当社グループは、いかなる経営環境の変化にも対応できる企業体質を確立することを重要課題と認識し、競争力ある事業の育成を通じて、持続的かつグローバルに発展することを経営の基本方針としております。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
① 当社グループの現状認識について
当社グループを取り巻く経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大による世界的な需要の落ち込みや生産活動の減退により、当社の主要な取引先である自動車・建設機械・産業機械業界等の活動にも大きな影響が及びました。経済活動は持ち直しの動きが続いているものの、感染再拡大や半導体不足の影響も懸念されており、先行き不透明な状況が続いています。また、当社の特殊鋼鋼材の主原料である鉄鉱石・原料炭の価格が大幅に上昇しており、合金鉄やその他の諸コストも上昇基調にあります。当社グループではこれまでも、原材料価格の高騰を受けて、販売価格への反映を進めておりましたが、今年度も主原料価格のさらなる高騰が見込まれ、コストアップ分の販売価格への反映が重要な課題となっております。国内外で需給がタイトな中、高品質な製品の安定供給を続けるため、適正価格の構築に向け、引き続き対応を進めてまいります。
② コスト構造の抜本的見直し
当社グループでは、事業環境に左右されずに利益を確保できる事業体質への変革を目指し、全社的なコスト構造改革及び財務体質強化などの取り組みを行ってまいりました。北米拠点の集約及び国内における希望退職者の募集、海外拠点においても人員体制の効率化を実施し、損益分岐点を引き下げております。人員減に対しては、RPAの導入等を通して業務の効率化を進めるとともに、デジタルトランスフォーメーションを推進してまいります。
③ 中長期的な企業価値の向上
当社グループは、中長期的な企業価値向上を目指し、コーポレートガバナンス体制の基盤整備や、サステナビリティへの取り組みを強化しております。
■当社の取り組み

④ 中長期的な経営戦略
当社は、昨年5月29日に「2020中期経営計画」を公表いたしました。
初年度である2020年度は赤字海外事業の構造改革に注力し、海外子会社の収益性改善に目途をつけました。
また、製品開発力・モノづくり力・調達の構造改革等の中期経営計画の諸施策についても、概ね計画通り進捗しております。
「2020中期経営計画」の概要は以下のとおりです。
a. 「2020中期経営計画」スローガン
素材から製品まで一貫したモノづくりでお客様に付加価値を提供する
b. 目指す姿
・グループ総合力の発揮による利益率の向上と収益安定化を図る
・お客様のニーズの半歩先行く製品を開発し、新たな価値として提供する
c. 3大方針
◆海外事業の構造改革 <海外拠点の早期収益力アップが急務>
・インドネシアJATIMの黒字化と北米MSSCの早期止血・立て直し
・海外事業・拠点の統廃合の実施
◆製品力のさらなる強化 <顧客ニーズの半歩先を行く製品>
・お客様の声をスピーディに汲み上げ、製品に反映する総合力の強化
・メリハリをつけた技術開発項目見直しによる開発スピードアップ
◆素材から一貫生産ビジネスモデルの拡大
・三菱製鋼室蘭特殊鋼株式会社の鋼材を用いた軽量化ばねや、JATIM材を用いた板ばねの一貫生産ビジネスモデルを、建設機械用ばねやスタビライザ等に展開し、当社の素材から一貫生産の強みを発揮する
・単品的な製品ラインナップに留まっていた素形材製品を、その上下流含めた一貫生産ビジネスモデルとして強化する
d. 重要経営指標(KPI)
2022年度目標
・売上高 1,500億円
・営業利益 70億円
・ROE 8%以上
※2022年度数値目標設定時点では、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を織り込んでおりませんが、さまざまなリスクや変化等により売上高目標未達の場合にも、営業利益70億円、ROE8%以上の利益目標については必達すべく、諸施策を講じてまいります。
[特殊鋼鋼材事業]
国内事業は、当面は主要顧客である建設機械向けを中心に、需要は高い水準で推移すると見込んでおります。こうした環境のなか、原材料や一部合金鉄の高騰に対応する売価転嫁及び適正マージンの回復が大きな課題となっており、収益確保に向けて、販売価格の改善に注力してまいります。一方で、生産量の増加に適応した体制の構築を進めるとともに、コスト・品質改善を目的とした設備投資を着実に実施することにより、操業の効率化・安定化とコスト低減を徹底してまいります。
海外事業は、生産拠点である連結子会社「PT.JATIM TAMAN STEEL MFG.」での需要回復とコスト削減効果により、2020年下期に営業利益黒字となりました。一方で、足元のスクラップ価格高騰に対応する販売価格への反映の時期ズレが生じるため、今後時期ズレの期間短縮に注力してまいります。
[ばね事業]
国内事業は、軽量化・性能向上を軸に製品力強化を継続するとともに、マザー工場として海外子会社のモノづくり力サポートを積極的に進めてまいります。
海外事業は、喫緊の課題である北米拠点の黒字化について、巻ばねに続きスタビライザもカナダ工場等に集約し生産能力の適正化を図ることにより実現してまいります。また、他の海外拠点についてもコスト改善並びに軽量化製品による新規受注も増加しており、さらなる拡大を進めてまいります。
足元では、材料価格の上昇並びに世界的な半導体の需給ひっ迫による自動車生産への影響が懸念されますが、材料価格の上昇につきましては販売価格への反映の推進、また半導体の需給ひっ迫による自動車生産の変動につきましては、前広な情報収集並びに臨機応変な生産対応により、コスト影響を最小限に抑え、計画利益の達成に向け進めてまいります。
[素形材事業]
千葉製作所内へ新設し本格稼働を開始する千葉AMC(アドバンスト・マテリアルズ・センター)や、広田製作所内に新設した金属微粉末製造用の水アトマイズ試作ラインを最大限活用し、「製品力の向上」「新技術の開発」「モノづくり力の強化」を推進し、国内外拠点の支援強化を図ってまいります。
[機器装置事業]
三菱長崎機工株式会社では、既存事業における製品力強化による受注確保とコア技術を生かした新分野、成長産業への展開を進め、お客様の多様なニーズへ対応する総合エンジニアリングメーカーとして持続的成長を目指してまいります。
また、三菱製鋼グループ内の連携を強化し、製品コスト削減と輸出の拡大を進めてまいります。
当社グループの主要な取引先である建設機械業界においては、好調な需要が見込まれ、自動車業界においても、半導体不足による生産減の懸念があるものの、国内外の需要回復が見込まれています。
◇売上高は主に特殊鋼鋼材事業の需要回復により大幅な増収を見込んでいます。
◇営業利益は、売上げの大幅な増加に加え、以下の要因もあり前期比大きく改善する見込みです。
・国内鋼材で高炉改修に伴う一過性費用約30億円が解消されます。
・希望退職実施等によるコスト削減効果が表れます。
ただし、鉄鉱石などの主原料価格高騰分の販売価格への反映にタイムラグがあること、また半導体不足影響等もあり、上期0億円に留まります。下期は、それらの要因が解消し、通期では30億円を見込んでいます。
また、2022年3月期は、政策保有株式、遊休不動産の売却を実施し、特別利益35億円の計上を見込んでいます。
◇2022年3月期の配当につきましては、業績予想値及び中期経営計画の進捗を考慮し、1株当たり年間配当30円(中間配当10円、期末配当20円)を予定しております。

(4)中期経営計画の進捗
■総括
◇2020年中期経営計画として、3年間の1年目が経過。
◇足元、コロナ禍、半導体供給不足、原材料高騰などのリスクや、環境変化への対応が急務。
◇事業再生計画の柱は、インドネシアJATIM社と北米MSSCの黒字化。
・JATIM社については、構造改革、受注増もあり、2020年下期より営業黒字化。2021年度は営業黒字拡大見込み。
・MSSCについては、計画通り2021年度末にアメリカ工場をカナダ・メキシコに統合し、2022年度より営業黒字化見込み。
◇強固な事業体質を目指し、固定費削減で損益分岐点を1割引き下げ。
◇2022年中期経営計画最終年度の、営業利益70億円とROE8%以上の達成目標は不変。

■インドネシアJATIM社
歩留改善(歩留率の推移) 営業損益及び生産重量

◇インドネシアJATIM社再建計画進捗
・2020年度下期より営業黒字化。
・丸鋼の歩留改善が進みターゲットとなる平鋼並みを実現、安定化。
・2020年度は人員削減や給与カットを始め各種固定費削減により価格競争力強化。
・海外材の供給不足によるインドネシア国内市場価格の上昇及び乗用車・商用車などの需要急回復。
・懸念点としては、主原料価格急騰の販売価格反映の時期ズレとさらなる生産性向上。
■北米MSSC(アメリカ・カナダ工場)
◇損益見通し
営業損益の推移 固定費の推移(金額)

・2022年度は計画通り黒字化の見込み。
・2021年度からの一過性要因を除く+10億円の改善は、米国工場操業停止による固定費削減等で再建計画通り
実現。
・過去に発生または今後想定される事業リスク(一過性要因)のミニマム化も対応。
市場リスク 工場統合により損益分岐点を引き下げたことで、売上減少に耐性のある体質を確立
材料価格変動リスク 買いと売りの指標不一致が生じていたが、現在は8割まで指標一致が進み、残り2割についても
指標一致に目途
調達先リスク サプライヤーの供給リスクに対し複数購買先を確保済、また緊急時には三菱製鋼室蘭特殊鋼㈱材を
活用
為替リスク 支払いと販売の通貨バランスの最適化をし、リスクのミニマム化を完了
生産トラブル 大口新規案件は経営層とも共有、またマザー工場を活用し問題未然防止型の体制を整備
2022年度に向けた見通し
■2022年度は営業利益70億円達成を目指す
◇構造改革により、売上高に頼らずとも利益計画を達成する体質の確立。
・中期経営計画 : 売上高 1,500億円 営業利益 70億円 ROE 8%以上
↓
・売上高に頼らずとも、営業利益70億円とROE8%以上の達成目標は不変。
・損益分岐点を引き下げた結果、2021年度営業利益見通しは上期0億円、下期30億円。
上期は原材料価格急騰の販売価格反映時期ズレの影響があるため、下期が実力ベース。
・2022年度営業利益は、2021年度下期営業利益の2倍をベースに北米MSSC統合効果もあり、利益目標の達成を視野。
さらに、JATIM社など他の海外子会社の利益改善などで上振れの可能性もあり得る。
売上高及び営業損益

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
[経営環境に関するリスク]
(1)製品需要の変動
当社グループの製造する特殊鋼鋼材は、国内外の需要分野の需給や市況等、需要分野の動向によって数量、価格とも影響を受けます。また、中国の粗鋼生産膨張や新興国の増産が世界の鋼材価格の引き下げ要因となり、当社グループの生産活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社の主要製品の多くは、主に自動車・建設機械業界に納入されており、日本、北米、中国、アジアを含む当社グループの主要市場における、同業界の景気後退及び需要の縮小は、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。また、新型コロナウイルス感染症につきましては、ワクチン普及により徐々に経済活動の正常化が進むことが期待されますが、先行きについては依然として不透明な状況にあります。変異種の流行による感染の再拡大などにより需要が縮小する場合には、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。当社といたしましては、素材となる特殊鋼から製品までを一貫して製造するメーカーであることを強みとし、顧客のニーズに対応した製品に対応してまいります。
(2)原材料価格の上昇
当社グループの主要製品は、鉄鉱石、石炭を使用して生産される溶鋼及び合金鉄を主要原料としており、これらを外部調達しております。また、電極・耐火物等の副資材につきましても同様であり、さらには電力・ガス等のエネルギーを消費しております。これらの主要原料及び副資材等の価格上昇分につきましては売価転嫁に努めておりますが、市況の高騰分を売価転嫁できなかった場合には、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。原材料価格が急騰しているため、売価の改善に強く取り組んでまいります。
(3)海外拠点におけるリスク
当社グループは、北米・欧州・中国・東南アジア等に海外事業拠点を有しております。当該国における政治・経済・社会的混乱や法的規制等、更には国際的な貿易規制や関税の変更、国家・経済圏間における貿易協定に起因する影響を受けるリスクがあり、これらの影響を受けた場合には、業績に影響が生じる可能性があります。
貿易規制や関税の変更等に対しては、適切な対応を行うとともに、各拠点の原材料調達構造改革を進めることで影響の軽減に努めております。
(4)外国為替相場の変動
当社グループは、原材料等の輸入及び製品等の輸出において外貨建取引を行っております。また、当社グループの外貨建取引及び連結財務諸表作成のための海外子会社の財務諸表数値は、外貨から円貨への換算において、為替相場変動の影響を受けることとなります。ヘッジ契約等の対応をしておりますが、為替相場変動のリスクを完全に排除することは困難であり、変動影響を大きく受けた場合には、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
(5)金融市場の変動や資金調達環境の変化
当社グループは、事業活動に必要な資金を金融機関からの借入により調達しており、金利情勢、その他の金融市場の変動が業績等に影響を与える可能性があります。また、健全な財務体質の維持に努めておりますが、景気の後退や金融市場が悪化した場合や、当社グループの信用低下等により必要な資金を必要な時期に適切な条件で調達できない場合には、資金調達コストが増加することにより、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
[事業戦略・計画の遂行に関するリスク]
(6)中期経営計画の未達
当社グループは、2020年5月に「2020中期経営計画」を策定、公表いたしました。策定当時において適切と考えられる情報や分析等に基づき策定されておりますが、こうした情報や分析等には不確定要素が含まれており、事業環境の悪化その他の要因により、期待される成果の実現に至らない可能性があります。
「2020中期経営計画」に掲げた具体的諸施策を推進し、事業環境の変化やその他の要因に柔軟に対応し、中期経営計画達成に向け、グループ一丸となってまい進してまいります。
(7)設備投資、コスト改善の取り組み
当社グループは、「2020中期経営計画」期間内において最適生産体制の構築のため、約150億円の設備投資を計画しております。様々な外部要因や内部要因等により、新たな設備が計画通りに立ち上がらず効果が十分に発揮されない場合や、コストを計画通り改善することができない場合、固定資産の減損損失の計上等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
設備投資については、「2020中期経営計画」の重点施策の1つである「モノづくり向上」を通じて、国内のマザー機能を強化し、事後解決型から問題の未然防止型の体制へシフトすることで、投資効果を確実に回収してまいります。投融資委員会を設け、中立的立場から妥当性やリスクを精査する体制を整えております。同委員会の意見をもとに、重要案件は経営会議もしくは取締役会でも審議するとともに、その進捗や立ち上げ後の改善効果の計画対比についても適宜フォローしていくことで、損失の発生を未然に防いでまいります。
(8)競争優位性及び新技術・新製品の開発・事業化に係るリスク
当社グループが展開する各事業においては、当社グループと同種の製品を供給する競合会社が存在しております。顧客ニーズの把握、新技術・新製品の開発・事業化に努めておりますが、顧客ニーズの変化に適切に対応できなかった場合や新技術・新製品の開発・事業化が長期化した場合には、当社グループの成長性や収益性を低下させ、当社業績に影響が生じる可能性があります。当社グループでは、素材となる特殊鋼から製品までを一貫して製造するメーカーである競争優位性を維持できるよう、各事業に分散していたR&D機能を集約し、かつ開発要員の強化を図っております。また、営業戦略室を中心にマーケティング力を強化し、顧客ニーズに合った製品をタイムリーに開発する体制としております。今後も、技術開発を加速させ顧客ニーズに対応してまいります。
[事業運営に関するリスク]
(9)災害・事故・感染症等の発生
当社グループは、大規模な自然災害等不測の事態の発生に備え、耐震面の強化など防災対策を強化しております。また、当社グループの生産設備の中には、高温、高圧での操業を行っている設備があり、高熱の生産物等を取り扱っている事業所もあります。対人・対物を問わず、事故の防止対策には万全を期しておりますが、万一重大な労働災害、設備事故等が発生した場合には、当社グループの生産活動等に支障をきたし、業績に影響が生じる可能性があります。また、感染症が流行した場合には、法令等に基づく事業活動及び社会活動の自粛要請等により、当社グループの事業活動に制約が生じる可能性があります。BCP(事業継続計画)に関する施策としてサプライチェーンのリスクを想定し、国内外の供給体制を維持してまいります。
(10)環境規制や気候変動に伴う社会変革への対応に関するリスク
当社グループでは、事業活動において廃棄物、副産物等が発生いたします。環境マネジメントシステムを構築・運用し国内外の法規制を遵守し、環境保全活動を行っております。過去、現在、将来の事業活動に関し、環境に関する責任リスクを有しており、関連法規制の強化等によっては対応するための費用が発生する可能性があります。また、関連法規制の強化等によって、売却した工場跡地等であっても土壌汚染の浄化のための費用が発生するなど、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
また、国際社会では、急速に2050年カーボンニュートラルへの要請が高まり、今後、地球温暖化を契機とした低炭素化・脱炭素化の動きが加速していくことが予想されます。気候変動に伴うリスクとして、脱炭素社会に向けて企業に対する温室効果ガス排出の実質ゼロ実現への社会的要請が強まっており、今後カーボンプライシングや国境炭素税等が導入された場合には、コスト圧迫要因となる可能性があります。
(11)製品の瑕疵・欠陥に係るリスク
当社グループの製品には、重要保安部品に該当するもの等、高い信頼性を要求されるものが存在し、各製造拠点において、世界的に認められた品質管理基準に従って製品を製造しております。製品の製造に当たっては、瑕疵・欠陥の生じた製品及び顧客とあらかじめ取り決めた仕様に満たない製品が市場に流出することのないよう厳格な品質管理体制を構築しております。また、本社管理部門にリスク管理室を置き、品質データー改ざん・偽装の防止が効果的にかつ確実に実施されることを目的とする監査マニュアルを作成し、それに基づいた各拠点の監査を実施しております。それでも尚、瑕疵・欠陥のある製品又は顧客とあらかじめ取り決めた仕様に満たない製品が万が一市場へ流出し、製品の補修、交換、回収、損害賠償請求又は訴訟等に対応する費用が発生した場合には、当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
(12)情報システムの障害、情報漏洩等
当社グループの事業活動は、情報システムの利用に大きく依存しており、情報システムの利用とその重要性は増しております。震災等による情報システムのBCP対策としてシステムのクラウド化または二重化等でより安定的なシステム運用の取り組みを行っております。また、自社及び顧客・取引先の営業機密や技術情報、個人情報等の機密情報を保有しておりますが、機密情報の漏洩対策については最重要の経営課題として認識し、システムによる防御対策に加えて従業員への教育を含む、情報セキュリティ強化を行っております。しかしながら、当社グループの情報システムにおいて、悪意ある第三者からのウイルス感染等のサイバー攻撃により、システム停止、機密情報の外部漏洩や棄損・改ざん等の事故が起きた場合、生産や業務の停止、知的財産における競争優位性の喪失、訴訟、社会的信用の低下等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
(13)人材確保に係るリスク
当社グループは、事業の維持、成長のため、必要な人材の確保に努めておりますが、今後、少子化、景気回復による労働市場の需給バランスの変化や人材の流動化の進展等により、人材の確保が想定どおりに進まない場合、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。当社グループといたしましては、人材開発施策及び教育体系の構築に特化した部署を新設しました。教育体系の強化と人事制度の整備を通じて優秀な人材の安定的確保に努めてまいります。
[その他のリスク]
(14)法令・公的規制
当社グループは、日本国内及び事業展開する各国において、環境、労働・安全衛生、通商・貿易・為替、知的財産、租税、独占禁止法等の事業関連法規、その他関連する様々な法令・公的規制の適用を受けております。
当社グループは、内部統制体制の充実を図り、従業員に向けての周知、徹底を行い、法令・公的規制の遵守に努めておりますが、万が一、遵守できなかった場合、課徴金や行政処分を課されるなどにより業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、これら法令・公的規制が改正もしくは変更される場合、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。
(15)継続企業の前提に関する重要事象等
当社は、2020年3月期において事業計画の見直しに伴い海外子会社における固定資産に係る減損損失を計上したことにより、当連結会計年度の末日における連結の貸借対照表の純資産の部の金額が、2018年3月期の末日における連結の貸借対照表における純資産の部の金額の75%の金額以上に維持する規定に違反していることにより、当社を借入人とする財務制限条項付きのタームローン契約のうち、短期借入金5,000百万円が抵触している状況にあります。当社は、継続企業の前提に関する重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しておりますが、金融機関からは、期限の利益請求喪失事由の発生により貸付人が取得した契約上の借入人としての当社に対する権利を放棄することについて了承を得ております。また、北米拠点の集約、国内における希望退職者の募集及び海外拠点における人員削減などのコスト構造改革の実施、並びにコミットメントライン契約の締結による借入枠の確保により、2022年3月末まで十分な資金を有することが可能と判断していることから、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しております。
なお、当社の資金計画は、主要な顧客である建設機械・自動車・トラックメーカーの生産計画、受注予測や販売予測のほか、外部調査会社の調査情報に基づいて販売計画を作成しており、設備投資、コスト構造改革、有利子負債の返済と調達や資産の処分等を加味した資金計画となっております。
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。
当連結会計年度(2020年4月~2021年3月)における当社グループを取りまく経営環境は、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、大幅に悪化しました。経済活動は持ち直しの動きが継続しているものの、感染再拡大や半導体不足等の影響も懸念されており、先行き不透明な状況が続いています。建設機械業界では、米中貿易摩擦による昨年度からの国内メーカーの需要低迷に加え、新型コロナウイルスの影響により大幅に減少した需要は、年度後半にかけて急回復しております。自動車業界では、一時大幅減となった新車販売は、中国をはじめ北米や国内等で需要が回復しています。
このような状況下、当社グループの連結売上高は、前期比193億3千4百万円(16.5%)減収の978億4百万円となりました。連結営業利益は売上減の影響と、特殊鋼鋼材事業における高炉改修に伴う一過性費用増加の影響があり、固定費削減や海外拠点の改善効果等があったものの、前期比53億8千万円減益の49億4千3百万円の損失(前期は営業利益4億3千6百万円)となりました。
また、親会社株主に帰属する当期純損失は、55億2千8百万円(前期は親会社株主に帰属する当期純損失140億7千万円)となりました。
セグメントの業績を示すと、次のとおりであります。
特殊鋼鋼材事業につきましては、下期以降の需要は大幅に回復したものの、上期における昨年度からの建設機械及び産業機械・工作機械メーカーの需要低迷と、新型コロナウイルスの影響もあり、売上高は、前期比110億1千7百万円(19.7%)減収の448億7千9百万円となりました。営業利益は、国内事業では販売数量減に高炉改修費用及び高炉改修に伴う備蓄在庫取り崩しによる一過性費用増加の影響が加わり、損失となりました。一方、インドネシア海外事業では、第2四半期にあたる4~6月より新型コロナウイルスの影響を受けたものの、固定費を含めた製造コスト削減の効果や、前期の減損計上による償却負担の減少もあり、営業損益は、ほぼゼロまで回復しました。特殊鋼鋼材事業全体としては、前期比48億6千6百万円減益の36億1千9百万円の損失(前期は営業利益12億4千6百万円)となりました。
ばね事業につきましては、第1四半期での新型コロナウイルス感染拡大に伴う主要顧客の工場稼働停止や大幅な生産減の影響が大きく、第2四半期以降、主に北米・中国自動車向け及び建設機械向けの需要が大幅に回復したものの、売上高は、前期比67億7千4百万円(15.0%)減収の384億5千7百万円となりました。営業利益は、前期の北米子会社の新製品立ち上げトラブルの解消や、減損計上による償却負担の減少に加え、継続的なコスト削減及び第2四半期以降の需要回復により、下期大幅に損益を改善しました。しかしながら、通期では、新型コロナウイルスによる上期売上減の影響が大きく、前期比4億3千7百万円損失が拡大し、18億5千7百万円の損失(前期は営業損失14億2千万円)となりました。
なお、北米拠点の再編につきましては、巻ばねに続いてスタビライザの生産も、2022年3月期末完了を目指し、アメリカ工場からカナダ・メキシコ工場への移管を進めております。
素形材事業につきましては、新型コロナウイルスの影響による特殊合金粉末・精密機械加工部品の売上減に加え、磁気製品の事業撤退に伴う売上減少の影響もあり、売上高は、前期比12億2千3百万円(12.7%)減収の84億1千7百万円となりました。営業利益は、精密鋳造品等の品質・コスト改善による増益要因はあったものの、売上減の影響が大きく、前期比6千7百万円(75.9%)減益の2千1百万円となりました。
機器装置事業につきましては、鍛圧機械関連製品の売上増があったものの、新型コロナウイルスの影響に伴う商談遅延による短納期品の受注低迷により、売上高は、前期比13億1千万円(12.8%)減収の89億3千3百万円となりました。営業利益は、売上減の影響があったものの、高採算品の売上や各種コスト削減の積上げにより、前期比5千6百万円(14.3%)増益の4億5千2百万円となりました。
その他の事業につきましては、流通及びサービス業等でありますが、売上高は、前期比7億3千6百万円(20.6%)減収の28億3千4百万円、営業利益は、前期比4千9百万円(47.2%)減益の5千5百万円となりました。
当連結会計年度末の総資産は1,323億2千万円で、前連結会計年度末と比較し90億7千万円の減少となりました。その内訳は次のとおりであります。
1 流動資産:125億2千万円減少
借入金返済等による現金及び預金の減少63億1百万円、備蓄材取り崩し等によるたな卸資産の減少77億8千万円等によるものであります。
2 有形固定資産:4億7千9百万円減少
設備投資による増加28億2千6百万円、減価償却による減少26億9千8百万円、処分等による減少6億1千7百万円等によるものであります。
3 無形固定資産:2千4百万円増加
設備投資による増加1億6千2百万円、償却による減少4億3千9百万円等によるものであります。
4 投資その他の資産:39億4百万円増加
投資有価証券の時価評価による増加14億2千4千万円、退職給付に係る資産の増加27億5千2百万円等によるものであります。
当連結会計年度末の負債総額は875億4千7百万円で、前連結会計年度末と比較し55億2千8百万円の減少となりました。その内訳は次のとおりであります。
1 流動負債:13億3千4百万円増加
仕入債務の減少5億4千8百万円、短期借入金の増加13億8百万円、未払消費税等の増加9億8千8百万円等によるものであります。
2 固定負債:68億6千2百万円減少
長期借入金の減少78億4千8百万円等によるものであります。なお、当連結会計年度末の借入金残高は、短期・長期を合計して485億9千3百万円となり、前連結会計年度末と比較して65億4千万円減少いたしました。
当連結会計年度末の純資産は、447億7千3百万円となり、前連結会計年度末と比較して35億4千2百万円の減少となりました。これは利益剰余金の減少55億2千8百万円、その他有価証券評価差額金の増加10億9千5百万円、退職給付に係る調整累計額の増加11億6千6百万円等によるものであります。
この結果、自己資本比率は29.4%となり、前連結会計年度末と比較して0.7%減少いたしました。
また、1株当たりの純資産額は、前連結会計年度末の2,769円51銭から2,528円35銭となりました。
当連結会計年度のキャッシュ・フローは営業活動による37億7千7百万円の収入、投資活動で28億2千7百万円の支出、財務活動では70億5千3百万円の支出となりました。
この結果、現金及び現金同等物は当連結会計年度に63億1百万円減少し、当連結会計年度末残高は229億7千9百万円となりました。
〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕
税金等調整前当期純損失63億4千5百万円、売上債権の増加13億1千2百万円、仕入債務の減少6億4千8百万円、法人税の納付による6億3千6百万円等の支出があった一方、減価償却費32億3千8百万円、備蓄材取り崩し等によるたな卸資産の減少78億2千7百万円がありましたので、営業活動全体として37億7千7百万円の収入となりました。
〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕
有形固定資産の取得による支出39億4千5百万円等により、投資活動全体として28億2千7百万円の支出となりました。
〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕
借入金による収入が6億7千8百万円あった一方で、長期借入金の返済69億6千万円、リース債務の返済7億3千1百万円等により、財務活動全体として70億5千3百万円の支出となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)金額は販売価格によっております。
当社グループでは、主に国内外の需要家への最近の納入実績、各需要家の予測情報などに基づいた生産を行っており、該当事項はありません。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注)最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりであります。
(5) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
1 資金需要
当社グループの資金需要のうち主なものは、製品製造のための材料や部品の購入及び設備投資によるものであります。
2 財務政策
当社グループは、設備投資を厳選して実施することで財務の健全性を保ちながら、営業活動によるキャッシュ・フロー収入を基本に、将来必要な運転資金及び設備資金を調達していく考えであります。
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。当社グループが採用している会計方針において使用されている重要な会計上の見積り及び前提条件は、以下の事項及び「第5 経理の状況 1(1)連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)及び(追加情報)」に記載しております。
連結財務諸表の作成にあたって、当社経営陣は決算日における資産・負債の金額、並びに報告期間における収益・費用の金額のうち、見積りが必要となる事項につきましては、過去の実績・現在の状況を勘案して可能な限り正確な見積りを行っておりますが、実際の結果は、見積り特有の不確実性があるため、これら見積りと異なる場合があります。連結財務諸表に関して、認識している特に重要な見積りを伴う会計方針は、以下のとおりです。
当社グループは、繰延税金資産について、将来の利益計画に基づいた課税所得が十分に確保できることや、回収可能性があると判断した将来減算一時差異について繰延税金資産を計上しております。繰延税金資産の回収可能性は将来の課税所得の見積りに依存するため、その見積りの前提とした条件や仮定に変更が生じ減少した場合、繰延税金資産が減額され税金費用が計上される可能性があります。
当社グループは、退職給付債務及び退職給付費用について、数理計算上で設定される前提条件に基づき算出されております。これらの前提条件には、割引率、発生した給付額、利息費用、年金資産の長期期待運用収益率などの要素が含まれております。実際の結果がこれらの前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、その影響は累積され、将来の会計期間にわたって償却されるため、将来の退職給付費用に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、固定資産のうち減損の兆候がある資産又は資産グループについて、当該資産又は資産グループから得られる将来キャッシュ・フローの総額が帳簿価額を下回る場合には、帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。減損の兆候の把握、減損損失の認識及び測定に当たっては慎重に検討しておりますが、事業計画や市場環境の変化により、その見積り額の前提とした条件や仮定に変更が生じ減少した場合、将来キャッシュ・フローや回収可能価額が減少し、減損損失が発生する可能性があります。
当社グループは、「第5経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結損益計算書関係) ※8減損損失」に記載のとおり、当連結会計年度において減損損失(185百万円)を計上しております。
これは当社社員寮の借地権を売却することを決定したことに伴い、建物及び構築物を処分することから帳簿価額を備忘価額まで減額し、減損損失として計上しております。
(1) 技術導入
(注)契約期限について2020年12月1日から2021年11月30日までの更新を行いました。
当社グループは、技術開発センターに各セグメントの研究開発機能を集約し、材料から製品までの一貫した研究開発を進めてまいりました。また、産学連携等の共同研究により新しい分野も効率的に取り込んでまいりました。
当連結会計年度における研究開発費は
特殊鋼鋼材事業関連では、高清浄度鋼の製造技術の開発に取り組みました。
ばね関連では、ばね軽量化への対応(材料の開発、製造技術の開発)、グローバル化対応(海外材の評価、自動化・高生産性ラインの構築)に取り組みました。
素形材関連では、特殊合金の粉末や精密鋳造品の評価技術の開発に取り組みました。
機器装置関連では、鍛圧機械、計装機器や環境装置の開発に取り組みました。
また、全社としてIoT技術の開発(生産ラインの効率化・高付加価値製品の開発)に取り組みました。