入金による収入12億円等の収入があった一方、借入金の返済110億9千2百万円、配当金の支払い9億9千8百万円等の支出がありましたので、財務活動全体として116億7百万円の支出となりました。

 

 

(4) 生産、受注及び販売の状況

(1)生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

特殊鋼鋼材事業

74,428

△9.2

ばね事業

57,555

16.9

素形材事業

9,442

△9.2

機器装置事業

9,924

△2.6

合計

151,350

△0.3

 

(注)金額は販売価格によっております。

 

(2)受注状況

当社グループでは、主に国内外の需要家への最近の納入実績、各需要家の予測情報などに基づいた生産を行っており、該当事項はありません。

 

(3)販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

特殊鋼鋼材事業

88,850

△11.3

ばね事業

70,570

17.9

素形材事業

9,419

△7.8

機器装置事業

10,018

△2.8

その他の事業

3,411

△4.3

調整額

△12,326

(―)

合計

169,943

△0.3

 

(注)最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績金額及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

日本製鉄株式会社

22,338

13.1

18,668

11.0

 

 

(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

① 資本の財源及び資金の流動性

 1 資金需要

当社グループの主な資金需要は、製品製造のための材料や部品の購入及び設備投資によるものであります。

 

2 財務政策

当社グループは、設備投資を厳選して実施することで財務の健全性を保ちながら、営業活動によるキャッシュ・フロー収入を基本に、将来必要な運転資金及び設備資金を調達していく考えであります。

 

② 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。当社グループが採用している会計方針において使用されている重要な会計上の見積り及び前提条件は、以下の事項及び「第5  経理の状況(重要な会計上の見積り)」に記載しております。

連結財務諸表の作成にあたって、当社経営陣は決算日における資産・負債の金額、並びに報告期間における収益・費用の金額のうち、見積りが必要となる事項につきましては、過去の実績・現在の状況を勘案して可能な限り正確な見積りを行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これら見積りと異なる場合があります。連結財務諸表に関して、認識している特に重要な見積りを伴う会計方針は、以下のとおりです。

 

 (減損会計における将来キャッシュ・フロー)

当社グループは、固定資産のうち減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。減損の兆候の把握、減損損失の認識及び測定に当たっては慎重に検討しておりますが、事業計画や市場環境の変化により、その見積り額の前提とした条件や仮定に変更が生じた場合、将来キャッシュ・フローや回収可能価額が減少し、減損損失が発生する可能性があります。

 当社グループは、「第5経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結損益計算書関係) ※8減損損失」に記載のとおり、当連結会計年度において減損損失(1,315百万円)を計上しております。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 技術導入

 該当事項はありません。

 

(2)技術援助契約

契約会社名

相手先の名称

相手先の

所在地

契約の内容

契約締結日

契約期限

三菱製鋼㈱
(当社)

PT.JATIM TAMAN STEEL MFG.

インドネシア

特殊鋼のビレット、棒鋼及び平鋼の製造技術に関する技術提携

2014年
8月11日

2024年
8月10日

三菱製鋼㈱
(当社)

PT.INDOSPRING Tbk.

インドネシア

自動車用板ばねの製造技術に関する技術提携

1978年
6月19日

2025年
2月13日

(自動更新)

三菱製鋼㈱
(当社)

STUMPP SCHUELE &SOMAPPA AUTO SUSPENSION SYSTEMS PVT.LTD

インド

自動車サスペンション用巻ばね及びスタビライザの製造技術に関する技術提携

2014年
4月1日

2025年
3月31日

三菱製鋼㈱

(当社)

PT.INDOSPRING Tbk.

PT.INDONESIA PRIMA SPRING

インドネシア

熱間及び冷間成形巻ばねの製造技術に関する技術提携

2019年

3月11日

2025年
3月31日

(自動更新)

三菱製鋼㈱

(当社)

PT.INDOSPRING Tbk.

PT.INDONESIA PRIMA SPRING

インドネシア

スタビライザの製造技術に関する技術提携

2019年
3月11日

2025年

3月31日

(自動更新)

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、技術開発センターに各セグメントの研究開発機能を集約し、材料から製品までの一貫した研究開発を進めてまいりました。また、産学連携等の共同研究により新しい分野も効率的に取り込んでまいりました。

当連結会計年度における研究開発費は1,787百万円で、その主な活動は以下のとおりであります。

特殊鋼鋼材事業関連では、鍛造・熱処理省略など省エネに関わる製品力向上に関する開発に取り組みました。

ばね関連では、ばね軽量化への対応(材料の開発、製造技術の開発)、原価低減に寄与する技術開発に取り組みました。

素形材関連では、特殊合金粉末の開発や生産技術の研究に取り組みました。

機器装置関連では、鍛圧機械、計装機器や環境装置の開発に取り組みました。