当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 会社の経営の基本方針
当社は、社是「科学技術で社会に貢献する」、経営理念「『人と地球の健康』への願いを実現する」のもと、永年の事業で培った技術、ノウハウを活かし、複雑化・多様化する社会の課題や要請に応える製品・サービスの提供、それを基にした社会課題解決の仕組み作りを行い、ステークホルダーからの信頼の獲得と、企業価値の向上に努めています。
また、社是・経営理念に基づく事業活動を通してサステナブルな社会を実現するために、「島津グループサステナビリティ憲章」を制定しました。グループ全体で、「地球環境とグローバル社会の持続可能性」、「島津グループの事業活動の持続と成長」、「従業員の健康とエンゲージメントの向上」を目指して、サステナビリティ経営を実践していきます。
これからも、地球・社会・人との調和を図りながら、“事業を通じた社会課題の解決”と“社会の一員としての責任ある活動”の両輪で企業活動を行い、明るい未来を創造します。
(2) 中長期的な会社の経営戦略と優先的に対処すべき課題
1) “顧客中心”志向(領域制)への体制変革と経営基盤の強化
①ガバナンスの強化を重要な経営課題として位置づけ、グループマネジメントルールの運用徹底とコーポレート機能の拡充に取り組みます。
②営業組織を顧客軸で再編した営業本部を通じて、4つの社会価値創生領域(ヘルスケア、グリーン、マテリアル、インダストリー)のお客様にワンストップサービスを提供します。
③北米R&Dセンターを拠点に、最先端ニーズの獲得と製品対応力の強化を図ります。またサプライチェーンの強靭化に向け、グローバル製造の最適化と物流の効率化ならびに生産能力拡大、リードタイムの削減とコストダウンを進めます。
④4つの社会価値創生領域における成長投資に加え、開発、製造、DX関連の基盤強化に積極投資します。またROICによる資本効率の向上を図ります。
⑤キャリアパスの見える化と高度専門人財の育成を目指し、新たな人事制度運用を開始し、経営幹部育成プログラムによる次世代経営人財の育成を進めます。
2) 4つの社会価値創生領域における取り組み
①ヘルスケア領域
ライフサイエンス分野では製薬、食品市場を中心に液体クロマトグラフと質量分析システムを重点機種と位置付け、アナリティカルトランスフォーメーション(AX:Analytical transformation)の概念で、前処理からデータ解析までの分析作業全てをAIにより自動化し、トータルソリューションとして提供することで、お客様の業務の効率化・省力化を支援します。
また、メドテック分野では、健康長寿の実現に向けて成分分析と画像解析技術の融合によるソリューション提供を進めているほか、パートナーとの共創により、感染症やアルツハイマー型認知症に関連した研究や開発も進めています。
②グリーン領域
水素をはじめとする新エネルギー開発や温室効果ガス(GHG)測定分野でガスクロマトグラフ等の展開を進めると共に、フランスの石油大手TotalEnergies社等と共同開発した新製品を、バイオ燃料の品質管理用途に展開を図ります。また、日本のグリーンイノベーション基金を活用したバイオものづくり事業でのソリューション開発に取り組みます。環境分野では、世界的に関心が高まる有機フッ素化合物(PFAS)分析への対応を進めます。
③マテリアル領域
電気自動車や空飛ぶ車をはじめとする新しいニーズに基づく新材料開発やサーキュラーエコノミーを実現するリサイクル・リユース材料の開発を支える計測機器と機器の自動化開発を促進し、また、インフォマティクスを用いた複合計測・解析の強化に取り組みます。
④インダストリー領域
生成AIなど活況が続く半導体市場において、半導体製造に欠かせないターボ分子ポンプのトップシェアを維持するとともに、製造プロセスの効率向上に向けて、新たな価値提供を目指しています。
3)パートナーとの共創
日本を含む世界各地で、パートナーとの共創を通じて、社会課題解決に繋がる研究開発や人財育成に取り組んでいます。
海外では、北米の7つの大学と研究パートナーシッププログラムSPARQ(Shimadzu Partnership for Academics, Research and Quality of Life)による大学内オープンイノベーション支援、米国国立がん研究所におけるがんの光免疫療法(NIR-PIT)の研究支援、ワシントン大学における健康寿命延伸に関する研究開発、シンガポールチャンギ総合病院における血液検査プロジェクトなどを進めています。
また、日本国内では、北海道江別市におけるアルツハイマー型認知症に関する共同コホート研究、慈恵大学における骨の健康の研究、「早稲田大学島津連携ラボ」における医薬品や機能性食品等の研究、「Shimadzu Nagasaki Collaboration Lab」における長崎大学との感染症などの研究、「東北大学 超硫黄生命科学共創研究所」におけるアンチエイジング医薬品・食品の研究などの共創プログラムを進めています。
更に大阪大学を始め、産学協同で博士号を持つ高度専門人財の育成プログラムも進めています。
4)リカーリングビジネスの拡大
サービスと試薬等の消耗品強化の両輪でリカーリングビジネスの拡大に取り組んでいます。サービスの強化では、北米の分析事業でマルチベンダーサービス*を始めるほか、北米医用事業のサービス体制の強化を進めています。また、グループ会社のBiomaneo社(フランス)を通じた臨床規制対応ソフトウェアの拡充に取り組むほか、島津ダイアグノスティクス株式会社などグループ全体で消耗品ビジネスの拡大を進めます。
*:メーカーを選択することなく、お客様が使用中のすべての装置の修理・メンテナンスを提供するサービス形態のこと
5)新事業の創出と開発力強化
先端分析、革新バイオ、脳五感、AIを注力領域と定めて研究開発を進める他、コーポレートベンチャーキャピタルファンド「Shimadzu Future Innovation Fund」の活動を通じて、スタートアップと連携した革新的技術の獲得や新規事業の創出にも取り組みます。
また、開発力の強化を狙い、アジャイル開発の適用拡大とグローバル開発拠点を活用したコンカレント(同時並行型)開発の導入を進めます。
引き続き、AIやDXの活用のため、デジタル人財の育成を推進します。
6)環境経営と健康経営
環境経営では、脱炭素社会の構築、サーキュラーエコノミーへの移行に向けて、当社事業と環境・社会への貢献の両面から、CO2排出量の削減、サステナブル素材の製品への採用、森づくり活動・植樹活動などに取り組んでいます。
健康経営では、生活習慣病のリスク軽減やフェムテックの実用化に加えて、乳房専用PET装置や軽度認知症(MCI)検査などの自社技術を利用して、社員と家族の健康増進に取り組みます。また、健康経営アライアンスの一員として、社会への還元にも取り組みます。
事業別の対処すべき課題として中長期で目指すこと、および中期経営計画の中で実施する主な取り組みテーマは、以下の通りです。
・計測機器事業
社会価値創生領域であるヘルスケア領域、グリーン(GX)領域およびマテリアル領域を中心に、世界のパートナーとの関係を強化し、サステナブルな社会を共創することを目指します。
ヘルスケア領域では、北米を最注力地域として、2024年4月に開所したR&Dセンターを活用し、臨床や製薬のお客様課題を解決する製品やサービスを投入し、事業の拡大を目指します。
グリーン(GX)領域では、顧客との協働による次世代バイオ燃料分析装置の開発や、PFASなど新たな環境分析の手法普及に取り組むほか、脱炭素社会の実現に向け、バイオものづくり、水素エネルギーの社会実装など、新たな産業創出にも貢献します。
マテリアル領域では、計測機器の自動化とインフォマティクスを用いた複合計測と解析により、セラミックス複合材料やセルロースナノファイバーなどの革新素材の開発や製造へ貢献します。
・医用機器事業
メドテック分野での中心事業として、画像診断にAIやIoT技術を組み合わせた「イメージングトランスフォーメーション(IMX)」による新たな製品やサービスを展開し、収益力強化に取り組みます。
新製品発売後好評をいただいている血管撮影システムをグローバルに拡販していくほか、海外でも認知症診断市場への参入を進めます。また、リカーリングビジネスのサービスと製品を強化し、収益基盤の拡大を目指します。
・産業機器事業
インダストリー領域において、半導体、電気自動車および気候変動対策に関わる産業機械市場で「世界で評価されるソリューションプロバイダー」となることを目指します。
ターボ分子ポンプはトップシェアを誇る半導体分野で拡販するとともに、太陽光パネル製造装置やガラスコーティング用途などで拡大を進めます。また、気候変動対策に資する電気自動車等で使用が進むセラミック製品製造向けに工業炉の拡販を図ります。油圧機器分野では主力製品の収益力向上に取り組むほか、グローバル市場の開拓を進めます。
・航空機器事業
安全なモビリティ社会の実現に貢献するとともに、中長期に成長と収益を確保できる事業体制の確立を目指しており、引き続き「選択と集中」、「収益性改革」の基本方針の下、事業を継続してまいります。
(3) 経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループは、3ヵ年の中期経営計画において、連結売上高5,500億円以上、営業利益800億円以上、営業利益率14.5%以上、株主利益重視の観点から自己資本利益率12.5%以上を、最終年度である2026年3月期の目標数値としています。
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(サステナビリティ全般)
当社は、社是「科学技術で社会に貢献する」、経営理念「『人と地球の健康』への願いを実現する」のもと、「島津グループサステナビリティ憲章」を制定し、サステナビリティ経営を推進しています。
“事業を通じた社会課題の解決”と“社会の一員としての責任ある活動”の両輪で、グループ一体となった企業活動を行い、「地球環境とグローバル社会の持続可能性」、「島津グループの事業活動の持続と成長」、「従業員の健康とエンゲージメントの向上」を目指して、サステナビリティ経営を実践していきます。
<ガバナンス>
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組織体 |
役割 |
開催 頻度 |
責任者 |
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取締役会 |
取締役会は、島津グループサステナビリティ会議など、サステナビリティ経営に関する重要な業務執行に関する意思決定・監督を担っている。 |
1回/月 |
会長 |
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執行役員会 |
執行役員会は、サステナビリティ経営に関する審議・報告を通じ、的確・迅速な業務執行を担っている。 |
3回/月 |
社長 |
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島津グループ サステナビリティ会議 [専門部会] ・リスク・倫理会議 ・環境会議 |
・島津グループサステナビリティ会議は、サステナビリティ経営に関する最高審議機関である。重要課題、実施方針、計画ならびにKPIについて審議し、進捗状況をモニタリングしている。 ・主要テーマとKPIは、中期経営計画、事業方針、社会動向などから導き出し、島津グループサステナビリティ会議の審議を経て決定している。 ・特に重要なコンプライアンス・リスクマネジメント、ならびに環境経営については、専門部会を設置し、より専門的な課題やテーマに関する審議・報告を行っている。 |
2回/年 |
社長 |
当社グループにおけるサステナビリティ経営を推進するための組織として、島津グループサステナビリティ会議を設置しています。会議の構成メンバーは、会長、社長、役付執行役員、常勤監査役、事業部長、全社部門長、国内外の関係会社の代表者などで、事務局は経営戦略室が担っています。
また、事業活動を通じた社会課題の解決、リスクマネジメント活動、環境経営については、サステナビリティ経営の中で特に重要な位置づけであるとの考えのもと、専門部会を設けています。
会議の結果は取締役会にも報告され、取締役・監査役からサステナビリティ経営の推進やさらなる展開に向けた提言を得ています。
<戦略>
当社グループは、社是に「科学技術で社会に貢献する」、経営理念に「『人と地球の健康』への願いを実現する」を掲げ、1875年の創業以来、永年に渡って培ってきた科学技術やノウハウを活用し、お客様・株主・取引先・従業員・地域社会などのステークホルダーからの信頼の獲得と、事業および社会の持続可能な発展・成長の実現に努めています。また、社是、経営理念に基づく事業活動を通してサステナブルな社会を実現するため、「島津グループサステナビリティ憲章」を制定し、機会とリスクの観点から、以下の3つのテーマに対し、7つのマテリアリティを定めています。
・事業貢献テーマ
①「人の命と健康への貢献」、②「地球の健康への貢献」、③「産業の発展、安心・安全な社会の実現への貢献」
・技術関連基盤テーマ
④「科学技術の進歩と高度化」、⑤「開発・製造能力の向上」
・経営基盤テーマ
⑥「ガバナンスの強化」、⑦「人財の育成」
これら7つをマテリアリティとする「島津グループサステナビリティ憲章」によるサステナビリティ経営を実践するため、当社の目指す姿として「プラネタリーヘルス(人と地球の健康)の追求」をビジョンに掲げ、ヘルスケア、グリーン、マテリアル、インダストリーの4つの社会価値創生領域に向けた当社グループによる価値提供を戦略として2年目を迎えた中期経営計画を引き続き推進していきます。さらには、既存事業部や製品を軸とした事業活動に留まらず、営業組織を顧客軸で再編した営業本部を通じた4つの社会価値創生領域のお客様にワンストップサービスを提供、お客様が必要とするデータを届けるようなトータルソリューションを提供する企業への変革、技術開発力と社会実装力の強化に引き続き取り組み、社会課題の解決を通じた事業拡大を図ります。その結果として、組織としてのさらなる持続性を高め続けていきます。
<リスク管理>
当社グループは、リスクマネジメント(事業に関わるリスク対策)と、コンプライアンス・内部統制(職務執行上のリスク対応)を有機的・一体的に機能させながら、経営戦略を実行し事業目的などを達成することで企業価値の最大化を図っていきます。
この統合リスク管理の仕組みは以下の4つの取り組みから構成されています。
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(1) リスクマネジメント |
事業に関わるリスクを適正に管理するための活動として、リスク発生の未然防止に取り組むこと、また危機事象が発生した場合に早期解決へその損失影響を最小化する措置および真因究明・再発防止の水平展開を行うことを「島津グループリスクマネジメント基本規定」として定め、実践しています。 |
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(2) コンプライアンス |
当社グループは、グローバルに様々な事業を展開しているため、安全保障貿易管理、贈収賄防止、競争法など、世界各国・地域の法令や行政による許認可、規制の適用を受けており、その遵守に努めています。これらの法令遵守のみならず、国際規範に則り行動するとともに、社是・経営理念・島津グループサステナビリティ憲章のもと、当社グループの役員および従業員が共有・遵守すべき倫理規範を「島津グループ企業倫理規定」として定め、「コンプライアンスはすべてに優先する」を実践しています。 |
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(3) 内部統制 |
当社グループの役員および従業員の職務執行が法令および定款に適合すること、およびその業務が適正かつ効率的に行われることを確保するための内部統制体制を整備しています。違反行為などが発生した場合は、当社グループでその内容と処分などを速やかに共有し、類似行為の発生を抑止しています。加えて、個人情報の保護や秘密情報の厳正な管理のもと、広報・IR活動やWEBサイトにより、適宜適切な対外情報発信・開示を行っています。 |
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(4) モニタリング |
リスクマネジメント・内部統制・コンプライアンスの全てが有効に機能していることを、事業部門・管理部門・監査部門の3ラインの各段階で、組織的かつ継続的に検討・評価します。2023年度より、業務監査方針を策定し、グローバル地域(欧州、米州、中国、アジア)毎に監査を実施します。監査頻度を増やして、当社グループ各社の事業部門(第1ライン)と管理部門(第2ライン)へ日常的に適切なモニタリングを促します。 |
<指標及び目標>
当社グループは、「島津グループサステナビリティ憲章」における主要テーマと担当部門を下位規定の中で定めると共に、具体的なKPIを設定して、サステナビリティ経営を実践しています。中期経営計画(2023年度~2025年度)において、特に重要な指標及び目標として、以下を掲げており、他のKPIと共に島津グループサステナビリティ会議のもとで進捗をモニタリングしながら、サステナビリティ経営を着実に実行していきます。
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地球の健康への貢献 |
<気候変動対策> ・事業活動と製品使用に伴うCO2排出量の削減 自社排出量:2025年度 1.0万t-CO2、2050年 実質ゼロ 削減貢献量(*1):2025年度 1.2万t-CO2(自社排出量を上回る量) <持続可能な資源利用> ・製品へのサステナブル素材(*2)の採用 2023~2025年度 累計10件以上 ・国内製造開発拠点の資源循環 2023~2025年度 リサイクル率99.6%以上維持 |
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ガバナンスの強化 |
<CSR調達の推進> ・CSRセルフアセスメントを実施しているサプライヤの拡大 2025年度 100%(協力会社発注額に占める割合) <グループガバナンスの強化> ・グローバルでの網羅的な内部監査(業務監査)の実施 2025年度 100%(グループ会社内部監査のカバー率) |
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人財の育成 |
<女性のさらなる活躍の推進> ・女性管理職比率(連結) 2025年度 12%、2030年度 15% |
*1 当社エコプロダクツPlus制度認定製品を使用したことによる顧客のCO2排出の削減量
*2 バイオ由来またはリサイクル由来の樹脂素材
このうち、気候変動対応への取り組みおよび人的資本については、以下に詳細を記載しています。
(気候変動対応への取り組み)
当社グループは、「島津グループサステナビリティ憲章」のもと、「地球の健康への貢献」に向けて、事業活動を通じた気候変動対応に取り組んでいます。
当社グループは、環境問題を最重要経営課題の一つとして位置付けており、中でも、気候変動問題に対して、バリューチェーンを含めた事業活動におけるCO2排出量の抑制や、環境いわゆるグリーン領域におけるイノベーション創出に貢献する製品およびソリューションの提供に取り組んでいます。また、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」による提言に賛同し、関連情報の開示に努めています。
<ガバナンス>
当社グループは、気候関連のリスク・機会および経営課題解決に向けた施策について、環境問題に関する専門部会である「環境会議」(議長:代表取締役社長、年2回開催)で討議しています。
討議内容は執行役員会に報告されるとともに取締役会に報告・付議がなされており、取締役会による監視・監督体制が適切に確保されています。さらに、取締役会では当社グループの環境経営に関わる重要な事項について審議決定が行われます。
<戦略>
1. 気候変動リスク・機会の特定
当社グループの事業・戦略・財務に影響を及ぼす気候関連リスク・機会の特定にあたり、①脱炭素化が進展する1.5℃の世界観、②成り行きで温暖化が進行する4℃の世界観を整理し、それぞれの世界において、当社事業への影響度が大きいと想定される気候変動起因のドライバーを抽出・整理しました。
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当社の「社会価値創生領域」に関する気候変動起因のドライバー |
その他の気候変動 起因のドライバー |
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ヘルスケア |
グリーン(GX) |
マテリアル |
インダストリー |
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1.5℃の世界 |
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・脱化石燃料化、CO2フリー燃料の普及 ・再生可能エネルギー比率の上昇 ・EVシフト ・CO2回収・利用の実用化 ・バイオマス資源活用の拡大 |
・素材の軽量化・高強度化 ・蓄電池・蓄電システム需要の拡大 |
・モーダルシフト、物流の脱炭素化 ・カーボンニュートラルに向けた社会の電化とデジタルインフラの強靭化 |
・カーボンプライシングの導入・強化 ・エネルギー集約度が高い産業の製品高騰 ・環境配慮製品の浸透・需要増大 ・技術開発競争の激化 |
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4℃の世界 |
・気温上昇に伴う感染症の増加 |
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・社会インフラの強靭化 |
・風水災の頻発化・激甚化 |
これを起点とし、IEA(国際エネルギー機関)の気候変動シナリオ等を参考に、様々な産業分野でカーボンニュートラルに関する研究や技術開発等の進展が予想される中、当社事業に関連する主なリスクや機会を整理し、シナリオ分析を行いました。
2. 気候変動シナリオに基づく事業・戦略・財務への影響について
脱炭素シナリオ(1.5℃)、現行シナリオ(4℃)に照らした分析の結果、当社の事業・戦略・財務への影響について、以下のように評価・整理しました。
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1.5℃の世界 |
化石燃料を使用するエネルギー、発電、輸送機などの産業においては、脱炭素社会への移行に伴い当社製品の需要減少が懸念されます。一方で、様々な産業において、クリーンエネルギー、バッテリー、新素材等に関する研究開発や生産設備・インフラへの投資が進み、研究開発関連の分析計測機器など、当社製品の需要拡大が期待されます。 |
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4℃の世界 |
物理的リスクの影響が大きくなるため、社会インフラの強靭化が喫緊の課題となり、その補強・更新に向けた各種試験機器の開発・供給ニーズの高まりが予想されます。また、気温上昇に伴う媒介性感染症の発症地域の拡大など、医用分野の市場環境にも変化が予想されます。他方、物理的リスクに起因するサプライチェーンの途絶により、当社の事業活動が停止に追い込まれるなどの悪影響を受ける事態も想定されます。 |
・気候変動シナリオに基づく当社の事業・戦略・財務への影響について
当社は、積極的な省エネ推進や再エネ活用により、事業活動におけるCO2排出量の削減に努めるとともに、使用電力の再生可能エネルギー100%を目指す国際的な環境イニシアティブ「RE100」にも加盟しています。また、医薬・医療・環境・エネルギー・半導体・素材など様々な産業に製品・サービスを提供しており、お客様の産業の裾野が幅広いという特徴を有しています。このため、特定の産業の規模縮小といったリスクの発現が当社の財務に甚大な影響を及ぼす可能性は小さいと考えます。
また、気候変動による機会については、「1.5℃の世界」「4℃の世界」のいずれにおいても様々な産業・分野で想定されますが、「1.5℃の世界」の実現に向けた取り組みが社会全体のリスク低減につながると認識しており、当社も1.5℃目標を実現させるべく事業活動を通じて取り組んでいます。具体的には、当社はすべての製品を省エネなど環境に配慮した設計にするとともに、特に環境性能に優れた製品である「エコプロダクツPlus」の売上比率を引き上げ、かつ気候変動への緩和・適応に貢献する製品の開発投資・供給を継続します。
総じて、当社の事業・戦略・財務は、次項の移行計画に沿った対応や取り組みの推進を通じて、気候変動の機会を適切に捉え持続的成長を実現していくことにより、気候変動に対しレジリエント(強靭)な状態を維持することが可能であると考えます。
3. 脱炭素社会に向けた移行計画
・気候変動の緩和(1.5℃目標の達成)
当社グループは、パリ協定に整合した1.5℃目標の達成に向けて、事業活動からのCO2排出量を2050年に実質ゼロとする目標を設定し、CO2排出量の削減に積極的に取り組んでいます。また、サプライチェーンでのCO2排出量の削減に向けて、「お客様先での当社製品使用時のCO2排出量」に関する削減目標を設定しています。
・機会の獲得と最大化
気候変動の緩和・適応に資する製品を戦略的に開発・供給し、お客様の事業における脱炭素の取り組みに貢献していくことで、持続的な成長につなげていきます。また、当社製品需要の変化に応えるべく、開発基盤や供給体制の強化を進めていきます。
<リスク管理>
当社グループの事業・戦略・財務に影響を与えうる気候変動リスクは、環境経営統括室が主体となって各事業のリスクの洗い出しを行い、気候変動シナリオを参考に、重要度が高いリスクを特定しています。特定・評価した結果は、「環境会議」において討議・確認しています。
<指標及び目標>
当社グループは、2050年までに事業活動で排出するCO2を実質ゼロ(カーボンニュートラル)とすることを目指します。
・2050年目標
事業活動で排出するCO2を実質ゼロとする。
使用電力の再生可能エネルギー比率を100%とする。
・2040年目標
事業活動で排出するCO2を2017年度比で90%以上削減する。
・2030年目標
事業活動で排出するCO2を2017年度比で85%以上削減する。(*)
当社グループが販売した製品使用時のCO2排出量を2020年度比で30%以上削減する。
* 島津グループの2030年度CO2排出量の削減目標は、科学的根拠に基づいた削減を促す国際イニシアティブ「SBT(Science Based Targets)」から、パリ協定における「産業革命前と比較して気温上昇を1.5℃未満に抑える水準と整合した目標」として認定されています。
(人的資本)
<戦略>
1. 島津人財戦略
人は会社にとって最大の財産であり、島津グループの競争力の源泉は人財の力にあります。
社員が社是である「科学技術で社会に貢献する」を実践し、技術開発力と社会実装力の両輪で世界のパートナーと共に社会課題の解決に取り組むことで、持続的な企業価値の向上を目指します。人財戦略では、Leadership&Diversityのスローガンのもと、多様なパートナーと社会課題解決に向けてイノベーションをリードする人財の創出・獲得を目指します。
・当社が求めるマインドやスキルを全社員に教育し、社員が自律的に取り組み、挑戦し、常に学び成長する企業文化を醸成します。
・事業戦略・経営基盤の強化に必要な人財を定義し、成長に向けた学びや経験を支援する環境を準備して育成します。
・多様な人財を獲得し、『個』の力が発揮できる人事制度、働く環境づくりとDE&Iを推進します。
2. 人財育成方針
当社が求める人財を、高潔な倫理観を持ち、多様な視点や専門性を活かし、果敢に挑戦し、やり遂げ、自ら成長する人財と定義し、その育成に取り組みます。育成の方法として、事業戦略の実現、経営基盤強化のため、経営幹部候補育成や高度専門人財育成、ビジネスリーダー育成を、『島津アカデミー』を通じて推進していきます。
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企業文化の醸成 |
当社では、社員が事業や文化・歴史を学ぶ機会を設けて、企業文化の醸成に取り組んでいます。今後はすべての社員が島津人に必要とされるマインドを持ち、Diversityを理解し、様々な場面でLeadershipを発揮できる人財となれるよう島津Leadership&Diversity研修を展開します。また、これらに加えて、必要なスキルである戦略思考や分析力などを身に付けるための取り組みを実施します。 |
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事業戦略・経営基盤強化のための人財育成 |
・経営幹部候補育成 事業戦略、経営基盤の強化を推進する上で、経営幹部の育成は当社の重要テーマです。当社では1997年より「経営塾」を始めとし、島津グループの成長を牽引する経営幹部候補の育成に取り組んできました。2023年度より新たに経営幹部候補育成プログラムを開始し、社外派遣による知識の習得に加え、グループ会社の経営など実践的タフアサインメントの付与との両輪による、経営幹部候補の育成を推進し、経営人財プールの拡充を図っています。さらに、部長および課長候補者を対象とした選抜研修を展開して、事業や組織の中核を担う後継者人財のパイプラインを強化しています。 ・高度専門人財育成 当社の成長のためには、日々の技術力向上と高い専門性が不可欠であり、世界の優れた専門家と協業し新たな技術や事業機会を生み出す専門人財や、高品質の新製品を生み出すための開発・設計力をもつ専門人財、高難度の管理業務を遂行する専門人財、DX人財の育成が必要です。そのため当社では、大学と連携したREACHプロジェクトに加え、2024年度から社会人博士育成支援制度(SPARK)を開始し、社員の博士号取得を支援しています。また、資格取得奨励制度や教育研修により専門人財の育成に取り組んでいますが、今後は、高度な国家資格や社内資格をオープンバッジで認定することで、社員が専門性を獲得することを促進していきます。さらに、グローバルに活動を広げて、世界各国での専門人財の育成に取り組んでいきます。 ・ビジネスリーダー育成 当社では、高度な技術を社会実装していくため、ビジネス課題を解決しメンバーを統率して事業を牽引していく「ビジネスリーダー」育成の重要性が増しています。本社・海外グループ会社のマネージャー層を対象に状況対応型リーダーシップ研修を実施しています。社内講師育成にも取り組んでおり、今後は国内グループ会社へ展開していきます。また、このほか、海外現場研修、省庁への派遣、グローバルマネージャートレーニングなど、若手社員も含め幅広く「ビジネスリーダー」の育成に取り組んでいます。 |
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3. 社内環境整備方針
当社は、多様な人財が、健康で働きがいを感じ、夢と成長の実現に向けた新たな挑戦ができる職場を「Well-Beingな職場」と定義し、目標とする職場づくりのため、多様性を活かす組織風土、挑戦マインドを育む人事制度、健康で安全な職場、コンプライアンス徹底の実現に向けた施策を推進します。
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多様性を活かす組織風土づくり(DE&Iの推進) |
・多様な人財の獲得と活躍 当社は、国籍・性別・経験に関わらず多様で優秀な人財の獲得と活躍の実現を目指しています。新卒採用のみならずキャリア採用を強化しているほか、博士課程対象のジョブ型研究インターンシップや技術系インターンシップなど、優れた人財の確保のため様々な採用手法を導入しています。また、女性社員の積極採用やキャリアデザイン研修を通じて、女性管理職比率の向上に取り組んでいます。当社が事業を行う多くの国・地域から本社への受入制度を整備し、海外人財の受け入れを拡大しています。
* 2023年度の採用活動実績 ・柔軟な勤務制度 当社は、生産性の向上や育児・介護など社員一人ひとりの事情に応じた働き方を実現するため、フレックスタイムやテレワークといった柔軟な勤務制度を導入しています。今後はグループにおける多様な人財獲得・定着の観点から、グループ会社にも柔軟な勤務制度を展開していきます。 |
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挑戦マインドを育む人事制度づくり |
・人事制度改革/評価制度改革 当社は、社内公募制や全社業績表彰などの各種表彰制度を通じて、社員が自律的に挑戦していくことを奨励しています。また、2024年度よりマネジメント系列とプロフェッショナル系列からなる複線型人事制度を導入し、今後、社員一人ひとりが自律的に専門性を高め、それぞれの強みを活かし、様々な挑戦を通してキャリアアップしていくことで、社員の挑戦マインドと働きがいの向上を目指します。 |
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健康で安全、コンプライアンスを徹底する職場づくり |
・健康経営 当社は、健康増進イベントや自社技術に基づく乳房専用PET検査や軽度認知障害(MCI)スクリーニング検査の社員への還元をはじめとした健康経営施策に取り組んでおり、2024年まで健康経営優良法人(ホワイト500)に8年連続で認定されています。今後は健康増進アプリを活用したイベントなど、海外拠点とも連携したグローバルな健康増進活動に取り組み、社員のWell-Being向上に取り組んでいきます。 ・安全衛生 当社は、法定の安全教育だけにとどまらず、各職場でのチーム学習における動画教材を使う形の安全教育や危険体感研修などを通じた安全意識の涵養と、職場巡視活動を通じた安全リスクの低減に取り組んでいます。今後はこの活動をグループ会社に広く展開して休業災害ゼロの実現に向けて取り組んでいきます。 ・コンプライアンス 当社では、社員の行動指針である「島津グループ企業倫理規定」の内容を詳解する「島津グループ企業倫理行動規範ハンドブック」を作成し、企業倫理意識の浸透を図っています。また、本社・グループ会社において、毎年e-learningまたは学習冊子による企業倫理教育を実施しているほか、集合研修等によるコンプライアンス研修、ハラスメント防止研修を実施しています。 |
<指標及び目標>
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(1) 人財育成方針に関する指標及び目標 |
*1 当社在籍者の数値 *2 当社および国内グループ会社在籍者の数値 *3 博士号のほか難易度の高い国家資格等保有者(技術士、弁理士、機械設計技術者1級、第1種・第2種電気主任技術者、IT系資格レベル4相当、弁護士、公認会計士、税理士、MBA等)、社内資格保有者 *4 DX研修修了者数は、2023年度に受講対象を変更して受講促進に取り組んだ結果、研修修了者が従来目標値(3,000人)を超えて増加したため、新たに目標値を設定しています。 |
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(2) 社内環境整備方針に関する指標及び目標 |
*1 当社の状況です。 *2 当社および国内グループ会社の状況です。 *3 従業員エンゲージメント肯定的回答率は、2023年度に従業員エンゲージメント調査の社内システムを新たに導入し、調査項目や評価方法の変更を行っています。そのため、2022年度までの調査結果(実績)とは異なるため、新たに目標値を設定しています。 *4 健康増進イベント年間参加者数は、当初設定したイベント数を2023年度に増やして、従業員の健康増進に取り組んだ結果、参加者数が従来目標値(5,000人以上)を超えて増加したため、新たに目標値を設定しています。 *5 その他は当社およびグループ会社の状況です。 |
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当社グループでは、リスクマネジメントの最高責任者である社長の下、審議機関として半期ごとに「リスク・倫理会議」を開催し、当社が優先して対策を講じるべきリスクやコンプライアンスに関わるリスクに対する取組について報告し必要事項を決定しています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。
(1) 国内外の市場の動向
当社グループは、当社(日本)と世界各地の子会社が密接に連携し、各地域の市場規模や産業構造に応じて販売戦略を策定・実行しています。しかしながら、日本を含む世界各国の政策や景気動向、設備投資動向などにおいて、戦略策定時には予期できなかった変化が当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、戦争やテロ行為、疫病の蔓延等がもたらすサプライチェーンの混乱や資源価格の高騰は世界各国の経済活動を停滞させ、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(2) 海外での事業活動
当社グループは、事業戦略の一環として海外市場における事業の拡大を図っており、これを通じて、売上高の増加、コストの削減および収益性の向上を目指しています。海外での事業活動を支える経営基盤を強化し、適正かつ効率的な運営を実現するため、「島津グループマネジメント基本規定」を制定して必要な統制、管理を行っています。さらに各地域の主要な子会社に域内のガバナンスを統括する機能を持たせ、各地域におけるリスクの把握と適切な対応に努めています。最近の国際情勢変化に対しては、社内外のリソースを活用して情勢をモニタリングし、グループ内で情報を共有・周知し、変化に対応しています。しかしながら、海外での事業活動には、予期できない法律や規制および政策の変更、産業基盤の脆弱性、国家間の貿易制限措置および報復措置、テロ、戦争その他の要因による社会的または政治的混乱といったリスクがあるため、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(3) 製品品質
当社グループは、ISO規格の認証を受けた品質システムを構築し、「品質保証基本方針」を定め、開発・製造・販売・サービスなど製品ライフサイクルの各段階での絶え間ない改善を通して、優れた品質で顧客にとって最大の価値を生み出す製品・サービスを提供するように努めています。また、顧客の満足を得る上で、基本的かつ重要である製品安全性のさらなる向上を目指した「製品安全基本方針」により、グループ一丸となって顧客の安全と信頼を最優先に行動することを宣言しています。しかしながら、想定が難しい多様な環境下での製品使用による品質トラブルや製品安全への懸念などが発生する場合には、当社グループの信頼性やブランド力の低下にも繋がり、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(4) 新製品開発力
当社グループの事業は、専門性が高く、高度な技術力を必要とします。そのため、新製品・新技術の研究開発には多額の投資を行っていますが、商品化遅れや、市場ニーズを満たす新製品を開発できない場合には、競合力の低下や市場トレンドに沿ったビジネスの取り込みが進まないことにより、将来の事業成長と収益性が低下し、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(5) 購買調達
当社グループは、品質および環境面で当社グループの要求を満たす原材料やサービスを安定的に入手するため、信頼のおける調達先を選定しています。また、重要な原材料等について一定の在庫を確保するとともに、代替調達先の選定、特定調達先に依存しないよう自社における生産能力獲得等を実施しています。しかしながら、自然災害や疫 病、事故、調達先の倒産に加え、地政学リスクなどにより、原材料等が不足または供給量が制限され当社グループの生産活動に影響を及ぼす場合があります。また、長期にわたる原材料等の供給悪化や、急激に調達価格が高騰する場合には、機会損失の発生や製品の価格競争力の低下、利益率の悪化等により、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(6) 人材確保
当社グループの事業成長に必要な人材は、研究開発に従事する人材をはじめ、製造業各社にとっても必要な人材候補と重なります。そのため採用活動においては企業間の獲得競争になることがあります。特に当社の研究開発部門の多くが所在する日本では、今後、労働人口の減少を背景に、社内需要を充足出来なくなるリスクがあります。また、当社における人材定着率は比較的安定していますが、日本の労働市場における人材流動化が一層進展した場合、社員の離職が増加するリスクがあります。これに対応するため、当社ではインターンシップやカムバック採用などの多様な採用活動を通じて、グローバル人材、博士等の専門人材、即戦力人材の採用に力を入れています。また、人材流出を防ぐための魅力的な処遇への改善や柔軟な勤務制度の整備、社員の強みを活かす複線型人事制度の導入、自律的なキャリア形成を支援する社内公募制の実施、65歳定年制による豊富な経験やスキルを持った人材の確保を通じて、事業への影響を低減させるべく取り組んでいます。しかしながら、有能な人材の確保が出来ない場合や、人材流出を防止出来ない場合には、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(7) 法令・規制
当社グループは、グローバルに様々な事業を展開しているため、安全保障貿易管理、贈収賄防止、独占禁止法令など、国内外の各種法令、行政による許認可および規制の適用を受けており、その遵守に努めています。また、当社グループでは、法令の遵守のみならず、社是・経営理念・島津グループサステナビリティ憲章のもと、役員および従業員が共有・遵守すべき倫理規範を「島津グループ企業倫理規定」として定めています。集合研修やEラーニングなどの教育活動により、当該規定の内容を啓発・浸透させることでコンプライアンス上の問題発生の予防に取り組むとともに、上記法令等への対応状況を適時にモニタリングすること、相談・通報窓口を社内外に設置し、問題発生時の報告体制を整備することなどにより、当社グループにおけるコンプライアンスの実効性を担保しています。しかしながら、法令・規制に対する理解が不十分、または予期せぬ変更への対応が適切でない場合等には、コンプライアンス違反と判定され、過料、課徴金等による損失や営業停止等の行政処分、または信用の低下などにより、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(8) 知的財産権
当社グループは、現在の事業活動および将来の事業展開に有用な知的財産権を取得できるよう、研究所、事業部、知的財産部が一体となり知的財産創出活動を行っています。一方、他社知的財産権の調査・検討体制を整備し、問題発生を未然に防止するよう努めています。また、技術者を対象とした知的財産研修会を定期的に開催することにより、技術者の知的財産に対するスキルの底上げを図っています。しかしながら、権利範囲の解釈によっては他社との間に知的財産紛争が生じる場合があり、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(9) 環境規制・気候変動への対応
当社グループは、気候変動、水質汚濁、大気汚染、騒音、土壌汚染、廃棄物、使用する有害化学物質などにおいて、国内外の様々な環境法令および規制等の適用を受けており、その遵守に努めています。さらに、ISO14001の国際規格に基づいた環境マネジメントシステムを構築し、第三者認証を受けています。「TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示タスクフォース)」提言に賛同し、気候変動対策を含めた環境情報の適切な開示を行うとともに、環境課題の解決に向けてリスクや機会を踏まえながら適切に取り組んでいます。しかし、将来、環境規制への適応が極めて困難な事象や不測の事態が発生する場合には、環境対応に関する費用の増加や事業活動の停止など、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(10) 情報セキュリティ
当社グループは、事業活動における重要情報や顧客から入手した個人情報などの機密情報を保有しています。当社グループでは、IT資産の盗難・紛失などを通じた情報漏洩や、サイバー攻撃による改ざん・流出・システム停止等の被害を防ぐために情報セキュリティ推進体制を構築し、「情報セキュリティポリシー:セキュリティ基本方針」を定め、外部からの不正侵入防止、データの暗号化、社外向けWEBサイトの情報漏洩・改ざん防止などのセキュリティ対策を実施しています。また、ネットワークやIT資産に対するセキュリティ対策はもとより、従業員への定期的な情報セキュリティ教育も実施しています。しかしながら、想定を超えるサイバー攻撃や、予期せぬ不正利用などにより、重要情報や個人情報の漏洩や事業活動停止などの被害が発生する場合には、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(11) 自然災害等
当社グループは、大規模地震を始めとする災害や新型インフルエンザ等の感染症の発生等を想定し、必要とされる安全対策の実施、早期復旧のための事業継続計画(BCP)の策定、安否確認システムの導入、防災訓練等の対策を講じています。また、新型コロナウイルス感染症への対応を通じて、感染症の感染拡大防止のための様々な知見を獲得しました。しかしながら、当社グループの事業活動はグローバルに展開されていることから、新たな感染症の流行、自然災害等が発生する場合のリスクを全て回避・管理することは困難であり、想定外の規模の被害が発生する場合には、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(12) 為替変動の影響
当社グループは、グローバルに事業を展開しているため、外国通貨建て取引にかかる事業活動は為替変動によるリスクに晒されています。為替変動リスクは、現地生産体制や、為替予約等により、最小限に抑える努力をしていますが、影響を完全に排除することは困難です。また、連結財務諸表の作成においては、各地域の現地通貨建ての項目を円換算しているため、換算時の為替レートにより、換算後の価値が変動します。通常、他の通貨に対する円高は当社グループの事業に悪影響となり、過度な為替相場の変動は、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(13) 国際税務
当社グループは、グローバルに事業を展開しており、グループ内でも相互に取引を行っていることから、移転価格税制等の国際税務リスクが伴います。各国の税法に準拠した適正な納税を行っており、国際税務リスクについて細心の注意を払っていますが、各国の税制の変化や税務当局との見解の相違等により、予期せぬ税負担が発生し、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
(1) 経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の概要はつぎのとおりです。
① 経営成績の状況
当連結会計年度の経営成績は、売上高5,118億9千5百万円(前年度比6.1%増)、営業利益727億5千3百万円(同6.6%増)、経常利益768億9千5百万円(同8.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益570億3千7百万円(同9.6%増)となりました。
セグメントごとの経営成績はつぎのとおりです。
・計測機器事業
売上高3,382億5千7百万円(前年度比7.5%増)、営業利益574億8千8百万円(同0.2%減)となりました。
・医用機器事業
売上高723億3百万円(前年度比4.7%減)、営業利益47億7千9百万円(同13.7%減)となりました。
・産業機器事業
売上高653億8千1百万円(前年度比3.8%増)、営業利益71億7千6百万円(同32.3%増)となりました。
・航空機器事業
売上高294億6千5百万円(前年度比22.8%増)、営業利益37億1千4百万円(同167.3%増)となりました。
・その他の事業
売上高64億8千7百万円(前年度比37.3%増)、営業利益10億4千5百万円(同74.8%増)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末の現金及び現金同等物は、前連結会計年度末に比べ54億9千9百万円増加し、1,592億3千4百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況はつぎのとおりです。
・営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動によるキャッシュ・フローは、301億2千7百万円の収入となり、前連結会計年度に比べ181億7千5百万円減少しました。その主なものは、仕入債務の増減による減少149億7千2百万円、契約負債の増減による減少121億9千3百万円、棚卸資産の増減による増加90億8百万円です。
・投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ185億1千万円支出が減少し、159億9千8百万円の支出となりました。その主なものは、設備投資による支出155億2百万円です。
・財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に比べ16億7千9百万円支出が増加し、210億9千8百万円の支出となりました。その主なものは、配当金の支払額164億9千2百万円、リース債務の返済による支出47億9千8百万円です。
③ 生産、受注及び販売の実績
イ. 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、つぎのとおりです。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
|
計測機器 |
351,077 |
8.1 |
|
医用機器 |
74,462 |
△4.4 |
|
産業機器 |
68,085 |
4.3 |
|
航空機器 |
30,013 |
29.6 |
|
その他 |
6,558 |
39.6 |
|
合計 |
530,197 |
6.9 |
(注) 金額は、販売価格によっています。
ロ. 受注実績
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、つぎのとおりです。
|
セグメントの名称 |
受注高(百万円) |
前期比(%) |
受注残高(百万円) |
前期比(%) |
|
計測機器 |
334,930 |
△2.8 |
111,580 |
△2.9 |
|
医用機器 |
74,382 |
△2.2 |
24,891 |
9.1 |
|
産業機器 |
63,660 |
△6.2 |
16,454 |
△9.5 |
|
航空機器 |
46,867 |
15.3 |
66,410 |
35.5 |
|
その他 |
6,216 |
9.0 |
2,580 |
△9.5 |
|
合計 |
526,057 |
△1.7 |
221,916 |
6.8 |
ハ. 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、つぎのとおりです。
|
セグメントの名称 |
金額(百万円) |
前期比(%) |
|
計測機器 |
338,257 |
7.5 |
|
医用機器 |
72,303 |
△4.7 |
|
産業機器 |
65,381 |
3.8 |
|
航空機器 |
29,465 |
22.8 |
|
その他 |
6,487 |
37.3 |
|
合計 |
511,895 |
6.1 |
(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容はつぎのとおりです。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
イ. 財政状態
当連結会計年度末は、前連結会計年度末に比べ棚卸資産が136億7千7百万円、受取手形、売掛金及び契約資産が135億6千5百万円、投資その他の資産が130億4千3百万円、現金及び預金が64億3千8百万円増加したことなどにより、総資産は550億9千2百万円増加し、6,739億6千2百万円となりました。純資産は、利益剰余金が403億3千3百万円増加したことなどにより、688億3千6百万円増加し、4,923億3千5百万円となりました。
ロ. 経営成績
当連結会計年度における世界経済は緩やかに回復しつつも、ロシアによるウクライナ侵攻の長期化や中東情勢の緊迫化などの地政学リスクの継続、中国経済の停滞やインフレによるコスト増加等、依然として不透明な状況が続きました。
このような状況下で、当社グループも中国事業の成長鈍化や原材料価格の高止まり等の影響を受けましたが、中期経営計画で定めたヘルスケア、グリーン、マテリアル、インダストリーの4注力領域において、計測機器、医用機器、産業機器、航空機器の4事業を展開し、世界のパートナーと共に社会課題の解決に取り組みました。特に、新たな科学技術・イノベーション創出の取り組みを強化するために、グローバルで大学や民間の研究機関との共同研究を進め、社会課題の解決につながる新製品・サービスを上市しました。また、グループガバナンスの強化、人財育成やDX推進等、中期経営計画で定めた経営基盤の強化も進めてきました。
その結果、事業の成果として、ヘルスケア領域では、医薬品分野を中心に計測機器の液体クロマトグラフや質量分析システムが増加したことに加え、医用機器の血管撮影システムが増加しました。グリーン領域では、新エネルギー開発や環境規制対応の目的で計測機器のガスクロマトグラフや質量分析システムが増え、マテリアル領域では新材料開発に向けた計測機器の試験機が増えました。また、インダストリー領域では、産業機器のターボ分子ポンプ、工業炉や、航空機器の防衛・民間航空機向け搭載部品が増加しました。
以上の結果、当連結会計年度の業績につきましては、欧州、インド・東南アジア等その他のアジアが好調に推移したことに、為替の円安進行による押し上げ効果も加わり、売上高は5,118億9千5百万円(前年度比6.1%増)となりました。営業利益は人的投資、研究開発投資、設備投資等の成長投資を積極的に進める一方で、価格改定等採算性の向上に努めた結果、727億5千3百万円(同6.6%増)となりました。経常利益は768億9千5百万円(同8.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は570億3千7百万円(同9.6%増)となり、過去最高の業績を達成することができました。
セグメントの経営成績は、つぎのとおりです。
・計測機器事業
計測機器事業は、ヘルスケア、グリーンとマテリアルを注力領域と定めグローバルに事業展開を進めた結果、国内・海外ともに増収となりました。ヘルスケア領域で、欧米を中心に活発な創薬研究や世界各地で進む医薬品の自国生産に加えて、メドテック事業*1に位置付ける臨床検査市場が拡大しており、液体クロマトグラフや質量分析システムが増加しました。また、グリーン領域では、水素をはじめとする新エネルギー開発を中心に気候変動対策関連でガスクロマトグラフが増加し、環境分野での規制強化を受けて質量分析システムが増加しました。加えて、マテリアル領域で、軽量化、高強度化やリサイクルに向けた新素材開発ニーズを基に試験機が増加しました。
この結果、当事業の売上高は3,382億5千7百万円(前年度比7.5%増)と過去最高となりました。営業利益は成長投資を進めたことによる経費増等により、574億8千8百万円(同0.2%減)となりました。
なお、売上高についての各主要地域別の状況は下記のとおりです。
|
|
前連結 会計年度 (百万円) |
当連結 会計年度 (百万円) |
増減率 (%) |
概況 |
|
日本 |
121,137 |
127,179 |
5.0 |
医薬向け液体クロマトグラフ、アカデミア向け質量分析システム、新エネルギー開発向けガスクロマトグラフ、新素材開発向け試験機等が増加。また、第2四半期まで2022年9月に連結子会社化した島津ダイアグノスティクス株式会社の新規連結効果も入っている。 |
|
北米 |
33,292 |
34,123 |
2.5 |
大気モニタリング向けにガスクロマトグラフが増加。PFAS*2等の環境分析向けで質量分析システムや、アカデミア向けで高速度ビデオカメラが増加。加えて、大手製薬企業と共同開発した超臨界流体クロマトグラフが増加。一方、特定顧客向けの液体クロマトグラフは減少。 |
|
欧州 |
32,686 |
38,864 |
18.9 |
医薬・受託分析向けで液体クロマトグラフや質量分析システム、新エネルギー開発向けでガスクロマトグラフが増加。加えて、臨床検査市場向けで質量分析システムが増加。 |
|
中国 |
74,103 |
74,746 |
0.9 |
新エネルギー開発やアカデミア向けにガスクロマトグラフ、臨床検査向けに質量分析システム、アカデミア向けに幅広い機種が増加。前年ロックダウンの反動増もあったが、医薬・受託分析向けの液体クロマトグラフが減少し、全体としてほぼ横ばい。 |
|
その他のアジア |
39,134 |
45,620 |
16.6 |
インドや東南アジアで受託分析と医薬向けに液体クロマトグラフと質量分析システムが増加。また、東南アジアで官公庁向け質量分析システムも増加。 |
*1 メドテック事業:ヘルスケア領域の中で、臨床検査と医用機器を合わせた事業分野
*2 PFAS:有機フッ素化合物(per-and polyfluoroalkyl substances)
・医用機器事業
医用機器事業は、メドテック分野での中心事業として、新製品とリカーリング商材の開発促進、製造効率の改善や海外展開強化に取り組みましたが、国内が設備投資の減少により大幅減収となり、海外が増収であったものの全体として減収となりました。
国内は、世界初のAIによる画像処理技術を搭載した新製品の血管撮影システムが増加し今後を期待する状況ですが、補正予算の減少や大口案件の反動減が影響しました。一方、海外では血管撮影システムが、低被ばくと高画質が評価されて増加しました。
この結果、当事業の売上高は723億3百万円(前年度比4.7%減)となり、営業利益は売上の減少等により47億7千9百万円(同13.7%減)となりました。
なお、売上高についての各主要地域別の状況は下記のとおりです。
|
|
前連結 会計年度 (百万円) |
当連結 会計年度 (百万円) |
増減率 (%) |
概況 |
|
日本 |
40,600 |
34,373 |
△15.3 |
新製品の血管撮影システムが増加したものの、補正予算の減少、大口案件の反動減が影響。 |
|
北米 |
10,714 |
10,619 |
△0.9 |
効率的なワンマンオペレーションを可能とする新製品の血管撮影システムが、注力している日帰り手術施設を中心に増加。一方、X線TVシステムや一般撮影システムが減少し、微減。 |
|
欧州 |
4,258 |
4,785 |
12.4 |
東欧において実機見学や医師へのアプローチ強化により血管撮影システムが増加。 |
|
中国 |
4,946 |
5,685 |
14.9 |
専任チーム設置による活動強化で血管撮影システムが増加、中国市場向けに現地生産しているX線TVシステムの新製品が増加。 |
|
その他のアジア |
7,048 |
7,279 |
3.3 |
前年の回診装置大口案件の反動減があるものの、東南アジアやインドで血管撮影システムが大幅に増加。 |
・産業機器事業
産業機器事業は、国内は減収ながら海外が増収となり、全体で増収となりました。
国内では、EV用セラミック製造向け工業炉や建設機械向け油圧機器が増加したものの、半導体製造装置向けターボ分子ポンプが減少しました。海外では環境意識の高まりから太陽電池や省エネ性能の高い建材ガラスの製造に使用する薄膜製造装置向けターボ分子ポンプが増加しました。また、製品別ではターボ分子ポンプや油圧機器の売上高が過去最高となりました。
この結果、当事業の売上高は653億8千1百万円(前年度比3.8%増)、営業利益は売上高の増加により71億7千6百万円(同32.3%増)となり、過去最高を更新しました。
なお、売上高についての各主要地域別の状況は下記のとおりです。
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|
前連結 会計年度 (百万円) |
当連結 会計年度 (百万円) |
増減率 (%) |
概況 |
|
日本 |
26,818 |
26,398 |
△1.6 |
EV用セラミック製造向け工業炉や建設機械向け油圧機器が増加したものの、半導体製造装置向けターボ分子ポンプが減少。 |
|
北米 |
8,267 |
8,548 |
3.4 |
半導体製造装置向けターボ分子ポンプは減少したものの、産業車両向け油圧機器が増加。 |
|
欧州 |
4,173 |
4,679 |
12.1 |
半導体製造装置向けや建材ガラスの製造に使用する薄膜製造装置向けターボ分子ポンプが増加。 |
|
中国 |
17,662 |
19,343 |
9.5 |
再生可能エネルギー需要拡大に伴い、太陽電池や建材ガラスの製造に使用する薄膜製造装置向けターボ分子ポンプが 増加。加えて、EV用セラミック製造向け工業炉が増加。 |
|
その他のアジア |
5,833 |
6,100 |
4.6 |
セラミック向けで工業炉が増加。 |
・航空機器事業
航空機器事業は、防衛・民間航空機市場ともに市況環境が好転し、国内・海外ともに増収となりました。
国内は、航空機用搭載品の需要拡大により防衛分野が増加しました。海外では、航空旅客需要の増加に伴い、機体の増産が進んだことや、航空会社向け補用部品の需要拡大により民間航空機分野が増加しました。
この結果、当事業の売上高は294億6千5百万円(前年度比22.8%増)、営業利益は売上の増加や収益改善により、37億1千4百万円(同167.3%増)となり、大幅に増収増益を達成しました。
なお、売上高についての各主要地域別の状況は下記のとおりです。
|
|
前連結 会計年度 (百万円) |
当連結 会計年度 (百万円) |
増減率 (%) |
概況 |
|
日本 |
17,847 |
21,159 |
18.6 |
防衛分野で航空機用搭載品が増加。 |
|
北米 |
5,346 |
7,312 |
36.8 |
航空機メーカーの増産や、航空会社向け補用部品の需要拡大により、増加。 |
・その他の事業
当事業の売上高は64億8千7百万円(前年度比37.3%増)となり、営業利益は10億4千5百万円(同74.8%増)となりました。
(注) セグメントの売上高には、セグメント間の内部売上高を含んでいません。
当社グループは、当連結会計年度を初年度とする2023-2025中期経営計画において、最終年度の目標数値として、売上高5,500億円以上、営業利益800億円以上、営業利益率14.5%以上、自己資本利益率12.5%以上を設定し、取り組んできました。初年度である当連結会計年度の結果は、売上高5,118億9千5百万円、営業利益727億5千3百万円、営業利益率14.2%、自己資本利益率12.5%となり、目標に対して順調に進捗しました。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
当社グループは、手元資金を次なる成長につなげることを示すキャピタルアロケーション(資本配分)を策定しています。「攻めの財務」をスローガンに掲げ、財務健全性を確保しながら、持続的な成長に必要な戦略的投資を実施します。
イ. キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況につきましては、「(1) 経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。
ロ. 資金需要
当社グループの資金需要のうち営業活動については、当社グループ製品製造のための材料や部品の購入のほか、製造費、販売費および一般管理費等の営業費用によるものです。営業費用の主なものは人件費および研究開発費です。
投資活動については、M&Aやコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)等の戦略投資、生産能力の拡大・効率化、研究開発環境の整備、DX関連の基盤強化を目的とした設備投資・研究開発投資が主な内容です。今後、社会価値創生領域での事業成長に資する、戦略投資・設備投資・研究開発投資等を継続していく予定です。
ハ. 財務政策
当社グループの当連結会計年度末の借入金等の残高は、前連結会計年度末に比べ8千6百万円増加し、16億1千8百万円となりました。
当社グループは、営業活動によりキャッシュを生み出す能力を持っていることなどから、当社グループの成長を維持するために将来必要となる運転資金および設備投資資金を創出・調達することが十分に可能であると考えています。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表の作成に当たって採用している重要な会計基準は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載されているとおりです。
連結財務諸表の作成において、損益または資産の状況に影響を与える見積り、判断は、過去の実績やその時点で入手可能な情報に基づいた合理的と考えられるさまざまな要因を考慮したうえで行っています。特に重要な見積りを伴う会計方針は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 重要な会計上の見積り」に記載しています。
(1) 技術導入契約
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提携先 |
国名 |
対象製品/技術 |
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Boeing Intellectual Property Licensing Company |
アメリカ |
F-15 ジェット戦闘機用ヘッド・アップ・ディスプレイの製造、補修技術 |
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Honeywell International Inc. |
アメリカ |
F-15 航空機近代化改修用装備品の製造および改修の技術 |
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F-15 ジェット戦闘機用空気調和装置、第二次動力装置の製造、サービス、修理およびオーバーホールの技術 |
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SH-60シリーズ、UH-60シリーズ ヘリコプター用空気式始動装置、防氷バルブ等の製造、サービス、オーバーホール及び修理の技術 |
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P-3C 対潜哨戒機、EP-3 航空機及びUP-3 航空機用空気調和装置、エンジン始動装置等の製造、サービス、オーバーホール、修理の技術 |
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Rockwell Collins Inc. |
アメリカ |
航空機のコックピットに搭載するプロジェクション方式マルチ・ファンクション・ディスプレイ装置に関する技術 |
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Vision Systems International, LLC |
アメリカ |
固定翼航空機装備品の製造および修理の技術 |
(注) 上記は、すべて当社との契約であり、連結子会社において該当する契約はありません。
(2) その他の経営上の重要な契約
当社は、2024年3月28日開催の取締役会において、当社の連結子会社であるShimadzu Scientific Instruments, Inc.がZef Scientific, Inc.の全株式を取得し、子会社化することについて決議しました。また、2024年3月29日付で株式譲渡契約を締結し、2024年4月1日に当該株式を取得しました。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 重要な後発事象」に記載のとおりです。
当社グループの研究開発活動は、主として当社が行っており、先端的および基盤的な技術の研究開発と、製品化技術の研究開発を、総合的・有機的に連携させ運営しています。すなわち、コア要素技術である先端分析、革新バイオ、脳五感、AIと、製品基盤技術である機器制御設計、システム統合の領域で研究開発に取り組むことで、基盤事業としての計測機器事業、医用機器事業、産業機器事業、航空機器事業に対する新製品開発を推進しています。
また、子会社においては、独自に研究開発を行うほか、欧州、北米および中国の研究開発子会社において次世代の当社製品の核となる基盤要素技術の研究開発を行うなど積極的な研究開発に取り組んでいます。
なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は、
当連結会計年度における主要な研究開発成果にはつぎのものがあります。
<計測機器事業>
計測機器事業では、クロマト分析システム、質量分析システム、光分析システム、熱分析システム、ライフサイエンス関連分析システム、X線分析システム、表面分析・観察システムなどの開発に注力しています。
クロマト分析システム用ソフトウエアとして、AI(人工知能)を用いて開発したアルゴリズムを搭載するソフトウェアを開発しました。本ソフトウェアは、味の素株式会社のLC分析データを学習させたアルゴリズムを搭載しており、熟練者と同等(一致率約90%)の解析を自動実行することで解析時間を従来と比べて約75%削減します。
質量分析システムとして、世界で初めて脂質や天然化合物の詳細な構造解析を実現する四重極飛行時間型質量分析計「OAD-TOFシステム」を開発しました。独自のイオン解離技術「OAD」(Oxygen Attachment Dissociation、酸素付着解離)が、従来は困難だった炭素間二重結合の位置推定を可能とします。
光分析システムとして、マイクロプラスチック自動前処理装置「MAP-100」を開発しました。本製品は海や河川、湖沼など環境水中のマイクロプラスチックの抽出・回収工程を自動化した世界初の専用前処理装置で、従来、煩雑で手作業が中心だった前処理工程を装置に置き換えることで、「業務の効率化」「前処理結果の品質向上」「安定した再現性」「安全性」の確保につながります。
X線分析システムとして、マイクロフォーカスX線検査装置でVCT(直交CT)撮影を可能にする「VCTオプション」を開発しました。従来の透視・PCT撮影に加えVCT撮影が可能となり、基板部品や電機・電子部品などの品質管理や故障解析を幅広くサポートします。
<医用機器事業>
医用機器事業では、X線TVシステム、X線撮影システム、血管撮影システム、PETシステム、放射線治療装置用動体追跡システム、近赤外光イメージングシステム、医療情報システムなどの開発に注力しています。
X線撮影システムとして、操作盤(コンソール)などのユーザビリティ向上と被検者の動きを検知する光学カメラの搭載により、検査業務を効率化して診療放射線技師および被検者の負担を軽減可能なX線一般撮影システムを開発しました。
また、連続撮影機能を新たに搭載した回診用X線撮影装置を開発しました。連続撮影機能は、高速で連続的に撮影した静止画を動画として提供するものです。患者の肺の動きなどを本体搭載の大型モニタで確認可能で、より多くの情報で診断を支援します。
血管撮影システムとして、高い画像処理技術により低被ばくかつ高画質を実現した当社血管撮影システムのフラッグシップモデルに、複合的な動きを安全にワンタッチで操作できる「ダイレクトメモリー」機能を搭載した装置を開発しました。操作性の向上による治療時間の短縮、またバイプレーン撮影による造影剤投与量の低減を実現します。
<産業機器事業>
産業機器事業では、ターボ分子ポンプなどの産業機器、油圧ギヤポンプなどの油圧機器などの開発に注力しています。
電動油圧システムとして、新開発のe-Hydro専用モータと制御機器に静音油圧ポンプを組み合わせたトータルシステムで、EV(電動車両)化が進む特装車両など商用車に静音かつ効率的な作業環境を提供可能なシステムを開発しました。省スペースと最小限の電力消費でエンジン車と同等以上の作業機の操作性と作業効率をEVにて実現します。さらに、静音油圧ポンプの採用により、作業時の駆動音が際立つ夜間や街中でも、騒音を低減可能としました。
今後も、当社の先端的および基盤的な技術と、製品化技術を用いた研究開発を活かして、社会課題の解決に役立てるよう取り組みます。