第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1) 経営の基本方針

当社グループは、「創造と前進を旨とし、価値ある商品によって社会に貢献し、社業の永続的発展成長を期す」を経営理念とし、「マテリアルの知恵を活かす」というコーポレートスローガンの下、「社会の持続的な成長」と「中長期的な企業価値の向上」に努めることを経営の基本方針としております。

 

(2) 対処すべき課題

当社グループでは、パーパスを基軸とした全社ビジョン(2030年のありたい姿)である「マテリアルの知恵で“未来”に貢献する、事業創発カンパニー。」を実現するため、2022年度を初年度とする3ヵ年の中期経営計画「22中計」に取り組んでおります。

この「22中計」の2年目となる2023年度は厳しい経営環境の中、損益・財務指標が原計画値を下回ることとなりましたが、2030年のありたい姿である全社ビジョン実現に向けた戦略は変更せず、各部門において「社会的価値の向上」と「経済的価値の向上」を両立した統合思考経営を実践することで、持続的な企業価値向上の仕組みを構築し、重点施策に取り組んでまいりました。

 

「社会的価値の向上」については、環境影響、社会関係資本、人的資本、ビジネスモデル・イノベーション、リーダーシップ・ガバナンスの5つの観点で各事業の機会・リスクを評価し、事業の持続可能性を経営判断に活かしました。

「経済的価値の向上」については、両利きの経営(注)1を加速しております。「知の深化」では既存事業におけるポートフォリオの動的管理を進め、2023年度の見直しではセラミックス事業と日本イットリウム株式会社を「価値の強化」から「価値の拡大」へ、ダイカスト事業を「価値の強化」から「価値の再構築」へと変更しました。「価値の拡大」・「価値の強化」においては、社内外シナジーの追求、成長戦略を加速するためのM&Aの活用などを行うと共に、「価値の再構築」では社外ベストオーナーの探索も進めております。「知の探索」では、研究開発と市場共創の機能を持つ事業創造本部への積極的な経営資源投入を行い、全固体電池向け固体電解質「A-SOLiD®」や次世代半導体パッケージデバイス用「HRDP®」などへの増強投資を実施しました。

また、資本効率を意識した経営として、全社のROIC(投下資本利益率)の向上を図るべく、事業別WACC(加重平均資本コスト)の算出及びそれを上回る適切な事業別ROIC目標(ROICスプレッド)の設定について検討を進めました。

 

2024年度は、「22中計」の最終年度として、また、次期中期経営計画へ繋ぐ準備期間として、引き続き以下の重点施策を実行してまいります。

機能材料部門では、価値ある高機能製品の提供により、お客様のニーズを満たし、社会の課題解決に貢献するため、コア技術の深化やマーケティング力の向上、環境貢献製品の創出に注力し、既存の事業分野の深掘りと新たな事業機会の探索を進めてまいります。

金属部門では、循環型社会の形成により高まっているリサイクルニーズに応えるべく、当社グループが保有する多様なプロセスを活かした高度なリサイクル製錬ネットワークの追求、さらに脱炭素社会の実現に向けてCO2排出量を削減すべく、一部実施している排出係数が小さい電力会社・電力契約への切替に加え、CO2低減製品・SDGsに貢献する製品の提供等による新たな価格政策、再生可能エネルギー・CO2フリー電力購入等を両輪として新たに検討し、対応してまいります。

モビリティ部門では、CASE(注2)、MaaS(注3)、カーボンニュートラルといった自動車産業の大きな変化・進化を新たなニーズとして常に正面から捉え、お客様に必要とされる価値を提供し、モビリティ社会の実現に貢献してまいります。売上高に占める新製品の比率を高め、技製販の全てにおける深化(商権維持)と新規開拓(新しい製品・事業創出)の推進、短期・中期・長期それぞれのサイクルに合わせた事業シナジーの追求に取り組んでまいります。

事業創造本部では、新たな事業を「持続的」に創造できるようになるために、「事業機会の探索力強化」、「研究開発力の強化」、「基盤の強化」という3つの戦略を掲げ、研究開発と市場共創を軸にした価値創造を図り、事業化推進テーマについては環境の変化に応じてタイムリーに投資と人員の投入を行ってまいります。

本社部門では、監督機能及び業務執行機能の強化並びに経営の透明性の向上等、コーポレートガバナンスの強化に取り組んでおりますが、2024年6月27日開催の第99期定時株主総会の決議により、「監査役会設置会社」から「監査等委員会設置会社」に移行しております。今後、経営に関する意思決定のさらなる迅速化を図るとともに、取締役会における審議事項を重点化して経営方針・経営戦略の策定などの議論をより充実させ、取締役会の経営に対する監督機能の強化を図ってまいります。

「社会的価値の向上」をさらに加速させるための取り組みといたしましては、2030年度CO2排出量をグローバルで38%削減(2013年度比)、2050年度カーボンニュートラル(Net排出ゼロ)を目標として、カーボンニュートラルロードマップ、LCA(ライフサイクルアセスメント)(注4)、インターナルカーボンプライシング(注5)制度を導入・活用しCO2排出量削減の取り組みを進めております。さらに昨年、経済産業省が推進するGX(注6)リーグ(注7)へ参画、トランジション戦略(注8)を策定し、公表しました。4つのアプローチ(省エネルギー/省資源、エネルギー・燃料転換、電力低炭素化、オフセット/イノベーション)によりカーボンニュートラル社会実現に貢献してまいります。

また、さらなる資本効率を意識した経営を実践するために、事業別WACC(加重平均資本コスト)と事業別ROIC目標(ROICスプレッド)を設定したうえで、企業価値向上への意識付けやROICの社内浸透を進め、各所社でROIC向上に必要な指標の設定と対応(ROICツリー等)を進めるとともに、業務執行取締役・常務執行役員の業績指標への効率性の指標(ROIC等)の導入を行なってまいります。

 

厳しい経営環境ではありますが、以上の取り組みを実行することにより、統合思考経営への変革を遂げ、ステークホルダーの皆様と共に地球を笑顔にすることを目指してまいります。

 

(注)1 両利きの経営:「既存事業の効率化と絶え間ない改善(知の深化)」と「新規事業に向けた実験と行動(知の探索)」を両立させていく考え方。

2 CASE:Connected(コネクティッド)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)の略で、自動車の次世代技術やサービスの新たな潮流を表す造語。

3 MaaS:ICTを活用して交通をクラウド化し、マイカー以外の全ての交通手段によるモビリティ(移動)を1つのサービスとして捉え、シームレスに繋ぐ「移動」の概念。

4 LCA(ライフサイクルアセスメント):製品やサービスのライフサイクル(原料の採取、社内製造・加工過程、さらにその製品の使用、消費、廃棄プロセス)を通じた環境への影響を定量的に評価する手法。

5 インターナルカーボンプライシング:自社基準で二酸化炭素(CO2)に価格を設定してその排出量を費用換算し設備、開発投資判断の参考とするもの。

6 GX(グリーントランスフォーメーション):気候変動の主な要因となっている温室効果ガスの排出量を削減しようという世界の流れを経済成長の機会ととらえ、排出削減と産業競争力向上の両立を目指す取り組みのこと。

7 GXリーグ:カーボンニュートラルへの移行に向けた挑戦を果敢に行い、国際ビジネスで勝てる企業群が、GXを牽引する枠組み。

8 トランジション戦略:CO2排出量削減を着実に進めるための取り組みやガバナンス等に関する長期的な戦略。

 

 

〔目標とする経営指標〕

このような状況の下、創業150年を迎える22中計最終年度である2024年度(2025年3月期)の業績予想は、入手可能な外部の情報等を踏まえ、次のとおりであります。

 

 

2024年度連結業績

予想値(A)

目標値(B)

増減
(A)-(B)

売上高(億円)

6,400

7,250

△850

経常利益(億円)

350

600

△250

フリーキャッシュ・フロー(億円)

100

370

△270

ROE(自己資本当期純利益率)(%)

7.7

14.0

△6.3

自己資本比率(%)

44.3

50.0

△5.7

Net D/Eレシオ(倍)

0.57

0.42

0.15

 

Net D/Eレシオ:有利子負債から現金及び預金を差し引いて、それを自己資本で割ったもの。

 

主な前提諸元

 

予想値(A)

目標値(B)

増減
(A)-(B)

亜鉛LME価格($/t)

2,700

3,000

△300

為替(円/US$)

145

120

25

 

 

上記の業績予想につきましては、2024年5月21日現在において入手可能な情報に基づき算出したものであり、今後様々な要因により実際の業績が記載の予想数値と異なる場合があります。

中期経営計画「22中計」の進捗状況につきましては、当社ホームページのIR・投資家情報に、2024年5月21日付で掲載されております「22中計進捗説明会資料」をご参照下さい。

https://www.mitsui-kinzoku.com/LinkClick.aspx?fileticket=7ZpslJ12dQ0%3d&tabid=100&mid=826&TabModule819=0

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

当社グループが目指している、社会的価値と経済的価値の両立による統合思考経営の実現に向け、2023年4月1日付にて、技術基盤の強化を担う「技術本部」の新設とともに、「サステナビリティ推進部」を経営企画本部から本社部門の社長直下に移管し、事業部門を含めた関係部門との連携促進を図り、社会的価値向上の取り組みを更に加速させることとしております。

 

(1) 気候変動

気候変動は地球全体に長期にわたり大きな影響を及ぼすことから、当社事業にとって特に重要な外部環境変化の一つであると認識しております。とりわけ当社グループは非鉄製錬、電解銅箔などエネルギー多消費型事業を有していることから、そのエネルギー消費に伴う温室効果ガス排出の適正な管理の一環として「エネルギー管理」と「温室効果ガスの排出削減」も経営上の重要なマテリアリティであると位置付け、気候変動対応関連の活動を推進しております。

また、気候変動とそれを巡る社会や経済の変化は、事業上のリスクをもたらす一方で、適切に対応することにより競争力の強化や新たな事業機会の獲得にもつながると認識しております。そこで、2020年度より、当社グループはTCFD提言のフレームワークに則って、気候変動がもたらす中長期的なリスクと機会の分析、及びそれを事業戦略に落とし込む活動に着手し、2022年3月にはTCFD提言への賛同を表明し、気候変動対応関連活動の更なる加速に取り組んでおります。さらに2023年度からはGXリーグへの参画を通じて官民学一体となった活動により、気候変動対応のさらなる加速に取組んでおります。

 

①ガバナンス

当社グループにおける気候変動基本方針や重要事項は、取締役会の監督の下、社長が委員長を務めるCSR委員会において討議し、執行最高会議において審議・決定しております。執行最高会議は、代表取締役と業務執行取締役が参画しており、経営の観点から審議を行なっております。(体制図参照)

 


 

 

②戦略

当社グループはグローバルに多数の事業を展開しており、気候変動に関わるリスク・機会が事業ごとに異なるという背景を考慮し、気候変動の影響を受ける可能性が相対的に高い事業から事業別にシナリオ分析を行なっております。

シナリオの定義

想定時期

2030年代初頭

シナリオ定義

4℃シナリオ

産業革命期比で21世紀末に2.7~4.0℃上昇

*主にIEAのSTEPSのデータを利用

2℃シナリオ

産業革命期比で21世紀末に0.9~2.3℃上昇

*主にIEAのAPS(以前のSDS)と一部NZEのデータを利用

 

これまでに、グループ全体のCO2排出量の約70%を占める金属事業、次いでCO2排出量が多い銅箔事業、気候変動による事業環境の変化が大きい触媒事業、機能材料事業についてシナリオ分析を完了しておりますが、引き続き、その他の事業分野の分析と定期的なシナリオ分析のアップデートに取り組んでおります。

 

シナリオ分析では、それぞれのリスクによる収益低下を最小化するとともに、新たな製品や新規事業の創出による機会の獲得を実現するための対応案を検討しております。それらの多くは長期的な視点で取り組むべき内容ですが、2022年度からの中期経営計画である「22中計」に続き、2025年度からの次期中期経営計画にも反映させて、戦略のレジリエンスの確保に努めてまいります。

特に金属事業においては、2020年度に実施したシナリオ分析を踏まえ、CO2排出削減を最優先課題とし、カーボンニュートラル対応準備プロジェクトを立ち上げ、CO2削減施策を検討し、効果と確度に順位付けの上、22中計に織り込み、活動しております。

さらに、CO2削減施策の実行を促進するため、2023年4月1日よりICP(社内炭素価格)を設定(注)1し、設備投資・開発投資の判断に活用しております。設定金額については、当社グループにおける削減策実行のハードルがScope1とScope2の特性によって大きく異なる部分もあることから、Scope別の設定としております。

具体的には、Scope1では当社主力事業の一つである亜鉛精錬のようにプロセスの原理上CO2削減対策のハードルが高く、試験等も含めた開発投資が不可欠であるものも想定されることから、電力の再生可能エネルギーへの移行による削減が可能なScope2よりも高い金額といたしました。

また、2030年度までのCO2排出量の削減と2050年度までのカーボンニュートラルの実現に向け、2023年12月にトランジション戦略の策定を公表いたしました。(詳細は以下URLをご参照ください。)

https://www.mitsui-kinzoku.com/LinkClick.aspx?fileticket=AnTMXs7RlQ0%3d

(注)1 Scope1:30,000円/t-CO2,Scope2:20,000円/t-CO2

 

③リスク管理

シナリオ分析の過程では、リスク及び機会の特定をしております。とりわけエネルギーコストの増大リスクに加えて、低炭素・脱炭素経済への移行を見据えた顧客ニーズの変化、サプライチェーン取引先への温室効果ガス削減貢献におけるリスクと機会が重要であると認識しております。シナリオ分析で検討した対応策には、これらの動向を監視して必要な早期対応を経営計画に反映させることも含めており、随時経営層に報告を行い、リスク管理をしております。

 

④指標及び目標

当社グループでは、エネルギー起源のCO2の削減目標を設定しております。

・2030年度:CO2排出量をグローバルで38%削減する(2013年度比)

・2050年度:カーボンニュートラル(Net 排出ゼロ) を目指す

なお、上記の指標と目標に対する、2022年度の三井金属グループのScope1及びScope2のCO2合計排出量は1,720千t-CO2であり、2013年度比で7%の削減(注)2となりました。

今後は、Scope3について、更に開示対象を拡充できるよう取り組みを進めてまいります。

 

当社グループにおけるCO2排出量(2022年度)

 

単位:千t-CO2

 

Scope1(注)3

Scope2(注)3

合計

(参考)Scope3

輸送(注)4

廃棄物処理(注)5

日本国内

763

661

1,424

18

11

海外

39

257

296

0.5

合計

802

918

1,720

18

11.5

 

(注)2 基準年である2013年度の排出量を電力の調整後排出係数を使用して算出することに変更したため、98期の2013年度比削減率よりも見かけ上、小さくなっております。

(注)3 エネルギー起源のCO2を対象としております。

(注)4 当社(三井金属単体)が荷主である輸送に伴うCO2排出量を対象としております。

(注)5 三井金属グループ(グローバル)で発生した廃棄物の処理によるCO2排出量を対象としております。

なお、最新のCO2排出量については、当社ホームページをご参照ください。

環境データ:https://www.mitsui-kinzoku.com/csr/data/esg_data/

また、当社グループの気候変動及び環境に対する取組みについては、ESG説明会資料(7~22頁)、統合報告書(71~79頁)もご参照ください。

2023年度ESG説明会資料:

https://www.mitsui-kinzoku.com/LinkClick.aspx? fileticket=%2bfOSFKUPXAI%3d&tabid=159&mid=1060&TabModule1202=0

2023年度統合報告書:

https://www.mitsui-kinzoku.com/Portals/0/CSR/integrated_report/2023/JP2/12_integrated_report2023.pdf

 

(2) 人材の育成及び社内環境整備に関する方針、戦略

当社グループの持続可能性、そして世の中の持続可能性を高めるために、事業を通じて環境・社会課題を解決していく必要があり、そのためにはイノベーションを創出し、新たな価値を生み出し続けていかなければなりません。こうした当社の取り組みは、多様な個性と様々な価値観、経験とスキルを持った人材がいてこそできるものであります。ゆえに人は最も重要な経営資源であります。当社グループで働く全ての人が、それぞれの役割を担いながら、新たな価値を生みだし、当社グループで働くことに誇りや幸せを感じることができるよう、ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン、働きがい改革、健康経営、実力主義の人事制度、HRBP(注)6という5つの施策を推進しております。これにより、個人を尊重することと、組織として人材を活用することを両立し、「パーパス」を基軸にした「全社ビジョン」の実現と、統合思考経営への変革を、人事の側面から推進しております。

(注)6 HRBP:Human Resource Business Partnerの略。経営者や事業部門のパートナーとして事業成長と戦略の実行を人材・組織の面から支える機能。

 

①人材育成方針

当社グループは、「ひとづくり基本方針」に基づき、事業を通じて社会課題を解決し、価値創造を実行する人材の育成に取り組んでおります。

イ.ひとづくり基本方針

一人ひとりの可能性と原動力を引き出し、「ものづくり」に強い当社を実現するために、「ありたい人材像」を掲げ、継続的・計画的に「ひとづくり」を推進いたします。

‐「明るくのびのびとした職場づくり」に取り組み、良好なコミュニケーションと切磋琢磨により、ともに成長しあう文化を築き上げます。

‐社員をはじめ一人ひとりが、「ありたい人材像」を目指し、意欲的に自らの能力向上に取り組みます。

‐育成のためのOJTとローテーションを行い、「プロ人材(注)7」への成長を促進するとともに、適材適所により能力発揮の場を提供いたします。

‐発揮された能力・成果に対して「公正な評価」を行います。

‐教育プログラムは、時代のニーズを反映させ、より高い質を目指し、定期的に効果を検証し、改善につなげます。

(注)7 プロ人材:専門的な知識・スキルを備え、発揮することにより、ある一定の職種や領域において、自らPDCAを回して課題解決を目指せる人材

 

 

②社内環境整備方針

2050年の世界では、人の働き方は今とは大きく異なり、人材流動性が非常に高くなると予想されております。このような社会においても、働く人に選ばれる会社、そこで働くことに誇りを持てる会社、成長し続けられる会社であるために、今から何をすべきかが問われております。

個人の視点としては、チャレンジして自己成長を実感できる、キャリアを自律的につかみとれる、多様性に価値があることの実感、これらを実現していく必要があります。もちろん健康に働き続けられることは大前提です。

組織側の視点では、育成・拡大・再構築・強化の事業評価に対して、どのような人を配置するかという人材のアロケーション、そのための人材育成に加え、経営者をはじめとした重要なポジションの後継者育成をしっかりと計画的に考えることが重要となります。これら、個人視点と組織視点の人材戦略の礎となるのが実力主義の人事制度です。

 


 

イ.ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンと働きがい改革の推進

一人ひとりが優秀で知識が豊富でも、似通った視点や価値観の集団では、新しい価値の創造性や、組織としての強靭性に欠けます。異なる視点や経験、価値観を持ち多角的に物事を捉えられ、その多様性が十分に活きる組織を目指します。

そのためには、多様な視点は属性を多様化することで確保しやすいことから、第一歩として女性活躍推進に取り組んでおります。その先には、どのような考え方・経験・価値観の人であっても、あらゆる職場で十分に力を発揮し、企業価値向上に貢献している、そのような未来を描いております。

さらに、安心して働ける職場、自律的に働き、仕事の成功や失敗を通じて成長を実感できる職場を実現する働きがい改革を推進、加速いたします。これにより、組織と個人の関係性、つまりエンゲージメントが向上し、多様性を認め合い活かす土台を固めます。

 

・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン推進体制

2021年にダイバーシティ推進室、2022年に社長を委員長とするダイバーシティ推進委員会を設置し、ありたい姿に基づくロードマップとKPIを策定し取り組みを推進してきました。各本部からの代表者と協議し、委員長のダイバーシティ推進方針の意思決定を補佐しております。

2023年度からは武川社外取締役がアドバイザーとして参画し、更に幅広い視点で議論できる体制といたしました。

 

・働きがい改革推進の加速

2024年4月から、働きがい改革を加速するべく専任組織を設置いたしました。働きやすさ、働きがいが実感できることを早期に実現し、さらには「この会社だからこそ働きたい」と思えるような会社を目指しております。まずはエンゲージメントが向上しやすい組織の特徴を分析し、データに基づいた各種の施策を立案・実行することで、ありたい姿を実現していきます。

 

 

・マネジメント体制

ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンと働きがい改革は、密接に関係していることから、一つの委員会で議論しております。委員会ではロードマップに対する進捗と課題、今後の取組みを協議し、その結果は最高執行会議と取締役会でも報告・議論して取組みに反映させております。

 


 

[定期的な情報発信]

- 経営連絡会等における社長のメッセージ発信

- 社外取締役・ダイバーシティ推進室長メッセージ(採用ホームページ)

- 人事戦略・ダイバーシティ推進の取組み進捗発信(ESG説明会)

- 社内報の連載

[研修]

- アンコンシャスバイアス研修 (非管理職向け)

- ダイバーシティマネジメント研修 (管理職向け)

- D&I推進ワークショップ(男性育休編)

- 女性交流会

[女性活躍推進の取組み]

- 業務効率化推進プロジェクト

- 男性育休取得事例の社内共有、製造現場へのポスター掲示

- 職域拡大の検討

- 女性管理職育成計画

 

 

ロ.健康経営の推進

当社グループに働く全ての従業員及びその家族が心身ともに健康であることは重要な経営課題です。従業員とその家族が健康であることは、従業員の生活を充実させ、その個性・能力を最大限に発揮できる基盤となり、会社にとっても生産性を高め、業績向上に繋がっていきます。従業員及びその家族の健康維持・増進活動に取り組むことを通じて、さらに活力のある会社づくりを推し進めることをもって社会に貢献し続けることを、健康経営宣言として社内外に公表しております。

当社は、2019年以降継続して健康経営優良法人に認定されております。2022年度以降は、健康関連の研修・イベント、全拠点でのメンタルヘルス研修を継続して実施してきました。2023年度には全社産業保健・健康経営施策の推進役として新たに統括産業医を選任し、事務局として人事部労政室内に健康経営担当を設置いたしました。また、フィジカル・メンタルの両面からの健康経営重点項目の設定、二次健診等への費用補助制度の導入、治療と仕事の両立に資する制度改定として半日年次有給休暇制度利用上限の撤廃、全社での健康診断結果のデータ分析、各職場へのストレスチェック結果のフィードバック及び重点職場の状況確認や改善サポート等を行なっております。

 

ハ.実力重視の人事制度とHRBPによる戦略人事

・実力重視の人事制度

2022年4月より、これまでのヒト基準の人事制度から職務・役割基準のジョブ型人事制度へと改定いたしました。これにより、当社グループが掲げる“パーパス”、“全社ビジョン”、そしてそこに向けた経営戦略と、人材マネジメントの整合性が強化されるようになります。すなわち、人に仕事を付けるという従来の発想・仕組みから、経営戦略遂行上必要な仕事を設定し、それに対して人を就けるという考え方への転換により、これまで以上に効率的な戦略遂行を実現していくことを意味します。

2024年度からは、これまで社内にあった、社員を属人的な要素によって区分する仕組み、いわゆる総合職、一般職の区分を廃止いたしました。

今後は、年次・年功・学歴などの制約条件は関係なく、“実力”のある優秀な人材に対して活躍する機会を提供することで、組織の活性化と挑戦する風土の醸成につながるものと期待しております。

 

・キャリア開発支援

“実力重視の適材適所”の人材マネジメント・人事制度への転換にともない、人材のキャリア形成のあり方に、大きく2点の変化が生じます。一点は一人ひとりが自分らしいキャリアビジョンを描き、定めた目標に向けて実力を身に着けていく、すなわち自律的なキャリア形成を志向することが求められるということです。そしてもう一点は、会社は社員のキャリア選択権を認め、一人ひとりと対話しながらキャリアビジョンの実現をサポートしていくというあり方です。当社はこのようなキャリアに関する会社と社員の新しい関係性を実現するための”キャリア開発支援“の取組みとして、キャリア面談の実施、自己申告書の拡充などに取り組んでおります。

自己申告からは、個人のキャリア希望の方向性や個別事情を読み取ることができ、その情報を個人別配置育成計画に落とし込むことで、適性や本人の意思、発揮能力を踏まえたキャリア形成、能力開発が可能となります。一律にジェネラリストの育成だけでない、スペシャリストを含めたキャリアビジョンの複線化も意識できるような仕組みとなっております。具体的には、経営系、事業創造系、研究開発系または人事、経理、法務などの機能系のマネジメントなのか、あるいはスペシャリストとして活躍したいのか、というキャリアビジョンを本人も上司も考えるようにしております。

 

・自律を後押しする人材育成

一人ひとりのキャリアビジョンを実現するための仕組みとして、教育体制を充実させております。従業員がスキルを向上し自らの強みを発揮できるよう、また生涯キャリアの形成に向けた各従業員の継続的な努力をサポートすべく、自律的な学びを支援できるカリキュラムと学習環境の提供に努めております。

2022年度より「個」のキャリア自律を実現すべく教育体系制度の刷新並びに、それをサポートするDXツールとして、MLP(Mitsui₋kinzoku Learning Platform) を導入いたしました。ここでは選択型能力開発プログラムを更に強化し、各階層で必要な能力を開発する必須研修に加え、従業員が自由に受講できる学習コンテンツを大幅に拡充しカフェテリア型の研修体系といたしました。リーダーシップやアンガーマネジメント、ダイバーシティマネジメントなど管理職のマネジメントスキルを高めるコンテンツ、 DXやAIなどのテクノロジー、心理的安全性など働き方改革に関する学習、サステナビリティに関する学習など世の中のトレンドに対応したコンテンツも用意しております。加えて、全従業員のITリテラシーのさらなる向上を目標とし、三井金属総デジタル人材化と銘打ったICT教育を実施しております。本取組みの継続的な実施を通じて、DXによる新たなビジネスモデル創出が出来るような人材の輩出を目指しております。

新入社員に対するきめ細やかな教育も特徴です。選出されたOJT指導員への教育を行いつつ、指導員-新入社員のコミュニケーション方法など育成上の課題を集約してフィードバックするとともに、得られた知見をフォローアップ研修に反映させるなどタイムリーに内容をブラッシュアップしております。また、統合思考経営の実践に向け、環境・社会課題を起点としたビジネスを創出できる人材の育成にも力を入れており、外部環境の変化を考慮しSDGs、ESG、CSRに対応する研修の拡大・強化に取り組んでおります。

これらの個別の研修のつみかさねにより、事業を通じて環境・社会課題を解決していく人材、当社の掲げる「人づくり基本方針」にもとづいた人材育成が実現されております。

 

・HRBPによる戦略人事の実施

2022年4月に設置された人事ビジネスパートナー室は、経営戦略、事業戦略に人事の面から迅速に対応することをミッションとしております。従業員は個人として尊重されつつ、組織としてはこれを活用していく必要があります。各本部にあるHRBPは人事部と連携しつつ、全社視点における事業ポートフォリオの動的管理に紐づく人材アロケーションを実行し、必要なところに必要な人材を投入するようにしております。重要ポジションのサクセッションプランや中長期的な必要人材の特定、各部門でのタレントマネジメントなどについても、先見性をもって迅速な課題解決に努めております。

 

③指標及び目標

ダイバーシティの推進と働きがい改革をモニタリングするために、以下のような指標を設定しております。

 

イ.取締役会におけるダイバーシティ

取締役の女性比率10%以上

 

ロ.女性管理職比率(係長級以上の比率)

2024年度末までに5.0%以上(2023年度末は3.6%)

 

ハ.女性活躍の実現に向けた指標

‐正社員採用女性比率の向上

‐リーダー層女性比率の向上

‐男性育休取得率の向上

‐政府機関等の認定取得

‐「多様性の尊重」(従業員へのアンケート結果)の数値向上

 

ニ.働きがい改革の推進指標

‐いきいき度(エンゲージメント測定指標)の向上

 

当社では2023年度から役員報酬にESGの指標達成の程度に応じて付与される「ESG指標要件型譲渡制限付株式報酬」を導入しており、人に対する取り組みが、経営レベルで後押しされる仕組みとなっております。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、経営成績等)は、様々な要因によって、重要な影響を受ける可能性があります。当社グループでは、経営成績等やビジネスモデル、長期的価値創造に直接影響を与え、事業の継続や企業の存続を脅かす可能性のあるリスクを特定しております。また、リスクへの対応力を向上させるため、リスクマネジメントの推進体制や仕組みの整備・改善に取り組み、対応策を検討し実施しております。

 

分類

区分

リスクの内容・対応策等

顕在化した場合に
緊急性の高いリスク

感染症の
大規模流行

感染症の大規模流行のリスクが顕在化した場合、当社グループやサプライチェーンの従業員に感染が拡大する恐れがあります。また、国や地域ごとの緊急事態宣言等により、サプライチェーンや当社グループの事業活動が制限を受ける可能性があり、感染症の大規模流行のリスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります 。

当社グループはこれらのリスクが顕在化した際には、「緊急事態発生時の対応に関する規則」に基づき、人命の保護を最優先に、BCP等を実施し、資産を守りサプライチェーンを維持し、操業の早期復旧と継続を図ります。

当社グループでは、三井金属BCMマネジメント活動サイクルによりBCP等の対策の有効性を改善し、適宜見直すといったBCM活動を継続的に推進し、感染症の大規模流行に係るリスクの低減を図っております。

大規模自然災害

地震や、気候変動の進行による大規模な台風、集中豪雨の発生により、大規模自然災害のリスクが全世界的に増大しております。大規模自然災害のリスクが顕在化した場合、従業員、生産設備等の資産、サプライチェーンにおいて被害が発生する恐れがあります。これらの被害により当社グループの調達、生産、製品販売に支障が生じ、大規模自然災害のリスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループはこれらのリスクが顕在化した際には、「緊急事態発生時の対応に関する規則」に基づき、人命の保護を最優先に、BCP等を実施し、資産を守りサプライチェーンを維持し、操業の早期復旧と継続を図ります。当社グループでは、三井金属BCMマネジメント活動サイクルによりBCP等の対策の有効性を改善し、適宜見直すといったBCM活動を継続的に推進し、大規模自然災害に係るリスクの低減を図っております。

情報セキュリティ

当社グループでは、顧客等のステークホルダー及び当社グループの機密情報を含む事業活動に伴う様々な情報を保持・管理しております。サイバー攻撃や関係者の故意又は過失等により、これらの情報の漏洩、改ざん、消失が起きた場合、顧客や社会からの信用を失うだけでなく、多額の損害賠償の請求や訴訟の恐れがあります。結果として、情報セキュリティに係るリスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループでは、ICTを活用し機密情報を統一的に管理し、ICTセキュリティ規則の遵守及び運用しているシステムのリスクアセスメントや提携先との秘密保持契約締結により、情報セキュリティに係るリスクの低減を図っております。

また、国際情勢の変化やICT技術の進歩に伴い、想定していなかった新たなリスクが日々脅威として増え続けているとも認識しており、事前予防もさることながら、「新しいリスクは発生するもの」という認識の下で、緊急時にできる限り迅速・的確に対応するべくSOC(Security Operation Center:サイバー攻撃の検出・分析・対策を行なう組織)やCSIRT(Computer Security Incident Response Team:セキュリティインシデントが発生した際の対応専門組織)の継続的な強化を図っております。

 

 

 

分類

区分

リスクの内容・対応策等

財務リスク

相場変動

亜鉛、鉛、銅等の非鉄金属の価格はロンドン金属取引所(LME:London Metal Exchange)、その他の国際市場で決定されます(以下、LME相場等)。LME相場等は国際的な需給バランス、世界の政治経済の状況や投機的取引等の影響を受けて変動します。LME相場等が著しく低下し、さらに、その状態が長期間続いた場合には、相場変動リスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

相場変動に対しては、リスクヘッジを目的とし、必要に応じて商品先渡取引を利用することで、相場変動リスクの影響の低減を図っております。

為替変動

亜鉛精鉱等の輸入原料価格や、非鉄金属地金の国内価格は、米ドル建てのLME相場等を基準に決定され、当社グループが製錬事業から得る製錬収入(マージン)も、実質的に米ドル建てとなっております。

また、機能材料分野他の製品等の輸出から得られる収入も、外国通貨建てとなっております。したがって、為替レートが大きく円高に振れ、その期間が長期間にわたって継続した場合には、為替変動リスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

為替変動に対しては、リスクヘッジを目的とし、必要に応じて為替予約取引を利用することで、為替変動リスクの影響の低減を図っております。

資金調達

安定的な資金調達を図るため、金融機関との間でシンジケートローン及びコミットメントライン契約を締結しており、契約には一定の財務制限条項が付されております。当社グループがこれらに抵触した場合、期限の利益を喪失し、一括返済を求められる等、資金調達リスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループの財政状態は、財務制限条項に照らして問題のない水準にありますが、随時モニタリングを行い、資金調達リスクの低減を図っております。

年金資産運用

従業員に対する退職給付費用及び債務は、割引率等数理計算上で設定される前提条件や年金資産の長期期待運用収益率に基づいて算出されております。実際の結果が前提条件と異なる場合、年金資産運用のリスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

年金資産の運用については、運用機関から意見を聴取した上で、分散投資を前提に政策的資産構成割合を策定しております。また、運用状況を定期的にモニタリングし、年金資産の運用方針(運用期間及び運用割合)の見直しを行い、年金資産運用のリスクの低減を図っております。

セグメントにおける
リスク

機能材料
セグメント

機能材料セグメントでは、キャリア付き極薄銅箔や高周波基板用電解銅箔等、トップシェア製品を多く有しておりますが、半導体及び電子材料分野では景気後退等の影響を受け、需要変動の波が一段と大きくなっております。また、競合品の採用や代替技術の台頭によるシェアの減少等のリスクもあり、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。これらのリスクに対しては、ハイエンド品の開発やマーケティング強化、知的財産の取得、最適なプライシング等の対策を講じつつ、代替技術のモニタリング等も継続することで、リスク低減を図ってまいります。

金属セグメント

金属セグメントは、上記「財務リスク」に記載のとおり、相場変動及び為替変動のリスクを有しており、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。これらのリスクに対しては、リスクヘッジを目的とし、必要に応じて商品先渡取引・為替予約取引を利用することで、変動リスクの影響の低減を図っております。また、ロシア・ウクライナ情勢を背景として石油・石炭・LNG・電力等エネルギーコストが急騰しており、さらに、近年のカーボンニュートラル実現に向けた世界的な趨勢の下、当セグメントとしても化石燃料の使用削減への取り組みが急務となっております。これらのリスクに対し、一部実施している排出係数が小さい電力会社・電力契約への切替に加え、CO2低減製品・SDGsに貢献する製品の提供等による新たな価格政策、再生可能エネルギー・CO2フリー電力購入等を両輪として新たに検討し、対応して参りたいと考えております。

さらに、環境意識の高まりに伴う世界的なリサイクル原料市場の拡大を背景に、製錬ネットワークに銅製錬のプロセスを有機的に繋げたことで、多種多様なリサイクル原料の獲得及び増処理を推進している一方で、生産設備の老朽化や増処理に伴う設備への高負荷操業の継続、新規原料の処理等に起因する、設備故障を含む操業トラブルが発生するリスクがあり、結果として、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループでは、日々の設備保全とともに、中長期的視点において適切なタイミングでの設備投資や工程改善を通じて操業リスクの低減と安定操業に努めております。

 

 

 

分類

区分

リスクの内容・対応策等

セグメントにおける
リスク

モビリティ
セグメント

モビリティセグメントは、市場の変化からの影響を受けやすい傾向にあります。さらに、最近の自動車市場は、中国における新興電気自動車メーカーの急速な台頭に象徴されるように、これまでに経験したことのない速度で変化しております。このような市場の変化が、当社グループの製品構成や価格及び販売量に影響をもたらし、経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループでは、顧客・第三者機関等から情報を収集して市場の動向をモニタリングしております。そして、現地調達、現地生産及びスマートファクトリー化による生産性や品質の向上とコストの削減、並びに市場の動向を踏まえた研究開発により、変化への対応力を強化しリスクの低減に努めております。

セグメント横断的
リスク

製品の品質

当社グループの製品は、電子機器や自動車等に幅広く利用されており、品質問題が発生した場合、バリューチェーンの広範囲に影響を及ぼす可能性があります。例えば、モビリティセグメントでは搭乗者の安全に関わる重要な部品の一つであるドアロックを生産しており、当社製品の品質に欠陥があった場合には、重大な事故の発生や、大規模リコールにつながる恐れがあります。さらに、顧客・社会におけるレピュテーションが低下し、品質リスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループでは、各事業セグメントの業態に合わせた品質保証体制を構築し、品質マネジメントシステムに基づき、品質管理を行い、品質問題の発生の低減に努めております。新規に事業を開始する場合は、予め品質リスクを想定し、これに対応した品質保証体制を準備しております。

製品の使用や輸送における安全確保、廃棄における環境影響等につき適切な情報提供を継続しております。また、品質に関するコンプライアンスを確保するため、三井金属グループ品質保証ガイドラインを定め、法令や客先との取決めを順守する活動を国内外に展開しております。

第三者との提携

当社グループは、将来の成長商品、成長事業となる新事業の継続的創出を図っております。この一環として、当社と事業シナジーが見込まれる国内外の有望なベンチャー等の第三者との間で共同開発、戦略的提携、事業買収等を行う可能性があります。第三者との提携において、提携先での技術開発の遅れ及び技術優位性の低下、提携先財務状況の悪化により、当社の新事業創出が困難となる、また、提携先へ出資をしていた場合は、これらの状況により減損リスクが生じる恐れもあります。結果として、第三者との提携に係るリスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループでは、適切なデュー・ディリジェンスによる提携先の選定、また当社の経営ノウハウ、技術、人材等の活用により、第三者との提携に係るリスクの低減を図っております。

カントリー
リスク

当社グループはグローバルに事業活動を展開しており、サプライチェーンも国内外に拡がっております。拠点所在国・地域及び事業関連国・地域の政治状況の不安定化、経済・通商政策の変更、法制や税制の変更、紛争、国家間の経済制裁等が、当社製品の売上の減少やコストの増加等につながる等、カントリーリスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

今般のウクライナ情勢については、現在までの影響は限定的でありますが、更に長期化し経済制裁の強化等が進んだ場合には、原材料の調達等のサプライチェーン上の影響、当社グループの業績及び財務に一定の影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、外務省等行政発信情報、顧客企業及びサプライヤー企業からの情報、民間シンクタンク情報、各種報道による情報の評価分析を行っております。当社グループの事業活動が影響を受ける可能性のある事象をモニタリングし、カントリーリスクによる影響の低減を図っております。

労働力の不足

日本国内において、生産年齢人口減少に伴う採用競争の激化、及び今後見込まれる定年退職者の増加により、当社グループの労働力不足に係るリスクが当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

当社グループでは優秀な人材を確保するため、採用を強化するとともに、年齢に関わらず、活躍し続けられる会社を目指して、定年年齢の引き上げを行っております。そして、多くの方が当社グループを選択しいきいきと働いてもらえる会社となるために、多様な人材が働きやすく働きがいのある職場環境を整え、キャリア開発支援や教育を継続的に実施しております。また、過去最高のベースアップも実現いたしました。さらに、ICT導入等により生産性の向上を図り、労働力不足に係るリスクの低減に努めております。

 

 

 

分類

区分

リスクの内容・対応策等

経営成績等に影響を与えうるESGリスク

(注1)

環境

当社グループは、ESG項目の内、環境リスクとして、「温室効果ガス排出」、「エネルギー管理」、「水の管理」、「廃棄物と有害物質の管理」、「生物多様性への影響」を特定しております。

とりわけ当社グループが位置する非鉄金属業界は、「温室効果ガスの排出」や「エネルギー使用」が相対的に多く、今後、各国・地域が温室効果ガスに係る法規制を強化した場合、温室効果ガスの排出のコスト化や化石燃料調達に付与される賦課金の導入等により、コストが増大する恐れがあります。また、温室効果ガス削減の進展に伴う顧客ニーズの変化を捉え、サプライチェーン取引先への温室効果ガス削減貢献等のリスクと機会に対する認識から、その対応を拡充しております。加えて、情報開示についても要求変化に対応し、適切な内容の開示を図っております。

「廃棄物と有害物質」については、有害物質が水、大気、土壌等、周辺環境に流出した場合、環境汚染を引き起こし、膨大なコストが発生する恐れがあります。さらに、事業活動が、その周辺地域の「生物多様性」に影響を与えた場合には、コストの発生やレピュテーションリスクにつながります。結果として、これら環境リスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

環境リスクへの対応として、環境行動計画を作成し、それぞれの環境リスク項目(マテリアリティ)について目標を制定し、年次でPDCAを回し取組みの進捗を管理しております。

温室効果ガス排出やエネルギー管理については、中期経営計画の開始に合わせて、2050年のカーボンニュートラル実現を見据えたところの温室効果ガス排出量の削減目標を見直し、この目標の進捗管理を行う指標も定めた上で、省エネルギー活動、再生可能エネルギーの利用や拡大等の具体策に取り組んでおります。また、エネルギー起源CO2以外の温室効果ガスについても地球温暖化対策推進法に基づき対象の活動の排出量を算定し管理しております。

水の管理については、規制基準に沿って、排水量とその水質の適正な管理目標を設定し、汚染を起こさないよう対応策の実施を徹底しております。加えて水ストレスが高い地域を中心に、取水量削減のための目標を設定し取水量削減に取組んでおります。

また、廃棄物と有害物質については廃棄物量とPRTR法に基づく届け出対象物質の排出量について、削減目標を定め、取組みを進めております。また、リサイクル原料の使用率向上にも取り組んでおります。

生物多様性への影響については、各拠点の課題と取組みの状況を収集し、具体的なアクションプランの作成に取り組んでおります。これらの取組みにより、環境リスクの低減を図っております。

社会

当社グループは、ESG項目の内、社会リスクとして、「人権」、「安全衛生」、「公正な事業慣行」を特定しております。

①人権

当社グループの事業やサプライチェーンにおいて、特に鉱業特有の人権リスクや、鉱物サプライチェーン上の人権リスクがあると認識しております。人権侵害が発覚した場合、調達や生産への影響だけではなく、当社グループのレピュテーションリスクにもつながり、結果として、人権リスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

これらのリスクに対し、当社は、人権方針と人権基準に基づき、当社グループの各拠点において、人権デュー・ディリジェンスを行っております。地域コミュニティ(鉱山地域含む)については、鉱山事業に係る自己評価アンケートを実施し、デュー・ディリジェンスを行っております。また、サプライチェーンについては、これらの方針の他、調達方針を定め、サプライヤーデュー・ディリジェンスを実施しております。デュー・ディリジェンスでは、潜在的リスクを洗い出し、抽出された課題については、該当拠点やサプライヤーとエンゲージメントを行い、改善策を実施し、人権リスクの低減を図っております。また、グループ全体で取り組むべき課題に対しては、全社的な規則等のルールを整備するとともに、社内の教育を実施しながら対応を進めております。

 

 

 

分類

区分

リスクの内容・対応策等

経営成績等に影響を与えうるESGリスク

(注1)

社会

②安全衛生

従業員の安全や衛生に係る労働災害が発生するリスクがあり、重篤な労働災害は行政等からのペナルティや操業停止につながり、安全衛生に係るリスクが当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

労働安全衛生を管理するために、主要拠点では、ISO45001を取得し、労働安全衛生マネジメントシステムに基づきPDCAを回しレベルアップを図っております。また、従業員に対し、安全衛生の関連法規やルールの遵守・危険感受性を高めるための研修、非常時に備えた訓練、個別作業ごとの保護具や工具の使用等についてトレーニングを実施し、安全衛生に係るリスクの低減を図っております。

③公正な事業慣行

当社グループ内や政治、行政、サプライヤー等ステークホルダーとの間で、贈収賄や反競争的行為といった不正な行為が発生した場合、ペナルティやレピュテーションリスクにつながり当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。また、各国法制も情勢により変化することから、グローバルな事業展開をする中において、より感度を上げて対応していく必要があると認識しております。

当社グループは、公正な事業慣行を徹底する施策として、役員や従業員を対象に研修を継続実施し、各拠点において、競合他社等との接触機会のモニタリング、サプライヤーとの関係を含めた法務監査を行っており、また、海外拠点を中心に、順次、サプライヤーとの贈収賄禁止協定書の締結を進め、公正な事業慣行に係るリスクの低減を図っております。

ガバナンス

当社グループは、ESG項目の内、ガバナンスリスクとして、「コーポレート・ガバナンス」、「コンプライアンス」を特定しております。

当社グループは、持続的に企業価値を高めるために、コーポレート・ガバナンスの仕組みや機能を規律づけ、ガバナンスの実効性が強化されるよう改善を図っております。しかしながら、将来的に、事業・外部環境の変化等により不測の事態が発生した場合、ガバナンスの実効性が低下する恐れがあります。ガバナンスの実効性の低下は、法令違反等のコンプライアンスのリスクにつながる可能性もあり、訴訟やレピュテーションリスクが生じる恐れがあります。結果として、ガバナンスリスクが、当社グループの経営成績等に重要な影響を与える可能性があります。

ガバナンスの実効性を確保するため、コーポレートガバナンス・コードを踏まえたモニタリング機能の強化により、取締役会を中心としたガバナンス機能の向上を図っております。また、全ての役員や従業員を対象としたコンプライアンス研修等によりコンプライアンス実践意識を浸透させるとともに、部門間、拠点間の情報共有体制を強化し、グループ全体でのガバナンスリスクの低減を図っております。

 

(注)1.当社グループの持続可能性を実現するために、サステナビリティに関するマテリアリティを特定し取組みを進めております。マテリアリティの内、特に当社グループの経営成績等に影響を与えうる項目を、ESGリスクと区分しております。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(経営成績等の状況の概要)

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

(1) 経営成績の状況

当連結会計年度の国内経済は、新型コロナウイルス感染症に係る行動制限の解除により経済活動の正常化が進み、個人消費やインバウンド需要の回復の動きが見られるなど、全体としては緩やかな回復基調で推移しました。

一方、米国経済は個人消費の回復や雇用環境の改善を背景に堅調に推移しているものの、中国経済は不動産市場や個人消費の低迷により成長鈍化の動きが見られる中、ウクライナ情勢の長期化や米中関係及び中東における地政学的リスクの高まり、インフレ抑制のための世界的な金融引き締めや急激な為替相場の変動等、国内外の景気の下振れが懸念されております。

 

当社グループを取り巻く環境としては、亜鉛及びロジウムの相場は下落基調で推移し、前連結会計年度に比べ平均価格は下落しました。また、為替相場は前連結会計年度に比べ円安が進行しました。

機能材料部門では、半導体市場におけるサプライチェーンの在庫調整が一巡したことから、銅箔及び電子材料用金属粉の販売量は増加しました。モビリティ部門では、半導体不足の緩和により自動車市場が回復していることから、排ガス浄化触媒や自動車用サイドドアラッチの販売量は増加しました。

 

当社グループは、パーパスを基軸とした全社ビジョン(2030年のありたい姿)である「マテリアルの知恵で“未来”に貢献する、事業創発カンパニー。」を実現するため、2022年度を初年度とする3ヵ年の中期経営計画「22中計」に取り組んでおります。

「22中計」の2年目となる2023年度も全社ビジョン実現に向けた戦略を実行するとともに、引き続き各部門において「経済的価値の向上」と「社会的価値の向上」を両立した統合思考経営を実践することで、持続的な企業価値向上の仕組みを構築し、成長し続けるための重点施策に取り組んでおります。

機能材料部門では、事業機会拡大による成長加速とその仕組みづくりの一環として、先端材料分野でのシナジー創出を目的とし、当社の連結子会社でありレアアースの総合メーカーである日本イットリウム株式会社を完全子会社としました。

また、スマートフォン並びにデータセンター及び車載向けメモリー基板用途等の採用拡大により、需要の伸長が見込まれる半導体パッケージ基板用キャリア付極薄銅箔の生産体制を増強しております。

金属部門では、リサイクルネットワークの確立に向け、有価金属の回収やリサイクル原料の処理の強化に取り組んでおります。

モビリティ部門では、ICTを活用した生産性向上、開発力の強化及び新規製品拡販に取り組むと同時に各事業のシナジー効果創出・最大化に向けて取り組んでおります。

事業創造本部では、次世代の蓄電池として期待されている全固体電池向け固体電解質の量産試験用設備の生産能力を増強しました。

 

この結果、売上高は前連結会計年度に比べ、52億円(0.8%)減少6,466億円となりました。

営業利益は前連結会計年度に比べ、機能材料部門やモビリティ部門の主要製品の販売量の増加、円安の進行や非鉄金属相場の変動に伴う在庫要因の好転に加え、退職給付債務の算定に用いる割引率を変更した影響等により退職給付費用が減少したこと等から、191億円(153.0%)増加316億円となりました。

経常利益は前連結会計年度に比べ、営業利益が191億円増加したこと、及び持分法による投資利益が24億円減少したものの、受取配当金が61億円増加したこと等により、246億円(123.8%)増加445億円となりました。

特別損益においては、投資有価証券売却益12億円、貸倒引当金繰入額25億円、固定資産除却損22億円等を計上しました。加えて、税金費用及び非支配株主に帰属する当期純利益を計上した結果、親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度に比べ、174億円(205.3%)増加259億円となりました。

 

 

当連結会計年度のセグメント別の概況

機能材料セグメント

 

 

 

(金額:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率(%)

売上高

1,125

1,240

115

10.3

経常利益(セグメント利益)

107

164

57

53.4

 

 

〔銅箔〕

キャリア付極薄銅箔は、在庫調整が一巡したことにより、半導体パッケージ基板向けの需要が回復したことから販売量は増加しました。プリント配線板用電解銅箔は、AIサーバー用途を中心とした通信インフラ向け多層基板の需要が堅調であったことから販売量は増加しました。この結果、売上高は前連結会計年度に比べて増加しました。

 

〔機能粉〕

高純度酸化タンタルは、スマートフォン向けの需要が低調であったことから販売量は減少しました。一方で、電子材料用金属粉は、在庫調整が一巡したことにより、積層セラミックコンデンサ向けの需要が回復し、中国向けの需要が堅調であったことから販売量は増加しました。この結果、売上高は前連結会計年度に比べて増加しました。

 

〔電池材料〕

リチウムイオン電池用のマンガン酸リチウムは、海外向けの需要が低調であったことから販売量は減少したものの、水素吸蔵合金は、半導体等の部材不足の緩和に伴い自動車メーカーの生産が回復したことから販売量は増加しました。この結果、売上高は前連結会計年度に比べて増加しました。

 

〔スパッタリングターゲット〕

主力のディスプレイ用スパッタリングターゲットは、フラットパネルディスプレイ市場の低迷により、パネルメーカーの稼働率が低調であったことから販売量は減少しました。この結果、売上高は前連結会計年度に比べて減少しました。

 

以上の結果、当部門の売上高は前連結会計年度に比べ、銅箔の販売量が増加したこと等から、115億円(10.3%)増加1,240億円となりました。

経常利益は前連結会計年度に比べ、銅箔の販売量が増加したことや円安が進行したことに加え、インジウム価格の変動に伴う在庫要因が好転したこと等により、57億円(53.4%)増加164億円となりました。

 

金属セグメント

 

 

 

(金額:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率(%)

売上高

2,564

2,468

△95

△3.7

経常利益(セグメント利益)

90

160

69

76.9

 

 

〔亜鉛〕

国内の亜鉛メッキ鋼板向け需要は、自動車メーカーの生産が回復したものの、国内需要全体としては伸び悩んだことから販売量は減少しました。加えて、亜鉛のLME(ロンドン金属取引所)価格は下落基調で推移し国内平均価格は下落したことから、売上高は前連結会計年度に比べて減少しました。

 

 

〔鉛〕

国内の鉛蓄電池向け需要は、自動車メーカーの生産が回復したことから販売量は増加しました。加えて、鉛のLME(ロンドン金属取引所)価格は前連結会計年度並みで推移したものの、国内平均価格は円安の影響により上昇したことから、売上高は前連結会計年度に比べて増加しました。

 

〔金・銀〕

金・銀ともに国内価格は上昇したことから、売上高は前連結会計年度に比べて増加しました。

 

以上の結果、当部門の売上高は前連結会計年度に比べ、円安が進行したものの、亜鉛のLME(ロンドン金属取引所)平均価格が下落したこと等から、95億円(3.7%)減少2,468億円となりました。

経常利益は前連結会計年度に比べ、エネルギーコストの上昇や持分法による投資利益の減少等による減益要因があったものの、円安の進行や非鉄金属相場の変動に伴う在庫要因の好転に加え、日韓共同製錬株式会社からの受取配当金が増加したこと等により、69億円(76.9%)増加160億円となりました。

 

モビリティセグメント

 

 

 

(金額:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率(%)

売上高

2,164

2,183

18

0.9

経常利益(セグメント利益)

32

112

80

252.6

 

 

〔排ガス浄化触媒〕

二輪車向け排ガス浄化触媒は、インド向け需要が堅調であったことから販売量は増加しました。四輪車向け排ガス浄化触媒は、自動車メーカーの生産が回復したことに加え、新規受注車種の量産が本格化したことから販売量は増加しました。一方、主要原料であるロジウム等の価格が下落したことから、売上高は前連結会計年度に比べて減少しました。

 

〔自動車用ドアロック〕

主要製品であるサイドドアラッチは、自動車メーカー各社の生産回復により国内の販売量は増加となりました。中国では日系自動車メーカーが減産したことから販売量が減少したものの、欧米における需要が堅調であったことから海外の販売量も増加しました。この結果、売上高は前連結会計年度に比べて増加しました。

 

以上の結果、当部門の売上高は前連結会計年度に比べ、主要製品の販売量が増加したことから、18億円(0.9%)増加2,183億円となりました。

経常利益は前連結会計年度に比べ、主要製品の販売量が増加したことに加え、為替差損益が好転したこと等により、80億円(252.6%)増加112億円となりました。

 

その他の事業セグメント

 

 

 

(金額:億円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率(%)

売上高

1,281

1,133

△147

△11.5

経常利益(セグメント利益)

7

31

24

331.0

 

 

〔各種産業プラントエンジニアリング〕

国内の金属加工関連分野及び海底送水管分野で大型工事案件を受注したことから、売上高は前連結会計年度に比べて増加しました。

 

 

一方、国内の子会社による非鉄金属製品の輸出額が減少したこと等から、当部門の売上高は前連結会計年度に比べ、147億円(11.5%)減少1,133億円となりました。

経常利益は前連結会計年度に比べ、各種産業プラントエンジニアリングの受注が堅調であったことに加え、エネルギーコスト等の上昇を販売価格に転嫁したこと等により、24億円(331.0%)増加31億円となりました。

 

主要な品目等の生産実績の当連結会計年度の推移は、次のとおりであります。

セグメント

品目

単位

第1

第2

第3

第4

累計

四半期

四半期

四半期

四半期

機能材料

銅箔

生産量

千t

3

4

4

4

17

金属

亜鉛

生産量

千t

44

59

54

58

216

生産量

千t

15

17

19

18

70

モビリティ

自動車部品

生産金額

億円

199

213

219

202

835

 

 * 亜鉛:共同製錬については当社シェア分

 

(2) 財政状態の状況

資産合計は、前連結会計年度末に比べ87億円増加6,406億円となりました。

負債合計は、前連結会計年度末に比べ158億円減少3,546億円となりました。

純資産合計は、前連結会計年度末に比べ246億円増加2,860億円となりました。

 

以上の結果、自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ3.4ポイント上昇の43.5%となりました。

なお、財政状態の詳細については、「(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)(3) 財政状態及びキャッシュ・フローの分析 ①財政状態の状況」に記載しております。

  

(3) キャッシュ・フローの状況

営業活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ323億円収入増加の753億円の収入となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ32億円支出増加の349億円の支出となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ218億円支出増加の365億円の支出となりました。

 

以上の結果、為替換算差額等を含めた現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べ56億円増加324億円となりました。

なお、キャッシュ・フローの詳細については、「(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)(3) 財政状態及びキャッシュ・フローの分析 ②キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 

 

(生産、受注及び販売の状況)

(1) 生産実績及び受注状況

当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、また連結会社間の取引が複雑で、セグメントごとの生産実績及び受注状況を正確に把握することは困難なため、主要な品目等についてのみ「(経営成績等の状況の概要)(1) 経営成績の状況」において、各セグメントに関連付けて記載しております。

 

(2) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

機能材料

124,086

10.3

金属

246,803

△3.7

モビリティ

218,352

0.9

その他の事業

113,385

△11.5

調整額

△55,929

合計

646,697

△0.8

 

   (注) セグメント間の取引については、各セグメントに含めて表示しております。

 

(経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容)

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1) 重要な会計方針及び見積り

当社の連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成しております。その作成にあたっての重要な会計方針・見積りは、連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項に記載のとおりであります。

 

(2) 経営成績の分析

① 売上高

当連結会計年度における売上高は、前連結会計年度に比べて52億円(0.8%)減少6,466億円となりました。なお、各セグメント及び主要製品別の分析については、「(経営成績等の状況の概要)(1)経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

② 営業利益

機能材料セグメントの営業利益は、銅箔の販売量が増加したことや円安が進行したことに加え、インジウム価格の変動に伴う在庫要因が好転したこと等により前連結会計年度に比べて55億円(55.8%)増加154億円となりました。

金属セグメントの営業利益は、エネルギーコストの上昇等による減益要因があったものの、円安の進行や非鉄金属相場の変動に伴う在庫要因の好転等により、前連結会計年度に比べて22億円(53.4%)増加63億円となりました。

モビリティセグメントの営業利益は、主要製品の販売量が増加したこと等により、前連結会計年度に比べて67億円(199.4%)増加102億円となりました。

その他の事業セグメントの営業損益は、各種産業プラントエンジニアリングの受注が堅調であったことに加え、エネルギーコスト等の上昇を販売価格に転嫁したこと等により、前連結会計年度に比べて24億円増加14億円の利益となりました。

この結果、セグメントの調整額を加味した営業利益は、前連結会計年度に比べて191億円(153.0%)増加316億円となりました。

 

 

③ 経常利益

営業利益が191億円増加したこと、及び持分法による投資利益が24億円減少したものの、受取配当金が61億円増加したこと等により、前連結会計年度に比べて246億円(123.8%)増加445億円となりました。

なお、各セグメント別の分析については、「(経営成績等の状況の概要)(1) 経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

(3) 財政状態及びキャッシュ・フローの分析

① 財政状態の状況

資産合計は、棚卸資産110億円等の減少があったものの、受取手形、売掛金及び契約資産69億円、現金及び預金56億円、投資有価証券45億円等の増加により、前連結会計年度末に比べ87億円増加6,406億円となりました。

負債合計は、繰延税金負債49億円、未払法人税等22億円等の増加があったものの、長・短借入金及びコマーシャル・ペーパー残高185億円、支払手形及び買掛金58億円等の減少があったことから、前連結会計年度末に比べ158億円減少3,546億円となりました。

純資産合計は、親会社株主に帰属する当期純利益259億円、為替換算調整勘定92億円、その他有価証券評価差額金28億円等の増加に加え、剰余金の配当120億円等の減少があり、前連結会計年度末に比べ246億円増加2,860億円となりました。この結果、自己資本比率は、前連結会計年度末に比べ3.4ポイント上昇の43.5%となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益385億円、減価償却費343億円、棚卸資産の減少159億円等の収入に対し、仕入債務の減少112億円、法人税等の支払額98億円等の支出を差し引いた結果、前連結会計年度に比べ323億円収入増加753億円の収入となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出290億円等により、前連結会計年度に比べ32億円支出増加の349億円の支出となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、長・短借入金及びコマーシャル・ペーパーの減少206億円及び配当金の支払額120億円等から、前連結会計年度に比べ218億円支出増加の365億円の支出となりました。

以上の結果、為替換算差額等を含めた現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べ56億円増加の324億円となりました。

 

③ 財政状態及びキャッシュ・フロー指標のトレンド

回次

第95期

第96期

第97期

第98期

第99期

決算年月

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

自己資本比率(%)

30.7

33.4

37.6

40.1

43.5

時価ベースの自己資本比率(%)

19.2

36.9

30.0

29.1

42.0

キャッシュ・フロー対有利子負債

比率(年)

6.5

9.0

3.7

5.1

2.7

インタレスト・カバレッジ・レシオ

20.5

16.3

32.5

21.8

29.9

 

(注)自己資本比率           :(純資産-非支配株主持分)/総資産

時価ベースの自己資本比率     :株式時価総額/総資産

キャッシュ・フロー対有利子負債比率:有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ :営業キャッシュ・フロー/支払利息

※各指標は、いずれも連結ベースの財務数値により算出しております。

株式時価総額は、期末株価終値×期末発行済株式数(自己株式控除後)により算出しております。

営業キャッシュ・フローは連結キャッシュ・フロー計算書の営業活動によるキャッシュ・フローを使用しております。

有利子負債は、連結貸借対照表に計上されている長・短期借入金、社債及びコマーシャル・ペーパーを対象としております。

支払利息は、連結キャッシュ・フロー計算書の利息の支払額を使用しております。

 

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

当社は、安定した経営を行う上で急激な市況変動や為替・非鉄金属相場の変動等に備えるため、一定の手元流動性を確保しております。一方、事業創造、機能材料を中心とした積極的な投資に加え、経済的価値とともに社会的価値の向上を目指す投資を計画しており、これらの投資等のための所要資金は、主に自己資金を充当することとしておりますが、金融情勢や金利水準などを考慮しながら、資金需要に応じた調達に努めております。

手元流動性確保の手段としましては、短期社債(電子コマーシャル・ペーパー)発行枠500億円を設定しているほか、250億円を限度とした長期コミットメントライン契約を取引金融機関とシンジケーション形式により締結しております。

なお、キャッシュ・マネジメント・システム等によりグループ全体の資金効率の向上に努めております。

 

(5) 経営成績に重要な影響を与える要因について

「3.事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

銅製錬事業に関する包括的業務提携について

当社とJX金属株式会社は、銅製錬事業において、両社の共同出資によるパンパシフィック・カッパー株式会社を通じた包括的な業務提携を行っております。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループは、永年育成し蓄積してきた資源開発、非鉄金属製錬・加工技術を基礎として、グループ企業の「利益の最大化」に貢献することを基本理念に、新技術の創出や新製品の開発を積極的に行っております。

研究開発体制は、新規商品の開発及び事業化については、事業創造本部及び各事業本部内の開発部等で行い、基礎評価研究所においては、分析技術の向上に努め、各事業の研究開発を支援する体制としております。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は、13,354百万円であり、このほか海外鉱山開発に向けた探鉱活動に取り組んでおり、507百万円の探鉱費を支出いたしました。

また、セグメント別の研究目的、主要課題、研究成果及び研究開発費は次のとおりであります。

 

(1) 機能材料部門

当部門においては、銅箔事業部は、グローバルでのマーケティング体制やデジタルマーケティングの導入により、半導体パッケージ基板用などの回路材料分野のみならず、環境分野等を含め、幅広い分野でテーマを探索しております。また、開発試験用処理機の導入が完了し、機能箔の開発を加速してまいります。機能性粉体事業部は、新機能性材料としてタンタルなどレアメタルの新溶液材料シリーズ「iconos™(イコノス)」を独自の溶解技術により開発し、省エネ・プロセス短縮による環境負荷低減に貢献してまいります。

この結果、当部門に係る研究開発費は2,149百万円であります。

 

(2) 金属部門

当部門においては、持続可能な社会の実現に向けたソリューションとして、循環型社会の形成により高まっているリサイクル・ニーズに応えるべく、多様な元素回収を可能とする亜鉛・鉛・銅・貴金属製錬プロセスを用いた当社独自の製錬ネットワークを活かしながら、難処理鉱石及びリサイクル原料からの有価金属回収や、産業廃棄物処理、また脱炭素社会の実現に向けたCO2排出量削減に関する技術開発を行っております。

また、南米ペルーを中心に探鉱を実施しており、加えて鉱山開発に係る鉱物、地質に関する研究を行っております。

この結果、当部門に係る研究開発費は探鉱費を含めて660百万円であります。

 

(3) モビリティ部門

当部門においては、次期排気ガス規制や省貴金属ニーズに対応した自動車用触媒の開発や触媒技術を活かした将来の環境貢献製品の開発、「CASE」に呼応した次世代ドアラッチやパワースライドドア、パワーテールゲート等システム製品の開発を行っております。

この結果、当部門に係る研究開発費は3,490百万円であります。

 

(4) その他の事業部門

当部門においては、銅電解工場装置向けの新規技術の開発、新しいポリエチレン材料や継手の評価及び導入、パイプ及び継手等の新製品の開発、素材製品の品質向上等の研究を行っております。

この結果、当部門に係る研究開発費は55百万円であります。

 

(5) 共通部門

当部門においては、「触媒」、「電気化学」、「粉体制御」、「材料複合化」等の当社のコアとなる技術を活用しながら、環境・エネルギー、次世代エレクトロニクス、ライフサイエンス分野にソリューションを提供し、持続可能な社会への貢献と新たな事業価値の創出を推進しております。具体的には、全固体電池向け固体電解質及び電極材料、次世代半導体チップ実装用キャリア、パワー半導体接合用材料、次世代ディスプレイ用蛍光体、燃料電池用電極材料、カーボンニュートラルに資する二酸化炭素吸着分離材料や脱炭素燃料合成用触媒等の次世代材料開発や製品ライフサイクルを意識したリサイクル技術開発に取り組んでおります。

この結果、当部門に係る研究開発費は7,505百万円であります。