当社グループの経営方針、経営環境、及び対処すべき課題は、以下の通りであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは「オプティカル事業」、「ライフサイエンス・機器開発事業」及び「その他事業(電子科学株式会社を含む)」の3つの事業を有しております。
(1) 経営方針
当社は、「世の中にないオンリーワンの技術により製品を作り出し、広く社会に貢献する」ことを経営理念に掲げ、各種産業分野の技術発展に寄与し、創薬や再生医療をはじめとした先端技術の研究及び実用化の促進に役立つことにより、「科学技術イノベーションの創出に貢献する製品開発を推進する」ことを経営方針に定めております。
(2) 経営環境等
当連結会計年度における世界経済は、各国において新型コロナウイルス感染症による経済活動への制約が解除され正常化が進んだものの、世界的にインフレが長期化する中、金融政策による景気減速への懸念や地政学リスクによる資源価格の高止まりなど、先行き不透明な状況が続いております。また、国内経済においては、自動車産業での品質不正問題発生による出荷停止の影響も緩和され、半導体などの成長産業や人手を補う省力化に向けた設備投資計画が旺盛で、製造業を中心とした景気回復のモメンタムは上昇傾向が続いております。一方で、中東情勢の更なる緊迫化や中国経済の先行き不透明感、世界的なインフレの長期化による国内経済への影響が懸念されております。
このような経済環境のもと当社グループは、オプティカル事業、ライフサイエンス・機器開発事業及びその他事業(電子科学株式会社を含む)という独自の技術を利用した3つの事業によって、高品質な製品提供と研究開発活動の強化に取り組み、経営基盤拡充と企業価値向上に努めてまいりました。
オプティカル事業においては、特にエネルギーや半導体といった市場規模の大きな分野の最先端研究が契機となり、各国で放射光施設や自由電子レーザー施設の新規設置あるいはアップグレードの計画、実行が盛んになっております。国内では、新設された第4世代放射光施設NanoTerasuの稼働開始とSpring-8のアップグレード計画が報告されましたが、国外では更に多くの計画が進行しております。特にアジアの放射光市場の躍進が目立ち、中国では上海市、北京市を筆頭に合肥市、深圳市で新設計画が現在進行中であり、台湾と韓国の各施設では大規模なリプレースが行われる見通しとなっております。また欧州では、イギリス、ドイツ、イタリア、スペイン、フランスに点在する大中規模の多くの放射光施設でアップグレードの計画が明らかになっています。各々の施設がそれぞれの光源の特徴を活かした多種多様なミラーの設計を行っており、当社はすでに多くの引合いを受けております。良好な市場環境の中、当社は受注に向けた検討を進めております。
ライフサイエンス・機器開発事業おいては、新規重点事業分野として掲げる、各半導体材料を主たる対象としたナノ表面加工技術(触媒基準エッチング法(CARE)、プラズマ援用研磨法(PAP)、プラズマ化学気相加工法(PCVM))を用いた加工プロセスの開発とその装置化、商品化を推進するとともに、セミコン等の展示会への出展や技術セミナーの開催などを通じて、市場への浸透、拡販活動を展開してまいりましたが、当社技術を高く評価いただいているユーザー数が徐々に拡大しております。特にEVの市場拡大のキーとなるパワーデバイスやポスト5G等次世代通信技術等に必要となる水晶デバイスやSAWデバイスに用いられるウェハの高精度表面創成技術として注目、期待されています。今後も各種半導体材料等の表面加工技術の高度化と実用化を図るとともに、国内外への販路拡大や大手企業やベンチャー企業とのコラボレーションを進め、製品展開を推進してまいります。
ライフサイエンス関連事業を取巻く環境につきまして、昨今の長時間労働是正による労働環境改善、労働人口の低下が全ての業界の重要課題となっており、各医療機関や研究機関においても、昼夜、休日を問わない培養実験・開発への影響が顕著になりつつあります。その解決策の一つとして、自動培養装置による省人化、無人での連続運転化が期待されており、装置導入への意欲が高まっております。また東京医科歯科大学が、当社独自の3次元回転浮遊培養装置を用いて、iPS細胞由来のヒト腸管オルガノイド(HIO)の生成に成功されたこと、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構と進めている、脳梗塞治療に寄与する幹細胞分離機器(医療機器)の共同開発も計画通り進展したこと等を受けて、国内のみならず、海外のユーザーからも当社製品に関する引合いが拡大しております。
今後も大学、病院、製薬会社を問わず、幅広く共同開発先や顧客の裾野拡大を図り、事業拡大に努めてまいります。
その他事業である子会社の電子科学株式会社においては、主力製品である昇温脱離分析装置(TDS)の需要が現在の半導体や液晶・カラーフィルター企業向けのみならず、鉄鋼、電機、自動車、水晶振動子等の様々な産業分野にも市場拡大が見込まれるため、既存製品の販売だけでなく、新しい製品の企画、創出に注力し、新たな市場に製品投入することで新規顧客の開拓を進め、収益力の拡大に努めてまいります。
(3) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
① 事業活動に関わる課題
(オプティカル事業)
・放射光施設関連
アジア市場を中心に進む積極的な施設の新規設置、アップグレード及びミラーリプレースにおいて、すでに多くのミラーの供給を行ってきましたが、受注後のより高い精度仕様への変更や、当社の高精度ミラーを基板とする付加加工期間の長期化のため、一部製品において生産計画が不測になることがありました。そのため、栃木生産技術センターの本格稼働により生産能力、生産総数が向上したにも関わらず、期ずれとなるケースが発生しました。今後は、社内製造と調達の双方の両観点で連携強化を図り、生産工期全体の短縮化を目指してまいります。また、第4世代放射光施設へのアップグレードにより光源性能の向上が伴うため、これまで以上に高い精度のミラーが要求されてまいります。中期的に控える各国施設のアップグレードの案件を取りこぼすことなく対応するため、更なる高精度化を迅速に進めるとともに、新たな光学系の積極的な開発・販売も推進してまいります。
・半導体・宇宙等に関連する光学部品への展開
各種Ⅹ線ミラー(光学素子)は、従来技術では不可能であった表面形状の超高精度化を実現することができ、さまざまな産業分野においてビジネスを展開するための技術的ポテンシャルを有しております。
宇宙や半導体といった産業において光学部品は必要不可欠な存在であり、これらに対し、当社がこれまで大阪大学との共同研究で開発を進めてきたナノ加工技術(EEM、プラズマCVM、CARE)とナノ計測技術(RADSI、MSI)が精度的に十分活用できるレベルにあるため、特に高性能化傾向が強く量産化速度の高い半導体分野に参入する上で重要な要素の技術となります。
現在、宇宙ならびに半導体の露光、検査に関わる高精度光学部品の問い合わせを複数頂いており、テスト加工の受託や大手メーカーとの共同研究開発の締結なども進み、技術検討から開発・試作フェーズに進んでいる案件も多くあります。オプティカル事業の展開によって蓄積された光学素子に関連する知見と技術を活かし、半導体産業などでの利用が見込まれる光学素子製品を中心として、ミラー製品の需要に左右されない新たな事業の柱を構築してまいります。
<ライフサイエンス・機器開発事業>
(ライフサイエンス事業)
新型コロナウイルス感染症が世界的に収束へ向かい、これまでの行動制限や様々な規制が緩和される中、生命科学の領域におきましても、働き方改革を実現するための長時間労働是正による労働環境の改善と景気回復に伴う人手不足の影響を受け、自動細胞培養装置を導入する機運が高まっております。そのような中、当社におきましては、低価格の汎用型自動細胞培養装置「MakCell®」及び当社独自の3次元回転浮遊培養装置「CELLFLOAT®」を中心に拡販活動を進めてまいりましたが、昨今は培養装置単体ではなく、前後の工程も含めた全自動培養システムとしての問合せが増加しております。このような顧客ニーズの多様化に対応できるよう設計対応力、生産技術力の向上を図るとともに、積極的な営業活動を展開することで収益確保に努めてまいります。
また、2022年11月に東京医科歯科大学において、3次元回転浮遊培養技術「CELLFLOAT®」をベースにした「CellPet3D-iPS®」を用いて、iPS細胞由来のヒト腸管オルガノイド(HIO)の生成に成功され、再生医療に大きな期待が寄せられております。当該製品に関しましても、これを契機に国内のみならず、海外のユーザーからも問い合わせが拡大しております。対象マーケットの幅を広げ、顧客ニーズを細胞培養に関わる新たな商品開発につなげるとともに、対応可能な商材の拡大を図り、ライフサイエンス分野の成長を促すことで、人類、社会の健やかな発展に寄与してまいります。
さらに、医療機器の開発につきましては、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)からの競争的資金を受け、公益財団法人神戸医療産業都市推進機構と進めている、脳梗塞治療に寄与する幹細胞分離機器(医療機器)の共同開発も計画通り成果を上げることができ、そのベースとなる単核球分離装置「MK-1000」を商品化いたしました。この装置は脳梗塞治療のみならず、認知症治療等幅広い用途への展開を期待しており、今後、さらに市場ニーズ等の情報を収集し、装置・システムならびに消耗品の販売ビジネスや新規支援ビジネス等の事業展開につなげてまいります。
(機器開発事業)
当社設立当初より各種自動細胞培養装置を開発してまいりましたが、その自動化設計技術を活かし、当社の高精度KB型集光ミラーを用いた集光装置や各種OEM製品の製品開発を手掛けてまいりました。
創業以来の装置開発で培った技術を活かし、新たな事業の柱として、独自の表面加工・研磨技術及び装置の開発推進、実用化による半導体装置事業への参入を図ってまいりました。昨年度はプラズマ化学気相加工装置(PCVM)とプラズマ援用研磨装置(PAP)の小型試作機の販売実績に繋がりましたが、当連結会計年度におきましては、PCVMで昨年度小型機を納入したお客様からのリピートとして大型自動装置の受注、新規のお客様からの小型機の受注をいただき、第4四半期に納入・売上計上し、事業展開に一定の成果が得られました。
PCVM、PAP両装置にナノ表面加工技術の触媒基準エッチング装置(CARE)、電気化学機械研磨装置(ECMP)を加えた次世代研磨装置を4つの柱として、半導体製造装置、半導体デバイスメーカー、次世代に向けた基礎研究開発分野への展開を図ることで、半導体ビジネスへの進出に注力し、中長期的な成長を支える技術基盤の強化を実現してまいります。
当連結会計年度の第2四半期末には「SEMICOM Japan 2023」へ出展をした結果、複数企業からテスト加工の依頼を受けております。展示会への出展だけでなく、自社セミナーの開催やホームページの見直しと活用などによって営業の展開力を高め、販路拡大や大手企業との共同開発契約締結に繋げるなど、各種半導体材料等の表面加工技術の実用化と高度化を図り、製品展開を推進してまいります。
ライフサイエンス・機器開発事業においては、ライフサイエンス分野や半導体分野における独自の製品開発を積極的に進めて顧客を獲得するとともに、市場の拡大に備えるために優秀な技術者の確保と育成、生産技術力の強化、協力会社を含めた生産体制や保守サービスの構築が重要課題であると認識しております。
このため当社では、ライフサイエンスや半導体開発の経験者や装置ビジネスの管理経験者等優秀な人材の確保のために積極的な中途採用活動を実施する一方で、国内外の商社、生産協力会社との新たなパートナシップを構築し、事業拡大への礎を作っていきます。
<電子科学株式会社>
電子科学株式会社は、超高真空環境下で試料を加熱することで放出される微量の気体成分(主に水素、水)を高精度に分析する昇温脱離分析装置(TDS)を製造・販売しており、半導体や液晶業界を中心に材料の研究や、製造工程の評価と品質管理において高い評価を得ておりますが、これまでの顧客層のみならず、鉄鋼、電機、自動車、水晶振動子等の様々な産業分野にも市場拡大が見込まれております。
今後は、電子科学株式会社の分析技術と当社の自動化技術との連携を行い、新しい製品の企画、創出に注力し、新たな市場に製品投入することで新規顧客の開拓を進め、収益力の拡大に努めてまいります。営業活動地域についても、対象マーケットの幅を広げ、当社のオプティカル事業の海外チャネルを活用して積極的に営業活動を推進し、新規顧客の開拓を進め、収益力の拡大を図ってまいります。
② 技術開発体制の構築
当社グループの顧客の多くは基礎研究に取り組んでいる研究機関・大学・企業の研究者であり、この基礎研究の分野で成長するためには、最先端の技術動向のキャッチアップと継続的な技術開発を行う体制を構築し、継続的に付加価値を提供することが重要であると考えております。
このような認識のもと、オプティカル事業では国内外で開催される国際学会での企業展示だけでなく、当社の製品や最新の技術紹介等を積極的に発信してまいります。また、ライフサイエンス・機器開発事業においては細胞培養センターを活用し、オープンイノベーションの拠点として、最先端の技術開発に取り組んでいる研究機関や大学との共同研究や企業との事業連携を積極的に推進してまいります。
半導体事業では、大学との共同開発で得られた成果(新たな加工原理や基本加工プロセス)と当社独自の装置技術を両輪として、開発を進めてまいります。また、展示会、ホームページによる製品紹介、当社装置による加工事例の紹介等を積極的に発信するとともに、お客様の実基材を用いた試作・評価や、お客様との共同開発や受託開発を加速することで、事業拡大を図っていきます。
ライフサイエンス事業においては細胞培養センターを活用し、オープンイノベーションの拠点として、最先端の技術開発に取り組んでいる研究機関や大学との共同研究や企業との事業連携を積極的に推進してまいります。
③ 営業力の強化
オプティカル事業においては、事業規模を拡大させるためには営業力の強化が重要であると考えております。しかしながら、取り扱う製品はコンサルティング営業ができるような技術知識が必要となるため、即戦力となる営業人材の確保が難しく、継続的な営業人材の確保と強化が重要な課題であると考えております。具体的には、技術者の社内ローテーションや物理学等の基礎学力を有している人材の採用活動によって営業人材を確保し、入社後は教育を担当する上司による継続的なOJTの推進によって営業力の強化に注力してまいります。
各国施設の研究者とは、施設への直接訪問、放射光関連の国際学会や、光学全般の国際展示会において対面会話を主としており、それ以外ではウェブ会議により適時に商談、議論をしています。また最近では研究者の訪日の機会も増え、これまで以上に建設的な議論と密接な関係づくりが行えるようになっています。
ライフサイエンス・機器開発事業及び電子科学株式会社においても、訪問とWEB会議を組み合わせて有効に営業活動を進めていますが、さらに関連業界に強い新たな商社、代理店とのコラボレーションを進め、潜在顧客の取り込み、市場への浸透を図ってまいります。また、最近は台湾、韓国、中国からの問合せが増加しており、よりニーズの高い地域を選定した海外への展開を徐々に進めており、有力地域での販売網の確立に努めてまいります。
④ 生産管理体制の強化
オプティカル事業において、需要が拡大しグローバルな競争に生き残っていくためには、生産管理の役割が大きくなっており、組織力強化が重要であると考えております。
一方、ライフサイエンス・機器開発事業及び電子科学株式会社は、新規事業を含めて、ファブレスによる柔軟な生産体制にて事業を展開しており、そのために協力企業との緊密な連携体制が重要であると考えております。今後の生産台数の増加や短納期化への要求に応えるためには、既存の協力企業だけでは不十分であり、新たな協力企業の発掘と育成が必要であると考えており、そのための準備を進めています。
さらに今後、より信頼度の高い製品供給や顧客満足度の向上に向けて、それぞれの製造工程における生産管理や品質管理等、最適なチェック体制を構築し、安定した品質の製品を提供する仕組みが必要不可欠となるため、それらを総合した生産管理体制を強化してまいります。
⑤ 内部管理体制の強化
当社グループの規模が徐々に拡大するに伴い、内部管理に関係する業務が多岐にわたって発生しておりますが、今後のさらなる成長のためには内部管理体制の一層の強化を図る必要があると認識しております。そのためには、内部管理の重要性に対する全社的な認識の強化を図り、また、法務・財務・経理・人事・広報・情報システム等に精通した人材も積極的に登用することによって、業務の有効性と効率性を高めてまいります。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取り組みは次のとおりであります。
なお、文中の将来に対する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティ基本方針
「世の中にないオンリーワンの技術により製品を作り出し、広く社会に貢献する」の経営理念に基づき、グローバルニッチトップのモノづくり企業として、持続可能な開発目標(SDGs)やカーボンニュートラルの実現に寄与する高付加価値製品の開発と提供を通じて、環境、社会、経済のすべてにおいて持続可能な状態を実現する経営を目指します。
(2)ガバナンス
当社グループは、環境、社会、従業員、コンプライアンスなどのサステナビリティに関連する事項について、経営戦略室が事務局となっている経営会議において協議を行なっております。同会議にでの協議結果を踏まえ、必要事項については月次で開催される取締役会へ報告、審議することで最終的な意思決定機関を明確にしており、組織全体でサステナビリティ体制の推進を図っております。
(3)リスク管理
当社グループは「経営危機管理規程」や「コンプライアンス規程」を定めて、危機事態の発生に備え、日常的に適正業務の維持、推進に努めております。社内取締役を中心メンバーとしたコンプライアンス委員会の運営に加え、経営戦略室を事務局とした経営会議において、当社事業の運営に潜在しているリスクをコントロールするリスクマネジメントとリスクの顕在化によって被るダメージを極小化するクライシスマネジメントに取組む体制を整備・運用しております。各事業部門におけるリスクとクライシスの事象を常に認識して対策を講じており、必要に応じて取締役会へ報告する仕組みを構築しております。
(4)戦略
① 環境
当社製品を納入している国内の大型放射光施設「SPring-8」およびⅩ線自由電子レーザー施設「SACLA」におけるナノ領域での観察や制御は、カーボンニュートラルに資するグリーン分野において重要な研究開発要素であり、これまでにも蓄電池、燃料電池、触媒開発などで大きな成果を上げております。
当社はこのナノ領域での観察や制御の高精度化、効率化を実現するために、本施設で広く使われている当社X線ミラーのより一層の高精度化や新規開発につとめ、技術開発やイノベーションを支援し、理化学研究所(理研)放射光科学研究センターと高輝度光科学研究センター(JASRI)の持続可能な開発目標(SDGs)や2050年カーボンニュートラルの実現に向けた産官学利用者の研究開発活動の支援に対して、当社はその一助となるように環境にやさしい持続可能な産業をつくることの支援を通じて、我が国の持続可能な社会づくりに貢献してまいります。
また、当社グループの各事業におきましては、電力事業者から購入した電力のみで製造設備を稼働させており、エネルギー起源の二酸化炭素排出はございません。当社グループの各事業所における年間総使用電力量から換算した二酸化炭素排出量におきましても、法令に定められた「特定排出事業者」に該当する排出量の基準を大幅に下回っており、自然環境にやさしい事業を展開しております。
当社グループの各事業では外注加工業者の活用が多いことから、今後は取引先とも連携し、当社取扱い製品の製造着手からユーザーの手元にお届けするまでの自然環境負荷の数値化を検討し、事業活動全般において環境保全の社会活動へ貢献を果たしてまいります。
② 人的資本
当社グループでは、グローバル・ニッチトップ・イノベーターとして、当社グループの経営理念「世の中にないオンリーワンの技術により製品を作り出し、広く社会に貢献する」を体現することができる高い専門性と技術力、豊かな実務経験を有した人材を求めており、性別・国籍・採用経路等に関わらず、各人が能力を最大限に発揮することができる環境の整備に努めております。持続性のある高い成長率を実現するため、新たな人事制度導入に取組み、社内人材のモチベーションを高めるとともに、ハイレベルな外部人材の採用を円滑に進め、企業が成長するための源泉である人材の確保と育成に努めてまいります。
当社グループの各事業部門におきましては、その専門性を有していることが重要なことから理工系の技術職・研究職が採用の中心であるため、女性人材の絶対数が少なく、全体の労働者(役員、臨時雇用者を除く)に占める女性労働者の割合が18.75%、女性管理職の登用率は10%と低い状況となっております。女性が活躍できる雇用環境の整備を行ない、多様な働き方によって多様な人材が活躍できる環境整備に努めてまいります。
また、当社グループの成長性を一層高めるためには、研究開発力を維持・向上することが必須となりますが、そのためには高度人材の確保と併せて、高い技能を有した人材の育成が極めて重要となることから、即戦力且つ若手人材育成の担い手として、高い技量を有したシニア世代の人材登用にも力を入れております。
(5)指標及び目標
① 環境
当社グループの2024年6月期の電力使用量は約730千kWhとなっておりますが、当社グループは法令に定められた「特定排出事業者」には非該当であることから、現時点での具体的な目標値は定めておりません。エネルギーの使用状況については常に監視を続けており、今後の事業規模拡大による「特定排出事業者」への該当性など、必要に応じて数値目標設定とその開示を進めてまいります。
今後の中長期的な成長投資におきまして、設備の稼働率を高め、生産性を向上し、より付加価値の高い製品を作り出す投資を促進してまいりますが、環境への配慮が企業価値を高めることの認識を深め、環境負荷をより低減した装置開発に努めてまいります。
② 人的資本
当社グループでは、性別・国籍・採用経路等をもって、その職務内容や処遇に影響を及ぼすことがない人事制度を運用しておりますが、当社グループが展開する事業特性によって、理工系を先行する女性の比率が低い我が国の教育環境が影響し、女性社員の採用自体が難しい状況ではありますが、女性管理職の登用率目標を設定いたします。
また、社会全体の女性管理職登用を高めるために必要な組織としての対応としまして、男性社員の育児休暇取得の促進がございますが、当社グループにおきましては当連結会計年度の男性社員による同制度取得率が75%となっております。当社グループの社員は30~40代の比率が高く、今後も同制度の利用が見込まれることから、引続き高い取得率を促進するとともに、一時的な人員数の低下に悪影響を受けることがない販売・生産・研究開発体制の構築に努めてまいります。
ⅰ.女性管理職の登用率 :2024年6月期実績 10% 2027年6月期目標 20%以上
ⅱ.育児休業制度の取得率(男女):2024年6月期実績 80% 2027年6月期目標 90%以上
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が提出会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。当社グループは、これらリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努める方針です。また、本書に記載した事項は事業等に関連するリスクを全て網羅するものではありませんので、この点ご留意下さい。
(1) 技術の陳腐化について
当社グループのオプティカル事業における製造技術は、大阪大学独自の原子数個レベルの平坦さを実現する究極のナノ加工技術(ナノ加工技術EEMとナノ計測技術RADSI及びMSI)を基にしたもので、1ナノメートルレベルの形状精度を実現しております。本書提出日の現在においてこの状況に変化はありません。
しかしながら、将来において当社の製造方法と同等の精度レベル(本技術を超える精度は物理的に不可能)を実現する新たな製造方法が確立された場合には、価格面で影響を受け、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 国内外政府の施策とその影響について
当社グループのオプティカル事業の製品である放射光施設用のX線ナノ集光ミラー等は、放射光施設という専門性の高い施設等で使用されるもので、その施設の多くは公的研究施設、公的プロジェクトまたは大学等がビームライン(実験ハッチ)ごとに別々に研究事業を運営しております。当社製品を利用したこれら施設ではナノテクノロジー、バイオテクノロジーや産業利用まで幅広い最先端の研究がおこなわれており、今後も技術向上を図り、より優れた研究成果を創出し、継続していくものと予想されます。
また、現在国内では東北において、新しい放射光施設NanoTerasuが完成し、2024年4月に稼働を開始いたしました。また海外では中国、欧州、アメリカ、ブラジルなどに第4世代の放射光施設の建設やバージョンアップの計画が進んでおり、少なくとも今後20年程度は世界的に需要が拡大傾向にあると判断しておりますが、将来国内外の政府の研究事業の実施方針において、放射光利用の重要度が大きく変更された場合、または制度の変更があった場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 日本国政府の施策とその影響について
当社グループのライフサイエンス・機器開発事業の製品である各種自動細胞培養装置は、再生医療等においてiPS細胞をはじめとする各種細胞を培養するものであります。これらの製品は再生医療及び創薬の研究開発用として使用され、今後もこの分野での研究開発が進み、同時に市場が拡大するものと予想しておりますが、日本国政府の施策により、関連法令等が大幅に改正された場合、または研究開発活動が法規制により制限が加えられた場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
(4) 外注委託先について
当社グループのオプティカル事業は、当社でのEEMによるナノ加工の前工程である粗加工仕上げ工程について、需要の拡大に対応するために内製化を進めておりますが、未だ多くを外注加工業者に委託しております。当社が外部委託先を選定するにあたっては事業の継続性を鑑み、良好な協力関係の構築・維持または高い品質管理能力を主な判断材料として慎重に選定しております。
また、ライフサイエンス・機器開発事業及び電子科学につきましても、ユーザーへの提案から開発・設計は自社で実施しておりますが、その後の製造に関しては外部の協力業者に製造を委託するファブレス化を進めており、オプティカル事業と同様に外部委託先の選定に際しては品質、コスト、製造に要する期間など製造能力を主な判断材料にして選定を進めております。
外部委託先については年次で製造能力に関する評価を実施しておりますが、今後需要が急拡大し外部委託先では対応しきれない場合や、新しい外注委託先が増えることによって、品質面及び納期面等において何らかの不具合を発生させる事象が確認された場合には、当社の業務に支障をきたし、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 製品に関する不具合、クレームについて
これまで当社グループが販売・開発する製品等に関し、ユーザー等から訴訟を提起され、または損害賠償請求を受けたことはありません。また、不具合が生じたとしても早期に発見し是正するべく、サポート体制を構築しておりますが、当社が販売した製品等に予期しがたい欠陥等が発生し、製品回収や損害賠償等が発生した場合、多大な損害賠償金及び訴訟費用が必要となること等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(6) 製造装置について
当社グループのオプティカル事業は、独自に設計・製作した製造装置を使用しております。これら製造装置については、高品質な製品の製造を実現するために、停電対策や所要のメンテナンスを随時実施しておりますが、何らかの不具合が発生した場合や自然災害、突発的な事故により製造装置が稼働不能となった場合等には、当社グループの業務に支障をきたし、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 為替リスクについて
当社グループは、製品の海外輸出が多く、為替レートの変動は外貨建て直接取引の売上高に影響を及ぼす可能性があります。
そのため、想定を超える為替レートの変動が生じた場合には、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(8) 輸出について
輸出にあたり、仕向地ごとの政治や経済情勢、さらには文化や習慣等について調査・把握に努めておりますが、もしそれらが要因となる予期せぬ事件、事故等の事象が発生した場合には、当社グループの事業及び業績に影響を及ぼす可能性があります。
(9) 業績の変動について
当社グループの主力製品であるX線ナノ集光ミラーは、その製造過程でナノ加工EEMとナノ計測RADSI及びMSIについて仕様を満たすまで交互に何度か繰り返す必要があることから、製造工程は製品ごとに異なり、受注から出荷までの期間が1年程度かかります。また、研究開発の要素の高い仕様の場合、出荷予定月を過ぎることも起こり得ます。このような状況が生じた場合、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
なお、X線ナノ集光ミラーの単価は非常に高額で3,000万円近くするものもあり、あわせて受注時期が偏る傾向にあるため、特定の四半期業績のみによって通期の業績見通しを判断することは困難であります。
また最近では、ロシアのウクライナ侵攻や中東情勢の変化などによって、世界的な資材価格の高騰と供給不足が発生したことで、製造に必要な一部の部材調達に影響を及ぼしております。今後、様々な自然現象や国家間の紛争発生リスクなどの影響を受け、当社グループ及び外注委託先において必要な部材の調達が困難となる状況が生じた場合、当社の経営に影響を及ぼす可能性があります。
(10) 知的財産権について
当社グループは、新たな技術や独自のノウハウを蓄積し、知的財産権として権利取得するなど法的保護に努めながら研究開発活動を推進しています。また、仮に特許侵害が試みられたとしても同様の製品が製造されないよう独自のノウハウは公開しておりません。しかし、特定地域での法的保護が得られない可能性や、当社の知的財産権が不正使用される可能性があることは否めず、さらに人材移転や悪意を前提とする情報漏洩等により技術・ノウハウが外部に流出する可能性もあります。このような状況が生じた場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
他方、他社が有する知的財産権についても細心の注意を払っておりますが、当社が第三者の知的財産権を侵害していると司法判断された場合、当社グループの生産・販売の制約や損害賠償金の支払いが発生する可能性もあります。
(11) 固定資産の減損について
当社グループでは、土地、建物、機械設備等多くの有形固定資産を保有しています。当該資産から得られる将来キャッシュ・フローの見積りに基づく残存価額の回収可能性を定期的に評価していますが、当該資産から得られる将来キャッシュ・フロー見込額が減少し、回収可能性が低下した場合、固定資産の減損を行う必要が生じ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(12) 自然災害・テロおよび感染症について
当社グループ及び当社グループ取引先の事業拠点や関係先が地震、豪雨、防風などの自然災害やテロなどによって甚大な被害を被った場合には復興に際して多大なる費用と時間を要することになります。加えて、当該事象が発生することで当社グループ及び当社グループ取引先の事業拠点が被害を受けることによって商取引の継続が困難となり、当社グループの経営成績に著しい悪影響を及ぼす可能性があります。また、感染症の発生によるパンデミックに至った場合には、当社グループ及び当社グループ取引先の従業員の安全確保と感染拡大防止のために行動が制限されることで、当社グループの事業活動に様々な制約を受ける可能性があります。
(13) 東京証券取引所「プライム市場」の上場維持基準に適合しないリスクについて
当社は、東京証券取引所の市場区分見直しにあたり、株式流通時価総額がプライム市場の上場維持基準を満たしていなかったことから、同取引所へ上場維持基準の適合に向けた計画書を提出し、プライム市場に移行しましたが、2024年6月末時点において当該基準を満たしておりません。2025年6月期までに上場維持基準を満たすため、各種取組みを進めてまいりますが、財政状態及び経営成績並びに市場環境や経済情勢によっては2025年6月期までに当該基準を満たすことができず、プライム市場において当社株式の上場を維持することができない可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
①財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度における我が国経済は、自動車産業での品質不正問題発生による出荷停止の影響も緩和され、半導体などの成長産業や人手を補う省力化に向けた設備投資計画が旺盛で、製造業を中心とした景気回復のモメンタムは上昇傾向が続いております。
このような経済環境のもと当社グループは、オプティカル事業、ライフサイエンス・機器開発事業及びその他事業(電子科学株式会社を含む)という独自の技術を利用した3つの事業によって、高品質な製品提供と研究開発活動の強化に取組み、経営基盤拡充と企業価値向上に努めてまいりました。
この結果、当連結会計年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。
a. 財政状態
当連結会計年度末における資産合計は、前連結会計年度末に比べ102,503千円増加し、3,567,522千円となりました。
当連結会計年度末における負債合計は、前連結会計年度末に比べ115,364千円減少し、870,746千円となりました。
当連結会計年度末における純資産合計は、前連結会計年度末に比べ217,868千円増加し、2,696,776千円となりました。
b. 経営成績
当連結会計年度における経営成績は、売上高2,010,340千円(前期比5.3%増)、営業利益285,836千円(前期比6.8%減)、経常利益310,955千円(前期比14.6%減)、親会社株主に帰属する当期純利益199,591千円(前期比16.2%減)となりました。
セグメントごとの経営成績は次のとおりであります。
オプティカル事業は、売上高は1,240,241千円(前期比3.8%増)、セグメント利益は595,237千円(前期比18.8%増)となりました。
ライフサイエンス・機器開発事業は、売上高は330,303千円(前期比1.7%増)、セグメント損失は25,659千円(前期はセグメント利益1,533千円)となりました。
その他事業は、売上高は447,945千円(前期比15.4%増)、セグメント利益は51,567千円(前期比40.5%減)となりました。
②キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ172,898千円減少し、当連結会計年度末には610,230千円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
当連結会計年度における営業活動の結果獲得した資金は62,651千円(前連結会計年度は210,359千円の獲得)となりました。これは主に、売上債権の増加235,962千円及び法人税等の支払額89,655千円による支出があった一方で、税金等調整前当期純利益284,742千円及び減価償却費106,771千円、のれん償却額42,382千円、契約負債の増加18,283千円による収入があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は160,706千円(前連結会計年度は84,742千円の使用)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出141,406千円及び投資有価証券の取得による支出15,000千円などによる資金減によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果使用した資金は75,526千円(前連結会計年度は75,504千円の使用)となりました。これは主に、長期借入金の返済による支出75,456千円などによる資金減によるものであります。
③生産、受注及び販売の実績
a. 生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年7月1日 至 2024年6月30日) |
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|
生産高(千円) |
前年同期比(%) |
|
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オプティカル事業 |
1,209,546 |
114.5 |
|
ライフサイエンス・機器開発事業 |
322,667 |
99.0 |
|
その他事業 |
351,954 |
70.7 |
|
合計 |
1,884,168 |
100.2 |
(注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。
2 金額は販売価格によっております。
b. 受注実績
当連結会計年度の受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年7月1日 至 2024年6月30日) |
|||
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受注高(千円) |
前年同期比(%) |
受注残高(千円) |
前年同期比(%) |
|
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オプティカル事業 |
1,017,946 |
88.5 |
652,178 |
74.6 |
|
ライフサイエンス・機器開発事業 |
221,855 |
48.9 |
30,779 |
23.5 |
|
その他事業 |
363,864 |
83.4 |
155,418 |
64.9 |
|
合計 |
1,603,666 |
78.6 |
838,376 |
67.3 |
(注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。
2 金額は販売価格によっております。
c. 販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年7月1日 至 2024年6月30日) |
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|
販売高(千円) |
前年同期比(%) |
|
|
オプティカル事業 |
1,240,241 |
103.8 |
|
ライフサイエンス・機器開発事業 |
322,153 |
99.2 |
|
その他事業 |
447,945 |
115.4 |
|
合計 |
2,010,340 |
105.3 |
(注)最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
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相手先 |
前連結会計年度 (自 2022年7月1日 至 2023年6月30日) |
当連結会計年度 (自 2023年7月1日 至 2024年6月30日) |
||
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金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
|
Advanced Photon Source Argonne National Laboratory |
216,097 |
11.3 |
- |
- |
|
国立研究開発法人理化学研究所 |
209,631 |
11.0 |
208,288 |
10.4 |
(注)販売実績の総販売実績に対する割合が10%未満のものについては記載を省略しております。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
a. 財政状態
(資産)
当連結会計年度末における流動資産は1,815,729千円となり、前連結会計年度末に比べ138,413千円増加いたしました。これは主に、現金及び預金が172,898千円減少した一方で、売掛金が226,498千円、商品及び製品が67,723千円増加したことによるものであります。固定資産は1,751,793千円となり、前連結会計年度末に比べ35,909千円減少いたしました。これは主に、のれんの償却が進んだことによって無形固定資産が44,910千円減少したことによるものであります。
この結果、総資産は3,567,522千円となり、前連結会計年度末に比べ102,503千円増加いたしました。
(負債)
当連結会計年度末における流動負債は413,185千円となり、前連結会計年度末に比べ38,248千円減少いたしました。これは主に、買掛金が47,242千円減少したことによるものであります。固定負債は457,560千円となり、前連結会計年度末に比べ77,116千円減少いたしました。これは主に、約定返済が進んだことにより長期借入金が75,456千円減少したことによるものであります。
この結果、負債合計は870,746千円となり、前連結会計年度末に比べ115,364千円減少いたしました。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産合計は2,696,776千円となり、前連結会計年度末に比べ217,868千円増加いたしました。これは主に、親会社株主に帰属する当期純利益を199,591千円計上したことによるものであります。
b. 経営成績
(売上高及び営業利益)
当連結会計年度における売上高は、2,010,340千円(前連結会計年度比5.3%増)となりました。これは主に、オプティカル事業において、放射光施設及びⅩ線自由電子レーザー施設用のⅩ線ナノ集光ミラーの売上が牽引するとともに、ライフサイエンス・機器開発事業及び子会社の電子科学株式会社の売上が寄与しております。この結果、売上総利益は1,252,754千円(前連結会計年度比7.5%増)となりました。また、販売費及び一般管理費は966,917千円(前連結会計年度比12.7%増)となり、当連結会計年度における営業利益は285,836千円(前連結会計年度比6.8%減)となりました。
(経常利益)
営業外収益では、経済産業省による戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)における補助金収入等を計上しました。また、営業外費用では、支払利息及び投資事業組合運用損等を計上しました。これらの結果、当連結会計年度における経常利益は310,955千円(前連結会計年度比14.6%減)となりました。
(当期純利益)
特別損失を26,213千円計上いたしましたが、当連結会計年度における親会社株主に帰属する当期純利益は199,591千円(前連結会計年度比16.2%減)となりました。
c. セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
(オプティカル事業)
当連結会計年度は、国内市場ではSPring-8、SACLA、NanoTerasu、アジア市場ではSHINE(中国)、TPS(台湾)、ANSTO(豪州)、アメリカ市場ではAPS、LCLS、欧州市場ではEu-XFEL(ドイツ)、PSI(スイス)、ESRF(フランス)への売上が中心となり経営成績を牽引いたしました。過去と比較して当連結会計年度は受注数、生産数の増加が見られると同時に、これまでにない更なる高精度化の追加要求や、当社のみが実現できる高精度ミラーを基材とした成膜や刻線などの付加加工の要求が多数あり、一部生産計画の変更や遅れが発生することとなりました。オンリーワンの技術を追求する当社の経営理念上、今後も同様の要求が増えることが想定されるため、これまで以上に積極的な生産及び付加加工の能力向上に努めてまいります。
国内ではNanoTerasuの稼働開始、そしてSPring-8のアップグレード計画が報告され、また国外においては欧州でDLS、BESSYⅡ、PETRAⅢ、ALBA、Elettraなど複数施設のアップグレード計画、そしてアジアは中国の合肥市や深圳市で新設計画が明らかになっており、すでに関係施設から多くの問い合わせを受け、順次詳細仕様の検討を進めております。特にエネルギー、半導体に関する最先端研究の活性化に伴い、欧州の中規模放射光施設において、これまで以上に高精度なミラーの需要が高まっており、現在進めている市場開拓の成果が順調に表れております。
営業活動につきましては、国内外の主たる放射光分野の学会での発表を通じて、当社の研究・開発成果の進捗報告することによる当社技術のアピールに加え、光学全般を対象にした展示会においても当社の超精密加工・計測技術のアピールを継続的に続けております。また、各国施設の研究者の訪日機会も増加し、商談のみならず共同研究の機会も確保され、売上向上を見据えた積極的な営業活動に努めてまいりました。
この結果、売上高は1,240,241千円(前期比3.8%増)、セグメント利益は595,237千円(前期比18.8%増)となりました。
(ライフサイエンス・機器開発事業)
当連結会計年度においては、昨年度に続きライフサイエンス・機器開発事業の重点新規事業分野として、各半導体材料を主たる対象としたナノ表面加工技術であるプラズマ化学気相加工法(PCVM)、プラズマ援用研磨法(PAP)、触媒基準エッチング法(CARE)による表面加工装置の商品化、受注並びに販売活動を推進してまいりましたが、プラズマ化学気相加工法装置2台(小型開発機1台及び大型自動量産機1台)を受注し、いずれも第4四半期に納入いたしました。当社は新たな事業の柱として独自の表面加工・研磨技術及び装置の開発推進、実用化へと展開を図ってまいりましたが、上記の受注は当社技術を高くご評価いただいた結果であると考えております。
一方、個別顧客訪問による営業活動やホームページからの問い合わせ対応だけでなく、第2四半期には「SEMICOM Japan 2023」へ出展し、新たな顧客開拓も行ってまいりました。その結果、複数企業からテスト加工の依頼を受け、試作と顧客評価を進めてまいりました。しかしながら、まだ顧客の要求する加工精度や生産性を完全に満足できておらず、新規顧客からの受注には至りませんでした。今後更なる技術のブラッシュアップを図り、市場ニーズに合致した製品の提供と、営業の展開力アップにより、販路拡大や大手企業との共同開発契約締結に繋げるなど、製品展開と売上拡大を推進してまいります。
一方、ライフサイエンス機器では「MakCell®」をはじめとする自動培養装置が、顧客の予算の都合や方針変更により計画に沿った受注・売上に至らず苦戦を強いられましたが、第4四半期に出展した「ファーマラボ2024」においては、自動培養装置は依然として市場ニーズの高い製品であることが直に感じられ、初めて出展いたしました「単核球分離装置」も多くの来場者に興味をお持ちいただけました。今後はこれらの顧客への丁寧な対応だけでなく、潜在顧客の掘り起こしを進めてまいります。
その他、Spring-8における光源高度化に必要となる開発品の設計・製造、グラビア印刷試験機(GP-10)用制御基板、水冷式冷却器等が売上に貢献いたしました。
この結果、売上高は330,303千円(前期比1.7%増)、セグメント損失は25,659千円(前期はセグメント利益1,533千円)となりました。
(その他事業)
その他事業は子会社の電子科学株式会社であり、同社の売上構成は、装置販売(TDS:昇温脱離分析装置)及び大型工事、装置のメンテナンス業務、受託分析業務の3つに分かれますが、受注金額が大きくなる主力事業の装置販売及び大型工事において6件(販売先:韓国、台湾、国内)の売上を計上したことにより昨年度実績を上回る結果となりました。また、装置販売につきましては、今回は日本企業の中国支店における導入でしたが、初めて中国(上海)での設置・導入作業を行い、今後大きな市場となる中国企業への販売に向けて重要な一歩となりました。一方、事業拡大に向けての人員増及び材料費の高騰によって費用が増加し、利益を圧迫する要因となりました。
この結果、売上高は447,945千円(前期比15.4%増)、セグメント利益は51,567千円(前期比40.5%減)となりました。
②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
a. キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
b. 資本の財源及び資金の流動性
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、製造のための材料及び部品の購入費、人件費や研究開発費のほか、借入金の返済や法人税等の支払いです。このほか、会社の成長に必要な設備投資やM&A投資等を含め、収入と支出のバランスを考慮して資金運用を実施することを主たる方針としています。
一方、販売には季節的要因の影響は少ないものの、販売先の決算月に納期を指定されることや製品の受注から完成までに1年前後の期間が必要であるため、受注及び販売の状況によっては一時的な売上債権、仕入債務、棚卸資産等の増減があり、営業活動によるキャッシュ・フローの増減に影響を及ぼす可能性があります。
運転資金、設備投資資金及びM&A投資資金については、原則として自己資金で賄うこととしておりますが、多額の設備投資資金やM&A投資資金が必要となった場合は、必要資金の内容に応じて金融機関からの借り入れや資本市場からの直接調達を検討する方針であります。
なお、当連結会計年度末における借入金である有利子負債残高は521,963千円となっております。
③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 ⑴ 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
該当事項はありません。
当社グループは、放射光施設用X線ナノ集光ミラー等の開発販売を推進する「オプティカル事業」、主に創薬、再生医療及びiPS細胞等に関連した培養技術の開発や各種細胞培養装置や次世代加工・研磨装置を中心とする各種自動化装置を開発・販売する「ライフサイエンス・機器開発事業」及び「その他事業(電子科学株式会社を含む)」の3つの事業を柱としております。現在の研究開発活動は、これら事業の関連技術を中心に実施しており、主にX線ナノ集光ミラーを中心としたX線光学素子、独自の培養技術を用いた各種細胞培養装置及び独自の加工・計測技術をもとにした各種加工・研磨装置等を中心に研究開発を継続しております。
さらに、昨年度に引き続き、競争的資金をもとに研究開発事業(委託研究事業、研究助成事業)を進め、製品化を目指しております。
なお、研究開発費については、細胞培養センターで行っている各セグメントに配分できない基礎研究費用19,364千円が含まれており、当連結会計年度の研究開発費の総額は
(1) オプティカル事業
当連結会計年度のオプティカル事業においては、以下の研究開発を推進してまいりました。
① 放射光施設用X線集光ナノミラーの生産性の向上や高精度化を目指したナノ加工技術及びナノ計測技術に関する研究開発
<当連結会計年度継続の研究助成事業>
「X線測定・分析の高効率化に資する高精度2次元集光X線ミラーの製造法の開発」令和3年度「戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン事業)」経済産業省2021年~2023年度、参加機関:株式会社ジェイテックコーポレーション、大阪大学、名古屋大学、宇宙科学研究所(JAXA)、アドバイザー:理化学研究所、高輝度光科学研究センター
当連結会計年度に研究事業は終了し、計画通り高精度2次元集光X線ミラーの製造法を確立し、放射光X線ミラーの製品拡大を実現しており、今後さらに宇宙、半導体分野への展開を図ってまいります。
② 放射光施設向けの次世代商品の開発
形状可変ミラー、回転楕円ミラー、回転ウォルターミラー、チャネルカット結晶等、製品開発を進めてまいりました。
③ X線光学素子の新しい事業展開を目指した計測・加工技術の適用化開発
研究助成事業で確立した新しい計測技術(CGH干渉計)等の独自計測技術や「プラズマ化学気相加工法(PCVM)」、及び「触媒基準エッチング法(CARE)」などの独自加工技術を用い、従来では加工困難であった光学素子を実現し、半導体、宇宙分野での光学素子への適用化開発を進めております。
その結果、オプティカル事業に係る当連結会計年度の研究開発費は
(2) ライフサイエンス・機器開発事業
当連結会計年度のライフサイエンス・機器開発事業においては、以下の通りの機器開発や競争的資金(委託研究事業、研究助成事業)を積極的に活用し、以下の研究開発を推進してまいりました。
① 汎用型自動細胞培養装置の開発
MakCell®(iPS細胞用の自動細胞培養装置CellPet®シリーズの後継機種)の量産化開発に成功し、本格販売を実施しております。
② 再生医療関連の研究開発
<当連結会計年度継続の委託研究事業>
「ヒト弾性軟骨デバイスを用いた小児顔面醜形に対する新規治療法の開発」
令和5年度「橋渡し研究戦略的推進プログラム シーズF」日本医療研究開発機構(AMED):2023年~2027年度、研究代表機関:東京大学、橋渡し研究支援機関:大阪大学、その他参加機関:株式会社ジェイテックコーポレーション及びその他関連大学、医療機関、再生医療会社
本研究開発事業では、東京大学らと共同で鞍鼻症の小児患者の形成治療を目的としました再生医療等製品開発を推進しています。現在、当初の計画通りに来年度の医師主導治験のスタートを目指し、当社の培養装置で製造した弾性軟骨組織による治験申請データ取得を進めているところです。
③ 医療機器の開発
<当連結会計年度継続の委託研究事業>
「治療機序に基づき最適化した効率的な脳梗塞治療用幹細胞分離機器の研究開発」令和3年度「橋渡し研究戦略的推進プログラム」日本医療研究開発機構(AMED):2021年~2023年度
研究代表機関:公益財団法人神戸医療産業都市推進機構、参加機関:株式会社ジェイテックコーポレーション、日本光電工業株式会社
当連結会計年度に研究事業は終了し、計画通り脳梗塞治療用幹細胞分離機器の試作装置の開発に成功しました。そこで、本装置は認知症改善が期待できることがわかっており、早期に製品化を推進するために、第一弾として認知症治療に適用する自由診療への展開、商品化を進めております。
④ 機器開発事業の取組み
<次世代加工・研磨装置の開発>
当社は独自の表面ナノ加工技術の実用開発を進めており、主に次世代の加工・研磨装置として商品化を進めております。
本独自の表面ナノ加工技術は大阪大学の「プラズマ化学気相加工法(PCVM)」、「触媒基準エッチング法(CARE)」、「プラズマ援用研磨法(PAP)」と本年度はさらに立命館大学の「電気化学機械研磨法(ECMP)」も加わり共同開発を推進しております。これら加工技術は半導体材料であるSiC、GaN、LN/LT、単結晶ダイヤモンドなどを材料とした半導体基板の平坦化に適しており、将来の加工・研磨技術として期待されており、パワー半導体、SAWフィルター、SOIウェハやダイヤモンド素材等、様々な半導体等材料の加工・研磨工程での適用拡大を図り、製品化を進めております。
特に先行して製品化に成功した「プラズマ化学気相加工法(PCVM)」は水晶振動子ウエハの厚みを均一に加工する量産加工システムとして、パイロットユーザーでの稼働実績をもとに本格販売へと進め、当連結会計年度は国内及び台湾の水晶発振器メーカーへの納入を実現しております。今後は本システムを水晶振動子ウェハだけでなくSOIウェハやパワー半導体向けとして実用化を進めてまいります。
その結果、ライフサイエンス・機器開発事業に係る当連結会計年度の研究開発費は
(3) その他事業
電子科学株式会社の昇温脱離分離装置(TDS)は当社のオプティカル事業の海外チャンネルを用い、営業の強化を図ってまいります。さらに、同社の装置製造はファブレス方式のため、当社のライフサイエンス・機器開発事業の生産体制と同方式であることから、今後は、当社の生産管理体制をもとに同社の体制を強化し、製造の効率化も図ってまいります。
また、同社の分析技術と当社の自動化技術を融合し、特に半導体分野において、共同で新しい製品の企画、開発を進めてまいります。第一弾として水素量の計測に特化した昇温脱離水素分析装置「Cryo TDS-100H2」や現行装置に自動サンプルセット機能を追加した「AT-TDS1200Ⅱ」の共同開発に成功いたしました。
このように、当社とは営業面だけでなく、製造面や開発面でもシナジー効果が期待できます。
その結果、その他事業に係る当連結会計年度の研究開発費は