第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 

(1)住友の事業精神

 当社グループは430余年にわたり「ものづくり」の会社として必要とされる製品を安定的にお客様に供給することを社会的責務とし、時代の変化に臨機応変に対応しながら事業を継続してきました。こうした思想、理念は「住友の事業精神」として創業から長きにわたり受け継いできました。当社グループは、この先人達が築き上げてきた「住友の事業精神」の持つ価値観、倫理観の重要性を今一度十分に認識し、当社グループの事業と事業に対する社会からの信頼を確固たるものにするべく、これからも努力を重ねてまいります。

 

第1条

わが住友の営業は信用を重んじ、確実を旨とし、もってその鞏固(きょうこ)隆盛を期すべし

第2条

わが住友の営業は時勢の変遷理財の得失を計り、弛張(しちょう)興廃することあるべしといえども、いやしくも浮利に趨(はし)り軽進すべからず

(1928年 住友合資会社社則「営業の要旨」より抜粋)

 

(2)経営理念と経営ビジョン

 当社グループは、住友の事業精神に基づき、当社が社会的な使命と責任を果たしていく指針として、次のとおりグループ経営理念とグループ経営ビジョンを定め、事業を進めています。

 

「SMMグループ経営理念」

・住友の事業精神に基づき、地球および社会との共存を図り、健全な企業活動を通じて社会への貢献とステーク

 ホルダーへの責任を果たし、より信頼される企業をめざします

・人間尊重を基本とし、その尊厳と価値を認め、明るく活力ある企業をめざします

 

「SMMグループ経営ビジョン」

・技術力を高め、ものづくり企業としての社会的な使命と責任を果たします

・コンプライアンス、環境保全および安全確保を基本としたグローバルでの企業活動により、資源を確保し、

 非鉄金属、機能性材料などの高品質な材料を提供し、企業価値の最大化をめざします

 

(3)長期ビジョン

 当社グループは、上記の経営理念や経営ビジョンを受け、その到達すべき目標として長期ビジョン「世界の非鉄リーダー」とそのターゲットを定めています。当社グループは、経営理念や経営ビジョンを基盤とし、資源を確保し、非鉄金属や電池・機能性材料など高品質な商品の提供を通じて、成長性と持続性を拡大させ、当社の企業価値を高めていきます。

 

「世界の非鉄リーダー」とは

・資源権益やメタル生産量において、グローバルでの存在感(=世界Top5に入るメタル)がある

・資源メジャーでも容易に模倣できない、卓越した技術や独自のビジネスモデルを有している

・持続的成長を実現し、安定して一定規模の利益をあげている

・SDGs等の社会課題に積極的に取り組んでいる

・従業員がいきいきと働いている

 

長期ビジョンのターゲット

・ニッケル:生産量15万トン/年

・   銅:権益分生産量30万トン/年

・   金:優良権益獲得による鉱山オペレーションへの新規参画

・材料事業:ポートフォリオ経営による税引前当期利益250億円/年の実現

・  利益:親会社の所有者に帰属する当期利益 1,500億円/年

 

 

(4)2030年のありたい姿

 当社グループは、経営理念や経営ビジョンを基盤とし、資源の確保、非鉄金属や電池・機能性材料など高品質な材料の提供を通じ、成長性と持続性を拡大させ、当社の企業価値を高め、長期ビジョンである「世界の非鉄リーダー」を実現していきます。また、これは持続可能な社会形成に貢献する取り組みであり、その実現のためのマイルストーンとして「2030年のありたい姿」を策定しました。

 策定にあたり、私たちが2030年に向けて達成すべき取り組みを11個の「重要課題」として設定しました。持続可能な開発目標(以下、「SDGs」という。)との関連については、それぞれに結びつきの強いSDGsを「成長性」、「持続性」の観点から整理し、各課題に共通する当社グループのアプローチであること、当社経営ビジョンに直結することから、「つくる責任 つかう責任」を最重要の課題と定めています。

 なお、11個の「重要課題」の詳細については、「2.サステナビリティに関する考え方及び取組」の(2) 戦略をご参照ください。

 

(5)2021年中期経営計画

 当社グループは、長期ビジョンとターゲットの達成に向け中期経営計画を3年ごとに策定しています。2022年2月に2022年度から2024年度を対象とする「2021年中期経営計画」(以下、「21中計」という。)を公表し、企業価値の一層の向上と新たな成長への挑戦を進めています。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。

 

① 当社を取り巻く経営環境

 「21中計」の策定に際して考慮すべき中期的な経営環境として以下を挙げております。

「当社をとりまく経営環境」

〇非鉄金属需給は一時的に緩む見通し

・銅・ニッケルともに供給増で一時的に需給は緩む見込み

・中長期的には電気自動車(EV)・再生可能エネルギー等を中心に需要増を見込む

〇資源開発・製錬操業をめぐる事業環境はより厳しく

・資源ナショナリズムの高揚

・鉱山の高地・奥地・深部・低品位化等 開発難度の上昇

・地域社会との良好な関係性構築の難度上昇

・環境規制強化

・投資及び電力・資材代などのランニングコスト上昇

〇“素材”の活躍の場は拡大

・エネルギー供給網の構築やEV化により、銅やニッケルの需要増加

・カーボンニュートラル(CN)やデジタルトランスフォーメーション(DX)の加速により

 各分野での技術革新・市場拡大が促され、 材料事業にとって事業拡大の好機

〇加速するCN対応

・2050年温室効果ガス(GHG)排出量ネットゼロが共通認識に

〇DXへの対応

・デジタル化、IT化への対応を今後加速化

〇人材確保の難化

・働き方の多様化と従業員の意識変化(人材の流動化)

 足もとの経営環境は、不動産不況の長期化による中国経済の低迷や欧米をはじめとした多くの国・地域でのインフレ率の高止まり、さらに地政学的リスクや世界経済の分断化リスクの高まりなどがあり、不確実性の高い状況が継続しています。

 非鉄金属の需給については、銅は一部の海外鉱山の稼働停止や生産量調整などにより一時的に供給不足となると見込まれています。一方、ニッケルは中国、インドネシアの増産により供給過多が継続すると見込まれています。

 材料事業の関連業界においては、脱炭素化やデジタルトランスフォーメーション(DX)への対応により需要拡大が見込まれるものの、中国をはじめ世界経済の先行きが不透明なことから市場の成長が鈍化するリスクもあり、予断を許さない状況にあります。

 

② 「21中計」の基本戦略と進捗

 「21中計」では、『変革への新たな挑戦』をテーマに、「企業価値拡大-大型プロジェクトの推進」「コアビジネスの持続可能性向上」「社会環境変化への適応」「経営基盤強化」の「4つの挑戦」に取り組んでいます。

 

挑戦1:企業価値拡大-大型プロジェクトの推進

・電池材料(正極材)の生産能力増強

・ケブラダ・ブランカ2銅鉱山開発プロジェクト推進(チリ)

・コテ金開発プロジェクト推進(カナダ)

挑戦2:コアビジネスの持続可能性向上

・3事業連携(ニッケル-電池)のバリューチェーン強化

・菱刈鉱山のサステナビリティ重視の操業への転換

・銅製錬事業の競争力強化

・機能性材料事業の拡大戦略

挑戦3:社会環境変化への適応

・GHG(温室効果ガス)排出量削減

・カーボンニュートラルに貢献する製品・新技術・プロセスの開発推進

・DXへの対応

・人材確保/育成/活用への取り組み

挑戦4:経営基盤強化

・安全への取り組みの強化

・サステナビリティ施策の推進加速

・コーポレートガバナンス

 2021年中期経営計画の2年目となる当期の進捗状況及び今後の戦略の内容については、資源事業では、当社が25%の権益を持つケブラダ・ブランカ銅鉱山フェーズ2開発プロジェクト(チリ)において2023年4月に生産立ち上げを開始しました。2024年度後半からはフル生産体制へ移行する見通しです。また、コテ金開発プロジェクト(カナダ)では、2024年3月末に最初のドーレ(金銀の合金)を生産し、今後、フル生産体制確立に向けて早期の立ち上げを進めます。

 製錬事業では、銅製錬を行う東予工場(愛媛県)において2023年秋に、12年ぶりに炉を完全に停止して修繕を行い、生産能力の増強に向けた整備を行っています。また、使用済みのリチウムイオン二次電池から銅、ニッケル、コバルト、リチウムを回収するリサイクルプラントの建設や、世界最大規模のニッケル資源量を有するカルグーリー・ニッケル・プロジェクト(オーストラリア)への出資を決定し、将来を見据えた戦略投資を進めています。

 材料事業では、電池材料事業は、需要が堅調に推移しフル生産を継続しました。新たな増産のため建設を進めてきた新居浜工場(愛媛県)は2023年度中に建物が完成し、2024年度は設備の設置と生産立ち上げを進めます。一方で、機能性材料事業では、電子部品関係の顧客を中心とした需要の低迷を受け、多くの製品群で減産が継続しました。

 GHG削減について、当社グループは2050年カーボンニュートラルに向けた取り組みのロードマップを策定しました。中間目標としてスコープ1・2でのGHG排出量を2030年度までに2015年度比38%以上削減する目標を掲げており、省エネ・高効率化の徹底、LNG・バイオマス燃料への転換、再生可能エネルギー由来の電力の利用拡大などを進めていきます。

 人材確保・育成・活用への取組については、「一人ひとりの経験・スキルに着目し、今後のキャリア形成を踏まえ、育成と活躍の機会を提供する」という考えのもと人材育成のための諸施策を行っています。その一環として、多様な活躍の機会の提供によるモチベーションの向上、挑戦・変革・成長ができる企業風土の醸成、社員一人一人が成長し続ける企業文化の創出を狙いとして、2023年7月に総合職の人事制度の改正を行っています。

③ 目標とする経営指標

 「世界の非鉄リーダー」実現に向けては、健全な財務体質に裏打ちされた大型プロジェクトやM&Aへの機動的な対応が欠かせません。当社グループは「21中計」において、財務体質の財務健全性を示す指標として連結自己資本比率50%超の維持を掲げております。

 

(6)その他

 ㈱ジェー・シー・オーは、施設の維持管理、低レベル放射性廃棄物の保管管理、施設の廃止措置に向けた準備のため、施設の解体や除染等を推進するための諸施策を進めております。当社は、同社がこれらに万全の態勢で取り組むことができるよう引き続き支援を行ってまいります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組の状況は、次のとおりであります。なお、本項において、将来に関する事項が含まれておりますが、当該事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月26日)現在において判断したものであります。

 

(1)サステナビリティ共通

 当社は1590年より永きにわたり営まれてきた住友の源流事業である鉱山運営、製錬事業を受け継ぐ企業であり、住友の事業精神を企業行動の根本に据えています。住友の事業精神の第1条には、社会的な信用や相互の信頼関係を大切にし、何事も誠意をもって対応することが定められています。特に鉱山運営においては、目的の天然資源が存在する場所で採掘活動を行う必要があり、またその事業は一般に数十年といった長期間にわたることから、操業地域における様々なステークホルダーとの信頼関係の構築・維持が事業継続の大前提であることを示しています。

 この住友の事業精神に基づき定めた当社グループの経営理念では、「地球および社会との共存」を謳っており、事業精神が示す信頼関係構築・維持の手段を示すとともに、明るく活力ある企業の実現として「人間尊重」を掲げています。

 そして、「地球および社会との共存」と「人間尊重」を通じて目指すサステナビリティへの取り組み姿勢を定めたものが住友金属鉱山グループサステナビリティ方針であり、社会の持続的発展への貢献を経営課題として明確に位置付けるとともに、貢献の持続性の担保と貢献度の向上を目的として自社の持続的な成長もあわせて定めています。これは、住友の精神として受け継がれる「自利利他公私一如」(住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない)によります。

 このサステナビリティ方針の実現に向けて重点的に取り組む個別課題を重要課題として特定し、また、それぞれの重要課題への取り組みを通じて目指す社会からの評価を2030年のありたい姿として定めました。

 このように、当社グループのサステナビリティへの姿勢は、「地球および社会との共存」と「人間尊重」を理念とし、社会的な信用や相互の信頼関係を大切にしたうえで、社会の持続的発展と自社の持続的成長の両立を目指すものです。

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(2)ガバナンス及びリスク管理

①サステナビリティ推進体制

 当社グループは、サステナビリティ委員会を中心にサステナビリティ活動を推進しています。サステナビリティ委員会は、委員長を社長とし、副委員長にサステナビリティ担当役員(経営企画部所管執行役員)、委員として各事業本部長、各事業室長、技術本部長、技術本部技術企画部長、工務本部長、工務本部生産技術部長、本社部室長が参加し、サステナビリティ推進部・経営企画部が事務局を務め、年2回以上開催しています。また、会長、社外取締役及び監査役はオブザーバーとして出席しています。

 本委員会における主な審議項目は以下のとおりであり、サステナビリティ活動の進捗・各パフォーマンスの評価・次年度の活動計画のレビュー・見直しが行われ、PDCAを回しています。

・サステナビリティ方針、重要課題、「2030年のありたい姿」の改正の審議

・サステナビリティ活動の年次計画など、サステナビリティ活動に関する重要事項及び「2030年のありたい姿」への到達度を評価するための指標の審議・決定

・サステナビリティ活動に関する定期的な評価及び是正措置の発動

・サステナビリティ推進に関する情報提供、情報交換、重要な施策の説明、認識の共有化

・その他、サステナビリティ活動に関する重要な課題の審議

 2023年度は本委員会を3回開催し、その他の重要な課題として、住友金属鉱山グループ水方針の策定について審議を行いました。

 なお、サステナビリティ活動の統制として、取締役会において、サステナビリティ活動の進捗状況報告を年2回以上実施しています。また、その他サステナビリティ活動に関する重要課題についての審議・決議を都度行っています。

②サステナビリティ個別課題の検討組織

 サステナビリティ委員会の下部組織として、サステナビリティ7部会、マネジメントシステム4分科会、カーボンニュートラル推進委員会、企業価値向上戦略会議、DX推進委員会があります。これらの各組織は、重要課題ごとに定められたKPI及びテーマに沿った年間目標と計画に基づいて活動しています。

・サステナビリティ7部会

 資源有効活用部会、環境保全部会、地域社会貢献部会、ダイバーシティ部会、人権部会、安全・衛生部会、コミュニケーション部会のサステナビリティ7部会は、「2030年のありたい姿」の推進、「2030年のありたい姿」の検討・制定など、事業部門及びコーポレート部門から参加する社内横断的組織を構成しており、事業と一体となったサステナビリティ活動を推進しています。

・マネジメントシステム4分科会

 当社グループの主要なマネジメントシステムを組織横断的に推進し、経営基盤を強化するために、リスクマネジメント分科会、コンプライアンス分科会、品質分科会、「責任ある鉱物調達」分科会を設置しています。関連する事業部門及びコーポレート部門長が参加し、それぞれのテーマに則って方針を策定し、活動計画の進捗を確認しています。

・カーボンニュートラル推進委員会

 当社グループが目指すべきカーボンニュートラル実現に向けた方針、道筋を明確にして、より迅速により強力に全社的に推進することを目的としています。カーボンニュートラル推進は当社がサステナビリティ活動の中で特に優先的に対応する必要があると考え、サステナビリティ7部会とは別にカーボンニュートラル推進委員会として設置しています。委員長はカーボンニュートラル推進担当役員(技術本部所管執行役員)、副委員長として安全環境部所管執行役員、委員として各事業本部長及び関係部門長が担当し、年2回以上開催しています。

・企業価値向上戦略会議

 当社グループ事業の持続的成長を実現し企業価値を向上させることを目的として、企業価値向上戦略会議を設けています。この目的の達成をより確実にするために、下部組織として非鉄リーダー実現部会、全社人材部会、式年改革部会を設置しています。議長を経営企画部所管執行役員とし、各事業本部長及び関係部門長が参加し、年2回以上開催しています。また、成長戦略を持続的に実現するため、大型プロジェクトのパイプライン管理を行い、企業価値向上の実現に向けて発現した課題に柔軟に対応し環境適応を図っています。大型プロジェクトについては進捗を確認し、その場で適切な助言・指示を行っています。

・DX推進委員会

 当社グループが目指すべきDXの将来像を明確にして、DXの全社的な推進による経営への寄与を最大化することを目的として、DX推進委員会を設置しています。DX推進担当役員(技術本部所管執行役員)を委員長とし、各事業本部長及び関係部門長を委員として、年2回以上開催しています。

 

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③リスク管理

 当社グループは、以下の重要課題特定プロセスで示す、サステナビリティに関するリスク及び機会を識別し、評価しました。この特定された重要課題は、先の②「サステナビリティ個別課題の検討組織」に従って管理しています。

 

<重要課題特定プロセス>

a)「サステナビリティ課題」の抽出

 国際金属・鉱業評議会(ICMM)の「10の基本原則」やGlobal Reporting Initiative(GRI)スタンダードなどの国際的なガイドラインや、OECDなどが予想する2030年の状況、及び同じ目標年であるSDGsの目標・ターゲットなどを整理し、89の「サステナビリティ課題」を抽出しました。

b)「サステナビリティ課題」重要性評価による重要課題案の特定

 抽出された89の課題について、以下の3つの視点に基づき社会的側面、事業側面の2軸にて評価を実施、両側面に共通して重要度が高い11の課題を重要課題案として特定しました。この評価、特定はサステナビリティ7部会、事業部門、当社グループ若手従業員、サステナビリティに関する有識者による議論を経て行われました。

・社会に与えるインパクトの程度

・積極的に取り組まないことで増大するリスク

・積極的に取り組むことで得られる機会

c)KPI案の作成

 特定された重要課題ごとの「2030年のありたい姿」及びKPI案をサステナビリティ7部会にて検討しました。

d)経営層による議論と取締役会決議

 重要課題、「2030年のありたい姿」、KPIの各案について、全執行役員及び監査役により議論を実施し、最終案についてサステナビリティ委員会にて承認を経て、取締役会で決議されました。

 

 

重要課題

検討組織

非鉄金属資源の有効活用

資源有効活用部会

気候変動

カーボンニュートラル推進委員会

重大環境事故

環境保全部会

生物多様性

環境保全部会

従業員の安全・衛生

安全・衛生部会

多様な人材

ダイバーシティ部会

人材の育成と活躍

ダイバーシティ部会

ステークホルダーとの対話

コミュニケーション部会

地域社会との共存共栄

地域社会貢献部会

先住民の権利

人権部会

サプライチェーンにおける人権

人権部会

 

(3)戦略

 特定された重要課題ごとの「2030年のありたい姿」実現にむけ、以下の方針及び考え方で取り組みを進めています。

①非鉄金属資源の有効活用

a)2030年のありたい姿

高い技術力で資源を生み出す企業

 1.非鉄金属を安定して社会へ供給する企業

 2.産学官と連携したオープンな技術開発で、不純物を有効活用して社会に貢献する企業

 3.非鉄金属の循環システムの構築と維持に貢献する企業

 4.社会課題の解決に貢献する高機能材料の開発・供給を行う企業

b)方針・考え方

 当社グループは、天然資源の採掘から高機能材料の生産までを行い、その過程で扱う非鉄金属素材も多岐にわたります。技術的課題等で今まで利用できなかった資源の活用やリサイクル技術開発等を通じて有限な非鉄金属資源を無駄なく、より有効に活用することへのチャレンジは、当社グループの責務であると考えています。

 持続可能な社会に貢献するため、「ものづくり力」を基本に、社外との連携も含めた研究開発を行い、製品を作る技術力を向上させ、非鉄金属資源の安定供給・未利用資源の有用化・難処理資源からの回収・リサイクル技術の活用などに取り組みます。

 

②気候変動

a)2030年のありたい姿

 温室効果ガス(GHG:Greenhouse Gas)排出量ゼロに向け、排出量削減とともに低炭素貢献製品の安定供給を含めた気候変動対策に積極的に取り組んでいる企業

b)方針・考え方

 当社グループはGHGを多量に排出する企業の一つであるため、操業改善や技術イノベーションによりGHG排出量や排出原単位を削減するとともに、電池材料や近赤外線吸収材料といった低炭素社会に貢献する製品を開発し事業を拡大することにより地球全体でのGHG排出量を削減し、気候変動抑制に貢献していきます。

 また当社は、TCFD(Task Force on Climate related Financial Disclosures 気候関連財務情報開示タスクフォース)へ賛同しています。当社はTCFD提言に基づき、気候変動が事業に与えるリスク・機会について分析を進め、ガバナンス・戦略などの関連する情報開示に取り組んでいきます。

c)ガバナンス

 気候変動を含むサステナビリティに関する当社グループの重要課題は経営層による議論を経てKPIとともに特定され、取締役会で決議されます。当社グループの気候変動リスク・機会と戦略に関しては、中期経営計画、年度予算、KPI目標などに反映され、取締役会で決議されます。定期的に開催されるカーボンニュートラル推進委員会で管理、審議された当社グループの気候変動に関する課題への取り組み、KPI目標に対するパフォーマンスなどは、社長を委員長とするサステナビリティ委員会でレビューされ、その概要は取締役会で報告されます。

d)戦略

 事業、戦略、財務に重大な影響を及ぼす短期・中期・長期の気候変動リスク・機会は、規制、技術、市場の変化、自然災害などの当社グループを取り巻く外部環境において想定されうる様々な気候変動シナリオ(次頁参照)に基づいて抽出され、製品・サービス、研究開発投資、操業、GHG排出緩和策・適応策などの分野の事業、戦略への影響の検討を行います。その結果を踏まえて当社グループの気候変動リスク・機会に対する戦略は、3年ごとの中期経営計画に反映されます。また、これらの戦略は、カーボンニュートラル推進委員会で議論され、サステナビリティ委員会にてレビューされます。

e)リスク管理

 シナリオ分析により特定された気候変動リスクは、カーボンニュートラル推進委員会で監視測定し、必要に応じて是正措置や戦略の見直しを行い、サステナビリティ委員会にてレビューされます。また、気候変動リスクは、当社グループのリスクマネジメントシステム及びリスクマネジメント分科会にて、労働災害、環境汚染、品質不良、法令違反などのその他の個別リスクへの影響を考慮したうえで、管理されています。

f)指標と目標

 当社グループでは、2050年までにGHG排出量ネットゼロを目標に掲げています。そして2050年カーボンニュートラルに向けたロードマップを策定し、2030年度におけるGHG排出量を2015年度比38%以上削減することを中期目標として掲げています。また、当社グループが生産する車載用二次電池正極材料や近赤外線吸収材料の供給を通じた社会全体のGHG排出量削減への貢献についても指標と目標を定め、取り組みを推進しています。

<2022年度実績:スコープ1及び2> 単位:kt-COe(COe:COequivalent:二酸化炭素換算)

GHG排出量(総量)

2,823

 スコープ1

1,965

 スコープ2

858

<2022年度実績:スコープ3> 単位:kt-COe ※主な対象カテゴリのみ掲載

カテゴリ

排出量

算定方法

スコープ3合計

4,530

 

 1.購入した製品・サービス

3,737

Σ(主要原材料重量×排出原単位)※1

 2.資本財

518

Σ(設備投資額×排出原単位×1.05)※2

 3.スコープ1、2に含まれない燃料及びエネルギー関連活動

239

Σ(購入電力・燃料の使用量×排出原単位(電力※2、燃料※1))

 4.輸送、配送(上流)

26

国内の輸送に係る排出量を「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」、「地球温暖化対策の推進に関する法律」に基づいて算定

 その他

10

※1 排出原単位は「国立研究開発法人産業技術総合研究所 IDEA Ver.3.3」を使用

※2 排出原単位は「サプライチェーンを通じた組織の温室効果ガス排出等の算定のための排出原単位データベース(Ver.3.3)」を使用

 詳細は当社ウェブサイトに掲載している「サステナビリティレポート2023」P.50をご参照ください。

 

<気候変動シナリオ分析>

シナ

リオ

 

ドライバー

ビジネスインパクト

影響

※1

発生

時期

※2

1.5

カーボンプライシングの導入(炭素税、排出量取引、化石燃料賦課金、欧州国境炭素調整措置)

・炭素税負担

・排出量取引コスト負担

・化石燃料賦課金による燃料コスト増加

中長期

省エネ・脱炭素化規制の強化(欧州バッテリー規則)

・省エネ・高効率化・電化への設備コスト増加

・再エネ電力使用による電力コスト増加

・再エネ電力調達競争激化

中長期

サーキュラーエコノミー規制の強化(欧州エコデザイン規制、欧州バッテリー規制)

・リサイクル原料使用による原料コスト増加

・リサイクル原料調達競争激化

中長期

当社製品の低・脱炭素化への要求の高まり

(銅、ニッケル、電池正極材料等)

・エネルギー転換によるエネルギーコスト増加

・低CFP※3化の競争激化(高CFP製品の売上低下)

・既存製品・技術の陳腐化、技術開発コスト増加

中長期

資源国における過度な資源ナショナリズムの高揚

(銅、ニッケル、リチウム、コバルト等)

・課税強化、ロイヤリティ引上げによるコスト増加

・鉱石・中間原料の輸出禁止による原料不足

・鉱山権益獲得の競争激化

中長期

電気自動車の普及拡大

・バッテリーの正極材料、正極材料に含まれているニッケル・コバルト、ワイヤーハーネスや駆動モーターに使用される銅の販売拡大

中長期

電化需要拡大、電力系統の増強

・送電用電線や変圧器に使用される銅の販売拡大

・高効率パワー半導体に使用されるシリコンカーバイド(SiC)基盤の販売拡大

中長期

再エネ主力電源化

・風力発電用モーター・変圧器に使用される銅の販売拡大

・再エネ電力の変動抑制のための蓄電池に使用される電池正極材料やニッケル・コバルトの販売拡大

中長期

デジタル技術活用に向けた電子機器の高性能化

・電子機器に使用される高機能性材料の技術開発・販売拡大

中長期

次世代材料の開発

・水素製造触媒や人工光合成触媒、燃料電池材料の開発・新事業拡大

中長期

4℃

海水面上昇

・暴風雨における高潮・浸水による港湾・後背地(臨海工場等)の機能低下、設備被害の激甚化

・復旧コストの増加、設備対策コストの増加

長期

気温上昇

・暑熱職場による熱ストレスによる生産性の低下

・熱中症の増加

・設備対策コストの増加

長期

100年想定の熱波、豪雨、大型台風、干ばつの異常気象の増加

・暴風雨・洪水、土砂災害の激甚化

・生産設備の毀損、生産停止による事業機会の逸失

・復旧コストの増加、設備対策コストの増加

中長期

・テーリングダム越流・決壊の被害に対する多額の損害賠償の請求

・保険料の上昇

・復旧コストの増加、設備対策コストの増加

中長期

・サプライチェーン途絶による事業中断・操業停止

・生産停止による事業機会の逸失

中長期

※1 影響度 大:年間100億円以上、中:年間10億円~100億円

※2 発生時期 中期:~2030年頃、長期:~2050年頃

※3 CFP(Carbon Footprint of Products):製品単位の排出量

 

③重大環境事故、④生物多様性

a)2030年のありたい姿

 水資源や生物多様性を大切にして海や陸の豊かさを守っている企業

b)方針・考え方

 重大環境事故は、環境や社会への影響が大きく、事業継続の前提となる信頼を失うことにもなりかねません。特に当社グループの事業活動においては、鉱業廃棄物や化学物質の漏出等による環境汚染を引き起こす可能性があります。このようなリスクや激甚化する自然災害にも対応できるよう設備や管理の改善を図り、重大環境事故の予防と万一発生した場合の影響緩和に取り組んでいます。また、水資源の持続可能な利用及び管理に取り組みながら有害物質の大気・水域への排出量低減にも取り組み、生物多様性を大切にする環境保全活動を展開しています。

 

⑤従業員の安全・衛生

a)2030年のありたい姿

 快適な職場環境、安全化された設備と作業のもと、すべての従業員が、ともに安全を最優先して仕事をしている企業

b)方針・考え方

 当社グループの事業活動では高所での作業や大型の設備・重機・化学物質の取り扱いを行うため、従業員が死亡災害を含む労働災害や健康被害に見舞われる可能性があります。一方で、安全で安心して働ける環境は、従業員と会社の信頼関係向上や従業員のモチベーションにつながる経営の重要な要素の一つです。そこで、当社グループは協力会社も含めて快適で安全な職場を形成することを目指して、設備安全化対策をさらに進化させて、IoT*やAI(人工知能)など先端技術導入も開始しています。

*IoT:あらゆるものがインターネットにつながり、サービスが展開されること。

 

⑥多様な人材、⑦人材の育成と活躍

a)2030年のありたい姿

 すべての従業員が活き活きと働く企業

1.従業員一人ひとりの人間性を尊重し、従業員が誇り・やりがい・働く喜びを持てる企業

2.従業員一人ひとりに能力向上の機会を提供し、従業員とともに成長する企業

b)人的資本に関する考え方

 当社グループを取り巻く事業環境は大きく変化しており、その変化に対応できる企業として成長戦略を展開し、企業価値を高め、確固たる経営基盤を築くことが必要です。その中心は人材であり、多様な人材がお互いの考え方を尊重し、同じ目標に向けて最大限の力を発揮できる組織として成長戦略を実現していくことが重要と考えています。多様な人材が活躍できる組織であるために、経営戦略と連動した人材戦略の展開、従業員一人ひとりの自律的な成長やキャリア形成を促進する人材育成体系・制度の構築、多様な人材が働きやすい社内環境の整備に取り組んでいます。

c)人材戦略に関するガバナンス

 経営戦略と人材戦略の連動を図るため、企業価値向上戦略会議の中に全社人材部会を位置付けています。四半期に1回以上の頻度で継続的に開催しています。運営体制としては、人事部所管執行役員が部会長、人事部長が副部会長となり、人材の適所適材の配置を推進するとともに、次世代経営層や次期管理者を計画的に育成するなど、人材の確保・育成と活用に関わる全社横断的な人材戦略に係る議論をしています。

d)人材戦略

 「2030年のありたい姿」を実現するため、絶えず変化し続ける市場環境に適応し、持続可能な成長を遂げる企業へと進化していく必要があると考えています。その重要な鍵となるのが、継続的に「挑戦」・「変革」・「成長」ができる企業風土の実現です。この実現のためには、従業員一人ひとりの職務と職責に見合った報酬を実現し、一人ひとりの可能性を最大限に引き出していくことが重要と考えています。

 具現化の一歩として、2023年7月に総合職人事制度(職務等級制度)を導入しました。また、この制度の目的達成のため、キャリアチャレンジ制度(社内公募制度)を2023年12月に導入しました。

 

(i) 人材育成の考え方

 従業員一人ひとりの自律的な成長が、当社グループ全体の持続的な成長につながると考えています。新たなビジネスモデルの構築や変化する事業環境に対応するため、従業員一人ひとりに能力向上の機会を提供し、成長戦略を確実に実行できる人材を育成しています。

 従業員の成長の基本は、人材育成を意識した適切な配置とともに、日常業務を通じて計画的・継続的に行われる実践的教育OJT(On-the-Job Training)と従業員個々人の自己啓発にあると考えています。OJTでは、仕事の知識やスキルを身に着けるだけでなく、業務を通じた人としての成長も促しています。OFF-JTでは、各種研修や講習会、eラーニング等の育成体系を構築し、資格取得の際には祝い金を支給するなど従業員の自律的な学びを促進しています。

 目標管理制度では、従業員一人ひとりがキャリアについて自律的に考え、やりがいを持って仕事に取り組めるよう、中長期的な取り組みやチャレンジングな姿勢を評価するとともに、異動申告制度を含めたキャリア形成支援を積極的に行っています。また、上司と部下間のコミュニケーションの質を上げ、一人ひとりの能力を引き出すために、1on1ミーティングを展開しています。

 

 <全社人材育成体系>

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(ii) 社内環境整備

 当社では、入社、結婚、出産、育児、介護、そして定年といった様々なライフステージの変化に応じた支援策や制度、そして研修等による情報提供の機会・相談の場を設けるなどを通じて、「働き方改革の推進とデジタルテクノロジー等を活用した、多様な人材が活躍できる職場づくり」、「従業員の心身の健康づくりの支援」、「従業員ニーズ・業務ニーズを考慮した能力向上、機会の多様化」に取り組んでいます。

 具体的施策の1つとして、従業員の生活環境を支援するために各地域の実情を踏まえ、社有の社宅・寮もしくは借上げ社宅・寮を延べ1,190戸提供しています。また、社宅や寮を選択せず、持ち家や借家住まいを選択する社員については、住宅関連手当を支給し補助しています。また、住居の変更を伴う異動の際の車両費用補助や持ち家取得の際の引っ越し雑費支給や、住宅取得の際の融資制度など、従業員が安心して働けるよう、負担を軽減する各種施策を実施しています。

 

・エンゲージメント

 当社では、年に一度、従業員意識調査を実施しています。この調査を通じ、従業員一人ひとりの意識や意欲、満足度に関するデータを収集し、それらを経営施策の改善に活かすことを目指しています。

 2023年11月~12月にかけて実施した最新の調査では、「全体的なエンゲージメント」、「業務負荷・ワークライフバランス」、「職場環境」、「上司との関係」、「ダイバーシティ」の項目に関しては概ね他社水準と遜色ないことが明らかになりました。特にコンプライアンスに関して、当社は良好な水準を保っています。一方で仕事内容や人事制度に関しては改善の余地があることが分かっています。

 また、調査結果からは、従業員が会社への誇りや愛着を感じていること、良好な上司と部下の関係が築かれていること、業務目標の挑戦性が高く、チャレンジを歓迎する組織風土があることを確認しています。これらは当社の強みとして維持していくべき点と捉えています。

 一方で、改善が求められる領域に対しては、具体的なアクションにつなげていきます。具体的には、「仕事のやりがい」を高めるために、管理職社員が適正な目標を立て部下に展開することなどを示した管理職社員対象の研修(マネジメント研修人事評価編)や、従業員がキャリア目標を描きやすいように上位管理職の職務記述書の公開などを実施しました。また、今後は経営層と社員間のコミュニケーションの強化や、成長と意欲の向上に向けた人事施策の見直しの検討を進めていきます。これらの取り組みを通じて、従業員のエンゲージメントを高め、職場環境を改善していくことで、当社は持続可能な成長を達成し、社会に貢献していく企業をめざします。

 

・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)

 従業員一人ひとりが持つ視点や考え方は様々であり、多様なメンバーの違いを受け入れ、認め合い、特性を活かしながら、公平な機会のもと、多様な人材がお互いを尊重し協働できる職場環境を築くこと(DE&I)が必要です。また、性別・国籍・年齢といった目に見える属性の多様化に加えて、能力や経験の多様化も進めることで、革新的なアイデアが生まれ、組織の柔軟性と競争力が向上します。そして、これが新たな価値創造へとつながり、当社に変革をもたらす原動力になると考えています。

 当社ではDE&Iを推進する中で、ジェンダーバランス(女性活躍)への取り組み、障害者雇用の推進と定着支援、外国人従業員の拡充、性的マイノリティ(LGBTQ+)理解への取り組みを進めています。

 特に女性活躍推進については、管理職社員への登用、生産現場や鉱山現場などにおける勤務のほか、国内拠点のみならず海外拠点への駐在など、女性の活躍の場を拡大することに取り組んでいます。また、「2030年のありたい姿」では、女性管理職社員数を50名、女性従業員比率を20%以上とすることを目標としており、これに加え、2030年までに女性役員を4名登用することも目標に設定しました。これらの達成に向けて、定期・キャリア採用における女性採用比率の目標値設定、次世代リーダー育成を目的とした女性社員外部研修への派出、役員と女性管理職社員との懇談会の開催などを実施しています。当たり前に女性が活躍する環境づくりを進めるために当事者の声を経営に反映し、また男性の意識改革も進めています。

 

・健康経営

 当社グループでは、労働安全衛生の観点から従来より役員・従業員の安全と健康の確保に優先的に取り組んできました。当社グループで働くすべての人がより健康で活き活きと働けるよう、2022年8月に「住友金属鉱山グループ健康経営方針」を制定し、同年10月に中長期的な取り組みと目標を定めた「従業員の健康づくり推進ロードマップ」と単年度ベースでの「健康経営推進計画」を策定しました。これらの計画を踏まえ、住友金属鉱山健康保険組合とも協力し、効果的な心身の健康維持・増進施策を展開しています。従業員に対しては、生活習慣病発生リスクと肥満リスク、女性の健康などをテーマとした健康セミナーや、メンタルヘルス研修(セルフケア・ラインケア)を定期的に開催し、健康管理支援システム(スマートフォンアプリ)を活用したウォーキングイベントも実施しています。各種検診・人間ドック・脳ドックについては、費用の全額や一部を補助しており、人間ドック受診時は健康管理休暇(1年につき最大2日)を取得することもできます。また、禁煙施策として、喫煙所の削減や希望者にオンライン禁煙プログラムを提供しています。

 2023年3月には、経済産業省と日本健康会議が選定する「健康経営優良法人認定制度」において「健康経営優良法人2023(大規模法人部門)」に認定され、継続的に認定を受けています。

 

⑧ステークホルダーとの対話

a)2030年のありたい姿

 「世界の非鉄リーダー」であると理解され、共感される企業

b)方針・考え方

 社会課題の解決に向けた2030年のありたい姿の実現には、ステークホルダーから信頼を得ることが必要です。多様なステークホルダーに当社グループを等身大に正しく理解いただき、さらに、目指している「世界の非鉄リーダー」として共感されるよう取り組んでいきます。また、当社グループでは、影響を与え、あるいは影響を受けるステークホルダーを「顧客」「株主」「従業員」「地域住民」「債権者」「ビジネスパートナー」「NGO、NPO」及び「行政」と定義し、ステークホルダーごとにあるべき姿の目標を定め、その実現に向けて様々な取り組みを進めています。

 

⑨地域社会との共存共栄

a)2030年のありたい姿

 地域社会の一員として地域の発展に貢献し信頼を得る企業

b)方針・考え方

 特に鉱業、製錬業における開発は、やむを得ず移転をお願いするなど地域住民の生活に大きな影響をもたらします。当社グループは、事業進出している地域においてコミュニティとの対話をもとに、そこにどのような課題があるのか、その解決にどう貢献できるのかを考えていくことが重要だと捉えています。そのうえでニーズに応じて雇用や現地サプライヤーからの調達などにより地域経済の活性化に寄与していくとともに、地震や台風といった大規模災害の現地支援を継続して行っていきます。

 

⑩先住民の権利

a)2030年のありたい姿

 先住民の伝統と文化を理解し尊重する企業

b)方針・考え方

 鉱山開発や製錬事業においては、環境や地域社会へ及ぼす影響が大きいことから、一般に弱い立場であるその土地で暮らす先住民の権利を侵害するおそれがあります。そのため先住民の理解と信頼を得ながら事業を進めることが大前提であると考えます。「先住民族の権利に関する国際連合宣言(UNDRIP)」などの国際規範を尊重し、地元行政などの関係するステークホルダーとも協力しながら、先住民の伝統と文化を理解したうえで対話を続けていきます。

 

⑪サプライチェーンにおける人権

a)2030年のありたい姿

 サプライチェーン全体でサステナビリティ調達に取り組んでいる企業

b)方針・考え方

 当社グループはステークホルダーと連携し持続可能なサプライチェーン構築を目指しています。国際規範に基づく当社グループの「サステナビリティ調達方針」に則り、サプライチェーンにおける「人権・労働」「コンプライアンス」「品質保証」「環境・地域社会」に関するリスクを把握し問題があれば是正します。特に鉱物調達においては、児童労働などの人権侵害や環境汚染といった負の影響を及ぼすおそれのある鉱物の調達を行わないよう、当社グループの「責任ある鉱物調達に関する方針」に則り経済協力開発機構(OECD)のガイダンスを尊重し取り組みます。

 

(4)指標と目標、及び実績

  下表の実績は、当社ウェブサイトで公開している「サステナビリティレポート2023」の実績であります。

①非鉄金属資源の有効活用

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

銅鉱山プロジェクトの

推進

・銅権益生産量30万トン/年の達成と

 維持に向けJV鉱山の生産体制を強化

・JV鉱山における鉱山周辺及び深部探鉱の強化、選鉱能力の拡張、IoT・AIを活用した操業改善等による着実な銅

 生産量の達成

・ケブラダ・ブランカ銅鉱山Phase2以降のプロジェクト推進

・2022年のJV鉱山における銅生産量(権益分)は実績予想(2022年5月公表)22万トンに対し、実績は20万トンと未達

・背景として、モレンシー銅鉱山はトラック人員不足の影響、セロ・ベルデ銅鉱山はコロナ禍の影響、カンデラリア/オホス・デル・サラド銅鉱山はトラックの整備遅延と陥没穴事故の影響、ノースパークス銅鉱山は主力鉱体からの品位低下の影響

・ケブラダ・ブランカ 銅鉱山Phase2からの銅精鉱生産開始に注力

新規優良銅金資源の獲得

・オペレーターシップを持つ新規鉱山の開発

・2021年に出資したケノーランド・ミネラルズ社等を通じて、新規JV探鉱プロジェクトへの参入、新規鉱山の買収等に向けた検討を実施

・そのほか、新規JV探鉱プロジェクトの組成に必要な情報収集、現地調査なども実施

新技術導入による生産性改善

・菱刈鉱山における坑内外の情報インフラ設備、重機の無人化、リモート化の推進

・菱刈鉱山において、3年計画で坑内Wi-Fi敷設を進め、また、鉱石の積み込み・運搬を行う地下ロードホールダンプの自動走行と地上からの遠隔操作システムを初めて導入し、坑道での稼働試験を開始

Ni鉱プロジェクトの推進と生産性の改善

・ニッケル生産量 15万トン/年

・実収率対2018年度比 +2%

・副産物スカンジウムの回収

・副産物クロマイトの回収

・2022年度のニッケル生産量は8万トン

・中止したポマラに代わる新規ニッケルプロジェクト検討を加速

・CBNC*1は鉱石品位の変動により目標未達となったが、THPAL*2は目標達成

・スカンジウムは過去最高の生産量達成

・クロマイトは過去最高の生産量達成

鉱山や製錬工程で発生する不純物を分離、固定、有用化する技術の開発

・不純物を固定する技術開発:プロセスの開発と実証

・銅精鉱からのヒ素除去技術については、これまでの研究成果で得た知見を踏まえつつ、海外の研究開発事例の調査を通じて、今後の操業や他の分離技術への活用を検討

未利用非鉄金属資源の

有用化技術の開発

・既存(海洋資源開発等)・新規の開発プロジェクトへの貢献

・政府策定の5年計画の最終年度として、これまでの技術的知見を活かし、熱水鉱床やコバルトリッチクラストのプロジェクトに参画

難処理資源からの非鉄

金属回収

・高不純物塩湖水からのリチウム回収

 技術と回収ビジネスへの参画

・リチウム直接回収技術による商業化検討のための概念設計と設備費の試算を実施

・リチウム回収率、水使用量を目標に近いレベルまで削減

・大学との共同研究で吸着剤開発を推進

*1CBNC:Coral Bay Nickel Corporation

*2THPAL:Taganito HPAL Nickel Corporation

 

 

 

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

車載二次電池リサイクル技術の実証と事業化

・コバルト回収が可能な車載リチウムイオン電池リサイクル技術実証並びに事業化及び規模拡大

 プレ商業プラントの試運転と操業開始:2026年度

・パイロットプラントでの銅・ニッケル・コバルト・リチウムを回収するプロセス検討において、①回収したニッケル・コバルトを使用したユーザーの電池特性評価に合格、②温室効果ガス

(GHG)削減を目的とした前処理方法の最適化

自社の強みを活かし社会に貢献する新製品・新事業の創出

・エネルギー、自動車、情報通信分野での新規機能性材料の研究開発、事業化

・新事業創生システムを運用して新テーマ探索を進行

・東北大学と協同でGX材料科学共創研究所を設立し、水素社会・将来電池に関するテーマ探索を開始

自社原料保有による有利・安定調達

・燃料電池用NiOの実証試験を経て事業化

・パイロットプラントによる実証試験を継続

有利な自社ニッケル原料の安定調達による低コスト電池正極材の販売拡大

・拡大する正極材料市場で、世界シェアトップクラスを維持

・2024年度の試運転開始に向け2,000トン/月増産起業は建設・人員採用など引き続き計画とおり推進

・次期増産に関する調査・検討を実施

 

②気候変動

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

GHG排出量の削減

・GHG排出量を2015年度比38%以上削減(国内50%以上、海外24%以上)、“2050年までにGHG排出量ネットゼロ”に向けた諸施策を推進する

・GHG排出量は282万t-COe(2015年度比13%削減)

・社内カーボンプライシング(Internal carbon pricing: ICP)制度によるGHG排出削減投資を推進

・実質再エネ電力の購入を推進

・革新的製錬プロセスの開発を推進

・GHG排出原単位を2013年度比26%以上削減

・GHG排出原単位は2013年度比約1%削減

・ICP制度によるGHG排出削減投資を推進

・実質再エネ電力の購入を推進

・低炭素貢献製品GHG削減貢献量の拡大:60万t-COe以上

・低炭素貢献製品の電池材料と車載用近赤外線吸収材料(CWO®)のGHG削減貢献量合計は54万t-COe

 

③重大環境事故、④生物多様性

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

重大環境事故 ゼロ

・リスク・環境マネジメントシステムの活用による改善の推進

・リスクマネジメントシステムや環境マネジメントシステムを活用した管理改善の実行により、重大な環境事故・違反は発生していない

・自然危険源の増大に対応した設備やインフラの強化・改善

・公益財団法人世界自然保護基金(WWF) Water Risk Filterによるリスク評価

・各拠点でのリスクの特定、対策の検討など

有害物質排出量低減(対前年)

・水使用の合理化、大気・水域への有害物資の排出量の低減

・各拠点での有害物質排出量はさらに改善しつつある

・住友金属鉱山グループの水に関する方針案の検討

・計画的植林ほか、多様な環境保全・生物多様性保全活動の推進

・計画的な植林の継続

 CBNC : 38ha

 THPAL: 59ha

・生物多様性に関する国内外動向の把握

 

⑤従業員の安全・衛生

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

労働災害の発生防止

・重篤災害:ゼロ(国内外、協力会社含む)

・全災害:対前年減少、最終的にゼロを目指す

・重篤災害:3件

・全災害:

 ※( )内、2021年度実績

 国内社員:24件(20件)

 協力会社社員:5件(8件)

 海外社員:1件(2件)

 

・重篤災害発生。繰り返し災害多く、全災害目標値を超える。5~7月災害多発し、7月に非常事態宣言を発令した後一旦沈静化、11~12月は無災害であった

・設備本質安全化・歩車分離対策・フォークリフトへのAIカメラの設置の推進、不安全行動を放置しないため監督者による作業観察を実施、VR研修の本格的な開始

業務上疾病の発生防止

・健康リスクの高い作業場数:対前年削減

・業務上疾病の発生:ゼロ

・健康リスクの高い作業場数:対前年削減 2022年:2件(2021年:5件)

・業務上疾病の発生:ゼロ

 

・設備破損等で作業環境の悪化が起こっているため、日常点検の強化を図る

・タイムラプスカメラ・粉塵計等を用いた作業環境の可視化推進

・熱環境管理基準に基づいて対応をとったところ、坑内作業での熱中症発生がゼロになった

 

⑥多様な人材、⑦人材の育成と活躍

指標

目標(2030年度

2022年度実績

働き方改革の推進とデジタルテクノロジー等を活用した、多様な人材が活躍できる職場づくり

・従業員意識調査の「経営者・上司のマネジメント」「仕事の魅力」「職場環境」に関する各スコアの向上

・前回(2019年)調査と比較し、いずれのスコアも向上

 経営施策の魅力 3.47→3.55

 上司のマネジメント 3.56→3.69

 仕事の魅力  3.38→3.45

 職場の総合的魅力 3.23→3.36

女性管理職社員数50(当社)

女性従業員比率20以上(当社)

・当社女性管理職20人(女性管理職比率2.9%)※2022年度実績

2023年度の管理職に占める女性従業員の割合の実績は、第一部 企業情報
第1 企業の概況 5 従業員の状況
に記載

 

・当社女性比率12.9%(445人)

・ロールモデルとなり得る人材の育成を目的に、次世代リーダー候補5人を異業種交流研修に派出

・採用計画として女性総合職の採用比率を20%に設定し、2030年までの目標数を策定

総合職外国人従業員の拡充

・2022年度末時点:14

・外国人従業員に対し、現状における問題把握のためのアンケートを実施し、希望者を対象とした面談を実施

・上司へのフィードバックと課題ヒアリングを実施

障害者雇用率3以上(当社)

・2022年6月1日時点:2.57

・大学生のインターンシップ・特別支援学校の職場実習受入れ

・障害者の定着に向けた職場風土醸成の取り組みを実施(障害者雇用担当者会議の開催など)

・従業員のライフステージに対応した配置と支援

・育休取得率:女性106%、男性95.6%(育児目的休暇除く:42.4%)

・介護離職:2人

・各種制度説明会・セミナー等の実施(育児休業制度説明会、仕事と育児/介護の両立支援制度説明会等)

・キャリアライフプラン/キャリアデザイン研修の実施

従業員の心身の健康づくりの支援

・長期休業者の減少

・メンタルヘルス不調による長期休業者比率・休業のべ日数比率が増加

 休業者比率

 2021年度:0.97%→2022年度:1.12

 休業のべ日数比率

 2021年度:0.37%→2022年度:0.43

・ストレスチェックの組織分析に基づいた拠点別(青梅事業所、播磨事業所)施策の実施

・メンタルヘルス研修受講率の把握

・健康診断結果の「有所見者率」50%以下

健康診断有所見率:58.0

・健康経営キックオフに関する社長メッセージ配信、健康経営方針/健康経営推進規程の制定により健康経営推進の基盤を構築

・「従業員の健康づくり推進ロードマップ」において中長期的なマイルストーンを設定し、それを具体化した2022年度推進計画を策定・実行

・健康経営優良法人に初認定

従業員ニーズ・業務ニーズを考慮した能力向上、機会の多様化

・上司と部下との定期的な対話を通じて、従業員一人ひとりのやる気や可能性を引き出し、部下の成長をさらに促進する「1on1ミーティング」の活用

・2022年8月より本社地区で1on1ミーティングを全面導入

・実施率:70%超(導入後のアンケート結果)

・役割に応じた人材育成体系の再構築によって、より良い従業員への能力向上機会の提供

・キャリア研修の実施(入社2年目、E級・参事昇格者研修、50歳・58歳到達時)

・戦略的な人材育成や人材配置に資するタレントマネジメントシステムを人事職掌に試験導入

・JCO資料館研修受講率:直轄社員92%、関係会社社員78%(2023年3月末時点)

・個々人のライフプランや従業員ニーズに合わせた自己啓発機会の提供

・本社地区の総合職、管理職へ自己啓発支援ツール(オンライン学習ツール)を導入

 

⑧ステークホルダーとの対話

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

従業員への当社グループブランドの浸透

・従業員意識調査の改善(会社で働くことに誇りを感じる従業員割合の向上)

・「社内コミュニケーション施策」の好事例の水平展開

 2023年1月にコミュニケーション部会員向けに好事例の展開を実施

・インナーブランディング

 目的を「従業員に会社への誇りと愛着を持ってもらうこと」とし、主な施策をブランドブックの制作と活用に設定

・従業員意識調査

 2022年3月に実施した調査結果について、経営層、部門長、拠点長、関係会社社長へ報告会を実施

 (質問「会社で働くことに誇りを感じる」に肯定的な回答をした社員の割合は63.7%)

「世界の非鉄リーダー」レベルの情報発信及び対話の質と量の確保

・メディア、投資家との対話機会の拡充

・統合報告書の外部評価での高評価獲得

・メディア向けには、21中計発表に伴いトップインタビュー等を集中的に実施

・EV化で関心の高い材料事業を中心に能動的な報道対応を実施

・機関投資家向けに面談を拡充。また、ニーズの高い各事業をテーマにした対話やコロナ禍で中断していた工場見学会・海外IR(現地訪問)などを再開

・新たに、社外取締役が参加するSR面談やサステナビリティ説明会(IR-Day)などを実施

・統合報告書2022発行(日・英)

 WICIジャパン統合リポート・アウォード2022のシルバー・アウォード及び日経統合報告書アワード2022のグランプリS賞を受賞

目指している「世界の非鉄リーダー」としての認知・理解の向上及び共感を得ている

・社外機関調査結果の改善(認知度・理解度など)

・2022年上期に実施された外部機関の認知度調査において、認知度は横ばい(2022年10月からの企業広告の効果は未反映)

・2022年10月より人材確保を目的に、認知度向上に向けタレントを起用した企業広告活動を開始。テレビ CMやインターネット広告等を展開した

・「MINATOシティハーフマラソン」「愛媛マラソン」「青梅マラソン」に協賛し、ブース出展等を通じて事業拠点における当社のプレゼンス向上に努めた

 

⑨地域社会との共存共栄

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

対話と連携に基づく地域社会への参画

• 地域社会との対話を通じて、地域の課題を正確に把握し、施策を実行

青梅モデル事業

・立地地域貢献度調査を多摩大学総合研究所と協働して青梅事業所をモデル事業所として実施

・従業員の社会貢献意識醸成に向け、外部ステークホルダーも交えたワークショップを実施

・このワークショップ参加者を中心に有志7人で青梅地区社会貢献推進委員会を発足

・外部ステークホルダー(青梅市・羽村市社会福祉協議会)と地域課題解決へ連携できることを継続的に共有する定期会合を開催

従業員参加型の地域支援

・従業員参加プログラムの実施(2023年~)

各拠点

・工場周辺・海岸等清掃、イベントサポート、植林、古本回収、使用済み切手回収、エコキャップ運動、献血などコロナ禍の影響はあったものの概ね計画どおり実施

全社

・企業従業員社会参加アンケートから本社地区等で提供できるプログラムを増やすための調査実施(認知症当事者支援、ボッチャ大会運営補助等)

・港区社会福祉協議会、社会貢献フォーラム登壇団体、日本フィランソロピー協会、NECプロボノ倶楽部と協働してできることを企画

現地雇用・現地調達

・継続実施と実績把握

・継続して実施し、実績を把握

次世代育成への支援

・行政や地域団体・NPOなどと連携した次世代育成プログラムの実施(1回/年以上)

・FC今治による「里山スタジアムプロジェクト」への寄付、プレート使用権の購入(別子、本社) など

・国内奨学金の設立と給付(既存の海外奨学金維持)(2023年~)

・対象者(立地地域出身者or立地地域へ貢献する者)を想定し、それに合わせた設計を検討

・SMM Arizona社(モレンシー銅鉱山)、SMM Oceania社(ノースパークス銅鉱山)で奨学金継続

・伊佐市就職予定者への奨学金返済免除施策への支援、市議会へ上程(菱刈鉱山)

障害者・高齢者への支援

・行政や地域団体・NPOなどと連携した障害者・高齢者支援プログラムの実施(1回/年以上)

・特別支援学校実習受け入れ(菱刈鉱山、播磨事業所、(株)伸光製作所)

・社会貢献フォーラム(認知症の理解や介護離職の防止)開催、マッチングギフト実施

・NPOしんせいオンラインマルシェとマッチングギフト実施 など

災害時支援

・大規模災害地域への支援

・地域合同豪雨災害想定訓練(菱刈鉱山)

・「東北復興フェア食べて応援」実施

・トルコ・シリア地震被災地支援

・ウクライナ難民等支援NPOへ賛助 など

 

⑩先住民の権利

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

先住民や先住民の伝統と文化の理解

・社内教育を実施したSMMグループ拠点の割合:2023年度末までに100%

・2022年6月1日付で改正した住友金属鉱山グループ人権方針について、社内教育動画を制作し社内研修として展開

・2021年度に展開した社内教育動画の視聴実績:5,902 人、視聴した当社グループ拠点の割合:100%

先住民の伝統と文化の尊重につながる 取り組みへの支援

・先住民を対象とする奨学金の実施(既存の取り組みの継続実施)

・既存の取り組みを実施

<フィリピン>

 地域住民及び行政などのステークホルダーと協議のうえ、地域での奨学金などを継続実施

<北米・南米JV鉱山>

 JVパートナーの取り組みを協働して実施

・NGO、学会等が実施する先住民に関連する取り組みへの支援:年1件以上の支援

・対話を継続している専門家が所属しているNPOでの講演会に参加、「責任ある鉱物調達」をテーマに意見交換を実施

 

⑪サプライチェーンにおける人権

指標

目標(2030年度)

2022年度実績

サステナビリティ調達、特に責任ある鉱物調達の推進

責任ある鉱物調達

・国際基準に合致した責任ある鉱物調達マネジメントシステムの確立:2021年度末まで

・サプライチェーン上での、児童労働等人権侵害に加担する鉱山及び製錬所ゼロの維持

・ニッケルの精錬所での第三者監査を受審。金、銀及びコバルトの製錬所での監査受審を継続。銅の製錬所での監査受審を計画

・当社製錬所における鉱物調達及び顧客からの原料調査票の調査において、人権侵害に加担する取引先はゼロ

サステナビリティ調達

・「住友金属鉱山 グループサステナビリティ調達方針」を受領し同意した取引先企業:2030年度末までに100%

・国際基準に合致したサステナビリティ調達マネジメントシステムの確立:2024年度末まで

・デュー・ディリジェンスの継続実施

・主要取引先に対し、当社グループのサステナビリティ調達を説明する動画(15分程)を配信

・主要取引先の中から事業部門及び資材部から1社ずつ計5社を選定し、各社を訪問のうえサステナビリティ(特にビジネスと人権)についての意見交換を実施

・苦情処理(救済)メカニズムとして、プラットフォームを提供する「JaCER」(一般社団法人ビジネスと人権対話救済機構)に参画

 (当社グループに関する苦情件数:0件)

 

 2023年度の実績は、当社ウェブサイト上で8月に公開を予定している「サステナビリティレポート2024」をご参照ください。なお、2024年度の第100期有価証券報告書から、GHG排出量などの一部の実績を除き、対象年度の実績を当該報告書に記載するようにします。

 

3【事業等のリスク】

(1)リスクマネジメント

① リスクの考え方

 当社グループでは、リスクには目的に対して「好ましいもの」と「好ましくないもの」の両方があると捉え、事業及び組織における目的の達成に影響を及ぼし、価値の保護及び創造を不確かにする事象をリスクと定義しています。リスクマネジメントによって「好ましいもの」を最大化するよう目標及び施策などを見直し、「好ましくないもの」を最小化するようプロセスを点検し改善して「中期経営計画」の達成、さらに「2030年のありたい姿」や「長期ビジョン」の実現をより確実にしています。

 

② リスクマネジメント(RM)の体制・枠組

 1999年に子会社である株式会社ジェー・シー・オーが起こした臨界事故を厳粛に受けとめ、リスクマネジメント方針及び重点施策の全社的取組など、リスクマネジメントの推進及び監視を行う機関として「リスクマネジメント分科会」を設置、社長を最高責任者として、当社グループを取り巻くリスク及びその変化に対応する体制(図1参照)を整えています。この体制によって運用される当社のリスクマネジメントは3つの枠組で構成され(図2参照)、経営RMにおいては、社長をはじめとする執行役員により議論され、成長戦略・事業戦略の遂行に伴う経営・事業リスクの中で特に重要なリスクを特定、対応方針及び責任部門を定め機関決定し、リスクマネジメント分科会が取組状況をモニタリングします。また拠点RMでは、主に産業事故、コンプライアンス違反、品質問題及び環境事故など、当社の経営基盤の安定を損なう個々の拠点に潜在する固有のリスクに拠点長が責任者となって取り組むことにしています。なお、社会的に影響が大きい産業事故や震災、感染症、海外有事などの緊急事態に対しては、全社危機管理体制で対処する枠組を整えています。

 

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(2)事業等のリスク

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものです。

 

① 資源開発・投資の難易度上昇

 原料の安定確保に向けた鉱山開発・投資を行っていく中、新たに発見される鉱床の高地化・奥地化・低品位化などによって優良案件の権益獲得競争が激化するとともに、開発・参入コストは増大しています。これら鉱山投資の不確実性に起因する追加投資や採鉱コスト上昇の負担あるいは投資実行の断念が、当社グループの財政状態及び経営成績の悪化につながる可能性があります。

 これらに対し当社グループは、将来の鉱山権益獲得のために各地の探鉱活動を継続するとともに、候補案件の情報収集と評価を進め、あわせて海外等のビジネスパートナーとの連携強化、業界内のプレゼンス向上を図ることで、開発・投資案件候補のパイプライン拡充に努めています。また長年にわたる探鉱経験及び鉱山評価ノウハウの蓄積に基づく慎重な採算性判断により厳選した投資を実行することで、開発の準備段階よりかかる不確実性リスクの軽減・回避に努めています。

 

② 開発の長期化

 材料事業が対象とする市場では、顧客要求、商品寿命が急速に変化する一方で、新商品の開発や既存商品の改良が長期化し、資金や人材など、多くの経営資源の投入を要することがあります。また、他社が開発した新技術・商品により当社技術・商品がコスト等の面で競争優位性を喪失する可能性もあり、それが当社グループの財政状態及び経営成績へ影響を及ぼすことが考えられます。

 当社グループでは、顧客との関係を深め、顧客及び市場ニーズを的確に把握し、それに基づく新商品開発を進めるために必要な営業及び開発体制を敷き、影響の軽減を図っています。また国の支援制度の活用や社外との共同開発、産学連携等を通じて、開発を加速させていきます。

 

③ 人的資本経営の取組遅れ

 当社グループは安定操業の継続と新規プロジェクトへの参入などの事業拡大を進めていくために必要な人材の確保・育成・活用に取り組んでいます。一方で国内における生産年齢人口の減少、若年層の就労感の変化に伴う採用競争の激化、定年退職の増加による労働力の不足への対応が急務です。

 このような状況に対し当社グループでは、DXなどの導入によって合理化・省力化を進め労働時間の低減を進めるとともに、多様な人材が活躍できる組織であるために、経営戦略と連動した人事戦略の展開、従業員一人ひとりの自律的な成長やキャリア形成を促進する人材育成体系・制度の構築、多様な人材が働きやすい社内環境の整備に取り組んでいます。また広報・ブランディング活動等による新卒・キャリアの採用競争力強化、社員のライフスタイルに合った働き方推進やDE&Iの理解・浸透や健康経営の推進にも積極的に取り組んでいます。

 

④ 気候変動への社会的責任

 気候変動や地球温暖化の原因とされるGHG排出量の削減を目的とした取組が世界的に進められ、環境対策に必要な設備投資の実施やカーボンフットプリントの削減、炭素税などの負担を排出責任者として果たしていくことが求められています。これにより、企業としての社会的責任が今まで以上に高まることが考えられます。

 当社グループは2050年のGHG排出量ネットゼロに向けて、2030年度に向けた削減目標と、2050年に向けた取り組みのロードマップを策定しています。当社はこのロードマップに沿って工場の省エネ・高効率化、LNG・木質バイオマス燃料への転換、再エネ電力の利用拡大などによりGHG排出量の削減を進めるとともに、カーボンニュートラル社会の実現に資する製品の研究開発にも取り組んでいます。

 

⑤ 製造物責任及び請求訴訟

 製造・販売する製品・サービスにおいて、厳しい品質管理の下、顧客からの要求事項を満足する品質の確保に努めています。しかしながら、例えば車載製品においては、その欠陥によって搭載されている最終商品のリコールや、それに基づく当社への損害賠償の発生、また製造物賠償責任保険でカバーできない賠償額の負担を求められることで、当社の信頼失墜及び巨額の財務負担が生じる可能性があります。

 当社グループでは顧客満足を得られる製品・サービスを提供するため、国際標準であるISO9001に基づく品質マネジメントシステム(QMS)の運用において、当社グループが求めるQMSのあるべき姿「SMM品質標準」に則り、品質の改善に取り組んでいます。また、当社グループの品質保証の推進及び品質管理の改善を図るため、品質分科会を運営し、品質方針・全社品質目標を定めて、施策の審議と実施状況の確認を行っています。このような組織・仕組のもとで、当社グループのQMSを有効に機能させ、更なる品質の向上やトレーサビリティの強化に努めています。

 

⑥ 政治・社会情勢の変化

 当社グループは、製品の製造拠点及び販売の市場を海外に求め、国際的に事業を展開しています。また、銅精鉱やニッケルマットなどの主要原材料や資機材の一部については海外からの調達を行っており、これらの国々における、政情不安、紛争、法令及び規制の変化あるいは資源ナショナリズムの高まりといった政治的、社会的情勢の変化が当社のサプライチェーン、ひいては事業継続に影響を与える可能性があります。

 当社グループは、これらのリスクに対応するために、事業部門及び海外拠点あるいは海外ビジネスパートナーの協力も得ながら、政治的・社会的情勢の変化を常にモニタリングして、変化に応じて適宜対策を講じています。

 

⑦ 経済情勢の変化

a. 非鉄金属価格の変動

 銅、ニッケル、金などの非鉄金属の価格は、ロンドン金属取引所(LME:London Metal Exchange)、その他の国際市場において決定されます(以下、それらの市場において決定された価格を、LME相場等という)。LME相場等は、国際的な需給バランス、為替の状況、政治の状況、投機的取引、さらには代替素材の競争力などの影響を受けて変動し、それらの影響による変動の状況及び期間しだいで、当社グループの経営成績にプラスもしくはマイナスの影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループでは、資源事業及び製錬事業のコスト低減を図るとともに、非鉄金属価格の変動の影響を比較的受けにくい材料事業の収益安定化をめざし、また必要に応じて、非鉄金属価格のリスクヘッジを目的とした商品先物取引、商品オプション取引を利用しています。

b. 為替レートの変動

 銅精鉱、ニッケルマットなどの輸入原料だけでなく、非鉄金属地金の国内価格も米ドル建てのLME相場等を基準に決定されることから、当社が製錬事業から得る製錬マージンは実質的に米ドル建てであり、海外への鉱山投資や製品等の輸出から得られる収入も外国通貨建てになります。したがって、為替レートの変動の状況及び期間しだいで、当社グループの経営成績にプラスもしくはマイナスの影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、為替レートの変動に対し、必要に応じて為替予約取引、通貨オプション取引、外国通貨建て口座の活用などにより対応しています。

 

 2024年度の業績予想において、非鉄金属価格及び為替レートの変動が連結税引前利益に与える影響は、以下のとおり試算しております。

変動要素

変動幅

連結税引前利益に与える影響

±100$/t

34億円

ニッケル

±10¢/lb

15億円

±10$/TOZ

3億円

為替レート(米ドル)

±1円/$

11億円

(注)上記の為替レート変動の影響額は国内の製錬収入及び海外換算為替差の合計となります。

 

⑧ 拠点における事故・災害

 当社グループが展開する国内外の製造拠点において、設備・計器の故障や誤操作、事故による破損などで有害物質の漏洩や火災・爆発のリスクがあります。また、国内各地に保有する休廃止鉱山では集中豪雨や地震などによる鉱害リスクの可能性があります。

 このようなリスクに対し当社グループでは、設備・計器の定期点検と予備品の確保、管理手順書の整備・更新と定期教育、堆積場の保全及び耐震補強工事や抗排水の水質管理を徹底しています。さらに、それらの取組状況をチェックするための日常的なパトロールに加え、本社の専門部門による定期的な巡視と是正指導も実施しています。

 なお、各拠点においては、日常的なリスクマネジメント活動として、これらのリスクの前提となる環境や条件、例えば事業環境、操業環境、人、装置、作業手順、管理基準などに変化や変更があったとき、または毎年9月に全社一斉に実施するリスク認識強化月間で対策内容を見直し、リスクの低減、事故・災害の未然防止に取り組んでいます。

 

⑨ 大規模自然災害や新型強毒性感染症、海外緊急事態

 当社グループの製造拠点は、顧客との関係、原料調達上の有利性、グループ内関連事業との連携、経営資源の有効活用などの点を考慮し立地していますが、それらの地域で大規模な地震や風水害等により生産設備等が損壊する事態、海外においては政情不安による治安悪化、誘拐やテロ等により社員の身体生命の安全にかかわる事態、そしてそのような事態によって操業停止や生産性が大幅に低下する可能性があります。また今後新たな感染症の発生・流行により、従業員の感染、急激な需要収縮やサプライチェーンの途絶による操業停止など、当社グループの業績に影響が及ぶ可能性があります。

 これら激甚化した自然災害に対し当社グループでは、建屋の耐震補強や津波発生時における浸水対策工事、排水処理能力の増強、貯水タンク増設等を進め、二次的な影響を抑えるための体制の整備として可能かつ妥当な範囲で保険を付し、また、感染症、緊急事態も含めた操業やサプライチェーンへの影響を軽減するため原料などの代替調達先の確保などにも取り組み、生産縮小・停止による供給障害を極小化させるBCP(Business Continuity Plan)を整えています。

 また、拠点単独で対応できないような事態に備えるために、常設機関として危機管理担当役員を委員長とする危機管理委員会を設け、危機に関する情報共有、事前対策の策定と改善、例えば海外におけるテロ・暴動・誘拐等を想定した訓練を実施し、危機管理機能の維持及び強化に取り組んでいます。

 

⑩ サイバーセキュリティ

 経営基盤の一部であるITにおいて、内部者の故意、過失による機密情報の流失のほか、テレワーク・クラウド利用等の増加といった環境変化により、第3者による意図的又は無差別な情報システムへの侵入・攻撃などのサイバーセキュリティリスクが増加・増大しており、それらの弊害により、工場の操業や製品品質への影響、さらには社会的な影響が大きい産業事故の発生、またステークホルダーの当社に対する信用が失われる可能性があります。

 これらに対し、当社グループでは、従業員に対する情報セキュリティ教育のほか、利用環境を問わず社内外のシステムを安全に利用できる仕組み(ゼロトラストネットワーク)や高度なセキュリティ機能を持つクラウドサービスへの移行に取り組んでいます。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容

 当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容は次のとおりであります。

(注)「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」に記載している金額のうち、「(1) 経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容 ⑤ キャッシュ・フロー」は、消費税等を含んだ金額であります。

 

① 経営成績

(単位:百万円)

 

売上高

税引前当期利益

親会社の所有者に

帰属する当期利益

当連結会計年度

1,445,388

95,795

58,601

前連結会計年度

1,422,989

229,910

160,585

増減

22,399

△134,115

△101,984

増減率(%)

1.6

△58.3

△63.5

 

(年間平均海外相場、年間平均為替相場)

 

単位

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

(△は減少)

$/t

8,551

8,362

△189

$/TOZ

1,804.8

1,989.0

184.2

ニッケル

$/lb

11.63

8.68

△2.95

為替(TTM)

円/$

135.48

144.63

9.15

 

 当連結会計年度の世界経済の成長は、緩やかに減速しました。米国では長引く金融引き締めによる影響があったものの、堅調な雇用環境などに支えられ景気は底堅く推移し、インフレ率は高止まりしました。一方で、欧州ではロシアによるウクライナ侵攻を背景とした物価高とその対策である金融引き締めが長期化していることなどから、内需は力強さに欠けるものとなりました。また、中国ではゼロコロナ政策の反動もあり前連結会計年度末から当連結会計年度の初めにかけて景気は一度持ち直したものの、不動産市場の長引く低迷及び若年層の雇用の弱さに起因した消費の低迷などが経済成長を押し下げました。

 為替相場につきましては、当連結会計年度の初めから急激な円安基調で推移し、一時的に円高方向に転じた局面もあったものの、平均為替レートは前連結会計年度に比べ大幅な円安となりました。

 主要非鉄金属価格につきましては、銅価格は、中国をはじめとした各国の経済成長の減速による需要減少への懸念や米ドル高の継続などにより当連結会計年度半ばまでは下落し、その後は緩やかに上昇したものの、平均価格は前連結会計年度を若干下回りました。ニッケル価格は、世界経済の成長減速、供給量の増加及び米ドル高などにより当連結会計年度を通して下落傾向となり、平均価格は前連結会計年度を下回りました。一方、金価格は、金融不安などにより前連結会計年度後半に上昇した後、当連結会計年度は米国における相次ぐ利上げなどにより下落する局面も見られましたが、その後、中東の地政学的緊張の高まりや利下げ観測などから上昇基調で推移し、平均価格は前連結会計年度を上回りました。

 材料事業の関連業界におきましては、成長を続けていた電気自動車市場に鈍化の兆しが見られたものの、当社が生産する車載用電池材料に対する需要は底堅く推移しました。一方、電子部品向け部材につきましては、半導体不足が解消したことにより、自動車向けなど一部の市場では回復が見られたものの、中国における景気回復のペースが遅いことや、スマートフォン及びパソコンなどの出荷台数の低迷などにより、需要は概ね低調に推移し本格的な回復には至りませんでした。

 このような状況のなか、当連結会計年度の連結売上高は、車載用電池材料の増販などにより、前連結会計年度に比べ223億99百万円増加し、1兆4,453億88百万円となりました。

 連結税引前当期利益は、銅及びニッケル価格の下落や、前連結会計年度の急速な円安進行によって生じた為替差益などの一時的な損益好転要因が当連結会計年度は縮小したことなどから、前連結会計年度に比べ1,341億15百万円減少し、957億95百万円となりました。

 親会社の所有者に帰属する当期利益は、連結税引前当期利益が減少したことなどにより、前連結会計年度に比べ1,019億84百万円減少し、586億1百万円となりました。

 セグメントの業績は、次のとおりであります。

 

(資源セグメント)

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率(%)

売上高

172,427

166,006

△6,421

△3.7

セグメント利益

76,443

52,845

△23,598

△30.9

 

 セグメント利益は、銅価格の下落や世界的な物価高などによる生産コストの増加により、前連結会計年度を下回りました。

 主要鉱山の概況は以下のとおりであります。

 菱刈鉱山は順調な操業を継続し、販売金量は計画通りの4.0tとなりました。

 モレンシー銅鉱山(米国)の生産量は、採掘量の減少により前連結会計年度を下回り、362千tとなりました(うち非支配持分を除く当社持分は25.0%)。

 セロ・ベルデ銅鉱山(ペルー)の生産量は、処理量の増加及び給鉱品位の上昇などにより前期を上回り、447千tとなりました(うち非支配持分を除く当社持分は16.8%)。

 

(製錬セグメント)

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率(%)

売上高

1,073,038

1,067,863

△5,175

△0.5

セグメント利益

117,866

62,199

△55,667

△47.2

 

(当社の主な製品別生産量)

製品

単位

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

(△は減少)

t

447,163

374,504

△72,659

kg

17,869

18,026

157

電気ニッケル

t

52,817

59,313

6,496

フェロニッケル

t

10,143

4,793

△5,350

(注)生産量には、受委託分を含めて表示しております。

 

 セグメント利益は、ニッケル価格の下落に加え、前連結会計年度の急速な円安進行によって生じた為替差益などの一時的な損益好転要因が当期は縮小したことなどから、前連結会計年度を下回りました。

 電気ニッケルの生産量及び販売量は前連結会計年度を上回りましたが、電気銅の生産量は東予工場の定期炉修(大型休転)などにより前連結会計年度を下回り、販売量も前連結会計年度を下回りました。また、フェロニッケルの生産量は生産調整を行ったため、前連結会計年度を下回りました。

 Coral Bay Nickel Corporation(フィリピン)、Taganito HPAL Nickel Corporation(フィリピン)ともに生産量は概ね前連結会計年度並みとなりました。

 

(材料セグメント)

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

増減率(%)

売上高

317,425

335,791

18,366

5.8

セグメント利益

17,323

△7,203

△24,526

 

 セグメント利益は、車載用電池材料が増販となったものの、非鉄金属価格の下落などの影響により押し下げられました。また、スマートフォン及びパソコンなどの出荷台数の低迷などの影響により電子部品向け部材の需要が弱かったこと、加えて子会社である住友金属鉱山シポレックス株式会社の株式譲渡契約の締結にかかる会計処理を行ったことなどからセグメント利益は減少して損失となり、前連結会計年度を下回りました。

 

② 経営成績に重要な影響を与える要因について

 主な要因として、資源・製錬セグメントは、非鉄金属価格及び為替レートの変動、材料セグメントは、市場動向の変化が挙げられます。詳細及び他の要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

③ 財政状態

(単位:百万円)

 

前連結会計年度末

当連結会計年度末

増減

資産合計

2,707,899

3,023,844

315,945

負債合計

918,603

1,053,148

134,545

資本合計

1,789,296

1,970,696

181,400

 

 当連結会計年度末の資産合計は、現金及び現金同等物や棚卸資産などが減少したものの、有形固定資産、持分法で会計処理されている投資、非流動資産のその他の金融資産のうち主に投資有価証券及び長期貸付金などが増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ増加しました。

 負債合計は、流動負債の社債及び借入金や未払法人所得税等などが減少したものの、営業債務及びその他の債務、非流動負債の社債及び借入金や繰延税金負債などがそれぞれ増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ増加しました。

 資本合計は、その他の資本の構成要素のうち、在外営業活動体の換算差額が円安により増加し、その他の包括

利益を通じて公正価値で測定する金融資産が保有株式の価格上昇により増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ増加しました。

 

④ 財務指標

 当連結会計年度は2022年度から2024年度までの3年間を対象とする「21中計」の2年目であります。21中計においては財務体質の健全性を示す指標として連結自己資本比率50%以上の維持といたしました当連結会計年度の連結自己資本比率(親会社所有者帰属持分比率)は、58.9%となりました

 

⑤ キャッシュ・フロー

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

増減

営業活動によるキャッシュ・フロー

120,382

210,675

90,293

投資活動によるキャッシュ・フロー

△185,503

△298,887

△113,384

財務活動によるキャッシュ・フロー

49,336

7,090

△42,246

換算差額

16,815

17,137

322

現金及び現金同等物の期首残高

213,977

215,007

1,030

現金及び現金同等物の期末残高

215,007

151,022

△63,985

 

 当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、税引前当期利益が減少し、営業債務及びその他の債務の増加幅が縮小したものの、棚卸資産が減少したことなどから、前連結会計年度に比べ収入が増加しました。

 投資活動によるキャッシュ・フローは、有形固定資産の取得については前連結会計年度並みの支出となりましたが、定期預金の払戻による収入が減少し、長期貸付けや関係会社株式の取得による支出が増加したことなどから、前連結会計年度に比べ支出が増加しました。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、配当金の支払額や社債の償還による支出が減少し、長期借入れや社債の発行による収入が増加したものの、短期借入金及び長期借入金の返済による支出が増加したことなどから、前連結会計年度に比べ収入が減少しました。

 

⑥ 資本の財源及び資金の流動性

a)財務戦略の基本的な考え方

 当社グループでは、減耗する資源を取り扱っており、常に新たな資源権益獲得のための大型開発プロジェクト参画やM&Aに備える必要があります。また、新たな製錬所建設も含め、資源・製錬の開発プロジェクトは、投資を実行してから回収するまでに、比較的長期間を要します。従い一時的な大きなキャッシュ・アウトフローに耐えうる健全な財務体質を維持していくことが重要であり、当社はこのような考え方のもと、具体的には連結自己資本比率を50%超に保つことを財務戦略の基本としております。

 

b)資金調達と流動性マネジメント

 当社は事業活動を支える資金調達に際して、低コストでかつ安定的に資金を確保することを目標として取り組んでいます。資金調達にあたっては、社債等の直接金融と銀行借入等の間接金融のバランスを見極めつつ、その時々のマーケット状況での有利手段を追求しています。資源・製錬事業における海外大型プロジェクトでは、現地のカントリーリスクにさらされることも多く、政府系金融機関による各種支援メニューや複数の金融機関による協調型融資の活用、プロジェクトファイナンスの組成など、その都度最適な資金調達方法を検討しております。

 また、当社はそのような大型プロジェクトや材料事業における戦略的増強対応など将来の投資計画を含めた全体の資金需要に対応しつつ、経営の安定化の観点から一定の手元流動性を維持することも必要であると考えています。

 当社は、手元流動性の水準を考えるにあたり、流動性リスクとして連結売上高1.5ヶ月分と半年以内返済予定の借入金等の合計額を想定し、これに対し、現金・預金及び現金同等物(以下「手元現預金」)及びコマーシャル・ペーパー発行可能枠の未使用額を合わせた金額で賄うことで対応することとしています。また、金融市場の動向によりコマーシャル・ペーパーによる調達が一時的に困難になるリスクも想定し、発行に際してはコミットメントライン契約に基づく借入限度額の範囲内にとどめることを原則としています。

 さらに、手元現預金が中長期にわたり必要額に満たなくなると想定される場合には、社債の発行や金融機関からの借入金等を通じて、必要な現預金残高を確保することを考えております。

 なお、当社は、日本国内の市場において株式会社日本格付研究所(JCR)から「ダブルAマイナス」の長期発行体格付及び「J-ワンプラス」の国内CP格付を取得しており、資金調達にあたっては十分な信用力を保持しております。また、主要な国内金融機関と円貨及び外貨でのコミットメントライン契約を締結しており、金融・資本市場の流動性が逼迫した状況下でも、コミットメントラインを使用することによって十分な流動性を確保することができると考えております。

 

⑦ 重要性がある会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(1976年大蔵省令第

28号)第93条の規定によりIFRSに準拠して作成しております。連結財務諸表の作成にあたり、必要と思われる見積りは合理的な基準に基づいて実施しております。重要性がある会計方針及び見積りの詳細につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針 及び 4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載のとおりであります。

 

(2)生産、受注及び販売の実績

① 生産実績及び受注実績

 当社グループの生産・販売品目は広範囲かつ多種多様であり、また連結会社間の取引が複雑で、報告セグメントごとの生産実績及び受注実績を正確に把握することは困難なため、当社の主要な品目等についてのみ「(1) 経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容」において、各報告セグメントの業績に関連付けて記載しております。

 

② 販売実績

 当連結会計年度における販売実績を報告セグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度(百万円)

前連結会計年度比(%)

資源

166,006

△3.7

製錬

1,067,863

△0.5

材料

335,791

5.8

報告セグメント計

1,569,660

0.4

その他

10,219

0.1

調整額

△134,491

連結財務諸表計上額

1,445,388

1.6

 (注)1.セグメント間の販売実績は、各セグメントに含めて表示しております。

2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

パナソニックホールディングス㈱

245,706

17.3

290,646

20.1

住友電気工業㈱

132,700

9.3

144,656

10.0

 

 

5【経営上の重要な契約等】

(1)モレンシー銅鉱山の共同運営契約

 当社の連結子会社でありますSumitomo Metal Mining Arizona Inc.及びSMM Morenci Inc.は、米国モレンシー銅鉱山を共同保有し、同鉱山の共同運営を行う契約を米国フリーポート・マクモラン社の関係会社と締結しております。これにより、Sumitomo Metal Mining Arizona Inc.は、同鉱山の生産物の権益見合いの15%を、SMM Morenci Inc.は13%を引き取る権利・義務を保有しております。

 

(2)Compania Contractual Minera Candelariaの共同運営契約

 当社の連結子会社でありますSMMA Candelaria Inc.は、チリ共和国Compania Contractual Minera Candelariaの株式の20%を保有し、同社の共同運営を行う契約をカナダ国ルンディン・マイニング社と締結しております。これにより、SMMA Candelaria Inc.は、Compania Contractual Minera Candelariaの生産物の20%を購入する権利・義務を保有しております。

 

(3)Sociedad Minera Cerro Verde S.A.A.の共同運営契約

 当社の連結子会社でありますSMM Cerro Verde Netherlands B.V.は、ペルー共和国のSociedad Minera Cerro Verde S.A.A.の株式の21%を保有し、当社はSociedad Minera Cerro Verde S.A.A.の共同運営を行う契約を、米国フリーポート・マクモラン社及び同社の関係会社並びにペルー共和国ブエナベンチューラ社と締結しております。これにより、当社は、Sociedad Minera Cerro Verde S.A.A.で生産された銅精鉱につき、生産量の21%を購入する権利・義務を保有しております。

 

(4)PT Vale Indonesia Tbkの共同運営契約

 当社は、インドネシア共和国のPT Vale Indonesia Tbkの株式の15%*を保有し、同社の共同運営を行う株主間契約を、カナダ国のヴァーレ・カナダ社及びインドネシア国営企業であるPT Mineral Industri Indonesia(Persero)と締結しております。またこの3社にPT Vale Indonesia Tbkを加えた4社による生産物を購入する権利・義務に関する契約を締結しております。これにより、当社は、PT Vale Indonesia Tbkのソロワコ鉱山の合意した年間生産量についてその20%を購入する権利・義務を保有しております。(*:2024年3月31日時点の保有比率)

 

(5)Coral Bay Nickel Corporationの共同運営契約

 当社の連結子会社でありますCoral Bay Nickel Corporationは、フィリピン共和国Nickel Asia Corporationより16%の出資を受け、当社は、同社とCoral Bay Nickel Corporationを共同運営する契約を締結しております。これにより、Coral Bay Nickel Corporationは、Nickel Asia Corporationの子会社であるリオツバ・ニッケル・マイニング社が操業するリオツバ鉱山のニッケル鉱のうち、HPAL法に適した鉱石を全量購入する権利を保有し、当社はCoral Bay Nickel Corporationの生産物を全量購入する権利・義務を保有しております。

 

(6)Taganito HPAL Nickel Corporationの共同運営契約

 当社の連結子会社でありますTaganito HPAL Nickel Corporationは、三井物産㈱及びNickel Asia Corporationより合計25%の出資を受け、当社は、同二社とTaganito HPAL Nickel Corporationを共同運営する契約を締結しております。これにより、Taganito HPAL Nickel Corporationは、Nickel Asia Corporationの子会社であるタガニート・マイニング社が操業するタガニート鉱山のニッケル鉱のうち、HPAL法に適した鉱石を全量購入する権利を保有し、当社はTaganito HPAL Nickel Corporationの生産物を全量購入する権利・義務を保有しております。

 

(7)ケブラダ・ブランカ銅鉱山の株主間契約

 当社の連結子会社でありますSMM Quebrada Blanca SpAは、チリ共和国ケブラダ・ブランカ銅鉱山に90%を出資するQuebrada Blanca Holdings SpAに33%の出資をしており、住友商事㈱及びカナダ国Teck Resources Ltd.のチリ国子会社Teck Resources Chile Ltd.と株主間契約を締結しております。これにより、当社は、ケブラダ・ブランカ銅鉱山における開発計画(ケブラダ・ブランカ2プロジェクト)をTeck Resources Ltd.等と共同で推進しております。

 

(8)コテ金鉱山の共同運営契約

 当社の連結子会社でありますSMM GOLD COTE INC.は、カナダ国のコテ金鉱山を同国のアイアムゴールド社と共同保有し、同鉱山の共同運営を行う契約を同社と締結しております。これにより、SMM GOLD COTE INC.は、同鉱山の生産物の39.7%を引き取る権利・義務を保有しております。

 

6【研究開発活動】

当社グループでは資源、製錬及び材料をコアビジネスとして選択と集中を進めるなか、研究開発においても研究開発費の重点配分を行い、「製錬プロセス技術」、「粉体合成・表面処理技術」、「結晶育成・加工技術」、「探鉱・採鉱・選鉱技術」をコア技術と位置付けています。また、「評価解析技術」、「数理解析技術」を基盤技術と定め、技術ドメインを明確にして重点的な開発を実行しております。

具体的には、資源開発及び非鉄製錬分野における新規プロセス・技術開発、また、材料分野では、社会的ニーズの高い環境・エネルギー分野及び情報通信分野の高機能材料・新技術開発を中心に、国家プロジェクトへの参画や産学連携を含め取り組んでおります。さらに、将来を見据えた粉体材料に関する新規技術獲得のために、粉体基礎研究にも取り組んでおります。

また、「2030年のありたい姿」実現に向け、資源、製錬、材料の3事業連携を推進し、電池リサイクル、新製錬技術等のプロセス開発を継続するとともに、温室効果ガス(GHG)排出を抑制できる製品として電池正極材、当社独自技術による近赤外線吸収材料の開発も継続し取り組んでおります。

リチウム精製につきましては、上記のどの事業にも属さない基礎研究や新規事業向け研究開発となりますが、塩湖かん水からリチウムを回収する「直接リチウム抽出法」の実証試験を開始すべくチリ共和国アントファガスタ州にパイロットプラントを設置いたしました。リチウム資源の安定調達、金属資源の有効活用、環境負荷の低減に向け、実証試験を通じて本技術の実用化を進めます。

なお、当連結会計年度に投入した研究開発費は10,959百万円であり、研究所の費用を管理上、各報告セグメントに配分した後の調整額等△333百万円が含まれております。

報告セグメントごとの研究開発活動の状況は次のとおりであります。

 

(1)資源セグメント

鉱床を探す探鉱技術、鉱床から最大限に鉱石を取り出す採鉱技術、鉱石中の有価金属を分離濃縮する選鉱技術に関する技術開発を進めております。資源系人材育成の教育システムを強化・充実させるため、北海道大学大学院工学院と九州大学大学院工学府が民間企業及び公的機関と連携して2022年に設立した「資源系教育コンソーシアム」に参画しました。非鉄金属原料鉱石の処理に関して、精鉱の品質及び実収率の改善のためのパイロット設備を利用した浮遊選鉱等の選鉱技術開発や探鉱技術及び鉱石採掘法の効率化の技術開発等を行っております。

当セグメントに係る研究開発費は155百万円であります。

 

(2)製錬セグメント

非鉄金属事業において、原料対応力、コスト競争力強化、GHG排出量削減に繋がる製錬技術の開発や新プロセス技術の開発を行っております。また、ハイブリッド自動車や電気自動車の廃リチウムイオン二次電池からニッケル、コバルト、リチウム等のメタルを回収し、電池材料に再資源化するリサイクルプロセスの開発も進めております。本プロセスは、乾式製錬工程と湿式製錬工程とを組み合わせるもので、関東電化工業株式会社との共同開発により、乾式製錬工程にて回収されたスラグから電池材料として再利用可能なレベルの高純度リチウム化合物として再資源化する技術を世界で初めて確立しております。電池リサイクルプロセス開発につきましては「蓄電池リサイクルプロセスの開発と実証」とのテーマで国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金助成事業として採択され、早期事業化に向け実証試験を進めております。なお、リチウムについては、塩湖かん水からの直接回収技術の確立も進めております。

九州大学と組織対応型連携契約を締結し、共同研究と人材育成を継続してきております。革新的な湿式製錬技術や排水処理技術の開発などに取り組んでいるほか、九州大学全体のシーズを活用して資源・製錬分野を中心にさまざまなテーマでの連携を進めております。

また、国内非鉄金属製錬業の持続的発展のための研究を目的とし、2023年4月から2028年3月の5ヶ年にわたり、東北大学多元物質科学研究所に共同研究部門(第二期)を設置いたしました。引き続き、国内の非鉄製錬企業等とも連携を深め、非鉄金属製錬講座の維持・拡大を支援するとともに、技術者の育成と確保に貢献していくことを目指します。

当セグメントに係る研究開発費は4,245百万円であります。

 

(3)材料セグメント

カーボンニュートラル実現に貢献する新技術・プロセスの研究を推進しております。二次電池関連では、リチウムイオン二次電池の正極材料であるニッケル酸リチウムについて、コスト・容量・出力及び安全性確保などの機能向上を図り、ハイブリッド自動車、電気自動車用電池への積極的な展開に取り組んでおり、開発した新規材料の量産移行を進めております。また、電池研究所(愛媛県新居浜市)は拡張され、次世代の高性能ニッケル正極材や全固体電池用正極材の開発が進んでおります。さらに、電池材料事業の拡大に資する高性能かつ低コストの正極材料及びその製造プロセスを開発する研究開発基盤を強化するため、パイロット設備の導入とそれらの設備を収容する建屋(電池研究所第2開発棟)の建設を行うことを決定しました。2023年12月に建設を開始しており、完成は2025年12月を見込んでおります。なお、全固体電池を含む高性能正極材料とGHG排出量低減プロセスの開発につきましては、「次世代蓄電池用高性能正極材料の開発と実証」とのテーマでNEDOのグリーンイノベーション基金助成事業として採択され、実用化を目指し活動を進めております。

また、GHG削減に貢献する新材料として、人工光合成光触媒材料の研究に取り組んでおり、水分解による水素製造や二酸化炭素の再資源化など、太陽光エネルギーを利用し化学反応を促進する高性能光触媒材料の創出に取り組んでおります。また、京都大学内に開設した二酸化炭素有効利用に関する産学共同講座を通じて二酸化炭素を一酸化炭素に変換する二酸化炭素還元光触媒の研究開発を進めております。

産学連携による研究開発推進のため、東北大学と包括的な共同研究と人材教育を進める組織的連携協力協定を締結し、同大学の広範囲にわたる研究機能を活用して、機能性材料や評価技術の開発及び人材育成を進める体制を整備しております。また同大学とは、2050年に向けたビジョン共創型パートナーシップに基づく取り組みも行っております。この取り組みでは、2050年をターゲットとした「ありたい姿」と「ビジョン」からバックキャストして具体化した材料系素材の共同研究・開発に取り組み、それらの事業化・社会実装の実現によって新たな価値の創造を目指しております。このビジョン達成に向けて設置した共創研究所を通じてGX材料科学(注)に関する研究開発テーマの企画・計画立案を促進しております。

エネルギーハーベスティングを実現する材料として開発中のFe-Ga磁歪合金単結晶につきまして、国際展示会等へ出展し、脱炭素社会に貢献する機能性材料として紹介いたしました。また、フィルムなどの基材の上に印刷技術で電子回路やセンサーを形成する「プリンテッドエレクトロニクス」向けの導電性インクとして、当社は国立研究開発法人物質・材料研究機構(NIMS)、株式会社プリウェイズ(NIMS発ベンチャー企業)及び持分法適用会社であるエヌ・イー ケムキャット株式会社と共同で厚膜導電性インクを開発いたしました。本インクには、プリンテッドエレクトロニクスで要求される膜厚制御と低温焼結性を実現すべく新居浜研究所にて開発中の微粒銅粉が添加されております。

当セグメントに係る研究開発費は6,875百万円であります。

(注)2050年のカーボンニュートラル実現に向けて、GHGを発生させない再生可能なクリーンエネルギーに転換し、経済社会システムや産業構造を変革させて成長に繋げるための新材料開発に資する材料科学。