第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループにおける経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は以下のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営方針

当社は、経営理念として「顧客満足の追求」「株主価値の増大」「社員活力の尊重」「社会性の重視」「地球環境への貢献」を掲げ、安全で快適な社会の実現に取り組んでいます。

 

<理念と経営計画の体系>


 

(2) 経営環境

わが国経済の先行きにつきましては、雇用・所得環境が改善する下で緩やかな回復が続くことが期待されます。ただし、世界的な金融引締めに伴う影響など、海外景気の下振れがわが国の景気を下押しするリスクとなっています。また、物価上昇、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要があります。

建設業界につきましては、防災・減災、国土強靭化への計画的な投資により公共投資は底堅く推移する見通しです。また、民間企業の設備投資も企業収益の改善等を背景として堅調に推移する見通しです。一方、資源価格や建設資材価格の高止まりや労務需給の逼迫の影響、加えて2024年4月からの建設業への時間外労働の上限規制適用による影響等に注視していく必要があります。

 

(3)中期的な経営戦略と目標とする経営指標

当社グループを取り巻く中長期的な事業環境は、国内建設需要の縮小が懸念されるものの、海外では特に新興国(東南アジア、南アジア、アフリカ等)において、急速な経済成長によるインフラ需要が見込まれています。また、建設産業全体の課題である担い手不足問題の深刻化が見込まれる一方、IoT、AIなど先進的なICTをはじめとした技術革新が急速に進み、建設生産プロセスにおけるデジタル化の進展が予想されています。

こうした事業環境の変化に対し、当社グループの強みを活かして、社員一人ひとりが未来志向を持って行動し、持続可能な社会の実現と当社グループの持続的な成長を遂げるため、目指すべき「2030年の将来像」を設定しています。

「2030年の将来像」に向けたセカンドステージと位置付けている「中期経営計画2022-2024」では、テーマを「新たな成長へ~サステナブル社会の実現に向けて~」と掲げ、「収益力の向上」「成長分野への挑戦」「人材(=人財)基盤の強化」に取り組んでいます。しかしながら、建設資材の価格上昇や労務需給の逼迫等の影響が当初の想定を上回っていることから、中期経営計画最終年度である2024年度の業績予想は、計画の数値目標を下回る見通しとなっています。

2024年度は、中期経営計画未達の要因分析を行い、2025年度から始まる次期中期経営計画の策定を進めてまいります。

 

 



①受注力の強化

・デジタル技術の積極活用や協力会社組織との連携強化などにより競争優位性を創出し、優位技術、得意分野を軸に需要拡大が見込まれる分野に注力。

②現場力の強化

・現場管理体制の強化

現場が「コア業務(安全・品質・工程・原価管理)」に集中できる体制を構築し、工事リスクへの対応力を向上すべく、現場業務のバックアップ体制を強化。

受注前の検討体制の強化を目的としたフロントローディング体制を構築し、早期に工事リスクを把握することで、対策を施工計画に反映。

・技術者教育の強化

リスク検知能力や課題解決力の向上、若手技術者の早期育成。

・デジタル化の推進

③国内建築事業の業績改善

・施工体制逼迫の改善と現場支援体制の再構築

施工体制逼迫の改善に向けた受注量の管理、事前検討・支援体制の強化。

・受注プロセスにおけるガバナンス強化と最適な受注ポートフォリオの構築

取組みの初期段階における取組判断の厳格化と受注プロセスにおけるガバナンス強化。顧客、工事規模、用途、地域特性等を鑑みた受注方針の再設定と運用の徹底。

・利益を重視した目標管理の徹底

受注時における利益の確保を最重要指標と位置づけ、これ以降の各段階において利益を最優先とした目標管理を徹底。

 


①サステナブル社会に向けた取り組みの強化

・新たに生まれる社会ニーズに対し、技術とサービスで応え続けることで成長を実現。

②海外事業の拡大~拠点の自立とネットワーク強化~

・事業を通じて持続可能な地域社会の発展に貢献し、地域とともに成長を実現。

③建設生産システムの深化

・デジタル化の推進を中心とした取り組みにより、建設現場の工業化や自動化を推進し、当社グループの競争力を強化。

 


①ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の実現

・D&Iの実現を通じて、社員の幸福度の向上を企業の成長につなげる。

②エンゲージメントの向上

・「社員の幸福」「企業の成長」と社員のエンゲージメントがお互い高め合う関係性を構築。

③人材の育成

・「新たな成長」の実現を牽引するデジタル人材、グローバル人材など多様な人材育成、確保に注力。

 

 

 ■ 経営数値計画

・業績目標、財務目標

 

 

 

中期経営計画

2022-2024

 

2023年度

実績

2024年度

業績予想

2024年度

目標

連結売上高

4,795億円

4,550億円

4,670億円

連結営業利益

85億円

125億円

160億円

ROE

6.0%

9.0%以上

総還元性向

54.7%

50%程度

 

 

(注) 2024年度業績予想(2024年5月10日公表)につきましては、公表日現在において入手可能な情報から得られた判断に基づいています。

 

・非財務情報

 

中期経営計画 2022-2024

2024年度 目標

安全

死亡・重大災害「ゼロ」

度数率:0.6以下(施工部門)、0.5以下(全社)

品質

品質不具合ゼロ

カーボン

ニュートラル

CDP評価

Scope1+2

 △20%   (基準:2020年)

Scope3

 △10%   (基準:2020年)

人権

人権DD

人権DDの定着(人権リスクへの対応)

救済メカニズム構築

2023年度から運用

生産性

社員総労働時間あたりの完成工事高

5%向上

エンゲージメント

4.0以上(5点満点の平均)

 

「組織診断サーベイ」におけるワークエンゲージメントに関する指標

 

■ 事業戦略

1.国内土木事業戦略

(1)収益力強化  (2)新たな価値の創出

2.国内建築事業戦略

(1)受注力の向上 (2)現場力の向上 (3)社員教育・人材活用の強化

3.海外事業戦略

(1)海外建設事業の成長 (2)成長を支える事業基盤の強化 (3)社会変化に対応した取り組み推進

4.周辺領域事業戦略

(1)既存周辺領域事業(再エネ発電、エンジニアリングサービス等)の拡大による収益貢献

(2)新規周辺領域事業創出への取り組み

(3)周辺領域事業の裾野拡大のための「新規事業創出プロセス」の構築

(4)M&A・アライアンスを活用した戦略的なポートフォリオ変革の実現

 

■ 基盤戦略

1.安全・品質

2.人材(=人財)戦略

3.技術開発戦略

4.グループ経営戦略

5.ガバナンス及び内部統制

 

■ 環境、社会面における取り組むべき事項

1.環境面

(1)気候変動、カーボンニュートラル (2)資源循環 (3)生物多様性

2.社会面

(1)人権 (2)ダイバーシティ&インクルージョン

 

 

(4) 対処すべき課題

① 当社施工の横浜市所在マンションの事案につきましては、2017年11月28日付にて、本件マンションの発注者の1社である三井不動産レジデンシャル株式会社(以下、「レジデンシャル社」といいます。)が、本件マンション全棟の建替え費用等の合計約459億円(その後2018年7月11日付にて約510億円に増額、2022年9月30日付にて約510億円から約506億円に減額)を当社並びに杭施工会社2社に対し求償する訴訟を提起していますが、レジデンシャル社の請求は、根拠、理由を欠くものであると考えており、引き続き裁判において、当社の主張を適切に展開してまいります。

 

② 現在施工中の国内大型建築工事における度重なる損失発生につきましては、施工・品質管理体制の強化、本支店による施工全般に対する支援や技術的な指導、外部の有識者に参画いただいた調査委員会の提言を踏まえて策定した再発防止策の徹底により、更なる追加損失の発生を防止してまいります。この再発防止策については、建築事業におけるリスク高いと判断される他の工事にも適用し、同様の損失発生のないように努めてまいります。加えて、建築事業全般の業績改善につきましては、施工体制逼迫の改善と現場支援体制の再構築、受注プロセスにおけるガバナンス強化と最適な受注ポートフォリオの構築、利益を重視した目標管理の徹底の3点を確実に実施するとともに、リスク対策を実施した工事への入れ替えを進め、建築事業の業績改善に取り組んでまいります。

≪具体的な再発防止策≫

・受注プロセスにおける審査の充実化

・大規模工事における継続的なモニタリングの徹底

・外部専門家による不具合検証と再発防止策の提案・実施

・図面管理に関する対策(チェック能力の平準化、図面管理システムの構築)

・体制の増強(特別対応チームの編成 等)

・リスク情報の早期共有

・規則に基づく管理・運営の徹底

・品質管理の重要性に関する教育実施

・業務担当者のフォロー体制の構築等

・受注プロセスにおけるリスク対応の徹底

・体制、工程の事前検討の徹底

・他社設計案件(急速施工工法)の取扱い(原則「不可」とする)

・工場間における不具合情報共有の徹底

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) ガバナンス

役員・社員がとるべき行動の指針として定めた「企業行動憲章」(2022年4月改訂)を、企業グループ全体で共 有する「三井住友建設グループ企業行動憲章」に改訂しました(2023年10月)。同様に、サステナビリティに関する基本的な考え方を纏めた「サステナビリティ基本方針」(2021年12月制定)を、企業グループ全体で共有する「三井住友建設グループサステナビリティ基本方針」に改訂し(2024年2月)、人権尊重に関する基本的な考え方を纏めた「人権方針」(2021年11月制定)を、企業グループ全体で共有する「三井住友建設グループ人権方針」に改訂しました(2024年2月)。

また、多様な人材が活躍できる企業風土を実現するため「三井住友建設グループD&Iポリシー」を制定しました(2023年1月)。

 


 

三井住友建設グループ企業行動憲章
             https://www.smcon.co.jp/company/company-policy/corporate-behavior-charter/
三井住友建設グループサステナビリティ基本方針
                https://www.smcon.co.jp/company/company-policy/sustainability-policy/
2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ  https://www.smcon.co.jp/csr/carbon-neutral/
三井住友建設グループ人権方針  https://www.smcon.co.jp/company/company-policy/human-rights-policy/
三井住友建設グループD&Iポリシー   https://www.smcon.co.jp/company/company-policy/di-policy/

 

 

過半数の委員を社外役員で構成する指名・報酬諮問委員会の協議及び取締役会の決議を経て、社外取締役を除く取締役及び執行役員を対象として、「平均連結営業利益」、「ESGに関する社外評価」、「人事関連指標」に連動する業績連動報酬制度を導入しています。

 

①気候変動、②人権

気候変動、人権などのサステナビリティ施策は、取締役会による監督の下、代表取締役社長が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会で審議し、重要な事項については経営会議での審議を経て、取締役会で決議します。

2023年度は開催された取締役会19回の内、11回でサステナビリティ関連の内容を含む議題(気候変動、人権、D&I、人材育成、等)が付議、報告されました。

気候変動や人権に関する取り組みを全社で推進するため、各本部にサステナビリティ推進組織を設置し、又は担当者を配置し、経営企画本部長(執行役員)がリーダーを務める組織横断のSX推進プロジェクトを設置し、サステナビリティ施策の立案、展開、進捗管理を行う体制を整えています。

 

 

③人的資本、④ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

人的資本の整備については、人事部、D&I推進部、グローバル人材開発センターが中心となり、採用や育成の計画を推進しています。国内における外国籍人材の採用、海外大学からの直接採用、女性経営幹部候補育成プログラム、若手の育成を目的としたコア人材育成研修、グローバル人材の確保・育成、外国籍人材の定着支援、などを推進しています。社員が「当社で働くことの幸せを実感できる会社」を目指し、社員エンゲージメントの向上や社内公募制度、社内アイデア公募制度、ワークライフバランスの推進と育児休業取得推進など、多様な人材が活躍できる環境づくりに取り組んでいます。

ダイバーシティ&インクルージョンについては、代表取締役社長委員長とするD&I推進委員会で審議し、重要な事項については経営会議での審議を経て、取締役会で決議します。経営トップの強いコミットメントと社員の意識改革の下、女性、外国人、シニア、障がい者等の積極的な登用を図るとともに、LGBTQ+の理解と配慮についても注力し、多様な人材が活躍できる企業風土づくりの実現に取り組んでいます。

 


 


 

 

(2) 戦略

①気候変動

気候変動が当社に与えるリスクと機会を把握し、その影響を検討するために、サステナビリティ推進部会でシナリオ分析を実施しました。シナリオは、移行リスクが最大化する「1.5℃シナリオ」と、物理リスクが最大化する「4℃シナリオ」のふたつを想定しました。

(主なシナリオの情報源)


 

リスクと機会が影響を及ぼすと考えられる期間は、短期、中期、長期の3つの時間軸を想定しました。

(3つの時間軸)


 

 

シナリオ分析に基づき、重要な気候変動に関するリスクと機会の要因、そこから想定される財務的影響の概要を整理しました。1.5℃シナリオではZEB/ZEH建築の普及等による利益増加が見込めることから、営業利益が増加

するという結果になりました。また4℃シナリオにおいても、現在既に進めている対応策を踏まえると、大きな財務影響は見られないという結果になりました。

 


 

 

 

(気候変動によるリスク)

 


 

(気候変動による機会)

 


 

 

(2030年の営業利益に与える影響評価結果(1.5℃シナリオ))

 


 

 

②人権

人権方針に基づき、事業活動における人権への負の影響を特定・評価し、リスクの回避・軽減に向けた対策を講じるため、世界人権宣言をはじめとする国際規範等を参考に、事業活動において重要と考えられる各人権課題に関する影響深刻度・発生可能性を評価する人権デュー・デリジェンスに取り組んでいます。2022年2月から主に国内本支店、作業所を対象として、2022年11月から主に国際部門、関係会社を対象として、それぞれ実施しました。

 

(人権デュー・デリジェンスの流れ)


 

ビジネスと人権に関する指導原則では、人権デュー・デリジェンスを実施する上で、影響深刻度と発生可能性の観点から人権課題のリスク評価を考量的に行うことが求められています。当社では、影響深刻度(範囲、規模、救済可能性)と発生可能性(頻度、地域・事業特性等)を分析し、合わせて、当社の管理体制、予防是正措置の整備状況から人権リスクを評価しています。

 

(リスクの評価方法)


 

 

 

(苦情処理の仕組み(グリーバンスメカニズム)の構築)

国連指導原則では、企業には人権を尊重し、その侵害への救済を可能にするための苦情処理メカニズムを設けることが求められています。そこでホームページに人権に関するご相談や苦情などを受け付ける窓口を設置しました。当社グループの役員・従業員、お客様、サプライチェーンで働く方、地域コミュニティの方など、あらゆるステークホルダーの方からのご意見を受け付けています。寄せられたご意見等は、皆様の匿名性や保護に配慮し、適切かつ必要な対応を行います。また、当社グループの事業活動が人権への負の影響を引き起こした、あるいはこれに助長や加担したことが明らかになった場合には、社内外の手続きを通じてその是正や救済に努めます。


 

(人権教育の実施)

役員・従業員の人権尊重に対する理解を深めるための

教育を行っています。

「ビジネスと人権」をテーマに、すべての役員と従業

員向けにe-ラーニングによる教育を行うとともに、同コ

ンテンツを英文に翻訳し、海外ローカルスタッフ向けに

も教材として提供しています。

そのほか、新入社員を対象とした人権啓発教育、全社

員を対象としたコンプライアンス教育やハラスメント教

育を定期的に実施しています。今後はグループ会社にも

展開し、継続的な教育と啓発を通して、人権方針や人権

尊重の考え方を当社に浸透させていきます。


 

 

人的資本、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

当社グループの「新たな成長」の実現を支えるのは「人材」であり、社員一人ひとりを大切に考え、多様な価値観、多様な意見を許容し尊重しながら、誰もが安心して活躍できる職場環境を構築し、ダイバーシティ&インクルージョンの実現を目指します。当社グループにおけるダイバーシティ&インクルージョンの在り方とは、「多様な人材」、「多様な働き方」、「多様なキャリア形成」が確保されている状況を意味し、この実現によって、社員の幸福「やりがい、働きやすさ、成長」が企業の成長「多様な価値観やスキルの活用、社員パフォーマンスの最大化」へとつながる企業を目指します。さらには、「社員の幸福」、「企業の成長」と、社員のエンゲージメントとがお互い高め合う関係性の構築に取り組みます。

具体的には、①ダイバーシティ&インクルージョンの実現、②エンゲージメントの向上、③人材育成の施策により人材基盤の強化を図り、企業価値の向上を実現します。

 

(ダイバーシティ&インクルージョンの実現)

1)ダイバーシティ&インクルージョン実現のための主要施策

(a) 人材の確保

・ 多様な人材の採用

・ 定着支援のための環境整備

(b) 成長機会の拡大

・ 早期若手役職登用の推進

・ チャレンジしやすい企業文化の醸成

・ グローバル人材育成

(c) 働き方の変革

・ DXによる労働時間の削減

・ テレワークの促進による柔軟な働き方の実現

(d) 働きがいの向上

・ ウェルビーイング経営の促進

・ キャリアパスの多様化

・ タレントマネジメントによる最適配置

・ LGBTQ+の理解と配慮

 

 

(エンゲージメントの向上)

1)社員エンゲージメントの定義

(a) ビジョンや方針への共感

・ 会社の進むべき方向性、ビジョンを具体的に理解し、達成しようとする姿勢を有すること

(b) 自律的な行動

・ 一人ひとりが会社のビジョンを自分ごととして落とし込み、行動を起こそうとする意欲を有すること

(c) 社員間の信頼関係

・ ビジョンに共感し、会社や同僚に対して仲間意識を持ち、お互いが愛着や誇りを持って協力し合うこと

(d) 組織に対する貢献意欲(統制)

・ ビジョンを共有している仲間とともに、統制のある行動によって組織に貢献する意欲を有し、また貢献していることを実感できること

 

2)社員エンゲージメント向上のための施策

(a) 社内コミュニケーションの充実

・ 充実したトップメッセージの発信による会社の進むべき方向性等の共有を促進

・ 社内SNS等のコミュニケーションツールの活用推進

(b) 適切な人事評価

・ 結果だけではなく「挑戦」を評価する人事制度の運用・構築

・ 社内表彰制度など褒賞機会の充実によるモチベーション向上

(c) キャリア自律の促進

・ 「社内公募制度」による「望むキャリア」の実現

・ 国内外留学制度などを含む充実した教育制度による多様なキャリア形成の機会創出

 

3)社員エンゲージメントの定期的な調査

・ 定期的なアンケートにより状況を確認、結果に応じた対策を講じることで、エンゲージメントの向上を図る。

 

(人材の育成)

「新たな成長」の実現のためには、充実した人材育成の実施が不可欠であると考えます。階層別教育や職種別教育を軸とした通常の人事教育に加え、今後の事業戦略に合わせた新たな分野での人材育成も必要となります。特にデジタル人材とグローバル人材の育成・確保は、重要な課題であり、当社グループにとっての「成長投資」という認識にて積極的に取り組む必要があります。

 

1)「新たな成長」に向けて核なる主に以下の人材に対しては、人材投資による育成・確保に努めます。

(a) スペシャリスト

(b) マネジメント人材

(c) 若手リーダー(若手社員の早期登用)

(d) SX人材

(e) デジタル人材

(f) グローバル人材

 

2)DX意識とスキルの向上

当社グループが目指す「DXの実現」(建設生産革命の実現、ビジネスモデル変革)のためには、全社員のDX意識とスキルの向上が最優先課題であると考えます。まずは、全社的なITリテラシーなどの全社的な底上げに注力し、それに加えてより専門的なスキルを有するDXリーダー層やDXマネージャーなど、より高度なDX人材の育成・確保(採用含む)への取り組みを推進します。

 

(a) ITリテラシーの向上

・ 全社員を対象にリテラシーの向上を図る。現状におけるレベルを測定した上で、各自に合わせた育成プログラムの構築し、全社的なITリテラシーの底上げを図る。

 

(b) DXリーダー層育成

・ 全社から高いレベルを有する人材を選別し、さらに高度な専門教育やDX推進部門への配属などによって、当社グループのDX推進のコアとなる各部門のリーダー的人材、更にはDX推進におけるマネジメント人材の候補者を育成する。

・ このレベル以上の人材の育成には長い時間を要することも踏まえ、必要に応じて外部人材の登用も視野に入れる。

(c) DXマネージャー育成・確保

・ DX推進にとって最も重要な人材となるDXに関するマネジメント人材の育成・確保を推進する。DX推進における全社主導的な役割や戦略や施策の企画・立案・推進を担う人材が対象となり、一般的にはプロダクトマネージャーやビジネスデザイナー、データサイエンティストと呼ばれるような高いスキルを有する必要がある。

 

3)グローバル人材の育成

2020年のグローバル化宣言以降、一層強力にグローバル人材の育成が行われていますが、海外事業の拡大を実現するためには、より積極的な取り組みが求められます。当然ながら、国内社員においてもグローバルで活躍できる人材となるべくHDC(Human Resource Development Center)のプログラムへの積極参加などの研鑚が求められます。

 

〈HDCの人材育成プログラム〉

(a) 全社的なグローバル教育

・ 全社員を対応とした、HDC(日本、フィリピン、インド、タイ、インドネシア)で開催される人材研修。

(b) グローバル検定

・ グローバル人材としての自身のポジションを正しく把握し、自らの成長を促進する仕組み。

(c) 留学制度の運用

・ 当社技術のグローバル展開や、人材の流動化に向けて、社員を各国に留学、当該国の業務に従事させることで学ばせる制度を積極的に展開。

(d) 双方向トレーニング

・ 様々な国の社員が一緒になって自らのスキルを共有し相互に学び合い成長することを目的とした独自のカリキュラム。

(e) 中核人材のネットワーク化

・ 海外拠点の中核を担う人材をネットワーク化、技術スキルや組織運営マネジメントなどのノウハウの共有を図る。

 

これらの人材育成プログラムの運用によって、当社グループの海外事業人材における”Global Identity”の醸成と”Localization”の強化を目指します。

 

(3) リスク管理

①気候変動

2020年度に、当社が取り組むべきサステナビリティに関するマテリアリティの特定を行い、気候変動課題は当社が優先的に取り組むべき課題の一つであるとの結論に至りました。

気候変動に関するリスクの特定は、サステナビリティ推進委員会が行います。気候変動に関するリスクの評価は、各事業における気候変動要因を特定した上で、1.5℃シナリオ、4℃シナリオそれぞれにおける将来の規制・社会・技術・気象条件等の変化を把握し、財務への影響度を検討し対応策へ反映させます。また、気候変動に関するリスクについては、全社のリスク管理プロセスに統合しています。自然災害などの物理リスク、環境規制の強化に係る移行リスクについても管理の対象として設定しています。

 

②人権

人権に関するリスクの特定は、人権デュー・デリジェンスによって行います。自社の国内外拠点、関係会社、協力会社を含むサプライチェーン全体の人権侵害リスクを特定し、当社にとって重要な人権課題から優先順位を付けて是正措置を講じるなど、人権への取り組みをマネジメントシステムとして構築していきます。

 

 

③人的資本

採用競争力の低下により人材確保が計画的に進められなくなることや、社員の離職による人材流出の増加等により、長期的な視点から業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。このリスクに的確に対処するため、多様な人材を受け入れ、活躍しやすい環境を整えることで、社員のやりがいと成長を実感できる仕組みを構築していきます。

 

④ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

企業を取り巻く環境が複雑かつ不確実性を増すなか、多様な人材が活躍するために起こりうる様々な課題について的確に対処することが、経営戦略や事業目的を遂行していく上では不可欠です。当社ではダイバーシティ&インクルージョンに係る課題は経営上の重大な影響を及ぼす事象と捉え、ダイバーシティ&インクルージョンの実現を憚るリスクについて、適切に管理していきます。

 

(4) 指標及び目標

①気候変動

環境方針"Green Challenge 2030"の脱炭素関連の目標を、2021年度に策定した「2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ」に合わせて見直しました。

CO2排出量削減目標はSBT(Science Based Targets)イニシアチブの基準「1.5℃目標」に沿ってScope1+2、Scope3に対する目標値を設定し、2023年12月にSBT認定を取得しました。

Scope1削減策として、作業所で使用する一部の建設機械にGTL等のCO2排出量の少ない軽油代替燃料を採用しています。また能登川工場に水素ボイラ、水素製造装置、貯蔵設備を導入し、プレキャストコンクリート(PCa)部材製造時のCO2排出量の削減に取り組んでいます。

Scope2削減策として、国内作業所及び常設事業所(本支店オフィス、能登川工場)の電力をグリーン電力に切り替えています。2023年度は国内作業所で使用する仮設電力の約50%をグリーン電力としました。

Scope3に占める割合が大きいCategory11削減策として、ZEB、ZEHの建設に取り組んでいます。建築設計部門がZEBプランナー、ZEHデベロッパーに登録し、2023年度はZEB3件が竣工しました。

 

(2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップ)


 

 

(CO2排出量の指標及び目標、当事業年度実績(単体))

Scope1+2 CO2排出量実績(t-CO2
(単体)

基準年

事業年度

2020年

2021年

2022年

2023年

 

①Scope1(国内)

50,328

45,606

54,844

41,710

 

②Scope1(海外推計)

6,251

7,915

9,769

6,226

 

③Scope2(国内)

12,491

8,041

7,855

5,562

 

④Scope2(海外推計)

1,696

1,396

1,399

830

Scope1+2(①+②+③+④、基準年比較)

70,766

62,958

73,867

54,328

削減目標(%)

0.0%

▲5.0%

▲10.0%

▲15.0%

削減推計(基準年比較)(%)

0.0%

▲11.0%

4.4%

23.2%

 

⑤Scope1(海外実績)

50,661

45,732

15,205

 

⑥Scope1(①+⑤)

50,328

96,267

100,576

56,915

 

⑦Scope2(海外実績)

1,397

3,682

2,475

 

⑧Scope2(③+⑦)

12,491

9,438

11,537

8,037

⑨Scope1+2(⑥+⑧、実績)

62,819

105,705

112,113

64,952

 

※ 削減目標はScope1+2の合計に対して設定しています。

※ 前事業年度(2022年度)に開示した2020年度のScope2はロケーションベースで算出した数値でしたが、実績との比較のため、当事業年度はマーケットベースで算出した数値としています。

 

前事業年度
(2022年度)開示

当事業年度
(2023年度)開示

2020年度

2020年度

ロケーションベース

マーケットベース

Scope1排出量

56,579

56,579

Scope2排出量

14,485

14,187

合計

71,064

70,766

 

※ Scope1(海外推計)及びScope2(海外推計)は、基準年(2020年)との比較のため、海外工事によるCO2排出量を国内外の完工高割合に基づいて推計した値です。Scope1(海外実績)及びScope2(海外実績)は、海外工事によるCO2排出量を活動量の実績に基づいて算定した値です。

 

2023年度の単体のCO2排出量は、Scope1が56,915(t-CO2)、Scope2が8,037(t-CO2)、合計64,952(t-CO2)となりました。Scope1は施工機械の稼働が多い工事の割合が減少したことにより、Scope2は仮設電力をグリーン電力とする取り組みが進捗したことにより、CO2排出量が減少しています。

 

 

Scope3 CO2排出量実績(t-CO2)
(単体)

基準年

事業年度

2020年

2021年

2022年

2023年

 

⑩Category1(国内)

242,619

166,448

283,290

507,773

 

⑪Category1(海外)

75,912

 

⑫Category1(⑩+⑪)

242,619

166,448

283,290

583,685

 

⑬Category11(国内)

1,147,446

1,019,795

871,087

712,268

 

⑭Category11(海外)

83,018

0

 

⑮Category1(⑬+⑭)

1,147,446

1,019,795

954,105

712,268

 

その他のCategory(国内)

72,135

84,978

83,313

72,670

 

その他のCategory(海外)

6,103

 

⑱その他のCategory(⑯+⑰)

72,135

84,978

83,313

78,773

⑲Scope3(⑫+⑮+⑱)

1,462,200

1,271,221

1,320,708

1,374,726

削減目標(%)

0.0%

▲2.5%

▲5.0%

▲7.5%

削減実績(%)

0.0%

▲13.1%

▲9.7%

▲6.0%

Scope1+2+3(⑨+⑲)

1,525,019

1,376,926

1,432,821

1,439,677

 

 

Scope3はCategory1が583,685(t-CO2)、Category11が712,268(t-CO2)、その他のCategoryが78,773(t-CO2)、合計1,374,726(t-CO2)となりました。Category1は算定対象の地域及び資材を拡大したことにより増加しました。Category11は竣工物件に大型のZEB案件が含まれたことにより減少しています。Scope3合計では基準年に比べて6.0%減少しています。

 

 

(CO2排出量の指標及び目標、当事業年度実績(連結))

CO2排出量実績(t-CO2)
(連結)

基準年

事業年度

2020年

2021年

2022年

2023年

 

①Scope1(国内)

93,416

86,168

97,155

80,725

 

②Scope1(海外)

54,498

50,818

33,391

 

③Scope1(①+②)

93,416

140,666

147,973

114,117

 

④Scope2(国内)

19,356

15,223

16,268

10,575

 

⑤Scope2(海外)

1,934

4,836

3,769

 

⑥Scope2(④+⑤)

19,356

17,157

21,104

14,343

 

⑦Scope1+2(③+⑥)

112,772

157,823

169,077

128,460

 

Category1(国内)

361,092

259,594

390,962

582,318

 

Category1(海外)

682,744

 

⑩Category1(⑧+⑨)

361,092

259,594

390,962

1,265,062

 

Category11(国内)

1,174,252

1,045,835

892,439

716,178

 

Category11(海外)

370,419

573,499

 

⑬Category11(⑪+⑫)

1,174,252

1,045,835

1,262,858

1,289,676

 

その他のCategory(国内)

 107,710

119,111

118,530

98,648

 

その他のCategory(海外)

1,364

14,693

 

⑯その他のCategory(⑭+⑮)

107,710

119,111

119,924

113,341

⑰Scope3(⑩+⑬+⑯)

1,643,054

1,424,540

1,773,744

2,668,079

Scope1+2+3(⑦+⑰)

1,755,826

1,582,363

1,942,821

2,796,539

 

 

2023年度の連結CO2は、Scope1が114,117(t-CO2)、Scope2が14,343(t-CO2)、合計128,460(t-CO2)となりました。

Scope1は国内、海外とも施工機械の稼働が多い工事が減少したことにより、Scope2は国内の電力をグリーン化が進んだこと、及び海外の電力使用量が減少したことにより、CO2排出量が減少しています。

Scope3はCategory1が1,265,062(t-CO2)、Category11が1,289,676(t-CO2)、その他のCategoryが113,341(t-CO2)、合計2,668,079(t-CO2)となりました。国内、海外における活動量の実績把握が進んだことでCategory1、Category11が増加したことにより、Scope3合計でも増加しています。

 

 

2030年までに実質的なカーボンニュートラルを実現するため削減貢献の取り組みを推進します。再生可能エネルギー設備容量(MW)及び年間発電量(MWh)の実績・目標は以下の通りです。

 

(再生可能エネルギー事業の実績と目標)


 

2023年度はオフサイトコーポレートPPA事業の「泉佐野市長滝第1/第2水上太陽光発電所」、「泉佐野市郷之池水上太陽光発電所」、オンサイトPPA事業の「本田技研工業株式会社熊本製作所第1水上太陽光発電所」が完成し、発電事業を開始しました。これにより、累積設備容量は15.9(MW)、年間発電量は14,707(MWh)となりました。この発電量によるCO2削減効果は、6,442(t-CO2)と算定されます。

※ 電力の排出係数は「電気事業者別排出係数(2023年12月22日、環境省・経済産業省公表による)」における一般送配電事業者の調整後排出係数としています。

 

人権

これまでに実施した国内本支店、作業所、国際部門、関係会社を対象とした人権デュー・デリジェンスの結果を分析した結果、⑨先住民族・地域住民の権利、⑦労働安全衛生、⑩消費者利益、⑧労働時間、④ハラスメントと虐待、の5項目が高リスクと評価されました。

(ヒートマップによるマトリクス分析結果)



 

 

2024年度は協力会社を対象としてサプライチェーンの人権侵害リスクを特定するとともに、調査結果を分析し、当社にとって重要な人権課題から優先順位を付けて是正措置を講じるなど、人権への取り組みをマネジメントシステムとして構築していきます。

 

 

③人的資本、④ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)

No.

指標

目標

実績

社員エンゲージメントの向上(注1)

3.9以上

3.6

労働時間の短縮

 

 

 

・社員の時間外・休日労働時間年間720時間以内(達成率:%)

全社員(100%)

96.5

 

・週休二日(新規着工現場の4週8休以上)(実施率:%)

90以上

77.7

D&Iの推進

 

 

 

・女性部長比率(%)

2.0以上

1.88

 

・総合職の定期採用における女性比率(%)

20.0以上

28.7

 

・キャリア採用(中途採用)における女性比率(%)

20.0以上

33.3

 

・障がい者雇用率(%)(注2)

2.30以上

2.2

 

・定年再雇用率・継続雇用率(%)

90.0以上

90.0

ワークライフバランスの推進

 

 

 

・社員(管理監督者を除く)の法定時間外・休日労働時間数
(月平均時間)

45時間未満

19.0時間

 

・年次有給休暇の平均取得率(%)

50.0以上

57.9

 

(注) 1 「組織診断サーベイ」におけるワークエンゲージメントに関する指標

 2 月次雇用率の平均

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものですが、ここに掲げられている項目に限定されるものではありません。

 

(1) 当社グループのリスク管理体制と管理プロセス

当社グループは、リスクを最終的に損益悪化によって組織目標の達成を阻害する要因と捉え、「リスク管理規則」に基づくリスク管理体制の構築・運用とその改善を継続することによりリスク管理の実効性を高め、当社グループの事業運営に影響を及ぼす恐れのあるリスクの低減を徹底しています。また、全社的な視点でリスク管理を統括・推進し、各部門各部署において主体的なリスク対応を促進するための体制及び仕組みづくりに努めています。リスク管理の基本体制として「3ラインモデル」を採用し、内部統制を実行しています。リスクに直接対応する部門(第1ライン)において、部門リスク管理責任者がリスク管理の運用・有効性の評価を実施し、リスク評価報告書をリスク管理統括責任者に提出し、全社におけるリスク管理状況を把握します。リスク管理統括責任者は、部門リスク管理責任者によるリスク管理体制の有効性評価及び全社における統制環境に関するリスクアセスメント結果に基づき、当社グループにおけるリスク管理体制の問題点を把握し、今後の対応策を策定しています。

 

(2) リスクの選定方法

まず、個別リスクの所管部署(第2ライン)は、所管するリスク項目に関して、リスク対応主体(第1ライン)におけるリスクを発生頻度、経営への影響度、脆弱度の3つの基準で点数化します。そして、点数化した結果、リスク値が高い項目をリスク対応主体(第1ライン)が重点的に対応すべきリスクとして選定しています。その後、個別リスクの所管部署(第2ライン)は、選定されたリスクに対して具体的なリスクシナリオを策定し、基本対策案を立案しています。加えて、独立した客観的な立場から、監査部(第3ライン)がこれらのリスクシナリオをチェックし、必要に応じて、修正・追加を実施しています。

また、リスク管理統括責任者は、各部門の業務プロセスに関するリスクアセスメント結果・各部門のリスクマップ、リスクシナリオ、リスク顕在化事案を参考に、全社ベースのリスクマップを作成し、全社における重要リスクと対策案の把握、リスクへの対応状況をモニタリングするという仕組みを構築・運用しています。

 

 

(3) 対応が必要となるリスク

当期におけるリスクアセスメント結果を踏まえ、当社グループが「2030年の将来像」を目指すにあたり設定している事業戦略と基盤戦略を実行する上で、対応が必要となるリスクとして18項目を挙げています。

以下の表では、それらのリスク項目を事業環境と事業基盤のカテゴリーに分け、かつ、各リスク項目に、最重要リスク、重要リスクを記し、各リスクが顕在化した場合に経営成績等の状況に与えるリスク内容、リスクへの対応策、戦略との関係性を記載しています。

 

 

リスク項目

リスク内容

対応策

対応策と戦略との関係性

 

事業環境

(外的要因)

自然環境

リスク

(大災害)

 

最重要

地震、台風、津波、火山噴火等が発生した場合には、直接的な被害のほか、間接的な被害を受ける可能性があり、業績や財政状況に悪影響を及ぼす可能性があります。

災害発生時の初期対応、報告方法、各対策本部の設置と役割を「危機管理規則」等に定め、災害が発生した際に迅速な対応が取れる体制を構築しています。地域や事業に応じたBCP(事業継続計画)を作成しており、国内外の拠点における防災訓練や定期的な設備点検等を実施するなど、事業継続力の向上に取り組んでいます。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

事業戦略-4

基盤戦略-1

基盤戦略-2

基盤戦略-3

基盤戦略-4

基盤戦略-5

環境社会-1

環境社会-2

気候変動

リスク

 

最重要

 

脱炭素社会への移行に向けて、温室効果ガス排出量の上限規制や炭素税が導入された場合、施工量の制限やコスト増等により業績に影響を及ぼす可能性があります。

気候変動により自然災害が激甚化傾向にあり、台風や洪水等による施工中工事への被害や施工遅延等により、業績に影響を及ぼす可能性があります。

土木、建築、海外、新規・周辺領域の各事業に影響を及ぼす気候変動ドライバーを認識するとともに、シナリオ分析に基づいて気候変動に関するリスクと機会を特定し、気候変動に対するレジリエンスの向上を目指した取り組みを強化しています。

2021年11月に策定したカーボンニュートラルロードマップに基づき、2030年にScope1+2のCO2排出量50%削減、さらに再生可能エネルギー事業等への取り組みによる削減貢献により、2030年実質的カーボンニュートラルの達成に向けた、各施策を推進しています。また、2023年4月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への開示を更新し、12月にはSBT認定(1.5℃目標)を取得しました。

社会情勢
リスク

 

最重要

戦争、暴動、テロ、その他の要因による社会的混乱が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

新型の感染症等が拡大し、長期的に事業活動の停滞状況が続いた場合、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

適時的確な社会情勢の把握に努めるとともに、テロ発生時や危機管理に関するマニュアルを作成し、関係者が安全を確保するための初動対応などの基本的事項を定めています。有事を想定した訓練を定期的に実施するほか、外部コンサルタント等の助言、指導を踏まえた安全対策を講じています。

また、感染症の影響に関しては、社会情勢の推移を慎重に見極め、適時的確な判断により、事業計画の確実な遂行に取り組んでいます。

 

 

 

リスク項目

リスク内容

対応策

対応策と戦略との関係性

事業環境

(外的要因)

 

経済リスク

(景気・

相場変動)

 

最重要

公共投資、企業の設備投資、民間住宅投資等の建設投資動向に左右され、受注工事高が増減し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

建設物の着工から完成までは長期間に及ぶものが多く、工事施工期間中の原材料等コスト変動により業績に影響を及ぼす可能性があります。

金利水準の急激な上昇及び為替相場の大幅な変動等が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

取引先の信用不安や資産価値の著しい下落等が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

中長期的な戦略のもと、新たな技術や工夫による省力化・効率化等を実現し、収益力、競争力の向上に取り組んでいます。また、事業領域の拡大に向けて、グローバル化や得意分野における更なる成長戦略を推進しています。

原材料等コスト変動に対しては、資材価格や労務単価の動向等を常に把握し、適時発注することで影響を最小限に抑えられるよう努めています。また、工事請負契約の締結にあたりコスト変動に関する事項を明確化するよう、発注者との協議に努めています。

金利・為替変動による業績影響を回避するため、必要に応じて金利スワップ取引・為替予約等により、金利変動リスク・為替変動リスクの低減に努めています。

信用リスクに対しては、工事受注にあたり、「受注審査規則」に基づく厳格な審査を実施するなど、与信管理の徹底に努めています。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

事業戦略-4

基盤戦略-1

基盤戦略-2

基盤戦略-3

基盤戦略-4

レピュテーションリスク

 

最重要

レピュテーションリスクは、各種リスクとの連鎖性を有しており、顕在化した場合には、信用の失墜、株価の下落、取引先の減少、ブランドの毀損等、当社グループの経営成績や社会的信用に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

事業遂行に当たっては、適時適切な情報開示等によりステークホルダーからの信頼の維持・向上に努めています。

リスク顕在化の未然防止を図るため、新聞・テレビ・雑誌などの各種媒体の確認を通じてリスク顕在化事象の早期把握、リスクの極小化に努めています。また、当グループ各社並びに役職員のソーシャルメディア利用によるレピュテーションリスクを未然防止するため、社内教育を実施しています。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

事業戦略-4

基盤戦略-1

基盤戦略-2

基盤戦略-3

基盤戦略-4

基盤戦略-5

環境社会-1

環境社会-2

カントリー

リスク

 

重要

海外ではアジア地域を中心に建設工事を行っていますが、その国の政情の変化、経済情勢の変動、現地法規制の不測の変更等によって、業績に影響を及ぼす可能性があります。

海外工事や事業投資にかかるリスクを適切に評価・管理するため、各国毎の事情や信用度を考慮したカントリーリスクを適切に把握・管理する制度を導入しています。

また、施工能力の高い海外協力会社の確保の他、信用悪化や一社集中等のリスクへの対応を強化しています。

事業戦略-3

事業戦略-4

基盤戦略-2

 

 

 

リスク項目

リスク内容

対応策

対応策と戦略との関係性

事業環境

(外的要因)

 

リーガル

リスク

 

重要

事業推進にあたり、建設業法、建築基準法、環境関連法規等、多数の法規制を受けています。また、海外においても、各国における事業許可等をはじめとして、国内同様に法規制の適用を受けています。特に、建設工事を行うにあたっては、各種法規制に基づく許認可等の取得が多岐にわたり、これらの法規制が変更され、当社グループの営業活動に大きな制約が生じた場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

事業推進にあたり、契約不適合、製造物責任、特許、独占禁止法等に関する訴訟を提起される可能性があり、訴訟の動向によっては業績に影響を及ぼす可能性があります。

事業推進に密接な関わりを持つ法令や規則等を遵守するため、コンプライアンス教育を含む年度教育計画を策定し、全社員への教育を実施しています。

また、工事受注にあたっては「取組検討会」や「施工審査会」、新規事業の取組については「事業投資審査委員会」等の各会議体において、関連する法規制や許認可等に係る対応について、必要に応じて個別に検討しています。

万一、訴訟が提起された場合には、リスクを最小限にすべく、専門家と協働して対応します。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

事業戦略-4

基盤戦略-5

事業基盤

(内的要因)

現場事故

リスク

 

最重要

建設事業は、作業環境や作業方法の特性から危険を伴うことが多く、他の産業に比べ事故発生率が高くなっています。安全管理を徹底していますが、労働災害事故が発生した場合には、建設業法の監督処分や自治体等各発注機関の指名停止措置の対象となるとともに、損害賠償等により業績に影響を及ぼす可能性があります。

「安全衛生管理計画」に基づき、全社的施策の推進や労働災害事例の水平展開を実施しています。さらに、本支店による監査やパトロールにより重大労働災害に繋がるリスクについて、複数の視点で管理することにより、重大労働災害の未然防止に努めています。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

基盤戦略-1

基盤戦略-2

基盤戦略-3

品質リスク

 

最重要

設計と異なる施工、要求品質に満たない施工、外注する協力会社の施工品質不良、作業所内各種検査や検査書類等の不適切な管理により、品質不具合を発生させることによって、社会的信頼の失墜、工期遅延に伴う追加コストの発生などにより業績に影響を及ぼす可能性があります。

「生産管理計画」に基づき、過去の品質不具合や瑕疵事例の要因分析、各作業所に対する実効性のある事例周知や安全品質監査・各種パトロールにおける指摘事項等、社内及び協力会社に水平展開しています。また、作業所における「施工品質計画書」に基づく施工プロセス管理の確実な実施と当社独自のQSA(安全品質監査員)による施工プロセスの監査により、施工中及び将来にわたる品質不具合防止に努めています。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

基盤戦略-1

基盤戦略-2

基盤戦略-3

瑕疵リスク

 

最重要

建設物の施工にあたっては、品質管理を徹底していますが、万一、当社が施工した建設物に大規模な瑕疵が存在した場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

リスク項目

リスク内容

対応策

対応策と戦略との関係性

 

事業基盤

(内的要因)

不採算工事の発生
リスク

 

最重要

受注時における想定の誤りや、施工条件の変化・変更等により、受注工事が不採算となった場合には、業績に影響を及ぼす可能性があります。

施工時において予算外の原価負担により利益率が低下した場合には、工事利益の大幅な下振れが発生し、業績に影響を及ぼす可能性があります。

工事受注にあたっては「受注審査規則」に則り、支店及び本部における事前審査を実施し、工事の難易度、施工計画、調達計画、工事原価の妥当性等を確認・審査する仕組みを導入しており、厳格な審査の徹底に努めています。大規模及び施工難易度が高いと認められる工事などは「特別工事審査規則」に則り、より厳格な審査を実施しています。加えて、手持ち工事量及び施工体制を考慮した受注量の管理、受注プロセスにおけるガバナンス強化と最適な受注ポートフォリオの構築、利益を重視した目標管理の徹底に努めています

施工時の本支店による作業所支援体制の強化とともに、フロントローディング体制の構築による工事リスクの早期把握と施工計画への対策反映等により、リスク低減を図っています。また、適切な工事進捗・原価管理の徹底に努めています。工事リスク顕在化の兆候を捉えた際は、本店からの技術的指導・支援により損益に与える影響の最小化に努めています。

事業戦略-1
事業戦略-2

事業戦略-3

基盤戦略-2

基盤戦略-3

情報セキュリティリスク
 
重要

サイバー攻撃等やコンピューターウイルス感染等の外部脅威や従業者の情報資産(パソコン、スマートデバイス等)の紛失・盗難や誤操作、不正使用等の内部脅威により、事業上の機密情報や事業の過程で入手した顧客情報を漏洩した場合や長期間にわたるシステムダウンが発生した場合は、顧客や社会からの信用を失うとともに、取引の停止や損害賠償等により業績に影響を及ぼす可能性があります。

「情報セキュリティ基本方針(個人情報の取り扱い含む)」に基づき、事業活動における情報の適切な取り扱いに向け、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)による継続的な改善を実施しています。個人情報を含む情報資産を情報漏洩等のリスクから保護するため、教育や訓練、内部不正等への監視とともに、重要度に応じた安全管理措置を講じています。一方でワークスタイル等の環境変化や巧妙化するサイバー攻撃など新たなリスクに応じた技術的な対策と監視・検知の強化、さらに外部専門会社の診断に基づく情報セキュリティの強化を図っています。また、情報セキュリティインシデント対応として、組織内に専門チームとして設置したCSIRT(Computer Security Incident Response Team:シーサート)を起点に被害の最小化と迅速な復旧に努めています。

基盤戦略-5

資金管理・

調達リスク

 

重要

受注増加及び工事規模の大型化に伴い工事立替資金が増加した場合、多額の資金調達が必要となり、財務状態に影響を及ぼす可能性があります。自己資本の毀損により、金融機関との借入契約に付されている財務制限条項に抵触し、期限の利益喪失することとなった場合には、業績と財務状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

工事受注にあたり、「受注審査規則」に基づく資金審査を厳格に行い、資金収支影響の正確な把握、契約時の工事代金支払条件の改善及び施工中の工事出来高払の回収促進等の資金管理を徹底し、資金調達額の抑制に努めています。また、安定的な資金繰りを支えるため、資金調達手段の多様化を図っています。

当社グループでは、強固な経営基盤を再構築するため、国内建築事業の立て直しを優先的に取り組んでいます。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

 

 

 

リスク項目

リスク内容

対応策

対応策と戦略との関係性

 事業基盤

(内的要因)

労働環境・
過重労働

リスク

 

重要

過重労働(長時間労働)や不適切な労務管理によって当社の信用に著しい低下がみられた場合、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

働き方改革の実現に向けて、意識改革と業務改革を推進し長時間労働の削減に努めるとともに、「時短プログラム」に基づく実効性ある諸施策(適切な労働時間管理、36協定遵守、労務管理教育等)を展開して適切な労務管理の徹底に努めています。

基盤戦略-1

基盤戦略-2
基盤戦略-3
基盤戦略-4

基盤戦略-5

人材確保

リスク

 

重要

採用や外部への人材流出抑制が人員計画通り進められなかった場合、長期的視点から当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

多様な人材が活躍できる組織を目指し、性別・国籍を問わず採用を実施しています。また「D&Iポリシー」に基づき社員一人ひとりのライフステージや価値観などに応じた働き方ができ、社員間に思いやりと信頼感、協力関係が生まれ、心理的安全性の確保された職場づくりに取り組んでいます。人材流出抑制に向けた諸制度(メンター制度、在宅勤務制度、勤務地変更支援制度等)の導入、諸施策(適材適所人事、産業保健体制の充実、エンゲージメントサーベイ)の展開を図っています。

事業戦略-1

事業戦略-2

事業戦略-3

事業戦略-4

基盤戦略-1

基盤戦略-2

基盤戦略-3

基盤戦略-4

基盤戦略-5

人権リスク

 

最重要

当社グループ及びサプライチェーンにおいて、人権を侵害する行為が発生した場合、社会的信頼を喪失する可能性があります。

職場におけるハラスメントや労働衛生環境の悪化が生じた場合、従業員の健康やメンタルヘルスの悪化、離職率の増加に伴う社員活力の低下により、業績に重大な影響を及ぼす可能性があります。

2024年2月に改訂した「三井住友建設グループ人権方針」に基づき、事業活動における人権侵害リスクの特定、管理、対策実施に向けた人権デュー・デリジェンスを、国内外拠点、関係会社を対象として実施し、当社グループにおいて高リスクとなる人権課題を特定しました。更に、人権に関する相談や苦情を受け付ける窓口を当社ホームページ内に設置しています。また、2022年8月には国連グローバルコンパクトに賛同を表明する署名を行いました。

※国連グローバルコンパクト:企業に対し、人権・労働・環境・腐敗防止の4分野に関する10原則を順守するよう要請しているイニシアチブ

基盤戦略-2

基盤戦略-5

社会環境-2

コンプライアンスリスク

 

重要

法令及び社内規定の遵守のための様々な取り組みをもってしても、従業員の不正行為等、その内容次第で当社グループの経営成績や社会的信用に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

内部通報制度の信頼性・実効性の更なる向上に向けて、コンプライアンス違反やハラスメント事案の抑制・撲滅に向けた諸制度(内部通報者保護規則(共通規則)、ハラスメント防止規定)の運用徹底、当社通報・相談事例や他社事例等をもとに教育等の諸施策(年度教育計画に基づくコンプライアンス教育、ハラスメント教育の実施)を展開しています。また、種々の不正リスクの未然防止を図るため、具体的事例により再発防止のための教育を実施しています。

基盤戦略-2

基盤戦略-5

社会環境-2

関係会社

リスク

 

重要

関係会社におけるリスク管理体制上の不備により様々なリスク事象が発生し、当社グループの経営成績や社会的信用に重大な悪影響を及ぼす可能性があります。

各関係会社において、「リスク管理規則」に基づき体制の整備・強化を図るとともに、「関係会社管理規則」、「国内関係会社決裁基準」及び「海外関係会社決裁基準」を定め、当社への報告・申請手続きを義務付け、必要に応じて関係会社に適宜、指導・支援を実施することにより、当社との緊密な連携のもと、当社グループベースでリスク管理の高度化を図っています。

基盤戦略-4

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) 経営成績の状況

①事業全体の状況

当連結会計年度におけるわが国経済は、海外経済の回復ペース鈍化による押下げ圧力を受けたものの、企業収益の改善や個人消費の持ち直しなどにより、緩やかに回復しました。一方、地政学リスクの高まり、資源・エネルギー価格の高騰、為替相場の変動など、依然として不確実性が高い状況が続きました。

国内建設市場につきましては、公共事業投資は堅調に推移し、民間設備投資も持ち直しの動きが見られました。一方、建設資材価格の高止まりや労務需給の逼迫などにより厳しい経営環境が続きました。

このような状況の下、当社グループは「中期経営計画2022-2024」に基づき、「新たな成長へ~サステナブル社会の実現に向けて~」のテーマの下、基本方針である「収益力の向上」「成長分野への挑戦」「人材(=人財)基盤の強化」に取組んでまいりました。また事業別では、国内土木事業は優位技術・分野を軸とした更なる質の向上、国内建築事業は構造改革による業績改善、海外事業はコロナ禍からの回復を追い風とした事業拡大に取り組んでまいりました。

当連結会計年度における当社グループの連結業績につきましては、次のとおりとなりました。

売上高につきましては、国内・海外の大型工事の進捗等により前期比で209億円増加し、4,795億円となりました。損益につきましては、建設資材価格の高騰や労務需給の逼迫などにより建設コストが増加し、建築工事の採算が低下したことで売上総利益が低水準に留まったことから、営業利益85億円(前期は営業損失188億円)、経常利益63億円(前期は経常損失185億円)、親会社株主に帰属する当期純利益40億円(前期は親会社株主に帰属する当期純損失257億円)となりました。

 

(連結業績)                                  (単位:億円)

 

2022年度実績

2023年度実績

増減

増減率(%)

売上高

4,586

4,795

209

4.5

営業利益又は営業損失(△)

△188

85

273

経常利益又は経常損失(△)

△185

63

248

親会社株主に帰属する当期純利益又は親会社株主に帰属する当期純損失(△)

△257

40

297

 

 

 

②セグメント業績

 土木部門・建築部門それぞれのセグメント業績は以下のとおりです。なお、部門ごとのデータは、内部売上高、又は振替高を含めて記載しています。

 

  (土木部門)                                  (単位:億円)

 

2022年度実績

2023年度実績

増減

増減率(%)

売上高

2,219

2,167

△52

△2.4

セグメント利益

290

332

42

14.5

 

売上高は、概ね前期並みの2,167億円(前期比2.4%減少)となりました。セグメント利益は、工事採算の改善により332億円(前期比14.5%増加)となりました。

 

 (建築部門)                                  (単位:億円)

 

2022年度実績

2023年度実績

増減

増減率(%)

売上高

2,377

2,637

261

11.0

セグメント利益又は
セグメント損失(△)

△201

18

219

 

売上高は、大型工事の進捗などにより2,637億円(前期比11.0%増加)となりました。セグメント利益は、建設資材価格の高騰や労務需給の逼迫などにより建設コストが増加し、工事採算が低下したことで18億円(前期は201億円のセグメント損失)となりました。

 

③経営成績に重要な影響を与える要因について

 主な要因としては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

 また、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の当社施工の横浜市所在マンションに係る訴訟の結果次第では、今後連結業績に影響を与える可能性があります。

 

(2) 生産、受注及び販売の実績

当社グループが営んでいる事業の大部分を占める建設事業では生産実績を定義することが困難であるため、「生産の実績」は記載していません。また、連結子会社においては受注生産形態をとっていない事業もあることから、報告セグメントごとに受注規模を金額あるいは数量で示すことはしていません。

よって、受注及び販売の実績については、可能な限り「(1) 経営成績の状況」において報告セグメントの種類に関連付けて記載しています。

 

なお、参考のため提出会社個別の建設事業の実績は次のとおりです。

 

建設事業における受注工事高及び完成工事高の実績

①  受注工事高、完成工事高及び次期繰越工事高

期別

区分

前期繰越
工事高
(百万円)

当期受注
工事高
(百万円)


 
(百万円)

当期完成
工事高
(百万円)

次期繰越
工事高
(百万円)

前事業年度

(自2022年4月1日

2023年3月31日)

土木工事

320,345

174,151

494,497

147,964

346,533

建築工事

386,648

150,691

537,340

189,334

348,006

706,994

324,843

1,031,837

337,298

694,539

当事業年度

(自2023年4月1日

2024年3月31日)

土木工事

346,533

130,587

477,120

140,212

336,908

建築工事

348,006

110,084

458,090

196,709

261,381

694,539

240,672

935,211

336,922

598,289

 

(注)1  前事業年度以前に受注した工事で、契約の変更により請負金額の増減がある場合は、当期受注工事高にその増減額を含みます。したがって、当期完成工事高にもかかる増減額が含まれます。

2  次期繰越工事高は(前期繰越工事高+当期受注工事高-当期完成工事高)です。

 

②  受注工事高

期別

区分

国内

海外


(B)
(百万円)

官公庁
(百万円)

民間
(百万円)

(A)
(百万円)

(A)/(B)
(%)

前事業年度

(自2022年4月1日

2023年3月31日)

土木工事

75,339

19,900

78,911

45.3

174,151

建築工事

4,877

134,142

11,671

7.7

150,691

80,216

154,043

90,583

27.9

324,843

当事業年度

(自2023年4月1日

2024年3月31日)

土木工事

84,648

17,089

28,849

22.1

130,587

建築工事

5,175

95,852

9,056

8.2

110,084

89,824

112,942

37,905

15.8

240,672

 

 

③  受注工事高の受注方法別比率

    工事受注方法は、特命と競争に大別されます。

期別

区分

特命(%)

競争(%)

計(%)

前事業年度

(自2022年4月1日

2023年3月31日)

土木工事

26.7

73.3

100

建築工事

34.2

65.8

100

当事業年度

(自2023年4月1日

2024年3月31日)

土木工事

47.6

52.4

100

建築工事

55.6

44.4

100

 

(注) 百分比は請負金額比です。

 

 

④  完成工事高

期別

区分

国内

海外


(B)
(百万円)

官公庁
(百万円)

民間
(百万円)

(A)
(百万円)

(A)/(B)
(%)

前事業年度

(自2022年4月1日

2023年3月31日)

土木工事

80,641

23,391

43,930

29.7

147,964

建築工事

14,673

167,595

7,064

3.7

189,334

95,315

190,987

50,995

15.1

337,298

当事業年度

(自2023年4月1日

2024年3月31日)

土木工事

82,173

25,252

32,786

23.4

140,212

建築工事

15,294

170,443

10,971

5.6

196,709

97,468

195,695

43,757

13.0

336,922

 

(注)1  海外工事の地域別割合は、次のとおりです。

地域

前事業年度

(%)

当事業年度

(%)

 

アジア

89.3

89.2

 

その他

10.7

10.8

 

100

100

 

 

 

2  完成工事のうち主なものは、次のとおりです。

前事業年度

区分

発  注  者

工  事  名  称

土木工事

独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構

北陸新幹線、深山トンネル他

中日本高速道路株式会社

新東名高速道路 湯船高架橋工事

日本製紙ユニテック株式会社

鈴川エネルギーセンター株式会社 バイオマス専焼化事業のうち木質ペレットサイロ土建工事(1期工事)

建築工事

横浜戸塚施設開発特定目的会社

(仮称)DPL横浜戸塚 新築工事

三井不動産レジデンシャル株式会社

(仮称)千代田区四番町4計画

熊本県 益城町

令和2年度 新庁工第2号 益城町新庁舎建設工事(建築)

 

 

当事業年度

区分

発  注  者

工  事  名  称

土木工事

ミャンマー連邦共和国 建設省橋梁局

バゴー橋建設工事(CP1-CP2)

愛知県

用地造成事業 西尾次世代産業地区 整地工事

東日本高速道路株式会社

東北自動車道 仲田橋床版取替工事

建築工事

三井不動産レジデンシャル株式会社

(仮称)晴海五丁目西地区第一種市街地再開発事業5-6街区板状棟建築物工事

京都府 京都市

(総合評価)新普通科系高等学校施設新築工事 ただし,建築主体その他工事

埼玉県 ふじみ野市

ふじみ野市文化施設整備事業(仮称)西地域文化施設

 

 

3 前事業年度及び当事業年度ともに売上高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別はありません。

 

 

⑤  次期繰越工事高(2024年3月31日現在)

区分

国内

海外


(B)
(百万円)

 

官公庁
(百万円)

民間
(百万円)

(A)
(百万円)

(A)/(B)
(%)

 

土木工事

172,618

63,702

100,586

29.9

336,908

 

建築工事

32,893

213,193

15,294

5.9

261,381

 

205,512

276,895

115,881

19.4

598,289

 

 

 

(注) 次期繰越工事のうち主なものは、次のとおりです。

区分

発  注  者

工  事  名  称

土木工事

独立行政法人 鉄道建設・運輸施設整備支援機構

北海道新幹線、平里高架橋他

国土交通省

川崎港臨港道路東扇島水江町線主橋梁部上部工事(その3)

兵庫県

(国)178号 浜坂道路Ⅱ期 浜坂第2トンネル(仮称)建設工事(西工区)

建築工事

野村不動産株式会社

(仮称)神宮前6丁目新築工事

三井不動産株式会社

(仮称)柏の葉6丁目2番キャンパス整備計画

住友倉庫九州株式会社

(仮称)住友倉庫九州株式会社箱崎埠頭営業所611号・612号倉庫建替工事

 

   

(3) 財政状態の状況

(資産)

現金預金は前連結会計年度末比で315億円増加、未成工事支出金等は前連結会計年度末比で67億円増加、その他流動資産は16億円増加しましたが、受取手形・完成工事未収入金等は前連結会計年度末比で225億円減少、投資その他の資産は投資有価証券の売却等により、前連結会計年度末比で153億円減少しました。

以上の結果、当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末比で14億円増加し、4,116億円となりました。

(負債)

支払手形・工事未払金等及び電子記録債務を合計した支払債務は74億円増加しましたが、短期借入金、長期借入金及び社債を合計した有利子負債残高につきましては、前連結会計年度末比で40億円の減少、工事損失引当金は前連結会計年度末比で85億円減少しました。

以上の結果、当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末比で46億円減少し、3,344億円となりました。

(純資産)

株主資本は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上40億円及び、剰余金の配当22億円の結果、前連結会計年度末比で19億円の増加となりました。

その他の包括利益累計額は、その他有価証券評価差額金の増加等により43億円増加しました。

以上の結果、当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末比で60億円増加し、772億円となりました。なお、自己資本比率は、前連結会計年度末の15.5%1.5ポイント改善17.0%となりました。

 

(4) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益75億円の計上、売上債権の減少234億円、工事損失引当金の減少85億円等により、215億円の資金の増加(前期は161億円の資金の減少)となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、有形並びに無形固定資産の取得による支出、定期預金の増加等があったものの、投資有価証券の売却による収入等により、135億円の資金の増加(前期は35億円の資金の減少)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)
 財務活動によるキャッシュ・フローは、剰余金の配当、長期借入金の返済等による資金の減少により75億円の資金の減少(前期は142億円の資金の増加)となりました。

 

以上の結果、現金及び現金同等物の期末残高は896億円(前期末比288億円の資金の増加)となりました。

 

 当社グループの運転資金の調達につきましては、資金需要の増加に対して、主要な取引金融機関と組成した複数のシンジケートローン及び社債の発行により長期安定的な資金を確保しています。

 短期の運転資金につきましては、上記の資金をベースに、自己資金及び金融機関からの短期借入金を基本として資金運営を行っており、より安定的な資金運営を確保すべく、当連結会計年度においては、前年度より契約更新した借入限度額272億円、200億円、150億円の3契約合計622億円に対して、その一部を、運転資金として、資金調達を行いました。なお、当連結会計年度末において、これらコミットメントライン3契約による借入残高はありません。

 また、当社グループは2022年3月期から2期連続して多額の当期純損失を計上したことにより純資産が減少した結果、前連結会計年度において、複数の金融機関と締結している一部のシンジケートローン等に付されている財務制限条項に抵触することとなりましたが、2023年10月20日付の変更契約締結により財務制限条項の見直し等が行われた結果、当連結会計年度末における当該シンジケートローン契約等の借入残高に対する財務制限条項への抵触は解消しています。

 資金の流動性につきましては、当連結会計年度末の有利子負債残高802億円に対する現預金残高は967億円で差引165億円のネットキャッシュを維持しており、借入依存度につきましては、総資産に対して19.5%と低い水準になっています。

 

(5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成にあたっては、連結会計年度末における資産・負債並びに連結会計年度の収益・費用の数値に影響を与える見積り及び判断が行われています。これらの見積り及び判断については、継続して評価し、必要に応じて見直しを行っていますが、見積りには不確実性が伴うため、実際の結果はこれらと異なることがあります。

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりです。

 

①繰延税金資産

当社グループは、繰延税金資産について定期的に回収可能性を検討し、当該資産の回収が不確実と考えられる部分に対して評価性引当額を計上しています。回収可能性の判断においては、将来の課税所得見込額と実行可能なタックス・プランニングを考慮して、将来の税金負担額を軽減する効果を有すると考えられる範囲で繰延税金資産を計上しています。

将来の課税所得見込額はその時の業績等により変動するため、課税所得の見積に影響を与える要因が発生した場合は、回収懸念額の見直しを行い繰延税金資産の修正を行うため、当期純損益額が変動する可能性があります。

 

 

②退職給付債務及び退職給付費用

退職給付債務及び退職給付費用は、主に数理計算で設定される退職給付債務の割引率、年金資産の長期期待運用収益率等に基づいて計算しています。割引率は、従業員の平均残存勤務期間に対応する期間の安全性の高い長期債利回りを参考に決定し、また、年金資産の長期期待運用収益率は、過去の運用実績及び将来見通し等を基礎として設定しています。割引率及び長期期待運用収益率の変動は、将来の退職給付費用に影響を与える可能性があります。

 

③貸倒引当金

当社グループは、債権の貸倒れによる損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を検討し、回収不能見込額を計上しています。将来、取引先の財務状況等が悪化し支払能力が低下した場合には、引当金の追加計上又は貸倒損失が発生する可能性があります。

 

④完成工事補償引当金

完成工事高に対して将来予想される瑕疵担保費用を一定の比率で算定し、完成工事補償引当金として計上しています。

引当金の見積りにおいて想定していなかった完成工事の不具合による補償義務の発生や、引当の額を超えて補償費用が発生する場合は、当社グループの業績を悪化させる可能性があります。一方、実際の補償費用が引当金の額を下回った場合は引当金戻入益を計上することになります。

 

⑤工事損失引当金

受注時における戦略的低採算案件や工事契約における未引渡工事のうち損失の発生する可能性が高く、工事損失額を期末において合理的に見積ることが出来る工事等については、当該損失見込額を工事損失引当金として計上しています。

技術的難易度の高い長期請負工事や海外でのカントリー・リスク等のある工事等において、工事の進行に伴い見積りを超えた原価が発生する場合は、当社グループの業績を悪化させる可能性があります。

 

⑥偶発損失引当金

連結財務諸表「注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載した内容と同一です。

 

⑦株式報酬引当金

当社連結子会社において、株式交付規程に基づく役員等への株式の給付等に備えて当連結会計年度末における株式給付債務の見込額に基づき計上しています。

 

⑧工事契約等における収益認識

連結財務諸表「注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載した内容と同一です。

 

⑨固定資産の減損

当社グループは、固定資産の減損に係る回収可能性の評価にあたり、各社ごとに資産のグルーピングをセグメント別に行い、収益性が著しく低下した資産グループについて、固定資産の帳簿価額を回収可能価額まで減損し、当該減少額を減損損失として計上しています。

固定資産の回収可能価額について、将来キャッシュ・フロー、割引率、正味売却価額等の前提条件に基づき算出しているため、当初見込んでいた収益が得られなかった場合や、将来キャッシュ・フロー等の前提条件に変更があった場合、固定資産の減損を実施し、当社グループの業績を悪化させる可能性があります。

 

「第2 事業の状況」における本文中の億円単位の表示は単位未満四捨五入とし、それ以外の金額の表示は表示単位未満切捨てにより表示しています。

 

5 【経営上の重要な契約等】

特記事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

当社グループでは、技術の信頼、受注の拡大、利益の向上を目指して、顧客ニーズに応える技術開発をタイムリーに推進することを技術開発の基本方針とし、技術開発本部、土木本部、建築本部、事業創生本部を中心として、技術開発を積極的に進めてきました。
 当連結会計年度の技術開発に要した費用の総額は、1,620百万円です。なお、当該費用については、セグメントに共通する費用を区分することが困難であるため、総額のみを記載しています。

 当連結会計年度における主な技術開発成果は次のとおりです。

 

(1) 精密衝撃破砕工法「SMartD®」を床版取替工事で初適用

高速道路橋の床版取替工事に精密衝撃破砕工法「SMartD」を適用し、安全で施工効率のよい既存床版の解体を実現しました。「SMartD」は、コンクリート構造物を容易に解体するために効果的なひび割れを予め形成させる装薬配置等を設計し、その装薬箇所に小規模な衝撃を与えて構造物を解体する精密衝撃破砕工法です。ウォータジェット工法や人力によるはつり作業では著しく困難な、鋼・RC合成桁橋鋼桁と床版のコンクリートの分離を効率的に行うことができます。また、水を使用しない工法のため、水質保全が求められる河川上でも適用することが可能です。今後は、施工効率が良く、水を使わないことで汚濁水を発生させない環境配慮型技術として、本工法のさらなる現場適用を進めてまいります。

 

(2) プレキャスト床版の接合工法「サスティンジョイント®」を初適用

プレキャスト(PCa)床版の接合工法「サスティンジョイント」を開発し、名神高速道路 長良川橋床版取替工事において、初めて適用しました。本工法は、環境配慮型コンクリート「サスティンクリート®」とあき重ね継手を組合せた床版接合工法で、従来工法のループ継手と比較して継手幅を半減でき、追加の補強鉄筋も不要で生産性が大きく向上します。また、収縮が少ないコンクリートでひび割れリスクを低減し、高品質な継手を実現しました。今後は、本工法の更なる現場適用を提案するとともに、今回の適用で得られた知見を活かし、環境負荷が少なくかつ生産性向上に資する技術として広く普及を目指してまいります。

 

(3) 支保工が省略可能なPC橋梁の合理化施工法「Rap-con for staging工法」を開発・初適用

プレストレストコンクリート(PC)橋の支保工を用いた施工部の合理化を実現する「Rap-con for staging工法」を開発し、新東名高速道路皆瀬川橋(仮称)にて初適用しました。本工法は、先行架設する波形鋼板ウェブを架設材として活用することで、支保工の組立・解体作業を省略可能とする合理化施工法です。また、従来の固定支保工を用いたコンクリートウェブ橋と比べて、PCa部材を活用することで場所打ちコンクリート量を約40%低減しました。今後は、本工法の更なる現場適用を進めるとともにPCa部材の活用等により、PC橋梁施工の更なる生産性を向上させてまいります。

 

(4) ゼロセメントタイプの環境配慮型コンクリートで特別工法評定を取得

環境配慮型コンクリート「サスティンクリート®」の中で、ポルトランドセメントを使用しないゼロセメントタイプのコンクリートを用いた計画中の建物を対象に、東京大学大学院工学系研究科 野口 貴文 教授のご協力の下、国内初となる一般財団法人日本建築センターの特別工法評定を取得しました。本評定では、ゼロセメントタイプのサスティンクリートが一般的なコンクリートと同様に取り扱うことが出来ることを国内で初めて実証し、セメントを使用しないコンクリートの建築構造部材への適用を可能としました。今後もサスティンクリートの適用範囲を拡大し、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。

 

 

(5) サスティナブルな地盤改良材「サスティンGeo™」を開発

セメントを使用せずに産業副産物などを用いた地盤改良材「サスティンGeo(ジオ)」を開発しました。「サスティンGeo」を固化材に用いた現場実証実験では、地盤改良時のCO2排出量や六価クロム(土壌汚染対策法で定められた特定有害物質)の溶出量を大幅に低減する効果を確認しました。本技術は、浅層改良を対象として、粉体の混合方式としましたが、今後は、地盤改良工事の中層改良や深層改良への適用に向けて検討を進め、更なる適用拡大を図り、脱炭素社会の実現に貢献してまいります。

 

(6) 橋梁床版の診断・補修設計を省力化する「床版維持管理システム」を開発

既設橋梁の鉄筋コンクリート(RC)床版の維持管理において、変状の調査・診断から補修・補強設計に至る一連の業務を省力化する「床版維持管理システム」を開発しました。本システムは、自走式点検ロボットによる調査とAIによるひび割れ診断、自動設計ソフトによる最適補修・補強設計を組み合わせた技術です。高速道路の床版補強工事において試験運用を行い、一連の維持管理業務の作業時間が1/2となり生産性が大幅に向上することを確認しました。今後は、本システムをMR(Mixed Reality:複合現実)技術と組み合わせ、建設現場での利用に適したデジタルツインを構築することにより、さらなる生産性向上と信頼性向上を進めてまいります。

 

(7) PCa部材のトレーサビリティを実現するRFIDタグ一体型スペーサを開発

プレキャストコンクリート(PCa)部材のトレーサビリティを実現する、RFIDタグと一体化させた鉄筋コンクリート製品用スペーサを開発しました。本技術によって、PCa部材の製造開始から保管、出荷、更には現場搬入時の受入検査に至るまで、生産管理情報の一元管理を実現することが可能となります。今後は、本技術を実現場に試験導入し、施工時の品質管理などに活用することで、幅広い生産性向上を推進し、少子高齢化社会の労働者不足などの社会問題解決に貢献してまいります。