文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
[経営の基本方針]
当社グループは、カワサキグループ・ミッションステートメントにおいて、「世界の人々の豊かな生活と地球環境の未来に貢献する“Global Kawasaki”」をグループミッションとして掲げ、最先端の技術で新たな価値を創造し、顧客や社会の可能性を切り拓く企業グループを目指しています。
また、「選択と集中」「質主量従」「リスクマネジメント」を指針とし、資本コストを上回る利益を安定的に創出するとともに、社会課題に対するソリューションの提供を通じてSDGs達成に貢献すべく、経済的価値・社会的価値の2つの軸で企業価値を高める経営を推進していきます。
[中長期的な会社の経営戦略・対処すべき課題]
2020年11月に、当社グループの目指す将来像として「グループビジョン2030」を制定し、各種施策を推進しています。現有主力事業の強化、事業間シナジー促進による将来の柱となる新事業育成、更に事業の選択と集中を行って事業ポートフォリオの変革を実現し、持続的な成長を追求します。
進捗状況の詳細は、当社Webサイト(https://www.khi.co.jp/groupvision2030/archive.html)をご参照下さい。
《注力するフィールド》
新たな時代の社会課題を見据え、地球環境保護のための脱炭素社会の実現、先進国を中心とした高齢化社会・労働力不足への対応、医療などの地域間格差の解消、自然災害の抑止や早期復旧、各種資源・物資やエネルギーの安定供給など、様々なソリューションをタイムリーに提供するため、以下の3つのフィールドに注力しています。
「安全安心リモート社会」-ロボティクスとネットワークを活用した新しい価値の創出
医療・ヘルスケア、ものづくり、産業インフラなど様々な分野で、当社グループが持つ遠隔操作・情報技術、ロボティクス等を用いて、安全かつ安心して暮らせる社会を創るとともに、リモート社会の実現によりすべての人々が社会参加できる新しい働き方・くらし方も提案していきます。
「近未来モビリティ」-新しい輸送システムで人とモノの移動を変革
宅配需要の増加や労働力不足、災害時の交通遮断などに対応するため、無人で物資を運ぶヘリコプタや自動配送ロボットなど、新しい輸送・移動手段を提案し、豊かでスマートかつシームレスな移動が可能な社会を創造します。
「エネルギー・環境ソリューション」-クリーンエネルギーの安定供給に向けて
カーボンニュートラル社会の早期実現に向け、世界に先駆けて水素サプライチェーンを構築します。また、当社及び国内連結子会社事業所のCO2排出量を2030年までに実質ゼロにするという、自立的なカーボンニュートラルも推進します。世界各地で、様々な方法で作ることができる水素は、カーボンニュートラルだけでなくエネルギー安全保障面からも期待が高まっており、早期に水素社会を実現できるよう取組を加速します。更に、電動化なども含めた当社グループの脱炭素ソリューションを社会やステークホルダーの皆様にも幅広くその輪を広げ、2040年にZero-Carbon Ready、2050年にはグループ全体でのCO2排出量の実質ゼロを目指します。
《成長シナリオ》
「グループビジョン2030」の成長シナリオに沿って、順調に伸長しています。足元では、パワースポーツ&エンジン事業がグループ全体の収益を強力に支え、民間航空機や航空機用エンジン、防衛関連をはじめとする受注系事業の収益も安定的に拡大しています。この先、水素事業や医療・ソーシャルロボット事業、近未来モビリティ等をはじめとする新規事業も収益の柱となり、安定した成長軌道を描くことを目指します。成長シナリオの実現のため、モノ売りからコト売りへのシフトなどのビジネスモデルの見直し、政府や自治体、他企業、研究機関との連携による新しい社会創造、ポートフォリオ・組織風土の変革にも取り組み、高収益体質を実現していきます。
それらを支える仕組みとして、AI活用、デジタル・トランスフォーメーション(DX)を推進し、業務プロセスの見える化・効率化により、新たなソリューションの創出と経営の意思決定のスピードアップ、更には“やりがい”“成長”を実感できる働き方も実現していきます。成長シナリオを支える最も重要な財産である人財が、その個性と能力を発揮する環境整備に取り組み、前向きに挑戦し続ける人と組織の実現を目指します。年齢・性別・国籍等の属性に関わらず、期待役割と成果を実現し得る人財を社内外から獲得・配置するとともに、行動特性評価による適正配置を行うなど、「グループビジョン2030」の達成と更にその先の飛躍に向けて、人事制度の刷新を含め様々な変革を絶えず推進できる企業風土が醸成されつつあります。
[経営環境、優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題]
世界経済は、米国では良好な雇用情勢や所得環境により個人消費を中心に堅調さを維持していますが、不動産不況が長期化する中国経済や地政学リスクの増大等、先行きは引き続き不透明な状況です。
国内においては、物価上昇を上回る賃上げ等による消費マインドの改善が見込まれ、設備投資の拡大やインバウンド需要により緩やかな景気回復が続くものの、日銀の政策変更による金利の上昇や、それに伴う為替相場の変動など経済への影響に注視が必要です。
このような状況の下、当社グループは収益性の向上に向け、適正な販売価格の実現やコスト競争力の強化、サプライチェーンの多様化に継続的に取り組んでいきます。また、経営資源の投入については、案件の厳選に努めつつも、注力する3つのフィールドについては、スピード感をもって積極的な投資を実行するなど、メリハリのある意思決定を行っていきます。資金面に関しても、前述の収益性向上や投資選別のほか、適正在庫の実現、資産圧縮などの対応策を進めることで、キャッシュ・フロー創出力の強化及び有利子負債の削減に努めていきます。
[経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等]
経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標を、利益(事業利益、親会社の所有者に帰属する当期利益)及び税後ROIC※とし、グループ全体として事業利益率を2027年度までに8%、2030年度までに10%超、税後ROICは資本コスト(WACC)+3%以上を目標としています。
これらの経営指標の改善の結果として自己資本利益率(ROE = 親会社の所有者に帰属する当期利益 ÷ 自己資本の期首・期末平均)の向上も図っていきます。
※税後ROIC = (親会社の所有者に帰属する当期利益 + 支払利息 × (1 - 実効税率)) ÷ 投下資本(純有利子負債の期首・期末平均 + 自己資本の期首・期末平均)
[セグメントごとの戦略及び課題]
① 航空宇宙システム事業
P-1固定翼哨戒機・C-2輸送機の修理・部品供給を含めた量産の推進及び派生型機への展開と抜本的な防衛力強化という防衛省の方針に沿った活動強化、ボーイング既存機及び民間航空エンジンの需要回復に伴うサプライチェーン及び増産体制の再整備、新たな事業機会獲得に向けた業務効率化による生産性向上、市況動向を踏まえた技術戦略の推進
② 車両事業
品質管理の強化、顧客ニーズに適合した技術・製品による差別化、コスト競争力の強化、海外プロジェクトのリスク管理強化、IoTを活用したメンテナンス事業及び軌道モニタリング事業参入等のストック型ビジネスの拡大、海外生産・海外調達及びパートナーシップの活用などグローバルな最適事業遂行体制の構築
③ エネルギーソリューション&マリン事業
水素関連プロジェクトの研究開発・事業化の推進、コアコンポーネント強化とその組み合わせによる最適システム構築、分散型エネルギー供給システムの提案、新興国・資源国を中心とした海外事業の拡大、アフターサービス事業の強化、ガス関連船建造におけるコスト競争力の強化、船舶海洋事業における中国合弁会社の収益性改善、防衛事業の収益拡大
④ 精密機械・ロボット事業
油圧事業は、新製品・戦略製品の早期開発・上市、アフターサービスビジネスの拡大、グローバル展開の加速によるコスト競争力の強化。ロボット事業は、それぞれの市場に応じた差別化による製品の付加価値向上、コスト競争力の強化、オープンイノベーションと協業の推進、デジタルプラットフォーム(Robo Cross)の構築、「hinotori™」を中心とする医療ビジネスの拡大
⑤ パワースポーツ&エンジン事業
“Kawasaki”らしい魅力ある新機種の継続投入、顧客に訴求する卓越した品質と信頼性、高いブランド価値の実現、新興国市場におけるコスト競争力の強化、連結ベースのマネジメントの徹底による効率化と収益率の向上
(1) 基本方針
当社グループでは、経営におけるサステナビリティの位置付けを明確にするため、「川崎重工グループサステナビリティ経営方針」を制定しています。「グループミッション」の達成に向けて、製品とサービスを通じて社会と環境のサステナビリティに貢献することを企業としての使命ととらえ、将来にわたり世界が直面する様々な社会・環境課題に対して革新的な解決策をつくり出すことに挑戦します。また、責任ある企業行動と経営基盤の強化を通じて、持続可能な社会と当社グループの継続的な企業価値向上をともに実現することを目指します。
この方針の下、定期的に事業活動における重要課題(マテリアリティ)を見直し、事業環境とステークホルダーからの要請・期待を踏まえた経営を行うこととしています。2021年度に実施した見直しにおいては、「グループビジョン2030」における3つの注力フィールド「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」を「事業を通じて創出する社会・環境価値」とし、直面する社会課題に対し当社グループが長期で取組むべき最重要課題と位置づけました。また、「グループミッション」とSDGsとの親和性は極めて高いと考えており、最重要課題と位置づけた3つの注力フィールドそれぞれにおける施策の推進により、事業を通じてSDGsの達成に貢献していきます。
更に、水素事業などを通じて顧客に脱炭素化ソリューションを提供する企業として、バリューチェーンを含めた事業活動における脱炭素化の早期実現を目指すとともに、ビジネスと人権、人財活躍推進、コンプライアンス、技術開発・DXなどを「事業活動を支える基盤」の重要事項と位置づけ、取組を強化していきます。
《川崎重工グループサステナビリティ経営方針》
(2) ガバナンス
当社グループでは、取締役会をグループ全体のサステナビリティ基本方針と基本計画を審議・決定する最高意思決定機関と位置づけています。また、取締役会の監督の下、社長を委員長とする執行側の委員会としてサステナビリティ委員会を設置し、取締役会で定めた基本計画に基づく各種施策を決定し、その進捗状況を取締役会に報告する体制としています。人的資本に関しても、人財マネジメントに関する基本方針・計画の決定は取締役会が行うものとし、特に重要な事項については指名諮問委員会や報酬諮問委員会に意見を求めています。執行側の会議体として全社人財マネジメント委員会を組織し、重要事項を協議・検討するほか、定期的に関係部門を招集し、ディスカッションを行っています。
《取締役会におけるサステナビリティ、人的資本に関する審議テーマ》
取締役会では、各種グループ基本方針を制定し、基本的な考え方や具体的方針を明文化しています。また、「グループビジョン2030」策定以降は、サステナビリティ経営方針の実現に向け、これまで審議してきた環境経営基本計画などに加え、経営基盤強化のための人事制度改革やその運用、取締役のスキル・マトリックスや後継者育成計画、人財の多様性、エンゲージメントなど、人的資本に関する重要なテーマについても実効性の高い議論を行っています。サステナビリティ並びに人的資本に関連して、近年の取締役会で審議・報告されたテーマは下図のとおりです。

《サステナビリティに関するガバナンス体制》
サステナビリティに関する事項は、主に以下の項目についてサステナビリティ委員会で審議・報告を行っています。
1.社会・環境と当社グループ相互の持続可能性の実現、当社グループの企業価値向上に資する各種施策、及びその実行や達成状況に関する事項
2.当社グループの事業活動が社会・環境に及ぼす負の影響の把握とその低減・撲滅に向けた各種施策、及びその実行や達成状況に関する事項
サステナビリティ委員会はカンパニープレジデントや川崎車両㈱社長、カワサキモータース㈱社長、サステナビリティ担当役員、本社各本部長などの委員から構成されます。社外の知見及び意見を委員会の意思決定に反映させる観点から社外取締役も出席し、更に業務執行監査の観点から監査等委員も出席しています。サステナビリティ委員会は原則として年2回以上開催することとしており、2023年度は3回開催し、取締役会へ報告しています。
サステナビリティ推進体制図

《人的資本に関するガバナンス体制》
経営に大きな影響を及ぼす全社的な人財の育成・活用の方針、特に①経営者の育成、②重点施策における人財の活用、③新事業・新製品への人財の投入、④各種人事施策の運用状況などについては全社人財マネジメント委員会で協議・検討しています。
全社人財マネジメント委員会は社長が議長となり、カンパニープレジデントや川崎車両㈱社長、カワサキモータース㈱社長を中心に招集し、年4回開催することとしています。人財マネジメント委員会で協議した内容を反映し、各種施策について経営会議で審議の上、取締役会に報告する体制としています。
また、各種人事施策の詳細立案・策定時の意見収集、全社方針の伝達を目的として本社人事本部がカンパニーの人事・勤労担当部門長を招集し、各種会議体を開催しています。
人財マネジメント体制図

(3) リスク管理
サステナビリティに関するリスクの識別・評価は、サステナビリティ委員会にて実施しており、事業環境とステークホルダーからの要請・期待の変化に対して、リスクと機会の両面から必要な対応について審議・報告を行っています。2023年度は主に人権デューデリジェンスや気候変動対応、生物多様性に関して議論しました。更に、定期的な重要課題(マテリアリティ)の見直しにおいても、各課題に関するリスク評価を行っています。それらの内容は少なくとも年に2回取締役会に報告を行い、サステナビリティ課題への対応について取締役会が監督を行っています。
また、リスクマネジメント担当部門による全社的リスク管理においても、サステナビリティに関する事項、特にカーボンニュートラルや循環型社会を目指す地球環境に関する事項、新たな価値提供を担う人財と組織強化を目的とした人的資本に関する事項等はリスクモニターの対象とし、リスク管理主管部門によるリスク評価やモニタリングを継続して実施しています。その活動内容は年に4回取締役会に報告し、対応の方向性を審議した上で、各リスクの対象となる部門へ必要なフィードバックを行っています。
全社的リスク管理に関しては、
《重要課題(マテリアリティ)》
当社グループでは、多様化するステークホルダーからの期待・要望と事業環境の変化を踏まえ、当社グループの企業活動が社会に与える影響を認識・整理し、2018年に重要課題(マテリアリティ)を特定しました。
更に2021年には、前年に発表した「グループビジョン2030」を受け、重要課題(マテリアリティ)の見直しを行いました。2018年と同様、重要課題(マテリアリティ)は「事業を通じて創出する社会・環境価値」と「事業活動を支える基盤」に大別し、事業を通じた取組を「当社グループが長期で達成すべき最重要課題」と定義し、その事業活動を支える課題を、最重要課題の達成に向けた「基盤項目」と位置づけています。今後も、事業環境や社会からの期待の変化に即し、定期的に重要課題(マテリアリティ)の見直しを行っていきます。
重要課題(マテリアリティ)の特定プロセスのほか、外部有識者のコメントやそれを受けた対応など、詳細は
抽出した重要課題(マテリアリティ)のマッピング

特定した重要課題(マテリアリティ)の主な事項に関する戦略並びに指標及び目標は以下のとおりです。
①事業を通じて創出する社会・環境価値~3つの注力フィールド~
3つの注力フィールドである「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」は、「事業を通じて創出する社会・環境価値」として、直面する社会課題に対し当社グループが長期で取組むべき最重要課題と位置づけたものです。詳細は、
a) 安全安心リモート社会
当社グループが持つ遠隔操作・情報技術、ロボティクス等を用いて、すべての人々が豊かで安全かつ安心して暮らせる社会を創造します。具体的には、医療・ヘルスケア分野における患者の負担減ニーズ、医師の不足や負担増問題、地域による医療格差、製造業・サービス業における労働力不足や労働環境悪化などの課題解決を目指しています。また、働き方の多様化が進む社会において実作業を伴うリモートワーク環境を提供するほか、屋内位置情報ソリューションの提供により、すべての人々が社会参加できる新しい働き方・暮らし方を実現します。
今後、国内では労働力人口の需要と供給のギャップが生じると予想されています。当社グループは、2030年には医療・福祉関係者が約200万人、製造業・サービス業等の働き手が約400万人不足するものと予測しており、リモートによる新しい価値の創造によりそれらの解消に貢献していきます。この代表的な取組例である手術支援ロボットは、2023年9月にシンガポールで販売承認を取得し、グローバル展開の第一歩を踏み出しました。国内においては厚生労働省の承認により適応対象診療科が更に拡大し、2023年度末時点で累計55施設へ導入、累計4,225症例と実績を積んでいるほか、遠隔手術・手術支援の実現に向けたプロジェクトに参画し、実証実験を行っています。更に、2023年7月にはロボットを介した新たなリモートワークを実現するプラットフォームサービスの提供も開始しました。
b) 近未来モビリティ
物流量の増加や少子高齢化に伴う労働力不足といった社会環境の中でも、すべての働く人がその人らしく、そしてその人にしかできない仕事に集中できる社会を実現します。そのために、無人で物資を運ぶヘリコプタ(無人VTOL機)や自動配送ロボットなど、新しい輸送・移動手段を提案し、スマートかつシームレスな移動が可能な豊かな社会を創造します。都市部で多発している交通渋滞や、物流拠点間での輸送時間のロス、自然災害による交通遮断といった課題に対しても、人・モノの移動の変革を通じて、当社だからこそ可能なソリューションで応えます。
無人VTOL機「K-RACER-X2」は、2023年12月に200kg(日本で開発された無人機では最大)の貨物搭載能力を確認しました。今後は、長野県伊那市からの委託事業において、実環境での山小屋への物資輸送の飛行実証を行う一方、自動吊下げシステムを用いた検証を行い、荷揚げから荷降ろしまで人の手を介さないシームレスな物資輸送サービスの構築を目指します。また、医療従事者の負担軽減および業務効率化を目指す取組として、2023年7月に藤田医科大学病院でサービスロボットのトライアルサービスを開始しました。複数台のロボットとエレベータ・自動ドアを連携した24時間運用により、その効果や信頼性が確認され、2024年4月に正式導入されています。これら取組を推進し、社会課題に対して迅速かつ効果的にソリューションを提供していきます。
c) エネルギー・環境ソリューション
カーボンニュートラル社会の早期実現に向けて、世界に先駆けて水素サプライチェーンを構築します。また、水素発電を軸とした自主的な取組により、2030年に当社及び国内連結子会社においてカーボンニュートラルを目指します。世界中の様々な場所で、様々な方法で作ることができる水素は、カーボンニュートラルに加えてエネルギー安全保障の面からも期待が高まっており、早期に水素社会を実現できるよう各取組を加速します。モーターサイクルや船舶、航空機をはじめとする輸送機器・システムの水素エンジン化、電動化・ハイブリッド化、代替燃料対応等を進め、脱炭素社会の早期実現に貢献します。
水素事業については、当社グループの脱炭素ソリューションを活用した水素供給量、CO2削減量をKPIとしており、水素供給量は2031年頃に22.5万トン/年、CO2削減量は160万トンを目指します。2022年に世界で初めて、海外で製造した水素を液化水素運搬船で海上輸送・荷役する実証実験を完遂しました。また16万㎥型の大型液化水素運搬船の基本設計承認、並びにそれに搭載する発電用水素焚き二元燃料エンジン及び関連システムの基本設計承認を日本海事協会から取得したほか、大型液化水素運搬船用貨物タンクの技術開発も完了しました。更に、液化水素の出荷基地及び受入基地の決定や、供給・需要創出両面で各社との連携(仲間づくり)の加速化など、商用化に向けて着々と実績を積んでいます。
②気候変動への対応
当社グループは、世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して1.5℃に抑えるというパリ協定で掲げた目標の実現を目指し、「グループビジョン2030」のもと、水素発電を軸とした自主的な取組に加え、省エネルギーの更なる進展、再生可能エネルギーの拡大及び廃棄物発電の拡充により、2030年に当社及び国内連結子会社においてカーボンニュートラルを目指します。更に、当社グループの脱炭素ソリューションを社会や取引先、顧客にも広げ、世の中のカーボンニュートラルの早期実現に貢献していきます。そのために当社グループは高効率の発電設備、水素との混焼ガスタービンなど化石燃料からカーボンニュートラルへの移行(トランジション)に不可欠な製品やサービスを多く取り揃え、この分野でも大きく貢献していきます。

また、激甚化する自然災害に対しては、リスク分析に基づき、事業継続計画(BCP)やサプライチェーンの強靭化などの対策を進めています。気候変動関連のリスクと機会及びそれらがもたらす事業・戦略・財務計画への影響については、2019年に賛同署名したTCFD提言のフレームワークに基づき、分析・評価を行っています。2023年度においては、1.5℃、4℃のシナリオを想定し、「グループビジョン2030」の目指す姿である2030年時点における事業セグメントごとの影響評価と財務インパクト評価を実施しました。これらを含む気候変動への取組は、CDPにより透明性とパフォーマンスにおけるリーダーシップが認められ、2022年に引き続き2023年も気候変動調査の「Aリスト企業」に認定されました。
なお、シナリオ分析を含むTCFD提言に基づく情報開示は
(注) 1.CO2排出量は2022年度実績(SGSジャパン㈱による検証済)です。最新の情報は
2.Zero-Carbon Readyは、カテゴリー⑪の対応策に記載の取組を示す当社の造語です。
3.CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage(CO2 の回収・有効利用・貯留)
川崎重工グループのCO2排出削減目標


③多様な人財が個性と能力を最大限発揮する環境整備
社会が求める新たな価値を持続的に提供するために人財は最も重要な財産であり、「グループビジョン2030」においても、人的資本の充実は成長シナリオを支える重要な要素と位置づけています。この認識の下、当社グループは人的資本に関する基本方針「川崎重工グループ人財マネジメント方針」に則り、多様な人財の獲得・育成、その個性と能力を発揮する環境整備、前向きに挑戦し続ける人と組織の実現に向けて、各種施策を展開しています。なお、各種施策の詳細やその他の取組については、各項目に記載したURLから当社Webサイトをご参照下さい。
《人財育成方針》
社内外の組織の枠・製品の枠を超えて新たな事業領域に挑戦し成果を出す人財を育成するとともに、組織を動機づけ成果を最大化させるための適切なマネジメントが必要と考えています。
そのため、2021年から、自ら高い目標を掲げ覚悟とスピード感をもってやり抜く人財を後押しし評価する「チャレンジ&コミットメント」をコンセプトとする人事制度をスタートさせ、年齢・性別・国籍等の属性に関わらず、期待役割と成果を実現し得る人財を社内外から獲得・配置するとともに、行動特性評価による適正配置や、部課長を対象とした研修を実施しマネジメント層の育成にも取り組んでいます。
また、持続的に事業変革をリードする経営者の育成強化が必要と考えており、経営者に求める素養の可視化、外部アセスメントの活用、社長・副社長による面談などを行い、後継者候補を選定しています。加えて、「Kawasaki経営実戦塾」「Kawasaki経営塾」「Kawasaki経営入門塾」などの経営者育成プログラムを幅広い層を対象に実施し、計画的な経営者育成に取り組んでいます。
《社内環境整備方針》
「グループビジョン2030」の達成と更にその先の飛躍に向けて「枠を超え成長し続けるオープンで自由闊達・創造的なチーム」であり続けるため、より多くの人財が働きがいと働きやすさを実感できる環境づくりが重要と考えてい
(注)1.エンゲージメントサーベイにおいて、「会社でスキルや経験を発揮できる機会があり、働きやすい環境であるかどうか(働きやすさ)」に関する複数の設問において、肯定的な回答をしている社員の割合。
2.同サーベイにおいて、「会社への貢献意欲・自発的に取り組む姿勢が醸成されているか(働きがい)」に関する複数の設問において、肯定的な回答をしている社員の割合。
《ダイバーシティの促進》
持続的な企業価値の向上を図っていくためには、国籍、性別、年齢、宗教の違いや障がいの有無などに関わらず、世界中で活躍する従業員一人ひとりが持つ能力や特性を存分に発揮でき、それを最大化する組織づくりが重要です。特に、育児・介護と仕事の両立支援を目的に、子どもが3歳に到達するまで取得できる「育児休業」、小学校卒業まで利用できる「短時間勤務制度」、最長3年間取得できる「介護休業」、育児・介護などで必要なときに時間単位で休暇を取れる制度など、国の基準を上回る取組をしています。これらのダイバーシティ推進の積極的な取組が評価され、女性活躍に優れた企業として「なでしこ銘柄」(2014年度)に選定され、「えるぼし」(2016年)や「くるみん」(2010年、2015年)の認定も取得しています。
今後も、新卒採用において事務系総合職の40%以上、技術系総合職の15%以上を目標として女性の積極採用を継続的に推進するとともに、人財育成や環境醸成等の各種施策により女性をはじめとする多様な人財の活躍推進を図ります。また、仕事と育児の両立に対する理解促進や働きやすい職場づくりの一助になると考え、男性育児休業取得率の2025年度目標を30%超から50%以上に引き上げました。セミナー等による意識改革や制度・環境の整備に加え、DXを活用した業務プロセス改革により育児休業を取得しやすい職場環境を実現し、早期の目標達成を目指します。
当事業年度の主な施策
● LGBTやアンコンシャスバイアスなど「多様性について考えるセミナー」の開催
● 大学と連携した「女性エンジニア養成プログラム」でのワークショップや地元企業との「技術系女性交流会」「女性リーダー育成勉強会」などのイベントを開催
● 女性管理職を対象とした「D&Iフォーラム」では社長からのメッセージや女性役員によるパネルディスカッションの開催
《安全・衛生・健康》
当社グループは、従業員が心身共に健康で安全に働ける環境を提供すること大切にしています。すべての従業員が安心して働けるように、安全・衛生・健康を保持するための労働災害対策・傷病休業対策・生活習慣の改善を推進し、休業災害の発生防止に重点をおいて、休業災害度数率の低減に向けた安全管理活動の改善に努めています。また、労働生産性に影響する生活習慣の6項目を点数化した当社独自指数の「健康スコア」を測定し、健康スコアが平均以下の従業員の6割以上が生活習慣を改善し達成する水準を目標に掲げ、生活習慣の改善に向けた施策に反映しています。
2023年の健康スコアは2022年を下回る結果となりました。それぞれ下表の対応策の徹底・強化に加え、原因分析の深化やイベント等を活用した施策により改善を目指します。
(注)今期3年間(2022~2024年)の平均が、直近5年間(2017~2021年)の平均値比9%以上削減することを目標としています。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりです。これらのリスクは、経営会議等での審議等を経て抽出しており、取締役会において連結財務諸表での重要性、影響度、網羅性を確認した上で選定しています。また、当社グループでは、事業等のリスクを、将来の経営成績等に与える影響の程度や発生の蓋然性等に応じて、「特に重要なリスク」「その他の重要なリスク」に分類しています。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものです。
なお、リスクを把握し、管理する体制・枠組みについては、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等(1)コーポレート・ガバナンスの概要」をご参照下さい。
(特に重要なリスク)
(その他の重要なリスク)
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。これらは、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の経営方針・経営戦略等を踏まえて分析しています。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 連結業績の概況
世界経済は、米国では良好な雇用情勢や所得環境により個人消費を中心に堅調さを維持していますが、不動産不況が長期化する中国経済や地政学リスクの増大等、先行きは引き続き不透明な状況です。
国内においては、物価上昇を上回る賃上げ等による消費マインドの改善が見込まれ、設備投資の拡大やインバウンド需要により緩やかな景気回復が続くものの、日銀の政策変更による金利の上昇や、それに伴う為替相場の変動など経済への影響に注視が必要です。
このような経営環境の中で、当連結会計年度における当社グループの連結受注高は、車両事業、精密機械・ロボット事業などでの減少となったものの、航空宇宙システム事業などでの増加により増加となりました。連結売上収益については、車両事業、航空宇宙システム事業などが増収となったことにより、全体でも前期比で増収となりました。利益面に関しては、事業利益は、エネルギーソリューション&マリン事業などでの増益はあったものの、航空宇宙システム事業、パワースポーツ&エンジン事業、精密機械・ロボット事業での悪化などにより、前期比で減益となりました。親会社の所有者に帰属する当期利益は、事業利益の減益などにより減益となりました。
この結果、当社グループの連結受注高は前期比459億円増加の2兆834億円、連結売上収益は前期比1,236億円増収の1兆8,492億円、事業利益は前期比361億円減益の462億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比276億円減益の253億円となりました。また、事業利益率は2.5%、税後ROICは2.8%、ROEは4.2%となりました。(※)なお、現状の資本コスト(WACC)は4~5%台と推計しておりますが、直近の株価動向を考慮すると今後上昇の可能性があります。
※ 税後ROIC = (親会社の所有者に帰属する当期利益 + 支払利息 × (1 - 実効税率)) ÷ 投下資本
(純有利子負債の期首・期末平均 + 自己資本の期首・期末平均)
② セグメント別業績の概要
航空宇宙システム事業
航空宇宙システム事業を取り巻く経営環境は、防衛省向けについては抜本的な防衛力強化という防衛省の方針のもと、引き続き需要増が期待されます。民間航空機については、航空旅客需要はほぼコロナ前水準に回復しており、機体のコロナリバウンド需要が旺盛なことから、機体・エンジンともに需要が増加しています。
このような経営環境の中で、連結受注高は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品が増加したことなどにより、前期に比べ3,470億円増加の6,926億円となりました。
連結売上収益は、民間航空エンジンの運航上の問題に係る損失を一括計上したものの、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品、民間航空エンジン分担製造品などが増加したことなどにより、前期に比べ473億円増収の3,961億円となりました。
事業損益は、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品などの増収による増益はあるものの、民間航空エンジンの運航上の問題に係る損失を一括計上したことなどにより、前期に比べ298億円悪化して150億円の損失となりました。
車両事業
車両事業を取り巻く経営環境は、新型コロナウイルスの収束により利用者数が回復し、国内外で鉄道車両への投資が再開しています。一方で、足元への影響は限定的ではあるものの、電子部品を中心とした機器調達の長期化等、収束が見えつつも注視が必要です。中長期的には、海外市場では都市交通整備、アジア諸国の経済発展に伴う鉄道インフラニーズなど、今後も世界的に比較的安定した成長が見込まれます。
このような経営環境の中で、連結受注高は、ニューヨーク市交通局向け新型地下鉄電車等の大口案件を受注した前期に比べ2,244億円減少の887億円となりました。
連結売上収益は、国内向け車両が減少したものの、米国向け車両が増加したことなどにより、前期に比べ640億円増収の1,959億円となりました。
事業利益は、国内の操業低下があったものの、増収による増益などにより、前期に比べ23億円増益の37億円となりました。
エネルギーソリューション&マリン事業
エネルギーソリューション&マリン事業を取り巻く経営環境は、世界的なカーボンニュートラルの実現を目指す動きの影響を強く受け、当社が強みとする水素製品をはじめ、脱炭素ソリューションに関する問い合わせや協力要請が増加しています。また、国内外の分散型電源需要及び新興国におけるエネルギーインフラ整備需要は依然根強く、国内ごみ焼却設備の老朽化更新需要も継続しています。一方、発電設備の稼働に必要な燃料ガスの供給安定性など足元の状況に不透明感があるほか、昨今の原材料価格や資機材・燃料費の高止まり等による受注、売上収益への影響には注視が必要です。
このような経営環境の中で、連結受注高は、防衛省向け艦艇用機器や国内ごみ焼却設備などの受注はあったものの、LPG/アンモニア運搬船の受注の多かった前期に比べ373億円減少の4,016億円となりました。
連結売上収益は、LPG/アンモニア運搬船を中心とした船舶海洋分野やエネルギー分野を主要因として、前期に比べ386億円増収の3,532億円となりました。
事業利益は、船舶海洋分野の持分法投資利益の増加、エネルギー分野の増収による増益などにより、前期に比べ280億円増益の319億円となりました。
精密機械・ロボット事業
精密機械・ロボット事業を取り巻く経営環境は、精密機械分野では、中国以外の地域における建設機械市場については堅調に推移しましたが、中国建設機械市場は、不動産不況の長期化等の影響により需要が低迷しました。ロボット分野では、半導体製造装置向けロボットの需要の低迷が底を打ち、2024年度からAI関連やグリーン投資関連等の新たな需要を取り込みつつ、回復していきます。一方で、一般産業用ロボットは、最大の需要国である中国の景況が依然として低調であり、在庫調整が長期化していますが、人件費上昇や労働力不足による自動化需要は確実に高まっています。
このような経営環境の中で、連結受注高は、中国建設機械市場向け油圧機器や産業用ロボット全般が減少したことなどにより、前期に比べ486億円減少の2,133億円となりました。
連結売上収益は、中国建設機械市場向け油圧機器や産業用ロボット全般が減少したことなどにより、前期に比べ247億円減収の2,279億円となりました。
事業損益は、減収に加え、操業低下の影響などにより、前期に比べ107億円悪化の19億円の損失となりました。
パワースポーツ&エンジン事業
パワースポーツ&エンジン事業を取り巻く経営環境は、主要市場である米国と欧州では需要は堅調に推移しているものの、前年度のサプライチェーン混乱が収束し各メーカーの供給量が増えた結果、市場競争が激化しています。また、レクリエーション需要が弱まっていることから、欧米以外は全般的に中大型二輪市場が縮小しつつあります。
このような経営環境の中で、連結売上収益は、北米向け四輪車と欧州向け二輪車が増加したものの、中国、東南アジア向け二輪車と汎用エンジンが減少したことなどにより、前期並みの5,924億円となりました。
事業利益は、固定費の増加や、米国向け四輪車に係るリコール関連費用(※)の計上などにより、前期に比べ234億円減益の480億円となりました。
※ 米国向け四輪車の一部機種におけるリコールに関し、米国消費者製品安全委員会から制裁金を課す旨の通知を受領したものです。
その他事業
連結売上収益は、前期に比べ28億円減収の835億円となりました。
事業損益は、前期に比べ29億円改善して11億円の利益となりました。
当社グループは「グループビジョン2030」において、注力するフィールドを「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」とし、手術支援ロボットをはじめとする医療・ヘルスケア事業、配送ロボットや無人輸送ヘリコプタの事業化、カーボンニュートラル社会の早期実現に向けた水素事業や電動化の推進など、社会課題ソリューション創出への取組を着実に進めています。
更に、能登半島地震の被災地のいち早い復興への支援に協力するとともに、今後可能性が高まる様々な自然災害へ対応できる支援パッケージの充実に努めています。
(資産)
流動資産は、営業債権及びその他の債権などの増加により前期末に比べ1,565億円増加し、1兆7,269億円となりました。
非流動資産は、有形固定資産の増加などにより前期末に比べ658億円増加し、9,532億円となりました。
この結果、総資産は前期末比2,224億円増加の2兆6,801億円となりました。
(負債)
有利子負債は、前期末に比べ640億円増加の6,539億円となりました。
負債全体では、有利子負債や営業債務及びその他の債務の増加などにより前期末に比べ1,647億円増加の2兆256億円となりました。
(資本)
資本は、在外営業活動体の換算差額の増加に加え、親会社の所有者に帰属する当期利益の計上などにより、前期末比576億円増加の6,545億円となりました。
当期末における現金及び現金同等物(以下「資金」)は前期比542億円減の841億円となりました。当期における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は、次のとおりです。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果得られた資金は、前年同期に比べ80億円増の316億円となりました。収入の主な内訳は、減価償却費及び償却費809億円、営業債務及びその他の債務の増加額435億円であり、支出の主な内訳は、営業債権及びその他の債権の増加額1,864億円、その他流動負債の減少額190億円です。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果支出した資金は、前年同期に比べ123億円増の898億円となりました。これは主に有形固定資産及び無形資産の取得によるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果獲得した資金は、前年同期に比べ723億円減の129億円となりました。これは主に債権流動化による収入によるものです。
① 財務政策
当社グループの運転資金・投資向け資金等の必要資金については、主として営業キャッシュ・フローで獲得した資金を財源としていますが、必要に応じて、短期的な資金については銀行借入やコマーシャル・ペーパーなど、設備投資資金・投融資資金等の長期的な資金については、設備投資・事業投資計画に基づき、金融市場動向や固定資産とのバランス、既存借入金及び既発行債の償還時期などを総合的に勘案し、長期借入金や社債などによって調達しています。
当社グループは上述の多様な資金調達源に加え、複数の金融機関とコミットメントライン契約を締結しており、事業活動に必要な資金の流動性を確保しています。また、当社と国内子会社間、また海外の一部地域の関係会社間ではキャッシュ・マネジメント・システムによる資金融通を行っており、グループ内の資金効率向上に努めています。
② 資金需要の主な内容
当社グループの資金需要は、営業活動に係る資金支出では生産活動に必要な運転資金(材料費、外注費、人件費等)、受注活動又は販売促進のための販売費、新規事業の立ち上げや製品競争力の強化のための研究開発費などがあります。投資活動に係る資金支出には、事業の遂行、新規立ち上げ、生産性向上のための設備や施設への投資などがあります。
当社グループは、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標を事業利益率及びROICとし、事業利益率については2027年度に8%、2030年度に10%超の水準、税後ROICについては資本コスト(WACC)+3%以上を確保すべく努めていきます。なお、現状のWACCは4~5%台と推計しています。
2023年度は、事業利益462億円、事業利益率2.5%、税後ROIC2.8%と年初に公表した計画から大幅に悪化する形となりましたが、その悪化の大部分は民間航空エンジンの運航上の問題に係る損失約600億円を一括計上したことによるものです。
2024年度は、前年度の一過性損失がなくなることに加え、防衛案件の増加や航空旅客需要の順調な回復に伴う航空宇宙システム事業の利益伸長や、パワースポーツ&エンジン事業におけるメキシコ工場の稼働開始とオフロード四輪車の拡販等により、過去最高益の達成とともに、事業利益率5.8%、税後ROIC6.7%を見込んでいます。
「グループビジョン2030」においては、まずパワースポーツ&エンジン事業をはじめとする量産系事業がコロナ禍から立ち上がり、航空宇宙システム事業をはじめとする受注系事業の業績が回復・拡大し、更に水素や医療ロボットといった新規事業が収益の柱となって安定的な成長軌道を描くことを目指しています。現状はまさに受注系事業の業績が回復し成長軌道に回帰した段階であり、掲げた成長シナリオに沿って進捗していると考えています。目標とする水準に早く到達するため、各セグメントにおける重点施策の着実な実行に加え、適正な販売価格の実現やコスト競争力の強化に継続的に取り組んでいきます。
また、2023年度のフリー・キャッシュフローに関しては△581億となっていますが、売上増加に伴う運転資本の増加やパワースポーツ&エンジン事業における増産対応投資等により、一時的に資金負担が増加したことによるものです。今後の利益の伸長及び運転資本の効率的な運用により早期の回復に努めていきます。
なお、前連結会計年度及び当連結会計年度の全社及びセグメントごとの事業利益率は、次のとおりです。
(単位:%)
航空宇宙システム事業においては、防衛省向けや民間航空機向け分担製造品などの増収による増益はあるものの、民間航空エンジンの運航上の問題に係る損失を一括計上したことなどにより、事業利益率は前期に比べ8.0ポイント低下しました。また、エネルギーソリューション&マリン事業においては、船舶海洋分野の持分法投資利益の増加、エネルギー分野の増収による増益などにより、前期に比べ7.7ポイント上昇しました。更に、精密機械・ロボット事業においては、減収に加え、操業低下の影響などにより、前期に比べ4.3ポイント低下しました。
① 生産実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの生産実績は、次のとおりです。
(注) 金額は、生産高(製造原価)によっています。
② 受注実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの受注実績は、次のとおりです。
(注) 1 パワースポーツ&エンジン事業については、主として見込み生産を行っていることから、受注高について売上収益と同額とし、受注残高を表示していません。
2 セグメント間の取引については、受注高及び受注残高から相殺消去しています。
③ 販売実績
当連結会計年度におけるセグメントごとの販売実績は、次のとおりです。
(注) 1 販売高は、外部顧客に対する売上収益です。
2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成されています。その作成においては、連結財政状態計算書上の資産、負債の計上額、及び連結損益計算書上の収益、費用の計上額に影響を与える見積り及び仮定を使用しています。
詳細については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 2.作成の基礎 (4) 重要な会計上の見積り及び判断の利用」及び「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しています。
当連結会計年度は、「グループビジョン2030」で描いた成長シナリオの着実な推進を見据え、各事業の足元の競争力強化や事業ポートフォリオの変革、更には「安全安心リモート社会」「近未来モビリティ」「エネルギー・環境ソリューション」の注力フィールドへのチャレンジに向けた研究開発に取り組みました。
これに向けて、各事業部門と本社各部門が一体となり当社グループの技術シナジーの最大化を図るほか、社外パートナーとも連携し、最新のデジタル技術も取り入れながら、将来にわたる顧客への提供価値を高めるべく研究開発を推進しました。また、将来のカーボンニュートラルに向けては、グリーンイノベーション基金などの政府支援も活用しながら、国際的な液化水素サプライチェーンの構築を目指した商用化実証など、水素社会の早期実現を目指した取組にも注力しています。
当連結会計年度における研究開発費は
航空宇宙システム事業
航空宇宙事業では防衛省による抜本的な防衛力強化の方針を受け、固定翼機や回転翼機の近代化・派生型事業及び次世代練習機に向けた研究開発、新SSM等のスタンドオフ防衛能力向上に向けた研究開発、先進的なAI技術を活かした無人化、自律化の研究開発、VR等のデジタル技術を活用した教育訓練システムの研究開発に重点的に取り組んでいます。民間航空機事業ではロボットを活用した生産技術や、宇宙事業においては有人探査への参画や小型衛星開発等に向けた研究開発について推進しています。また、デジタル技術を用いた航空機設計・製造プロセス高度化にも取り組んでいます。
航空エンジン事業では、自社開発エンジンの防衛事業への展開実績を足掛かりとして、小型・軽量・高出力なエンジン(KJ300シリーズ)の実用化に向けた研究開発を推進しています。また、将来の航空エンジンに求められる環境性や高効率化を目指し、圧縮機・燃焼器技術、ギアシステム技術や革新的な生産技術に関する研究開発についても取り組んでいます。
更に、水素航空機のエンジン/燃焼システム技術や燃料タンクに関する研究開発にグリーンイノベーション基金も活用しながら取り組んでいます。
当事業に係る研究開発費は
車両事業
非電化鉄道でのカーボンニュートラルを目指す水素を動力源とする車両システムの開発と実証に取り組んでいます。また、鉄道事業者の課題解決ニーズに応えるメンテナンス性向上、自動化・ロボット化による合理的生産技術等の開発に取り組んでいます。更に、ストック型ビジネスの拡大を目指して、各種センシング・デジタル技術を活用した車両・軌道の状態監視や診断による効率的なメンテナンスシステムの開発と実証を推進しています。
当事業に係る研究開発費は
エネルギーソリューション&マリン事業
エネルギー事業では、ガスタービンの高効率化、ガスエンジンの次世代機、熱と電気の最適なエネルギー供給を実現する蓄電ハイブリッドシステムやエネルギー機器の信頼性向上に向けた技術開発に加え、再生可能エネルギー導入時の系統安定化効果を持つ仮想同期発電機制御技術などの研究開発に取り組んでいます。
プラント事業では、電気自動車の普及に伴い需要増が見込まれる電池の材料供給不足解消と循環型社会の促進を意図した廃リチウムイオン電池リサイクルシステムの実証などの研究開発に取り組むとともに、カーボンニュートラルの実現に向けたCO2分離回収システムの実用化開発を実施しています。
舶用推進・船舶海洋事業では、大型化する船舶の更なる安全管理と人手不足が進む乗組員の負担軽減を目指し、推進機・係船機の連携制御、運動予測モデル、センシング技術を組み合わせた自動操船支援システムの開発に取り組んでいます。
更に、水素社会の早期実現に向け、液化水素運搬船の商用化に向けた大型運搬船のための船型やタンク・燃料供給システムなどの研究開発、水素ガスタービンのラインナップ拡充、水素ガスエンジンや水素圧縮機の開発を推進しています。
当事業に係る研究開発費は
精密機械・ロボット事業
精密機械事業では、ショベル分野における製品競争力の強化に加え、カーボンニュートラルや省人化などESGの視点から、電動化に向けた高速電動油圧ポンプユニット「K-Axle™」や、自動化/自律化に向けた将来建機油圧制御システムの開発に取り組んでいます。このほか、ショベル以外の建設機械分野や農業機械分野への拡販を見据え、小型軽量・高効率・高機能な油圧機器の開発並びにシリーズ展開も進めています。また、一般産業機械分野に向けた油圧設備の安定稼働をサポートする状態監視システムや、水素関連事業として産業車両/商用車を含む燃料電池車用高圧水素ガス弁・建設機械を含むモビリティ向け燃料電池システム・水素ステーション用油圧ブースター式水素圧縮機等の開発に取り組んでいます。
ロボット事業では、人口減少社会における人手不足への対応のため、産業用ロボット分野においては、半導体製造用ロボットや物流業界向けロボットなど、社会のニーズが特に高まっている製品の開発に取り組んでいます。また、消費電力の低減によりCO2排出量を削減する制御機能開発など、カーボンニュートラルの実現に向けた取り組みにも注力しています。更に、産業用ロボットだけではなく、サービス業界向けプラットフォームロボット「Nyokkey」や堅牢な体と柔軟な環境対応能力を兼ね備えたヒューマノイドロボット「Kaleido」等幅広く社会適用が可能なソーシャルロボットの開発を推進するとともに、SIer※1とベンダーの共創により、インテグレーションを効率化しロボットの社会実装を加速させるロボットデジタルプラットフォーム「ROBO CROSS」の構築に他社とも連携しながら取り組んでいます。また、医療分野へ展開している手術支援ロボット「hinotori™」の術式範囲の拡大及び都市部と地方における医療格差を改善するための遠隔手術技術実証にも取り組んでいます。
当事業に係る研究開発費は
パワースポーツ&エンジン事業
Kawasakiのブランド力強化を目指して、電動モーターサイクルならではの環境性能と、KawasakiのDNAである“Fun to Ride”を両立した、本格フルサイズEVスポーツモデルの「Ninja e-1」「Z e-1」や、250ccクラスに匹敵する低燃費と、1000ccクラス同等の発進加速を実現した世界初※2のストロングハイブリッド二輪車「Ninja 7 Hybrid」「Z7 Hybrid」、毎日の仕事から休日のレジャーまで快適にこなせる汎用性と、ワンランク上の上質感を兼ね備えたオフロード四輪の新ラインナップ「RIDGE」「RIDGE XR」シリーズを追加する等の新機種開発を行いました。また、EVやHEVにとどまらず、水素エンジンなどの内燃機関エンジンを含めカーボンニュートラル社会の実現に向けた多様な選択肢に挑戦するとともに、2030年以降の更なる成長を見据え、パワースポーツ向けエンジンのノウハウを活かした航空機用レシプロエンジンの開発にも取り組んでいます。
当事業に係る研究開発費は
本社部門・その他
社長直轄プロジェクト本部では、医療・物流・製造現場の労働力不足、激甚化する自然災害などの社会課題に対して、感染症検査事業で得た知見を活かした自動検査システムや無人VTOL機※3・配送ロボット・多用途UGV※4を活用したソリューションなどの開発を進め、早期市場展開を目指しています。
技術開発本部では、当社グループの更なる企業価値向上を目指し、事業部門と一体となって「新製品・新事業」の開発に取り組むとともに、「グループビジョン2030」で掲げた注力フィールドを中心に、将来の社会課題解決の実現に必要な技術開発にも積極的に挑戦するとともに、既存事業を支える基盤技術や将来の水素事業のキーとなる要素技術開発にも取り組んでいます。また、TQM活動をベースにバリューチェーン全体のプロセス標準化を通して、製品品質の向上や、足元の収益向上にも取り組んでいます。更に、DX戦略本部と連携してAI活用やデジタルプラットフォームの構築によるデータ活用を通じたビジネスモデルの変革や働き方改革を推進するほか、全社の技術系人財の育成強化にも取り組んでいます。
水素戦略本部では、商用水素サプライチェーンの実現に向け、世界初の液化水素運搬船による海上輸送・荷役等の各種試験を通じて得た知見を活用し、商用化に係る水素関連機器の大型化や高効率化のための技術開発を実施し、着実な水素社会の実現を推進しています。
これら本社部門に係る研究開発費は
(※1 SIer:System Integrator)
(※2 当社調べ)
(※3 VTOL:Vertical Take-Off & Landing)
(※4 UGV:Unmanned Ground Vehicle)