(1) 事業等のリスク
当中間連結会計期間において、HGF遺伝子治療用製品「コラテジェン」の製造販売承認申請を取り下げたことに伴い、同製品の条件及び期限付き承認の期限が満了となり、販売を終了することとなりました。また、2024年初頭より当社子会社のEmendo社において事業再編成を実施いたしました。これらの事象により、前事業年度の有価証券報告書に記載した「事業等のリスク」について「(1)遺伝子治療について」「(2)今後の事業展開について」「(3)研究開発について」「(4)製造について」「(5)販売について」「(6)薬事法制による規制について」および「(7)知的財産権について」につきましては以下のとおり、重要な変更がありました。また、「(13)のれんの減損について」が新たなリスクとして発生しております。「(8)業績の推移について」「(9)経営上の重要な契約等について」「(10)組織体制について」「(11)訴訟について」「(12)配当政策について」「(13)外国為替変動について」「(14)地政学的リスクについて」「(15)継続企業の前提に関する事象等について」につきましては、「(5)業績の推移について」「(6)経営上の重要な契約等について」「(7)組織体制について」「(8)訴訟について」「(9)配当政策について」「(10)外国為替変動について」「(11)地政学的リスクについて」「(12)継続企業の前提に関する事象等について」と番号を変更しております。
(1) 遺伝子治療について
遺伝子治療とは、遺伝子を用いて病気を治療することです。世界初の遺伝子治療は1990年に米国で、アデノシン・デアミナーゼ(ADA)欠損症という先天的に免疫が正常に働かない遺伝子疾患を対象に実施されました。その後、遺伝子疾患に加え、有効な治療法がない癌や後天性免疫不全症候群などに対しても、遺伝子治療が実施されてきました。国内でも1995年に北海道大学においてADA欠損症を対象とした初めての遺伝子治療が行われ以来、過去20年以上に亘り数多くの臨床試験が行われてきました。
遺伝子治療が有効と考えられる対象疾患としてはまず、遺伝子の変異が原因の遺伝子疾患があります。遺伝子疾患では、遺伝子治療により正常な遺伝子を補充することで治療効果が期待しやすいと考えられます。
最近では「ゲノム編集」技術の医療への応用が急速に進歩しています。「ゲノム編集」とは、ヒトゲノムの特定の部位で外因性の遺伝子を追加・挿入、あるいは遺伝子変異を修正・削除できる最新の遺伝子工学技術であり、従来の遺伝子組み換え技術と比べて著しく精度と効率が高いため、今後医療や科学にとって不可欠な技術になるとみられております。
「ゲノム編集」の前段階として、1990年代に本格的に始まった遺伝子治療(Gene Therapy)の研究は患者の骨髄から幹細胞を取り出し、正常な遺伝子をその幹細胞の核に組み込み、再度その細胞を患者の体内へ戻すことにより、正常な遺伝子が体内で機能するようにするものでした。 2010年代になり遺伝子を自在に書き換える「ゲノム編集」(Genome Editing)技術が開発され、その技術は今日ますます発展を遂げております。特に遺伝子異常による難病を持つ患者の治療方法として開発が進んでおり、医療・ヘルスケア業界だけでなく、農業・食品分野に革命的な影響を及ぼしており事業性の面からも注目されております。
しかしながら、最新の「ゲノム編集」技術を利用した遺伝子(細胞)治療は新規性が高く有効性が期待されるものの、現段階では未知のリスクを否定できず、幅広い実用化には至らない可能性があります。そのような場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
(2)医薬品開発及び販売について
一般に新薬の開発には、長期に亘る開発期間と多額の費用が必要です。しかしながら、以下の理由等により、当社グループが開発、販売する医薬品が計画通り進捗しない可能性があります。そのような場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
① 研究開発について
医薬品の開発は計画通りに進行するとは限らず、臨床試験のために必要とされる症例数を適時に確保できないこと、臨床試験の実施に係る各種業務を支援・代行するCRO(医薬品開発業務受託機関)における業務が計画通り進行しないこと等の様々な要因によって遅延する可能性があります。さらに、様々な試験の結果、期待した有効性を確認できなかったり、安全性に関する許容できない問題が生じたりした場合には、研究開発を中止する可能性があります。そのような場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
② 製造について
当社グループは、製品及び治験薬等を自社で製造しておらず、他社からの供給に依存しております。従って、製品や治験薬等について、何らかの要因により、品質上の問題が生じたり、もしくは予定通りに必要な数量を確保できない場合には、開発に遅れが生じたり、製品供給の不足になる可能性があります。そのような場合には、当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
③ 販売について
当社グループが開発中の医薬品については、国内、米国及び欧州等の各地域において、将来競合する可能性のある製品及び開発品が存在するものもあります。当社グループは、競争力の高い製品を早期に開発、上市することで、一定の市場シェアの獲得を目指しております。しかしながら、競合他社が当社の想定より早く承認を取得する、あるいは想定以上のシェアを獲得した場合には、当社グループが開発した製品が上市された場合においても期待通りの収益をあげられない可能性があります。
また、日本や欧州においては新薬の価格は原則として政府あるいはそれに準じた公的機関により決定され、また、米国においては保険会社・マネージドケア(健康保険運営団体)及び政府のメディケア・プログラムとの交渉により決定されます。そのため、当社グループが開発した製品について当社グループが想定した薬価とならない場合があり期待通りの収益をあげられない可能性があります。
加えて、当社が販売する医薬品について、予期しない副作用が発生した場合には売上高が減少する可能性があります。そのような場合には、当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
④ 薬事法制による規制について
薬事法制は、医薬品・医療機器等の品質、有効性、安全性確保の観点から、企業が行う開発・製造・販売等に関して必要な規制を行う法律であり、当社グループが実施している医薬品の研究開発は日本をはじめ各国の薬事法制の規制を受けております。
各国において、様々な要因による承認要件の変更、さらに薬事法制度の変更により、承認を計画通りに取得できない可能性があります。そのような場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
(3) 知的財産権について
① 特許戦略
当社グループが現在開発しているHGF遺伝子治療用製品、NF-κBデコイオリゴDNAの研究開発活動は、主に当社グループが保有する又は当社グループが実施権を有する特許権に基づき実施しております。以下において、それらのうち特に重要なものを記載しております。
しかしながら、当社グループが現在出願中の特許が全て登録されるとは限りません。また、当社グループの研究開発を超える優れた研究開発により当社グループの特許が淘汰される可能性は、常に存在しております。仮に当社グループの研究開発を超える優れた研究開発がなされた場合、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
さらに、当社グループの今後の事業展開の中でライセンスを受けることが必要な特許が生じ、そのライセンスが受けられない可能性があります。そのような場合には、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
② 知的財産権に関する訴訟、クレーム
連結会計年度末現在において、当社グループの開発に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟やクレームが発生したという事実はありません。
ただし、他社が当社グループと同様の研究開発を行っていないという保証はなく、今後とも知的財産について問題が発生しないという保証はありません。
当社グループとしても、このような問題を未然に防止するため、事業展開にあたっては特許調査を実施しており、当社グループ特許が他社の特許に抵触しているという事実は認識しておりません。しかしながら、当社グループのような研究開発型企業にとって、このような知的財産権侵害問題が発生する可能性があります。そのような場合には、当社グループの事業戦略や経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
(4)検査受託サービスについて
ACRLの検査事業は、受託先や地域の拡大、検査の種類・項目を増やすことにより、事業の拡大をはかる計画です。検査受託サービスの拡大のためには、検査機器等への投資が必要となりますが、他の検査会社の進出による競合の激化やその他の理由により、こうした事業計画が実現しない可能性があります。そのような場合には、当社グループの事業戦略や業績が影響を受ける可能性があります。
(13)のれんの減損リスクについて
当社は事業基盤のさらなる拡大を目指し、2020年に米国のゲノム編集技術を有するベンチャー企業であるEmendo社に出資を行い完全子会社といたしました。この買収に伴いのれんを計上しております。同社は2024年初頭より、研究開発体制を労働集約型から人工知能の活用を中心とする知識集約型に進化させるとともに、研究開発機能を集約し、規模もそれに見合ったものに再編成を行いました。これに伴い、子会社化した当初からの事業計画も見直すこととなりました。今後、新たな体制での事業進捗が期待する成果を得られない可能性があります。そのような場合には、のれんの減損損失が発生し、当社グループの業績並びに財政状況に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 継続企業の前提に関する重要事象等
医薬品事業は、製品化までに多額の資金と長い時間を要する等の特性があり、創薬ベンチャーである当社グループは、継続的に営業損失及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあります。そのため、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております。
当社グループは当該状況を解消すべく、下記を重要な課題として取組んでおります。
①自社既存プロジェクトの推進
当社グループは、現在開発している医薬品等のプロジェクトを確実に進捗させることが重要な課題と認識しており、以下のようにこの課題に取り組んでおります。
2019年3月に条件及び期限付承認を厚生労働省から取得した遺伝子治療用製品コラテジェンは、その後、製造販売後承認条件評価のための目標症例数の患者登録が完了し、2023年5月に同省に条件解除に向けた製造販売承認の申請を行いましたが、非盲検下で実施した市販後調査では、二重盲検の国内第Ⅲ相臨床審成績を再現できなかったことから上記申請を一旦取り下げ、いずれも二重盲検の国内第Ⅲ相臨床試験と米国後期第Ⅱ相臨床試験の結果を中心に申請データパッケージを構築し、新たな製造販売承認の申請を行うべく準備を進めていくこととなりました。
一方、米国での閉塞性動脈硬化症を対象とした同製品の後期第Ⅱ相臨床試験は2022年度末までに当初目標症例の投与を完了し、この度速報として良好な試験結果を得られております。
椎間板性腰痛症向けの核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNAは、米国において後期第Ⅰ相臨床試験を完了し、2023年10月に日本国内における第Ⅱ相臨床試験における最初の患者投与を実施し、予定どおり症例登録を進めております。
Vasomune Therapeutics Inc.(以下「Vasomune社」といいます。)と共同開発している急性呼吸窮迫症候群(ARDS)を対象とした治療薬Tie2受容体アゴニストは、米国における前期第Ⅱ相臨床試験について本年中の登録完了に向けて順調に症例登録を進めております。
これら開発中の医薬品について、今後も優先順位を意識しながら開発を進めてまいります。
②開発パイプラインの拡充と事業基盤の拡大
当社グループの主力事業である医薬品開発では、開発品の製品化は非常に難易度が高いため、常に開発パイプラインを充実させることが重要な課題と認識しており、以下のようにこの課題に取り組んでおります。
開発パイプラインの拡充実績として、2022年5月にEiger社と日本における独占販売契約を締結した早老症治療薬ゾキンヴィが、2024年1月に厚生労働省から製造販売承認され、同年5月より販売を開始しております。
新型コロナウイルス感染症に対しては、広範な免疫応答を刺激し、ウイルスの増殖防止、拡散の阻止が期待される経鼻投与ワクチンに関する共同研究をスタンフォード大学と推進しております。
また、事業基盤拡大の実績としては、当社連結子会社のEmendo社において、究極の遺伝子治療ともいわれるゲノム編集治療の実用化に向けて開発を進めております。同社は、ゲノム編集の安全な医療応用を目指し、新規CRISPRヌクレアーゼを探索・最適化するプラットフォーム技術(OMNI Platform)を確立し、ゲノム編集技術の開発をとおして、遺伝性希少疾患に加え様々な疾患のゲノム編集技術による治療を検討しております。この成果として、同社が開発しているゲノム編集のためのOMNIヌクレアーゼの非独占的使用権をスウェーデンのAnocca AB(以下「Anocca社」といいます。)に供与する契約を2024年3月に締結いたしました。
さらに、ACRLにおける検査受託については、これまで順調に受託数を拡大している拡大新生児スクリーニング検査に加え、早老症治療薬ゾキンヴィの発売に伴い、HGPS及びPDPLの遺伝学的検査を受託できる体制を構築し、受託を開始しました。また、新たな自治体からの受託に向けた交渉を継続しており、遺伝学的検査、バイオマーカー検査などの受託に向けた準備も進めております。
今後も、医薬品開発におけるライセンス導入や共同開発、他社に対する資本参加、海外で承認されている希少疾患を対象とした国内未承認薬の導入、開発によりアンメットメディカルニーズに応えることで、事業基盤の拡大を図り、将来の成長を実現してまいります。
③開発プロジェクトにおける提携先の確保
当社グループでは、製薬会社との提携により、開発リスクを低減するとともに、契約一時金・マイルストーンや開発協力金を受け取ることにより財務リスクを低減しながら開発を進め、上市後にロイヤリティを受領するという提携モデルを事業運営の基本方針としております。
コラテジェンに関しましては、日本と米国を対象とした独占的販売契約を田辺三菱製薬株式会社(以下「田辺三菱製薬」といいます。)と締結しており、製品の承認、販売が実現すればマイルストーン収入やロイヤリティ収入が見込めます。
また、NF-κBデコイオリゴDNAの日本国内における慢性椎間板性腰痛症を対象とした第Ⅱ相臨床試験では、塩野義製薬株式会社から臨床試験費用の一部負担などの協力を受けるとともに、続く第Ⅲ相臨床試験の実施について協議いたします。
今後も、更なる製薬会社等との提携を検討するとともに、開発プロジェクトに協力いただける企業を開拓し、事業基盤の強化に努めてまいります。
④資金調達の実施
当社グループにとって、上記①②を実現するために機動的に資金調達を行うことは重要な課題と認識しており、以下のようにこの課題に取り組んでおります。
2023年7月にBofA証券株式会社を割当先とする第43回新株予約権(第三者割当て)を発行し、調達開始から2024年3月末日までに12億5百万円を調達いたしました。また、2024年3月19日開催の取締役会においてCantor Fitzgerald Europeを割当先とした第1回無担保転換社債型新株予約権付社債を発行し、13億円の調達を行い5月24日までにすべての当該社債が株式に転換されました。さらに、Cantor Fitzgerald Europeを割当先とした第44回新株予約権は6月14日から行使が開始され当中間連結会計期間において3億56百万円(新株予約権発行に伴う入金を含む)を調達いたしました。また、当第4四半期連結会計期間に第2回無担保転換社債型新株予約権付社債の発行により13億円を調達する予定となっております。
今後も、研究開発活動推進及び企業活動維持のために必要となる資金調達の可能性を適宜検討してまいります。
しかしながら、現時点において、第44回新株予約権の行使は株価等の動向に左右されることから未確定であり、また上記に記載したプロジェクトを継続的に進めるための更なる資金調達の方法、調達金額、調達時期については確定しておらず、当社は継続企業の前提に関する重要な不確実性が存在していると判断しております。
なお、中間連結財務諸表は継続企業を前提としており、上記のような継続企業の前提に関する重要な不確実性の影響を中間連結財務諸表には反映しておりません。
当社グループ(当社及び連結子会社3社)は、遺伝子の働きを利用した「遺伝子医薬」の開発、実用化を目指し、研究開発を行う創薬系のバイオベンチャーです。遺伝子医薬のグローバルリーダーを目指して、自社における医薬品の開発及び開発パイプラインの拡充のための国内外企業との共同開発、業務提携、資本参加等を積極的に行っています。また、希少遺伝性疾患の有無を調べるスクリーニング検査や、主に希少疾患向けに海外で販売されていて、日本国内では販売されていない医薬品の国内への導入なども積極的に取り組んでおります。
当中間連結会計期間の事業収益は前年同期に比べ2億96百万円増加し3億47百万円(前年同期比578.5%増)となりました。当社グループでは、HGF遺伝子治療用製品コラテジェンの条件及び期限付製造販売の承認を取得し、2019年9月から田辺三菱製薬より販売しておりました。2023年5月に条件解除に向けた製造販売承認申請を提出いたしましたが、2024年6月に上記承認申請を一旦取り下げ、再度の承認申請を行うべく準備を進めています。この結果、製品売上高は11百万円とほぼ前年並みとなっております。ACRLにおいては、CReARIDが展開する拡大新生児スクリーニングである「オプショナルスクリーニング」を受託しており、前年同期に比べ受託数が順調に増加していることから、手数料収入として1億7百万円(同68百万円の増加)を計上いたしました。また、2024年5月27日より早老症治療薬「ゾキンヴィ」の販売を開始し、1億51百万円の商品売上高を計上しております。さらに、当社連結子会社のEmendo社が開発したゲノム編集のためのOMNIヌクレアーゼの非独占的使用権について、スウェーデンのAnocca社とライセンス契約を締結し、契約一時金を研究開発事業収益として76百万円計上いたしました。
当中間連結会計期間における事業費用は、前年同期に比べ5億46百万円減少し、54億55百万円(同9.1%減)となりました。
売上原価は、前年同期に比べ1億41百万円増加し、1億99百万円(同242.6%増)となりました。コラテジェンにかかる製品売上原価は、前年同期において使用期限切れによる廃棄が見込まれる製品の評価損3百万円を計上していたため、前年同期に比べ3百万円減少し、8百万円(同30.1%減)となっております。ACRLにおける新生児拡大スクリーニング検査にかかる原価は、受託数の増加に伴い前年同期に比べ44百万円増加し、91百万円(同94.9%増)となっております。当中間連結会計期間より販売を開始したゾキンヴィにかかる商品売上原価は、1億円となっております。
研究開発費は、前年同期に比べ9億18百万円減少し、22億45百万円(同29.0%減)となりました。主にEmendo社において、事業再編成に伴う人員の減少により給料手当が3億29百万円、製造関連費用等の減少により外注費が2億33百万円減少しております。使用期限切れによる廃棄が見込まれる材料及びコラテジェンの製品にかかる評価損の計上により、研究用材料費が1億27百万円増加しております。
当社グループのような研究開発型バイオベンチャー企業は先行投資が続きますが、提携戦略などにより財務リスクの低減を図りながら、今後も研究開発投資を行っていく予定です。研究開発の詳細については、本報告書「(4) 研究開発活動」をご参照ください。
販売費及び一般管理費は前年同期に比べ2億29百万円増加し、30億9百万円(同8.3%増)となりました。コラテジェンの回収にかかる費用11百万円の計上及びEmendo社の事業再編に伴う弁護士等専門家及びコンサルタントへの報酬の増加により、支払手数料が前年同期より1億29百万円増加しております。為替の円安に伴い、Emendo社買収に伴うのれん償却額が前年同期より1億90百万円増加しております。
この結果、当中間連結会計期間の営業損失は51億7百万円(前年同期の営業損失は59億51百万円)となりました。
営業外損益においては、主にEmendo社への貸付金の評価替を行った結果、円安による為替変動の影響により、為替差益が19億16百万円発生しております(前年同期は10億89百万円の為替差益)。Vasomune社が米国において獲得した助成金について、当社開発費負担分に応じて27百万円を受領し、補助金収入に計上しております(前年同期は74百万円)。
この結果、当中間連結会計期間の経常損失は31億90百万円(前年同期の経常損失は47億76百万円)となりました。
当中間連結会計期間の親会社株主に帰属する中間純損失は35億円(前年同期の親会社株主に帰属する中間純損失は48億30百万円)となりました。Emendo社において、同社の研究開発部門の再編成に伴う事業構造改革費用2億30百万円を特別損失として計上しております。
当中間連結会計期間末の総資産は前連結会計年度末に比べ12億17百万円減少し、276億75百万円となりました。
流動資産は23億30百万円減少し、35億91百万円となっております。2023年7月12日に発行したBofA証券株式会社を割当先とする第43回新株予約権、2024年4月5日に発行したCantor Fitzgerald Europeを割当先とする第1回無担保転換社債型新株予約権付社債及び第44回新株予約権についてその一部が行使され、18億76百万円を調達いたしました。現金及び預金は当期事業費用等の支払いにより23億39百万円減少し、18億20百万円となりました。当期より販売を開始したゾキンヴィについて、商品を2億13百万円計上いたしました。使用期限切れによる廃棄が見込まれる材料の評価損の計上により、原材料及び貯蔵品が3億79百万円減少しております。
当中間連結会計期間末の固定資産は11億13百万円増加し、240億84百万円となっております。Emendo社の社屋にかかるリース資産の減損により、使用権資産が1億25百万円減少しております。のれんは、償却により16億68百万円減少しておりますが、円安による為替変動の影響により米ドル建のれんの換算額が28億66百万円増加し、前連結会計年度末に比べ11億97百万円増加して229億43百万円となりました。
当中間連結会計期間末の負債は前連結会計年度末に比べ5億91百万円減少し、21億98百万円となりました。前年度の費用の支払いにより、買掛金が1億46百万円、未払金が1億65百万円減少しております。前年度の消費税の納付により、未払消費税等が93百万円減少しております。Emendo社における事業構造改革費用の支払いにより、事業構造改革引当金が2億52百万円減少しております。
当中間連結会計期間末の純資産は前連結会計年度末に比べ6億25百万円減少し、254億77百万円となりました。BofA証券株式会社を割当先とする第43回新株予約権、Cantor Fitzgerald Europeを割当先とする第1回無担保転換社債型新株予約権付社債、第44回新株予約権及びストックオプションの行使により、資本金及び資本剰余金がそれぞれ9億36百万円増加しております。親会社株主に帰属する中間純損失の計上により、利益剰余金が35億円減少しております。主にのれんに係る為替変動の影響により、為替換算調整勘定が9億34百万円増加しております。
当中間連結会計期間末における現金及び現金同等物(以下、「資金」といいます。)は、前連結会計年度末に比べ24億円減少し、16億91百万円となりました。当中間連結会計期間のキャッシュ・フローの状況は次のとおりです。
当中間連結会計期間における営業活動による資金の減少は、42億51百万円(前年同期は41億98百万円の減少)となりました。のれん償却費を16億68百万円計上し、棚卸資産が2億63百万円減少しましたが、税金等調整前中間純損失34億18百万円に加え、為替差益を18億96百万円計上し、売上債権が1億73百万円増加、仕入債務が1億63百万円減少、未払金が1億94百万円減少、未収消費税等が1億2百万円増加、未払消費税等が93百万円減少、事業構造改革引当金が3億10百万円減少しております。
当中間連結会計期間における投資活動による資金の減少は、71百万円(前年同期は3億14百万円の減少)となりました。Emendo社において、拘束性預金の預入による支出51百万円が発生しております。
当中間連結会計期間における財務活動による資金の増加は、18億43百万円(前年同期は10億55百万円の増加)となりました。Cantor Fitzgerald Europeを割当先とする第1回無担保転換社債型新株予約権付社債及び第44回新株予約権の発行により、転換社債型新株予約権付社債の発行による収入が13億円、新株予約権の発行による収入が15百万円となっております。BofA証券を割当先とする第43回新株予約権及びCantor Fitzgerald Europeを割当先とする第44回新株予約権が行使され、新株予約権の行使による株式の発行による収入が5億33百万円となっております。第43回新株予約権につき、新株予約権の買入消却による支出5百万円が発生しております。
(4) 研究開発活動
当中間連結会計期間における研究開発費は前年同期に比べ9億18百万円減少し、22億45百万円(前年同期比29.0%減)となりました。
当社グループは、“遺伝子医薬のグローバルリーダー”を目指し、遺伝子医薬を中心に医薬品の開発、実用化に取組んでおります。また、究極の遺伝子治療といわれるゲノム編集は、これまで治療の難しかった疾患を対象とした研究開発が進められていますが、当社グループのEmendo社は、独自のゲノム編集技術の開発を進めており、ゲノム編集の分野でも難易度の高い技術を開発しております。
さらに当社は国内外の企業と積極的に提携し、有望な医薬品の実用化に向けて共同開発を進めております。
以下に、当社グループの開発品並びに当社提携先の開発状況についてご説明いたします。
当社の開発プロジェクト

■HGF遺伝子治療用製品(一般名:ベペルミノゲンペルプラスミド)(自社品)
国内におけるHGF遺伝子治療用製品の開発については、慢性動脈閉塞症における潰瘍の改善を効能効果として条件及び期限付承認を取得し、2019年9月より販売しておりました。その後、2023年5月に条件解除に向けた製造販売承認の申請を厚生労働省に提出いたしましたが、2024年6月に上記承認申請を一旦取り下げました。下記米国での後期第Ⅱ相臨床試験の結果と合わせ、今後対象疾患の拡大等を目指して、再度の承認申請の準備を進めてまいります。
米国における開発につきましては、下肢潰瘍を有する閉塞性動脈硬化症を対象とした後期第Ⅱ相臨床試験の投与を2023年第1四半期に完了し、2024年6月に試験結果の速報値により、良好な結果を確認いたしました。今後、試験結果の詳細な分析を進め、米国における今後の開発方針を検討してまいります。なお、試験結果につきましては、本試験を主導した医師が論文として発表する予定であり、当社として具体的な臨床試験結果は、論文発表後にお知らせすることとなります。論文の発表時期は、現時点で決まっておりません。
上記、国内における条件解除に向けた製造販売承認の申請を取り下げたことにより、国内の承認期限が満了となり、これに伴いイスラエルにおける当社の提携先企業Kamada社が提出した製造販売承認申請も取り下げました。また、トルコにおいても、当社提携先企業Er-Kim社の申請に向けた準備が中断することとなります。
■NF-κBデコイオリゴDNA(自社品)
核酸医薬NF-κBデコイオリゴDNAについては、米国において椎間板性腰痛症を対象とした後期第Ⅰ相臨床試験を実施し、投与後の観察期間6ケ月間に続き、12ケ月間を経た結果でも、患者の忍容性は高い上、重篤な有害事象も認められず、安全性を確認できました。さらに、探索的にデータを評価したところ、患者の腰痛の著しい軽減とその効果の持続が認められ、有効性も確認できました。
2024年中間期は、日本国内における第Ⅱ相臨床試験において順調に症例の登録を進めております。なお、当該試験に関して塩野義製薬株式会社と契約を締結し、費用の一部を負担いただくとともに、試験結果に基づき第Ⅲ相臨床試験の実施について協議する予定です。
■高血圧DNAワクチン(自社品)
高血圧治療用DNAワクチンについては、オーストラリアでの第Ⅰ相/前期第Ⅱ相臨床試験は重篤な有害事象はなく、安全性に問題がないことを確認しました。今後の開発につきましては、新型コロナウイルスのDNAワクチンとは異なるプラスミドDNAの発現に関する改善策などの検討を進めてまいります。
■新型コロナウイルス感染症予防DNAワクチン(自社品)
2020年から2022年まで実施した研究開発の知見を活かし、プラスミドの発現効率や導入効率の向上等、プラットフォームの見直しを行い、並行して、将来発生する可能性のある新たな変異株を視野に入れた改良型DNAワクチン並びにワクチンの経鼻投与製剤の研究を米国スタンフォード大学と共同で実施しております。これまでの研究において薬剤のデリバリーシステムに関する研究に進捗が見られております。
■Tie2受容体アゴニスト(共同開発品)
Tie2受容体アゴニスト(AV-001)は、カナダのバイオ医薬品企業であるVasomune社と共同開発契約を締結し、急性呼吸不全など血管の不全を原因とする疾患を対象に2020年12月より米国において第Ⅰ相臨床試験を実施し、安全性と忍容性を確認いたしました。当初新型コロナウイルス感染症肺炎患者を対象としていましたが、その後、重症化リスクが低いオミクロン株への置き換わりが急速に進んだことに伴い、第Ⅱ相臨床試験の対象疾患をインフルエンザ等のウイルス性及び細菌性肺炎を含む急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に広げるべく米国FDAに申請し、承認を受けることができました。2024年中間期は、順調に症例登録を進めており、今後も医療機関との連携を進め今年度内に目標症例数の登録を完了する予定です。
なおAV-001は、本年5月に米国FDAにより重篤な疾患に対する治療薬やアンメットメディカルニーズに対する優秀な医薬品をより早く患者に届けることを目的としたFast Trackに指定をされました。医薬品がFast Track指定を受けると、医薬品開発および審査プロセス全体を通じて、FDAと製薬会社間の早期かつ頻繁なコミュニケーションが可能となります。頻度の高いコミュニケーションにより、質問や問題が迅速に解決され、多くの場合、早期の医薬品承認と患者によるアクセスにつながります。
■ゾキンヴィ(一般名:ロナファルニブ)(導入品)
当社は、2022年5月に米国の医薬品企業であるEiger BioPharmaceuticals Inc.と、ハッチンソン・ギルフォード・プロジェリア症候群とプロセッシング不全性のプロジェロイド・ラミノパチーを適応症とする治療薬であるゾキンヴィについて、日本における独占販売契約を締結いたしました。2023年3月に希少疾病治療薬(オーファン・ドラッグ)の指定を受け、2024年1月に厚生労働省に製造販売承認を取得し、4月17日に薬価基準へ収載されました。そして、この5月27日に販売を開始いたしました。
Emendo社の開発プロジェクト

■ゲノム編集技術による遺伝子治療の開発
当社は、究極の遺伝子治療法ともいわれるゲノム編集技術を用いた遺伝子疾患治療に挑むため、2020年12月にゲノム編集における先進技術及びそれを活用した開発パイプラインを持つEmendo社を子会社化しました。Emendo社では、ゲノム編集の安全な医療応用を目指し、新規CRISPRヌクレアーゼ(※1)を探索・最適化するプラットフォーム技術(OMNI Platform)を確立しており、ゲノム編集でしばしば問題視される「オフターゲット効果」(※2)を回避できるなど、新たな特徴をもった新規ヌクレアーゼ(OMNI ヌクレアーゼ)を数多く作出し、特許を出願しております。
2024年に入り、知識集約的な研究開発体制に移行するための事業再編成を実施し、Emendo社のイスラエルにある研究施設における研究開発活動の規模をそれに見合ったものとするとともに、米国における研究開発活動及び導出等を進めるための体制づくりを進めております。
この3月14日には、スウェーデンのバイオ企業であるAnocca社と、Emendo社が開発したOMNIヌクレアーゼの非独占的ライセンス契約を締結し、Anocca社が開発しているT細胞受容体改変T細胞(TCR-T)療法による固形がん等の治療にEmendo社の技術が使用されることとなりました。

※1 新規CRISPRヌクレアーゼ:ゲノム編集で使用する新たなRNA誘導型DNA切断酵素で、ガイドRNAで規定した塩基配列を識別し、その標的とした塩基配列を切断する。
※2 オフターゲット効果:ゲノム編集で、DNA鎖上の目的とする塩基配列以外の別の領域に、意図せぬ突然変異を引き起こしてしまうこと。
検査受託サービス及び提携先における開発状況
■希少遺伝性疾患検査を主目的としたACRLの検査受託
ACRLでは現在、一般社団法人希少疾患の医療と研究を推進する会(CReARID)が展開する拡大新生児スクリーニングである「オプショナルスクリーニング」を受託しております。この拡大新生児スクリーニングにおいて陽性となった受検者のうち、偽陽性の受検者を選別するための二次スクリーニング検査方法を開発しており、その成果を2024年2月に米国サンディエゴで開催されたライソゾーム学会で発表いたしました。
これに加え、早老症治療薬ゾキンヴィの発売に伴い、HGPS及びPDPLの遺伝学的検査を受託できる体制を構築し、希少遺伝性疾患の確定のための遺伝学的検査の受託を開始しました。さらに、治療効果をモニタリングするバイオマーカーの検査については、実施体制の構築を進めており、希少遺伝性疾患のスクリーニングから診断、治療に至るまでの包括的な検査体制の提供を目指してまいります。
■マイクロバイオームを用いた治療薬・サプリメントなどの開発
当社は、腸内細菌叢を利用した疾患治療薬や健康維持のサプリメントを開発しているイスラエルのMyBiotics Pharma Ltd.(以下「MyBiotics社」といいます。)と2018年7月に資本提携しております。MyBiotics社では、腸内細菌叢の微生物の構成を再現した培養物(SuperDonor)の製造法を確立しており、クロストリジウム・ディフィシル感染症の治療薬MBX-SD-202の第Ⅰ相臨床試験をイスラエルにおいて完了しております。
当中間連結会計期間において、経営上の重要な契約は行われておりません。