第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、「会社の永遠の発展を追求し、地球環境との調和を図りながら適正な利益を確保することにより、株主、ユーザー、従業員と共に繁栄する企業を目指して持続可能な社会づくりに貢献する。」を経営の理念としております。これを実現するために、当社独自の技術と心のこもったサービスでユーザーの期待に応え、誠意・創造性・迅速な対応・自然との調和をモットーに、信頼される企業を築き上げるべく全社をあげて事業の発展に取り組んでまいります。

 

(2) 中長期的な会社の経営戦略と対処すべき課題

当社グループは、2022年度より、新中期経営計画をスタートさせております。本計画では、「Dominate 1000 ~持続的成長と競争力育成~」をキーワードとして、2024年度連結売上高1,000億円達成を目指して活動していましたが、企業を取り巻く経営環境の変化や業績動向を踏まえ、最終年度を2年間延長して計画を見直しました。

当初計画した重点戦略に加えて新たな戦略・施策を実行し、企業価値向上を図ります。具体的には、精密化学品事業を中心とした事業の拡大、事業ポートフォリオの改革、ROIC経営の推進、IR活動の強化、政策保有株式の縮減などを進め、収益を回復させるとともに、資本コストを意識した経営を進めてまいります。

また、2030年に想定される社会を見据え、安定した経営基盤のもと、安全で働きがいを実感できる環境を提供し、独自性・優位性のある製品で世界最先端の技術を支え、サステナブルな社会に貢献する「創造的開発型企業」を目指してまいります。

 

① 重点戦略および見直しにおける新たな戦略・施策
ア 事業戦略および精密化学品事業の拡大推進

a.成長戦略

半導体用特殊ガス類は、市場の成長性や技術進化に伴う新規ガスの需要を機会と捉え、持続可能な社会に貢献する独自の製品群の開発・投資によって成長していきます。更に、各国で半導体への投資が活発なことから、製造拠点の複数化により安定供給体制を構築していきます。また、顧客に密着した開発を進めていきます。

電池材料は、当社の強みである品質と豊富なノウハウ、技術力を活かし、中長期的な市場の成長を確実に取り込んでいきます。市場の急速な成長や経済安全保障上の理由により当社製品・技術への関心が高まっていることを機会と捉え、ライセンスビジネス拡大に取り組みます。また、原材料市況に左右されない事業構造の構築のための技術開発を急ぎます。

b.ポートフォリオ改革

鉄系事業は、縮小する市場に対してキャリヤー製品の製造を㈱関東電化ファインテックに移管し、経営資源の有効活用と収益力の向上を図ります。従来のキャリヤー製造拠点の経営資源は成長性の高い精密化学品事業に集中させます。

基礎化学品事業は、原料供給機能に重点を置いて事業規模を最適化し、経営資源は成長性の高い精密化学品事業に集中させます。

c.研究開発

研究開発部門は、当社のコア技術を生かした新規製品の早期創出をテーマとし、顧客密着型の研究開発を推進すると共に、研究開発部門と製造部門の連携を強化していきます。2023年11月に関東電化ファインプロダクツ韓国㈱内で研究開発業務を開始し、2026年度には渋川工場内に新研究開発棟設置を計画しています。

 

 

イ 資本効率向上

経営指標に新たに追加したROICを活用し、資本効率を意識した事業戦略を進め、持続的な成長をもたらす体制を目指します。また、資本効率向上のために現在保有している政策保有株式の約30%を2026年度までに段階的に縮減し、売却資金を事業活動に活用していきます。

ウ ガバナンス強化

役員報酬制度を改定して報酬と株価の連動性を高めるなど、企業価値向上につながる制度設計を目指します。

エ 人的資本戦略

経営戦略と連動した人材開発を行うため、2023年6月に人材開発室を新設しました。2024年度からは新たな人材育成プログラムの導入を予定しています。

また、ダイバーシティの推進と社員のwell-beingの追求は従前から掲げる目標を達成するべく活動していきます。

オ 組織戦略および生産技術力の底上げ

a.IRの強化

2023年6月に新設した広報・IR 室を中心に、株主や投資家に対して積極的に情報を発信していきます。また、2023年度より、統合報告書の発行を開始し、当社の取り組みを広く社会に伝える活動をしていきます。

b.DXの推進

デジタル技術を活用して生産性を向上させるために活動しており、今後専門部署の設置を検討しています。

c.品質保証能力の向上

d.法務・輸出貿易管理体制の強化

海外での事業拡大およびライセンスビジネスの拡大に伴い、管理体制をより一層強化するため、今後法務人材を育成・拡充していきます。

カ ESG戦略および社会的価値向上

a.サステナビリティに対する活動推進

b.エネルギー多消費型製品事業の縮小と脱炭素への取組強化

c.リサイクルの推進

 

② 財務戦略および資金配分に対する考え方

内部留保資金は、事業リスクを踏まえた適正な自己資本比率を維持してまいります。配当につきましては、連結配当性向30%以上とし、投融資とのバランスを考慮して適正な株主還元を行います。

 

③ PBR1倍割れ対策

当社の市場評価は、2022年5月以降PBRが1倍を下回る状態が継続しています。PBRを構成する要素のROEとPERのうち、PERが低いことが原因であり、PERを向上させることが喫緊の課題だと認識しています。この課題を解決するために、資本コストの引き下げや期待成長率の引き上げにつながる施策を実行していきます。

ア 精密化学品事業を中心とした事業の拡大

イ ROIC経営の推進

ウ 投資家との継続的な対話、情報発信の強化

エ 政策保有株式の縮減による資本コスト低減

オ 配当方針の改定

 

 

④ カーボンニュートラルに向けた取り組み

ア 2030年に向けたビジョン

 

精密化学品の拡大を一層進めることにより成長を加速するとともに、温室効果ガス排出の削減と脱炭素に向けた技術開発を進め、サステナブルな社会に貢献する「創造的開発型企業」へ成長する。

イ 主な取り組み方針

a.精密化学品事業の成長を果たしながら、CO2排出原単位を改善

b.再生可能エネルギーの投入

c.プロダクトミックスによるCO2排出削減

d.Scope3 削減に貢献する環境配慮型製品の開発推進

ウ CO2排出量削減目標(2030年度)

2013年度比50%削減を目標とする。(Scope1、Scope2対象)

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末において、当社グループが判断したものであります。

 

(1) サステナビリティ方針

当社グループは、2022年5月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言への賛同を表明し、TCFD提言に即したシナリオ分析とそれを受けた対応策について検討の上、気候変動への取り組みに関して情報開示を進めるとともに、経営の強靭化とサステナブルな国際社会の実現に貢献してまいります。

当社グループはこれまでも、環境配慮型製品の開発、温室効果ガス排出量削減等により地球環境の保全に努めており、第12次中期経営計画においても独自性・優位性ある製品で世界最先端の技術を支え、サステナブルな社会に貢献する「創造的開発型企業」を目指しております。

 

(2) ガバナンス

当社グループは、気候変動への対応を含むサステナビリティを経営方針の中核に掲げており、その推進のため、社長を委員長とするサステナビリティ推進委員会を設置しております。重要なテーマである気候変動問題については、サステナビリティ推進委員会の下に地球環境対策部会を設けており、温室効果ガス排出量削減をはじめとする気候変動への対応に関する内容を扱っております。気候変動に関連する情報はサステナビリティ推進委員会および地球環境対策部会に集約され、課題目標について審議・決定しております。議論された内容は定期的(年2回以上を目途)に取締役会に報告するとともに、取締役会において承認された内容は中期経営計画や年度計画に反映してまいります。また、気候変動への対応に関する計画の進捗状況はサステナビリティ推進委員会にてモニタリング・管理しており、進捗を継続的に監督してまいります。

 


 

 

(3) 戦略

当社グループでは、サステナビリティ推進委員会および地球環境対策部会が主体となって気候変動によるリスクや機会の特定、事業への影響度の評価を行っております。リスクや機会を評価するにあたっては、国際エネルギー機関(IEA)や気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が公表する複数のシナリオを用いてシナリオ分析を実施しております。今後、分析には以下の2つの将来世界観を想定し、2030年時点の影響を考察してまいります。

 


 

<2℃(1.5℃)シナリオ分析>

2℃(1.5℃)シナリオにおける分析では、脱炭素社会への移行のため様々な政策や規制が導入されることが想定されており、当社グループにおいては特に炭素税導入による財務的影響、および温暖化係数の高い製品(高GWP製品)の需要低下による当社製品売り上げの低下がリスクになり得ると捉えております。

一方で、気候変動に対する意識の高まりから、脱炭素社会実現の一端を担うEV(電気自動車)に不可欠なリチウムイオン電池の市場が拡大することが予想され、それに伴い当社が供給するリチウムイオン電池に必要不可欠な材料の需要も高まり、大きな機会となり得ると捉えております。今後、これらリスクおよび機会を定性・定量の両面で評価し、対応策を検討してまいります。

<4℃シナリオ分析>

4℃シナリオにおける分析では、異常気象の頻発化および激甚化が想定されており、当社グループにおいては国内拠点での洪水被害が最も大きなリスクであると捉えております。またそれに伴う拠点の営業停止による損害もリスクとして捉えております。今後、これらリスクを定性・定量の両面で評価し、対応策を検討してまいります。

 


 

 

また当社グループにおける、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針は、以下の通りです。

 

イ、基本方針

当社グループは、人こそが企業価値向上の源泉であると考え、人材の育成と社内環境の整備に取り組んでまいりました。また、2022年度を初年度とする中期経営計画においても、「人材育成充実」を重点戦略の一つに位置づけ、人材育成と社内環境整備に引き続き注力しております。

組織体制として、2023年6月に社員教育および研修の強化を図るため、それを専管する部署として人材開発室を設立し、2024年1月に、新入社員の育成状況やキャリアプランの確認および早期選抜人材、経営人材、スペシャリスト人材の選定や育成方法の議論を行うことを目的に人材育成委員会を設置しました。「採用」「教育」「社内環境整備」についての基本的考え方(取組状況を含む)は以下のとおりです。

 

ロ、採用の基本的考え方

変化の激しい経営環境にあって、今後の企業経営の鍵は多様な人材の確保とその育成・登用にあると当社は考えております。現在、当社は、「女性採用」「外国人・中途採用」「障がい者雇用」などに取り組んでおります。

a. 女性採用

従来は総合職の採用が男性に偏っていたため、現在の女性管理職の割合は極めて小さくなっておりますが、以下を目標として、積極的に女性総合職採用に取り組んでおります(2019年~2023年の総合職採用に占める女性比率24%)

・2030年までに幹部職における女性比率を現在(2%)の2倍にする

・総合職採用における女性比率30%以上を目指す

b. 外国人・中途採用

外国人については、従来から国籍にとらわれず採用・登用しております。中途採用も継続的に実施しております。(採用者に占める中途採用者実績 2023年/70%)

c. 障がい者雇用

工場においては、多目的トイレの設置等バリアフリー化を推進しております。

本社においては、業務サポート室を設置し、障がい者が働きやすい環境を整え、雇用促進につなげています。

なお、障がい者雇用率は2.29%(2024年6月1日)です。

 

ハ、教育の基本的考え方

当社が担う社会的使命と業務特性を自覚し、たゆまぬ研鑽を継続する社員を育成することを目的とし、自分のもてる能力を伸ばすことができるよう支援、育成しております。

なお、社員教育および研修の強化を図るため、それを専管する部署として人材開発室を設立しました(2023年6月)。また階層別研修については再構築を行い2024年度より新しいプログラムを開始しています。

a. 階層別社員研修

ステージ毎に必要な研修を実施しております。

入社前・入社時研修、入社時現場研修、入社半年後フォローアップ研修(マーケティング基礎研修等)、社会人3年目研修(キャリアデザイン研修等)、入社3年目研修(品質・安全研修)、社員5級昇格時(リーダーシップ研修(初級))、社員6級昇格時(リーダーシップ研修(中級))、社員7級昇格時(リーダーシップ研修(上級))、幹部職1級昇格時(新任幹部職研修)、幹部職研修(心理的安全性研修等)、ライン長研修(キャリア開発支援研修等)

b. 専門・選択型研修

語学研修、日商簿記や甲種危険物取扱者等の資格取得に向けた支援を行っています。

 

 

c. その他

海外・国内留学制度を設けております。また、工場等各事業所においては、安全、環境、品質等についての現場研修を実施しております。自己啓発支援制度を設け、社員のキャリア支援を行っています。

 

ニ、社内環境整備についての基本的考え方

安全で働きがいを実感できる職場環境を築くとともに、人権を尊重し、ハラスメント等のない職場環境の確保に取り組んでいます。各工場で毎月行われている安全衛生委員会を通じ、労働組合の協力のもと、安全で働きやすい職場環境づくりに取り組んでいます。

a. 安全への取り組み

当社では「安全第一主義」のもと、当社独自の安全行動基準を定め、無事故・無災害を目指し全員参加で安全活動に取り組んでいます。両工場に「危険体感設備」を設置し、危険状態を自ら体験し作業の中に潜む危険源を見抜く力を養います。

b. 健康への取り組み

当社では社員の心身の健康の確保が重要であると考え、禁煙日の設置、ハラスメントのない職場や職場環境の改善、定期健康診断の実施やストレスチェックにおける受診率の向上およびインフルエンザ予防接種の一部負担等を実施しています。また、定期健康診断の結果、再検査が必要な場合や所見がある場合は、費用の全額を会社負担として、二次検査の受診を推奨しています。

 

ホ、その他

a. 定年延長

当社においては、社員はエイジレスでモチベーション高く働き、会社はそれに対して処遇するという目的で、2022年度より、給与体系を維持しながら65歳定年延長を実施しております。その後においても、その経験等が必要な場合は、70歳まで再雇用する制度も設けております。

b. 給与改定

当社においては、物価が上昇する中、社員のモチベーションアップのため、2024年度はベースアップ(定昇込3.5%)を実施しております。

 

 

(4) リスク管理

当社グループでは、気候変動への対応にあたっては、サステナビリティ推進委員会および地球環境対策部会において、想定される気候変動リスクを明らかにしたうえで、シナリオ分析等の手法を用いてリスクや機会の評価をしてまいります。また、省エネルギー対策など気候変動対策にも関わってくるリスクやそのほかESG重要課題については、必要に応じて他の委員会と連携し、対応してまいります。労働環境やガバナンスについてはコンプライアンス・リスク管理委員会が、品質保証や廃棄物削減、省エネルギー対策についてはRC推進会議がそれぞれ担当しており、継続的に情報を収集し、リスク管理を行っております。審議内容については定期的に取締役会に報告するとともに、討議した対応策を事業活動に反映し、リスク管理を行ってまいります。


 

(5) 指標と目標

当社グループの気候変動リスクを管理する指標として、2013年度を基準年としたエネルギー由来の温室効果ガス排出削減量(当社エネルギー由来Scope1,2[CO2換算])を採用し、管理しております。但し、その大部分は当社に由来するものとなります。当社における温室効果ガス排出削減への取り組みは以下の通りです。

<従来からの取り組み>

当社では、当社は、国連環境開発会議において採択されたアジェンダ21「持続可能な開発のための人類の行動計画」に賛同し、化学物質の総合安全対策を実行し、改善を図る自主的活動「レスポンシブル・ケア」(RC活動)を推進しており、活動の中で温室効果ガス排出量(当社Scope1,2)の削減にも取り組んでまいりました。2009年より製造プラントから排出される温室効果ガスの除害設備を導入し、非エネルギー由来の温室効果ガス排出削減に取り組み大きな成果を上げ、2023年度には2013年度比で99.5%削減(当社非エネルギー由来Scope1)しました。

<カーボンニュートラルに向けた新たな取り組み>

2022年度より実施している第12次中期経営計画「Dominate 1000」の重点戦略の一つに社会的価値の向上を掲げ、サステナビリティに対する活動推進、エネルギー多消費型製品の縮小と脱炭素への取り組み強化およびリサイクルの推進に取り組んでおります。

そしてサステナブルな社会づくりに貢献するため、エネルギー由来の2030年の温室効果ガス排出量(エネルギー由来Scope1,2)を2013年基準で50%削減する長期目標を新たに設定し(2023年度、設定目標を30%から50%へ上方修正)、気候変動に対して積極的に取組んでおります。2023年度においては、生産効率の改善、環境価値の調達等の削減施策の他、電気事業者排出係数(使用電力の温室効果ガス排出係数)の低減、生産量の一時的な低減も影響し、エネルギー由来の温室効果ガスの排出量は一時的に大きく低減し2013年度比で27.1%削減となりました。その結果、温室効果ガス排出量全体で88.6%削減を達成しています。

2050年カーボンニュートラルの実現を目指し、今後も温室効果ガス排出量の削減を加速してまいります。

 

 


 

<2030年に向けた取り組み>

「精密化学品の拡大を一層進めることにより成長を加速するとともに、温室効果ガス排出量の削減と脱炭素に向けた技術開発を進め、サステナブルな社会に貢献する創造的開発型企業」というビジョンを掲げ、主な取り組み方針としては下記施策を実施してまいります。

① 精密化学品事業の成長を果たしながら、CO2排出原単位を改善

② 再生可能エネルギーの導入

③ プロダクトミックス(+生産性向上ポートフォリオ改革)

④ 環境配慮型製品の開発推進

 

また、当社グループでは、上記「(3)戦略」において記載した、人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針および社内環境整備に関する方針について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標および実績は、次の通りであります。

指標

目標

実績(当連結会計年度)

男性の育児休業取得

毎年1以上

9

女性の育児休業取得

90以上

-(該当者なし)

有給休暇取得率

80以上

88

 

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの経営成績および財務状況等に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。

なお、ここに記載した事項は、有価証券報告書提出日現在において、当社グループがリスクとして判断したものですが、当社グループに係る全てのリスクを網羅したものではありません。

 

(1) 事業環境の変化

当社グループの主力製品は半導体・液晶用フッ素系製品であります。半導体・液晶業界は循環的な市況変動が大きい業界であり、需給環境に大きな変化があった場合、業績に影響を与える可能性があります。また、当社グループ製品の川下における技術革新により、関係する製品に対する需要そのものがなくなる可能性があります。

(2) 競争の激化

当社グループは、韓国・中国等のメーカーとの激しい競争を繰り広げております。競争力の維持・強化に向けた様々な取り組みを進めておりますが、当社製品の技術・品質面での優位性がなくなり、競合メーカーとの価格競争となった場合には、販売シェアのダウンまたは販売価格低下により、業績に影響を与える可能性があります。

(3) 海外事業活動

当社グループは、東アジアを中心に海外事業活動を強化しておりますが、予期しない法令または規制の変更、政治および社会情勢の変化、テロ、感染症等のリスクがあり、これらのリスクが発生した場合、業績に影響を与える可能性があります。

(4) 原燃料価格の変動および調達状況

当社グループは、電力が最大の原材料であります。また、当社グループは、原材料として、リチウム化合物、無水フッ酸、タングステン、工業塩、エチレン等を購入しております。製造にあたっては、効率的な資材購入と製品価格への転嫁を図っておりますが、電力をはじめ原燃料の価格変動や調達状況が、業績に影響を与える可能性があります。

(5) 新規製品の開発の遅れ

当社グループは、収益の柱となるような新規製品の開発に経営資源を投入しておりますが、開発が計画どおりに進捗しない場合や、開発した製品が市場投入時に市場ニーズにマッチしない場合には、業績に影響を与える可能性があります。

(6) 事故災害

当社グループは、安全には万全を期しておりますが、万一、当社工場にて大規模事故災害が発生した場合には、社会的信用の失墜、補償などの費用の発生、生産活動停止に伴う機会損失等により、業績に影響を与える可能性があります。

(7) 製造・品質トラブル

当社グループは、安定運転、品質の維持に努めておりますが、製造トラブルや品質トラブルが発生し、その回復に時間がかかる場合には、業績に影響を与える可能性があります。また、生産物賠償責任保険には加入しておりますが、この保険が最終的に負担する全ての費用を十分にカバーできない可能性があります。

(8) 情報セキュリティ

当社グループでは、情報セキュリティ基本方針、情報セキュリティガイドライン、社内情報管理規程等を制定し、各種セキュリティ対策を実施するほか、社員教育を継続的に実施するなど、ハード、ソフト双方から情報管理の徹底に努めておりますが、外部攻撃、不正アクセス、コンピューターウィルスの感染等により、システム障害、機密情報・個人情報の漏洩が発生した場合、当社グループへの信用および業績に影響を与える可能性があります。

 

(9) 気候変動

当社グループでは、気候変動による事業活動への影響を「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言に基づいて分析を行いました。

4℃シナリオにおける分析においては、異常気象の頻発化および激甚化により、国内拠点での洪水被害、およびそれに伴う営業停止による損害発生の可能性があります。

2℃(1.5℃)シナリオにおける分析においては、脱炭素社会への移行のための政策の一つとして炭素税をはじめとするカーボンプライシングが導入されることによりコストが上昇する可能性、ならびに特殊ガス製品のうち温暖化係数の高い製品の需要低下により業績に影響を与える可能性があります。

(10) 自然災害

当社グループは、地震等の自然災害や感染症の流行に対しては各種訓練や防災対策、事業継続対策は行っておりますが、災害等により製造拠点等が影響を受けた場合には、業績に影響を与える可能性があります。

(11) 既知および未知の感染症の感染拡大

新型コロナウイルスについては国民の生命および健康に重大な影響を与えるおそれがある状態を脱したと言えるものの、今後も既知および未知の感染症が世界的に流行する可能性があります。

感染拡大した場合に、当社グループでは、従業員の感染、物流網の停滞、原材料調達の遅延、生産活動の停止により業績に影響を与える可能性があります。また、顧客の事業活動の停止や生産計画の見直しにより当社製品の需要が減少した場合、売上高が減少し、当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

(12) 固定資産の減損

当社グループは、製造設備など多数の固定資産を有しておりますが、今後、各製品において事業収益性が大幅に悪化した場合や、保有資産の時価が著しく低下した場合等は、減損損失の計上が必要となり、業績に影響を与える可能性があります。

(13) 環境規制

当社グループは、化学物質を取り扱う企業として環境対策に万全を期しておりますが、万一、有害物質が社外に流出した場合には、社会的信用の失墜、補償などの費用の発生、生産活動停止に伴う機会損失等により、業績に影響を与える可能性があります。また、当社グループは、土壌・地下水汚染、大気汚染、水質汚濁、廃棄物処理等各種の環境規制に服しています。これらの規制の動向等により、過去、現在および将来の当社グループの事業活動に関し、法的または社会的責任の観点から対応を行う場合は、業績に影響を与える可能性があります。

(14) 資金調達

当社グループは、金融機関から資金を調達しております。種々の借入条件を組み合わせることで、急激な金利変動に備えておりますが、金利が大幅に上昇した場合は金利負担が増加し、業績に影響を与える可能性があります。

(15) 法令・規制

当社グループは、事業活動を行うにあたって、各種の法令・規制に服しております。グループをあげてコンプライアンスの遵守に注力しておりますが、重大な法令違反があった場合には、業績に影響を与える可能性があります。

(16) 知的財産の保護

当社グループは、事業の優位性確保のため、新規開発技術の特許保護を重視する戦略をとっておりますが、開発した技術やノウハウの外部への流失や、知的財産権についての係争により、業績に影響を与える可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

① 業績

当連結会計年度におけるわが国経済は、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果により緩やかな回復基調にあったものの、依然として厳しい状況にありました。海外においても、世界的な金融引き締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念などによる景気の下振れリスク、物価上昇、中東地域をめぐる情勢、金融資本市場の変動等に留意する必要があり、先行き不透明な状況が続きました。

化学工業におきましても、原燃料価格や物流費の上昇に加え、半導体・電子材料業界の生産調整の影響等もあり、引き続き厳しい事業環境にありました。

このような情勢下におきまして、当社グループは積極的な営業活動を推進してまいりましたが、主に精密化学品事業部門における需要の大幅な減退により、経営成績は大きく影響を受けた結果となりました。

当期の売上高は、647億68百万円と前期に比べ139億6百万円17.7%の減少となりました。経常損益につきましては、売上高の減少に加え、主に電池材料における売上原価の高止まりと棚卸資産評価損の計上により、経常損失13億4百万円となりました(前期は経常利益136億79百万円)。最終損益につきましては、電池材料の収益性の低下から投資額の回収が一部見込めないため、減損損失を特別損失に計上したことも加わり、親会社株主に帰属する当期純損失は、46億10百万円となりました(前期は親会社株主に帰属する当期純利益93億82百万円)。

 

なお、セグメント別の概況は、次のとおりであります。

 

ア.基礎化学品事業部門

(無機製品)

か性ソーダおよび塩酸は、販売数量は減少したものの価格修正効果により、前期に比べ増収となりました。

(有機製品)

トリクロールエチレンは、販売数量の減少により、前期に比べ減収となりました。パークロールエチレンは、販売数量の減少と販売価格の低下により、前期に比べ減収となりました。

以上の結果、基礎化学品事業部門の売上高は、88億36百万円となり、前期に比べ5億72百万円、6.1%の減少となりました。営業損益につきましては、営業損失1億39百万円となりました(前期は営業利益3億25百万円)。

 

イ.精密化学品事業部門

(特殊ガス製品)

三フッ化窒素、六フッ化タングステンおよびヘキサフルオロ-1,3-ブタジエンは、販売数量の減少により、前期に比べ減収となりました。

(電池材料製品)

六フッ化リン酸リチウムは、販売数量の減少と販売価格の低下により、前期に比べ減収となりました。

以上の結果、精密化学品事業部門の売上高は、512億53百万円となり、前期に比べ126億89百万円、19.8%の減少となりました。営業損益につきましては、売上高の減少に加え、主に電池材料における売上原価の高止まりと棚卸資産評価損の計上により、営業損失28億24百万円となりました(前期は営業利益114億50百万円)。

 

ウ.鉄系事業部門

複写機・プリンターの現像剤用であるキャリヤーは、販売数量の減少により、前期に比べ減収となりました。鉄酸化物は、着色剤の販売減少により、前期に比べ減収となりました。

以上の結果、鉄系事業部門の売上高は、18億13百万円となり、前期に比べ8億53百万円、32.0%の減少となりました。営業損益につきましては、営業利益1億72百万円となり、前期に比べ5億13百万円、74.9%の減少となりました。

 

 

エ.商事事業部門

商事事業につきましては、化学工業薬品の販売減少により、前期に比べ減収となりました。

以上の結果、商事事業部門の売上高は、6億98百万円となり、前期に比べ48百万円、6.4%の減少となりました。営業損益につきましては、営業利益1億90百万円となり、前期に比べ8百万円、4.2%の減少となりました。

 

オ.設備事業部門

化学設備プラントおよび一般産業用プラント建設の売上高は、請負工事の増加により前期に比べ増収となりました。

以上の結果、設備事業部門の売上高は、21億65百万円となり、前期に比べ2億57百万円、13.5%の増加となりました。営業損益につきましては、営業利益6億68百万円となり、前期に比べ66百万円、11.0%の増加となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は、前連結会計年度末(以下「前期末」という)に比べ32億37百万円増加し252億25百万円となりました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動により獲得した資金は、112億8百万円となりました(前年同期は72億91百万円の資金の獲得)。これは主に、税金等調整前当期純損失が53億17百万円となったことにより減少した一方で、減価償却費が84億96百万円、棚卸資産の減少額が67億円、売上債権の減少額が56億90百万円となったことにより増加したものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動により使用した資金は、105億54百万円となりました(前年同期は166億27百万円の資金を使用)。これは主に、有形固定資産の取得によるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動により獲得した資金は、17億80百万円となりました(前年同期は44億24百万円の資金の獲得)。これは主に、長期借入れによる収入が101億70百万円となった一方で、長期借入金の返済による支出が69億20百万円となったことによるものであります。なお、長期借入れによる収入につきましては、主に精密化学品事業の成長投資および維持投資に使用予定であります。

 

③ 生産、受注及び販売の状況

ア.生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

基礎化学品事業

8,000

△3.8

精密化学品事業

42,500

△29.1

鉄系事業

1,904

△29.4

設備事業

5,053

6.5

合計

57,458

△24.1

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しております。

2.金額は、基本的に販売価格によっておりますが、設備事業の金額は、当連結会計年度の製造費用によっております。

 

 

イ.受注状況

当連結会計年度の設備事業の受注状況を示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

設備事業

1,785

△18.2

1,099

△24.7

合計

1,785

△18.2

1,099

△24.7

 

(注) セグメント間取引については、相殺消去しております。

 

ウ.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

基礎化学品事業

8,836

△6.1

精密化学品事業

51,253

△19.8

鉄系事業

1,813

△32.0

商事事業

698

△6.4

設備事業

2,165

13.5

合計

64,768

△17.7

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しております。

2.最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

三菱ケミカル株式会社

14,072

17.9

Samsung Electronics Co., Ltd.

14,035

17.8

13,354

20.6

キオクシア株式会社

7,888

10.0

6,494

10.0

 

(注) 当連結会計年度の三菱ケミカル株式会社に対する販売実績は、当該販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10未満のため記載を省略しております。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

文中における将来に関する記述は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

① 重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは

「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

 

 

② 財政状態の分析

当連結会計年度末の総資産は1,253億2百万円となり、前期末に比べ54億60百万円減少しました。

(流動資産)

流動資産は632億68百万円で、前期末に比べ96億51百万円減少しました。その主な要因は、現金及び預金が30億54百万円増加した一方で、棚卸資産が64億93百万円、受取手形、売掛金及び契約資産が57億24百万円減少したためであります。

(固定資産)

固定資産は620億34百万円で、前期末に比べ41億91百万円増加しました。その主な要因は、投資有価証券が18億24百万円、有形固定資産が16億38百万円増加したためであります。なお、有形固定資産の増加につきましては、主に精密化学品事業の成長投資および維持投資によるものであります。

(流動負債)

流動負債は308億91百万円で、前期末に比べ27億88百万円減少しました。その主な要因は、1年内返済予定の長期借入金が21億07百万円増加した一方で、未払法人税等が24億29百万円、支払手形及び買掛金が23億32百万円減少したためであります。

(固定負債)

固定負債は288億32百万円で、前期末に比べ5億24百万円増加しました。その主な要因は、長期借入金が12億80百万円増加したためであります。有利子負債の残高は416億82百万円となり、前期末に比べ38億88百万円の増加となりました。

(純資産)

純資産合計は655億78百万円となり、前期末に比べ31億96百万円減少しました。その主な要因は、利益剰余金が親会社株主に帰属する当期純損失により63億36百万円減少したためであります。

 

③ 経営成績の分析

当連結会計年度の売上高は647億68百万円となり、前期に比べ139億6百万円17.7%の減少となりました。これは、主に精密化学品事業の販売数量の減少や販売価格の低下により減収となったためであります。

なお、事業別の売上の概要につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ①業績」に記載のとおりであります。

売上原価は、原材料価格の上昇等により14億94百万円増加しました。また、販売費及び一般管理費は輸送費等が減少しました。以上の結果、営業損失は19億68百万円となりました(前期は営業利益129億47百万円)。

営業外収益は為替差益を計上したこと等により3億54百万円増加しております。また、営業外費用は試作品売却損が増加したこと等により4億23百万円増加しております。以上の結果、経常損失は13億4百万円となりました(前期は経常利益136億79百万円)。

特別利益は投資有価証券売却益を計上したことにより5億86百万円増加しております。特別損失は減損損失を計上したこと等により43億44百万円増加しております。以上の結果、税金等調整前当期純損失は53億17百万円となりました。法人税等および非支配株主に帰属する当期純利益を控除した親会社株主に帰属する当期純損失は46億10百万円となりました(前期は親会社株主に帰属する当期純利益93億82百万円)。

 

 

④ 資本の財源および資金の流動性

ア.キャッシュ・フローの分析

当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析につきましては、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

イ.資金需要

当社グループの主な資金需要は、設備投資、関係会社貸付金等の長期資金ならびに原材料の購入、製造費用、販売費及び一般管理費等の運転資金であります。

資金調達の方法および状況ならびに資金の主要な使途を含む資金需要の動向につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等(2)中長期的な会社の経営戦略と対処すべき課題 ④ 財務戦略」に記載のとおりであります。

ウ.財務政策

長期資金については自己資金のほかに金融機関からの長期借入、短期資金については自己資金のほかに金融機関からの短期借入による調達を基本としております。また、運転資金の効率的な調達・安定性に配慮し、取引銀行との間でコミットメントライン契約を締結しております。

なお、当社グループは、事業活動に必要な資金を安定的に確保することを基本方針としており、財務状況や金融・経済情勢に応じて最適と判断した手段により資金を調達しております。

 

⑤ 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループは、2022年度を初年度とする第12次中期経営計画(5ヵ年)において、最終年度の連結経営指標について以下の数値目標を設定しております。

数値目標(最終年度の連結経営指標)

 

第12次中期経営計画

売上高

1,000億円

営業利益

150億円

ROE

12%以上

ROIC

8%以上

 

第12次中期経営計画の2年目にあたる当連結会計年度の売上高は647億68百万円、営業損失は19億68百万円となりました。なお、第12次中期経営計画の目標達成に向けた経営戦略と課題につきましては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2)中長期的な会社の経営戦略と対処すべき課題」に記載のとおりであります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 技術援助契約

契約会社名

相手先

契約締結年月日

契約内容

有効期間

関東電化工業株式会社

MEXICHEM FLUOR INC.

2023年1月19日

電池材料製造技術のライセンス契約

ロイヤリティ支払期間満了まで

 

 

 

6 【研究開発活動】

2022年4月から始まりました第12次中期経営計画におきましては、サステナブルな次世代事業の技術開発を方針に掲げ、当社独自の技術によるケミカルチェーンの創生、省エネルギー・高効率生産プロセス技術の開発、環境対応技術・リサイクル技術の開発強化を目標に設定して活動を実施しております。

2023年度の研究開発活動につきましては、半導体事業および電池材料事業に重点を置きつつ、それらの周辺の製品・技術開発に注力してまいりました。半導体・液晶製造用特殊ガスの開発に関しては、事業本部半導体材料開発部に製造-販売-開発を集約して顧客密着型の活動を行ってきた結果、新規製品としてKSG-14を上市に至りました。また、韓国における研究開発拠点として、2023年11月から関東電化ファインプロダクツ内での研究開発業務を開始いたしました。電池材料に関しては、組織改編により設立した新事業開発推進部が中心となり、総合開発センター水島開発室および水島工場技術開発部門との間での連携による製品・技術開発を実施してまいりました。鉄系材料の開発に関しては、精密化学品第1部と総合開発センター渋川開室が連携して開発に努めてまいりました。基礎化学品事業分野の新規製品開発および有機機能材料製品の開発については、新事業開発推進部が中心となり、PFAS規制に配慮した新製品の開発に向けた活動を行ってまいりました。将来の柱となるような挑戦的な研究開発テーマにつきましては、大学をはじめとした外部機関との共同開発について開発企画部を中心に遂行してまいりました。知的財産活動につきましては、研究・知的財産部により開発戦略に沿った特許権利網の構築に取り組んでまいりました。

この第12次中期経営計画実行期間にあたる当連結会計年度の研究開発投資額は、1,367百万円でありました。

 

次に、今後の研究開発活動の方向性を説明します。  

半導体・液晶製造用特殊ガスと電池材料の2分野での新製品の早期事業化を進めて参ります。半導体・液晶製造用特殊ガス分野においては、事業本部に編入した半導体材料開発部が中心となって、開発・製造・営業の一貫した業務体制で顧客の要望を迅速に取り込むことで、市場展開の促進を図っています。電池材料分野においては、新設した新事業開発推進部を中心に、広くマーケット情報を得ることで開発の多角化を図っています。それと並行して周辺領域の製品・技術開発や将来の柱となるような挑戦的な研究開発テーマを推進します。具体的には半導体、エネルギー関係、医療および環境対応分野において、当社の優位性・独自性を活かした製品・技術開発を目指してまいります。

さらには、環境対応を意識したリサイクル技術の開発について、LCA(ライフサイクルアセスメント)の構築を目指し、環境に配慮した3R(Reduce、Reuse、Recycle)活動を加速してまいります。また、PFAS(ペルフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物)規制に配慮した製品開発も併せて推進してまいります。

このような研究開発を加速させていくために、研究開発拠点の整備を推進してまいります。具体的には、2024年4月に水島地区に新研究棟が竣工し、続いて2026年度の竣工を目標に、渋川地区に新研究棟設置を計画しております。

 

(1) 半導体・液晶製造用の特殊ガス

現在、半導体・液晶市場ではNF3(三フッ化窒素)、CF4(四フッ化炭素)、C4F6(ヘキサフルオロブタジエン)およびWF6(六フッ化タングステン)等の各種フッ素系特殊ガスが、シリコン基板表面に回路パターンを刻むエッチング用途、および製造装置内面のクリーニング用途に使用されています。当社は、世界有数の製造能力と品質とを合わせもつ半導体・液晶用特殊ガスメーカーであり、当社独自の技術によりこれらの特殊ガス製品を開発してまいりました。年々微細化が進む半導体分野においては、微細エッチング用のガスとして、C4F6(ヘキサフルオロ-1,3-ブタジエン)、COS(硫化カルボニル)やCH3F(モノフルオロメタン)等を開発し、市場に提供してまいりました。さらに、近年の3D化や地球温暖化防止に対応する新規ガスや、配線用途およびパワー半導体用途の新規材料開発についても注力していくとともに、順次半導体材料評価設備を導入中であり、評価体制の構築を目指してまいります。

海外における事業展開としましては、2017年に韓国に拠点(関東電化ファインプロダクツ)を設置し、COS等の生産を開始しました。さらには、2023年11月からは研究開発業務を開始し、現地顧客に密着したタイムリーな開発の促進に努めて参ります。

 

(2) 電池材料

リチウムイオン二次電池(LiB)業界では、今後の飛躍的な成長が期待される車載用等の大型電池分野をターゲットに更なる高容量化、長寿命化、難燃化等の研究が盛んに行われており、当社でもLiB用電解質LiPF6(六フッ化リン酸リチウム)の開発に成功し、1997年より製造販売を開始しました。また、LiPF6に続く新製品として、LiBF4(ホウフッ化リチウム)を2017年4月より市場に投入したことに続き、2022年4月にLiPO2F2(ジフルオロリン酸リチウム)の上市を行いました。現在は、車載用電池添加剤および全固体電池等の次世代電池材料の早期事業化を図っていく計画です。

さらに、社外パートナーと連携し、使用済みリチウムイオン二次電池から、電池材料に再利用可能なリチウム化合物を高純度で再資源化する技術を開発しました。現在、2022年8月より化合開始したパイロット実証設備を用いて事業化検討を進めており、これらを手掛けることで電池材料事業の拡大を目指してまいります。

 

(3) 鉄系材料

当社では、導電性の鉄、フェライト、マグネタイト等のコア材表面に各種絶縁性樹脂をコーティングした現像剤用キャリヤーを複写機、プリンター等画像形成装置市場に提供しております。さらに、当社においてこれまでに培ってきた技術を活かした新規材料の開発、およびその用途開拓を推進することで鉄系事業の拡大を目指します。

 

(4) 基礎化学品

基礎化学品事業の収益力強化を目的に、新規製品の開発に着手しております。環境規制対象となっている既存製品の代替を目指し、鋭意検討を進めております。

 

(5) 有機機能性材料

高付加価値製品による収益拡大を目指すために、高機能用途への展開を図り、新規用途への採用が拡大しております。また、新たにライフサイエンス分野での新製品を想定し、PFAS規制に配慮しつつ、自社原材料・技術を利用した材料・素材開発を展開して成果を上げて行きたいと考えております。

 

(6) 次世代事業

将来の柱となるような挑戦的な研究開発テーマとして、当社の独自性を活かし、競合他社に対して優位性を発揮できる新規材料の創出と、当社の基盤技術から派生する新しい技術開発を推進しております。

さらに、新規コア事業の創出を目的に、半導体産業、エネルギー関係、環境対応製品および医療分野における当社の独自技術を活かした製品開発に長期的視点で取り組んでおります。

また、サステナブルな技術開発につながるテーマの探索を行う目的で、PFAS規制に配慮し、環境対応技術やリサイクル技術の開発に焦点を合わせて、自社内外部門との連携により推進して参ります。

 

(7) 研究開発の効率化

研究開発の効率化に関する施策は、以下の通りです。

研究開発の迅速化を目指し、研究開発拠点の準備を進めております。これまでに、2023年11月には韓国において関東電化ファインプロダクツ内で研究開発業務を開始しました。2024年4月には、水島地区において新研究棟が竣工し、続いて2026年の竣工を目標に、渋川地区に新研究棟設置を計画しております。

研究開発をはじめとした多種にわたる業務改善を図るためDX(デジタルトランスフォーメーション)の構築を目指してまいります。具体的には、AIによる材料設計プラットフォームを構築し、開発テーマへの展開や、計算ソフトによる分子設計や物性予測による開発支援を行っております。

また、新型コロナが終息しつつある状況に応じて、顧客との対面式面談とオンライン面談を適宜使い分けることで、より密度の濃い連携を推進しております。

同様に、最新の業界の動向を把握する目的で、学会・セミナーへの対面参加・オンライン参加を積極的に実施しております。

その他、社内外の開発リソースの効率的な運用による開発促進を目的に、大学など外部研究機関との共同開発も積極的に推進しております。