当社の経営方針、経営環境及び退職すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。
(1) 経営方針
当社は、優れた特性を持つダイヤモンドの広い応用によって、様々な分野でのイノベーションの創出を進め、地球規模での地球環境維持や社会問題の解決を通じ、世界への貢献を目指しています。
当社で活動する従業員が、健康で充実した日々を送れるよう、様々な施策を講じています。また、株主や顧客、取引先などのあらゆるステークホルダーへの責任を果たすことを、経営方針としています。
(2) 経営環境等
当社の事業は、基本的には人工合成のダイヤモンドを販売する材料ビジネスですが、ほとんどがダイヤモンドの新しい応用を目指す分野に向けられています。天然のダイヤモンドは形状や組成が広い応用に適さないことから、人工合成のダイヤモンドを使った開発が進められています。また、伝統的な分野である宝石についても、人工合成ダイヤモンドへの転換が進んできており、これに伴って多数の企業が設立され、活発な市場環境となっています。
工具用素材としての利用は、既存市場と言えますが、その市場規模は安定的であります。しかしこの市場は種結晶や基板及びウエハの市場と比較して低い価格水準であり、当社が幅広く参入する環境ではありません。宝石及び工具用素材以外の応用については、未だ創成期にあるため市場規模が小さく、個々の案件ごとの対応になっております。2インチウエハなどのインパクトのある製品が実用化できれば、大きな展開が可能となると考え、開発に注力しております。
現在製品を供給している分野について、市場環境を以下に示します。
①人工ダイヤモンド宝石製造用の種結晶市場
a.人工宝石の製造と市場
人工ダイヤモンド宝石は超高圧合成法と気相合成法によって製作されるダイヤモンド宝石です。ダイヤモンドとしては、天然に比べ不純物が少なく純粋で、無色だけでなくピンク、ブルー、グリーン等の色がついたものも販売されております。「The Business Research CompanyのLab Grown Diamonds Global Market Report 2024」によれば、2023年のLGD市場は235億ドルにのぼり、年率10.2%の成長をしている、と報告されております。このようにLGDは大きな市場を獲得しており、さらに高速に市場拡大が進むと見られます。一方、生産量の拡大によって価格低下も進行しております。欧米においては、天然ダイヤモンドの採掘による自然破壊や、以前から指摘されている鉱山における児童労働等の問題があるため、人工ダイヤモンドのSDGsにおける優位点を意識する消費者が増加しております。これに対応して、宝飾店においても人工宝石を積極的に販売するところが増加しております。
気相合成法で作る人工ダイヤモンド宝石は、超高圧法で製造される宝石に比べ、高品質で大型です。このため、新規に人工宝石に参入する企業の多くは、気相合成法で製造しております。特にインドにおいては、毎年多くの新規企業が設立され、既存企業の生産能力も大幅な拡大を続けております。
b.必要とされる種結晶の製造
この気相合成法で製作している宝石は、製作するに際して種結晶が必要とされます。通常は0.2mmないし0.3mm厚の薄い単結晶を種結晶として使用し、3~10mmの厚さに成長し、これをカット、研磨して宝石に仕上げます。
気相合成法では、結晶の成長は厚さ方向のみ成長するため、面積方向の成長がほとんどありません。このため、成長によって種結晶の形状からの面積的な拡大が無く、最も一般的なブリリアンカットの宝石では、厚さと形状の関係が一定であるため、種結晶形状が宝石の大きさ(カラット数)を決定します。
このように、種結晶のサイズが、最終的に宝石となるダイヤモンドの大きさを決めるため、大きな宝石の製造を目指すには、大きな種結晶が必要となります。
人工宝石市場では、大型宝石の出荷が活発となっています。天然ではほとんど市場に出ていない5カラット以上の宝石を目指す動きもあって、当社は大型種結晶のニーズがあると見込んでおります。当社は5x5mm~15x15mmの広い範囲の形状を持つ種結晶を製作できます。現在では成長装置を数百台も保有する人工宝石製造会社が複数あり、これらの会社が必要とする月当たりの種結晶は1,000個を超える場合もあります。このような大量の種結晶を、品質の揃ったものとするためには、生産技術の安定が必要です。
c.種結晶ビジネスの競合
当社は種結晶を独自技術により製造し人工宝石製造会社等に販売しておりますが、当社の販売先である人工宝石製造会社の一部が、成長した結晶を薄く切断して、その表面を研磨することで、種結晶を製作しております。その場合には、当社と競合することになります。この手法の製造コストは、現時点では当社より高いと判断しております。また、金属等の基板上に成長した疑似単結晶を、種結晶として製造している企業もありますが、種結晶としての性能は当社種結晶より劣ることが判明しております。
②基板及びウエハ
ダイヤモンドの優れた半導体特性を生かすデバイス開発に必要な、基板やウエハを供給しております。ウエハについては、未だ市場ができていないものの、基礎研究やデバイスの研究開発用に各国の研究機関や企業に販売しております。最終的には、2インチ以上の口径を持つウエハが必要ですが、現時点では基礎研究段階であり、15x15mmを最大とする単結晶基板もしくは、30x30mmまでのモザイク結晶基板を販売しております。当社は、単純な基板だけでなく、結晶方位、基板上にボロンを混入させた半導体層を形成したエピ基板、結晶品質を制御した基板等の多様な要求に対応できる製品群があります。当社はモザイク結晶で大型化の先頭に立っており、ウエハ市場の創成をけん引して参ります。
③光学部品及びヒートシンク
ダイヤモンドの持っている高熱伝導率や、光やX線を透過する特性を利用し、デバイスの除熱や、各種計測器、放射光施設等の部品などに利用されております。
5Gシステムに代表される先端通信分野では、高発熱デバイスの使用が必要で、熱を除去して安定的なデバイスの動作をするため、ダイヤモンドの利用検討が進んでおります。また、検査機器で使用するX線発生装置の小型化に伴い、X線を透過する窓としての利用が開始されており、当社製品が使用されております。これまでの市場は、散発的に開発される部品の供給にとどまっていましたが、X線用窓が量産に移行した等の新しい動きがあります。当社が狙って開発している光学部品には、一定の市場が見通せるものもあります。
④工具素材
ダイヤモンド単結晶を利用する切削、耐摩耗工具は、相手材料が限定され、特殊な加工に限られております。また、工具素材の全市場では、ほとんどが超高圧合成単結晶を使用しております。超高圧合成単結晶のサイズが限定されていることから、当社の大型結晶への要求があります。なお、工具素材については、積極的に販売拡大を行わない方針であります。
(3)目標とする経営指標
当社は先端技術を使っている製造業であり、製造設備への投資を継続的に行っていく必要があります。このために、高い利益率を維持し、確固たる資金調達手段を保持することが重要と考えられます。このような観点から、主な経営指標として、以下の経営指標を重視しております。
①売上高成長率
②経常利益率
③ROE
④自己資本比率
(4) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社は、2024年4月を始期とする3か年の中期経営計画を策定(2024年5月10日に公表)し、その最終年度である2027年3月期に、以下の数値の達成を目標としております。第2の創業と位置づけ当社、グループ企業あげて取り組んでまいります。
<中期経営計画>
(当社及びエス・エフ・ディー株式会社、設立予定のインド現地法人の連結ベース)
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2025年3月期 |
2026年3月期 |
2027年3月期 |
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売上高(百万円) |
2,362 |
2,770 |
3,390 |
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営業利益(百万円) |
274 |
470 |
560 |
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経常利益(百万円) |
263 |
460 |
550 |
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親会社株主に帰属する 当期純利益(百万円) |
180 |
340 |
390 |
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1株当たり当期純利益 (円) |
13.70 |
25.89 |
29.69 |
当社のビジネス分野はLGD(Laboratory Grown Diamond:人工宝石)と半導体応用開発に必要な素材であるウエハ・基板等(ダイヤモンドデバイス)の2つで構成されています。中期経営計画の達成に向けての、当社共通の課題、それぞれの事業分野ごとの課題は以下のとおりです。
①LGD分野の活動に係る課題
LGDの本格的な宝石ビジネスは約12年前に始まり、市場アナリストの情報として、現在ではダイヤモンド宝石市場における流通量の20%以上にも達しているとの推定も出ており、急速に規模が拡大しています。当社はこの分野で種結晶のみを販売する単一製品のビジネス形態で今日に至っておりますが、今後はLGD分野で複数の製品を展開できるように進める方針です。
ⅰ.種結晶ビジネスの進め方
既に種結晶の競合企業が出ているだけでなく、LGD製造企業が自家用に製作する種結晶が増加しています。特にインドにおいてはこの傾向が顕著で、当社の種結晶の優秀さは認められているものの、当社製品に対する購買意欲は低下しております。また、LGD製造企業は成長した原石から複数の宝石を切り出すCAD-CAM技術も確立しているため、種結晶サイズごとに大きさの異なる宝石を製作する工程自体が減少しています。当社は、昨年中頃に至りこのような状況の変化に対する情報収集能力の不足が種結晶ビジネスへの対応を遅らせる原因となっていることを認識しました。
このような状況を改善するため、世界的なダイヤモンド加工産業の集積地であるインド・グジャラート州において、タイムリーに顧客のニーズに応えていくことを目的として、当社は、当社100%子会社であるエス・エフ・ディー株式会社(以下、「SFD」といいます。)とともに、インドにおいて現地法人を設立いたします。
この現地法人では、従来からの当社製品である種結晶を、インドのLGDメーカーに対し現地販売いたします。また、SFDが計画している宝石の製作を可能とするため、当社で製作した原石を、現地法人を通じて当地で宝石に加工いたします。完成した宝石はSFDが購入して、日本及び世界で販売してまいります。
このような活動を行うために、現地法人には販売や加工等に必要な要員を配置し、場合によっては加工設備を設置して、試作や加工技術の開発を行うことも検討してまいります。
②ダイヤモンドデバイス分野の活動に係る課題
ダイヤモンドの持つ優れた半導体特性を利用して、パワーデバイスや量子デバイス等に応用するための研究が、世界各地で進められています。しかし、現在検討されている多くのデバイスの開発は、基礎研究段階から少し進んだ程度です。このような状況のためユーザーからは、当社が持っている大型単結晶やモザイク結晶を発展させ、パワーデバイスや量子デバイス等を開発するために必要な製品を展開することが求められています。
ⅰ.ウエハの開発と上市への進め方
半導体プロセスを使ったデバイス製作を行うには、最低の大きさとして2インチウエハ(直径50mm)が必要です。このサイズへの到達時期が早まれば、これを使用して量産技術開発が促進され、デバイスの実用化が早まると見られます。単結晶の2インチウエハへの大型化は、長期の開発が必要と考えられ、代替的なウエハを商品化して、普及させることを考えています。既定の開発方針であるモザイク結晶による2インチウエハの開発を進めながら、暫定的に1インチ単結晶ウエハの実用化を進める等の、新しい施策を検討・実行してまいります。
ⅱ.ウエハ加工技術の開発
デバイスの製作プロセスに使用するためのウエハとしては、表面の粗さ、うねり、欠陥密度等が、既存の半導体材料のレベルに達していることが、実用化の条件となります。このためには、結晶製作技術や加工技術の高度化が必須であり、これらに取り組んでまいります。
③当社の共通の課題
当社が東京証券取引所グロース市場へ上場して2年程度経過しましたが、さらに成長していくためには、ガバナンスの強化に引き続き取り組んでいく必要があると認識しています。また、開発体制、工場運営、人材等に対しても、以下の課題があると考えています。
ⅰ.技術開発
当社のビジネス分野では、多くの技術で世界的に優位な地位にあり、今後もこの地位を維持することが重要であると認識しています。製品そのものだけでなく、製造技術や評価技術等幅広い分野での研究開発活動が必要です。当社は現在の開発候補アイテムとして十分なラインナップを確保するに至っておりません。これを補うために、大学、公的研究機関及び他企業と連携することで、カバーする範囲を広げる必要があります。これまでも大学、公的研究機関及び他企業と委託研究や共同研究を行ってまいりましたが、海外の機関を含めさらに拡大することを検討します。
ⅱ.工場運営とコスト削減
当社は、今後製品ラインナップを多品種に拡大していくことが必須の状況にあり、その実現のためには、既存の生産方式及び体制とは異なる生産方式及び体制を構築していく必要があると認識しています。新しい製品を作る工場運営の柔軟性や、従来とは異なるコスト削減への取り組みが、必要となることは確実で、このために適材適所の人材配置を行います。必要に応じて新たに人材を採用して、新しい事態に対応いたします。
ⅲ.人材育成
当社の置かれた状況から、上場企業としてのガバナンスの強化、生産体制の維持と発展、新規技術の開発、新たな営業活動のための海外拠点の設置、グループ企業としての運営等に必要な人材の確保が急務であります。当社はこれまで必要な人材を外部から採用してまいりましたが、当社の事業活動に適した人材を育成することも、重要になっております。これを進めるために、教育システムを構築し、長期的に当社を担う人材を養成してまいります。
ⅳ.ダイバーシティーの重視
当社はESGを重視する経営方針の中で、ダイバーシティーを意識して、女性の管理職への登用や障害者の雇用等を進める必要があります。特に、部長クラス以上の経営陣への女性の登用は急務であると認識しております。
ⅴ.経営陣の高齢化と後継者の育成
当社の部長以上の経営陣は、60歳以上の比率が高く、将来の後継者の育成とあわせて、年齢構成を検討する必要があると認識しております。また役員についても、平均年齢を下げて、将来の当社を担う経営体制を構築することを検討してまいります。
ⅵ.輸出管理
経済安全保障の観点から、2022年12月に輸出貿易管理令の一部を改正する政令が施行され、ダイヤモンドの基板等が、新たな規制品目に入りました。
当社が2022年12月から2023年4月にかけて規制品目であるダイヤモンド基板等を、経済産業省の許可を得ずに輸出しておりましたことに関し、経済産業省より2024年5月21日に「厳正な輸出管理の徹底について(厳重注意)」を受領しました。当社としては、今回の事態を厳粛に受け止め、これまで以上に法令遵守を徹底し、社内体制を整備することにより、再発防止に努めてまいります。
なお、当社は昨年4月から6月にかけて一時的に輸出を自粛しましたが、6月下旬から改正後の法令に則した手続きのもと輸出許可申請を開始し、7月から許可を得て順次出荷しております。
当社のサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において、当社が判断したものであります。
(1) サステナビリティ
当社は、サステナビリティを実現するため、2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」で定める2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標であるSDGsの達成に、LGDの供給を通じて貢献しており、加えて企業行動規範の1つとして、地球環境の保全に貢献する活動に積極的に取り組み、持続可能な社会の実現に向けて貢献することを定めております。
①ガバナンス
当社では、サステナビリティの実現のため、関係各部門がそれぞれの業務分掌に基づき、責任をもって推進しておりますが、原則として四半期に1度の頻度で開催しているリスク管理委員会において、組織横断的に、関係各部門の活動に伴うサステナビリティに関するリスク及び機会を識別し、目標設定を行い、その進捗を管理しております。また、結果については、取締役会に報告しております。
また、後述する人的資本に関する項目以外に、気候変動に関するリスクもテーマとして取り組んでおります。具体的には、当社は、製品の製造過程で多くの電力を消費しており、CO2排出量を削減することは、重要な課題となっております。2024年3月末時点で、本社及び横江工場においては再生可能エネルギーで発電した電力を使用しておりますが、島工場と開発部においては再生可能エネルギーを使用した電力の使用を行っておりません。今後可能な限り早期に、島工場と開発部においても、再生可能エネルギーを使用した電力に切り替える計画です。
また、島工場のCO2排出量削減のため、2024年3月期において同工場に太陽電池を設置し、昼間に消費する電力の一部を太陽電池で賄うことを開始いたしました。これにより、同工場の昼間の電力使用量の約4%の電力を、この太陽電池によって賄っておりますが、引き続きCO2排出量削減に取り組んでまいります。
②リスク管理
当社では、サステナビリティに関するリスクを含むリスク全般について、リスク管理の全社的推進とリスク管理に必要な情報の共有化を図ることを目的とし、原則として四半期に1度の頻度で開催しているリスク管理委員会において、発生したリスク及び予想されるリスクの評価や対応等に関する審議をしております。当該リスク管理委員会において、サステナビリティに関するリスク及び機会を識別、評価し、発生可能性と影響度合により、優先順位付けを行って、回避、軽減するか受容するか等の対策の決定を行うとともに、対策の進捗を管理しております。また、結果については、取締役会に報告しております。
(2) 人的資本
当社は、優れた特性を持つダイヤモンドの広い応用によって、様々な分野でのイノベーションの創出を進め、地球規模での地球環境維持や社会問題の解決を通じ、世界への貢献を目指しています。そのために「健康経営」を推進すべく、当社で活動する従業員及び派遣社員が健康で充実した日々を送り、活発に業務を遂行することを支援するために、以下の施策を進めております。
①戦略
a.人材育成方針
リスキリングのための講習等受講
当社の各種の業務を遂行するために、各種のスキルが必要であります。技術の変化、法令の改定、業務ソフトの変更等によって、必要なスキルが変化していくため、常に最新の必要なスキルを身に付ける必要があります。このため、社内及び社外において講習等を受講することで、最新の知識を習得し、これを業務に活用していきます。受講する回数は重要な指標となるため、一人当たりの年間受講回数の目標を設定しております。
b.社内環境整備方針
イ 業務遂行中の無事故を継続する
当社は生産現場を有しているため、事故発生の可能性があります。安全については十分注意をしているものの、対応が不十分であることによって、事故の発生が危惧されます。このために部署ごとに無事故時間の目標を設定して、これを管理しております。2023年3月期に引き続き、2024年3月期も完全無事故でしたが、引き続き無事故労働時間500,000時間の達成を目指します。
ロ 女性管理職比率
当社はジェンダー平等を重要視する観点から、女性従業員の登用を進めております。当社製品は消費者から遠い製造業であるため、ともすれば男性中心の活動になりがちです。このような状態を改善するため、女性管理職を登用することを目標として、取り組んでおります。これまで当社では部長職以上の女性管理職が不在であることから、その登用も課題と認識しております。
部長職を2ポイント、課長職を1ポイントとして点数化し、目標値を決定しております。
②指標及び目標
当社では、人的資本に係る上記の人材育成方針及び社内環境整備方針について、各施策における指標を設定しておりますが、当面の目標及び実績(2024年3月期)は以下のとおりです。
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施 策 |
到達目標 |
2024年3月期の実績 |
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約 |
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本書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において当社が判断したものであります。
(1) 人工宝石ビジネス市場の状況
当社の最大の製品である種結晶の販売先市場であるLGDの市場は、順調に拡大しております。
「The Business Research CompanyのLab Grown Diamonds Global Market Report 2024」によれば、2023年のLGD市場は235億ドルにのぼり、年率10.2%の成長をしている、と報告されております。
直近に天然ダイヤモンドの有力な供給者であるデビアス社が、2件の値下げを公表しました。2023年10月に、天然ダイヤモンドを使ったブライダル用途の宝飾品を30%程度値下げすると公表し、2024年1月には、天然ダイヤモンド全般を30~40%値下げすると公表いたしました。このことは、デビアス社が、天然ダイヤモンドがLGDに価格競争で負けたことを認めた、と報道されております。このようにLGDは大きな市場を獲得しており、さらに高速に市場拡大が進むと見られます。一方、生産量の拡大によって価格低下も進行しております。
また、欧米においては、天然ダイヤモンドの採掘による自然破壊や、以前から指摘されている鉱山における児童労働等の問題があるため、人工ダイヤモンドのSDGsにおける優位点を意識する消費者が増加しております。これに対応して、宝飾店においても人工宝石を積極的に販売するところが増加しております。
気相合成法で作る人工ダイヤモンド宝石は、超高圧法で製造される宝石に比べ、高品質で大型です。このため、新規に人工宝石に参入する企業の多くは、気相合成法で製造しております。特にインドにおいては、毎年多くの新規企業が設立され、既存企業の生産能力も大幅な拡大を続けております。
上述のとおり、当社は、宝飾品としてのLGDの認知は十分進んでおり、何らかの理由によって市場が消滅する可能性は、現時点でほとんどなくなったと考えております。しかし、国内外の経済情勢の悪化や景気動向の減退等の理由により、市場の成長が鈍化したり、市場規模が縮小したりする場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。LGDの販売価格の低下が進んでも、魅力的な商品が出てこない場合には、市場規模の拡大が遅くなる可能性はあります。このような変化に対しては、当社はその間に他の製品への転換を進めることで、当該リスクを抑えることができると考えております。
(2) 特定ユーザーへの過度の依存
当社の売上に占める種結晶の比率は、2024年3月期売上高の63.5%となっております。種結晶ビジネスに対する方針として、長期的な受注によって、半年以上先までの生産状況の確定、生産要員の確保を行うことが可能となります。ユーザーからの要求で当社が生産能力を増強する決断には、ユーザーからの情報の信頼性が必要で、このために大規模なユーザーの確保を優先事項としております。これまでに有力なユーザー数社に対し、長期的な受注をもらうことを条件に、優先的に生産能力を確保することを進めてきました。具体的には、要求量の多いユーザーには、①半年以上の発注、②今後の設備増設計画の開示、を要請しております。このような当社の要請を受け入れる形で、ユーザー数社との関係が非常に強くなっております。2024年3月期の種結晶売上の上位3社で、種結晶売上の45.8%、全製品売上の29.1%を販売しております。これらの企業の倒産や立地する国や地域の情勢によっては、当社が種結晶を出荷できないといった事態も想定されます。このような事態が発生すれば、大幅な売上の減少により、当社の経営成績及び財政状態に大きな影響を及ぼす可能性があります。当社としましては、このような場合においては、他の大口ユーザー及び多数の小口ユーザーに対して販売量を増加させることで、短期間で売上の減少をリカバーする所存です。このような対応措置が採れるよう、小口ユーザーを引き留めることも営業の方針として進めております。
当事業年度において、小型宝石の供給過剰による取引価格の下落により、それまで生産拡大を続けていました当社の大手ユーザー各社からの小型宝石生産用種結晶の受注が減少しました。特に2023年3月期において上位2社であったLusix社とSigma Carbon社については、大幅に売上が減少いたしましたが、これによって特定ユーザーへの売上偏重も緩和されています。今後はさらに多くのユーザーへ供給することになると見られますので、リスクは低減すると考えております。
(3) 知的財産権管理
①産総研との独占実施契約
当社の生産技術は、国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下、「産総研」といいます。)が開発した手法を元にしており、この技術の知的財産権は産総研が有しております。当社は、産総研との間において、当社の製造技術に係る産総研が保有する特許の独占的通常実施権の許諾契約(以下、「原契約」といいます。)を締結しております。
原契約及びその後の原契約の独占的通常実施権の許諾期間の変更契約による許諾期間が2023年10月31日に満了いたしましたため、2023年12月21日に、産総研の保有する特許の再実施許諾権付通常実施権を有する株式会社AIST Solutionsとの間において、原契約の独占的通常実施権の許諾期間の変更契約を締結し、許諾期間について3年間の延長を行っております。
なお、原契約及び原契約に基づく許諾期間の変更契約について、継続に支障をきたす要因は発生しておりませんが、当社の帰責事由により、原契約及び原契約に基づく許諾期間の変更契約が解約され、原契約に基づく許諾期間の変更契約の許諾期間満了前に終了した場合には、当社の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。
2023年12月21日に締結した原契約に基づく許諾期間の変更契約による許諾期間は、2026年10月31日に満了を迎えますので、今回と同様に許諾期間の変更契約を締結する所存です。仮に、この満了時期に許諾期間の変更契約が締結できない場合でも、非独占的通常実施権が特許の存続期間満了日まで付与される契約となっておりますが、他社が産総研に対して実施権を要求すること等により、産総研が他社と非独占的通常実施権を付与する契約を締結した場合は、当該他社は当社の競合となる可能性があり、当社の財政状態及び経営成績に重大な影響を及ぼす可能性があります。仮に、他社が産総研から実施権の許諾を受けた場合でも、多くのノウハウの確立や多数の親結晶の作製に年単位の時間が必要と考えられるため、当社が競争優位性を継続して確保できると考えております。
②知的財産権の取得方針、侵害等
当社は、生産技術が漏洩することを防ぐため、これまで特許などの出願を行わない方針としておりました。生産技術には多数のノウハウがあり、これが技術の実現には重要なカギとなっています。しかし、製品に関連する特許などについては、当社が権利を保有することが重要である場合が出てきているため、当事業年度において、製品に係る特許を出願いたしました。今後もこのような知的財産権について権利化できるように、出願及び審査を進めてまいります。また、技術的なよりどころとなっている産総研の特許群については、維持及び他社による模倣状況のチェックを行っております。しかしながら、他社との間で知的財産権を巡る紛争が生じた場合や、他社から知的財産権を侵害された場合には、事業活動に支障が生じ、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
主力製品である種結晶については、これまで出願された特許は見つかっておらず、公知となって長期を経過していることもあり、特許上の係争が起こる可能性は低いと考えております。
(4) 生産技術の模倣
当社は、産総研が保有する特許について、独占的通常実施権の許諾契約(その後の許諾期間の変更契約を含む。)を締結して利用しております(許諾期間満了日:2026年10月31日、契約に含まれる特許数:特許の存続期間満了となったものを除き国内外の総件数15件、独占的通常実施権の継続はその時点で産総研及び産総研の保有する特許の再実施許諾権付通常実施権を有する株式会社AIST Solutionsと協議を予定、許諾期間満了後も各特許の存続期限まで非独占実施権は付与されます。)。
当社では、特許の技術による種結晶製造のノウハウを確立するため、産総研と共同研究を行って来ており、製品化までのノウハウについては特許に記載されていないこともあり、他社が容易に模倣することは難しいと考えております。しかしながら、他社が当社の技術を模倣し種結晶等の製造を行うことになった場合、事業活動に支障が生じ、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
なお、現在の独占的通常実施権の許諾契約は15件の特許を包括的に締結していますが、個々の特許の存続期限が今後次々に到来するので、それらの重要性に鑑み、契約書の内容を変更する必要が出てくると考えられます。その時には、当社の事業継続と特許の期限を迎えていない技術の占有状況が維持でき、リスクを最小限とするよう、産総研及び株式会社AIST Solutionsと契約内容を協議いたします。
(5) 退職者による技術・ノウハウ流出
当社の生産技術には産総研の特許権のほかに生産ノウハウがありますが、当社は漏洩が起こらないよう常に管理を行なっており、役職員の退職時には秘密保持誓約書を提出させることとしております。しかし、生産ノウハウ等の情報流出が発生し、他社が当社の生産技術を模倣した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。産総研特許の範囲である基幹技術については、独占実施権で守られておりますので、流出してもリスクは大きくないと判断しております。
(6) 競合他社について
①ユーザーが自家生産する種結晶との競合
当社は種結晶を独自技術により製造し人工宝石製造会社等に販売しておりますが、当社の販売先である人工宝石製造会社から取引に際して当社から購入した種結晶から種結晶を再製作しない旨の宣誓書を入手しております。しかし、当社の販売先である人工宝石製造会社の一部が、当社から購入した種結晶を利用して成長させた結晶を薄く切断して、その表面を研磨することで、種結晶を製作しています。その場合には、当社と競合することになります。このやり方の製造コストは、現時点では当社より高いと判断しておりますが、宝石製造会社の技術進捗や購入する装置が安価化することによって、当社の製造コストの優位性がなくなり、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
既にこの手法で種結晶を生産しているユーザーもありますが、一方では継続して当社の種結晶を購入しており、販売先としての関係は、状況を監視しながら継続いたします。
②疑似単結晶ダイヤモンドの種結晶への適用
ダイヤモンド単結晶以外の物質を使って、その上に成長したダイヤモンドが、一定以上大きな結晶粒径となる場合があり、疑似的な単結晶と扱う場合があります。セラミック単結晶基板にIr(イリジュウム)薄膜を成長させて、これを基板とする場合が知られております。他の手法を用いる場合もありますが、20x20mm以上の大型の結晶を製作できます。この結晶を種結晶として発売している企業があるとの情報を入手しております。
しかし、この結晶は宝石用結晶の成長時に亀裂が発生するなどの問題に加え、カラーや結晶のゆがみ等のために、できあがった宝石は当社種結晶を使用した場合に比べ、歩留が悪いことが判明しております。これは、完全な単結晶でないために、種結晶に残留する応力が影響するためと考えられております。
また、この製品を販売してきた企業は、2022年に米国のLGD製造企業に買収されました。その後インドにおいて、その結晶のコピーが販売されております。
上記から、現時点ではこの種の種結晶は、当社にとって大きな脅威となっております。当該事業年度に当社15x15mm種結晶を実用化し、多くのユーザーにとっては十分な形状の種結晶を販売できる状況になっております。
当社としては、さらに大型の種結晶を開発することで、このような種結晶の脅威を減らすことができると考えておりますが、開発が計画通り進まなかった場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
③疑似単結晶大型ウエハ
上記の疑似単結晶で、2インチ以上の大型ウエハが開発されたとの報告があります。当社は、モザイク結晶で大型ウエハを開発すべく取り組んでおりますが、先行してこのようなウエハが実用化する可能性があります。疑似単結晶は、当社の結晶のような完全な単結晶ではなく、粒界に相当する部分に結晶の乱れがあります。電子的な応用(トランジスタ等)の場合には、この部分における電子やホール等の挙動が、デバイス性能に大きな影響を与えることは知られております。しかし、大型のウエハが利用できることは、デバイス製造工程にとっては大きな利点があります。このようなウエハの性能が向上すれば、当社が製品化を計画している大型ウエハの実用化に大きな影響を与える可能性があります。
(7) 生産装置の陳腐化
当社では種結晶の成長装置の性能向上等を目的として、産総研や装置製造会社との共同開発を実施し、2022年11月に新設された島工場において、新成長装置が稼働しました。その性能は計画段階の想定と差異がなく、従来の成長装置よりも30%以上生産の効率が向上しました。しかし、競合他社でもある人工ダイヤモンド宝石製造会社が成長装置の大幅な技術革新を実現した場合、当社の成長装置の性能が陳腐化することでコスト競争力が失われ、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。また、産総研とも共同研究などを通じて、成長装置の高度化を進める所存で、リスクを下げるような各種の対策を講じております。
(8) 重要な生産装置の重大な故障
当社の生産工程において、必ず使用する必要があるイオン注入装置を2台保有しております。当社では定期的な設備点検により故障を防止する対策を行っておりますが、主要部品が壊れるなど長期にわたって当該装置が稼働できないという状況になった場合には、生産が完全に止まることとなり、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(9) 特定人物への依存
これまでの当社の新製品開発や新技術開発については、当社の代表取締役社長である藤森直治を中心として推進してまいりました。当社は、産総研ダイヤモンド研究センター長であった藤森直治を中心に、ダイヤモンド単結晶製造技術の事業化を目的として設立されており、その技術の知見に対する依存度は極めて高いと言えます。開発や生産に係る技術者を雇用、育成することで、藤森直治に依存しない体制の構築を進めておりますが、何らかの理由により業務執行できない事態となった場合、新製品の開発遅れや、生産効率化の遅れなどにより、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(10) 小規模組織であること及び人材確保
当社は小規模な組織であり、現在の人員構成における最適と考えられる内部管理体制や業務執行体制を構築しております。当社は事業の拡大を目指していますが、その実現には管理体制強化及び絶え間ざる技術革新が必要であり、管理部門、生産部門、開発部門で幅広く人材確保を進めています。特に、今後海外での事業展開が始まるため、そのための要員の確保は、非常に重要となると考えております。しかしながら、計画通り人材の採用が実現できなかったり、必要とする能力を有する人材の応募が無かったりした場合には、適切な人材配置が困難となり事業拡大に制約が発生するなどにより、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(11) 感染症等の影響(新型コロナウイルス感染症問題)について
当社は新型コロナウイルス蔓延時においては、役職員に対し、テレワークやオフピーク通勤を奨励し、定期的にPCR検査を実施しました。また、遠距離の出張の原則禁止や宴会を行わない等の蔓延防止策を講じました。全国的な患者発生数の減少や、政府の蔓延防止施策の変更があり、当社は既に通常時の業務体制に戻っております。
しかし、新たな変異株などで、当社において感染症等が蔓延した場合、業務停止及び遅延によって、売上の減少、納期遅延等が生じる可能性があります。また、当社の顧客に感染症等が蔓延した場合、顧客からの発注が止まることや、出荷停止、遅延等が生じる可能性があります。さらに、当社の仕入先や外注先に感染症等が蔓延した場合には、調達及び製品製造の停止や遅延等が生じる可能性があります。これら諸要因の動向によっては、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(12) 自然災害等
当社の活動拠点の本社、横江工場及び島工場は、大阪府北摂地区に立地し、外注先は愛知県西部の臨海地域に立地と、活動拠点は分散しているため、両地域が同時に台風や地震で壊滅的な被害を受ける可能性は低い、と判断しております。しかしながら、当社の生産能力の大部分は大阪府北摂地域に集中しているため、大阪府北部で大地震やその他操業に影響する災害などが発生した場合には、売上の減少、装置類の損傷による多額の補修費用の発生、停電による情報管理ネットワークの遮断等により、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(13) 当社製品へのクレーム
当社では生産する全ての製品について、万全の品質管理に努めるとともに、全ての工場の設備の予防保全に努めており、現時点において、品質に関する重大なクレーム及び納期に関するクレーム等は発生しておりません。また、軽度のクレームには迅速に対応し、顧客の信頼を損ねないような対応を行っております。クレームには真摯に原因の究明と、改善策の立案を行い、これを顧客に報告しております。しかし、将来、製品の重大な品質クレームや重大な生産トラブルによる納期クレームが発生した場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(14) 為替リスク
当社は数多くの海外顧客との取引があり、海外顧客との取引(日本の商社経由の取引を含む)は外貨建て取引を採用しており、当社の取引高に占める外貨建の取引の割合は2023年3月期が95.3%、2024年3月期が67.4%となっております。為替に関して円高のトレンドが明確となった場合には、為替予約によってリスクを回避することとしており、既にこのための体制を整えております。最近3年間の変動状況から、130円/$以上の円安の水準では、為替予約を基本的には行わず、130円/$の水準に近づいた段階で為替予約を執行することを検討いたします。
(15) 中近東の政治情勢
当社の主要な販売先としてイスラエルの企業が含まれるため、当社では、販売対象地域の状況把握に努めてきました。2023年10月7日に、イスラエルとパレスチナの紛争が再燃いたしました。この事態のために、イスラエル国内における企業活動は、制約を受けることとなりました。当社は、イスラエルに大口の顧客を持っておりましたが、その状況について情報を得て、受注及び出荷についての検討を行いました。財務状況が悪化した企業もあり、支払条件等について、顧客との交渉が必要となっております。
紛争地域においては貿易保険の適用が出来ないことから、代金を出荷以前に受領することを原則として、取引を継続することとしました。また、短期間の支払猶予が必要な場合においては、当社の経営に大きな影響を与えない範囲とすることとしております。イスラエル企業との取引は、支払いの実績を監視しながら、次回の取引条件を検討するなどの、特別な監視を行ってまいりました。しかし、紛争の長期化等の政治情勢により、当社の経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。
(16) 情報漏洩
当社は、開発段階から顧客と共同で取り組んでいる案件について、秘密保持契約を締結し情報管理を行っております。また、共同開発(研究)契約を締結して進めている案件もあります。これらの契約は、契約していること自体が重要情報である場合もあり、役職員にはこの重要性を知らしめ、啓発、教育を行うと共に、秘密保持誓約書を提出させる等、情報漏洩の防止には万全を期しております。
しかし、情報の漏洩が発生した場合には、当社が賠償責任を負う可能性があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(17) 訴訟に関するリスク
当社の事業又は活動に関連して、知的財産権、環境、労務等、様々な訴訟、紛争、その他の法的手段が提起される可能性があります。現在、当社の経営成績と財政状態に重大な影響を及ぼす訴訟は提起されておりませんが、将来において、重要な訴訟等が提起された場合には、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。特に、主要製品である種結晶に関する係争については、注意を払っております。
(18) ストック・オプションの行使による株式価値の希薄化
当社は、取締役、監査役及び従業員等に対するインセンティブを目的として、ストック・オプションを付与しております。これらのストック・オプションが権利行使された場合、当社株式が新たに発行され、既存の株主が有する株式の価値及び議決権割合が希薄化することとなり、将来における株価に影響を及ぼす可能性があります。本書提出日の前月末現在のこれらのストック・オプションによる潜在株式数は、594,000株であり、本書提出日の前月末現在の発行済株式総数13,137,900株の4.5%に相当しております。
(19) 配当政策
当社はこれまでの経営状況から、配当を行っておりません。将来の社債発行や増資に際して、配当を行っていないことでの不利が発生し、必要な資金調達が出来ない事態がリスクとなる可能性があります。それによって、必要な設備投資ができなかったり、遅れたりすることで、ビジネスの拡大が妨げられたり、顧客を失ったりする可能性があります。
当社は、上場後においては、利益を確保でき、配当に十分な剰余金を確保した場合には、配当の実施を検討いたしますが、現時点では実施時期は未確定です。
(20) 各工場及び土地の賃貸借契約が解除され、継続使用が困難となるリスク
当社が活動している本社、各工場及び土地は、賃貸借契約で入居しております。災害あるいは貸主の都合によって、この契約を解除され、退出を余儀なくされれば、全般の活動や生産活動に支障を来たします。工場の移転期間中の減産や、インフラ設備の除去費用、さらに移転費用の負担があり、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。現状の契約期間は、横江工場が3年、開発部が2年と比較的短期間であることから、今後、契約期間の長期化に向けた対応を検討いたします。
(21) 法的規制等
当社は事業活動において、輸出貿易管理令、製造物責任法、外国為替及び外国貿易法、特許法、下請代金支払遅延等防止法、建築基準法、借地借家法、労働安全衛生法、消防法、廃棄物処理法、大気汚染防止法等の各種法的規制を受けておりますが、上記法的規制等の新設や改正等が行われた場合には、当社の事業活動が制約を受け、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、当社は、法令等の遵守に努めておりますが、何らかの理由で上記法的規制等への抵触が発生した場合、当社の事業活動が制約を受け、当社の経営成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
経済産業省は、経済安全保障強化のため、「輸出貿易管理令の一部を改正する政令」を制定し、2022年12月6日に施行されました。その中に規制対象として半導体基板としての三酸化二ガリウム(Ga2O3)とダイヤモンドが追加されました。当社は、研究用基板のみならず主力製品の種結晶等についても、関係機関や当局とコミュニケーションをとり、改正後の法令に則した対応等について確認を行ってきました。
当社は、当社の製造するダイヤモンドが半導体材料として不十分な特性を持っていることから、同政令改正後も輸出を継続しておりました。これに対し2023年4月に経済産業省から、政令の趣旨に沿った的確な対応するようにとの指示があり、2023年4月以降、一時的に製品の輸出取引を保留しておりました。2023年5月に、当局から、1,000千円/件以下の輸出案件に対して輸出を承認されたので、一部の製品の出荷を開始いたしました。さらに、2023年6月に改正後の法令に則し、規制対象品として輸出許可申請を行って輸出許可を得るようにとの見解が示されました。そのため、2023年6月下旬から各種製品の輸出申請を開始し、7月以降には、順次輸出許可を得て、出荷を開始いたしました。しかし、輸出許可を取得するまでに時間を要することから、製品の納期が長期化し、一部の顧客からはこのことが理由で受注に結び付かない事態も発生しました。
2023年10月には一般包括許可を取得し、欧米やオーストラリアに対しては輸出許可を得ずに出荷できるようになりました。これによって、これらの地域に関しては納期が長くなる事態は避けられるようになりました。引き続き、特別一般包括許可を取得し、規制対象国以外には輸出許可を得ずに出荷できるように、申請手続きを準備しております。
なお、当社が2022年12月から2023年4月にかけて規制品目であるダイヤモンド基板等を、経済産業省の許可を得ずに輸出しておりましたことに関し、経済産業省より2024年5月21日に「厳正な輸出管理の徹底について(厳重注意)」を受領しました。当社としては、今回の事態を厳粛に受け止め、これまで以上に法令遵守を徹底し、社内体制を整備することにより、再発防止に努めてまいります。
2024年1月に100%子会社であるエス・エフ・ディー株式会社を設立しましたが、この輸出貿易管理令の遵守は、同社においても厳格に行う必要があり、今後その体制を構築してまいります。同社ならびに今後計画しております他の関係会社においても同様の処置を執る所存です。これらの管理が不十分な場合には、当社の輸出についても影響を受け、当社の営業成績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(1)経営成績等の状況の概要
当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
①経営成績の状況
当事業年度の世界経済は、ロシアのウクライナ侵攻による戦況が膠着状態となり、引き続き世界経済に影響を与えました。一方、2023年10月7日に始まった、パレスチナとイスラエルの紛争の影響を受けて、中東全体を含んだ複雑な紛争状況となりました。これにより、エネルギー価格の高騰が心配されましたが、中国経済の状況などもあり、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)について$100/バレルを越えるような高騰はありませんでした。
米国景気は当事業年度を通して強い状態で進行し、金利上昇をもたらしましたが、下期にはその進行は穏やかになりました。一方、物価は一貫して高い上昇率を示しており、労働市場がタイトで、賃金上昇が顕著であったことと合わせ、米国の金利が下がる状況にはなりませんでした。このような米国の金利状況があったため、ドル円の為替レートは、1ドル130円台から150円を突破する水準まで下落しました。この為替レートの変化は、我が国における物価の上昇に大きな影響を与えましたが、当社にとっては輸出品の円価格での上昇をもたらしました。
当社製品の主要なビジネス分野であるLGD(Laboratory Grown Diamond:人工宝石)市場は、当事業年度において引き続き規模が拡大しております。このような状況下、前事業年度第4四半期から、特に小型宝石について供給過剰が発生し、そのことによってLGDの価格は全般に下落しており、その影響が天然ダイヤモンドの価格にも反映され、価格下落が進行しております。
当社の主要種結晶ユーザーは主に小型宝石の生産を行っておりましたので、当社の種結晶は当事業年度において受注が減少したほか、前事業年度の受注のキャンセルが発生するなどの困難な事態となりました。また、ユーザーによっては経営が困難となったところもありました。
インド市場においては、LGDメーカーが種結晶を自家生産する動きが拡大したことから、種結晶価格の低下が顕著となり、当社も価格情報を入手して、対応を進めてまいりました。
また、一部のユーザーは採算が悪化した小型宝石から価格の高い大型宝石へ軸足を移す動きが増加しております。当社は、その動きに対応するため、2023年8月に13x13mm及び14x14mm種結晶を発売し、また、2023年11月には15x15mm種結晶も発売することで、大型宝石製作のための種結晶製品をラインアップし、これらのユーザーの需要に応えました。これらの大型宝石用種結晶は、当事業年度の売上に貢献しましたが、数量の多かった小型宝石用種結晶に比べ、販売数量が少なく、小型宝石用種結晶の需要減少による売上減少をカバーするには十分ではありませんでした。
さらに、イスラエルには当社の最も大口のユーザーがありますが、2023年10月に始まったパレスチナとイスラエルの紛争の影響は大きく、当該ユーザーとの取引は一時的に停止せざるを得なくなりました。その後、当事業年度末にかけて取引の条件を整えることで、制限された範囲での出荷が可能となりました。
このような状況下、当事業年度の種結晶売上は、前事業年度に比べ81.4%減の480百万円にまで減少いたしました。2022年12月の輸出貿易管理令の一部を改正する政令の施行への対応として、2023年4月から一時的に輸出を保留したことで、一部ユーザーからの受注の減少もありました。その後、2023年7月から輸出許可を取得することで、通常の輸出が出来るようになりましたので、納期が以前より若干長くなった影響はありましたが、インドを含め世界各地のLGDメーカーからの受注を獲得してまいりました。
一方、種結晶以外の製品については、当事業年度の初めから内外の企業、研究機関から多くの引き合いが来ていました。特に、量子コンピューター関連研究を行っている海外のベンチャー企業や、パワーデバイス開発を目指す国内外の企業等から、各種の基板の受注が活発にありました。従前から活動していた国内の大学や公的な研究機関からも、前事業年度を上回る受注を獲得しました。この要因として、各国のダイヤモンドデバイスの開発支援策が整ってきたことが挙げられます。特に米国ではダイヤモンドデバイスの実用化に向けて新たな資金の投入が始まっております。
当社は創立当初からダイヤモンドデバイスの開発に資する各種基板、ウエハを出荷してきましたが、当事業年度においては、新たに開発の支援を行う新製品を上市いたしました。パワーデバイスの開発向けには、2023年8月にボロンを高濃度含有させた低抵抗基板の販売を開始いたしました。また、2023年11月には、15x15mmの単結晶基板を実用化いたしました。さらに、2024年3月には量子デバイスの開発を後押しするため、低窒素濃度の(111)基板を実用化いたしました。これらの新しい製品は、既に売上に貢献しているだけではなく、上記の各種プロジェクトを推進する役割も果たしております。
このような積極的な対応により、基板・ウエハの当事業年度の売上は、前事業年度の240.6%増の229百万円となり、特に第4四半期においては、種結晶の売上を上回る売上を達成いたしました。一方、光学部品等や工具素材につきましては、前事業年度の売上を下回る結果となりました。
種結晶の受注が大幅に減少する中、支出を抑えるべく生産設備の一部休止を含む費用削減策を講じてきました。その影響で、2022年11月に稼働を開始した島工場へは、前事業年度に発注した成長装置が導入されましたが、稼働は限定的となりました。購入資材については、必要最小限に絞るなどの対策を、当事業年度を通して講じてまいりました。
また、大型単結晶の開発、切断などの加工技術の開発にも、これまで以上の研究開発費を投じました。
前事業年度に東京証券取引所グロース市場への上場を果たしましたが、これによって内部管理体制の強化などに、従来以上のリソースを投入することが必要となりました。このために、これらを担う人材の確保を進めました。開発費用の増加に加え、この負担も増加しましたので、販売費及び一般管理費は前事業年度より大幅に増加しました。
一方、当社はLGD分野での新たなビジネス展開を行うため、原石等の製品化を目指してきましたが、2024年1月に当社100%子会社であるエス・エフ・ディー株式会社(以下「SFD」といいます。)を設立し、ビジネス体制を整えてきました。
以上の結果、当事業年度の売上高は757,549千円(前年同期比72.0%減)、営業損失は213,997千円(前年同期は1,280,928千円の営業利益)、経常損失は97,384千円(前年同期は1,280,724千円の経常利益)、当期純損失は111,336千円(前年同期は909,628千円の当期純利益)となりました。
なお、当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
②財政状態の状況
(資産)
当事業年度末における流動資産は1,897,003千円となり、前事業年度末に比べ1,065,240千円減少いたしました。これは主に、輸出貿易管理令の一部を改正する政令の施行への対応として、一時的に製品等の輸出取引を保留したことや、パレスチナ・イスラエル紛争によるイスラエルの当社種結晶ユーザーとの一時的な取引停止、インドのLGDメーカーによる種結晶の自家生産の動き等の影響により、種結晶の売上が前事業年度に比べ大きく減少したため、現金及び預金が1,551,352千円、売掛金が133,728千円減少したものの、製品が412,651千円、仕掛品が176,974千円増加したことによるものであります。固定資産は3,440,667千円となり、前事業年度末に比べ386,453千円増加いたしました。これは主に、前事業年度に発注していた生産及び開発設備の購入により有形固定資産が300,395千円増加したことによるものであります。
この結果、資産合計は、5,337,670千円となり、前事業年度末に比べ678,787千円減少いたしました。
(負債)
当事業年度末における流動負債は220,192千円となり、前事業年度末に比べ520,353千円減少いたしました。これは主に未払法人税等が357,613千円、未払金が82,058千円、1年内返済予定の長期借入金が34,279千円及び役員賞与引当金が25,000千円減少したことによるものであります。固定負債は266,822千円となり、前事業年度末に比べ78,586千円減少いたしました。これは主に長期借入金が83,550千円減少したことによるものであります。
この結果、負債合計は、487,015千円となり、前事業年度末に比べ598,939千円減少いたしました。
(純資産)
当事業年度末における純資産合計は4,850,654千円となり、前事業年度末に比べ79,848千円減少いたしました。これは主に、譲渡制限付株式報酬としての新株式の発行により資本金及び資本準備金がそれぞれ15,744千円増加したものの、当期純損失計上により利益剰余金が111,336千円減少したことによるものであります。
この結果、自己資本比率は90.9%(前事業年度末は82.0%)となりました。
③キャッシュ・フローの状況
当事業年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、税引前当期純損失が86,711千円(前年同期は1,275,102千円の税引前当期純利益)と1,361,814千円減少したこと等により、前事業年度末に比べ1,551,352千円減少し、当事業年度末は688,217千円となりました。
当事業年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果使用した資金は630,746千円(前事業年度は1,184,225千円の獲得)となりました。これは主に、減価償却費451,124千円及び売上債権の減少額133,728千円があったものの、税引前当期純損失が86,711千円、棚卸資産の増加額618,577千円、法人税等の支払額339,371千円等があったことによるものであります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は908,505千円(前事業年度は1,886,624千円の使用)となりました。これは主に有形固定資産の取得による支出828,295千円、関係会社株式の取得による支出110,000千円等があったことによるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果使用した資金は118,477千円(前事業年度は,1,862,248千円の獲得)となりました。これは主に長期借入金の返済による支出117,829千円等があったことによるものであります。
④生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当事業年度における生産実績は以下のとおりであります。
|
生産高 |
当事業年度 (自2023年4月1日 至2024年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
生産高合計(千円) |
772,775 |
81.7 |
(注)1.金額は製造原価によっております。
2.当社の売上高及び生産高は、ダイヤモンド単結晶の製造のための設備の規模(生産能力)に依存します。なお、最近2事業年度の当社の生産能力(カラットベース)は、以下のとおりであります。
|
|
前事業年度 (自2022年4月1日 至2023年3月31日) |
当事業年度 (自2023年4月1日 至2024年3月31日) |
|
(カラット) |
(カラット) |
|
|
生産能力 |
150,000 |
210,000 |
b.受注実績
当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当事業年度における製品種類別の受注実績は以下のとおりであります。
|
製品種類 |
当事業年度 (自2023年4月1日至2024年3月31日) |
|||
|
受注高(千円) |
前年同期比(%) |
受注残高(千円) |
前年同期比(%) |
|
|
種結晶(注) |
466,525 |
28.5 |
21,197 |
5.9 |
|
基板及びウエハ |
251,914 |
358.3 |
29,377 |
273.7 |
|
光学部品及びヒートシンク |
21,843 |
63.9 |
5,160 |
52.0 |
|
工具素材 |
15,927 |
78.5 |
479 |
21.0 |
|
合計 |
756,211 |
42.9 |
56,214 |
14.8 |
c.販売実績
当社はダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであります。当事業年度における製品種類別の販売実績は、以下のとおりであります。
|
製品種類 |
当事業年度 (自2023年4月1日 至2024年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
種結晶(千円)(注)2. |
480,753 |
18.6 |
|
基板及びウエハ(千円) |
229,964 |
340.6 |
|
光学部品及びヒートシンク(千円) |
29,103 |
77.4 |
|
工具素材(千円) |
17,728 |
86.1 |
|
合計(千円) |
757,549 |
28.0 |
(注)1.最近2事業年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は以下のとおりであります。
|
相手先 |
前事業年度 (自2022年4月1日 至2023年3月31日) |
当事業年度 (自2023年4月1日 至2024年3月31日) |
||
|
金額(千円) |
割合(%) |
金額(千円) |
割合(%) |
|
|
CBC株式会社 |
687,713 |
25.4 |
132,769 |
17.5 |
|
本田技研工業株式会社 |
- |
- |
103,523 |
13.7 |
|
Appsilon Enterprise |
52,629 |
1.9 |
101,632 |
13.4 |
2.当社は、大型のダイヤモンド単結晶を大量に製造することができますが、当社の主要な製品である種結晶に
ついて、人工宝石市場における種結晶の大型化のニーズが増大しております。なお、当事業年度におけるサ
イズ別の種結晶の出荷割合(出荷個数ベース)は以下のとおりであります。
|
種結晶サイズ |
当事業年度 (自2023年4月1日 至2024年3月31日) |
|
割合(%) |
|
|
7x7mm以下 |
16.9 |
|
8x8mm~9x9mm |
42.3 |
|
10x10mm~11x11mm |
26.1 |
|
12x12mm以上 |
14.7 |
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。
①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社の財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に基づき作成されております。この財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 重要な会計方針」に記載のとおりであります。
また、財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。
②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容
経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容については、「(1) 経営成績等の状況の概要」に含めて記載しております。
a.経営成績に重要な影響を与える要因
当社の事業に重要な影響を与える要因の詳細につきましては、「第2 事業の状況3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。
b.資本の財源及び資金の流動性
当社の資金需要のうち主なものは、ダイヤモンド単結晶の製造のための設備投資、研究開発費、人件費等の営業費用であります。
当社は、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。
当社は、日常の運転資金については自己資金で賄い、自己資金では賄えない設備投資資金等については金融機関からの長期借入で賄うとともに、資本での調達を検討することとしております。
なお、当事業年度末における借入金の残高は、232,225千円であり、当事業年度末における現金及び現金同等物の残高は688,217千円であります。
c.経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社は、経営上の目標の達成状況を判断するための成長性を判断する客観的な指標として、①売上高成長率、②経常利益率、③ROE、④自己資本比率を重視しております。
①当事業年度における売上高成長率は、△72.0%(前期は73.3%)となっております。
売上高成長率は、当社の成長性や事業進捗のペースを表す指標として、重視しております。
当社が競争優位性を確保しながら適切なペースで売上高を向上させ、経営上の目標を達成するための施策としては、当社の売上高はダイヤモンド単結晶の製造のための設備の規模に依存することから、金融機関からの借入及び資本での調達による長期的な資金を獲得し、設備投資を進め、生産能力の拡大を図ってまいります。
②当事業年度における経常利益率は、△12.9%(前期は47.3%)となっております。
経常利益率は、当社の売上高に対する収益性を表す指標として、重視しております。
当社の事業進捗及び競争優位性の確保にとって、設備投資及び研究開発活動が重要ですが、そのための長期的な資金として自己資金を継続的に確保することが必要であるため、一定の経常利益率の確保に努めてまいります。
③当事業年度におけるROEは、△2.3%(前期は26.1%)となっております。
ROEは、当社の投下資本に対する収益性を表す指標として、重視しております。
また、研究開発活動により、ダイヤモンド単結晶の新たな用途を開拓することにより事業領域の拡大を図ってまいります。具体的には、大型単結晶の開発、ダイヤモンド半導体デバイス開発に必要な素材の開発や光学部品として必要な高品質結晶の開発を推進してまいります。
④当事業年度の自己資本比率は、90.9%(前期は82.0%)となっております。
当社の事業進捗にとって設備投資は重要ですが、財務の健全性を保つためには、自己資本比率を50%以上に保ちたいと考えております。過度な借入を行うことがないよう、キャッシュ・フローにも注意を払っております。
当事業年度末現在における経営上の重要な契約等は以下のとおりであります。
(1) 特許実施権許諾契約
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契約締結先 |
契約締結年月日 |
契約期間 |
契約の名称 |
主な内容 |
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国立研究開発法人産業技術総合研究所 株式会社AIST Solutions (注1) |
2020年5月1日 2023年12月21日 |
2026年10月31日まで |
特許実施権許諾契約 及び変更契約 |
当社の製造技術に係る産総研特許の独占実施権契約及び変更契約。全部で内外の15件の特許について、独占実施権を当社に付与する。 |
(注)1.契約締結先は、2015年に「独立行政法人産業技術総合研究所」から「国立研究開発法人産業技術総合研究所」に名称が変更されております。
また、産総研においては、現在、株式会社AIST Solutionsが産総研の保有する特許の再実施許諾権付通常実施権を有しており、2023年6月27日に産総研と当社との契約に関し、産総研の契約上の地位を株式会社AIST Solutionsへ移転する覚書を締結していることから、変更契約については、当社と株式会社AIST Solutionsの間の契約になっております。
2.上記の契約による独占的実施権の許諾期間満了後は、非独占的通常実施権が特許の存続満了日まで付与されることとなっております。
3.上記の契約は、以下の事由に該当する時は、書面による通知をもって株式会社AIST Solutionsが当社に解約を申し入れることができることとなっております。
(株式会社AIST Solutionsからの解約事由)
①当社が上記の契約に基づく特許実施権許諾の対価を支払わない時、又はそれらの支払いを著しく遅延した時
②当社が、上記の契約に定める当社製品の販売状況に関する報告書の提出を著しく遅滞した時、又は帳簿の閲
覧に正当な理由なく応じない時
③当社が上記の契約に定める秘密保持義務を怠った時
④当社が、直接間接を問わず、本契約に定める特許の有効性について争った時
⑤当社が、本契約の履行について虚偽の報告その他不法行為をした時
4.上記の契約は、以下の事由に該当する時は、書面による通知をもって当社が産総研及び株式会社AIST Solutionsに解約を申し入れることができることとなっております。
(当社からの解約事由)
①株式会社AIST Solutionsが上記の契約に定める秘密保持義務を怠った時
②本契約に定める特許の全部について拒絶すべき旨の査定もしくは拒絶をすべき旨の審決又は特許を無効にす
べき旨の審決が確定した時
5.上記の契約上の義務を履行しない場合には、15日以上の期間を定め当該義務の履行に関する催告をし、当該期間内に相手方による履行がなされない時は、書面による通知をもって、株式会社AIST Solutions又は当社が相手方に対し解約を申し入れることができることとなっております。
6.上記の契約に定める特許権の概要及び存続期間満了日は、以下のとおりであります。
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特許権の名称 |
対象国 |
出願 または 登録 |
出願番号または出願年月日 登録番号または登録年月日 |
存続期間満了日 |
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ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
日本 |
登録 |
特許第4919300号 2012年2月10日 |
2027年8月31日 |
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ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
米国 |
登録 |
米国特許9410241号 2016年8月9日 |
2027年8月31日 |
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オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第4873467号 2011年12月2日 |
2026年7月27日 |
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オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
独国 |
登録 |
独国特許第2048267号 2013年11月20日 |
2026年7月27日 |
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オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
仏国 |
登録 |
仏国特許第2048267号 2013年11月20日 |
2026年7月27日 |
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オフ角を有する単結晶基板の製造方法 |
英国 |
登録 |
英国特許第2048267号 2013年11月20日 |
2026年7月27日 |
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大面積ダイヤモンド結晶基板及びその製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第4849691号 2011年10月28日 |
2028年12月25日 |
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大面積ダイヤモンド結晶基板及びその製造方法 |
米国 |
登録 |
特許第8940266号 2015年1月27日 |
2028年12月25日 |
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モザイク状ダイヤモンドの製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第5621994号 2014年10月3日 |
2030年12月15日 |
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モザイク状ダイヤモンドの製造方法 |
英国 |
登録 |
英国特許第2488498号 2017年11月22日 |
2030年12月15日 |
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ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
独国 |
登録 |
独国特許第2058419号 2016年8月9日 |
2027年8月31日 |
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ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
仏国 |
登録 |
仏国特許第2058419号 2016年4月2日 |
2027年8月31日 |
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ダイヤモンドの表面層又は成長層の分離方法 |
英国 |
登録 |
英国特許第2058419号 2016年4月2日 |
2027年8月31日 |
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単結晶の製造方法 |
日本 |
登録 |
特許第4613314号 2010年10月29日 |
2025年5月26日 |
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単結晶の製造方法 |
米国 |
登録 |
米国特許7736435号 2010年6月15日 |
2025年5月26日 |
(2) 賃貸借契約及び借地権設定契約
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契約締結先 |
契約締結年月日 |
契約期間 |
契約の名称 |
主な内容 |
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株式会社イマス |
2014年10月14日 |
2015年2月1日から 2020年1月31日まで (注1) |
建物賃貸借契約書 |
当社の横江工場として使用する建物の賃借 |
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小西ますみ 小西税 小西敦 |
2021年12月21日 |
2021年12月23日から 2023年12月22日まで (注2) |
事業用建物賃貸借契約書 |
当社の開発部の拠点として使用する建物の賃借 |
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有限会社KND |
2022年3月22日 |
2022年5月20日から30年間 (注3)(注4) |
事業用定期転借地権設定契約書 |
当社の島工場用地として使用する土地の事業用定期転借地権の設定 |
(注)1.契約期間満了6ヶ月前までに、当社及び契約締結先双方より相手方に対し、書面による別段の申し出がない場合は、本契約は自動的に3年間更新されることとなっております。なお、本契約期間内に契約締結先の正当な理由及び当社の都合により本契約を解約する場合、当社及び契約締結先双方ともに6ヶ月前までに相手方に対し、書面にて通告することが必要であります。
2.当社及び契約締結先の協議により、本契約を更新することができることとなっております。ただし、契約締結先が当社に対して、契約期間満了の6ヶ月前までに、本契約を更新しない旨または本契約の条件を変更する旨の通知等、特段の意思表示をした場合は、この限りではありません。また、本契約期間内であっても、当社が契約締結先に対して、3ヶ月前までに書面により解約の申し入れを行うことにより、本契約を解除することができます。
3.当社及び契約締結先は、本契約期間中に本契約を解約することはできないこととなっております。ただし、当社は、本契約期間中であっても、やむを得ない事情により、本契約を解約する場合は、6ヶ月前までに契約締結先に対して書面で通知することにより、通知後6ヶ月を経過後に本契約を解約することができます。
当社の研究開発活動は、(ⅰ)生産技術に関する研究開発、(ⅱ)新製品に関する研究開発、(ⅲ)製造装置及び方法に関する研究開発の3つのカテゴリーにおいて、優先順位を考慮して実施しております。
開発テーマは開発審査会を経て選定され、年度計画の下で開発作業を行っています。また、半期単位で開発報告会を開催して、進捗状況を社内に周知しています。
当事業年度における研究開発費の総額は、
研究開発活動の結果、当事業年度において、①宝石原石の成長条件の開発、②大型単結晶の開発、③研磨速度の高速化、について成果がありました。
研究開発活動の結果の具体的な内容は、以下に示すとおりです。
なお、当社は、ダイヤモンド単結晶の製造、販売、開発事業の単一セグメントであるため、セグメント別の記載を省略しております。
(1) 生産技術に関する研究開発
当事業年度において、引き続き製作するダイヤモンドの品質向上に取り組んできました。当社のダイヤモンド結晶は、微量の窒素不純物や欠陥があるために、薄茶色を呈しております。種結晶や基板として利用する場合に、これが問題となる応用もあります。色をほとんどなくすには、窒素不純物量を減少することで可能となりますが、成長速度の低下や、多結晶の発生などの問題が出てくる場合があります。これらの問題が生じずに成長できる条件の検討を開始しております。この中では、どのような親結晶を使用するかも重要であり、合わせて検討を行っております。
また、砥石を使用する新しい研磨手法を開発し、粗研磨に利用できることが判明いたしました。これによって、大型の基板等においては、粗研磨の時間が従来の1/3程度まで短縮でき、大型製品の研磨コストの低減が実現いたしました。
(2) 新製品に関する研究開発
当社が想定している新製品は、応用分野によって分かれており、以下のとおりであります。
①ダイヤモンド半導体デバイス開発等に必要な素材の開発
a.ウエハの開発
ダイヤモンド半導体デバイス等の製作において必須の素材であり、2インチウエハの実用化を目指しています。
単結晶サイズの大型化の研究を継続的に進めておりますが、その成果をもとにして大型のモザイク結晶を開発する計画です。このための接続技術や研磨技術等の周辺技術の開発も、同時並行で検討してまいります。
b.低抵抗基板の開発
ダイヤモンドのパワーデバイスにおいては、縦型デバイス構造が重要であり、これに使用する抵抗値の低い基板を開発してきました。縦型デバイスでは、デバイスの底面から上面(または逆方向)へ電流を流すため、抵抗値の低い基板が必要で、従前から発売しているボロンドープエピタキシャル成長膜より桁違いに高濃度のボロンをドーピングすることで実現できます。
当社は以前よりこのような低抵抗のダイヤモンドが成長する条件を開発しており、2023年8月に0.2mm厚の自立基板と、基板上に薄膜を形成したエピ基板の両者の製品発表を行いました。この低抵抗ダイヤモンドは、生産部に技術を移管して、本格的な生産を開始しております。この製品を効率的に生産するため、ウォータージェットレーザーを2023年11月に導入いたしました。これによって大型の自立基板を作製することが可能となり、ダイヤモンドパワーデバイス開発に貢献できると考えております。
②光学部品として必要な高品質結晶の開発
ダイヤモンドは、熱伝導率が高く、熱膨張係数が小さいため、高エネルギービームの光学部品として適した材料です。また、X線を透過するのにも適しています。このような特性の組み合わせとして、強力なX線ビームを作り出す放射光施設で使う光学部品(特にモノクロメーターと呼ばれる部品)をダイヤモンド化することが、期待されています。
モノクロメーターに使用する結晶は、極限までの高品質とする必要があり、当社はこの結晶の開発を進めています。
③宝石原石の成長条件の開発
当社が原石の販売に進出するとの方針を実現するため、原石の成長条件の検討を行ってきました。特に、大型宝石に対応するための大型原石作製については、当社の持っている大型種結晶によって特徴ある原石を生産できる可能性があるので、良質な原石を成長する条件を検討してきました。その結果、1カラット以上の宝石を製作するために必要な厚さの原石を、再現性良く製作できるようになりました。
(3) 製造装置及び方法に関する研究開発
2022年11月に稼働しました島工場に、産総研などとの共同研究の成果である、新型成長装置を導入しました。この装置によって、成長面積が拡大出来ることが判明しました。さらに成長面積の拡大や、成長速度の増大を期して、成長装置内のホルダー等の部品について、検討を継続しています。