第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項については、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社は、「高い技術をもって、社業の発展を図り、健全な経営により社会的責任を果たす。」を社是に掲げ、着実な経営計画により競争に打ち勝ち、誠実な施工で永い信用を築くことにより、皆様の信頼と期待にお応えし、皆様と共に発展して行くことを経営理念に据えております。

 

(2)経営環境

当期における我が国経済は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の5類感染症への移行により、個人消費は持ち直し、企業収益は総じてみれば改善するなど、緩やかに回復しておりますが、物価上昇、中東情勢の緊迫化、金融資本市場の変動など、先行きが不透明な状況は続いております。

建設市場においては、資材をはじめとする物価上昇等の影響は受けたものの、公共投資については堅調に推移し、2021~2025年度までの「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」に基づく防災・減災対策、また、防衛力強化に伴う安全保障関係のインフラ整備等、堅調な推移が期待できる状況にあります。

 

(3)中長期的な会社の経営戦略並びに優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社グループは、長期ビジョン〈TOA2030〉の実現に向け、事業戦略と人材戦略の融合を基本方針とした「中期経営計画(2023~2025年度)」に基づき、各事業部門において下記重点施策を掲げ、事業目標の達成を目指してまいります。

本中期経営計画を着実に推進していくことで、事業拡大を推進する組織作りと人材成長の両立による企業価値を持続的に向上させるサイクルを構築し、さらに、部門間の連携強化により組織力の最大化、新規事業を含めた新たなビジネスモデルへの果敢な挑戦により、長期ビジョン「社会を支え、人と世界をつなぎ、未来を創る」の実現を達成し、社会的責任を果たしてまいります。

また、2023年3月31日に株式会社東京証券取引所から要請がありました「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」に基づき、同年5月12日に「PBR向上に向けたアクションプラン」を発表いたしました。

これらの計画を着実に実行していくことにより、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を図ってまいります。

 

◆長期ビジョン〈TOA2030〉

社会を支え、人と世界をつなぎ、未来を創る

 

◆中期経営計画(2023~2025年度)の基本方針

長期ビジョンを実現する事業戦略と人材戦略の融合

 

●各事業部門の重点施策(抜粋)

(経営企画本部)

 ・IR活動の強化

 ・ESG課題のキャッチアップ

 ・デジタル化推進による生産性の向上と働き方改革の達成

 ・脱炭素社会の取組み加速

 ・高度なガバナンス体制とコンプライアンス精神による安全で高品質な社会資本の提供

 

(国内土木事業)

 ・保有作業船の戦略的活用の推進

 ・ECI対応や企画提案力の強化

 ・技術力継承・リスク対応力の強化

 ・防衛、米軍の事業量拡大

 ・国土強靱化への取り組みや老朽化した港湾インフラの維持・更新

 ・陸上工事の技術継承強化

 

(国内建築事業)

 ・得意分野(倉庫物流、住宅、福祉、PFI)強化と優良顧客の継続維持

 ・臨海部に強みを持つ土木の顧客情報を生かした工場等での能力発揮

 ・BIMをプラットフォームとして活用した生産性向上

 ・オフィス、医療福祉分野の取り組み強化

 ・地方都市部の再開発、PPP/PFI事業への土建協業

 ・カーボンニュートラルの推進に向けた検討実施

 

(海外事業)

 ・ODA案件以外にも拡大し、一層の多工種化を推進

 ・現地建設会社との協業

 ・ナショナルスタッフの活躍による組織力の一層の強化

 ・現地資本工事・建築工事拡大に向けた現地法人の設立

 ・PPP、設計施工、バイヤーズクレジット活用

 

(管理部門)

 ・資本政策の検討

 ・ダイバーシティ&インクルージョンの実現

 ・計画的なプロフェッショナル人材の確保と育成

 ・長期的な人材の活躍を後押し

 ・人的資本経営の質・量双方の課題解決に向けた諸施策

 

なお、当連結会計年度において、当社の連結子会社である信幸建設株式会社の複数の従業員が、当該会社の外注先である取引業者と共謀して、架空・水増し工事代金等を支払った上で、その代金の一部を従業員らが自らに還流し着服していたことが判明いたしました。社内調査委員会の調査結果及び再発防止に向けた提言を真摯に受け止め、再発防止策を検討・策定し、2023年12月21日に公表いたしました。

今後、決して不正行為を繰り返さないよう内部統制システムやコンプライアンス体制を一層強化するとともに、当社グループの役員・社員が一丸となって、再発防止策の具体的な施策に取り組んでまいります。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであり、今後の環境変化により実際の結果と大きく異なる可能性があります。

 

(1)サステナビリティ全般に関する基本方針と取組

当社グループは、将来のあるべき姿「私たちが創るサステナブルな未来」を「Blue Green(青い海と青い空、そして緑あふれる街)」「Resilience Smart(安全・安心な街、そして快適な都市環境を整備)」「Well-being Social-Responsibility(社会から信頼され、社員からも愛される企業へ)」と描き、その実現に向けて、ESG経営基本方針「東亜建設工業グループは、E(環境)・S(社会)・G(ガバナンス)に関する社会的責任を果たし、持続的な企業価値向上を実現するためのESG経営を推進し、SDGsに貢献します」をサステナビリティの基本的な考え方としています。

 

Ⅰ.ガバナンス

当社グループの全社的なESG活動の推進のため、「ESG委員会」を設置しております。委員会は社長を委員長とし、副社長1名、本部長6名、常勤監査等委員である取締役、監査等委員である社外取締役1名で構成されます。「ESG委員会」は年2回開催され、ESG活動に関する基本的な方針や具体的な行動計画の立案、活動実績のレビュー、施策等を審議しております。委員会の審議結果は取締役会に報告されるとともに、重要決定事項は事業部門(支店を含む)およびグループ会社に伝達され、グループ一体でのガバナンス体系を構築しております。

 

Ⅱ.リスク管理

当社グループのリスク管理に関する方針、体制は「ESG委員会」にて審議されます。リスクと機会の分類において、それぞれ想定される事象や影響を整理し、「発生頻度」と「発生影響」に基づいて評価します。各リスク・機会項目に対して、主管部署を設け、予防的対応策を検討しております。これらのプロセスによって決定した当社グループの重要リスク・機会は、ESG委員会にて審議・承認され、取締役会に報告されます。決定した重要リスクは、当社の経営戦略等に統合されます。

 

Ⅲ.戦略

■中期経営計画(2023~2025年度)

当社グループは、長期ビジョン<TOA2030>「社会を支え、人と世界をつなぎ、未来を創る」を実現するため、中期経営計画(2023~2025年度)において事業戦略と人材戦略の融合を基本方針としました。これにより、事業拡大を推進する組織作りと人材成長(育成)の両立を図っていきます。

高度なガバナンス体制とコンプライアンス精神を根底に置き、環境・人権・パートナーシップそれぞれの価値を重視し、社員を含むすべてのステークホルダーの幸福度を高めるために、ESG経営を更に深化させ、社会資本整備を通じてサステナブルな社会に貢献します。

■重要課題(マテリアリティ)

当社は、社会(ステークホルダー)にとっての重要度・関心度と、当社経営にとっての重要度を考慮して、優先的に取り組むべき12の重要課題(マテリアリティ)を特定し、中期経営計画や行動計画との連動を図り、さらにSDGsとの関連を踏まえて課題解決に取り組み、持続可能な社会の実現を目指しています。

重要課題(マテリアリティ)

E

環境負荷の低減

建設廃棄物の削減と再利用促進

環境に配慮した施工

S

インフラ整備を通じた社会への貢献と共生

品質の確保・向上

顧客満足の追求

労働安全衛生の確保

多様な人材の育成と活躍推進

活き活きと誇りをもって働ける職場環境の構築

G

ガバナンスの強化

リスクマネジメントの強化

コンプライアンスの徹底

 

 

Ⅳ.指標及び目標

当社では、重要課題(マテリアリティ)の解決に向けた重要指標(KPI)と目標を設定しております。マテリアリティに紐づけて設定した中期経営計画・行動計画・KPIに対して目標達成状況を毎年度確認し、行動計画・KPIを見直すなど、PDCAサイクルによる継続的な改善を行っております。

<統合報告書> https://www.toa-const.co.jp/esg/report.html

※2024年8月発行予定の「統合報告書2024」でより詳細なサステナビリティ情報開示を行う予定です。

 

(2)気候変動への取組(TCFD提言に沿った気候変動関連の情報開示)

気候変動問題は世界的に取り組まなくてはならない喫緊の課題であり、なかでも建設業が果たすべき役割は非常に重要であると考えています。当社では、TCFD提言に沿った気候関連の情報開示を拡充し、企業価値の向上を図りながら、事業を通じて社会の持続可能な発展に貢献してまいります。

 

Ⅰ.ガバナンス

気候変動に関するガバナンスは、当社グループのESG経営に関する基本方針に組み込まれております。詳細については「(1)サステナビリティ全般に関する基本方針と取組 <ガバナンス>」を参照ください。

 

Ⅱ.戦略

TCFDの提言に基づき、当社グループにおけるリスクおよび機会を特定・評価し、気候関連問題が事業に与える影響を把握するため、中長期の視点も踏まえてシナリオ分析を実施しております。なお、「(低炭素社会への)移行」と「(気候変動による)物理的変化」に関するリスクと機会を検討するにあたり、以下の代表的なシナリオを採用しています。

・移行シナリオ:国際エネルギー機関(IEA)が策定したシナリオのうち、産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇を1.5℃以下に抑えるシナリオ(SDS)

・物理的シナリオ:国際気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が策定したシナリオのうち、産業革命前と比べて今世紀末の気温上昇が4℃を越えるシナリオ(RCP8.5)

 

 

■主な事業リスクと機会                    (影響度大のみ記載)

区分

リスク/機会

影響

影響度

対応策

移行シナリオ

リスク

炭素税導入及び脱炭素に向けた規制強化

・環境に対する規制の導入・強化に伴い、建設コストが上昇
・事業活動を通じて排出するCO2に

炭素税が課税されコスト増となる
・建設資材の価格が上昇し、調達

コストが増加

・設計・施工段階でのCO2排出量低減に向けた取組み
・低炭素型技術の開発
・建設機材の脱炭素化、協力会社と

の協働による省ネルギー推進
・再生材及び低炭素型資材の活用

機会

環境配慮型建物の需要拡大

・ZEBや省エネルギー技術がより注目され、需要が増加する
・低炭素技術や施工方法が、価格

競争力に繋がる

・ZEBの推進、建物の省エネ性能向上への取り組み強化
・低炭素技術や施工方法の開発促進

カーボンニュートラル関連施設の需要増加

・水素やアンモニアの受入れ施設など、カーボンニュートラル推進のための関連施設への建設投資の増加

・カーボンニュートラル関連施設の整備事業への取り組み強化

再生可能エネルギーの需要増加

・風力発電などの再エネ関連施設への建設投資の増加

・洋上風力発電事業へのEPC事業者としての参画に向けた取り組み推進

物理的シナリオ

リスク

平均気温上昇

・建設技能者の健康被害(熱中症等)の増加
・労働環境悪化による担い手不足

が更に加速

・ICT、AI等を活用した現場の省人化、生産性向上
・働き方改革を通じた労働環境の改

機会

気候変動に伴う市場変化

・自然災害の甚大化を見据えて、建物の新築やリニューアル市場の拡大、施設移転ニーズの高まり
・環境にやさしく、安心で安全な

街づくりの需要増加

・防災・減災やリニューアルを柱としたインフラ整備事業への取り組み強化
・快適な都市環境の整備事業への取

り組み強化
・上記に資する技術の開発促進

海面上昇に伴う工事需要増

・海面上昇や高潮等を見据えて、港湾・海岸部の防災対策工事の需要増加

・防災・減災のためのインフラ整備事業への取り組み強化
・上記に資する技術の開発促進

 

 

 

Ⅲ.リスク管理

気候変動に関する主なリスクは、当社グループのESG経営におけるリスクとして管理しております。詳細については「(1)サステナビリティ全般に関する基本方針と取組 <リスク管理>」を参照ください。

 

Ⅳ.指標及び目標

当社はESGに関する取組における重要指標(KPI)を策定しその状況をモニタリングしております。重要指標(KPI)の一つとして、今後の気候関連リスク・機会の影響を鑑みて、Scope1,2,3の排出量の削減目標を策定いたしました。気候関連のリスク・機会の影響を受ける直接的なパラメーターとして管理し、具体的な削減対応を進めてまいります。

 

■指標/目標(排出総量)

Scope 1+2

2030年度25%以上削減(2020年度比)

2050年度実質排出ゼロ

Scope 3

2030年度25%以上削減(2020年度比)

 

※該当箇所の目標は、SBTのWB2℃目標としてSBTiに認定されております(2022年9月)

 

■温室効果ガス排出量実績値

当社グループの温室効果ガス排出量(Scope1・2)の集計結果は下表のとおりです。

項目

単位

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

備考

Scope 1

千t-CO2

128

111

124

120

事業者自らによる温室効果ガスの直接排出

Scope 2

千t-CO2

5

4

2

1

他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出

Scope 1+2

千t-CO2

133

115

126

122

 

Scope 3

千t-CO2

(1,770)

1,060

(2,160)

1,380

1,010

---

 

 

※Scope 3の集計は、当年度からカテゴリー11の電力消費計算でのエネルギー換算係数を変更しており()内は変更前数値です。なお、10千t-CO2未満は切り捨てて表示しております。

※2023年度のScope 3は、現在データ集計及び算出中です。

 

(3)人的資本政策

Ⅰ.ガバナンス

人材戦略に関する重要事項については、取締役会の監督の下、権限委任された社長がトップを務める経営会議において、具体的な課題や施策に関する審議と決定、進捗確認を行っております。また、長期ビジョン「TOA2030」を実現するために、事業規模と要員構成のシミュレーション、IT人材や外国人の採用など、部署間の事前協議が必要なテーマに関しては、部署横断で情報を共有し議論しております。

取締役および執行役員の指名・報酬に関しては、取締役会の諮問機関として指名報酬委員会を設置しております。選任手続き、報酬決定手続きの公平性・透明性・客観性を確保するため、社外取締役を委員長とし、5名の委員のうち過半数を社外取締役が占める当委員会で審議し、取締役会に対して提案・提言を行っております。

 

Ⅱ.戦略

当社は、長期ビジョン「TOA2030」において、高い技術と人材という礎によって社会を支え、人と世界をつなぐ社会基盤の整備に貢献し、未来を創造する企業となることを掲げております。実現のためには、既存事業の高度化や事業領域拡大の加速が不可欠であり、その活動を支えるのが、人材戦略による経営基盤の強化です。建設会社にとって人的資本は極めて重要です。無事故・無災害で施工し、高品質の工事を工期内に竣工させるためには、担い手確保が欠かせません。2023年度~2025年度の中期経営計画においても「事業戦略と人材戦略の融合」をビジョン実現の土台と位置付け、最重要課題ととらえて取り組んでおり、「働き甲斐のある職場づくり」「ダイバーシティの推進」「事業部門の採用と育成の権限強化」を人材戦略の柱として推し進めております。

 

<人材育成方針>

当社では「人材育成基本方針」に基づき、次代を担う多様な人材確保と成長を実感できる育成環境の整備を進めております。

 

(人材育成基本方針)

■性別や国籍、年齢などの属性にとらわれない多様性と包摂性を備え、従来の画一な人材育成とは異なる、個人の適性や能力に応じたセミオーダー型の人材育成を目指します。

■当社の将来の事業環境、事業ポートフォリオなどを想定した、計画的なプロフェッショナル人材の確保、育成を行います。

■多様な価値観を受け入れる組織文化、職場環境を構築し、個々のリスキリングなどを通じて、ライフサイクル全体を通じた長期的な人材の活躍を後押しいたします。

■人材戦略① 多様性、協調性、自発性が存在する組織文化の醸成

活力ある組織でありつづけるために、性別、国籍、年齢など属性の違いを自然に受け入れ、協調・協力し、自発的に考え、行動することを推奨する組織文化の醸成のための仕組みづくりを進めております。2023年4月に人事部内に人材戦略課を新設し、ダイバーシティ&インクルージョンを実現するための具体的な施策立案を行っております。

 

・女性の活躍推進

 2023年度末現在、当社全体の女性従業員比率は11.4%、女性管理職比率は0.8%です。多様性を指向する一方で、女性社員が少ないという状況の改善に向け、「女性総合職の採用を総合職採用の10%以上とする」との目標を掲げて、採用を積極化しております。また当社では課長以上の役職に就くことのできる職位を「準幹部職」「幹部職」としておりますが、2030年までに女性の準幹部職および幹部職に20人以上(2023年度末実績10人)を登用することを重要な目標とし、女性のキャリア採用にも注力しております。総合職社員数に占める女性の割合は、2020年度の2.9%から2023年度の5.2%へと増加しております。

さらに女性社員がより活躍できる環境を整えるために、主に定型的な業務を担う一般職社員に対し、転居を伴う転勤のない地域限定総合職制度を導入しました。2024年3月末時点の一般職社員の8割にあたる91人が2024年4月より地域限定総合職に転換し、キャリア研修などを通じた人材育成や、配置の工夫による職域の拡大を進めております。これらの取り組みにより、能力ある女性の管理職登用に向けた人材プールを拡大してまいります。

また取締役・執行役員におけるダイバーシティの推進も重要と考えており、2023年4月に1人、2024年4月に1人、女性社員を執行役員に登用しました。社外取締役についても2024年4月に新たに1人を登用し2人となり、現在4人の女性役員が経営に携わっております。今後も、女性社員が管理職の役割を担いやすい環境を整え、その役割を果たす女性社員を増やしてまいります。

 

・外国籍人材及びキャリア採用人材の活躍推進

 当社の外国籍の社員数は2024年3月末で25人です。2030年までに外国籍の社員数40人以上、準幹部職・幹部職の社員数10人以上を目指し、多国籍社員の正社員雇用、現地雇用などを推進しております。また社員に英語学習ツールを提供するとともに、国際事業本部では外国籍社員を交えた会話、会議では英語を使用するなど、英語の公用語化に取り組んでおります。

従業員のうちキャリア採用社員の比率は18.5%、全管理職におけるキャリア採用社員比率は17.6%です(2024年3月末時点)。多様性の推進に向けキャリア採用を活発化させており、2023年度採用者のキャリア採用比率は26.7%となりました。新しい職場に早期に馴染めるようフォローアップ研修を実施するなど、定着に向けた取り組みにも注力しております。

 

■人材戦略② 計画的なプロフェッショナル人材の確保と育成

 建設会社にとって人的資本は極めて重要です。当社では将来の事業環境、事業ポートフォリオなどを想定した計画的なプロフェッショナル人材の確保、育成を行っております。今後、2030年にグループ全体社員数2,210名(2024年3月末時点で1,945人)を目指し、新卒及びキャリア採用を計画的・安定的に行う方針です。

 

・各事業部門が主体的に取り組む将来の担い手育成

将来の建設業界を担う人材を獲得するために、2022年より全社員が対象のリクルーター制度を開始し、積極的なリクルーター活動を推し進めております。育成面では研修や勉強会を通じてチームワークの促進を図り、若年層社員にはフリートークの場を設け、メンター活動も積極的に行っています。また土木部門の「支店グループ制度」は、入社5年目までの若手社員が、互いの業務知識の向上を目指し、資格試験対策、DXや業務効率化に関する情報交換をしつつ、支店間の交流など、横のつながりを深める活動を展開しております。今後は作業所長への若手社員の抜てきや、営業職や専門職、ライン役職者への早期配置などについても推進してまいります。

さらに新型コロナウイルス感染症により中止していた若手社員を海外現場に数カ月間派遣するOJT研修を2024年度から再開し、引き続きグローバル人材の育成に取り組んでまいります。

 

<職場環境整備方針>

目指すべき将来像のひとつである「Well-being Social-Responsibility(社会から信頼され、社員からも愛される企業へ)」にも示す通り、当社は活き活きと誇りをもって働ける職場環境づくりとして、会社のあるべき姿を「人が集まる会社」と定め、社員の幸福度を向上させるとともに、関わるすべての人が幸せになる環境整備に取り組みます。また、こうした活動を通し、社会から信頼される企業となり、社会的責任を果たしてまいります。

 

■人材戦略③ 安心して働ける、働き甲斐のある職場づくり

当社では長期ビジョン実現のため、いかに「社員の幸福度」の高い組織を創っていくかという課題について検討をはじめております。社員が職場において感じることができる幸福度について、サーベイなどを通じて理解・分析し、施策化することを検討しております。

 また、2022年度より社員提案制度を導入し、社員の自発能動的な発信と実行が可能な仕組みを作り、風通しの良い組織を目指しております。2023年度は新規事業や技術開発、人事・教育制度など44件の応募がありました。これらの提案を共働で実現させていくことで、社員の「やりがい」と「働きやすさ」を向上させてまいります。上司と部下のほか、直属上司以外とのペアで対話する「TOAダイアログ」の制度も活用し、社員同士のオープンなコミュニケーションによって組織の活性化を図っております。

 さらに社員のより高い次元での挑戦を促し、株価及び業績向上への意欲や士気を高めるため、社員に対して自社の株式を給付するインセンティブプラン「株式給付信託(J-ESOP)」を2023年に導入しました。本制度は今後の社員のエンゲージメント向上に寄与すると考えております。当社の持続的な成長のため、今後も人的資本への投資を進めてまいります。

 

■人材戦略④ ライフサイクル全体を通した長期的な人材の活躍の後押し

経営基盤を強化し、長期ビジョンを実現するためには、社員の定着率を高めることも欠かせません。特に女性社員は出産や子育てなどのライフイベントにより就業の継続が難しくなるケースがあることから、就労継続のための選択肢を用意しております。

両立支援では、産前産後休業、育児休業時の定期的なフォロー面談や復職時の職場環境配慮、女性総合職が出産育児に関連して特定地域での就労を希望する場合に、本人の希望する地域への配置を行う地域限定勤務制度などを設けています。2023年度にはベビーシッター料金の補助制度を新たに整備し、2024年度からは企業主導型保育園との連携を開始しました。今後も、仕事と家庭生活を両立できる環境づくりを進めてまいります。

また誰もが育児休業を取得しやすい企業風土の醸成に向けて、育休を取得する社員の所属部署への手当の支給(お祝い金)制度を新設するとともに、生活面での不安を軽減するために一定期間を有給とする取組みを行っております。これらにより男性の育児休業取得率は2020年度の5.9%から2023年度の90.2%へと大幅に伸長しております。

指標

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

育児休業取得率(性)

100.0%

100.0%

100.0%

100.0%

育児休業取得率(男性)

5.9%

12.1%

45.5%

90.2%

育児休業平均取得日数(女性)

296.8日

435.7日

293.4日

-日

育児休業平均取得日数(男性)

21.0日

44.3日

31.3日

33.7日

 

※育児休業平均取得日数については、厚生労働省が推奨する方法により当該年度に育児休業を終了し復職した社員の平均取得日数を記載しております。2023年度においては育児休業を取得した女性社員はいたものの、同年度中に復職しなかったことから、日数の表示をしておりません。

 

また当社は建設業を営む会社であり、施工場所の異なる各工事に社員を配置する必要性から、施工管理技術者を中心に、異動が発生するケースが多くあります。異動する社員のモチベーション向上と金銭的な負担感の軽減を目的に、2024年4月より転居手当の新設や単身赴任者の別居手当の増額を実施しました。今後は、異動そのものの軽減策についても検討を重ね、性別を問わず誰もができる限り長く働ける環境づくりを推進してまいります。

 

■健康経営

当社は健康経営宣言を2023年度に行い、健康経営優良法人2024(大規模法人部門)として認定されました。今後も健康経営推進委員会を通じて健康保険組合や産業医等と連携し、健康経営を推進してまいります。

 

Ⅲ.リスク管理

人材の確保におけるリスクは、当社グループのESG経営におけるリスクとして管理しております。詳細については「第2 事業の状況 3 事業等のリスク(6)人材の確保におけるリスク」に記載しております。

 

Ⅳ.指標及び目標

当社では、<人材育成方針>及び<職場環境整備方針>について、次の指標を用いております。当該指標に関する目標及び実績は次のとおりであります。

なお、連結子会社においても、ESG経営基本方針に基づいて多様な人材の育成と活躍推進に取り組んでおりますが、具体的な数値目標を設定していない等、当社グループにおける記載が困難なことから提出会社のもののみを記載しております。

指標

目標

実績

(当事業年度)

女性総合職の人数

2030年度において200以上を雇用

75

女性準幹部職・幹部職の人数

2030年度において20以上を雇用

10

外国人総合職の人数

2030年度において40以上を雇用

25

外国人準幹部職・幹部職の人数

2030年度において10以上を雇用

2

女性総合職の採用人数

総合職採用の10以上

13.5

育児休業の取得率

2024年度において男性社員50%以上、女性社員80%以上

男性: 90.2%

女性:100.0%

 

※女性総合職には地域限定総合職を含みます。

※準幹部職・幹部職は課長職以上の役職に就くことのできる職位をさします。

 

 

人的資本データシート(提出会社)

指標

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

KPI

単位

臨時従業員を含む総従業員数

1,714

1,748

1,788

1,883

 

うち女性総従業員数

230

245

251

274

 

従業員数(期末)

1,594

1,628

1,658

1,744

 

うち女性従業員数

162

177

185

199

 

(女性従業員比率)

10.2%

10.9%

11.2%

11.4%

 

平均年齢

45.8

45.6

45.3

45.0

 

平均勤続年数

20.0

19.9

19.5

19.0

 

うち男性総合職

19.9

19.8

19.3

18.7

 

うち女性総合職

8.7

7.5

7.1

6.2

 

総合職従業員数

1,314

1,336

1,363

1,432

 

うち女性総合職従業員数

38

50

62

75

(2030年度)
200人以上

(女性総合職従業員比率)

2.9%

3.7%

4.5%

5.2%

一般職(実務職)従業員数

114

118

114

114

 

うち女性一般職従業員数

113

117

113

113

 

準幹部職・幹部職者数

904

884

867

875

 

女性準幹部職・幹部職者数

7

8

10

10

(2030年度)
20人以上

管理職数

687

703

685

728

 

うち女性管理職数

7

8

6

6

 

(女性管理職比率)

1.0%

1.1%

0.9%

0.8%

 

外国人総合職従業員数

19

14

22

25

(2030年度)
40人以上

外国人準幹部職・幹部職者数

1

1

2

2

(2030年度)
10人以上

新入社員数

54

77

69

89

 

うち女性社員数

7

19

8

13

 

(新入女性社員数/新入社員数)

13.0%

24.7%

11.6%

14.6%

 

うち女性総合職数

3

14

8

12

 

(女性総合職数/新入社員数)

5.6%

18.2%

11.6%

13.5%

 

入社3年以内離職率

19.1%

8.9%

16.7%

15.1%

 

-

障害者雇用率

(法定雇用率)

2.3%

2.9%

2.7%

2.7%

(2024年)
2.5%以上

-

 

 

指標

2020年度

2021年度

2022年度

2023年度

KPI

単位

年次有給休暇取得率

49.5%

51.9%

55.2%

60.9%

 

-

育児休業取得率

(女性)

100.0%

100.0%

100.0%

100%

(2024年度)
80%

-

育児休業取得率

(男性)

5.9%

12.1%

45.5%

90.2%

(2024年度)
50%

-

育児休業平均取得日数

(女性)

296.8

435.7

293.4

-

 

育児休業平均取得日数

(男性)

21.0

44.3

31.3

33.7

 

 

※各指標の数値は、障害者雇用率を除いて各事業年度末日現在のものを表示しております。

※従業員数(期末)・平均年齢・平均勤続年数に係る各指標においては、人的資本経営の観点から当社から社外への出向者を含み、他社から当社への出向者を除いております。これにより、「第1 企業の概況 5 従業員の状況」に記載の数値とは差異があります。

※障害者雇用率は、障害者雇用促進法に基づき各事業年度6月1日時点のものを表示しております。

※育児休業平均取得日数は、厚生労働省が推奨する方法により当該年度に育児休業を終了し復帰した社員の平均取得日数を記載しております。2023年度においては育児休業を取得した女性社員はいたものの、同年度中に復職しなかったことから、日数の表示をしておりません。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

当社グループは、組織横断的なリスク状況の監視及び全社的対応については、リスク管理規程に基づき、代表取締役社長を委員長とするESG委員会が対応し、必要に応じてその状況や対応内容を取締役会に報告する体制をとっております。また、業務執行に係るリスク管理については、それぞれの担当部門が定めた管理規程等に従い当該部門が行っております。

(1)建設市場の変動リスク

当社グループの売上高の主要部分を占める国内建設事業につきましては、我が国の公共事業投資並びに民間設備投資の動向によって、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、競争力が高い事業領域の成長を加速させるとともに、事業領域の多様化にも取り組んでおります。

(2)建設資材価格の変動リスク

建設資材価格などの高騰により工事採算が悪化した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、調達先との取引関係を強化し、常に市場の最新情報を入手し正確な原価把握を徹底することや早期購買などにより、資材価格高騰などによる影響を最小限に抑えられるよう努めております。

(3)海外事業のリスク

当社グループは、世界各国にて建設事業を行っておりますが、その施工場所における政情の変化、経済情況の変化、予期せぬ法令・規制の変更等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、受注前に予め現地や専門家等の意見を十分に収集するなどし、リスク評価を行っております。また海外事業に関する為替変動リスクにつきましては、外貨建工事代金収入に対応させて原価支払いを外貨建としたり、必要に応じ為替予約などを通じヘッジしております。ただし、そのリスクをすべて排除することは不可能であり、為替変動等により業績に影響を及ぼす可能性があります。

(4)施工品質リスク

工事の品質管理には万全を期しておりますが、契約不適合責任及び製造物責任による損害賠償が発生した場合は、当社グループの業績及び社会的信用に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは施工検討会で事前に品質上の課題を確認し、そこで抽出された課題に対し適切に施工しているか施工中にパトロールによって確認し、竣工時に社内検査を行い不適合発生防止に努めております。

(5)信用リスク

建設工事は契約から完成引渡しまで長期にわたり、また一件当たりの請負金額が大きく、一般的に工事目的物の引渡し時に多額の工事代金が支払われるため、発注者の信用リスクが生じた場合には、資金回収不能などにより当社グループの財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、協力業者が信用不安に陥った場合、工事の進行に影響を受ける可能性があります。当社グループは、危機管理マニュアルの運用を徹底するとともに、企業調査の実施や日々の情報収集等により与信管理を行っております。

(6)人材の確保におけるリスク

近年の少子高齢化による労働人口の減少により、十分な人材の確保が出来ない場合には、売上高の減少など当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、将来の事業規模に応じた計画的な新卒及び中途採用を行い、ICTの積極的な導入による効率化など働き方改革を推進しつつ、個人の適正・能力の伸長に応じたセミオーダー型の育成体系で多様なニーズに対応した人材の育成や担い手確保の強化を行ってまいります。

(7)資産の時価下落リスク

当社グループの保有する不動産・有価証券の時価の下落により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。保有する資産は時価評価等を通じてモニタリングしており、遊休不動産で将来活用の見込みがない場合は売却に向けた検討を進めるなどしております。また政策保有株式は、年に一度保有目的及び経済的合理性等を検証し、保有効果が薄れたと判断した場合は適宜売却に向けた手続きを進めております。

(8)災害・事故の発生

工事施工にあたっては事故防止に万全を期しておりますが、予期せぬ要因から事故や労働災害が発生する可能性があります。この場合、損害賠償や指名停止などによる受注機会の減少により業績に影響が及ぶ可能性があります。当社グループは、安全衛生管理計画書の周知・徹底及び安全教育、安全パトロールの強化により、事故や労働災害の防止に努めております。

(9)自然災害・パンデミック

大規模な自然災害等により、事業の継続が困難になり当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、大規模災害時における事業継続マニュアルを策定し、災害時における優先すべき重要業務と必要な対応事項を予め定め、初動対応・復旧活動を行い事業の早期再開を図ります。また、新型コロナウイルス等の感染症拡大時には、時差通勤やテレワーク及び感染予防対策により、社員及び協力業者等の健康管理を徹底し事業継続を図ります。

(10)法令違反リスク

当社グループは、建設業法、労働安全衛生法、労働基準法、独占禁止法、海洋汚染防止法ほか、様々な法的規制を受けて事業活動を行っており、それらに違反する行為があった場合には、当社グループの業績及び社会的信用に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、従業員への法令遵守教育を適宜行い、業務における法令違反の防止に努めております。

(11)情報漏洩リスク

当社グループは、外部からのサイバー攻撃や従業員の過失等により顧客情報や個人情報等の機密情報が漏洩又は消失した場合には、社会的信用の失墜、損害賠償、復旧費用の発生などにより当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループはシステム的な防御態勢に万全を期すと共に、情報セキュリティポリシーを策定し、e-learningや迷惑メール訓練等、社員への情報セキュリティ教育を継続的に実施し、情報漏洩の防止に努めております。また、万が一情報漏洩が発覚した場合に迅速に対応するための情報漏洩対策チームを社内に設置し、被害を最小限に留める体制を構築しております。

(12)気候変動リスク

気候変動リスクへの対応については、ESG委員会において基本的な方針や具体的な行動計画の立案、活動実績のレビュー、施策等を審議し、取締役会への報告を経て、重要決定事項は各事業部門(支店を含む)とグループ会社に伝達される体制を構築しております。その内容につきましては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2)気候変動への取組」に記載しております。

(13)人権・サステナビリティ課題対応リスク

当社グループは、役員・社員一人一人がお互いの多様性・人格・個性を尊重し、人種・宗教・国籍・年齢・性別・性的指向・性自認・出身地・障がいの有無・身体的特徴などを理由とした差別、ハラスメントなど人権を侵害するあらゆる行為の禁止、また、あらゆる形態の児童労働、強制労働、人身取引への加担、外国人労働者などへの人権の侵害の禁止を徹底しておりますが、人権侵害が発生した場合には、社会的信用の低下など影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、人権基本方針を策定し、事業活動やサプライチェーンにおける人権への顕在的または潜在的な負の影響を特定、防止、軽減し、これらの措置を社内プロセスに統合する「人権デュー・デリジェンス」の仕組みを継続的に構築していきます。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要は次のとおりであります。

①財政状態及び経営成績の状況

当連結会計年度の当社グループの連結業績につきましては、売上高は283,852百万円前連結会計年度比32.9%増)、営業利益は17,231百万円前連結会計年度比162.9%増)、経常利益は16,630百万円前連結会計年度比151.4%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は10,517百万円前連結会計年度比117.5%増)となりました。

また、当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末と比較して46,008百万円増加し、272,936百万円となりました。

負債は、前連結会計年度末と比較して38,668百万円増加し、176,235百万円となりました。

純資産は、前連結会計年度末と比較して7,339百万円増加し、96,700百万円となりました。

 

当社グループのセグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。

 

(国内土木事業)

海上土木分野を中心に、港湾・鉄道・道路などのインフラ・社会資本の整備に継続的に取り組んでおります。当連結会計年度の売上高は大型案件を中心に工事が進捗し、137,555百万円前連結会計年度比34.5%増)となりました。セグメント利益(営業利益)は、売上高の増加、複数の高採算工事の利益貢献、繰越工事の設計変更獲得による利益回復により13,251百万円前連結会計年度比89.8%増)となりました。

なお、当社個別の受注高につきましては、陸上土木工事の受注が増加し、157,031百万円(前連結会計年度比5.0%増)と高水準を維持しております。

 

(国内建築事業)

特命案件・企画提案案件・設計施工案件の受注拡大に取り組んでおります。当連結会計年度の売上高は大型案件をはじめとした手持工事の堅調な進捗により84,003百万円前連結会計年度比58.1%増)となり、セグメント利益(営業利益)は売上高の増加と採算の改善等により、4,505百万円(前連結会計年度はセグメント損失337百万円)となりました。

なお、当社個別の受注高につきましては、物流・住宅・工場・医療などを中心に受注活動を行い、物流分野で大型案件を獲得したこと等により、119,098百万円(前連結会計年度比54.7%増)と過去最高となりました。

 

(海外事業)

東南アジアを中心にアフリカ・南アジアなどにおいて、海上土木工事などに取り組んでおります。当連結会計年度の売上高は48,501百万円前連結会計年度比4.2%増)となりましたが、セグメント利益(営業利益)は一部不採算工事の発生もあり、1,255百万円前連結会計年度比44.0%減)となりました。

なお、当社個別の受注高につきましては、アフリカや東南アジアで大型案件を獲得したこと等により、76,511百万円(前連結会計年度比11.1%増)と高水準となりました。

 

(その他)

当連結会計年度の売上高は13,792百万円前連結会計年度比18.8%増)、セグメント利益(営業利益)は3,117百万円前連結会計年度比138.5%増)となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度におきましては、営業活動によるキャッシュ・フローは、39,350百万円の資金増加(前連結会計年度は13,947百万円の資金減少)となりました。投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得等により、2,639百万円の資金減少(前連結会計年度は2,578百万円の資金減少)となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは自己株式の取得等により、8,493百万円の資金減少(前連結会計年度は12,723百万円の資金増加)となりました。以上の結果、現金及び現金同等物の当連結会計年度末残高は、前連結会計年度末に比べ28,765百万円増加し、57,044百万円となりました。

 

③生産、受注及び販売の実績

当社グループが営んでいる事業の大部分を占める建設事業及び不動産事業では「生産」を定義することが困難であり、建設事業におきましては請負形態をとっているため「販売」という定義は実態にそぐいません。

また、当社グループとしての受注高、繰越高を正確に把握することも困難なため、記載可能な情報を「経営成績等の状況の概要」におきましてセグメントの業績に関連付けて記載しております。

 

なお、参考のため当社単独の事業の状況は次のとおりであります。

 

a. 受注高、売上高、繰越高及び施工高

 

期別

区分

前期
繰越高
(百万円)

当期
受注高
(百万円)


(百万円)

当期
売上高
(百万円)

次期繰越高

当期
施工高
(百万円)

手持高
(百万円)

うち
施工高
(%)

うち
施工高
(百万円)

第133期
(自 2022年
  4月1日
至 2023年
  3月31日)

建設
事業

土木工事

238,298

214,483

452,782

145,295

307,487

0.1

142

145,239

建築工事

61,086

76,829

137,916

53,201

84,714

0.0

14

53,152

299,385

291,313

590,698

198,496

392,202

0.1

157

198,392

開発事業等

1,083

4,182

5,265

3,541

1,724

3.1

53

3,502

不動産等

1,198

合計

300,468

295,496

595,964

203,236

393,926

0.1

210

201,894

第134期
(自 2023年
  4月1日
至 2024年
  3月31日)

建設
事業

土木工事

307,487

222,845

530,332

181,284

349,047

0.1

276

181,418

建築工事

84,714

124,994

209,708

84,149

125,558

0.0

0

84,135

392,202

347,839

740,041

265,434

474,606

0.1

276

265,554

開発事業等

1,724

4,801

6,525

4,687

1,838

7.4

136

4,770

不動産等

894

合計

393,926

352,641

746,567

271,016

476,445

0.1

412

270,325

 

(注) 1 前期以前に受注した工事で、契約の変更により請負金額に変更あるものにつきましては、当期受注高にその増減額を含めております。したがって当期売上高にもかかる増減額が含まれております。

2 次期繰越高の施工高は支出金により手持工事等の施工高を推定したものです。

3 当期施工高は、不動産等を除き(当期売上高+次期繰越施工高-前期繰越施工高)に一致します。

 

b. 受注工事高の受注方法別比率

工事の受注方法は特命と競争に大別されます。

 

期別

区分

特命(%)

競争(%)

計(%)

第133期

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

土木工事

35.0

65.0

100.0

建築工事

66.6

33.4

100.0

第134期

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

土木工事

32.1

67.9

100.0

建築工事

84.4

15.6

100.0

 

(注) 百分比は請負金額比であります。 

 

c. 完成工事高

 

期別

区分

国内

海外
(A)
(百万円)

(A)/(B)
(%)

合計
()
(百万円)

官公庁
(百万円)

民間
(百万円)

第133期

 

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

土木工事

75,924

23,403

45,966

31.6

145,295

建築工事

9,340

43,296

564

1.1

53,201

85,264

66,700

46,531

23.4

198,496

第134期

 

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

土木工事

107,534

26,537

47,213

26.0

181,284

建築工事

11,063

71,838

1,248

1.5

84,149

118,597

98,375

48,461

18.3

265,434

 

(注) 1 完成工事のうち、主なものは、次のとおりであります。

    第133期の主なもの

(発注者)

  (工事名)

横浜市

  新本牧ふ頭建設工事(その23・外周護岸A基礎工)

国土交通省

大阪港北港南地区荷さばき地(C12)地盤改良工事

(株)モリモト

(仮称)品川区上大崎1丁目計画新築工事

(株)和田コーポレーション

ロイヤルガーデン追手筋新築工事

コートジボワール共和国運輸省 アビジャン自治港

コートジボワール共和国 アビジャン港穀物バース建設事業

 

    第134期の主なもの

(発注者)

  (工事名)

国土交通省

 神戸港航路附帯施設築造工事(第4工区)

国土交通省

 能代港大森地区泊地(-10m)外浚渫工事

(福)七日会

(仮称)本町けやきの杜新築工事計画

防衛省

 佐世保(3)崎辺整備場新設建築工事

ピー・エス・エー・コーポレーション

 PSAトアスコンテナターミナルC1-C2建設工事

 

 

 

2 売上高総額に対する割合が100分の10以上の相手先別の売上高及びその割合は、次のとおりであります。

    第133期

 国土交通省

36,025百万円  17.8%

 

 

 

    第134期

 国土交通省

62,963百万円  23.3%

 

 

 

 

 

d. 手持工事高(2024年3月31日現在)

 

区分

国内

海外(百万円)

合計(百万円)

官公庁(百万円)

民間(百万円)

土木工事

168,938

22,465

157,643

349,047

建築工事

14,211

103,665

7,681

125,558

183,150

126,131

165,325

474,606

 

     手持工事のうち主なものは次のとおりであります。

(発注者)

 (工事名)

(完成予定年月)

国土交通省

令和5年度東京国際空港A滑走路北側取付誘導 路他地盤改良工事

2025年1月

(株)総合開発機構

三河港明海地区公有水面埋立工事(5工区)

2026年3月

三菱地所レジデンス(株)

文京区目白台3丁目計画新築工事

2025年2月

(株)信和不動産

(仮称)ヴェルディ宇品東弐番館新築工事

2026年1月

シハヌークビル港湾公社

シハヌークビル港新コンテナターミナル整備事業

2027年3月

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項については、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

  

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

(財政状態の分析)

当連結会計年度末における総資産は、前連結会計年度末と比較して46,008百万円増加し、272,936百万円となりました。これは主に、大型工事の増加により受取手形・完成工事未収入金等や未成工事支出金等が増加したこと、保有株式の時価上昇に伴い投資有価証券が増加したこと等によるものです。

負債は、前連結会計年度末と比較して38,668百万円増加し、176,235百万円となりました。これは、主に支払手形・工事未払金等、未成工事受入金が増加したことによるものです。

純資産は、前連結会計年度末と比較して7,339百万円増加し、96,700百万円となりました。これは主に、剰余金の配当と自己株式の取得はあったものの、親会社株主に帰属する当期純利益の計上やその他有価証券評価差額金が増加したことによるものです。なお、自己資本比率は35.0%と、前連結会計年度末と比較して4.1ポイント減少しておりますが、ROE(自己資本利益率)は、11.4%と5.9ポイント増加しました。

 

(経営成績の分析)

a. 売上高

当連結会計年度の売上高については、国内土木事業は大型案件を含む手持工事が順調に進捗し増収となり、国内建築事業は倉庫・物流施設をはじめ工事が順調に進捗し増収となりました。また、海外事業も工事が進捗し増収となり、総じて、前連結会計年度に比べ70,282百万円32.9%)増収283,852百万円となりました。

b. 営業利益

営業利益は、海外事業において一部で不採算工事が発生したことにより減益となったものの、国内土木事業が高採算案件、設計変更の獲得等による増益、国内建築事業が売上高の増加、採算が改善した案件の利益寄与等により増益となり、総じて、前連結会計年度に比べ10,675百万円162.9%)増益17,231百万円となりました。

c. 経常利益

経常利益は、営業利益の増加に伴い、前連結会計年度に比べ10,016百万円151.4%)増益16,630百万円となりました。

d. 親会社株主に帰属する当期純利益

親会社株主に帰属する当期純利益は、経常利益の増加などにより、前連結会計年度に比べ5,682百万円117.5%)増益10,517百万円となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

(キャッシュ・フローの状況の分析)

「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」を参照ください。

 

(資本の財源及び資金の流動性の分析)

当社グループは、将来の事業活動に必要な資金を確保し、適切な流動性を維持することを財務の基本方針としております。資金需要の主なものは、工事原価、販売費及び一般管理費などの運転資金及び設備投資資金であります。

その資金の原資は、自己資金、営業キャッシュ・フロー、金融機関からの借入及びコマーシャル・ペーパーの発行等による収入であります。

また、運転資金の効率的な調達を行うため、複数の金融機関とコミットメントライン(特定融資枠)契約を締結しております。詳細は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結貸借対照表関係)」に記載のとおりであります。

更に、当社グループ内の資金の効率性を高めるため、一部の子会社を含めたグループ間のキャッシュマネジメントシステムを特定の金融機関と構築しております。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づいて作成されております。この連結財務諸表作成にあたっては、過去の実績や現在の状況に基づき合理的と考えられる見積りによっている部分があり、実際の結果がこれらの見積りと異なる場合があります。個々の項目については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しておりますが、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

5 【経営上の重要な契約等】

特記事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループにおきましては、4つのマテリアリティ(重要課題)を掲げて、研究開発を推進しております。

●4つのマテリアリティ(重要課題)

 Blue・Green(ブルー・グリーン)‐地球温暖化対策・低炭素社会の構築、自然環境保全・再生・創出

 Life-cycle(ライフサイクル) ‐維持・長寿命化、3Rの実践

 Digital・Smart(デシタル・スマート)‐品質・安全・生産性の向上、ウエルネスの向上

 Resilience(レジリエンス) ‐防災・減災、強靱化、安心・安全の提供

当連結会計年度における研究開発費は1,298百万円であります。また、主な研究開発成果は次のとおりであります。

 

(国内土木事業・国内建築事業及び海外事業)

1.BlueGreen(ブルー・グリーン)

(1)「着床式基礎における洗掘防止工の低コスト構造及び施工方法の技術開発」の研究着手

国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構が公募した助成事業「洋上風力発電低コスト施工技術開発(施工技術検証)」に応募し、正式に採択されました。

2019年4月の「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律」の施行を契機に促進区域指定に向けた案件形成が進みつつある中、2050年カーボンニュートラルの実現に向けては、再生可能エネルギーを最大限導入することが急務であります。特に洋上風力発電は、大量導入の可能性、コスト低減効果や経済波及効果の大きさの観点から、再生可能エネルギーの主力電源化の柱と考えられています。しかし、洋上風力発電が先行している欧州と比較して、気象・海象条件や船舶等のインフラ整備の状況が異なり、結果的に我が国の洋上風力発電コストが高くなっています。今後、固定価格買取制度から自立した形での導入を目指していく中で、洋上風力発電の低コスト化が急務となっているため、助成事業が開始されました。

当社は、着床式基礎(主にモノパイル基礎)の洗掘防止工に照準を当て課題を整理するとともに、先進的工法を確立し、工程短縮を図り低コスト化に寄与する「着床式基礎における洗掘防止工の低コスト構造及び施工方法の技術開発」で採択を受けましたので、順次、研究開発に取り組んでまいります。

 

(2)消臭シートの開発

近年、台風の大型化や集中豪雨の増加による被害が頻発しています。これらの水害に伴って発生する汚泥等の災害廃棄物は、悪臭を生じさせて周辺環境へ多大な影響を及ぼすためその対策が必要とされています。これまでの悪臭対策は、消臭作用のある薬剤を悪臭発生物に散布もしくは混ぜ込むことや土木シートで悪臭発生物を被覆することにより行われてきましたが、均一な薬剤の混ぜ込みが困難なことやシートの隙間から悪臭が拡散するなどの課題がありました。そこで、薬剤による消臭効果とシートによる悪臭封じ込め効果を併せ持った消臭シートを倉敷紡績加工(株)及び無臭元工業(株)と共同で開発しました。

消臭シートは、不織布と不織布の間に粉末消臭剤を挟み込んだ製品です。悪臭発生物に本シートを隙間なく敷設することで悪臭の拡散を防ぐとともに本シートに水をかけることで消臭剤が悪臭発生物に浸透し悪臭の発生を抑えることができます。消臭効果がある悪臭物質はアンモニア・アミン類、硫化水素、メルカプタン類であることから、建設工事のみならず下水処理施設や畜産業における悪臭対策としても活用できます。

 

2.Life-cycle(ライフサイクル)

(1)カルシア改質土の「バッチ式原位置混合工法」の技術評価証を取得

カルシア改質土は、港湾等の粘土・シルト分の多い軟弱な浚渫土砂にカルシア改質材(製鉄過程で発生する転炉系製鋼スラグを原料として成分管理と粒度調整したリサイクル材料)を混合したものです。このカルシア改質土を利用して軟弱な海底地盤の表層改良を可能とする「バッチ式原位置混合工法」の開発を5社共同で進めてまいりました。このたび、2022年に実施した実海域での施工試験で得られたデータをもとに、一般財団法人沿岸技術研究センターの「港湾関連民間技術の確認審査・評価事業」における審査の結果、評価証(第22006号)を取得いたしました。

これまでは、土運船の土槽内であらかじめ製造したカルシア改質土を所定の施工エリアへ運搬して、海中投入する方法が主流でした。「バッチ式原位置混合工法」は、既存の海上地盤改良工法であるサンドコンパクションパイル工法専用船のケーシング先端に取り付けた密閉式バケットを用いて海底地盤の粘性土を掘削し、バケット内でカルシア改質材と混合してカルシア改質土を製造する事により、浚渫することなく原位置で軟弱地盤を改質する工法です。審査においては、一連の施工を海底近傍で実施できる事から、良好な品質や出来形を確保できる点に加え、周辺海域の水質への悪影響が生じない工法としても評価されました。

今後は、本工法の実事業化を進め、カルシア改質土の普及拡大を推進してまいります。

 

3.DigitalSmart(デジタル・スマート)

(1)AIを活用した土の粒度分布判定システム「ASYST」を開発

建設発生土の有効利用判定や受入れ土の利用計画など、特に土工事や地盤改良工事では、土砂の粒度情報に基づく施工の技術的判断を迅速かつ的確に下さなくてはならない場面が多く発生します。しかしながら、この粒度情報を知るうえで基礎データを得るための粒度試験は、習熟した技術者が1日~数日をかけて実施するため、その結果を施工管理に反映させることに時間的課題が残ります。そこで、土の粒度試験をその都度実施することなく粒度情報を把握し、施工管理に直ちに反映させることを目的に、現場レベルの簡単な操作のみで実用上十分な精度を有する粒径加積曲線をAIによって推定するシステム「ASYST」を開発しました。

本システムによる土の粒度判定手順は、まず対象土を現場で採取し、所定量を専用容器に封入した試料を作製します。その後、試料を専用の撮影BOX内で複数枚の画像撮影を行います。一連の画像データは、インターネット経由でオンラインサーバーに転送され、「ASYST」により対象土の粒径加積曲線の推定結果を直ちに得ることができます。本システムにより、対象土の採取・調整から粒径加積曲線の推定までを1時間以内で実施することが可能となります。

 

(2)港湾工事における建設用3Dプリンター活用の取組み

護岸上部工のコンクリート打設における底型枠は、本体工に鋼矢板や鋼管矢板などを用いた場合、打設時の施工誤差が生じるため、潜水士が水中で護岸形状に合うように加工と位置調整を行うことが一般的でした。この作業は熟練した技術を伴い、かつ安全面・工程面においても負担になることから、底型枠作製の効率化と潜水士による水中作業軽減を目的として、3Dプリンター造形物の構造物への適用性に関する研究開発に取り組んでいます。本研究開発おいて、千葉県の護岸工事で建設用3Dプリンターにて作製した底型枠を用いた上部工コンクリート打設に成功しました。底型枠は、3DスキャナやUAV等により取得した護岸形状の3Dデータをもとに、(株)Polyuse製の建設用3Dプリンターで作製しました。これにより、護岸形状にフィットする底型枠を作業者の技量によらず簡易かつ効率的に作製できることを確認しました。また、作製した底型枠は、吊鋼材を天端に取り付けた状態でクレーン付き台船にて水上から据え付けることにより、潜水士の水中での作業を大幅に削減できることを確認しました。

今後は、本技術の適用現場を増やしながら構造のスリム化や据付方法の合理化といった施工の効率化を図るとともに、3Dプリンター作製物の適用範囲拡大を図ってまいります。

 

4.Resilience(レジリエンス)

(1)低騒音・低振動・低粉塵型目荒らし「ブラストキー工法」がNETISに登録

コンクリートの接合面に用いるチッピングに代わる目荒らし工法として飛島建設(株)と共同開発した「ブラストキー工法」は、国土交通省の公共工事などにおける新技術情報提供システム「NETIS」に、①工程短縮、②品質・安全性の向上、③施工性・周辺環境への影響の向上に期待できる技術「低騒音・低振動・低粉塵型目荒らし『ブラストキー工法』」として登録されました。

本工法は、目荒らし工事におけるコンクリートガラの排出量を抑制でき、コンクリートガラ収集運搬時のCO2削減が期待できます。また、騒音・振動・粉塵の発生を抑制できる周辺環境に配慮した目荒らし工法として増改築や改修工事に適用できることから、特に学校、病院、集合住宅等のストック建築の活用促進に繋がることを期待しています。

 

(その他)

研究開発活動は特段行っておりません。