第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社グループは、下記に掲げるグループ理念のもと、ビジョンの実現を目指し、各行動指針に基づいた活動を推進することで、事業を通じて企業の社会的責任を果たし、真に信頼されるグループとなるべく企業価値の更なる向上を図ってまいります。

<グループ理念>

私たちは事業を通じて、健やかで豊かな社会の実現に貢献します

<ビジョン>

フェアスピリットと変革への挑戦を大切にし、従業員とともに持続的に成長する食品リーディングカンパニー

<行動指針>

・安全安心と品質の追求による、価値ある商品とサービスの提供

・有言実行の徹底による信頼関係の構築、強化

・全員参加の闊達な意思疎通と相互理解による能力開発と育成

・コンプライアンスを最優先とした、公明正大で透明性のある行動

・地球環境に配慮した事業活動の推進

 

(2)目標とする経営指標

当社グループは「長期経営戦略2035・中期経営計画2026」において、

・2026年度 経常利益300億円、ROIC5.9%   ROE6.2%

・2035年度 経常利益500億円、ROIC6.8%以上、ROE8.0%以上

をグループ目標としています。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略及び対処すべき課題

当社グループは、2035年度に向けた「長期経営戦略2035」及び直近3ヶ年における「中期経営計画2026」を策定し、これを推進しております。

①長期経営戦略2035

成長投資による利益拡大と収益力の持続的向上を両輪として飛躍的成長を目指し、DXとサステナビリティを中心に、その成長を支える経営基盤を強化します。

「成長投資による利益拡大」

・国内バリューチェーン価値の最大化

成熟市場で勝ち抜くため、業界における相対優位なポジショニング形成を目指す。全体最適に向けて、工場再編や最適配置を実行。

・海外事業の成長加速、成長事業の展開

海外事業や成長事業への投資を促進し、伸長する需要取り込みによる利益拡大を目指す。長期的視点でフードロス削減やたんぱく質の安定供給に向け、冷凍食品事業や未来の食の開発へ領域を拡大。

「経営基盤」

・DXによる効率化、変革

国内就労人口漸減は当社も抱える課題であり、その解決にDXを活用し、業務効率化と売上向上を同時に達成。全社コミットメントとして公的認定を取得。

・サステナビリティ

事業を通じ、脱炭素・人権尊重・アニマルウェルフェアへの配慮に取り組み、持続可能な社会への貢献。

②中期経営計画2026(以下、「本中計」という。)

基礎収益力の底上げに取り組み、創出したキャッシュを原資に、安定的な株主還元と成長投資を両立させ、飛躍的成長に繋げていきます。

「基礎収益力の底上げ」

加工食品事業

・多様なニーズに応える品揃え、それを活かした営業・販売手法による販売増。

・外部環境に応じた価格改定と継続的な内部コスト削減による早期の収益回復。

食肉事業

・日本全国の営業網とANZCO Foodsの世界に広がる販売網を活かした販売強化。

・食肉商品の付加価値化とリスク管理の高度化による利益率向上。

「経営基盤」

・持続可能な物流体制の構築

社外協業先との連携を強め、持続可能な物流体制を構築。拠点の再配置を進め、政府目標のトラック積載率10%向上を目指す。

・人的資本への取り組み

新しい価値の創造と変革に向け自律的に挑戦する人材の育成と多様な価値観を尊重し、挑戦と成長を支援する風土醸成を進め、従業員エンゲージメント向上を企業価値向上に繋げる。マテリアリティの新たなKPIとしてエンゲージメントスコアを設定、その改善を役員報酬に組み入れ。

「財務戦略」

・株主還元

安定した株主還元を重視し、業績変動の影響を受けにくいDOE(株主資本配当率)を指標に導入。中間配当の実施。

・キャッシュ・フロー・アロケーション

本中計3ヶ年で1,200億円の営業キャッシュ・フローを創出し、株主還元に300億円、成長投資に550~850億円、更新投資に350億円を振り分け。

・資本コストを意識した経営

本中計で基礎収益力の底上げ、ROICを指標とした事業管理の推進、最適な財務レバレッジの追求に取り組むことにより、ROEを向上。長期戦略で、成長投資による利益拡大、持続的成長を支える経営基盤の強化に取り組むことにより、将来成長期待を醸成。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループは、グループ理念「私たちは事業を通じて、健やかで豊かな社会の実現に貢献します」に基づき、持続可能な社会の実現に貢献することをサステナビリティの基本と考えています。その実現に向けて「7つのマテリアリティ」を特定し、長期経営戦略2035では、サステナビリティを、成長を支える経営基盤の一つと位置づけ、事業を通じた社会課題の解決に努めています。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

当社グループのサステナビリティに関する重要事項については、取締役会の諮問機関であるサステナビリティ委員会での審議を経て取締役会にて審議、または報告がされています。

当社のサステナビリティ委員会は、常務執行役員管理本部長が委員長を務め、各事業部門の関連する責任者及び社外有識者が委員として参加しており、社外の知見も得られる体制を整えています。

更に、2023年4月から、事業部門と連携してサステナビリティの取り組みを進めるための専門組織であるサステナビリティ推進室を社長直轄組織である経営戦略部の傘下とし、全社の経営戦略と連携を一層推進する体制を構築しています。また、サステナビリティ推進室と各事業部門・部署とを繋ぐため、各事業部門及び関連するコーポレートの各部署にサステナビリティ推進委員を任命し、サステナビリティへの取り組みをグループ全体で加速させる体制としています。

 

(2)リスク管理

当社では、サステナビリティ関連のリスク及び機会を全社的なリスクマネジメントプロセスの中で管理しています。サステナビリティ関連を含む経営上のリスクについては、年に1回全社的なリスクマップの見直しを実施しています。具体的には、発生可能性と当社事業への損失影響度から定量的に評価を行い、当社事業にとっての重要リスクを選定し、取締役会にて分析・最終評価する仕組みとなっています。特定された重要リスクについては、対応策を策定・実行するため、リスク毎に管理責任者及び担当部署責任者を設定しています。担当部署責任者は、管理責任者の指示の下、各リスクに関連する情報収集、ステークホルダーや専門家との意見交換、コンサルタントとの検討等に基づくリスクの分析や対応策の検討を行っています。また、対応策を実行するため、当社グループ会社や関係部署にリスクや対応策の周知や教育等を実施しています。

サステナビリティ関連リスク及び機会については、経営戦略部長が管理責任者、サステナビリティ推進室が担当部署となり取り組みを進めています。

特に気候変動関連リスク及び機会については、シナリオを設定してリスクを分析・評価する方法を活用しており、毎年サステナビリティ委員会にてリスク評価を行い、必要な対応策について審議しています。分析・評価結果は、全社プロセスに統合され、他の経営上のリスクと一体となって管理されています。

 

(3)戦略/指標及び目標

①気候変動に関する取り組み

戦略

当社は、畜産物及び畜産加工品を取り扱う事業を展開していることから、気候変動に伴う気温上昇による家畜への影響や自然災害の激甚化によるオペレーションの中断等に加え、社会の脱炭素化の流れの中で進む畜産品の需要低下等、当社事業が気候変動により様々な影響を受ける可能性があると認識しています。このような状況下、その発生可能性に拘わらず、あらゆるシナリオを想定して当社事業にとってのリスク及び機会を把握し、その対応策を検討することは当社事業の持続可能性を高める上で有用であると考え、2021年度にTCFD提言に則った分析を開始しました。

当社は、FAO(Food and Agriculture Organization of the United Nations、国連食糧農業機関)が発行するThe future of food and agriculture-Alternative pathways to 2050やIEA(International Energy Agency、国際エネルギー機関)のWorld Energy Outlook 2021の各気候シナリオを参照しながら、当社事業にとってのリスク・機会を評価し、対応策の検討を実施しました。

当社事業に大きな影響を及ぼし得る気候変動関連リスクとして、当社が事業を行う国・地域においてカーボンプライシングが導入された場合、特に1.5℃シナリオ下においては大きなコスト負担となる可能性があります。これに対し、当社は、当社グループの温室効果ガス(GHG)排出量を2030年度までに半減(2016年度比)、2050年ネットゼロとする削減目標を掲げ、GHGの排出削減に取り組んでいます。今後着実に削減を進めると共に、削減を促進する社内制度の整備も検討していきます。また、2℃シナリオ下においては、先進国を中心に環境負荷の低い食品への需要シフトが起こると見込まれ、食肉消費量が中長期的に大幅に減少すると、これに伴いハム・ソーセージなどの当社の畜産品の需要も減少すると考えられ、中・長期的に当社加工食品事業の売上に大きな影響を及ぼし得るものと認識しています。当社は、畜産品の需要減少に対する対応策として、植物性たんぱく質製品の開発・販売を既に進めています。さらに、培養肉をはじめとしたその他代替たんぱく質の研究開発、調理加工品などの売上拡大の検討を進めていきます。

一方で、2℃シナリオにおいては、環境意識の高まりを受け、環境負荷の低い代替肉の生産量が世界的に増加することが見込まれます。こうした環境下、植物性たんぱく質製品を取り扱う当社にとっては中・長期的に売上増加を見込むことができる大きな事業機会となり得ます。当社は、代替肉の中でも植物由来の大豆ミート商品の発売を2020年から開始しており、今後も継続してラインアップを拡充すると共に商品の定着を図っていきます。

上記の分析結果を事業環境分析に用いながら、今後の当社事業戦略に反映していきます。

 

指標及び目標

当社グループでは、気候変動への対応として以下のGHG排出削減目標(Scope1,2)を策定し、達成に向けて取り組みを進めています。

 

目標

2030年度 2016年度比半減

 2050年  ネットゼロ

 

目標に対する進捗

 

2016年度実績

(千トン-CO2)

2022年度実績

(千トン-CO2)

Scope1

Scope2

193

182

202

160

合計

375

362

 

(注)2023年度実績は集計中となります。

 

②人的資本に関する取り組み

戦略

(a)人材の多様性の確保を含む人材育成の方針および取り組み

当社は、従業員一人ひとりの多様な視点や価値観を活かしながら、積極的に変革に挑戦し続けていくことが企業の競争力や成長力を高める源泉であると考えています。一方で、少子高齢化や労働人口の減少など、労働市場の不確実性は高まっており、従業員の価値観や働き方も多様化する中で、従業員が働きやすく、自律的に成長できるような環境を醸成していくことも重要な課題であると認識しています。このような観点から、長期的な人材育成を基本に据えながら、多様性や価値観を尊重し、持続的な挑戦によって個人のキャリア形成が自律的にできるよう支援していくことを人材育成の基本方針としています。

具体的な施策としては、男性の育児休暇取得や育児支援策を推進・拡充し、介護についても社内制度や公的支援などの関連する情報提供を充実させることにより、従業員が安心して働き、その能力を存分に発揮できる仕組みを整えていきます。また、テレワーク環境の整備やフレックスタイム制度の活用を推し進め、多様な働き方に対応していくとともに、既存のFA制度や公募制度に加えて副業や自己啓発支援制度の拡充を進めることで、新しい価値を創造し、変革に向けて自律的に挑戦する人材の育成とそれを支援する風土の醸成を目指していきます。

(b)人材採用方針および取り組み

当社では、国籍や性別を問わず応募者の適性や能力を重視した公正公平な採用活動を方針としています。加えて、多様性の確保という視点においては管理職や係長級における女性比率の向上を目指し、定期学卒採用およびキャリア採用における女性比率の拡大を推進しております。さらに変革の激しい時代に、既成概念を打破し新たな価値を創造していくためにもキャリア採用を継続し、年齢を問わず事業運営のニーズに合った専門性の高い中核人材の確保・育成に努めてまいります。

(c)従業員の安全・健康に関する方針および取り組み

当社は、当社の事業に関わるすべての方々が安全に安心して働くことができる職場環境を実現することを労働安全衛生の基本方針としています。

具体的には、当社グループの財産である従業員の安全衛生、健康維持に配慮した取り組みを下記の通り行っています。これらは安全な職場環境づくりのために労働安全衛生法など関連する法令を遵守するとともに、労働安全衛生マネジメントシステムの考え方に準拠した形で進めています。

安全衛生については、各事業所に安全衛生委員会などを設置し情報の共有化を進めています。中でも最大の課題である労働災害防止では、入職時安全教育の徹底、定期的な職場安全教育、日頃からの職場巡視やリスクアセスメントなどを計画的に実施しています。加えて、従業員一人ひとりが安全衛生に向き合う活動として、危険予知トレーニングの実施や、ヒヤリハット報告への参加により事前の対策と危険の認識を深めるなど、積極的に取り組める職場環境の実現を目指しています。また外国人労働者に対しても適切な安全衛生教育を実施するため、教育資料や掲示物など多言語対応に取り組んでいます。健康維持に関しては、定期健康診断・ストレスチェック(多言語対応)の実施に加え、グループの全従業員およびその家族が24時間使用できる「セーフティネットなんでも相談窓口(電話・メール受付・多言語対応)」を設け、いつでも相談できる体制を整えています。また、長時間労働、過重労働、メンタルヘルスなどについて従業員への産業医面談を実施し、グループ全体で健康障害の防止を図るための対策に取り組んでいます。

 

指標及び目標

目標

 ・エンゲージメントスコア   2026年度 60%以上(2022年度  52.0%)

  ※従業員サーベイの肯定的な回答率

 ・管理職の女性比率      2030年度     10%(2023年度    6.0%)

 ・係長級の女性比率      2030年度   20%(2023年度   11.8%)

 ・1人当たり年間有休取得率  2025年度   70%(2023年度   71.1%)

(注)管理職の女性比率、係長級の女性比率の指標の対象は国内グループ会社となります。

 

 

③人権尊重に関する取り組み

戦略

当社は、「人権の尊重は全ての判断や行動において根底をなすもの」との認識のもと、事業に関わる全ての人々の人権を尊重し、企業としての社会的責任を果たしていくために、「伊藤ハム米久グループ人権方針」を定めています。また、サプライチェーン全体で人権の尊重や環境への配慮等の取り組みが行われるよう「伊藤ハム米久グループ調達方針」及び「サプライヤー調達ガイドライン」を策定・開示しています。

さらに、人権デュー・ディリジェンスの実施を通じて当社事業による人権への負の影響の把握に努め、必要な防止・軽減措置を実施していきます。この一つの手段として、当社サプライヤーに対してアンケート調査を実施し、サプライチェーンにおける人権に関する負の影響の状況把握と人権リスクの防止に努めています。

また、外国人技能実習生が実習に従事している当社グループの拠点を巡回し、実習に係る実態を正確に把握することを通じて、引き続き人権への負の影響を防止・軽減する体制の整備及び運用の改善に努めています。

 

指標及び目標

目標

当社調達額の80%をカバーするサプライヤーに対して、サプライヤー調査を毎年実施

・サプライヤー調査実績

2023年度に当社調達額の80%をカバーするサプライヤーに対してサプライヤー調査を実施し、人権をはじめとした各課題について追跡調査を要するレベルのリスクは確認されませんでした。

 

3 【事業等のリスク】

当社グループは、業績、株価及び財務状況等に影響を及ぼす可能性のあるリスクを発生可能性と影響度を勘案の上認識し、影響を最小化する仕組みの構築を図っています。特に重要なリスクとしては、世界的な原材料価格、穀物価格及びエネルギーコストの上昇や家畜伝染病の蔓延などがあげられますが、これらのリスクに対して適切に対応し、設定した課題に対する各種施策を着実に実行することによって、業績の向上に努めてまいります。
 その他重要と思われるリスクとその対応方針は下表のとおりです。しかしながら、これらはすべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見できない、若しくは重要とみなしていないリスクの影響を将来的に受ける可能性や、対策の不足による損害が発生する可能性があります。

なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが認識したものであります。

 

リスクの内容

対応

①市場動向に関するリスク

 

経済情勢の変化による影響で消費活動が減退した場合、当社グループの商品に対する消費者の需要が低下する可能性があります。また、当社グループの取扱商品の一部が価格競争に陥ることにより、収益力が低下し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、お客様及び社会の課題を解決する新たな価値を創造し、人々の豊かな食生活と健康に貢献することを目指しています。新たな食シーンの創造につながるような商品をスピーディに提案し、市場と需要の開拓を推進しています。

②市況変動に関するリスク

 

販売用食肉、ハム・ソーセージ、調理加工食品等の原材料として、国内外より調達する畜産物において、相場変動や輸入豚肉、輸入牛肉を対象としたセーフガード(緊急輸入制限措置)の発動及び入船の遅延、世界的な人口増加による食糧需給の逼迫、その他調達コストの大幅な上昇や仕入数量の制限の発生等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

また、製品に使用する副原料、包装資材及び電力や物流費等のコスト上昇、生産肥育事業における飼料価格の大幅な上昇が生じた場合も、同様に当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、製造コスト低減のための継続的業務改革、商品や原材料の調達先分散化、製品や商品の適正在庫水準の維持、効率を意識した物流の集約、適正な販売価格の設定・変更等の施策を推進しています。

③食品の安全性に関するリスク

 

消費者への健康被害及び製品や商品の回収・廃棄が発生した場合、社会的信用の失墜やブランド価値の毀損により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、製品や商品の「安全・安心」の確保がお客様との信頼関係の礎と捉え、フードディフェンスやトレーサビリティの強化及び国際的な管理基準をもとにした厳格な品質管理体制を構築しています。また、安全衛生教育についても積極的に推進しています。

 

 

リスクの内容

対応

④感染症、疫病等に関するリスク

 

ヒトに対する未知の感染症や、その他影響が深刻な感染症が地球規模で拡大した場合、従業員の業務就労自粛による生産性の低下や世界的な経済活動の縮小に伴う消費低迷等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、過去の感染症や疫病発生の経験を活かし、感染症等に対する対応マニュアルを整備し、対策に取り組んでいます。

⑤家畜の疾病に関するリスク

 

ASF(アフリカ豚熱)や鳥インフルエンザ、BSE(牛海綿状脳症)などの家畜の疾病が拡大した場合、国内外の食肉相場が大幅に変動して食肉の調達や販売に支障をきたし、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
また、自社農場や協力農場で家畜の疾病が発生した場合も、当該農場からの出荷停止等の実施により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、過去の家畜伝染病や疫病発生の経験を活かし、家畜の疾病に対応するマニュアルを整備し、対策に取り組んでいます。

⑥災害・紛争等による事業継続に関するリスク

 

国内外の事業拠点において、大規模な地震や風水害、干ばつ、戦争、紛争、テロの発生、または大規模な火災等が発生した場合、若しくは事業拠点に大きな被害が及ばずとも従業員の人命確保を最優先として活動を停止させた場合、製品の製造や商品の供給に支障をきたし、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、安全で安定した事業活動を維持するため、災害等に対する事業継続計画(BCP)を策定し、代替製造や配送の準備、及び定期的な防災訓練等を実施しています。

⑦国内外の公的・法的規制の変化、権利侵害に関するリスク

 

当社グループは、事業を展開する各国において、事業投資の許認可、国家安全保障またはその他の理由による輸出制限、関税や家畜の疾病等による輸出入規制の他、様々な規制の適用を受けています。

将来において、新たな法的規制等の制定や、権利侵害または被侵害の防止遅れや不能が発生した場合、その対応のための費用負担の増加および知的財産の喪失等により、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、関連法規の改正状況の迅速な把握及び遵守に万全の体制で臨んでいます。

⑧金融市場の変化に関するリスク

 

当社グループは、必要資金の一部を有利子負債で調達するとともに、原材料及び商品の一部を海外から調達しています。資金調達環境の悪化や金利負担額の増加、外国為替相場の大幅な変動による差損の発生等により、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、金利の変動リスクや調達の流動性低下リスクを軽減するため、コミットメントライン設定を行うなどの対策を講じています。また、為替相場の変動リスクを軽減するために、為替予約等でリスクヘッジをしています。

 

 

リスクの内容

対応

⑨事業投資・設備投資に関するリスク

 

当社グループでは持続的な事業成長のため、M&A及び老朽化対策を含む設備投資を継続的に実施していますが、投資判断時に想定しなかった、市場環境や経営環境の悪化により、保有する固定資産やのれんの投資額の回収が不能になった場合、減損処理が発生し、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、企業価値向上に資する重要な投資については、担当役員を委員長とする投融資委員会での慎重な審議を踏まえ、最終的に取締役会での決議を行っています。また、投資実行後も定期的に当初計画からの進捗状況の確認や乖離していた場合の検証を行っています。

⑩物流・流通に関するリスク

 

小売業の店舗拡大や、通信販売業態の普及による宅配物流の増加、労働人口減少に伴う運送ドライバーや荷役作業員の人手不足、働き方改革関連法における「時間外労働の上限規制」等の影響による輸送能力の不足、冷蔵や冷凍を要する食品・食材の輸入量増加による都市部での低温倉庫などのインフラの不足等により、適正なサプライチェーンが構築できなくなった場合、製品や商品を適時適切に供給できず、当社グループの事業活動に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、製品や商品を安全な状態で、迅速かつ安定的に店舗及び消費者に届けるという使命に基づき、受発注の精度向上や在庫管理の適正化、納品リードタイムの改善、積載効率の向上、定温輸送の厳格化等、サプライチェーンに必要な物流体制の構築に取り組んでいます。

⑪コンプライアンスに関するリスク

 

役職員による法令違反を含むコンプライアンス上の問題や職場における重大なハラスメント行為、労働基準関係法令違反が発生した場合、社会的信用の失墜や風評により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、コンプライアンス委員会委員長に担当役員を指名し、その推進体制を整備・強化しており、定期的なトップメッセージの発信、コンプライアンス推進委員に対する定期講習や役職員に対する継続的な職場研修の実施等、コンプライアンス最優先の意識向上・浸透に積極的に取り組んでいます。また、独立した内部監査部門による定期的な監査を実施しており、不正防止のための体制を整備しています。

⑫内部統制システムの整備・運用に関するリスク

 

内部統制システムが有効に機能しなかった場合、予期せぬ費用の増加や社会的信用失墜等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、内部統制システムに関する基本方針を定め、この基本方針に基づく内部統制システムの体制整備・運用状況を常に評価し、法令遵守及び業務の適正の確保に努めています。

⑬情報セキュリティに関するリスク

 

当社グループは、調達、製造、物流、販売、財務等あらゆる業務において情報システムを活用しており、地震その他の自然災害、サイバー攻撃、ハードウェア・ソフトウェア・遠隔通信の欠陥・障害、新種のコンピュータウイルス感染、システム開発の遅延・失敗、不正アクセス等により、情報の漏洩、消失、情報システムの不具合等が生じる可能性があります。

これらの事由が生じた場合、多額の費用発生及び企業イメージの低下や社会的信用の失墜等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、情報システムの運用について、コンピュータウイルスの感染防止等やセキュリティ対策の実施、また、基幹システム及びデータ保管サーバーの二重化と分散設置による管理体制の強化等、予期せぬ障害や損壊に備えた厳重な対策を講じています。

当社グループは、情報システムの運用について、コンピュータウイルスの感染防止等やセキュリティ対策の実施、また、基幹システム及びデータ保管サーバーの二重化と分散設置による管理体制の強化等、予期せぬ障害や損壊に備えた厳重な対策を講じています。

 

 

リスクの内容

対応

⑭人材の確保・育成に関するリスク

 

更なる少子高齢化による若年労働者の確保不足や雇用環境の変化による人材流出、また、優秀な人材育成の遅れ等が生じた場合、企業としての競争力低下や製品や商品の供給力不足に起因した信用失墜により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、人材は最も重要な資産であると捉え、従業員一人ひとりが持つ素質や能力を引き出し、最大限活かすことが組織の活力に繋がると認識し、多様な人材の採用、エンゲージメント向上に繋がる人事制度の整備や教育研修を推進しています。

⑮事故などの安全上リスク

 

当社グループでは、安全を最優先として、事故防止に努めていますが、万一事故が発生した場合は、社会的信用の失墜、受注機会の喪失、損害賠償等により業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、安全衛生管理規程を定め、職場における従業員の安全と健康の確保に努めています。

⑯レピュテーションリスクについて

 

ソーシャルネットワーキング(以下、SNS)は誤った使い方をするとお客様や取引先のみならず、会社に多大な損害を与えるリスクがあります。当社グループにおいても、従業員による不適切な表現や、不適切な書き込み等がSNSを通じて拡散した場合、また、当社製品やブランド、事業活動等について誤った投稿が拡散した場合、当社グループのブランドイメージや社会的信用の低下につながり、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、国内外におけるSNS等のモニタリングを行い、早期のリスク発見に努めており、事業及びブランドの活動に悪影響を及ぼすレピュテーションリスク事象が発生した場合は、迅速に対応すると同時に、必要に応じて、情報や企業姿勢を公表する等、当社グループの評判・信用の維持に努めています。

⑰環境・気候変動に関するリスク

 

事業活動に関して過失の有無に拘わらず、環境に関する法的、社会的責任を過去に遡及して負う可能性があります。また、将来環境に関する規制や社会的要求が強まることで、その対応のための人員や費用負担の増加や新たな環境税導入などにより、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、環境理念及び環境行動指針に則り、その関連法令の更新を適切に把握しこれを遵守するとともに、資源・エネルギーを有効に活用し、環境に配慮した事業活動を行っています。

また、担当役員を委員長とするサステナビリティ委員会を設置し、推進体制を強化、整備しています。

⑱人権に関するリスク

 

 

当社グループ及びサプライチェーンにおいて、労働環境・安全衛生の悪化、ハラスメントや差別などの人権を侵害する行為が発生した場合には、当社グループに対する社会的な信用低下を招き、当社グループの商品供給や販売体制に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、事業に関わるすべての人々の人権を尊重し、企業としての社会的責任を果たしていくために伊藤ハム米久グループ人権方針を定めています。人権への負の影響の特定とその防止、軽減を目的に人権デュー・デリジェンスの仕組みを構築し、プロセスを事業活動に組み込み、継続的に実施しています。

 

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は以下のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりであります。

 

a.財政状態

当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末に比べて25,807百万円増加し、462,570百万円となりました。これは主に、売掛金の増加によるものであります。
  負債は、前連結会計年度末に比べて9,743百万円増加し、177,244百万円となりました。これは主に、短期借入金及び買掛金の増加、並びに長期借入金の返済によるものであります。
  純資産は、前連結会計年度末に比べて16,064百万円増加し、285,326百万円となりました。これは主に、利益剰余金及び為替換算調整勘定の増加によるものであります。

 

b.経営成績

当連結会計年度の当社グループの経営成績につきましては、売上高は955,580百万円(前期比3.6%増)、営業利益は22,336百万円(同2.9%減)、経常利益は26,036百万円(同0.0%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は15,553百万円(同8.4%減)となりました。

 

報告セグメント別の業績の概況は、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分方法を変更しており、前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分方法に基づいて記載しております。

 

<加工食品事業>

当連結会計年度の加工食品事業につきましては、売上高は391,336百万円(前期比4.0%増)となりました。経常利益は9,051百万円(同76.7%増)となりました。

 

<食肉事業>

当連結会計年度の食肉事業につきましては、売上高は564,227百万円(前期比3.2%増)となりました。経常利益は18,131百万円(同17.7%減)となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の残高は、前連結会計年度末に比べて558百万円増加(前期は25,330百万円の減少)し、22,917百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動により資金は29,392百万円増加(前期は3,947百万円の増加)しました。主な増加要因は、税金等調整前当期純利益の計上及び仕入債務の増加であり、主な減少要因は、売上債権の増加によるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動により資金は16,014百万円減少(前期は22,926百万円の減少)しました。主な減少要因は、有形固定資産の取得による支出であります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動により資金は13,278百万円減少(前期は6,844百万円の減少)しました。主な減少要因は、長期借入金の返済及び配当金の支払であり、主な増加要因は短期借入金の増加であります。

 

 

③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分方法を変更しており、前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分方法に基づいて記載しております。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自  2023年4月1日

至  2024年3月31日)

前期比(%)

加工食品事業(百万円)

 221,158

103.7

食肉事業(百万円)

186,181

108.1

    報告セグメント計(百万円)

407,340

105.6

その他(百万円)

-

-

合計(百万円)

407,340

105.6

 

(注) 当社グループ製品の製造原価によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっております。

 

 b.受注実績

当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。

 

c.販売実績

当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より報告セグメントの区分方法を変更しており、前連結会計年度との比較・分析は変更後の区分方法に基づいて記載しております。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自  2023年4月1日

至  2024年3月31日)

前期比(%)

加工食品事業(百万円)

391,336

104.0

食肉事業(百万円)

564,227

103.2

    報告セグメント計(百万円)

955,564

103.6

その他(百万円)

15

116.9

合計(百万円)

955,580

103.6

 

(注) セグメント間の取引については、相殺消去しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

また、当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載していますが、特に次の重要な会計方針が、連結財務諸表作成における重要な見積りの判断に影響を及ぼすと考えております。

a.棚卸資産の評価

当社グループの棚卸資産には一定期間保存する販売用食肉在庫があり、保存期間中における需給バランスの変化等の外部環境の影響により、その売価は畜産物相場の変動リスクにさらされております。

販売用食肉の貸借対照表価額は収益性の低下に基づく簿価切下げの方法により算定しており、連結会計年度末における正味売却価額が取得原価を下回る場合には、当該正味売却価額をもって貸借対照表価額としております。この正味売却価額は、見積売価から見積販売直接経費を控除して算定しております。
 過去の販売実績及び将来の販売見込み等に基づき見積売価を予測しておりますが、その予測には不確実性を伴うため、実際の販売価格との乖離が発生した場合は翌期の損益に重要な影響を及ぼす可能性があります。

b.退職給付に係る負債及び退職給付に係る資産

退職給付に係る負債及び退職給付に係る資産は、数理計算上で設定される前提条件に基づき算出されております。これらの前提条件には、割引率、発生した給付額、利息費用、年金資産の長期期待運用収益率、死亡率などの要素が含まれております。実際の結果がこれらの前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、その影響は累積され、将来の会計期間にわたって償却されるため、将来の退職給付費用に影響を及ぼす可能性があります。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

○国内経済の状況

雇用環境の改善や個人消費の一部持ち直しの動きに伴い、景気は緩やかな回復基調となりました。その一方で、不安定な国際情勢を背景とした資源価格の変動や金融・為替市場の動向が国内経済や物価に影響を及ぼす状況が続いています。

 

○当業界の状況(食肉加工業)

原材料価格や物流費の上昇に加え、光熱費や包材費の高止まりが続く中、円安進行の影響も受ける厳しい経営環境が続きました。また、社会経済活動の正常化により消費者の購買意欲は一時的に上向いたものの、生活コスト全般の上昇に対する節約志向が徐々に高まり、消費マインドに停滞感が出てきています。このような状況の下、消費行動の変化やデジタル化の加速、サステナビリティに対する関心の高まりなど、急速に変化し多様化する消費者ニーズや価値観への対応が引き続き求められています。

 

a.経営成績

◇連結経営成績                         (%表示は、対前期増減率)

売上高

営業利益

経常利益

親会社株主に帰属する

当期純利益

百万円

百万円

百万円

百万円

955,580

3.6

22,336

△2.9

26,036

△0.0

15,553

△8.4

 

 

「中期経営計画2023」の取組施策

経営基盤の強化:戦略単位での組織再編の実行、デジタル戦略の推進

収益基盤の強化:生産及び物流拠点再編の推進、和牛輸出の強化

新規事業・市場への取り組み:冷凍食品の強化、プラントベースフード商品の定着、ヘルスケア事業の強化

  サステナビリティへの取り組み:温室効果ガス排出削減、人権デュー・ディリジェンスの実施、

    アニマルウェルフェアへの配慮

 

◇報告セグメント別の経営成績       (%表示は、対前期増減率)

 

売上高

経常利益

 

百万円

百万円

加工食品事業

391,336

4.0

9,051

76.7

食肉事業

564,227

3.2

18,131

△17.7

 

 

<加工食品事業>

・ハム・ソーセージは、テレビコマーシャルの投入や消費者キャンペーンの実施により、「The GRAND アルトバイエルン」「朝のフレッシュシリーズ」「御殿場高原あらびきポーク」等、家庭用主力商品の拡販に努めたことに加え、外食向けの業務用商品の販売が伸長したことから、売上高は増加しました。

・調理加工食品は、「ラ・ピッツァ」「ピザガーデン」などのピザ類や「サラダチキン」、大豆ミートを使用した「まるでお肉!シリーズ」等、消費者ニーズの多様化に対応した商品の拡販に努めたことに加え、外食向けの業務用商品の販売が伸長したことから、売上高は増加しました。

・原材料価格や物流費の上昇が続く厳しい状況においても、商品価格改定による効果に加え、コスト削減等の取り組みを進めたことにより、加工食品事業全体の売上高、経常利益ともに増加しました。

 

<食肉事業>

・国内事業は、国内生産施設の増強や外食需要の回復等により販売数量が伸長したことから、売上高は増加しました。利益は、配合飼料価格の高止まりや保管料を含めた物流コストの上昇による影響を受けたものの、輸入牛肉や輸入鶏肉を中心に製販連動した収益管理を徹底した結果、増益となりました。

・海外事業は、前年の世界的な牛肉需要の高まりが一段落した状況の中、アンズコフーズ社において牛肉の販売価格が下落したこと等により、売上高、経常利益ともに減少しました。

・食肉事業全体の売上高は増加しましたが、経常利益は海外事業の減益の影響を受けて減少しました。

 

◇今後の見通し

・国内経済は、コロナ禍からの脱却が進んで足元では堅調に推移していますが、原油高等に起因したコスト上昇、金利差に基づく為替の変動、地政学リスクの高まり等、景気の先行きは引き続き不透明な状況が続くと思われます。

・当業界においても、原材料価格やユーティリティコストの高止まりが見込まれ、引き続き厳しい経営環境になるものと思われます。

・当社は、グループ理念とビジョンに向けて2035年に目指す姿を定め、ここからバックキャストし、長期経営戦略2035を策定、その上位方針に基づき、中期経営計画2026に落とし込みました。

・次期の連結業績は、売上高9,700億円、営業利益250億円、経常利益265億円、親会社株主に帰属する当期純利益160億円を見込んでいます。

 

b.経営成績に重要な影響を与える要因について

経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

c.資本の財源及び資金の流動性についての分析

キャッシュ・フローの状況につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

海外子会社及び一部の国内子会社を除く当社グループではキャッシュ・マネジメント・システムを導入し、グループ資金の有効活用を実現しております。

2024年度における運転資金及び設備投資資金の調達は自己資金及び借入金による調達を予定しております。

また、キャッシュ・フローの指標は、以下のとおりであります。

 

前連結会計年度

当連結会計年度

自己資本比率(%)
(注)1

61.5

61.5

時価ベースの自己資本比率(%)
(注)2

45.6

49.2

キャッシュ・フロー対有利子負債比率(年)
(注)3

11.6

1.5

インタレスト・カバレッジ・レシオ(倍)
(注)4

4.9

16.2

 

(注) 1.自己資本比率:自己資本/総資産

2.時価ベースの自己資本比率:株式時価総額/総資産

3.キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/キャッシュ・フロー

4.インタレスト・カバレッジ・レシオ:キャッシュ・フロー/利払い

  *各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しております。

  *株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しております。

  *キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。

  *有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としております。

 *利払いは、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1)経営管理業務委託契約

当社は2016年4月1日付で、共に連結子会社である伊藤ハム株式会社及び米久株式会社との間で同社に対する経営管理業務に関し、それぞれ「経営管理業務委託契約」を締結しております。なお、2023年4月1日付で両社とも契約を一部見直し、改定しております。

また、2023年4月1日付で、連結子会社である伊藤ハム販売株式会社他23社との間で各社に対する経営管理業務に関し、それぞれ「経営管理業務委託契約」を締結しております。

(2)グループ再編に伴う吸収分割契約

当社は2022年8月18日開催の取締役会において、当社及び連結子会社である伊藤ハム株式会社、米久株式会社他4社に係る吸収分割契約を決議し、同日付で吸収分割契約(効力発生:2023年4月1日)を締結致しました。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループの研究開発につきましては、基礎研究を当社の中央研究所が中心に行い、商品開発を加工食品事業本部の商品開発部が中心となり、マーケティング部門と連携をとりながら新商品の企画立案、商品化を推進しております。

まず基礎研究活動の分野では、中央研究所においてグループの技術基盤強化を担い、基礎的研究、及び技術開発を通して、商品の改良や製造技術の高度化に繋げるテーマに取り組む一方、蓄積した研究成果、分析技術、品質評価技術等を活用してグループ各社の課題解決をサポートしています。研究を通じた新たな価値創出と、社内ニーズへの対応を果たす事を両輪として、グループへの貢献を果たすべく取り組んでまいりました。

当期におきましては、前期に引き続き下記に掲げる3つの視点を堅持しこれらに寄与するテーマを選定して取り組みを進めました。

「品質保持技術の高度化」

微生物制御に重点を置いた取り組みを行いました。食品変敗の原因菌を特定し汚染原を迅速に特定するための質量分析計を利用した微生物同定法の検討、および微生物検査における「培養法」の課題である迅速化を実現するため、最近のDNAを増幅して菌数を算出する新規PCR法を用いた細菌検査手法の確立や日持ち向上剤の食品中での効果を近似できる簡易評価手法の開発に取り組んでいます。

「おいしさ・品質向上の追求」

製品のおいしさを客観的に評価するための新たな分析指標の構築およびそれに基づく分析手法の開発に取り組んでおり、主に近赤外分析装置を利用した栄養成分や食品添加物等の簡易分析法の開発を進めています。

「新ニーズをとらえた基礎技術の開発」

未利用の畜産副産物の有効利用に関する研究を進めています。具体的には畜産副産物より機能性を有する成分を抽出して機能性素材として利用するための製造法の検討を行い、将来的にはこれら機能性素材を配合した機能性表示食品の上市を目指しています。また、将来的な動物性タンパク質の安定供給を実現するため、和牛肉由来の細胞を用いた培養肉作成技術の開発にも取り組んでいます。本研究は大阪大学等と「培養肉社会実装共同研究講座」を大阪大学大学院工学研究科内に開設し、また、ここに他の複数の企業を加えて「培養肉未来創造コンソーシアム」を設立し、各社が役割を分担しながら培養肉の社会実装に向けて協業を進めています。その他には電子レンジ調理時の加熱ムラの解明・防止を目的とする加熱シミュレーションモデルの構築、食肉製品の色調安定性向上に関する研究、フードテックを利用した新たな食肉/食肉様製品の製造方法に関する検討、LC-QTOF-MSを用いたアレルゲン物質検出の新規プロトコルの確立等々、新技術創出に向けた基礎的研究を中心に取り組んでいます。

次に商品開発の分野では、2023年度の基本方針として

「お客様を満足させる製品づくり」

「利益を生み出す製品づくり」

「信頼感を獲得する製品づくり」 を掲げて取り組んできました。

組織構成としては、第1商品開発室(「伊藤ハム」ブランド自工場生産品)、第2商品開発室(「米久」ブランド自工場生産品)、第3商品開発室(社外生産品)の3部署体制とし、各室に求められる開発力を効率的に発揮できる拠点へと配置し、新しい価値を創出するモノづくり、既存の収益改善のための施策、新しい技術の検討等スピード感をもって業務を推進しています。

なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は、1,648百万円であります。