第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営方針

「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」が大同特殊鋼グループの経営理念です。高機能素材を追求するMissionを達成し、人と社会の未来に貢献していくことが当社グループの存在意義(Purpose)であると認識しております。高機能素材の価値を極め、顧客ベネフィットを創造し、サステナブル社会の実現に貢献することで持続的な企業価値の向上を目指してまいります。

 

(2) 経営環境及び対処すべき課題

今後の経営環境は、世界的な金融引き締めにともなう影響や中国経済の先行き懸念など海外景気の下振れリスクや、ウクライナ情勢の長期化や中東紛争などの地政学リスクを内包した環境が継続すると見込まれます。当社の主要需要先である自動車関連の需要は、半導体を中心とした部品供給不足の緩和による生産増加が一巡し、実需に見合った水準になると想定しております。産業機械関連の需要は2024年度後半にかけて緩やかな回復が期待され、半導体関連需要については、シリコンサイクルの本格的な上昇局面を見据え、需要が上向くタイミングを見極めていく必要があります。

中長期的な視点では、国際情勢が一段と不安定化し不確実性が高まる中、世界経済は低い成長率に留まるものと想定されます。また日本国内における人口減少・少子高齢化の進展、脱炭素社会や循環型社会への転換など、暮らしの中の社会基盤にも大きな変化が起こるものと想定されます。一方、当社の事業環境においては、自動車における電動化の進展、情報・通信分野におけるAI用途拡大・高度化などを背景とした半導体市場の成長、宇宙など通信衛星開発市場の拡大、世界的な人口増加を背景とした航空需要の増加、再生可能なクリーンエネルギー需要の拡大、高齢化社会の到来にともなう高度医療市場の拡大など産業構造の変化が予想されます。このように当社を取り巻く外部環境が大きく変化していくなかで、2030年の“ありたい姿”「高機能素材の価値を極め、顧客ベネフィットを創造し、サステナブル社会の実現に貢献する」を達成するための変革の時期、トランジション・マネジメントであると位置づけ、下記の経営方針に沿った行動を全力で推進していきたいと考えております。

 

[2026中期計画 経営方針]-トランジション・マネジメント-

社会経済・産業構造の変化を事業好機とし、事業ポートフォリオの変革を遂行し、

新たなビジネス・ドメイン(顧客×提供価値×手段)で持続的な利益成長を実現する

 

<行動方針>

① 事業ポートフォリオの変革

今後の成長市場である半導体関連分野、CASE(自動車)、クリーンエネルギー分野、航空宇宙分野、医療分野の需要を捕捉するための取り組みを強化します。お客様との密接なコミュニケーションを通じた顧客ニーズの把握、新たな生産技術の開発、市場拡大にともなう需要増加を捕捉するための適時適切な設備投資、海外を含めたサプライチェーンの構築を進めることで、高収益製品を生み出し成長市場に提供していきます。

情報・通信分野で成長が期待される半導体関連については高耐食材料開発を進めるとともに、グローバルにサプライチェーンを強化し、販売拡大、市場拡大に対応するための設備投資を行っていきます。e-Axle用特殊鋼製品に関しては、これまでの製造技術に関する知見を活かし、さらに信頼性の高いソリューションを提供してまいります。また、主機・補機・センサー用磁石については、重希土類フリーなど特長ある製品を提供するための戦略的な投資を実施してまいります。クリーンエネルギー分野においては、高温・高圧水素環境下で耐え得る耐水素脆化用鋼の開発、工業炉用水素バーナーの実用化を進めることなどでお客様のニーズに応えてまいります。より一層の拡大が期待される航空宇宙分野における自由鍛造品や医療分野のチタン製品に関し、将来的な需要増加を見据え、戦略的に設備投資を行ってまいります。特に航空機関連においては、永続的プレゼンス獲得に向け、航空機エンジンの大型回転体用Ni基合金で、アジア初のプライム認定を獲得することを目指し、約300億円を投資して高合金生産プロセスを抜本的に変革するプロジェクトに着手していきます。

これらの取り組みにより、成長市場製品の売上高比率は2026年度で15%、2030年度で25%以上を目指します。

 

② 経営基盤の強靭化

長期的な成長を支える経営基盤の強靭化を進めてまいります。知多工場一貫プロセスの能率向上、渋川工場の高合金溶解能力増強、星崎・知多第2工場の高機能素材製造能力拡充を進めるなか、ヒト・モノ・カネの経営資源の最適配分を行うことで、新しいポートフォリオに即した効率的で強靭な生産プロセスを整備していきます。また、2023年度にCQM部(Corporate Quality Management)を発足しており、品質マネジメントのさらなる強化も実施してまいります。

人的資本に関しては、事業成長に必要なグローバル人材および高度専門人材の確保、グループを含めた次世代経営人材の育成、さらに高度技術人材およびDX推進人材の育成などにより従業員のスキル向上を図り、労働生産性を高めてまいります。

財務面では、マイナス金利政策の解除など今後の緩やかな金利上昇を背景に借入金利の上昇が想定されるなか、事業ポートフォリオ変革にともなう設備投資資金、運転資金の増加が見込まれます。一方で、安定的にPBR1倍以上を確保するための資本効率向上も求められ「財務健全性の維持」「資本効率の向上」を両立させる必要があります。これらに対応するため、運転資金、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)管理強化やROICによる投資判断を導入するなど、財務基盤の強靭化にも取り組んでまいります。

 

③ ESG経営の高度化

持続的な企業価値向上を目指し、ESG経営を推進するため、2023年1月に「ESG推進統括部」を設置し、地球環境の保護、社会への責任と貢献、ガバナンスの各種取り組みを強化してまいりました。

今後におきましても、長期的な視点でステークホルダーの期待を上回る「特殊を超える価値」=“Beyond the Special”を創造する企業であり続けるため、自律的なサステナビリティ活動を推進するとともに、サプライチェーンへの展開を進めてまいります。気候変動に関しては、「2030年でのCO排出量を2013年対比で50%削減、2050年でのカーボンニュートラル実現」に向け、CO排出量の削減を着実に実行してまいります。社会への責任と貢献に関しては、特に人的資本投資の加速、ダイバーシティの推進、ウェルビーイングの追求とエンゲージメント向上などの人的資本戦略を推進してまいります。ガバナンス面としては、政策保有株式に関して、2023年度に4銘柄357億円の売却を行い、みなし保有株式を含めた純資産に対する比率を20%以下とするよう活動しましたが、株価上昇により23.4%となりました。なお、今後については2026年度までに15%、長期的には10%以下の水準を目指し継続的に縮減を進めてまいります。

 

<2026中期経営目標>

 

2023年度実績

(日本基準)

2026年度“めざす姿”

(IFRS)

営業利益

421億円

600億円以上

ROE

(自己資本利益率)

12.5%

(除く特別損益7.8%)

9%以上

D/Eレシオ

0.41

0.5目安

投資額

(3年累計決裁額)

2021-2023年累計

947億円

2024-2026年累計

1,500億円

株主還元

(一過性損益を除く)

配当性向

31.6%

配当性向

30%以上

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) サステナビリティ全般に関するガバナンス及びリスク管理

(サステナビリティ基本方針)

当社グループは企業理念の実践による社会課題の解決とグループの成長を目的としたサステナビリティ基本方針の見直しを行い、2024年4月の取締役会で決議しました。

 

大同特殊鋼グループは、創業以来「お客様を何よりも大切にする」という精神を受け継ぎ、

モノづくりを通して社会からの要請・期待に応えてきました

 

いま世界は地球環境や社会問題などの課題が山積しています

各企業がその知見、経験を活かしたサステナビリティへの取り組みを進め、

SDGsの達成を目指していく必要があります

 

当社は、社会の声に真摯に向き合い、素材の可能性を切り拓いていくことを

経営理念(Mission)として掲げています

 

サステナビリティへの取り組みが経営理念の実践に繋がり、

社会課題の解決と当社グループの永続的な成長に繋がることを

めざして取り組んでまいります

 

今後はこの基本方針に基づき、サステナビリティを巡る課題に対し、適切に対応してまいります。

 

(ESG戦略)

サステナビリティ活動の自律化とグループ展開による企業価値最大化への貢献

 

社内の各部門や各グループ会社でサステナビリティ推進活動が根付き、自律的に課題解決がすすむようになることを目指します。また、サステナビリティ推進活動が当社グループの持続的な成長に繋がることを意識し、企業や従業員の成長課題として着実に推進します。

 

(ガバナンス)

サステナビリティに関する事項を検討・審議する組織として、従来のCSR委員会を再編し、2022年4月より新たにサステナビリティ委員会を設置しました。当委員会は社長執行役員を委員長とし、ここで審議、決定した事項を取締役会に上程します。サステナビリティ委員会の事務局は、2023年1月に新設されたESG推進統括部に置かれております。

サステナビリティ委員会は以下の事項を取り扱います。

・サステナビリティ経営の基本方針およびサステナビリティ推進活動の基本計画の策定に関する事項

・全社および各部門、各委員会におけるサステナビリティ推進状況の確認に関する事項

・TCFD(気候変動関連財務情報開示タスクフォース)において要求される気候変動リスク低減に向けた施策に関する事項

・CSR(人権、社会貢献活動、健康経営等)およびこれらに関わるガバナンスに関する全社方針、施策に関する事項

・統合レポートの編集および発行に関する事項

なお、サステナビリティ委員会には常勤の取締役(監査等委員である取締役を含む)も出席し、適切な委員会運営がなされていることを監督し、また審議時の意見交換にも参加しています。非常勤の社外取締役(監査等委員を含む)は、取締役会に上程される個別のESG案件の審議、座談会および統合レポート発行前の意見聴取等を通じて監督機能を発揮しています。

 

(体制図)

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(リスク管理)

当社は、サステナビリティの管理プロセスとして、サステナビリティ委員会において、マテリアリティとそのマテリアリティごとのリスクと機会を特定し、それぞれの進捗管理等を実施しております。サステナビリティ委員会において審議、決定された内容は取締役会に上程され、リスクおよび機会の評価を図っております。

なお、気候変動への取り組みにおいては、シナリオ分析を実施し、気候関連リスクの優先順位付けを行い、影響度の高い事項に注力して対策に取り組んでまいります。また、人的資本経営への取り組みにおいては、関係部門が多く、全社横断的な活動が必要であるため、サステナビリティ委員会の下部組織として、人的資本WGを立ち上げました。着実に活動を推進してまいります。

 

(2) 重要なサステナビリティ項目

① 気候変動への取り組み

(戦略)

気候変動が当社に与えるリスク・機会とそのインパクトを把握し、当社の中長期的な戦略のレジリエンスと、さらなる施策の必要性の検討を目的に、2030~2050年についてシナリオ分析を実施しました。シナリオ分析では、国際エネルギー機関(IAEA)や、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)による気候変動シナリオ(1.5℃シナリオおよび4℃シナリオ※)を参照しております。リスク、機会の抽出は幅広く行い、「発生する可能性が高いもの」と「発生したときに影響が大きいもの」の観点から、当社の事業に及ぼす影響が高いリスクと機会を選定し、対策を検討しました。また、今回分析の対象としなかったリスク・機会についても、継続的に注視してまいります。

各リスクと機会への対策を検証した結果、脱炭素に向かう社会変容に対して、中長期経営計画の基本戦略を軸に、今後の成長市場であるCASE(自動車)、クリーンエネルギー分野向けの高機能材料や革新的な環境対応エンジニアリング製品を開発し販売拡大していくことで、企業価値を向上させていくことができると結論付けました。以上より、当社戦略はレジリエンスを有していると評価しました。

 

※1.5℃シナリオ :気温上昇を最低限に抑えるための規制の強化や市場の変化などの対策が取られるシナリオ

 4℃シナリオ :気温上昇の結果、異常気象などの物理的影響が生じるシナリオ

 

TCFDシナリオ分析

 

シナリオ

要因

変化

当社への影響

当社の対策

1.5℃

EV化の進展

EV化の進展によるエンジン/排気系部品の需要減少

リスク

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□内燃機関車(ICE)向けの需要は2030年までは横ばい程度を見込むが、EV化の進展で、2030年以降、大幅な減少が想定される。

□今後の成長市場である、CASE(自動車)、半導体関連製品、クリーンエネルギー分野の売上を拡大し、持続的な事業成長を果たす

 

 

EV車向け高機能材料の需要増

機会

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□EV化の進展で高機能材料の需要が増加する。

※e-Axle部材、バッテリー部材、制御系部品などに使用される高強度鋼、磁性材料等

□各製品ニーズに対応した材料開発

□需要増加に対応した生産能力向上

□次世代自動車向けの新製品・新事業の立上げおよび市場参入

 

GHG排出規制を含む各種規制の強化

再生可能エネルギーの利用による電力コスト増加

リスク

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□再生可能エネルギー使用比率増加により電力コストが増加する。

□省エネ、製品歩留向上などによるコスト改善で電力コスト増を吸収

□再生可能エネルギーの自社導入

 

カーボンプライシング導入

操業・調達コストの増加

リスク

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□合金や資材等の調達コストおよび操業コストが増加する可能性がある。

□CO削減投資と全電力の再生可能エネルギー化によりコスト負担を相殺

□調達先にCO排出量の削減を要請

 

 

電炉材の需要増

機会

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□脱炭素要請の強化や低排出製品の志向の高まりなどを受け、相対的にCO排出量の少ない電炉材の需要増加が見込まれる。

□当社開発の先進イノベーション電気炉「STARQ®」から製造した「低CO排出特殊鋼鋼材」を積極拡販

□再生可能エネルギーへのシフトを進め、更なる差別化を促進

 

スクラップ原料の需要増

スクラップ調達コストの増加

リスク

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□世界的に電炉材ニーズが高まり、高品位スクラップ需要が増加する。

□これにより、価格の高騰や調達難の影響が出る可能性がある。

□顧客と連携したスクラップ回収スキームの拡大、および低品位スクラップの利用が可能な技術確立により、価格高騰の抑制と必要なスクラップ量の確保

 

 

シナリオ

要因

変化

当社への影響

当社の対策

1.5℃

環境対応や新エネルギー関連技術の普及

革新的な環境対応エンジニアリングの需要増

機会

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□脱炭素に向けて、エネルギー効率の向上に資する投資が増えることで、当社の環境対応エンジニアリングの需要が高まる。

□大同ブランド省エネ製品の積極拡販

※STARQ®、DINCS®、モジュールサーモ®、プレミアムSTC®炉 等

□ユーザーニーズに合わせたエンジニアリング製品(水素燃焼工業炉等)開発の推進

 

 

水素関連技術・製品の需要増

機会

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□水素社会の進展により、耐水素脆化用鋼などの高機能材の需要が高まる。

※水素ステーション、燃料電池車、水素内燃機関などに使用される高機能材

□各製品ニーズに対応した材料開発

□新規ユーザー、市場の開拓

4℃

気象災害の

激甚化

(急性)

調達先や生産拠点が被災する事による操業停止リスク

リスク

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□調達先や主要工場が自然災害に見舞われ、操業が停止する可能性が高まる。

□調達先と連携したリスク管理や適正な在庫確保などのBCP対策を推進

□主要工場は浸水対策を継続実施中

 

(指標及び目標)

大同特殊鋼では、気候関連問題が経営に及ぼす影響を評価・管理するため、温室効果ガス(CO)の総排出量を指標として削減目標を設定しております。

2021年4月にDaido Carbon Neutral Challengeを公表し、「2013年度対比2030年CO排出量50%削減、2050年カーボンニュートラル実現を目指す」を目標として、CO排出量削減活動を推進しております。

 

Daido Carbon Neutral Challenge

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※CO排出量は大同特殊鋼単体のScope1+Scope2(エネルギー起源)

CO排出量実績(2013年と2023年)の電力係数は契約電力会社の各年度の排出係数にて算定

 

② 人的資本経営への取り組み

当社グループは経営理念である“素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます”を実現する人材像として、5つの行動指針を定めております。

 

<行動指針>

〔高い志を持つ〕   時代の先を読み、パイオニア精神を持つ

プロフェッショナルとして、自身のミッションに最後まで取り組む

〔誠実に行動する〕  相手の立場で考え、多様な価値観と存在を認め合う

ステークホルダーの期待に応える

〔自ら成長する〕   常に成長を意識して仕事に取り組む

進んで経験を重ね自分を磨く

〔チームの力を活かす〕組織を超えてグループの知恵を結集する

スピード感をもち、協力してやり遂げる

〔挑戦し続ける〕   自由な発想で時代を切り開く

失敗を恐れず困難に立ち向かう

 

この5つの行動指針は創業からの歴史を振り返り、当社グループの強み(Core competence)を生み出してきた人材の行動様式を端的にまとめたもので、我々にとってサステナブルな人的資本の姿であると考えております。

これらの行動指針を体現し、事業戦略を推進する人材および、その人材を育む職場環境を実現するために、3つの人材マテリアリティを特定いたしました。

 

・自律エキスパート人材(製造現場人材)の育成・確保

(ありたい人材像)

モノづくりと改善に働きがいを感じ、安全感性豊かに、顧客と社会に貢献する素材を生み出す人材

・共創スタッフ人材の育成・確保

(ありたい人材像)

フロンティア精神を持ち、使命感を持って業務に取り組み、新たな価値を提供する人材

・DE&Iが浸透した職場の実現

(ありたい職場像)

チームの力を結集し、仲間を信じ、多様性を認め合いながら、技術を繋いでいく職場

 

※ダイバーシティ(多様性)・エクイティ(公平性)&インクルージョン(包括性)の略で、多種多様なあらゆる人材が公平性を担保され、お互いに認め合い、自らの能力を最大限発揮し活躍できることを目指すものです。

 

これらの人材マテリアリティを達成するため、人的資本経営の深化とともに事業戦略に合わせた指標および目標を設定してまいります。

 

当社グループでは、事業戦略を共有しグループ一体となった経営を実施しております。また、人材育成や社内環境整備などの人的資本についての活動においては、グループ各社の業態が多岐に渡るため、各社がそれぞれの特性に応じた取り組みを策定、実施しております。以降は当社の取り組み、指標および目標について記載しております。

 

a.事業戦略を推進する人材の育成・確保に向けた取り組み

(自律エキスパート人材(製造現場人材)の育成・確保)

当社の高品質な素材を安定して生産しつづける力の源泉は、高いスキルをもった信頼性の高いエキスパート人材(製造現場人材)です。当社は1952年に設立した入社採用者向け教育施設である「大同特殊鋼技術学園」を保有しており、特殊鋼製造のエキスパートとしての知識・技術の基礎を身に着けるとともに、社会人・企業人としての心構え、自立した生活の支援を行っております。技術学園における研修期間は1年間で、集中したカリキュラムの中で育成を図っております。この初期教育に加え、階層別教育を実施しておりますが、ありたい人材像に向けて教育内容の見直しを行い、製造現場のモノづくり力強化を図ってまいります。

 

(共創スタッフ人材の育成・確保)

また、管理部門および営業・製造技術・開発部門においては、海外での新市場・新顧客開拓を遂行できる人材や、これまでの事業分野とは異なる専門性をもつ人材の育成(リスキリング)・確保に向けた施策を検討・推進するとともに、業務改革を推進できるDXリーダーの育成を目的とした選抜育成カリキュラムを立ち上げます。

b. DE&Iが浸透した職場の実現に向けた取り組み

(ダイバーシティへの取り組み)

当社では2014年にダイバーシティ推進プロジェクトを発足し、<ダイバーシティ推進3Step>としてStep1〔多様性の理解・受容〕、Step2〔多様性の活用・促進〕、Step3〔多様性による創造性の発揮〕を定め、これまで段階を踏みながら活動してまいりました。現在 はStep2〔多様性の活用・促進〕の段階であり、人事部内のダイバーシティ推進室を中心に活動を推進しております。

具体的には、多様な人材が活躍できる風土形成と、多様性を活かした個人、組織成果の最大化、心身の健全化を図り、環境変化対応力に優れ、持続的に成長する企業となるための基盤構築を推進しております。2023年度は、女性活躍推進の取り組みとして、キャリア形成支援を目的に、座談会の実施やマインドセット研修を行い、課題を抽出し、働きがいを自ら生み出すマインドを育てる取り組みを開始しております。今後は女性に留まることなく、社員一人ひとりが「いきいきと働くことができる会社」を目指し、ダイバーシティ経営実現のための基盤構築に取り組んでいきます。なお、女性管理職については、2030年には2021年対比人数を倍増(15人から30人)させる目標を定め、環境整備等に取り組んでいます。

指標

目標(2030年度

実績(2023年度)

女性従業員の10年定着率

80%

88.9

次世代管理職(係長級)の女性従業員人数・比率

35(17%)

21人(9.6%)

女性管理職人数・比率

30(4.4%)

17人(2.5%)

 

(働き方改革への取り組み)

生産年齢人口の減少や働くニーズの多様化など、『働く姿』を取り巻く環境は大きく変化しています。当社においても、生産性向上を図るための「価値を生み出す時間の創出」支援と、従業員がその能力を自律的に発揮できる「働きがいを感じられる職場づくり」の実現を目的に、多様で柔軟な働き方の選択を可能とする取り組みを推進しております。

具体的には、在宅勤務制度の導入、会議の見直し・効率化やITツールを活用した業務自動化・効率化を図り、また働きがい調査を通じたエンゲージメントの充実も図ってまいりました。近年では、コミュニケーションの活性化による心理的安全性のある職場づくりを目的に「明日も行きたくなる会社をつくろうプロジェクト」を立ち上げ、職制や階層、職場毎へのアプローチ等を行い、対話を促進する取り組みを行っています。2024年度からは当プロジェクトの活動を基に「職場活性化」に向けた取り組みへと段階を進め、更なる「働きがいを感じられる職場づくり」の実現を目指し、働き方改革を推進してまいります。

 

(安全・健康への取り組み)

当社は「安全と健康は幸せの原点であり企業経営の基盤である」という基本理念を掲げ、労働災害の撲滅と健康経営の推進に取り組んでおります。従業員が安心して働くことができる職場づくりと、一人ひとりが心身とも将来にわたって健康であり続けることは、人的資本経営の骨格です。当社では社長を頂点とした安全健康管理体制を整備し、専門組織である安全健康推進部を主体にグループ一体となった活動を継続しております。取り組みの一例として2022年より各生産職場に安全教育に精通したベテランを「安全伝道師」として配置し、若年層や経験値の浅いメンバーへの現地指導、危険感受性の向上を図っております。また健康経営としては、メンタルヘルス・フィジカルヘルス向上のための4本柱〔感染予防/疾病予防、フィジカル、受動喫煙防止対策、メンタル〕をキーワードに取り組んでおり、最終目標として「心身活力を持って業務に取り組めている評価割合(※)50%以上」を目標に活動しております。

これらの活動が評価され、2024年3月に経済産業省および東京証券取引所が選定する「健康経営銘柄2024」に認定されました。(健康経営銘柄2021に続き、2度目の選定)また、経済産業省と日本健康会議が実施する健康経営優良法人認定制度において、当社は大規模法人部門で7年連続「健康経営優良法人」に認定され、3年ぶり5度目の「健康経営優良法人(ホワイト500)」に認定されました。

 ※健康診断時の問診表回答より評価割合は測定します

指標

目標(2030年度

実績(2023年度)

休業度数率(労働災害の発生頻度についての指標)

0.20以下

0.31

有所見率(健康診断を受けた者のうち所見があった者の割合)

55以下

68

「心身活力を持って業務に取り組めている」評価割合

50以上

41

 

3【事業等のリスク】

当社グループの経営成績および財務状況等に影響を及ぼす可能性のあるリスクを、以下の表にて発生の可能性や時期、影響の大きさの観点から重要性が高いと判断している項目順に記載しております。ただし、すべてのリスクを網羅したものではなく、現時点では予見できない、または重要とは見なされていないリスクの影響を将来的に受ける可能性があります。

なお、文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

項目

リスクの内容

主要な取り組み

(1) 事業環境の動向

発生可能性:高

影響度:大

 

・国内外の景気悪化、公共投資・民間設備投資の抑制、個人消費の低迷、特に当社グループの主要需要業界である自動車メーカーの減産、電動化の進展加速、当社グループの価格交渉力低下による経営成績および財政状態への影響

・需要環境の構造的変化による事業用資産の減損および戦略的投資を行った事業の計画未達に伴う固定資産の減損

・戦争、紛争を含む政情不安、金融政策の転換などに伴う金融不安、為替の急速な変動、感染症の蔓延、自然災害などによる上記リスクの顕在化、および当社グループに与える影響の拡大

○経営企画部門による経済環境のモニタリング、事業計画の審査

○競合に対する差別化、技術の向上

○経営会議・技術投資検討会を通じた経営戦略、投資の妥当性の審議および収益獲得に向けたフォローアップ

○外部環境変化を見据えた新規製品事業の強化

(2) 原料、エネルギーの価格変動および安定調達

発生可能性:高

影響度:大

 

・価格の変動(鉄スクラップ、合金鉄、レアアース、電極や耐火物、電力、LNGなど)

・需給バランスの崩れによる調達の不安定化、電力使用制限の発生に伴う生産活動への支障

・ロシア・ウクライナ情勢長期化による一部品目の価格高騰、供給懸念

○製品価格転嫁の推進

○製品価格の原材料サーチャージ制の実施

○調達ソースの複数化、数量に柔軟性を持たせた契約の締結

○調達先との密な情報交換

○電力に関する契約の交渉・更改

(3) 自然災害

発生可能性:中

影響度:大

 

・南海トラフ巨大地震や気候変動に伴う大規模洪水などの自然災害による知多工場、星崎工場の操業への甚大な影響

○人命保護を最優先とし建物の耐震補強や津波避難場所の確保など防災対策

〇大規模停電などによる爆発など、二次被害の防止

(4) 設備事故・労働災害

発生可能性:中

影響度:大

 

・特殊鋼関連を主とする大規模主要設備の、過酷な環境下での操業による重大な設備事故や労働災害の発生

○安全検収制度を導入し、設備導入や改修時に安全設計の見直しの実施

○製造現場を中心とした自主的な設備安全に関する改善活動

○安全研修会等により他社改善事例を社内へ展開

(5) 環境規制・カーボンニュートラル

発生可能性:中

影響度:大

 

・環境保全に対する法規制の強化・厳格化に伴う対応のための事業活動の制約、費用の発生

・当社渋川工場の鉄鋼スラグ製品および直下の土壌からの環境基準を超えるふっ素等の検出によって、追加的な対策が必要となった場合の、応分の費用負担発生

・CO削減対策費用の増大、再生可能エネルギー調達コストの上昇

○社会貢献も含めた環境配慮の経営への取り組み

○当社グループの事業活動に関連する各種法規制の洗い出し、および遵守状況のモニタリング

○国や群馬県をはじめとした各自治体および民間との協議の上、調査および措置を継続

○継続的な省エネ、コスト改善の実行

 

 

項目

リスクの内容

主要な取り組み

(6) 人材

発生可能性:高

影響度:中

 

・少子高齢化などによる必要な人材の確保、育成の未達

・各種ハラスメント防止やダイバーシティへの対応が不十分だった場合の人材定着率の低下

○通年採用、キャリア採用の拡充

○階層別・専門教育の拡充

○働きがいのある職場づくり

〇大同特殊鋼グループ人権方針の策定・公表

〇人権デューデリジェンス体制の整備および実施

(7) 法令・規範の変更

発生可能性:中

影響度:中

 

・労働、安全衛生、カルテル、輸出管理、個人情報保護、その他事業活動に関連する法令・規範の変更や社会の諸要求の厳格化による課徴金や行政処分の発生

○法令その他の社会的規範の遵守、変更や厳格化への速やかな対応、公正で健全な企業活動の展開

○法的要求事項等で違反認定された事例の水平展開

○e-ラーニングシステムの導入

(8) IT環境・情報セキュリティ

発生可能性:中

影響度:中

 

・不正アクセスによる情報漏洩

・デジタル技術革新への対応遅延による競争力の低下

・基幹システムの肥大化およびブラックボックス化によるシステムトラブルの発生

○サイバーセキュリティ体制の強化

○IT技術とデータの利活用推進

○レガシーシステム整備に向けた課題抽出と中長期方針策定

○情報管理強化に向けた組織横断的ワーキンググループ

○損害保険加入

(9) 海外事業展開

発生可能性:中

影響度:中

 

・海外における政治経済状況の混乱、法令、規制等の予期せぬ変更

・その他の社会的混乱等に起因する事業活動への弊害

○現地情報のタイムリーな収集、関連グループを含めた迅速な情報共有

○駐在員管理強化

○海外法規の調査

○e-ラーニングシステムの海外展開

(10) 関係会社のガバナンス

発生可能性:中

影響度:中

 

・関係会社における各種の不正行為や不適切な会計処理等の発生

○内部統制、重要法規の教育および本社監査部門による監査の実施

○関係会社各社監査役の会合、教育を通じた監査役監査の充実

○内部統制、リスクマネジメント等のグループ内啓蒙活動

○e-ラーニングシステムの導入

(11) 製品品質保証・製造物責任のリスク

発生可能性:中

影響度:中

 

・大規模な製造物責任賠償やリコールによる多額の費用発生や社会的な信用低下

・検査データの不正による顧客への補償および売上減少による業績、財政状態への悪影響

○品質安定化の追求、厳格な検査・保証管理体制構築、損害保険加入等

〇当社グループの品質保証に特化した部の設立

(12) 感染症の拡大

発生可能性:中

影響度:小

 

・従業員の健康と安全への影響、社内でのクラスター発生による事業活動への影響

○感染症対策ガイドラインに沿った感染防止策の実施

○リモート会議、テレワーク環境、サテライトオフィスの整備

(13) 金融商品の価値変動

発生可能性:低

影響度:中

 

・投資先の業績不振、証券市場における市況の悪化による投資有価証券の価格下落

○資産圧縮によるリスク低減

○:対応着手済

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

当社グループは、当連結会計年度より従来の日本基準に替えてIFRS会計基準を適用しており、前連結会計年度の数値もIFRS会計基準に組み替えて比較分析を行っております。

文中における将来に関する事項は、本報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 経営成績

当連結会計年度におけるわが国経済は、脱新型コロナ禍を背景に経済活動の正常化が進展し、個人消費、設備投資が、物価上昇の圧力を受けながらも持ち直したことで、緩やかに回復してまいりました。一方で世界経済は、米欧の金融引き締め政策と高インフレ、中国の不動産市場低迷の長期化の下で下振れリスクを内包し、さらに、ウクライナや中東を巡る紛争の長期化や欧州経済の低迷に影響を受け、コロナ禍明け後の需要回復は弱含んで推移しております。

このような状況の中、主要需要先である自動車関連の特殊鋼の受注は、半導体供給制約の緩和による自動車生産の回復を主因に前年比で増加しました。しかし、足元においては、国内自動車サプライチェーンの混乱等によって、構造用鋼を中心に需要が減っていることに加え、産業機械関連の需要は、ステンレス鋼などにおいて、サプライチェーン内在庫調整等の影響で回復が遅れております。さらに、半導体関連の需要は、シリコンサイクルの下降局面が長期化することで停滞が継続しており、機能製品の主要製品であるステンレス鋼の受注は前年比で減少しました。主に航空機やエネルギー産業関連向けの製品である自由鍛造品については、航空機産業やエネルギー産業での需要が増加していることにより、受注が大幅に拡大しました。

主要原材料である鉄屑価格は、価格水準としては高位で推移しました。一方で、ニッケル価格は、世界的な需要の減少により継続的に弱含んで推移しました。原油・LNG市況が高値で推移したことにより、電力などのエネルギーコストが高位で推移し、全般的に原燃料価格は高止まりして推移しました。これらコスト増加に対し、徹底したコスト削減および販売価格への反映に継続して取り組み、適正マージン確保に努めてまいりました。

この結果、当連結会計年度の連結経営成績は、売上収益は前期比4億48百万円減収の5,785億64百万円、営業利益は前期比77億75百万円減益の422億50百万円、税引前利益は前期比74億88百万円減益の450億68百万円、親会社の所有者に帰属する当期利益は前期比57億45百万円減益の305億55百万円となりました。

なお、2023中期経営計画で掲げた「営業利益400億円以上」(日本基準)に関しては、自由鍛造品、チタン製品などの高機能製品の拡大などポートフォリオ改革を進め、エネルギーコスト増大に対応した適正マージン確保のための施策を行ってきたことで、前連結会計年度に続いて、計画値を上回る利益を計上することができました。

 

セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。

 

特殊鋼鋼材

構造用鋼においては、産業機械関連の需要が低調であったものの、自動車関連の受注は増加したことにより、前期比で数量が増加しました。工具鋼に関しては、中国など東アジアにおける需要減少やサプライチェーンにおける在庫調整が継続しており、前期比で数量が減少しました。

この結果、当連結会計年度における特殊鋼鋼材の売上収益は、売上数量が増加したことに加え、エネルギーコストの上昇を販売価格に反映させたことにより前期比2.0%増加の2,187億43百万円、営業利益は前期比36億9百万円増益の137億24百万円となりました。

 

機能材料・磁性材料

ステンレス鋼および高合金は、産業機械関連需要が低迷していることにより、また、半導体関連はシリコンサイクルの下降局面に伴う受注調整により、前期比で数量は減少しました。磁石製品は、国内における自動車向け需要は持ち直してきたものの、産業機械向け需要が落ち込んできたことにより、売上収益は前期比で減少しました。チタン製品は、医療関連など需要が高まっていることにより、売上収益は前期比で増加しました。

この結果、当連結会計年度における機能材料・磁性材料の売上収益は、ステンレス鋼を中心に売上数量が減少したことにより前期比7.9%減少の2,023億84百万円、営業利益は、磁石事業の子会社の清算手続きに伴う損失などもあり前期比152億8百万円減益の102億75百万円となりました。

 

自動車部品・産業機械部品

エンジンバルブ部品は北米などにおける需要の増加を受け、売上収益は増加しました。精密鋳造品はターボ関連製品における一部製品の生産終了により、また、型鍛造品は事業合理化などにより、数量は減少しました。また、みがき帯製品は、サプライチェーンにおける在庫調整の影響により数量は減少しました。一方、自由鍛造品は、航空機需要、重電需要が堅調に推移し、売上収益は前期比で増加しました。

この結果、当連結会計年度における自動車部品・産業機械部品の売上収益は、自由鍛造品の売上収益増加により前期比3.6%増加の1,049億96百万円、営業利益は、自由鍛造品の内容構成変化、みがき帯製品の数量減少、精密鋳造品の数量減少および固定資産減損損失の計上などにより前期比22億27百万円減益の57億19百万円となりました。

 

エンジニアリング

カーボンニュートラル製品・省エネルギー製品の受注が増加したことから、当連結会計年度におけるエンジニアリングの売上収益は前期比21.8%増加の230億91百万円、営業利益は前期比5億44百万円増益の21億36百万円となりました。

 

流通・サービス

当連結会計年度における流通・サービスの売上収益は前期比20.2%増加の293億47百万円、営業利益は、不動産の売却などもあり前期比54億72百万円増益の103億69百万円となりました。

 

当社グループが目標とする経営指標につきましては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。2026年度の当該指標の達成を目指し、行動方針として掲げた①事業ポートフォリオの変革、②経営基盤の強靭化、③ESG経営の高度化を推進してまいります。

 

生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。

 

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

 

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

 

特殊鋼鋼材

218,576

+2.0

 

機能材料・磁性材料

201,243

△9.0

 

自動車部品・産業機械部品

105,848

+3.9

 

エンジニアリング

23,091

+21.8

 

合計

548,760

△1.3

(注)金額は販売価格によっており、セグメント間の取引については相殺消去しております。

 

② 受注状況

当社グループ(当社および当社の連結子会社)の受注・販売形態は、素材供給等のグループ間取引が多岐にわたり、また受注生産形態をとらない製品もあるため、セグメントごとに受注規模を金額あるいは重量で示すことは行っておりません。

 

③ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

特殊鋼鋼材

218,743

+2.0

機能材料・磁性材料

202,384

△7.9

自動車部品・産業機械部品

104,996

+3.6

エンジニアリング

23,091

+21.8

流通・サービス

29,347

+20.2

合計

578,564

△0.1

(注)1 セグメント間の取引については相殺消去しております。

2 主な相手別の販売実績は、総販売実績に対する販売割合が100分の10以上の相手先がないため、記載を省略しております。

 

(2) 財政状態

当社グループの当連結会計年度末の総資産は、前期末に比べ163億73百万円増加し7,887億34百万円となりました。総資産の増加の主な内訳は、営業債権及びその他の債権の増加141億69百万円、退職給付に係る資産の増加140億57百万円、有形固定資産の増加29億74百万円であり、減少の主な内訳は、現金及び現金同等物の減少104億80百万円、投資不動産の減少18億35百万円であります。

総資産の増減の主な要因は、下記のとおりであります。

・当連結会計年度末日が金融機関の休日であるため、その翌営業日に営業債権及びその他の債権の決済が行われたことにより、営業債権及びその他の債権が増加し、現金及び現金同等物が減少しております。

・退職給付に係る資産は、株価上昇に伴い制度資産が増加したことにより増加しております。

・有形固定資産は、機能材料・磁性材料事業および自動車部品・産業機械部品事業を中心に成長分野への戦略投資を推進したことにより増加しております。

・投資不動産は、当社グループの経営資源の有効活用および資産効率の向上のため、流通・サービス事業における連結子会社が所有する賃貸用不動産を売却したことにより減少しております。

また、当社グループの当連結会計年度末の非支配持分を含めた資本は、前期末に比べ625億46百万円増加し4,573億13百万円となりました。資本の増加の主な内訳と要因は、親会社の所有者に帰属する当期利益305億55百万円の計上等による利益剰余金の増加379億16百万円であります。

この結果、当連結会計年度末の親会社所有者帰属持分比率は53.1%となりました。

 

(3) キャッシュ・フロー

当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)は、前期末に比べ104億80百万円減少し、460億8百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果得られた資金は、502億39百万円(前期は279億7百万円の資金の増加)となりました。増加の主な内訳は、税引前利益450億68百万円、非資金損益項目である減価償却費及び償却費297億64百万円であり、減少の主な内訳は、法人所得税の支払額134億63百万円、営業債権及びその他の債権の増加124億90百万円であります。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果得られた資金は、136億18百万円(前期は239億2百万円の資金の減少)となりました。収入の主な内訳は、資本性金融商品の売却による収入357億71百万円、有形固定資産、無形資産及び投資不動産の売却による収入103億72百万円であり、支出の主な内訳は、有形固定資産、無形資産及び投資不動産の取得による支出323億55百万円であります。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は、764億84百万円(前期は41億5百万円の資金の減少)となりました。収入の主な内訳は、借入れによる収入704億19百万円であり、支出の主な内訳は、借入金の返済による支出939億60百万円、短期借入金の減少402億78百万円であります。

 

当社グループでは、原材料およびエネルギー価格の高位継続や高付加価値品の拡大により運転資金が高止まりしていることから、原燃料コストに応じた販売価格の改定を進めるとともに、生産リードタイム短縮による棚卸資産の削減や原価低減活動、固定費等の圧縮を推し進め、安定的なキャッシュ・フローを創出するよう事業活動を続けてまいります。設備投資資金は長期借入金や社債により、運転資金は短期借入金により安定的に調達することを基本方針としております。また、手元流動性の適正レベルは時々の環境を考慮し、弾力的に運営してまいります。

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(以下「連結財務諸表規則」という。)第93条の規定によりIFRS会計基準に準拠して作成しております。この連結財務諸表の作成に当たって、必要と思われる見積りは、合理的な基準に基づいて実施しております。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針 4.重要な会計上の判断、見積りおよび仮定」に記載しております。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(5) 並行開示情報

連結財務諸表規則(第7章及び第8章を除く。以下「日本基準」という。)により作成した要約連結財務諸表は、以下のとおりであります。

なお、日本基準により作成した当連結会計年度の要約連結財務諸表については、金融商品取引法第193条の2第1項の規定に基づく監査を受けておりません。

 

① 要約連結貸借対照表(日本基準)

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

(2023年3月31日)

 

当連結会計年度

(2024年3月31日)

資産の部

 

 

 

流動資産

428,118

 

425,455

固定資産

 

 

 

有形固定資産

220,248

 

219,113

無形固定資産

4,530

 

5,013

投資その他の資産

120,954

 

137,935

固定資産合計

345,733

 

362,062

資産合計

773,851

 

787,517

負債の部

 

 

 

流動負債

215,226

 

154,680

固定負債

153,146

 

165,150

負債合計

368,372

 

319,830

純資産の部

 

 

 

株主資本

331,089

 

371,003

その他の包括利益累計額

37,628

 

57,355

非支配株主持分

36,760

 

39,327

純資産合計

405,479

 

467,687

負債純資産合計

773,851

 

787,517

 

② 要約連結損益計算書及び要約連結包括利益計算書(日本基準)

要約連結損益計算書

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

売上高

578,564

 

581,287

売上原価

476,224

 

479,772

売上総利益

102,340

 

101,515

販売費及び一般管理費

55,353

 

59,401

営業利益

46,986

 

42,113

営業外収益

4,678

 

5,646

営業外費用

3,542

 

2,729

経常利益

48,122

 

45,031

特別利益

2,353

 

33,744

特別損失

1,112

 

5,215

税金等調整前当期純利益

49,363

 

73,560

法人税等合計

10,867

 

21,238

当期純利益

38,496

 

52,321

非支配株主に帰属する当期純利益

2,057

 

2,562

親会社株主に帰属する当期純利益

36,438

 

49,759

 

要約連結包括利益計算書

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

当期純利益

38,496

 

52,321

その他の包括利益

11,389

 

20,586

包括利益

49,885

 

72,907

(内訳)

 

 

 

親会社株主に係る包括利益

47,533

 

69,488

非支配株主に係る包括利益

2,351

 

3,419

 

③ 要約連結株主資本等変動計算書(日本基準)

前連結会計年度(自 2022年4月1日 至 2023年3月31日)

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

株主資本

その他の包括利益

累計額

非支配株主持分

純資産合計

当期首残高

303,179

26,533

35,290

365,004

当期変動額

27,909

11,094

1,470

40,474

当期末残高

331,089

37,628

36,760

405,479

 

当連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

株主資本

その他の包括利益

累計額

非支配株主持分

純資産合計

当期首残高

331,089

37,628

36,760

405,479

当期変動額

39,913

19,726

2,567

62,207

当期末残高

371,003

57,355

39,327

467,687

 

④ 要約連結キャッシュ・フロー計算書(日本基準)

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

 

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

営業活動によるキャッシュ・フロー

22,634

 

58,657

投資活動によるキャッシュ・フロー

△20,084

 

16,777

財務活動によるキャッシュ・フロー

△2,668

 

△71,810

現金及び現金同等物に係る換算差額

963

 

2,150

現金及び現金同等物の増減額(△は減少)

844

 

5,775

現金及び現金同等物の期首残高

55,644

 

56,488

現金及び現金同等物の期末残高

56,488

 

62,264

 

⑤ 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項の変更(日本基準)

前連結会計年度(自 2022年4月1日 至 2023年3月31日)

(連結の範囲の変更)

新規設立により1社を連結の範囲に含めております。

 

当連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)

(連結の範囲の変更)

連結子会社であった㈲タカクラ・ファンディング・コーポレーションを営業者とする匿名組合は、匿名組合契約を終了したため、連結の範囲から除外しております。

また、株式の取得により1社を、新規設立により1社を連結の範囲に含めております。

 

(6) 経営成績等の状況の概要に係る主要な項目における差異に関する情報

IFRS会計基準により作成した連結財務諸表における主要な項目と日本基準により作成した場合の連結財務諸表におけるこれらに相当する項目との差異に関する事項は、以下のとおりであります。

 

前連結会計年度(自 2022年4月1日 至 2023年3月31日)

「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 40.初度適用」に記載のとおりであります。

 

当連結会計年度(自 2023年4月1日 至 2024年3月31日)

(退職給付に係る費用)

日本基準では、数理計算上の差異および過去勤務費用について、発生時にその他の包括利益を通じて純資産の部に計上したうえで、従業員の平均残存勤務期間以内の一定の年数による定額法により費用処理しておりましたが、IFRS会計基準では、数理計算上の差異は発生時にその他の包括利益を通じて資本に認識し、過去勤務費用は発生時に純損益として認識しております。

この影響により、IFRS会計基準では日本基準に比べて、税引前利益が1,445百万円減少しております。

 

(資本性金融商品に係る会計処理)

日本基準では、投資有価証券に係る売却損益を純損益として認識しておりましたが、IFRS会計基準では、その他の包括利益を通じて公正価値で測定すると指定した資本性金融商品に係る公正価値の変動額をその他の包括利益として認識しております。

この影響により、IFRS会計基準では日本基準に比べて、税引前利益が26,696百万円減少しております。

 

5【経営上の重要な契約等】

技術援助等を与えている契約

契約会社名

相手方の名称

国名

契約内容

契約締結日

契約期間

大同特殊鋼㈱

(当社)

Metallus Inc.

米国

特殊鋼製造・供給に関する協業テーマの推進

2007年1月16日

2007年1月16日から

2025年1月16日まで

(注) 「TimkenSteel Corporation」は2024年2月27日付で「Metallus Inc.」に社名変更しております。

 

6【研究開発活動】

当社グループは特殊鋼をベースにした高い技術力を背景に「素材の可能性を追求し、人と社会の未来を支え続けます」を経営理念とし、「新製品・新事業の拡大」「既存事業の基盤強化」のため、積極的な研究開発活動を行っております。現在、当社「技術開発研究所」を中心に、新製品、新材料、新技術の研究開発を推進しており、研究開発スタッフはグループ全体で290名であります。

当連結会計年度におけるグループ全体の研究開発費は6,567百万円であり、各セグメント別の研究の目的、主要な研究成果および研究開発費は次のとおりであります。

 

(1) 特殊鋼鋼材

主に当社が中心となり、自動車用構造材料、工具鋼などの素材開発および溶製から製品品質保証までプロセス革新等の研究開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は1,512百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・大型アルミダイカスト(ギガキャスト)金型に適した高靭性鋼の開発

カーボンニュートラルに向けた自動車の電動化や軽量化の動きにより、バッテリーケースや車体部品などの大型ダイカスト製品の実用化が進んでいます。大きな金型では、焼入れ熱処理時に内部の冷却速度不足により、中心部近傍の靭性が低くなり金型が割れるリスクが高くなります。そこで当社は、ギガキャスト用の金型のような、焼入れ時の冷却速度をあまり速くできない場合においても、内部靭性の低下を抑制する高靭性鋼を開発いたしました。開発鋼には従来の熱処理を必要とする金型製造工程に対応する鋼種(焼入焼戻しタイプ)と、当社にて指定硬度に熱処理済みでご提供してお客様での熱処理工程短縮に貢献する鋼種(プリハードンタイプ)があります。今後、日本および海外のお客様に提案し、金型でのトライアルを実施してまいります。

 

(2) 機能材料・磁性材料

主に当社が中心となり、耐食・耐熱材料、高級帯鋼、接合材料、電磁材料等の素材開発および電子デバイスの研究開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は3,823百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・大型品の3D造形を可能とするプラスチック金型用ステンレス系粉末「LTXTM420」

プラスチック射出成形金型において、サイクルタイムの短縮や成形品の品質改善を目的に、水冷孔を自由に配置できる3D造形金型が実用化されています。耐食性や耐摩耗性が要求される金型では、SUS420J2系粉末の使用が望まれますが、造形が非常に難しいという課題がありました。当社は、造形時の割れメカニズムを解明し、材料成分調整によって連続的に大型品の造形が可能なステンレス系粉末を開発いたしました。一部の3Dプリンタメーカーで造形テストを実施し、良好な結果が得られております。

・高圧水素ガス雰囲気材料試験機の導入

近年、カーボンニュートラルの実現に向けて、自動車や発電等のさまざまな分野で水素エネルギー利用に関する技術開発が進められています。水素はしばしば金属材料の特性を劣化させてしまうため、水素雰囲気に曝露される部品には水素に強い耐水素材料が必要とされ、耐水素材料を研究開発し部品に適用するには、高圧水素ガス雰囲気において、材料の各種機械特性を評価する必要があります。当社では、耐水素材料の研究開発を加速すべく、材料評価を自社で管理しながら実施するため、(公財)水素エネルギー製品研究試験センター[HyTReC(ハイトレック)]内に高圧水素ガス雰囲気材料試験機を設置いたしました。水素利用機器の普及拡大に向けて、耐水素材料のコスト低減や強度等の特性向上を引き続き進めてまいります。

・生体用低弾性率Ti合金Ti-15Mo(ASTMF2066)の量産製造実現

Ti-15Mo(ASTMF2066)は骨に近いしなやかさを持つチタン(Ti)合金です。モリブデン(Mo)は高融点の特性を有するため溶解時に溶け残りやすいという課題がありましたが、当社では特徴的な浮遊(レビテーション)溶解法であるLIF炉を活用し、ラボでの溶解挙動予測技術を組み合わせることでその課題を解決し、国内で初めて量産製造を実現いたしました。また、当社がこれまでに販売してまいりましたチタン合金とは異なり、モリブデンを多く含有するTi-15Moは材料特性が大きく異なるため同等の検査を実現することは困難でしたが、超音波を送受信するためのアレイプローブを新設計し、Ti-15Moにおいても超音波の内質検査規格であるAMS2631に準拠した超音波探傷を可能といたしました。当社星崎工場に導入しております。

 

(3) 自動車部品・産業機械部品

主に当社が中心となり、ターボチャージャーやエンジンバルブ等の自動車部品および各種産業機械部品の研究開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は1,061百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・クラウド型材料開発プラットフォーム「ICMD®」の導入

当社はこれまでNi基合金におけるプロセスから組織の予測に取り組み、「Ni基超合金の自由鍛造ディスク製造技術に関する研究」で(一社)日本塑性加工学会の新進賞を受賞しております。さらに一歩進んでプロセスから特性までを一貫予測する先進的なモデルとして、材料開発の分野で高度な技術を有するQuesTek International LLC(以下QuesTek社)が開発したクラウド型材料開発プラットフォームであるICMD®(Integrated Computational Materials Design)を導入いたしました。ICMD®はQuesTek社がSpaceX社やマサチューセッツ工科大学などの初期評価ユーザーによる広範なテストを経て提供され、当社が世界初の導入となります。ICMD®の導入により、高性能な特殊鋼の開発期間の短縮や効率化だけでなく、生産時における品質の安定性向上への貢献が期待されます。

 

(4) エンジニアリング

主に当社が中心となり、環境保全・リサイクル設備や省エネルギー型各種工業炉等の開発を行っております。当事業に係る研究開発費の総額は169百万円であり、当連結会計年度の主な成果は次のとおりであります。

・浸窒処理技術を開発し真空浸炭炉「ModulTherm」に浸窒機能を追加

自動車の電動化進展に伴い、駆動系に使用されるギア部品は高強度化や低歪み化といった特性の向上が求められています。当社はこれら要求に応えるために、独自の浸窒処理技術を確立し、ギア部品の表面硬化用途に使用される真空浸炭炉「ModulTherm」に浸窒処理機能を付加して販売を開始いたしました。本機能により、強度の40%向上と歪み量の40%低減が期待できます(当社測定値)。また、当社独自のシミュレーションソフト「浸窒くん」により、お客様は容易に熱処理条件の設定が可能となります。当社は本技術を通じて自動車の電動化技術を支え、自動車産業のカーボンニュートラル実現に貢献してまいります。