第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

  当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、次のとおりである。

  なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。

 

  当社グループは、一連の不適切事案により、株主のみなさま、お客さまをはじめとするステークホルダーのみなさまからの信頼を損なったことを大変重く受け止め、「同様の事象を二度と発生させない」という決意のもと、信頼回復に向けた取り組みを進めているところである。

  当年度の連結経常利益は過去最大の黒字となったが、これは燃料費調整制度の期ずれ差益などの一過性の要因によるところが大きく、また、ここ数年で大きく毀損した財務基盤の回復は未だ道半ばにあると認識している。

  当社グループは、引き続き厳しい状況にあるが、経営理念である「信頼。創造。成長。」の実現に向けて、足元の最重要課題として「信頼回復」と「収益・財務基盤の回復」を掲げ、思考様式・行動様式や電気事業のビジネスモデルの「変革」に取り組むとともに、サステナビリティ経営を推進し、企業価値の向上と持続的成長を図るべく、以下の諸課題に取り組んでいく。

 

(1) 信頼回復に向けた取り組み

  当社グループは、一連の不適切事案の発生を踏まえ、社外取締役による経営の監督強化、三線管理(注)の強化などにより、「経営の監督」と「業務の執行」の両面から再発防止に努めている。体制面では、「不適切事案再発防止対応本部」が再発防止策の策定等を担い、社外有識者を過半とする「内部統制強化委員会」において再発防止策を含む内部統制の実施内容等について評価・助言を受ける体制とすることで、内部統制の更なる強化を図っている。

(注)三線管理=業務執行部門(1線)、管理間接部門(2線)、内部監査部門(3線)のそれぞれにリスクマネジメントの役割を担わせる内部統制の仕組み。

  再発防止の徹底に向けては、一連の不適切事案発生の背景にある、企業文化を含む根本原因を分析のうえ、その分析結果を踏まえた対応方針を整理し、この対応方針のもとで、本年4月、「エネルギアグループ企業行動憲章」を見直した。

  また、当社は、経営理念の実現に向けた当社の取り組み姿勢や、地域に対する想いを改めてお伝えするため、新たなブランドメッセージ「一日も。百年も。」を策定した。

 


 

  役員・社員が一丸となって、新たな行動憲章やブランドメッセージのもとで、みなさまからの信頼回復に努めていく。

 

 

(2) グループ経営ビジョン「エネルギアチェンジ2030」の実現に向けた取り組み

  当社グループは、収益・財務基盤の回復に向けて、競争力のある大型電源の稼働・安定運転、内外無差別(注)の徹底を前提とした電気事業収益の最大化、経営効率化などに取り組み、各事業の稼ぐ力と生産性の向上を図るとともに、カーボンニュートラル実現に向けた施策、多様な人材の活躍推進などにより持続的な成長を図り、グループ経営ビジョン「エネルギアチェンジ2030」(以下、「経営ビジョン」という。)の実現に向けて取り組んでいく。

(注)内外無差別=発電から得られる利潤を最大化するという考え方に基づき、社内外・グループ内外の取引条件を合理的に判断し、内外無差別に電力卸売を行うこと。

 

 ① 総合エネルギー事業における取り組み

 

 (イ)安全確保を大前提とした原子力発電の活用

  原子力発電は、安定供給、経済性、環境への適合の観点から重要な役割を担うベースロード電源であり、また、確立した脱炭素技術としても、一定の比率を維持していく必要があると考えている。

  島根原子力発電所においては、地震・津波対策などの設備面の安全対策の着実な実施のほか、原子力災害発生時に備えた訓練等の継続的な実施や関係自治体との連携強化など、原子力防災対策にも積極的に取り組み、更なる安全性を不断に追求していく。

  島根2号機については、2024年5月30日に原子力規制委員会から原子炉施設保安規定変更認可を受けた。この認可をもって、これまでに申請している島根2号機の新規制基準への適合性に係る審査は終了した。安全対策工事については、長期化する見通しとなったため、本年4月、再稼働及び営業運転再開の予定時期をそれぞれ本年12月、2025年1月に変更した。

    引き続き、島根2号機・3号機の早期の再稼働・運転開始に向けて、新規制基準への適合性審査や原子力規制委員会が行う使用前確認に適切に対応していくとともに、地域のみなさまからご理解を得られるよう、丁寧に説明を行っていく。

    加えて、上関地点においては、将来にわたる重要な電源として、上関原子力発電所の開発に取り組むとともに、島根原子力発電所の安定稼働に資する使用済燃料対策の一環として、使用済燃料中間貯蔵施設の設置に係る調査・検討を進めていく。

 

 (ロ)電気事業の収益拡大に向けたプロジェクト組織の設置

    当社は、本年4月、内外無差別な卸取引に対応しつつ、電気事業の収益を拡大していくため、これらの分野に特化した、社長直属のプロジェクト(「収益力強化プロジェクト」・「需給最適化プロジェクト」)を期間限定で設置した。

  各プロジェクトにおいては、電力の小売・卸市場の急速な変化にスピード感をもって対応し、お客さまニーズ等の分析やお客さまから選ばれるためのメニューの設定、また、その実現に必要な電源・燃料調達の最適化や価格変動リスクへの対応等に向けた施策の策定などを検討していく。

 

 ② 送配電事業における取り組み

 

    設備保全の高度化・合理化とレジリエンス強化

電気を安定的に低コストでお客さまにお届けするため、最新のデジタルトランスフォーメーション(DX)技術を積極的に活用し、設備保全の高度化・合理化に取り組んでいく。

また、自然災害の高頻度化・激甚化を踏まえ、設備のレジリエンス(災害に対する強靭性及び回復能力)強化を図るとともに、迅速かつ円滑な災害対応に向けて、引き続き、社外関係機関や自治体等との連携強化に努めていく。

 

 ③ 情報通信事業・成長事業における取り組み

 

(イ)ICT(情報通信技術)による付加価値創出

高品質・高信頼度の通信網の構築に加え、データセンター、クラウド、情報セキュリティやDXソリューションなどの豊富なサービスにより、お客さまの業務品質の向上や競争力強化を支援し、地域課題の解決や新たな付加価値の創出に取り組んでいく。

 

(ロ)海外事業の領域拡大

海外事業を利益の一角を担う事業にしていくため、これまで培ってきた電気事業の知見を活用し、海外事業への出資参画を進め、収益力の強化に取り組んでいる。

引き続き、再生可能エネルギーを中心に海外発電事業の発掘・獲得を進めるとともに、ネットワーク・小売事業や電力周辺事業に加え、脱炭素燃料関連事業・蓄電池活用などの新たなエネルギービジネスにも積極的に取り組み、事業領域を拡大していく。

 

(ハ)再生可能エネルギーの導入拡大

再生可能エネルギーを地球環境問題への対応だけでなく成長領域の一つと位置づけ、経営ビジョンで掲げる新規導入量目標(2030年度:30~70万kW)の達成に向けて、積極的に取り組んでおり、2023年度までの新規導入量は約32万kWとなった。引き続き、最大限の導入に取り組んでいく。

また、その導入が進むにつれ、調整力の重要性も増すことから、「再生可能エネルギーの導入拡大」と「調整力確保」を両輪として進めていく。

 

(ニ)ベンチャー企業との協創

エネルギア創造ラボでは、カーボンニュートラル、DX、スマート社会をテーマに、ベンチャー企業への投資を進めるとともに、ベンチャー企業の先進的な製品・サービスを地域に展開することで、新たな利益の創出と地域の課題解決への貢献を目指していく。

なお、本年3月末時点で21件(ファンドを含む。)の投資を行っている。

 

 ④ 持続的な企業価値向上に向けた取り組み

 

(イ)「2050年カーボンニュートラル」実現に向けた取り組み

当社グループは、「2050年カーボンニュートラル」に挑戦し、エネルギーの脱炭素化、お客さま・地域の脱炭素化支援やカーボンニュートラル実現に資する技術の開発を進めていくことで、持続可能な社会の実現と地域の発展に貢献していく。

「2050年カーボンニュートラル」の実現に向けては、「中国電力グループカーボンニュートラル戦略基本方針」のもと、火力発電のトランジションをはじめとする重点施策を定め、取り組みを進めていく。

具体的な取り組みとして、柳井発電所2号系列において、最新の高効率GTCC(ガスタービンコンバインドサイクル発電システム)を採用したリプレース(建て替え)を行うとともに、将来の水素混焼の実装に必要な設備の整備等の検討も進めていく。また、本年2月から、火力発電所におけるCCS(CO2回収・貯留技術)の導入に向けて、海外でのCO2貯留も視野に、国内外の事業者と共同で検討を開始している。

 

 (ロ)多様な人材の活躍推進

グループ全体の包括的な方針である「多様な人材の活躍推進方針」及び「中国電力グループ人権方針」に基づき、共通テーマ(女性管理職の増加・男性育児休職取得の向上・人権啓発活動の実践継続)に沿った目標をグループ各社が設定し、そのすべてを達成することを中期経営計画における経営目標としている。

また、当社においては、多様な働き方の実現に向けて、フレックスタイム勤務制度や在宅勤務制度、配偶者同行休職制度、自己都合退職者の再雇用制度などを導入しており、今後も働き方の選択肢の充実を図っていく。

こうした取り組みにより、グループ一体となって多様な人材の活躍を推進していく。

 

 (ハ)ガバナンス体制の強化

    当社グループは、企業価値の向上と持続的成長の実現には、経営の透明性・公正性の維持・向上、経営環境の変化に対する迅速・果断な意思決定を行うことができる体制の構築が重要であると考え、「コーポレートガバナンスに関する基本方針」を定め、その充実・強化に継続的に取り組んでいる。

    具体的な取り組みの一つとして、当社においては、役員報酬について、業績連動型株式報酬制度の導入を含む報酬構成の見直しにより、業績連動報酬の比率を高めるとともに、短期業績連動報酬である賞与にESGに関する項目(従業員エンゲージメントの向上・CO2排出量の削減・女性管理職比率の向上)の取り組み結果を一部反映することで、持続的な成長に向けたインセンティブとしての機能向上を図っていく。

 

〇 中国電力グループ企業理念


 

〇 中国電力グループ経営ビジョン


 

〇中国電力グループ カーボンニュートラル戦略基本方針

 


 

○火力発電のトランジション計画


 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

  当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取り組みは、次のとおりである。

  なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。

 

(1)サステナビリティ共通
  ① ガバナンス・戦略

当社グループの経営理念「信頼。創造。成長。」は、それぞれESGの観点を包含しており、持続可能な経営のあり方を示すものである。また、経営ビジョンにおいて、「エネルギーの安定供給確保」「気候変動の緩和」「地域社会との協働・共創」「あらゆる人々の活躍の推進」を重点課題に設定するとともに、エネルギアグループ企業行動憲章(以下、「企業行動憲章」という。)において、持続可能な社会実現に向けた当社グループの使命を明らかにしており、これらの実践により経営理念を体現することを通じて、サステナビリティ経営を推進している。

サステナビリティ課題への対応については、経営ビジョンや企業行動憲章に掲げる項目の実現に向け、中国電力グループ中期経営計画(以下、「中期経営計画」という。)において具体的な施策を策定のうえ進捗管理を行い、原則毎週開催する経営会議や、通常月1回開催する取締役会に定期的に付議し、レビューを受けている。

また、各施策の具体的な取り組みは、主管となる各組織を中心に推進しており、特に組織横断的な検討を要するものについては会議体を設置し対応している。各組織・会議体は、サステナビリティ課題への対応状況について、経営会議や取締役会に適時・適切なタイミングで付議している。

 

② リスク管理

当社では、全社リスク管理体制を整備しており、リスク管理の専任組織が、サステナビリティに関するリスクも含めたグループ全体のリスク管理の推進・支援にあたっている。当該組織を中心とした体制のもと、各組織においてリスクの洗い出し、評価、対応策の検討を行い、リスク対応策を中期経営計画に反映するとともに、リスク管理状況や対応策の進捗については、経営会議・取締役会に付議し、レビューを受けている。

なお、リスク管理体制や、気候変動や人材確保に係る具体的なリスクについては、「3 事業等のリスク」に記載している。

 

③ 指標及び目標

指標及び目標の具体的な進捗状況等については、「(2)気候変動への対応」「(3)人的資本」に記載している。

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取り組み)

当社は、気候変動問題への取り組みを重要な課題として認識し、安全確保(Safety)を大前提とした、安定供給(Energy Security)、経済性(Economic Efficiency)、環境への適合(Environment)の「S+3E」を基本に、バランスのとれた電源構成の構築を目指しながら、持続可能な社会の実現に向け、「2050年カーボンニュートラル」に挑戦する。

なお、TCFD提言への取り組みについては「中国電力グループ統合報告書2023」から抜粋しており、詳細は統合報告書に記載している。また、2023年度の取り組み実績は、「中国電力グループ統合報告書2024」で開示する予定である。

 

① ガバナンス

当社では、社長執行役員を環境管理の最高責任者とし、カーボンニュートラル推進本部長を全社環境管理推進者としている。全社環境管理推進者を委員長とする「全社環境委員会」において、気候変動問題をはじめとする環境問題に関する方針・計画や、取り組みに関する重要事項の審議を原則年2回開催しており、実施状況などを社長執行役員に報告している。

取締役会は、社長執行役員から「中国電力グループ環境行動計画」の実施状況などについて年2回報告を受け、環境管理の職務執行を監督している。

当社グループ事業のカーボンニュートラルに向けた取り組みを強力に推進するとともに、カーボンニュートラルに向けたお客さま・地域社会との連携のより一層の強化を図るため、社長執行役員直属の専任組織「カーボンニュートラル推進本部」を設置している。

カーボンニュートラル推進本部長を議長とする「カーボンニュートラル推進会議」を原則年4回開催し、当社グループにおけるカーボンニュートラルに向けた取り組み状況を一元的に把握・評価するとともに、更なる取り組みの推進を図っている。

 

 <環境マネジメント・カーボンニュートラル推進体制(有価証券報告書提出日現在)>


 ※1 環境行動計画の実施結果報告を含む。

 ※2 重要な見直しは取締役会へ付議。

 ※3 海外の子会社等は含まない。

 

 <取締役会への報告事項ならびにカーボンニュートラル推進会議における議題>


 

② 戦略

当社は、脱炭素化に向けた世界的な潮流を、当社グループの成長の機会と捉え、「2050年カーボンニュートラル」の実現に向け、積極的かつ戦略的に取り組みを推進するため、当社グループが目指す方向性を明確化するとともに取り組みを具体化するものとして「中国電力グループカーボンニュートラル戦略基本方針」を策定している。

「中国電力グループカーボンニュートラル戦略基本方針」では、当社が提供するエネルギーの脱炭素化とお客さま・地域の脱炭素化に取り組むことを方針として定め、2030年度目標を設定し、その目標達成に向け、カーボンニュートラル電力の活用拡大、火力発電のトランジション、再生可能エネルギー電源の確保、エネルギーサービスの展開、新規ビジネスの検討、地域課題への対応及び次世代ネットワークの構築を重点施策として掲げている。

なお、当社は、気候変動に関するリスク・機会を評価するにあたって、国際エネルギー機関(IEA)・気象庁等の公表データを参照し、1.5℃シナリオと4℃シナリオを前提としてシナリオ分析を実施している。

 

 

 <気候変動に関するリスク・機会>

 


 

<気候変動関連リスク・機会の主な財務影響>


 

③ リスク管理

全社リスク管理体制のもと、気候変動を含む主管業務に関するリスクの洗い出し・評価を行い、発生を予見できるリスクについては未然防止する活動に、発生を予見することが困難なリスクについては被害を最小限に抑える管理活動に重点を置き、対応策の検討を行い、経営計画等に反映して継続的に管理している。

また、業績等に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクについては、「3 事業等のリスク」にも記載している。

 

 

④ 指標及び目標

カーボンニュートラルへの挑戦は、当社の経営理念である「信頼。創造。成長。」を体現するものであり、2030年度目標の達成を通過点として、2050年カーボンニュートラルの実現を目指している。

 


 

<サプライチェーン温室効果ガス排出量>

項目

2021年度実績

2022年度実績

スコープ1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)

1,850

万t-CO2

1,961

万t-CO2

スコープ2(他社から供給された電気の使用に伴う間接排出)

0.003

万t-CO2

0.004

万t-CO2

スコープ3(スコープ2以外の間接排出)

1,088

万t-CO2

1,300

万t-CO2

 

 

(3)人的資本

① ガバナンス・戦略

  当社グループは、取り巻く環境変化に柔軟かつ迅速に対応し、持続的な企業価値向上を果たしていくため、「経営戦略をいかに実現するか」という観点から、“人”に関する様々なマネジメントに取り組んでいる。

  こうした取り組みを時々の情勢、課題に応じて不断に見直すとともに、日々の取り組みを通じて、ありたい姿を見据えた企業文化の醸成につなげるべく、“人”に関する中長期的な「方針」とその進捗をモニタリングする「指標」を設定し、内部の議論及び外部との対話を通じて継続的にマネジメントの改善を図る一連のサイクルとして「人材マネジメントサイクル」の確立を目指している。このサイクルのうち、内部の議論については、中期経営計画において定期的に、また必要に応じて、人材マネジメントの領域に属する採用、異動配置、評価、育成、報酬、働き方、安全・健康などの方針、指標及び具体的施策を経営会議・取締役会に付議している。また、労働組合との意見交換も行っている。

 

<人材マネジメントサイクルの全体イメージ>


 

  “人”に関する取り組みは息の長いものとなるが、ありたい姿をしっかりと見据え、改善を重ねながら持続的な企業価値向上に挑戦していく。以下、人的資本に関する方針、取り組みについて記載している。その進捗をモニタリングする人材マネジメント指標については「③ 指標及び目標」に記載している。

 

 

a.多様な人材の活躍推進

当社グループは、当社グループの経営理念「信頼。創造。成長。」のなかでも「創造。」、つまり、変化に対応し新たな価値を創造する担い手となるのは“人”であるという認識のもと、人材の多様性の確保を含む人材の育成及び社内環境整備に関するグループ全体の包括的な方針として、「多様な人材の活躍推進方針」を策定している。


「多様な人材の活躍推進方針」のもと、グループ一体となって多様な人材が活躍できる更なる環境づくりに取り組んでいくこととしており、当社及びグループ会社は、それぞれの経営事情や事業特性等に応じて自律的・主体的に必要な施策を実施していく。以下、当社における現在の主な取り組みを記載している。

 

(a)「自律性」と「多様性」の更なる推進

ⅰ.自ら考え行動する人材の育成

社員は、中長期的にありたい姿やチャレンジしたい仕事などの成長目標及びこれを実現するために主体的に取り組むべきことを申告し、管理職は、その内容を参考にして育成計画を策定している。その育成計画をもとに、社員の成長に資する業務付与を行うとともに、日常の仕事を通じたOJT、階層別や応募型のOff-JTも効果的に組み合わせて育成を図っている。

また、2024年度からは新たにオンライン動画学習を導入し、階層別研修のカリキュラム内容に応じて利用するとともに、OJTや自己啓発支援などにも活用している。

 

 

ⅱ.多様な働き方の推進

多様な働き方の実現に向けて、フレックスタイム勤務制度や在宅勤務制度、配偶者同行休職制度の導入など、働き方の選択肢の充実を図っている。

また、各人の意欲に応じて自律的にキャリア形成できる環境を整備する観点から、従来の社内公募制度を拡充し、社内兼業の仕組みを設けている。

このほか、育児・介護のための休職制度や短時間勤務制度、生活上の様々なニーズに対応するための当社独自の休務制度など、仕事と家庭の両立支援制度を整備するとともに、男性の育児参加を推進し、男女ともに仕事と家庭を両立できる職場風土の醸成に取り組んでいる。

 

<至近に新設・拡充した主な制度>

在宅勤務

対象事業所、対象者、適用事由、実施可能回数を拡大

育児短時間勤務

対象となる子の年齢を小学3年生の年度末まで拡大

フレックスタイム勤務

コアタイムを4時間から2時間に短縮

時間単位の年次有給休暇 <新設>

年次有給休暇を1時間単位で取得可能

ライフサポート休暇 (注)

適用事由に「不妊治療」を追加

社内兼業 <新設>

各部署が公募する業務に応募し、自部署に所属しながら当該業務にも従事

配偶者同行休職 <新設>

配偶者の転勤等に同行するため1回につき3年まで休職可能

 

(注)入社から退職までの期間における生活上の様々なニーズ(育児・ボランティア・自己啓発等)へ弾力的かつ幅広く対応するために設けた当社独自の休暇制度。

 

ⅲ.女性社員の活躍推進

女性社員の活躍に関する数値目標を設定のうえ、より一層の活躍を推進している。適性や育成計画に基づく幅広い業務付与により能力発揮を促すとともに、研修会などを通じて、管理職や女性社員の意識改革に取り組んでいる。

 

<至近に実施した研修会等>

組織メンバーの違いを活かす職場マネジメント研修

主に男女の違いを正しく理解し、それを活かすマネジメントをしていくための実践的知識・具体策を、OJT実施者が身に付けることを目的に実施

新任管理職への啓発活動

新任管理職に必要な知識として、人的資本に関する方針や、女性活躍推進の行動計画・取り組みについて個別学習を実施

若年層女性社員研修

ライフイベントも見据えた主体的なキャリア形成を支援することを目的に実施

 

 

(b)個人と組織の「関係性」向上

ⅰ.組織文化に関する指標の把握

多様な人材の活躍に向けて社員個々の力を最大限に引き出すため、個人と組織の「関係性」の高さを表す「従業員エンゲージメント」、個人と組織の「関係性」の土台となる「心理的安全性」「働きやすさ実感度」、さらには、社員一人ひとりの「自律性」の高さを表す「人材ビジョン実践度」という組織文化に関する指標について、全社員を対象とした自己申告制度において毎年調査し、その申告内容は上司と部下のコミュニケーションの材料としても活用している。

 

ⅱ.管理職のマネジメント支援

組織運営の鍵を握る管理職のためのマネジメント支援情報を継続的に発信するとともに、従業員エンゲージメントの向上に向け、組織文化に関する指標のマネジメントへの活かし方を示したハンドブックを全管理職へ配布している。また、マネージャー・課長クラスを対象にした「リーダーのための心理的安全性研修」や副長クラスを対象にした「リーダーシップトレーニング研修」を実施している。

 

(c)人材(量・質)の確保と成長

中長期的な想定に基づく人員計画を策定し、計画人数の確保を図るとともに、事業状況や成長領域への事業展開を踏まえつつ、他企業経験者や高度な専門能力を有する人材など多様な価値観・経験を有する人材の採用にも計画的かつ積極的に取り組んでいる。また、結婚、育児、介護、配偶者の転勤や、転職等のキャリアアップにより当社を自己都合退職した者を対象に、時期を問わず募集・再雇用する「おかえリターン制度」を設け、柔軟かつ効率的な人材の確保にも取り組んでいる。 

 
b.人権の尊重

当社グループは、すべての人々の人権を尊重することを事業活動の根底におき、いかなる差別も行わず、人権が真に尊重される社会の実現に向けて取り組むことを企業行動憲章に掲げる行動原則の一つとして明示している。その具体的行動指針として、当社グループの全役員及び全従業員が人権尊重の考え方を共有し、実践していくため、「中国電力グループ人権方針」を策定している。


 

 

これまでも、同和問題やハラスメントなどの人権問題についての認識を深め、人権問題の解決に向けた行動につながるよう、当社においては、全社員対象の職場研修をはじめ、新入社員・新任ライン長など階層別の研修を毎年計画・実施するなど、人権啓発に取り組んでいる。

「中国電力グループ人権方針」のもと、人権デュー・ディリジェンスの実践など事業活動の中で社会から求められている人権尊重の考え方を深く理解し、人権に関する課題に真摯に向き合い、人権の尊重に留意して業務に取り組むことで、人権が真に尊重される職場や社会の実現に努めていく。

 
c. 安全と健康の推進

当社グループは、事業活動の基盤となる安全と心身の健康を確保することを最優先し、労働災害の防止、健康の保持増進に取り組むことを企業行動憲章に掲げる行動原則の一つとして明示している。

当社においては、安全管理や健康経営に関わる諸施策を推進していくための「安全健康推進業務運営方針」を毎年定めている。この方針のもと、当社グループに関わる全ての人がお互いを尊重し、安全と健康を気づかいあう職場風土の醸成に取り組むとともに、ライン管理者による安全管理の徹底と職場自主活動の推進を両輪として、先取り安全と基本ルールの遵守並びにコミュニケーションの促進を柱に、職場で働く一人ひとりの安全の確保と心身の健康保持増進に向けて継続的に活動を展開している。以下、当社における現在の主な取り組みを記載している。

 

(a)災害ゼロの追求

災害ゼロを目指して、社員一人ひとりの安全意識の高揚と安全行動の習慣化に向けて取り組んでいる。

 

<主な取り組み>

・作業時等の安全確保を目的としたDXの推進

・危険予知活動及びリスクアセスメントによる先取り安全の徹底

・当社と工事受注者が工事施工に伴う安全確保の協力体制を確立し、一体となって災害の防止を図ることを目的に請負工事安全対策協議会を設置・運営

 

(b)心とからだの健康づくり

社員一人ひとりの健康の保持増進が生産性の向上や活力ある職場づくりにつながるという考えのもと、健康経営を推進している。

 

<主な取り組み>

・産業保健スタッフによる健康指導や健康教育の実施

・健康保険組合とのコラボヘルスによる健康イベント(ウォーキングラリー、体重測定チャレンジ等)の実施

・ストレスチェック結果を活用した職場環境改善活動とメンタルヘルス不調の未然防止

・メンタルヘルス不調者への適切な対応と円滑な職場復帰に向けた支援

 

 

② リスク管理

全社リスク管理体制のもと、多様な人材の活躍推進、人権の尊重、安全と健康の推進に関するリスクの洗い出し、評価、対応策の検討を行い、経営計画等に反映して継続的にリスク管理を実践している。

また、業績等に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主なリスクについては、「3 事業等のリスク」に記載している。

 

③ 指標及び目標

上記「① ガバナンス・戦略」において記載した「多様な人材の活躍推進方針」「中国電力グループ人権方針」に関し、「女性管理職の増加」「男性育児休職取得の向上」「人権啓発活動の実践継続」という3つの共通テーマに沿った指標及び目標をグループ各社が設定し、そのすべてを達成することを中期経営計画における目標としている。具体的には、当社及び連結子会社13社(注)を対象として上記3つの共通テーマそれぞれについて「目標達成企業割合100%」を2025年度目標としている。

(注)著しく社員数の少ない一部の連結子会社を除く。

 

中期経営計画における当社の指標及び目標並びに当社の人材マネジメント指標については、以下のとおり。

a.中期経営計画における当社の指標及び目標

方針

共通テーマ

(グループ全体)

当社の指標

目標

実績

2025年度

2021年度

2022年度

2023年度

多様な人材の

活躍推進方針

女性管理職の増加

課長以上ポストに就く者に占める女性社員の割合
(注)1

5%以上

2.3%

3.4%

3.8%

管理職以上に占める女性社員の割合
(注)2

13%以上

8.9%

10.0%

10.9%

男性育児休職取得の向上

男性育児休職取得率
(注)3

50%以上

23.0%

40.0%

52.0%

中国電力グループ人権方針

人権啓発活動の実践継続

職場人権研修受講率

100%

99.5%

99.8%

100%

 

(注)1「5 従業員の状況(4)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」に記載の「① 管理職に占める女性労働者の割合」と同じ。

      2「管理職以上」とは、係長級以上ポストに就くことができる者を指す。

3「5 従業員の状況(4)管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」に記載の「② 男性労働者の育児休業取得率」と同じ。

 

 

b.当社の人材マネジメント指標

項目

当社の指標

実績

備考

2021年度

2022年度

2023年度

「自律性」と「多様性」の更なる推進

課長以上ポストに就く者に

占める女性社員の割合

(上表a.のとおり)

2024年度末目標(対2019年度期首の2倍以上〔3.7%以上〕)を達成済み

管理職以上に占める

女性社員の割合

(上表a.のとおり)

2024年度末目標(対2019年度期首の1.2倍以上〔8.7%以上〕)を達成済み

技術系女性社員数

51

55

63

2024年度末目標(対2019年度期首の1.2倍以上59人以上〕)を達成済み

男性育児休職取得率

(上表a.のとおり)

 

障がい者雇用率(注)1

2.67%

2.61%

2.64%

 

人材ビジョン
実践度(注)2

78.7%

・年1回、4月に全社員を対象とした自己申告制度において調査(2023年度から実施)。有効回答率は94.5%。

・指標は肯定回答者の割合

(肯定回答者数/有効回答者数)

各設問の回答を5~1点にスコア化し、一設問あたり4点以上の者を肯定回答者として集計。

個人と組織の「関係性」

向上

従業員
エンゲージメント

42.9%

心理的安全性

68.3%

働きやすさ実感度

82.8%

人材

(量・質)の確保と成長

経験者採用の社員数(注)3

55

61

79

 

離職率(注)4

1.21%

0.92%

1.64%

 

入社3年後定着率(新卒)(注)3

94.1%

2020年度入社

95.0%

2021年度入社

 

人権の尊重

職場人権研修受講率

(上表a.のとおり)

 

安全と健康の

推進

災害度数率

0.29

0.00

1.00

 

疾病休務率
(アブセンティーイズム)

0.94%

0.95%

1.14%

 

要指導者率(注)5
(プレゼンティーイズム)

2.11%

1.57%

1.28%

 

 

(注)1 特例子会社及び関係会社特例認定を受けた会社を含めた雇用率。

   2 当社は、変化の時代に求められる人材像を「人材ビジョン」として掲げて認識を共有している。

   3 病院医療職を除く。

   4 当該年度中の自己都合による退職者数/当該年度首在籍者数。病院医療職を除く。

     5 要指導者とは、健康上の理由で就労上の制限等が必要な者。

 

3 【事業等のリスク】

当社のリスク管理体制

当社では、リスク管理に対する基本的な考え方を示した「リスク管理基本方針」及び「リスク管理規程」に基づき、全社リスク管理体制を整備し、必要な対策を実施している。具体的には、各業務主管箇所がリスクを把握・評価し、所定の手続きを経たうえで対応策を策定・実施するとともに、個別の重要なリスクの状況については取締役会の職務執行状況報告を通じて取締役会に報告している。また、リスク管理の専任組織を設置しているコンプライアンス推進部門は、全社のリスクを統合し、その管理状況を取締役会・経営会議に報告するなど、グループ全体のリスク管理の推進・支援にあたっている。グループ会社においても同様の取り組みを展開し、グループ一体となってリスク管理を推進している。

さらに、当社では、危機管理の体制及びその運営に関する基本事項を定めた「危機管理規程」に基づき、「リスク戦略会議」において重大なリスクへの対応に関する事項を協議し、対応方針を指示するほか、必要に応じ「緊急対策本部」を設置し、具体的な施策等を検討・指示することとしている。

 

 

リスク管理体制図


 

 

事業等のリスク

以下では、当社グループの事業その他に関するリスクについて、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項及び顕在化した不適切事案の対応状況を業績等への影響度の高い順に記載している。当社グループは、経営ビジョンの実現に向けて、これらのリスク発生の可能性を認識したうえで、発生の回避や発生した場合の影響の軽減のための対応に努めていく。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものである。

 

 (1) 原子力関連リスク

  ① 原子力発電

当社は、福島第一原子力発電所において発生した事故を踏まえ、地震・津波対策、外部電源の信頼性確保、フィルタ付ベント設備の設置といったシビアアクシデント対策等、2013年7月に施行された新規制基準への適合はもちろんのこと、更なる安全性を不断に追求しているところ、原子力に関する政策変更や法規制・基準の見直し、新規制基準適合性審査の状況、トラブルや工事の輻輳化等による工期延長、従来から係争中の島根2・3号機の運転差止訴訟に対する司法判断等によっては、発電所の運転停止や運転開始時期の遅延が長期化し、代替火力燃料・電力に係る市場調達費用の増加、温室効果ガス排出に係る対応費用の発生により、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社としては、新規制基準適合性審査の先行実績や規制動向を注視し、当社の原子力発電所の安全対策に、計画的かつ適切に取り組んでいく。

 

  ② 原子燃料サイクル・原子力バックエンド事業

原子燃料サイクル・原子力バックエンド事業は、超長期の事業であり不確実性を有していることを踏まえ、使用済燃料の再処理及び廃炉に要する費用については使用済燃料再処理・廃炉推進機構に拠出する制度が、また、特定放射性廃棄物最終処分に要する費用については原子力発電環境整備機構に拠出する制度が、それぞれ国により措置されており、事業者のリスクが軽減されている。しかしながら、今後の制度の見直し、拠出金額の変動や再処理工場の稼働状況等により、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社としては、これらの制度に基づき適切に対応するとともに、再処理事業者である日本原燃株式会社等の関係先と連携し、本事業の着実な実施に取り組んでいく。

 

 (2) コンプライアンスに関するリスク

  ① コンプライアンス違反事案の発生

当社グループは、あらゆる業務運営においてコンプライアンス最優先に進めることを経営の基本とし、コンプライアンス徹底の取り組みに努めるとともに、コンプライアンスに反する行為に対しては、速やかな是正措置をとることとしているが、仮に重大なコンプライアンス違反事案が発生した場合には、当社グループへの社会的信用の低下や円滑な業務運営への支障が生じることなどにより、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

なお、当社における個別のコンプライアンス違反事案及び対応状況並びに業績等への影響については、下記「②一連の不適切事案」に記載している。

当社としては、コンプライアンス経営推進宣言における3つの行動「良識に照らします、率直に話します、積極的に正します」を踏まえ、役員の率先垂範のもと、コンプライアンス最優先の業務運営の徹底に取り組んでいく。また、グループ会社においてもコンプライアンス最優先の業務運営が行われるよう、各社を支援・指導していく。

 

 

  ② 一連の不適切事案

  (独占禁止法違反疑い事案)

当社は、他の旧一般電気事業者と共同して顧客の獲得を制限していたとして、2023年3月30日、公正取引委員会から、独占禁止法に基づく排除措置命令及び課徴金納付命令を受けた。両命令については、既に履行済みである。本件に関して、同年7月14日付で経済産業大臣から業務改善命令を受け、再発防止のための計画等について、同年8月10日に同大臣へ報告した。当社は再発防止計画を着実に実施しており、今後も引き続き、再発防止に取り組んでいく。また、当社は、同年9月28日、公正取引委員会の各命令は承服しがたいものとして、各命令の全部の取消を求める訴訟を東京地方裁判所に提起し、現在係争中である。訴訟の結果によっては、今後お客さまから損害賠償請求を受けるなどにより、当社の業績は影響を受ける可能性がある。

なお、本件に関して、同年6月8日、当社の個人株主から当社監査等委員宛の「責任追及等の訴え提起請求書」を受領しており、当社は、提訴請求を受けた現旧取締役22名について、責任追及の訴えの提起の要否を検討した結果、同年10月4日、旧取締役3名に対する損害賠償請求訴訟を広島地方裁判所に提起し、現在係争中である。

 

  (景品表示法違反事案)

当社は、電気料金メニューに係るホームページ等の一部記載が景品表示法第5条第2号に該当する不当な表示(有利誤認表示)にあたるとして、消費者庁から、2023年8月30日付で措置命令を、2024年5月28日付で課徴金納付命令を受けた。両命令については、既に履行済みである。

なお、当連結会計年度において課徴金に係る引当金繰入額を計上している。

当社は、当該表示を見て該当メニューで契約されたお客さまを対象に返金を行うこととしており、これにより当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

 

  (卸電力市場高値入札事案)

当社は、一般社団法人日本卸電力取引所のスポット市場を介して電力の売買を実施するにあたり、取引に係る発電所情報の公表等に関して、一部、不適切な対応があったとして、2023年3月31日付で電力・ガス取引監視等委員会(以下、「監視等委員会」という。)から業務改善勧告を受け、今後の改善計画について同年4月28日、5月30日及び2024年3月29日に報告した。当社は、改善計画を着実に実施しており、今後も引き続き、再発防止に取り組んでいく。

 

  (新電力お客さま情報の不適切な取扱い事案)

中国電力ネットワーク株式会社(以下、「中国電力ネットワーク」という。)が所有する他の小売電気事業者と契約中のお客さまの情報が当社から閲覧できる状態となっていたことについて、監視等委員会から、2023年4月17日付で、中国電力ネットワークは業務改善命令を、当社は業務改善勧告をそれぞれ受け、今後の改善計画について同年5月12日に報告した。また、本件について、当社及び中国電力ネットワークは、同年6月29日付で、個人情報保護委員会から行政指導を受け、両社は、個人情報の適切な取扱いについて講じた措置について同年9月29日に報告した。両社は、これらの改善計画を着実に実施しており、今後も引き続き、再発防止に取り組んでいく。

 

  (再生可能エネルギー業務管理システム不正閲覧事案) 

当社及び中国電力ネットワークは、経済産業省が管理・運営する「再生可能エネルギー業務管理システム」を利用するため、中国電力ネットワークに付与された専用のID及びパスワードを当社社員が使用していたことについて、2023年4月17日付で資源エネルギー庁から行政指導を受け、今後の改善計画について同年5月12日に報告した。また、本件について、当社及び中国電力ネットワークは、同年6月29日付で、個人情報保護委員会から行政指導を受け、両社は、個人情報の適切な取扱いについて講じた措置について同年9月29日に報告した。両社は、これらの改善計画を着実に実施しており、今後も引き続き、再発防止に取り組んでいく。

 

 

 (3) 調達リスク

  ① 資機材調達

新たな感染症の流行、天災地変及び海外紛争等による原材料・資機材の需給ひっ迫に伴う価格高騰や長納期化により、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社としては、調達環境に応じた発注方式の採用、取引先への早期の発注情報の提供や早期発注、修理への振替等により、リスクの低減に努めている。

 

②資金調達

当社グループは、事業活動のための設備投資等に伴う長期・継続的な資金調達を必要としているが、世界経済の動向等による金融市場の変動及び当社の財務状況や格付の変更並びにカーボンニュートラルへの取り組み状況などが資金調達の実行力に影響を及ぼす可能性がある。また、当社は資金調達を社債発行及び銀行等の金融機関からの借入に依存しており、市場金利の変動及び格付の変更に伴う調達金利の変動により支払利息が増減し、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社としては、中長期的に安定的かつ低利な資金調達を実現するため、サステナブル・ファイナンスの活用や取引先金融機関の拡大などによる調達手段・調達先の多様化に取り組んでいる。これらの取り組みを機能させるために、金融機関・投資家との建設的な対話に努め、当社グループのカーボンニュートラルをはじめとするESG全般の取り組みに対する理解促進を図り、当社を支援していただけるよう、関係強化に努めていく。

また、2024年3月末時点で、当社グループの有利子負債残高は3兆42億円であるが、有利子負債残高の多くは固定金利で調達した長期資金(社債や長期借入金)であり、市場金利の上昇による支払利息への影響は限定的と評価している。

 

 (4) 市場変動リスク

燃料価格や外国為替相場の変動は、「燃料費調整制度」により電気料金に反映され、業績への影響は緩和される。ただし、燃料価格の変動が電気料金に反映されるまでにタイムラグ(期ずれ)があること、燃料費調整の前提とした電源構成と実際の電源構成との差異が生じうること、一部のお客さまには燃料費調整の上限価格が設定されていることなどにより、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。また、卸電力市場価格の変動は、当社の卸電力取引所における電源調達費用や「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」における回避可能費用に影響を与える可能性があり、これらにより当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社は、今後の原子力発電の稼働による電源構成に占める火力発電及び卸電力調達の割合の低減並びにデリバティブ取引等の金融手法の活用に加え、卸電力取引所の市場価格に連動して算定される回避可能費用の変動を電気料金に反映する市場価格調整額を2023年度から高圧以上のお客さまに導入することにより、燃料価格、外国為替相場及び卸市場価格の変動リスクの低減に努めている。

 

 (5) 環境規制リスク

国は、2050年カーボンニュートラルと整合的で野心的な新たな目標として、2021年4月に2030年度の温室効果ガス排出量46%削減(2013年度比)を掲げた。2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画では、S+3Eの大原則をこれまで以上に追求していくために、あらゆる政策を総動員していくとされている。2023年5月には「GX推進法」が可決され、カーボンプライシングの具体策として、2028年度から化石燃料輸入事業者等に対し「炭素に対する賦課金」が、2033年度から発電事業者に対し「有償オークション」が、導入されることとなっている。こうした今後の環境政策やカーボンプライシングの制度設計の動向によっては、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社グループは、2023年3月、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、「中国電力グループカーボンニュートラル戦略基本方針」を策定した。目標として、小売電気事業・発電事業ともに、2030年度CO2排出量半減(2013年度比)等を設定し、重点施策として掲げた、再生可能エネルギーの導入拡大、安全確保を大前提とした原子力発電の活用、火力発電のトランジション(バイオマス発電、水素・アンモニア発電等)、ネットワーク設備の高度化及び「お客さま・地域の脱炭素化」に資するサービスの開発と事業展開に着実に取り組んでいく。

また、当社は、経済産業省が主導で設立した自主的な取り組みである「GXリーグ」に参画し、温室効果ガスの排出削減を着実に進めるとともに、お客さまや取引先と協働し、持続的な社会の実現に向けて挑戦していく。

 

 (6) 電力規制リスク

電気事業に係る法令やガイドライン等の変更により、当社の相対的な競争力の低下や、卸電力取引市場・容量市場等からの収益の変動等が発生した場合には、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社としては、こうした制度変更等の動向及び当社事業への影響を把握し、必要な対応を行うことで総合エネルギー事業全体としての利益最大化に取り組んでいく。

 

 (7) 災害リスク

  ① 自然災害及び設備事故等

電気事業を中核事業とする当社グループは、電力供給設備及び業務システム等の多くの設備を保有しており、大規模な地震及び台風等の激甚災害、テロ等の不法行為その他の理由によるトラブルの発生により、これら設備が被害を受ける可能性がある。その結果として、設備の復旧や代替火力燃料・電力の市場調達等に係る費用の増加、停電の長期化等による社会的信用の低下等により、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社グループとしては、国の法令等に準拠した電力設備設計や計画的な修繕、従業員に係る災害予防、災害応急対策及び災害復旧を図るための防災等に係る各種業務計画の策定並びに事業継続のための体制整備について、国の審議会の検討結果等も踏まえ適切に対応している。

 

  ② 新たな感染症の流行

新たな感染症が流行した場合には、発電所の運転人員等の確保が困難となるなど、電力の安定供給や円滑な業務運営に支障が生じ、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社としては、感染症の流行時においても、安全確保を最優先に、電力の安定供給をはじめとした企業活動のために必要不可欠な業務を継続するため、新型インフルエンザ等対策業務計画を策定しており、あらかじめ事業継続体制を定めたうえで、必要な人員を確保することとしている。

 

 (8) 市場競争リスク

市況の変動や電気事業制度の変更等に伴い、小売電気事業における他事業者との競争環境が変化することにより、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社グループとしては、家庭用から事業用まで電化や脱炭素化をはじめとした多様なニーズに対し、付加価値の高いサービスを提供し、事業基盤である中国地域のお客さまに引き続き選択していただけるよう取り組んでいくとともに、新たな料金・サービスの拡充や中国地域外への電力販売等により、収益の拡大に向け取り組んでいく。また、収益性が見込める販売チャネルを活用し、電力販売利益の最大化を図る。

 

 (9) 海外事業リスク

当社グループは、経営ビジョンで掲げる利益・財務目標の達成に向け、海外事業を当社グループの利益の一翼を担う事業にしていくため、海外発電事業案件の発掘・投資を進めるとともに、送配電・小売事業や電力周辺事業に加え、新たなエネルギービジネスにも積極的に取り組み、事業領域の拡大を図っている。

カントリーリスクの顕在化や脱炭素化の急速な進展に伴う環境・エネルギー関連の政策変更等の外部環境変化が生じた場合、投資額に見合うリターンを得られず、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

新規案件の投資決定にあたっては、事業主管箇所において予め定めた基準に基づき評価を行うとともに、投資評価箇所による評価及び経営層への報告の仕組みを通じて、リスク管理を徹底している。また、出資済案件については、出資先の取締役会・株主総会を通じて経営管理を行うことにより、リスク低減に取り組んでいる。

 

 

 (10) 基幹システムに関するリスク

  ① DX(デジタルトランスフォーメーション)への対応遅延

デジタル技術の活用による生産性向上や新たな価値創造に国内外の企業が精力的に取り組んでいる中、当社グループにおいて業務のデジタル化やデータ利活用が進まない場合、市場の変化に即応した商品・サービスの開発・提供や既存事業の労働生産性向上・コスト削減等の対応が後手に回り、競争力の低下を招くことで、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社グループとしては、グループ経営ビジョン実現に向けた抜本的な生産性向上及び新たな価値創出を進めていくため、業務のデジタル化・データ利活用による事業・業務の変革に部門横断的に取り組むとともに、これを支えるセキュアで迅速性・拡張性の高いIT環境の構築を計画的に進めている。

 

  ② サイバー攻撃、システム障害

サイバー攻撃やシステム障害による機密性の高い内部情報等の流出、業務の停滞及びサービス停止が発生した場合の社会的信用の低下や事後対応費用の発生等により、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社グループとしては、社外のサイバーテロ演習等への参加、標的型攻撃メール訓練等の情報セキュリティ対策を実施するとともに、サイバー攻撃を早期に検出し対応するための対策を継続的に実施し、また、計画的な設備更新など、システム障害の未然防止に取り組みつつ、システム障害が発生した場合に速やかな初動・復旧体制の整備等を行うことにより、万一の事態に備えている。

 

 (11) 情報漏えいリスク

当社グループは、電気事業におけるお客さまの情報をはじめとして、多くの業務情報を保有している。これらの業務情報が外部に漏えいした場合、社会的信用の低下を招き、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社としては、管理体制を構築するとともに、情報管理基本方針及び個人情報保護方針等の社内ルールの整備及び定期的な教育・訓練の実施により、業務情報の漏えいの未然防止に取り組んでいる。また、技術的セキュリティ対策の継続的な見直し等により、厳重に業務情報の管理を行っている。

 

 (12) 人材に関するリスク

経営ビジョンを実現し、当社グループが持続的に成長していくためには、その担い手である社員一人ひとりの活躍が不可欠である。エネルギー事業を中心とした既存事業の強化・進化や更なる成長に向けた新たな事業への挑戦等に必要な人材の確保・育成ができなかった場合、若しくは多数の人材が流出した場合には、事業の成長や円滑な業務運営に支障が生じ、当社グループの業績は影響を受ける可能性がある。

当社グループとしては、中長期的な想定に基づく人員計画を策定し、計画人数の確保を図るとともに、経験者採用を積極的に実施することで多様な価値観・経験を有する人材の確保・活用を推進している。人材の多様性の確保を含む人材の育成及び社内環境整備に関するグループ全体の包括的な方針として策定した「多様な人材の活躍推進方針」のもと、グループ一体となって多様な人材が活躍できる更なる環境づくりに取り組んでいく。

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりである。

なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものである。

 

 (1) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成している。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いているが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性がある。

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載している。

 

 (2) 経営成績

 ① 事業全体

当連結会計年度におけるわが国の経済情勢をみると、コロナ禍の行動制限や供給制約が緩和される中で社会経済活動が正常化し、景気は緩やかに持ち直したものの、物価上昇の影響等により、年度末にかけて個人消費の回復に足踏みがみられた。当中国地方においても、ほぼ全国と同様の状況で推移した。

このような中で、当連結会計年度の経営成績は、売上高(営業収益)は、電気料金の見直しを行ったものの、総販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整額の減少などにより、1兆6,287億円と前連結会計年度に比べ658億円の減収となった。

営業利益は、燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度の期ずれ影響の改善などにより、2,067億円前連結会計年度に比べ2,756億円の増益となった。

支払利息などの営業外損益を加えた経常利益は1,940億円と前連結会計年度に比べ3,008億円の増益となった。

渇水準備金を取崩し、特別損益を計上して、法人税などを控除した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は1,335億円と前連結会計年度に比べ2,888億円の増益となった。

 

区分

前連結会計年度
(億円)

当連結会計年度
(億円)

差引
(億円)

増減率
(%)

売上高(営業収益)

16,946

16,287

△658

△3.9

経常利益又は経常損失(△)

△1,067

1,940

3,008

親会社株主に帰属する当期純利益又は親会社株主に帰属する当期純損失(△)

△1,553

1,335

2,888

(参考)

営業利益又は営業損失(△)

△688

2,067

2,756

 

 

(参考)中国電力個別決算

区分

前事業年度
(億円)

当事業年度
(億円)

差引
(億円)

増減率
(%)

売上高(営業収益)

15,024

14,481

△543

△3.6

経常利益又は経常損失(△)

△984

1,456

2,440

当期純利益又は当期純損失(△)

△1,535

1,120

2,655

(参考)

営業利益又は営業損失(△)

△968

1,358

2,326

 

 

 

② 生産、受注及び販売の実績

当社及び連結子会社の業種は広範囲かつ多種多様であり、また、当社の電気事業が事業の大半を占めることから、当社の電気事業の販売実績、発受電実績及び資材の状況を記載している。

 

a.販売実績

種別

前連結会計年度
(自 2022年4月1日
 至 2023年3月31日)

当連結会計年度
(自 2023年4月1日
 至 2024年3月31日)

前年同期比

(%)

総販売電力量
(百万kWh)

小売販売電力量

電灯

15,507

15,048

97.0

電力

29,821

29,557

99.1

他社販売電力量

9,275

8,018

86.4

54,603

52,623

96.4

料金収入
(百万円)

電灯料

424,909

368,407

86.7

電力料

647,349

691,263

106.8

他社販売電力料

165,027

137,056

83.1

1,237,285

1,196,727

96.7

 

(注)1 他社販売電力量及び他社販売電力料には、インバランス・調整電源等に係る他社販売電力量及び他社販売電力料を含んでいない。

2 小売販売電力量には、自社用を含んでいない。

3 電灯料及び電力料には、「物価高克服・経済再生実現のための総合経済対策」及び「デフレ完全脱却のための総合経済対策」に基づき実施されている「電気・ガス価格激変緩和対策事業」により受領した補助金(前連結会計年度28,490百万円、当連結会計年度109,442百万円(電灯・電力計))を含んでいない。

   4 総販売電力量は、四捨五入の関係で合計と一致しない場合がある。

 

b.発受電実績

種別

前連結会計年度
(自 2022年4月1日
 至 2023年3月31日)

当連結会計年度
(自 2023年4月1日
 至 2024年3月31日)

前年同期比

(%)

発受電
電力量
(百万kWh)

自社

水力発電電力量

3,086

3,379

109.5

火力発電電力量

30,401

28,249

92.9

原子力発電電力量

新エネルギー等
発電電力量

16

49

302.7

他社受電電力量

26,372

26,420

100.2

揚水発電所の揚水用電力量

△1,392

△1,153

82.8

合計

58,483

56,945

97.4

出水率(%)

76.1

93.6

 

(注)1 他社受電電力量は、インバランス・調整電源等に係る電力量を含んでおり、当連結会計期間末日現在で把握している電力量を記載している。

    2 揚水発電所の揚水用電力量とは、貯水池運営のための揚水用に使用する電力である。

    3 当連結会計年度の出水率は、1992年度から2021年度までの30か年の年平均に対する比である。

    4 発受電電力量合計と総販売電力量の差は損失電力量等である。

    5 四捨五入の関係で合計と一致しない場合がある。

 

 

c. 資材の状況

    主要燃料の受払状況

 

品名

単位

2022年
3月末
在庫量

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

2023年
3月末
在庫量

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

2024年
3月末
在庫量

受入

払出

受入

払出

石炭

421,764

7,117,660

6,695,731

843,693

5,388,889

5,843,867

388,715

バイオマス

2,838

446,020

412,384

36,474

570,278

570,148

36,604

重油(注)

kl

45,830

542,012

470,499

117,343

401,727

431,478

87,592

LNG

107,237

1,746,668

1,723,136

130,769

1,753,100

1,764,388

119,481

 

(注)助燃用重油を含む

 

 ③ セグメント情報

 ○ 総合エネルギー事業

売上高(営業収益)は、電気料金の見直しを行ったものの、総販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整額の減少などから、1兆5,090億円と前連結会計年度に比べ636億円の減収となった。

営業利益は、燃料価格の低下に伴う燃料費調整制度の期ずれ影響の改善などから、1,469億円と前連結会計年度に比べ2,302億円の増益となった。

 

 ○ 送配電事業

売上高(営業収益)は、料金改定による基準接続託送収益の増加はあったものの、再生可能エネルギーの市場販売価格やインバランス単価の低下に伴う他社販売電力料の減少などから4,804億円と前連結会計年度に比べ797億円の減収となった。

営業利益は、基準接続託送収益の増加に加え、需給調整に係る費用の減少などから、505億円と前連結会計年度に比べ449億円の増益となった。

 

 ○ 情報通信事業

売上高(営業収益)は、電気通信関係事業収入が増加したことなどから、474億円と前連結会計年度に比べ 17億円の増収となった。

営業利益は52億円と前連結会計年度に比べ2億円の増益となった。

 

 

区分

総合エネルギー

事業
(億円)

送配電事業
(億円)

情報通信事業
(億円)

売上高

前連結会計年度

15,726

5,602

457

当連結会計年度

15,090

4,804

474

差 引

△636

△797

17

営業費用

前連結会計年度

16,560

5,545

407

当連結会計年度

13,621

4,298

422

差 引

△2,938

△1,247

14

営業利益又は
営業損失(△)

前連結会計年度

△833

56

49

当連結会計年度

1,469

505

52

差 引

2,302

449

2

 

 

 

 (3) 財政状態

資産は、島根原子力発電所の安全対策工事の進捗による固定資産仮勘定の増加などにより、前連結会計年度末に比べ932億円増加し、4兆1,332億円となった。

負債は、未払費用の減少などにより、前連結会計年度末に比べ647億円減少し、3兆5,198億円となった。

純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上などにより、前連結会計年度末に比べ1,579億円増加し、6,134億円となった。

この結果、自己資本比率は、14.6%となった。

 

区分

前連結会計年度末
(億円)

当連結会計年度末
(億円)

差引
(億円)

資産

40,400

41,332

932

 

(うち電気事業固定資産)
(うち固定資産仮勘定)
(うち流動資産)

(14,907)
(11,075)
(6,471)

(15,234)
(11,864)
(6,505)

(326)
(788)
(33)

負債

35,845

35,198

△647

 

(うち有利子負債)

(30,220)

(30,042)

(△178)

純資産

4,554

6,134

1,579

 

(うち自己資本)

(4,474)

(6,048)

(1,573)

 

 

 

 (4) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容

(当連結会計年度のキャッシュ・フローの概況)

 ○ 営業活動によるキャッシュ・フロー

税金等調整前当期純利益の計上などにより、2,713億円の収入となった。

 ○ 投資活動によるキャッシュ・フロー

前連結会計年度に比べ230億円減少2,020億円の支出となった。

この結果、差引フリー・キャッシュ・フローは、693億円の収入となった。

 ○ 財務活動によるキャッシュ・フロー

借入金の返済などにより、171億円の支出となった

以上の結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末に比べ528億円増加し、2,984億円となった。

区分

前連結会計年度
(億円)

当連結会計年度
(億円)

差引
(億円)

○営業活動によるキャッシュ・フロー

△626

2,713

3,340

○投資活動によるキャッシュ・フロー

△2,250

△2,020

230

  差引フリー・キャッシュ・フロー

△2,877

693

3,570

○財務活動によるキャッシュ・フロー

4,649

△171

△4,820

 

うち社債・借入金による純増減

4,703

△214

△4,918

 

うち配当金の支払額

△54

△18

35

現金及び現金同等物(増減額)

1,790

528

 

現金及び現金同等物(期末残高)

2,456

2,984

528

 

 

(連結キャッシュ・フローの推移)

当面、島根原子力発電所の安全対策工事などの設備投資によりフリー・キャッシュ・フローはマイナスが続くが、原子力発電所の稼働により、反転していくものと試算している。

 

(キャッシュ配分の考え方)

財務基盤の回復を優先しつつ、将来の収益力・競争力の向上に向けた投資を行うとともに、株主還元の充実も図っていく。

原子力発電所の再稼働を控え、安全対策工事をはじめとする高水準の設備投資が続くが、2024年度、2025年度の2年間を収益・財務基盤回復に重点的に取り組む期間と位置付け、確実な利益確保とキャッシュアウトの抑制により、2025年度末の連結自己資本比率15%以上への回復を図る。

 

② 資本の財源

エネルギー事業を中心とした既存事業の強化・進化や更なる成長に向けた新たな事業への挑戦などに必要な資金を、主に社債及び長期借入金により調達している。

また、グループ全体の資金を効率的に活用するため、キャッシュ・マネジメント・サービス(CMS)を通じてグループ内資金融通を行っており、グループ全体で必要な資金を当社が一括して調達している。

さらに、中長期的に安定的かつ低利な資金調達を実現するため、取引先金融機関の拡大やサステナブル・ファイナンスの活用、個人向け社債、外貨建社債、転換社債、ハイブリッド社債などによる調達手段・調達先の多様化に取り組んでいる。

なお、当社は、一般担保付社債の経過措置に係る認定に基づき、最長2024年度まで一般担保付社債を発行していく。

 

 

③ 資金の流動性

月次資金繰りに基づき十分な現金及び預金を保有するとともに、金融機関とのコミットメントライン契約や当座貸越契約などにより、不測の資金需要に備える体制をとっている。

 

 (5) 経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループの当連結会計年度の売上高(営業収益)は、電気料金見直しを行ったものの、総販売電力量の減少や燃料価格の低下に伴う燃料費調整額の減少などから、1兆6,287億円と前連結会計年度に比べ658億円の減収となった。

連結経常利益は、1,940億円と前連結会計年度に比べ3,008億円の増益となり、過去最大の黒字となった。しかしながら、燃料価格の下落に伴う燃料費調整制度の期ずれ影響が大幅に改善したことが最大の増益要因であり、これは一過性のものである。

足許では電力小売・卸ともに競争が激化していることに加え、燃料及び電力取引市場価格の先行きは依然として見通し難く、厳しい事業環境にあると認識している。

2023年度は利益を確保できたが、2022年度までの業績悪化により大きく毀損した財務基盤の立て直しが必要な状況は続いている。

今後、内外無差別を前提とした小売・卸の収益力の強化、安全確保を大前提とした島根原子力発電所の稼働、市場リスク管理の強化、及びグループ一体となった経営全般にわたる効率化により、利益の最大化、財務基盤の回復に取り組む。

 

 (6) 目標とする経営指標の達成状況等

当社グループは、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、2020年1月に公表した経営ビジョンにおいて、2030年度に実現を目指す利益・財務の目標として「連結経常利益600億円以上」及び「連結自己資本比率25%」を設定している。

また、2024年度、2025年度の2年間は収益・財務基盤回復に重点的に取り組む期間と位置付け、確実な利益確保とキャッシュアウトの抑制により、2025年度末の連結自己資本比率15%以上への回復を図ることとしている。
 利益・財務の目標の実現に向けては、競争力のある大型電源の稼働・安定運転、内外無差別の徹底を前提とした電気事業収益の最大化、経営効率化等に取り組み、各事業の稼ぐ力と生産性の向上を図っていく。

 

区分

2021年度

2022年度

2023年度

連結経常利益又は
連結経常損失(△)

△618億円

△1,067億円

1,940億円

連結自己資本比率

17.0%

11.1%

14.6%

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項なし

 

 

 

6 【研究開発活動】

経営ビジョンにおける「エネルギー事業を中心とした既存事業の強化・進化」、「新たな事業への挑戦」を進めていくために、研究開発として取り組む方向性を3つの「戦略的イノベーション領域」として設定し、重点的に取り組んでいる。

研究開発によるイノベーションを目指し、早期の実用化・ビジネス化に繋げていくために、他業種とのアライアンスやオープンイノベーションを積極的に活用している。

また、中国地方の大学をはじめとした産学官の連携、電力中央研究所等との密接な協力関係を保ちながら、効率的に推進していくこととしている。この取り組みとして、国立大学法人広島大学との包括的研究協力に関する協定を締結し、産学の連携を通して最先端の技術開発を行っている。

研究開発活動とともに、グループ会社を含めて知的財産活動にも積極的に取り組んでおり、経営ビジョン実現のために、価値創造を行ううえで重要となる当社独自の強み(コア価値)の創造・実装と知財ポートフォリオの再構築を進めている。具体的には、2022年度からコア価値創造に向けた取り組みに着手し、新事業・新サービスの構想検討を進める一方で、2023年度にはGX・DX等の技術の観点から保有特許を再評価し、棚卸しを行った。こうした取り組みの結果、当連結会計年度における当社グループの特許出願件数は187件、同新規登録件数は171件となった。商用の検索システムで集計したデータによる当連結会計年度末での当社の特許登録件数は2,060件であり、エネルギー業界トップレベルを維持している。

なお、当連結会計年度における当社グループ全体の研究開発費は67億円であり、うち総合エネルギー事業に係る研究開発費は53億円、総合エネルギー事業以外に係る研究開発費は13億円である。

 

(1) 戦略的イノベーション領域に関する取り組み

① デジタル技術を活用した電力システムのイノベーション

AI/IoT等のデジタル技術を活用して、電力設備の運用・保守技術の高度化に関する研究開発を実施しており、ドローン等を活用した設備保全の高度化や、AI活用による貯水池式水力発電所における発電計画策定の最適化等に取り組んでいる。

② 脱炭素化に向けたエネルギー・環境技術のイノベーション

大崎クールジェン株式会社を通じて、「CO2分離・回収型石炭ガス化燃料電池複合発電」の実証事業を実施し、2022年度に完了した。石炭ガス化燃料電池複合発電にCO2の分離・回収、貯留及び有効利用を組み合わせたシステムは石炭火力の脱炭素化を可能とし、バイオマス混焼が実現すればCO2排出量を実質ゼロ以下とすることに繋がるため、2023年度から石炭と木質バイオマスの混合燃料ガス化技術開発を実施している。

カーボンリサイクルの取り組みとして、回収したCO2を活用し土木材料(通称:CO2-TriCOM)やコンクリート(通称:CO2-SUICOM)、油脂(Gas-to-Lipids)を生成する技術の開発を実施している。

また、石炭灰造粒物を活用した水域底質環境の改善効果の実証を行い、これによる干潟・藻場への炭素固定効果について研究を実施している。

その他、次世代電力ネットワーク構築に向けて、再生可能エネルギーの普及拡大に貢献する電力ネットワークの強化・高度化に取り組んでいる。

③ 地域・他業種と融合した新サービスの創出

地域のカーボンニュートラルに貢献するため、再生可能エネルギー、蓄電池、EV等の分散型リソースを最適に制御するエネルギーマネジメント技術の開発に取り組んでいる。

また、エネルギー関連技術や保有するビッグデータ等を活用して、健康・見守り分野、農業分野、モビリティ分野、地域レジリエンス分野において、地域課題解決に向けたサービスの開発に取り組んでいる。

 

(2) 電気事業を支える基盤技術に関する取り組み

設備信頼度の維持・向上及び修繕費の低減を図るため、設備の健全性を非破壊で診断する技術の開発等、設備経年化へ適切に対応する技術の研究開発に取り組んでいる。

また、火力・原子力発電所の海水系統での付着生物による発電効率の低下を防止するため、付着抑制技術の研究開発にも取り組んでいる。

 

(3) その他

地域社会・経済の発展に貢献し、お客さまから選択し続けられるため、中国地域経済・産業動向の調査分析の実施及びエネルギア地域経済レポート等を通じた情報提供、戦略的企業経営の支援等に取り組んでいる。