文中において将来について記載した事項は、提出日現在において判断したものです。
当社の経営理念は、「存在意義」「使命」「信条」の3つのパートから構成されています。この経営理念は、有用性と信頼性の高い医薬品で世界の人々の健康に貢献し、企業価値を持続的に向上させることを目指していく当社の姿勢を表現しています。
アステラスの存在意義:先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する
・生命科学の未知なる可能性を、誰よりも深く究めたい。
・新しい挑戦を続け、最先端の医薬品を生み出したい。
・高い品質を確かな情報と共に届け、揺るぎない信頼を築きたい。
・世界の人々の健やかな生活に応えていくために。
・世界で輝き続ける私たちであるために。
アステラスの使命:企業価値の持続的向上
・アステラスは、企業価値の持続的向上を使命とします。
・アステラスは、企業価値向上のため、お客様、株主、社員、環境・社会など、すべてのステークホルダーから選ばれ、信頼されることを目指します。
アステラスの信条
アステラスの「信条」は、私たちが常に大事にする行動規範です。
アステラスは、これらの信条に共鳴し実践する人々の集団であり続けます。
高い倫理観: 常に、高い倫理観をもって、経営活動に取り組みます。
顧客志向: 常に、お客様のニーズを把握し、お客様の満足に向かって行動します。
創造性発揮: 常に、現状を是とせず、未来志向で自己革新に挑戦し、新しい価値を創造します。
競争の視点: 常に、視野広く外に目を向け、より優れた価値を、より早く生み出し続けます。
アステラスは、信条に則した行動を通じて、ステークホルダーの皆様への責任を適切に果たし続けるとともに、積極的な情報開示を行います。
製薬産業を取り巻く事業環境は時代とともに大きく変化しています。新薬開発の難易度の上昇、医療費抑制政策等マイナスの影響がある一方で、イノベーションを評価する制度の拡充や、科学技術の進歩に伴い、創薬に活用できる治療手段が増加するなどプラスの動きもあります。また、デジタル技術や工学技術の進歩は、異業種との融合を促し、患者さんに新しい医療ソリューションの提供を可能にします。当社は、これらの変化に柔軟に対応し、社会のサステナビリティへの貢献、その結果としてアステラスのサステナビリティに寄与する戦略を策定することで、企業価値を持続的に向上させ、革新的な医療ソリューションを患者さんに届け続けていきます。
①経営計画2021
当社は、「変化する医療の最先端に立ち、科学の進歩を患者さんの価値に変える」というVISIONの実現に向けて、2025年度までの5カ年にわたる「経営計画2021」を策定しました。「経営計画2021」では、2025年度までに着実な成長を実現し、成果へと結びつけることができるよう、4つの戦略目標、それを推進する企業風土を醸成するための“道しるべ”となる3つの組織健全性目標、それらが全て達成された際に到達できると考える3つの成果目標を設定しています。
4つの戦略目標
戦略目標はVISIONを実現するための向こう5年間の道筋と、優先事項を示しています。
戦略目標1:患者さんのより良いアウトカムの実現
(i) アステラス製品に対する患者さんの持続的なアクセス、(ii) 患者さんがアステラスの製品から享受するアウトカム、の最大化に取り組んでいきます。
戦略目標2:科学の進歩を確かな「価値」へ
研究開発における重点戦略領域であるPrimary Focusに優先的に経営資源を投下し、パイプライン価値を高めます。
Primary Focus:遺伝子治療、がん免疫、再生と視力の維持・回復、ミトコンドリア、標的タンパク質分解誘導
戦略目標3:Rx+ビジネスの進展
Rx+プログラムの事業化により我々が目指す「科学的根拠に基づくヘルスケアソリューションによって、心身ともに健康に、自分らしく生きることができる社会の実現」に向けて前進していきます。
戦略目標4:サステナビリティ向上の取り組みを強化
当社は、サステナビリティ向上への取り組みの重要性を認識しており、社会・環境に対する様々な活動を推進し、活動の基盤となるガバナンスの強化に努めています。社会に良い影響を与える活動によって得られたステークホルダーからの信頼が、アステラスのサステナビリティを向上させると考えています。
3つの組織健全性目標
長期にわたり優れたパフォーマンスを生み出す社内環境を構築するために3つの組織健全性目標を策定しました。組織健全性目標への取り組みによって組織の最大限のポテンシャルを引き出し、One Astellasとして優れた実行力とイノベーションを生み出すための社内環境を構築します。
組織健全性目標1:果敢なチャレンジで大きな成果を追求
適切なリスクを取ることができるよう社員に権限が与えられるとともに、成果を追求し、イノベーションに注力できる環境を構築します。
組織健全性目標2:人材とリーダーシップの活躍
目的を持った人材マネジメントと、一貫したリーダーシップスタイルにより、望ましいマインドセットと行動が促進される環境を構築します。
組織健全性目標3:One Astellasで高みを目指す
共通の目標を達成するために社員が効果的に協働し、組織的に力強く戦略を推進する環境を構築します。
成果目標
理想とする組織に近づき、戦略目標を確実に実行できた時、2025年時点で達成できているだろうと考えられる姿を、数値目標として表したものが、この成果目標です。
・売上収益:XTANDI及び重点戦略製品 (注1) の売上は2025年度に1.2兆円以上
・パイプライン価値:Focus Areaプロジェクトからの売上は2030年度に5,000億円以上
・コア営業利益率 (注2) :2025年度に30%以上
これら3つの成果目標を達成することで、2025年度には当社は株式時価総額7兆円以上と評価されるような企業となることを目指します。
(注) 1.パドセブ、ゾスパタ、ゾルベツキシマブ、エベレンゾ、fezolinetant、AT132
2.当社は、会社の経常的な収益性を示す指標としてコアベースの業績を開示しています。当該コアベースの業績は、フルベースの業績から当社が定める非経常的な項目を調整項目として除外したものです。調整項目には、減損損失、有形固定資産売却損益、リストラクチャリング費用、災害による損失、訴訟等による多額の賠償又は和解費用等のほか、会社が除外すべきと判断する項目が含まれます。
②株主還元方針
当社は、企業価値の持続的向上に努めるとともに、株主還元にも積極的に取り組んでいます。成長を実現するための事業投資を優先しながら、配当については、連結ベースでの中長期的な利益成長に基づき、安定的かつ持続的な向上に努めます。
また、自己株式の取得を必要に応じて機動的に実施し、資本効率の改善と1株当たり利益の向上を図ります。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。
なお、文中において将来について記載した事項は、当連結会計年度末において判断したものです。
(1) サステナビリティ
①サステナビリティに関する考え方
当社は社会のサステナビリティの向上に貢献していくことが、事業を継続していく上で極めて重要であると考えます。具体的には、アンメットメディカルニーズ (満たされない医療ニーズ) に応えるヘルスケアソリューションを提供することや、事業活動において製薬会社としての社会的責任を果たすことにより、当社は社会のサステナビリティの向上に貢献しています。その結果、自社や自社の製品等に対する社会からの信頼が得られ、当社のサステナビリティを向上させると考えています。このような好循環を生み出すことは、当社の存在意義である「先端・信頼の医薬で、世界の人々の健康に貢献する」ことを通じた「企業価値の持続的向上」という私たちの使命を果たすことにつながります。すなわち、当社にとって、社会のサステナビリティの向上に貢献することは、経営理念の実践そのものです。
②サステナビリティに関するガバナンス・リスク管理
当社は、サステナビリティ向上のためのガバナンスとして、「サステナビリティアドバイザリーパネル」及び「環境・社会・ガバナンスに関するワーキンググループ (E・S・Gワーキンググループ) 」を設置しています。両会議体は社長直轄組織のサステナビリティ部門が、事務局として運営管理をしています。
サステナビリティアドバイザリーパネルでは、環境、社会、ガバナンス(以下、ESG)の観点で、機会やリスクを含むサステナビリティに関わる事項を協議しています。部門横断のメンバーで構成されており、部門長、部長レベルの従業員が協議に参加します。サステナビリティアドバイザリーパネルで協議された事項は、案件毎の重要性及び決裁権限規程に従って、エグゼクティブ・コミッティにおける協議を経て取締役会で承認されます。取締役会が承認する案件として、サステナビリティの取り組みの指針となるマテリアリティ・マトリックスやサステナビリティ方針が該当します。
E・S・Gワーキンググループでは、当社のESGの観点で取り組むべき課題や機会の特定、関連部門と改善計画の立案と目標の設定、取り組みの進捗確認及びアドボカシー活動を実施します。E・S・Gワーキンググループは、案件ごとに部門横断のメンバーで構成されます。
サステナビリティ部門は、サステナビリティアドバイザリーパネルとE・S・Gワーキンググループの事務局業務に加え、ESGを含むサステナビリティ課題に対応し、サステナビリティ向上のための活動を推進しています。経営に与える影響が高いリスクが特定された場合は、サステナビリティアドバイザリーパネル事務局から、グローバル・リスク&レジリエンス委員会事務局へ共有され、必要な検討がなされます。また、コンプライアンスに関連する事項は、グローバル・コンプライアンス委員会事務局へ共有され、必要な検討がなされます。
③サステナビリティに関する戦略・指標及び目標
当社はサステナビリティ向上への取り組みの重要性を認識しています。社会と当社のサステナビリティ向上が、VISIONの実現に必要不可欠と考え、経営計画2021では、戦略目標4として「サステナビリティ向上の取り組みを強化」を設定しています。
また、社会と当社の双方にとって最も重要な課題を特定・優先順位付けしたマテリアリティ・マトリックスを策定し、サステナビリティの取り組みの指針としています。マテリアリティ・マトリックスでは、19の重要な課題を特定し、うち9つを最重要課題 (マテリアリティ) としました。この9つに最優先に取り組むことで、最先端の「価値」駆動型ライフサイエンス・イノベーターへの変革、及び社会の期待に応える強靭かつ持続可能な事業活動の強化によって、社会と当社、双方のサステナビリティの向上を目指しています。
9つのマテリアリティへの取り組みを、「最先端の『価値』駆動型ライフサイエンス・イノベーターへの変革」と「社会の期待に応える強靭かつ持続可能な事業活動の強化」の2つの柱で整理し、社会からの要請の高い環境に関する課題 (注) を加えて、それぞれ当社が中期的に優先する項目、具体的な取り組み、2025年度までのコミットメントをサステナビリティ方針として策定しています。
(注) 環境の課題に対する中期的に優先する項目、具体的な取り組み、2025年度までのコミットメントは、 (3) 環境 (気候変動) をご参照ください。
1. 最先端の「価値」駆動型ライフサイエンス・イノベーターへの変革
(注) 人的資本の考え方や取り組みの詳細については、 (2) 人的資本をご参照ください。
2. 社会の期待に応える強靭で持続可能な事業活動の強化
(2) 人的資本
①人的資本に関する考え方
当社では、採用・配置、評価・処遇、人材・組織開発の3つの領域を適切にバランスよく推進することによって、期待する人材像、目指す組織像を実現し、「Employer of Choice:現在そして未来の社員に選ばれる会社」を目指しています。当社において、人的資本への投資は、今日の実行力の強化に加えて、将来の組織をかたちづくる重要な投資として位置づけられており、短期的及び中長期的な視点をもって継続的に実施しています。
②人的資本に関する戦略・指標及び目標
当社では、経営計画2021の実現に向け、「組織健全性目標」を設定しました。これは、イノベーションの促進、人材の活躍、コラボレーションの浸透を通して意欲的な目標の実現を目指す企業文化を醸成し、当社の実行力を向上させることを目指すものです。人事部門では、設定した目標の実現に向けて、以下に示している、カルチャー、マインドセットの変革、グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築、イノベーティブな組織への戦略的改革を最優先事項として取り組んでいます。
また、これら主な3つの取り組みを基盤として支えているのが、データに基づく確実な進捗の確認です。確実な進捗確認の1つの施策として、グローバル・エンゲージメント・サーベイを実施しており、従業員のエンゲージメント向上への取り組みに注力し、各設問項目の進捗を可視化して、強みと改善点の分析結果に応じて具体的な対策を講じています。
A. カルチャー、マインドセットの変革
当社は、従業員に賢いリスクテイクと学びによる成長を促すため、心理的安全性の確保とフィードバック文化の促進に注力しています。イノベーションを生み出し続ける組織を作るには、誰もが結果を恐れずに大胆なアイデアを共有し、現状に疑問を持って声を上げ、互いにフィードバックを伝え合うことのできる環境と、他者からのフィードバックを自らの成長につなげていくマインドセットが重要だと考えています。
A-1. カルチャー、マインドセットの変革に関する目標
当社は果敢なチャレンジで大きな成果を追求します。適切なリスクを取ることができるよう従業員に権限が与えられるとともに、成果を追求し、イノベーションに注力できる環境の構築を目指します。
A-2. カルチャー、マインドセットの変革に関する状況
心理的安全性の確保・フィードバック文化を促進するため、2022年10月にグローバルでフィードバックツールを導入しました。上司から部下だけではなく、あらゆる階層間でタイムリーにフィードバックを授受できるようになっており、2023年1月31日時点で、4,324件のフィードバックがありました。また、トップマネジメントとの双方向のコミュニケーションを促進するため、対話型のセッションである“Ask Me Anything”と“Live Stream”を展開しています。
日本においては、心理的安全性の確保と関わりが強い健康経営にも力をいれています。従業員一人ひとりが高い生産性や創造性を発揮し、自己実現が可能な働き方を実現するための前提として、従業員の健康と健全な組織風土の醸成があります。健全な組織風土は、心理的安全性が高く、従業員が互いに尊重し合い、安心して活発なコミュニケーションができる環境を必要とします。当社では、多様な働き方と従業員の健康増進を支援し、組織の健全化を推進しています。日本での当社の健康経営推進体制は、人事・コンプライアンス担当 (CPO&CECO) の下で、人事部門 (保健スタッフ含む) と健康保険組合、労働組合が主体となって企画・運営しています。
健康経営の取り組みの推進の結果、経済産業省の健康経営優良法人2023 (大規模法人部門) に2年連続認定されました。健康経営推進の取り組みによる成果は下記
https://www.astellas.com/jp/sustainability/promoting-health-management
B. グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築及び多様性の確保
2022年度の地域別売上収益比率では、日本が約20%、海外が約80%となっており、当社のビジネスはグローバルに広がっています。それに伴い、従業員構成もグローバル化が進んでいます。ビジネス及び人材の変化に伴い、グローバルに通用する人事戦略・施策の構築が必須のため、グローバル規模で当社のビジネスを支える人事制度・システムの構築に取り組んでいます。
また、人種・国籍・性別・年齢を問わず多様な人材が自分らしさを大切にしながら活躍できるよう、ダイバーシティの推進に取り組んでいます。多様な価値観・考え方・バックグラウンド等を尊重し活かし合うことは、組織の創造性を高めるだけでなく優秀な人材の確保や競争力の向上にもつながると考えています。
多様性確保に向けた人材育成と社内環境整備について、下記の方針に従って推進しています。
・人材育成方針:属性によらず、自己責任を基本とする各人の意思・能力・適性に応じたキャリア形成機会を提供し、マネジャーはそのキャリア形成を支援します。高い成果を発揮し続ける能力・意欲のある人材に対して魅力ある成長機会を積極的に提供することで、多様な人材の活躍につながっています。
・社内環境整備方針:多様な人材が活躍できるよう、グローバルで統制・整合性の取れた評価プロセスを設定し、個々人の属性に関係なく役割と成果に基づく公正な評価を徹底しています。さらに、グローバル共通のジョブポスティングシステムの提供や、異なる国や地域での業務を行うグローバルアサインメント等を行っています。国や地域によらないグローバルなメンバーでのチームやグループの形成が進むことで、各組織における多様化にもつながっています。また、組織における多様性を実現するだけでなく、従業員一人ひとりが活躍するために、一人ひとりの強みや違いを理解し、受け入れ、尊重し、活かし合うインクルーシブな組織づくりにも心掛けています。
B-1. グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築に関する目標
当社は、本人事制度の構築を通じて、従業員一人ひとりがイノベーティブな活動に取り組み、意欲的な目標にチャレンジし、適切なリーダーシップの下、周囲とコラボレーションできる環境を目指しています。部門単位では、個別部門に閉じない部門横断型の目標を設定し、個人単位では意欲的な目標設定とフィードバックシステムの展開を推進し、One Astellasでパフォーマンスの向上を目指しています。
また、多様性を確保するために、下記3つの目標があります。
a. 女性のマネジャー職への登用
グローバルレポートラインの体制で設計されたポジションに対し、実力主義の下、ジェンダーにかかわらず適所適材の考え方に基づき登用を行っています。その上で、次長クラス以上のポジションについては、ジェンダー間で大きな差のないように確認・分析を行い、後継者プランを作成しています。日本では、女性の活躍推進を優先度の高い課題と位置づけ、目標数値を設定した上で取り組んでいます。数値目標、取り組みについては、下記
https://www.astellas.com/jp/sustainability/major-programs-japan
b. 外国人、中途採用者のマネジャー職への登用
グローバルレポートラインの体制で設計されたポジションに対し、実力主義の下、適切に登用を行っています。このことにより、当社ではグローバルで数多くの外国籍従業員、中途採用者がマネジャー職へ登用されており、今後も継続して取り組んでいきます。
c. 後継者プランの作成と運用
当社では、次長クラス以上のポジションについて後継者プランの作成をグローバルで行っています。適所適材の考え方の下、グローバルに展開した後継者プランに基づき、各ポジションに対し国籍や性別を問わない多様性に富んだ後継者の選定、育成を目指しています。
B-2. グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築に関する状況
グローバルな人材・組織を支える人事制度の構築の1つの取り組みとして、全世界でのタレントマネジメントのプロセス統合を行っています。まず、目標管理と評価制度の改訂を実施しました。さらに、報酬・レコグニション制度についても改訂を行い、これまで部門業績を賞与支給金額の算定要素にしていたところを、全社業績に変更しました。そして、これらの柱を支え、グローバルでの適所適材を実現する基盤として、全世界で人事システムの統合を進めています。
また、多様性確保に関しては、下記のとおりに取り組んでいます。
a. 女性のマネジャー職への登用
日本を含む各地域の女性従業員比率、女性のマネジャー職比率については、下記
https://www.astellas.com/jp/sustainability/esg-social
b. 外国人、中途採用者のマネジャー職への登用
当社では、国籍にとらわれずさまざまな従業員が中核人材として活躍しています。2023年3月31日現在、部長クラス以上の57%、マネジャー職以上の66%が日本人以外の従業員です。また、積極的に多くの中途採用者を、中核人材へ登用しています。
c. 後継者プランの作成実績
2022年9月時点では、部長クラス以上のポジションが178ポジションあり、後継者候補として522人を選定しています。その内、外国籍従業員が57%、女性が36%を占めています。
また、後継者プランの作成を次長クラス以上のポジションにも拡大しています。次長クラス以上のポジションが238ポジションあり、後継者候補として551人を選定しています。このうち、外国籍従業員が63%、女性が42%を占めています。
d. 日本国内の各制度の利用実績
各種制度及びその利用実績については、下記
https://www.astellas.com/jp/sustainability/esg-social
C. イノベーティブな組織への戦略的改革
当社では、イノベーティブな組織への戦略的改革のため、組織のフラット化に取り組んでいます。社長からの階層を減らし、マネジャー1人が管理する部下の数を増やすことで、意思決定の迅速化と現場への権限委譲をねらいとしています。
C-1. 組織のフラット化のための指標及び目標
組織のフラット化による意思決定を促すため、社長からの階層数を6以下とすることを目指し、スパン・オブ・コントロール (SPOC:Span of Control) (注) については、6人以上を目指しています。

(注) スパン・オブ・コントロール (SPOC:Span of Control):マネジャー1人が管理する部下の人数
C-2. 組織のフラット化の状況
2023年4月時点では、6階層以下の組織の割合が73%、スパン・オブ・コントロールの全組織の平均値が、5.7人に到達しました。
(3) 環境 (気候変動)
①環境 (気候変動) に関する考え方
当社は、世界的な環境問題である気候変動及びそれによってもたらされる結果は、患者さんに貢献していくための当社の事業の継続性に対して脅威となり得ると考えています。具体的には、気候システムの変化によって生じる極端な天候、降雨変化、伝染病の拡大、エネルギーポートフォリオの変化等があげられます。このような影響を低減するために、事業活動由来の温室効果ガスが気候システムに対して危険な人為的影響を及ぼさないよう、温室効果ガスの排出を削減することを目標としています。当社は、気候変動を低減し、また、気候変動に適応していくために、長期的で幅広い視野をもって環境に対する企業の責任を果たしていきます。
②環境 (気候変動) に関するガバナンス・リスク管理
2020年12月に気候関連財務情報開示タスクフォース (Task Force on Climate-related Financial Disclosures:TCFD) の提言に対し賛同を表明し、気候変動に対する情報は、TCFDの提言に沿って開示しています。
気候変動等環境への取り組みは、当社が取り組むサステナビリティの重要な課題として位置づけられています。当社では、さまざまな環境課題へ対応するため、Environment, Health & Safety (EHS) コミッティを設置しています。EHSコミッティの議長は、サステナビリティ部門長が務め、メンバーは機能横断的に選任されています。EHSコミッティでは、気候変動を含めたさまざまな環境課題への対応や実行計画の策定等を議論しており、審議内容は社長に報告されます。気候変動のリスクと機会の評価を含むTCFD提言に沿った開示はサステナビリティ活動の1つとして取締役会に報告されています。
環境に関するリスク管理はサステナビリティ部門によりモニタリングされ、社長に定期的に報告されます。特定されたリスクへの対応等は、課題の重要度に応じてエグゼクティブ・コミッティや取締役会にて決定されます。
③環境 (気候変動) に対する戦略・指標及び目標
経営計画2021の戦略目標4「サステナビリティ向上の取り組みを強化」において、「環境 (気候変動対策) 」を重点テーマの1つとして、設定しています。また、2021年度に更新されたマテリアリティ・マトリックスでは、「気候変動とエネルギー」を「非常に重要」な課題として位置づけています。
気候関連のリスク及び機会は、2つのシナリオをもとに分析しています。気候変動に関する1.5℃シナリオでは移行リスクが顕在化すると仮定し、また4℃シナリオでは物理的リスクが顕在化すると仮定して、分析しています。
当社の事業と気候関連のリスク及び機会の分析の詳細については、下記
https://www.astellas.com/jp/sustainability/TCFD-disclosure
また、サステナビリティ方針として策定した環境に関する課題の中期的に優先する項目、具体的な取り組み、2025年度までのコミットメントは下記のとおりです。
④温室効果ガス実排出量
当社の2021年度の温室効果ガス実排出量は、119千トン (スコープ1:64千トン、スコープ2:55千トン) でした。2022年度の実績は、下記
https://www.astellas.com/jp/sustainability/measures-to-address-climate-change
(1) 事業活動遂行に係るリスクの特定とリスク低減への取り組み
グローバルに事業を展開する製薬企業には高い水準で各種規制を遵守することが求められており、当社も業績やレピュテーションに影響を及ぼしうる、多様なリスクに対応する必要があります。当社では経営戦略担当が議長を務めるグローバル・リスク&レジリエンス委員会を設置し、効果的なエンタープライズ・リスク管理の運用を進めています。
エンタープライズ・リスク管理では、全社的並びに部門別に識別されたリスクを、一貫した評価によって分類し、必要に応じてリスク低減計画に結び付けます。識別されたリスクはグローバル・リスク&レジリエンス委員会で定期的に評価し、優先順位の高いリスクに関しては、代表取締役社長が議長を務めるエグゼクティブ・コミッティでその解決・低減策を協議します。
(2) リスク管理体制
当社のリスク管理体制は以下のとおりです。
詳細については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ③内部統制システムに関する基本的な考え方及びその整備状況 2.リスク (損失の危険) の管理に関する規程その他の体制」をご参照ください。

(3) 最重要リスク
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関連する事項のうち、経営者が、連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している事項には、主として以下のようなものがあります。
なお、文中において将来について記載した事項は、当連結会計年度末において判断したものです。
①サイバーセキュリティに関するリスク
近年、サイバー攻撃はこれまで以上に技術が高度化し、攻撃手法も多様化・巧妙化しています。このような状況を踏まえ、当社はサイバーセキュリティに関するリスクを最重要リスクの一つと認識し、エシックス&コンプライアンス部門を中心に、ネットワーク及び設備の監視をはじめとする各種サイバー攻撃対策をグローバルベースで実施し、その管理には万全を期しています。
しかしながら、これらの対策にもかかわらず、サイバー攻撃やそれに伴う深刻なシステム障害等により実質的にビジネスが中断した場合、又は個人を特定できる情報を含む重要データが逸失、破損、社外流出した場合、当社グループの経営成績は大きな影響を受ける可能性があります。
②サプライチェーンマネジメントに関するリスク
医薬品事業において、安全で有効な医薬品を確実に製造し安定的に提供することは極めて重要です。当社はサプライチェーンマネジメントに関するリスクを最重要リスクの一つと認識し、製薬技術部門を中心に、医薬品の製造工程における製造管理、品質管理の基準 (GMP) 及び適正流通の基準 (GDP) に合致した独自の基準を設定し、製造施設・設備のほか、原料の調達から保管、製造、さらに配送まで、一貫した高水準の品質管理を徹底しています。また、サプライチェーンの複雑化に対応すべく、グローバルベースでの製造受託機関 (CMO) 管理の導入、緊急事態の供給に関する事業継続計画 (BCP) の作成等の対策を進めています。
しかしながら、これらの対策にもかかわらず、供給中断、欠品、品質問題が発生した場合、また、これらに伴い当社のレピュテーションが棄損した場合、当社グループの経営成績は大きな影響を受ける可能性があります。
これらの当社グループが認識している最重要リスクに加え、研究開発の不確実性、知的財産権を侵害される又は侵害するリスク、製品に副作用や安全性の問題が生じるリスク、当社グループのビジネスが他社の開発した医薬品のライセンス及び販売に一部依存するリスク等、製薬産業に特有のリスクのほか、競合品との競争、環境・安全衛生に関する関係法令違反、事業を行う過程において訴訟を提起されるリスク、災害等による製造の遅滞や休止、為替レートの変動等、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性のあるさまざまなリスクが存在しています。なお、ここに記載されたものが当社グループの全てのリスクではありません。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー (以下「経営成績等」) の状況の概要は次のとおりです。
[財政状態]
当連結会計年度末の連結財政状態計算書の概要及び前連結会計年度末からの主な変動は以下のとおりです。
総資産は2兆4,565億円 (前連結会計年度末比1,241億円増) となりました。
非流動資産は、1兆4,066億円 (同25億円減) となりました。有形固定資産は、2,865億円 (同174億円増) となりました。のれんは3,284億円 (同254億円増) 、無形資産は5,625億円 (同609億円減) となりました。第4四半期連結会計期間において、エベレンゾの将来計画の見直しに伴う無形資産の減損損失、FX-322の開発中止に伴う無形資産の減損損失、Adaptimmune Limitedとの契約解約に伴う無形資産の減損損失を計上したこと等により、無形資産が減少しました。
流動資産は、1兆500億円 (同1,266億円増) となりました。現金及び現金同等物は3,768億円 (同609億円増) となりました。
資本合計は、1兆5,080億円 (同476億円増) となり、親会社所有者帰属持分比率は61.4%となりました。当期利益987億円を計上した一方で、剰余金の配当1,004億円に加え、自己株式の取得606億円を実施しました。なお、2023年3月に477億円(2,618万株)の自己株式を消却しました。
(注)株式数は表示単位未満の端数を切り捨てて表示しています。
負債の合計は、9,486億円 (同765億円増) となりました。
非流動負債は2,225億円 (同379億円増) となりました。その他の金融負債は、第3四半期連結会計期間において、普通社債500億円を発行したこと等により、1,399億円 (同440億円増) となりました。
流動負債は7,260億円 (同386億円増) となりました。その他の金融負債は1,801億円 (同48億円減) となりました。そのうち、コマーシャル・ペーパーの残高は750億円となりました。その他の流動負債は3,827億円(同599億円増)となりました。
[経営成績]
<連結業績 (コアベース) >
当連結会計年度の連結業績 (コアベース) は下表のとおりです。売上収益、コア営業利益、コア当期利益はいずれも増加しました。
売上収益
・主要製品の前立腺がん治療剤XTANDI/イクスタンジ、尿路上皮がん治療剤パドセブ、急性骨髄性白血病治療剤ゾスパタの売上が拡大しました。これらのほか、日本における骨粗鬆症治療剤イベニティの売上も増加し、増収に貢献しました。
以上の結果、売上収益は1兆5,186億円 (前連結会計年度比17.2%増) となりました。
コア営業利益/コア当期利益
・売上総利益は、1兆2,303億円 (同17.9%増) となりました。売上原価率は、前連結会計年度に比べ0.5ポイント低下し、19.0%となりました。
・販売費及び一般管理費は、6,303億円 (同14.8%増) となりました。グローバルでのコマーシャル要員の最適化による費用減少(同約80億円減)や、成熟製品における費用の削減(同約80億円減)があった一方で、新製品の立ち上げ・発売に向けた準備費用の増加(同約120億円増)や為替の影響(同803億円増)を受け、総額として増加しました。なお、XTANDIの米国での共同販促費用を除いた販売費及び一般管理費は、4,548億円(同11.1%増)となり、為替の影響を除くと前連結会計年度比較で減少しました。
・研究開発費は、2,761億円 (同12.2%増) となりました。為替の影響(同275億円増)に加え、第1四半期連結会計期間に選択的ニューロキニン3受容体拮抗薬fezolinetantの優先審査を目的にPriority Review Voucherを使用したことに伴う費用(137億円)を計上したことにより、総額として増加しました。売上収益研究開発費比率は、前連結会計年度に比べ0.8ポイント減少し、18.2%となりました。
・無形資産償却費は、384億円 (同35.9%増) となりました。
以上の結果、コア営業利益は2,869億円 (同17.2%増) 、コア当期利益は2,246億円 (同17.9%増) となりました。
<連結業績 (フルベース) >
当連結会計年度の連結業績 (フルベース) は下表のとおりです。売上収益は増加しましたが、営業利益及び当期利益は減少しました。
フルベースの業績には、コアベースの業績で除外される「その他の収益」、「その他の費用」等が含まれます。当連結会計年度における「その他の収益」は36億円 (前連結会計年度:153億円) となりました。
「その他の費用」として、第4四半期連結会計期間において、抗Claudin18.2モノクローナル抗体ゾルべツキシマブの条件付対価の公正価値の増加(386億円)、エベレンゾの将来計画の見直しに伴う無形資産の減損損失(471億円)、FX-322の開発中止に伴う無形資産の減損損失(86億円)、Adaptimmune Limitedとの契約解約に伴う無形資産の減損損失(46億円)等を計上しました。加えて、第1四半期連結会計期間に計上した遺伝子治療プログラムAT702、AT751、AT753の研究開発中止に伴う無形資産の減損損失(230億円)やfezolinetantの米国承認申請に伴い発生した条件付対価の公正価値の増加(132億円)等の計上もあり、当連結会計年度における「その他の費用」は1,575億円(前連結会計年度:1,043億円)となりました。
<主要製品の売上>
(注) プログラフ:アドバグラフ、グラセプター、アスタグラフXLを含む
<XTANDI/イクスタンジ>
・全ての地域で売上が拡大し、グローバル売上は前連結会計年度と比較して増加しました。特にエスタブリッシュドマーケット、日本及びインターナショナルマーケットにおいて処方が伸長し、売上の拡大に貢献しました。
<パドセブ>
・米国において、これまでに承認を取得した適応症の患者層に対する推奨治療のオプションとしてのポジショニングを確立したことにより、売上が増加しました。日本においても、推奨治療オプションとしての浸透が進み、新規患者数が大きく増加し、売上が増加しました。また、欧州においては、2022年4月の承認以降、発売国が着実に拡大し、売上の増加に貢献しました。
<ゾスパタ>
・高いマーケットシェアを獲得している米国や欧州、日本での継続的な成長に加えインターナショナルマーケットでは発売国が増加するなど、全ての地域で売上が増加しました。
<エベレンゾ>
・欧州においては発売国が増加したことに伴い売上が拡大した一方、日本では市場の競合激化の影響を受け売上が減少しました。
<ベタニス/ミラベトリック/ベットミガ>
・地域ごとに増減はあったものの、グローバルの売上は拡大しました。
<プログラフ>
・グローバルの売上は増加しました。
(注) エスタブリッシュドマーケット:欧州、カナダ
インターナショナルマーケット:ロシア、中南米、中東、アフリカ、東南アジア、南アジア、韓国、
オーストラリア、輸出売上等
<地域別売上収益の状況>
地域別の売上収益は下表のとおりです。全ての地域において、売上収益が増加しました。
(注) 当連結会計年度から、オーストラリアのコマーシャル区分をエスタブリッシュドマーケットからインターナショナルマーケットに変更しています。前連結会計年度の金額は当該変更を反映しています。
エスタブリッシュドマーケット:欧州、カナダ
グレーターチャイナ:中国、香港、台湾
インターナショナルマーケット:ロシア、中南米、中東、アフリカ、東南アジア、南アジア、韓国、
オーストラリア、輸出売上等
[セグメント情報]
当社グループは、医薬品事業の単一セグメントのため、記載を省略しています。
<営業活動によるキャッシュ・フロー>
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、3,278億円 (前連結会計年度比703億円増) となりました。
・法人所得税の支払額は695億円 (同274億円増) となりました。
<投資活動によるキャッシュ・フロー>
当連結会計年度の投資活動によるキャッシュ・フローは、△845億円 (同221億円支出増) となりました。
<財務活動によるキャッシュ・フロー>
当連結会計年度の財務活動によるキャッシュ・フローは、△1,956億円 (同207億円支出減) となりました。
・第3四半期連結会計期間において、普通社債を発行したことにより、社債の発行及び長期借入れによる収入が500億円ありました。
・配当金の支払額は1,004億円(同151億円増)となりました。また、自己株式の取得による支出606億円(同98億円支出増)がありました。
以上の結果、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、3,768億円 (前連結会計年度末比609億円増) となりました。
当連結会計年度における生産及び仕入実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりです。
(注) 1.当社グループでは、自社工場及び外部パートナーへの製造委託による生産のほか、他社からの仕入等さまざまな工程を経て完成した製品を販売しています。前連結会計年度までは生産実績のみを開示していましたが、当社グループの事業活動をより適切に表すため、当連結会計年度からこれら一連の工程を一体の活動とみなし、生産実績と仕入実績を合算した「生産及び仕入実績」を開示する方法に変更しています。
2.金額は、販売価格に基づいています。
3.前連結会計年度比 (%) は、前連結会計年度の「生産及び仕入実績」に対する比率となっています。
当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、以下のとおりです。
(注) 主な相手先の販売実績及び総販売実績に対する割合は、以下のとおりです。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。また、文中において将来について記載した事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載しています。
[キャッシュ・フロー]
キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載しています。
[財務政策]
当社グループは、企業価値の持続的向上に努めるとともに、株主還元にも積極的に取り組んでいます。
成長を実現するための事業投資を優先しながら、配当については、連結ベースでの中長期的な利益成長に基づき、安定的かつ持続的な向上に努めます。また、自己株式の取得を必要に応じて機動的に実施し、資本効率の改善と1株当たり利益の向上を図ります。資金の流動性については、コマーシャル・ペーパー及び借入金による資金調達を行い、当面の運転資金及び設備資金に加え、一定の戦略的投資機会にも備えられる現預金水準を確保しています。
「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおり、当社グループの事業等は医薬品事業に特有のさまざまなリスクを伴っています。事業展開にあたっては、必要資金を円滑にかつ低利で調達できるよう財務基盤の健全性の維持に努めます。
当社グループは、IFRSに準拠して連結財務諸表を作成しています。この連結財務諸表の作成にあたり、必要と思われる見積りは合理的な基準に基づいて実施しています。詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要な会計方針 4.重要な会計上の見積り、判断及び仮定」に記載のとおりです。
(注) 1.以下の技術導入契約を終了しています。
・Ferring Group(スイス)とのデガレリクス(ゴナックス)に関する技術導入契約
・Adaptimmune Limited(英国)との多能性幹細胞由来の他家T細胞医療製品創製・開発に関する技術導入契約
2.Merck & Co., Inc.(米国)とのフィダキソマイシン (ダフクリア) に関する技術導入契約については、2023年4月にゼリア新薬工業株式会社へ譲渡する契約を締結しました。
(4)その他
・Sandoz AG(スイス)との資産譲渡契約
当連結会計年度において、当社はSandoz AGとの間で、キャンディン系抗真菌剤「ファンガード」(一般名:ミカファンギンナトリウム、海外での製品名:「マイカミン」)に関し、日本を含む全世界での製造販売承認を同社に譲渡する契約を締結しました。
・IVERIC bio, Inc.(米国)買収に関する契約
2023年4月、当社はIVERIC bio, Inc. との間で、同社を買収する契約を締結しました。詳細については、注記「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 35.後発事象」に記載のとおりです。
当社は、2021年5月に発表した経営計画2021において、「患者さんのより良いアウトカムの実現」「科学の進歩を確かな『価値』へ」「Rx+ビジネスの進展」「サステナビリティ向上の取り組みを強化」の4つを戦略目標として掲げ、「価値」 (注) の創造と提供の実現を目指しています。経営計画2021及び各戦略目標については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 対処すべき課題」に記載しています。
(注) 患者さんにとって真に重要なアウトカム(治療等による臨床上の成果)を、それを提供するためにヘルスケアシステムが負担するコストで除したもの
当連結会計年度における研究開発活動をはじめとする持続的な成長に向けた主な取り組みは以下のとおりです。
(1) 戦略目標1:患者さんのより良いアウトカムの実現
前立腺がん治療剤XTANDI/イクスタンジ及び中長期にわたり成長を支える重点戦略製品 (注) に優先的に経営資源を振り向けました。上市済の製品については、尿路上皮がん治療剤パドセブや急性骨髄性白血病治療剤ゾスパタ、腎性貧血治療剤エベレンゾ等、当社の成長をけん引する製品の育成と製品価値の最大化を図りました。開発後期段階においては、fezolinetantの米国及び欧州における承認申請、ゾルベツキシマブの2つの第Ⅲ相試験における主要評価項目達成等、多くの進展がありました。
(注) パドセブ、ゾスパタ、ゾルベツキシマブ、エベレンゾ、fezolinetant、AT132
当連結会計年度におけるXTANDI及び重点戦略製品の売上及び主な進捗状況は以下のとおりです。
・前立腺がん治療剤XTANDI/イクスタンジ(一般名:エンザルタミド)
当連結会計年度売上:6,611億円 (前連結会計年度比23.7%増)
全ての地域で売上が拡大し、グローバル売上は前連結会計年度と比較して増加しました。特にエスタブリッシュドマーケット、日本及びインターナショナルマーケットにおいて処方が伸長し、売上の拡大に貢献しました。追加適応症の開発の主な進捗状況は以下のとおりです。
2023年3月 転移性ホルモン感受性前立腺がん患者を対象とした第Ⅲ相China ARCHES試験において、主要評価項目 (前立腺特異抗原増悪までの期間) を達成したことを公表しました。
2023年3月 非転移性ホルモン感受性前立腺がん患者を対象とした第Ⅲ相EMBARK試験において、主要評価項目 (無転移生存期間) を達成したことを公表しました。
・尿路上皮がん治療剤パドセブ(一般名:エンホルツマブ ベドチン)
当連結会計年度売上:444億円 (前連結会計年度比104.4%増)
米国において、これまでに承認を取得した適応症の患者層に対する推奨治療オプションとしてのポジショニングを確立したことにより、売上が増加しました。日本においても、推奨治療オプションとしての浸透が進み、新規患者数が大きく増加し、売上が増加しました。また、欧州においては、2022年4月の承認以降、発売国が着実に拡大し、売上の増加に貢献しました。追加適応症の承認取得及び開発の進捗状況は以下のとおりです。
2022年4月 欧州において、白金製剤を含む化学療法及びPD-1又はPD-L1阻害剤による治療歴のある局所進行性又は転移性尿路上皮がん患者における単剤療法に関し、販売承認を取得しました。
2023年3月 中国において、PD-1又はPD-L1阻害剤及び白金製剤を含む化学療法による治療歴のある局所進行性又は転移性尿路上皮がん患者を対象として、第Ⅱ相EV-203試験の結果に基づいた生物学的製剤承認申請が受理されました。
2023年4月 米国において、本剤とMerck社 (米国) のPD-1阻害剤KEYTRUDA (一般名:ペムブロリズマブ) との併用療法について、局所進行性又は転移性尿路上皮がんでシスプラチン不適応の患者における一次治療に関し、迅速承認を取得しました。
・急性骨髄性白血病治療剤ゾスパタ(一般名:ギルテリチニブフマル酸塩)
当連結会計年度売上:466億円 (前連結会計年度比36.7%増)
高いマーケットシェアを獲得している米国や欧州、日本での継続的な成長に加えインターナショナルマーケットでは発売国が増加するなど、全ての地域で売上が増加しました。追加適応症に関する開発の進捗状況は以下のとおりです。
2023年3月 FLT3遺伝子変異陽性急性骨髄性白血病患者における造血幹細胞移植後の維持療法を対象とした第Ⅲ相MORPHO試験に関し、主要評価項目 (無再発生存期間) を達成しなかったことを公表しました。
・腎性貧血治療剤エベレンゾ(一般名:ロキサデュスタット)
当連結会計年度売上:32億円 (前連結会計年度比23.0%増)
欧州においては発売国が増加したことに伴い売上が拡大した一方、日本では市場の競合激化の影響を受け売上が減少しました。開発の進捗状況は以下のとおりです。
2022年10月 化学療法に伴う貧血を対象として臨床第Ⅱ相段階にあった開発を当社の権利範囲において中止したことを公表しました。
その他の重点戦略製品に関する開発の主な進捗状況は以下のとおりです。
・選択的ニューロキニン3受容体拮抗薬fezolinetant(一般名)
2022年8月 米国において、閉経に伴う中等度から重度の血管運動神経症状を有する女性を対象とした販売承認申請が受理されました。審査終了目標日は2023年2月22日と定められました。
2022年9月 閉経に伴う血管運動神経症状を有するアジア在住女性を対象とした第Ⅲ相MOONLIGHT3試験において、長期安全性を裏付ける52週データが得られたことを公表しました。
2022年9月 欧州において、閉経に伴う中等度から重度の血管運動神経症状を有する女性を対象とした販売承認申請が受理されました。
2023年2月 米国食品医薬品局から、審査終了目標日を延長する旨の通知を受領しました。新たな審査終了目標日は2023年5月22日と定められました。
・抗Claudin 18.2モノクローナル抗体ゾルベツキシマブ(一般名)
2022年11月 胃腺がん及び食道胃接合部腺がんを対象とした第Ⅲ相SPOTLIGHT試験に関し、主要評価項目 (無増悪生存期間) を達成したことを公表しました。
2022年12月 胃腺がん及び食道胃接合部腺がんを対象とした第Ⅲ相GLOW試験に関し、主要評価項目 (無増悪生存期間) を達成したことを公表しました。
・X連鎖性ミオチュブラーミオパチー (XLMTM) 患者を対象とする遺伝子治療薬AT132 (一般名:resamirigene bilparvovec)
2021年9月に米国食品医薬品局から発出された臨床試験差し止め通知の解除に向け、当局と協議を行っています。
また、その他の主要製品の売上は以下のとおりです。
・過活動膀胱 (OAB) 治療剤ベタニス/ミラベトリック/ベットミガ (一般名:ミラベグロン)
当連結会計年度売上:1,886億円 (前連結会計年度比9.5%増)
地域ごとに増減はあったものの、グローバルの売上は拡大しました。
・免疫抑制剤プログラフ (一般名:タクロリムス水和物)
当連結会計年度売上:1,988億円 (前連結会計年度比7.2%増)
グローバルの売上は増加しました。
上記以外に、医療用医薬品事業に関する以下の取り組みを行いました。
2023年1月 キャンディン系抗真菌剤ファンガード (一般名:ミカファンギンナトリウム) に関し、日本を含む全世界での製造販売承認をSandoz社 (スイス) に譲渡する資産譲渡契約を締結しました。
(2) 戦略目標2:科学の進歩を確かな「価値」へ
当社は、Focus Areaアプローチという研究開発戦略の下、多面的な視点で創薬ターゲットを絞り込む新しいアプローチで革新的な製品の創出に取り組んでいます。2023年3月現在、Focus Areaのうち重点的に研究開発投資を行うPrimary Focus (注) として「遺伝子治療」「がん免疫」「再生と視力の維持・回復」「ミトコンドリア」「標的タンパク質分解誘導」の5つを認定しています。
(注) Focus Areaの中における特定の組合せで、科学的妥当性、研究開発や商業化の実現可能性、プロジェクトの充実度や進捗等の観点から選択され、優先的な投資対象となるもの
当連結会計年度における各Primary Focusの主な進展は以下のとおりです。
・Primary Focus 遺伝子治療
2022年10月 Taysha Gene Therapies社 (米国) との間で、アデノ随伴ウイルス (AAV) を活用した遺伝子治療プログラムに関する戦略的提携についての契約を締結しました。
2023年1月 Selecta Biosciences社 (米国) との間で、遅発型ポンペ病患者を対象とする遺伝子治療薬AT845と併用する候補として、次世代免疫グロブリンGプロテアーゼIdeXorkの独占的ライセンス及び開発に関する契約を締結しました。
2023年1月 遺伝子治療薬AT845の第Ⅰ/Ⅱ相FORTIS試験に関して、2022年6月に米国食品医薬品局から受領していた臨床試験差し止め指示が解除されました。
・Primary Focus がん免疫
2022年5月 GO Therapeutics社 (米国) との間で、がん免疫療法の新規抗体開発に向けた戦略的共同研究及びライセンス契約を締結しました。
2022年6月 Sutro Biopharma社 (米国) との間で、抗体-薬物複合免疫賦活薬の共同研究・開発に関する全世界における戦略的提携及びライセンスに関する契約を締結しました。
2022年6月 抗Claudin 18.2/抗CD3二重特異性抗体ASP2138について、胃腺がん及び食道胃接合部腺がん、膵臓腺がん患者を対象とする第Ⅰ相試験の最初の症例への投与を達成しました。
2023年3月 二重特異性抗体ASP2074について、がん患者を対象とする第Ⅰ相試験の最初の症例への投与を達成しました。
2023年3月 二重特異性抗体ASP1002について、がん患者を対象とする第Ⅰ相試験の最初の症例への投与を達成しました。
2023年4月 がんを対象として第Ⅰ相段階にあった腫瘍溶解性ウイルスASP9801の開発を中止したことを公表しました。
2023年4月 急性骨髄性白血病及び骨髄異形成症候群を対象として第Ⅱ相段階に、固形がんを対象として第Ⅰ相段階にあった人工アジュバントベクター細胞ASP7517の開発を中止したことを公表しました。
2023年4月 がんを対象として第Ⅰ相段階にあった人工アジュバントベクター細胞ASP0739の開発を中止したことを公表しました。
・Primary Focus 再生と視力の維持・回復
2022年8月 地図状萎縮を伴う加齢黄斑変性患者を対象とする細胞医療ASP7317の第Ⅰb相試験における症例スクリーニングを再開しました。
・Primary Focus ミトコンドリア
2023年4月 鎌状赤血球症を対象として第Ⅰ相段階にあったBACH1阻害薬ASP8731/ML-0207の開発を中止したことを公表しました。
・Primary Focus 標的タンパク質分解誘導
2022年6月 KRAS G12D分解誘導薬ASP3082について、がん患者を対象とする第Ⅰ相試験の最初の症例への投与を達成しました。
2023年2月 ASP3082に関し、KRAS G12D変異を有する膵臓腺がん患者を対象とする開発について、米国食品医薬品局からファストトラック指定を取得しました。
当連結会計年度におけるPrimary Focus以外の研究開発活動の主な進展は以下のとおりです。
2022年4月 国立大学法人 東京大学との間で、革新的な新薬や医療ソリューションの創出を目指し連携協力する戦略的パートナーシップを開始しました。
2022年6月 Mogrify社 (英国) との間で、感音難聴の治療薬創出を目指した再生医療に関する共同研究契約を締結しました。
2022年7月 米国カリフォルニア州に、最先端の研究所やオフィススペース等を備えたバイオテクノロジー拠点を新設することを公表しました。
2022年8月 JAK阻害剤ペフィシチニブ (一般名) に関し、関節リウマチを適応症として、中国において承認申請を行いました。
2022年8月 GABAB受容体陽性アロステリック修飾物質ASP8062について、オピオイド使用障害を対象として臨床第Ⅱ相段階にあった開発を中止したことを公表しました。
2022年10月 Pantherna Therapeutics社 (ドイツ) との間で、mRNAを用いたダイレクトリプログラミングによる革新的な再生医療プログラムの創出を目指して、技術検証研究に関する新たな契約を締結しました。
2023年4月 感音難聴を対象として第Ⅱ相段階にあったFX-322の開発を中止したことを公表しました。
(3) 戦略目標3:Rx+ビジネスの進展
当社は、医療用医薬品 (Rx) に留まらず、ペイシェントジャーニー (診断、予防、治療及び予後管理を含む医療シーン) 全体において、様々な方法で患者さんに「価値」を届けることを目指しています。私たちはこの取り組みをRx+事業と呼んでいます。「科学的根拠に基づくヘルスケアソリューションによって、心身ともに健康に、自分らしく生きることができる社会」の実現を目指し、Rx+プログラムの事業化に鋭意取り組んでいます。
当連結会計年度における主な進展は以下のとおりです。
・精密手術をガイドする蛍光造影剤
2022年9月 蛍光造影剤ASP5354 (一般名:pudexacianinium chloride) について、リンパ節マッピングを実施する乳がん及びメラノーマ患者でのリンパ節の可視化・同定を対象とする第Ⅱ相試験の最初の症例への投与を達成しました。
・心疾患患者サポートエコシステム
2022年6月 日東電工株式会社及び株式会社エムハートとの間で締結した、使い切りホルター心電計「EG HolterTM」のパイロット販売に関する契約に基づき、電子商取引サイトを通じてパイロット販売を開始しました。
・慢性疾患の重症化予防
2022年10月 Tribered社 (フィンランド) が開発したスマートフォン向けゲームアプリ「ムーミンムーブ」を通じた歩行習慣や行動に関するデータを取得・解析することについて、北海道及び青森県とそれぞれ提携しました。
2022年10月 株式会社バンダイナムコエンターテインメントと共同開発していた運動支援ゲームアプリについて、開発を中止したことを公表しました。
・埋め込み型医療機器
当社の完全子会社であるアイオタ・バイオサイエンシズ社において、2023年度の臨床試験開始を目標として前臨床試験を行っています。
・モバイルヘルスケアソリューション
2023年3月 ロシュDCジャパン株式会社との間で、同社の血糖自己測定器と、当社がWelldoc社 (米国) と共同で日本において製品化を進めている糖尿病治療支援プログラムBlueStarを、組合せ医療機器 (注) として日本で開発・商業化するための契約を締結したことを公表しました。
(注) 診断や治療などに必要な医療機器を組み合わせた状態で、薬事手続がなされているもの
(4) 戦略目標4:サステナビリティ向上の取り組みを強化
・サステナビリティ方針の策定
2021年度、マテリアリティ・マトリックスの改定により当社と社会の双方にとっての19の重要課題を選定し、そのうち9つを最重要課題 (マテリアリティ) として特定しました。2022年度は、9つの最重要課題をサステナビリティ向上のための2つの柱としてまとめ、さらに、社会からの要請の高い環境に関して2つの重要課題を加えて、サステナビリティ方針を策定しました。サステナビリティ方針では、当社の2025年度までの中期の優先項目と具体的な取り組みを設定しています。

・サステナビリティ向上の取り組み
当連結会計年度における代表的なサステナビリティ向上の取り組みとその結果は、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。
なお、当連結会計年度の研究開発費は