当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、「Expand our planet. Expand our future.」をビジョンとし、地球と月が1つのエコシステムとなる世界を築くことにより、月に新たな経済圏を創出することを目的としています。この実現に向け、史上初の民間月面探査へ向け研究・開発を推進する企業として、持続的な成長と企業価値の最大化を目指すことを基本方針としております。
(2)経営戦略等
1.品質向上サイクルの実現
当社グループは現在、2024年から2027年にかけてそれぞれ計画している月着陸のミッション(ミッション2、ミッション3及びミッション6)に向けて、ローバー及びランダーの開発を進めておりますが、過去の国主導の宇宙ミッションでは実現が困難であった、民間企業ならではの品質向上サイクルを回すことを企図しています。
既存の宇宙開発の課題の1つに、コストの高さ及びそれに起因する実証機会の少なさが挙げられます。過去の宇宙ミッションの多くが国主導のミッションですが、民間企業と比較して失敗に対する許容度を相対的に低く設定せざるを得ないことから、より慎重かつ複雑な開発プロセスと、より重層的な実証試験等を行わざるを得ず、開発コストが大規模かつ開発期間が長期化する傾向があります。
一般的に、技術的な品質を向上させ成功率を高めるためには、リスク・コントロールが可能な範囲での技術的失敗と改善を繰り返す、言わば健全な反復プロセスが必要不可欠とされています。しかしこれまでの宇宙ミッションでは、高額な開発コストはそのまま実証機会の少なさにつながり、結果的に宇宙開発におけるプロダクトの品質向上サイクルを回すことに限界が生じていたと考えられます。
当社グループは提供するプロダクトをロボティックスによる無人かつ小型で軽量化されたモデルに設定し、また必要とされる部材についても、近年その品質が急速に向上しているCOTS品から十分に宇宙品質に耐えられるものを選定し、柔軟に調達することを基本としています。また国主導のミッションと比較して、失敗に対する許容度を相対的に高く設定することが可能な民間企業としての特性を活かし、実用性が高く迅速な開発プロセスを設計し、結果的に既存の宇宙機器開発と比較して大幅な開発コストの低減が可能となっています。これにより実証機会を増加させ、将来的に反復ミッションと十分な研究開発による品質向上を実現し、更には量産による品質安定化を図ることを計画しております。
当社は、初の実証ミッションとなる2022年のミッション1及び2024年予定のミッション2を、技術実証ミッションとして位置づけています。前述のとおり、経験を十分に有するエンジニア陣による「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」に万全を期すことで、確かな開発品質を実現させていく計画ですが、失敗が一切存在しないミッションを保証するものではありません。当社としては、リスク・コントロール可能な範囲での失敗については、仮に発生した場合にも企業として許容可能な十分な手当を準備しています。実際に、ミッション1で獲得されたミッションデータは、着陸失敗の要因分析に関するデータまでを含めて、ミッション2以降の後続ミッションへと活用される予定であり、当社はそのために、後続するミッション2、ミッション3及びミッション6の開発も並行して進捗させております。ミッションを高頻度に実施し、技術的な経験値を継続して蓄積させていくことが、当社の技術的リスクを低減させ、持続安定的な事業運営を達成する上での重要な鍵となります。
2.ミッションリスクに備えた手当
当社グループが行う月着陸ミッションには、宇宙開発における一定の不確定要素が存在すること、特にミッション1及びミッション2においては当社の実証段階であることも踏まえれば、一定のミッションリスクが存在しますが、これに備えた十分な手当を行うことを戦略としております。
当社は、ミッション1を含めた複数ミッションについて、SpaceX社のファルコン9ロケットにランダーを搭載し打上げを行う予定です。ファルコン9はSpaceX社により開発された中型ロケットであり、打上価格が機当たり67百万米ドル/1回(本書提出日時点における公表値(https://www.spacex.com/media/Capabilities&Services.pdf))と同規模の他社ロケットと比較し安価であり、市場において大きなシェアを獲得しております。打上契約後は、仮に何か問題が発生しミッション継続に支障が起きた場合にも、SpaceX社は打上代金の返金をせず、打上業者と顧客である当社の双方がお互いに損害賠償請求権を放棄して、自損自弁にしておくことが業界慣行となっています。当社は、累計で350回超の打上げを行い、過去の打上げの成功確率としても約99%と極めて信頼性の高い実績を持つSpaceX社のファルコン9を選定しておりますが、仮に問題が発生した事態における財務的リスクを軽減するために、第三者の損害保険会社との間ですべてのミッションについて月保険を締結する予定であり、ミッション1については、三井住友海上火災保険株式会社との間で損害保険契約を締結しておりました。当該保険はロケットが打ち上げられてからランダーが月面に着陸し、通信の機能が正常に作動して地球とランダーとの間でデータ送受信が行われるまでを保険責任期間としており、実際にミッション1の月面着陸未完に伴い約38億円の保険金を受領しております。ミッション2についても月保険を締結する予定ですが、本書提出日現在においては未締結となります。
同様に、当社と当社の顧客との間においても、SpaceX社と当社との間と同様の仕組みを踏襲し、当社と顧客の双方がお互いに損害賠償請求権を放棄して自損自弁とする契約体系を基本としております。また、当社が手掛ける①ペイロードサービス、②データサービス及び③パートナーシップサービスでは、基本的にロケット打上げに先立つ1~2年前に本契約をし、以降、ロケット打上げまでの間に、ほぼ全額の金銭的対価を顧客から受領することを基本としていますが、仮に契約後に問題が発生しミッション継続に支障が起きた場合にも、当社側に契約不履行に繋がる程の重大な瑕疵(マテリアル・ブリーチ)が生じない限り、原則として当社から顧客への返金が生じない契約体系となり、複数のペイロード顧客との間で、既に上記趣旨の内容で最終契約を締結しております。将来的には、より多くの顧客に安心して当社のサービスを利用してもらい、産業を活性化させる上では、損害保険等の商品により顧客の財務的リスクを軽減させる仕組みが不可欠と考えており、月面輸送サービスにおける損害保険商品の将来的な導入を見据え、現在第三者の損害保険会社との間で検討を進めております。
3.継続的なミッション資金の十分な確保
先に記載のとおり、宇宙開発における技術の品質向上サイクルを実現させることは民間企業ならではの利点と言え、当社は、常に単発ではなく同時並行で継続的なミッションの準備を進めておくことで、リスク・コントロールが可能な範囲での技術的失敗を、タイムリーに次のミッションの改善へと反映させることを実現させます。
当社は足許、2024年に計画するミッション2、2026年に計画するサイズアップされたAPEX 1.0ランダーでのミッション3、並びに2027年に計画するシリーズⅢランダー(仮称)の開発にも人的・財務的なリソースを配分しております。ランダー及びローバーの開発には一般的に高額の開発費用を要すること、また継続的に打上業者との間で高額な打上契約に関する合意を形成していかねばならないこと、そして複数ミッションの検討を同時並行して実施可能な十分の開発エンジニアを確保することから、当社は常に比較的大規模な財務的原資を手当する必要があり、継続的な資金調達の実施が持続的な事業運営上不可欠です。
当社は2014年の無担保転換社債型新株予約権付社債の発行(シード投資)、2017年から2018年(シリーズA)、2020年(シリーズB)及び2021年(シリーズC)の三度の第三者割当増資に加え、2023年及び2024年の公募増資により累計で約344.7億円の資金調達を実施しております。その他にも2021年5月に実施した金融機関からの総額19.5億円の借入、2022年7月に実施したシンジケートローン契約による50億円の調達、2023年度には複数行から計75億円の借入を実行しております。今後も積極的に、グローバルな資本市場へアクセスし、十分な財務的資金バッファを確保することで、宇宙開発における技術の品質向上サイクルを実現していく計画です。
4.政府宇宙機関及び民間企業の双方の顧客ターゲティング
足許の当社の売上は、グローバルな顧客ニーズの高まりを背景に、顧客からのペイロードを輸送するペイロードサービスの売上が重要な割合を占めております。
当社は、2019年12月にアラブ首長国連邦(UAE)のドバイの政府宇宙機関であるMBRSCより、ミッション1において10kgのペイロード(月面探査ローバー)を運ぶ大型受注を獲得し、2021年に本契約を締結致しました。MBRSCの前身となる機関は2006年に設立され、以降、2009年のDubaiSat-1、2013年のDubaiSat-2等、複数の衛星プロジェクトを打上げた実績を持つ、中東を代表する先進的宇宙機関の1つです。2020年7月には、UAE建国50周年を迎える2021年に中東初となる無人探査機の火星到着を目指す火星探査ミッションにおいて、MBRSCは火星探査機「HOPE」の設計と技術面の取りまとめを行い、三菱重工のロケットH-IIAによる打上げを成功させています。
この他の宇宙機関との間では、カナダ宇宙庁が推進するプログラムであるLEAPに採択されたカナダの民間企業であるMCSSとの間で人工知能のフライトコンピューターのペイロードサービス、Canadensysとの間でカメラのペイロードサービス、NGCとの間でデータサービスを提供する契約を締結しております。また、JAXAとの間では変形型月面ロボットのペイロードを月面へ輸送することで合意し、2021年4月に本契約を締結しております。
また、当社子会社であるispace technologies U.S., inc.は、主契約者であるドレイパー研究所等で構成されるドレイパーチームの一員として、2022年7月においてNASAのCLPSのタスクオーダーCP-12のサービスプロバイダーの1社に選ばれており、当該タスクオーダーの総額は73百万米ドルとなります。これに関して、当社子会社であるispace technologies U.S., inc.は、ドレイパー研究所との間で、ランダーの製造やペイロードサービスを実施するための請負契約を締結し、当該契約に基づき、ミッション3において、2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、月震計(FSS)、地下の熱流探査機(LITMS)、及び電磁場測定器(LuSEE)といった一連の科学実験機器を含むペイロードを月の裏側に存在する南極付近に輸送する予定です。これらの2機のリレー衛星はBlue Canyon Technologies Inc.が製造し、Advanced Space, LLC が運用をサポートする予定で、これらの衛星を活用して月震データを最大1年間にわたり収集する予定です。
当社子会社とドレイパー研究所の間の上記請負契約の契約金額は約5,450万米ドルとなっておりますが、支払は一定のマイルストーンの達成を条件とした分割払いとなっており、打上日(2027年3月期中を現時点で想定)までに総額の10%を除いた金額が支払われ、残り10%相当額については月面着陸及びペイロードからのデータの受信時に支払われる予定です。また、NASAの要請によりドレイパー研究所がミッション期間を延長した場合には、2機のリレーの衛星につき最大で280万米ドルの支払いを追加で受領できる可能性があります。ただし、当社子会社は、ドレイパー研究所との契約上、自らの契約不履行又は履行遅滞に起因して発生した損害についてドレイパー研究所に対して損害賠償義務を負う可能性があり、また、当社起因の理由によりタスクオーダーCP-12の費用が増加した場合には、当該増加費用分をドレイパー研究所に対して当社が負担することになる可能性があることから、最終的な受取金額は減少する可能性もあります。
民間企業との間では、ミッション1のペイロードとして、日本特殊陶業株式会社との間で固体電池を月面へ輸送する契約を獲得しており、既に本契約を締結の上、全額の入金も完了しております。また、ミッション2顧客として、高砂熱学工業株式会社との間で月面用水電解装置、台湾中央大学との間で深宇宙放射線プローブ、株式会社ユーグレナとの間で微細藻類培養装置のペイロードサービス契約を締結しております。ミッション3顧客として、Rhea Space Activity社、Control Data Systems SRL社とペイロードサービス契約を締結しております。
また、当社は世界各国の民間企業・宇宙機関・研究機関との間で、MOU(Memorandum of Understanding)やinterim Payload Service Agreement(ペイロードサービス中間契約。以下、「i-PSA」という。)を締結しております(以下、MOUとi-PSAを総称して「MOU等」という。)。当該MOU等は基本的にミッション3以降における将来的なペイロードサービス、データサービスについて共同検討や共同開発を進める内容であり、今後も多くの民間企業・宇宙機関・研究機関とMOU等の締結を拡大させる予定です。民間企業とのMOU等締結の背景は様々ですが、直近では特に、月面における水資源を活用したバリューチェーンに含まれる事業と関係する企業との強固な関係を築いております。
例えば、バリューチェーンのエンド・ユーザーとなるトヨタ自動車株式会社との間では、日米両政府による「Lunar Surface Exploration Implementing Arrangement」にて日本からの提供が決まった「有人与圧ローバー」に関連する地上試験、月面環境での技術実証に関する協議を進めております。また、ミッション3以降の顧客として、Helios Project, Ltd.との間で最大5kgのレゴリス融解酸素生成装置、株式会社アークエッジ・スペースとの間で15kgの衛星機器、レスター大学との間で水資源探査機器のi-PSAを締結しております。本書提出日現在、世界各国の民間企業との間でミッション3以降を対象とした総額313百万米ドルのMOU等を締結しております。
上記のMOU等には法的拘束力が認められず、受注及び当社の売上計上に繋がるかは不確実ではあるものの、当社は今後も民間企業各社とのMOU締結を進めてより多くの顧客と間で強固な関係を築く予定であり、将来的な民間企業からのペイロードサービスの受注につなげることを見込んでおります。
5.中長期的な売上拡大及び収益性の改善
当社は、技術が一定程度確立され、安定的な月面輸送が可能となると想定されるミッション4以降、平均して年2回から3回のミッションを実施することを計画しております。またミッション3以降は、顧客のペイロード需要が大型化する傾向が予想されることから、最大300-500kgまでのペイロード輸送を可能とするデザインのAPEX1.0ランダーを開発中です。実際の顧客への販売重量は、デザイン上の重量から開発における不確実性や販売充足率を加味した歩留まり率をもとに販売重量を想定しており、ミッションを重ねるごとに開発マージンの効率化、販売充足率の向上により、顧客への販売重量を順次拡大させていくことを目指します。
表1:ミッションスケジュール及び想定販売重量
ミッション |
打上げ (予定)時期 |
販売可能 重量(kg) |
|
ミッション |
打上げ 予定時期 |
販売可能 重量(kg) |
1 |
2022年12月 |
約12 |
|
6 |
2027年 |
約208 |
2 |
2024年Q4 |
約11 |
|
7 |
2028年 |
約151 |
3 |
2026年 |
約145 |
|
8 |
2028年 |
約160 |
4 |
2027年 |
約150 |
|
9 |
2028年 |
約160 |
5 |
2027年 |
約137 |
|
10 |
2029年 |
約168 |
※上記は本書提出日時点の想定であり今後変更となる可能性があります。このようにミッション3以降は当社の収益源となるペイロードサイズが増大し、更に将来的にミッションが高頻度かつ同時並行的に実施される予定であることから、ペイロードサービスからの売上を一層拡大させることを目指します。また、売上の拡大を図ると同時にコスト削減を実施することで収益性の向上を実現するよう計画しており、そのための施策としてCOTS品の利用、大量購入によるスケールメリットの享受、開発人員の習熟化による人件費削減、ノウハウ蓄積による試験工程の効率化の実施を目指します。
また中長期的には、複数のミッションから収集されたデータの蓄積を元に、データサービスからの売上も徐々に拡大することを想定しています。データサービスの提供の方法としては、(1)データの取得前から取得するためのペイロード機器の開発から当社が検討に加わり、データ取得のために必要なペイロードの輸送コストまで含めて顧客へ課金するケースと、(2)既に当社で保有する取得済みの顧客の需要に応じた付加価値の高いデータセットへ加工し、データ販売のみ提供するケースが存在します。2020年代前半において高頻度輸送を確立することで他社に先行してデータの収集、解析、高付加価値化を実施し、2020年代後半に向けてデータプラットフォームを活用した高収益なデータビジネスモデルの構築を目指します。
(3)経営環境
当社グループの事業が属する経営環境は次のような特徴があります。
当社グループが属する宇宙資源開発の分野では、2023年8月にインド宇宙研究機関の「チャンドラヤーン3号」が月面着陸、2024年1月にはJAXAの「SLIM」が月面へのピンポイント着陸に成功する等、世界各国で政府主導による宇宙探査活動が活発化しています。
一方、近年ではテクノロジーの進化とCOTS品の拡大、ソフトウェア技術の進化を背景に、これまでは政府主導の宇宙機関に限定されてきた宇宙事業の門戸が民間企業へ開かれてきております。NASAを筆頭とする各国の宇宙機関では、地球低軌道における活動等に関する宇宙関連予算の大幅な節約につなげるべく、宇宙開発に民間企業を活用する傾向が拡大しており、サービスを提供可能な民間企業に対して政府が発注する「サービス調達」の形態による宇宙探査活動も活発化しております。
特に米国ではその傾向が顕著であり、一例として、NASAは2008年より商業補給サービス(Commercial Resupply Services:CRS)計画を発表しており、国際宇宙ステーション(International Space Station、(以下、「ISS」という。)への輸送を民間企業に委託しています。実際に2011年には高コストであったNASA自身によるスペースシャトルの開発と運用が停止され、その後、SpaceX社やオービタル・サイエンシズ社等、民間によるロケットの打上げと宇宙船のISSへのドッキングが成功しており、直近では2020年6月にSpaceX社のロケットから切り離された宇宙船「クルー・ドラゴン」が、民間企業としては史上初となるISSへのドッキングを成功させたことは世間の記憶にも新しいところです。
日本政府もまた民間による宇宙開発を推進していく考えであり、日本政府が主導する「中小企業イノベーション創出推進事業」では宇宙分野にも補助金の配分がなされ、そのなかで当社は「月面ランダーの開発・運用実証」と提示された経済産業省の実施するテーマに選定され、予算額(補助上限)120億円の補助対象事業として採択されました。中小企業イノベーション創出推進事業は、日本のイノベーション創出を促進するためのSBIR(Small Business Innovation Research)制度の下、革新的な研究開発を行うスタートアップ等が社会実装に繋げるための大規模技術実証を実施し、日本におけるスタートアップ等の有する先端技術の社会実装の促進を図ることを目的とするものです。また2023年11月には、民間企業・大学等による複数年度にわたる宇宙分野の先端技術開発や技術実証、商業化を支援するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に10年間の「宇宙戦略基金」を設置し、総額1兆円規模の支援を行うことを目指すことが閣議決定されました。
宇宙市場全体の成長可能性については、2040年代にはその市場規模はグローバルで1兆米ドル以上に成長するとの予測がありますが(*)、宇宙産業の中でも特に月は、前述のとおりその存在が見込まれている水資源をエネルギーとして利用する経済価値が高く着目されており、世界各国が月面へのミッションを実行しております。
2019年初頭には中国の無人探査機「嫦娥4号(じょうが4号)」が世界で初めて月の裏側へ着陸し、また米国ではバイデン政権下で、昨年度対比で約15億米ドルもの増額となる248億米ドル相当の2022年度NASA予算が議会に申請され、1970年代のアポロ計画以降初となる月面の有人探査を2024年までに実施する「アルテミス計画」が推進されています。2020年10月以降本アルテミス計画の一環として、月面における平和的・友好的かつ透明性ある活動のガイドラインとなる「Artemis Accords(アルテミス合意)」に日本と米国を含む世界39カ国(2024年4月時点)が合意・署名する等、引き続き活発な進捗が見られております。
日本もまたJAXAがSLIM(Smart Lander for Investigating Moon)プロジェクトにより、将来の月惑星探査に必要な高精度着陸技術を小型探査機で実証しています。また、欧州宇宙機関のESAは、3Dプリンティング技術を活用して月面土壌から基地を製造し宇宙飛行士による深宇宙探査の拠点とすることを想定した、Moon Village構想を検討しています。
また昨今、NASAは、民間企業に対して今後10年間で総額26億米ドルの予算を投じ、月面への輸送サービス委託するCLPSプログラムを開始しております。当社子会社であるispace technologies U.S., inc.は米国のドレイパー研究所を中心とするチームに所属し、同チームで応募したCLPSに関する初期提案書は、2018年11月にNASAにより採択され、ispace technologies U.S., inc.は同プログラムにてNASAから受注する資格を有するチームの1社として選定されました。その後2022年7月において、同チームの提案がNASAに採択されており、ミッション3において、2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、月震計(FSS)、地下の熱流探査機(LITMS)及び電磁場測定器(LuSEE)といった一連の科学実験機器を含むペイロードを月の裏側に存在する南極付近に輸送する予定です。これらの2機のリレー衛星はBlue Canyon Technologies Inc.が製造し、Advanced Space, LLC が運用をサポートする予定で、これらの衛星を活用して月震データを最大1年間にわたり収集する予定です。
更には、宇宙機関による月面開発の本格化の動きを受け、月面でのエネルギー経済圏が創出されることを見据えた民間企業による新しいビジネスも生まれつつあります。トヨタ自動車株式会社は、水素を燃料とし、月面で1万キロ以上の走行が可能な有人与圧ローバー(ルナ・クルーザー)をJAXAと共同で開発し、早ければ2032年に月に打ち上げることを目指しています。清水建設株式会社は、月面拠点の開発に向けた構想や、月面での大規模太陽光発電により生まれたエネルギーを地球上にまで伝送するLunar Ring構想を掲げています。
加えて、2023年1月には、岸田文雄内閣総理大臣がNASAを訪問し、日米両国が平和的目的のための宇宙協力を行う際の基本事項を定めた「日・米宇宙協力に関する枠組協定」を締結しました。さらに2024年4月には、日本の月面与圧ローバー提供及び運用と米国によるアルテミス計画での日本人宇宙飛行士による2回の月面着陸の機会提供などを含む「Lunar Surface Exploration Implementing Arrangement」への署名に関する共同声明が日米両政府により発表されるなど、月面開発への具体的な政府の取り組みが大きく進捗しております。
PwC社の調査に基づくと、当社がターゲットとする市場が大きく拡大することが予想されております。各地域の市場トレンドや観測可能な調査に基づくボトムアップ分析の楽観的シナリオにおいては、月面輸送サービス事業の市場は2040年に84億米ドル(注)、月面データ取得・販売事業の市場は12億米ドル(注)に達するとされており、それぞれの2020年から2040年の期間においての年平均成長率は12%/22%と高い成長が予測されております。また、当社のビジョンである「2040年以降に月に1,000人が居住」することと同様の前提を置いた場合のロードマップ分析による同社の調査データによると、月面輸送市場は年間約1,502億米ドル(注)まで達すると推定されております。
(注)2036~2040年の累計値の年平均値
(*) 出所:総務省 宙を拓くタスクフォース(第6回)平成31年3月1日開催。NTTデータ経営研究所作成の「長期的な宇宙ビジネス市場規模の試算」
(4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループがステークホルダーから主に期待されている点は、計画から遅延しない研究開発活動による技術確立とミッションの実行、顧客からの事業収益の獲得、事業運営のために必要な原資の適時な調達、及び限られた資金の最大限に効率的な使用等を通じて、収益の最大化を図ることと認識しております。
技術確立の実現のため、今後複数ミッションの同時開発を実施し、後続ミッションへの技術フィードバックを適時に実施してまいりますが、複数ミッションを同時並行で進捗させるために、事業収益の獲得や資金調達を通じた財務基盤の確立が重要となります。
より直接的に開発の進捗を確認する上では、当社が開示するミッションごとの開発スケジュール及び、1つの開発フェーズが完了し、次のフェーズへ移行する上でマイルストーンとなる審査の完了報告が重要となります。
当社は2017年よりミッション1のランダー開発を開始しており、以降、途中でミッション内容の変更を行った影響により開発期間の長期化等も発生しましたが、2022年10月までに製造、最終試験まで完了し、2022年12月11日にミッション1の打上げを実施しました。「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」では、各フェーズで行われるべき作業プロセスが完了すると、それぞれのフェーズにおける結果を評価し、次フェーズへの移行可否を判断する技術審査を行いますが、ミッション1の開発プロセスにおいても以下のとおりの審査を経ております。
表2:ランダー開発フェーズの概観(ミッション1のケース)
フェーズ |
フェーズA |
➡ |
フェーズB |
➡ |
― |
➡ |
フェーズC |
➡ |
フェーズD |
|
技術 審査 |
SRR System Requirement Review |
PDR Preliminary Design Review |
⊿SRR・⊿PDR Delta SRR ・Delta PDR |
CDR Critical Design Review |
PSR Pre-Shipment Review |
LRR Launch Readiness Review |
||||
目的 |
ビジネス要件とシステム要件の整合性を確認の上、システム設計開始を承認する審査会 |
仕様値に対する設計結果、設計検証計画の実現性を確認する審査会 |
― |
製造と試験の詳細設計と検証計画が適正かを、これまでに実施した試作評価、熱構造特性の評価、電気機械設計等の評価を活用して確認する審査会 |
試験結果の確認及び、打上場への輸送承認を行う審査会 |
ロケットへのインテグレーション作業終了の確認及び、打上げと初期運用への移行承認を行う審査会 |
||||
当社の ケース |
2017年下期に実施。外部専門家がオブザーバーとして参加。MDR及びSDRを包含して実施 |
2018年下期に実施。グローバルに約30名の外部専門家が審査に参加 |
ランダー開発を月周回から月面着陸へと変更する上で必要な変更を審議するため、SRR(2019年8月)及び⊿PDR(2019年11月)を実施 |
2020年9月以降、外部専門家も交えて実施、2021年2月に最終完了 |
2022年10月に実施 |
2022年11月に実施 |
上記審査過程の中でも、特にPDRとCDRを特に重要なマイルストーンであると認識をしております。ミッション2の開発プロセスにおいては、2022年7月にPDRを、2023年1月にCDRを完了しており、ミッション3の開発プロセスにおいては、2023年9月にPDRが完了し、現在CDRを実施中となります。
また、顧客からの事業収益の観点では、ペイロードサービス契約及びデータサービス契約に加え、MOU及びi-PSAの締結総額が収益の先行指標として重要となります。2024年3月末現在、ミッション1の総契約金額(ペイロードサービス契約及びデータサービス契約)は約10百万米ドルであり、ミッション2の総契約金額(すべてペイロードサービス契約)は約16百万米ドルであり、ミッション3以降の総契約金額は約55.6百万米ドルになります。また、本書提出日現在ペイロードサービスに係るMOU及びi-PSAの締結総額は約313百万米ドルとなります。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
宇宙関連ビジネスはグローバル・ベースで、継続的かつ加速度的に拡大していくものと見込まれており、この産業の潮流に対応するために必要な技術確立が急がれる状況です。足許、当社グループは、多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する宇宙関連機器の開発に従事していることから、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、これらの状況から、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象又は状況が存在しております。当該事象又は状況を解消し、安定的な事業収益が創出されるまでの間、下記を重要な課題として取り組んでおります。
ただし、当該重要事象等を解決するための対応策を実施していること、また、債務超過の解消のための自己資本の充実を目的とした機動的な資金調達の可能性を適宜検討していることから、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しております。
① 研究開発の推進
R&Dミッションであるミッション2、米国での初の打上げとなるミッション3及び日本で商業用の新たなモデルを使用するミッション6に向けて、打上事業者による打上機会を確保すると同時に、開発スケジュール、開発コスト及び開発クオリティを厳格に管理することで、ランダー及びローバーの開発を着実に進めてまいります。
② 顧客の開拓
当社が事業収益を獲得するために必要なランダー及びローバーは開発途上にあります。また当社が事業収益を見込む市場は、現在グローバルでも草創期に当たります。当社では現在ミッション2からミッション4までの顧客からの潜在的受注を確認していますが、事業収益の安定化に向けて引き続き中長期的に持続可能な顧客市場を開拓してまいります。
③ 人材の確保
当社はランダー及びローバーの研究開発を遂行するために、継続して多様な開発領域について高度な専門性と能力を備えた人材を国内外から雇用しております。
また、急速に従業員数が拡大する組織の中において、各人材がその能力を最大限に発揮することが可能な環境を整えるための取り組みを引き続き行ってまいります。
④ 成長に対応した内部統制の構築と適切な運用
今後の事業運営及び業容拡大に対応すべく、必要な業務プロセス、財務・経理上の体制、労務管理、子会社管理、セキュリティ管理等を整備する等、当社の成長に対応した内部統制の構築及び運用の実施を引き続き行ってまいります。
⑤ 財務上の課題について
当社にとって、安定的な事業収益化を目指す上で将来的に継続的なミッションの実現が必要であり、そのための必要資金を着実に確保することが重要です。当社ではこれまで、無担保転換社債型新株予約権付社債の発行、第三者割当増資、金融機関からの借入、クラウドファンディング、公募増資等によって資金調達をしてまいりましたが、今後も、ミッション推進のために機動的な資金調達の可能性を適時検討してまいります。
また、当社はミッション1に関して三井住友海上火災保険株式会社との間で損害保険契約を締結しミッション1において保険金を受領しております。当社は保険によるリスク低減も財務安全性確保のための一つの手段として認識しており、ミッション2以降も保険の利用を検討しております。
さらに、2022年7月に株式会社三井住友銀行をアレンジャー、株式会社みずほ銀行、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社商工組合中央金庫をコアレンジャー、株式会社静岡銀行を参加金融機関とする、総額50億円のシンジケートローン契約を締結しております。加えて2024年3月期には複数行より総額75億円の融資契約を締結しており、2024年4月には株式会社三井住友銀行より借換も含めた総額70億円の融資契約を締結しております。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
(1)サステナビリティに関する考え方
当社グループにとってのサステナビリティとは、事業を通して「地球と月がひとつのエコシステムとなる経済圏を創出すること」に貢献することであり、長期的な人類の地球上の生活の持続を目指すことです。その実現に向けて、顧客、取引先、従業員、株主をはじめとするあらゆるステークホルダーとの信頼関係を大切に、サステナビリティを重視した経営を実践しております。
(2)具体的な取り組み
①ガバナンス
当社グループは、「Expand our planet. Expand our future.」というビジョンのもと、経営の効率化、健全性、透明性を高め、中長期的、安定的かつ継続的に株主価値を向上させることが、コーポレート・ガバナンスの基本であると認識しております。
このため、企業倫理の醸成と法令遵守、経営環境の変化に迅速・適切・効率的に対応できる経営の意思決定体制を構築して、コーポレート・ガバナンスの充実を図ります。
また、すべてのステークホルダーからの信頼を得ることが不可欠であると考え、情報の適時開示を通じて透明・健全な経営を行ってまいります。
詳細は、「
②リスク管理
当社は、経営の透明化の向上とコンプライアンス遵守の経営を徹底するため、コーポレート・ガバナンスの強化を図りながら、経営環境の変化に迅速に対応できる組織体制を構築することを重要な経営課題と位置付けております。当社は、会社法第362条第4項第6号及び会社法施行規則第100条に基づき、2019年2月8日開催の取締役会決議により、以下のとおり内部統制システムの整備に関する基本方針を定め、業務の適正性を確保するための体制の整備・運用をしております。
詳細は、「
③戦略
当社グループのビジネスモデル及び宇宙産業は草創期であり、ビジネスモデル及び市場の実現のためには、経験を十分に有するエンジニア、市場を開拓しビジネスを推進するビジネスデベロップメント及び事業を支えるコーポレートのすべての職種において、様々なバックグラウンドと知見を持つ人的資本が最大の価値創造の源泉であると考えております。サステナビリティの実践に向けて、人的資本を最重要視して投資を行うことで、持続的に人的資本やその他の資本を増強することを目指して戦略を設計しております。
当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針は以下のとおりです。
当社グループでは、バリューとしてダイバーシティ、インテグリティ、リスペクトを掲げており、様々な知識と技能を持つ人材に対して、国籍や性別を問わず門戸を開いております。その結果、当社グループとしては世界30か国から、当社としては世界20か国からの人材が集結しています。また、当社グループでは68%。当社単体でも38%が日本以外の国籍を持つ人材で占められております。「出身国・地域」という意味での多様性は大きく、またそのことによって生まれる様々な文化背景やコミュニケーションの取り方、受け取り方の違いに日々向き合うことが、先駆者の少ない月着陸船の開発をはじめとした当社事業における技術革新の原動力となっております。最終的には、多様性が基礎となる「Moon Valley 2040」を実現することを目指してまいります。
現時点では宇宙に特化した人材は非常に稀です。当社のみならず宇宙開発産業全体の発展に当たり人材開発は非常に重要な課題です。そのため、日本・海外の別を問わず複数の宇宙関連大学・大学院、それらの研究室と連携しインターンシップを通じた将来の従業員候補生の育成、またその育成そのものを通じて当社従業員のメンターとしての育成、管理能力および技術力の向上を図る取り組みを企画・実施しており、これらの取り組みを通じて当社や当社の子会社に優秀な人材の採用に繋がっています。
2023年度は東京証券市場への上場やミッション1の運用を経て、また毎年実施しておりますエンゲージメントサーベイからのフィードバックを受け、経営と従業員とがより密接に一体となってスピード感のある事業展開、研究開発を容易にし、かつ企業文化をより深く浸透させるための組織改革を行いました。2024年度は“All for the GROWTH of the company and the crews”を人材開発テーマに掲げ、更なる人的資本力の向上を図ってまいります。職務等級制度の見直し、個人業績評価の見直しを始め、世界の宇宙産業企業や当社及び当社子会社が所在する国における同業の企業群に対して競争力のある報酬体系の設計と展開、また、教育プログラムの導入を行ってまいります。
④指標及び目標
前述のとおり、当社グループはサステナビリティ戦略において人的資本を最重要視しております。サステナビリティの実践に向けて、多様性の確保を続けるとともに人的資本の重要テーマとして「エンゲージメント」を置き、向上を図っております。具体的には「エンゲージメントサーベイスコア」を指標として置き、定期的なモニタリングを行っております。当連結会計年度の実績は以下の通りです。
(エンゲージメントサーベイスコア)
前述の通り、当社グループはエンゲージメントサーベイスコアのモニタリングを定期的に行っております。当連結会計年度の実績は前連結会計年度同様66%となりました。一方、回答率においては98%で前連結会計年度比14%増と大幅に伸び、従業員の関心とコミットメントの高まりを捉えています。今後もさらなる従業員エンゲージメントの向上及び人材力の強化を目指してまいります。
本書に記載した事業の状況、経理の状況に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
当社グループはこれらのリスクの発生の可能性を十分に認識した上で、発生の回避及び発生した場合の適切な対応に努める方針ですが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載も併せて、慎重に検討した上で行われる必要があると考えます。また、これらは投資判断のためのリスクをすべて網羅したものではなく、さらにこれら以外にも様々なリスクを伴っていることにご留意いただく必要があると考えます。当社グループは月面開発事業を行っており月面着陸がビジネス遂行上の要件となりますが、未だ当社において月面への着陸実績はありません。また、当社が属する宇宙産業自体未だ市場草創期であり安定的な市場は確立されておらず、将来の市場規模拡大には不確実性を伴います。また、月着陸船の開発には長い年月と多額の研究費用を要するとともに、すべての開発及び月面着陸ミッションが成功するとは限らないことからも、当社への投資は一般投資者の投資対象として供するには相対的にリスクが高いと考えられます。
なお、文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであり、将来において発生の可能性のあるすべてのリスクを網羅したものではありません。
Ⅰ. 外部環境及び第三者など自社を取り巻く環境に関するリスク
(1)当社ビジネスおよび業界に関するリスク
①市場について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社の属する宇宙産業は将来の成長が期待される市場でありますが、当社が事業収益を見込むペイロードサービスとデータサービスは、現在グローバルでも草創期に当たります。それゆえ、宇宙産業の将来には多くの不確実性が伴います。当社では既に現在ミッション1及びミッション2の顧客からの受注の確定及び、ミッション3以降に係る顧客からの潜在的受注を確認しておりますが、今後、当該事業における市場が当社の想定通り成立・成長する保証はありません。例えば、世界的な経済情勢や企業の景気による影響等により事業環境が変化した場合には、当社の顧客が政府機関の場合には月関連の事業に投入可能な予算額が減少し、また民間企業の場合には研究開発予算や事業開発予算・ブランディング予算等が減少し、その結果、市場において十分な需要が生じない可能性があります。加えて、当社又は第三者が策定する市場規模に関する予測は、様々な仮定や前提条件に基づいており、前提条件の内容等によってその結果は大きく異なります。例えば、前記PwC社の調査においても、各地域の市場トレンドや観測可能な調査に基づくボトムアップ分析と、当社のビジョンである「2040年以降に月に1,000人が居住」することと同様の前提を置いた場合のロードマップ分析では大きく結果が異なります。したがって、これらの予測において用いられる仮定や前提条件が正しくない場合には、予測とは大きく異なった結果となる可能性があります。また、当該調査は2021年9月に発表されたものであり、例えばNASAのアルテミス計画の遅延等、それ以降の市況や地政学的状況の変化を反映しておりません。
また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <当社グループが注力する月面輸送サービスのセグメントについて>」記載のとおり、当社は、ペイロードサービスにおいて、小型セグメントへの戦略的集中を行っており、中~大型のセグメントのペイロードを指向する顧客とは重複しない一定層の小型セグメントが成立し得ると考えているところ、ペイロード市場における主要なニーズが、当社が対応出来ない中~大型のペイロードを指向する場合には、当社が提供するサービスへの需要が十分に喚起されないおそれがあり、また、仮に需要があったとしても、他の事業者が提供する中~大型ランダーの余剰スペースに搭載する形のペイロードサービスによって代替されるおそれもあります。さらに、当社が行うペイロードサービスの単価等については既に確立した水準は存在しないことから、契約相手方との関係や競合相手の状況によっては、当社が希望する水準での価格設定や契約条件の設定を行えない可能性があります。
加えて、データサービスについては、潜在的な顧客からのニーズは確認されており、当社として顧客からの受注も存在しているものの、現時点で十分な市場は確立されておらず、また、同サービスにおける価格設定についても、今後市場動向や競合の動向によって仕組み等が変動する可能性があります。したがって、将来的に同サービスにおいて、当社が期待するだけの需要を喚起できない可能性や、できたとして当社が希望する水準での価格設定を行えない可能性があります。また、当社が顧客のために取得したデータについて、顧客との交渉次第では、当社が権利を確保できない可能性があり、その場合、当社が計画するデータプラットフォームやデータベースの構築が遅延する、又は実現しない可能性があります。
このように、当社の想定通りに市場が成立・成長しなかった場合等には、売上計上時期が後ろ倒しになる等、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
②マクロ経済について
当社の業績は、日本、米国および国際的な経済・政治情勢等の影響を大きく受けます。現在のインフレ環境は、様々な部品、材料およびサービスの調達コストの上昇をもたらし、また今後ももたらし続ける可能性があり、将来金利が上昇した場合には、当社の借入コストが増加する可能性があります。現在および将来の顧客は、その事業または予算が経済状況の影響を受けた場合には、当社のサービスに対する支出を延期または減少させる可能性があります。現在および将来の顧客が当社のサービスに対する代金を支払えない場合、当社の収益およびキャッシュ・フローに悪影響を及ぼす可能性があります。
現在のロシアとウクライナの軍事衝突は、米国及び北大西洋条約機構(NATO)と、ロシアの緊張をエスカレートさせております。米国をはじめとするNATO加盟国および非加盟国は、ロシアおよびロシアの特定の銀行、企業、個人に対して制裁を課しております。このような制裁措置は当社の事業に重大な影響を及ぼしていませんが、将来の追加制裁措置や、その結果生じるロシア、米国、NATO諸国間の紛争が当社の事業に悪影響を及ぼさないという保証はありません。また、イスラエルと過激派組織との武力衝突により、中東および世界的な緊張が激化する可能性があり、このような状況により影響を受ける顧客への営業活動に悪影響を及ぼす可能性があるほか、当社グループの事業および経営に悪影響を及ぼす可能性があります。このような軍事紛争やそれに関連する動きは、侵攻後に発生した商品価格、信用市場、資本市場の大幅な変動、サプライチェーンの断絶のような市場のさらなる混乱につながる可能性があり、当社グループの事業および業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
③為替レートについて (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
当社グループは、海外への事業展開にも取り組んでおり、ルクセンブルク大公国及び米国に連結子会社を有しております。ルクセンブルク子会社及び米国子会社の財務諸表における現地通貨建の項目は、連結財務諸表作成のために円換算されることから、連結財務諸表数値は為替相場の変動による影響を受ける可能性があります。また、当社、ルクセンブルク子会社及び米国子会社も海外のサプライヤーとの間で複数の外貨建て取引を行っていますが、特に為替予約その他ヘッジ取引は行っておりません。当社は、ペイロードサービスやデータサービス等の主要な事業については米ドル建ての入金とすることによって、米ドルに対する円の為替変動リスクを一定程度軽減しておりますが、今後著しい為替変動があった場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
④自然災害等について
大規模な地震等の自然災害、伝染病の蔓延や事故等、当社による予測が不可能又は突発的な事由によって、事業所等が壊滅的な損害を被る可能性があります。このような自然災害に備え、従業員安否確認手段の整備、防災品の確保等に努めておりますが、想定を超える自然災害が発生する場合は、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、打上施設やサプライヤーが自然災害により損害を被った場合、悪天候により打上スケジュールが遅延した場合、サプライヤーの所在する地域においてテロや政治的混乱が生じた場合や、宇宙空間内で太陽フレアや流星塵が生じることによってランダーとの通信に悪影響が生じる場合等にも、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)第三者に関するリスク
①政府機関の顧客について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社の既存顧客の多くが政府機関であり、また、当面の間、当社の潜在顧客の多くも政府機関となることが予想されるところ、一般に政府機関の数は限定的であり、受注できる契約数も限定的となる可能性があります。また、政府機関からの発注については、国家予算や地政学上のリスクによる影響を受ける傾向があり、これらによって、政府機関からの発注自体が少なくなるか、発注内容が変更若しくは取り消される可能性があります。また、政府機関からの発注への応募についても一定の当該国での内製化要件等が課される場合もあり、当社としては米国・日本・欧州の各拠点で開発体制を敷いているものの、当社が必ずしも応募できるとは限りません。加えて、政府機関との契約については、入札手続を経ることから当社が期待する水準の単価とならない可能性があり、したがって、当社の想定通りの採算で受注できない可能性があります。また、契約締結後も、政府機関による解約が広く認められる場合等、民間企業と契約する場合に比べて当社にとって不利な契約条項が含まれる可能性、政府機関が契約先であるゆえに労働・人種差別・環境等の法規制の対象となる可能性、当社において追加的な規制や要件の遵守を求められる可能性、支出に際して政府機関の承認が必要となる可能性、当社の技術内容を含めた一定の事項について開示が要求される可能性、部材やサービスの調達先について一定の要件を課される可能性や、現地のオフィスや施設等の設置等を求められる可能性等があります。
加えて、政府機関との契約においては、契約条件の遵守について政府機関による詳細な調査権が認められる場合があります。さらに、当社がこれらの規制や条件等に違反した場合、契約の解約のみならず、行政処分等の対象となる場合があり、かかる処分等が下された場合、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
したがって、政府機関からの発注については、受注できたとしても、当社が想定したとおりの収益を上げることができない可能性があります。
②重要な外部パートナー及び顧客への依存について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:特定時期なし)
当社が開発するランダーは、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ランダー・ローバーのテクノロジー及びペイロード>」に記載のとおり、ミッション1及びミッション2の推進系システムについてはAriane Groupに製造を委託し、着陸制御システムの開発についてはドレイパー研究所とのアライアンス関係を築いています。
また、ミッション1から3の打上げに関しては、SpaceX社とファルコン9ロケットによる打上契約を締結しております。これらの関係は、当社における技術及び競争上の強みとなっていると考えております。
しかしながら、当社がこれらの関係を継続し続けられる保証はありません。当社はこれらのパートナーと長期にわたるビジネス面での連携を過去より実施し信頼関係を構築するとともに、定期的なミーティング等の場を通じて関係維持に努めておりますが、既存の関係を失った場合、同等の技術的水準又は価格水準を提供する代わりの第三者パートナーを確保できない可能性があります。また、現状の契約期間の終了後にこれらのパートナーとの契約を再締結又は更新できる保証はなく、これらの契約が同価格又はサービス水準では更新されない可能性もあります。さらに、これらはいずれも海外の企業であるため米国等の輸出管理規制が強化されることにより、これらのパートナーとの協働ができなくなる可能性もあります。
加えて、重要なパートナーとの契約では、通常の民間企業と契約する場合に比べて、当社にとって不利な契約条項が含まれる可能性があります。例えば、当社子会社であるispace technologies U.S., inc.は、2022年7月にNASAのCLPSプログラムのタスクオーダーCP-12のサービスプロバイダーに採択されています。これに関して、当社子会社であるispace technologies U.S., inc.は、ドレイパー研究所との間で、ランダーの製造やペイロードサービスを実施するための請負契約を締結し、当該契約に基づき、ミッション3において、2機のリレー衛星を月周回軌道に投入し、月震計(FSS)、地下の熱流探査機(LITMS)、及び電磁場測定器(LuSEE)といった一連の科学実験機器を含むペイロードを月の裏側に存在する南極付近に輸送する予定です。しかし、当社子会社は、ドレイパー研究所との契約上、自らの契約不履行又は履行遅滞に起因して発生した損害についてドレイパー研究所に対して損害賠償義務を負う可能性があり、また、当社起因の理由によりタスクオーダーCP-12の費用が増加した場合には、当該増加費用分をドレイパー研究所に対して当社が負担することになる可能性があることから、最終的な受取金額は減少する可能性もあります。
また、上記の企業以外にも、当社は開発するランダーの部品の多くを外部から調達しているところ、部品調達に遅延が生じた場合や、当該部品に欠陥等があった場合、さらには、新型コロナウイルスの拡大を含む天災や事故等により外部サプライヤーの生産能力が制限された場合等には、当社の開発・ミッションに遅延が生じる可能性や、代替調達先の確保をしなければならなくなることにより追加の費用を負担する可能性があります。
加えて、「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」記載のとおり、当社のランダーは、ロケットから放出された後、ミッション完了まではすべて当社が東京都中央区日本橋に開設いたしましたミッション・コントロール・センターより、当社の従業員により制御されるところ、そのために必要なミッション・コントロール・センターとランダー間の宇宙通信については、欧州宇宙機関(ESA)傘下のESOCの協力の下、同機関が保有する専用の宇宙通信ネットワークを利用する計画であるため、当該ネットワークに障害が生じた場合にはミッションの実行に支障を生じさせる可能性があります。
③打上業者に関するリスクについて (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
当社がミッション1からミッション3で使用するランダーの打上げについては、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ランダー・ローバーのテクノロジー及びペイロード>」に記載のとおり、SpaceX社と打上契約を締結しております。
当該契約上ミッション2においては、第三者のペイロードとの相乗りでSpaceXのロケットに搭載される予定です。SpaceX社は、当社及び相乗り先のスケジュールや技術要件、打上場所の天候等を考慮して打上スケジュールを決定する責任を負っており、当社のミッションスケジュールに遅延等の影響が生じる可能性があります。また、ミッション3においては当社がSpaceX社のロケットを占有する契約となっておりますが、この場合も、米国連邦航空局等の政府機関によるSpaceX社のロケット及び/又は当社のランダーの打上げの承認が遅れた場合等に、打上スケジュールに影響が生じる可能性があります。
このような場合でも、当社は既存顧客との間で、少なくともミッション1及びミッション2の間は、基本的な方針として当社の顧客に対して返金を行わない契約を締結しておりますが、顧客側が任意解除権を有する契約や一定期間以上のスケジュール遅延が生じた場合に顧客側に解除権が発生する(ただし、後者については既に受領済みの対価についての返金は不要となる)契約や、一定のマイルストーンの達成を一部支払の条件としている契約を一部の顧客との間で締結しており、結果としてミッションが遅延又は達成されない場合、当社の評判や業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
なお、当社はミッション4以降においても、ランダーの打上げについては、第三者である打上業者に委託をする予定ですが、将来において必ずしも十分な数の打上業者が存在するとは限らず、業界全体として十分な打上機会が確保されない結果、当社ランダーの打上コストが当社の想定を上回り、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。また、打上業者の不足等により、当社のスケジュール通りのミッションの実現を可能とする打上業者と当社が契約できなかった場合には、当社のミッションスケジュールに遅延等が生じる可能性があります。
上記の結果ミッションスケジュールに遅延が生じた場合には、遅延の期間や顧客との契約の内容によっては、当社の売上高の計上時期に影響が生じる可能性があります。
④競合について
当社の事業と同様のビジネスモデルを有している企業は海外に数社あり、その中には、2024年3月期中にミッションの実行がされている会社があります。また、当社は、月面ペイロード輸送事業及びデータ事業を行う企業のみならず、宇宙衛星軌道にペイロードを輸送する事業を行う企業や、月面探査ローバーの開発事業のみを行う企業等とも競合する可能性があります。
当社は東北大学の吉田研究室での月面探査ローバー開発をベースとして、創業以来、約10年にわたるローバー開発の歴史を持ち、当社開発のローバーは「Google Lunar XPRIZE」の中間賞を受賞した実績を有します。また、ランダー開発においても2016年頃から取り組みを開始する等、比較的長い期間の開発実績と研究成果の蓄積を有しており、これらランダー及びローバーの開発状況が評価されたことからNASAのCLPSへ採択され、今後も継続してNASAから提示されるタスクオーダーの受注資格を有しており、さらにミッション1においては設定した10のマイルストーンのうち8を達成し着陸直前までの間に貴重な航行データを収集した等の実績を持ちます。それに加え、技術的難易度の高い着陸誘導制御をアポロ計画の月着陸で実績を持つドレイパー研究所と協業することによる技術競争力、日本、米国、欧州3拠点体制により各国政府の輸出規制等に左右されない最適なサプライヤー選定が可能になることによるコスト競争力の両面において他社との差別化を目指してまいりますが、宇宙産業は将来の成長が期待される市場であり、引き続き国内外の事業者がこの分野に参入してくる可能性があります。このため、先行して事業を推進していくことで、さらに実績を積み上げて市場内での地位を早期に確立してまいりますが、今後において十分な実績が得られなかった場合や、新規参入により競争が激化した場合には、ペイロードサービスの価格を下げざるを得ない場合による売上減少等、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、データサービスについても、当社のペイロードサービスの競合他社が、当社同様、ミッションで取得したデータを用いた上でデータサービスを提供する可能性があり、また、宇宙衛星軌道上で宇宙データサービスを取り扱う会社が、業務の一部として、月面データの領域に参入する可能性もあります。
当社の競合他社の中には、当社に比べ、より多額の投資ができる企業や、より高価値又は魅力的な価格でサービスを提供することができる企業が存在する可能性があります。また、既存の競合他社が、第三者と戦略的提携等を行うことにより、競争力を強化する可能性もあります。加えて、今後、海外の競合他社が政府から補助金等を受領することによって競争力を高める可能性もあります。このように、当社の競争力は多くの要因によって影響を受けるところ、当社が競争力を維持することが出来なかった場合、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤ベンチャーキャピタル等の株式所有割合に伴うリスクについて
当社の発行済株式総数に対するベンチャーキャピタル及びベンチャーキャピタルが組成した投資事業組合(以下「ベンチャーキャピタル等」という。)の所有割合は2024年3月末現在21.0%であります。当社の株式の株価推移や、ベンチャーキャピタル等に定められた規程によっては、ベンチャーキャピタル等が所有する株式の全部又は一部を売却する可能性や、ベンチャーキャピタル等の投資家へ現物分配が実施される可能性等が考えられ、その場合、株式市場における当社株式の需給バランスが短期的に損なわれ、当社株式の市場価格に悪影響を及ぼす可能性があります。
Ⅱ. ビジネスモデル等の自社の事業に起因するリスク
(1)当社開発・ミッションに関するリスク
①ミッションの未達について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
当社が行うミッションについて、ミッション1においては月面着陸、ミッション2においては月面着陸及びローバーによる月面探査を目指してまいります。一方、月面開発事業は元来技術的リスクを伴うものであり、当社においてこれまで月面着陸の実績はなく、また、民間企業や日本の宇宙機関が月面着陸を行った事例もありません。当社としては、技術的にはランダーの推進及び着陸誘導制御は旧ソ連によるルナ計画、米国のアポロ計画、中国による嫦娥計画等の実績があり特に革新的な新規技術を必要とするものではないとの理解であり、ミッション1においてミッションを計10個のSucessマイルストーンに分解したうち、Success8となる月周回軌道上でのすべての軌道制御マヌーバの完了(Sucess8)まで無事達成しております。一方で、Success9となる月面着陸の完了は未達で終わっており、本書提出日現在、当社のランダーが月に着陸した実績はありません。加えて、地球外の天体にランダーを着陸させることは元来難易度が高いオペレーションであるため、当社では両分野の開発は経験豊富な第三者と協業することでリスクの低減に努めておりますが、予期せぬトラブルが発生した場合、今後もミッションが未達となる可能性があります。ミッション未達についても様々な事象が想定され、A.ロケットの打上げ時に障害が発生する可能性、B.月へ向かう航行中に障害が発生する可能性、C.月の周回軌道に入る際に障害が発生する可能性、D.月への着陸が安定的に成功しない可能性、E.着陸後にランダーからローバーを放出する等のミッションを実行できない可能性等が考えられます。
また、ミッション3以降については、当社は、重量や設計も異なるAPEX1.0ランダーの使用を計画しているところ、APEX1.0ランダーの開発及び運航について想定外の問題が生じる可能性があります。また、ミッション3で予定している2機のリレー衛星の輸送についても、初の月周回軌道への輸送となることから、ミッション1及びミッション2とは異なる問題が生じる可能性があります。加えて、ミッション6以降の使用を目指して開発に着手しているシリーズⅢランダー(仮称)の開発及び運航についても想定外の問題が生じる可能性があります。当社は、APEX1.0ランダー及びシリーズⅢランダー(仮称)を使用する計画のミッションにおいて、前述のとおり、RESILIENCEランダーを使用するミッションよりも多くの販売可能重量及び売上高を計画していることから、これらのランダーに問題が生じた場合、当社の収益に生じる悪影響の程度が大きくなる可能性があります。
当社においては、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」及び「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 2.ミッションリスクに備えた手当」に記載のとおり、ペイロードサービスについては、その一部の対価を前払いとし、かつ、契約後の返金を行わないこととすることや、損害保険契約を締結する等によって、ミッションが未達となった場合のリスク軽減措置を講ずる予定です。特に、2024年を予定するミッション2については既に当社販売可能重量を満たすだけのペイロードサービス契約を締結済みとなっております。また、前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 1.品質向上サイクルの実現」記載のとおり、事業モデルとしても、一定の失敗が生じ得ることは織り込んだ上での事業運営を行っております。したがって、当社としては、1回のミッションの未達が直ちに営業面、財務面における重大な悪影響を及ぼすものではないと考えております。しかしながら、ミッションの未達が継続して発生した場合においては、当社の技術的信用力が低下することで、当社の株価・資金調達能力・評判に悪影響が及ぶ可能性があり、後続ミッションにおける顧客離反リスクが顕在化する可能性があります。また、ミッションが未達となることにより、当社の技術力の検証ができない可能性や、必要なデータを取得できない可能性もあり、これにより、その後のミッションに影響を及ぼす可能性があります。
また、前記「1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等 2.ミッションリスクに備えた手当」記載のとおり、当社とSpaceX社との間の打上契約では、打上げ後にはいずれの責かを判定することが困難なことから、業界慣行上、相互の責を問わない契約となっており、当社の責によらないと考えられる事由により発生しミッション継続に支障が起きた場合であっても、同社に対して打上代金の返金を求めることができないこととされています。上記のリスク軽減措置についても、例えば当社が加入する保険の保証限度内で当社が負担する損失をカバーできない等、リスクを軽減するのに十分でない可能性があり、また、本書提出日現在において当社はミッション2以降について保険契約を締結していないところ、月保険においては現時点で商品内容が確立されておらず、不確実性を伴うこと等から、当社が望む経済的条件で保険に加入できない可能性、損害を十分に幅広くカバーする保険に加入できない可能性や、高額な保険料によって当社の収益が圧迫される可能性もあります。
②当社の開発について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
当社は2022年12月11日にミッション1の打上げを完了するとともに、現在ミッション2、3、6に向けてランダー及びローバーの開発を進めており、その開発状況の詳細は前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」記載のとおりです。当社は、スケジュールについては進捗管理を専担するプロジェクト・マネジメント・オフィスを設け厳格に管理しており、仮にスケジュールに影響を与える事象が生じた場合においては、全体スケジュールへ影響を及ぼさないよう、製造工程の手順調整や部分的な作業の加速によって調整する方針ですが、従前ミッション1において、発注から納品までに年単位の時間を要する長納期品の納入に伴う開発期間の変更や、顧客ペイロードインターフェースのためのランダー仕様変更、ランダーの推進系システムの一部不具合による再調達等により、開発スケジュールの遅延が生じたことがあり、今後も同様の遅延が生じる可能性があります。当社が行う月面開発事業においては高度な技術と正確性が求められ、ミッションの成功に向けては、細心の注意を図り、万全を期す必要があることから、今後の組立工程や試験の結果、及びその結果を踏まえた物品の再調達による納期の関係等様々な要因により、やむを得ず遅延が発生する可能性があります。
開発上の技術的問題により遅延が生じた場合、当該問題を克服するために想定外の費用が生じる可能性や、想定外の期間の遅延が生じる可能性があります。当社が2024年に打上げを計画するミッション2については、既にサブシステムレベルでのCDRが完了し、フェーズD(制作・試験)に移行してまいりますが、フェーズDにおいても、様々なコンポーネントを1つのシステムに組み立てる過程や、組立後の試験において不整合や不具合が判明する場合があり、その結果、ミッション2の実行時期が遅延する可能性があります。また、生じた問題の度合いによっては、再度CDRをやり直す必要が生じる可能性があり、その場合、ミッション2の打上時期が大幅に遅延する可能性があります。また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>」記載のとおり、当社のミッション3以降のAPEX1.0ランダーと、ミッション6以降にAPEX1.0ランダーと併用することを目指して開発に着手しているシリーズⅢランダー(仮称)は、ミッション1及びミッション2で使用するRESILIENCEランダーの設計からの変更を予定しているところ、ミッション1及びミッション2に用いるRESILIENCEランダーと比較して大きく、デザインや仕様のほか、組立、運用場所もミッション1及びミッション2から変更される予定であることから、ミッション1及びミッション2のRESILIENCEランダーを予定通り開発できたとしても、ミッション3以降のAPEX1.0ランダー及びミッション6以降のシリーズⅢランダー(仮称)が予定通り開発できる保証はなく、開発できたとしても当初の想定を上回る費用が生じる可能性があります。ミッションが遅延した場合、打上契約等外部パートナーとの間の契約内容を変更する必要が生じる可能性や、追加の費用負担が発生する可能性があり、当社の希望通りに変更や資金的な手当てができない場合にはミッションの実行に支障が生じる可能性があります。さらに、当社が既に受注を受けている顧客が発注の変更又はキャンセルを要望する可能性があります。当社は、少なくとも技術実証段階であるミッション1、ミッション2の期間については、当社ペイロードサービスの本格的な商業化前であることに鑑みて、顧客とのペイロード契約上、かかる変更やキャンセルに伴う返金が発生しない方針で基本的に合意し最終契約を締結しておりますが、商業化を目指すミッション3以降において同趣旨での契約が合意されない場合には、当社が想定する収益が減少する可能性があります。また、1つのミッションが遅延した場合には、後続のミッションスケジュールにも影響を及ぼす可能性があります。このような場合には、売上計上時期が後ろ倒しになる等、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(2)当社営業に関するリスク
①当社のMOU及びi-PSAについて (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等」記載のとおり、当社は世界各国の民間企業・宇宙機関・研究機関との間で、基本的にミッション3以降における将来的なペイロードサービス、データサービスについて、MOU等を締結しております。しかしながら、これらのMOU等は法的拘束力を伴うものではなく、MOU等を締結したとしても、当社の売上高が計上されるわけではありません。また、これらのMOU等について、当社が最終契約を締結できる保証はありません。また、最終契約を締結できたとしても、当該契約の内容は、MOU等の内容とは大幅に異なる可能性があります。さらに、当社が締結するMOU等は、相当期間、先の内容について定めるものもあり、仮にMOU等の内容通り最終契約締結に至ったとしても、将来の時点においては経済合理性を欠いている可能性もあります。
②参加中・参加予定のプロジェクト及び協業について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
当社は現在、CLPSタスクオーダーCP-22において、Terran Orbital Corporationの100%子会社であるTyvak社による入札に関連して、当社の米国子会社が着陸船および月面へのペイロード輸送の設計・開発・運用の下請け業者として提案参加するなど、多数のプロジェクトに提案を行っており、さまざまな協業や提携にむけた協議を行っております。タスクオーダーCP-22で他の元請業者が選定された場合には、本下請契約は自動的に終了します。Tyvak社との下請契約の詳細については、後記「5 経営上の重要な契約等」に記載のとおりです。このようなプロジェクト、協業、提携に関する発表や報道は、世間や業界の大きな注目を集める可能性があり、当社株式の取引価格、当社事業、および将来プロジェクト等に悪影響を及ぼす可能性があります。このような入札に関連するその他のリスクについては、後記「Ⅱ.ビジネスモデル等の自社の事業に起因するリスク(2)当社営業に関するリスク④営業活動について」もご参照ください。
③当社のデータプラットフォームを用いたSaaS型・サブスクリプション型のサービスについて
前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて> 2.データサービス」記載のとおり、将来的には、当社の高頻度なミッションを通じて、当社のインターナル・ペイロードから取得・蓄積した情報に、地球上で入手可能な既存のデータも加え、加工、解析、統合することで、顧客にとって高付加価値な「大規模な月のデータベース」をクラウド上に構築し、顧客が自由にアクセスし、定額料金を課金の上、利用して頂く、SaaS型・サブスクリプションモデルのビジネスの展開を目指しています。当該ビジネスモデルの実現のためには、当面の間、当社がインターナル・ペイロードを通じて月面の様々なデータを取得することが前提となりますが、ミッション未達等により、当社の想定通りミッションが実行されない場合には、当社の月面データ取得にも悪影響が及ぶ可能性があります。また、当社が十分に資金調達を行うことができない等の理由により、当社の想定通りの頻度でミッションが実行できない場合にも、当社の月面データ取得にも悪影響が及ぶ可能性があります。これらの場合、当社の同サービスの競争力を失う可能性があります。加えて、ミッションが予定通り実行されたとしても、当社がインターナル・ペイロードとして輸送するローバーや、計測機器・カメラ機器等を通じて、想定通り月面のデータが取得できるという保証はなく、当社の想定通りデータが取得できない場合、サービスの提供が困難となる可能性があります。また、データサービスのビジネス展開のためには、データセンサー・データプラットフォームの構築費用やデータサービスのための人件費等多額の支出が必要となるところ、必要となる支出が当社の想定を上回る可能性があります。また、支出したにもかかわらず、様々な要因により、当社がデータサービスを実施できない可能性があります。さらに、当社がデータサービスの提供のために外部業者と協力する場合、当該業者と契約条件を合意できない場合や当該業者によるサービスが想定通りに提供されない場合等には、当社によるデータサービスの提供に支障が生じる可能性があります。
加えて、今後、当社がデータサービスの展開ができたとしても、競争が激化する場合や、当社が付加価値のあるサービスを競争力のある価格で提供できない場合には顧客を獲得できる保証はなく、また、当社が十分な利益を上げられるほどの単価を設定できる保証もありません。
④営業活動について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
当社の業績は、業界特性に起因する長期化する営業期間とその不確実性により変動しており、今後も変動する可能性があります。営業努力の一環として、当社は潜在顧客の特定のニーズを評価し、当社のペイロードサービスの技術的能力と価値について潜在顧客に理解いただくために、多大な時間と費用を投資しています。営業期間は長期化する傾向にあり、顧客によってその期間も大きく異なります。当社のペイロードサービスの購入は多額の費用が発生するため、潜在顧客は一般的に、組織内の複数のレベルで当社のシステム、製品、技術を評価し、それぞれの要件を満たしていることを確認したうえで、管理職と複数の内部承認が必要となります。このような評価は、政府機関の場合特に複雑で多大な時間を要する可能性があり、政府機関の意思決定スケジュールは、当初の見積もりよりも大幅に遅れる可能性があります。場合によっては、当社の管理職を含む人的資源、費用および時間に対する多大な投資を含む営業活動が、潜在的な顧客と拘束力のあるPSAの締結に繋がる保証はありません。また、あるミッションの主要顧客を確保できたとしても、その顧客が着陸船のペイロード容量をすべて使用しない場合、着陸船の残りのペイロード容量について、同じタイミングまたは月面の同じ場所へのペイロード輸送を希望する顧客を確保することが困難になる可能性があります。ミッションの全ペイロード容量を満たす顧客の確保が困難な場合、全ペイロード容量に満たない状態で打上げたり、ペイロード容量を満たすため通常よりも不利な条件で契約を締結したりする可能性があり、いずれの場合もミッションの収益性を低下させる可能性があります。潜在的な顧客に対する営業努力の結果、当社の投資を正当化するのに十分な売上高が得られない場合、当社グループの事業、財務状況および業績に悪影響が及ぶ可能性があります。
⑤販売可能なペイロード容量について
当社のミッション1及びミッション2では、ランダーの設計上、顧客に提供可能なペイロード容量を30kgに設定しておりますが、このすべての重量について顧客へ課金することは想定しておりません。具体的には、顧客に販売するためのデータを取得するた社内の実験機器の搭載や、顧客ペイロードの性質に伴う想定外の追加デバイスの搭載等により、顧客に課金可能なペイロード容量が削減される可能性があります。事業計画上は、ミッション1においては12.43kg、ミッション2においては10.5kgを顧客に課金可能な容量として設定し、一定程度保守的な見積もりを置いておりますが、2024年を予定するミッション2においては今後の状況次第で変更となる可能性があります。またミッション3以降においては、顧客に提供可能なペイロード容量を足許最大で300kg、将来的には最大500kgに設定予定ですが、ミッション1及びミッション2と同様に不確定要素が存在することから、事業計画上は過去の実績を鑑み一定の開発マージンを割り引いた容量を設定し、更に容量をすべて充足するだけの顧客を獲得できない可能性を踏まえ、一定の販売充足率の前提も掛け合わせた想定歩留まり率を設定の上、将来的にこの値が徐々に改善される前提を置き、売上計画を立てております。
上記に加えて、ペイロードの構成によっては想定よりも多くのペイロード容量を要する場合もあり、ペイロード容量は顧客へ課金できる容量とは異なり、また、販売可能容量のすべてについて顧客の契約を獲得できるとは限らない点に留意する必要があります。
(3)当社財務に関するリスク
①月保険について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
宇宙分野の技術は進歩し続けておりますが、宇宙で行われるサービスには、スペースデブリとの衝突、打ち上げ時や飛行中の事故や故障など、固有のリスクが伴います。万が一このような事故が発生した場合、当社の月着陸船や月探査車は甚大な被害を受けるもしくは全損する可能性が高いですが、当社が将来加入する可能性のある月保険は、発生し得る損失を補償するのに十分でない可能性があります。ミッション1では、月着陸船が月面への軟着陸に失敗し、月着陸船と搭載していたペイロードの全損を経験しており、当時加入していた月保険の契約に基づき約38億円の保険金を受領しております。今後のミッションについても同様に、月保険への加入を適宜検討してまいります。当社がミッション1に使用し、ミッション2およびミッション3の打上げを契約しているSpaceX社は、当社の過失によらず打上げ時に事故や故障が発生した場合でも、打上費用の払い戻しは行いません。これは、打上サービス提供者とその顧客が、そのような事故に関する損害賠償請求権を放棄するのが現在の業界慣行であるためです。今後のミッションで月保険を締結した場合でも、損害の重大性や原因によっては、保険の内容や金額がすべての費用や賠償責任をカバーするのに十分でない可能性があります。
また、当社がミッションに対するリスクを認識している期間に保険が解除される可能性もあり、すべての業務上のリスク、自然災害および費用をカバーする保険契約を締結することは不可能です。当業界における保険の利用可能性や価格は大きく変動するおそれがあるため、当社の特定のニーズに合致する保険や、当社が想定する保険料やその他の条件の保険に加入できない可能性があります。また、ミッション1の未達および将来のミッションの未達によって、将来の保険の利用可能性、保険料、保険金額、その他の条件にも悪影響が及ぶ可能性があります。加えて、当社が認識しているリスクの多くに対応する保険に加入できたとしても、より広範な保険市況や当社がコントロールできない要因により、保険料が現時点の見積もりよりも大幅に高くなったり、利用可能な保険金額が減少したりする可能性があります。保険契約の保険料の増加や、不利な条件が適用された場合には、当社の純利益が減少する可能性があります。
上記のような保険リスクにより、収益が大幅に減少もしくは保険費用等に多額の追加費用が発生する可能性があり、その結果、当社の財政状態および経営成績に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
②財務制限条項について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
当社グループの借入金のうち、複数の借入金について財務制限条項(下記A.及びB.)が付されております。当社が将来において財務制限条項に抵触した場合、財務制限条項に係る期限の利益喪失につき権利行使しないことについて各行から合意を得られる保証はなく、各行が当社の期限の利益を喪失させる権利を行使した場合には、当社グループの事業及び業績に重大な影響を与える可能性があります。
なお、2024年3月末時点において純資産は9,745百万円であり、同時点において現預金残高は14,315百万円となっております。
A.各事業年度末日(一部の借入契約では各四半期末日)における連結貸借対照表に記載される純資産の部の合計金額を正の値に維持すること。
B.各事業年度末日(一部の借入契約では各四半期末日)における連結貸借対照表に記載される現預金の合計金額を30億円以上に維持すること。
③継続企業の前提に関する重要な事象について (顕在化の可能性:中/影響度:大/発生時期:1年以内)
当社グループは多額の先行研究開発投資と長期の開発期間を要する宇宙関連機器の開発に従事していることから、継続的な営業損失の発生及び営業キャッシュ・フローのマイナスを計上している状況にあり、現在のところすべての開発投資を補うための十分な収益は生じておりません。これらの状況から、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。
ただし、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」に記載のとおり、当該重要事象等を解消するための対応策を実施していること、また、自己資本の充実を目的とした機動的な資金調達の可能性を適宜検討していることから、継続企業の前提に関する重要な不確実性は認められないと判断しております。
④資金調達について (顕在化の可能性:高/影響度:大/発生時期:1年以内)
当社は事業活動を維持拡大するため、今後も多額の研究開発投資が必要となり、また、想定を上回る投資の増加、事業環境の変化への対応、融資契約に係る財務制限条項の遵守に向けた資金確保が事業上重要となります。当社が現在締結している融資契約の財務制限条項を遵守するため、また、ミッション3以降の将来的な顧客からの売上が当初計画よりも遅れるケースや、追加的な開発コストが必要となるケース等に備え、当社として安定的な財務基盤を維持することは重要と考えられることから、ロックアップ期間終了後の近い将来において、資金調達を実施する可能性があります。
また、前記「第1 企業の概況 3.事業の内容 <ビジネスモデルについて>2.データサービス」記載の大規模データベースの実現のためには、様々な分野において、多額の研究開発投資が必要となり、継続的な外部からの資金調達が必要となる可能性があります。例えば、当社は上記大規模データベースの実現等将来の事業規模拡大を企図した研究開発投資(以下、「先端研究開発投資」という。)を早期に実施する予定であるため、資本増強による資金調達に加え、負債調達又はその他の方法により、実施する可能性があります。ただし、当該資金調達を実施しない場合にも、既に契約済みであるミッション3顧客からの入金に加え、今後ミッション3以降の将来的な顧客から計画通りの入金を計上することが可能である場合、それらを原資として、先端研究開発投資を除いた当社の運転資金を維持することが基本的に可能であると見込まれることから、追加の資金調達の手段、時期等につきましては、今後の金融環境や事業環境を踏まえつつ慎重に検討していく予定であり、追加の資金調達の全額又は一部を実施しない可能性もあります。
しかしながら、当社が将来において想定する上記の資金調達が出来ない場合や、必ずしも望ましい条件での資金調達ができない場合等は、当社がキャッシュ・フロー不足に陥る可能性や、当社の事業を支えかつこれを成長させるために必要な投資を行うことができない可能性や、当社のミッションの一部の遅延又は中止を余儀なくされる可能性や、当社が財務制限条項を遵守できなくなる可能性があり、これにより当社が将来の支出計画又は事業活動の一部を遅延又は断念しなければならなくなるおそれや、当社の競争力に悪影響が生じるおそれがあります。また、当社は、上記の資金調達以外にも、今後、継続的な外部からの資金調達が必要となる可能性があるところ、継続的な資本調達のために当社株主に希薄化をもたらす株式発行が繰り返し行われる可能性があります。さらに、借入れによる調達を行う場合には、財務制限条項その他の条項が設定されることにより、当社の事業活動が制約される可能性があります。
⑤当社実績について
ランダー及びローバーの開発に当たっては、研究開発費の支出や優秀な技術者の採用等、先行的な投資が必要であり、結果として当社は創業以来営業赤字を継続して計上しております。今後も開発部門におけるスケジュール管理、財務部門によるコスト管理及び各開発段階におけるレビュープロセスによるクオリティ管理を実施することで開発を着実に推進するとともに、事業収益の安定化に向けて引き続き中長期的に持続可能な顧客市場の開拓を進めていく方針にあります。しかしながら、当社の技術は現時点では完全には実証されておらず、また、当社が属する市場は新しい市場であることから、今後の当社の利益を正確に予測することには困難が伴い、想定通りの開発計画・顧客開拓が進まない場合、当社サービスに対する需要が想定通りに集まらない場合、当該投資に見合った収入が得られない場合、或いは想定外の費用が生じた場合等には、想定通りのタイミングで利益を上げることができず、当社グループの事業及び業績に重要な悪影響を及ぼす可能性があります。
また、本書提出日時点において、データサービスについては売上実績がないことから、当社の過年度の業績は当社を評価するために十分な材料とはならず、今後の業績を判断する情報としては不十分な可能性があります。
⑥収益認識に係る会計処理について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:1年以内)
当社は「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)及び「収益認識に関する会計基準の適用指針」(企業会計基準適用指針第30号 2021年3月26日)を適用しており、約束した財又はサービスの支配が顧客に移転した時点で、当該財又はサービスと交換に受け取ると見込まれる金額で収益を認識しております。ミッション1、ミッション2及びミッション3においては履行義務の充足に係る進捗度を合理的に見積もることができないため、原価回収基準を適用しており、3回のミッションを経たミッション4以降は履行義務の充足に係る進捗度を総原価の発生割合により見積る方法で収益認識を実施することを検討しております。また、進行度の見積りに利用する総原価からは、「収益認識に関する会計基準の適用指針」の22項に準じて打上コストを除いた原価を用いることを想定しております。ただし、実際の会計処理は将来の顧客との契約締結後において個々の契約内容に従い決定されるものであることから、適用される実際の会計処理は上記と異なる可能性があります。特に、当社が想定する総原価からの打上コストの控除については、下記4つの要件すべてが満たされる必要があり、個別の契約内容を確認の上最終的な会計処理を決定してまいります。
A. 当該財が別個のものではないこと
B. 顧客が当該財に関連するサービスを受領するより相当程度前に、顧客が当該財に対する支配を獲得することが見込まれること
C. 移転する財のコストの額について、履行義務を完全に充足するために見込まれるコストの総額に占める割合が重要であること
D. 企業が当該財を第三者から調達し、当該財の設計及び製造に対する重要な関与を行っていないこと
実際の契約内容を検討した結果、当社の想定する会計処理が適用されない場合には、認識する収益総額は変動しないものの、収益認識タイミングが想定と異なるものとなり、期間損益に影響を与える可能性があります。
⑦当社四半期業績について
当社の四半期および年間の経営成績はさまざまな理由により変動する可能性があり、その多くは当社がコントロールできないものです。こうした変動により、当社の四半期業績がアナリストや投資家の予想を下回り、当社普通株式の株価が下落する可能性があります。そのため、将来の業績を示す指標として、当社の過去の四半期決算や年次決算との比較は適切ではありません。また、急速に発展する市場において企業が頻繁に遭遇するリスクや不確実性も考慮する必要があります。当社の四半期または会計年度の業績は、事業等のリスクに記載されているさまざまなリスク要因のほか、以下のような数多くの要因によって影響を受ける可能性があります。
・将来のミッションの打ち上げと完了を成功させる能力、およびそのようなミッションの打ち上げと完了のタイミング
・当社が顧客との契約を締結するタイミング、ミッションの打上げのタイミングと搭載ペイロード重量(当社がミッションの売上高と売上原価の大部分を認識するのは、契約を締結してから打上げまでの間であると想定しているため)
・収益認識に関する会計処理(最初の3ミッションについては原価回収基準を適用しており、ミッション4から収益認識に工事進行基準を採用する可能性がありますが、これは前項「⑥収益認識に係る会計処理について」で記載したとおり、未確定です)
・販売関連費、研究開発費、その他の営業費用の増加額および増加時期
・当社が今後展開可能性のある新サービスの展開時期とその進捗
・競合の変化による影響とその変化への対応
・当社の既存事業と将来の成長を管理する能力
・当社のサービスの中断や撤退による影響(これらがミッション打ち上げ前に発生した場合、ミッションの遅延や追加費用の発生を招く可能性があります)
・ミッション開発の遅れ、ミッション費用の削減、またはその他の理由によるミッション費用の認識の遅れにより、原価回収基準による売上高の認識遅れ
・不利な訴訟判決、示談、その他の訴訟関連費用などの不測の事態
・特に当業界に影響を与える経済および市場の状況
・自然災害、公衆衛生問題、その他の開発など、制御不能な事象の影響
⑧株式価値の希薄化について
前記「(3)④資金調達について」記載のとおり、当社の事業においては、継続的に外部からの資金調達が必要となる可能性があり、その手段として、株式発行が繰り返し行われた場合には、当社の株式価値が希薄化する可能性があります。
また、当社は、業績向上に対する意欲向上を目的としてストック・オプション制度を導入しており、会社法の規定に基づく新株予約権を当社グループの従業員に付与しております。2024年3月末現在、新株予約権の対象となっている株数は6,567,640株であり、当社発行済株式総数の93,131,848株に対する潜在株式比率は7.1%に相当しております。これらの新株予約権が行使された場合は、当社の株式価値が希薄化する可能性があります。
⑨配当政策について
当社は、株主に対する利益還元を経営課題と認識しており、内部留保の充実状況及び企業を取り巻く事業環境を勘案し、利益還元政策を決定していく所存であります。
しかしながら、当社は成長過程にあり内部留保が充実しているとはいえず、創業以来配当を行えておりません。また、現時点ではミッションの達成に向けた研究開発投資等に充当し、事業拡大を目指すことが株主に対する最大の利益還元に繋がると考えております。
将来的には、内部留保の充実状況及び企業を取り巻く事業環境を勘案し、利益還元を行うことを検討してまいりますが、現時点において配当実施の可能性及びその実施時期については未定であります。
⑩海外募集による調達資金使途について
2024年3月に実施した海外募集により調達した資金の使途につきましては、主にミッション3の実行にむけた研究開発資金に充当する予定であります。しかしながら、当社グループが属する業界の急速な変化により、当初の計画通りに資金を使用した場合でも、想定通りの投資効果をあげられない可能性があります。
⑪内部管理体制について
当社では、今後の事業運営及び業容拡大に対応するため、内部管理体制について一層の充実を図る必要があると認識しており、業務の適正性及び財務報告の信頼性の確保、さらに健全な倫理観に基づく法令遵守の徹底のため内部管理体制を充実・強化させていく方針であります。しかしながら、事業規模に応じた内部管理体制の整備に遅れが生じた場合は、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(4)当社その他のリスク
①ビジネスモデルについて
当社のビジネスモデルや宇宙産業は草創期にあり、成長可能性の評価には多くの不確実性が伴います。特に、本書提出日現在、当社はミッション完遂の経験を有していないため、当社のビジネスモデルの実行可能性を評価するための実績がありません。「Ⅱ.ビジネスモデル等の自社の事業に関するリスク(1)当社開発・ミッションに関するリスク①ミッションの未達について」をご参照ください。
当社のビジネスモデルは、地球と月の間に広がるシスルナ経済圏、関連する輸送・データサービス市場が将来成長するという前提に立っております。上述のとおり、シスルナ経済圏の将来的な発展には多くの不確定要素があり、また、シスルナ経済圏もまた草創期のため、その予測は困難です。例えば、当社のビジネスモデルでは、シスルナ経済圏がPwCの「ロードマップ評価」に基づいて発展すると仮定していますが、この評価では、当社の「ムーンバレー2040」ビジョンに沿って、2040年以降に1,000人が月面で生活し、仕事をするようになると想定しています。一方、シスルナ経済圏の実際の成長は、このロードマップ評価とは大きく異なる可能性があります。さらに、シスルナ経済圏の発展に関する当社のその他の重要な仮定(月の水の量とアクセス可能性、将来の宇宙活動における水の需要、月の水を利用するためのコストなど)は推測に基づくものであり、将来的に不正確であることが判明する可能性があります。さらに、月データサービス市場の発展は、月輸送市場よりも長期間にわたると予想されるため、この市場の成長に関する当社の仮定は、月輸送市場に関する仮定よりもさらに不確実となります。
シスルナ経済圏の発展に関する不確定要素に加え、当社の事業展開自体にも、事業歴が浅い故の不確定要素が存在しております。当社のビジネスモデルは、合理的と考えられる複数の仮定のもと構築されておりますが、これらの仮定は将来不正確であることが判明する可能性があります。これらの仮定に関するリスクに以下のようなものが含まれますが、これらに限定されるものではありません。
・ミッションスケジュールは、本「事業等のリスク」のセクションの他の箇所で説明されているものを含め、多くの要因に基づいて変更される可能性があります。当社は過去に複数回ミッションスケジュールを延期しており、今後も延期する可能性があります。
・当社は、ミッションの頻度や各ミッションの販売可能なペイロード重量が時間の経過とともに増加し、それに伴い将来的に当社のペイロードサービスに対する顧客からの一定の需要増加を想定しております。しかし、こうした想定は、今から何年も先に計画される将来ミッションに関するものもあり、特にそうした想定需要のほとんどは法的拘束力のないMOU等さえ締結していないため、大部分が推測に基づきます。さらに、ビジネスモデルの検討にあたり現在締結済みのPSA及びMOU等の契約を考慮にいれておりますが、これらの契約に基づき想定される需要が将来のミッションにおける実際の顧客ペイロード需要と一致する保証はありません。したがって、実際の需要の水準や、その期間にわたってペイロードサービスを供給する当社の能力は不確実性が高く、当社の現時点における想定と大きく異なる可能性があります。
・当社のペイロードサービスに対する需要が十分にある場合であっても、ペイロードの構成等により想定以上にペイロードの搭載容量を消費し、販売可能なペイロード重量が想定より減少する可能性があります。また、歩留まり率の向上も想定しておりますが、設計上の技術的制約、想定を下回る需要、当社の顧客獲得能力による制約、その他の要因により、歩留まり率の向上を実現できない可能性があります。
・当社のビジネスモデルは、締結済みのPSAに加え法的拘束力のないMOU等の価格設定やその他の仮定に基づいて、ペイロードサービスの価格設定を想定しています。しかし、実際の価格設定は、競争の激化や、主要な政府出資プログラムの価格決定力を含むその他の要因により、想定よりも低くなる可能性があります。さらに、月周回軌道に投入する場合の価格設定は、月面着陸のペイロードよりも低くなると想定しています。従って、将来の顧客とサービスの組み合わせにより、当社の価格設定の前提がビジネスモデルで想定したものと大きく異なる可能性があります。現在、これらのサービスには確立された市場がなく、当社のペイロードサービスの価格は時間の経過とともにある程度下落すると想定していますが、これらの予測は、現在想定している競合環境、需要、コストを基に作成しており、その実現に相応の不確実性が見込まれます。
・ミッション4(ミッション3の収益認識期間がミッション4の収益認識期間と重複する場合はミッション3の一部を含む)から収益認識方針を原価回収基準から工事進行基準に変更する想定ですが、この変更が遅れる可能性があり、結果各ミッションの打上げ前に認識・計上される売上高が想定よりも小さくなる可能性があります。
・当社の実際のコストは、さまざまな要因により、想定を上回る可能性があります。例として、打上コストの増加、ミッションを重ねることでランダー開発等に係るコスト削減を実現できないこと、研究開発コストが現在の計画を上回ること等、が考えられます。
これらまたはその他のリスクや不確実性が存在するため、当社が想定する売上高と費用は、当社の実際の将来の売上高や費用を示すものではありません。当社の実際の将来の売上高および費用は、シスルナ経済圏の発展および当社の事業に関連する多くの要因に左右され、当社の想定と大きく異なる可能性があります。
②将来の不確実性について
当社は2010年以降、宇宙輸送・インフラサービスの開発に注力してきましたが、これまでは主に研究開発業務に注力してきたため、パートナーシップサービスやミッション1、2、3に関する顧客からの支払いを中心に、比較的限定的な売上高しか計上しておらず、ミッションの打上げは1件のみで、まだミッションの成功には至っておりません。特に、ペイロード事業については2020年4月から売上高を計上開始したばかりであり、データサービスについてはまだ売上高を計上していません。このような限られた事業歴により、当社の将来の見通しや当社が遭遇する可能性のあるリスクや課題を精確に評価することは困難です。当社が直面した、あるいは直面すると予想されるリスクや課題には、以下のようなものがあります。
・売上高予測および支出管理・予算管理
・新規顧客の獲得及び既存顧客の維持
・効率的な事業運営と成長の継続(現在および将来のランダー、ローバーおよびサービスのための資本的支出の計画と管理、またそれに関連するサプライチェーンおよびサプライヤーとの関係構築を含む)
・法規制等の遵守(輸出管理規制等、当社の事業に適用される既存および新規または変更された法律および規制)
・マクロ経済の変化や当社が属する市場の変化の予見および対応
・当社の評判とブランド価値の維持・向上
・知的財産の創出と保護
・組織のあらゆる階層で有能な人材の採用、育成、定着
当社が直面するリスクや困難(上記に関連するものや、本「事業等のリスク」の他の箇所に記載されているものを含む)に対処できない場合、当社グループの事業、財務状況および業績に悪影響が及ぶ可能性があります。さらに、当社はまだミッションを完了しておらず、急速に発展する市場で事業を展開しているため、本書記載の過去の財務情報は、当社の将来の財務実績や成長見通しを評価する上で限定的な情報となります。当社は過去にも、また将来にも、急速に変化する業界において、事業歴の浅い成長企業が頻繁に経験するリスクや不確実性に遭遇する可能性があります。当社が事業計画や事業運営に使用しているこれらのリスクや不確実性に関する前提が誤っていたり変更されたりした場合、またはこれらのリスクにうまく対処できなかった場合、当社の業績は当社の予想と大きく異なる可能性があり、当社グループの事業、財務状況および業績に悪影響が及ぶ可能性があります。
③海外事業展開について
当社グループは、海外への事業展開にも取り組んでおり、ルクセンブルク大公国及び米国に連結子会社を有しております。これら子会社が所在している国の政治・経済・社会情勢・法規制等の影響により、事業遂行の不能等のカントリーリスクが顕在化する可能性があります。
さらに、海外での事業活動においては、当社の企業文化を保ちつつ優秀な人材を確保することが困難となるリスク、宇宙産業や宇宙資源開発に関する法規制に関するリスク、雇用や労働慣行に関する現地法規制に関するリスク、言語・慣習の違いや地理的分散によって経営陣によるコミュニケーションが困難となるリスク、輸出入規制・課税に関するリスク、法規制の変更に関するリスク、法規制の遵守に関するリスク、贈賄規制に関するリスク、知的財産権の保護に関するリスク、新型コロナウイルスを含む公衆衛生や渡航制限に関するリスク、政治・経済状況に関するリスク等が存在し、これらが顕在化した場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
④成長の継続について (顕在化の可能性:高/影響度:中/発生時期:特定時期なし)
私たちは事業拡大を続け、現在では日本、米国、ルクセンブルグにオフィスを構えており、将来の成長を支えるために今後も人員を増やしていく予定です。計画通りに事業が成長し続ければ、営業・マーケティング、研究開発、サービス提供部門等を拡大する必要があります。当社の成長を継続するためには、業務および管理プロセスとシステムを改善し続け、多数の有能な従業員を雇用、育成、モチベートしなければなりません。社内のリソースを効率的に拡大できなければ、当社の事業成長能力が損なわれる可能性があります。当社の事業が成長を続け、より複雑な組織構造を導入する必要が生じた場合、費用対効果が高く、効率的かつタイムリーな方法で当社のサービスを維持・改善することがますます困難になる可能性があります。
現在計画されている通りに、あるいは計画された期間内に事業を拡大できるという保証はありません。当社の継続的な成長により、当社のリソースへの負担が増大する可能性があり、従業員の雇用や育成、月着陸船や月面探査車、関連機器を製造する第三者の製造能力の確保の難しさ、製造の遅延等に直面する可能性があります。さらに、事業規模の拡大に見合った内部統制を維持・改善できなかった場合、サービスや業務の質の低下を招き、当社の評判を損なう可能性があります。こうした状況は経営陣や管理職が事業成長に集中できない環境を招き、財務および経営成績に影響を与える可能性があります。当社が相応の成長を継続できない場合、利益率や営業成績の低下に至り、当社グループの事業、財務状況、経営成績に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。
⑤システム障害等について
当社では、社内システムのセキュリティ対策やネットワークの監視等を行い、安定的に運用できるように対策を講じておりますが、サイバー攻撃や不正アクセス等により重要データの流出が発生した場合、ITインフラ機器の障害、コンピューターウイルスへの感染、自然災害、その他不測の事態が生じることによりシステムトラブル等が発生した場合や、第三者によるデータの不正使用等が生じた場合には、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
特に、本書提出日時点において当社のデータサービスについてのデータシステムを構築しておらず、当該システムの構築やアップデートを適切に行えない場合、想定以上に期間を要する場合や、当該システムに障害が生じた場合には、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑥当社グループのイメージ及びブランドについて
当社の事業活動において、イメージ及びブランドは、既存顧客との関係維持又は新規顧客の獲得にとって重要な要素であると認識しています。ミッション未達や遅延、当社サービスの不具合、サイバー攻撃、顧客データの管理に関する問題について、当社にとってネガティブな報道がされた場合、当社に不利益な風説が流布した場合、当社の従業員又は経営陣による違法又は不適切な行為のあった場合その他当社のイメージやブランドに悪影響を与える事態が生じた場合や、同業他社に事故等が生じることにより月面探査に対するイメージが低下する場合には、当社の顧客が離反する又は当社が新規顧客を獲得できなくなることにより、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、第三者が当社の許可なく当社のブランド、商標、ロゴ等を使用した場合には、当社のイメージやブランドに悪影響が生じ、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑦法的規制等について
当社は、人工衛星等の打上げ及び人工衛星の管理に関する法律(宇宙活動法)に基づく人工衛星等の打上げに係る許認可、宇宙資源の探査及び開発に関する事業活動の促進に関する法律(宇宙資源法)に基づく資源の探査及び開発に係る許認可、並びに、当社完全子会社である株式会社ispace Japanで取得すべきランダー等の当社宇宙機が宇宙空間から地上に向けて電波を発するに当たっての電波法等の許認可を除き、現状想定している当社の事業を制限する直接的かつ特有の法的規制は本書提出日現在において存在しないと考えております。宇宙活動法、宇宙資源法及び電波法については、当社が実施する各打上ミッションごとに許認可を取得する必要がありますが、ミッション1の宇宙活動法に係る許認可については関係省庁との協議を実施し、2022年11月4日付で許認可を取得しております。宇宙資源法に関しましても、同様に2021年12月23日施行後に関係省庁とコンタクトを取り始め、2022年11月4日付で許認可を取得いたしました。また、電波法に関しては、免許取得の前提となる国際電気通信連合(ITU)との宇宙空間で使用する電波の周波数の調整が完了し、電波法に基づく無線局免許取得に向けた総務省とミーティングを重ね、2022年9月7日付で予備免許を取得しております(本免許につきましては、制度上、ミッション1において当社のランダーが月面に着陸した後に取得する予定となっておりました。)。
上記以外にも、当社が事業収益を見込む市場は、現在グローバルでも草創期に当たっており、今後当社の事業を直接的に制限する法的規制がなされた場合には、当社の事業展開は制約を受ける可能性があります。例えば、上記の宇宙資源法上、当社が採掘等をした宇宙資源について、当該採掘等をした者が所有の意思をもって占有することによってその所有権が認められていますが、今後の国際的枠組み等で所有権を規制された結果、所有権に関して制約を受ける可能性は否定されません。また、いわゆる宇宙5条約等についても、惑星汚染への対策(宇宙条約第9条)、及び、第三者への損害発生時の対応(宇宙損害責任条約第2条及び第3条)等において当社の事業活動に影響を及ぼす可能性があります。「資源採取の適法性(宇宙条約第2条)」については、月面で展開をする当社の宇宙機(又は当社ランダーに搭載した他社のペイロード)が月面の環境を汚染しないかという問題がありますが、国際宇宙空間研究委員会が定める惑星保護方針に準拠する方法で当社事業を進めるよう準備をしており、宇宙条約第9条が当社事業の障害となるおそれ(問題の発生可能性)は低いものと考えております。また、「第三者への損害発生時の対応(宇宙損害責任条約第2条及び第3条)」につきましては、打上ロケットから切離し後に仮に当社の宇宙機が第三者に損害を与えた場合には「打上国」である日本が責任を負う可能性があり、その場合には生じた損害につき、当社も求償を受けるリスクがありますが、他衛星への衝突リスク等については、(i)宇宙活動法に基づく打上許可に際して内閣府にて事前に十分審査されておりますのでそのリスクは低いと考えており、また、(ii)宇宙損害責任条約上は宇宙空間で生じた第三者損害については「過失責任」であるところ、法的には宇宙空間で生じた損害については予見可能性がないという点で「無過失」を主張する余地も残されていることから、現時点で当社事業の大きな障害となる規定ではないと評価しております。なお、打上ロケット切離し前の第三者損害に関しましては、打上業者であるSpaceXが責任を持つ契約内容となっておりますので、基本的に当社の事業上のリスクは極めて低いと理解しております。当社としては引き続き法令を遵守した事業運営を行うべく、法令順守体制の強化や社内教育等を行っていく方針ですが、今後当社の事業が新たな法的規制の対象となった場合には、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
加えて、当社では、ITAR(武器国際取引に関する規則)、EAR(米国輸出規則)及び外国為替及び外国貿易法(外為法)の対象となる技術情報を取り扱っております。当社においては米国製の慣性航法装置がITAR管理品に該当し、ランダー開発に用いる品目にはEAR及び外為法管理品が多数含まれることから、輸出管理を統括する専門部署を設置し厳格に輸出管理を行っております。また、輸出管理規制に関してeラーニングによる社内研修を実施することで全役職員への周知徹底も図っておりますが、規則を遵守できなかった場合には法的な処分を受け、また、社会的な信用の失墜等を招き、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
⑧特定人物の依存について
当社の代表取締役CEOである袴田武史は、当社の創業者であり、設立以来当社の経営方針及び事業戦略の立案や、その遂行において重要な役割を担っております。当社は特定の人物に依存しない体制を構築すべく、幹部社員への情報共有や権限の委譲によって代表取締役CEOに過度に依存しない組織体制の整備を進めておりますが、何らかの理由により代表取締役CEOの当社における業務遂行が困難になった場合やその他の当社経営陣及び重要な従業員が当社から離職する場合、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑨人材の確保と育成について
当社が今後更なる成長を成し遂げていくためには、優秀な人材の確保が重要課題の一つであると認識しております。当社は現在も人材紹介会社を利用した中途採用を実施し、従業員からの紹介による採用(リファラル採用)制度を導入するとともに外部業者を活用する等、多様なチャネルを用いて優秀な人材の確保を進めておりますが、ミッション数の増加やデータサービスの立ち上げ及び拡充に伴う今後の事業拡大のためにはより一層の多様かつ優秀な人材採用が必要となります。これらの人材を十分に採用できない場合や、あるいは在職中の優秀な従業員が退職する等した場合には、当社の事業拡大の制約となり、その結果、ミッションの遅延が生じる等、当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑩知的財産権について
当社は、事業運営の際に第三者の知的財産権侵害等が起こらないよう、弁護士事務所への照会等を実施し慎重に調査・検討を行っておりますが、第三者の知的財産権に抵触しているか否かを完全に調査することは極めて困難であります。このため、知的財産権侵害とされた場合には、損害賠償又は当該知的財産権の使用に対する対価の支払等が発生する可能性があり、その際には当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、当社の知的財産権が第三者により侵害された場合、営業秘密、ノウハウその他機密情報が外部に流出した場合には、当社の事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。加えて、当社のペイロードが獲得するデータに対して適切な保護が得られない場合には、今後の当社の事業、特にデータサービスにおけるデータプラットフォームの構築等に悪影響を及ぼす可能性があります。
⑪訴訟、係争について
当社では、本書提出日現在において業績に重大な影響を及ぼす訴訟や係争は生じておりません。
しかしながら、今後何らかの事情によって当社に関連する訴訟、係争が行われる可能性は否定できず、かかる事態となった場合、その経過又は結果によっては当社グループの事業及び業績に悪影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 財政状態の状況
(資産)
当連結会計年度末における資産合計は27,033,444千円となり、前連結会計年度末に比べ19,840,558千円増加いたしました。これは主に、現金及び預金が10,933,475千円、前渡金及び長期前渡金の合計額が3,895,445千円増加したことによるものであります。
(負債)
当連結会計年度末における負債合計は17,288,188千円となり、前連結会計年度末に比べ7,747,695千円増加いたしました。これは主に、新規借入を実施し短期借入金が4,596,662千円、長期借入金が1,142,667千円増加したことによるものであります。
(純資産)
当連結会計年度末における純資産の残高は9,745,256千円となり、前連結会計年度末に比べて12,092,862千円増加いたしました。これは主に、新規上場及びその後の海外募集に伴う公募増資等により資本金及び資本準備金がそれぞれ7,682,478千円増加したことによるものであります。なお、2023年6月28日開催の定時株主総会の決議により、2023年6月28日付で資本準備金を8,556,042千円減少し、その他資本剰余金に振り替えております。また、振り替えたその他資本剰余金を繰越利益剰余金に振り替え、欠損填補を行っております。
② 経営成績の状況
当社グループは、人類の生活圏を宇宙に広げ、持続的な世界を実現するべく、「Expand our planet. Expand our future.」をビジョンに掲げ、月面開発の事業化に取り組んでいる次世代の民間宇宙企業です。
当連結会計年度における世界経済は、引き続きロシアによるウクライナ侵攻やイスラエル・パレスチナ紛争の激化など、各地域で緊迫した情勢が続く中、物価の高騰によるインフレーション、また大幅な円安の進行等、見通しが不透明な状況が続いております。
かかる環境下ではあるものの、当社グループが属する宇宙資源開発の分野では、アメリカ航空宇宙局(the National Aeronautics and Space Administration、以下「NASA」という。)が推進する有人月探査計画であるアルテミス計画において、月面における平和的・友好的かつ透明性ある活動のガイドラインとなる「Artemis Accords(アルテミス協定)」に、当連結会計年度には11か国(チェコ、スペイン、インド、ドイツ、アイスランド、オランダ、ブルガリア、アンゴラ、ベルギー、ギリシャ及びウルグアイ)が新たに合意し、さらに2024年4月にはスイス、スウェーデン、スロベニアが合意するなど、日本と米国を含む全39の国及び地域(2024年4月末時点)が調印し、引き続き活発な進捗が見られております。
日本政府においても画期的な進展があり、日本政府が主導する「中小企業イノベーション創出推進事業」として「月面ランダーの開発・運用実証」が経済産業省の実施するテーマに選定され、当社が予算額(補助上限)120億円の補助対象事業として採択されました。中小企業イノベーション創出推進事業は、日本のイノベーション創出を促進するためのSBIR(Small Business Innovation Research)制度の下、革新的な研究開発を行うスタートアップ等が社会実装に繋げるための大規模技術実証を実施し、日本におけるスタートアップ等の有する先端技術の社会実装の促進を図ることを目的とするものです。また2023年11月には、民間企業・大学等による複数年度にわたる宇宙分野の先端技術開発や技術実証、商業化を支援するため、宇宙航空研究開発機構(JAXA)に10年間の「宇宙戦略基金」を設置し、総額1兆円規模の支援を行うことを目指すことが閣議決定されました。さらに2024年4月には、日本の月面与圧ローバー提供及び運用と米国によるアルテミス計画での日本人宇宙飛行士による2回の月面着陸の機会提供などを含む「Lunar Surface Exploration Implementing Arrangement」への署名に関する共同声明が日米両政府により発表されるなど、月面開発への具体的な政府の取り組みが大きく進捗した年となりました。
このような状況の中、当社グループは、ミッション1の月面着陸船(以下「ランダー」という。)を打上げ、2023年4月までの間に、事前に設定したミッション完了までの10個のマイルストーンの内、Success8「月周回軌道上での全ての軌道制御マヌーバの完了」までを完了いたしました。Success9「月面着陸の完了」は未達となりましたが、当社はランダーのハードウェアの実証と、月面着陸フェーズでの貴重なフライト・データの取得を実現しております。なお当社は、ロケット打ち上げから月面着陸までに発生するリスク(着陸後の通信の確立を含む)を総合的に補償する「月保険」を契約しておりましたが、ミッション1ランダーによる月面着陸が確認できなかったことに伴い、当該契約に基づき保険金3,793,660千円を受領し、第2四半期連結会計期間において特別利益として計上しております。また、その後の解析によってSuccess9未達の要因を解明し、ミッション2以降の成功確率を高めるべく今後の改善点を明確にしております。売上面においては、当連結会計年度にミッション1の完了に伴う一時的な売上を計上した他、2024年冬に打ち上げを予定しておりますミッション2及び2026年に打ち上げを予定しておりますミッション3についても、それぞれのランダー開発を進捗させるとともに、ペイロードサービスの契約済み顧客からの売上計上を進捗させ、かつ新規顧客の獲得を推進しております。また、当社グループの活動をコンテンツとして利用する権利や広告媒体上でのロゴマーク露出、データ利用権等をパッケージとして販売し技術面や商品開発面での協業を行うパートナーシップ事業においても、既存パートナー企業とのパートナーシップ関係を推進するとともに、ミッション2までを対象とする「HAKUTO-R」の新規顧客獲得を推進いたしました。
以上の結果、当連結会計年度における売上高は2,357,055千円(前期比138.3%増)、営業損失は5,501,696千円(前期は11,023,904千円の営業損失)、経常損失は6,097,990千円(前期は11,378,300千円の経常損失)、親会社株主に帰属する当期純損失は2,366,265千円(前期は11,398,248千円の親会社株主に帰属する当期純損失)となりました。
なお、当社グループの事業は月面開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
③ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ13,450,957千円増加し、当連結会計年度末には16,832,893千円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動により使用した資金は5,024,543千円(前連結会計年度は7,322,198千円の使用)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失2,347,592千円、長期前渡金の増加額3,113,742千円等によるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は2,062,916千円(前連結会計年度は90,086千円の使用)となりました。これは主に、有形固定資産の取得による支出2,022,942千円等によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果獲得した資金は20,366,898千円(前連結会計年度は4,364,028千円の獲得)となりました。これは主に、株式の発行による収入14,822,528千円等によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社グループが提供するサービスの性格上、生産実績の記載になじまないため、記載を省略しております。
b.受注実績
当連結会計年度の受注実績をサービスごとに示すと、次のとおりであります。
サービスの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
|||
受注高 (千円) |
前年同期比 (%) |
受注残高 (千円) |
前年同期比 (%) |
|
ペイロードサービス |
7,934,854 |
- |
8,914,193 |
322.5 |
その他 |
15,150 |
2.2 |
416,131 |
80.4 |
合計 |
7,950,005 |
1,142.0 |
9,330,325 |
284.4 |
(注)1.当連結会計年度において、受注実績に著しい変動がありました。これは、当連結会計年度のペイロードサービスにおきまして、大型案件を受注したことによるものです。
2.パートナーシップサービスについては、その事業の性質上、受注生産形態になじまないため、受注実績は記載しておりません。
3.当社グループは単一セグメントであるため、サービスごとに記載しております。
c.販売実績
当連結会計年度の販売実績は、次のとおりであります。なお、当社グループは、月面開発事業の単一セグメントのため、セグメント別の記載はしておりません。
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
|
金額(千円) |
前年同期比(%) |
|
月面開発事業 |
2,357,055 |
238.3 |
(注)1.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。
相手先 |
前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
||
金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
The Charles Stark Draper Laboratory, Inc. |
- |
- |
1,209,386 |
51.3 |
Mohammed Bin Rashid Space Centre |
278,248 |
28.1 |
270,504 |
11.5 |
European Space Agency |
363,243 |
36.7 |
135,731 |
5.8 |
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
① 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成されております。この連結財務諸表の作成にあたっては、経営者による会計方針の選択・適用、資産・負債及び収益・費用の報告金額並びに開示に影響を与える見積もりを必要としております。経営者は、これらの見積もりについて過去の実績や現状等を勘案し合理的に判断しておりますが、見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りとは異なる場合があります。
当社の連結財務諸表を作成するにあたって採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。
② 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.経営成績
(売上高)
当連結会計年度の売上高は前連結会計年度に比べて1,367,813千円(138.3%)増加し、2,357,055千円となりました。これは主に、2021年4月以降順次顧客獲得を進捗させているペイロードサービスの売上が増加したことによるものであります。
(売上原価、売上総利益)
当連結会計年度の売上原価は、前連結会計年度に比べて992,343千円(227.4%)増加し、1,428,811千円となりました。これは主に、ミッション2およびミッション3の開発を並行して進めたことによるものであります。この結果、売上総利益は前連結会計年度に比べて375,470千円(67.9%)増加し、928,243千円となりました。
(販売費及び一般管理費、営業損失)
当連結会計年度の販売費及び一般管理費は、前連結会計年度に比べて5,146,737千円(44.5%)減少し、6,429,939千円となりました。これは主に、当連結会計年度はミッション2及びミッション3の開発も並行して進めた一方で、前連結会計年度において2022年12月11日にミッション1の打上げを完了したため、研究開発費の計上額が相対的に減少したことによるものであります。
その結果、営業損失は5,501,696千円(前年同期は11,023,904千円の営業損失)となりました。
(営業外収益、営業外費用、経常損失)
当連結会計年度の営業外収益は、前連結会計年度に比べて556,327千円(530.9%)増加し、661,112千円となりました。これは主に、為替差益641,007千円を計上したことによります。
営業外費用は、798,225千円(173.8%)増加し1,257,406千円となりました。これは主に、借入金増加に伴う支払利息367,997千円の計上(前期支払利息は196,155千円)、新規上場に伴う上場関連費用470,789千円及び海外募集に伴う公募増資を行ったことに伴う資金調達費用320,787千円によるものであります。
その結果、経常損失は6,097,990千円(前年同期は11,378,300千円の経常損失)となりました。
(特別利益、特別損失、税金等調整前当期純損失)
特別利益は、受取保険金3,793,660千円及び新株予約権戻入益52千円を計上しております。また、特別損失は、自己新株予約権消却損43,315千円を計上しております。
その結果、税金等調整前当期純損失は2,347,592千円(前年同期は11,378,647千円の税金等調整前当期純損失)となりました。
(法人税等、親会社株主に帰属する当期純損失)
法人税等は、主に法人税、住民税及び事業税18,673千円を計上したことにより927千円(4.7%)減少し、18,673千円となりました。
その結果、親会社株主に帰属する当期純損失は2,366,265千円(前年同期は11,398,248千円の親会社株主に帰属する当期純損失)となりました。
b.財政状態
主な増減内容については、「(1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態の状況」に記載のとおりであります。
③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容については、「(1)経営成績等の状況の概要 ③ キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。
当社グループは、安定的な事業収益化を目指す上で将来的に継続的なミッションの実現が必要であり、2022年12月11日に打上げを実施したミッション1だけでなく、後続ミッションであるミッション2及びミッション3のランダー開発も既に着手しており、今後も積極的に開発活動を推進してまいります。当社の資金需要として主なものは、ランダー開発のための部材調達費用、事業の拡大に伴う人件費、打上げ費用等です。必要な資金は自己資金、金融機関からの借入及びエクイティファイナンス等で調達していくことを基本方針としております。なお、これらの資金調達方法の優先順位等に特段方針はなく、資金需要の額や使途に合わせて柔軟に検討を行う予定です。
現預金保有残高については、2024年3月期末における現金及び現金同等物が16,832,893千円であり、必要な流動性を確保しております。
④ 経営成績に重要な影響を与える要因について
当社グループの将来の財政状態及び経営成績に重要な影響を与えるリスク要因については、「3 事業等のリスク」に記載しております。
⑤ 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載のとおりです。
⑥ 経営者の問題認識と今後の方針について
経営者の問題認識と今後の方針については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。
(1)技術援助等を受けている契約
契約会社名 |
相手方の名称 |
国名 |
契約締結日 |
契約内容 |
契約期間 |
㈱ispace (当社) |
THE CHARLES STARK DRAPER LABORATORY, INC. |
米国 |
2018年6月1日 |
ミッション1,2を対象とする着陸誘導制御ソフトウェア開発契約 |
2018年6月1日から 開発サービス終了日まで |
㈱ispace (当社) |
THE CHARLES STARK DRAPER LABORATORY, INC. |
米国 |
2018年6月1日 |
着陸誘導制御ソフトウェアのライセンス許諾契約 |
2018年6月1日から 利用停止時まで |
㈱ispace (当社) |
SPACE EXPLORATION TECHNOLOGIES CORP. |
米国 |
2018年6月29日 |
ミッション1から3を対象とするロケット打上契約 |
2018年6月29日から 打上サービス終了日まで |
(2)当社グループが技術援助等を与えている契約
契約会社名 |
相手方の名称 |
国名 |
契約締結日 |
契約内容 |
契約期間 |
ispace technologies U.S., inc. (当社子会社) |
THE CHARLES STARK DRAPER LABORATORY, INC. |
米国 |
2023年1月26日 |
NASA CLPSに係る請負契約(※) |
2022年8月10日から 2025年5月31日まで |
(※)当該請負契約の概要については、前記「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)経営戦略等及び(3)経営環境」をご参照ください。
当社グループは月着陸、月面探査プロジェクトの達成に向けて、ランダー及びローバーの開発を実施しております。現在の研究開発は、当社のCTO室で実施されており、当連結会計年度における研究開発費の総額は、
ランダーの様な大規模システムを高い品質を保ちながら確実に効率よく開発するための手法としては、1961年から1972年にかけてNASAが実施したアポロ計画の知見を踏まえ「段階的プロジェクト計画」(Phased Project Planning:PPP)が生み出されました。以来、この手法をベースとして多数の民間企業による人工衛星の開発が行われており、JAXAもまた「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」として同様の手法を提唱しています。本手法の概要は、開発全体を複数のフェーズに区分し、各フェーズで行うべき作業内容を段階的に定義しながら、それぞれのフェーズにおける結果を審査により評価し、次フェーズへの移行可否を判断しながらフェーズを進めていくものであり、これにより可能な限りの不具合・エラー等を事前に検知し、ミッションまでに確かな開発品質へと高めていく手法です。当社のランダー開発もまた、機能面において人工衛星と近似する部分を多く有しているため、基本的には既存の人工衛星開発のプロセスである「段階的プロジェクト計画法におけるシステムエンジニアリング活動」を踏襲して進められています。
当社のミッション1の開発においては、2018年下期に最初のPDR(Preliminary Design Review:仕様値に対する設計結果、設計検証計画の実現性を確認する審査会)の実施を経てフェーズB(基本設計)を完了し、その後2021年9月以降にミッション1のランダー開発に係るCDR(Critical Design Review:製造と試験の詳細設計と検証計画が適正かを、これまでに実施した試作評価、熱構造特性の評価、電気機械設計等の評価を活用して確認する審査会)を経て、フェーズC(詳細設計)を完了いたしました。CDRは、ミッション要求からシステム仕様を経て設計結果に至るまでの一貫した整合性・実現性、開発計画を審査するものであり、一般的に宇宙機の開発において、設計段階が完了しモノ作りとしての製造段階への移行可否を判断する、開発上の中でも重要なマイルストーンとされています。CDRの実施に際しては、JAXA等の宇宙機関、民間企業、教育機関等、開発の各分野における外部専門家をレビュアーとして招聘し審議を頂きました。一連の審査過程においては、社内エンジニアとは離れた中立的な外部専門家の立場から、設計(システム設計全般や帯放電環境等について)、試験(フライトモデルシステム試験計画等について)、運用(軌道設計等について)に関する一連の流れについて審査を頂きました。その結果、当社が実施したミッション1のランダー開発について、開発計画、設計の成果と、CDR後に実施する試験、運用の計画検討を審査頂いた結果、適切に進められていることをご確認頂いております。
CDRの完了後、ランダーはフェーズD(制作・試験)の段階へと開発フェーズを移行し、必要な加工やテストなどが完了したコンポーネントが段階的にランダーシステムへと組み立てられ、当社のミッション1においては、2022年10月までにすべてのランダー製造工程及び最終試験が完了しました。その後、打上地である米国へ輸送の上、ロケットへの搭載作業、燃料充填等の最終準備を完了させ、2022年12月11日に米国フロリダ州ケープカナベラル宇宙軍基地 40射点より打上を実施しております。当社のランダーは打上後、約4か月をかけて低エネルギー遷移軌道と呼ばれる軌道を通って月周回軌道に達し、その後月周回軌道上で約1か月間の航行を経て、日本時間の2023年4月26日に月面着陸に臨みました。この間、当社ランダーは日々細かい問題に対処し解決しつつも、基本的に順調に月までの航行を行い、負荷の高いロケットの打上時や長期間の深宇宙航行を経た後もランダーに損傷が確認されず、過酷な環境に耐え得る構造設計が実証できたと考えられ、また複数回の軌道制御マヌーバを通して、当社のハードウェアは良好なパフォーマンスを実現することができました。ミッション1において、当社は10個のサクセス・マイルストーンを事前に設定しておりましたが(下図参照)、着陸シーケンスの前に計画されている全ての月軌道制御マヌーバを完了し、ランダーが着陸シーケンスを開始する準備が出来ていることを実証しました(Success8迄の完了)。その後、2023年4月26日(日本時間)には着陸シーケンスを実施しましたが、シーケンスの終盤、ランダーとの通信の回復が見込まれないことから、Success9「月面着陸の完了」および Success10「月面着陸後の安定状態の確立」の達成は困難と判断しました。
当社は、ミッション1の実施以降、継続的な高頻度ミッションの実現に向けて、現在、ミッション2、ミッション3及びミッション6に用いるランダーの開発を、日米の両法人を通じて並行して行っております。
ミッション2で使用されるランダーに関しては、ハードウェアは基本的にミッション1で使用したものと同様となりますが、ミッション1を通じて得られた貴重な実証データを活用し、軟着陸に至らなかった原因であるソフトウェア上の問題に対する改善策を反映しております。当社はこのミッション2で使用するランダーを「RESILIENCE」(日本語で「再起」・「復活」・回復」等の意味)ランダーと新たに命名し、現在、茨城県つくば市のJAXA施設(筑波宇宙センター)でAIT(組立・統合・試験)作業が順調に進捗中です。今後、SpaceX社のロケットに搭載の後、本年冬に打上を行うことを予定しています。
なおミッション2では、当社欧州子会社が開発するマイクロローバーを搭載することを予定しており、2023年11月にローバーデザインを発表後、2024年4月にエンジニアリングモデルの認定試験が完了しております。今後は、実際にランダーに搭載する機体となるフライトモデルの開発を進め、今年夏頃に日本へ輸送し、RESILIENCEランダーへ搭載される予定です。
2026年に打上を計画するミッション3では、現在「APEX1.0ランダー」の開発がコロラド州デンバーにある当社米国法人にて進められております。2023年12月には、ランダー設計の成熟度向上を目的に、PDRとCDRの間のマイルストーンとなるIDR(Interim Design Review)と呼ばれる中間設計審査を完了いたしました。APEX1.0ランダーはこれまでのRESILIENCEランダーから設計を変更し、ミッション3では最大300kgのペイロードが輸送可能となるサイズアップを計画しており、ミッション4以降は最大500kgまで搭載するペイロード輸送が可能となるような開発を目指しております。また複数のペイロードベイを備えたモジュール式のペイロードデザインを採用しているため、政府系、民間、科学分野などの、より幅広い顧客のペイロードに最適な柔軟性の高いデザインを目指しております。現行のスケジュールでは、2024年度中のCDRを予定しております。
ミッション6では、SBIR制度(Small Business Innovation Research)において経済産業省が実施する「中小企業イノベーション創出推進事業」の予算額(補助上限)120億円の補助対象事業として採択されたことを受け、2027年の打上を目指し、100kg以上のペイロードが輸送可能となるシリーズ3ランダーの開発を日本にて本格的に開始をしております。2024年度中のPDR及び2026年度中のCDRの実施を予定しております。
(注) 上記は、現時点での想定であり、今後、変更される可能性があります。