第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)会社の経営の基本方針

〔基本理念〕

ものつくりを通し、すみよい社会と人々の幸せに貢献する

 

〔長期方針〕

① 21世紀に勝ち残る企業基盤を確立する

・品質第一に徹し、魅力ある商品・技術の実現

② 良い社風を築き、地域に信頼される企業を目指す

③ 明るく働きがいのある職場を築く

 

〔サステナビリティ方針〕

ものつくりを通し、すみよい社会と人々の幸せに貢献する

(基本理念がSDGsのアジェンダと重なり、グローバル・グループ内に浸透していることからサステナビリティ方針と位置付けております。)

 

(2)目標とする経営指標

当社は、事業領域の拡大による売上高の伸張と、事業基盤の強化・付加価値の向上による売上高営業利益率、及び株主資本利益率(ROE)、モビリティの脱炭素化への貢献のためCO₂排出量の削減率を重要な経営指標としております。

 

(3)経営環境及び対処すべき課題

当社グループの主要顧客である自動車産業は、100年に一度の大変革が進行中であり、特にBEV化の流れも加速しております。また、気候危機・生物多様性・食糧難・水不足などの社会課題の国際的な取り組み、AI・デジタル技術の変化など、当社を取り巻く環境は大きく変動しております。

当社としては、足元のロスの解消などによる収益力回復に取り組むとともに、2030年ビジョンと中期経営計画2025を策定し、持続的成長と企業価値向上に努めてまいります。

 

1.FINE SINTER VISION 2030

 


 

2.経営目標

2025年度の経営目標として、売上高は新型コロナウイルス感染拡大前の400億円レベルでも、8%の営業利益、10%のROEを達成し、さらに将来の成長につなげることを目指します。具体的には、モノづくり革新などで競争力の強化と収益性向上を図り、成長投資を行うことで将来の成長に向けた事業ポートフォリオ変革を進めるとともに、持続的成長に向けESG経営を推進します。


 

3.基本戦略

<競争力の強化>

①デジタル技術と匠の技の融合によるモノづくりの革新

AI・IoT技術による24時間無人稼働化、全工程自動搬送などによる品質向上、製品1個1個へのQRコード付与による製品単位での品質保証、匠の技の段替ノウハウの設備機構への落とし込み、現場オペレーター作業の標準化、段替短縮のDX化に取り組みます。「未来Factory」と名付けたコンセプトを春日井工場から順次グローバルに展開していく計画です。

なお、当社は2022年9月1日、経済産業省が定めるDX認定制度に基づく「DX認定事業者」に認定されました。
 

②ロスの撲滅とムダの排除による生産性向上

モノづくりの革新と併行して、地道なロス低減とTPSの考え方に沿ったムダの排除による生産性向上で、現場力と収益力を高めてまいります。

 

③グローバル最適生産・供給体制

各拠点の特性を活かし、製品別に「最適生産拠点」を設定、「一括生産でグローバル供給する製品」と「地産地消で生産する製品」を切り分けることで、グループ最小投資・最適コスト化による原価の低減を進め、受注の拡大、売上・利益率の向上を狙います。併せて、グローバル最適調達を推進し、最安値原材料の集中購買や高額消耗品の仕様統一等で調達コスト低減をはかります。

なお、タイ子会社をアジアの中核工場と位置づけ、競争力の強化に取り組んでおり、その一環で、タイ子会社第2拠点立上げの準備を進めております。

 

 

<事業構造変革>

①CASE対応と価値の創造

・ハイブリッドインバーター部品の高付加価値化

当社は、ハイブリッド車・燃料電池車の電気コントロール部に使われる「リアクトルコア」単体の材料・形状を一新した次世代型を2021年11月より生産開始しており、2023年度中には年間380万台規模まで生産を拡大いたします。また、高付加価値の「リアクトルAssy」の開発においては、製品化と並行して実証機による実績作りを進めながら、将来を見据えた「アモルファス」などの新材料開発も進めております。

 

・材料開発

高精度で低コストを実現する「高強度材」、電動化製品に欠かせない「機能材」、配合の自由度を活かした「トライポロジー、複合材」、環境に考慮し、紛争鉱物を使わない「ニッケルコバルトレス材」、製造工法を変えCO₂削減に貢献する「省エネ材」、これら5つの切り口で「材料開発」を加速してまいります。

2021年度では最も開発に力を入れてきたコバルトレス材の量産を開始し、2022年度では高強度・高精度材料及びニアネット工法による新製品を生産開始しております。

 

②鉄道・油圧事業の強化

・鉄道事業

シェアの高い新幹線向けに加えて在来線用や海外鉄道向けにビジネスを拡大するとともに、産業用集電部品については鉄道事業の材料と技術、更に自動車焼結部品で培ったネットシェイプ技術を活かし、低コスト化を図ってまいります。あわせて、創業以来より培ってきた集電性・耐摩耗性に関する技術を活かし、引き続き高機能・新用途製品の開発・拡販に取り組んでまいります。

 

・油圧事業

手術台や画像診断など医療機器分野の拡大や、ブランド力を活かした高級デンタルチェアのアジアでの拡販、SDGsの循環型社会構築を意識した小型産廃機器開発や、小型で廉価なクランプユニットの開発などを進め、今後も顧客価値創造に資するアセンブリ製品の開発を加速してまいります。

 

③将来に向けた新規事業分野の開拓

・『粉末に加工する技術』と『熱処理技術』を活かした『昆虫食』事業

食糧問題や水資源問題への貢献、高栄養食、サプリメントとして期待されている「食用コオロギ」を用いた粉末食品化事業です。現在、協業企業2社と企業間連携を強化し、事業拡大に取り組んでおります。また、地元地域連携を活用したブランド力強化による市場の構築・拡大を図ってまいります。当社は、コオロギ食品製造ではなく、コオロギ生体を粉末にし、販売する工程を担っています。焙煎による独特の風味と殺菌効果を高めたオリジナル粉末の商標登録が完了し、焙煎コオロギ粉を製作する工法も特許出願中です。また、独自工法により、海外のコオロギ粉に対して超微粉かつ丸みを帯びた製粉化を実現し、食材以外の業界への展開も期待できると考えています。25年度までに量産ラインを構築し、パウダー販売や同パウダーを使用したOEM食品の販売を拡販展開していきます。

 

・オリジナルコア製品の新規市場への拡販

当社の強みである鉄道製品の通電性・耐摩耗性・摺動性を活かした、オリジナルコア製品の拡販を目指してまいります。また油圧機器製品では静粛性・高出力・高耐久力を活かした製品の開発に取り組んでおります。具体的には鉄道製品では溶接電極チップ、油圧機器製品では救急搬送用ストレッチャー、さらに双方の事業の利点を活かした集電子やAGVの開発を進めております。

 

 

<ESG経営>

当社の企業理念、「ものつくりを通じて、すみよい社会と人びとの幸せに貢献する」の実現はESG経営につながります。

 

①環境

・2050年度のカーボンニュートラルに向けて、省エネの焼結炉や水素活用など革新技術の開発や日常改善の加速と、再生可能エネルギーの導入を進めます。なお、CO₂排出量を2013年度比で2025年度には40%削減、2030年度までに50%削減を目指しており、2022年度までの実績は44.4%削減です。

・より実効性のあるサステナビリティ経営を企図し、2021年12月にサステナビリティ・リンク・ローンでの資金調達を行いました。これは、サステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(以下、SPT)の達成で金利優遇などのメリットを得られる金融商品であり、当社はCO₂排出量の削減率をSPTに設定しており、初年度となった2022年度については目標を達成しております。なお、本件は環境省が実施する「令和3年度グリーンファイナンスモデル事例創出事業」のモデル事例に選定されました。

・廃棄物の削減やコバルトを使わない材料開発による環境負荷物質の低減を行います。なお、廃棄物を2010年度比で2025年度までに45%削減、2030年度までに50%削減を目標としており、2022年度までの実績は 56.4%削減です。

 

②社会

(社会との共生・共創)

以下の取り組みにより社会とつながることは、刺激や新たな発想などのきっかけとなり、長期的な企業価値向上につながるものと考えております。

・人権や環境等の社会問題への影響を考慮した鉱物調達活動のグローバル推進

・環境保護活動、主体的なボランティア活動や地域社会との交流

 

(エンゲージメントの向上)

従業員のエンゲージメントが企業の社会的・経済的価値の源泉との考えに基づき、ウェルネス経営として、従業員自らが豊かな人生をデザインして自己実現を志向している状態を目指し、身体的健康、精神的健康の安定と活力みなぎる活性職場づくりの推進、女性や障がい者の活躍の支援などのダイバーシティ推進に取り組んでおります。

 

③ガバナンス

資本コストを上回るROE目標を設定し、収益力の向上を図り、得られた収益を、資本コストを基準とした判断に基づく将来への成長投資や、最適資本政策に基づき株主還元を行うことにより、企業価値の最大化を目指してまいります。あわせてコンプライアンスなど、リスク管理体制の強化をしてまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方および取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

当社は、企業理念「ものつくりを通してすみよい社会と人々の幸せに貢献する」をサステナビリティ方針として、事業を通じて社会課題に貢献し、持続的成長に向けた取組みを継続しております。

 

当社が特定したマテリアリティ

取締役会にてマテリアリティを特定のうえ、中期で取り組むべき項目を決定し、貢献するSDGsとの対応関係を整理いたしました。


 

<ガバナンス>

当社は、サステナビリティの推進を強化するために関連性の強い主管部門を定め、経営会議配下にESG委員会を設置し、取締役会に定期的な報告をおこなうことで、執行のモニターをおこなう体制をとり、世界的な情勢や社会の要請、また経営の観点から、特に脱炭素社会の実現・人的資本経営の取り組みを拡充しています。

 

また、全ての事業領域において地球環境を保全するべく、環境活動の指針となる「ファインシンター環境方針」と具体的な「行動指針」のもと、ISO14001に基づいた環境マネジメントシステム(EMS)を構築しています。グループ全体の環境マネジメントサイクルと、拠点ごとの環境マネジメントサイクルを連動させることで、全社員参加の環境活動を展開しています。さらに月1回のマネジメントレビューでは、その環境パフォーマンスを報告し、トップによる環境経営を推進し、中期経営計画にあわせて重要な課題の設定、モニタリング、対応策の推進に取り組んでいます。

その他にも、「ファインシンターグリーン調達ガイドライン」を制定し、仕入先を含めた人権および環境への取り組みの啓蒙を進めております。

また、当社の「温室効果ガスの削減」の目標設定と達成度合いを第三者の客観的な評価を得ることで、より実効性のあるサステナビリティ経営の実行につなげていくことを企図し、「サステナビリティ・リンク・ローン」を締結しております。なお、本件は環境省が実施する「令和3年度グリーンファイナンスモデル事例創出事業」のモデル事例に選定されております。

 

<戦略>

当社では気候変動を重要な経営課題と捉え、マテリアリティ(重要課題)の中に「温室効果ガスの削減」という重点テーマを定め、中長期CO₂排出量目標を策定しております。モノづくり革新やDX推進を通じてCO₂排出量の少ない働き方を促進していくとともに、省エネの焼結炉や水素活用など革新技術の開発や日常改善の加速と、再生可能エネルギーの導入を進めます。併せて、より温室効果ガスの排出が少ない電動車向け製品の開発などを進めてまいります。活動内容は定期的にモニタリングし、PDCAを着実に回すことにより、目標の達成進めてまいります。

 

<リスク管理>

気候変動や生物多様性におけるリスクや機会について、事業上の課題や、EMS活動を通じた環境側面の影響評価、またステークホルダーからの要望・期待など総合的に勘案して特定し、「環境方針」として全社的に取り組みを進めています。移行リスクでは、炭素税が導入された場合のコスト増やステークホルダーの行動変容への対応遅れなどがインパクトの大きいリスクとして特定され、省エネ設備の導入や再生可能エネルギーの活用などにより対応していきます。物理的リスクでは、異常気象の発生頻度が増した場合にサプライチェーン含めた納品遅延等のリスクが懸念されます。環境変化に応じた最適生産体制の構築などで対応してまいります。

 

<指標及び目標>

当社では、気候変動への対応として以下の中長期CO₂排出量目標を策定し、具体的な行動計画に落としこんで取り組みを進めています。2022年度は、工場内の生産設備における地道な省エネ施策および生産に応じた焼結炉の寄せ止めや最適稼働調整、エアー配管の圧損対策などにより、Scope1.2で44%のCO₂排出量を削減いたしました。(2013年度比)

 

<中長期CO₂排出量目標>

2025年度目標        Scope1.2  40%削減 (2013年比)

2030年度目標        Scope1.2  50%削減 (2013年比)

2050年度目標       Scope1.2  カーボン・ニュートラル

 

<CO₂排出量実績(単位:t-CO₂)>

 

Scope1.2 合計

2013年度(基準年)

45,558

2019年度 

30,569

2020年度 

26,304

2021年度

27,169

2022年度

25,346

 

 

人材の育成および社内環境整備に関する方針、戦略

当社では、ファインシンターVISION 2030に向けた経営戦略の3本柱の一つにESG経営を据え、このうち、従業員のエンゲージメント向上は企業の経済的・社会的価値の源泉であると位置付け、「ウェルネス経営」と「ダイバーシティー」向上に取り組んでおります。

ウェルネス経営は、従業員自らが豊かな人生をデザインし働く幸せを感じる状態を目指し、身体的健康、精神的健康の安定と活力みなぎる活性職場づくりに取組んでおります。ダイバーシティーの向上については、性別・障がいの有無・国籍等に関わらず、多様な人財が活躍できる風土づくりに取り組んでおります。

中期経営戦略である、競争力の向上、事業構造変革、ESG経営を推進するには、変革を推進する人材の確保・育成が課題であり、ウェルネス経営の一環として、頑張った人が報われる人事制度への改革に取り組んでおります。

なお、教育体系については、これまで社内人材育成機関であるFSC学園を中心とした技能の伝承・向上とともに、新入社員へのデジタル技術・粉末冶金技術・機械加工技術の一貫教育、階層別教育、定期的な管理職研修を実施しており、更に学ぶ機会の充実を図ってまいります。

 

なお、社員が成長し能力を発揮できる環境づくり、社員一人ひとりの多様な働き方を支える取り組みの詳細については、以下、当社ウェブサイトに開示しております。

サステナビリティサイトS(社会)→ https://www.fine-sinter.com/sustainability/society/

 

<指標および目標・実績>

当社は上記「人材の育成および社内環境整備に関する方針、戦略」において、次の指標を用いています。

 

目標

2019年

2020年

2021年

2022年

女性管理職比率(%)

-

1.5

2.9

2.8

2.9

女性育児休業取得率(%)

100.0

100.0

100.0

100.0

100.0

男性育児休業取得率(%)

7.0以上

4.8

4.0

26.3

31.6

男女間の賃金差(%)※正規雇用労働者
  (男性の賃金に対する女性の賃金の割合)

-

82.3

82.0

81.3

82.0

 

(注)1  管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異についての実績は、「第1企業の概況 5従業員の状況 (4) 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」に記載しております。

 

上記以外に、毎年実施する従業員モラルサーベイ結果も重要な指標として職場風土改善等に活用しており、今後更に充実のうえ、指標として開示を検討いたします。

 

3 【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 自動車業界への販売依存度

当社グル-プの製品は主としてエンジン部品、ショックアブソーバー部品等の自動車用部品のため、自動車産業の構造変化及び市場縮小等が、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。なお、当社グループの連結売上高に占めるトヨタ自動車及び同社現地子会社の割合は24.7%であります。

当社グループとしては、自動車産業の変革に対応するために、当社の強みである粉末冶金の特性や関連技術を活かし、電動化関連製品の開発を強化する一方、非自動車分野の鉄道車両用部品及び油圧機器製品の開発と拡販の強化を行っております。更に、新規分野の開拓も進めております。

 

(2) 海外進出に内在するリスク

当社グループの事業には、海外における製品の生産と販売が含まれています。各地域における政治、経済状況の変化等による予期せぬ事象が当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループとしては、現地の動向は海外拠点スタッフの情報網を積極的に活用する事で適時適切に入手し対応するように努めております。

 

(3) 業界内外の競争に伴うリスク

当社グループが身を置く業界の競争は非常に厳しく、競合他社は国内外の多岐に渡ります。顧客のニーズを満たした製品の開発・製造・販売に努めておりますが、競合他社との競争に打ち勝てない場合は当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、デジタル設計から実証加工、電動化製品の開発から量産までそれぞれを担う専任組織と、開発・生産技術・金型部門を統合した「テクニカルセンター」を設けており、開発力の強化と開発から量産化までの加速を進めております。

 

(4) 原材料の仕入に係る仕入価格の変動及び人権に関わるリスク

当社グループでは、粉末冶金製品の原材料として鉄粉等の金属粉を使用していますが、これらの原料価格が高騰し、製品価格に反映することが困難な場合は、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。また、供給元の不慮の事故や資源国の政治・経済状況、労務管理面での人権侵害などにより、原材料・部品の不足や当社グループの企業イメージ毀損などが生じる可能性があります。その場合は生産の遅れによる原価上昇、株価低迷や投資家の投資撤退などの可能性があります。

当社グループとしては、製品歩留りの向上による原材料使用量の低減や、市況の変動が大きく資源国での人権侵害リスクの高いコバルトの添加不要材料の開発・提案、人権や環境等の社会問題の影響を考慮した鉱物調達活動などを推進し、リスク低減を図っております。

 

(5) 為替変動によるリスク

当社グループの事業には、海外における製品の生産と販売が含まれています。各地域における売上、費用、資産を含む現地通貨建ての項目は、連結財務諸表作成のために円換算されています。従いまして、換算時の為替レートにより、円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。

なお、為替変動による通期連結営業利益への影響は、1円/$あたり約10百万円です。

当社グループとしては、ものづくり改革や自動化等の合理化推進等により、円高進行時でも利益確保できる体質構築に努めております。

 

 

(6) 感染症拡大に関するリスク

感染症の拡大に伴う製品需要の低迷、生産の停滞などが継続する場合、当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループとしては、感染拡大防止のため、衛生管理の徹底やテレワーク等の事業運営を実施するとともに、有事の際、稼働日数調整や開発費以外の固定費削減及び機動的な短期資金調達などの対応で、リスクの最小化に努めてまいります。

 

(7) 気候変動

気候変動がもたらすリスクは、製品の開発設計から調達・生産・物流・販売まで、企業活動全般に渡って存在しており、異常気象による災害リスクがもたらす生産影響、規制強化によるコスト増等は企業活動を停滞させる恐れがあります。

当社グループとしては、気候変動対応への取り組みとして、2050年度カーボンニュートラルに向けた長期ビジョンを策定し、2025年度までにCO₂を40%、2030年度までに50%削減する目標の達成に向けて、省エネ技術の開発など当社グループ一丸となって推進しております。また、電動車両搭載製品や鉄道車両用製品への売上構成比を高めてまいります。

 

(8) 退職給付債務

当社グループの従業員退職給付費用及び債務は、割引率などの数理計算上の前提条件や年金資産の長期期待収益率に基づいて算出されております。従いまして、割引率の低下や年金資産の減少など実際の結果が前提条件と異なる場合は、将来の期間に認識される費用及び計上される債務に大きな影響を及ぼす可能性があります。

当社グループとしては、年金資産の運用にあたり、分散投資や運用状況の定期的モニター等により、リスクの低減に努めております。

 

(9) 法令適合

当社グループは事業の遂行にあたり各国の法的規制の適用を受けております。これらの法令等に違反した場合や社会的要請に反した行動等により、法令による罰則・訴訟・社会的制裁を受ける可能性があります。訴訟及び規制当局による措置その他の法的手段は、当社グループの事業、業績及び財政状態に大きな影響を与える可能性があります。

当社グループでは法令に適合することを確保するための体制として、内部統制委員会を設置しており、定期的に取締役会への報告を行っております。また、コンプライアンスの取り組みを横断的に統括する事務局を設置しており、内部統制アンケートの実施などによるコンプライアンスの状況把握、内部通報制度の強化に取り組んでおります。内部通報窓口の更なる拡充、継続的な教育、研修による啓蒙活動でコンプライアンス遵守を強化していきます。

 

(10) 情報セキュリティ

当社グループは、技術情報などの情報資産のデータ処理を行っていますが、不測の事態によって外部からのコンピュータウィルスの感染やハッキングの被害、サーバ及びネットワーク機器の障害やシステム障害の発生による業務停止や情報の外部漏洩等の事態が発生する可能性があり、それに伴い当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、情報セキュリティリスクの評価・分析と状況の把握を行い、段階的なセキュリティ強化に取り組んでいます。引き続き、人的・組織的対策、技術的対策を講じ、更なるセキュリティのレベルアップ、強化に取り組んでいきます。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(経営成績等の状況の概要)

(1) 業績

当連結会計年度における国際情勢は、新型コロナウイルス感染症による行動制限の緩和が進む一方で、原材料やエネルギー価格の高騰、欧米を中心としたインフレの進行、ウクライナ・米中情勢等の地政学リスク、中国景気減速、欧米景気後退リスク等、先行き不透明な状況が続いております。

当社グループ製品の主要市場である自動車産業においては、世界的な半導体不足及び原材料やエネルギー価格高騰の影響があり、厳しい経営環境となりました。

当連結会計年度の業績は、売上高は396億74百万円(前年度比1.8%増)となり、営業損失は10億40百万円と前年度に比べ13億92百万円の減益となりました。また、為替変動に伴う為替差益1億44百万円及び休業日設定による助成金収入1億44百万円の計上等により、経常損失は10億50百万円と前年度に比べ16億86百万円の減益となりました。親会社株主に帰属する当期純損失は、一部の固定資産について減損損失を計上した影響等により27億32百万円と前年度に比べ22億12百万円の減益となりました。

 

セグメントの業績を示すと、次のとおりであります。

 

①自動車焼結事業

為替変動の影響を除くと、国内・米国を中心とした半導体不足や、中国国内におけるロックダウンに伴う得意先での生産調整の影響等により販売量減少となりました。当社グループとしては、休業日設定等による稼働調整、省人推進及び生産課題の解消に加え、原材料やエネルギー価格高騰の販売価格への転嫁等に取り組み、通期では大幅な減益となったものの、第4四半期では利益確保に至りました。

これらの結果、当連結会計年度における売上高は360億2百万円と前年度と比べ7億9百万円(2.0%)の増収となり、セグメント利益につきましては、1億88百万円と前年度と比べ13億2百万円の減益となりました。

 

②鉄道焼結事業

新幹線用ブレーキライニング及び新幹線用すり板の搭載車両増加が売上増に寄与した一方、新型コロナウイルス感染拡大に伴う減便による発注数減少の影響が残り、足元では改善傾向であるものの、通期では前年度比減収となりました。これに対して、売上減に応じた原価低減策等により、原材料やエネルギー価格高騰の影響はあるものの、増益となりました。また、鉄道で培った技術を活かし、新たに産業用集電部品の生産・販売も開始しました。

これらの結果、当連結会計年度における売上高は14億91百万円と前年度と比べ24百万円(△1.6%)の減収となり、セグメント利益につきましては、2億7百万円と前年度と比べ1億14百万円122.8%)の増益となりました。

 

③油圧機器製品事業

北米向けデンタルチェア用製品を中心に、売上高は堅調に推移した一方、購入部品の価格高騰等の影響で減益となりました。

これらの結果、当連結会計年度における売上高は21億71百万円と前年度と比べ31百万円(1.5%)の増収となり、セグメント利益につきましては、5億83百万円と前年度と比べ25百万円(△4.1%)の減益となりました。

 

(2) キャッシュ・フローの状況

   (営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は、18億28百万円となり、前連結会計年度に比べ23億61百万円減少(56.4%減)となりました。これは主に、自動車焼結事業を中心とした、販売量減少、原材料・エネルギー価格高騰などによる当期純利益の減少によるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は、36億90百万円となり、前連結会計年度に比べ3億43百万円増加(10.3%増)となりました。これは主に、未来Factoryやタイ第二工場関連設備など有形固定資産取得による支出の増加によるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果増加した資金は、3億5百万円となり、前連結会計年度に比べ16億68百万円増加となりました。これは主に、短期借入金が16億48百万円純増したことによるものであります。

 

 

(生産、受注及び販売の状況)

(1) 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

生産高(千円)

前年同期比(%)

自動車焼結事業

36,195,081

2.2

鉄道焼結事業

1,354,688

△6.5

油圧機器製品事業

2,136,174

0.1

合計

39,685,944

1.8

 

(注) 金額は販売価格によっております。

 

(2) 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

受注高(千円)

前年同期比(%)

受注残高(千円)

前年同期比(%)

自動車焼結事業

35,911,558

1.5

3,210,576

△2.8

鉄道焼結事業

1,470,541

△1.1

113,000

△15.7

油圧機器製品事業

2,111,015

△2.7

124,000

△32.6

合計

39,493,115

1.2

3,447,576

△4.8

 

 

(3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

販売高(千円)

前年同期比(%)

自動車焼結事業

36,002,877

2.0

鉄道焼結事業

1,491,541

△1.6

油圧機器製品事業

2,171,015

1.5

その他

9,518

11.2

合計

39,674,954

1.8

 

(注) 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

販売高(千円)

割合(%)

販売高(千円)

割合(%)

トヨタ自動車㈱

7,993,604

20.5

4,885,077

12.3

 

 

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループ(当社及び連結子会社)が判断したものであります。

(1) 財政状態の分析

   (資産)

資産は482億34百万円となり、前連結会計年度末に比べ、19億58百万円減少いたしました。主に固定資産減損計上に伴う有形固定資産の減少(前連結会計年度末比18億72百万円減)によるものであります。

 

(負債)

負債は309億29百万円となり、前連結会計年度末に比べ、7億65百万円増加いたしました。これは、短期借入金増加(前連結会計年度末比12億95百万円増)、支払手形及び買掛金の減少(前連結会計年度末比3億36百万円減)及び長期借入金の減少(前連結会計年度末比3億19百万円減)によるものであります。

 

(純資産)

純資産は173億5百万円となり、前連結会計年度末に比べ、27億23百万円減少いたしました。これは、主に利益剰余金の減少(前連結会計年度末比28億64百万円減)によるものであります。

 

(2) 経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

当社グループは、「中期経営計画2025」の達成に向け、グループ一丸となり「競争力の強化」「事業構造変革」「ESG経営」に取り組んでおります。当連結会計年度におきましては、新型ハイブリッド車用のインバーター部品の増産を23年年初に開始しており、24年年央には国内子会社に生産ラインを増設予定です。デジタル技術と匠の技の融合によるモノづくり革新「未来Factory」の実証を継続し、23年度から工場へ展開予定です。また、グローバル最適生産の一環で、タイ子会社第二拠点の立上げ準備を計画通り推進しております。あわせて、食糧課題対応としての昆虫食事業を含めた新規事業開拓、カーボンニュートラルへの取組み、人的資本への投資などに積極的にリソーセスを投入し、将来の収益力確保、企業価値向上への取り組みを推進してまいります。

このような状況の中、当連結会計年度の目標として掲げておりました、連結での売上高400億円、営業利益率2.5%、ROE2.7%に対して、実績は売上高396億円、営業利益率は△2.6%、ROEは△17.2%でした。円安への為替変動が売上を押し上げたものの、自動車焼結事業における半導体不足や、中国国内におけるロックダウン等の影響による販売量減少で、売上高は目標未達となりました。また、国内や米国子会社での生産上のロスなどで営業利益率は未達となり、これに加えて固定資産の減損損失計上等で親会社株主に帰属する当期純利益が大きくマイナスとなった影響などで、ROEは大幅な目標未達となりました。

2023年度以降につきましては、原価改善や寄せ止めなどの取り組みを進めつつ、「中期経営計画」に沿って、未来Factoryの展開などによる収益力向上、電動化関連製品や鉄道及び油圧事業の拡大、新規事業分野の開拓など、事業ポートフォリオシフトを加速し、ESG経営を基盤に企業価値向上に努めてまいります。

重要な経営指標の一つであるCO₂排出量削減については、2013年度比で2025年度までに40%削減、2030年度までに50%削減を目標としており、2022年度の実績は、生産設備の寄せ止めや生産量の減少などで44.4%の削減となりました。

当社グループの資金状況は、営業キャッシュ・フローが18億28百万円となり、そこから「未来Factory」やタイ子会社の第2拠点新設等での設備投資活動で36億90百万円の支出、設備投資等に伴う資金調達などの財務活動によるキャッシュ・フローで3億5百万円増加したことにより、現金及び現金同等物の期末残高は前連結会計年度より13億83百万円減少し、42億46百万円となりました。

今後の資金需要としましては、国内における「未来Factory」及び新規分野への開発投資、タイ子会社の第2拠点生産準備等に伴う設備投資がありますが、必要資金は自己資金及び借入金でまかなう予定です。

 

 

(重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定)

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、会計方針の選択、資産・負債及び収益・費用の報告金額及び開示に影響を与える見積りを必要とします。経営者は、これらの見積りについて過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積りの不確実性があるため、これらの見積りと異なる結果となる場合があります。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち重要なものについては、「第5経理の状況1連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)、(重要な会計上の見積り)」に記載しておりますが、特に以下の重要な会計方針が連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に大きな影響を及ぼすと考えております。

 

① 繰延税金資産

当社グループは、繰延税金資産について、その回収可能性を考慮して、評価性引当額を計上しております。評価性引当額を計上する際には、将来の課税所得を合理的に見積っております。繰延税金資産の回収可能性は将来の課税所得の見積りに依存するので、その見積額が減少した場合は繰延税金資産が減額され税金費用が計上される可能性があります。

 

② 固定資産の減損損失

当社グループは固定資産の減損会計の適用に際し、独立したキャッシュ・フローを生み出す最小単位でグルーピングし、各グループの単位で将来キャッシュ・フローを見積っております。将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回った場合、回収可能価額まで帳簿価額を減額しております。将来この回収可能価額が減少した場合、減損損失が発生し、利益に影響を与える可能性があります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

当連結会計年度において、経営上の重要な契約等はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

 当社グループは粉末冶金工法を活用した自動車部品、鉄道車両用部品、産業機械用部品等の開発・製造販売、ならびに粉末冶金部品を組み込んだ油圧機器製品の開発・製造販売を行っております。
 当連結会計年度における当社グループの研究開発活動の金額は537百万円であります。
 
 セグメントごとの研究開発活動状況は以下のとおりであります。
 
① 自動車焼結事業

 B(バッテリー)EVに代表される電動化の加速の中、当社の強みである材料開発技術を用いて開発に関わった、ハイブリッド車のインバーター用製品は、新世代用部品の生産を計画通り22年度より開始しました。更なる増量に向け、ファインシンター東北㈱にて生産準備を開始し、2023年度には年間380万台規模まで拡大します。さらに次世代向けの材料や関連部品への応用に関する開発に取り組んでいます。また電動化機能部品では、小型・高強度・高精度開発により、電動VVT構成部品において22年度粉末冶金工業会賞を受賞し、電動パーキングブレーキ構成品では計画通り、グローバル3拠点で順調に量拡大が進んでいます。 

 また、生産関連技術として「未来Factory」によるモノづくり革新に取り組んでおります。匠の技とデジタル技術を融合し、不良品を出さない24時間稼働の生産工程を目指し、実証ラインで検証中であり、2023年内の量産ライン展開を計画しております。

 

② 鉄道焼結事業

 創業以来の培ってきた集電性・耐摩耗性に関する技術を活かし、ブレーキライニング及びパンタグラフすり板を軸に高機能・新用途製品の開発・拡販に取り組んでいます。当連結会計年度は、銅系焼結集電材を改良した接地用部品の量産を開始し、高性能化を目指した開発に取り組んでいます。また、事業拡大に向け、次世代新幹線用製品の高性能化、国内外在来線への拡販、産業用集電部品開発も積極的に進めています。特に、次世代新幹線用製品の高性能化は、材料特性だけでなく形状提案も行い、付加価値向上を図っています。在来線への拡販としては、すり板を銅系からカーボン系への提案で、銅の使用量を低減し、環境にも配慮した製品開発を行っています。また鉄道事業の材料と技術を活かした産業用集電部品については、更に自動車焼結部品で培ったネットシェイプ技術で低コスト化を図ってまいります。

 

③ 油圧機器製品事業
 油圧機器製品は、歯科、画像診断、手術台向けの医療機器、食品機械、設備業界からの多様なニーズに対応した製品開発を行っております。当連結会計年度は、設備機器(主にクランプ用)向けに静粛性を高めたタンク一体型ユニットをベースに、アキュムレータ(蓄圧装置)を搭載することで従来よりも小型で省エネ性を向上したユニットを製品化しました。

また当社技術や製品特性を活かし、他事業向け機器の開発にも取り組み、SDGsの循環型社会構築に向け、既存ユニットを使用した環境関連の小型産廃機器開発は要素開発のフェイズから機能評価へとフェイズを進めております。今後も顧客価値創造に資するアセンブリ製品の開発を加速してまいります。

 

④ 新規事業分野
 上記セグメントの研究開発以外に当社コア技術を最大限に活かした新規分野開拓を進めております。SDGsの観点から食糧問題に貢献する「昆虫食事業」については、コア技術である粉末加工や熱処理技術を活用し、昆虫パウダーの製品化を実現しました。25年度までには量産ラインを構築し、パウダー販売や同パウダーを使用したOEM食品の販売を拡販展開していきます。

 さらに自動車、鉄道、油圧で培った技術の融合を図り、BtoBからBtoCへ、部品メーカーからユニット・完成品メーカーへとビジネスモデル改革を進めてまいります。

 

 上記の活動につきまして、経営リソースを有効に配分し社会変革に追随した事業を開拓し、事業ポートフォリオの変革・拡充を進め、経営目標の達成と企業価値向上を図ってまいります。