当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は以下のとおりであります。
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループ共通の価値観として、グループ基本理念「OUR PHILOSOPHY」を策定しています。
「OUR PHILOSOPHY」は、グループの経営、企業活動、構成員において、大切にする考え方やあり方を幅広く明確化し、全ての活動の軸となります。
当社グループは、グループ基本理念「OURPHILOSOPHY」を軸としたサステナビリティ経営を遂行し、事業活動を通じた社会課題の解決と社会要請に対応した経営高度化を通じたステークホルダーとの価値交換性を向上することにより、持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上の実現を目指しています。当社グループのサステナビリティに関する情報につきましては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」をご参照下さい。
また、グループ全員が力を結集して理想の実現と持続的な企業価値向上に向かうため、10年先の目指すべき姿をグループビジョンとして定めています。グループビジョンは内外環境の変化を踏まえて2024年4月に最新版となる「グループビジョン2032」を策定しています。
(OUR PHILOSOPHY:グループ基本理念)
https://www.tis.co.jp/company/policy/philosophy/
(グループビジョン2032:長期経営方針)
「社会に、多彩に、グローバルに」をテーマに、社会性と革新性を併せ持つ先進的なグローバルITグループとなることを目指します。社会課題解決に向けて、革新的な技術の積極採用や異業種能力を取り込みながら事業の多彩化とグローバル化を進め、ビジネスの革新と市場創造を実現します。
当社グループが持続的な成長を実現するための独自の事業活動領域を戦略ドメインとして定義し、各セグメントは市場特性を踏まえた戦略ドメインのベストミックスで市場の開拓と創造を図ります。
<戦略ドメイン>
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ソーシャルイノベーションサービス |
社会インパクト指標を掲げ、当社グループが直接的に社会課題解決を行う事業 |
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コ・クリエーションビジネス |
当社グループ単独ではなしえない領域において、当社グループと共創パートナーそれぞれが有する強みをかけ合わせ、新たな市場を創造する事業 |
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ストラテジックパートナーシップビジネス |
業界トップクラスの顧客に対して業界に関する先見性と他社が追随できない知見を武器として、事業戦略を共に検討・推進し、ビジネスの根幹を担う事業 |
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IT&ビジネスオファリングサービス |
蓄積した技術・ノウハウを活用し、特定業界・業務において業界ニーズに先回りした将来のデファクトスタンダードとなりうるサービスを提供する事業 |
(2)中期経営計画(2021-2023)振り返り
国内外ともにDX需要等を背景とした顧客のIT投資意欲は旺盛で、当社グループにとっては良好な事業環境となりました。
このような中、当社グループは当連結会計年度を最終年度とする3ヵ年の中期経営計画(2021-2023)を、DX提供価値向上によりバリューチェーンを高度化する期間と位置付け、更なる構造転換を進めることで、当社グループの成長を通じた社会課題解決を目指してまいりました。中期経営計画(2021-2023)において4つの戦略ドメインへの構造転換を進めることで事業成長や収益性の向上による持続的な企業価値向上を目指す観点から重要な経営指標として設定した「売上高5,000億円」「営業利益(営業利益率)580億円(11.6%)」「EPS(1株当たり当期純利益)の年平均成長率10%超」「戦略ドメイン比率60%」「社会課題解決型サービス事業売上高500億円」については、概ね達成することができました。
また、自己資本当期純利益率(ROE)については、中期経営計画(2021-2023)において事業収益力の向上に伴う当期純利益率の向上を牽引役として12.5%~13%を目標としており、長期的には構造転換を進めることで、安定的に15%を実現できる企業への成長を目指してまいりましたが、バランスシートマネジメントの強化等を通じた財務施策の推進も奏功し、当連結会計年度の自己資本当期純利益率は16.0%となり、目標を達成しました。
(3)経営課題
政治的、社会的な緊張の高まりや、世界経済の不透明化に伴うなど、多くの事象を注視する必要がありますが、引き続き、当社グループにとっては良好な事業環境が継続すると考えています。
社会課題解決と経済発展の両立が求められる社会の趨勢の中で、生成AIをはじめとした革新的技術が次々と実用段階に入り、社会におけるデジタル活用ニーズは拡大、多様化を続けると考えられます。また、このような明らかなビジネスチャンスに関連して、グローバルITプラットフォーマやコンサルティングファームの躍進、周辺産業からの新規参入の活性化等、競争環境は需要サイド、供給サイド共に大きく変動するもの考えています。
大きな環境変化が予想される中、当社グループは強みである顧客と技術への深い理解を更に磨き上げることによる課題解決力の向上、多様な能力を有するプレイヤーとの共創を通じて課題解決力を拡張していくことが重要と考えています。当社の経営課題認識は以下の通りです。
①成長領域への積極進出
収益基盤の継続強化を図るとともに、付加価値の高いサービスと技術、人材を生み出す環境を整備
②課題解決能力の強化と拡張
社会と顧客の真の課題に対する洞察力の向上と、これまでの枠にとらわれない課題解決手法の獲得
③人材の高度化
人材の高付加価値化と競争力ある報酬水準の実現
④新技術の実用化に向けたアジリティの獲得
新技術の継続的な評価と現場適用を牽引できる高度技術人材の育成、およびナレッジベースの整備
⑤知財の蓄積・活用の促進
事業構造転換と事業のスケール化を実現する良質な知財の蓄積と利活用促進
⑥ガバナンス高度化
意欲的な成長計画を支えるガバナンスの更なる高度化
⑦事業ポートフォリオ最適化
上記実現し、最小の資本で最大成果を生み出す最適事業構成の追求
以上を踏まえて、2024年4月からの3か年計画として策定した中期経営計画(2024-2026)「Frontiers 2026」をスタートさせます。前中期経営期間で実行した各種投資や顧客と関係構築を成果に結びつけるとともに、グループビジョン2032実現に向けたファーストステージとしてこれまで実行してきた成果を土台に明確な優位性確立に向けた差別化・集中化によりこれからの市場と顧客に選ばれ続ける理由づくりを進めてまいります。
<中期経営計画(2024-2026)「Frontiers 2026」の位置づけ>
(4)中期経営計画(2024-2026)「Frontiers 2026」について
当社グループは、全方位のステークホルダーとの価値交換を通じて、継続的な事業拡大と持続可能な社会の実現を目指し、社会の課題解決に向けた戦略立案から解決策の実行まで一気通貫の価値提供を目指してまいります。
中期経営計画(2024-2026)「Frontiers 2026」では、フロンティア開拓を基本方針に、未来志向で市場開拓と事業領域の拡大を起点としたバリューチェーン全般の質的向上に向けてまいります。
■市場戦略/セグメント全体戦略
セグメント毎に特性を踏まえた多様なサービスの展開を通じて事業領域を拡大、持続的成長に向けた事業基盤の継続強化を図ります。各セグメントにおける成長戦略は以下の通りです。
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オファリングサービス |
・多様なキャッシュレスニーズに対応しながら、新たに社会課題領域に金融・決済の強みを持つ事業主体として事業領域を拡大 ・投資マネジメント高度化により収益力を向上 |
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BPM |
・一部BPO業務の市場縮小が進む中、ニーズの高いCX領域の拡大や他セグメントと連携したサービス拡充など、事業ポートフォリオを見直し成長路線へ回帰 |
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金融IT |
・大型プロジェクト完遂によるピークアウトを迎えるが、顧客との共創事業創出やモダナイゼーションビジネス展開し新規顧客を獲得、顧客基盤の分散を図りながら次なる成長基盤を確立 |
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産業IT |
・製造業・エネルギー・社会インフラを中心に顧客深耕とサービス展開を推進 ・ERP、モダナイゼーションなど多様なサービスを強みに既存顧客の発展と新規顧客の獲得を進める |
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広域ITソリューション |
・5つの注力領域(行政、医療、金融、産業、インフラ)において顧客密着で培った独自のITソリューションを全国展開 |
■市場戦略/グローバル戦略
莫大なマーケットポテンシャルを持つアジアを長期ターゲットとして、グローバルパートナーシップを広げながら、ASEANでのビジネス拡大をさせ、2026年度に連結売上高1,000億円を目指します。事業のリストラクチャリング・コンサルティングとITの融合による事業全体の高付加価値化の推進と、テクノロジー投資機能の高度化の両輪によりスピード感もったビジネスを展開します。
■サービス戦略
社会の潮流の変化、革新的な技術の登場により顧客ニーズの多様化が進んでいます。このような中、社会と顧客の変革を支えていくためサービスの拡充と高付加価値化による市場開拓を進めてまいります。金融ITと産業ITは主に業界軸での市場開拓、オファリング、BPM、広域ITは機能軸での市場開拓を進め、それぞれの事業指針に沿ったサービスを展開していきます。
■テクノロジー戦略
要素技術の進化と多様化は目覚ましいものがあり、これら技術への早期適応が競争力に大きく影響するものと認識しています。世の中のテクノロジーの中から当社グループとして重要なものを選定したテクノロジーポートフォリオをもとに、これら技術の先回り研究と現場への早期適用を図るための総合的な施策を展開してまいります。
短期では社員の生成AIの利用促進に向けた環境整備、社内の様々な業務でAI活用を前提としたプロセスの再開発、生成AI教育カリキュラムの整備と教育等を進めます。並行してデジタルとリアルの融合が進む中で求められる大量データの転送技術や関連アルゴリズムなど、3年から10年後の事業の差別化の核となる複数の技術とそれらを組み合わせた応用研究を産学連携によって進めてまいります。
■人材戦略
社員と会社の価値交換性の継続的な高度化を実現するために、個の多様化と先鋭化に着目した人材戦略を推進してまいります。多様な個が活躍できる環境・組織風土の整備、新たな労働環境を見据えた次世代の働き方改革の推進、人材データベースのデジタル化による人材ポートフォリオマネジメントの高度化などを通して、社員のエンゲージメント向上に取り組んでまいります。
当社では人材を最重要の経営資本として、人材に対する先行投資を積極的に推進してきました。人材戦略では「働く意義」「働く環境」「報酬」の3つの軸で社員エンゲージメントを高める人材投資を進めており、引き続き、会社と社員と社会の高付加価値化の善循環を強化することで当社のさらなる成長と、成長を実現する内外の優秀人材の確保に努めてまいります。
中期経営計画(2024-2026)では、課題解決力の強化、洞察力の強化、統合力の強化をテーマとして、重点をDXコンサルタント、高度営業人材、ITアーキテクトの拡充に置き、その育成と獲得に向けた投資と仕組みづくりを進めてまいります。
■知財戦略
当社グループのサービスとサービス提供プロセスを強化し、事業規模の拡大と高付加価値化の両立を実現していくため、知財の蓄積と高度利用がますます重要になると考えています。中期経営計画(2024-2026)では、顧客接点情報のフィードバック強化による知財創出の活性化を図ります。価値の高いサービスと満足度の高いサービス提供プロセスが、顧客とのコミュニケーションを良質化させ、既存の知財のアップデートと次なる知財につながる価値の高い情報を生み出す善循環を強化していきます。
■財務方針/資本政策に関する基本的な方針
当社は、持続的な企業価値の向上に向けて、中長期の経営視点から、成長投資の推進・財務健全性の確保・株主還元の強化のバランスのもと、資本構成の適正化を推進することを資本政策の基本方針としています。
具体的には、持続的な事業利益の成長・収益性向上によるキャッシュ創出力の強化を図るため、積極的に成長投資を推進し、この一環として事業ポートフォリオの見直しも継続的に検討・実施します。
また、バランスシートマネジメントの強化等を通じて当社の事業構造に合わせた資本構成の適正化を推進することにより、財務健全性を確保した上で資本コストを上回るリターンを持続的に創出します。株主還元については事業成長に応じた強化・充実化を図ります。
上記に基づき、中期経営計画(2024-2026)では、成長投資3年累計1,000億円、総還元性向50%、キャッシュ創出力の向上に応じた資本構成の適正化を図ってまいります。
(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
中期経営計画(2024-2026)では、社会への貢献を測る客観的な指標として、「売上高6,200億円」「営業利益(営業利益率)810億円(13.1%)」「EPS年平均成長率10%超」「ROIC/ROE 13%超/16%超」「1人あたり営業利益3.5百万円超」を掲げています。
(1) サステナビリティ経営の全体像
当社は、グループ基本理念「OUR PHILOSOPHY」を確固たる軸として、事業活動を通じた社会課題の解決と社会要請に対応した経営高度化によるステークホルダーとの価値交換性の向上を図り、持続可能な社会への貢献と持続的な企業価値向上の両立を目指すサステナビリティ経営を推進しています。
これまで、当社グループはコーポレートサステナビリティ委員会の設置、マテリアリティの特定、解決を目指す4つの社会課題の特定など、サステナビリティ経営の高度化に向けた実行体制を整えるとともに、コーポレート・サステナビリティ基本方針に基づき喫緊の重要な社会課題として優先度の高いテーマである人権や環境に関する取り組みを進めてまいりました。今後はこうした取り組みを継続することに加えて、当社グループの直接的な企業活動のみならず、バリューチェーン全体で当社グループの企業活動を見つめ直していくことが重要な課題であると認識しており、サステナビリティ経営のさらなる深化を通じてサステナビリティ先進企業としてのプレゼンスの確立を目指すべく、マネジメント体制を強化してまいります。
また、不確実性の高まる環境の中においても持続的な成長を実現するために、経営基盤の整備・強化を継続的に推進してまいります。セグメントオーナーを設置して権限と責任の所在を明確化し、グループ各社の強みを活かした成長戦略の実現を推進するとともに、資本コストを意識した事業マネジメントや国内外の企業のM&Aを通じた事業ポートフォリオの入れ替えによる最適なグループフォーメーションの追求、グループ間接業務のシェアード化を含む本社機能のさらなる高度化・効率化に取り組んでいます。加えて、将来の成長に資する成長投資(ソフトウェア投資、人材投資、研究開発投資、M&A・出資等)を積極的に実行していく中で適正リターンを獲得するための投資マネジメントの高度化も推進してまいります。
同時に、企業価値向上と認知度向上への取り組みの一環として、テレビCMや広告媒体への記事掲載等の戦略的なブランド活動も継続してまいります。現時点においても当社グループの認知度向上やそれに応じた効果が社員の働きがいや採用面で得られる等、成果は着実に表れ始めていますが、今後もコーポレートブランドをベースとしたサービスブランドの訴求強化等を目的として引き続き取り組んでまいります。
(2) 戦略
当社グループは、経営計画そのものが社会の持続性に寄与する「サステナビリティ推進の日常化」に取り組んでまいります。その推進に当たり、社会の動向やステークホルダーからの期待、当社グループらしさを踏まえた企業成長等への重要性の観点から、マテリアリティ(重要課題)を特定しております。このマテリアリティを基礎として、グループビジョン、および中期経営計画を策定し、サステナビリティ推進と当社グループの事業活動の融合を高めてまいります。
<TISインテックグループのマテリアリティ>
(3) ガバナンス
当社のサステナビリティ経営体制は、コーポレートサステナビリティ委員会を通して、潮流を捉え、サステナビリティに関する課題を議論し、注力すべき課題の選定と対応の方向性が取締役会にて示されます。この課題設定と方向性は、経営会議等を通じて執行側に示され、執行側にてその企画や計画を経営会議で審議した後、取締役会を通じて策定されます。またその執行も、取締役会を通じてモニタリング、監督されます。
コーポレートサステナビリティ委員会は、コーポレートサステナビリティの最高責任者(議長)、取締役、監査役、コーポレートサステナビリティ推進責任者、企画本部長、企画部長により構成されます。
<TISインテックグループのサステナビリティー経営体制>
(4) リスク管理
サステナビリティ関連リスクは、サステナビリティ推進の専任部署が常に情報を収集し、全社のリスク管理プロセスおよび、コーポレートサステナビリティ委員会を通じて半年に一度リスク評価を行っています。
さらに、ステークホルダーの期待や影響度、当社グループらしさやグループの成長への寄与の観点から、マテリアリティの特定の基礎となる課題の重要性マトリクスを作成しており、毎年1回コーポレートサステナビリティ委員会にて状況と課題の有無を確認します。
(5) 指標と目標
当社グループでは、中期経営計画において、マテリアリティの進捗を把握するサステナビリティ指標を設定しています。
|
マテリアリティテーマ |
進捗測定の視点 |
指標 |
対象 ※2 |
2024年3月期 実績 |
2027年3月期 目標 |
|
多様な人材が生き生きと活躍する社会を |
従業員の能力の発揮 |
働きがい満足度 |
B |
52% |
58%以上 |
|
コンサルタント数 |
B |
510人 |
700人以上 |
||
|
管理職に占める 女性従業員の割合 |
B |
12% |
15%以上 |
||
|
イノベーション・共創を通じ、社会に豊かさを |
社会への価値提供 |
戦略ドメイン比率 ※1 |
A |
48% (新基準) |
52% (新基準) |
|
PH営業利益 |
A |
2.9百万円 |
3.5百万円 |
||
|
成長投資 |
A |
3か年累計 720億円 |
3か年累計 1,000億円 |
||
|
高品質なサービスを通じ、社会に安心を |
社会から求められる品質 |
顧客・サービス満足度 |
C |
54% |
59% |
|
ビジネスパートナー満足度 |
D |
77% |
81% |
||
|
コーポレートガバナンスを高め、社会から信頼を |
社会から選ばれる企業 |
GHG排出量(Scope1+2)※3 [2020年3月期比] |
A |
60%削減 (見通し) |
70%削減 |
|
再生可能エネルギー利用率※3 (オフィス・データセンター) |
B |
55%導入 (見通し) |
2031年3月期 100%導入 |
※1 2023年度の戦略ドメイン実績は61%であるが、本中期経営計画の戦略ドメインの見直しに伴いより厳しく精査した結果、新たな基準にて23年度を48%と再設定し当基準にて目標設定
※2 対象 ・・・ A: TIS及び全連結子会社 / B: TIS及び連結子会社(国内) / C:TIS、インテック、アグレックス、クオリカ、AJS、TISソリューションリンク / D:TIS、インテック
※3 2024年3月期実績のみ対象は、TIS、インテック、アグレックス、クオリカ、AJS、TISソリューションリンク、TISシステムサービス、TIS東北、TIS長野、TIS西日本、TIS北海道、TISビジネスサービス、ソランピュア、MFEC Public、Business Application、Motif Technology Public、Hongson、MISO Digital、Prain Fintech、Msyne Innovations、Playtorium Solutions
(6) サステナビリティに関する重要なテーマへの対応方針
本テーマについても本章記載の「ガバナンスとリスク管理」の枠組みにて実効性を確保しているため、以下に戦略と方針、および指標と目標について記載いたします。
①人的資本に関する方針
日本国内における生産人口の減少や労働市場の流動化が進み、変化する社会において、高度IT技術者や経験豊富な人材を保有することが重要と考えています。多様な人材が自律的なキャリアを描き、高い活力とエンゲージメントをもって、新たな価値創造を行える環境を作ることによって、当社グループの競争力の維持拡大と、社会課題解決に向けたグループ総合力を高めてまいります。そのために、当社グループは人的資本に対して積極的な投資を行い、専門性を兼ね備えた人材が高い価値提供を発揮できるよう、社員一人ひとりの新たな挑戦を支援します。その結果、社員と会社の価値交換性の善循環を促進させることをめざします。
a.戦略と方針
(イ)人的資本への投資
当社グループのビジネスモデルにおいて、人材は価値創出の根幹であり、最重要の経営資本と考えています。専門性を兼ね備えた人材が高い付加価値を提供できるよう、社員一人ひとりの新たな挑戦を支援し、社員と会社の価値交換の善循環を促進するため、「多様な人材が活躍しイノベーションを生む風土や文化の形成」を行い、その上で「事業拡大・変化に応じた人材の確保・育成」による中長期的な経営資源を拡充し、その中から「事業戦略を牽引する先鋭人材の確保」を行うといった三層構造のテーマに対する取り組みを促進します。
<中期経営計画(2024-2026)における人的資本への取り組みの全体像>
<多様な人材が活躍しイノベーションを生む風土や文化の形成>
・多様性の確保に向けた人材育成方針
当社グループは、多様な人材が各々の人間らしさを発揮し、意思と意見を表すことを大切にしています。さらに、お互いを尊重し、刺激し合い、柔軟で絶え間ない変化やこれまでにない価値を生み出し続けることを目指し、「多様な人材活躍」、「健康経営」、「働き方改革」を主軸にダイバーシティ&インクルージョンを推進します。
多様な人材活躍:多様な人材が人間らしさを最大限発揮できる風土醸成
当社グループは「ジェンダー」「国籍」「職歴や経験」「障害の有無」「年齢」「性的指向性・性自認」「価値観や働き方」他の違いに関わらず、人間らしさを最大限発揮し、いきいきと活躍できる風土醸成及び制度・インフラの整備等を推進します。
健康経営:一人ひとりの人生の質の向上
当社グループは働く人一人ひとりの人生の質を向上させることを目的として、「心身の健康」「働きがいの向上」「生活力の向上」の実現を目指した施策を推進し、人間らしさの発揮につなげます。
働き方改革:多様なニーズやスタイルに合わせた働き方の提供
当社グループでは、働き方への多様なニーズやスタイルに合わせることを目的として、働く場所や時間等働く形態の選択肢を増やす取り組みを進めています。また、自らの成長に対する自覚と自立を高めるための風土醸成も進めます。
・多様性の確保に向けた社内環境整備方針
社員一人ひとりの働く意識、生活環境、業務環境の違いに注目し、多様な人材が自律したプロフェッショナルとしての能力を最大限に発揮できる職場環境を目指します。多様な人材が保有するスキルや経験を活用し、事業を成功に導く組織基盤を確立するためには、一人ひとりの社員が貢献意欲を持って活躍・成長できる組織風土の醸成が不可欠です。中でも、女性活躍はダイバーシティ経営の最重要課題の一つとして位置づけており、エクイティ(公平性)の観点を施策に取込み、女性社員が自分らしく力を発揮できる環境整備を通じて、等級における男女の偏りや男女の報酬格差の是正も進めてまいります。
多様な経験や専門性、価値観を有する人材の獲得と活躍を進め、「社員と会社の価値交換の善循環」を実現するためには、人材戦略全体で掲げる「働く意義」「働く環境」「報酬」の3つの軸に基づいた施策推進が重要と考えています。
「働く意義」では、多様な個の自律的な行動を引き出す人事制度の導入、人材の高度化・先鋭化・多様化に資する教育の充実に取り組んでいます。事業を牽引する高度人材と若手層の早期抜擢・昇格促進、自律的なキャリア形成支援に向けた人事制度の整備と投資を強化し、人材の成長促進、優秀人材のさらなる確保を進めます。当社グループの評価制度では、「Must/Will/Can」の枠組みに基づいて社員一人ひとりが企業の方向性を理解し、自らの意思で目標を設定します。目標の達成度に応じた公正な評価と提供価値に応じた処遇は、企業と社員の成長を促すエンジンとして機能すると考えています。
「働く環境」では、従業員の活力と生産性向上を目的とし、柔軟な働き方(オフィス環境、テレワーク・フレックス等の勤務制度)の選択肢提供、多様な人材が自分らしく活躍できる組織づくり、両立支援制度の整備や健康投資を推進しています。
「報酬」では、競争力のある報酬水準の設定や、成長の源泉となる若手層や事業を牽引する高度人材への重点投資を進め、グループ全体で賃金の引き上げに取り組んでいます。
<事業拡大・変化に応じた人材の確保・育成>
採用方針としては、技術革新や産業構造の変化は急速に進み、また、様々な社会課題への対応も求められるようになった近年の外部環境の変化に対応し、持続的なビジネスの成長へと結びつけていくため、性別や年齢、人種・地域・国籍、その他さまざまな違いの有無に関わらず多様な人材を採用します。
社員の成長支援としては、社員全員が自身の描くキャリアについて、上司と面談を行い、ローテーションや多様な業務経験を通してステップアップする仕組みを整備しています。全組織に共通する技術・スキルに関する全社共通のカリキュラムや、新たなスキルをプラスワンする「ネクスト」教育など、社員自らが選択して受講し、将来に向けた複線的キャリアの構築および社員の自律的な成長・価値創出を支援します。
また、社会・顧客に付加価値を提供するためには、技術力・開発力に加え、真の課題を捉えてその課題に対応するコンサルティング能力を全社員が身につけることが求められます。現在、社員のコンサル基礎スキル(課題設定・解決スキル)を強化する育成プログラムを提供しており、今後さらに強化を図っていきます。
<事業戦略を牽引する先鋭人材の確保>
中期経営計画(2024-2026)「Frontiers 2026」では、課題解決力の強化、洞察力の強化、統合力の強化をテーマとして、重点をコンサルタント、高度営業人材、ITアーキテクトの拡充に置き、その育成と獲得に向けた投資と仕組みづくりを進めてまいります。
中長期的な事業ポートフォリオに資する人材ポートフォリオ実現のため、人材分析および配置計画を策定し、人材の採用、配置転換、育成やスキルチェンジを推進するとともに、事業単位での短期視点の採用需要の強化と人材ポートフォリオとの連動を強化しています。
b.指標と目標
人材の価値創造(生産性向上による高付加価値化)に関する指標
|
no. |
指標名 |
2024年3月期実績 |
2027年3月期目標 |
|
1 |
一人当たり営業利益 |
2.9百万円 |
3.5百万円超 |
実績・目標値は、TISを含む国内の連結対象企業の総計または加重平均で算出しています。
|
no. |
指標名 |
定義 |
2024年3月期 実績 |
2027年3月期 目標 |
|
1.多様な人材が活躍しイノベーションを生む風土や文化の形成 |
||||
|
ダイバーシティ推進(エンゲージメント向上) |
||||
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(1) |
働きがい満足度 ※注1 |
社員意識調査で「総合的に働きがいのある会社である」の設問に肯定的に回答した社員の割合 |
52% |
58%以上 |
|
ダイバーシティ推進(多様な人材活躍) |
||||
|
(2) |
管理職に占める女性比率 |
管理職全体に占める女性管理職の割合 |
12% |
15%以上 |
|
ダイバーシティ推進(ウェルビーイング向上) |
||||
|
(3) |
アブセンティズム |
病気を理由として休業している従業員の比率 |
1.0% |
1.0%以下 |
|
(4) |
プレゼンティズム ※注2 |
従業員が職場に出勤はしているものの、健康問題により業務の能率が落ち、労働損失が発生している割合 |
20.1% |
18.0%以下 |
|
働き方改革の推進 |
||||
|
(5) |
平均月間法定外労働時間45h以上の従業員比率 |
年間を通して法定労働時間外の月平均が45時間以上である従業員の割合 |
5.2% |
1.5%以下 |
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2.事業拡大・変化に応じた人材の確保・育成 |
||||
|
自己実現を重視した人材開発・育成 |
||||
|
(6) |
年間一人当たり学習研究日数 |
従業員一人当たりの年間学習研修日数の平均値 |
12日 |
12日以上 |
|
3.事業戦略を牽引する先鋭人材の確保 |
||||
|
自己実現を重視した人材開発・育成 |
||||
|
(7) |
コンサルタント数 |
DXデータを活用した経営支援、ビジネス構想から実装まで遂行を担っている従業員の人数 |
510人 |
700人以上 |
注1 働きがい満足度は、特例子会社であるソランピュアを除いた国内連結事業会社の加重平均です。
注2 プレゼンティズムの2024年3月期の実績は、労働損失に関する調査を行い、有効性の高いデータが得られた会社の加重平均です。2027年3月期には、国内連結の全企業で実績が取得できるよう対応を進めます。
②気候変動への対応方針
当社グループは、グループ基本理念であるOUR PHILOSOPHYに基づき「コーポレート・サステナビリティ基本方針」を策定し、その項目の一つとして「地球環境の保全」を定めています。
地球環境問題の中でも、とりわけ重要度が増している気候変動への対応について、事業活動からの温室効果ガス排出削減、事業活動を通じた気候変動対応の推進の両面から取り組みを進め、当社グループの社会的責任を果たすとともに、社会との協働の機会獲得を目指します。
a.戦略と方針
(イ)カーボンニュートラル宣言
脱炭素社会の実現に向け、事業活動に伴う温室効果ガス排出量の削減に取り組み、2040年度までに当社グループ自らの温室効果ガス排出量のカーボンニュートラル、および2050年度までにバリューチェーン全体の温室効果ガス排出量のネットゼロの実現を目指します。
当社グループは、地球環境問題の中でもとりわけ重要度が増している気候変動への対応に向け、その原因とされる温室効果ガスの排出量削減の重要性を認識し、脱炭素に向けて取り組んできました。そして、当社グループにおいて最大量の電力を使用するデータセンター運営において、主要4データセンターの全使用電力に再生可能エネルギー由来の電力を使用しています。なお、将来的な社会情勢、政府の政策、電力会社の動向等、市場環境の変化を踏まえ、環境負荷の少ないエネルギーを安定的かつ適切な価格で調達します。
(ロ)気候変動のリスクと財務影響及び機会
当社グループは、2021年6月に気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)への賛同を表明しており、TCFDの求めている基礎項目について情報開示しております。
気候関連リスクとその財務影響については、IEA等の科学的根拠等に基づき、4℃シナリオと1.5℃シナリオを用いて、2050年までを考慮したシナリオ分析を実施し、評価しております。
<気候関連のリスクと財務影響>
<気候関連の機会>
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No. |
機会 |
時期 |
気候変動対応に伴い増加するニーズと対象 |
当社及び当社グループの対応 |
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1 |
低・脱炭素化に対応のデータセンター及びクラウドサービス提供機会の増大 |
短期 ~ 長期 |
各企業においてはオンプレミス・クラウドともにエネルギー効率の高いHWの利用や活用する電源が再エネ由来のものを使用する企業が増える。特に、RE100やTCFDで削減目標などを設定している企業から需要が拡大すると想定される。 |
TIGデータセンターの再エネ比率/エネルギー効率を高めていくことで、DCサービスの提供機会を拡大する。 現在の目標として、DCの再エネ比率を2030年度中に100%とすることを掲げている。 (TIS-DCでは、環境配慮型データセンターへの統合も併せ、再エネ導入比率を2025年度に100%とすることを目指す) |
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2 |
電力会社の環境改善や電力インフラ再設計でのシステム更改ニーズの増大 |
短期 ~ 中期 |
日本の40%を占める発電所を中心としたエネルギー転換部門におけるGHG排出量を減らすべく、火力発電中心の社会から水力・風力・太陽光を中心とした再エネへの転換が急務。合わせて、分散化電源社会に合わせた送電・配電のネットワーク網の再構築・改修の需要が増えてくると考えられる。 |
30年来に渡るエネルギー会社との取引で培った業務ノウハウをもとに、エネルギー会社の発電・送電・配電のDX化や法制度変更に基づくシステム更改などを通じて、電力インフラやエネルギー会社の脱炭素化を間接的に実施中。 |
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3 |
気候変動に関する新しいニーズに対応したITサービス/ソリューション提供機会の増大 |
短期 ~ 長期 |
節エネ・創エネの代表格ともいえるVPPやエネルギー効率を自動的に制御するAI・IoT技術の利活用。更に見えない電源を見える化する各種ITサービスや気候変動リスクに対応したレジリエンスサービス等のニーズが増えてくると想定される。 |
当社の今後の強みとすべく、先行投資型開発やステークホルダーとの協業・共創により、デジタル技術を駆使した各種ITサービスを展開・企画開発中。VPPソリューションや企業向け非財務情報参照・点検サービスなどを展開、環境価値取引移転実証等新技術のビジネス実装にも積極的に取り組みを進める。 |
b.指標と目標
当社グループでは、気候関連リスクを管理するために、温室効果ガス排出量の削減を目標としております。気候関連のリスク評価にあたっては、温室効果ガス(GHG)排出量(SBT1.5℃認定を取得)、財務影響を指標として用い、気候関連の機会を評価する際には、市場規模、売り上げ等を参考値として用いております。
Scope 1 + 2 :2040年度に2019年度比で100%削減
Scope 1 + 2 + 3:2050年度までにネットゼロを実現
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の経営成績、財政状態、キャッシュ・フローの状況(以下、「経営成績等」という。)に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは以下のとおりです。
なお、当社グループでは、「リスク」を「当社及びグループの経営理念、経営目標、経営戦略の達成を阻害するおそれのある経済的損失、事業の中断・停滞・停止や信用・ブランドイメージの失墜をもたらす要因」と定義するとともに、リスク管理規程に基づき、グループ全体のリスクを戦略リスク、財務リスク、ハザードリスク、オペレーショナルリスクに分類しています。
いずれのリスクも当社グループのリスク管理評価方法に基づき、リスク発生頻度と損害影響度の観点から総合的に勘案したものですが、個々の事象や案件の内容により、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に経営成績等に与える影響の内容と影響度は異なるため、具体的な記載をすることは困難であることから、経営成績等に与える影響の詳細の記載を省略しています。
なお、文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。
当社グループは、グループのリスクを適切に認識し、損失発生の未然防止に努めるため、リスク管理規程を制定しており、この規程に則り、グループ全体のリスク管理を統括するリスク管理担当役員を任命するとともに、リスク管理統括部門を設置し、リスク管理体制の整備を推進しています。また、リスク管理に関するグループ全体のリスク管理方針の策定・リスク対策実施状況の確認等を定期的に行うとともに、グループ会社において重大なリスクが顕在化したときには、対策本部を設置し、被害を最小限に抑制するための適切な措置を講ずることとしています。
また、リスク管理体制の整備の状況として、内部統制システムに関する基本方針及び各種規程等に基づき、グループ全体の内部統制の維持・向上に係る各種施策の推進を図るとともに、内部統制システムの整備及び運用状況のモニタリングを実施し、グループ内部統制委員会にて審議の上、取締役会に審議結果を報告するプロセスを整備しています。
<リスクアセスメントプロセス>
グループの重点管理対象リスクに基づいて各グループ会社社長が作成したリスク方針(トップリスクダイレクション・重大リスク)と各部門で特定されているリスクの双方を評価します。その評価はグループ内部統制委員会においてグループ全体のリスクに係る課題の確認、改善施策の進捗状況として年2回審議され、取締役会へ報告されます。この報告に対する取締役会の指示は、グループ全体の内部統制システムの強化及び改善に反映されます。
<リスク管理プロセス図>
(1)戦略リスク
①人材について
当社グループにおいて、人材は最も重要な経営資源であり、当社グループの事業伸長は顧客に専門的で高付加価値のソリューションを提供する優秀な人材の確保、育成に大きく影響されることから、優秀な人材の確保、育成が想定通りに進まない場合は、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。このため、当社グループでは事業や事業戦略実現に向けた構造転換をけん引する特定人材及び各事業領域で継続的に強化が必要な注力人材について、現状の状況を踏まえ、拡充すべき目標を人材ポートフォリオとして可視化し、人材獲得・成長を目的とした投資を強化しております。事業に合わせた人材戦略の実効性を高めるため、事業経営トップとビジネスや組織の課題を共有し、事業環境や課題に合わせた現場における人材獲得、育成、配置、組織風土改革、事業戦略の実現を支援する「HRビジネスパートナー機能」を強化するとともに、実行状況を把握・分析し、その遂行をサポートする「HRDX基盤の整備」を推進しています。あわせて、働き方改革・働きがい向上を目的として、多様な人材が活躍できる風土、人事制度、オフィス環境の整備等を通じて優秀な人材の確保に努めるとともに、資格取得支援、キャリア形成支援、研修制度の体系化のほか、教育日数を目標化する等、人材の育成に注力しております。
②市場・景気の変化について
当社グループのビジネスドメインの変化や社会が変化していく中で、社会が必要とする技術やサービスが大きく変化することが予想されます。そのため今後必要となっていく技術シードの把握が遅れ当社グループの技術やサービスの陳腐化が生じ、競争力が低下するおそれがあります。その変化に適切な対応をとることができず、当社グループの有する技術・ノウハウ等が陳腐化し、顧客の期待する高品質のサービスを提供できなくなる、または想定を超える価格競争に取り込まれる等、技術による競争優位性を失った場合当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、経営計画等において継続的に環境分析を実施して市場ニーズを把握し、提供するサービスの高付加価値化等による競合他社との差別化や情報技術や生産、開発技術等の調査、研究を不断に進めており、テクノロジーポートフォリオより開発競争力の持続的向上につながるコア技術の選定、研究開発の推進及び成果の展開を図るとともに、生産性の革新活動とDX提供価値の向上、不採算案件の抑制や生産性の革新活動等対応を強化しております。
また、景気変動による急激な円安が生じた場合、為替損失の発生により業績の悪化が予想されます。対して特に多額の取引が存在する場合には、ボラティリティとヘッジコストも勘案し、為替ヘッジを行います。
③投資について
当社グループでは、主として、事業伸長や先端技術の獲得を目的にベンチャーを含む国内外の企業への資本・業務提携に伴う出資、またはM&Aの実行、24時間365日稼働のアウトソーシング事業やクラウドサービス事業を展開するために用いるデータセンター等の大型IT設備に対する投資(初期構築のための設備投資及び安定的な維持・運用のための継続的な設備投資)、サービス型事業推進のためのソフトウェアに対する投資及び人的資本に対する投資を行っております。こうした投資は、事業環境の予期せぬ変化等により、計画した成果や資金回収が得られない場合または資産が陳腐化した場合には、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。また、出資・M&A直後の企業先による不祥事・システム障害等が生じた場合、当社グループの信用・ブランドイメージの失墜や訴訟などの影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、投資案件の内容により、取締役会、CVC投資委員会及び投資委員会等において、事業計画に基づく十分な検討を行った上で投資の意思決定をしており、また、投資実行後も定期的な事業計画の進捗確認を実施しております。加えて、大規模な資本提携先やM&Aを実施した企業に対しては、事業活動におけるリスクを事前に検証・検討した上で、必要な対応施策を継続的に打つとともに、役員派遣を行う等により状況が素早く把握できるように努めています。
④海外事業について
海外事業は、グローバル経済や為替の動向、投資や競争等に関する法的規制、商習慣、労使関係等、様々な要因の影響を受ける可能性があります。これらの要因の影響が予期しない形で顕在化した場合は、当社グループの事業及び業績等に影響が生じる可能性があります。
当社グループは成長戦略の一環として、ASEANを中心とした海外事業の拡大のため、現地企業との資本・業務提携やM&Aを進めております。この出資の実施にあたっては、対象となる企業の業績や財政状態について詳細な審査を行っており、出資後は事業推進部門と経営企画部門が一体となってモニタリングを実施して定期的に当社の取締役会等において報告を行っております。
また、事業会社への人材派遣に加えて、当社においても専門組織である「グローバル財務企画室」を中心に海外子会社・関連会社に対するガバナンス強化の取り組みを進めております。
⑤人権の尊重について
当社グループは自らの事業活動において、直接または間接的に特定のステークホルダーに負の影響を与える可能性があります。これらの事象が発生し明らかになることで当社グループの評判や信用を損失し、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
当社グループは2011年6月に国連人権理事会で採択された「ビジネスと人権に関する指導原則」に基づき、当社グループの人権方針を制定しております。さらに、本方針に沿って、人権デューデリジェンスを推進することで、当社グループの事業活動が社会に与える負の影響を早期に把握・是正に向けた適切な対応をとることを進めます。その進捗は当社Webサイト等で適切に開示してまいります。
⑥地政学リスクについて
戦争・内乱、政変・革命・テロ・暴動等により、国際社会の圧力、為替の動向、貿易問題、調達コストへの影響などが新たに発生した場合、当社グループの事業及び業績等に影響が生じる可能性があります。
このような事象が生じた際には、速やかに当社グループへの影響を認識し、それぞれのリスクによる、損失発生の未然防止に努める活動を速やかに実施いたします。また、海外駐在員の危機対応とオフショア取引が遮断した際の対応を含むBCP計画を作成しています。
⑦レピュテーショナルリスクについて
リスクが適切に管理できず社会に負の影響を及ぼした場合、または他社が社会におよぼした負の影響と当社の関連性が想起された場合、信用・ブランドイメージの失墜による事業の中断・停滞・停止や、顧客・ビジネスパートナーの剥落などの影響が生じる可能性があります。このリスクは、特に当社の事業の拡大や知名度の向上と比例して大きくなり、また速やかな管理が行えなかった場合にはグループの子会社で生じた事案でもグループ全体に波及する可能性があると考えています。そこで、当社グループではこのリスクに対して速やかに対応できるよう、グループ横断のエスカレーションシステムを構築し、危機発生時の対応マニュアルを準備しています。
(2)財務リスク
①保有有価証券について
当社グループでは、当社グループの持続的な成長と中長期的な企業価値の向上に資すると判断した場合に限り、取引先との安定的な提携関係・協力関係を通じた事業機会の継続的創出などを目的としてその企業の株式を保有します。また、短期の余資運用を目的として債券を保有することがあります。こうした有価証券は時価の著しい変動や発行体の経営状況の悪化等が生じた場合、会計上の損失処理を行う等により、当社グループの事業及び業績等に影響が生じる可能性があります。
このため、保有有価証券については、発行体の財政状態や業績動向、格付状況等を把握し安全性を十分確認するとともに、保有継続の合理性を定期的に検証し、保有意義が希薄と判断した株式については、縮減を進めることを基本方針としています。
(3)ハザードリスク
①パンデミック(感染症・伝染病の世界的な大流行)について
パンデミックにより国内外問わず、行動制限が課せられるなど、当社グループの社員やビジネスパートナー企業の生産活動に大きな影響が生じた場合には、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、パンデミック発生時を想定したBCP計画を策定しています。
②自然災害について
地球温暖化の進行によって、洪水を含む自然災害が従来と異なる場所や頻度で発生する可能性が高まっている中、大規模自然災害やそれに伴う想定を超える長期の停電等により、当社グループが事業展開しているデータセンター等の大型IT設備を用いたアウトソーシング事業やクラウドサービス事業に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、事業継続計画に基づき、各データセンターにおいて各種災害に対して様々な設備環境を整備するとともに、旧来型のデータセンターを順次閉鎖し、免震構造、堅牢な防災設備、非常用自家発電機、燃料備蓄及び優先供給契約締結をはじめとした信頼性の高い電気設備を備えた最新鋭のデータセンターへの集約を進めています。さらに、IT-BCP基本計画の策定し、運用点検の実施、障害再発防止策の実施を継続します。
(4)オペレーショナルリスク
①システム開発について
当社グループは、顧客企業の各種情報システムに関する受託開発や保守等のシステム開発を中核事業の一つとして展開しております。システム開発が高度化・複雑化・短納期化する中、計画通りの品質を確保できない場合または開発期間内に完了しない場合にはプロジェクト完遂のための追加対応に伴って費用が想定を大きく上回るほか、顧客からの損害賠償請求等により、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、ISO9001に基づく独自の品質マネジメントシステム「Trinity」に基づき、専任組織による提案審査やプロジェクト工程に応じたレビューを徹底し、継続的な品質管理の高度化や生産性の向上に取り組むとともに、グループ品質執行会議を通じた品質強化及び生産革新施策のグループ全体での徹底及び階層別教育の充実化等を通じた管理能力や技術力向上を図っております。なお、独自の品質マネジメントシステム「Trinity」は最新の動向に対応できるよう、更新を継続しています。
また、システム開発にあたっては、生産能力の確保、生産効率化、技術力活用等のために国内外のビジネスパートナー企業に業務の一部を委託しています。その生産性や品質が期待に満たない場合には円滑なプロジェクト運営が実現できなくなり、当社グループの事業及び業績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、ビジネスパートナー企業との定期的な会合・アンケート等による状況の把握や関係強化を図り、国内外で優良なビジネスパートナー企業の確保等に努めています。
②システム運用について
当社グループでは、データセンター等の大型IT設備を用いて、アウトソーシング事業やクラウドサービス事業を中核事業の一つとして展開しております。そのシステム運用においては、オペレーション上の人的ミスや機器・設備の故障等によって障害が発生し、顧客と合意した水準でのサービスの提供が実現できない場合、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、ITIL(Information Technology Infrastructure Library)をベースにした保守・運用のフレームワークに基づき、継続的なシステム運用品質の改善を行うとともに、障害発生状況の確認・早期検知、障害削減や障害予防に向けた対策の整備・強化に努めています。
③情報セキュリティについて
当社グループでは、システム開発から運用に至るまで幅広く事業を展開する過程で、顧客企業が有する個人情報や顧客企業のシステム技術情報等の各種機密情報を取り扱う場合があります。これらの機密情報の漏洩や改竄等が発生した場合、顧客企業等から損害賠償請求や当社グループの信用失墜の事態を招き、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。また、インターネットが社会インフラとして定着し、あらゆる情報が瞬時に広まりやすい現在、利用者の裾野が広がり利便性が増す一方で、サイバー攻撃等の外部からの不正アクセスによる事故やシステム障害のリスクが高まっています。このような事態に適切に対応できなかった場合、顧客等からの損害賠償請求や当社グループの信用失墜等の事態を招き、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、グループ情報セキュリティ方針に基づき情報セキュリティマネジメントシステムを確立し、運営することで情報の適切な管理を行うとともに、社員への教育・研修を通じて意識向上に努めています。また、グループ情報セキュリティ推進規程に基づき、グループ全体の情報セキュリティ管理レベルの確認、評価、改善施策の推進を図るとともに、情報セキュリティに関する問題発生時には調査委員会を設置し、原因究明、対策の実施、再発防止策の推進等を含む問題解決に向けた責任体制等を整備しています。今期は、SOC(Security Operation Center)、SIEM(Security Information and Event Management)を今期は情報セキュリティ、個人情報保護に関しTISへ企画機能集約を行い運用効率を高めました。
当社グループが取り扱う個人情報について、個人情報保護法、個人番号及び特定個人情報取扱規程に基づき、グループレベルの管理体制を構築し、定期的な個人情報保護法遵守点検により、必要な安全管理措置を講じています。加えて社員への教育・研修を通じて個人情報保護の重要性の認識を徹底した上で顧客情報の管理強化を図る等、適切な運用に努めています。また、在宅勤務の本格実施によるワークプレイスの多様化に対してゼロトラストを導入したセキュリティ対策を実施しています。なお、当社グループでは、当社をはじめとして、情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)やプライバシーマークを取得しています。
また、サイバー攻撃等に対しては、グループ全体でのCSIRT(Computer Security Incident Response Team)体制を定義し、グループセキュリティ推進会議にて情報共有を実施するとともに、インシデントを早期に検知し、緊急対応を迅速かつ正確に行う為の組織内CSIRTとして「TIS-CSIRT」を運営しています。さらに、最新の攻撃手法やインシデントの発生状況等、セキュリティに関する広範な情報収集・情報分析・情報発信をはじめ、通信監視、緊急対応、外部連携を実施しています。
④法制度、コンプライアンスについて
当社グループは、様々な国内外の関係法令や規制の下で事業活動を展開しております。法令違反等が発生した場合、また新たな法規制が追加された場合には、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。また、差別やハラスメントが生じた際、生産性低下・コスト増大および社員のエンゲージメントの低下が生じた場合には当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループでは、コーポレート・サステナビリティ基本方針及びグループコンプライアンス宣言に基づき、コンプライアンス体制を構築し、雇用形態によらない全従業員への教育及び法令遵守の徹底に取り組み、公正な事業活動に努めています。コンプライアンス規程に基づき、グループ全体のコンプライアンス上の重要な問題を審議し、再発防止策の決定、防止策の推進状況管理などを通じて、グループ全体への浸透を図っております。中でも、情報サービス産業の取引構造に起因した重要課題である請負・派遣適正化に関しては、個別のリスク管理体制を構築するとともに、『請負・適正化業務マニュアル』を要領化し適切な運用に努めています。また、違法行為を未然防止するとともに、違法行為を早期に発見是正する施策としてグループ内部通報制度の導入、通報・相談窓口の設置によりグループ全体の法令遵守意識を高めております。また、差別やハラスメントを防止するため、良好な人間関係の構築、円滑なコミュニケーションの確立を目的とした教育、啓蒙活動を実施するとともに万が一生じた際には公正かつ厳正な対処をいたします。
⑤知的財産権について
当社グループは事業を展開する上で必要となる技術、ライセンス、ビジネスモデル及び各種商標等の知的財産権について、当該権利を保有する他者の知的財産権を侵害することがないように常に注意を払い事業活動を行っております。しかしながら、当社グループの事業が他社の知的財産権を侵害したとして、差止請求や損害賠償請求等を受ける可能性があり、その場合には当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。このため、当社グループでは、知的財産権に対する体制の整備・強化を図るとともに、社員への教育・研修を通じて意識向上に努めています。なお、当社が保有する知的財産権については、重要な経営資源としてその保護に努めています。
⑥気候変動について
気候変動への対策・対応として、温室効果ガス排出量を削減する「緩和」と、気候変動の悪影響を軽減する「適応」の両面において、企業が課せられる取り組み・責務が徐々に強くなってきており、その結果、事業活動・企業活動における再生可能エネルギーの利用推進の要請が高まっています。そのため、再生可能エネルギーの需要変動により、当社グループのエネルギーコストに著しい影響を及ぼした場合、また、当社グループの再生可能エネルギーへの移行が遅延した場合、当社グループの事業及び経営成績等に影響が生じる可能性があります。
このため、当社グループではTCFDへ賛同するとともに、賛同した枠組みに沿ったアセスメントを今後継続的に実施し、その結果を対外開示していくことで、気候変動の緩和のための取り組みの説明を果たしてまいります。
(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりとなります。
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度における我が国経済は、雇用・所得環境が改善する下で、各種政策の効果もあって、足踏みがみられながらも緩やかに回復しました。先行きについては、引き続き緩やかな回復が期待されるものの、世界的な金融引き締め等、海外景気の下振れによる我が国の景気の下押しリスク、物価上昇、金融資本市場の変動等の影響に十分注意する必要があります。
当社グループの属する情報サービス産業においては、期中に公表された日銀短観におけるソフトウェア投資計画(金融機関を含む全産業)がいずれも前期比増を示す等、DX技術を活用した業務プロセスやビジネスモデルの変革がグローバルで進展する中で、IT投資需要の更なる増加が期待されています。
当連結会計年度は、「グループビジョン2026」の達成に向け、セカンドステップとして策定した中期経営計画(2021-2023)の最終年度となり、「Be a Digital Mover 2023」をスローガンに、戦略ドメインへの事業の集中を推進するとともに、DX提供価値の向上を基軸とした事業構造転換の加速に向けて諸施策を推進いたしました。
この結果、当連結会計年度の財政状態及び経営成績は以下のとおりとなりました。
a.財政状態
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 (2023年3月31日) |
当連結会計年度 (2024年3月31日) |
増減額 |
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流動資産 |
268,682 |
291,556 |
+22,873 |
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固定資産 |
193,637 |
233,899 |
+40,261 |
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資産合計 |
462,320 |
525,456 |
+63,135 |
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流動負債 |
117,179 |
140,277 |
+23,098 |
|
固定負債 |
35,914 |
60,453 |
+24,538 |
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負債合計 |
153,094 |
200,730 |
+47,636 |
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純資産合計 |
309,226 |
324,725 |
+15,498 |
(資産合計)
当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ63,135百万円増加の525,456百万円(前連結会計年度末462,320百万円)となりました。これは主に受取手形、売掛金及び契約資産が12,653百万円増加、のれん及びその他無形固定資産が日本ICS株式会社および株式会社レスコの株式取得(連結子会社化)等に伴い30,202百万円増加、建物及び構築物・土地がシステム運用業務における長期安定的な事業継続性の確保を目的とした不動産信託受益権の分割取得等により6,842百万円増加、投資有価証券が保有株式の時価変動等により3,597百万円増加したこと等によるものであります。
(負債合計)
当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ47,636百万円増加の200,730百万円(前連結会計年度末153,094百万円)となりました。これは主に未払法人税等が納付により4,330百万円減少した一方、借入金がM&Aや不動産信託受益権の分割取得等に伴い21,863百万円増加、繰延税金負債が日本ICS株式会社および株式会社レスコの株式取得(連結子会社化)等に伴い8,162百万円増加したこと等によるものであります。
なお、有利子負債合計としては、前連結会計年度末に比べ21,928百万円増加の37,972百万円(前連結会計年度末16,043百万円)となり、有利子負債比率も7.2%(前連結会計年度末比3.7ポイント増)となりました。
(注)有利子負債にはリース債務を含めておりません。
(純資産合計)
純資産は、前連結会計年度末に比べ15,498百万円増加の324,725百万円(前連結会計年度末309,226百万円)となりました。これは主に利益剰余金が36,269百万円増加、その他有価証券評価差額金が保有株式の時価変動等により3,815百万円増加、自己株式を取得後、消却を行ったことにより資本剰余金が28,155百万円減少したこと等によるものであります。
なお、利益剰余金の増加は、親会社株主に帰属する当期純利益により48,873百万円増加、剰余金の配当により12,604百万円減少した結果です。
セグメント別の財政状態は以下のとおりです。
イ.オファリングサービス
セグメント資産は、前連結会計年度末に比べて13,174百万円増加し、159,816百万円となりました。
ロ.BPM
セグメント資産は、前連結会計年度末に比べて205百万円増加し、12,972百万円となりました。
ハ.金融IT
セグメント資産は、前連結会計年度末に比べて2,766百万円増加し、88,392百万円となりました。
ニ.産業IT
セグメント資産は、前連結会計年度末に比べて3,378百万円増加し、75,557百万円となりました。
ホ.広域ITソリューション
セグメント資産は、前連結会計年度末に比べて12,119百万円増加し、123,022百万円となりました。
b.経営成績
当連結会計年度の業績は、売上高549,004百万円(前期比8.0%増)、営業利益64,568百万円(同3.6%増)、経常利益68,553百万円(同8.5%増)、親会社株主に帰属する当期純利益48,873百万円(同11.9%減)となりました。
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前期比 |
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売上高 |
508,400 |
549,004 |
+8.0% |
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売上原価 |
366,668 |
397,365 |
+8.4% |
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売上総利益 |
141,732 |
151,639 |
+7.0% |
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売上総利益率 |
27.9% |
27.6% |
△0.3P |
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販売費及び一般管理費 |
79,403 |
87,070 |
+9.7% |
|
営業利益 |
62,328 |
64,568 |
+3.6% |
|
営業利益率 |
12.3% |
11.8% |
△0.5P |
|
経常利益 |
63,204 |
68,553 |
+8.5% |
|
親会社株主に帰属する 当期純利益 |
55,461 |
48,873 |
△11.9% |
売上高については、顧客のデジタル変革需要をはじめとするIT投資ニーズへの的確な対応による事業拡大等により、前期を上回りました。営業利益については、人材投資をはじめとする将来成長に資する投資を積極的に実行しながらも、増収に伴う増益分に加え、高付加価値ビジネスの提供、生産性向上施策の推進等により前期比増益となりましたが、収益性については、不採算案件の影響が大きく、売上総利益率は27.6%(前期比0.3ポイント減)、営業利益率は11.8%(同0.5ポイント減)となりました。経常利益については、営業利益の増加に加え、営業外損益の改善を背景として前期比増益となりました。親会社株主に帰属する当期純利益については、主に前期において政策保有株式を縮減したことによる特別利益の反動減により、前期比減益となりました。
なお、2023年4月に連結子会社化した日本ICS株式会社の業績等は第2四半期連結会計期間から反映されており、当連結会計年度の業績に計上した同社業績は売上高58億円及び営業利益18億円、同社に関するのれん等償却額は12億円となりました。
<営業利益要因別増減分析(前期比)>
セグメント別の状況は以下の通りです。なお、各セグメントの売上高にはセグメント間の売上高を含んでいます。
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 |
当連結会計年度 |
前期比 |
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オファリング サービス |
売上高 |
111,752 |
130,759 |
+17.0% |
|
営業利益 |
6,426 |
7,659 |
+19.2% |
|
|
営業利益率 |
5.8% |
5.9% |
+0.1P |
|
|
BPM |
売上高 |
43,255 |
41,953 |
△3.0% |
|
営業利益 |
5,123 |
4,551 |
△11.2% |
|
|
営業利益率 |
11.8% |
10.8% |
△1.0P |
|
|
金融IT |
売上高 |
101,184 |
106,304 |
+5.1% |
|
営業利益 |
13,896 |
15,185 |
+9.3% |
|
|
営業利益率 |
13.7% |
14.3% |
+0.6P |
|
|
産業IT |
売上高 |
113,632 |
121,896 |
+7.3% |
|
営業利益 |
16,728 |
18,287 |
+9.3% |
|
|
営業利益率 |
14.7% |
15.0% |
+0.3P |
|
|
広域IT ソリューション |
売上高 |
160,010 |
172,376 |
+7.7% |
|
営業利益 |
19,343 |
18,497 |
△4.4% |
|
|
営業利益率 |
12.1% |
10.7% |
△1.4P |
|
|
その他 |
売上高 |
8,957 |
9,581 |
+7.0% |
|
営業利益 |
878 |
777 |
△11.5% |
|
|
営業利益率 |
9.8% |
8.1% |
△1.7P |
|
イ.オファリングサービス
当社グループに蓄積したベストプラクティスに基づくサービスを自社投資により構築し、知識集約型ITサービスを提供しています。
当連結会計年度の売上高は130,759百万円(前期比17.0%増)、営業利益は7,659百万円(同19.2%増)となりました。決済、基盤系、経営管理分野をはじめとするIT投資が拡大したことや、海外事業が売上高伸長に寄与したことに加え、2023年4月に連結子会社化した日本ICS株式会社の業績等が第2四半期連結会計期間から反映されたこと等により、前期比増収増益となり、営業利益率は5.9%(同0.1ポイント増)となりました。
ロ.BPM
ビジネスプロセスに関する課題をIT技術、業務ノウハウ、人材等で高度化・効率化・アウトソーシングを実現・提供しています。
当連結会計年度の売上高は41,953百万円(前期比3.0%減)、営業利益は4,551百万円(同11.2%減)となりました。既存のデータエントリー業務が苦戦した影響が大きく、前期比減収減益となり、営業利益率は10.8%(同1.0ポイント減)となりました。
ハ.金融IT
金融業界に特化した専門的なビジネス・業務ノウハウをベースとして、事業・IT戦略を共に検討・推進し、事業推進を支援しています。
当連結会計年度の売上高は106,304百万円(前期比5.1%増)、営業利益は15,185百万円(同9.3%増)となりました。クレジットカード系の根幹先顧客および公共系金融機関の大型開発案件が主に上期において牽引したことにより、前期比増収増益となり、営業利益率は14.3%(同0.6ポイント増)となりました。
ニ.産業IT
金融以外の産業各分野に特化した専門的なビジネス・業務ノウハウをベースとして、事業・IT戦略を共に検討・推進し、事業推進を支援しています。
当連結会計年度の売上高は121,896百万円(前期比7.3%増)、営業利益は18,287百万円(同9.3%増)となりました。製造業大型開発案件の反動減があったものの、製造業や流通業をはじめとした幅広い業種におけるIT投資拡大の動きやERP関連が全体を牽引し、前期比増収増益となり、営業利益率は15.0%(同0.3ポイント増)となりました。
ホ.広域ITソリューション
ITのプロフェッショナルサービスを地域や顧客サイトを含み、広範に提供し、そのノウハウをソリューションとして蓄積・展開して、課題解決や事業推進を支援しています。
当連結会計年度の売上高は172,376百万円(前期比7.7%増)、営業利益は18,497百万円(同4.4%減)となりました。売上高については、医療系や銀行、ネットワーク事業をはじめとするIT投資拡大の動きにより、前期比増収となりました。一方、営業利益については、不採算案件の影響が大きく、前期比減益となり、営業利益率は10.7%(同1.4ポイント減)となりました。
ヘ.その他
各種ITサービスを提供する上での付随的な事業等で構成されています。
当連結会計年度の売上高は9,581百万円(前期比7.0%増)、営業利益は777百万円(同11.5%減)となり、営業利益率は8.1%(同1.7ポイント減)となりました。
前述の通り、当連結会計年度は中期経営計画(2021-2023)の最終年度として、同計画の5つの基本方針である「社会・社員との共創価値の善循環」「DX提供価値の向上」「次なる強みへの投資拡大」「グローバル経営の深化と拡張」「人材の先鋭化・多様化」のもと、「Be a Digital Mover 2023」をスローガンに、戦略ドメインへの事業の集中を推進するとともに、更なるDX提供価値の向上を基軸とした事業構造転換の加速に向けて取り組みました。同計画で定めた重要な経営指標のうち主要なものについては、前連結会計年度に1年前倒して達成したことを受け、さらなる持続的な成長と企業価値向上を目指し、当連結会計年度におけるグループ経営方針を以下のとおりとし、各種施策を推進してまいりました。
注)戦略ドメイン:「グループビジョン2026」で目指す、2026年に当社グループの中心となっているべき4つの事業領域
中期経営計画の5つの基本方針における当連結会計年度の主な取り組み状況等は以下の通りです。
イ.社会・社員との共創価値の善循環
ステークホルダーとの共創を通じた社会課題解決を促進し、企業の社会的責任に対する認識をより一層深め、コーポレートサステナビリティに関する取り組みを強化するとともに、本社機能の高度化・効率化による経営基盤の整備を継続的に推進することとしています。
サステナビリティ先進企業としてのプレゼンスの確立を目指していく中、2023年4月より、コーポレートサステナビリティ委員会の位置づけや構成を変更しました。社外取締役を含む全取締役を中心とした構成とし、サステナビリティ経営を実践する上での潮流を捉え、課題の議論を通じて注力すべき課題の選定と対応の方向性を示すとともに、取締役会を通じてその執行を監督することで、サステナビリティ活動の継続的な高度化を目指します。
また、情報開示の充実による経営の透明性向上を図る一環として、当社グループのサステナビリティ経営の全体像やESGに対する取り組み、関連する非財務情報を網羅的にまとめたESGデータブックを発行しました。
コーポレート・サステナビリティ基本方針に基づき、喫緊の重要な社会課題として優先度の高いテーマである、人権や環境に関する取り組みも継続して進めています。人権問題に関しては、ビジネスと人権に関する指導原則を満たす人権リスク管理体制を明確化しました。環境問題に関しては、気候変動の原因とされる温室効果ガス(以下、GHG)の排出量削減に取り組む重要性を認識し、2030年度の事業所におけるGHG排出量(Scope1+2)(注1)削減目標を2019年度比で27.5%削減から50%削減まで引き上げるとともに、2040年度におけるGHG排出量(Scope1+2)のカーボンニュートラル、2050年度におけるGHG排出量(Scope1+2+3)をネットゼロ(注2)とする目標を設定しました。また、2021年に取得したSBT(Science Based Targets)(注3)の「2℃水準」を更新し、「1.5℃水準」との認定を受けました。
さらに、当社は多様なステークホルダーとの適切な協働・共創のため、2023年4月に「マルチステークホルダー方針」を策定しました。価値協創や生産性向上によって生み出された収益・成果について、マルチステークホルダーへの適切な分配を行うことが賃金引上げのモメンタムの維持や経済の持続的発展につながるという観点から、従業員への分配や取引先への配慮が重要であることを踏まえ、今後も取り組みを進めてまいります。
その他、当社グループの地域社会への貢献のあり方の一つとして、事業ではカバーできない3つの領域(将来のユーザーを支援する活動、社会にデジタル技術の恩恵を広める活動及び社会のデジタル技術による負の影響を軽減する活動)を対象に、企業版ふるさと納税の活用やNPOと協働するプロジェクト等も継続しています。
本社機能の高度化・効率化による経営基盤の整備の観点においては、従前から取り組んでいる「本社系機能高度化プロジェクト“G20”」の適用範囲を拡大するとともに、間接業務のシェアード化と更なる高度化に取り組む一環として、TISビジネスサービス株式会社を中心とした体制を通じて、グループ全体のバックオフィス業務のシェアードサービス化及びDX化を推進しました。
注1)GHGの算定や集計方法についての国際的な基準として機能している集計方法。2001年頃「GHGプロトコル」によって定められ、Scope1は自社からの直接排出、Scope2は購入した電力由来等の間接排出、Scope3はそれ以外の間接排出でバリューチェーンも対象
注2)人為的なGHG排出量と除去量のバランスが取れており、大気中へのGHG排出量が正味ゼロの状態
注3)最新の気候変動科学に基づいた国連気候変動枠組条約のパリ協定の目標を達成するために必要な削減量に整合した目標
ロ.DX提供価値の向上
社会を変革する構想力を高めるべく、ステークホルダーとの共創促進、DXコンサルティング機能の強化、ITデリバリーの高度化を推進することとしています。
ステークホルダーとの接点であるフロントラインの更なる強化にあたり、顧客に対する価値を高めるべく、戦略立案や事業課題に対するDXコンサルティング機能をより一層強化する施策を進めています。社外からの積極採用、DX戦略人材会議に基づくグループ全体における内部育成ローテーション施策にとどまらず、職種やスキルに応じた当社独自の育成プログラムをグループ全体に適用し、優秀なDXコンサルタントの増員とともに、コンサルティングメソドロジーの拡充を推進しています。また、データ分析・AIのコンサルティングに強みを有する連結子会社である澪標アナリティクス株式会社及び優秀なデザインコンサルティング力を有する子会社であるFixel株式会社とは、事業面に加えて人材面の連携強化も進めており、今後も戦略的な経営資源配置を加速させることで顧客のDX推進に対する価値提供体制の拡充に注力してまいります。
また、当社では、社員の働き方改革として、多様な働き方を可能にする人事制度の導入、オフィスやIT環境等の整備を推進してきましたが、DXによる働き方改革として、社内の各システムに保存されているデータを一箇所に集約し、さらに働き方を高度化させ全体のパフォーマンスを高めるためのデータ基盤を構築しました。これらのデータから導き出された分析結果を基に、社員の働き方を更に高度化する施策を展開してまいります。
当社グループでは、DXを3つの領域で捉え、よりよい社会を実現していく「社会DX」、顧客の事業を革新していく「事業DX」、そして当社グループ自身を進化させていく「内部DX」を相互に強く影響しあう一つの連なりとして、統合的な視点で取り組み、新たな価値の好循環を生んでいくことを目指しています。内部DXの一環として、当社では、Microsoft「Azure OpenAI Service」の環境を利用した、社内専用のChatGPT環境である「TIS AIChatLab」をリリースしました。急速な技術発展の中、ChatGPTを始めとする生成AIの分野は特にその進化が顕著であり、セキュアに利用できる環境を整備し、全社員が生成AIを実際に使うことで、業務効率化を進めるとともに、ビジネスへの効果的な活用に繋げることを目指します。
2024年3月には、当社及び株式会社インテックは、日本生命保険相互会社及びニッセイ情報テクノロジー株式会社との間で資本業務提携契約を締結しました。当社グループと日本生命グループは、これまでもIT分野における人材交流やシステム開発等に取り組んでまいりましたが、今回の提携を機に、日本生命グループにおけるIT戦略やDXへの取り組みをさらに強化し、さまざまな市場環境の変化やお客様ニーズの多様化に対応してまいります。
ハ.次なる強みへの投資拡大
事業構造転換を実現する実行力を高めるべく、社会課題解決型サービス事業をはじめとする注力領域への経営資源の重点分配とマネジメントの高度化施策を継続的に推進することとしています。
当社グループの強みである決済領域においては、リテール決済ソリューションのトータルブランド「PAYCIERGE」のもと、決済領域全般における事業展開を進めています。なお、前年度下期にサービスインしたクレジットカードプロセッシングサービスは安定的に稼働しており、さらなる取引の拡大に向けて営業活動を推進しています。また、連結子会社である株式会社ULTRAの有する決済のフロントエンド機能と、当社グループが従来から有する決済のバックエンド機能構築の強みと合わせ、決済機能の一気通貫での組み込みを可能とする等、「Embedded Finance」の事業展開の準備も進めています。加えて、当社は三井住友カード株式会社と、事業者の自社アプリへの決済機能搭載を実現する新たな決済プラットフォーム「三井住友カード モバイル決済パッケージ」の提供を開始しました。当サービスは、アプリに決済機能を搭載するうえで必要な機能が予め用意されており、事業者は戦略に応じて必要な機能を選択することで、従来よりも低価格かつ短期間で、自社アプリへの決済機能搭載が実現できるパッケージサービスです。今後も事業者のニーズや戦略の変化に対応できるように進化させることで、事業者のニーズや戦略の変化に応じたキャッシュレスに関する取り組みを総合的に支援してまいります。こうした中、昨今のライトな決済ニーズの広がり等、市場環境や顧客ニーズの趨勢に合わせて「クレジット」「デジタル口座」「次世代決済」「新たな価値創造」の4つの領域を軸とした新たな決済戦略を策定しました。新戦略の下では、従前のプロダクトやサービス単位から、それらの組み合わせによる複合的なサービス提供をはじめとした決済の進化や拡張により、金融領域への参入障壁を下げるとともに、決済に社会変容のテーマを掛け合わせて社会課題を解決していくことで、引き続きキャッシュレス社会の進展に貢献してまいります。
また、中期経営計画(2021-2023)において構造転換に向けた諸施策を推進する中、戦略ドメインの一つであるITオファリングサービス(注1)の成長を加速させることを目的として、税理士事務所とその顧問先企業をメインターゲットに、財務会計パッケージ及び関連サービスの提供を事業として展開する日本ICS株式会社を2023年4月に連結子会社化しました。当社の金融機関向けビジネスと同社の税理士等の士業向けビジネスを組み合わせて、士業の高度化、金融機関の高度化及び両社の取り組みの新たな企業への展開を推進し、顧客基盤の拡大や新たなビジネススキームの実現を目指す中、同社では、中長期にわたって税理士が抱える様々な課題を解決すべく、「税理士 360構想」を策定しました。今後、生成AI等のデジタル技術の活用や当社グループ内外の企業との連携・協業強化により、従来から提供している税務・会計ソフト提供を主軸に置きつつ、税理士を取り巻く周囲360度すべての支援メニューを展開することで、税理士および顧問先企業の発展に貢献してまいります。また、当社との連携を通じて、同社ではこれまでに経営運営体制の構築やガバナンスの強化・統合、当社独自の品質マネジメントシステム「Trinity」の導入等を推進しました。引き続き、士業高度化・顧問先のDX化に向けた当社サービスと関係性の深い経費精算や金融機関による財務諸表取込との連携、当社が取り組んできたR&Dや協業ノウハウ、最先端テクノロジーの共有により、当社顧客と同社の協業検討の推進及び開発体制の強化と、品質改善に向けた管理プロセスの強化を推進してまいります。2023年7月には、トークンエコシステムを一気通貫で実現することができるweb3プラットフォーマーの株式会社フィナンシェと資本業務提携契約を締結しました。Web2からWeb3への大規模な適応の中で顕在化してきた各種の課題解決と多様なニーズに応えるべく、両社が有する知識や経験、幅広い人脈を活用して、Web3の普及と発展を牽引する施策の展開を目指してまいります。
さらに、当社グループが事業を通じて解決を目指す社会課題の一つである「健康問題」に対する取り組みの一環として、当社は「多様なステークホルダー間の協調を促進し、PHR(Personal Health Record、注2)サービス産業の発展を通じて、国民の健康寿命の延伸や豊かで幸福な生活(Well-being)に貢献すること」を目的に2023年7月に設立されたPHRサービス事業協会に参画し、執行役(副会長)、ならびに技術・教育委員会の委員長に就任しました。当社は医療機関を中心に管理されている医療健康データを、健康増進に活用できるようにPHRとして整備するヘルスケアプラットフォームを提供しており、そのノウハウとデジタル技術を活かし、データ利活用のためのガイドライン整備に貢献するとともに、PHRサービスを提供するIT事業者として標準化を促進する役割を担うことで、PHRサービス産業の発展に貢献してまいります。また、PHRを活用して個人に最適な予防・治療を実現するネットワークを拡大させていくための施策の一環として、全ゲノム検査事業を展開するスタートアップ企業であるジーネックス株式会社に出資しました。
ヘルスケアプラットフォームのさらなる拡大に向けては、精神科病院等向けに電子カルテを提供する株式会社レスコを2023年12月に連結子会社化しました。同社が精神科向け電子カルテシステム市場で培った知見や情報資産と、当社のネットワークを活かした医療業界を中心とする各業界との連携や、当社が有するシステム人材とセキュリティ技術を相互に活用することで、医療DXや保険・製薬DXの推進、メンタルヘルスケア領域での新たな事業の創出を目指します。
注1)当社グループに蓄積したノウハウと、保有している先進技術を組み合わせることで、顧客より先回りしたITソリューションサービスを創出し、スピーディに提供する事業領域
注2)生涯にわたる個人の保健医療情報(健診(検診)情報、予防接種歴、薬剤情報、検査結果等診療関連情報及び個人が自ら日々測定するバイタル等)
ニ.グローバル経営の深化と拡張
事業戦略に基づく出資先との関係強化や共同事業の展開による更なる市場の深耕を図ることで、グローバルへの展開力を高め、グローバルパートナーシップ網を拡充することとしています。
当社グループはASEANトップクラスのIT企業連合体の組成を目指し、ローカル市場拡大のための「チャネル」、新規事業・サービス創出や次世代の技術開拓のための「テクノロジー」に加え、バリューチェーン拡大を実現するための「コンサルティング」という3つを軸として、各領域の優良企業との資本・業務提携を通じてパートナーシップの拡充を進めています。
「チャネル」においては、タイのMFEC Public Company Limitedが、CVCとして設立したSynergy Group Ventures Co., Ltd.を通じて当社グループの事業拡大を企図した投資活動を加速させており、タイ現地の有望なスタートアップ企業への出資や出資先企業との協業を推進しています。
「テクノロジー」においては、有力な技術およびサービスの更なる拡充を目的として、アメリカの量子コンピュータのスタートアップ企業であるAtom Computing Inc.およびQuEra Computing Inc.へのマイナー出資を行いました。将来的な競争激化が想定される量子コンピュータ技術において、最新テクノロジーの情報収集を加速させ、長期的な協業も検討してまいります。加えて、エンタープライズ向けソフトウェア企業への投資を専門とするアメリカのVista Equity Partners Management, LLCへの出資・協業により、同社グループ製品群を活用した高付加価値なITサービスの提供と、同社投資先企業の成功事例ノウハウの獲得を目指します。
「コンサルティング」においては、インド地場企業において大手の経営コンサルティング企業であるVector Management Consulting Pvt. Ltd.を持分法適用会社とした後、グローバル新規顧客の開拓を進めるとともに、同社のコンサルティング領域におけるノウハウを活用することで、当社グループのインド、日本、ASEAN地域及び中国の顧客企業に対するITサービスの高付加価値化の実現を目指し、協業を推進しています。
今後も戦略的投資によるアライアンスを最大限活用するとともに、それぞれの持つ強みを融合させた事業展開とASEANを面でカバーできる連携力の構築・強化による事業領域拡大を推進し、FY2026におけるグローバル事業の連結売上高1,000億円の目標達成を目指してまいります。
ホ.人材の先鋭化・多様化
多様な社員がプロフェッショナルとして活躍すべく、報酬の見直しや教育投資をはじめとする人材投資を継続し、人材の付加価値向上を目指すこととしています。
多様な個が活躍できる環境・組織風土の整備、新たな労働環境を見据えた次世代の働き方改革の推進、人材データベースのデジタル化による人材ポートフォリオマネジメントの高度化、HRビジネスパートナーの本格稼働を通じて、社員のエンゲージメント向上や自律的なキャリア開発の支援等の取り組みを進めています。また、構造転換をさらに加速するため、コンサルティング、グローバル、サービスビジネス等、先鋭人材の戦略的な確保と育成とともに人材の最適配置に努めています。
当社グループでは、グループビジョン2026の実現に向けた「構造転換」を果たすため、それを担う最重要の経営資本である人材の成長による付加価値向上に注力しています。以前より「働く意義」「働く環境」「報酬」の3つの軸で社員エンゲージメントを高める人材投資を進めてまいりましたが、「働く意義」と「報酬」の改革をさらに推し進めるため、当社においては、2023年4月より、報酬・評価・等級制度等を全面的に刷新した新人事制度を導入しました。報酬制度では特に事業を牽引する高度人材と若手層へ重点的に投資し、最大17%、平均では6%アップとなる基本給の引き上げをはじめとして、グループ全体で処遇改善に向けた取り組みを推進しており、これにより、当連結会計年度は前期比約52億円の人件費増となりましたが、当社グループの持続的成長に不可欠な人的資本に対する先行投資と位置付けています。こうした施策を引き続き実施し社員エンゲージメントを高めることにより、従業員が能動的に考え動き、期待を上回る高いパフォーマンスを発揮することで、人材の成長による企業競争力の向上を通じた企業成長の加速と、付加価値向上を目指します。
また、当社グループでは、グループダイバーシティ&インクルージョン方針のもと、グループで働く一人ひとりの人生の質の向上を目指し、「心身の健康」「働きがいの向上」「生活力の向上」を実現する施策を推進しています。こうした中、当社と株式会社インテックは健康経営をさらに高度化し、社員の生産性向上及びエンゲージメント向上、社会との価値交換性の向上を目指すため、2023年7月に「社員の健康をつうじた日本企業の活性化と健保の持続可能性の実現」というビジョンに共感する148の企業・団体(2023年6月30日時点)が活動する健康経営アライアンスに参画しました。健康経営に関する取り組みの進展に伴い、経済産業省と日本健康会議が選定する「健康経営優良法人」に認定されるグループ会社数は増加し、「健康経営優良法人2024」においては計6社となり、当社と株式会社インテックについては「健康経営優良法人2024~ホワイト500~」にも認定されました。加えて、「働きがいの向上」に向けて、意識調査結果の分析と社員の声から様々な施策を継続的に推進した結果、当社は、2023年12月実施の「働きがいのある会社」調査において、Great Place to Work® Institute Japanの「働きがい認定企業」に選出されました。
今後も、グループ全体で人材の価値を高めるために積極的な投資を行い、会社と社員と社会の高付加価値化の善循環を生みだすことで、当社グループのさらなる成長と企業価値を向上し、より豊かな社会の実現を目指してまいります。
その他、経営環境の変化に柔軟に対応した機動的な資本政策を遂行し、株主利益及び資本効率の向上を図る一環として、株主還元の基本方針である「総還元性向45%」に基づいて総額6,199百万円(総数1,678,900株)の自己株式を2023年5月から7月までの間に取得しました。また、2024年2月には、複数の当社事業法人株主の売却意向を踏まえ、当該売却による短期的な当社株式需給及び既存の株主様への影響を軽減する観点から、22,422百万円(6,766,000株)の自己株式を自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)により取得しました。また、自己株式については原則として発行済株式総数の5%を上限として保有し、5%を超過する保有分については消却する方針及び将来の株式の希薄化懸念を払拭すること等を勘案し、上述の取得分を含めて保有する自己株式のほぼ全てにあたる8,212,000株(消却前の発行済株式総数に対する割合3.4%)を2024年3月に消却しました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下、「資金」という。)は、前連結会計年度末に比べて8,415百万円増加し、当連結会計年度末には102,722百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果、得られた資金は62,578百万円(前期比28,944百万円増)となりました。これは主に、税金等調整前当期純利益69,193百万円(同12,299百万円減)に、資金の増加として、減価償却費17,340百万円(同1,640百万円増)、その他流動負債の増加額12,956百万円(同9,377百万円増)などがあった一方、資金の減少として、法人税等の支払額23,636百万円(同6,076百万円減)、売上債権及び契約資産の増加額10,568百万円(同8,223百万円減)などがあったことによるものです。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果、使用した資金は32,817百万円(前期比44,118百万円増)となりました。これは主に、資金の増加として、投資有価証券の売却及び償還による収入6,995百万円(同16,690百万円減)などがあった一方で、資金の減少として、連結の範囲の変更を伴う子会社株式の取得による支出20,724百万円(前期計上なし)、有形固定資産の取得による支出13,081百万円(同8,743百万円増)、無形固定資産の取得による支出5,850百万円(同194百万円減)などがあったことによるものです。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果、使用した資金は21,889百万円(前期比42,684百万円減)となりました。これは主に、資金の増加として、長期借入れによる収入23,159百万円(同19,659百万円増)などがあった一方で、資金の減少として、自己株式の取得による支出34,585百万円(同4,580百万円増)、配当金の支払額12,604百万円(同1,153百万円増)などがあったことによるものです。
なお、当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計であるフリーキャッシュ・フローは29,761百万円の黒字(前期比15,173百万円減)となりました。
③ 生産、受注及び販売の実績
a.生産実績
当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
オファリングサービス(百万円) |
115,594 |
116.7 |
|
BPM(百万円) |
39,809 |
97.6 |
|
金融IT(百万円) |
103,524 |
105.5 |
|
産業IT(百万円) |
123,064 |
79.0 |
|
広域ITソリューション(百万円) |
167,335 |
146.1 |
|
報告セグメント計(百万円) |
549,328 |
108.1 |
|
その他(百万円) |
- |
- |
|
合計(百万円) |
549,328 |
108.1 |
b.受注実績
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
受注高(百万円) |
前年同期比(%) |
受注残高(百万円) |
前年同期比(%) |
|
オファリングサービス |
123,518 |
122.8 |
42,248 |
127.3 |
|
BPM |
39,976 |
100.2 |
7,543 |
101.3 |
|
金融IT |
101,977 |
93.7 |
45,954 |
94.2 |
|
産業IT |
120,253 |
106.3 |
37,009 |
97.2 |
|
広域ITソリューション |
167,214 |
103.6 |
55,289 |
104.6 |
|
合計 |
552,940 |
105.5 |
188,044 |
104.3 |
c.販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
オファリングサービス(百万円) |
116,115 |
117.1 |
|
BPM(百万円) |
39,882 |
97.4 |
|
金融IT(百万円) |
104,822 |
105.4 |
|
産業IT(百万円) |
121,309 |
107.4 |
|
広域ITソリューション(百万円) |
164,786 |
107.3 |
|
報告セグメント計(百万円) |
546,916 |
108.1 |
|
その他(百万円) |
2,088 |
86.0 |
|
合計(百万円) |
549,004 |
108.0 |
(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
a.財政状態に関する認識及び分析・検討内容
当連結会計年度の財政状態の状況につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ① 財政状態及び経営成績の状況 a.財政状態」に記載したとおりであります。
当社グループは、経営環境の変化に柔軟に対応した機動的な資本政策を遂行し、株主利益及び資本効率の向上を図る一環として、株主還元の基本方針である「総還元性向45%」に基づいて総額6,199百万円(総数1,678,900株)の自己株式を2023年5月から7月までの間に取得しました。
また、2024年2月には、複数の当社事業法人株主の売却意向を踏まえ、当該売却による短期的な当社株式需給及び既存の株主様への影響を軽減する観点から、22,422百万円(6,766,000株)の自己株式を自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)により取得しました。
自己株式については原則として発行済株式総数の5%を上限として保有し、5%を超過する保有分については消却する方針及び将来の株式の希薄化懸念を払拭すること等を勘案し、上述の取得分を含めて保有する自己株式のほぼ全てにあたる8,212,000株(消却前の発行済株式総数に対する割合3.4%)を2024年3月に消却しました。
自己資本比率は59.5%となり、積極的な成長投資を可能とする財務健全性を堅持しています。
なお、当連結会計年度末の現金及び預金は保有方針である月商の2ヶ月程度を上回る状況にありますが、今後の資金需要等を考慮すれば適正な水準であると考えています。キャッシュアロケーションに関しては、構造転換の着実な進展による利益成長及び政策保有株式の縮減を加速させたことでキャッシュ創出力が当初想定よりも強まっており、これを受けて、投資・株主還元の強化に加えて資本構成適正化や財務健全性に向けた財務施策を積極的に実行することができています。今後もこうした善循環を推進することで経営の質の転換を進めてまいりたいと考えています。
b.経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当連結会計年度の経営成績の状況につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況 b.経営成績」に記載したとおりであります。
中期経営計画(2021-2023)の基本方針に沿って、引き続き将来成長に資する投資を実行する中においても収益性を向上させる取り組みを推進することができたと考えています。具体的には、構造転換推進のための先行投資コストの前期比増加7.8億円に加え、最重要の経営資本である人材に対する処遇改善の積極化に伴う人材投資コストの前期比増加52.1億円等がある中においても高付加価値ビジネスの提供や生産性向上施策等を推進しました。また、日本ICS株式会社の連結子会社化をはじめとした事業ポートフォリオの見直しによる収益基盤の強化にも取り組みました。当連結会計年度においては残念ながら不採算案件の影響を大きく受けたことで売上総利益率は前期比0.3ポイント減の27.6%、営業利益率は同0.5ポイント減の11.8%となりましたが、この一過性要因の影響を除いた場合には前期を上回る水準を実現できていると認識しており、また、こうした影響を受けた中でも営業利益は同 3.6%増の645.6億円と前期を上回る結果となりました。
c.経営成績等に重要な影響を与える要因について
当社グループの経営成績等に重要な影響を与える要因については、「第2.事業の状況 3 事業等のリスク」に記載したとおりであります。
d.経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等
当社グループの経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標は、「第2.事業の状況 1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等」に記載したとおりであります。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
a.キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容
当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況につきましては、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ② キャッシュ・フローの状況」に記載したとおりであります。
事業から創出されるキャッシュおよび政策保有株式をはじめとする非事業資産の資産最適化等に伴うキャッシュをベースに積極的な成長投資と株主還元の強化の両立を目指す中期経営計画(2021-2023)における財務投資戦略及びキャッシュアロケーションの考え方に基づいて、当連結会計年度においては営業活動によるキャッシュ・フローの大幅な増加によりキャッシュを創出し、R&D、人材投資、M&A及びソフトウエア投資といった成長投資を目的とした支出に充当しました。
当連結会計年度のフリーキャッシュ・フローは、297億円の黒字となりました。前期に比べて151億円減少しておりますが、成長投資による構造転換が進捗し、利益成長及び安定的なキャッシュ創出力は高い水準を維持しているものと考えております。
b.資本の財源及び資金の流動性
イ.資金需要
当社グループの資金需要について、営業活動においては、人件費・外注費及び材料費などの支払いに充当する運転資金が主な内容になります。投資活動においては中期経営計画の3年間で約1,000億円を想定する投資戦略に基づき、DX提供価値の向上や新技術獲得のためのM&Aやソフトウエア開発投資、R&D、人材育成や処遇改善をはじめとした人材投資などへの成長投資を実施しております。この成長投資の一環として、2023年4月に日本ICS株式会社の連結子会社化を実施しております。また、働き方改革を推進するため経常的な設備の更新、増設等を目的とした設備投資に加え、システム運用業務における長期安定的な事業継続性の確保を目的とした不動産信託受益権の分割取得を実施しております。これら取得資金を自己資金及び借入金により充当しております。
ロ.財務政策
自己資本当期純利益率(ROE)については、事業収益力の向上に伴う当期純利益率の向上を牽引役として12.5%~13%を中期経営計画(2021-2023)における目標とし、長期的には構造転換を進めることで、安定的に15%を実現できる企業への成長を目指しています。
当連結会計年度のROEについては、継続する事業成長に加え、バランスシートマネジメントの強化等を通じた財務施策の推進も奏功し16.0%となり、中期経営計画の目標水準を上回りました。主な財務施策としては、事業法人株主の売却意向に応じて自己株式の取得(約224億円相当)を実施しています。
なお、当社グループは、必要となる資金につきましては、内部資金より充当し、不足が生じた場合は有利子負債の調達を実施することを基本とし、現金及び預金は月商の2ヶ月程度を保有する方針としております。借入金、社債等の調達については、調達コストの抑制の観点から格付「A」の維持を考慮して実施する前提としております。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)に記載のとおりであります。
該当事項はありません。
当社グループでは、新規事業創出および中長期の事業成長、競争力強化を目指し、継続的に研究開発活動に取り組んでいます。
当連結会計年度の研究開発に関する費用の総額は、
中東や北朝鮮、中国など、世の中の情勢が不安定な中、また大規模地震や異常気象などによる環境問題など日々深刻になっている中、生成AIという言葉が、SNS上や新聞紙面上で見ない日はなく、AIなどの先端技術が着実に普段の生活の中に溶け込んできております。また、次世代計算機として、量子コンピュータの技術進化も顕著となってきており、2024年は量子コンピュータの性能向上が加速する年になると言われております。量子コンピュータの計算を担う「物理量子ビット」の増加や計算エラーを低減・修正する技術が日々報告されております。米国IBMやGoogleといった業界の大手企業だけでなく、欧米の量子スタートアップなども技術進化に大きく貢献する見通しとされています。このように、先端技術を用いたソリューションが求められる中、経営環境や技術競争環境は劇的に変化しています。
弊社では、社会ニーズをとらえ、社会課題解決につながるテクノロジーをビジネスに取り入れていくことが重要と考えており、最先端技術トレンドを幅広く分析し、最先端技術を応用するために、次に掲げる3つの領域の研究開発に注力しております。
(1) 近未来の事業の核となるコア技術を中心とした研究開発
(2) 持続可能な社会の実現や社会課題の解決に貢献する要素技術の研究開発
(3) 先進的なソフトウエア生産技術
(1) 近未来の事業の核となるコア技術を中心とした研究開発
数多くある先端技術の中から、Gartnerなどの調査を基に研究テーマを集中・選択し、2021年度より進めておりますコア技術戦略として、「XR*1研究」、「Multi-Level Edge Computing研究」、「量子及び古典コンピュータによる高性能計算の研究」を引き続き重点テーマとして研究開発を行っております。昨年まで行っていた「Data Labeling for AI」は、生成AIの研究開発として、短期の研究開発として継続して実施していきます。これらの要素技術を国内外の大学や研究機関との産学連携を活用して、今後の新規事業などにおける差別化技術として研究開発を行っております。
「XR研究」では、メタバース空間を新しい経済空間ととらえ、この空間においてそれぞれのユーザが様々なコミュニケーションを行えるための要素技術について、東京大学および東京都市大学と共同研究を進めております。この共同研究などで得られた知見を用いて、実写観光メタバースアプリ「BURALIT」および決済完結型バーチャルショップを構築できる「XR Pay」をリリースしております。また、2023年より電子情報技術産業協会におけるメタバース対応Gにおいて、主査として他社と連携してこの分野を活性化する活動しております。
「Multi-Level Edge Computing研究」では、将来の経済空間であるメタバース空間において相互的にコミュニケーションを行うことを考え、多人数がネットワーク上で画像などの大容量の通信が必要となってくることが想定されます。その際に必要な要素技術について、2021年より、電気通信大学において複数の研究分野の研究者とともに課題解決型共同研究を行っております。その結果、多人数大容量のネットワークインフラを作成することに成功し、さらに実運用を考慮して、低コストでのインフラについても考案しました。また、経済産業省の国際標準開発「ウェアブルセンサ信号のコンテナフォーマットに関する国際標準化」に参画し、広島市立大学との産学連携により、次世代のIoTシステムにおける情報フォーマットを定義することで、ヘルスケア分野などにおいて貢献していきます。
「量子及び古典コンピュータによる高性能計算の研究」では、近い将来の実用化に向けて、量子及び古典コンピューティング技術について、大阪大学、九州大学および産総研と共同研究を行っております。NISQ*2と呼ばれるエラーの多い中規模な量子コンピュータにおけるエラー抑制技術や、限定的な量子ビットの高効率な利用手法において成果を上げており、国際学会等で報告をしております。今後は、Early-FTQC*3に向けたアルゴリズム開発を検討しております。また、量子コンピュータを扱える人材の育成についても引き続き行っており、QuantAttack(クアントアタック)という量子コンピュータの理論を自然に学ぶことができるゲームなどを開発し、無料で公開しております。
(2) 持続可能な社会の実現や社会課題の解決に貢献する要素技術の研究開発
当社グループでは、よりよい社会を実現していく「社会DX」、お客様の事業を革新していく「事業DX」そしてTISインテックグループ自身を進化させていく「内部DX」の3つの領域のDXと捉えて、総合的な視点で取り組みを進めております。4つの社会課題の解決、すなわち「金融包摂」「都市への集中・地方の衰退」「低脱炭素化」「健康問題」の社会課題の解決を重点に、取り組む事業分野を、金融、製造、物流、電子政府、エネルギー、医療・ヘルスケアなどとして、新たな価値創造を目指しております。2023年度は、TISの経費精算クラウドサービス「Spendia」のチェック機能拡張による不正検知・ガバナンス強化を実現しております。
金融、電子政府分野等では、マイナンバー本人確認サービスを開始しており、金融包摂およびマイナンバー活用振興に貢献しております。金融包摂を念頭に、それらを活用した諸手続きの電子効率化などを通して生活者の利便性向上に貢献してゆきます。本サービスは、蒲郡市で採用されております。
エネルギー分野では、2022年度に取り組んだ地域の森林資源の循環利用を活性化するプログラム「WOOD DREAM DECK」のアウトプットとしてサウナ「ocomoriサウナ」を完成させ、Web3.0*4技術やNFT*5を活用して地域の森林資源を活かした経済循環と環境保全を両立するエコシステムを支えております。
医療・ヘルスケア分野では、地域医療情報連携サービス「ヘルスケアパスポート」がデジタル田園都市国家構想への参画を通して、社会実装に向けての活動を推進しています。また、当社グループが協賛する大阪・関西万博「大阪ヘルスケアパビリオン」では閉幕後のソフトレガシービジネスを社会実装と捉え検討を進めております。
(3) 先進的なソフトウエア生産技術
ソフトウエア生産技術については、取引先企業や自社サービスにおけるビジネス変革スピードへの対応力を強化するため、生成AI*6、アジャイル開発*7、UI/UXデザイン、モバイルアプリケーションなどの基本的な技術獲得と開発生産性の向上につながる技術開発をしております。当連結会計年度は、生成AIを社内の様々な業務で活用できる環境整備を行うとともに、再利用可能なプロンプト*8を含む生成AI活用ガイドを整備し、グループ会社を含む1,000名以上が参加する生成AI活用コミュニティにて展開するなど、活用の普及に取り組みました。ソフトウエア開発の領域においてもGitHub Copilot*9の社内利用を加速するためのルール整備、育成活動などを行いました。
また、昨年度に引き続き、モバイルアプリケーション開発のノウハウ整備やエンジニア育成活動、新規事業開発におけるエンジニアリングの最適化のためのガイド整備実践に注力しました。
*1 XR(Extended Reality)
VR(Virtual Reality/仮想現実)、AR(Augmented Reality/拡張現実)、MR(Mixed Reality/複合現実)などのさまざまな仮想空間技術の総称
*2 NISQ(Noisy Intermediate-Scale Quantum Computer device)
エラー訂正機能のない、ノイジーな中規模量子コンピュータのこと
*3 Early-FTQC(Early Fault-Tolerant Quantum Computing)
エラー訂正可能な誤り耐性量子コンピュータへ移行する初期段階の量子コンピュータのこと
*4 Web3.0
ブロックチェーン技術を活用し、デジタルデータを分散管理することで、特定の管理者を介さずデータやコンテンツなどのやり取りを可能にする、ボーダレスなサービスを展開できる分散型インターネットの概念
*5 NFT(Non-Fungible Token)
暗号資産(仮想通貨)と同じく、ブロックチェーン上で発行および取引される、偽造不可の鑑定書・所有証明書付きのデジタルデータ
*6 生成AI
生成AIは、人工知能技術を用いてテキスト、画像、音楽など新しいコンテンツを自動生成するシステムである。大量のデータから学習し、特定の指示に基づいてユニークなアウトプットを作成することが可能であり、ビジネスシーンにおいては、広告コンテンツの生成、ユーザーインターフェースの改善、顧客サポートの自動化など、多岐にわたって活用されている。
*7 アジャイル開発
システムやソフトウエア開発におけるプロジェクト開発手法の一つで、大きな単位でシステムを区切ることなく、小単位で実装とテストを繰り返して開発を進める。従来の開発手法に比べて開発期間が短縮されるため、アジャイル(素早い)と呼ばれる。
*8 プロンプト
AIに対して行動や作成を指示するための命令や質問のこと。適切なプロンプトを用いることで、AIの能力を最大限引き出し、高品質な内容の生成が期待できる。
*9 GitHub Copilot
生成AI技術を活用したプログラミングに関わる様々な作業を支援するツール。