第2【事業の状況】

1【経営方針,経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針,経営環境及び対処すべき課題等は,以下のとおりです。

なお,文中の将来に関する事項は,当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社グループは,社会とともに発展するよき企業市民であることを第一義とし「技術をもって社会の発展に貢献する」,「人材こそが最大かつ唯一の財産である」との経営理念のもと,「自然と技術が調和する社会を創る」ことを将来のありたい姿とするESG経営を推進しています。人権を尊重し,多様な人財が活躍する企業風土を原動力として,事業活動を通じて気候変動問題を解決することで,サステナブルな社会の実現を目指していきます。

 

(2)会社の経営戦略及び経営指標

当社グループは,2023年度を初年度とする3か年の中期経営計画「グループ経営方針2023」に基づき,持続的な高成長を実現する事業変革をより具体的かつ本格的に進めると同時に,劇的な環境変化へ対応可能な企業体質への変革を加速していきます。

 

「グループ経営方針2023」の取り組み,経営目標

 

 ① 持続的な高成長を実現する事業の変革

事業を通じて社会課題を解決し,社会と当社グループの持続的な高成長を両立するためには,お客さま事業のライフサイクルを通じた価値の提供と,バリューチェーン全体を構築することによる価値の向上が重要となります。「グループ経営方針2023」では,事業を次の3つに区分し,いずれについてもライフサイクルとバリューチェーンを強く意識しながら取り組んでいきます。

 

a. 成長事業:航空エンジン・ロケット分野

航空エンジン・ロケット分野は,当社グループの成長を牽引する事業と位置付けました。

航空旅客需要増加に伴う民間向け航空エンジン事業の拡大を基盤としつつ,防衛力の抜本的強化の政府方針を受けて防衛事業を拡大させると共に,長期的な成長ドライバーとして宇宙事業を推進することで,持続的な成長を目指します。カーボンニュートラルに向けた電動化・水素推進の技術開発や,民間・防衛における技術・経験のシナジーによる新たな事業創出にも取り組んでいきます。

b. 育成事業:クリーンエネルギー分野

クリーンエネルギー分野は,航空エンジン・ロケット分野と双璧をなし,当社グループの成長を牽引する事業に育成すべく取り組んでいきます。

当社グループはアンモニアの燃焼技術において世界をリードする位置にありますが,今後は,貯蔵や輸送も含めたアンモニアバリューチェーン全体を構築し価値向上を図ることで,社会やお客さまに貢献できるように努めます。また,燃料製造プロジェクトへの投資など,新たなビジネスモデルの構築にも取り組んでいきます。

c. 中核事業

資源・エネルギー・環境,社会基盤,産業システム・汎用機械分野は,引き続き当社グループの中核を担う事業と位置付けました。

これらの事業は,これまでのビジネスの延長ではなく,お客さまのライフサイクルにより深く入り込み,そこから得られた知見をフィードバックすることで,さらに進化した製品・サービスをお客さまに提供していきます。また,成長事業及び育成事業に対して投下するキャッシュや人財などの経営資源を捻出するために,業務プロセスの改革やデジタル基盤の活用による業務効率化とともに,事業の見直しも進めていきます。

 

 ② 環境変化への対応,変革を実現しうる企業体質への変革

当社グループは,ESGを軸とする経営を徹底するとともに,事業変革のために不可欠な情報デジタル基盤の高度化,そして企業体質の変革を成し遂げる上で最も重要である変革人財の育成・獲得を積極的に進めていきます。

 

 ③ 資源配分と経営目標

成長・育成事業へ経営資源を大胆にシフトし,投資を実行していきます。また,安定配当を基本方針として連結配当性向30%を目指します。

 

財務目標

2025年度

ROIC(税引後)

8%以上

営業利益率

7.5%

CCC

100日

(参考) 売上収益

17,000億円

(注)各指標の算出方法は次のとおりです。

 ・ROIC  :(1-法定実効税率)×(営業利益+受取利息+受取配当金)

   ÷(親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債の金額)

 ・CCC   :運転資本÷売上収益×365日

 ・運転資本:営業債権+契約資産+棚卸資産+前払金-契約負債-営業債務-返金負債

 

 

(3)会社の対処すべき課題

<短期的な課題>

2024年4月24日に公表のとおり,当社の子会社である株式会社IHI原動機において,同社が製造する船舶用エンジン及び陸上用エンジンの試運転記録に不適切な修正が行なわれていたことが判明しました。

本件について,当社は弁護士をはじめとした外部有識者で構成される特別調査委員会を設置して,原因究明及び再発防止策の策定に取り組むとともに,当社グループにおける類似の事象の有無についてあらためて点検を行なっています。

当社は,2019年に当社瑞穂工場にて発生した民間航空機エンジン整備事業における不適切な検査事案を受けて,グループをあげて再発防止に取り組んできましたが,再びこのような事態を招いたことから,これまでの取組みが不十分であったと言わざるを得ないものと考えています。

当社グループは,関係するすべてのステークホルダーの皆さまからの信頼を早期に回復するべく,コンプライアンス意識の再徹底及び組織風土の改善並びに同様の事案を二度と起こさない仕組みづくりに,グループ一丸となって取り組んでいく所存です。

 

また,当社グループは,当連結会計年度において出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響による損失の計上がありましたが,成長・育成事業に重点的に投資配分していく方針に変更はなく,費用の削減や投資の優先順位の見直しなどを進めると同時に,投資原資を確保するために営業キャッシュ・フローの強化に取り組みます。同時に,事業ポートフォリオ改革や資産売却等を通じて自己資本の増加を図り,財務体質を強化していきます。

 

 

<長期的な課題>

 ESG経営

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当社グループは,自然と技術が調和する社会を創るために,取り組むべき社会課題を「脱CO₂の実現」,「防災・減災の実現」,「暮らしの豊かさの実現」としています。地球規模で問題となっている気候変動への対策として,温室効果ガスの排出量を減らす「緩和」と,その影響に備えて被害を軽減する「適応」に取り組み,暮らしの豊かさを実現していきます。

 

・社会課題の解決

当社グループは,2050年までに,バリューチェーン全体で,カーボンニュートラルを実現することを宣言しました。自社の事業活動によって直接・間接に排出される温室効果ガス(Scope1・2)だけでなく,私たちの上流及び下流のプロセスで排出される温室効果ガス(Scope3)の削減に取り組み,カーボンニュートラルを目指します。具体的には,既存技術を活用した「トランジション」と,新しい技術による「トランスフォーメーション」の2段階で取り組んでいきます。

また,自然災害に強く経済的なインフラ整備と,センシング・モニタリング技術を活用したインフラ管理システムの構築を進め,安心・安全で暮らしやすいコミュニティの実現を目指します。

 

・人権の尊重

当社グループは,「IHIグループ基本行動指針」において,地球的課題を意識し,あらゆるステークホルダーの期待に応えるために私たちがなすべきことを定めています。この指針に基づき,2020年12月に「IHIグループ人権方針」を定めました。国際規範に基づく人権啓発活動を通じて,人権を尊重する企業文化の醸成と事業活動全般にわたる人権尊重の取組みを推進することで,あらゆる人びとに対する人権尊重の責任を積極的に果たしていきます。また,サプライチェーンにおいても,取引先と協働して社会的責任を果たしていくCSR調達に取り組むことを,「IHIグループ調達基本方針」に定めました。

バリューチェーンを通じて,事業活動によるステークホルダー・ライツホルダーに対する負の影響を予防・低減し,すべての人の豊かな生活を実現するために取り組みます。

 

 

・多様な人財の活躍

持続可能な社会を実現するには,多様性を受け入れ,環境の変化を的確に把握し対応することが必要です。

社会の発展に貢献するという経営理念や,自然と調和した社会を創るという目指す姿を,社員一人ひとりが理解し,企業としての使命を自覚することが必要です。会社と社員が,お互いの成長に貢献し合う関係性を保ちながら,個人と組織のベクトルを合わせていくことが重要であると考えています。

また,当社グループは,人財の多様性を尊重し受け入れる「ダイバーシティ,エクイティ&インクルージョン」を重要な価値観とし,多様なバックグラウンド・多様な経験・異なる視点を持った多様な人財が活躍できる環境を整備していきます。また,社員一人ひとりがより幅広い視野・経験を身に着けるための制度の拡充や,さまざまな機会提供を行なっていきます。

 

・ステークホルダーからの信頼の獲得

事業を通じて社会課題を解決し,企業価値を高めるためには,グループが本来有する力を最大限に発揮できるよう基盤を築くこと,また,あらゆるステークホルダーとの積極的な対話を行なうことが重要であると考えています。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループは,「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」を経営理念に掲げ,1853年の創業以来,時代時代における社会課題の解決に貢献してきました。持続可能な社会の実現と企業として持続的に成長することを目指し,変わりゆく社会課題に向き合い,従前以上に自然環境や社会に配慮しながら,その解決に事業機会を見出すことを「IHIグループのESG経営」として,2021年11月に表明しました。

当社グループでは,地球環境とそこに暮らす人びとが持続可能であるために,未来世代も含めたあらゆる人びとが,豊かに安心して暮らすことができる社会―「自然と技術が調和する社会」を創ることをありたい姿としています。そのために,「気候変動への対策」,「人権の尊重」,「多様な人財の活躍」,「ステークホルダーからの信頼の獲得」を優先的に取り組むべき重要な課題として特定しました。

 

なお,文中の将来に関する事項は,当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)ガバナンス

当社グループは,持続可能な社会を実現するために,環境と社会に対する貢献と責任,それらを実現するためのガバナンスに関して,明確な価値観を示した「ESG経営」を行なう必要があると考えています。

「ESG経営」において重要と考える事項を重要課題として特定し,取組み方針,推進体制及び実行計画について協議・決定する場として,ESG経営推進会議を設置しています。ESG経営推進会議はCEOが議長を務め,執行役員以上の全役員を構成員として,原則年2回開催しています。

環境,人権やコンプライアンスなど,全社に通じる課題については,適宜,全社委員会を設置することで,委員会で審議・決定した方針が各部門の具体的な施策に反映される体制にしています。これら会議や委員会における議論のうち,経営上の重要な意思決定に関わるものについては,経営執行における意思決定機関である経営会議での審議を経て,取締役会に付議しています。

また,ESG経営の推進を目的として,取締役(社外取締役を除く)の業績連動賞与の評価指標である役員ごとのミッションに応じた個別評価指標に,温室効果ガスの削減,従業員エンゲージメントの向上,ダイバーシティ,エクイティ&インクルージョン(DE&I)の推進の取組みを含めています。

 

<サステナビリティ推進体制図>

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<取締役会におけるサステナビリティに関する主な議論>

2019年4月

 TCFD提言の趣旨への賛同

2019年5月

 「IHIグループ基本行動指針」の改定

2020年11月

 「IHIグループ人権方針」の策定

2021年11月

 「IHIグループのESG経営」において,以下を設定

   ・気候変動対策に関しての目標「カーボンニュートラル2050」

   ・「社会」に関する最重要課題:人権の尊重,多様な人材の活躍

2021年12月

 国連グローバル・コンパクトへの署名

2023年4月

 気候変動対策におけるグループ中間目標の設定

 

なお,コーポレート・ガバナンスの状況については,第4「提出会社の状況」4「コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載しています。

 

(2)リスク管理

当社グループでは,短期的な事業リスクに加えて,中長期の時間軸で事業環境に変化を及ぼすサステナビリティ関連のリスクについても,事業活動に係るリスクとして管理しています。具体的には,中長期的に当社グループに及ぼす影響を評価し,それらを短期的な事業リスクに落とし込んでいます。内部監査部門・コーポレート部門・事業領域・事業部門(関係会社を含む)の役割と責任を明確化し,重層的なリスク管理体制の中で管理しています。

2023年5月に公表した「グループ経営方針2023」において,気候変動対策を含むお客さま・社会課題への対応を事業機会と捉え,環境・社会価値を事業評価に取り入れてESG経営を推進しています。

 

<リスク管理体制図>

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なお,リスク管理体制の詳細については,第2「事業の状況」3「事業等のリスク」に記載しています。

 

(3)気候変動に関する戦略並びに指標及び目標

①戦略

当社グループは,「気候変動への対策」は地球規模で取り組むべき社会課題であり,ESG経営においてより重要な課題としています。

気候変動の緩和のための取り組みは,既存技術や現有設備を活用した温室効果ガス排出量の削減と,新しい技術や仕組みの構築による削減の2段階で進めています。バリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現することを事業機会と捉え,当社グループの製品を対象としたライフサイクルビジネスからお客さまのバリューチェーンを対象としたライフサイクルビジネスへと変革し,提供する環境価値を向上するとともに経済価値を創出していきます。お客さまのバリューチェーン視点でのライフサイクルビジネスを通じて創出した経営資源は,カーボンニュートラルに資する新技術・新システムの開発や成長・育成事業に投下し持続的な高成長につなげていきます。また,これらの新技術・新システムを当社グループ内に積極的に導入することで,当社の事業活動におけるカーボンニュートラルの早期実現につなげていきます。

気候変動への適応のための取り組みは,特に社会基盤分野において,保全・防災・減災の視点で,安全・安心な社会インフラの構築と実装を進めることを事業機会と捉えています。近年頻発する自然災害に対応した,流域利水・治水などの防災・減災事業により,社会課題の解決に貢献します。

 

当社グループでは,展開する事業のうち,特に気候変動の影響を著しく受ける4つの主要事業(エネルギー事業,橋梁・水門事業,車両過給機事業,民間向け航空エンジン事業)を対象として,簡易的にシナリオ分析を行いました。設定したシナリオは,①カーボンニュートラルな世界におけるシナリオ(移行リスクの大きいシナリオ)と②気候変動の影響が甚大な世界におけるシナリオ(物理的リスクが大きいシナリオ)の二つです。これらのシナリオにおけるリスク・機会とその対応策を,それぞれの事業に特化しているものと,どの事業にも共通しているものに分類しました。

 

<事業に特化している主なリスク・機会とその対応策>

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<どの事業にも共通している主なリスクとその対応策>

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なお,ライフサイクルビジネスや成長・育成事業などの詳細については,第2「事業の状況」1「経営方針,経営環境及び対処すべき課題等」に記載しています。

 

②指標及び目標

当社グループは,2050年までにバリューチェーン全体でカーボンニュートラルを実現することを「カーボンニュートラル2050」として宣言しました。自社の事業活動によって直接・間接に排出される温室効果ガス(Scope1・2)に加えて,私たちの上流及び下流のプロセスで排出される温室効果ガス(Scope3)の削減をはかることで,カーボンニュートラルを目指します。

温室効果ガス(Scope1・2)については,2030年度に「2019年度排出量からの半減」を目標として設定しました。

当社グループのCO₂排出量の推移は,2024年8月頃に発行予定の「IHI Sustainability Data Book 2024」を参照ください。

 

(4)人的資本に関する戦略並びに指標及び目標

①戦略

当社グループは,「グループ経営方針2023」の2つの目標である「持続的な高成長を実現する事業の変革と事業ポートフォリオの変革」及び「環境変化への対応,変革を実現しうる企業体質への変革」の達成に向けて「グループ人財戦略2023」を策定しました。

事業の変革と企業体質の変革を実現するためには,「良い+強い」会社と個人の「成長+幸せ」を両立させることが重要と考えており,将来の目指す姿としました。新しいリーダーシップと素早い自己変革能力を併せ持ち目標達成にコミットするとともに,従業員の成功や幸せと新たなパートナーシップを通じて人間尊重を大切にすることで顧客・産業・社会の課題を解決できる組織と人財づくりを推進します。この将来の目指す姿の実現に向けて,2023年度を評価軸,時間軸,関係性の転換点と位置付け,3つの重点課題と11の重点施策に取り組み,すべての従業員に行動変容を促し,変革を達成できる組織文化の醸成を図ります。

 

<「グループ人財戦略2023」:重点課題と重点施策>

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②指標及び目標

当社グループは,多様なステークホルダーと連携・協働して問題を解決する人財が活躍でき,事業を通じて関わるあらゆる人びとの人権が尊重される企業グループになることを目指しています。とりわけ経営幹部候補の多様化や,若い世代の多様な視点・発想を経営に活かしていく取組みを進めています。

経営幹部候補の多様化は役員に占める女性比率を指標としています。日本経済団体連合会が掲げる「2030年30%へのチャレンジ」に賛同し,2030年までに役員に占める女性比率を30%以上にすることを目標に据えています。また,女性管理職比率及び女性採用比率を指標としており,女性管理職比率については2026年までに7%,女性採用比率については2026年までに大卒20%程度を目標としています。

併せて,変革への挑戦を評価する制度改革と風土醸成の進捗を,従業員意識調査の結果などでモニタリングをします。

 

これらの指標の実績については,2024年8月頃に発行予定の「IHI Sustainability Data Book 2024」を参照ください。

なお,第1「企業の概況」5「従業員の状況」にも関連する指標と実績を記載しています。

 

(5)人権に関する戦略並びに指標及び目標

①戦略

当社グループは,2020年12月に「IHIグループ人権方針」を定めました。国際規範と本方針に基づき,サプライチェーンも含めた事業活動全般にわたる人権尊重の取組みを推進しています。当社グループは,事業活動により影響を受ける人びとの人権を尊重し,人権リスクを低減するために,国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿って,人権デュー・ディリジェンスのプロセスを進めています。

人権リスクの評価として,2021年に,まずは社外の専門家の助言を得ながら,IHI及び国内外のIHIグループ事業を対象に,人権リスクアセスメントを実施しました。そこでIHIグループにとっての重要な6つの人権課題を特定し,最も優先度の高いライツホルダーとして,IHIグループの社員とサプライヤーを選定しました。次に,「重要な人権課題」に関する実態把握のため,2021年12月より国内外のIHIグループ拠点に対する人権インパクトアセスメントを開始しました。

また,2024年4月より,IHIグループのバリューチェーンを含むあらゆるステークホルダーを対象として,人権侵害に関する苦情処理窓口を開設しました。

アセスメントや苦情処理窓口からの通報を通じて,当社グループの事業活動に起因して人権リスクが発生している,又は当社グループの事業活動がこれに関与していることが明らかになった場合には,関連するステークホルダーとの協議を行ない,適切な手続きを通じて是正・救済していきます。

 

<人権デュー・ディリジェンスの全体像>

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<重要な人権課題>

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②指標及び目標

人権インパクトアセスメントは,2024年度までに,IHIグループ約160社に対して実施する予定です。2021年度下期から2022年度は59拠点,2023年度は37拠点で,人権インパクトアセスメントを実施しました。3年で1サイクル実施することとし,2025年度以降も実施計画に従って進められるようモニタリングしていきます。

 

3【事業等のリスク】

(1)リスク管理に関する当社グループの基本方針

当社グループでは,リスク管理を経営の最重要課題の一つととらえ,グループ全体で強化に取り組んでいます。

リスク管理の基本目的は,事業の継続,役員並びに従業員とその家族の安全確保,経営資源の保全,社会的信用の確保です。そして,次のとおり行動指針を定め,これに沿ったリスク管理を行なっています。

①IHIグループの事業継続を図ること

②IHIグループの社会的評価を高めること

③IHIグループの経営資源保全を図ること

④ステークホルダーの利益を損なわないこと

⑤被害が生じた場合には,速やかに回復を図ること

⑥事態が発生した場合には,責任ある行動をとること

⑦リスクに関する社会的要請を反映すること

 

(2)当社グループのリスク管理体制

当社グループでは,リスク管理全般にかかわる重要事項を検討する機関として,CEOを議長とするリスク管理会議を設置し,取り組み方針や年次計画,是正措置などの重要事項を検討しています。

重点的に対処すべきリスクを「IHIグループリスク管理活動重点方針」として定め,当社の各部門及び海外を含む関係会社は,この方針に沿って主体的・自立的にリスク管理活動を進めています。

グループ全体に共通するリスクについては,主に当社のコーポレート部門から構成されるグループリスク統括部門が専門性を活かした情報提供や教育を実施し,各部門のリスク管理活動を支援しています。また,内部監査部門は,グループのリスク管理体制の整備状況及び運用状況について監査を実施し,適正性確保に努めています。

また,強固なリスク管理を行なうため,内部監査部門・コーポレート部門・事業領域・事業部門(関係会社を含む)の役割と責任を明確化したリスク管理体制を構築しています。関係会社を含む事業部門は,リスクの特定と直接対応にあたり,事業領域は,事業部門のリスク管理活動に対する監視及び指示と,新しいリスクの予兆検知を担当します。当社のコーポレート部門は,事業部門,事業領域によるリスク管理活動に対する評価及び助言,未認識リスクへの注意喚起,新しいリスクの予兆検知,顕在化したリスク事象の水平展開を担当し,内部監査部門はそれらリスク管理機能の保証を担当します。

 

(3)2024年度のリスク管理活動

2024年度の「IHIグループリスク管理活動重点方針」では,重点テーマとして,次の事項について注力することとしています。

①強固な事業運営基盤の確保を妨げるリスクへの対応

 ・コンプライアンス

 ・品質保証

 ・経済安全保障

 ・情報セキュリティ

 ・人権の尊重

 ・人財リスク

②事業シナリオの実行を妨げるリスクへの対応

 

「強固な事業運営基盤の確保」を妨げるリスクへの対応として,コンプライアンス及び品質保証体制については,2019年度に制定した「IHIグループ行動規範」,「IHIグループ品質宣言」の下,IHIグループ全員がコンプライアンス徹底を誓う「コンプライアンスの日」(毎年5月10日)に関する活動や,声の出る職場づくりの推進等,過去の教訓を風化させない職場環境づくりを進めています。なお,2023年9月12日に,公正取引委員会より,当社子会社の機械式駐車装置事業について,独占禁止法違反の疑いがあるとして立ち入り検査を受けました。また,当社の子会社において,船舶用エンジン及び陸上用エンジンの試運転記録に不適切な修正が行なわれていたことが判明し,2024年4月24日に公表しました。このような状況に至ったことを厳粛に受け止め,さらなるコンプライアンスの向上に努めてまいります。

経済安全保障,情報セキュリティ,人権の尊重,人財確保に関する取り組みについては,(4)事業等のリスクに記載しています。

「事業シナリオの実行」を妨げるリスクについては,資機材価格の急激な変動による影響や国際情勢の急激な変化への対応を含め,当社グループを取り巻く事業環境が大きく変化していることを鋭敏に捉えた上で,4つの事業領域がそれぞれの戦略を遂行するにあたって阻害要因となるリスクに迅速・的確に対応するべく,重点的な管理を進めています。

また,事業計画に潜むリスクを網羅的に確認するため,多岐にわたる事業関連リスクについて,対応計画と実施状況を継続的に評価・確認し,必要に応じてリスク評価を含めた対応計画の見直しを進めています。

 

(4)事業等のリスク

事業の状況,設備の状況,経理の状況に記載した事項のうち,当社グループの業績,財政状態に悪影響を及ぼす可能性のあるリスクには以下のようなものがあります。

文中における将来に関する事項は,当連結会計年度末(2024年3月31日)現在において当社グループが判断したものです。当社グループは,以下のリスクを認識した上で,必要なリスク管理体制を整え,リスク顕在化の回避及びリスク顕在化時の影響の極小化に最大限努めています。

 

当社グループは,地政学リスクの拡大,インフレの進行や人財不足,激甚災害の多発など,不安定さが常態化する社会環境を踏まえ,万が一に備える体制の構築を通じて,劇的な環境変化に対応可能な企業体質への変革を加速していきます。

また,当社グループは,経営環境の変化による「リスク」と「機会」の適切な把握をグループ全体の課題として捉え,環境変化の中で従来事業の枠を超えた事業変革を進める際に潜むリスクの識別と,重要なリスクの特定・分析,及び機動的なリスク管理の推進に取り組んでいます。

 

   ① 社会的責任

    a. コンプライアンス

当社グループは,社会とお客さまと共に持続的な成長を遂げるためには,ステークホルダーからの期待に応え,信頼を得ることが重要と考えており,この考え方に基づいて,私たちが実践すべきことを「IHIグループ基本行動指針」にまとめ,役員・従業員の遵守を求めています。

また,当社グループは,リスク管理会議の下部機関となる全社委員会組織としてコンプライアンス委員会を設置し,コンプライアンスに関わる重要な方針を審議・立案し,活動を推進しています。

さらに,当社グループは,すべての役員・従業員などによる,法令,社内規定や社内外のルールに対する違反やそのおそれのある行為などを未然にあるいは早期に把握し,適切な是正を図るための内部通報制度として,「IHIグループ コンプライアンス・ホットライン」を運用しています。

しかしながら,一部の役員・従業員による法令・規制違反等が生じた場合,過料や課徴金,追徴課税等による損失や営業停止等の行政処分による機会逸失を被る,あるいはそれに伴う社会的評価の低下によって当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

当社子会社の機械式駐車装置事業について,独占禁止法違反の疑いがあるとして,2023年9月12日に公正取引委員会の立ち入り検査を受けました。当社は,立ち入り検査を受けた事実を厳粛に受け止め,公正取引委員会の調査に全面的に協力しています。なお,今回の検査結果として何らかの行政処分を命じられる場合には,当社グループの業績に影響を与える可能性があります。

 

また,当社の子会社において,船舶用エンジン及び陸上用エンジンの試運転記録に不適切な修正が行なわれていたことが判明し,2024年4月24日に公表しました。当社は,このような事態が発生したことを重く受け止め,弁護士をはじめとする外部有識者を中心とした特別調査委員会を設置しました。今後は,特別調査委員会による調査結果及び提言を踏まえ,グループ全体として厳正に対応してまいります。

 

    b. 環境保全

当社グループには,製造工程で,大気・水質・土壌汚染等の原因となりうる物質を使用している事業所・子会社等があります。これらの物質の管理には万全の注意を払い,万一外部に漏洩した場合においてもその拡大を最小限に抑えるための対策を講じています。しかしながら,想定外の事態が発生した場合には,社会的評価の低下を招くとともに損害賠償責任が生じ,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    c. 人権・ダイバーシティ

当社グループの事業基盤を維持し,将来の成長につなげていくために,バリューチェーン上のステークホルダーを対象とするグリーバンス(救済)メカニズムとして通報窓口を設置するなど,事業活動全般にわたり人権を尊重した上で,多様な個性や価値観を有する人財が活躍できる組織風土の醸成を図っています。しかしながら,当社グループの事業活動において,人権の侵害や人権を軽視した事象が発生した場合,社会的信用の喪失,あるいはお客さまとの取引停止や損害賠償責任が発生する可能性があります。また,経営における意思決定の場に多様性が欠如した場合には,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

    d. 関係会社の統制

当社グループは,グループ経営を通じて,お客さまに対し,高い価値を提供することに取り組んでいます。そのためには,当社グループの各社が,各国,各地域の各種法令,社会的規範に従って事業を行なうだけでなく,適切なグループ経営を推進する必要があります。しかしながら,個社が,他のリスクに示す事項に対する不適切な対応や独自の経営判断により,お客さまに対して損害又は評価の低下を生じさせ,結果として当社グループの業績,社会的信頼性に対して悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    e.安全衛生

当社グループは事業所及び建設現場における安全衛生管理には万全の対策を講じていますが,万一不測の事故・災害等が発生した場合には,生産活動に支障をきたし,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループは,各種損害保険等に加入する等の対策を講じていますが,大規模な事故や災害が生じた場合,損害のすべてを保険求償できない可能性があります。

 

   ② 外部環境変化への備え

    a. 競争環境と事業戦略

当社グループは,中期経営計画「グループ経営方針2023」の下,不安定さが常態化する社会環境においても,成長・育成事業への大胆な経営資源のシフトを通じ,持続的な高成長を実現する取組みを推進しています。

育成事業の柱として事業開発を進めているアンモニアバリューチェーン事業においては,想定される燃料アンモニア需要量,普及タイミング等の前提条件に大幅な変化が生じた場合,将来的な当社グループの事業ポートフォリオに影響を及ぼす可能性があります。

 

    b. 他社との連携・M&A

当社グループは営業協力,技術協力,生産協力や事業合弁の形で多くの他社との共同事業活動を行なっています。また,成長市場への事業展開の加速,要素技術の補完,シナジーの創出などを目的としたM&Aなども有効に活用しています。しかし,経済環境の変化,法的規制,予期せぬ費用増加等の影響により,当初期待された効果を出せない可能性があります。また,当初期待した効果を享受できないと判断された場合は,他社との連携による共同事業の中断,解消を決断する可能性があり,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

現在進行している出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムにおいて,同エンジンプログラムに約15%のシェアで参画している当社においても補償費用や追加整備費用等の発生が見込まれ,その影響額については第2四半期連結会計期間において財務諸表へ計上を行ないました。

当社としては引き続きお客さまであるエアラインへの負担軽減及び信頼回復に取り組んでまいります。

 

    c. カントリーリスク

当社グループの調達・生産・輸出・販売・建設等の諸活動はグローバルに展開されています。各国・各地域の政治・経済の混乱に起因する為替取引の凍結・債務不履行・投資資産の接収,想定していなかったテロ・労働争議の発生,政情不安,デフォルト等により,事業の継続や拠点経営が困難になった場合,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。これらのリスクに対し,貿易保険の付保徹底やカントリーリスクに関する情報の収集とグループ内の啓蒙,事業継続計画(BCP)の作成・見直し等の体制強化に努めています。

本項目については,緊迫化する中東,ウクライナ,台湾の情勢,米中の政治上の確執,経済安全保障問題による影響の拡がり等,不確実性が高まっていると認識しています。

 

    d. 経済安全保障

昨今のグローバル化の進展の中,国家間の経済依存関係は深化し,経済活動と安全保障は不可分な関係にあります。ロシアによるウクライナ侵攻や米中の政治上の確執等,国際情勢の急激な変化に伴い,日本を含め各国の政策や法規制が変更され,サプライチェーンの強靭化や先端的な重要技術の開発等,経済安全保障に係る課題が生じています。

これらの政策や法規制に反する取引を行なったり,課題への対応が不十分だったりした場合,当社の評価や社会的信用が損なわれ,販売機会の逸失や事業の停止につながる可能性があるだけでなく,当社グループの生産,調達,輸出その他の事業活動が制約を受ければ,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    e.自然災害・疾病・紛争・テロ

当社グループは,新型コロナウイルスのような大規模な感染症の拡大,地震・洪水等の激甚災害,テロ等の犯罪行為等によって業務遂行が阻害されるような事態が生じた場合であっても,その影響を最小限に抑えるべく,規定や事業継続計画(BCP)を見直すとともに,必要に応じて非常時を想定した訓練等を実施するほか,適切な保険を付保しています。しかし,想定規模を超える災害が発生した際には事業を適切に遂行できず,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

   ③ 経営リソース

    a. 人財リスク

当社グループの事業基盤を維持し,将来の成長につなげていくためには,事業活動に必要な人財の獲得,定着,育成が必要になります。外部人財の獲得やキーパーソンとなりうる人財の確保をできなかった場合,適正な配置を実行できなかった場合には,当社グループの将来の成長,業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    b. 財務活動

(a)為替動向

外貨に対して円が上昇した場合は外貨建輸出工事における円換算後の入金額は目減りし,下落した場合は現地通貨建の海外調達において円換算支出額の増加を招く等,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼします。そのため,外貨建資産と負債のポジションの不均衡に対して,一定の方針に基づき為替予約やマリーの徹底によるリスクヘッジに努めていますが,想定以上の為替変動が発生した場合には,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(b)金利動向

金利が上昇した場合,当社グループの支払利息が増加し金融収支が悪化します。また,財務活動において借入,又は社債発行の条件が悪化する可能性があり,資金調達に悪影響を与え,ひいては当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(c)資金調達・格付

当社グループの借入金にはシンジケート・ローンが含まれており,自己資本と利益に関する財務制限条項が付されています。業績の悪化等により同条項に抵触した場合,同ローンの借入れ条件の見直しや期限前弁済義務が生じる可能性があり,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

また,格付機関が当社グループの格付を引き下げた場合,当社グループの財務活動において不利な条件で取引をせざるを得ない,あるいは一定の取引ができなくなる可能性があり,資金調達に悪影響を与え,ひいては当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(d)保証債務等

当社グループは,事業活動を営む上で必要かつ合理的と確認したものについて,債務の保証等を行なっていますが,経済環境悪化の長期化や事業の失敗等により債務者の財政状態が悪化した場合,保証の履行を債権者より求められる可能性があります。

保証債務等に係る情報は,第5「経理の状況」1連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記「40.偶発債務」に記載しています。

 

(e)税務

繰延税金資産の計算は,将来の課税所得に関する予測・仮定を含めて個別に資産計上・取崩を行なっていますが,将来の課税所得の予測・仮定が変更され,繰延税金資産の一部ないしは全部が回収できないと判断された場合,当社グループの繰延税金資産は減額され,その結果,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

また,国境をまたぐ当社グループ会社間の取引価格の設定においては,適用される移転価格税制の遵守に努めていますが,税務当局から取引価格が不適切であるとの指摘を受けた場合,追徴課税や二重課税が生じることにより,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

(f)与信管理

当社グループは,世界中のお客さまに製品・サービスを提供しており,その多くが掛売り又は手形取引となっています。当社はこれに対し,グループ全体で与信管理体制の強化と債権保全の徹底に努めているものの,重要なお客さまが破綻し,その債権が回収できない場合には,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

2023年5月に航空会社が破産申請したことにより,当社が民間航空機エンジンの国際共同事業会社を通じて参画しているエンジンプログラムにおいて,当社が間接的に保有する営業債権の一部が回収不能となる可能性が生じました。本件を受けて,当社グループでは,債権回収リスクを低減するため債権管理の高度化に向けた取り組みを進めています。

 

    c. 情報セキュリティ

当社グループは,技術情報及び事務管理情報並びにそれらを処理するための情報システムを事業に活用する上で,相応の情報セキュリティ対策を講じるとともに,サイバー攻撃の巧妙化やテレワークの増加等を考慮した対策の強化,従業員への情報セキュリティ教育の徹底に努めています。しかし,サイバー攻撃,情報機器や文書の紛失・盗難,ネットワーク停止やハードウェア及びソフトウェアの不備により,情報漏洩や業務停止の事態が発生する可能性があり,それに伴い当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

   ④ 企業活動・エンジニアリング

    a. 研究開発

当社グループの研究開発活動に係る情報は,第2「事業の状況」6研究開発活動に記載されています。これら研究開発活動は事業の性格上,多額の投資とともに長期の開発期間が必要とされるという特性があります。そのため,実用化機会の逸失や事業戦略・市場動向との不整合等により十分な成果に結びつかず,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    b. 知的財産管理

当社グループは保有する知的財産の適切な保全(特許・実用新案・先使用権の取得)に努めています。しかし,第三者による当社グループ製品・サービスの模倣や解析調査等技術的に当社グループに影響を与えるような動きを完全に防止することが困難な場合があります。

また,当社グループが将来に向けて開発している製品・サービスが,意図せず他社等の知的所有権を侵害してしまう場合や,従業員の発明に対して適切な対応を取らなかったとみなされた場合に損害賠償等を求められ,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    c. プロジェクト管理

当社グループは,大型プロジェクト,大型投資のいずれも,初期計画がその後の成否に大きな影響を与えると考えています。特に新規性の高い事業やしばらく実施していなかった事業の場合,初期計画による影響は顕著です。それらのことを踏まえ,受注・投資前の審査プロセス体制を整備してプロジェクトクトリスク管理を行っています。

大型プロジェクトでは,個別にお客さまと受注契約を締結した後に製品を生産する場合が多く,受注契約締結前に多面的な社内審査を行なっています。しかし,契約締結後に当初想定できなかった経済環境の変化や検討不足,予期しないトラブル,JV等のパートナー企業の経営悪化等により見積コストを上回る工事の発生,お客さまから要求された性能・納期の未達によるペナルティーの支払い,追加費用の発生等の可能性があり,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また,お客さま都合による受注契約の取り消しのケースでは,受注契約条件の中で違約金条項を設定する等そのリスク回避に最大限努力しているものの,必ずしも支出したコストの全額を回収できない可能性があり,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

大型投資では,投資前に採算性やリスクの観点から投資実行計画の社内審査を行っています。しかし,投資の意思決定時に想定できなかった経済環境や市場の変化,自社やパートナーに起因するトラブル等による目標投資効率の未達や損失計上の可能性があり,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

大型プロジェクト,大型投資とも,受注・投資前の審査においては,社内・外の有識者とコーポレートの審査部門との連携による多面的・複合的なリスクレビューの実施,受注後・投資開始後においては,各事業領域のリスク管理部門とも連携しながら,当初計画どおりに進んでいるか,新たな事象やリスクへの対応がなされているかなどのモニタリングの継続・強化に取り組むなど,引き続き徹底したプロジェクトリスクマネジメントを実施していきます。

    d.調達・物流

当社グループはキーとなる主要部品を自社グループ内で製造するよう努めている一方で,複数のグループ外調達先より原材料・部品・サービスの供給を受けています。主要な原材料・部品の市況動向については日頃から情報収集して安定調達に努めるとともに,調達先の品質・納期等の管理を徹底し,特定の調達先への過度の集中・依存を避けるべく調達先の分散化等を進め,リスクの低減に取り組んでいます。しかしながら,資機材価格の急激な変動,需給バランスの変化や国際情勢の急変に加え,激甚災害や大規模な感染症の拡大に伴う当社グループのサプライチェーン途絶等の問題が生じた場合,コストアップ,納期遅延等の問題が生じたり,人権尊重への取り組みや,サステナブルな社会を実現するためにCSR調達を推進していく過程で,調達コストが上昇したりする可能性があり,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    e.設計・製造

当社グループは,第3「設備の状況」2主要な設備の状況にあるとおり,各地に生産拠点を有しますが,生産施設に影響を及ぼす激甚災害,新型コロナウイルスのような大規模な感染症の拡大,ロシアによるウクライナ侵攻など国際情勢の急激な変化に伴う生産遅延・停止・サプライチェーンの途絶,停電,あるいは生産活動に影響を与える資機材の入手困難,電力制限が,BCPの想定範囲を超えた場合,あるいは生産量が当社グループの想定以上に急激に変動した場合,生産能力調整が十分にできない可能性があり,その結果として当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

    f.品質保証

当社グループは,お客さまの満足,安全,安心を実現する製品・サービスを提供するために,お客さま要求を含む要求事項の反映や計画段階で想定されるリスクへの対応も含んだ品質マネジメントシステムを構築し品質を保証する仕組み・体制を整備しています。しかし,品質保証に関わる想定外の事態が発生した場合には,お客さまの評価や社会的評価の低下を招くとともに損害賠償等が生じ,当社グループの業績及び財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4【経営者による財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

①財政状態及び経営成績の状況

a.経営成績の状況

当連結会計年度の世界経済は,欧州経済は金融引き締めやエネルギー情勢の影響等を受けて低迷,中国経済は不動産市場の停滞に伴い減速した一方で,米国経済は金融引き締めが維持された環境の中でも底堅い雇用・所得環境に支えられ堅調に推移しました。わが国経済については,雇用・所得環境が改善する中で,世界的なインフレの影響は受けつつも,景気は緩やかに回復しています。

 

当社グループは,第2四半期連結会計期間において,出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラム及び海外連結子会社における訴訟の和解合意により多額の損失を計上しました。

出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムについては,地上駐機(※)に対する補償費用や追加整備費用等の発生が見込まれますが,当第4四半期連結会計期間においてその前提条件に変更はありません。現在,プログラムパートナーとともに整備能力増強を図り,地上駐機数の低減に向けた対応を進めています。お客さまであるエアラインへの負担軽減及び信頼回復に取り組んでまいります。

(※)地上駐機:エンジン追加検査のための計画外エンジン取り下ろしに起因して機体が運航不能となること。

 

また,原動機事業で発生したエンジンの試運転記録に係る不適切行為については,対象となる製品を納入したお客さまに真摯に対応するとともに,原因究明や再発防止策の策定などを進めてまいります。

 

当社グループの主力事業である民間向け航空エンジンは,旅客需要の回復に伴って,エンジン本体及びスペアパーツ販売が堅調に推移しています。また,防衛装備品については,防衛力の抜本的強化の政府方針のもと,防衛予算が大きく増加しており,受注が拡大しています。今後見込まれる民間向け航空エンジンや防衛装備品の需要拡大に応えていくため,増産に向けた能力増強を進めるとともに,世界トップレベルの生産効率実現への取組みを推進しています。

車両過給機においては,自動車市場全体の傾向として,半導体部品等の供給制約改善や中国の販売促進策の影響もあり生産台数は年初予想を大きく上回る結果となりました。電気自動車の普及は進みつつあるものの,そのスピードは未だ流動的です。市場の変化に対応しながらも,当社グループは確実に需要に応えるため,事業構造改革を含め供給体制の維持・整備を進めています。

また,カーボンソリューション事業では,省エネ法改正による脱炭素電源導入の促進や,海外での再エネ技術の需要が増加の傾向にあります。燃料転換をはじめとしたお客さまプラントの価値向上への貢献とともに,ライフサイクルビジネスの拡大を図っています。

 

このような事業環境下において,当社グループの当連結会計年度は,受注高については前年度比0.8%増の1兆3,768億円となったものの,売上収益については前述の出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響などにより,2.2%減の1兆3,225億円となりました。

損益面では,営業損益は,為替円安の影響のほか,民間向け航空エンジンのスペアパーツ販売の増加,ライフサイクルビジネス等の拡大の効果はありましたが,前述の減収の影響に加えて,車両過給機の事業構造改革費用などもあり,1,521億円減益の701億円の損失となりました。親会社の所有者に帰属する当期損益は,682億円の損失です。

 

 

当連結会計年度の報告セグメント別の業績は以下のとおりとなりました。

 

(単位:億円)

報告セグメント

受注高

前連結会計年度

当連結会計年度

前年度比

前連結

会計年度

当連結

会計年度

前年度比

増減率

(%)

(2022.4~2023.3)

(2023.4~2024.3)

増減率(%)

売上収益

営業損益

売上収益

営業損益

売上収益

営業損益

資源・

エネルギー・環境

3,934

3,101

△21.2

3,713

262

4,049

177

9.0

△32.6

社会基盤

1,340

1,593

18.9

1,710

170

1,709

150

△0.0

△11.8

産業システム・

汎用機械

4,559

4,748

4.1

4,365

180

4,661

127

6.8

△29.2

航空・宇宙・防衛

3,727

4,237

13.7

3,641

361

2,704

△1,028

△25.7

報告セグメント 計

13,562

13,681

0.9

13,431

975

13,125

△573

△2.3

その他

539

584

8.4

542

13

560

44

3.3

235.0

調整額

△440

△496

△444

△168

△460

△172

合計

13,661

13,768

0.8

13,529

819

13,225

△701

△2.2

(注)金額は単位未満を切捨て表示し,比率は四捨五入表示しています。

 

なお,参考情報として,前述の,第2四半期連結会計期間において計上した出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラム及び海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失の影響を除いた場合の報告セグメント別の業績は以下のとおりとなります。

 

(単位:億円)

報告セグメント

受注高

前連結会計年度

当連結会計年度

前年度比

前連結

会計年度

当連結

会計年度

前年度比

増減率

(%)

(2022.4~2023.3)

(2023.4~2024.3)

増減率(%)

売上収益

営業損益

売上収益

営業損益

売上収益

営業損益

資源・

エネルギー・環境

3,934

3,248

△17.4

3,713

262

4,196

324

13.0

23.4

社会基盤

1,340

1,593

18.9

1,710

170

1,709

150

△0.0

△11.8

産業システム・

汎用機械

4,559

4,748

4.1

4,365

180

4,661

127

6.8

△29.2

航空・宇宙・防衛

3,727

5,797

55.5

3,641

361

4,263

568

17.1

57.1

報告セグメント 計

13,562

15,387

13.5

13,431

975

14,831

1,170

10.4

20.0

その他

539

584

8.4

542

13

560

44

3.3

235.0

調整額

△440

△496

△444

△168

△460

△172

合計

13,661

15,475

13.3

13,529

819

14,932

1,042

10.4

27.2

(注)金額は単位未満を切捨て表示し,比率は四捨五入表示しています。

 

<資源・エネルギー・環境>

世界各国でカーボンニュートラルに向けた動きが加速しており,エネルギー分野における化石資源からの脱却だけでなく,鉄鋼や化学をはじめとした産業分野でも素材の脱化石資源化に向けた動きも広がっています。また,COP28ではこれまでの動きに加えて原子力利用の拡大が宣言されました。

このような事業環境のもと,受注高は,海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失の影響のほか,前期の大型案件受注の反動により減少しました。

売上収益は,前述の海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失や原子力での工事量減少の影響はありましたが,カーボンソリューションが堅調に拡大したことに加え,東南アジアの大型発電プロジェクトが順調に進捗したことにより増収となりました。

営業利益は,カーボンソリューションでのライフサイクルビジネスや東南アジアの大型発電プロジェクトの増収影響はありましたが,海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失により減益となりました。

 

<社会基盤>

国内においては,インフラ老朽化や気候変動による自然災害の激甚化の対策として国土強靭化計画の施策が実施されており,流域治水や道路ネットワーク機能強化,老朽化橋梁の維持,修繕の推進,さらに予防保全型インフラメンテナンスへの転換に向けた取り組みが進められています。一方,建設分野における人手不足が常態化する中,2024年4月から建設業においても時間外労働の上限規制が適用されたため,これまで以上に省人化・自動化及びDXを推進し,生産性を向上させていく必要があります。

このような事業環境のもと,受注高は,橋梁・水門等で増加しました。

売上収益は,概ね横ばいとなりました。

営業利益は,橋梁・水門での原価先行算入により減益となりました。

 

<産業システム・汎用機械>

産業界全体における資材価格と人件費の高騰は常態化しつつあり,半導体市場や中国の景気減速は2024年度後半に回復を見込んでいるとはいえ,市況は依然として不透明な状況です。その一方で,産業界におけるカーボンニュートラルへのニーズの高まり,先進国における労働生産人口減少による人手不足,さらには経済安全保障を念頭に置いた国際サプライチェーンの変化などが,産業分野の中長期トレンドとして捉えられています。

このような事業環境のもと,受注高は,車両過給機等で増加しました。

売上収益は,為替が円安で推移した影響もあり,車両過給機や回転機械などで増収となりました。

営業利益は,販管費の増加等に加えて,車両過給機において事業構造改革費用を計上したなどにより減益となりました。

 

<航空・宇宙・防衛>

民間向け航空エンジン事業では世界の旅客需要は回復から成長軌道に入りつつあり,アフターマーケットでの収益も拡大を継続しています。また,防衛予算の増額,宇宙産業の市場拡大の流れを受け,防衛・宇宙事業においても,新たな価値創造を図り,競争力向上を目指していきます。一方で,サプライチェーンの混乱や物価高騰は継続しており,将来の事業環境は依然として不透明なところもあるため,変化に打ち勝つ事業体質構築に向け,デジタル基盤の活用等による生産効率改革,業務構造改革をさらに推進し,成長を加速していきます。

このような事業環境のもと,受注高は,出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響はあったものの,防衛事業の需要拡大もあり増加しました。

売上収益は,民間向け航空エンジンでのエンジン本体・スペアパーツの販売増加や,防衛事業の需要拡大がありましたが,出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響で減収となりました。

営業利益は,防衛事業で受注拡大に伴う増益したものの,民間向け航空エンジンでの出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響で減益となりました。

 

なお,文中の将来に関する事項は,当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

b.資産及び負債,資本の状況

当連結会計年度末における総資産は2兆978億円となり,前連結会計年度末と比較して1,558億円増加しました。主な増加項目は,営業債権及びその他の債権で742億円,棚卸資産で477億円です。

負債は1兆6,955億円となり,前連結会計年度末と比較して2,098億円増加しました。主な増加項目は,返金負債で1,540億円であり,主に出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムによる影響で増加したものです。有利子負債残高はリース負債を含めて5,743億円となり,前連結会計年度末と比較して548億円増加しました。継続して資金流動性の確保の取り組みを進めています。

資本は4,022億円となり,前連結会計年度末と比較して539億円減少しました。これには,親会社の所有者に帰属する当期損失682億円が含まれています。

以上の結果,親会社所有者帰属持分比率は,前連結会計年度末の22.2%から17.9%となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下,「資金」という)の残高は,前連結会計年度末と比較して140億円増加し,1,388億円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は以下のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは621億円の収入超過(前連結会計年度は541億円の収入超過)となりました。これは,成長事業である民間向け航空エンジン事業において,サプライチェーンの不安定な状態が続く中,増産に向けて運転資本が増加した一方で,PW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムによるキャッシュへの影響が翌連結会計年度以降となったことや,収益の拡大も進んだことから,資金が増加したためです。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは516億円の支出超過(前連結会計年度は523億円の支出超過)となりました。これは,固定資産の譲渡による収入があった一方で,設備投資を進めたことにより支出が増加したためです。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは25億円の支出超過(前連結会計年度は240億円の支出超過)となりました。これは,借入による収入増があったものの,配当金の支払や金融負債の返済による支出があったためです。

 

(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示し,比率は四捨五入表示しています。

 

③生産,受注及び販売の状況

a.生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと,次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年度比(%)

資源・エネルギー・環境

430,215

12.0

社会基盤

173,642

2.0

産業システム・汎用機械

462,044

6.5

航空・宇宙・防衛

478,294

29.6

報告セグメント 計

1,544,195

13.8

その他

12,583

△62.8

合計

1,556,778

11.9

(注)1. 金額は販売価格によっており,セグメント間の取引を相殺消去しています。

2. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。

 

b.受注状況

当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと,次のとおりです。

セグメントの名称

受注高

(百万円)

前年度比(%)

期末受注残高

(百万円)

前年度末比(%)

資源・エネルギー・環境

310,182

△21.2

483,425

△14.5

社会基盤

159,396

18.9

210,234

△3.7

産業システム・汎用機械

474,805

4.1

205,432

2.2

航空・宇宙・防衛

423,729

13.7

450,974

53.7

報告セグメント 計

1,368,112

0.9

1,350,065

5.6

その他

58,453

8.4

22,320

6.9

調整額

△49,695

合計

1,376,870

0.8

1,372,385

5.6

(注)1. 各セグメントの受注高は,セグメント間の取引を含んでおり,調整額でセグメント間取引の合計額を消去しています。

2. 各セグメントの受注残高は,セグメント間の取引を相殺消去しています。

3. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。

4. 航空・宇宙・防衛事業では,出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響による

  受注高の減少を含んでいます。

 

c.販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと,次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前年度比(%)

資源・エネルギー・環境

404,955

9.0

社会基盤

170,971

0.0

産業システム・汎用機械

466,196

6.8

航空・宇宙・防衛

270,402

△25.7

報告セグメント 計

1,312,524

△2.3

その他

56,084

3.3

調整額

△46,017

合計

1,322,591

△2.2

(注)1. 販売実績は売上収益をもって示します。

2. 金額はセグメント間の取引を含んでおり,調整額でセグメント間取引の合計額を消去しています。

3. 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は次のとおりです。

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

一般財団法人

日本航空機エンジン協会

157,344

11.6

34,331

2.6

4. 金額及び比率は単位未満を四捨五入表示しています。

 

(2)経営者による財政状態,経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

①重要な会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は,IFRSに準拠して作成されています。連結財務諸表の作成に当たり,見積りが必要となる事項については,合理的な基準に基づき,会計上の見積りを行なっています。

詳細については,第5「経理の状況」1連結財務諸表等(1)連結財務諸表注記「3.重要性のある会計方針」,及び注記「4.重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断」に記載しています。

 

②経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社グループ及びセグメントごとの経営成績の状況は(1)経営成績等の状況の概要の①財政状態及び経営成績の状況に記載のとおりです。

 

当社グループは,2023年度を初年度とする3か年の中期経営計画「グループ経営方針2023」に基づく取り組みを進めています。劇的な環境変化へ対応し,持続的な高成長を実現する事業へ変革するため,成長をけん引する航空エンジン・ロケット分野の成長事業と,将来の事業の柱として期待されるクリーンエネルギー分野の育成事業へ,経営資源を大胆にシフトし,重点的に投資を実行していきます。

成長事業である航空エンジン・ロケット分野では,今後確実に世界の航空機需要の伸びが予想される中で,民間向け航空エンジンにおける小型~大型・超大型クラスのベストセラーエンジンの開発・量産事業に参画しており,新製エンジンやアフターマーケットの需要拡大に応えていきます。また,成長が見込まれる防衛関連事業や宇宙関連事業の拡大を目指し,生産能力の強化や必要な技術開発を進めていきます。当連結会計年度においては,出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムによる損失を計上しましたが,民間向け航空エンジン事業は成長局面へ移行し,かつ防衛・宇宙/民間MRO(Maintenance Repair and Overhaul)も堅調に拡大しました。

育成事業であるクリーンエネルギー分野については,当社グループの技術力を活かしながら,燃料アンモニアに関する製造から貯蔵・輸送及び利活用に至るまでのバリューチェーンの構築を進め,カーボンフリーな世界の実現に貢献していきます。当連結会計年度においては,JERA碧南火力発電所にて世界初の燃料アンモニア20%転換の実証試験を開始するなど,燃料アンモニアバリューチェーン事業の開発が順調に進捗しました。

中核事業である資源・エネルギー・環境,社会基盤,産業システム・汎用機械の各分野では,引き続きライフサイクルビジネスの拡大に注力するとともに,事業ポートフォリオの変革を通して継続的な成長シナリオを描き,投資に必要なキャッシュを創出していきます。当連結会計年度においては,ライフサイクルビジネスの売上・受注が順調に拡大しました。

 

2023年度は,PW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムの影響等の特別要因もあり,多額の損失計上があったものの,一過性の特別要因による損失を除くベースでは営業利益率は7%となり,「グループ経営方針2023」初年度として順調に利益の積み上げが進みました。

2025年度の経営目標達成につながる収益性を確保していく一方で,特別要因により毀損した財務基盤の改善が必要な状況となっています。利益を稼ぐ力に対し,資本効率性に課題があることから,CCC改善に向けた運転資本の削減や,ROICのハードルレートとなる資本コストが適正な水準となるよう意識しつつ負債・資本のバランスをコントロールすることなどを通じて,バランスシートの管理強化を推進しています。

これらの取組みにおいて,資本コストの的確な把握,及びその内容や市場の評価を踏まえた分析・評価をさらに踏み込んで行なうことで,より一層,資本収益性・効率性向上につながる経営を進めていきます。

 

 

2023年度

(2024年3月期)実績

2024年度

(2025年3月期)見通し

グループ経営方針2023

2025年度経営目標

ROIC

    △4.9%

      8.3%

8%以上

営業利益率

    △5.3%

(7.0%)

      6.9%

7.5%

CCC

     107日

(132日)

      110日

     (129日)

100日

(注)各指標の算出方法は次のとおりです。

 ・ROIC  :(1-法定実効税率)×(営業利益+受取利息+受取配当金)

   ÷(親会社の所有者に帰属する持分+有利子負債の金額)

 ・CCC   :運転資本÷売上収益×365日

 ・運転資本:営業債権+契約資産+棚卸資産+前払金-契約負債-営業債務-返金負債

 ・2023年度及び2024年度の括弧内の数字は,出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査

  プログラム及び海外連結子会社における訴訟の和解合意による損失の影響を除いたものです。

③キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

a.財務戦略の基本的な考え方

当社グループは,事業基盤の強化やキャッシュ創出力向上の取組みを通じて得られた自己資金を原資として,財務基盤の拡充と株主還元のバランスを取りながら,事業変革のための投資を進めていくことを財務戦略の基本方針としています。

2023年度のキャッシュ・フローは,営業活動によるキャッシュ・フローが621億円の収入となり,投資活動によるキャッシュ・フローは516億円の支出となりました。合計したフリー・キャッシュ・フローは104億円となり,前連結会計年度に対して86億円増加しました。

引き続き当社グループは,「グループ経営方針2023」で掲げる収益性・キャッシュ創出力を重視した経営施策を着実に実行し,成長・育成事業への最適な資金配分により,持続的な高成長を実現する企業体質への変革を実現し,企業価値向上へつなげていきます。

出荷済みのPW1100G-JMエンジンに関する追加検査プログラムに係る支出が来期以降に発生することや,稼ぐ力がキャッシュ・フローに結び付いていないことから,営業キャッシュ・フローの強化は喫緊の課題です。運転資本の圧縮を進め,キャッシュ・フロー改善につなげていきます。

 

b.資金調達の方針

当社グループの運転資金,投資向け資金等の必要資金の財源については,主として営業活動によるキャッシュ・フローで獲得した資金を財源とすることを原則としています。必要に応じて,短期的な資金については金利の上昇に留意しつつ銀行借入やコマーシャル・ペーパーなど,設備資金・投融資資金等の長期的な資金については,日銀の政策変更による本邦金利上昇を見据えながら既存借入金及び既発行債の償還時期等を総合的に勘案し,長期借入金や社債等によって調達しています。

外部からの資本・資金調達については,関連するリスクを適切にコントロールした上で,資本コストを最小化する調達を実現することを資金調達の基本方針としています。

また,当社グループ内部では,グループガバナンスの向上,資金効率の向上及び資本コストの低減を図り,企業価値向上に寄与するため,グループ一体となった資金調達・資金収支管理を実施しており,当社と国内子会社間,また海外の一部地域の関係会社間ではキャッシュ・マネジメント・システムによる資金融通を行ない,グループ内の流動性確保,資金効率向上に努めています。

 

c.資金需要,資金調達及び流動性の分析

当社グループの主な資金需要は,事業活動に必要な運転資金,成長事業創出のための研究開発費及び設備投資等です。

当連結会計年度末の有利子負債残高はリース負債を含めて5,743億円となり,前連結会計年度末に対して548億円増加しました。これは主として,事業活動による運転資金や投資活動のための資金の増加を外部借入で調達したことによるものです。

当連結会計年度末の現金及び現金同等物は1,388億円であり,前連結会計年度末と比較して140億円増加しています。手元資金の流動性については現金及び現金同等物に加え,主要銀行とのコミットメントライン契約や当座貸越枠,コマーシャル・ペーパーなど多様な調達手段を保有しています。また,機動的な資金調達手段を確保することを目的として,2023年11月に1,500億円のコミットメントライン契約を締結しています。上記現金及び現金同等物と合わせて引き続き十分な流動性を確保しています。

また,資金調達の多様性では,2023年9月に策定したサステナブル・ファイナンス・フレームワークを用いて,グリーン/トランジション・ファイナンスによる資金調達を促進しています。ESG経営を進める中で,ファイナンスを事業活動と一体ととらえ,自然と技術が調和する持続可能な社会の実現のために適切な資金調達と事業展開を行なっていきます。

 

(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示しています。

 

5【経営上の重要な契約等】

技術導入契約

契約会社名

相手方の名称

国名

契約品目

契約内容

契約期間

当社

GEAE
Technology,Inc.

米国

T700-401C,

T700-701Cターボ

シャフトエンジン

契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得

1989年9月26日から

2025年4月30日まで

当社

GEAE
Technology,Inc.

米国

F110-129ターボ

ファンエンジン

契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得

1996年9月27日から

2030年4月30日まで

当社

Rolls-Royce

Corporation

米国

T56-A

ターボプロップ

エンジン

契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得

2008年11月7日から

2028年10月31日まで

当社

Rolls-Royce

Corporation

米国

T56-A-427A

ターボプロップ

エンジン

契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得

2019年9月16日から

2029年9月30日まで

当社

RTX Corporation

米国

F100ターボ

ファンエンジン

契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得

1978年5月18日から

2026年3月31日まで

当社

RTX Corporation

米国

F135ターボ

ファンエンジン

契約品目の日本における非独占製造権

2013年10月17日から

2027年9月30日まで

㈱IHI回転機械

エンジニアリング

(連結子会社)

Turbo Systems
Switzerland Ltd.

スイス

ターボ過給機

契約品目の日本における独占製造権

1998年9月24日から

JV終了日まで

㈱IHIエアロ

スペース

(連結子会社)

Lockheed Martin

Corporation

米国

多連装ロケット

システム

契約品目の製造・販売に関する非独占的権利の取得

1993年1月20日から

2033年8月31日まで

 

6【研究開発活動】

当社グループ(当社及び連結子会社)は,「グループ経営方針2023」に基づき,IHIグループの技術と叡智でお客さま・産業・社会が抱える課題の解決を目指すべく,研究開発に取り組んできました。事業部門である,資源・エネルギー・環境,社会基盤,産業システム・汎用機械,航空・宇宙・防衛の各セグメントは,製品の競争力強化,及び今後の事業拡大・創造につながる研究開発を推進し,本社部門である戦略技術統括本部,技術開発本部,高度情報マネジメント統括本部,並びに事業開発統括本部は,相互に密接に連携・協力し,基礎的な研究開発から事業拡大・創造の足掛かりとなる研究開発を推進しています。加えて,国内外の企業,大学や研究機関との産学官連携による共同研究にも積極的に取り組んでいます。

「グループ経営方針2023」では,成長事業として航空エンジン・ロケット分野,育成事業としてアンモニアなどのクリーンエネルギー分野,中核事業として資源・エネルギー・環境,社会基盤,産業システム・汎用機械分野の3つの区分を定義し,リソース配分を最適化しながら,研究開発に取り組んでいます。

 

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は393億円であり,そのうち,成長事業と育成事業創出に向けた研究開発費は250億円です。なお,成長事業と育成事業に係る研究開発費は,事業との関連状況に応じて,関係する事業部門及び本社部門を横断して発生しています。

 

各セグメント別の主な研究開発の成果及び研究開発費は次のとおりです。

 

(1)資源・エネルギー・環境

資源・エネルギー・環境事業領域では,グループの中核を担うカーボンソリューション,原動機,原子力の各分野において,ライフサイクルやバリューチェーンを意識した事業の拡大を目指しています。資源・エネルギー・環境事業領域と事業開発統括本部,戦略技術統括本部並びに技術開発本部では,今後,成長が期待されるクリーンエネルギー分野への投資を進めており,特に燃料アンモニアについては,既存の石炭火力発電設備のアンモニア燃料転換への実証を進め,アンモニア専焼ガスタービンの開発なども含め,早期の実現に向けて取り組んでいます。

当連結会計年度の主な成果として,碧南火力発電所における大規模な燃料転換技術の確立に向けたアンモニア転換実証事業の着手,2030年までにアンモニア専焼ガスタービン燃焼システム技術開発を目指すIHIとGE Vernova間の協業合意,インド火力発電所におけるアンモニア燃焼技術適用に向けた燃焼試験の開始,火力発電用ボイラ向け専焼バーナのアンモニア火炎可視化の成功などがあります。また,CO₂の有効活用としてマレーシアにおけるバイオマスを活用したe-メタン製造事業の詳細検討開始,タイの石油化学プラントにおけるカーボンニュートラルな低級オレフィン合成技術の実証開始が挙げられます。

当セグメントに係る研究開発費は60億円です。

 

(2)社会基盤

社会基盤事業領域では,橋梁・水門などの各事業において国内トップクラスの市場シェアを有しています。橋梁事業では,設計から維持管理まで一気通貫した技術力を強みに国内での受注確保に取り組み,トルコやアジア各国を拠点に海外事業展開も進めています。水門事業では激甚化する自然災害への対策として,戦略技術統括本部と連携しながら,治水・利水施設管理の最適化の取り組み,事業の拡大を進めています。また,これまで取り組んできた保全工事などのライフサイクルビジネスに加え,デジタル基盤を活用したインフラの維持管理の最適化などに,技術開発本部とともに取り組んでいます。

当連結会計年度の主な成果として,「広域的な小型水門の操作支援の実証試験」に係る覚書の締結,大雨時の水門操作を遠隔化・自動化する運転支援システムの開発開始,脱炭素社会と新たな価値創造を実現する建設新材料ジオポリマーコンクリート「セメノン™」の開発などが挙げられます。

当セグメントに係る研究開発費は11億円です。

 

(3)産業システム・汎用機械

産業システム・汎用機械事業領域では,既存の需要の確実な取り組みを進めています。産業システム・汎用機械事業領域主導で,工場等における環境負荷の低減に向けた取り組みが進む中,回転機械事業や,医療・航空・装飾分野での更なる成長が見込まれる表面処理事業に注力するとともに,事業領域全体ではお客さまのバリューチェーン全体を見据えたライフサイクルビジネスを拡大する事を目指しています。

当連結会計年度の主な成果として,自動車に搭載される燃料電池の耐久性能向上と低コスト化を実現するインラインコーティング装置の開発などが挙げられます。

当セグメントに係る研究開発費は94億円です。

 

(4)航空・宇宙・防衛

航空・宇宙・防衛事業領域の航空エンジン・ロケット事業は,民間,防衛のいずれの分野でも強化と拡大を進めるとともに,デジタル基盤の活用等により世界トップレベルの生産効率の実現を目指すなど,事業の変革に取り組んでいます。航空・宇宙・防衛事業領域と新たな事業の創出に向けて,軽量化や電動化などカーボンニュートラルを見据えた次世代航空機に関する技術の開発を戦略技術統括本部,並びに技術開発本部と連携して進めるとともに,ロケットシステム・宇宙利用事業では,固体ロケット(イプシロン)の競争力強化に加え,多様な打上げニーズに対応できるロケットラインナップの確立を進めつつ,中小型衛星の打上げサービス事業の確立を目指しています。

当連結会計年度の主な成果として,世界初の航空機ジェットエンジン後方に搭載可能なメガワット級電動機の開発,軽量・小型で世界最高レベル出力の電動ターボコンプレッサの開発,航空機燃料電池向け世界最高レベルの大容量水素再循環装置の実証成功,月面着陸に成功した小型月着陸実証機(SLIM)への位置及び高度測定カメラの提供などが挙げられます。

当セグメントに係る研究開発費は87億円です。

 

(5)その他

本社部門である戦略技術統括本部,技術開発本部,高度情報マネジメント統括本部,並びに事業開発統括本部は,相互に密接に連携・協力し,基礎的な研究開発から事業拡大・創造の足掛かりとなる研究開発を推進しています。

当連結会計年度の主な成果として,CO₂排出量の大幅な削減につながる天然ガス熱分解による水素製造試作機での実験の開始,モータの大出力化・小型化・軽量化につながる航空機・車載システム向け超高速モータ用高磁束プラスチック磁石ロータ(回転子)の開発の成功,社会に新しい選択肢を増やすための研究開発への取り組みなどが挙げられます。

当セグメントに係る研究開発費は140億円です。

 

(注)この項に記載の金額は単位未満を切捨て表示しています。