文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、以下の経営理念及びサステナビリティ方針のもと、企業活動を通じた社会課題解決への取り組みにより、持続可能な社会の実現に貢献するとともに、当社グループの企業としての持続的な成長を目指しております。
(2)経営戦略・経営指標
当社グループは、堅実な経営基盤を堅持しつつ、営業基盤の拡大を図るために新規投資を継続的に実施して、事業の発展を目指す方針であります。中長期的に新規優良物件に対する投資を継続して推進するとともに、既存施設の見直しも進めて、経営効率の改善及び健全な財務体質の維持に努めてまいります。
この方針の下、より高い利益成長と高い資産・資本効率を実現するためには、当社グループを取り巻く外部環境の変化に対応できる基盤や体制の一段の整備を図るとともに、新経営体制のもと2048年に迎える創立100周年を見据えた成長基盤の確立とESGを意識したサステナブル経営推進のための改革が必要と考え、2024年3月期から2033年3月期の10ヵ年を対象とする長期経営計画を策定いたしました。




本計画については2期に分けて計画を推進してまいります(フェーズⅠ:2024年3月期から2028年3月期、フェーズⅡ:2029年3月期から2033年3月期)。本計画期間を通じて長期保有資産の積み上げを継続的に進めていくとともに、計画の各フェーズに応じて、新規事業の収益化に向けた準備、成長基盤強化と環境変化に対する体制強化(フェーズⅠ)、新規事業の収益実現(フェーズⅡ)を図ってまいります。具体的には、健全な財務体質を堅持しつつ、多様なアセットタイプや、きめ細かいビル管理等の当社グループが持つ従来の強みを活かした成長促進を図るとともに、資産回転型事業による資産の拡充と組み換え、エクイティ投資・海外投資、一段と多様なアセットタイプへの投資等に取り組むことで、ストック事業とフロー事業のバランスのとれた収益構造への転換や、景気変動リスクを低減し、安定した収益基盤の拡充を図る方針です。そして、フロー事業への取組等によるROA向上を目指し、結果としてROEの改善・向上の実現を目指します。また、1株当たり利益を重視した安定的な配当・増配を継続し、本計画期間中の配当性向は45%程度を目指してまいります。
併せて本計画では、GHG排出量削減目標やグリーンビル認証取得面積率の目標設定など、当社グループのマテリアリティ(重要課題)に紐付く取組課題・KPIの決定とその進捗管理を図っていくとともに、人材育成や多様な人材の確保など長期経営計画を支える人員構成とすべく、人的資本経営に向けた取組の強化を図るなど、ESGを意識したサステナビリティ戦略も推進してまいります。
本計画の達成状況を判断するための客観的な指標は以下のとおりであります。なお、本計画においては、投資手法の多様化を事業戦略の一環としていることから、償却前事業利益(事業利益(営業利益+投資事業組合運用損益等)+減価償却費)を重要な経営指標としております。(なお、当社の収益力をより適切に表すため、償却前事業利益の計算式を「事業利益(営業利益+持分法投資損益)+減価償却費」から変更しております。)
① 業績計画(数値目標)
※ 財務規律を維持する上での下限値として設定しておりますが、長期経営計画最終年度の2033年3月期末の自己資本比率は40%程度を計画しているなど健全な財務体質を堅持していく方針です。
② 投資計画
(3)優先的に対処すべき事業上の課題
今後のわが国経済は、アフターコロナへの移行に伴うインバウンド需要の増加等、社会経済活動の正常化が進むこと等による景気持ち直しが期待されるものの、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中東情勢の緊迫化などが懸念され、世界経済の減速リスクや、物価や金利、為替動向の影響などには注視が必要で、依然として先行きは不透明な状況が続いております。
不動産賃貸業界におきましては、企業収益の回復や、アフターコロナ移行後の出社回帰の動きなどもあって足下の空室率はやや落ち着きをみせてはおりますが、都心部などでの新規物件の供給圧力もあり将来見通しは楽観視できないと考えられます。また、GHG排出量削減をはじめ脱炭素社会の実現に向けたサステナビリティへの取組も求められております。
こうした事業環境の変化に対処すべく、前項「(2)経営戦略・経営指標」にて記載のとおり、当社グループは2024年3月期から2033年3月期の10ヵ年を対象とする長期経営計画を策定いたしました。本計画に掲げる重点施策の中でも特に「次なる成長へ向けた新規事業投資戦略」と「ESGを意識したサステナビリティ戦略」の2点を重点的に対処すべき課題と捉え、取組を加速してまいります。特に重点的に対処すべき課題としております2点につきましては、以下のとおりです。
①次なる成長へ向けた新規事業投資戦略
(イ)首都圏を中心としたオフィス、物流倉庫、都市型商業ビルの取得
(ロ)昨今のデータ通信量の増加に応える新データセンタービル開発用地の取得
(ハ)フロー事業(資産回転型事業、エクイティ投資)への取組など投資手法の多様化
(ニ)アセットタイプの一段の多様化(法人向け賃貸レジデンス、ヘルスケア施設等)
(ホ)他社とのアライアンスも含めた海外投資の取組
②ESGを意識したサステナビリティ戦略
(イ)TCFD提言への取組を通じた気候変動問題への積極的な対応
(ロ)当社のマテリアリティ(重要課題)に紐付く取組課題・KPIの決定とその進捗管理(GHG排出量削減目標の設定、グリーンビル認証取得面積率の目標設定等)
(ハ)人的資本経営に向けた取組強化(人材育成、多様な人材確保、長期経営計画を支える人員構成、社内環境整備、DX推進等)
上記重点的に対処すべき課題に取り組みつつ、今後とも外部環境や不動産市況等の変化を機敏に捉えながら、長期経営計画を着実に推進することによってステークホルダーの皆様の負託に応えてまいります。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループは、取締役会で定めた「サステナビリティ方針」に基づき「サステナビリティ推進規程」を設け、この規程に従ってサステナビリティ推進に関する体制を整備しております。
社内体制につきましては、最高責任者を代表取締役社長、執行責任者を執行役員管理統括と定め、各種ポリシーや目標、施策の検討・立案を目的に「サステナビリティ委員会」を設置するとともに、体制整備や各種施策の実行を目的として「サステナビリティ推進室」を設置しております。なお、「サステナビリティ委員会」の委員長は代表取締役社長とし、委員会はサステナビリティ推進室員及び各部より任命を受けた委員で構成しております。

委員会は原則として3ヵ月に1回以上開催し、主に以下の事項について、各部門と協力しながら全社横断的に対応しております。
① サステナビリティに関する取組方針の検討
② サステナビリティに関するリスクと機会の特定・評価・管理
③ サステナビリティに関するリスクの低減・機会の拡大のための取組の状況の管理
④ サステナビリティに関する取組の進捗を管理するための指標と目標の設定
サステナビリティ最高責任者の代表取締役社長は、サステナビリティに関する取組について、委員会の出席者による各議題についての審議・検討を踏まえたうえで意思決定を行うこととしております。
これら委員会の活動内容につきましては、サステナビリティ執行責任者である執行役員管理統括が、年に1回以上経営会議及び取締役会あてに報告を行い、これにより取締役会はサステナビリティへの取組を監督しております。
また、取締役会が監督機能を適切に発揮し続けるための取組の一環として、取締役・監査役に対して毎年実施している研修のテーマにサステナビリティ課題を組み入れ、適切な知見の維持・向上にも努めております。
当社グループは、サステナビリティに関する取組が当社グループの事業活動に与える影響について、その重要性が相対的に高いと考えられるサステナビリティ課題から順次影響度を評価し、事業戦略に組み込むべきと考えております。
こうした考えのもと、当社グループが持続的な企業価値の向上と持続可能な社会の実現に向けて、重要度の高い課題の中から特に優先して取り組むべきものを、マテリアリティとして特定しております。

当連結会計年度の終了時点においては、当社グループが掲げるマテリアリティのうちE(環境)、S(社会)に関するものとして「気候変動に対するレジリエンス強化」「人的資本の向上・ダイバーシティ&インクルージョン」に関する取組を、特に重要性が高いものとして事業戦略に組み込んでおり、その内容については以下のとおりであります。
① 気候変動に対するレジリエンス強化
気候変動がもたらす当社グループへの財務的影響を評価し、当社グループの中長期的な事業戦略に組み込むため、TCFDが提言するフレームワークに沿って、シナリオ分析を行いました。
(イ)シナリオ分析の対象とした範囲
当社グループの事業活動全体を分析の対象としております。当社グループはオフィスビル、データセンタービル、ウインズビル(場外勝馬投票券発売所)、商業施設、物流倉庫等の賃貸事業と、それに付随するビル管理事業等を行っております。
(ロ)主に参照したシナリオ
TCFDの提言では、2℃以下を含む複数シナリオを踏まえて、自社の戦略のレジリエンスについて説明することが推奨されております。当社グループは主に以下のシナリオを参照しました。

(ハ)財務的影響度の評価手法
シナリオ分析を通じて特定したそれぞれのリスクと機会に対して、2030年までを「中期」、2050年までを「長期」と定義し、各時間軸における財務的影響度を下記の評価基準に基づき「高、中、低」の3段階で評価しました。併せて、累積的な影響についても検証を行っておりますが、現時点で大きな影響があるものは無いと判断しております。また、発生可能性についても「高、中、低」の3段階で評価しております。

財務的影響度の具体的な評価額の開示については、今後検討してまいります。
(ニ)1.5℃シナリオに基づく分析
(a)1.5℃シナリオにおいて特定した主要なリスクと機会
1.5℃シナリオでは、2050年のカーボンニュートラルに向けて事業の脱炭素化が強く求められると想定されます。当社が1.5℃シナリオにおいて発生可能性を「中」以上と認識する主要なリスクと機会は下記のとおりであります。

(b)リスクと機会を踏まえた取組
・省エネ機器への更新
1.5℃シナリオで想定される省エネ規制の強化に伴う対応コストを低減することを目的のひとつとして、設備の更新時期の到来やテナントの入れ替えといったタイミングに合わせて、照明や空調の省エネ機器への切り替えを順次進めております。これまでにオフィスビルを中心に照明のLED化を進めたほか、データセンタービルでは受変電設備、空調設備の省エネ機器への更新も順次行っております。
・グリーンビル認証の取得
環境性能の高いビルへの入居ニーズのさらなる拡大を見込み、外部評価を通じて保有するビルの状態を客観的に把握すると同時に、さらなる改善・向上のための参考とすべく、CASBEE不動産評価認証やBELS評価認証などのグリーンビル認証の取得を推進しております。
2024年3月期末におけるグリーンビル認証の取得実績につきましては、「指標及び目標」をご参照ください。
(ホ)4℃シナリオに基づく分析
(a)4℃シナリオにおいて特定した主なリスクと機会
4℃シナリオでは、気温上昇を抑えるための脱炭素化が1.5℃シナリオほど強く求められない一方で災害の激甚化が進み、防災・減災に対する社会からの要請が一層強まると想定されます。当社グループが4℃シナリオにおいて発生可能性を「中」以上と認識する主要なリスクと機会は下記のとおりであります。

(b)リスクと機会を踏まえた取組
・風水害対策への投資
4℃シナリオで想定される風水害の激甚化に伴う損害・対応コストの低減を図るため、保有物件において防潮板の設置のほか、予防保全の考えに則り、外部から引き込んだ電力を建物内に供給するための設備である、特別高圧受変電設備の上層階への移設や、屋上防水工事を実施するなど、浸水リスクの発生可能性低減に努めております。
・パートナー企業との協働訓練
4℃シナリオで想定される風水害の激甚化に伴う損害・対応コストの低減と、BCP性能の高いビルへの入居ニーズによる収益機会の拡大を目的のひとつに、ソフト面でのレジリエンス強化の取組として、ビルの管理・運営を担うパートナー企業と協働で定期的に訓練を実施しております。訓練では、水害を想定した防潮板の設置や外部からの電力供給遮断に備えた非常用発電機の稼働といったフローを実際に行っており、ハード・ソフト両面からのレジリエンス強化によって、テナント企業にとって信頼性の高い事業空間の提供に努めております。
② 人的資本の向上・ダイバーシティ&インクルージョン
当社グループは、多様な人格・個性・価値観をもつ従業員がそれぞれの能力を最大化することが多様化・複雑化する社会において当社グループが持続的な成長を実現するための基盤になると考えており、斯かる認識のもと、「人材育成方針」及び「社内環境整備方針」を以下のとおり定めております。
(イ)人材育成方針
(a)京阪神ビルディングは、「革新と効率を尊び、活力ある企業風土」を築くことを経営理念に定め、今後の持続的な成長の実現に向けて、企業風土の根幹をなす人材育成に注力してまいります。
(b)「会社の成長は従業員一人一人の成長の総和」との考えのもと、多様な人材の確保と従業員一人一人の人格・個性・価値観に応じた育成に積極的に取り組んでまいります。
(c)新卒・経験者採用の別、性別、年齢を問わず、多様な人材が適材適所で自律的に成長することを促します。
(人材育成に関する取組み)
・継続的な新卒採用と、経験者採用やシニア世代の積極的な活用等により、多様な人材の確保に努めます。
・従業員の職務・階層別研修、自己研鑽の機会提供を目的とした資格取得支援制度等によって一人一人のスキルアップを図ります。
(ロ)社内環境整備方針
(a)少人数で効率的な経営を実現するため、多様な人格・個性・価値観をもつ従業員がお互いを尊重し、全ての従業員が能力に応じて活躍できる職場環境を整備してまいります。
(b)生産性の向上と業務の効率化を図るとともに、従業員のワークライフバランスにも配慮した、多様な働き方を可能とする体制・制度の整備等により、従業員一人一人が最大限能力を発揮できる、安全で働きやすい職場環境づくりに努めます。
(社内環境整備に関する取組み)
・従業員が多様性を受容し、差別のない健全な職場環境を維持するために、人権研修等の社内啓蒙活動を推進しております。
・従業員を取り巻く環境の変化に拘らず、従業員一人一人が活き活きと働き、最大限のパフォーマンスを発揮できるように、育児・介護休業等の支援制度の充実に取り組むほか、書類の電子化や各種システムの導入を通じて、リモートワーク等の多様な働き方を可能とする体制の整備に努めております。

① リスクと機会を特定・評価するプロセス
サステナビリティ執行責任者の執行役員管理統括は、サステナビリティ推進室に対して少なくとも年に1回以上、サステナビリティ課題に関連するリスクと機会の識別及び評価を指示しております。
サステナビリティ推進室は、それぞれのリスクと機会について財務的影響度、発生可能性、投資対効果など検証を行い、その進捗及び評価結果をサステナビリティ委員会へ報告しております。
サステナビリティ委員会では、サステナビリティ推進室によって特定されたリスクと機会について、その財務的影響度と発生可能性についての評価結果をもとに、優先して対応すべきリスクと機会の優先順位付けを行っております。
② リスクと機会を管理するプロセス
サステナビリティ最高責任者の代表取締役社長は、優先順位の高いリスクと機会についてのサステナビリティ委員会での審議結果を基に、それぞれについて対応担当部署または担当者を指定し、その対応策の策定を指示しております。
指定された担当部署あるいは担当者が策定する対策案は、その内容に応じて、サステナビリティ委員会、リスク管理委員会、経営会議、取締役会あるいは社内の適切な委員会等の会議体において審議のうえ、全社の事業・財務計画に統合され、実行されております。
また、サステナビリティ課題に関するリスクはリスク管理委員会にも共有しており、サステナビリティ課題に関連するリスクの識別・評価・管理プロセスは、全社のリスク識別・評価・管理プロセスとの統合が図られております。
当社グループはサステナビリティに関する取組の進捗を管理するための指標と目標として、サステナビリティ委員会での審議・検討を踏まえたうえで、それぞれのマテリアリティに紐づくKPIを設定しております。
そのうち特に重要性が高いものとして「戦略」の欄に記載のマテリアリティ「気候変動に対するレジリエンス強化」「人的資本の向上・ダイバーシティ&インクルージョン」に関する指標と目標は以下のとおりであります。
① 気候変動に対するレジリエンス強化
主に移行リスクの低減および収益機会の拡大のため、保有物件からのGHG(温室効果ガス)および排出原単位について、以下の削減目標とKPIを設定しております。
Scopeごとの排出量をモニタリングするとともに、テナントやパートナー企業と協力し、継続的な削減に取り組みます。


なお、集計時期の都合により2023年3月期の数値を記載しております。2024年3月期の数値は、2024年7月頃に弊社ウェブサイト(URL https://www.keihanshin.co.jp/sustainability/) に公開予定です。
② 人的資本の向上・ダイバーシティ&インクルージョン
戦略に記載した方針に基づく取組についての指標と目標は以下のとおりであります。
(イ)新卒採用の女性比率(5年平均値)
目標:50%
2024年3月期実績:62.5%
経験者採用やシニア世代の活用については時代背景等の影響があり、現状では男性に偏りがありますが、今後当社グループの将来を担っていく新卒採用については人材の多様化を前進させるとともに、性別を問わず全ての従業員が能力に応じて活躍できる環境整備の指標としております。
(ロ)有給休暇消化率
目標:70%以上
2024年3月期実績:82.1%
従業員のワークライフバランスにも配慮した、多様な働き方を可能とする体制・制度の整備等により、従業員一人一人が最大限能力を発揮できる、安全で働きやすい職場環境づくりの推進のため指標としております。
(ハ)人材育成に係る投資額
目標:100千円/人
2024年3月期実績:118千円/人
「会社の成長は従業員一人一人の成長の総和」との考えのもと、従業員一人一人の人格・個性・価値観に応じた育成に取り組むべく、各階層に応じた研修実施等社内制度を見直し、外部のビジネススクールや研修に積極的に派遣し、スキル向上に取り組んだ結果、目標を過達いたしました。引き続き、従業員の成長の機会を幅広く提供していく予定であります。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
大規模な地震、風水害等の自然災害や突発的事故、火災、テロ等の人的災害が発生した場合には、当社グループの建物、設備が毀損、滅失又は劣化する等により当社グループの経営成績及び財政状態が影響を受ける可能性があります。
上記に対して当社グループは、BCP対応ビルへのリニューアルを適宜実施しております。新築ビルだけでなく、既存ビルについても災害に強いビルへの転換を図り、運用面でもBCP計画の準備・訓練を行うことにより、経営成績及び財政状態への影響抑制に努めております。
(2) 気候変動について
当社グループは気候変動を含む環境課題への対応を重要な経営課題の一つとして認識し、マテリアリティとして、「気候変動に対するレジリエンス強化」「環境負荷低減策による資源の持続可能な利用」等を掲げ、事業を通じて気候変動に関連する社会課題の解決に貢献できるよう、取組を進めていきます。
気候変動対応を含めたサステナブル経営を全社横断的に推進するため、社長を委員長と定め、各種ポリシーや目標、各種施策の検討・立案を目的とするサステナビリティ委員会の設置、また、体制整備や各種施策の実行を目的としてサステナビリティ推進室を設置し、環境課題への対応に努めております。
なお、想定を超える事業環境の急激な変化や省エネ規制の強化、建築コスト・資材価格等の高騰により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 土地建物賃貸事業について
当社グループは、土地建物の賃貸を主たる事業としております。
貸ビル等の賃貸事業は、景気動向、企業業績、需給動向などの影響を受けやすい傾向にあります。周辺の不動産賃貸市況の動向等によっては、賃貸料の低下や空室率の上昇により当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
また、当社は、不動産取得に付随して発生する不動産取得税及び登録免許税については取得時に費用処理しております。このため、当社が多額の不動産を取得した場合、不動産取得税及び登録免許税の費用計上により、当社の経営成績が大幅に変動する可能性があります。
なお、上記に対して当社グループは、オフィスビル、データセンタービル、ウインズビル(場外勝馬投票券発売所)、商業施設・物流倉庫等の多様な物件を賃貸しておりますので、市況変動の影響を受ける度合いは比較的低くなっております。
今後とも4つの事業をバランスよく発展させ、また新規投資に当たっては中長期的な採算を重視しリスクの低減に努めてまいります。
当社グループの賃貸物件は、大阪府(特に大阪市)を中心とした京阪神地区に集中しております。
土地建物賃貸事業の売上高のうち大阪府の割合は、2022年3月期79.5%、2023年3月期80.0%、2024年3月期78.8%と高い水準で推移しております。
従いまして、大阪地区における大規模な地震その他の災害、貸ビルの需給動向等により、当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
土地建物賃貸事業の売上高の地区別構成比
上記に対して当社グループは、関西圏への集中リスク低減のため、長期経営計画でも掲げているとおり、首都圏への投資を積極的に進めてまいります。なお、2023年6月には浅草駅前ビルを取得しました。
(5) 特定の取引先への依存度について
当社グループの売上高のうち、最近の2連結会計年度において販売依存度が総販売実績の10%を超える取引先は下表のとおりであります。
ウインズビル(場外勝馬投票券発売所)の賃貸は、1949年以来、当社グループの事業の中心を占めております。当社グループと日本中央競馬会は、原則として3年毎に賃貸料等の条件を見直すこととなっております。
エクイニクス・ジャパン㈱の売上高は、大部分が長期賃貸借契約に関連するものでありますが、同社との賃貸料については協議のうえ改定できるものとしております。
ソフトバンク㈱の2024年3月期における売上高の内1,563百万円(65.3%)が長期賃貸借契約に関連するものでありますが、同社とは原則として2年毎に賃貸料等の条件を見直すこととなっております。
上記3社への売上集中に対して当社グループは、既存ビルや新規ビルの開発・取得を通じ入居テナントの多様化を図るとともに、今後とも適切なサービスの提供、テナントリレーションの強化を通じて、退去リスクの低減、賃料水準の維持・改善に努めてまいります。
当社グループが保有する資産(土地、建物、投資有価証券等)について、時価下落や収益性低下等があれば、固定資産の減損会計、金融商品会計に基づく会計処理により、当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。
上記に対して当社グループは、土地、建物等の賃貸不動産については地域ポートフォリオの分散、立地を重視した投資を行うことによって、時価下落の影響を最小限に抑えるよう努めております。また、資産の入れ替え、バリューアップ等により、収益性低下の防止にも取り組んでまいります。投資有価証券については、個別銘柄毎に定量的及び定性的な観点を踏まえて、毎年取締役会において検証を行い、保有の意義が乏しいと判断される銘柄については売却を検討いたします。
新型コロナウイルス感染症の分類が5類に移行され、社会経済活動の正常化が期待されておりますが、今後この様な生命に重大な影響を及ぼす感染症が発生し蔓延した場合、当社グループの業績及び事業活動が大きく影響を受ける可能性があります。
当社グループでは従業員の健康と安全維持のため、就業規則の見直しや各種感染予防対策を講じてきました。新たな感染症の発生等により状況が大きく変化した場合には、政府や自治体の要請等も踏まえ、在宅勤務や時差出勤等の柔軟な働き方の促進に努めます。
(8) 有利子負債への依存度
当社グループは、営業地盤の拡充と安定化を目指し、賃貸不動産の新築・取得やエクイティ投資等を進めてきましたが、これらの設備資金や取得資金の多くを金融機関からの借入金及び社債発行により調達しております。有利子負債の大部分は固定金利でありますが、借換えや新たな投資のための将来の資金調達に関しては、金利の変動により当社グループの業績が影響を受ける可能性があります。また、今後の事業拡大に伴い有利子負債が増加する可能性があります。
なお、連結総資産に対する連結有利子負債の割合は下表の通りであります。
上記に対して当社グループは、外部格付を取得し、その維持・向上を目指すことにより財務統制を図ると共に、長期経営計画においても自己資本比率やネット有利子負債/EBITDA倍率の数値目標を掲げるなど、財務規律を維持し、健全な財務体質を堅持していく方針です。また、当社グループは、これまでの低金利環境を活かし、有利子負債の平均調達金利の低減に取り組んで参りました。そして、低金利のメリットを長期にわたり享受すべく、有利子負債のほとんどを固定金利で調達しており、平均返済期間の長期化にも取り組んできております。
当社グループにおいて、法令等に抵触する事態が発生した場合には、罰則や賠償等が課せられ社会的信用を損なうため、当社グループの事業活動に大きな制約を受けるとともに、経営成績や財政状態に大きな影響を受ける可能性があります。
上記に対して当社グループは、人事総務部を主管部門とし、各部よりコンプライアンス委員を選出し、コンプライアンス委員会を定期的に開催しております。同委員会においては、各部におけるコンプライアンス取組について項目ごとに検証するとともに、全社的な研修会を開催しており、法令等の遵守について周知徹底に努めております。
(10) 法令・税制の変更
当社グループは、土地建物賃貸を主な事業の内容とし、それに付随するビル管理等の事業活動を行っております。従って当社グループが営む事業は、主として不動産・建築等各種の法令や条例による規制を受けております。これらの変更によっては、当社グループの業績や業務遂行が影響を受ける可能性があります。また関連する各種税制の変更によっても、当社グループの業績や財政状態が影響を受ける可能性があります。
上記に対して当社グループは、関連する法令や税制の改定について常に情報を収集し、適切に対応してまいります。
(11) 情報セキュリティ
当社グループは、事業活動において入手した顧客情報や取引先情報などの重要情報をITシステム上で取り扱っております。それらの情報に関し、ウイルス感染やサイバー攻撃などにより重要情報が漏洩した場合、または不正アクセスにより損害を受けた場合、当社グループの事業活動に重大な影響が生じるだけでなく、社会的信用の喪失、お客様の喪失、損害賠償請求などが発生する可能性があります。
上記に対して当社グループは、これら重要情報の取り扱いにあたり、規程や管理体制の構築、従業員の教育、ウイルス感染や不正アクセスなどを防止するセキュリティ対策を実施し、継続的に強化を図っております。
当社グループは上記リスクのうち「自然災害、人的災害等」が特に重要なリスクとして認識しておりますが、当該リスクが顕在化する可能性や時期を予測することは困難であります。斯かるリスクが顕在化した場合は「土地建物賃貸事業について」「大阪地区における事業展開について」等に影響を及ぼすことになります。
当社グループを取り巻くさまざまなリスクについては、リスク管理の方法や対応方針などの基本事項を「リスク管理規程」として定め、この規程に基づき全体的なマネジメントを行うため、社長直轄の全社横断的な組織として「リスク管理委員会」を設置し対応しております。同委員会では、当社グループが持つリスクを一つ一つ認識・評価し、そのリスクの特性に応じた対策、対策の進捗管理と定期的な見直しを行っており、総合的なリスクの管理状況をとりまとめております。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
(1) 経営成績
当連結会計年度におけるわが国経済は、アフターコロナへの移行に伴うインバウンド需要の増加等、社会経済活動の正常化に伴い、緩やかな回復基調にあるものの、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中東情勢の緊迫化等により先行き不透明な状況が続いております。
不動産賃貸業界におきましては、働き方改革の進展によるリモートワークは一部で定着化しつつあるものの、企業収益の改善や出社回帰の動きを追い風に足下の空室率は比較的安定的に推移しております。
このような環境の中、当社においては営業活動に注力した結果、当期末時点の空室率は1.87%に留まり、引き続き高い稼働率を維持しております。加えて、当社は首都圏でのアセット強化の一環として、2023年6月に東京都台東区浅草で商業ビルを取得した他、首都圏オフィスビル等へのエクイティ出資を行うなど、次なる成長に向けた新規投資に積極的に取り組むと共に、既存ビルにおいては、自然災害への予防保全や省エネ化推進を図ることで資産価値向上に努めてまいりました。
その結果、当期の連結業績は、新規投資物件の寄与等により、売上高は19,310百万円と前期比431百万円(2.3%)の増収となりました。売上原価においては、租税公課や修繕費等の費用増加により、売上総利益は6,883百万円と前期比201百万円(2.8%)の減益となり、つれて営業利益は5,083百万円と前期比292百万円(5.4%)の減益、経常利益は4,842百万円と前期比198百万円(3.9%)の減益となりました。
また、親会社株主に帰属する当期純利益につきましては、投資有価証券の売却による特別利益の減少等により、3,793百万円と前期比392百万円(9.4%)の減益となりました。
当社グループは、土地建物賃貸を主たる事業としている「土地建物賃貸事業」の単一セグメントであります。なお、当社グループが展開する事業部門別の状況は以下のとおりであります。
①オフィスビル事業
当社グループは大阪・東京のビジネス地区を中心に計8棟のオフィスビルを保有・賃貸しております。最新の物件はデータセンタービルの運営ノウハウを活かした高度なBCP機能を有するほか、築年数が経過したビルでも、計画的な設備更新やメンテナンスにより、新築ビルと遜色のない、安全で快適な事業空間の提供に努めています。
都心部で相次ぐ新築オフィスビルの竣工に伴う競争激化には留意を要しますが、現時点では当社グループのオフィスビル事業への影響は軽微で、市場平均よりは高い稼働率を維持しております。
連結売上高は、一部テナント退去による賃料減少等により、前年同期比27百万円(0.6%)減収の4,448百万円となりました。
②データセンタービル事業
当社グループは大阪都心部に計8棟のデータセンタービルを保有・賃貸しております。24時間365日絶えず稼働するデータセンタービルでは、免震構造等の採用による高い防災性能、大型非常用発電機による安定的な電力供給、先進のセキュリティシステム等により、高い信頼性を確保しております。また、30年以上にわたるデータセンタービル賃貸実績に基づく、充実した保守管理サービスも高く評価されております。
連結売上高は、OBPビルの稼働向上等により、前年同期比206百万円(2.1%)増収の10,110百万円となりました。
③ウインズビル事業
ウインズビルは日本中央競馬会(JRA)が主催するレースの投票券を場外で発売する施設で、当社グループは京都・大阪・神戸の都心部に計5棟を保有・賃貸しております。当事業の歴史は創業時にさかのぼり、長年にわたって安定的な収益を生み出す中核事業の一つとなっております。
インターネット投票の普及が進み、ウインズビルでの投票券の売上比率は低下傾向にありますが、固定賃料で賃貸しておりますので業績への影響は軽微であります。
連結売上高は前年同期比21百万円(0.6%)増収の3,519百万円となりました。
④商業施設・物流倉庫等事業
当社グループは、首都圏・関西圏を中心に全国で7棟の商業施設・物流倉庫等を保有・賃貸しております。商業施設はターミナル駅、物流倉庫は幹線道路近くと交通利便性の高い立地をターゲットとし、収益物件の取得に向けて情報収集活動に努めております。長期経営計画においては、住宅やヘルスケア施設等の新たなアセットタイプも含めた物件の取得によるアセットの拡充を目指しております。
連結売上高は、2023年6月に取得した浅草駅前ビルの寄与等もあり、前年同期比230百万円(23.0%)増収の1,231百万円となりました。
生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。
当社グループの主な事業は、土地建物賃貸事業であり、①生産実績②受注実績の該当はありません。
③販売実績
主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合
(2) 財政状態
当連結会計年度末における総資産は166,616百万円となり、前連結会計年度末に比べ14,294百万円(9.4%)増加しました。現金及び預金は3,355百万円増加したほか、2023年6月に浅草駅前ビルの信託受益権を取得したことにより信託土地、信託建物が計5,940百万円増加したこと、また、首都圏オフィスビル等へのエクイティ出資や株式相場の上昇に伴う保有有価証券の時価増加により投資有価証券が7,775百万円増加したことが主な要因であります。
負債合計は91,741百万円となり、前連結会計年度末比10,291百万円(12.6%)増加しました。固定資産の取得に要する資金調達を行ったこと等により有利子負債が8,373百万円増加したことが主な要因であります。
純資産合計は74,874百万円となり、前連結会計年度末比4,003百万円(5.6%)増加しました。その他有価証券評価差額金は2,052百万円増加したほか、利益剰余金が2,022百万円増加したことが主な要因であります。
①現金及び現金同等物
当連結会計年度末における現金及び現金同等物は8,668百万円となり、前期末比3,355百万円増加しました。
②営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動により得られた資金は8,221百万円(前連結会計年度は8,917百万円の収入)となりました。税金等調整前当期純利益5,476百万円、減価償却費3,976百万円、預り敷金の受入れなどの営業債務の増加1,321百万円により主要な資金を得ましたが、法人税等の支払額1,277百万円や未払消費税等の減少855百万円のほか、投資有価証券売却益236百万円の特別利益の控除要因がありました。
③投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動により使用した資金は11,273百万円(前連結会計年度は12,104百万円の支出)となりました。投資有価証券の売却により297百万円、工事負担金等受入により312百万円の資金を得ましたが、浅草駅前ビルの信託土地、信託建物取得を主体に有形固定資産の取得により6,931百万円の支出があったほか、首都圏オフィスビルなどへのエクイティ出資を行ったことで投資有価証券の取得による支出4,919百万円がありました。
④財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動により得られた資金は6,407百万円(前連結会計年度は1,376百万円の支出)となりました。固定資産取得資金やエクイティ出資資金として、長期借入れにより6,300百万円、社債で5,000百万円を調達しましたが、配当金の支払額1,761百万円、自己株式の取得167百万円、長期借入金の返済2,626百万円、短期借入金の返済300百万円の支出がありました。
⑤資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループの資金需要の主なものは、新たなビルの取得、開発及び所有ビルの改修工事等の設備投資に係る資金であります。その所要資金は自己資金、金融機関からの借入及び社債の発行により調達しております。また、当社の事業は資金回収に長期間を要するため、返済・償還期限を長めに設定しております。当連結会計年度末の有利子負債の内訳については、連結附属明細表の「社債明細表」及び「借入金等明細表」に記載のとおりであります。
当社グループは、2023年5月策定の長期経営計画(2024年3月期から2033年3月期の10ヵ年を対象)において、財務バランスの健全性を維持するため自己資本比率は30%以上、ネット有利子負債はEBITDA(償却前営業利益)の10倍程度の堅持を掲げております。
2024年3月期を初年度とする長期経営計画の進捗は下表の通りであります。
※ 財務規律を維持する上での下限値として設定しておりますが、長期経営計画最終年度の2033年3月期末の自己資本比率は40%程度を計画しているなど健全な財務体質を堅持していく方針です。
(補足)
1.各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により計算しております。
2.有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている負債のうち利子を支払っている全ての負債を対象としております。
3.ネット有利子負債は、有利子負債残高から現金及び預金残高を減算しております。
(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりであります。
① 固定資産の減損
「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しております。
② 資産除去債務
当社グループは、一部の借地について、不動産賃貸借契約に基づく退去時の原状回復に係る債務等を有しておりますが、当該債務に関連する賃借資産の使用期間が明確でなく、また、現時点において将来退去する予定もないことから、資産除去債務を合理的に見積もることができません。そのため、当該債務に見合う資産除去債務を計上しておりません。
将来の退去時期が明らかになるなど、当該債務額を合理的に見積もることが可能になった場合には、その時点で当該債務に見合う資産除去債務を計上することになります。
該当事項はありません。
該当事項はありません。