文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが合理的と判断する一定の前提に基づいたものであり、実際の結果とは様々な要因により異なる可能性があります。
雪印メグミルクグループの目指す姿(存在意義・志)
当社グループは、2025年に北海道での創業から100周年を迎えます。
100周年を迎えるにあたり、2023年5月に、次の100年に向けて当社グループが進むための指針である「存在意義・志」のよりどころを「社会課題解決に向けた」創業の精神「健土健民」と定めました。
「健土健民」とは、「酪農は大地の力を豊かにし、その豊かな大地から生み出された牛乳・乳製品は最高の栄養食品として、健やかな精神と強靭な身体を育む」という、創業者のひとり、黒澤酉蔵の掲げた理想です。「健土健民」が生まれた時代、日本社会全体が貧困で満足に栄養を摂取することが出来ない社会でした。その社会課題を解決すべく「日本国内における安定的で豊かな食生活の充実」に取り組んだのが創業者たちでした。
創業から100年が経とうとしている今、気候変動や地政学的リスク、世界の人口増などによって、「食の持続性」は危機に直面しています。食によって社会から認められ、事業活動を続けてきた私たちにとって、「食の持続性」を実現することは社会的責務であり、挑むべき最重要課題です。
当社グループは、現在の社会課題である「食の持続性」への貢献を胸に、〈社会課題解決を目指す「健土健民」という創業の精神で、乳で培われた私たちの幅広い知見や機能(ミルクバリューチェーン)によって、「食の持続性」を実現する〉ことを新たに「存在意義・志」として掲げました。
社会的価値と経済的価値を同期化させた重要課題(マテリアリティ)
「食の持続性の実現」を「存在意義・志」として掲げたことに合わせ、事業活動と密接に結びつき、当社が優先して取り組むべき重要課題(マテリアリティ)を定めています。
当社グループは、本業を通じて「社会的価値」と「経済的価値」を同期化させ、「食の持続性」を実現することによって、企業価値を高めていきます。
サステナビリティ経営
当社グループは、「食の持続性の実現」に向けて、コンプライアンスをベースに、「栄養を届け」、「環境に配慮し」、「人材を活かす」ことにより、「サステナビリティ経営」を推進していきます。サステナビリティ経営を進める上で、重要課題(マテリアリティ)を6項目抽出し、具体的な取組みテーマを設定しています。
※重要課題(マテリアリティ)の詳細は、当社ウェブサイトをご参照ください。
重要課題(マテリアリティ) https://www.meg-snow.com/csr/materiality/
「食の持続性貢献度」を基軸とした事業ポートフォリオへの転換
「食の持続性」を高め実現していくためには、強靭性の高い事業ポートフォリオへの転換が必要と考えました。そのポートフォリオの考え方は「食の持続性貢献度」による評価を基軸として据え、「市場成長性」と「当社収益性」を掛け合わせています。
「食の持続性貢献度」とは「食の持続性」を高めるための売上規模や国内酪農基盤への貢献度などを勘案した、当社グループ独自の指標です。本業を通じて、市場成長性×当社収益性で示す「経済的価値」をしっかりと高め、同時に、国内酪農基盤への貢献を目指すことで「社会的価値」を同期化させ「食の持続性貢献」を実現します。今後は、この事業ポートフォリオに基づき、「食の持続性の実現」による企業価値の最大化に向けて資源配分を行います。
中長期の環境認識
グローバルの食料需給は、世界人口の増加や、様々な環境規制などによって、需要と供給の両面から今後引き締まっていくことが予想されています。また、食料の輸入依存度が高く、島国でもあるわが国は、食料安全保障に関しても課題が指摘されています。
しかし、このような食料需給の変化は、将来に向けて牛乳乳製品の価値が一層高まることを示しています。今後さらに、当社グループの乳で培われた幅広い知見や機能(ミルクバリューチェーン)によって、新たな価値の提供を行なう機会が増えると想定しています。
価値創造のストーリー
当社グループは、内部経営資源や自然資本等を使って、酪農生産者の生産する生乳を使用して商品を生産し、消費者へ届けることで価値を創造しています。また、酪農乳業を主軸に置き、当社グループの強みである乳で培った有形資産・無形資産や社会関係資本を活用し、海外市場や代替食品など新しいバリューチェーンの確立に挑戦しています。酪農乳業を原点として広がる、幅広い知見や機能「ミルクバリューチェーン」によって、乳を超えて価値を創造し、「食の持続性」を実現していきます。
(2)中期経営計画
当社グループは、2023年5月に、「雪印メグミルクグループ 中期経営計画2025」(以下、中計2025)を策定しました。また、次期経営計画については、2025年度に発表予定です。
雪印メグミルクグループ 中期経営計画2025の全体像
中計2025は、企業グループとして、強靭な事業構造、成長に不可欠な強靭な基盤づくりを進め、次の100年に向けた準備期間と位置付けています。中計2025では、世界的な金融引締めの影響やウクライナ紛争などの地政学リスク等に対処し、2020年度並みの営業利益200億円を目指します。その上で、中計2025期間後の早期にROE8%を目指します。
事業戦略および基盤戦略
「強靭性の獲得」のために、中計2025は、3つの柱からなる事業戦略と基盤戦略、およびそれらを支える財務戦略で構築しています。
①事業戦略
事業戦略は“3つの柱”と“重要な6つの戦略課題”で構成しています。
1つ目の、「新たな成長のタネづくり」では、次の100年に向け新たな領域へチャレンジします。具体的には、「プラントベースフードへの参入」、「機能付加商品の育成」、「海外展開強化」を重要な戦略課題として取り組んでいます。
2つ目の、「基盤活用による物量の拡大」では、これまで設備投資を進めてきた磯分内工場や阿見工場のバター生産設備、大樹工場のナチュラルチーズ生産設備、発酵乳・デザート等の生産設備、ホクレンくみあい・雪印飼料㈱の飼料生産設備などの生産能力を最大限に活かした拡大を目指します。中でも、伸長余地の大きい「チーズの拡大」、酪農乳業の基盤である「白物拡大による市乳事業の成長」を重要な戦略課題としています。
3つ目の、「国内酪農生産基盤の強化・支援」では、国内酪農基盤の転換期(国内自給飼料指向・環境問題など)をチャンスと捉え、強靭な酪農基盤づくりへの取組み支援を行います。特に輸入飼料価格高騰で注目される「自給飼料拡大」を取組みの中心と捉えています。
②基盤戦略
基盤戦略は、「事業を支える機能として『イノベーション』と『コミュニケーション』」を、「事業活動全ての基盤として『DX推進』と『人的資本の活用・成長』を、重点的に取り組む事項として定めました。
「イノベーション」では、成長への新しいタネづくりやそのための仕掛けの構築を行ない、「コミュニケーション」では、当社グループと社員を含む全てのステークホルダーの相互コミュニケーションやブランド価値、社員のエンゲージメント(信頼度・満足度)を高める取組みを行います。
「DXの推進」では、業務改革や新たな付加価値創造を進め、「人的資本の活用・育成」は、当社グループのすべての成長の原動力は人材であることを明確にして、多様な人材が個性や能力を発揮できる環境づくりと人材育成を進めています。
・DXの推進
・人的資本の活用・成長
財務戦略
財務戦略では、財務の健全性を維持しつつ、営業キャッシュフローと資産圧縮を財源とし、積極的に基盤・成長への投資を行っていきます。併せて、配当性向(資産売却益を除く)40%以上を目標とした安定的な株主還元を実施していきます。
経営指標目標は、2025年度の営業利益目標を200億円とし、中計2025期間中に2020年度並みの営業利益を達成し、最終年度のROEは6%以上を目標としています。
(単位:億円)
※1 親会社株主に帰属する当期純利益
※2 投資金額は意思決定ベースであり、キャッシュアウトベースの数値とは異なります。
※3 株主還元方針の変更について、2024年5月14日付「2025年3月期配当予想(100周年記念配当)および
株主還元方針変更に関するお知らせ」にて発表しました。
キャッシュアロケーション
3年間のキャッシュアロケーションでは、営業キャッシュフロー850億円以上を確保するとともに資産売却を進め、財務規律を維持した上で負債による調達も行い、325億円以上の資金調達を計画しています。
資金需要としては、既存事業における基盤・成長投資に700億円以上、未来価値創造投資として新たな価値を創造する研究開発や新規事業等への投資を計画しています。株主還元は、配当性向(資産売却益を除く)40%以上を維持し、175億円以上を充当していく計画です。なお、資産売却により得られるキャッシュは、企業価値向上に資する投資へ充てる方針ですが、売却代金がその投資額を上回る場合は、株主還元も検討します。
資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応
①現状認識
当社は、PBR1倍割れは課題であると認識しており、その要因は、低収益性と成長戦略に対する具体的な取組み状況および資本政策を示せていないことだと考えております。
ROEの向上および資本コスト低減の取組みにより早期にROE(資産売却益を除く)8%以上、PBR1倍超の達成を目指します。
②企業価値向上のための取組み
ア.ROEの向上
A.収益性・成長性の向上
既存事業は、これまでに取り組んだ価格改定等の効果がコスト影響を吸収し、収益力は着実に回復してきており、コストアップに対する一定の耐性を発揮できたと捉えています。成長性の向上では、「海外事業」「プラントベースフードをはじめとする代替食品」「チーズ」「機能付加商品」の4つの事業領域を成長ドライバーとして取り組みます。
B.資産効率改善
政策保有株式の売却を進めており、2023年度は前年から純資産対比で1.9%減少し17.9%、銘柄数は14銘柄減少し53銘柄となりました。2025年度末までに純資産対比10%未満となるよう今後も縮減を進めていきます。また、市乳事業分野において資産効率向上のため豊橋工場と統合し生産を終了した名古屋工場の跡地を2024年4月に売却しました。
C. 資本政策
2023年度は、1株当たり20円の増配を実施しました。また、中計2025の連結配当性向目標は30%以上としておりましたが、資産売却益を除く40%以上に変更しました。これらとは別に2024年度では100周年記念配当(1株当たり20円)を加算し、配当単価100円とする予定です。
現在、新たな経営計画の策定に着手しており、その中で次期経営計画での資本政策と中計2025での資産売却に対する株主還元について検討し2025年5月に開示する予定です。
イ.資本コスト低減
株主・投資家をはじめとするステークホルダーのみなさまとの対話の強化と、情報開示の充実をはじめ、サステナビリティ向上の取組み、人的資本の活用や、DX推進の取組みを進めることで、資本コストの低減を図っていきます。
中計2025事業戦略の主な取組み
①プラントベースフード市場参入
プラントベースフードブランド「Plant Label」(プラントラベル)を立ち上げ、2024年3月26日より全国にて、『恵 megumi ガセリ菌SP株 植物生まれ』(100g)、『Plant Label Pea Drink』(ピードリンク)(LL200ml)、『Plant Label Oat Drink』(オーツドリンク)(LL200ml)を発売しました。
これまで「乳」で培ってきた幅広い知見や機能を活かした新たな植物性商品の発売で、プラントベースフード市場の活性化を図ります。私たちは、「食の持続性」という課題に対し、これからも新たな選択肢を提案していきます。
②機能付加商品育成
機能付加商品は、健康寿命延伸ニーズの高まりを背景に、国内外で市場が拡大しています。
国内では、現在発売中の商品群である「MBP」の機能認知度を高めるために、マーケティングを統合的に展開し、強化しています。
また、2023年4月より、弘前大学と共同研究講座「ミルク栄養学研究講座(英語表記:Department of Precision Nutrition for Dairy Foods)」を開設しました。今後、産学連携による研究開発の成果を、順次発表していきます。
海外では、アジア圏を中心に、機能性素材・乳酸菌素材の拡大推進に取り組んでいます。
③チーズ拡大
国内では、チーズ拡大の戦略パートナーとして、株式会社ヨシダコーポレーションを子会社化することを決定しました。新規参入したプラントベースフード分野の開発・製造をはじめとするイノベーションの拠点として同社を活用し、新コンセプト商品のスピーディーな市場投入や、新たな需要開拓を進めます。同社とのシナジー効果を早期に発揮することで、中計2025の達成を目指します。
海外では、当社グループの戦略エリアであるアジア地域(東南アジア・東アジア・オセアニア)の新たな拠点として、ベトナムに現地法人を設立し、更なる海外事業展開強化を図ります。また、ベトナム国内だけではなく、周辺国も見据えた事業展開を早期に開始することで、チーズ事業のグローバル展開を加速させます。
中計2025基盤戦略の主な取組み
①イノベーション(変革)~未来ビジョンプロジェクト発足と未来づくり部の新設~
2025年に創立100周年を迎えるにあたり、これからの新たな100年のマイルストーンとして、2050年の当社グループのビジョンを描く「未来ビジョンプロジェクト」を発足しました。さらに、未来ビジョンプロジェクトと連携して未来ビジョンの具現化を担う「未来づくり部」を新設しました。
当社グループは、酪農乳業界全体の希望溢れる未来ビジョンを描き、力強いリーダーシップによって社会課題を解決する企業集団を目指します。
≪未来ビジョンプロジェクト(2023年4月1日発足)≫
②人的資本の活用・成長/DX推進
人的資本の活用では、当社グループ従業員のワークエンゲージメント向上に関する取組みや、D&Iによる付加価値の創出等を進めています(※1)。
DX推進では、社内向け対話型AI「YuMe*ChatAI」の運用を開始しました。当社グループが長年にわたり蓄積してきた知識や知見のナレッジデータとAI技術を組み合わせ、オリジナルのプロンプト開発を進め、新たな価値を創造する取組みを行っていきます。
「YuMe*ChatAI」の中には、創業者のひとりで北海道酪農の父と呼ばれる黒澤酉蔵の考えや思いを読み込ませたChatbot「黒澤酉蔵さんbot」を搭載しています。創業者との対話を通じて創業当時の当社の使命が何であったか、改めて振り返ることが可能になりました。私たちは、DXによって創業から100年が経とうとしている現在においても、パイオニア精神を感じ・学び・継承し、日本国内のみならず世界にまたがる社会課題の解決を目指します。
※1 人的資本の活用・成長の詳細については、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (4)人的資本、
多様性」をご参照ください。
今後のわが国経済の見通しにつきましては、30年ぶりとなる高水準の賃上げや企業の高い投資意欲等、経済に前向きな動きはみられるものの、海外景気の下振れリスクや物価動向の不確実性も依然として存在します。食品業界においては、外食需要におけるインバウンド拡大効果や健康志向の高まり、高付加価値商品の開発等で、堅調な市場環境が期待されるものの、原材料価格やオペレーションコストの上昇といった厳しい経営環境が継続することも想定されます。消費マインドは所得の改善等により上昇しつつありますが、商品購買時の選別が厳しくなる等、市場が変化していくことが想定されます。 酪農乳業界においては、乳価引き上げによる消費への影響や、バター・脱脂粉乳の需給アンバランス等による脱脂粉乳在庫の積み増しリスク等、課題への対応が求められています。生乳生産量はわずかに増加が見込まれますが、乳製品の消費動向によっては、需給は緩和にも逼迫にも振れる可能性のある不透明な状況であると想定しています。
このような状況において当社グループは、中計2025の2年目にあたる2024年度の経営方針を「MOVE」とし、以下の重要な施策に対し積極的な取組みを進めていきます。
※重要課題(マテリアリティ)は「
に記載しておりますので、参照願います。
「健土健民」と、その具体的な実現手法である「循環農法」の考え方は、当初は酪農・乳業の発展と安定的で豊かな食生活の実現のために掲げられたものでした。100年を経て、社会課題は食の持続性の実現に変わっています。食の持続性のためには、健全な人間社会だけでなく、動物、植物、地球環境の好循環が必要であり、循環型社会を目指す基本的な思想は100年前も現在も同じです。
当社グループのサステナビリティ経営は、環境に配慮した生産システムの構築と付加価値の高い商品の供給により社会課題を解決する、持続可能な事業活動によって実現するものです。中計2025で掲げた食の持続性を実現するため、重要課題(マテリアリティ)とKPI(重要管理指標)を設定し、これからもコンプライアンスの徹底を基本として、社会的価値と経済的価値が同期化したサステナビリティ経営を推進し、食の持続性の実現を目指します。
(ガバナンス)
当社グループ全体のサステナビリティの取組みを経営レベルで推進していくために、当社社長が委員長を務めるグループサステナビリティ委員会を設置し、2023年7月に第3回グループサステナビリティ委員会および2024年2月に第4回グループサステナビリティ委員会を開催しました。この委員会では重要課題(マテリアリティ)のKPI進捗確認や、達成に向けた協議を行い、取締役会に報告しています。さらに、グループサステナビリティ委員会の下にサステナビリティ担当役員が部会長を務め、委員として社長が参加するサステナビリティ推進部会を設置しています。この部会では担当役員が分科会長を務める「脱炭素分科会」、「脱プラ分科会」、「人権分科会」からの報告を受け、具体的な取組みを協議しています。2023年12月には自然資本および生物多様性の開示、施策を検討するため「TNFD分科会」を設置し、現在、4つの分科会で運営しています。
なお、当社の各部署とグループ会社にはサステナビリティリーダーが配置され、サステナビリティグループ活動を行うなど、従業員のサステナビリティの考え方の理解・浸透や、現場での具体的な取組みを推進しています。
※
2023年度の開催実績と討議内容
①2050年カーボンニュートラル宣言
雪印メグミルクでは、社会的・経済的価値を同期化させた「サステナビリティ経営」において、2023年5月に2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラル宣言を行い、2030年度までにCO₂排出量を2013年度比50%削減する目標をKPIとしてグループ一体で脱炭素の取組みを推進しています。
②TCFD提言への取組み
気候変動問題は、グローバル社会の最重要課題の一つであり、「食の持続性」の実現に向け当社事業の前提条件となる課題として、取り組む必要があります。当社では2021年10月にTCFDへの賛同を表明し、2022年9月より「雪印メグミルクレポート(統合報告書)」にTCFDに基づく非財務情報の開示を始め、年に一度、内容の見直しを行っています。
「(1) サステナビリティ共通」に記載しております。
2023年度は抽出された移行リスクと物理的リスクから、2つのシナリオ(1.5℃上昇シナリオ、4℃上昇シナリオ)でリスクと機会に分類し、今後の対応を整理しました。将来的には現在取り組んでいるTNFDと統合を目指します。また、2030年と2050年を時間軸として、事業インパクト評価を実施しました。
気候変動リスク・機会と当社における対応
事業インパクト評価
■影響度「大、中、小」の定義(金額範囲について) 大:50億~30億、中:30億~10億、小:10億未満
(リスク管理)
気候変動リスクはサステナビリティ推進部会で報告・協議され、グループサステナビリティ委員会を通じ、進捗状況をグループ全体で共有しています。また、雪印メグミルク内で毎週開催しているリスク連絡会ではグループ全体のリスクとトラブルの管理を行い、情報の迅速な共有化と対応を確認しています。
(指標と目標)
抽出されたリスクに対し、KPIを設定し、その取組みを行うと共に、2023年度より新たなKPIを設定しました。
2023年度の主なKPIの進捗状況
※1 集計中のため、2024年9月発行予定の「雪印メグミルクレポート2024(統合報告書)」に記載予定です。
※2 2021年度は提出会社の数値であり、2022年度よりグループ会社に拡大しました。なお、提出会社の2022年度実績は
8.4%です。
※3 省エネ法改正により、燃料由来のCO₂排出量の算出係数が変更される可能性があるため、数値は暫定値となりま
す。
※4 アキダクト(Aqueduct)は世界資源研究所(WRI)が開発した水リスク評価のグローバルツールです。
(TNFDへの取組みについて)
2023年12月にサステナビリティ推進部会の分科会としてTNFD分科会を新設し、2024年3月にTNFDフォーラムへ正式に参画しました。TNFD分科会は2024年3月までに計9回の会議を実施し、当社と自然関連の整理、自然関連の外部環境動向、他社動向分析、求められる水準と現状のGAP分析など初期的開示に向けた準備を実施しています。また、2024年1月には当社役員向け勉強会を実施し、TNFD開示および取組みの必要性について理解促進を図りました。
当社グループにとって主力事業である牛乳・乳製品は、豊かな食生活と日本全体の食料自給率向上に欠かせないものですが、酪農生産に対する環境負荷低減(GHG排出量の削減)が社会課題になっています。これら自然資本・生物多様性に関連する課題の解決に向け、当社グループのサステナビリティ経営をいっそう推進していきます。なお、TNFDに準拠した本格的な開示は2025年秋を予定しています。
③2023年度の取組事項
ア.炭素価格
A.設備投資について
2023年5月より大樹工場でホエイ及び残渣をエネルギーとして有効利用するメタン発酵設備の稼働を開始し、現在、100%負荷運転に向け設備の調整を実施しています。また、なかしべつ工場のボイラのエネルギーを重油よりLNGへ変更します。2024年12月稼働を目指して進めており、2023年度は1期工事が完了しました。
再生可能エネルギーの利用拡大に向け、2030年度に再エネ電力比率を全社で30%以上とする環境目標を新たに定めました。この対応として、2023年7月より海老名工場太陽光発電設備の稼働を開始しました。また、京都工場(2024年5月稼働予定)と阿見工場(2024年9月稼働予定)に太陽光発電設備導入工事を開始しました。幌延工場では水素エネルギーの利活用によるCO₂排出量削減の取組みを発表しました。これは幌延工場近隣(豊富温泉)から産出する未利用ガスから創出された水素と既存ボイラ燃料であるLNGを混焼させるボイラ設備を導入し、2025年下期から実証実験を行う内容となります。
B.サステナビリティ・リンク・ローンの活用
サステナビリティ・リンク・ローン(以下「SLL」)は、借り手の経営戦略に基づくサステナビリティ目標と連携したサステナビリティ・パフォーマンス・ターゲット(以下「SPT」)を設定し、借入条件とSPTの達成状況を連動させる借入です。
雪印メグミルクグループでは、2030年度CO₂排出量50%削減をSPTとして、2022年3月に80億円の調達を行いました。このSPTを基に借入期間の目標値を定めており、2022年度はその目標を達成しました。
なお、CO₂排出量は、第三者機関による検証を実施しております。
<雪印メグミルクグループ全体のCO₂削減率の目標及び実績値>
※1 2022年度、2024年度、2026年度の数値はSSLで設定したSPT
※2 2023年度数値は見込み
C.グリーンボンドレポーティングの進捗状況
グリーンボンドは、環境問題の解決に貢献する事業に要する資金を調達するために発行する債券です。2023年12月に発行した50億円のグリーンボンドの対象事業の概要、調達資金の対象事業への充当状況及び環境効果に関する指標等を、実務上可能な範囲で年次で当社ウェブサイト上に開示しております。
※
グリーンボンドで開示するプロジェクト
D.ICP導入について
インターナル・カーボン・プライシング制度について、2024年4月から導入する事を決定しました。
イ.消費者意識の変化
A.石油由来プラスチックの削減に向けて
雪印メグミルクでは、2030年度に石油由来のプラスチック使用量(売上原単位)25%削減(2018年度比)をKPIと定め、将来に向けた施策を検討しています。2023年度はヨーグルト容器の紙化に向けた検討やバイオマスプラスチックを配合した容器のラインテストを行い、サステナビリティ推進部会で協議しました。2023年4月より、東京都、神奈川県、千葉県、福岡県などで学校給食牛乳ストローレス容器の導入を開始しました。この取組みでは最大で年間約5,400万本(約18t)の石油由来プラスチックの削減が期待できます。また、リデュースの取組みとして容器包装に使用されているプラスチック製キャップの薄肉軽量化などにも取り組みました。
<石油由来プラスチックのKPI進捗状況>
B.プラスチックの排出抑制及び再資源化について
雪印メグミルク全体でプラスチック使用製品産業廃棄物等の排出量が250t/年を超えるため、「多量排出事業者」に該当します。2023年度の全社環境目標より、新たにプラスチック排出の抑制および再資源化などに関する目標を定めました。今後、進捗状況の公表を行います。
C.海洋プラスチック配合のプラスチックパレット導入について
製品の輸送や保管に用いる荷役台として、海洋プラスチック(OBP:オーシャンバウンドプラスチック)を配合したパレットを採用しました。従来より、破損・老朽化したパレットやクレートを再商品化(リサイクル)したプラスチックを使用してきましたが、今後は更に海洋プラスチックを配合したパレットを使用し、プラスチック資源循環を強化します。
ウ.平均気温の上昇
A.生産拠点の節水の取組み
生産拠点の用水使用量について、2030年度に2013年度比9%削減とするKPIを定め、節水施策を実施しています。海老名工場では2023年5月から、ろ過器逆洗水回収設備が稼働しました。(2.6万㎥/年の削減効果)
また、興部工場温水装置導入・濃縮冷却塔更新、阿見工場蒸気ドレン排出方法改善、海老名工場品質管理課回収水活用、なかしべつ工場圧空冷却塔増能更新など用水使用量削減を順次実施しました。
この結果、2023年度の用水使用量は約11,600千㎥/年となり、 KPIを達成する進捗となりました。
B.緑肥作物種子による作付面積拡大(循環型社会の形成)
環境負荷低減に向け、グループ会社の雪印種苗㈱での緑肥作物種子による作付面積拡大(2019年度比20%拡大)を新たなKPIとして設定し取り組みました。
エ.異常気象の頻発化と深刻化(豪雨、洪水等)
A.生産拠点の水リスクについて
生産拠点の水リスクについて、リスクの再評価を行いました。アキダクト(世界資源研究所(WRI)が開発した水リスク評価のグローバルツール)による評価では、リスクが高い対象事業所はありませんでした。当社の独自評価として用水、排水、洪水の各リスクについて評価し、用水リスクへの対応として、川越工場で井戸水の濁り対策、排水リスクへの対応として、川越工場で高濃度排水流入時の対策工事、グループ会社(八ヶ岳乳業㈱茅野工場)で排水処理設備の下水道接続を実施しました。また、洪水リスクへの対応として、グループ会社のハザードマップによる浸水被害の有無、受変電・配電設備への調査を実施しました。
B.プラントベースフードなどの代替食品について
2024年3月に新ブランド「Plant Label」(プラントラベル)を立ち上げ、プラントベースフード4商品の発売を開始しました。この新製品では、今後、日本で成長が見込まれる「えんどう豆」由来の原料を使用しています。「えんどう豆」は、低脂質であり、たんぱく質や食物繊維が豊富で栄養面にも優れた素材です。新たな植物性商品の発売で、プラントベースフード市場の活性化を図ります。
C.BCPの強化について
インフラの維持および停電後の復旧を目的として、北海道内全7工場に非常用発電機を設置しており、有事に備え、定期訓練を実施しました。
オ.酪農基盤
A.牧草・飼料作物種子の作付面積拡大(酪農生産基盤強化)
自給飼料型酪農の推進のため、グループ会社の雪印種苗㈱での牧草・飼料作物種子による作付面積拡大について、作付面積を2019年度比で3%拡大することをKPIに設定し取組みを推進しました。2022年度の実績ではKPIを達成する進捗となりました。
※1 集計中のため、2024年9月発行予定の「雪印メグミルクレポート2024(統合報告書)」に記載予定
です。
B.酪農総合研究所シンポジウム開催(酪農生産基盤強化)
持続的酪農経営を行うための経営管理・技術的支援として、2024年2月に雪印メグミルク酪農総合研究所が主催した酪農総合研究所シンポジウムを開催しました。
2023年度は「今こそ飼料の国産化を! PartⅡ~飼料自給率向上に向けた課題とは~」をテーマに、研究者や酪農家が講演し、自給飼料の利用拡大に向けた議論を行いました。
C.牛の腸管由来温室効果ガス削減の取組み
持続的な酪農の取組みとして、雪印メグミルク酪農総合研究所、生産団体(JA北オホーツク)、研究機
関(北里大学)と連携し、牛の腸管由来温室効果ガス削減対策となる実証試験を継続実施しました。
「ビジネスと人権」に関する企業の対応への要請はますます強まっており、当社グループの事業活動およびサプライチェーン上において、適切な対応が求められています。私たちは、事業活動を進めていく上で直接または間接的に影響を与える、あらゆる人々の人権を尊重しなければなりません。
2021年6月、事業活動における人権尊重の責任を果たすため、「雪印メグミルクグループ 企業行動憲章」に基づき、指針として「雪印メグミルクグループ 人権方針」を定めました。以降、国連「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って実践しています。
※
人権デュー・ディリジェンスの実施ステップ
「(1) サステナビリティ共通」に記載しておりますので、参照願います。
2021年度は、まず当社のサプライチェーンから人権デュー・ディリジェンスを開始しました。関係部署参画のもと特定した「優先的に取り組む人権リスク」に対して、2030年度までのロードマップに沿って人権影響評価を順次実施しています。現在、国内グループ会社、海外現地法人へ取組みを拡大しているほか、当社グループで雇用する外国人労働者(在留資格「特定技能」「技能実習」)の増加に伴い、全ての事業所において細やかに人権影響を確認するため、人権分科会のメンバーによるインタビュー(内部による確認)を2023年度より行っています。
人権への負の影響を防止・軽減するための対応(人権デュー・ディリジェンス)が不十分な場合は、調達や生産、取引関係におけるマイナス影響や、当社グループのブランド価値毀損にもつながります。そのため、「優先的に取り組む人権リスク」に対して、人権分科会およびサステナビリティ推進部会で対応結果の確認と今後の方向性の協議を行っています。その内容は全て、グループサステナビリティ委員会を通じてグループ全体に共有しています。 当社内で定期的に開催しているリスク連絡会では、グループ全体の人権に関するリスクとトラブルの管理を行い、情報の迅速な共有化を図り、対応をチェックしています。
重要課題(マテリアリティ)の重点取組みテーマ「人権の尊重」に定めたKPIに沿って、計画的に人権デュー・ディリジェンスや啓発活動を進めていきます。
2023年度までの進捗状況
雪印メグミルクグループは、「最大の経営資源は『人材』である」と考えています。
世の中の大きな環境変化と先行きが不透明な中で、企業理念と存在意義・志の実現を目指し、持続的に成長するためには、その源泉となる付加価値を生み出す「人材」の成長と活躍が不可欠と考えています。
グループの役職員一人ひとりが大切に考える共通の姿勢・価値観である「雪印メグミルクバリュー(主体性・チャレンジ・チームワーク)」を実践する多様な人材が、個性や能力を十二分に発揮できる環境づくりと人事施策を推進し、従業員一人ひとりの「働きがい」(働きやすさ+仕事のやりがい)を高め、ミルクバリューチェーンを通じて付加価値を創造する人材を育成します。
なお、2021年度に「雪印メグミルクバリュー」の実践を推進し表彰する制度として「雪印メグミルク アワード」をスタートしました。2024年度より対象をグループ会社に拡大し、「雪印メグミルクグループ アワード」として、より一層のバリュー浸透を図ります。
(ガバナンス)
当社は、中期人材戦略について、中計2025の基盤戦略の一つとして、取締役会で協議・決定しています。
各部署・グループ会社における人材育成は、人材育成責任者、担当者を配置し、グループ人材育成方針に基づく施策を推進します。
「中期人材戦略」は、以下の4つの施策で構成されます。なお、連結グループ各社では研修等において一部共通の取組みを実施しているものの、必ずしも連結グループに属する全ての会社で取組みが行われていないことや数値の集約が困難であることから、指標および目標については提出会社の内容を記載しております。
①働き方改革の推進による労働生産性の向上
ア.働き方改革の推進
当社は、2016年度から生産性の向上に取り組んできました。時間外労働時間(一般職月間平均)は、2015年度の23.8時間から2023年度は16.7時間と4分の3以下に減り、年次有給休暇の取得率(全従業員平均)は、2015年度の65%から2023年度は83%に達しました。
イ.新しい働き方の提供
2018年度に全社展開した在宅勤務制度は、「どんな時間でも、どんな場所でも、どんな組織でも、そしてどんな人でも、いきいきと働ける」ことをテーマに「雪印メグミルクリモートワークマネジメント(YMR)」として進化し、今後さらに「あたらしい働き方」として、企業価値の向上と従業員満足の向上を同時に実現する、多様性あふれる働き方の実現に向け、従業員が自分で選べる働き方を目指していきます。
(注)1.数値は提出会社の実績値です。
2.総労働時間は一般職一人当たりの年間時間数です。
3.時間外労働時間数は一般職一人当たりの月間所定労働時間数に対する時間数です。
4.年次有給休暇取得率は非正規社員を含む全従業員の年間付与日数に対する取得率です。
②多様性(ダイバーシティ&インクルージョン)の推進による付加価値創出
ア.ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)の推進
当社グループの求める人材は、「雪印メグミルクバリュー」で掲げた主体性・チャレンジ・チームワークの3つを実践できる資質のある多様な人材です。年齢(若手・中堅・シニア)、性別(男性・女性)、国籍、経歴(新卒・キャリア・ジョブリターン)、障がいの有無等、様々な背景を持つ人材がそれぞれの個性を認め、尊重し、互いの能力を発揮することで相乗効果と付加価値を生み出す企業グループを目指しています。
イ.女性活躍推進の取組み
当社は、2015年12月の「女性活躍推進」宣言以来、「女性活躍」を多様性の中核と位置づけ、企業戦略として推進しています。女性管理職比率は、2015年度の2.5%から2024年度期首には7.8%まで増え、引き続き2025年度末の10%以上を目標に取り組みます。
具体的な取組みとしては、女性リーダーの育成やキャリアアップに向けた社内外におけるキャリア開発プログラムの展開、育成プランの策定、LGBTQ+を含むアンコンシャスバイアスの理解促進を目的とした社内フォーラムの開催やeラーニングの実施、更にきめ細やかな機会の提供と育成を図る活躍支援に注力します。
ウ.キャリア人材の採用
経営戦略と連動し、ミルクバリューチェーンを支える人材として、新卒採用に加えて生産、営業、研究開発、IT等各分野において、他企業経験のあるキャリア人材の採用を行っています。また、意欲と能力を有する契約社員(非正規社員)は正社員に転換し、より広いフィールドで活躍しています。
エ.育児・介護の両立支援
出産・育児、介護と仕事の両立を支援するため、セミナーの開催や各種プログラム開発・提供を行っています。2022年10月には育児・介護休業法の改正に合わせて、男性従業員(非正規社員も含む)の育児休業取得促進を目的に「産後パートナー休暇」として28日間の有給休暇制度を新設しました。
オ.D&Iプロジェクト
働き方改革、各種制度の拡充と環境整備が進む中、次のステージとして、2023年度から人事担当役員、サステナビリティ担当役員を責任者とし、各部門の実務担当者から構成する「D&Iプロジェクト」を発足し、より一層、多様な人材が活躍する実効性のある仕組みづくりを加速させます。
(指標・目標)
(注)1.数値は提出会社の実績値です。
2.女性管理職比率、育児休業取得率、男女の賃金の差異は「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」および「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」に基づき開示しています。なお、出向者は出向元の従業員として算出しています。
3.女性管理職比率は下記時点の従業員数を基に算出しています。
・2021年度:2022年4月1日時点
・2022年度:2023年4月1日時点
・2023年度:2024年4月1日時点
4.育児休業取得率は、当該年度中に子供の産まれた正社員数(A)に対して、その年に初めて育児休業等を取得した正社員数(B)の比率(B/A)を示します。この比率には、前年度以前に子供が産まれたが、その時点では育児休業等を取らず、当該年度に初めて育児休業等を取得した者が含まれるため、育児休業取得率が100%を超えることがあります。例えば、2023年度の取得率には、2022年度以前に子供が産まれ、2023年度に初めて育児休業等を取得した正社員をカウントしています。
5.男性の育児休業取得率は「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」に基づき、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則」第71条の4第1号における正社員の育児休業等の取得割合を算出しています。
6.育児休業平均取得日数(男性)は、正社員の男性で、育児休業を取得した者の平均取得日数を記載しています。
7.男女の賃金の差異は、女性の賃金が男性の賃金に対してどれだけの割合であるかを示しています。正規雇用労働者には、正社員に加えて、有期から無期契約に転換したフルタイム勤務労働者を含みます。なお、職位や雇用形態の男女間での人数比率の違いが主な要因として、男女の賃金の差異が生じていますが、賃金制度自体に性別による処遇差はありません。
(提出会社における正規雇用労働者の男女の賃金の差異(65.4%)の内訳…正社員:72.8%、
無期契約に転換したフルタイム勤務労働者:92.6%)
8.障がい者雇用数、障がい者雇用率は障害者雇用状況報告書(各年度6月1日時点)に基づき算出しています。なお、出向者は出向元の従業員として算出しています。
9.新入社員数(キャリア)は正社員でないものから正社員への転換者を含みます。
③経営戦略を実現する人材確保・配置と育成
ア.スキル開発
当社では階層別の各役割要件に合ったスキルを設定し、マインド・思考等の強化と合わせ計画的にリーダーシップスキルを習得するプログラムを展開しています。公募型のビジネススキル研修にはグループ会社従業員も対象とし、アカウンティング、ロジカルシンキング、リーダーシップ等のスキル開発を推進します。
イ.活躍機会の提供
従業員意識調査の結果では、「男性に重要度の高い業務を任せがちである」という声もあります。スキル開発に加えて、性別に関係なく、若年層からベテラン社員まで、やる気と熱意を持った従業員に対しては社内公募やキャリアチャレンジ制度、大型プロジェクトへの参画、グループ会社への派遣等を通じて、能力開発と活躍の機会を提供していきます。
ウ.専門性の強化
当社グループは、乳で培われた私たちの幅広い知見や機能(ミルクバリューチェーン)によって価値創造を実現します。酪農、研究開発、生産、品質保証、マーケティング、ロジスティクス、IT等バリューチェーンを支える各部門の専門性のより一層の強化と共に事業展開のグローバル化、デジタル化に対応できる人材を育成します。
エ.キャリア自律支援
当社は20代~50代の各世代でキャリアワークショップを実施し、2023年度からは中高齢従業員のセカンドキャリアを視野に入れたセルフキャリアドックやキャリアカウンセリング等、キャリア自律支援を推進します。また、キャリア自律や多様な働き方の推進、能力開発・発揮等の観点から2024年度より副業制度を導入します。
オ.次世代リーダー(経営層候補)の育成
2023年度より、選抜型リーダーシップ開発研修と役員研修を繋ぐプログラムとして、次の経営層候補を対象にリーダー開発に主眼を置いた所属長研修を導入し、グループ経営の次世代を担うリーダー群を育成します。
(注)1.数値は提出会社における正社員の実績値です。
2.研修費用は一人当たりの年間費用です。
④従業員のワークエンゲージメントの向上
ア.健康経営の推進
2021年4月に食の楽しさや健康をお届けし、食の未来を創造する企業として、従業員が心身ともに健康であることを尊び、健康の維持・増進に向け、自ら行動していくことができるよう、以下の取組みを推進、支援していくことを宣言しました。
a. 生活習慣病の未然予防を目的に、セルフケア知識の提供や、健康相談・保健指導を実施し、健康増進に向
けた取組みを推進します。
b. 従業員全員を対象に、ストレスチェックを実施し、メンタルヘルスに関わるケアおよび予防支援の取組み
を推進します。
c. 従業員の健康確保に向けた働き方の取組みを推進します。
従業員の主体的な「健活チャレンジ」をはじめとする生活習慣病リスク保有者数の減少と従業員の生産性の向上により、従業員一人ひとりの健康を礎として、従業員の人生の充実と会社の持続的成長を目指します。なお、2024年3月に日本健康会議より「健康経営優良法人2024」の認定を受けました。
健康経営推進体制
イ. エンゲージメント調査と施策への反映
人事戦略上、雪印メグミルクバリューを実践する多様な人材にとって、ワークエンゲージメントは重要なテーマであることから、2023年度に初めてエンゲージメント調査を実施しました。
当社の強みとして、「ワークライフバランスが実現しやすいこと」、「困難時に職場メンバーとの連携がとれること」等が挙げられる一方、弱みとして「ミッション・ビジョンへの共感性が低いこと」、「挑戦しにくい風土であること」が挙げられます。
これらから経営と従業員、上司と部下をはじめとする社内の「対話」が不足しているのではないかと推察し、2024年度より各所属長が自場所のエンゲージメント向上に向けたアクションプランを作成し、取組みを推進します。
ウ.人事諸制度の見直し
当社の人事制度の基礎は、2009年の雪印乳業㈱と日本ミルクコミュニティ㈱との経営統合に遡り、これまでに多くの拡充、見直しを行ってきました。今後も労働市場や働く人の意識等経営環境の変化に応じて、従来の年功的なものから、役割や発揮能力・行動や専門性に報いる等、若年層からベテラン社員まで「雪印メグミルクバリュー」を実践する多様な人材の働きがい(働きやすさ+仕事のやりがい)、成長につながる人事諸制度と運用へと見直します。
(注)1.数値は提出会社の実績値です。
2.肥満該当率の対象者は40歳以上です。
3.アブセンティーズムは病気で休業している状態を表す数値として、傷病休職・休務制度利用日数及び
傷病欠勤日数の合計日数の平均値を記載しています。
4.プレゼンティーズムは何らかの健康問題を抱えたまま仕事をすることで労働機能に与える程度を測定
するための指標として、WFunによる測定を行い、組織の労働機能を総合評価した数値を記載して
います。
多様な人材や求める人材を確保できないこと、一人ひとりの働きがいの向上と成長を実現できないこと、「雪印メグミルクバリュー」と対局にある、「指示待ち」「前例踏襲」「セクショナリズム」といった組織体質に陥ること、これらを事業活動のリスクと考えています。多様な人材が個性や能力を十二分に発揮できる環境づくりと人材育成によりリスクを低減し、企業文化への定着を目指します。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。なお、以下の記載における将来に関する事項は、当連結会計年度の末日現在において当社グループが判断したものであります。
なお当社グループは、以下のような経営および事業リスクの発生の可能性を認識したうえで、発生の回避及び発生した場合の対応に努める所存です。
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
なお、2024年3月末では、子会社33社および関連会社14社となっております。
① 財政状態及び経営成績の状況
〈連結経営成績〉
〈セグメント別概況〉
(注) 1.報告セグメントの売上高は、主に「商品または製品の販売に係る収益」によるものです。
2.「その他」の区分は、報告セグメントに含まれない事業セグメントであり、共同配送センター事業および不動産賃貸事業等が含まれております。売上高は、主に「配送サービスに係る収益」によるものです。
当連結会計年度の財政状態は次のとおりです。 (単位:百万円)
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における活動毎のキャッシュ・フローの状況は以下のとおりです。
(単位:百万円)
③ 生産、受注及び販売の実績
ア.生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1.金額は、販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。
イ.受注実績
当社グループ(当社および連結子会社)は一部受注生産を行なっておりますが、金額に重要性がないため、記載を省略しております。
ウ.販売実績
当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1.セグメント間の取引については相殺消去しております。
2.前連結会計年度および当連結会計年度の主な相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。
① 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
当連結会計年度のわが国経済は、雇用・所得環境が改善する状況下で、各種政策の効果もあって、緩やかに回復しており、今後も続くことが期待されます。先行きについては、世界的な金融引締め等が続く中、ウクライナや中東地域の紛争、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要があります。
食品業界においては、外食需要がインバウンド需要の増加等も受けて、回復傾向にあります。一方で、世界的な原材料価格やエネルギー価格等の高騰の勢いはやわらいだものの、食品をはじめ様々な商品価格の高止まりは継続し、消費者の購買行動に影響を与えております。
このような環境下、当社グループは「新たな成長のタネづくり」、「基盤活用による物量の拡大」、「国内酪農生産基盤の強化・支援」に向けた取組みを事業戦略の3つの柱とする「雪印メグミルクグループ 中期経営計画 2025」(以下、中計2025)をスタートいたしました。 その初年度となる2023年度は、すべてのバリューチェーンにおける生産性の向上とコスト構造の見直し、および適切な価格形成による「コストアップへの対応」、環境変化に対応した「トップラインの維持・拡大」、ならびにアジアを中心とした海外やECビジネス等の「新たな成長のタネづくりとその取組みのスタート」を重要取組事項と位置付け、積極的な取組みを進めてまいりました。昨年来実施している価格改定が浸透したことに加え、各種マーケティング活動の強化等に取り組んだこともあり、2024年3月期は売上高、営業利益共に前年を上回ることができました。
当連結会計年度の業績(セグメントを含む)は次のとおりです。なお、売上高につきましては、外部顧客に対する金額を記載しております。
当社グループの連結売上高は605,424百万円(前年同期比3.6%増)、営業利益18,460百万円(前年同期比41.4%増)、経常利益19,888百万円(前年同期比37.3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は、19,430百万円(前年同期比112.8%増)となりました。
セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。
〈乳製品〉
当セグメントには、乳製品(チーズ、バター、粉乳等)、油脂、ニュートリション事業(機能性食品、粉ミルク等)等の製造・販売が含まれております。
売上高は259,228百万円(前年同期比2.8%増)、営業利益は9,890百万円(前年同期比1.8%増)となりました。
(売上高の状況)
バターは、価格改定を実施するとともに、需要の活性化を図るためのプロモーション活動を推進し、市場を上回る需要を獲得できたことにより、前年を上回りました。
油脂は、増量キャンペーンやWEBプロモーションを推進したことにより、前年を上回りました。
チーズは、主力の「さけるチーズ」が、大樹工場の新ライン稼働により供給体制が強化され、積極的なマーケティング活動が可能となったことで、前年から大きく伸長しました。また、チーズ全体でも前年を上回りました。チーズの新商品では、「さけるチーズ」の新フレーバーのコンソメ味や、冷蔵庫から出してすぐ、冷たくてもとろりとしたチーズ味が楽しめる「torochi(トロチ)」等を発売しました。
機能性食品は、定期購入型通販ビジネスの伸び率が落ち着いたものの、モール型ECサイトへの参入や積極的なマーケティング活動等により堅調に推移しました。粉ミルク等は、国内は堅調に推移しましたが、海外は少子化等の影響で減収となり、トータルで前年をやや下回りましたが、ニュートリション事業全体では前年並みとなりました。
(営業利益の状況)
各種コストアップに対応した価格改定を実施するとともに、プロモーション活動を強化したことにより、増益となりました。
〈飲料・デザート類〉
当セグメントには、飲料(牛乳類、果汁飲料等)、ヨーグルト、デザートの製造・販売が含まれております。
売上高は256,064百万円(前年同期比6.2%増)、営業利益は5,662百万円(前年同期比247.6%増)となりました。
(売上高の状況)
飲料は、機能性表示食品の「MBPドリンク」シリーズ、大容量タイプの「毎日骨太MBP」、「すっきりCa鉄」、小容量タイプの「Dole LL200ml」等が好調に推移しました。その結果、飲料全体では前年を上回りました。
ヨーグルトは、市場全体が前年並みで推移するなか、「牧場の朝ヨーグルト」や「ナチュレ恵megumi」等のファミリーユース商品が好調に推移しました。市場において機能性ヨーグルトの需要が落ち着いたため「ガセリ菌ヨーグルト」シリーズは前年を下回ったものの、プロモーション活動の強化等で売上の拡大に取り組みました。その結果、ヨーグルト全体では前年を上回りました。ヨーグルトの新商品では、高たんぱくヨーグルト市場で初の機能性表示食品となる「恵megumiガセリ菌SP株ヨーグルトPROTEIN」を発売しました。また、2024年3月に、植物由来の原材料を主に使用したプラントベースフードの新ブランド『Plant Label』を立ち上げました。えんどう豆由来の原料を使用した「ナチュレ恵megumi植物生まれ」や「恵megumiガセリ菌SP株 植物生まれ」等を発売しました。
デザートは、主力の「CREAM SWEETS」シリーズや、「アジア茶房」シリーズ等が年間を通じて好調に推移し、前年を上回りました。
(営業利益の状況)
各種コストアップに対応した価格改定を実施するとともに、プロモーション活動を強化したことにより、増益となりました。
〈飼料・種苗〉
当セグメントには、牛用飼料、牧草・飼料作物種子、野菜種子の製造・販売、造園事業が含まれております。
売上高は50,831百万円(前年同期比4.9%減)、営業利益は296百万円(前年同期比35.0%増)となりました。
(売上高の状況)
配合飼料の販売単価の下落や、乳牛用の飼料需要の減少等で販売物量が減少したこと等から、当セグメント全体で前年を下回りました。
(営業利益の状況)
売上高は減少したものの、コストダウンの取組み等により増益となりました。
〈その他〉
当セグメントには、共同配送センター事業、不動産賃貸事業等が含まれております。
売上高は39,300百万円(前年同期比4.4%増)、営業利益は2,654百万円(前年同期比79.8%増)となりました。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載しております。
キャッシュ・フロー関連指標の推移は以下のとおりです。
キャッシュ・フロー関連指標の推移
※自己資本比率:自己資本/総資産
時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産
キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/キャッシュ・フロー
インタレスト・カバレッジ・レシオ:キャッシュ・フロー/利息の支払額
(注) 1.各指標はいずれも連結ベースの財務数値により計算しております。
2.株式時価総額は自己株式を除く発行済株式数をベースに計算しております。
3.キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている負債を対象としております。
〈資金需要の動向〉
当社グループの主な資金需要は、中計2025に掲げる「強靭性の獲得」に向けた「既存事業への基盤・成長投資」、「未来価値創造投資」であります。
〈資金調達の方法〉
当社グループは、運転資金、投資資金についてはまず営業キャッシュ・フローで獲得した資金を投入し、不足分については金融機関からの借入、社債の発行および資産売却等により資金調達を実施していきます。外部からの資金調達につきましては、D/Eレシオ0.5以下を目処として長期と短期のバランスを勘案しながら、低コストかつ安定的に資金を確保するよう努めていきます。
なお、当連結会計年度において、中計2025のキャッシュアロケーションに基づき政策保有株式などの資産売却を行い、「既存事業への基盤・成長投資」、「未来価値創造投資」に充当いたしました。
資金の流動性につきましては、現預金残高に加え、金融機関とコミットメントライン契約および当座貸越契約を締結し、十分な資金を確保しています。また、グループ各社における資金効率の向上と金融費用の削減を目的として、CMS(キャッシュマネジメントシステム)を含むグループファイナンス制度を導入しています。
③ 目標とする経営指標の達成状況等
当社グループは2023年5月に中計2025を策定いたしました。
目標とする経営指標の当年度達成状況は以下のとおりです。
(※連結売上高は「収益認識に関する会計基準」適用前の数値目標となっております。)
(単位:億円)
※1 親会社株主に帰属する当期純利益
※2 投資金額は意思決定ベースであり、キャッシュアウトベースの数値とは異なります。
※3 目標とする配当性向(配当総額÷利益)は、資産売却益を除きます。
④ 中計2025の実績報告
⑤ 重要な会計方針及び見積り
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。
連結財務諸表を作成する際には、一部について見積りや仮定を用いることが必要になりますが、これらは期末日における資産・負債の金額および開示期間の収益・費用の金額に影響を与えます。見積りや仮定を行なう場合は、その時点で入手できる事実に基づき、可能な限り客観的に実施することを目指しておりますが、実際の結果とは異なる場合もあります。
重要な会計方針及び見積りの詳細につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 連結財務諸表注記 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。
該当事項はありません。
当社グループ(当社および連結子会社)は、当社、雪印種苗㈱および雪印ビーンスターク㈱を中心に、コーポレートスローガン「未来は、ミルクの中にある。」に基づき、事業戦略上急務となっている課題に対する研究開発や、中長期的成長の基盤となる基礎研究を幅広く実施しております。
原材料価格の高騰による調達コストの上昇、また国内外の乳・乳製品需給が変動する中、環境変化を先取りして消費者に受け入れられる商品を継続的に提案するために、乳(ミルク)の価値を中軸に「市場対応型商品」と「付加価値型商品」を両輪とした商品開発を行っております。また、商品開発を支える研究開発として、乳(ミルク)の機能を中心とした「おいしさ」と「健康機能」の追求と、「環境配慮」を主軸とした基礎研究と技術開発に取り組んでおります。
当連結会計年度の研究開発費の総額は
各セグメント別の主な研究開発活動は次のとおりです。
〈乳製品〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は
●当社
新たなチーズの需要創造を目指し、いつもの料理に、調味料のようにチーズをかけるという新しいチーズの食習慣、食文化の創出を狙った「torochiモッツァレラチーズ入り」、「torochi芳醇ゴーダ入り」を発売しました。また、今までのチーズデザートとは一線を画す、本格デザートとして「雪印北海道100 マスカルポーネドルチェ バニラソース」「雪印北海道100 マスカルポーネドルチェ アールグレイソース」を発売し、チーズの新しい食シーンの創出に取り組みました。
同時に、従来から広く支持されているブランドから、「6Pチーズ鉄分入り」「雪印北海道100 さけるチーズコンソメ味」を発売し、それぞれのブランドのラインナップ強化と、新しい顧客層の獲得に取り組みました。
また、社会課題である健康寿命の延伸に対応した付加価値商品として「記憶ケア βラクトリンスキムスティック」を発売しました。
今後も様々な食シーンの提案と、たゆまざる商品力向上へ取り組んで参ります。
乳製品事業における「おいしさ」と「健康機能」に関する研究を行い、おいしさを構成する技術と、当社独自の乳製品の健康機能の深耕を目的に検討を行い、得られた研究成果(新知見、新技術、新手法など)を乳製品の商品開発と商品力強化、および当社独自の機能性素材の価値向上に活用いたしました。
主な研究成果は以下の通りです。
・油脂製品のトランス脂肪酸の低減に向け、米ぬかワックス(RBX)を用いてキャノーラ油とオリーブ油のW/Oエマルション(マーガリン代替品)を作製し、RBXオレオゲルの安定性評価を行いました。その結果、W/OエマルションのRBX濃度が高くなるにつれ、貯蔵弾性率が増加し、より密なネットワークが形成されました。また、オリーブ油の方が高い貯蔵弾性率を示しました。トランス脂肪酸を低減する際、油脂製品の貯蔵弾性率が低下して構造が保てなくなる課題が生じますが、今回得られた結果から、RBXを活用することで油脂製品のトランス脂肪酸を低減できる可能性が示されました。
・新たな機能性乳素材の開発に向け、母乳中に多く含まれるシアル酸の生理機能に着目し、乳中のグリコマクロペプチドのシアル酸を含む糖鎖部分を高度に濃縮したシアリル糖ペプチド濃縮物の機能研究を実施しました。流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)の原因であるムンプスウイルスへの感染阻害効果を検証した結果、赤血球凝集阻害効果および濃度依存的な感染阻害を細胞実験で確認しました。また、線虫を用いて学習記憶に与える影響を検証した結果、シアリル糖ペプチドの高い記憶維持効果が認められ、これはシアル酸を含む糖鎖が寄与していることが示唆されました。
・2023年4月に開設した国立大学法人弘前大学と当社の共同研究講座『ミルク栄養学研究講座』にて、2015年に実施した青森県弘前市岩木地区住民の牛乳・乳製品摂取量と骨代謝マーカーおよび音響的骨評価値に関して評価を行い、現在解析中です。今後は、非侵襲的な骨の健康管理ツールとして、終末糖化産物(AGEs)の皮下自家蛍光測定と骨折リスク問診票の導入を検討しています。また、乳製品摂取と健康状態の関係をビッグデータ解析し、骨や乳酸菌研究の深耕に加えて、ミルクの新たな健康価値を研究しています。
これらの研究成果は、日本油化学会や19th Euro Fed Lipid Congress and Expo、日本薬学会、日本農芸化学会、弘前大学COI-NEXTフォーラムの各学会で発表しました。
●雪印ビーンスターク㈱
「赤ちゃんとお母さんをはじめ、家族の健康といきいきしたくらしをサポート」する商品として、「粉ミルク・ベビーおやつなどの赤ちゃん向け商品」、「お母さんのための商品」、「シニア世代の健康をサポートする商品」などをお客様に提供しています。
これらの商品は、「母乳調査研究」、「乳幼児の食生活実態調査」をはじめとする赤ちゃんに関する調査研究、「妊産婦・授乳婦の食事調査」などの各種調査研究をベースとして開発しています。
本年度は、商品開発においては、2023年10月より、乳児用調製粉乳「ビーンスタークすこやかM1」スティックタイプの1箱18本であった商品を1箱7本へ、また、フォローアップミルク「ビーンスタークつよいこ」スティックタイプ1箱18本を1箱8本に変更し、新発売しました。1箱あたりの本数を減らすことで、よりお買い求め易い価格として、また、新型コロナ感染症の5類への移行にともない外出の機会も増えていることから、お出かけの時に手軽にお使いいただけるようになりました。
さらに、環境負荷低減の取り組みとして賞味期限を延長し、商品の廃棄などが発生しにくくする対策も実施しました。(対象商品は、ビーンスタークマムシリーズ「つわびー」、「毎日葉酸+鉄これ1粒」、「毎日カルシウム+鉄」、「3つの乳酸菌M1」、「赤ちゃんに届くDHA」及び口中清涼食品「ビーンスタークハキラ」)
研究開発では、雪印メグミルク㈱と当社による第3回全国母乳調査を継続して取り組みました。本調査は、これまで日本全国1,210名の授乳中のお母さんにご協力をいただきました。現在、「母乳の栄養成分組成の変化」、「お母さんの健康状態」、「お母さんのライフスタイル等が母乳成分にどのように影響するか」、また「母乳(成分)が赤ちゃんの成長にどのように関連するか」などを明らかにするべく、2015年より長期間の調査として実施しています。
本年度は、母乳中の糖鎖成分に注目した検討を実施しました。母乳中糖鎖成分の一つであるオリゴ糖は、ビフィズス菌を増やす効果に加えて、感染防御や免疫機能の増強、認知機能の発達促進など多様な生理機能が報告されており、非常に注目されている成分です。一方、たんぱく質に結合した糖鎖は分析が複雑なため、十分に検討がなされていませんでした。そこで、母乳中のオリゴ糖とたんぱく質結合糖鎖を分析するための簡便な手法を構築し、日本人の母乳中糖鎖成分の網羅的な分析を行いました。その結果、母親の遺伝的な背景に起因するオリゴ糖の特徴的な分泌パターンと、一部のたんぱく質結合糖鎖との関連が明らかになりました。この研究成果は学術論文として「International Journal of Molecular Sciences」に投稿しました。
また、疫学的な解析により、乳児の感染症罹患に影響する母乳中糖鎖成分の探索を行ったところ、気管支炎の予防に寄与するものとして、共通の構造を持つオリゴ糖やたんぱく質結合糖鎖を見出しました。この研究成果は、日本糖質学会年会にて報告しました。
本全国母乳調査は、引き続き、「母乳成分分析」、「母親の食事実態」、「母親と乳児の生活実態」及び「乳児の発達状態」などを調べ、その関係性を明らかにすることを目指します。5歳になるまで追跡調査を実施し、今後の商品開発に活かしてまいります。
今後も「母乳のちから」を探求し、粉ミルクの機能の向上を目指すとともに、ご家族のみなさまの健康に役立つより良い商品づくりのために、研究開発に取り組んでまいります。
〈飲料・デザート類〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は
●当社
白物飲料カテゴリーにおいては、2023年3月下旬に「毎日骨太高たんぱくミルクMBP®」を発売しました。(4月上旬には「毎日骨太高たんぱくミルクMBP® カフェオレ」を発売)1本に10gの乳たんぱく質を配合、さらにMBP®も20㎎配合し、外側だけでなく内側からのWのカラダづくり習慣をサポートする新価値の高たんぱく飲料として、特に50代以上をターゲットとして訴求しました。
また、秋にはMBPドリンクの追加アイテムとして「MBPドリンク 糖類オフ低カロリー」を上市しました。お客様センターに寄せられたお声を調べたところ、「糖の摂取」を健康上の理由で不安に思う方が一定数おられることから、糖類を既存のMBPドリンク比30%以上カットしながらも、一定の甘さを楽しめて風味は損なわない商品を開発しました。
色物飲料カテゴリーにおいては、「Dole® ジューシープラス 1日分の鉄分」を2023年3月下旬に上市しました。(「Dole® ジューシープラス マルチビタミン」を4月中旬に発売)100%果汁でありながら、不足しがちな栄養素(鉄分、ビタミン)を強化、更に開けやすく飲み口から直接飲みやすいドリームキャップ容器を採用しました。
ヨーグルトカテゴリーでは、秋に「毎日骨太 高たんぱくヨーグルトMBP®」、「恵 megumi ガセリ菌SP株ヨーグルトPROTEIN」の2つのたんぱく強化ヨーグルトを発売しました。いずれも若年層中心から、中高年を含めた全世代に年々広がっているたんぱく質摂取ニーズに、プラスアルファの機能を強化(MBP、ガセリ菌SP株)し、高たんぱく質ヨーグルト市場に新たな価値を提案しました。
飲料・デザート類事業における「おいしさ」、「健康機能」に関する研究では、主に当社独自のプロバイオティクス乳酸菌や乳素材の機能性の深耕を目的に検討を行い、得られた研究成果(新知見、新技術、新手法など)を「ヨーグルト」、「牛乳、乳飲料」などの商品開発に応用し、商品力強化に活用いたしました。また、環境に配慮した容器包装についても研究を続けております。
主な研究成果は以下の通りです。
・健康な成人男女を対象とし、Lactobacillus paragasseri SBT2055(ガセリ菌SP株)を含むカプセルまたは含まないカプセル(プラセボ)を4週間継続摂取することによる便通改善効果を検証しました。その結果、摂取前の糞便中の乳酸桿菌生菌数が高い被験者を除いて層別解析をした結果、被験食摂取群ではプラセボ群と比較して排便回数の有意な増加が認められました。また、別の摂取試験では、被験食摂取群の乳酸桿菌の生菌数が有意に増加し、腸管内で一部の有用菌が増加、有害菌が減少することが確認できました。以上の結果から、ガセリ菌SP株は生きたまま腸管内へ到達することで腸内環境の改善に寄与することが示唆されました。
・健康な成人男女を対象とし、ガセリ菌SP株を含むカプセルまたはプラセボを12週間継続摂取することによる免疫細胞に対する影響、体調に関する自覚症状への影響を評価するヒト摂取試験を実施しました。唾液中分泌型免疫グロブリンA(sIgA)分泌速度が平均値以下であった被験者を対象として層別解析を実施したところ、被験食摂取群はプラセボ群と比較して、免疫細胞の一つであるプラズマサイトイド樹状細胞(pDC)の活性化マーカーのうちCD86が有意に増加していることが認められ、風邪自覚症状の発症率が有意に低くなりました。この結果より、ガセリ菌SP株の摂取は、特に免疫機能が低めな健康な成人においてpDCを活性化し、免疫機能を正常に保つことで体調維持に役立つことが示唆されました。
・発酵乳の香りが脳機能に与える影響を調べるため、認知機能を反映する脳波を測定した結果、蒸留水や未発酵乳の場合と比べ、発酵乳の香りを嗅いでいる際は、認知機能を活性化する効果があることが示唆されました。また、発酵乳の主な香気成分である酢酸、酪酸、ジアセチルの3種類について香りを嗅いでいる際の脳波を測定、解析した結果、ジアセチルの香りには認知機能を活性化し、被験者の主観的な評価においても「思考力」を高める効果があることが示唆されました。
これらの研究成果は、論文として薬理と治療誌や応用薬理誌、Nutritionsに掲載され、日本栄養・食糧学会大会や日本食品科学工学会の各学会にて発表しました。
〈飼料・種苗〉
当連結会計年度の研究開発費の総額は
●雪印種苗㈱
飼料分野では、配合飼料価格高騰の対応策として配合設計した「低コスト特化型たん白系飼料」は、従来品に比べて原料原価を大幅に低減することができ、試作品を用いた産乳性試験において良好な結果を確認しました。新規配合飼料として3月から販売しています。
飼料原料の有効利用を目的としてトウモロコシのデンプン消化率を高める加工方法を検討し、道東飼料㈱において高α化素材を試作調製したところ、デンプン消化率が71.5%まで向上しました。この試作素材を用いた飼料給餌体系は、従来の飼料給餌体系およびグラスサイレージ主体粗飼料を用いた配合飼料高濃度給餌体系に比べて、飼料コストが低減できることがわかりました。今後、産乳性への影響を把握し、飼料配合および飼料給餌体系の設計に取り組みます。
「くろっけスーパー」などの子牛用代用乳主要製品について、新規乳原料(フラッシングパウダー)および低コスト中鎖脂肪酸油脂を用いて原料コストを低減した新配合製品を4月に販売開始しました。
飼料イネサイレージ用の乳酸菌新菌株を用いた現地試験を実施し、良好な結果を得ました。新菌株を用いたサイレージ用資材の新商品を2024年度から販売する予定です。
牧草・飼料作物種子分野では、寒地型牧草として農業・食品産業技術総合研究機構と共同開発したオーチャードグラス「きたじまん(北海34号)」が北海道優良品種に認定されました。「きたじまん」は高消化性成分の含量が高く、極晩生で出穂期がチモシーと近い特性を有しており、収穫作業体系が組み立てやすいことから、広範囲な普及が期待されます。2029年の発売を計画しています。
飼料用トウモロコシでは、雌穂の稔実性が良く、耐倒伏性・耐病性に優れる「ネオデント・エミナ88(SH14081)」(RM(相対熟度)88日クラス)を2024年春から販売します。引き続き、大柄で優れた草姿が特徴の「ネオデント・ユミル85(SL19017)」(RM85日クラス)、稈長が高く、収量性、耐病性に優れている「ネオデント・マグナス95(SHY4041)」(RM95日クラス)の2025年の販売開始に向けて準備を進めています。
畑作・園芸種苗分野では、(一社)日本種苗協会主催のエダマメ審査会(北海道帯広市)において「夏風香」が1等特別賞、「青祭」が3等に入賞しました。
丸莢インゲン品種として高評価を受けている「キセラ」の後継品種として「キセラネオ」を2024年度から販売します。
カボチャ「SQ-024」が(一社)日本種苗協会主催の全日本野菜品種審査会(北海道滝川市)の「秋どり放任密植」分野で2等に入賞しました。「SQ-024」の品種名を「楽ほく丸」として2024年3月に販売開始しました。
2021年春に都府県向けに販売開始した緑肥作物のパールミレット「ネマレット」が、気候温暖化の影響により、北海道においても栽培可能であることを確認し、2024年度から販売エリアに北海道を加えて全国展開することとしました。「ネマレット」は飼料用途としての需要が見込まれ、普及拡大に積極的に取り組みます。
ポットカーネーションの自社育成品種として、市場で最も重要な花色の赤花品種で栽培しやすいことが特徴の「ステラルビー」、ピンクの白覆輪でボリューム感を出せることが特徴の「ティーパーティー」、黄色で花冠が大きい特徴を有する「ムーンティアラ」、および花色がピンクで甘い芳香の「ひなあられ」(農研機構との共同開発品種)の4品種を品種登録出願申請するとともに、本年度下期より販売しています。
環境緑化分野では、スポーツターフ、校庭緑化、芝生用途として優れた特性を持ち、幅広く利用されている現行品種「アメージングXL」の後継品種として、ペレニアルライグラス「ファストボール3GL」を2024年に販売開始し、幅広い需要にお応えします。
植物活力資材では、これまで亜鉛高含有作物栽培用として試験販売していた園芸用複合肥料の原材料と製法を改良し、「ラッカインZ」として幅広い作物に対して亜鉛供給可能な液状肥料として2024年度から販売することとしました。
発酵技術を活用した当社植物活力資材に関する基盤研究として、乳酸菌培養液中に含有されるフェニル乳酸の発根促進メカニズムを解明し、2022年度に発表した学術論文※(北海道大学、明治大学との共同研究)が日本植物バイオテクノロジー学会の2023年度学会賞の「論文賞」を受賞しました。「植物が乳酸菌代謝物を利用することが可能であることを示したことに意義がある」との評価をいただき、過去1年間に同学会が刊行する学術誌Plant Biotechnology誌に出版された優れた論文として選考されました。
※“3-Phenyllactic acid is converted to phenylacetic acid and induces auxin-responsive root growth
in Arabidopsis plants”,Maki et al. 2022. Plant Biotechnology 39: 111-117.
当社グループは、今後もコーポレートスローガンである「未来は、ミルクの中にある。」を基本に、乳(ミルク)の可能性の追求および酪農生産への貢献を目指した、高付加価値で独自性のある商品の開発を進めてまいります。