第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)企業理念、行動指針、必達

当社グループでは、創業者である高橋 義博が1968年に制定した社是<必達>を経営方針の中心に据えて経営に取り組んで参りました。職場の目に付くところに掲示し、社是<必達>に込められた精神、考え方を常に確認すると同時に、従業員への浸透を図ることを行ってきました。

社是<必達>の精神は、現在においても何らその価値を失っていないものと考えますが、既存の仕事、製品を軸に、役職員個々人の心構えや行動に重点を置いた内容としているため、近年の社会環境、経済環境が変化していく中で、社内外の人との関連性、新しい技術革新、製品開発への一層の目配り、社会の中における当社との連環という視点で、不十分さを感じるような状況になってきました。

そのため、2015年12月開催の当社取締役会において、社是<必達>の考え方に加える形で、新たに<企業理念>、<行動指針>を規定し、経営方針を一層充実したものといたしました。

これは、すべての経済原則や経営理論は「人」の行動原理に基づくものであるとの理解に立ち、まずは社内外を問わず全ての「人」に興味を持つべきであるとし、技術革新や商品開発など新しいことへの取り組みが、人や企業の活性化につながるという点を改めて確認し、一方、未来に目を向けると、人も企業も他者との連環(関連)の中で生き抜いていかざるをえないことを再認識した上で、社会に必要とされ、社会の発展に資する姿勢を打ち出していくべきとしたものであります。比較的平易な表現とすることで、若手従業員から経営トップに至るまで、<必達>と合わせて、浸透を図ることを企図したものであります。

これらを踏まえ、当社グループは以下の<企業理念>、<行動指針>、<必達>の社是の下、事業活動を行うに当たって人財の付加価値を一層高めることに努め、全てのステークホルダーを尊重し連携を図りながら、地球環境保全などサステナブル社会に対する企業責任を積極的に果たしてまいります。

 

<企業理念>

・人に興味を持とう

・新しいことに興味を持とう

・未来に興味を持とう

 

<行動指針>

人間は面白い。

その面白い人間が作っているのが企業であり、また顧客である。

全ての経済原則、経営理論は、人の行動原理に基本がある。

人に興味を持とう。

新しいことはワクワクする。

技術革新や商品開発は顧客や市場を開拓すると同時に、人間も活性化する。

新しいことに興味を持とう。

未来を考えることは楽しい。

未来は子供たちのものだ。

未来を考えれば、人も企業も自分だけでは生きて行けないことが分かる。

顧客の発展が無ければ、当社は富んでも長続きしない。

更に、社会に生かされなければ、人も企業も存続し得ない。

未来に興味を持とう。

 

一方、当社には1968年に制定した、社是「必達」が存在します。上記の企業理念と共に、歴史ある社是「必達」を、誇りを持って遵守しています。

 

<必達>

私たちはカラーエイジを担う大日精化の社員として<必達>の社是のもとに誇りを持って仕事をすすめよう

1.仕事は必ず目標を立てこれを必達しよう

1.正しい製品知識を身につけ製品普及のチャンスを積極的に求めよう

1.仕事を通じ製品を通じて会社の信用を更に高めよう

1.社会人として常に教養を高め反省を深める機会を持とう

1.仕事を通じて社会に貢献し大日精化を最高の企業体としよう

(2)経営理念

創業者 高橋 義博の「自分の生活が好きな色彩によって包まれたいと思うのが私たちの念願」との遺志を引き継ぎ、世界中の「もっと便利に、もっと安全に、もっと自由に彩りたい」という願いをかなえることを使命として、当社グループは企業理念や社是<必達>のもとに、企業としての持続的成長と価値向上を目指した「CSR・ESG基本方針」を、そしてこれを補完するために近年の社会的課題である地球環境、ガバナンス、人権尊重、情報管理、品質管理、安全衛生、人財育成、健康経営などに関する各種方針を制定し、役職員がこれらを徹底することで、全てのステークホルダーの課題に寄り添い、彩りと特性を持った素材をさまざまな分野に提供し、実現しております。

また、2023年10月には社内公募により、新ブランドメッセージ「彩りの、その先へ(今日の未知は未来への道)」を決定し、コア技術である①有機無機合成・顔料処理技術、②分散加工技術、③樹脂合成技術を更に深化させ、「色彩のその先の可能性」を追求して「機能性マテリアル分野のエクセレントカンパニー」を目指しております。

 

(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループは、2021年8月に公表の2022年3月期を初年度とする3か年中期経営計画において、ROA(総資産経常利益率)5%、ROE(自己資本利益率)9%とすることを経営目標として掲げましたが、最終年度である3年目の2024年3月期では、ROA2.6%、ROE3.2%の結果となりました。

これは、初年度はコロナ禍の落ち込みからの回復と同時に過剰な流通在庫が生じ、2年目以降コロナ禍の巣ごもり需要の反動減と長期にわたる在庫調整に加え、戦争影響、世界的なインフレ・原材料価格高騰の影響等を受けた結果と考えております。

2025年3月期を初年度とする新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」においても、引き続き長期目標としてROA5%、ROE9%を掲げております。この目標に向けて、新中期経営計画の各施策を進めてまいります。

 

(4)経営環境及び優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題等

当社グループの置かれている経営環境については、以下のとおりと認識しております。

 

①お客様の国内外の事業展開に寄り添い、収益性、効率性をご提案するために、当社では国内外の拠点の強みを活かし、国内、海外の一方に偏することなくバランスのよい業務展開をするべきであることが重要な課題であると認識しております。

 

②当社グループの持続的な成長のためには、ESGへの取組みがあらゆる事業活動の基本理念であり、環境配慮(E)、社会貢献(S)の実現のための研究・開発が果たす役割が、特に重要であると認識しております。このため社会全体の持続性、安全性、収益性、効率性、採算性などの側面から十分に検証の上で、前述の「(2)経営理念」に記載の「3つのコア技術」を更に深化させること、新たな技術を取り入れることに、人財と設備、資金を投入していく必要があるものと認識しております。

 

③ステークホルダーの皆様から信頼され常に選ばれる企業であり続けるためには、上記②で述べたように、長期的・持続的な成長とともに、製品や事業活動を通して地球規模の環境や社会問題へ取り組む企業姿勢と、意思決定の透明性、公正性を確保できるガバナンス体制の下で、従業員一人一人の思いが企業風土として醸成されることが企業価値の向上においても大きな影響を与えるものと再認識した上で、全社を挙げてE(環境配慮)、S(社会貢献)、G(企業統治)の側面から能動的に活動を促進することが必要と理解しております。

 

④今後更に、デジタル技術及びデータ分析の活用が、当社グループの競争力の源泉のひとつとして重要性を増し、経営目標を達成するための重要な手段であると認識しております。当社は基幹システムを2018年10月に刷新し、さらなる活用のための周辺システムの整備も着々と進めてきておりますが、より高度化していく外部環境からの要請事項に対し、これまで以上に、適時かつ適切に対応していく仕組みが必要であると認識しております。また、データ駆動型ビジネスへの移行を進め、効率的で確実性の高い戦略、独創性のある製品開発を強力に推進することが不可欠であり、そのためにも有効なデータ、優秀な人財と、柔軟で素早い意思決定が重要であると認識しております。

⑤当社グループの掲げる長期目標の達成には、人的資本及び知的財産への投資と活用によるイノベーションの創出が不可欠であると認識し、企業にとって財産である「人財」の育成と活気溢れる企業風土の醸成は重要な経営課題のひとつと考え、従業員のモチベーションとエンゲージメント向上を目指したHR戦略を推し進めます。また別途定める「人財育成方針」「社内環境整備方針」に沿って、企業と人財が互いに高め合っていくビジョンを共有し、持続可能な成長に向けて地道にかつ着実に、相互に磨き上げていくことにより、当社グループの成長と人財の成長との間に好循環を生み出すことができるものと確信しております。本件については、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (3)人的資本投資・人財育成及び人財の多様性の活用」にて詳細を記載しております。

 

これらを踏まえ、当社グループの持続的成長と中長期的な企業価値の創出のため、2024年3月末までの3か年の前中期経営計画の施策の達成状況等を踏まえ、2025年3月期を初年度とする新3か年中期経営計画「明日への変革2027」において、次の戦略とともに資本効率を重視した経営を重点的に進めております。

 

ア、技術主導による競争優位性の確保

当社グループでは、保有する技術を、技術マネジメント手法を用いて再評価し、社会的なニーズ(ESG)への貢献を最優先課題として、オープンイノベーション、セグメント間のシナジー、知財戦略などを組み合わせ、3つのコア技術(1 有機無機合成・顔料処理技術、2 分散加工技術、3 樹脂合成技術)を深化させた技術開発に取り組んでおります。

新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」においても、これらコア技術は重要な基盤として、市場規模・収益性・成長性を評価し、新規発展分野として①IT・エレクトロニクス 機能性材料、②ライフサイエンス・パーソナルケアの二つを、継続発展分野において環境配慮型製品へのより一層のシフトをテーマとする③モビリティ、④環境配慮型パッケージングを開発の中心に据え、人財と設備と資金とを積極的に投入することを行い、技術主導による競争優位の確保を目的とした「技術オリエンテッド」体制の構築を進めております。製品の差別化、品質向上により社会貢献度を高め、同時に収益性の確保を図ることとしております。

2024年3月末時点における状況は、以下のとおりと認識しております。

 

①IT・エレクトロニクス 機能性材料

二次電池用部材、導電性部材、熱伝導性材料、機能性ポリマー、高付加価値顔料・分散体などにおいて、オープンイノベーション・産学連携を強化し、新技術導入を着実に進め、基礎技術力アップを図ると同時に、応用開発においてもお客様にご採用いただいたアイテムも多数獲得できました。パイロット生産設備等の導入も着実に進めており、今後、ビジネスフィールドの拡大を目指すと同時に、売上高への早期寄与を図ります。

 

②ライフサイエンス・パーソナルケア

化粧品材料においては、生分解性微粒子は量産化の検討に目途を付け、高性能化やコストダウン製法の構築を進めております。今後は、ご採用いただいたアイテムもあることから、更なる技術優位性の確保と量産プロセスの最適化を進め、拡販を進めます。

キトサンは動物由来以外の原料による開発に着手し一定の進捗を得て、天然物由来の生分解性樹脂とともに、サンプルワークを開始し市場での性能評価を開始しております。

 

③モビリティ

ウレタン・アクリル・シリコーンポリマー、軽量・高強度樹脂コンパウンドなどにおいて、水性化、バイオマス化などの環境配慮強化、リサイクル素材を利用した高強度コンパウンドの生産プロセスに目途をつけることができました。特に、ウレタン・アクリル・シリコーンポリマーにおいては、環境配慮を強化した製品設計が完了したアイテムの量産体制を構築し、事業拡大に貢献することとなりました。今後も積極的に設備投資を行い、収益の向上に努めます。

 

④環境配慮型パッケージング

ガスバリア性を付与したインキ、パッケージ及びラベルのリサイクルが可能なインキ、バイオマス由来のインキなどを上市し、サンプルワークを開始いたしました。その後、バイオマスインキ、水性インキといった環境配慮型製品の採用が進み、グラビアインキのサステナビリティ製品の占める割合は60%となりました。今後も環境配慮型製品の提供は継続し、新たに機能性コーティング剤をラインナップに加え、より一層社会貢献度を高めることといたします。

イ、事業基盤の強化のための海外事業の拡大

当社グループの収益、成長の源泉は、国内・海外双方に存在し、GDP高伸長国での事業展開もバランスよく事業育成をしていく必要があるとの認識の基に事業を展開してまいりましたが、中国を中心に景気停滞の影響を受け生産数量の低調が続きました。新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」においても、「地産地消」の推進と海外拠点の拡充及び新規ビジネスの創出を軸に、積極的な業務の展開に注力いたします。

2024年3月末時点における状況は、以下のとおりと認識しております。

 

(ア) カラー&ファンクショナル  プロダクト

情報電子分野、高機能着色剤、機能性製品の開発テーマに注力いたしましたが、情報電子分野のIJ分散液・顔料は欧州向けの輸出が減少、また、高機能着色剤のフッ素樹脂用着色剤は、中国等の景気低迷等により低調に推移いたしました。今後は、情報電子分野で欧州を中心に新規顧客の開拓を行うと同時に、高機能カラーにおいてはインド、アジアにおけるフッ素樹脂用着色剤市場を拡大させることを目指します。また、樹脂コンパウンドの拡販を企図いたしましたが、EV化/電装部品は堅調な推移を辿ったものの、食品包装材用途は需要低迷により大幅に減少いたしました。今後は、生産能力の増強を含めた新規案件の検討を開始いたします。

 

(イ) ポリマー&コーティング  マテリアル

北米、中国を中心に水性化を中心としたサステナビリティ貢献製品の展開を図った結果、コロナ禍の影響もあり一時的に停滞は見られたものの、水性表面処理剤の販売を拡大させることができました。今後、北米企業向け、又は国内車両メーカーの海外拠点向けとして、国内生産していた水性表面処理剤を米国拠点で生産することを計画しています。

 

(ウ) グラフィック&プリンティング  マテリアル

インドネシアにおいては、グラビアインキの拡販と適切な価格修正により、販売計画を達成しております。今後は、旺盛な現地の需要に対応するために、増能力投資を計画しています。

 

ウ、サステナブル社会の実現に向けたESG重視の経営推進

前中期経営計画では、ESG経営を重視し、当社を取り巻くサプライチェーン全体の重要な課題として原材料調達段階から当社製品を使用した製品が廃棄されるまでを含めたライフサイクル全体において、「(ア) サステナビリティ貢献製品開発・拡販」、「(イ) 気候変動への取り組み」、「(ウ) 資源循環促進」、「(エ)生物多様性への取り組み」、「(オ) 社会貢献の一層の促進」、「(カ) コーポレート・ガバナンスへの一層の取り組み」を進めてきました。

これらの課題に対して当初計画していた様々な取り組みはほぼ予定通り実行できたと考えております。

同時に、情勢の変化、社会の要求の変化に合わせ、前中期経営計画の途中で課題の追加、見直しも行ってきました。

新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」においても、ESG経営の重視を継続し、前中期経営計画の中で認識した課題に向け 、当社内の改革に注力する必要があると考えています。特に前中期経営計画の2年目に追加した「(キ) 人的資本投資・人財育成」の重要性が日々高まっていると認識しており、新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」では、人的資本投資・人財育成の重要課題として、モノづくりメーカーとしての従業員のエンゲージメント向上を目指した「HR戦略」を重点施策のひとつに掲げ、さらなる価値創出に努めてまいります。

 

(ア) サステナビリティ貢献製品開発・拡販

当社グループでは、環境負荷低減に貢献できる環境配慮型製品に加え、人々の暮らしを豊かにする製品を含めたサステナビリティ貢献製品の拡販により、サステナブル社会の実現を推進しております。

前中期経営計画では、サステナビリティ貢献製品の売上高を20%向上させることを目標に掲げて取り組んでまいりました。一部の市場においてコロナ禍と半導体不足からの事業回復が想定外に鈍化したことで数量では目標を僅かに達成できませんでしたが、為替変動などの影響により売上高は23%増となりました。

新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」では、前項「ア、技術主導による競争優位性の確保」で述べたように、製品開発を担う技術部門に経営資源を効率的に投入するとともに、人財の潜在能力を最大限に発揮させるHR戦略を、技術部門を始め大日精化グループ全社に積極的に活用してまいります。

 

(イ) 気候変動への取り組み

前中期経営計画においては、省エネ対策として、太陽光発電設備の設置、ボイラーの運用改善、生産機械の高効率化、照明器具のLED化を実施すると同時に、買電を再生可能エネルギー由来の電力に切り換えることを進めました。合わせて、インターナルカーボンプライシングに関する社内整備を進めました。その結果、国内のCO2排出量(Scope1&2)は、2024年3月期に2021年3月期比で78%削減となり、前中期経営計画における目標を達成できました。(Scope2はGHGプロトコル・マーケット基準にて算定)

新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」では、気候変動に関する政府間パネル(以下、「IPCC」といいます)第5次と第6次評価報告書及び環境省によるIPCC評価報告書の解説を基に行ったリスク分析に沿って、地球の平均気温の上昇を1.5℃未満に抑えるための1.5℃シナリオ及び2050年カーボンニュートラルに向けた移行計画の策定に取り組んでまいります。

新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」における目標は、1.5℃シナリオ実現に向けた国際的な目標をふまえて、当社グループのCO2排出量(Scope1&2)を、2027年3月期に2020年3月期比31%削減に設定します。

この目標の達成に向けて、国内で培ってきた省エネ対策を海外拠点にも展開することと現地のエネルギー事情に合わせた再生可能エネルギーの導入など、グローバルな脱炭素化を促進させてまいります。

また当社製品を通じて世の中のCO2排出量(Scope3)も削減できるようにTCFDの枠組みに沿って当社グループの気候変動に関するリスクと収益機会を管理し、企業価値向上に貢献してまいります。詳細は「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への取り組み  TCFD提言に沿った情報開示」を参照ください。

 

(ウ) 資源循環促進(サーキュラーエコノミー)

化石由来資源の枯渇防止と廃棄の際の環境負荷低減といった環境リスクの低減と収益機会の創出を目指し、当社グループでは、原材料のバイオマス化及び廃プラスチックの排出量抑制・リサイクル促進を進めてまいりました。

前中期経営計画では、掲げていた目標を達成する事ができましたが、更なる改善の余地が確認できたことから、新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」においても、引き続き原材料のバイオマス化及び廃プラスチックの排出量抑制・リサイクル促進を目指し、生産工程から生じるロスを削減するための工程管理の強化と廃プラスチックの分別強化をグローバルに展開してまいります。

新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」における目標は、前中期経営計画に引き続き当社グループの廃プラスチックのリサイクルにおき、廃プラスチックのリサイクル率を2027年3月期に前中期経営計画の平均値比3ポイント向上に設定します。

 

(エ) 生物多様性への取り組み

化学物質を扱う当社グループは、事業活動のみならず製品のライフサイクル全般において生態系に与える様々な影響をリスクと機会の両面から把握し、生態系への負荷を最小限に抑える義務があると認識しています。前中期経営計画の3年目にはこの考え方に加え、当社技術を活かして「生物多様性の保全と持続可能な利用」に貢献する価値の創出に努める事が重要であると認識し、それまでの「環境負荷低減」というマテリアリティを「生物多様性の保全」に改訂いたしました。

この課題解決に向けて、有機溶剤など化学物質の使用時に生じる大気汚染や水質汚染等の環境負荷軽減に向けた自らの管理活動と当社グループの製品使用段階で生じる環境負荷軽減に貢献する製品開発の両輪でTNFDの枠組みに沿って推進してまいります。

また、当社グループが現在加盟しているCLOMAをはじめとするイニシアティブへの参加や事業所の近隣地域コミュニティーとの協働作業にも積極的に参加し、生物多様性の保全に努めていまいります。詳細は「2.サステナビリティに関する考え方及び取組 (4)生物多様性の保全に関する取り組み」を参照ください。

(オ) 社会貢献の一層の促進

お客様とのかかわりにおいては、お客様の信頼と期待に応えられるように適切な化学物質管理(新管理システムの導入、リスクアセスメントなど)、品質管理(ISO9001による全社的なQMS活動実施、内部監査実施)、責任ある原材料調達(CSR調達基準によるサプライヤー調査)、サステナブルな物流業務の展開(輸送ロットアップ、在庫拠点集約など)に取り組んでまいりました。

またお客様から積極的に選ばれるサプライヤーになるために、お客様からいただくサプライヤー調査には誠実に回答すると同時に自らの取り組みを反省する機会と捉え、当社グループの改善につなげています。

従業員とのかかわりにおいては、ワークライフバランスの充実、女性、外国人、中途採用者の一層の活躍などの点から、人事制度の充実を図っております。

またサステナブルな成長を実現させるためには従業員の心身の健康維持・増進と多様な人財が働きやすい職場環境・企業風土づくりが重要であるという考えから、2023年に健康経営宣言を行いました。健康経営を積極的に推進し、従業員がポテンシャルを最大限発揮することで事業活動を通じて社会に貢献してまいります。

地域社会とのかかわりにおいては、生産拠点の近隣に対する安全・安心を最優先に防災活動に加え、生物多様性の保全の一環として近隣の生態系に一層の配慮を行い、環境負荷の低減と自然環境の保全に努めてまいります。これらの諸施策は着実に、継続的に実施することにより効果を得られるものであるため、今後も注力して対応してまいります。

 

(カ) コーポレート・ガバナンスへの一層の取り組み

単に法令遵守、ルール遵守に留まるだけでは実質的なガバナンスの向上につながらないとの認識から、コンプライアンスの徹底のために経営層からのメッセージの発信・従業員からのフィードバックを継続的に実施しております。経営層からのトップダウンと実行部門からのボトムアップを活性化させた双方向コミュニケーションを充実させ、経営戦略を社員一人一人が「自分ゴト」として捉えて行動できるように社内環境を整備しています。また業務の有効性と効率を更に向上させるために、内部統制とコーポレート・ガバナンスの連携強化を図っております。

 

(キ) 人的資本投資・人財育成

当社グループでは、新たな価値の創出には、新たな発想が必要であり、それには“人の力”が不可欠と考えています。“人の力”を引き出し、“人を育成する”ことで、人は価値を生み出す企業の財産であるとの認識から、当社グループでは「人材」ではなく「人財」と表現しております。

前中期経営計画の3年目には、「人財育成方針」とその人財育成を実現するための「社内環境整備方針」を策定し、具体的な施策の検討を進めてまいりました。

新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」では、最優先に取り組む施策として、モノづくりメーカーの従業員としての“働き甲斐”、“誇り”、“仲間への貢献意欲”といったエンゲージメント向上を目指した「人事制度改革」を重点戦略のひとつに掲げ、さらなる価値創出に努めてまいります。

 

エ、HR戦略・DX推進

ア~ウの戦略を下支えするものとして、HR戦略とDX推進に注力してまいります。

(ア) HR戦略

中長期的な企業価値の向上のためには、イノベーションが湧き上がる活力に満ちた企業風土を醸成させていくことが不可欠であると認識しております。「会社の目標達成=個々の従業員の理想の実現」となる状態を目指すことで、モノ作り企業の従業員としてのエンゲージメント向上を目指したHR戦略を推し進めていくことといたします。

具体的には、経営方針や戦略を各従業員が理解・共感したうえで日々遂行する業務の目標に落とし込む事が必要と認識しており、その対応として経営層と従業員との対話を深めお互いの期待感を共有し、具体化させていく機会を増やしてまいります。

また、従業員がお互いに仲間と組織のために自主的に貢献しようという意欲を醸成し、その意欲に基づき従業員が自ら高い目標を設定し、目標の達成に向けて挑戦し続けることができるよう指導し、かつ併走する管理職を養成するプログラムも含めた社内・社外の研修を充実させてまいります。業績評価の仕組みにおいては、従業員の階層ごとに評価項目や基準を明確化することで、納得感の得られる評価、成長につながる評価、心理的安全性の高い評価などの考え方を取り入れ、魅力ある会社になることで、エンゲージメントの向上と人財の育成を図ることができ、イノベーションの創出が達成できるものと期待しております。

 

(イ) DX推進

業務のデジタル化による効率化、データ蓄積・共有の基盤構築を進め、生成AIによる業務効率化や当社グループ独自データ活用による戦略策定など、データ駆動型ビジネスへの移行を進め、効率的で確実性の高い戦略、独創性のある製品開発を強力に推進します。具体的には、①オフィスワークにおいては、ITツールの活用により情報探索・情報共有の効率を上げ、意思決定スピードを引き上げる、②マーケティングにおいては、担当する部門に関わりなく市場ニーズをデータベースとして蓄積し、市場ニーズと当社技術を結び付け新規案件を開拓する、③技術開発においては、使用する原材料や開発情報を横断的にデータベースとして蓄積し、これらを組み合わせ、MIにより開発期間を短縮する、④生産部門においては、生産現場の負荷を軽減しながらデータの蓄積・見える化を進め、早期異常発見率を高めることにより生産効率を上げる、などを実施していきます。このために、デジタルリテラシー向上のための研修や、具体的なプロジェクトなどを活用したOJTなども効率的に行うことなどにより、一層のデジタル人財の基盤強化を図ることといたします。

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)サステナビリティ共通

①ガバナンス

当社グループの社是<必達>及び行動指針には、お客様と社会に貢献し、社会に生かされることで当社も社会と共に発展していくというサステナビリティの考え方を盛り込んでおり、定期的に経営者と全従業員がこの考え方を共有しております。

サステナブルな成長を目指した「CSR・ESG基本方針」を制定し、化学メーカーとして製品のライフサイクル全体において取り組むべき社会的な課題解決と事業成長の為の価値創出に向けた推進体制を整えております。

「サステナビリティに関する戦略と取組」は、代表取締役社長の直轄組織であり、サステナビリティ関連の責任部署であるCSR・ESG推進本部にて、マテリアリティ(重要課題)を特定し、マテリアリティ毎のリスクと機会の抽出、指標と目標の設定、及びその進捗管理を以下の当社のガバナンス体制にて行っております。

マテリアリティに関しては後述「②戦略」の項をご参照ください。

CSR・ESG推進本部で立案された目標と施策は代表取締役社長の指示のもと実行部門にて対応しております。

その実行結果は、四半期毎に各実行部門から内部統制に関する各委員会に報告・監査され、内部統制に関する各委員会から代表取締役社長並びに取締役会に実行結果を定期的及び必要時に随時報告し、監督・指示されております。その指示内容は内部統制に関する各委員会と実行部門にフィードバックされております。

2024年3月期では、合計13回の取締役会を開催しましたが、そのうち、『気候変動への対応』、『人的資本投資と人財育成』、『コンプライアンスアンケート調査の結果報告』、『健康経営方針の制定』など、サステナビリティに関する審議を行った取締役会は11回となりました。

また内部監査室では、内部統制に関する各委員会の報告に基づき独自に実行部門の活動を監査し、その結果を代表取締役社長並びに取締役会に報告しております。

当社グループでは、以上の体制で、サステナビリティに関する取り組みの全社的な計画立案・実行・管理・改善指示“PDCA”を推進しております。

また、サステナビリティ関連業務に対する業績評価を、人事考課制度に組み入れ、給与に反映させる仕組みを運用しております。2024年3月期は、ESG課題の考課ウェイトを10%に設定しております。

「CSR・ESG基本方針」とその方針に基づく各種方針は当社グループのホームページにてご確認下さい。

URL:https://www.daicolor.co.jp/csr/policy/index.html

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②戦略

当社グループは、企業理念と社是<必達>のもと、化学メーカーとして製品のライフサイクル全体において取り組むべきマテリアリティを以下のように特定し、マテリアリティ毎にリスクと機会の両面から当社の成長に必要な取り組みを前述「①ガバナンス」で述べた体制で推進しております。

2024年3月期からは、これまでの「環境負荷低減」の活動内容をより充実させ「生物多様性の保全」に変更し、後述の取り組みを進めております。

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③リスク管理

当社グループのサステナビリティに関するリスク管理は、「3.事業等のリスク」で述べた考え方と体制で取り組んでおります。

 

④指標と目標及び実績

当社グループでは、サステナビリティに関する指標と目標をマテリアリティ毎に設定し、実施状況を管理しております。

下表に主要なマテリアリティをご説明いたします。

マテリアリティ

短・中期指標

目標

2024年3月期実績

気候変動対策

地球温暖化対策

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a. 国内のエネルギー使用に伴う

GHG排出量(Scope1・2)

a. 2027年3月期に2020年

3月期比で31%削減

a. 2014年3月期比

78%削減(※1)

b. 国内製造拠点のエネルギー

原単位

b.対前年度比1%削減

b. 0.4%削減

c. サステナビリティ貢献製品の

売上高

c. 2027年3月期に2024年

3月期比で30億円増

c. 2021年3月期比23%

増加

サーキュラー

エコノミー推進

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d. 国内製造拠点の廃プラス

チックのリサイクル率を改善

d. 2027年3月期に2021年

3月期比3ポイント

改善

d. 9.9ポイント改善

ダイバーシティ&

インクルージョン

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e. 国内の新卒採用者の女性比率

e. 30%以上

e. 34.1%

f. 国内の有給休暇取得率

f. 70%以上

f. 75.9%

g. 国内の女性・外国人・中途

採用者の管理職比率

g. 2031年3月期までに

2022年3月期比

6ポイント向上

g. 1.6ポイント向上

(※1)Scope2はGHGプロトコル・マーケット基準にて算定

(2)気候変動への取り組み  TCFD提言に沿った情報開示

①ガバナンス

気候変動対応に関するガバナンスは、「(1)サステナビリティ共通 ①ガバナンス」で述べたとおりです。

 

②戦略

当社グループでは、気候変動に関する政府間パネル(以下「IPCC」といいます)が発表したIPCC第5次報告書、第6次報告書、及びIEA World Energy Outlook 2020、当社グループの顧客、サプライヤーの対応情報を基にリスクと機会を分析し、対処すべきリスクとその対応策を進めております。

世界の平均気温の上昇を産業革命前と比較して、2℃より充分低く抑え、1.5℃に抑える努力を求められている事から、その目的を達成する為に、温室効果ガスの排出量を削減し、将来的には実質ゼロ・カーボンニュトラルとする脱炭素化が必須課題と認識しております。

当社グループでは、代表取締役社長の指示のもと、サプライチェーンの一員として気候変動対策に貢献する為に、IPCC第6次評価報告書を基にリスク分析を行い、1.5℃シナリオ及び2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、製造工程における省エネルギー対策、再生可能エネルギーの積極的な利用により自らが排出する温室効果ガスの排出量を減らすと共に当社の製品を通じて世の中の温室効果ガスの排出量削減に貢献できるように取り組んでまいります。

 

以下、想定シナリオです。

1.5℃シナリオ

想定概要

地球温暖化防止に向けた規制強化や地球温暖化防止に貢献する需要構造の変化が加速。

将来的に炭素税の単価が欧米先進国並みに上昇すると考えられる。

自然災害の影響も現在よりも重視する必要があると想定。

4℃シナリオ

想定概要

地球温暖化が深刻化し、平均気温上昇による需要構造の変化と労働環境への影響が発生。

大規模な自然災害による事業活動への影響が頻発すると想定。

 

シナリオに基づく想定リスクとその対応策は以下のとおりです。

リスク分類

想定リスク

対応策

1.5

℃シナリオ

移行

リスク

①炭素税導入による財務負担増

②GHG排出量削減規制の強化

③顧客からのGHG削減要請の強化

①当社グループ想定炭素税:

約971百万円(@14,500円/t-CO2)

②適切な価格で再生可能エネルギーを調達

する事で、GHG排出量の削減と財務面への影響を軽減させる。

想定削減炭素税:約388百万円

③継続的な省エネ対策の実施

④化石資源由来の原材料調達が困難になる

④原材料の脱炭素化の開発を進める

⑤需給構造の変化により商機を損失する

⑤業界動向を迅速に社内展開し、事業活動を強化する。

物理的

リスク

自然災害によるサプライチェーン寸断に

よる事業活動停滞の影響

・原材料調達地域、購入会社の分散化

・物流への影響軽減に備えた在庫管理

製造現場の作業環境の悪化及びそれによる

設備投資額の増加

・作業環境改善と生産効率向上に寄与する

効率的な設備投資を行う

℃シナリオ

移行

リスク

需給構造の変化に対応する製品開発力の

強化

・業界動向、市場動向を迅速に社内に

展開し、製品開発と事業計画に反映

させる

物理的

リスク

大規模な自然災害による当社設備の損傷に

よる事業活動停滞の影響

豪雨時の浸水による製品と原材料在庫の

損失

・ハザードマップに応じた設備改修促進

・生産拠点の分散化

・豪雨災害時の有害物質の流出防止策

製造現場の作業環境の悪化を改善する為の

設備投資増加

・製造現場の暑さ対策、人的負荷軽減の

設備投資を行い生産効率の低下を防止

 

シナリオに基づく機会分析と戦略は以下のとおりです。

 

想定機会

戦略(以下の製品開発と販売促進)

1.5

℃シナリオ

脱炭素化に貢献する製品の需要拡大

・車両のEV化、自動運転化の促進

・車両の軽量化促進

・電力インフラの需要拡大

サステナビリティ

貢献製品の拡販:

2027年3月期に

30億円増

(2024年3月期比)

・二次電池向け製品

・車両向けワイヤーハーネス関連製品

・車両の軽量に寄与する製品

・太陽光電池向け製品

・CO2を原材料とするポリウレタン樹脂

サーキュラーエコノミーに向けた需要

変化

・プラスチック資源リサイクルが加速

・バイオマス由来の製品需要が拡大

・軟包装材向け脱墨型インキ

・バイオマス由来原材料の樹脂ビーズ

・バイオマス由来原材料のインキ、

接着剤

℃シナリオ

気温上昇による生活様式、需給構造の変化

・暑さ対策のための建築物の仕様変更

・飲料容器需要の拡大

・建築物の空調の省エネ向け遮熱塗料

・飲料用軟包装材向けインキ関連製品

激甚自然災害に備えたインフラ強化事業の拡大に向けた

製品の需要拡大

・電力・通信インフラの更新需要が拡大

・建築物の改修工事需要の拡大

・高速大容量通信線向け被覆材用着色剤

・建築外装材向け高耐候性塗料用色材

・高強度・高耐久繊維向け着色剤

 

③リスク管理

当社グループでは、CSR・ESG推進本部にて、気候変動により生じるリスクについて、法令改正や業界動向の変化などによる規制強化や需給構造の変化を移行リスクと特定し、自然災害へのレジリエンス強化や温暖化の進行による労働環境の悪化を物理的リスクと特定しております。これらリスク内容は前述「②戦略」の項で述べたとおりです。これらの内容に応じてCSR・ESG推進本部から実行部門である各機構及び関係部署にリスク対応業務を指示しております。

リスクの特定結果とリスク対応業務とその実施状況は、内部統制に関する環境委員会に四半期毎に報告され、取締役会にて年1回以上報告され、監督されております。

 

④指標と目標及び実績

気候変動に関する指標と目標は、前述「(1)サステナビリティ共通 ④指標と目標及び実績 a. b. c. d.」に記述したとおりです。

具体的な取り組み実績は以下のとおりです。

2022年3月期においては、省エネ対策として、太陽光発電設備の設置、ボイラーの運用改善、生産機械の高効率化、照明器具のLED化を実施すると同時に、買電を再生可能エネルギー由来の電力に切り換えることを進めました。併せて、インターナルカーボンプライシングに関する社内整備を進めました。

2023年3月期においては、東海製造事業所で稼働していたガスコージェネレーションによる自家発電をやめ、再生可能エネルギー由来の買電への切替えを実施し、より一層の脱炭素化を進めました。

上記のような取り組みの結果、2024年3月期では、自主目標である当社国内グループのCO2排出量70%削減(Scope1・Scope2 2014年3月期比)に対し、78%削減を達成しました。実績が目標より削減できた主な要因は、当初計画よりも生産量が減少した事に因ります。

3か年の自主目標は達成したものの、当社の海外製造拠点における省エネ対策、再生可能エネルギーの導入が国内製造拠点に比べて遅れている現状を鑑みて、今後は国内製造拠点で培ってきた省エネ対策を海外へ積極的に展開するとともに、現地の環境規制とエネルギー事情に合わせた再生可能エネルギーの導入を積極的に進めていく予定です。

気候変動に関する最新の国際的な評価報告であるIPCC第6次報告書で掲げられている1.5℃シナリオの実現には2030年までにCO2排出量を2019年に比べて48%削減することが必要と認識しております。

当社グループではこの目標に沿って自主目標を2031年3月期までに2020年3月期に比べて48%削減とし、その途中の2027年3月期には、2020年3月期比31%削減と設定しました。

今後、1.5℃シナリオを想定し、更に規制強化が考えられることから、欧米での炭素取引単価を参考に、インターナルカーボンプライシングでは、炭素税単価をこれまでの8,000円/t-CO2から14,500円/t-CO2に見直しました。その単価から試算される当社グループ全体での炭素税額は約971百万円となり、各製品に対する収益性への影響を分析し、その影響を回避するためのCO2排出量削減対策の立案と販売価格の値上げの必要性を検討していきます。

また、当社グループにおけるScope3カテゴリー1~8の算定と開示を開始、サプライチェーン全体の温室効果ガス排出量における当社グループの影響度を把握し、削減に貢献できるように努めてまいります。

 

(3)人的資本投資・人財育成及び人財の多様性の活用

①ガバナンス

人的資本投資・人財育成及び人財の多様性の活用に関するガバナンスは、「(1)サステナビリティ共通 ①ガバナンス」で述べたとおりです。

 

②戦略

当社グループでは、時代の変化と共に社会から求められる企業価値も変化している事を認識し、企業価値の向上と新たな価値の創出に向け、サステナビリティを意識したESG経営に取り組んでおります。

新たな価値の創出には、新たな発想が必要であり、それには“人の力”が不可欠と考えております。“人の力”を引き出し、“人を育成する”ことで人は価値を生み出す企業の財産になるとの認識から、当社では「人材」ではなく「人財」と表現しております。

当社グループの掲げる新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」の目標達成に向けて、人的資本及び知的財産への投資と人財育成の重要性を認識し、2023年4月に以下の「人財育成方針」「社内環境整備方針」を制定しました。

更に、2024年3月期では、最優先に取り組む当社グループの課題として、モノづくりメーカーの従業員としての“働き甲斐”、“誇り”、“仲間への貢献意欲”といったエンゲージメント向上について社内で議論を重ねました。

このエンゲージメントを向上するHR戦略を立案し、新たな体制作りを進めました。

詳細は「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営環境及び優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題等 エ、HR戦略・DX推進 (ア) HR戦略」を参照ください。

 

a.「人財育成方針」

当社グループは、企業の成長は人に拠って立ち、人の成長も企業に拠って立つという互いに切磋琢磨していく関係にあると理解しております。このため、財産である「人財」の育成は、企業価値の向上に必要不可欠であり、重要な経営課題のひとつと考えております。

当社グループでは、「人に興味を持とう、新しいことに興味を持とう、未来に興味を持とう」という企業理念を礎として、従業員の多様性や仕事に対する考え方を十分に尊重しつつ、企業と人財が互いに高め合っていくビジョンを共有し、自らがありたい姿の実現に向けて、地道にかつ着実に、相互に磨き上げてまいります。

更に「人財育成方針」を実現させるための「社内環境整備方針」を以下のように定めております。

 

b.「社内環境整備方針」

当社グループは、人財育成方針を実現し、魅力ある会社となることを目指し、全社目標の達成に向けて社員一人一人の能力を十分に発揮できるように、以下の社内環境整備に取り組んでまいります。

・世代を問わず自ら学ぶ姿勢を支援します。

・成果に対する適切な評価と対話を行います。

・社内・外との知識交流・文化交流の機会を創出します。

・達成欲求・貢献意欲を高める人事制度を推進します。

・多様性と価値観を尊重し、人財を活かせる人事制度を推進します。

・長く働ける職場環境整備と人事制度を推進します。

 

c.戦略と人的資本、知的財産(知恵・経験・人脈)の連携

当社グループの掲げる新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」の基本戦略の実現に向けて、人的資本及び知的財産の投資と活用は、競争優位性確保を実現するイノベーションの創出に不可欠な取り組みです。必要な人的資本と知的財産の現状を把握し、企業文化としての定着促進などの視点を踏まえ、以下のような取り組みを行っております。

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新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」に基づく手段と取り組みは以下のとおりです。

各テーマの指標と目標は事業の状況を鑑み、適宜見直しを行ってまいります。

 

経営戦略:技術主導による競争優位性の確保

実現のための手段

取り組み

・技術者の採用強化

・技術者の育成

・知財の獲得及び知財の市場ニーズへの展開

・研究開発費の強化、職場環境の充実

・オープンイノベーションの取り組みの促進

・知財戦略の積極的展開

 

経営戦略:事業基盤の強化のための海外事業の拡大

実現のための手段

取り組み

・海外営業力の強化

・外国人や海外駐在経験者の中途採用強化

・海外ビジネススキル向上の機会の提供

・多様性を認め合う企業風土づくり

・海外法人の経営能力の強化(育成)

・海外ビジネススキル・ノウハウの蓄積・継承

 

経営戦略:サステナブル社会の実現に向けたESG重視の経営推進

実現のための手段

取り組み

・労働安全衛生向上

・化学物質管理

・ダイバーシティ&インクルージョン

・ガバナンス体制の強化

・職場環境の整備と更なる改善

・労働安全衛生の管理強化

・IoT、DXを活用した労働生産性の向上

・年齢、性別、国籍、宗教に対する偏見を排除する社風の維持向上

 

経営戦略:HR戦略

実現のための手段

取り組み

・経営戦略と個人目標の連動
・評価・報酬制度
・人財育成のための研修制度

・社員が成長を感じられる環境整備

・納得感が得られる人事制度の拡充

・研修制度の拡充

・エンゲージメント調査の実施と公表

・社員の健康増進に向けた取り組みの拡充

 

d.健康経営

①健康経営に関する考え方

当社グループは、「CSR・ESG基本方針」に掲げるサステナブルな成長を実現させるために、従業員の心身の健康維持・増進と多様な人財が働きやすい職場環境・企業風土づくりが重要であると考えます。

健康経営に関する取組みの積極的推進により従業員がポテンシャルを最大限発揮することで企業価値の向上を図り、事業活動を通じて社会に貢献してまいります。

 

②推進体制

当社グループでは、代表取締役社長を健康経営責任者とし、大日精化健康保険組合と従業員の健康課題の把握と対策の検討にあたり、関係組織と連携して心と身体の健康づくりに関する具体的な施策を実施していきます。

詳細は以下のサイトにてご確認下さい。

https://www.daicolor.co.jp/csr/social/health/index.html

 

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③リスク管理

当社グループでは、社会全体がサステナブルな成長を達成するためには、人財育成と多様性の活用を進めると同時に人権に配慮した事業活動、製品の提供が必要であると認識しております。

当社グループでは、以下に述べる取り組みを通して、サプライチェーンパートナーと共に価値を創出し、サステナブルな成長を目指してまいります。

 

a.人権尊重に関する取り組み

ⅰ)「人権方針」

当社グループでは、基本的人権尊重の原則を定めた「国際人権章典」、国際労働機関(ILO)の定めた「労働における基本的原則及び権利に関するILO宣言」、国連の定めた「ビジネスと人権に関する指導原則」及び「国連グローバル・コンパクト10原則」などの人権に関する国際的な規範を支持、尊重し、「CSR・ESG基本方針」に基づき「人権方針」を定め、人権尊重に関する取り組みを推進しております。

「人権方針」は当社グループのホームページにてご確認下さい。

URL:https://www.daicolor.co.jp/csr/policy/index.html#no01

 

ⅱ)プロセス

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ⅲ)人権デュー・ディリジェンス

当社グループは、人権デュー・ディリジェンスの仕組みを構築し、自らの事業活動に関連した人権に対する負の影響を特定し、その予防と軽減に努めてまいります。

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ⅳ)体制

当社グループでは、人権尊重のみならず、コンプライアンスの徹底に向けた推進体制を整えております。人権尊重に関しては、公益通報者保護法第7条第3項第1号及び第2号に基づき、内部通報規程を制定し、人権リスクの発生防止と早期発見、早期是正に努めております。その取組状況は、総務・人事本部の担当取締役を委員長とするハラスメント防止委員会にて確認しております。

詳細は以下のサイトにてご確認下さい。

https://www.daicolor.co.jp/csr/basis/index.html

 

ⅴ)教育

当社グループでは、人権の尊重、法令や社会規範の遵守はもとより、高い倫理観と良識を身に付け、人権リスクの発生防止の為に、コンプライアンス研修と管理職を対象としたハラスメント防止研修を行っております。その研修結果は取締役会に報告、指示を受けております。

 

ⅵ)通報・評価

当社グループでは、法令違反、社会規範に反する行為等の不適正行為の早期発見、早期是正に向けて、公益通報者保護法第7条第3項第1号及び第2号に基づき、内部通報規程を制定し、その規程に基づき指名した「企業倫理ホットライン窓口」を設置しております。窓口は、当社の従業員による「CSR・ESG推進統括部窓口」、当社の監査役による「監査役窓口」、当社から委託した法律事務所の弁護士による「外部窓口」の3種類を設けております。各窓口に通報された事案は直ちにCSR・ESG推進本部長に報告され、内部通報規程にて選任されている調査業務従事者による調査と評価が行われます。

これらの取り組みの結果、重大な人権リスクは発生しておりません。

 

b.パートナーシップ構築宣言

当社グループでは、サプライチェーンの様々な企業との新たな価値を創出し、共存・共栄を目指すと共に、取引先との適切な関係を維持するために、2023年3月1日にパートナーシップ構築宣言に登録いたしました。

当社グループの積極的に取り組む個別項目は以下の2項です。

・オープンイノベーションによる企業間の連携

・脱炭素化社会の実現に貢献する製品の拡販、生産工程等の脱・低炭素化によるグリーン化の取組み。

詳細は以下のサイトにてご確認下さい。

https://www.biz-partnership.jp/declaration/23418-05-08-tokyo.pdf

 

c.マルチステークホルダー方針

当社グループでは、様々なステークホルダーとの協働により生み出された収益をステークホルダーの皆様に適切に分配し、共に成長していく事を目指して、2023年3月1日にマルチステークホルダー方針を制定しました。

従業員に対しては、積極的な人財育成と適正な賃金の引き上げによりエンゲージメントの向上に取り組むと共に、取引先の皆様に対しては上記のパートナーシップ構築宣言に沿った取り組みを進めてまいります。

詳細は以下のサイトにてご確認下さい。

https://www.daicolor.co.jp/csr/policy/index.html

 

④指標と目標及び実績

当社グループでは、多様化する社会のニーズに対する経営戦略において、異なる経験・経歴、技能、属性を持つ者を幅広く採用し、「人財の化学反応」を早期に起こすことを優先すべきとの観点から、人財育成方針、社内環境整備方針、マルチステークホルダー方針等に沿って、性別、国籍、採用時期等の区別なく積極的に採用の機会を設け、仕事に対する考え方、思いも十分に尊重した人事配置とジョブ・ローテーションにより、従業員に活躍の場を平等に提供しております。

その結果、女性・外国人・中途採用者の比率は着実に増加しており、特に、女性社員の比率、就業年数、管理職・中核人財への登用の比率が確実に伸びてきておりますが、女性・外国人・中途採用者に固執することなく優れた社員を管理職に登用するべきであり、属性別に数値目標を掲げることは寧ろ機会平等に反する結果になりかねないとの方針により、現状では、敢えて、女性・外国人・中途採用者ごとの目標は設定しておりません。このため、女性・外国人・中途採用者を合計した数値で管理職登用の中期目標を定め状況をモニタリングしております。

人財の多様性及び女性活躍推進に関する開示  指標と目標及び実績(集計範囲:当社国内グループ)

女性の職業生活における活躍の推進に関する法律

(以下、「女性活躍推進法」)の開示項目(指標)

当社の目標

2024年3月期

実績

区分

項目

女性活躍促進法の開示

項目(指標)

新卒採用者に占める

女性の比率

2026年3月期までに新卒採用者に

占める女性正社員比率30以上

34.1

職業生活と家庭生活の

両立

有給休暇取得率

(役員、海外赴任者除く)

2026年3月期までに正社員の有給

休暇取得率70以上

75.9

 

男女の賃金の

差異

区分

大日精化工業㈱

浮間合成㈱

ハイテックケミ㈱

大日カラー・

コンポジット㈱

全労働者

71.8%

63.1%

60.4%

64.9%

正社員

71.8%

61.8%

75.8%

63.3%

パート・

有期社員

66.1%

70.6%

55.3%

55.7%

男女の賃金の差異:女性の平均賃金÷男性の平均賃金(%)

対象期間:2023年4月1日から2024年3月31日

賃金:基本給、超過労働に対する報酬、賞与等を含み、退職手当、通勤手当を除く

正社員:当社から社外への出向者は除き、社外から当社への出向者を含む

パート・有期社員:期間工、パートタイマー、嘱託を含み、派遣社員を除く

 

(補足説明)

基準外賃金を除いた正規社員職階(※)別男女の賃金差異の平均値

男女の賃金の

差異

C1

C2

C3

C4

C5

97.3%

90.0%

94.0%

91.0%

92.4%

※新卒入社者はC1に格付けられ、C5が管理職層となる

当社のキャリアパス制度は職階制を用いております。各人が担う役割や責任を負う層ごとに区切った上で、所定時間外労働や休日労働に起因する賃金を除いて比較すると、大きな差は存在しません。

当社では、「賃金は労働の対価である」という原則に基づき賃金制度を運用していることから、賃金の設定・支給について性別を理由とする区別は設けておりません。

 

(4)生物多様性の保全に関する取り組み

生物多様性の保全に関する考え方

我々の日常生活や企業活動は、自然資本の恩恵により成り立っています。原材料の調達段階から製品の廃棄段階までを含めた製品のライフサイクル全般において、当社グループの事業活動が自然から受ける恩恵と自然に及ぼす影響の双方から評価し、サステナブルな成長を遂げられるように事業を計画する必要があります。

当社グループでは、事業活動による生態系への負荷を最小限に抑えるために、事業活動が生態系に与える影響をTNFDの枠組みに基づき製品のライフサイクル全般においてリスクと機会の両面から把握し、TCFDと相互に連携させ、当社技術を活かして生物多様性の保全とサステナブル社会実現に貢献する価値の創出に努める事に取り組んでおります。

代表的な取り組みとしては、揮発性有機化合物や特定化学物質の使用により生じる大気汚染や水質汚染等の環境負荷軽減に向けた自らの管理活動と当社グループの製品使用段階で生じる環境負荷軽減に貢献する製品開発の両輪で推進してまいります。

また、当社グループが現在加盟しているクリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス(CLOMA)をはじめとするイニシアティブへの参加や事業所の近隣地域コミュニティーとの協働作業にも積極的に参加し、生物多様性の保全と再生に努めてまいります。

 

①ガバナンス

生物多様性の保全に関するガバナンスは、「(1)サステナビリティ共通 ①ガバナンス」で述べたとおりです。

②戦略

当社グループのライフサイクルにおけるリスクと機会を以下の様に特定し、取り組んでおります。

ライフ

サイクル

リスクと機会

当社グループの取り組み

原材料調達

リスク

生態系の破壊や貴重な種の絶滅を防止、保全するために植物や鉱物の採取の制限が生じる

購買方針に基づき、生態系に悪影響を与える事が確認されたサプライヤーからの原材料調達を停止する

水リスク地域における揚水量の制限が生じる

水の循環利用に努め、揚水量・排水量を削減する。

機会

貴重な資源の枯渇防止に繋がる製品の市場価値が高まる

汎用原材料を使用してレアメタルの代替品となる製品の開発を検討する

製品開発

製造・物流

リスク

水系の生態系の保全のために、工場からの排水管理の規制が強化される

工場の排水処理設備の管理を徹底し、水系の生態系への負荷を低減させると共に保全に努める。

水系、特に廃プラスチックによる海洋汚染防止の為に廃プラスチックのリサイクルを促進する。

大気汚染に繋がる有害物質を含む原材料、資材の使用に関する規制が強化される

当社製品の製造工程で発生する有害物質(主に揮発性有機化合物)や温室効果ガスを低減させると共に保全に努める。

機会

有害物質の使用量を減らした環境配慮型製品の市場価値が高まる

お客様から大気中に排出される有害物質(主に揮発性有機化合物)や温室効果ガスを減らせる製品の開発と販売を促進する。

お客様の工場から水系に排出される有害物質を低減できる製品の開発と販売を促進する。

廃プラスチックによる水系の汚染防止の意識と法規制が高まる

水系での生分解性プラスチックの開発を促進する。

その他

リスク

過去に発生した当社グループ敷地内の土壌汚染物資が拡散するリスク

土壌汚染が確認された事業所では、直ちに行政と協議の上、汚染の拡散防止対策と浄化作業に着手している。

機会

当社グループの事業所外の近隣地域の生態系の保全活動を行い、社会的な価値を高める

近隣のコミュニティーと協働し、事業所周辺の美化活動、緑化の支援、水系の保全活動を推進する

 

想定機会と注力事業は以下のとおりです。

想定機会

注力事業(以下の製品開発と販売促進)

大気への有害物質の使用量を減らした環境配慮型製品の市場価値が高まる

・揮発性有機化合物の使用量を減らした水性塗料・インキ、ノントルエンインキ

・塗工工程の乾燥段階で揮発性有機化合物の排出と乾燥

エネルギー消費に伴うCO2排出量を削減できるUVコート剤、

EBコート剤

水系への有害物質の使用量を減らした環境配慮型製品の市場価値が高まる

・化学染料を使用した繊維着色工程の排水による水系への

環境負荷を避ける為に化学繊維の紡糸段階で着色する

原液着色剤

廃プラスチックによる水系の汚染防止の意識と法規制が高まる

・マイクロプラスチックによる海洋汚染防止に寄与できる

化粧品材料向け生分解性を有する天然素材による樹脂

パウダー

 

③リスク管理

当社グループでは、CSR・ESG推進本部にて、生物多様性の保全に関するリスクについて、気候変動への取り組みと同様に法令改正や業界動向の変化などによる規制強化や需給構造の変化を把握し、リスクと機会を特定し、事業計画に反映させております。これらリスクと機会の内容は前述「②戦略」の項で述べたとおりです。

リスク内容に応じてCSR・ESG推進本部から実行部門である各機構及び関係部署にリスク対応業務を指示しております。リスクの特定結果とリスク対応業務とその実施状況は、内部統制に関する環境委員会に四半期毎に報告され、取締役会にて年1回以上報告され、監督されております。

 

④指標と目標及び実績

生物多様性の保全に関する指標と目標は、「(1)サステナビリティ共通 ④指標と目標及び実績 a. b. c. d.」で述べたとおりです。

3【事業等のリスク】

(1)リスク管理体制

当社グループのリスク管理は、当社を取り巻くさまざまなリスクを包括的・戦略的に把握・評価し、優先度をつけて効率的に対処し、経営目標の達成と企業価値の向上に寄与することを目指して、代表取締役社長の指示のもとCSR・ESG推進本部が内部統制に関する社内体制整備として推進しています。リスク管理の体制は、各機構の取締役及び役付執行役員がリスクの自己点検を行い、これにより確認されたリスクから重大なリスクを抽出、評価・選別の上、その対処すべきリスク対策を各機構の取締役及び役付執行役員から業務執行部門に指示し、その進捗状況を管理しております。このリスク対策の進捗状況は、定期的に各機構の取締役からCSR・ESG推進本部に報告され、代表取締役社長と監査役に情報共有・監督されております。

また、化学物質を扱う製造業にとって重大かつ恒久的に生じる安全衛生・保安防災、環境保護、化学物質管理などのリスク管理については、全社横断的に対応する為の委員会を設置し、リスク低減の為の活動方針の策定、業務執行の監督を行っております。緊急に重大リスクとなり得る問題が発生した場合は、適宜、対策本部等を設置し、対応を図ってまいります。

 

(2)事業リスク

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

Ⅰ.戦略リスク

グローバル化への対応と事業の長期発展に対応するための戦略に起因するリスクのうち、現状、以下の3つを主要なリスクと認識しております。

*短期:1~2年以内、中期:3~5年以内、長期:5年超、不明:想定困難

1)需要構造変化への対応

顕在化する可能性:高

顕在化し得る時期*:短期~中期

顕在化した場合の影響度:大

リスク:需要変動

当社グループは、車両業界、情報・電子業界、建材業界、繊維業界、パッケージ業界など様々なお客様向けに製品を提供し、グローバルに事業展開をしております。

好調・不調を相互に補完できる幅広い業界とお取引がありますが、個々の業界や特定の地域で大きな需要変動があった場合にはその事業範囲で影響を受けることとなり、経営成績に影響を与える可能性があります。

対応:①車両業界、情報・電子業界

特に車両業界において車の生産台数が減少したことと、液晶ディスプレイの需要減による在庫調整が続いたことから、これら業界向けに販売している事業領域で影響を受けました。お客様の情報を元に当社生産計画を適時修正することにより適切な在庫管理を行うとともに、サプライチェーン上の在庫調整が終了した際の出荷増・販売増にも対応できる体制を継続しました。

対応:②パッケージ業界

パッケージ業界向けの、食品包装用やペットボトルラベル用のグラビアインキは、比較的景気に左右されにくい事業と認識しております。2019年6月にグラビアインキ等を生産する埼玉県川口市から茨城県坂東市への新工場移転計画を発表以降、フードロス問題に起因する販売数量の減少、コロナ禍での人流減と原材料価格高騰、物価高による買い控えの影響を受け、当初想定していた移転計画の根拠となる事業計画と乖離が生じ、且つサプライチェーン上の在庫過多の解消に想定以上の期間を要したことから、2期連続の減損損失を計上することとなりました。2024年3月で移転が完了し、国内3拠点(川口、滋賀、坂東)稼働が2拠点(滋賀、坂東)稼働となったことから、固定費負担等の削減と、新設備での合理化推進、当社の強みを生かせる市場への注力、また、塗加工技術を生かした成長が見込める情報電子・産業資材への拡大を進めてまいります。

 

 

対応:③印刷市場

オンデマンド印刷やデジタルサイネージの普及に加え、リモートワークなど働き方改革が広まった事により、商業印刷市場に依存したオフセットインキ事業においては市場縮小の影響を受けております。このトレンドは一層強まることとなると予想しており、オフセットインキ事業の経営効率化に取り組んでおります。一方、オンデマンド印刷向けの事業として、インクジェットインキ用色材、液晶ディスプレイパネル向けの事業として、カラーフィルター用顔料、パネル用コーティング剤などの開発と拡販に注力しております。

リスク:サステナビリティへの対応

サプライチェーン全体で脱炭素化、資源の循環、人権の保護などサステナビリティ社会の実現に向けた意識が高まっています。当社グループではステークホルダーの期待と信頼に応え、社会から生かされる会社、選ばれる会社となるために、積極的にサステナビリティ経営を推進する必要があると認識しております。

今後も社会・環境と当社の発展に向けて、お客様とサステナビリティに貢献できる価値を共創してまいります。

詳細は、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。

対応:

社会的課題とお客様の要望を当社の製品で実現できるように、技術開発力、お客様対応力、生産現場力のそれぞれの強みを発揮、連携させていきます。

そのためには人のチカラが重要と認識しており、人財の潜在能力を発揮させるために、社員のエンゲージメント向上に向けたHR戦略と業務改善に向けたDXを推進してまいります。

詳細は、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照ください。

リスク:サーキュラーエコノミーへの対応

世界的なプラスチックを取り巻く事業環境が変化し、プラスチックは資源であり、リサイクル利用すること、また枯渇する可能性が高い石油由来原材料でプラスチックを製造し、焼却処分する形態の事業は望まれない社会となっていると認識しております。特に欧州のプラスチック製品については再生材使用の動きが高まり、当社グループの主要製品である自動車向けプラスチックコンパウンド市場においては、再生材使用率の向上や情報開示に向けた動きを捉えています。今後もこのプラスチックの循環利用とバイオマス原材料によるプラスチック製品の需要が高まると想定しております。

対応:

当社グループのポリウレタン樹脂の事業においては、これまで培ってきたウレタン樹脂合成技術を活かし、ケミカルリサイクル技術の開発、ポリウレタン樹脂の原材料のバイオマス化といったイノベーションを創出していく事に取り組んでおります。これらのイノベーションを創出させるには、サプライチェーンパートナーとの連携に加え、設備投資や人的資本・知的財産への投資にも取り組んでいきます。

また当社グループの事業活動から排出されるプラスチック廃棄物を再資源化するために、各現場での廃棄物の分別回収を強化しております。

リスク:生物多様性への対応

世界的な動きである生物多様性の保全に向けた取り組みの強化を受け、生態系への負荷の少ない製品が求められております。当社グループの各種インキ、塗料、表面処理剤、ウレタン樹脂などは、顧客側で使用される段階で揮発性有機溶剤(VOCs)から有害なガスを発生させるものがあり、それらが大気汚染の原因になると認識しております。

対応:

これらの製品を通じて生物多様性の保全に寄与すると共に、これら事業の持続可能な成長を目指して、製品の水性化、溶剤使用量の低減に取り組んでおります。サプライチェーンパートナーと連携し、従来の溶剤系製品を順次環境負荷の少ない製品に切替えを進めております。

 

 

2)海外事業活動に関するリスク

顕在化する可能性:低

顕在化し得る時期*:不明

顕在化した場合の影響度:大

リスク:政治・地政学変動に関するリスク

当社グループの海外生産拠点は、当該国の政治体制、各種法令・規制の変更、経済的基盤及び自然災害発生のリスクがあり、これらが、グループ危機管理の想定以上に深刻化した場合には、各生産拠点の生産活動に重大な支障が生じ、当社グループの経営成績に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、長期化するロシアのウクライナ侵攻や、中東情勢、台湾有事が発生した場合の影響として、資源価格の高騰やサプライチェーン及び物流の混乱等のリスクがあると想定しております。

対応:

このリスクを回避するためには、特定国への投資に過大にシフトすることなく、リスク要因も考慮の上で適正な水準・割合に投資配分することで全体的なリスク緩和を図ることとしてまいります。

 

3)金融リスク

顕在化する可能性:中

顕在化し得る時期*:短期

顕在化した場合の影響度:小

リスク:①為替リスク

2025年3月期を初年度とする中期経営計画の施策として、「事業基盤の強化のための海外事業の拡大」を掲げております。現状の海外売上高比率は約30%にとどまっているものの、為替変動の影響を受けやすい水準であることは事実であり、今後同比率が高まっていくことにより、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

国内から輸出している事業、海外から調達している原材料については、個々の取引において為替影響を受けるため、これらの事業拡大によりリスクが拡大することが想定されます。

対応:

当社グループでは、国内における外貨建て輸出・輸入と海外連結子会社の外貨建て損益の円換算時に為替影響が生じます。現在、損益の均衡が比較的取れている状況であるため、為替の変動による収益への影響、リスクは小さいと認識しております。また、本リスクを極力回避するため、収入、支出を極力同一通貨で支払うこと、海外拠点における現地通貨の借入れを検討すること、必要に応じて為替先物契約を締結することなどにより、リスクヘッジを図ってまいります。

リスク:②金利変動リスク

当社グループは、事業資金の一部を主として金融機関から借入金として調達しております。総資産の効率的な運用を行い、財務体質の改善・強化を図るべく有利子負債の返済に努めておりますが、2024年3月末時点において長短期借入金合計で約249億円あり、今後の金利水準が上昇した場合には、支払利息の金額水準が上昇することにより、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。

対応:

足元の金融環境を勘案すると、長期金利は上昇基調にありますが、以下に述べる方策により、本リスクが当社グループに与える影響は比較的小さいと思われます。新たに資金需要が生じた場合においても、キャッシュマネジメントシステム(CMS)により、金融費用の削減、当社グループ内に存する資金を効率的に活用することで対応するほか、取引金融機関との間で調整の上で、長期固定金利借入や金利スワップ契約等を導入することで、長期にわたって低金利を享受できる契約構成を維持できるよう進めてまいります。

 

Ⅱ.オペレーショナルリスク

事業系オペレーショナルリスク(仕入・生産・販売活動)及び管理系オペレーショナルリスク(事業継続するための管理体制とCSR対応)に起因するリスクのうち、現状、以下の4つを主要なリスクと認識しております。

 

1)購買に関わるリスク

顕在化する可能性:高

顕在化し得る時期*:短期

顕在化した場合の影響度:大

リスク:原材料調達リスク、原材料及びエネルギー価格の変動リスク

主力原材料である石油化学誘導品及びエネルギー(電気、ガス等)は、原油価格の動向に伴う価格変動のほか、為替変動、天災、事故、政策なども含めた生産国での状況の変化などにより、価格変動のみならず、調達不安に陥る可能性もあります。当社グループ製品が使用されている最終消費財の市況や供給責任なども勘案しますと、原材料及びエネルギー価格の上昇をすぐさま製品価格に反映させるには時間を要すことから、結果として原材料及びエネルギー価格の上昇が当社グループの収益を圧迫することにつながります。

対応:

本リスクは、化学メーカーである当社グループにとって回避しづらいものであることは事実ですが、生産計画策定にあたっては、価格予測、需要予測をできうる限り丁寧に行い、また、一定の原材料在庫を保有した上で市場状況を見ながら原材料購入のタイミングを図る、あるいは、特定の企業・国に偏することなく、原材料の代替購入先を常日頃から調査の上で確保することなどにより、当社グループの業績に与える影響を緩和することに努めております。

また販売活動においては、お客様へ原材料及びエネルギーの市場動向や予測されるリスクなどを説明し、販売価格の見直しにご理解をいただけるように努めております。

2)コンプライアンスに係わるリスク

顕在化する可能性:中

顕在化し得る時期*:中期

顕在化した場合の影響度:大

リスク:①化学物質管理リスク、品質管理リスク

当社グループでは、多種の化学物質を取り扱っており、その保管、使用、移動、排出、廃棄において法令遵守を徹底しております。しかしながら、化学物質管理や環境管理関連において、国内・海外を問わず法的要件が強化されることがあり、遵守できていない場合には罰則を受けるだけでなく、輸出入の禁止や生産活動の停止による、収益機会の喪失、あるいは対処するための支出を招く蓋然性があり、当社グループの業績に与える影響は甚大となる可能性があります。

対応:

特定のセグメント(事業機構)から独立した化学物質管理体制及び環境、安全衛生体制(組織)を充実させることと同時に、特に化学物質管理においては要件変更への対処に遺漏が生じることのないように、システムによる管理(新化学物質管理システム)の構築を進めているところであり、これによりリスクコントロールを行うこととしております。

リスク:②製造物責任、補償のリスク

環境、安全衛生上の問題や、製品の品質管理上の問題などに起因して、大規模な損害賠償につながるリスクが現実化し、賠償金支払いが生じる可能性があります。

対応:

現在、当社グループが付保しております賠償責任保険等、保険契約の内容を勘案すると、これらの発生する蓋然性は比較的小さいものと判断しておりますが、引き続き、保険内容を十分に検討した上での付保手続きを進めてまいります。

3)情報セキュリティリスク

顕在化する可能性:中

顕在化し得る時期*:中期

顕在化した場合の影響度:大

リスク:

当社グループは事業活動の中で取引先の情報、技術、契約、人事等の機密情報を取り扱いますが、多くは情報システムで管理しております。サイバー攻撃、不正アクセス等によるデータの改ざん、逸失、情報の漏洩、また災害や障害によるシステムの停止が引き起こす事業活動の停止などが発生した場合、当社グループの業績に悪影響を及ぼす可能性があります。

対応:

これらのリスクを低減するため、ネットワーク監視、ウイルス対策、アカウント管理などの基本的な情報セキュリティ対策、バックアップなどの適切なデータ保全、従業員に対する情報セキュリティ教育、セキュリティ事故等に対応する体制の整備などに取り組んでおります。

 

 

4)人員・人財不足のリスク

顕在化する可能性:中

顕在化し得る時期*:中期

顕在化した場合の影響度:大

リスク:

当社グループのサステナブルな成長には、優秀な人財の継続的な獲得が欠かせないと認識しております。出生率低下で新卒者減少に伴う優秀な人財の採用逸失、有能な人財の流出が頻発する場合は、当社の長期的な成長戦略に影響を及ぼす可能性があります。

対応:

新卒・中途を問わず積極的に採用を行いつつ、イノベーションが湧き上がる活力に満ちた企業風土を醸成するべくHR戦略を推進しております。例えば新卒採用については、就職活動早期化に対応する為のインターンシップ開催時期の前倒し、確実な入社に繋げるべく内定者との懇談の頻度を上げる等の工夫を行い、重要な経営資源である人財の維持・拡充を図っております。また、経営戦略を効率よく達成するために、異なる経験・経歴、技能、属性を持つ者を幅広く採用し、「人財の化学反応」を早期に起こすことを優先するという観点から、性別、国籍、採用時期などの区別なく積極的に中途採用の機会を設けております。

HR戦略を着実に推進することにより、人財のエンゲージメント向上を図ることで、人財流出を回避することとしております。詳細は、「1.経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)経営環境及び優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題等 エ、HR戦略・DX推進 (ア) HR戦略」を参照ください。

 

Ⅲ.ハザードリスク

1)自然災害のリスク

顕在化する可能性:中

顕在化し得る時期*:不明

顕在化した場合の影響度:中

リスク:

近年、大規模地震や大雨等の自然災害のリスクは高まっており、被害の規模によっては生産設備や情報処理システムの毀損、従業員の出勤不能、物流機能の停滞、原材料の調達難などにより当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループの営業拠点や生産拠点の在る自治体のハザードマップによると操業に大きな影響を及ぼす可能性のある拠点があります。大規模な集中豪雨などにより、一時的に事業の継続が困難になる可能性があります。

対応:

大規模災害などの経営危機に迅速に対応できるように、本社にて危機管理体制を整備し、各事業所にも災害対応の初動体制を設けております。通常運営時の収益性とビジネス・コンティニュイティ・プラン(BCP)のバランスを考慮し、主要な事業や製品供給の代替体制を逐次推進しております。しかしながら、特定リスクの発生確率を事前評価することは非常に困難であり、大規模災害時には予想通りの状況にならないという教訓から、様々な状況に機動的に対応できる訓練を重視した事業継続対策を進めております。

2)疫病等のリスク

顕在化する可能性:中

顕在化し得る時期*:不明

顕在化した場合の影響度:中

リスク:

感染症の大流行(パンデミック)が発生すると、従業員の出勤不能、物流機能の停滞、原材料の調達難などにより当社グループの事業活動と業績に大きな影響を及ぼす可能性があります。

対応:

突然のパンデミックに迅速に対応できるように、本社にて危機管理体制を整備し、各事業所にもパンデミック対応の初動体制を設けております。通常運営時の収益性とビジネス・コンティニュイティ・プラン(BCP)のバランスを考慮し、主要な事業や製品供給の代替体制を逐次推進しております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は以下のとおりであります。

 

(1)経営成績等の状況の概要

①経営成績

当連結会計年度の当社グループを取り巻く経済環境は、インフレ等による世界的な需要の減少により欧州・中国経済が停滞する一方、日本経済は、好調な自動車生産やインバウンド需要により緩やかに回復となりました。

このような環境の中、当社グループは、最終年度を迎えた中期経営計画の基本戦略である「技術主導による競争優位性の確保」「サステナブル社会の実現に向けたESG重視の経営推進」「事業基盤の強化のための海外事業の拡大」と資本効率を重視した経営に基づく施策を引き続き進めてまいりました。

当社グループの主要な業界別の売上動向ですが、輸送機器業界向けは、サプライチェーン上の在庫調整が概ね完了し、下期から回復しましたが、年明け以降、震災等の影響により弱含みとなりました。情報電子業界の液晶ディスプレイ向けは、前期の落ち込みから回復しましたが、下期にかけて再び弱含みで推移し、包装業界及び建材業界向けは物価高を背景とした消費低迷により低調に推移しました。海外は、中国現地法人が景気低迷により低調に推移しました。この結果、売上高は、1,198億2千4百万円(前年同期比1.8%減)と減収になりました。

一方、営業利益は、原材料価格は高止まりましたが、販売価格の改定を進め45億5千万円(同72.7%増)と増益になりました。また、経常利益は、50億3百万円(同48.3%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は、特別利益に政策保有株式売却による投資有価証券売却益、特別損失に固定資産の減損損失を計上した結果、36億6千万円(同82.3%増)とそれぞれ増益になりました。

次に報告セグメントの業績についてご報告いたします。

 

(カラー&ファンクショナル  プロダクト)

当事業は、顔料・繊維用着色剤・プラスチック用着色剤・コンパウンド・顔料分散体・機能性材料の製造・販売を行っております。

情報電子業界向けの顔料及び分散体の売上高は、期初から好調でありました液晶ディスプレイ用途が期末にかけて弱含みで推移しました。輸送機器業界向けのコンパウンド・着色剤は、在庫調整の完了により回復しましたが、年明け以降は震災等の影響により弱含みで推移しました。海外のコンパウンド・着色剤は、インド子会社の自動車向けが好調に推移した一方、中国子会社の家電OA機器向けが低調に推移しました。

これらの結果、当セグメントの売上高は、655億1千7百万円(同2.5%減)と減収になりましたが、営業利益は、販売価格の改定を進めた事により24億5千3百万円(同22.4%増)と増益になりました。

 

(ポリマー&コーティング  マテリアル)

当事業は、ウレタン樹脂・UV・EBコーティング剤・天然物由来高分子の製造・販売を行っております。

ウレタン樹脂は、輸送機器業界向けが期初より回復しましたが、年明け以降、震災等の影響により弱含みで推移しました。衣料品・服飾品業界向けは、中国で一部需要低迷がありましたが、総じて堅調に推移しました。情報電子業界の液晶ディスプレイ向けのコーティング剤は、期初から好調に推移しましたが、第4四半期以降、市況低迷により低調に推移しました。

これらの結果、当セグメントの売上高は、239億6百万円(同1.1%増)、営業利益は、26億5千9百万円(同34.5%増)と増収増益になりました。

 

(グラフィック&プリンティング  マテリアル)

当事業は、グラビアインキ・オフセットインキの製造・販売を行っております。

包装業界向けのグラビアインキは、物価高により食料品向け軟包装用途が低調に推移しました。海外は、インドネシア子会社で販売価格の改定が進み増収となりました。オフセットインキは、需要減少により低調に推移しました。

これらの結果、当セグメントの売上高は303億2千6百万円(同2.4%減)と減収になりましたが、営業損失は、前期に新工場移転費用の計上があったこと及び海外子会社において損益改善が進み、5億6千1百万円(前年同期は13億6千2百万円の営業損失)と損失は縮小しました。

②財政状態

(資産)

当連結会計年度末における資産合計は1,948億5千2百万円となり、前連結会計年度末と比べ20億8千6百万円増加しました。これは主に「原材料及び貯蔵品」が減少した一方で、「売掛金」及び「退職給付に係る資産」が増加したことによるものであります。

 

(負債)

当連結会計年度末における負債合計は756億8千5百万円となり、前連結会計年度末と比べ27億7千8百万円減少しました。これは主に「繰延税金負債」が増加した一方で、有利子負債が減少したことによるものであります。

 

(純資産)

当連結会計年度末における純資産合計は1,191億6千6百万円となり、前連結会計年度末と比べ48億6千5百万円増加しました。これは主に「自己株式」の取得により減少した一方で、「親会社株主に帰属する当期純利益」の計上により「利益剰余金」が増加したこと、「為替換算調整勘定」及び「退職給付に係る調整累計額」が増加したことによるものであります。

 

③キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べ16億7千8百万円減少し、214億2千5百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は次のとおりとなっております。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は、90億2千万円となりました。これは主に売上債権の増加により資金が減少した一方、「税金等調整前当期純利益」及び「減価償却費」の計上により資金が増加したことによるものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果使用した資金は、14億4千5百万円となりました。これは主に「投資有価証券の売却による収入」により資金が増加した一方、「有形固定資産の取得による支出」により資金が減少したことによるものであります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は、102億9百万円となりました。これは主に「自己株式の取得による支出」及び借入金の返済により資金が減少したことによるものであります。

 

④生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

(単位:t)

セグメントの名称

当連結会計年度

(自2023年4月1日

至2024年3月31日)

前年同期比(%)

カラー&ファンクショナル

プロダクト

190,182

△12.1

ポリマー&コーティング

マテリアル

23,230

△2.3

グラフィック&プリンティング

マテリアル

33,239

△8.3

報告セグメント計

246,651

△10.8

その他

合計

246,651

△10.8

 

b.受注実績

当社グループは過去の販売実績と将来の予想に基づいて見込生産を行っており、受注生産は行っておりません。

 

c.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

(単位:百万円)

セグメントの名称

当連結会計年度

(自2023年4月1日

至2024年3月31日)

前年同期比(%)

カラー&ファンクショナル

プロダクト

65,517

△2.5

ポリマー&コーティング

マテリアル

23,906

1.1

グラフィック&プリンティング

マテリアル

30,326

△2.4

報告セグメント計

119,750

△1.8

その他

74

△2.0

合計

119,824

△1.8

(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は以下のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討等

ⅰ経営成績の分析

当連結会計年度の当社グループの経営成績に対して特に重要な影響を与えた事象は、以下のとおりと考えております。

当連結会計年度の事業環境については、世界経済はロシアによるウクライナ侵攻長期化等の影響による原材料価格高止まりが継続し、インフレが引き続き進行、欧州・中国経済が停滞しました。また、コロナ禍にあった2021年、車両生産の急激な立ち上がりに対して半導体不足への対応もあり、サプライチェーン上に実需以上の在庫が発生し、その結果、2023年夏頃まで在庫調整が残ることになりました。液晶ディスプレイについては、在庫調整が一巡し期初から受注は回復しましたが、市況から第4四半期以降は低調に推移しました。国内においては、インフレから日用品や食品の買い控えが生じ、当社着色剤やグラビアインキで影響を受けました。

こうした社会的、経済的状況のもとで、売上高は、販売価格の見直しを進めたこと、円安による為替換算の影響を受けたことにより1,198億2千4百万円(前年同期比1.8%減)となり、利益面ではコスト上昇分の価格転嫁を進めたこと、主要得意先での在庫調整が一巡したことなどから、営業利益は45億5千万円(同72.7%増)、経常利益は50億3百万円(同48.3%増)となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、政策保有株式の売却を進め投資有価証券売却益を計上しましたが、「グラフィック&プリンティング  マテリアル」セグメントにおいて減損損失が発生したことなどにより、36億6千万円(同82.3%増)となりました。

 

足元では、インフレの進行により最終需要の減少が更に進行することが懸念される中、景気変動を先読みした金利変動が為替に影響を与えており、先行き不透明な状況が続くことが想定されます。

当社グループでは「3.事業等のリスク」で記載したとおり、引き続き各リスクに対応したリスク回避・削減策を積極的に推進していくことといたします。

 

各報告セグメントの概況は以下のとおりであります。

なお報告セグメント毎の実績は上記「(1)経営成績等の状況の概要 ①経営成績」に、生産実績・受注実績・販売実績は、同「④生産、受注及び販売の実績」にて、それぞれ記載しております。

(カラー&ファンクショナル  プロダクト)

当事業は、顔料・繊維用着色剤・プラスチック用着色剤・コンパウンド・顔料分散体・機能性材料の製造・販売を行っております。

情報電子業界向けのディスプレイ用顔料は、長期の在庫調整から脱し期初から回復が見られましたが、第4四半期以降は最終需要から小幅な在庫調整が生じ低調に推移しました。オフィス事務機器用途はコロナ禍前までは届かないものの堅調に推移しました。車両業界向けのコンパウンド・着色剤の売上高は、国内は長期の在庫調整から夏以降、徐々に回復が見られましたが、2024年初の能登地震による減産影響などによる自動車生産低迷により低調となりました。海外は、欧州・中国経済の停滞により低調に推移しました。

当事業はお客様が必要とされる品質の製品を適時かつ的確に供給することが必要ですので、市場動向、需要動向・原材料動向に関してお客様と情報交換を緊密にしつつ、引き続き国内外で収益確保・拡大を図ってまいります。また、お客様の需要予測に対して生産能力が将来不足することが明確になった事業に対しては、積極的に増能力投資を計画し実行すると同時に、研究開発に必要な設備についての増強も計画し実行しております。

 

(ポリマー&コーティング  マテリアル)

当事業は、ウレタン樹脂・UV・EBコーティング剤・天然物由来高分子の製造・販売を行っております。

ウレタン樹脂の売上高は、サステナビリティ製品である水性表面処理剤が自動車用途で日本、中国、米国において伸長し、アパレル向けも一部需要低迷の影響は出たものの概ね堅調に推移しました。海外の産業資材向けは、在庫調整が長引き低調に推移しました。また、二酸化炭素を原料とするヒドロキシポリウレタン(HPU)については、NEDOグリーンイノベーション基金事業として引き続き開発を進めております。情報電子業界の液晶ディスプレイ向けのコーティング剤は、長期の在庫調整から脱し期初から回復が見られましたが、第4四半期以降は最終需要から小幅な在庫調整が生じ減速しました。

 

(グラフィック&プリンティング  マテリアル)

当事業は、グラビアインキ・オフセットインキの製造・販売を行っております。

包装業界向けのグラビアインキは、国内は飲料ラベル用途等が堅調に推移しました。海外は、インドネシア子会社で販売価格の適正化が進み、大幅に増収となりました。グラビアインキにつきましては、継続してバイオマス由来の原材料を使用した製品の開発を進めた結果、グラビアインキの60%がサステナビリティ製品となりました。グラビアインキ事業は、茨城県坂東市に開所しました坂東製造事業所への生産移管が完了し、生産拠点統合による合理化を推し進めることができる環境が整いました。また、最新の合理化された生産設備を用いてお客様の必要とされる品質とスペックを適時・的確に供給していくことについても継続して進めてまいります。一方で、原材料価格の高止まりの影響を大きく受けた事業であることから販売価格の見直しを引き続き進め利益の確保に努めることといたします。なお、需要減少の流れを踏まえた合理化施策を進めてきているオフセットインキは、引き続き低調に推移しました。

 

ⅱ財政状態の分析

(資産)

当連結会計年度末における総資産は1,948億5千2百万円となり、前連結会計年度末と比べ、20億8千6百万円増加いたしました。これは「有形固定資産」は減損損失計上により減少しましたが、期末休日により「受取手形」及び「売掛金」が増加したこと、政策保有株式売却を進めましたが株価上昇により「投資有価証券」としては増加したこと、年金資産運用好調により「退職給付に係る資産」が増加したことなどによるものです。

保有している政策保有株式については、毎年取締役会において、保有目的の適切さや保有に伴う便益・リスクが資本コストに見合っているか等を精査し、保有の適否を検証してきておりますが、外部環境の変化から、引き続きお客様と話し合いのうえで合意ができたものから解消を進めてまいります。

 

(負債)

当連結会計年度末における負債合計は756億8千5百万円となり、前連結会計年度末と比べ、27億7千8百万円減少いたしました。

「短期借入金」「1年以内返済予定の長期借入金」及び「長期借入金」の合計となる外部借入債務は、304億4千1百万円から249億3千8百万円となり、前連結会計年度末と比べ、55億2百万円減少いたしました。これはグループ内資金の一層の効率化を諮ったことによるものです。

(純資産)

当連結会計年度末における純資産合計は、1,191億6千6百万円となり、前連結会計年度末と比べ48億6千5百万円増加いたしました。この結果、自己資本比率は59.9%となり、前連結会計年度末に比べ1.8ポイント上昇いたしました。財務の健全性に加えて、引き続き資本の効率性を重視し活用を行ってまいります。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、214億2千5百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は次のとおりであります。なお、連結キャッシュ・フロー計算書も併せてご参照ください。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動から得られたキャッシュ・フローは90億2千万円となりました。これは「税金等調整前当期純利益」に「減価償却費」及び「売上債権」「仕入債務」「棚卸資産」などの増減を加味したものであります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果支出した資金は、14億4千5百万円となりました。

IT顔料向け増産設備・ウレタン樹脂増産設備・2軸押し出し機増設など有形固定資産の取得に44億5千4百万円支出する一方で、政策保有株式の持合解消にともなう投資有価証券の売却収入などが33億3千6百万円あったことによるものです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果支出した資金は、102億9百万円となりました。

(単位:百万円)

主な項目

前連結会計年度

(自2022年4月1日)

至2023年3月31日)

当連結会計年度

(自2023年4月1日)

至2024年3月31日)

短期借入による収入

2,543

2,970

短期借入金の返済による支出

△1,813

△3,790

長期借入による収入

4,500

757

長期借入金の返済による支出

△7,315

△5,518

リース債務の返済による支出

△201

△234

 

投資活動に支出した資金をまかなうために、当社グループ内にて保有する資金のうちから営業活動の遂行にあたり必要となる資金相当分を控除した資金を活用することと合わせ、当該資金で不足する場合には、調達までの機動性や増資等による株式の希薄化を回避するためにも、主として銀行借入により調達しております。

 

③資本の財源及び資金の流動性

当社グループの事業活動の維持拡大に必要な資金を安定的に確保するため、主として営業活動によるキャッシュ・フロー、金融機関からの借入金などにより、資金を調達しております。また、当社及び主要な国内子会社の計5社でキャッシュマネジメントシステム(CMS)を導入しており、グループ内資金を一元管理し、現預金の水準を引き下げ、資金の効率化を図っております。財務上の方針としては、キャッシュ・フローの創出能力を最大化し、当社の中長期的な経営指標としているROA(総資産経常利益率)5%、ROE(自己資本利益率)9%の達成に向けて、財務面から継続的に支援を行うこととし、規律ある積極投資の基準を設けるとともに、経済の不安定要素に対する影響を抑えるため有利子負債の上限値を設け、資金調達コストを抑制しております。

有利子負債に関する数値基準としては、D/Eレシオ1倍以下を目安としており、当連結会計年度末におけるD/Eレシオは0.22倍となっております。金融機関には充分な借入枠を有していること、また取引銀行4行と個別に計70億円の貸出コミットメントラインを設定しており、流動性の補完にも対応が可能となっております。

④経営方針・経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループは、環境の変化に的確に対応し、持続的な社会の実現に貢献する製品、サービスを提供する技術オリエンテッドのソリューションカンパニーとして、事業の収益性・資本効率を重視する点から、ROA(総資産経常利益率)5%、ROE(自己資本利益率)9%を中長期的な経営目標として掲げております。

なお、技術開発に鋭意取り組んでいる新規発展分野及び継続発展分野への投資や海外新規ビジネス投資については、事業単位でのEBITDA(償却前・利払前利益)分析を駆使して事業評価を行うことなどにより積極的な成長機会を追求し、併せて、経営環境の変化に適時に対応するために、財務基盤の安定と成長を両立させることも重要な課題として認識しております。

 

⑤重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

5【経営上の重要な契約等】

(固定資産の譲渡)

当社は、2024年3月25日開催の取締役会において、以下のとおり、固定資産の譲渡について決議を行い、2024年3月27日に不動産売買契約を締結しました。

 

1.譲渡の理由

当社では、「グラフィック&プリンティング  マテリアル」セグメントにおける効率的な生産体制の確立を目的として、川口製造事業所(埼玉県川口市)から坂東製造事業所(茨城県坂東市)への移転を行いました。

この移転により、川口製造事業所の跡地利活用について、慎重に検討を重ねてまいりましたが、保有資産の有効活用及び資産効率向上のため、当該固定資産を譲渡することといたしました。

 

2.譲渡資産の内容

(1)

資産の名称

川口製造事業所

(2)

所在地

埼玉県川口市

(3)

土地面積

計16,755.45㎡(敷地面積)

(4)

建屋面積

計5,708.53㎡(延床面積)

(5)

譲渡益※

約77億円

(6)

現況

工場・寄宿舎

※譲渡益は、譲渡価額から帳簿価額や譲渡に係る費用等の見積額を控除した概算値です。

 

3.譲渡先の概要

譲渡先は国内事業法人1社です。

なお、譲渡先と当社との間には特記すべき資本関係、人的関係及び取引関係はありません。また譲渡先は、当社の関連当事者には該当しません。

 

4.譲渡の日程

取締役会決議日

2024年3月25日

契約締結日

2024年3月27日

物件引渡期日(予定日)

2024年8月30日

 

5.当該事象の連結財務諸表に与える影響額

当該固定資産の物件引渡しは2024年8月を予定しており、当連結会計年度における当社の連結財務諸表に与える影響はありません。

当該固定資産の譲渡益約77億円については、2025年3月期において特別利益に計上する予定であります。

 

(組織再編)

当社は、2024年1月17日開催の取締役会決議に基づき、2024年4月1日付でグループ内組織再編を行いました。詳細は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な後発事象)」に記載しております。

 

(コミットメントライン契約)

当社は、運転資金の効率的な調達を行うため、取引銀行4行と個別に計70億円の貸出コミットメントライン契約を締結しております。

詳細は、「第5 経理の状況 1.連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (連結貸借対照表関係)」及び「第5 経理の状況 2.財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (貸借対照表関係)」に記載しております。

6【研究開発活動】

当社グループは、企業の持続的な成長には新しい価値を創出し、社会貢献を行うことが必要という原点に立ち返り、変化する経済環境にも迅速に対応できる事業基盤を強化し、お客様へ課題解決を提案する化学メーカーとなるべく積極的に活動を進めております。新3か年中期経営計画「明日への変革 2027」の施策を策定するにあたり、社会的ニーズ(ESG)への貢献を最優先に、従来の注力4分野(環境、エネルギー、パーソナルケア、IT・エレクトロニクス)を改めて、①IT・エレクトロニクス 機能性材料、②ライフサイエンス・パーソナルケアの二つを新規発展分野、③モビリティ、④環境配慮型パッケージングの二つを継続発展分野として開発対象の中心に据え、製品開発に注力しております。

当社グループの研究開発組織は当社コーポレート研究部門である「合成研究第1本部」「合成研究第2本部」「分散研究第1本部」「分散研究第2本部」及びスタッフ部門である「技術管理本部」、それに加えて各事業部の「技術統括部」から構成されております。新事業・新製品開発のスピードアップと効率化を図るため全社技術を集約し、重点テーマの選定とリソース(人財・物資・資金・情報)の集中を図り、開発を進めております。

 

当連結会計年度における各セグメント別の研究開発費の金額は次のとおりであります。

セグメントの名称

前連結会計年度

(自  2022年4月1日)

至  2023年3月31日)

当連結会計年度

(自  2023年4月1日)

至  2024年3月31日)

増減率

カラー&ファンクショナル

プロダクト

1,558百万円

1,546百万円

△0.8%

ポリマー&コーティング

マテリアル

950

1,024

7.8

グラフィック&プリンティング

マテリアル

463

461

△0.4

合計

2,972

3,032

2.0

なお、複数の報告セグメントに係る研究開発費については、適切な配賦基準によって各報告セグメントへ配分しております。

また、当連結会計年度における各セグメント別の研究開発活動の状況は以下のとおりであります。

 

(カラー&ファンクショナル プロダクト)

当事業では、顔料合成技術を基に粒子形状や表面性質を高度に制御することで各種用途への高付加価値製品を提供するとともに、分散加工技術を基に繊維用・プラスチック用着色剤を内外の様々な産業分野に提供しております。また、当社グループ技術の多角的な展開を図り、機能性材料の開発・製品化にも取り組んでおります。

当該セグメントに該当する分野は以下のとおりです。

 

IT・エレクトロニクス 機能性材料分野では各種用途へ適性を持つ高品位製品の開発とともに、当社グループ内の関係技術部門との連携を緊密にし、要素技術の複合化により、色特性、省エネルギー化の向上に寄与するディスプレイ向けカラーフィルター用顔料やオフィス事務機器用顔料、電子部品の熱制御素材として高熱伝導性・放熱機能を有する無機複合材料・コンパウンド、情報端末などに使用される特殊配線被覆材向け着色剤、半導体関連材料向け導電コンパウンドなどの開発・改良に取り組みました。

前期に採用となったオフィス事務機器向け高分散マスターバッチは、その機能性が認められ、大幅に伸長しました。また、IJプリンターの印刷対象の広がりに対応した高意匠性を発現するIJインキ用顔料及び顔料分散体では、新たに産業用途向けへの開発に取り組み、市場評価を進めました。

 

ライフサイエンス・パーソナルケア分野では海洋生分解性をもち、「マイクロプラスチック」の課題を解決する化粧品材料として天然物由来材料「RUBLALEAFシリーズ」の開発・改良に取り組み、採用につなげました。

 

モビリティ分野では微分散化技術と調色・配合設計技術を基に、顔料及び機能性材料を加工したマスターバッチやコンパウンドを、様々な内外装材向けとして開発・改良に取り組み、採用に結び付けてきました。

また、新たな加工技術の開発に注力しつつ、金属からの樹脂代替(軽量化)、電気自動車、安全運転や自動運転化に貢献するマスターバッチ・コンパウンドの研究開発に取り組むとともに、その成果を展示会やオンラインで情報発信することにより、新規顧客開拓ならびにユーザー評価を進めました。

(ポリマー&コーティング マテリアル)

当事業では、社会環境課題を背景に、樹脂合成技術を軸として独自設計の無溶剤系及び水系ウレタン樹脂、原材料メーカーとの協創で進めるバイオマスウレタン樹脂などの樹脂の開発・製品化と、天然物由来材料を使用した素材の開発・製品化に取り組んでおります。また、分散加工技術を基に各種コーティング剤を内外の様々な産業分野に提供しております。

当セグメントに該当する分野は以下のとおりです。

 

IT・エレクトロニクス 機能性材料分野では、Beyond5Gや6Gなど「高速通信技術」の深化、スマート社会実現に着目し、プリント配線基板向けなどに高機能フィラーとしてウレタン微粒子、耐熱性・耐久性を向上したウレタン樹脂、フラットパネルディスプレイやタッチパネル、半導体関連向け紫外線・電子線硬化型コーティング剤、精密機器などの表面に機能付与する熱硬化型コーティング剤の開発・改良に取り組みました。紫外線・電子線硬化型コーティング剤では水性化やバイオマス材料を活用した開発・改良に加え、新たな機能性付与に向けた微分散技術、高粘度分散技術の確立により、無溶剤系の新グレード・価値提案を進めました。

 

ライフサイエンス・パーソナルケア分野では、従来のカニ殻由来のキチン・キトサン製品の開発に加え、キノコ由来のキトサンを用いて、化粧品原材料向けに動物由来原材料フリー、甲殻類アレルゲンフリーのキトサン誘導体の開発を進め、保湿性や抗菌性のほか、肌表面に薄い膜を形成して化粧効果を最大限に引き出す「フィルムフォーマー」としての機能が注目され、国内外でユーザー評価が進行するとともに、量産検証も行いました。

 

モビリティ分野ではサステナビリティ貢献製品として、水系や無溶剤、バイオマスウレタン樹脂及びウレタン微粒子の開発・拡販を行い、更に電装関連部材を考慮した、より耐熱性や耐久性を向上させたウレタン樹脂の開発に取り組み、採用に向けた評価が進みました。また、水系やバイオマスウレタン樹脂はサステナビリティ貢献製品としてモビリティ分野にとどまらず、アパレルやパッケージング分野等への応用展開に引き続き取り組みました。

 

新たな環境対応素材として、CO2を原材料とするヒドロキシポリウレタン(HPU)については、NEDOグリーンイノベーション基金事業として開発を進めております。バリア性機能の特長を生かし、フードロス対策に寄与するパッケージング分野での採用に向けて市場評価を進めました。

 

(グラフィック&プリンティング マテリアル)

当事業では、分散加工技術を基に汎用の印刷インキの提供とともに、独自の配合技術などを活用し、特殊インキ・コーティング剤の開発・製品化に取り組んでおります。

当セグメントに該当する分野は以下のとおりです。

 

環境配慮型パッケージング分野では、環境負荷低減に寄与する製品として、VOC排出量削減に繋がる水性フレキソインキ「ハイドリックFCシリーズ」や水性グラビアインキ「ハイドリックPRPシリーズ」、業界最高水準のバイオマス度で設計した「TRISURF」、循環型社会に貢献するためのリサイクルインキ「CycleFineシリーズ」などを販売し、数量も増加しました。また、CO2を原材料とするウレタン樹脂「HPU」を利用した製品開発などに引き続き取り組みました。

 

産業資材分野においてはCNTを分散した導電インキや放熱インキが採用となったほか、建材用インキの技術を応用した耐候性インキの開発に取り組みました。

 

オフセットインキでは、市場で一層ニーズが高まっている意匠性に優れたメタリックインキ「輝(かがやき)」や機能性を併せ持ったUVあるいは水性コーティングニスなど、紙に対する印刷の特殊インキの拡充に取り組んでおります。

 

(その他の研究開発活動)

社会が抱える課題を解決する技術開発から新規事業創出と評価技術の導出を目的として、電池用材料やバイオマス樹脂等の研究開発に注力しました。

外部研究機関との連携も行っており、代表的なものとして「リビングラジカル重合による機能性材料の開発」が挙げられます。国内外の大学と共同研究の具体例としては「濃厚ポリマーブラシ(CPB)の工業的製造方法の確立」などがあり、摺動部材や機械部品に向けた新規トライポロジー材料の研究開発を行っております。その他複数の大学などとの共同研究により新技術導入を進め、新分野に対応可能な基礎技術力の向上と自社技術との融合・発展を図りました。