第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 今後の日本経済につきましては、各種政策の効果もあり、景気の持ち直しが期待できるものの、物価上昇等の影響

に引き続き留意する必要があります。

 このような経営環境の中で、当社は、個人向け・法人向けに幅広く商品・サービスを提供できる強みを活かして継続的かつ安定的に収益を確保できる体制を整備・推進してまいります。そして、当社の商品・サービスを通じてお客様や社会の発展に資することで、株主の皆様やお客様、市場、さらには社員が求める企業価値を総合的に高めていくことを経営方針としております。

 当社グループが属するIT業界は、事業環境が短期的に大きく変動する傾向にあり、通期の業績予想を合理的に算出することは難しいと考えておりますが、「継続的な増収増益」を目指し、経営指標の中でも、特に「1人当たりの営業利益額」の継続的な拡大を重視しております。既存商品については機能強化を継続することで顧客満足度を高め、他方では新商品・サービスの企画、開発により顧客層を拡大することで、継続的な事業拡大と企業価値の向上を目指します。

 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題として、上記のような経営環境下では、組織の活性化と人材戦略の強

化拡充を進め、常に変化し、成長し続ける企業体質の構築が必要であると考えております。また、スピードを意識して新商品・サービスの企画、開発の推進、将来に向けた積極的な成長投資等を実行してまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

[ガバナンス/リスク管理]

  当社グループのサステナビリティに関するリスクマネジメント体制は、統括責任者を代表取締役社長としたリスク管理機関を設置し、リスク及び機会の分析、評価、対策の策定を継続的に行うことで、組織横断的な管理体制を構築しております。リスク管理機関が、四半期ごとに状況を取締役会へ報告し、経営上のリスク及び機会の確認・管理をしております。また、監査等委員会及び内部監査担当が、独立して経営上のリスク管理に関して確認を行うことにより総合的な管理体制を整備しております。このような体制と取組みにより、サステナビリティの妨げとなりうるリスクを低減・排除し、機会を確認することで、サステナビリティ推進に対するガバナンスの確保及び、継続的な事業成長を図っております。

  当社グループでは、社会変動に伴う少子高齢化による労働人口の減少をリスクとして認識し、それに伴う教育、医療、企業活動におけるDXのさらなる拡大を機会ととらえております。

 

[戦略/指標及び目標]

 ①気候変動

  当社グループの属するIT業界の特性上、気候変動との関連性を合理的に算出することは困難であり、気候変動がただちに当社事業へ重大な影響を与えるとは評価しておりません。このため、具体的な戦略及び指標と目標を定めておりませんが、当社商品による企業のDXを推進し、紙資源の使用量や消費電力の削減により、お客様の環境負荷低減に貢献しております。DX推進の重要な指標は法人向け事業の売上高とし、継続的な成長を目標としております。

 

 ②人的資本

  「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載した課題解決において重要と考える組織の活性化と人材戦略の強化拡充の取組みとして、以下のような各方針を定め、それに関する指標と目標を設定しております。

  当社グループは、多様な人材を積極的に採用し、社員一人ひとりが、課題の本質をとらえて次の「あたりまえ」を創造し続けられるよう育成することを、基本方針としております。

  また、社員一人ひとりが高い当事者意識を持ち、常に変化し、成長し続けられる環境を構築するため、以下のような取組みや各種人事制度の導入を行っております。

  ・最適な人員配置

  ・各種研修や資格補助制度

  ・目標管理制度や報酬制度

  ・育児休業制度や勤務時間指定制度、在宅勤務制度

   等

  なお、上記方針に関する指標として、社員一人ひとりの当事者意識については、エンゲージメントサーベイ(帰属意識、業務満足度等)の計測結果、変化・成長については、1人当たりの営業利益額を設定しております。2023年度は、エンゲージメントサーベイの結果、肯定的回答率が78.2%(目標:70%以上)、1人当たりの営業利益額が、5,624万円(目標:継続的な成長)となっております。

 

3【事業等のリスク】

  有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、次のとおりであります。

  なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)事業環境におけるリスク

  ソフトウエアビジネスの特徴として、人件費等の固定費水準が高く、限界利益率が高いことが挙げられます。そのため、売上高が増加した場合の増益額が他の産業に比べ大きい一方、売上高が減少した場合の減益額も他の産業に比べて大きく、利益の変動額が大きい傾向にあります。このような環境の中、急速な技術革新により、現在保有する技術・ノウハウ等が陳腐化した場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

  当社グループは、単一の商品に依存せず、個人向け・法人向けに、それぞれ新商品・サービスの企画、開発を行い、新規顧客の獲得に注力する方針であります。しかし、新しい分野に投入した商品・サービスが十分な収益を獲得するまでにはある程度の期間がかかります。場合によっては、市場の見誤りや競合商品・サービスとの競争激化、社内体制の不備等により、販売が低迷する可能性があります。かかる事態が生じた場合、それまで開発に要した投資を回収できず、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2)知的財産に関するリスク

  当社グループは、知的財産を企業の重要な経営資源と位置付けております。このため、第三者の知的財産権に対する侵害予防及び保有している知的財産権の保護に努めております。しかし、第三者よりその知的財産権を当社が侵害したとして訴訟を受け、商品・サービスの提供中止あるいは損害賠償等が必要になる場合、又は、当社グループの知的財産権への第三者による侵害について、当社グループからの主張が認められず、競争優位性が確保できなくなる場合が考えられます。さらに、他者からライセンス等を受けている知的財産権については、ライセンス元の倒産等不測の事態も想定されます。いずれの場合も、結果として当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3)情報システムに関するリスク

  当社グループは、個人向け・法人向けに展開する事業の中で多数のお客様の個人情報やその他機密情報を保持しております。このため、情報システムを活用した適切なセキュリティ対策や安定稼働措置を講じておりますが、災害、ソフトウエアや機器の欠陥、コンピュータウイルスの感染、不正アクセス等、不測の事態により、情報システムの停止、情報の消失、漏洩、改ざん等が生じるリスクがあります。このような事態が発生した場合には事業運営に支障をきたし、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(4)自然災害等によるリスク

 地震、台風等の自然災害、また、重症感染症蔓延等により、当社グループにおいて人的被害・物的被害、又は、情報システムの停止やコンピュータネットワーク上の障害が生じることによって、事業運営に支障をきたし、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
 なお、当社グループでは、このような事態を想定したBCP(事業継続計画)の一環として、従業員のリモートワーク実施、それを可能とする各種システムの活用促進に努めております。

 また、自然災害等の主な要因と考えられる世界的な気候変動を課題ととらえ、対策としてCO2削減活動等のうち高い実効性と最適な費用対効果を備えた取組みを検討してまいります。

 

(5)コンプライアンスに関するリスク

 当社グループは、コンプライアンス関連規程及び当社グループ行動規範を定め、内部統制システムの管理体制を整備し、当社グループにおけるコンプライアンス意識の浸透と向上を図っております。しかしながら、法令等に抵触する事態が発生した場合、当社グループの社会的信用低下や訴訟対応、損害賠償責任等のリスクが生じ、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6)人材確保に関するリスク

 当社グループは、急速な技術革新に対応可能な技術者の採用や、市場競争を勝ち抜くためのあらゆる強みを持った人材の育成等、継続して優秀な人材の確保が必要な状況にあります。しかしながら、従業員の採用や育成において、このような人材確保が計画通りに進まない場合、事業運営に支障をきたし、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7)保有資産の減損リスク

 地価の大きな下落等が生じた場合に、固定資産の減損に係る会計基準の適用により、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8)大株主との関係性

 株式会社キーエンスは、当社の発行済株式総数の43.96%を保有しており、当社は、同社の持分法適用会社であり、同社は当社の「その他の関係会社」であります。
 同社は、今後も大株主であり続けるものと思われますが、相互の独立性は、引き続き十分確保しておく方針です。今後、同社の経営方針に変更があり、当社議決権の保有比率に大きな変更があった場合、当社の事業運営に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は、次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度における日本経済は、物価上昇等の影響に引き続き留意が必要なものの、各種政策の効果もあり、緩やかな回復基調となりました。

 このような状況下において、当社グループは、高機能で付加価値の高い商品・サービスを提供することにこだわり、既存ビジネスによる安定した収益を基盤としつつ、個人向け・法人向けともに売上高の拡大に向けた提案力の強化や、新たな収益の柱となる新商品・サービスの企画、開発に取り組んでまいりました。

 

 以上の結果、当連結会計年度における売上高は409億85百万円(前期比2.3%減)、営業利益は170億41百万円(前期比10.5%減)、経常利益は173億84百万円(前期比9.5%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は116億36百万円(前期比13.2%減)となりました。

 

 財政状態は、次のとおりであります。

(資産)

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ96億41百万円増加し、1,090億99百万円となりました。これは現金及び預金が117億16百万円増加、有価証券が20億円減少したことが主な要因です。

(負債)

 当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ6億84百万円減少し、150億96百万円となりました。これは未払法人税等が6億67百万円減少したことが主な要因です。

(純資産)

 当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末に比べ103億26百万円増加し、940億3百万円となりました。これは利益剰余金が102億79百万円増加したことが主な要因です。

 

②キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、740億66百万円となり、前連結会計年度末に比べ35億96百万円増加しました。各キャッシュ・フローの状況とその要因は、次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における営業活動による資金の増加額は、130億50百万円となりました。税金等調整前当期純利益173億99百万円、減価償却費22億32百万円、法人税等の支払額62億21百万円が主な要因です。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における投資活動による資金の減少額は、85億61百万円となりました。短期的な資金運用を目的とした定期預金の預入による支出80億29百万円、有価証券の償還による収入20億円、新商品・サービスのソフトウエア開発に伴う無形固定資産の取得による支出25億3百万円が主な要因です。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度における財務活動による資金の減少額は、12億83百万円となりました。配当金の支払額12億83百万円が主な要因です。
 

③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績及び受注実績

 当社グループは、サブスクリプション方式で商品・サービスを提供している事業によるストックビジネスの割合が増加しており、生産を伴う事業の重要性が乏しくなったため、生産実績及び受注実績の記載を省略しております。

 

b.販売実績

 当社グループは、ソフトウエア事業の単一セグメントであるため、当連結会計年度における各実績は市場別区分により記載しております。

事業の市場別の名称

当連結会計年度

    (自  2023年4月1日

     至  2024年3月31日)

前期比(%)

金額(百万円)

個人向け事業

29,121

96.0

法人向け事業

11,864

102.2

合計

40,985

97.7

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当連結会計年度は、売上高が409億85百万円(前期比2.3%減)、営業利益は170億41百万円(前期比10.5%減)となりました。これは主に、当連結会計年度及びそれ以前に提供を開始した新商品・サービスの一部費用が先行したことによるものです。

 当社は、ソフトウエア関連事業の単一セグメントでありますが、当連結会計年度の概況を、個人向け・法人向けに分類して説明します。

 

(個人向け事業)

 日本語ワープロソフト「一太郎」等のパッケージソフトウエアや、「ATOK Passport」「スマイルゼミ」等のクラウドサービスを提供し、ECサイト「Just MyShop」も運営しております。

 タブレットで学ぶ通信教育「スマイルゼミ」では、新たに「幼児コース」の年少講座、「高校生コース」の高校3年生講座を開講しました。また、「小学生コース」のコーチングや「中学生コース」の考え方コーチなど、AIを活用し、お子さま一人ひとりに最適な学びを提供する機能強化を行いました。6月には、米国向けHome Learning Service「Smile Zemi」の提供を開始しました。

 日本語入力システム「ATOK Passport」は、自身の入力傾向に合わせ、入力ミスの自動修復を行う「ATOKパーソナライズドコレクト」を新たに搭載しました。また、「一太郎」は、「今を極める」をテーマに、創造的な文書作成がスムーズに行える機能を強化した「一太郎2024」を発売しました。

 

(法人向け事業)

 各市場向けに最適化したソリューションを提供しております。

 民間企業向けには、ノーコード クラウドデータベース「JUST.DB」、営業支援クラウドサービス「JUST.SFA」、オールインワンBIソリューション「Actionista!」、ノンプログラミングWebデータベース「UnitBase」等を提供しております。

 「JUST.DB」は、全社活用を促進する「JUST.DB ベーシックパッケージ」の発売や、企業間取引のシステムを完全ノーコード開発で実現する機能強化を行いました。

 定性調査のオンラインインタビューサービス「Sprint」はビデオインタビュー機能を搭載し、定量調査のセルフ型ネットリサーチ「Fastask」とともに好評を得ました。

 教育市場向けには、GIGAスクール構想における一人一台のタブレットPC活用に適した小中学校向け学習クラウド「スマイルネクスト」を提供しております。

 

 この結果、個人向け事業の売上高は291億21百万円(前期比4.0%減)、法人向け事業は118億64百万円(前期比2.2%増)となりました。

 また、サブスクリプション方式で商品・サービスを提供している事業によるストックビジネスの売上高は306億91百万円(前期比0.5%減)、全社売上高に占める割合は74.9%となりました。

 

 財政状態に関する認識及び分析・検討内容につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載しております。

 

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載しております。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当連結会計年度における当社グループのキャッシュ・フローの状況の分析につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載しております。

 

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性につきましては、次のとおりであります。

 当社グループは、市場の急激な変化に対応できる資金の流動性を維持するために内部留保の充実を図り、事業運営上必要な資金を安定的に確保することを基本方針としております。

 内部留保については、財務の健全性を確保し、既存事業の収益基盤の強化・拡充や新規事業の開発投資の財源として有効に活用してまいります。また、事業拡大に向けたM&Aの可能性も追求してまいります。

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は740億66百万円で、有利子負債はありません。

 また、流動性を確保するため、取引金融機関と10億円の当座貸越契約を締結しておりますが、その全額が借入未実行残高であります。

 これらにより現時点で当社グループの事業活動を円滑に維持して行く上で十分な流動性を確保しており、将来の資金需要に対しても不足が生じる懸念は少ないと判断しております。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表の作成にあたりましては、引当金の計上等、一部に将来の合理的な見積りが求められているものもあります。これらの見積りは当社グループにおける過去の実績・現状・将来計画を考慮し、合理的と考えられる事項に基づき判断しておりますが、実際の結果は、これらの見積りと異なる場合があります。

なお、重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項」に記載しております。

 

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、お客様のニーズに応える商品やサービスを提供することを目的に、自然言語処理技術、知識処理技術、検索・要素技術、デジタルコンテンツ技術を中核としつつ、幅広い研究開発活動を継続的に行っております。これらの研究開発活動による成果を商品・サービスに反映することで、個人の生活をより豊かにし、組織の生産性や競争力を高めるといった価値提供を可能にしております。
 加えて、研究開発活動を進めると同時に、そのプロセスの効率化、工程管理の厳格化にも努めております。

 これらの研究開発活動に取り組んだ結果、当連結会計年度の研究開発費は657百万円となりました。