第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

(1) 会社の経営の基本方針

当社の経営理念は、次のとおりです。

1.企業価値の追求と、その最大化を通じた人々・社会・経済の発展への貢献
2.「おいしさ・健康・美」の追求をコアコンセプトとする創造性、発展性ある事業への飽くなき探求

3.社会の一員としての責任ある行動の徹底

 

ステークホルダーの皆様へお約束するコンセプトとして、「コアプロミス」を次のとおり定めています。

日清オイリオグループは、健康的で幸福な「美しい生活」(Well-being)を提案・創造いたします。そのために私たちは、無限の可能性をもつ植物資源と、最高の技術によって、あなたにとって、あったらいいなと思う商品・サービスを市場に先駆けて創り続け、社会に貢献することを約束いたします。

 

また、今般作成した「日清オイリオグループビジョン2030」において「2030年に目指す姿」を次のとおり

定めております。

私たちは、“植物のチカラ®”と“油脂をさらに究めた強み”で、食の新たな機能を生み出すプラットフォームの役割を担います。そして多様な価値を創造し、“生きるエネルギー”をすべての人にお届けする企業グループになります。

 

当社グループは、従来以上に事業活動による価値創造を通じて社会の持続可能性に貢献してまいります。

「ビジョン2030」策定時に、当社グループが2030年に目指す姿に至るために、行動の基本とするValues

(「真摯な姿勢」「つながる」「究める」「切り拓く」「しなやかに強く」)を定めました。

また、理念を実践していくための行動指針である「日清オイリオグループ行動規範」のグループ内での

浸透を図っています。

 

日清オイリオグループ理念体系は次のとおりです。


 

(2) 中長期的な会社の経営戦略並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

日清オイリオグループビジョン2030

近年、当社グループを取り巻く環境は、地球規模での環境課題の累積、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻の長期化や中東情勢の悪化等の地政学リスクの顕在化、国内における少子高齢化の進展など大きな変化の渦中にあり、それに伴い従来のビジネスのやり方やモノの考え方が急速に変わってきています。さらに、企業市民として、今まで以上に持続可能な社会「サステナビリティ」に貢献していくことが求められています。

このような中、2021年3月に策定した「ビジョン2030」で示した「2030年に目指す姿」と「戦略の指針」に沿って、当社グループは、社会課題の解決を通じた、多様な共有価値の創造(CSV)を成長のドライバーとすることで、将来にわたって持続的に成長し、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。

 

日清オイリオグループビジョン2030の概要

 

 


 

 

“植物のチカラ®”を価値創造の原点として私たちが生み出す商品・サービスを「生きるエネルギー」と定義し、2030年に向けて当社グループは、「生きるエネルギー」をすべての人にお届けする企業グループになることを目指します。

〇生きるエネルギー

生きるために必要な根源的なエネルギー

おいしい食事で人を元気にするエネルギー

栄養機能で人を健康にするエネルギー

美を演出し活力を与えるエネルギー

油脂と相乗効果を発揮する素材・技術・事業から生み出されるエネルギー

 

また、「生きるエネルギー」をすべての人にお届けするためには、油脂を素材として提供するだけでなく、当社グループが持つ強みを活かして他の食品メーカーや素材メーカーなどと一緒に価値を共創することが非常に重要であると考えています。生活を支えるあらゆるチャネルでお客さまとの接点を持っている強みにより、社会課題解決のためのプラットフォームの役割を担うことで可能になると考えています。

そして、2030年度に達成を目指す経営指標としてROE10%、ROIC7%を目標値として設定しており、持続的な利益成長と資本効率の改善を通じて、企業価値の向上に取り組んでまいります。

 

 

2021年度~2024年度 中期経営計画「Value Up+」

「ビジョン2030」で目指す姿に向けた最初の4年間(2021年度から2024年度まで)を対象とした中期経営計画「Value Up+」の基本方針を「もっとお客さまの近くで、多様な価値を創造し続ける企業グループに変革する」とし、マーケティング、テクノロジー、グローバリゼーションを基調として、CSVを成長ドライバーに据えた戦略、施策を実行しています。2024年度は「Value Up+」の最終年度として経営目標達成に力強く取り組むとともに、「ビジョン2030」で目指すグローバルトップレベルの油脂ソリューションカンパニーへの飛躍に向けた取り組みを加速させてまいります。

 

中期経営計画「Value Up+」の位置づけ

 


 

 目標とする経営指標

「Value Up+」最終年度である2024年度の経営目標について、営業利益は、厳しい事業環境が続く中ではありますが、2023年度までの実績を踏まえて、従来計画の170億円を大きく上回る210億円を目指します。また、株主資本コストを確実に上回る資本収益性を実現し、持続的な企業価値向上を目指すことが重要であるとの認識のもと、最重要指標として位置づけているROEについても8.0%以上とします。

加えて、このROE目標の達成に向け、ROICについては、資本コストを意識したマネジメントを行い、2024年度の計画を4.6%から5.0%以上に上方修正いたします。なお、営業キャッシュフローについては、営業利益が改善したことに加え、運転資本が増加から減少に転じたことにより、4年間の累計額は480億円となる見通しです。

※中期経営計画「Value Up+」の経営目標は、現時点で入手可能な情報や、合理的と判断した一定の前提に基づいて策定した計画・目標であり、潜在的なリスクや不確実性などを含んでいることから、その達成や将来の業績を保証するものではありません。また実際の業績等も当中期経営計画とは大きく異なる結果となる可能性がありますので、当中期経営計画のみに依拠して投資判断を下すことはお控え下さい。

 

「Value Up+」経営目標実現に向けた具体的取り組み

CSV目標とあわせて中期経営計画「Value Up+」の経営目標実現に向けた戦略を推進するフレームワークである「達成チャート」に基づき成長性、積極投資、持続性、効率性の観点から、戦略におけるKPIの進捗状況を把握し、今後の更なる成長に向けた取り組みを推進しています。

 

具体的な取り組みとして、今後の収益拡大に向け、BtoCの領域においては、「油脂の価値向上」が不可欠であると考えており、まず研究面での健康エビデンスの確立や、油脂による食品への乳感・塩味・うまみの付与など、おいしさの意図的創発の取り組みを推進していきます。また、食用油における新しいカテゴリーとして味つけオイルの市場育成を図ります。クッキングオイルについても、当社の技術をベースに、「酸化の抑制」「吸油が少ない」「少量づかい」といった新たな価値を提供する商品を販売し、収益性を高めてまいります。

BtoBの領域においては、当社の持つ技術やバリューチェーンにおける強みを発揮し、国内外で販売を拡大してまいります。国内における業務用や加工用を中心とするフードサービス分野では、お客さまとの多様な接点のなかでの当社グループの提案力、開拓力、物流力、サポート力の強みを活かします。海外では、マレーシアのIntercontinental Specialty Fats Sdn.Bhd.(ISF社)は、グローバルに事業を行っているチョコレートメーカーなどへのチョコレート用油脂を中心とするスペシャリティファットの販売を積極的に拡大してまいります。また、化粧品油剤では、テクニカルサポート機能の拡充などを通じて、グローバル市場でシェアを一層高めてまいります。

BtoBtoCの領域においては、加工食品メーカー、小売り・流通業界の企業と商品の共同開発を行うとともに、積極的にメディアを活用して油脂の栄養機能についての認知や理解を高め、共創への仕掛けを実践します。まずはMCTの脂肪燃焼機能を訴求し、食用油売り場での販売に加えて、加工食品など多様な売り場でMCT採用商品が発売されることで生活者との接点が広がりさらに認知度が高まる、といった形で成功事例を作り、さらにフレイル対策など他の機能へ訴求の対象を広げていきたいと考えています。

これらの収益拡大に向けた取り組みとあわせ、今後の更なる事業成長に向けた積極的な投資を継続してまいります。中期経営計画「Value Up+」では、お客さまとの価値の共創を推進する基盤の構築を目的に、横浜磯子事業場内に新たに「インキュベーションスクエア」の設置に関わる投資を行い、2024年度より稼働を開始しました。この投資により強化・実装された機能を活かし、当社のコアコンピタンスである油脂を磨きあげ、油脂加工技術を究めるとともに、お客さまとの共創により多様な価値を創造する取り組みを進めてまいります。

また、ISF社におけるチョコレート用油脂を中心とするスペシャリティファットの生産能力拡充投資や、当社名古屋工場をはじめとした生産拠点のスマートファクトリー化、堺工場のサステナビリティセンター化構想についても着実に進めてまいります。さらに、設備や情報システムなどの投資に加え、人材、研究開発、知的財産などの無形資産への投資も重要と考えており、特に組織能力の強化・開発を進めていく観点から人材への投資を積極的に実施してまいります。また、従業員の心身の健康、働きがい、生産性の向上を目的として、経営トップが最高責任者となり健康経営を強力に進めており、「健康経営優良法人2024~ホワイト500~」に認定されております。引き続き従業員の健康保持・増進に積極的に取り組んでまいります。

持続性の観点では、環境とサプライチェーンが大きなテーマです。「日清オイリオグループビジョン2030」の「地球環境」や「信頼でつながるサプライチェーン」などで掲げたCSV目標の達成に向けた取り組みを着実に推進してまいります。当社グループは、2023年12月に、新たに「日清オイリオグループ生物多様性方針」および「日清オイリオグループ水方針」を制定いたしました。植物資源を事業のベースとする当社グループにとって、地球環境や資源の保護は、事業の持続性そのものであり、これらの方針に基づき、事業活動を通じて生物多様性の保全・回復や水リスクの解決に真摯に取り組んでまいります。

また、当社グループでは、事業活動を通じた持続可能な社会の実現・発展のためにはサプライチェーン全体としての取り組みが重要との認識のもと、すべての原材料やサービスなどの調達活動の指針となる「日清オイリオグループ調達基本方針」を制定しており、持続可能な調達を推進しています。この「調達基本方針」に基づいた調達活動をより確実に実現することを目的に、サプライヤーの皆さまに期待する事項を明文化した「日清オイリオグループサプライヤーガイドライン」を2024年3月に制定いたしました。このガイドラインに基づき、当社グループでは、サプライヤーの皆さまとともに環境や人権などの社会課題の解決に向けた取り組みを推進してまいります。

 

効率性の観点については、資本収益性の向上は最優先で取り組むべき課題であるとの認識のもと、2030年にROE10%の水準を達成することを目標化しました。またこのROE目標の達成に向けてはROIC7%の目標を新たに設定し、営業利益と投下資本の両面からマネジメントを強化してまいります。2024年度までの「Value Up+」期間中においては、国内油脂市場の付加価値化・ソリューション強化や、海外事業における拡販戦略などにより、収益性の向上に取り組むとともに、効率性の視点から、在庫・アイテムの適正化や政策保有株式売却など資産構成も見直し、ROIC5.0%以上の達成を目指します。さらに、2030年に向けては、国内油脂における着実な成長と収益性の向上、加工油脂事業・ファインケミカル事業におけるグローバル市場でのプレゼンス拡大、北米における新市場の開拓などに注力し、各事業においてROICや売上拡大、営業利益成長率などをKPI化したうえで、達成に向けた具体的な戦略を立案し、取り組みを進めてまいります。

 

(3) 経営環境、課題及び対応

世界経済については、インフレ率は一定の低下傾向が見られるものの、金融引き締めによる需要減少の影響や、消費と投資の低迷が続いている中国経済の停滞などに伴い、緩やかな減速傾向で推移しています。また、ウクライナ情勢の長期化や米中貿易摩擦、中東情勢の悪化に伴う原油価格の高騰やサプライチェーン(供給網)の混乱など、地政学リスクに対する警戒感は引き続き高く、先行きの不透明な状況が続くと見込まれます。

国内においては、2023年5月に新型コロナウイルス感染症の5類に移行されたことに伴い、行動制限が緩和されるとともに、インバウンド需要も増加しており、社会経済活動は一部で足踏み感がみられるものの、緩やかな回復傾向にあります。一方で、原材料価格の高止まりやエネルギー価格の高騰などを受けた物価上昇に伴い、個人消費が弱含むなど、今後の景気動向については、下振れリスクが警戒される状況となっています。

当社グループへの影響が大きい大豆、菜種、パーム油などの原材料については、円安基調の継続に加えて、堅調なバイオ燃料需要の拡大などにより購買価格の高値推移が懸念される状況にあります。また、天候不順による歴史的な不作に伴うオリーブオイル・カカオ豆の相場高騰、原料調達におけるパナマ運河やスエズ運河の迂回航路選択に伴うコスト増加など、当社を取り巻く事業環境は不透明かつ厳しい状況が継続しています。

このような事業環境下、当社グループは、長期的な視点で目指すべき姿と戦略の指針を示す「日清オイリオグループビジョン2030」を策定し、その実現に向け、2021年度から2024年度の当初4か年の中期経営計画「Value Up+」に取り組んでおります。この中期経営計画では、これまでよりもっとお客さまの近くで、多様な価値を創造し続ける企業グループに変革していくための戦略、施策を実行しております。

喫緊の課題としては、消費者のニーズを捉えた国内市場における機能訴求型の商品やソリューションの強化、グローバル市場でのスペシャリティファットや化粧品油剤の販売拡大、今後の成長に向けた投資や事業拡大・基盤強化などに関わる施策の着実な実行への対応などが考えられます。中長期的には、グローバルトップレベルの油脂ソリューションカンパニーへの飛躍に向け、“植物のチカラ®”を価値創造の原点に、社会との多様な共有価値の創造を通じて持続的な成長を目指してまいります。

 

各事業の状況については、次のとおりです。

 

[油脂事業]

(油脂・油糧)

国内の油脂事業においては、主要原料相場、為替相場、物流費、資材費、エネルギーコスト、将来コスト・社会的コスト等を踏まえたうえで適正な販売価格を設定し、人々の暮らしや食品産業を支えるための安定供給が求められています。

ホームユースにおいて、当社はキャノーラ油のみならず、オリーブオイル、アマニ油などにおいても高い市場シェアを有しており、「味つけオイル」などの油脂の新しいカテゴリーの創出や油脂の栄養・健康機能を積極的に提案・紹介するなどして需要を喚起し、市場の拡大を牽引しています。

業務用および加工用では、レストランなどの外食、コンビニエンスストア・量販店などの中食、製菓・製パンや加工食品業界などに向けた販売を行っております。競争の激しい市場環境ではありますが、ユーザーとのニーズ協働発掘型営業によるソリューション提案で需要を創造し、収益の獲得、拡大につなげております。商品面ではフライ油の酸化上昇や着色などを抑える「機能フライ油」や、メニューの品質を高める炊飯油や麺さばき油などの「機能性油脂」などの展開により、お客様の課題解決に取り組んでいます。

 

大豆、菜種を主原料とする商品については、円安基調の継続や堅調なバイオ燃料需要の拡大、世界的に旺盛な油脂需要の増加、主要産地の天候悪化による生産量の減少懸念などにより、不透明かつ厳しいコスト環境が継続することが予想されますが、原料調達先の複線化や生産技術・油脂加工技術の向上、生産・物流機能の最適化等により強靭なサプライチェーンを構築し、安定的に供給してまいります。ミールについては国内の需給などの影響もありますが、国内の販売価格が国際価格と連動した販売を行っています。

中長期的には、国内の人口減少による油脂消費量の減少が見込まれることもあり、一層の合理化、効率化が必要と考えております。こうした環境が見通される中、2023年10月に株式会社J-オイルミルズ社と共同出資会社 製油パートナーズジャパン株式会社を設立しました。国内搾油業の国際競争力強化と安定供給を長期にわたって確保する共同運営体制の構築を目指すとともに、AIやIoTの活用によるスマートファクトリー化、脱炭素社会への取り組みなど、環境・社会課題への解決にも繋がる「次世代型搾油工場」の構築に向けた取り組みを推進していきます。

合わせて、脂質栄養の知見を活かした幅広い商品の開発や情報発信により、油脂を通じた価値創造を推進してまいります。

 

(加工油脂)

パーム油を活用したチョコレート用油脂を中心とするスペシャリティファットをグローバルに販売するマレーシアのIntercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.(以下、ISF社)と日本国内での製菓・製パン向けにショートニングやマーガリンなどを製造販売する事業から構成されます。ISF社はパーム油の分別・精製における高度な技術を有しており、欧州などの高い品質基準を要求する顧客を中心に付加価値品の拡販に努めています。

チョコレート用油脂については、主要産地である西アフリカでの異常気象に伴うカカオの大幅な減産により、カカオ相場の高騰が続くものと予想されており、代替としての需要拡大が見込まれます。

一方で短期的には価格高騰等によるチョコレート市場の成長鈍化などの影響を受ける可能性がありますが、中長期的にはチョコレートおよびチョコレート用油脂の需要は堅調に増加すると考えており、ISF社においてはチョコレート用油脂を中心とするスペシャリティファットの生産能力拡充投資も積極的に実施しており、販売を拡大させていきます。

[加工食品・素材事業]

チョコレート関連事業、ドレッシングなどの調味料、MCTを中心とした機能素材・食品、大豆素材・食品から構成されます。

チョコレートについては、世界的なカカオ不足に伴う価格高騰による原料調達への懸念はありますが、原料調達国の複線化や希少カカオ豆の生産性向上等に取り組むことでサプライチェーンの強靭化を図っています。また、市場動向については、国内・グローバル共に価格高騰に伴う短期的なチョコレート消費量の低下リスクはありますが、国内ではコロナ禍による行動制限が緩和されたことに伴い土産物需要は徐々に回復しつつあり、また、グローバルでは、中長期的なアジアでの中間所得層の増加による、市場の拡大を見込んでいます。

調味料においては、おいしさの追求やアマニ油、MCTオイルなどの健康訴求油脂への関心の高まりなどを背景に油脂の機能を活かした商品開発および販売を展開してまいります。

機能素材・食品においてはMCTの脂肪燃焼やフレイル対策など、健康機能の高さを引き続き啓発し、機能性素材マーケティングによる売上拡大を目指してまいります。

大豆素材・食品においてはプラントベースドフードの市場拡大も見据え、大豆たん白の供給にとどまらず、油脂の活用による食感、おいしさなどのソリューションの提供を強化してまいります。

 

[ファインケミカル事業]

化粧品用の原料である油剤を主力商品としており、多くの国内化粧品メーカーや、欧米の大手化粧品メーカーと長期にわたり取引を行っております。新型コロナウイルス感染症による行動制限が緩和されたことに伴い、化粧品向け需要は回復傾向にあり、特に国内、中国市場での販売は好調に推移しました。世界の化粧品市場は、中長期的にはアジアを中心に中間所得層の増加が見込まれるエリアでの成長により拡大しています。テクニカルサポート機能の発揮等により、グローバル市場でのプレゼンス拡大を進めてまいります。

環境・衛生においては食の環境を中心とする衛生管理事業や植物資源を活用して環境に好影響を与える商品・サービスの開発を進めてまいります。

 

(4) その他

当社は、2024年3月13日、ごま油の販売に関して独占禁止法違反の疑いがあるとして、公正取引委員会の立入検査を受けました。当社は、立入検査を受けたことを厳粛に受け止め、公正取引委員会の調査に全面的に協力してまいります。

なお、調査は継続中であり、現時点では財政状態及び経営成績に及ぼす影響は不明ですが、今後、業績予想の修正が必要となった場合は速やかにお知らせいたします。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 (1)サステナビリティ課題全般

当社グループは、「ビジョン2030」を目指す姿として掲げ、事業活動を通じた社会課題の解決により、社会との共有価値を創造し、持続的な成長と社会の持続的な発展、すなわちサステナビリティの実現を目指しています。当社グループは、サステナビリティ課題全般に関し、以下のとおり考え方を整理し取り組みを進めています。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(ガバナンス)

当社グループは、取締役会が設置する委員会「経営サステナビリティ委員会※」にて、企業の持続的な成長と社会の持続的な発展に貢献するための基本方針の立案や、「ビジョン2030」で目指す姿の実現に向けた重要課題などを審議しています。その重要なテーマとして、当社グループ事業に影響を与える重要なリスク・機会の抽出と社会課題の検討、重点領域やCSV目標、具体的取り組み等の設定、進捗状況の確認および見直し等を審議しています。その内容は適宜、取締役会に報告されるとともに、特に重要な案件については取締役会で審議・決議されます。

 

※2023年7月に、当社グループの持続的な成長と社会の持続的な発展を実現するための基本方針の立案等、重要課題を審議することを目的とし、「経営サステナビリティ委員会」を設置しました(従来のサステナビリティ委員会は廃止)。これにより、ビジョンで目指す姿の実現に向けた重要課題の審議とPDCAの展開を通じて、その確度を高めていきます。

なお、同委員会を含むコーポレートガバナンスに関する体制につきましては、「第4提出会社の状況 4コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ②企業統治の体制の概要及び当該体制を採用する理由」のコーポレート・ガバナンスおよび内部統制に関する体制の模式図をご参照ください。

 

(戦略)

当社グループの価値創造の源泉は、無限の可能性をもつ植物資源と磨かれた技術力、そして価値創造力を掛け合わせた“植物のチカラ®”です。“植物のチカラ®”と私たちの“コアコンピタンスである油脂”を究めた強みでお客さまとともに社会課題を解決する油脂ソリューションを実現します。当社グループの事業に求められるニーズや当社グループが取り組むべきという視点で定めた6つの重点領域(マテリアリティ)、すなわち「すべての人の健康」、「おいしさ・美のある豊かな生活」、「地球環境」、「食のバリューチェーンへの貢献」、「信頼でつながるサプライチェーン」、「人材マネジメント」の領域の中で多様な価値を持つ“生きるエネルギー”を生み出し、その価値をすべての人にお届けします。“生きるエネルギー”は社会課題を解決する一方で、次なる成長のための植物資源の循環や技術の進化を可能とする資本を生み出します。再度投入された資本によって、さらに油脂を究め、社会課題を解決する“生きるエネルギー”を生み出します。このプロセスの循環を通じて、当社グループらしいサステナビリティを実現していきます(図1)。

 

 (図1)価値創造モデル


 

(リスク管理)

当社グループでは、「ビジョン2030」や中期経営計画「Value Up+」にて目指す姿の実現に対し、ネガティブな影響を及ぼす不確実性を「リスク」と定義してリスク管理を行っています。リスク管理に関する主体的な取り組みを通じて社会的責任を果たし、安定した収益の獲得と更なる企業価値の向上を目的としています。

リスク管理体制として、取締役会がリスクマネジメント委員会を設置し、全社的なリスクを総括的に管理しています。事業に対する財務または戦略面でのリスクを選定し、サステナビリティ課題を当社グループの重要リスクと位置づけ、他の重要リスクと統合的に管理しています。

リスクマネジメント委員会では、リスクを棚卸したうえで影響度合と発生可能性をもとにリスクマップを作成、リスクが顕在化した際の影響度の評価や優先順位付けをおこない、重要なリスクを特定しています。2023年度は14個の重要リスクを特定し、主管部門を中心に対策を立て、PDCAサイクルを回してマネジメントしています。リスクが顕在化した場合の緊急体制も整備し、危機対応を図っています。

 また、リスクマネジメント委員会は、全社的リスクの評価や対応方針・状況などを取締役会に報告しています。

 なお、重要なリスクは「3事業等のリスク (2)当社グループにおける重要リスクについて」をご参照ください。

 

(指標と目標)

当社グループは、今後予測される社会動向を分析し、当社グループにおける機会とリスクおよび重要となる社会課題(図2)から、6つの重点領域を設定しており、「重点領域」における課題解決を通じた社会との共有価値の創造(CSV)を、「日清オイリオグループビジョン2030」における成長ドライバーとしています。CSV目標の進捗状況は経営サステナビリティ委員会でモニタリングされており、その後の取り組みに反映されています。

 

(図2)機会とリスクおよび重要となる社会課題



  社会課題:SDGs(国連)、食品産業戦略(農林水産省)、未来投資戦略(内閣府)、企業行動憲章(経団連)より抽出

 

CSV目標の見直し

「ビジョン2030」では「6つの重点領域」を定め、それぞれの重点領域での価値創造を通じた当社グループの企業価値の拡大を目指しており、その取り組み状況を示すものがCSV目標です。

「ビジョン2030」策定時から、消費者意識や購買行動の変化、サステナブルな生産や調達に対する社会からの要求水準の高まり等、事業を取り巻く環境が大きく変化しています。そこで、2023年度、当社グループの事業に影響を与える新たなリスクと機会の抽出と取り組むべき社会課題の再確認を行い、下記のプロセスを経て「地球環境」、「信頼でつながるサプライチェーン」、「人材マネジメント」を中心に複数のCSV目標を見直しました。今後も環境変化を捉え、定期的に見直しをしていきます。

 

 


 

 


 

 

 

CSV目標と進捗状況は次のとおりです。

 


※1:MCTオイル・加工食品、健康オイル、サプリ的オイル、ウェルネス食品等、生活習慣病やフレイル等の対策に貢献できる商品

※2:低栄養、過栄養、パーソナルな健康課題等の解決に貢献できる商品。他社ブランド品含む

※3:脂質の健康情報とは、低栄養・過栄養の改善、パーソナルな健康課題の解決に役立ち、かつ油脂の正しい理解や価値向上に

 つながる情報発信を指す1次掲載値のみ(計画策定時に閲覧数の想定が難しい転載は含まない)

 

 


※1:食シーンにおけるおいしさや食による美を追求するために開発した新商品

※2:化粧品原料(当社、Industrial Quimica Lasem, S.A.U.、日清奥利友(上海)国際貿易有限公司)、化成品(セッツ㈱)

 

 


※1:Intercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.でのグリーン電力導入拡大が寄与

※2:ホームユース商品のうち、食用油およびギフトを対象とする。

 

 


 

 


※1:RTRS:責任ある大豆に関する円卓会議

※2:当社の工場内

 


※ 当社:翌年度4月1日時点で算出

 

2023年度目標として設定していた「DX推進の基盤構築」、「グローバル人材拡充」については、「強固な人材力の構築」の具体的取り組みとして進める。

 2023年度実績

・DX推進の基盤構築  :全社デジタルリテラシー教育100%受講

・グローバル人材の拡充:グローバル人材登録制度の登録者37名に教育プログラム実施(語学、グローバルビジネススキル等)、登録者の中から4名をグローバル業務へ配置

 

 (2)人的資本への対応

① 人的資本についての考え方

当社グループは、「ビジョン2030」および「Value Up+」で目指す姿の実現に向けて、当社グループの成長を牽引する組織能力を強化するべく、積極的な人的資本投資を計画的に行っていく方針です。人材戦略と健康経営における人的資本投資が社員一人ひとりの働きがいを高め、能力を最大限に引き出すことで、多様な人材がエネルギッシュに躍動する組織風土を醸成し、当社グループの持続的成長、価値向上を実現していきます。

 

② 人材育成方針

当社グループは、一人ひとりの多様な視点や価値観を尊重することが持続的な成長と企業価値向上に重要なことと考えており、そのために、性別や国籍などにかかわらず、多様な経験や知識・スキル、価値観といった個性を持つ人材が更に活躍できるよう育成と社内環境の整備に取り組んでいきます。

また、当社は、「教育最優先の原則」や「部下の教育・育成は、部下を持つ者の最も重要な職務である」といった人材育成を最優先する企業理念をもち、長年にわたり人材育成を経営の重要なテーマとして位置づけ、会社全体がこの問題を主体的に推進していく体質を継続的に育んできました。この企業理念を堅持し、さらに浸透していくこと、そして「一人ひとりの成長こそが会社の持続的成長の源泉である」という考え方のもと、会社は社員の成長に積極的に投資していきます。

さらに、「ビジョン2030」で目指す姿の実現のためには、グローバリゼーション・テクノロジー・マーケティングをはじめとした分野における高度な専門性を有した人材が不可欠であると認識しています。事業戦略遂行上で必要となる人材を確保し続けるとともに、次代を担う人材の育成強化を図っていきます。

 

③ 社内環境整備に関する方針

当社グループは、健全かつ社員の持てる能力を存分に発揮できる職場環境を提供することが会社の責務であると考えます。育児、介護、治療と仕事の両立支援、柔軟かつ生産性高い働き方への変革、長時間労働の削減、社内コミュニケーションの活性化など、社員が安心して働くことのできる働きやすい職場環境づくりに取り組んでいきます。

 

④ 健康経営の取り組み

当社グループは、「社員の健康は本人や家族の幸せの基盤であるとともに、会社が持続的に発展していくための最も大切な財産である」との考えのもと、社員一人ひとりがやりがいを持って活力高く働き、健康的で豊かな人生を送れるように、社員の健康保持・増進に積極的に取り組んでいます。重点テーマとして「生活習慣病予防」、「禁煙促進」、「こころの健康」を設定し、疾病予防や食習慣改善、禁煙の支援、運動・コミュニケーション促進などの取り組みを進めていきます。

 

⑤ 人的資本に関する指標

2024年3月31日現在

 

2022年度実績

2023年度実績

2024年度目標

年間教育研修費(一人当たり)

68千円

119千円

120千円

経験者採用比率

34.9%

43.3

40.0

管理職に占める女性の割合※

6.3%

7.3

8.0

年次有給休暇取得率

75.6%

75.7

80.0

「働きがい」を感じる従業員の割合

63.0%

65.5

70.0

 

上記は、当社正規雇用従業員を対象としています。また、当社グループの人的資本に関する指標につきましては、前述の「人材マネジメント」をご参照ください。

※管理職に占める女性の割合について、2022年度実績は2023年4月1日時点、2023年度実績は2024年4月1日

 時点、2024年度目標は2025年4月1日時点で算出します。

 

 (3)気候変動への対応

当社グループは、事業活動を通じた社会課題の解決により、社会との共有価値を創造し、当社グループの持続的な成長と社会の持続的な発展(サステナビリティ)の実現を目指しています。中でも、当社グループの事業活動は植物資源をベースとしており、植物の生育に大きな影響を与える気候変動への対応は経営の重要テーマです。そのため、気候変動に係わる対応を推進していくため、2021年3月にTCFD提言に賛同を表明し、2022年度よりTCFD提言に則った開示(気候変動に伴うリスク・機会の分析、財務影響などのシミュレーション等)を通じた情報公開を実施しています。

 

① TCFD提言が推奨する4つの開示項目

項目

内容

ガバナンス

・気候変動を含むサステナビリティ課題に関する基本方針・戦略・施策については、取締役会が設置する委員会である経営サステナビリティ委員会による審議(年5回)を経て、取締役会が審議・決議しています。体制は「第4提出会社の状況 4コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ②企業統治の体制の概要及び当該体制を採用する理由」のコーポレート・ガバナンスおよび内部統制に関する体制の模式図をご参照ください。

・取締役会は気候変動課題の解決に対して責任を持ち、目標進捗の監督を行います。また、経営サステナビリティ委員会と連携、必要に応じて外部有識者を通じて十分な知見を獲得し、積極的に課題解決に取り組みます。

戦略

当社グループでは、気候関連のリスク・機会の特定・評価および対応策について継続的に検討しており、今後も中長期的な視点から戦略のレジリエンスを高めていく必要があると考えています。2023年度に実施したシナリオ分析については、「②気候変動シナリオ分析」をご参照ください。

・また、当社グループの事業活動へ大きく影響するリスク・機会についての対応策を検討しました。

・原材料の生産~調達プロセスでは、現地農家とのエンゲージメントを強化する事で、認証油等の持続可能な原料生産、トレーサビリティ拡充を推進します。

  また購買活動としてサプライヤーの複線化によるリスクヘッジ、気候変動に適応した植物資源

  の採用等によりサステナビリティ向上に努めます。

・研究開発においては、顧客・消費者ニーズに柔軟に対応するためのインキュベーションスクエアを設置、既存原料に捉われない新たな油糧資源・機能素材の獲得、健康増進商品の開発、植物性たん白を原料とする食品、脱化石原料に向けたプラスチック容器代替品の開発等を進めていきます。

製造プロセスにおいては、エネルギー・水等の資源の効率的利用の促進、変化する顧客・消費者ニーズに対応した商品生産の強化、気候変動により激甚化・頻発化する風水害等への対策の強化等を進めます。

・物流プロセスにおいては、炭素税などの法規制対応やカーボンニュートラル実現に向けて、企業間ネットワークを活用した共同配送網拡大、エネルギー効率の高い鉄道輸送などへのモーダルシフト推進による温室効果ガス排出量削減に取り組みます。

・販売プロセスにおいては、製品・サービスの環境負荷の可視化や持続可能性に配慮した認証原料の普及・啓発により当社グループのブランドイメージ向上と環境価値を活用した積極的なマーケティング活動を推進します。

リスク管理

・取締役会が設置する委員会であるリスクマネジメント委員会が、事業に対する財務または戦略面での重要なリスクを選定しており、気候変動に伴う物理的/移行リスクの管理も行っています。

・気候変動関連リスクも当社グループの重要リスクと位置づけられており、他の重要リスクと統合的にマネジメントしています。

指標と目標

・当社グループの気候に関する既存の目標としては、「CSV目標」および「環境目標2030」があります。

・気候変動対策として温室効果ガス排出量削減を掲げ、「スコープ1および2の温室効果ガス排出量を総量ベースで2030年度までに50%削減する(2016年比)」を進めていくこと、「スコープ3は、購入した製品・サービスおよび輸配送(上流)を中心に排出量を2030年度までに25%削減すること(2020年比)」を2023年に新たな目標として設定しています。

・2023年度の実績は、スコープ1および2では、基準年である2016年に対して18.6%減(速報値)となりました。今後もカーボンニュートラルを見据えた脱炭素化ロードマップに基づき、高効率機器導入や太陽光・水素等の非化石エネルギーへの転換によるスコープ1・2削減を推進します。また、スコープ3についてもサプライチェーンへの働きかけ等による削減を推進します。脱炭素化ロードマップについては「③脱炭素化ロードマップ (図3):脱炭素化を推進する戦略ロードマップ(移行計画)」をご参照ください。

 

 

② 気候変動シナリオ分析

「気候変動の進行が抑制された世界」(1.5℃/2℃シナリオ:産業革命以降の世界平均気温上昇幅が1.5℃/2℃程度に抑えられた世界)と「気候変動が進行する世界」(4℃シナリオ:産業革命以降の世界平均気温上昇幅が4℃程度上昇する世界)について気候変動関連リスクと機会の分析を実施しました。

 

表Ⅰ:気候関連リスク及び機会の一覧

【表中の用語の定義/考え方】

 

-「影響度」

当該リスク/機会が現実のものとなった場合に当社に及ぼす影響の度合いを、主に財務的影響の観点から定性的に3段階(大/中/小)で評価しています。

 

-「発生可能性」

当該リスク/機会が実際に発生する可能性や確率を示しており、定性的に3段階(高/中/低)で評価しています。なお、既に発現しているリスク/機会については「高」に含めています。

 

-「発生時期」

当該リスク/機会が「いつ発生し得るか」を示しています。なお、短期=現在~5年未満、中期=5年以上10年未満、長期=10年以上を目安として定性的に判断しています。なお、既に発現しているリスク/機会については「短期」に含めています。この時間軸の定義は、当社グループの経営戦略(短期戦略として2024年までの「Value Up+」、中期戦略として2030年までの「日清オイリオグループビジョン 2030」)における時間軸の考え方と整合的です。

 

-「★」

試行的に影響度の定量化(金額換算)を実施したものを示しています。

 

 


 

2023年度は、前述で特定したリスクのうち(★)を付記したリスクに対して、「(a)炭素税・ETS等によるコスト増」「(b)農業における脱炭素による原料大豆価格上昇」「(c)気象災害による生産停止に伴う利益減」について、財務影響を分析しました。具体的な検討にあたっては、IPCC、IEA、NGFS等の各国際機関の公表するシナリオにおける定性/定量情報を参照しました。

 

※IPCC :気候変動に関する政府間パネル(各国政府の気候変動に関する政策に科学的な基礎を与えること

目的とした政府間組織)

※IEA :国際エネルギー機関(第一次石油ショックを機に設立されたエネルギー安全保障等のエネルギー

政策全般をカバーする国際機関)

※NGFS:気候変動リスクに係る金融当局ネットワーク(気候変動リスクへの金融監督上の対応を検討する

ための中央銀行および金融監督当局の国際的なネットワーク)

 

(a) 炭素税・ETS等によるコスト増

「炭素税・ETS等によるコスト増」については、当社グループで排出量が大きい日清オイリオグループ株式会社(日本)とIntercontinental Specialty Fats Sdn.Bhd.(マレーシア)を対象に、IEAのWorld Energy Outlook 2022におけるAPSシナリオ(Announced Pledges Scenario、2.0℃相当)およびNZEシナリオ(Net Zero Emissions by 2050、1.5℃相当)下の炭素価格を用いて、2030年と2050年の炭素価格による年間負担額をそれぞれ算出しました。この2社で当社グループが管理しているScope1、2排出量の96%以上を占めています。

 

表Ⅱ:「炭素税・ETS等によるコスト増」の財務算定結果

シナリオ

自社対策

企業名

2030年負担額

(億円/年)

2050年負担額

(億円/年)

2.0℃

現状維持

日清オイリオグループ(株)

27

40

Intercontinental Specialty Fats Sdn.Bhd.

8.4

33

削減目標を達成

日清オイリオグループ(株)

16

Intercontinental Specialty Fats Sdn.Bhd.

4.0

1.5℃

現状維持

日清オイリオグループ(株)

28

50

Intercontinental Specialty Fats Sdn.Bhd.

19

42

削減目標を達成

日清オイリオグループ(株)

17

Intercontinental Specialty Fats Sdn.Bhd.

9.1

 

「現状維持」:2022年度のCO2排出量で算定

「削減目標を達成」:2030年は排出量50%削減(2016年比)、2050年は排出量ゼロで算定

「炭素価格」:IEA WEO2022を参照

 

「炭素税・ETS等によるコスト増」リスクの分析から、2.0℃および1.5℃シナリオのいずれにおいても削減目標を達成することにより2030年の負担額を半分程度に抑えられるという示唆が得られました。削減目標達成の場合、2030年度の2社合計負担額は2.0℃シナリオで20億円/年、1.5℃シナリオで26.1億円/年です。

 

(b) 農業における脱炭素による原料大豆価格上昇

主要原材料の一つである大豆の主要生産国である米国とブラジルを対象とし、NGFSによる1.5℃相当シナリオを用いて2030年と2050年の大豆価格変化による年間の調達コスト増加額を算出しました。このシナリオ下での価格変化は炭素価格や生産効率向上のコストを反映したものであり、算定結果は移行リスクによる財務影響を示しています。

 

表Ⅲ:「農業における脱炭素による原料大豆価格上昇」の財務算定結果

シナリオ

2030年調達コスト増

(億円/年)

2050年調達コスト増

(億円/年)

1.5℃

米国

131

210

ブラジル

34

49

 

 2020~2022年の平均年間購入量を基に価格変化の影響金額を算出

 

1.5℃シナリオで米国・ブラジル産の大豆がともに上昇し、財務影響算定を行ったリスク項目の中で最も大きな影響(2030年に合計165億円/年、2050年に合計259億円/年)となりました。今後、菜種、パーム油等の価格変化による影響も検証していきます。

 

(c) 気象災害による生産停止に伴う利益減

「気象災害による生産停止に伴う利益減」については、国内事業を対象に洪水による操業停止を想定しました。また、物理リスクは長期的なリスクであるため、2050年のみを対象にしました。IPCCの4℃シナリオと2℃シナリオ下のそれぞれについて、操業停止による年間営業利益減少を算出しました。

 

表Ⅳ:「気象災害による生産停止に伴う利益減」の財務算定結果

シナリオ

2050年操業停止による

年間営業利益減少額

(億円/年)

4.0℃

日本

1.76

2.0℃

日本

1.32

 

※ 年間営業利益減少額=災害頻度×操業停止日数×年間営業利益÷245

※ 文部科学省・気象庁による「日本の気候変動2020 詳細版」より、災害頻度は東日本太平洋側における日降水量200mm以上の発生回数(4.0℃  0.4回/年、2.0℃ 0.3回/年)使用しています。

※ 操業停止日数は、国土交通省による「治水経済調査マニュアル」による床下浸水時の操業停止日数(10日)を使用しています。

 

「気象災害による生産停止に伴う利益減」リスクの分析から、気象災害の影響が大きいとされ4.0℃シナリオでも影響額は1.76億円/年であり、財務影響算定を行ったリスク項目の中で最も影響が小さいことが示されました。今後、分析対象国の拡大や被災に伴う資産損害による影響(修繕費等)等も検討していく予定です。

 

このように特定したリスク・機会を踏まえれば、「気候変動の進行が抑制された世界」「気候変動が進行する世界」のいずれに進んだとしても影響が大きく、中長期的観点から当社グループ戦略のレジリエンスをより高めていく必要があると考えています。当社グループの事業活動へ大きく影響するリスク・機会に対して、サプライチェーンの上流から下流までの各プロセスにおいて、主に以下の対応(次頁の表Ⅴ:気候関連リスク・機会への対応策をご参照ください。)を採ります。これらの対応策は、当社グループ戦略のレジリエンスを高めることに貢献すると考えています。

 

 

表Ⅴ:気候関連リスク・機会への対応策


※具体的な内容は実施中のものと検討中のものを含む

 

 ③ 脱炭素化ロードマップ

脱炭素化に関する移行計画については、(図3)のとおり「脱炭素化を推進する戦略ロードマップ」を策定し、2050年までにカーボンニュートラルを実現いたします。本計画はエネルギー削減に向けて、生産性の向上、再生可能エネルギーの活用、水素インフラの準備などの取り組みとして反映しています。

 

(図3):脱炭素化を推進する戦略ロードマップ(移行計画)


 

 (4)自然資本への対応

当社グループの事業活動は植物資源をベースとしています。主要原料となる大豆、パーム油、菜種、カカオなどの「植物のチカラ®」を活用して、食品、飼肥料、化成品、化粧品原料などの製造・販売を行っています。大豆(米国、ブラジル)、パーム油(マレーシア、インドネシア)、菜種(カナダ、オーストラリア)、カカオ(西アフリカ、南米)などは世界各地から輸入しており、特定の自然資本および産地に依存しています。このように、植物資源を事業のベースとする当社グループにとって、地球環境や資源の保護は、事業の持続性そのものです。その認識のもと、2023年度に生物多様性方針と水方針を制定しました。今後、これら方針に基づき、事業活動を通じて生物多様性の保全・回復や水リスクの解決に真摯に取り組むことで、社会との共有価値を創造し、当社グループの持続的な成長と社会の持続的な発展の実現に努めます。併せて、TNFDガイドラインに則った開示の情報公開に向け準備を進めてまいります。

 

日清オイリオグループ生物多様性方針


(2023.12.22制定)

 

日清オイリオグループ水方針


(2023.12.22制定)

 

また、植物資源の持続可能性確立に向けて、原料調達方針を策定し、産地状況の調査、認証原料の調達、植林活動による生態系保全・復元などを進めており、パーム油は2030年までに農園までのトレーサビリティ100%達成を目指しております。更に、大豆およびカカオの持続可能な調達に向けてアクションプランを策定し取り組みを開始しました。情報開示および目標、取り組みは以下のとおりです。

 

項目

内容

情報開示

・日清オイリオグループ環境理念、環境方針の公開

日清オイリオグループ生物多様性方針、水方針の公開

・日清オイリオグループ調達基本方針の公開

パーム油調達方針の公開、NDPE宣言、アクションプランおよび実施状況を公開

・大豆調達方針、アクションプランの公開

・カカオ調達方針、アクションプランの公開

目標

(パーム油)

・パーム油の農園までのトレーサビリティ体制を構築する。(2030年に100%)

- 持続可能なパーム油調達推進に向けて、パーム油認証油割合を高める。(2030年に100%)

- RSPO認証油のSG比率の維持(50%)

(大豆)

・大豆の持続可能性を高める取り組みを推進する

(カカオ)

持続可能なカカオの調達を推進する。

(その他)

・水資源/生産に利用する水資源の効率的活用のため、2030年に生産活動における用水の原単位を2016年度比16%削減する。

・環境にポジティブインパクトを与える商品・サービスの開発/2024年度までに80件(2021年度からの累計)

アクションプラン

(パーム油)

・トレーサブルで透明性のあるサプライチェーンの構築

・小規模農家の生産性・収益性向上支援による森林保護と人権尊重

・ステークホルダーとの連携による人権尊重の取り組みの推進

・パーム油サプライチェーンにおけるScope3CO2排出量の削減

(大豆)

・トレーサビリティの向上と、サプライチェーンにおけるCO2排出量の削減

・持続可能な調達の実践(認証制度の活用やエンゲージメントの拡大など)

(カカオ)

・トレーサビリティが確保できる調達ルートの確立

・認証カカオ製品の拡大

・風味のサステナビリティ活動の実践

(その他)

・自然保全活動の推進/植林による自然保全活動(例:マレーシアでのマングローブ植林(2022~2024年に8,000本(約4ha)を実施)

 

 

 

 

3 【事業等のリスク】

 

(1) リスクマネジメントの考え方

当社グループでは、「ビジョン2030」や中期経営計画「Value Up+」で目指す姿の実現や当社が取り組む事業に対してネガティブな影響を及ぼす不確実性を「リスク」と定義し、リスクコントロールを行っています。リスクマネジメントに対する主体的な取組みを通じて、企業として安定した収益を上げるだけでなく、社会的責任を果たすことを通じて更なる企業価値の向上と発展を目指すことを目的としています。リスクマネジメント体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ③ 企業統治に関するその他の事項 (b) リスク管理体制の整備の状況」をご参照ください。

 

(2) 当社グループにおける重要リスクについて

以下は、リスクマップの中から、リスクマネジメント委員会で選定した当社グループの重要リスクを示しています。

 


 

当社グループの重要リスクの内容と対応については次のとおりです。

なお、文中においては将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものです。

 

 

重要リスクの内容

対応

① 為替相場および原材料相場の変動

 当社グループでは、油脂事業および加工食品・素材事業における原材料である大豆、菜種、カカオ等は全量海外から輸入しております。また、マレーシアをはじめ東南アジア、欧州等において海外事業展開を行っております。このため、当社グループは原材料コストや外貨建てでの販売、外貨での借入金残高などにかかる為替変動リスクを有しており、為替相場の変動により業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 原材料においては、原材料国際価格の相場変動リスクに加え、原油価格高騰などに伴う輸送コスト等の変動リスクを有しております。原材料価格は当社グループのコストにとって重要な部分を占めることから、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼします。

 

 当社グループでは、「デリバティブ・商品先物取引等管理規程」等の規定に則った為替予約、先物市場を利用したヘッジ取引を機動的に行うことで当該リスクに対応しています。なお、ヘッジ取引の実施状況については、当社執行役員会にて四半期に一度、情報の共有化とモニタリングを実施しております。

 さらに原料価格に見合った販売価格の適正化、製造費等のコスト削減などを実施することにより価格変動による影響の抑制を図っております。

 

② 国内外の製品市況の変動

 特に油脂事業の販売におきましては、国内外の製品市況の変動による影響があります。油脂および油粕製品の国内販売価格は国際市況に概ね連動いたします。

 また、海外からの製品輸入動向が国内販売価格への影響要因となる可能性もあります。これら国内外の製品市況の変動が顕在化した場合には、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼします。

 

 

 当社グループでは、国内外の製品市況の変動に応じてコスト等に見合う適正な価格での販売に努めております。

 また、高付加価値商品の拡販に取組み、徐々にその構成比を上げています。売上原価と販売価格の変動にタイムラグが生じる等の場合もありますが、当該リスクの業績への影響の低減に努めております。

 当社執行役員会では、毎月、経営計画の進捗管理を行っており、必要な施策の実施につなげております。

③ 地震・津波、異常気象(風水害等)

 地震・津波に加え、近年異常気象による風水害等のリスクが年々高まっていると認識しております。このようなリスクにより、従業員の安全面をはじめ、生産拠点の製造設備、物流設備、インフラ等に被害が生じた場合、サプライチェーンの要所への影響から製品の安定供給に支障が生じ、当社グループの業績および財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

 

 当社グループでは、地震・津波等の災害発生時対策として、従業員等の安否を確認する安否確認システムおよびBCP(事業継続計画)を構築し、随時見直しを行うことで、実効性を高めています。並行して、従業員等の安全および生産体制の基盤強化のため設備面で耐震補強を進めるとともに、護岸・電力調達における地震対策の強化も行っております。

 また、総合防災訓練や教育を定期的に実施するとともに、近年の異常気象による風水害等のリスク軽減についても重要な課題とし、減災の取組みも含め、推進しております。

 これらの対策を超える甚大な影響のある事象についても継続して検証を行い、可能な限り被害を最小化するとともに、保険の付保を行い、当社グループの業績および財政状態への影響を低減することに努めております。

④ 品質関連(食の安全性について)

 食品の品質および安全性についての社会的関心の高まりから、より一層厳格な品質管理体制が求められております。品質問題が発生した場合は、当社グループへの信頼や業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

 

 当社執行役員会が設置する品質マネジメント委員会にてグループにおける品質保証に関する方針、施策の審議および実行の確認を行っており、国内の主要工場におきましては、ISO9001の認証および食品安全マネジメントシステムに関する国際規格であるFSSC22000の認証を取得し、一部の製造工程ではGMP認証を得るなど、厳しい品質保証体制を構築しております。

 

⑤ 原材料の調達におけるリスク

 当社グループの製品に必要な原材料のなかでも、特に油脂事業および加工食品・素材事業における大豆、菜種およびカカオなどの主要原料やオリーブ油およびパーム油をはじめとした原料油脂の調達環境が悪化し、十分な量の原材料が調達できない場合や、当社グループが求める品質・安全性を充たした原材料を確保できない場合には、製品の安定供給における多大なリスクが生じ、当社グループへの信頼や業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 世界の人口増加や各地で頻発する異常気象等による食糧需給の不透明感は年々高まりつつあり、また、原材料の生産国における政策動向、地政学リスクの高まり等によっては供給が不安定化するリスクもありますので、細心の注意を要します。

 

 

 当社グループは、干ばつなど天候の影響、生産国での政策動向、地政学リスクの高まり等による原料の調達環境の変化にも対応できるよう、原料および原料油脂ともに生産国やサプライヤーの複線化により、安定的な調達に努めております。

 特に調達環境の動向が見通しにくい状況下においては、期先までの需要を見据えた調達、在庫確保に努めております。

 なお、安全性が確保された原材料を調達するため、新規の産地・サプライヤーの原材料購買を行う場合には分析や現地視察などによる安全性評価を実施するとともに、既存の購買原材料についても定期的な安全性評価の実施や、原料産地の情報収集を行うことで、安全・安心な原材料の確保に努めております。

 

 

 

重要リスクの内容

対応

⑥ 気候変動・環境に関するリスク

 地球温暖化対策や海洋プラスチックごみ問題などが今日的な課題として注目を浴びており、これらの課題に対応できない場合、当社グループへの信頼や業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 植物資源を事業のベースとする当社グループにとって、地球環境や資源の保護は事業の持続性そのものと考え、脱炭素社会、循環型社会の実現に向けて以下の取組みを行いました。

<気候変動対応>

Scope1、2における2030年度のCO2排出量目標を50%(2016年度比)に引き上げ

・Scope3における2030年度のCO2排出量目標を25%に設定(2020年度比)

・国内生産拠点にて新規に導入した設備投資の効果やISFにおけるグリーン電力購入の増加によりScope1、2における2023年度のCO2排出量削減を18.6%削減(速報値/2016年度比)

・グループの主要な生産拠点にコージェネレーションシステムを導入

<環境配慮への取組み>

・「生物多様性方針」と「水方針」を策定

<プラスチック容器・包装の削減>

・環境への配慮と使いやすさを両立した紙パックタイプ商品を発売

・プラスチック使用量を約39%削減(当社900gPETボトル容器比)した新しい800gPETボトル容器入りの食用油商品を発売

・名古屋工場における800gPETボトル容器の充填ライン増強投資を決定

⑦ 人権に関するリスク

 当社グループおよび調達先が人権問題を起こしたり、人権上問題のある調達を行った場合、当社グループへの信頼や業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

2023年度は、人権デュー・ディリジェンスのロードマップを作成するとともに、「日清オイリオグループサプライヤーガイドライン」を制定しました。また、当社グループの事業において発生する可能性のある人権に関するリスクを評価し、優先度の高いサプライヤーを対象にした調査を実施しました。

2024年度は、人権デュー・ディリジェンスを本格的に推進していくための仕組み構築や体制整備に取り組んでいくとともに、さらなるサプライヤー調査を継続してまいります。

 

⑧ 消費者ニーズの変化への対応

 近年の消費者ニーズの変化は非常に早く、かつ多様化しており当社グループが認識する前に消費者のニーズが変化する可能性があります。また、認識しても対応できない可能性があり、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

 

消費者ニーズの変化については、常に早期に把握するように努めておりますが、例えば、次のような対応を行いました。

近年、油脂価格の高騰や物価上昇の継続により、食用油を大切に使いたいという消費者ニーズが高まっております。そうしたニーズに応える形で“少量使い”という新たな価値を訴求した「日清キャノーラ油 ハーフユース」を発売しました。

また、消費者が食用油を使う際に気になる不安や関心の一つとして、油脂の酸化があります。当社は長年、酸化上昇抑制技術の開発に注力してきましたが、これまでの技術を結集し、新たにウルトラ酸化バリア製法を開発しました。そして、この技術により、開封後も鮮度が長持ちする食用油「日清ヘルシークリア」を発売しました。

顧客接点強化の取組みとしては、外食・中食等の業務用領域のユーザー向けの情報サイト「日清オイリオ 業務用お役立ちサイト」を開設しました。

 

⑨ 海外拠点の運営に関するリスク

 当社グループは、日本国内のみならず、東南アジア、欧州等の国および地域において事業を展開しております。以下のような事象は、特に海外事業展開においては、リスクとなります。

ⅰ法律等の諸規制の予期せぬ制定または改廃

ⅱ不測の政治的・経済的事象の発生

ⅲテロ、紛争等による社会的混乱および

その他の地政学リスク

 これらの事象が発生した場合には当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 当社グループにおきましては、これらのリスクを最小限に留めるべく、情報収集に努め、危機管理体制のなかで的確かつ迅速に対応してまいります。

 

 

 

重要リスクの内容

対応

⑩ 伝染病、感染症等

 伝染病、感染症等が流行し、従業員等の感染、外部委託先も含めた事業活動の制限、原材料の調達不足等によりサプライチェーンの要所に影響が生じることから製品の安定供給に支障が生じ、当社グループの業績および財政状態に影響を与える可能性があります。また、製品需要が大幅に変動した場合もこれらに影響を与える可能性があります。

 

 

 新型コロナウイルス感染症対策での経験を踏まえ、対策本部の機能や役割、人員構成等を見直すとともに、感染症に係るBCP文書のブラッシュアップを行いました。

⑪  情報セキュリティ

 当社グループでは、生産管理、物流管理、販売管理および財務・会計をはじめとした業務の円滑かつ効率的な遂行のため情報システムを構築しております。また、事業上の重要情報、事業の過程で入手した機密情報および個人情報を保有しています。大規模な災害や停電、またはコンピュータウイルスやサイバー攻撃などにより、システム停止に伴う業務遅延や情報漏洩等が発生した場合、お客さまや市場の信頼が失われ、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 当社グループは、情報システムの安定稼働、信頼性向上、情報漏洩防止のため、ツールによるセキュリティ対策を導入するとともに、従業員教育や訓練を実施し、リスクが顕在化しないように取り組んでおります。

 また、セキュリティ事故発生に備え、対応マニュアルや連絡体制を整備しております。

 情報セキュリティ委員会では、情報セキュリティ対策について定期的な報告を受け、評価および見直しを実施しております。

⑫ 大規模な事故

 火災・爆発などの大規模な事故を起こした場合は、製品の安定供給に支障が生じ、当社グループへの信頼や業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

 当社では、全社的な安全・防災管理にかかわる統括責任を有する安全・防災担当役員を設置するとともに、安全・防災会議を中心とした全社防災体制、および事業場防災体制を構築しております。

 また、緊急時体制を規定のうえ、総合防災訓練や教育を定期的に実施し、事故の発生防止に努めるとともに、万一の発生に備えております。

 これらの取組みおよび保険の付保により、当社グループの業績および財政状態への影響を低減することに努めております。

 

⑬ 重要な外部委託先(物流委託先)の確保

 お客さまからのご要望通りに商品をお届けするため、必要な物流機能を適正なコストで確保すべく努めておりますが、これができない場合にお客さまへの商品の供給が滞り、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 日本国内では、ローリー車を含めたトラック運転士の不足や高齢化が進むなか、国内での輸送可能量が先々減少していく可能性があり、物流需給ギャップが生じる懸念があります。さらには、食品業界特有の長時間待機や納品付帯作業などの物流諸課題の改善遅れにより、商品をお客さまにお届けできなくなるリスクがあります。

 また、内航船に関しても同様に船員不足と高齢化が進んでおり、物流需給ギャップが生じる懸念があります。

 

 当社グループでは、油脂事業におけるホームユース領域および業務用領域の商品においては、納品リードタイムの見直し、出荷拠点の見直しや増設、鉄道や船舶等の代替輸送手段の確保などの施策をとるとともに、ホワイト物流の取組みや輸送料金の適正化を進め、当該リスクの低減に努めております。2023年度は、持続的かつ競争力ある物流体制の構築のために、共配函数比率の拡大やトラックドライバー拘束時間削減のCSV目標を新規に設定しました。

 また、食品メーカー5社が出資する物流会社を通じた共同配送や物流改善につながる取組みを推進しております。

 さらに、より消費地に近い工場で生産し、運ぶという、いわゆる地産地消を追求したサプライチェーン全体の最適化への取組みをデジタル技術の活用を含め検討を進めております。

 

⑭ 人材の獲得(育成)不足による競争力の低下

および継続性のリスク

 「日清オイリオグループビジョン2030」で目指す姿の実現に向けては、多様な価値観や専門性を有した人材が必要不可欠であり、不足すると競争力低下を招いてしまいます。

 また、安全・安心な製品を安定的に提供していくためには、特に製造や物流現場の活動を担う人材が不足することは事業継続性の大きなリスクであると認識しています。

 さらに、社員一人ひとりが、公私ともに充実し、当社グループで意欲的に能力を発揮し続けていくためには、自身の健康が最も大切な要素です。社員の健康リスクの発生は生産性などに影響が生じる可能性があります。

 

 

 当社グループは、社員の多様性を尊重するとともに、一人ひとりが成長できる人材育成プログラム投資の拡充や、必要に応じた外部からの人材登用、女性活躍の推進、健康経営の推進など、イノベーションを生み出す活力に満ち溢れた組織づくりに注力することで、必要な人材の確保と強化に取り組んでおります。

 安全・安心な製品を安定的に提供するにあたり、継続的な採用や教育、テレワークの積極的な活用、労働環境の最適化などにより人材の確保・定着に取り組むとともに、IoTやAI等の活用による作業の効率化や省力化を推進しております。

 当社グループでは、経営トップを健康経営の最高責任者とした推進体制を構築し、社員の心身の健康、働きがい、生産性向上を目的とした健康経営の各種取組みを推進しております。

 

 

2024年度のリスクマネジメントにおいては、引き続き、「日清オイリオグループビジョン2030」で示した6つの

重点領域における機会とリスクのガバナンス強化に努めてまいります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

1.経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュフロー(以下「経営成績等」という)の状況の概要は次のとおりであります。

 

(1) 財政状態及び経営成績の状況

① 経営成績の状況

当連結会計年度における世界経済は、株高などを背景にした好調な個人消費を中心に米国経済の底堅さが見られましたが、累積的な金融引き締めの影響などもあり、景気の減速が懸念されております。

また、日本経済は、新型コロナウイルス感染症の5類への移行に伴い、外食や旅行を中心に消費は回復したものの、エネルギーコストや原材料価格の高騰を背景とした物価上昇により全体として弱い動きとなりました。

このような環境下、当社グループは「もっとお客さまの近くで、多様な価値を創造し続ける企業グループに変革する」という基本方針のもと、中期経営計画「Value Up+」(2021年度-2024年度)に取り組んでおります。6つの重点領域で設定したCSV目標を成長ドライバーとして成長路線を加速させるとともに、“植物のチカラ®”を価値創造の原点に、社会との多様な共有価値の創造を通じた持続的な成長を目指しております。

当社グループは、株主資本コストを上回るROE水準の達成を重要な経営目標としております。2022年度にはROICを経営目標に加え、収益性と資産効率性の向上に取り組んでおります。また、「成長性」「積極投資」「持続性」「効率性」の4つの視点でKPIと実行施策をフレームワーク(「達成チャート」)で整理し、2024年度においては、ROE8.0%以上、ROIC5.0%以上を経営目標とし、取り組みを進めております。

当連結会計年度の業績については、以下のとおりとなりました。

 

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

増減額

(百万円)

前期比

売上高

556,565

513,541

△43,023

92.3%

営業利益

16,186

20,840

+4,653

128.8%

経常利益

16,242

20,033

+3,791

123.3%

親会社株主に帰属する

当期純利益

11,157

15,148

+3,991

135.8%

ROE

7.0%

8.8%

+1.8P

ROIC

4.5%

5.1%

+0.6P

 

(注)ROIC(投下資本利益率)は、以下の算定式に基づき算出しております(いずれの数値も連結ベース)。

ROIC =(当連結会計年度の税引後営業利益+持分法投資損益)÷

[{(当事業年度の投下資本)+(前事業年度の投下資本)}÷2]

 

 ② 財政状態の状況

当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ189億29百万円増加し、3,933億82百万円となりました。主な要因は、現金及び預金が73億97百万円、売上債権が23億48百万円、有形固定資産が40億84百万円、投資有価証券が121億58百万円増加した一方で、棚卸資産が84億26百万円減少したことであります。

負債は、前連結会計年度末に比べ22億14百万円減少し、2,008億20百万円となりました。主な要因は、1年内償還予定の社債が100億円、未払金が31億73百万円、未払費用が16億31百万円、未払法人税等が11億88百万円、長期借入金が43億18百万円、リース債務(固定)が15億7百万円増加した一方で、仕入債務が32億89百万円、短期借入金が181億86百万円、社債が50億円減少したことであります。

純資産は、前連結会計年度末に比べ211億43百万円増加し、1,925億62百万円となりました。主な要因は、利益剰余金が107億50百万円、その他の包括利益累計額が93億7百万円増加したことであります。

 

 

前連結会計年度

(百万円)

 当連結会計年度

(百万円)

増減額

(百万円)

資産合計

374,453

393,382

+18,929

負債合計

203,034

200,820

△2,214

純資産合計

171,418

192,562

+21,143

 

 
(2) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ67億40百万円増加しましたが、会社分割に伴う減少11億56百万円があり、164億83百万円となりました。

〔営業活動によるキャッシュ・フロー〕

営業活動によるキャッシュ・フローは、367億15百万円の収入となりました。主な内訳は、税金等調整前当期純利益211億69百万円、減価償却費92億87百万円、棚卸資産の減少100億22百万円によるキャッシュの増加および売上債権の増加12億86百万円、仕入債務の減少42億74百万円、法人税等の支払50億25百万円によるキャッシュの減少であります。

〔投資活動によるキャッシュ・フロー〕

投資活動によるキャッシュ・フローは、160億83百万円の支出となりました。主な内訳は、有形固定資産の取得による支出147億63百万円によるキャッシュの減少であります。

〔財務活動によるキャッシュ・フロー〕

財務活動によるキャッシュ・フローは、145億86百万円の支出となりました。主な内訳は、長期借入れによる収入50億64百万円、社債発行による収入50億円によるキャッシュの増加および短期借入金の純減186億53百万円、長期借入金の返済による支出9億47百万円、配当金の支払43億78百万円によるキャッシュの減少であります。

 

 

前連結会計年度
(百万円)

当連結会計年度
(百万円)

営業活動によるキャッシュ・フロー

398

36,715

投資活動によるキャッシュ・フロー

△6,143

△16,083

財務活動によるキャッシュ・フロー

6,342

△14,586

現金及び現金同等物の増減額(△減少)

3,023

5,584

現金及び現金同等物の期末残高

10,899

16,483

 

 

 

(3)生産、受注及び販売の実績

 

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前期比

油脂

事業

油脂・油糧

229,925

81.1%

加工油脂

113,635

92.5%

小計

343,561

84.6%

加工食品・素材事業

48,106

104.6%

ファインケミカル事業

15,212

80.2%

その他

1,865

102.8%

合計

408,746

86.4%

 

      (注) 金額は、原価計算に利用した価格等により算定しております。

 

② 受注実績

当社グループでは、主として計画に基づく生産を行っているため、記載を省略しております。

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前期比

油脂

事業

油脂・油糧

317,995

90.8%

加工油脂

103,978

88.1%

小計

421,973

90.1%

加工食品・素材事業

70,129

107.7%

ファインケミカル事業

18,884

92.3%

その他

2,553

97.5%

合計

513,541

92.3%

 

 

2.経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1) 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

① 経営成績および財政状態の分析

当連結会計年度における経営成績および財政状態の分析につきましては、「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 1.経営成績等の状況の概要 (1)財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりです。

 

② セグメントごとの財政状態及び経営成績の分析

セグメント別の資産では、前連結会計年度末に比べ油脂事業において107億41百万円増加、加工食品・素材事業において59億15百万円増加、ファインケミカル事業において11億38百万円増加しました。

セグメントの業績は次のとおりであります。

 

・売上高

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

増減額

(百万円)

前期比

油脂

事業

油脂・油糧

350,356

317,995

△32,360

90.8%

加工油脂

118,023

103,978

△14,045

88.1%

小計

468,379

421,973

△46,405

90.1%

加工食品・素材事業

65,103

70,129

5,026

107.7%

ファインケミカル事業

20,462

18,884

△1,577

92.3%

その他

2,619

2,553

△66

97.5%

合計

556,565

513,541

△43,023

92.3%

 

 

・〔参考〕売上高(単体)

 

前事業年度

(百万円)

当事業年度

(百万円)

増減額

(百万円)

前期比

油脂

事業

油脂・油糧

317,062

287,479

△29,582

90.7%

業務用・加工用

132,883

121,944

△10,938

91.8%

ホームユース

74,654

70,832

△3,821

94.9%

油糧

109,525

94,702

△14,822

86.5%

加工油脂

13,420

14,768

+1,347

110.0%

小計

330,483

302,247

△28,235

91.5%

加工食品・素材事業

19,259

21,343

+2,083

110.8%

ファインケミカル事業

5,976

6,858

+882

114.8%

その他

342

406

+63

118.5%

合計

356,062

330,856

△25,205

92.9%

 

 

・営業利益

 

前連結会計年度

(百万円)

当連結会計年度

(百万円)

増減額

(百万円)

前期比

油脂

事業

油脂・油糧

9,097

14,478

+5,381

159.2%

加工油脂

5,528

4,503

△1,024

81.5%

小計

14,625

18,981

+4,356

129.8%

加工食品・素材事業

533

990

+457

185.7%

ファインケミカル事業

1,385

1,208

△176

87.2%

その他

462

534

+71

115.6%

セグメント間消去・調整

△820

△874

△54

合計

16,186

20,840

+4,653

128.8%

 

 

 

セグメント別の概況

≪油脂事業≫

油脂事業セグメントでは、油脂・油糧において、天候不順による原料の減産懸念や円安ドル高の進行があるものの、原材料価格が一時期のピークから下落基調となるなか、適正な販売価格の維持・形成に取り組みました。また、付加価値品の拡販に加え、新たな市場創造やソリューション提案の強化に注力しました。この結果、油脂事業セグメント全体では、ミールの販売数量の減少、国内油脂および海外加工油脂の販売単価下落等により減収となりましたが、国内油脂における適正価格での販売等により増益となりました。

 

◆油脂・油糧

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

前期比

売上高

350,356

317,995

△32,360

90.8%

営業利益

9,097

14,478

+5,381

159.2%

 

 

[原料の調達環境]

原料の調達面では、ドル円相場が前期に対して円安ドル高で推移したものの、主要原料である大豆・菜種の相場が前期と比較して下落したことから、大豆価格、菜種価格ともに前期を下回りました。

<主要原料相場>

大豆相場は、4月以降ブラジル産の豊作見通しや米国産の作付が順調に進んだことで軟調に推移しましたが、米国の作付面積減少や生産地の高温乾燥から7月には15米ドル台まで上昇しました。その後、収穫期を迎え9月には一旦下落しましたが、ブラジル産の作付けが始まるとエルニーニョ現象による減産懸念が高まり10月以降は再び上昇しました。徐々に減産懸念が後退すると年明けからは軟化し2024年2月には11米ドル台まで下落、その後も12米ドル前後で推移しました。

菜種相場は、4月以降カナダ産の生産量回復、豪州産の豊作等、世界需給改善により軟調に推移しました。

7月には高温乾燥により800カナダドル半ばまで上昇しましたが、収穫期へ向けて天候が改善したことや他油種に連れ安となり、12月には600カナダドル半ばまで下落しました。年明けからは独自材料に乏しい中、大豆に連れ安となり2024年2月に570カナダドル台まで下落した後、パーム相場や原油相場の上昇に連れて600カナダドル台を回復しました。

<為替相場>

ドル円相場は、一昨年の10月に150円台まで円安ドル高が進行した後、米国の利上げ停止と日本の大規模金融緩和政策転換が意識されたことで、1月には130円割れまで円高ドル安となりました。しかしながら日米ともに金融政策の方向性に変更がないことから6月には140円台、10月には150円台まで円安ドル高となりました。その後、米国の追加利上げ期待の後退、日銀による早期のマイナス金利解除観測が高まり、年末には140円台前半まで円高ドル安が進行しました。しかし、こうした動きは長く続かず、年明けからは日米金利差を意識した取引へと戻り、2024年2月には150円台を回復しました。

[油脂の販売]

業務用については、原材料価格が前期と比較し下落基調となるなか、適正な販売価格の維持・形成に取り組みました。また、「ニーズ協働発掘型営業」により、「最終製品の品質向上」「コスト抑制」「生産性の向上」などの課題解決の質の向上に継続的に取り組みました。商品面ではフライ油の酸価上昇や着色などを抑える「機能フライ油」や、メニューの品質を高める炊飯油や麺さばき油などの「機能性油脂」など、「付加価値型商品群」の積極的な提案による拡販に努めました。新型コロナウイルス感染症の5類への移行により外食需要や観光需要が回復し、販売数量は前期を上回りましたが、販売単価が下回ったことで減収となりました。

加工用については、原料相場に見合った商売を進めるも物価上昇を背景とした消費マインドの低下による各業界での生産減により、販売数量が前期を下回り、減収となりました。

ホームユースについては、揚げ物の吸油を抑える「日清ヘルシーオフ」などの拡販により、食用油の価値向上と「新たな価格の均衡点」の形成に努めました。また、オリーブオイルなどの原材料価格高騰が続くなか、販売価格改定の取り組みに加え、「かけるオイルの定着」や「味つけオイルの市場創造」など付加価値品の継続的な浸透に努めましたが、販売単価が前期を下回ったことに加え、物価上昇による生活防衛意識の高まりの影響を受けて販売数量が前期を下回ったことから、減収となりました。

以上の結果、国内油脂全体では売上高は減収となりましたが、油脂コストが低下するなか、粗利単価が改善したことで増益となりました。

 

[ミールの販売]

大豆ミールについては、シカゴ大豆粕定期は前年並みでしたが、ドル円相場が円安ドル高で推移したことにより販売価格は上昇しました。一方、搾油量の減少により販売数量は減少し、売上高は減収となりました。

菜種ミールについては、搾油量は前年並みとなりましたが、配合飼料への配合率が上昇せず販売数量は減少しました。また、菜種ミール需給が緩和した影響から販売価格は下落し、売上高は減収となりました。

 

◆加工油脂

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

前期比

売上高

118,023

103,978

△14,045

88.1%

営業利益

5,528

4,503

△1,024

81.5%

 

 

海外加工油脂については、マレーシアのIntercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.において、輸出向けが若干減少したものの、国内地場取引先向けの販売が好調に推移したこともあり、全体の販売数量は前年を上回りました。一方、パーム油相場の下落に伴い販売価格が下落したことで減収となり、またパーム油時価評価益の減少などもあり、減益となりました。

イタリアのIntercontinental Specialty Fats(Italy)S.r.l.においては、既存顧客への拡販や新規顧客の獲得により増収となりました。また、利益面では前期のロシアのウクライナ侵攻によるパーム油の需要増に対する反動減があったものの、既存顧客や新規顧客への拡販により、増益となりました。

国内加工油脂については、物価高に伴う消費者の節約志向の定着化や取引先製品のダウンサイズ化・油脂使用量減少といった厳しい状況が続くなか、新規販売先の拡大および既存顧客での新規商品採用、コストに見合った適正価格での販売と継続的なコスト改善への取り組みにより、増収増益となりました。

 

≪加工食品・素材事業≫

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

前期比

売上高

65,103

70,129

+5,026

107.7%

営業利益

533

990

+457

185.7%

 

 

加工食品・素材事業セグメントでは、原材料価格やエネルギーコスト上昇の影響があったものの、チョコレート製品における販売数量増および適正な販売価格への改定により、増収増益となりました。

 

チョコレートについては、大東カカオ㈱において、新型コロナウイルス感染症の5類への移行に伴う土産市場の需要回復や製パン市場向け調製品の需要回復等により、販売数量は前期を上回りました。また、原材料価格やエネルギーコストが上昇するなか、コストに見合った適正な販売価格への改定を進めたことにより、増収増益となりました。シンガポールのT.&C. Manufacturing Co., Pte.Ltd.およびインドネシアのPT Indoagri Daitocacaoにおいては、販売数量は前年並みとなりました。チョコレート全体では大東カカオ㈱の業績が貢献し、増収増益となりました。

調味料は、ドレッシングの販売数量は前年を上回ったものの、原価率上昇や販管費増加の影響が大きく、増収減益となりました。

機能素材・食品は、「体脂肪燃焼体質化」をコンセプトとした機能性マーケティングを継続するとともに、加工食品メーカーとのMCT(中鎖脂肪酸)のコラボレーション商品の上市を進め、市場規模拡大に努めました。原材料価格の上昇に対する適正価格での販売に努めたものの、販管費の増加等により、増収減益となりました。

大豆素材・食品は、大豆たん白等の販売において原材料価格の上昇に対する適正価格での販売により、増収増益となりました。

 

≪ファインケミカル事業≫

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

前期比

売上高

20,462

18,884

△1,577

92.3%

営業利益

1,385

1,208

△176

87.2%

 

 

ファインケミカル事業セグメントでは、新型コロナウイルス感染症の5類への移行に伴い国内、中国市場での販売は好調に推移しました。一方、スペインのIndustrial Quimica Lasem, S.A.U.では、前期は新型コロナウイルス感染症対策緩和に伴う特需がありましたが、当期はその反動の影響が大きく、減収減益となりました。

 

ファインケミカル製品については、化粧品向け新製品の上市やテクニカルサポートによるソリューション提案をグローバルで展開し、顧客開拓を進めました。国内化粧品向け需要は回復の兆しを見せています。また、中国市場ではコロナ禍からの回復による販売数量増により増収増益となりました。一方、欧州においては長引くインフレがようやく収束に向かい市場も回復しつつあるものの、昨年好調だったIndustrial Quimica Lasem, S.A.U.の販売数量減の影響が大きく、減収減益となりました。

環境・衛生については、アルコール製剤の需要減少により販売数量が減少し、また販売価格の改定を進めたものの、原材料およびエネルギーコスト高騰の影響が大きく、減収減益となりました。

 

≪その他≫

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

前期比

売上高

2,619

2,553

△66

97.5%

営業利益

462

534

+71

115.6%

 

 

情報システムをはじめその他の事業セグメントは、減収増益となりました。

 

≪地域別売上高≫

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減額

前期比

日本

429,416

404,831

△24,585

94.3%

アジア

65,014

57,202

△7,811

88.0%

その他

62,134

51,508

△10,626

82.9%

海外売上高比率

22.8%

21.2%

△1.7P

 

 

パーム油相場の下落を背景とした海外加工油脂製品の販売価格下落等の影響により、マレーシア、中国等のアジア向けおよび欧州、米国等のその他地域への売上高は減収となりました。

 

(2) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループの当連結会計年度末の資金は、前連結会計年度に比べ67億40百万円増加しましたが、会社分割に伴う減少11億56百万円があり、164億83百万円となりました。

当連結会計年度における営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益と減価償却費や棚卸資産の減少によるキャッシュの増加および売上債権の増加や仕入債務の減少や法人税等の支払によるキャッシュの減少により367億15百万円の収入(前連結会計年度は3億98百万円の収入)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得による支出などによるキャッシュの減少により160億83百万円の支出(前連結会計年度は61億43百万円の支出)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入れによる収入や社債発行による収入などによるキャッシュの増加および短期借入金の純減と長期借入金の返済や配当金の支払などによるキャッシュの減少により145億86百万円の支出(前連結会計年度は63億42百万円の収入)となりました。

 当社グループの資金運営は、事業活動にかかる運転資金については営業キャッシュ・フローで獲得した資金を主な財源としております。また、資金調達方法として、当社取引銀行5行との間でシンジケーション方式により総額100億円のコミットメントライン契約を締結している等により、資金の流動性は確保しております。

 当社と国内子会社10社の間で「キャッシュ・マネジメント・システム(CMS)」を構築しており、当該システムを利用し効率的な資金配分を行っております。

 設備資金、投融資資金等の長期的な資金需要については、金融市場動向、既存の社債の償還時期および借入金の返済時期等も総合的に勘案し、社債および借入金等による資金調達を行っております。

 今後の重要な資金の支出予定としては、横浜磯子事業場におけるインキュベーションスクエア設立とマレーシアのIntercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.における生産設備増強と品質・生産効率向上を予定しております。

 

当連結会計年度末の有利子負債の内訳は次のとおりであります。

当連結会計年度(2024年3月31日)

 

1年以内

(百万円)

1年超

(百万円)

短期借入金

14,266

社債

10,000

15,000

長期借入金

1,047

56,632

リース債務

577

7,100

合計

25,891

78,733

 

上記の表において、連結貸借対照表の短期借入金に含まれている1年内返済予定の長期借入金は、長期借入金に含めております。

 

なお、経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等およびその達成状況については、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 中長期的な会社の経営戦略並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」の目標とする経営指標に記載しております。

 

 

(3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表等の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりです。

 

① 繰延税金資産

当社グループは、将来の課税所得見込額等に基づいて回収可能性があると判断した将来減算一時差異について繰延税金資産を計上しております。

なお、繰延税金資産の回収可能性は将来の課税所得等の見積りによるものであるため、その見積りの前提に変更が生じた場合は、繰延税金資産の計上に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 退職給付債務及び退職給付費用

当社グループは、退職給付債務および費用について、昇給率、退職率等の基礎率及び割引率を用いて計算しております。

なお、これらの前提に変動があった場合には、退職給付債務および費用に影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 固定資産の減損

当社グループは、固定資産の減損に係る回収可能性の評価について、事業部等を基礎としてグルーピングされた資産グループごとの収益性の評価及び回収可能価額の算定を行い、収益性が著しく低下している資産グループについて、固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額することとしております。

市場環境等の変化により収益性が著しく低下した場合には、減損損失を計上する可能性があります。

なお、当連結会計年度については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結損益計算書関係) ※7減損損失」の内容に記載のとおりであります。

 

当連結会計年度の連結財務諸表を作成するにあたって行った会計上の見積りのうち、当該会計上の見積りが当連結会計年度の翌連結会計年度の連結財務諸表に重要な影響を及ぼすリスクがあると判断したものはありません。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

 日清オイリオグループ株式会社(以下「当社」といいます)は、2023年8月9日開催の取締役会において、株式会社J-オイルミルズ(以下「J-オイルミルズ」といいます)との間で、2023年10月2日を効力発生日として、共同新設分割により新設する製油パートナーズジャパン株式会社(以下「製油パートナーズジャパン」といいます)について定めた合弁契約について決議、締結いたしました。

 この会社分割の概要は次のとおりであります。

 (1) 会社分割の目的

当社およびJ-オイルミルズ (以下「両社」といいます)は、 国内製油産業の長期的な課題についての共通認識のもと、将来にわたり日本の食を支えることを目指し「油脂と油粕の安定的な供給」、「持続可能な国際競争力の強化」の実現と、「環境・社会課題の解決」を通して広く社会に貢献することを目的に、2021年5月より搾油合弁会社設立に関する検討を行い、2022年11月より、西日本エリアにおける搾油合弁会社設立に関する協議を進めてまいりました。本分割について、公正取引委員会の承認を得られたことから、2023年10月に本分割を実行することにいたしました。

新会社は、国内搾油業の国際競争力強化と安定供給を長期にわたって確保する共同運営体制の構築を目指すとともに、AIやIoTの活用によるスマートファクトリー化、脱炭素社会への取り組みなど、環境・社会課題への解決にも繋がる「次世代型搾油工場」の構築に向けた取り組みを推進してまいります。

 (2) 会社分割の方法

当社およびJ-オイルミルズを新設分割会社とし、両社が共同で新設する製油パートナーズジャパンを承継会社とする共同新設分割といたします。

 (3) 会社分割の期日

2023年10月2日

 (4)分割する当社事業部門の概要

(1)分割する部門の事業内容

当社水島工場における搾油工程

(2)分割する部門の経営成績

-(注)

(3)分割する資産、負債の項目

資産:7,155百万円、負債:1百万円

 

   (注)生産工程の一部を分割することから、経営成績として示すことが困難であるため「-」としており

ます。

(5) 分割に際して発行する株式及び割当

製油パートナーズジャパンは、本分割に際して、普通株式 10,000株を発行し、分割対価として、当社に

5,000株、J-オイルミルズに5,000株を割当て交付いたします。

 (6) 割当株式数の算定根拠

割当株式数の算定に当たっては、対象事業に係る資産等の内容を精査し、同事業に係る主要な資産である有形固定資産をコスト・アプローチにより評価し、総合的に勘案して、当事会社間で協議の結果、決定いたしました。

 (7新設分割設立会社の概要

(1) 商 号

製油パートナーズジャパン株式会社

(2) 本店所在地

岡山県倉敷市水島海岸通三丁目2番地

(3) 代表者の役職・氏名

代表取締役 川邊  修(日清オイリオグループ)

代表取締役 田中 一伸(J-オイルミルズ)

(4) 事業内容

日清オイリオグループおよびJ-オイルミルズからの搾油受託事業(原油と油粕の製造)

(5) 資本金

100百万円

(6) 決算期

3月31日

 

※日清オイリオグループおよびJ-オイルミルズに関しては、商号、本店所在地、代表者の役職・氏名、

     事業内容、資本金、および決算期について、いずれも本分割による変更はありません。

 

6 【研究開発活動】

 

当社グループは、長年の植物油脂研究で培った知見を活用し、中長期視点の「技術開発」と、お客さまのニーズにスピーディにお応えする「商品開発」を両輪とした研究開発活動を行っております。油脂の製造および加工に関する技術をはじめ、油脂の栄養評価技術や分析・評価技術、官能評価技術を強みとし、健康、おいしさの追求と、環境負荷低減、ユーザーニーズに対応したアプリケーション開発に取り組んでおります。技術力を強化し、知的財産の戦略的な活用を行うことで、グローバルトップレベルの油脂ソリューション企業の実現に貢献してまいります。

 


 

当事業年度は、油糧原料の安定確保に向けて、「Bio-Digital Transformation 産学共創拠点」に参画し、微細藻類による油脂生産の検討を開始いたしました。また、東北大学との共同研究により、おいしさを司る油脂由来の香気成分の生成メカニズムを解明するなど、産学官の連携を図りながら技術開発を進めております。

また、海外の研究開発拠点であるマレーシアのNisshin Global Research Center Sdn. Bhd.では、当社グループのパーム油脂、スペシャリティファットの製造および販売を行う事業会社Intercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.と連携し、チョコレート用油脂の主原料であるパーム油に関わる油脂加工技術の開発を行っております。今期は国内の研究開発部門と共同で、チョコレート用途に適した成分の分別技術を確立し、設備導入を進めてまいりました。

ファインケミカル事業部では、化粧品領域、化学品領域、および食品領域におけるファインケミカル素材の開発ならびに、その機能評価に基づく価値開発やアプリケーション化を進めるとともに、生産部門と連携して製品の品質優位性を高めるための活動を行っております。また、事業のグローバル展開を支える基盤を形作るために、当社グループであるIndustrial Quimica Lasem, S.A.U.とは、エステル油剤開発、品質管理、生産技術などにおいて多面的な技術連携関係を構築しております。中国では、これまでの当社グループの日清奥利友(上海)国際貿易有限公司との連携による当社製品の技術的、品質的な特徴を顧客にアピールする活動に加え、上海テクニカルサポートセンター(通称:STS)を当事業年度に新たに開設し、中国における市場開拓を着実に進めております。

 

2024年度には、研究開発部門の機構改革と、横浜磯子事業場内に建設した新たな研究開発拠点である「インキュベーションスクエア」の稼働を開始し、研究開発機能を強化しお客さまと価値を共創するための基盤を整備いたします。国内外を問わず様々なお客さまとの技術や情報の交流を通して、多様な視点とアイデアにより最先端のソリューションを提供してまいります。

なお、当連結会計年度における研究開発費の合計は3,519百万円(前連結会計年度は3,128百万円)であり、セグメント別の研究開発費については以下のとおりです。

 

 

油脂事業

加工食品・素材事業

ファインケミカル事業

合計

2023年度(百万円)

2,332

579

607

3,519

 

 

〔油脂事業〕

1.油脂・油糧

2024年、日本初のサラダ油である「日清サラダ油」の発売から100周年を迎えました。ホームユース食用油では、毎日ご家庭で使う油はより良いものをお届けしたいとの思いから、長年にわたり積み重ねてきた技術を結集し、「日清ヘルシークリア」を2024年2月に発売いたしました。当社は、これまでも「酸化」を抑える技術を数々と開発してまいりましたが、これまでの技術を結集しさらに進化させた「ウルトラ酸化バリア製法」を開発いたしました。お客さまの「酸化」に対する不安を解消する「日清ヘルシークリア」は、開封後もつくりたての油のおいしさが続くという新たな価値を提供し、クッキングオイルの魅力をさらに高めることで、家庭用食用油市場を活性化してまいります。さらに、オリーブオイル市場の活性を目的に、気軽に初めての方でもオリーブオイルのおいしさを感じていただくことのできる新商品「日清キャノーラ&オリーブ」を2024年2月に発売いたしました。また、本格風味の「BOSCO シーズニングオイル」に、高級食材トリュフの芳醇な香りを手軽に楽しんでいただける「トリュフ&オリーブオイル」を追加発売し、「味つけオイル」による食用油のおいしさ、使い方の提案をさらに広げてまいります。

環境にやさしい企業活動の取り組みの一環として、容器におけるプラスチック使用量削減のため、新容器(紙パックタイプおよび800gPETボトル)を開発いたしました。紙パックタイプ450gは、当社400gPET容器と比較してプラスチックの使用量を55%削減し、FSC認証紙やバイオマス素材を使用しております。また、使いやすい2WAYキャップを採用し、残っている量が分かりやすいスリットを付けております。800gPETボトルは、とってをなくすことで900gPETボトルと比較してプラスチック使用量を39%削減し、再生プラスチックも30%含有しております。さらに、くぼみを配置することで使いやすさも両立しております。

業務用食用油では、お客さまの様々な課題を解決する提案や商品開発を行っております。当事業年度はカスタマーサポート機能を強化し、フライ油分析をはじめとするアフターフォローやメニュー開発支援などお客さまの課題解決に一層の充実を図りました。開発面では、最近の健康ニーズの高まりによりこめ油の利用が多くなっていることを受け、「日清キャノーラ&こめ油」を開発いたしました(2024年4月上市)。ブレンドしたこめ油特有のうま味により揚げ物がおいしくなるだけではなく、通常のこめ油ブレンド油に比べ劣化を抑える長持ち製法を付与しております。また、外食のお客さま向けに、ご飯をおいしくする「日清炊飯油 お店のごはん用」を開発しました(2024年4月上市)。さらにフードロスや環境配慮など多様化するニーズへ対応した炒め油や麺さばき油などの機能性油脂の開発を推進しております。

 

2.加工油脂

製菓・製パン商品において、油脂は風味、食感、口どけなどおいしさの大事な機能を担っております。当社では「油脂」を究めることで、チョコレート用油脂を中心としてスペシャリティファットやマーガリン・ショートニングなどの製品を開発しております。また、これらの製品の主要原料油であるパーム油を生産する当社グループのIntercontinental Specialty Fats Sdn. Bhd.および、業務用チョコレートを販売する当社グループの大東カカオ株式会社の研究開発部門とも連携することで、油脂製造からアプリケーション開発にわたる領域のニーズに応える研究開発を行っております。既存のお客さまへの新たな提案や新規のお客さまの開拓に取り組んだ結果、ココアバターとの相溶性の高いチョコレート用油脂や口どけのよいクリーム用油脂を上市いたしました。コンビニエンスストア向け商品には、当社独自のエステル交換油を活用することで、サクサクとした食感やジューシー感が特長のシートマーガリンが採用になりました。また、機能性を有する素材と油脂を組み合わせた製パン用油剤により、従来よりもしっとり感があるパン生地に仕上がることが可能となり、消費期限の延長やそれによる食品ロス削減が期待されております。

 

〔加工食品・素材事業〕

1.MCT

MCTの優れた健康性に着目して機能開発を進め、これまでの「体脂肪やウエストサイズを減らす」に加え、「日常活動時の脂肪の燃焼を高める」や「運動時の脂肪の燃焼を高める」などの新たな機能性表示食品を消費者庁に届出することができました。今後は食用油や加工食品へ広く展開することで、マーケットでの認知度向上や価値化を図り、当社の掲げる「すべての人の健康」の実現を推進してまいります。

 

2.調味料

ドレッシング類では、シニア層の方から高い支持をいただいているアマニ油をお手軽にお使いいただける「日清アマニ油ドレッシング」に、新たな風味として「黒酢たまねぎ」「旨口チョレギ」を追加発売いたしました。また、ドレッシング主力商品として多くのお客さまより支持をいただいている「日清ドレッシングダイエット」に、大容量タイプへの要望にお応えして、人気の「うまくち和風」「まろやかごま風味」に大容量サイズ400mlを追加発売いたしました。

 

3.機能素材・食品

MCTを使用した商品として、25gの小容量でエネルギーが100kcal摂取できる「ミニタスエネルギーゼリー」の新味3種(マスカット、ヨーグルト、いちご)を追加発売いたしました。さらに粉末タイプの粥ゼリーの素として、「米粥ゼリーの素」「パン粥ゼリーの素」の2品を上市いたしました。1食120g当たり200kcalのエネルギー密度となっており、同量の粥の2.5倍量のエネルギー摂取が可能となっております。加えてたん白質も5~10g配合していることから、たくさん食べられない方に、エネルギーとたん白質を無理なく食べていただける商品となっております。

当社の独自技術による油脂100%の結晶性油脂「コナファット」は、食感改善、分散補助、粉末の流動性改善といった機能を軸に食品用途で幅広くご利用いただいております。食品での用途をさらに拡大するため、チョコレートの粘度調整やクッキーの品質改良などの新たな価値の提案を進めております。また、食品廃棄の削減に向けて、食品アップサイクルへの利用についても用途提案を進めております。非食品分野では環境を意識した脱石油、脱ケミカルを目指した用途開発、市場開拓を進めております。様々な用途での活用方法をご提案することで、販売数量を着実に増やしております。

 

4.チョコレート

大東カカオ株式会社と連携を取りながら、カカオを中心に、素材にこだわり、配合・物性・製造技術を磨き、他社がまねのできない多様な技術やユーザーの要求にこたえるための高付加価値技術を構築しております。

大東カカオ株式会社の強みであるロースト方法やカカオ産地を組み合わせた風味づくりを行うとともに、当社との連携を強化し、油脂技術を活用した高機能なチョコレートの開発を進めております。また、持続可能な社会への貢献の一環として、サステナブル認証カカオを使用した製品の発売に加え、認証パーム油の導入に向けた取り組みを開始。市場の要求や顧客からの要望に合わせて、認証原料への切り替えを進めるための検討を実施しております。歴史的なカカオ相場の高騰に加え、カカオ豆の安定的な確保への対応のために、従来以外の産地を評価・検証を実施して品質への影響を最小限にとどめ、顧客へ安定した製品をお届けするための検討を実施しております。さらに、カカオ豆の発酵工程の調査、改善のために大学と共同研究や、防災食用チョコレートの開発を進めております。

 

5.大豆食品素材

加工食品原料の価格高騰を背景に、粒状大豆たん白、全脂大豆粉末、粉末状大豆たん白、脱脂大豆粉末などの大豆食品素材を利用したアプリケーションを開発いたしました。加えて、お客さまのニーズが多様化していることから、粒状大豆たん白を中心にお客さまニーズに即したPB商品の開発を手掛けました。大豆食品素材の栄養・健康機能を訴求し、代替品としての利用にとどまらず大豆食品素材だからこそできる“植物のチカラ®”を強みとしてさらなる価値創造を進めてまいります。

 

〔ファインケミカル事業〕

化粧品領域における開発活動としては、グローバルな視野で化粧品業界に広く展開できる高機能素材や植物由来成分からなる素材の開発に取り組んでおります。

化学品領域における開発活動としては、情報関連分野・潤滑用途の素材を中心に顧客と直結した開発を進めております。

食品領域における開発活動としては、主力であるMCT製品の品質向上を図るとともに、新たな機能性素材の開発に取り組んでおります。

Industrial Quimica Lasem, S.A.U.との間では、技術的な相乗作用を得るために、製品のみならず原材料評価、品質管理、製品開発、および生産技術など多岐にわたる連携関係を構築してきました。同社が製造販売する、FSSC22000などの認証を背景とした高品質なMCT「QUOLIO(クオリオ)」については、国内展開を図るとともに、高品質な化粧品原料の製造が可能となる生産設備の改良を行い、グローバル供給体制確立への歩みを進めております。

日清奥利友(上海)国際貿易有限公司とは、中国における技術サービスの充実を目的として設置したラボ機能の有効活用を図るとともに、さらに発展させる形で、現地企業を対象とした原料セミナーを複数回開催し、同社製品の優れた特徴をアピールする活動を行い、中国における市場開拓を着実に進めております。

セッツ株式会社においては、外食厨房や食品加工工場、フィットネス施設や介護施設、保育園等、生活のあらゆる場面の衛生管理に役立つ商品やソリューション提供を通じて、「清潔・キレイ」「健康」「快適」な環境づくりに貢献すべく事業活動を行っております。衛生管理事業部 研究開発部では、微生物制御技術、洗浄技術、顧客技術を融合することで、同社ならではの高付加価値商品開発に取り組んでおります。大学や外部機関との共同研究やネットワークも積極的に活用しております。最重点商品の一つであるアルコール製剤ユービコールノロVに関しては、商品力の更なる強化、ラインアップ化に向け、ウイルス対応技術の一層の深化と応用展開に向け精力的に研究活動を継続しております。一方、既存品の鮮度アップ、新製品開発にも力を入れ、特に油汚れ洗浄剤分野においては、新製品、およびリニューアル製品を上市しました。中性でべたつき油汚れに対し高い洗浄性能を有する「油汚れ用中性レンジスター」、食品工場に特有な固形油脂洗浄機能に除菌効果をプラスした「オイルクリーナー」です。発売以来、お客様からも高い評価が得られております。これら活動により、安全・安心、簡便性(時短・労働力減少への対策)といった価値の提供に努めてまいります。

また、顧客起点・現場主義を重要な行動指針に掲げ研究活動を実践してきており、本年度も全国の現場を訪問し、課題解決に繋がる対策や商品提案を積極的に行っております。ユーザー様から高い信頼を獲得するとともに、得られた知見を活かし商品力の強化に繋げてまいります。

学術活動では、大阪工研協会主催の石けん洗剤技術交流会(8月)において、「食品製造現場における洗浄と解析技術を用いた衛生管理」の題名で講演を、日本食品微生物学会学術総会(9月)において、「グラム陰性菌株に対し薬剤感受性が低下する要因の解析」「抗ノロウイルス効果を有する天然抽出物素材のスクリーニング」の2件の発表を行い、後者は優秀発表賞を受賞しました。11月には、食品微生物科学協会主催の食の安全安心セミナーにて「食の衛生管理に向けた秋のセッツ製品のご紹介」の発表、および、NPO法人カビ相談センター主催の生活環境とカビ管理対策セミナーにて「食品製造現場におけるカビ汚染の実態とその除去方法について」のタイトルで講演を行いました。2024年2月には、第48回分析展と講演・技術発表会において、「強力な洗浄力を持つ「ごっそりフライヤースター」の開発~油脂分析からのアプローチ~」のタイトルで発表しました。また、長年研究を行ってきたブドウ種子抽出エキスの抗ウイルス効果メカニズムの解析検討結果が「Screening of Natural Extracts with Anti-Norovirus Effects and Analysis of this Mechanism in Grape Seed Extract」のタイトルで、Journal of Microorganism Control (2023) Vol.28,No.3 に掲載されました。

これら研究開発活動を通じて、引き続き当社グループは衛生管理事業の拡大に努めてまいります。

 

 今後とも技術力の一層の充実を図り、新製品・新技術開発、新分野開拓に積極的に取り組んでいく方針であります。