第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

下記の文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月26日)現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)会社の経営の基本方針

当社は「人の心を尊重し、豊かな価値を創り、社会貢献に努める」ことを経営理念とし、全社員の知恵をお客様の課題解決に注ぎ、お客様が提供する製品・サービスの未来に続く架け橋となるべく、「顧客価値を創造する100年企業」となることを目指しております。

2023年4月には、新たに当社のパーパス(存在意義)として「私たちは、社会やお客様の期待を超える“つなげる”を実現します」という言葉を策定し、当社が製造するコネクタを通して、人と環境にやさしく、様々な機能を容易につなげる未来を創造していくことを、社会に対して実現したいこととして掲げました。

 この経営理念とパーパスから、約10年後の2035年にありたい姿として、「社会やお客様の期待を超える“つなげる”で、成長を続ける企業」、「社会、環境、品質を重視し、社員とステークホルダーが“わくわく”する企業」の2つを設定しています。

 


 

(2)マテリアリティ(重要課題)

 2035年のありたい姿と、将来の業界メガトレンドを分析し、多数の社会課題項目からステークホルダーにとっての重要性と当社が継続して成長していくための重要項目について、それぞれスコアリングを行い、外部の専門家も交えて議論を重ね、当社が持続的成長を実現するための5つのマテリアリティを特定しました。

 

マテリアリティ

目指す姿

①社会課題の解決と事業成長の実現

社会課題解決を通した価値提供による業界グローバルTop10企業(市場拡大・高利益体質)

②価値創造を支えるモノづくり力の変革

業界グローバルTop10企業として高品質なモノづくり力を安定的に発揮する企業

③人と環境にやさしい安心、安全、快適な社会への貢献

持続可能な社会の実現に向け貢献する企業

④多様な人財づくり

多様な社員がはたらきがいを感じて働き続けられる企業

⑤経営基盤の強化

業界グローバルTop10企業にふさわしい経営基盤を持ち、信頼される企業

 

 

(3)経営環境及び中長期的な会社の経営戦略

 当社の事業領域において、車載関連市場では100年に一度と言われる電動化によるパワートレイン部品の増加、自動運転に向けたADAS(先進運転支援システム)の普及による情報量の飛躍的拡大・高速伝送化という2つの大きな変革に加え、「空飛ぶクルマ」の開発加速など、現在の車載市場だけに捉われず、モビリティ市場全体を俯瞰して事業領域を見直す変化が起きています。

 

 いずれの市場における変化も当社が培ってきた三次元可動並びに大容量情報伝達等の独自技術による当社コネクタ事業を飛躍的に拡大する好機ととらえ、グローバルでの成長市場への展開を重点戦略として、顧客ニーズを先取りするマーケティング、顧客ニーズに対応した顧客密着型営業体制により、お客様の期待を超える「つなげる」を実現する製品開発を進めて参ります。また、生産・サプライチェーンにおいても、グローバル情報ネットワークを活用し、最適生産拠点の決定、集中購買・複数購買、各生産拠点での材料の現地調達、内製化・合理化を推進し、グローバルでのQCD(品質・コスト・納期、Quality Cost Delivery)をより一層強化していくことを目指しております。

 

 当社は、以上の市場環境の変化を確実に捉え、将来的に接続部品業界でグローバルトップ10入りを果たすことで、事業規模の確保とブランドの向上を図り、グローバルでの新規顧客開拓を推進して参ります。

 

①業績目標

当社は、中期経営計画期間の2024~2026年度(2025年3月期~2027年3月期)を、課題克服と成長軌道への回帰に向けた足場固めの3年間と位置付け、2027年3月期に売上高650億円、営業利益率15%超の達成を目指す計画を策定しました。

事業規模拡大において市場別では、販売台数が増加する電動車向けの拡販を加速すると共に、ECU(Electric Control Unit)統合化の流れを掴み製品の市場投入を進めて参ります。また、課題であるセンサー分野(カメラ分野)やインダストリアル市場を2027年以降の飛躍的成長実現に向けた土台づくりの期間と位置づけ、注力分野として推進して参ります。

モノづくり力強化においては、生産性・工場稼働率の向上に努め、設備の共有化、金型内製化の拡大や資材費の低減、設計VEなどを通じコスト削減を進め利益率向上を図って参ります。

 

②重点施策

中期経営計画期間において、当社は、以下の重点施策に取組んで参ります。

a. 「車載のイリソ」から「モビリティのイリソ」への基盤構築

・パワートレイン分野:ワールドワイドでの事業拡大、高電流・耐振動・耐熱性能の更なる向上

・統合ECU分野:高速BtoBコネクタに加え、統合ECU化に向けWtoB(ワイヤーtoボード)スケーラブル

        コネクタ投入によるラインアップ拡充

・センサー分野:共同開発等によるカメラ事業再構築、新規顧客開拓

・車載で培った耐振・耐熱、高速伝送を武器に、建機、農機、eVTOL等のモビリティ市場への事業ポート 

 フォリオ拡大

 

b. インダストリアル市場のグローバル強化~ 第二の柱に成長するための土台づくり

・高速フローティングBtoBコネクタによる新規顧客開拓とシェア拡大、商社等活用による販売チャネル 

 拡大、調達品による品揃え強化

・グローバルFAE(Field Application Engineer)による新規顧客開拓、現地対応力強化

・半導体製造装置、エネルギーマネジメント領域の事業構築

 

 

c. ワールドワイドでの生産体制見直し、設備・金型の標準化拡大による生産性・投下資本効率の向上

・全生産拠点の体制・役割を見直し、生産効率15%%改善、秋田工場の円滑な立ち上げ、国内生産比率の

 向上

・DXを活用した製品・設備・金型設計の生産性向上、標準化、内製金型拡大によるコスト削減、リード

 タイム短縮

・現地調達、集約購買拡大による資材費低減、樹脂・めっき等の使用量削減

d. 資本コストと株価を意識した経営の強化

・資本コストを上回るROIC達成を図り、最適な資本構成による投資効率の改善を実現

・成長投資と株主還元のバランスを取り、配当性向40%超または株主資本配当率(DOE)5%程度を目標に

 株主還元

 

e. サステナブル経営の更なる深耕

・人と環境にやさしい経営 ~ 再生可能エネルギー積極利用、リサイクル・再利用の促進

・多様な人財作り ~ 役員・管理職人財の多様化、働き方、処遇改善を通じたエンゲージメント向上

・経営基盤の強化 ~ グローバルリスクマネジメントの強化、デジタル経営基盤の構築、セキュリティ

 向上

 

③経営目標

・中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)

 

2024年3月期

(実績)

 

2027年3月期

(目標)

売上高

553億円

 

650億円

営業利益

59億円

 

100億円

営業利益率

10.7%

 

15.4%超

親会社株主に帰属する当期純利益

56億円

75億円

EPS

237.75円

 

330円

ROE

7.8%

 

10.0%

ROIC

7.3%

 

10.0%

売上高研究開発費比率

2.4%

 

3.5%

 

※中期経営計画期間の為替レート設定は140円/ドル、155円/ユーロ、20円/人民元

(ただし2025年3月期は145円/ドル、160円/ユーロ、20円/人民元)

 

 

 

(4)2025年3月期の重点施策、対処すべき課題

①事業環境

車載(モビリティ)市場においては、グローバルでの自動車生産台数は前期比微増に留まる一方、生産台数に占めるPHVやHEVを含めたxEVの構成比は2024年3月期約25%から約30%へと上昇ると見込んでおり、また、電動化、自動運転、車載通信等の発展による高速伝送対応コネクタの需要の増加を見込んでいます。一方でコンシューマー市場、インダストリアル市場においては、前期に引き続き生産調整が継続し、厳しい環境になると見込んでいます。

 

2025年3月期の重点施策

このような事業環境の中、当社は新たな中期経営計画の1期目として、2025年3月期において以下を重点施策として取り組んで参ります。

 [経営戦略面]

 ・モビリティ市場パワートレイン分野での欧米顧客規格対応製品の拡販活動強化

 ・高速伝送対応コネクタのラインアップ強化、統合ECU向けコネクタの開発 

 ・インダストリアル市場での販売チャネル・販売手法見直し、グローバルでの新規顧客開拓

 ・車載で培った耐振・耐熱、接続信頼性、高速伝送技術を武器に、自動車以外のモビリティ分野顧客への 

  当社製品提案と顧客ニーズ収集

 

 [事業基盤面]

 ・新ERPシステムの円滑な立上げと業務標準化の定着、改善効果の実現

 ・主力コネクタ製品の価格競争力強化

 ・設備標準化、金型内製化の拡大による設備投資効率向上、固定費圧縮

 ・2025年秋田工場の稼働を踏まえ、各工場の役割分担を見直し、拠点再整備生産性向上施策の策定

 

③2025年3月期の見通し

連結売上高580億円(対前期比4.9%増)、連結営業利益70億円(対前期比17.9%増)、連結経常利益68億円(対前期比5.4%減)、親会社株主に帰属する当期純利益52億円(対前期比7.0%減)を見込んでおります。為替レートは、145円/ドル、160円/ユーロ、20円/人民元を前提としております。

 

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社は経営の基本方針で示す通り、「人の心を尊重し、豊かな価値を創り、社会貢献に努める」ことを経営理念とし、全社員の知恵をお客様の課題解決に注ぎ、お客様が提供する製品・サービスの未来に続く架け橋となるべく、「顧客価値を創造する100年企業」となることを目指しております。また、2023年4月には、新たに当社のパーパス(存在意義)、ドリーム(社会に対して実現したいこと)を掲げ、約10年後の2035年ありたい姿として、「社会やお客様の期待を超える“つなげる”で、成長を続ける企業」、「社会、環境、品質を重視し、社員とステークホルダーが“わくわく”する企業」の2つを設定し、マテリアリティ(重要課題)を特定しました。

 このありたい姿を実現し、イリソ電子工業を更に発展させていくために、今後さらに社会との共存、社会貢献の取組を積極的に進め、当社の事業拡大を推進して参ります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月26日)現在において当社グループが判断したものであり、実際の結果は様々な要因により大きく異なる可能性があります。

 

①マテリアリティにおけるサステナビリティ関連項目とKPI

 当社のマテリアリティの中で、環境・社会・経済の観点でのサステナビリティに関する項目として「人と環境にやさしい安心、安全、快適な社会への貢献」、「多様な人財づくり」の2つを掲げ、以下のKPIを設定し、サステナビリティへの貢献を果たして参ります。

 


 

②CSR方針

 当社は2022年10月に以下のとおりCSR方針を策定致しました。社会貢献については、当社の事業活動そのものが環境を改善し、社会課題の解決に寄与するものと認識しております。例えば、当社のコネクタの活用が、お客様の作業性向上、作業時間削減、機器の小型軽量化、ロボット活用による生産の自動化を通じて、省資源、省エネ、労働人口減少対応へ貢献しています。

 当社のCSRを「社会との共存、社会貢献」と改めて定義し、事業を通じた活動をCSRのメインとし、“サステナブルな企業”を目指して参ります。

 


 

③2024年3月期の主な実績

・マテリアリティの策定

・金使用量の削減

コネクタのピンのめっきに使用される金の必要量を見直し、環境負荷を軽減しています。

・再生材料活用拡大による廃棄量の削減

コネクタのモールドに使用される樹脂において、これまで工程において発生した端材を廃棄していましたが、再生化率100%の再生材LCP(液晶ポリマー)として活用することで、廃棄量を削減し、環境負荷を軽減しています。

・空調設備の更新による電気使用量削減

電気使用量削減のために、本社では事業所のエアコンの更新工事を2023年3月期から4年間で段階的に実施し、これにより、本社事業所の年間電気使用量135MWhの削減を見込んでいます。2023年3月期は年間電気使用量が24MWh減少、2024年3月期は32MWh減少となりました。今後、エアコン更新工事を進めていき、2025年3月期は48MWh減少、2026年3月期は46MWh減少となる予定です。

・新規生産設備の電気使用量削減

コンプレッサーと生産設備との導線で発生するエネルギーロスを無くすために、新規生産設備を作る際に、生産設備中に電気シリンダを組み込み、必要なエアをその場で作り出すことで、電気使用量削減をしています。

・温室効果ガス(GHG、SCOPE1、2、3)排出量算出に関わる独立した第三者機関による保証取得

・健康経営への取組強化と、「健康経営優良法人2024(大規模法人部門)」への認定

 

④中期経営計画での推進事項

2025年3月から2027年3月期の中期経営計画の中で「サステナブル経営の更なる深耕」を目標としており、以下の3つの項目に取組みます。

a. 人と環境にやさしい経営

・再生可能エネルギー積極利用、リサイクル・再利用の促進

・サプライチェーンを通した脱炭素・資源循環型社会への貢献

b. 多様な人財作り

・役員・管理職人財の多様化

・働き方、処遇改善を通じたエンゲージメント向上

c. 経営基盤の強化

・グローバルリスクマネジメントの強化

・デジタル経営基盤の構築、自動化推進、セキュリティ向上

・資本コストと株価を意識した経営

 

 

(1)気候変動への対応(TCFD提言に基づく情報開示)

 当社はサステナビリティに関する取組のうち、気候変動への対応を重要な経営課題の一つと捉え、TCFDの4つの開示項目に沿って、情報開示を行います。

 

①ガバナンス

・取締役会の指導・監督の下、ステアリングコミッティを組織し、取締役管理本部長を長として各本部 

 の本部長メンバーを中心にリスクマネジメント全体を統括します。

・各本部長が各部門と連携して中長期の気候変動の影響による事業へのリスク、機会の検証を年4回行

  い、必要な対策を講じます。

・結果はステアリングコミッティの報告を経て、重大な影響の恐れのある事案については年2回取締

 役会へ報告・付議します。

・監査等委員会はステアリングコミッティに対し、適宜助言を行います。

 

〈ガバナンス及びリスク管理体制図〉


 

②戦略

a. 事業戦略

当社は事業において気候変動が及ぼすリスクと機会について検討を行いました。リスクと機会とは、政策や規制等、社会的要求の変化等によって生じる“移行”リスク・機会と、異常気象の激甚化等によって生じる“物理”リスクを指し、それぞれ当社の損益に影響を及ぼす可能性がある項目を特定しています。

シナリオ分析では、IEA(国際エネルギー機関)等が公表する「科学的根拠を有するシナリオ」を用いて、事業にどのような影響を及ぼすか検討しました。今回実施したシナリオ分析は、イリソグループにおける製品及びサービスの購入、開発、製造、販売、廃棄までのサプライチェーン全体を対象とし、4℃シナリオ、1.5℃シナリオの2つのシナリオを用いて、2030年時点における影響を考察・検討いたしました。

当社グループ全体で、2025年に電力由来によるCO2排出量を実質ゼロ化し、2050年にはカーボンニュートラルをすることを目標としています。外部のシナリオを用い当社グループにおける事業インパクトを算出し、分析した結果、当社は自社事業におけるCO2排出量の削減と共にCO2排出削減に貢献するxEVに事業を注力することで、CO2排出量削減に貢献しています。

具体的には、ネガティブインパクトを抑制するため、エネルギー使用量の削減及びエネルギー使用原単位を改善する施策として、エネルギー効率のよい生産設備への入替促進等の実施、ポジティブインパクトの促進として、xEV向け事業への注力、地産地消化を推進し輸送効率の改善を推進します。また、製品そのものに着目したリサイクル原材料の活用、製造プロセスそのものの見直しによる生産効率改善も進めています。

 

b. 各シナリオにおける事業インパクト、財務的影響

(a)4℃シナリオ

4℃シナリオは、気候変動対策が現状から進展せず、地球平均気温が産業革命以前と比較して21世紀末ごろに約4℃上昇するとしています。異常気象の激甚化や海面上昇等、物理的なリスクが大きくなる一方、企業活動や消費活動に対する締め付けも現状より強化されないとされています。

この4℃シナリオにおける事業インパクトでは、気温上昇等が操業地域で働く社員に対する健康リスクとなり対応コストが増加するほか、異常気象の激甚化によるサプライチェーンの混乱により仕入の遅延または停止を招き事業継続が困難となると認識しています。

長期ビジョンである2030年3月期に売上高1,000億円を達成する前提に基づく2030年3月期の利益影響額は約6.9億円の減少と試算しています。(注)

 

(b)1.5℃シナリオ

1.5℃シナリオは、カーボンニュートラル実現を目指した取り組みが活発化し、地球平均気温が産業革命以前と比較して21世紀末ごろに約1.5℃の上昇に抑えられるとしています。物理的なリスクの高まりは抑制される一方で、税制や法規制という形で企業活動や消費活動に対する締め付けが強まるとされています。

この1.5℃シナリオにおける事業インパクトでは、カーボンニュートラル実現を目指した取り組みが活発化し、電力コスト上昇、炭素税の導入や排出権取引の拡大により追加費用が発生すること、またxEVの販売が伸びることで金属材料のコストが大幅に上昇する懸念があります。一方で、脱炭素社会に向け再生エネルギーやxEVの増加等、低炭素技術の需要が拡大することにより当社製品の機会が増えると認識しています。

長期ビジョンである2030年3月期にxEVの伸長により売上高1,200億円を達成する前提に基づく2030年3月期の利益影響額は約9.5億円の減少と試算しています。(注)

 

(注)2021年3月期を基準とする売上総利益への影響(2024年3月試算)    (単位:億円)

 

4℃シナリオ

1.5℃シナリオ

電力価格の影響

-0.2

ガソリン車の市場縮小とxEVの市場拡大の影響

65.5

原材料コストへの影響

-70.6

異常気象の激甚化/降水・気象パターンの変化による被害額

-6.7

-3.8

その他

-0.2

-0.3

合計

-6.9

-9.5

 

 

(c)リスク項目と事業インパクトの分析

分類

事業インパクトの考察

大分類

中分類

小分類

発生する時間軸

計測する指標

リスクの内容

機会の内容

影響度

移行

政策

規制

炭素価格

(炭素税)

中期~

長期

損益

・炭素税が導入された場合、輸送費用の増加が重大な財務影響を及ぼすリスク
・炭素税を製品に転嫁した場合、製品の価格競争力低下による売上減少のリスク

・早期から低炭素技術への投資や設備の採用により、エネルギーコスト削減だけでなく、炭素税が導入された場合の操業コストの増加を回避できる可能性

・製品価格への炭素価格の反映を最小限に抑制し得る場合、市場における価格優位性が向上し売上・利益の拡大が期待できる可能性

排出権取引

短期~

長期

損益

・国際社会の脱炭素化の潮流から、各国で排出権取引制度導入が拡大した場合、排出量削減に資する設備への切替コストが発生するリスク

・削減義務を達成できなかった場合、排出権購入のための費用増加のリスク

・削減義務を超えて排出量を削減できる場合、排出権売却により収益拡大に繋がる可能性

 

GHG排出

規制への

対応

短期~

長期

損益

・GHG排出削減規制の強化により、対応費用が増加するリスク
・削減義務を達成できなかった場合、罰金や排出権購入による追加的な費用が生ずるリスク

・GHG排出規制により自動車の電動化・省エネルギー化が進展し、コネクタ需要が拡大する場合、自動車市場に強みを持つ当社の売上・利益拡大に繋がる可能性
・インダストリアル市場(工作・産業用機械、スマートグリッド、通信機器、医療機器等)やコンシューマー機器市場(OA、映像機器等)等、他市場の省エネルギー化及び関連技術需要の拡大がコネクタ需要の拡大に繋がり、当社は車載用コネクタで培った技術を背景に低炭素技術を成長領域として事業を展開、幅広く製品を投入する場合、売上・利益機会が拡大する可能性

市場

エネルギーコストの

変化

中期~

長期

損益

・脱炭素化の進展、再エネ利用の急拡大によりエネルギー価格が高騰した場合、自社工場で製造している当社は操業コストが増加するリスク

・脱炭素化の進展、再エネ利用の急拡大によりエネルギー価格が高騰した場合、インダストリアル市場他の企業の省エネルギー化を一層促進する結果、コネクタ需要が拡大する場合、当社の売上・利益拡大に繋がる可能性

顧客行動

変化

中期~

長期

損益

・顧客からの再生可能エネルギー利用やカーボンニュートラル対応等の要求に対応できない場合、ビジネスチャンスを喪失し売上が減少するリスク

・自動車業界のサプライチェーン全体でGHG排出量を削減する動きに対して、サステナブル企業・製品と認知されることにより売上増加につながる可能性

物理

急性

異常気象の激甚化
(台風、豪雨、土砂、高潮等)

短期

損益

・当社はグローバルに製造・販売地域を有するため、サプライチェーンが混乱し仕入が遅延/停止した場合、事業継続が困難となるリスク
・事業活動の停滞により、売上減少や対応費用の増加等が財政状態を悪化させるリスク

・異常気象による災害多発により、復興・救済用ロボットの需要が増加した場合、売上増加の機会となる可能性

慢性

平均気温の上昇

中期~

長期

損益

・気温上昇地域で働く従業員の健康が悪化するリスク
・従業員の体調悪化、生産性低下を防ぐため、冷房費用等の追加費用が増加するリスク

・気温上昇地域において冷房設備の需要が増加した場合、売上増加の機会となる可能性

 

(注) 1 移行リスク/機会(チャンス)とは、政策、規制・法制度、及びそれらに伴う社会的要求や事業環境等の変化によって生じる企業収支・財政に対するリスク・機会のことです。

2 物理的リスク/機会(チャンス)とは、地球温暖化ガスの排出量増加の影響が大きいとされる台風激甚化等の異常気象や平均気温の上昇・海面上昇等、物理的な事象が企業の収支・財政状態に及ぼすリスク/機会(チャンス)のことです。

 

③リスク管理

・当社の気候変動リスクは、ステアリングコミッティにおいて識別・評価・管理しています。

・各部門が行うリスク評価の結果に基づき、対策の要否や優先順位を考慮した上でステアリングコミッ

 ティに報告します。

・評価の結果、重大な影響の恐れがある事案及び対応を、取締役会に報告・付議し決定します。

・各部門は、ステアリングコミッティ並びに取締役会の指示・指導に基づき、リスク低減計画を立案、

 遂行します。

・なお、当社は、ISO14001に基づく環境マネジメントシステムを構築しており、気候変動リスク管理の

 中には当該マネジメントシステムに基づく法令遵守等のリスクモニタリングも組み込まれています。

 

④指標及び目標 

 温室効果ガスの削減については以下を目標に設定して、現在は太陽光発電設置、各工場での自動化、めっきラインの効率化による生産効率向上での省電力、再生エネルギー使用への切替に取り組んでいます。将来的にはカーボンプライシングへの対応も行ってまいります。

 (削減目標)

・電力由来のCO2排出量:2025年に実質100%削減

・GHG(SCOPE1~3)排出量:2050年にカーボンニュートラルを達成

(推進目標)

a. 数値目標

項目

目標

年目標

電力消費原単位

(電力消費量/工場売上高)

2030

2021年度比-30%

2021年度比-3.5%/年

社有車EV化

2030

100%

調達先のSCOPE1~3調査

(CO2排出量の把握)

2030

調達額比80%カバー

2023年度:15%、

以降+10%/年

 

 

b. その他の目標

・脱炭素貢献商品開発、ケミカルリサイクル等の技術開発支援利用電力の見直し

・CO2排出が少ない電力会社、再エネ由来電力の利用

 

 

(2)人的資本経営に関する取組

 当社は、経営理念である「人の心を尊重し、豊かな価値を創り、社会貢献に努める」に基づき、全社員参加型経営と、お互いの人権と尊厳を大切にするインクルーシブな職場環境の醸成に務めております。組織に多様な視点や経験を取り入れることでイノベーションが促進されるとともに、従業員の満足度や働きやすさを向上させ、人材の獲得やリテンションにもプラスの影響を与えると考えています。

 

①ガバナンス

 当社は人財の育成及び社内環境整備について以下のようにガバナンスしています。

・組織の改編や重要人事、経営幹部並びにグローバル人財の育成、ダイバーシティ等の会社の持続的な

 成長に関わる人財戦略については、執行役員以上がメンバーとなる経営戦略会議での審議を経て実施

 されます。また、各部門の代表者から構成される安全衛生委員会が全社的なエンゲージメントの向上

 や健康経営の推進に努めています。

・これらの施策については従業員主体で運営される「従業員代表委員会」からの意見や、各事業拠点へ

 の役員視察での現場での対話を踏まえて、より実効性のある形に見直しを行っております。

 

 

 

〈ガバナンス及びリスク管理体制図〉


 

②方針、戦略

当社は、中期経営計画等において「車載のイリソ」から「モビリティのイリソ」への展開、車載市場に次ぐ第二の柱としてインダストリアル市場のグローバル強化、技術開発力・原価力・生産・投資効率の向上、品質の強化を推進しており、ベースアップ含めた競争力のある賃金体系への移行を進めると共に、社員のモチベーションを高め営業力・技術力・生産力の向上と、情報の可視化・共有化による組織力の強化を目指します。

また、必要な人員の確保(採用、定着、育成)と同様に、グローバルで多様な価値観を持った人財が活躍できる組織体制と職場作り(ダイバーシティへの取り組み)、安全・安心な職場環境の整備も重要であると認識しています。

 

a. 人財育成方針、戦略

女性、外国人、経験者採用者だけでなく、技術職、事務職等、様々な背景や価値観を持った社員が各々の特性に合わせ、充分に力を発揮できるよう自律的なキャリア形成の支援と環境整備に努めております。

具体的には、次のとおりの人財育成を行っております。

・中堅社員、リーダークラス、新任管理職等の階層別にその段階に応じた研修

・それぞれの社員が業務を遂行する上で必要なスキル習得のための研修

・多様性の尊重、ハラスメント防止等の基礎知識向上を目的とした全社員向け研修

 

b. 社内環境整備方針、戦略

育児・介護、そのほかの様々なライフイベントが発生する際等でも仕事と両立できるよう支援制度を整えることで、すべての社員が継続して働きやすい職場となるよう環境整備を進めております。

具体的には、次のとおりの環境整備を進めております。従業員の自律的な働き方を支援することは、生産性の向上やエンゲージメントの向上に寄与すると考えております。

具体的には、次のとおりの環境整備をしています。

在宅勤務制度、フレキシブルタイム制度の導入

育児・介護、ボランティア活動等に利用できる失効有給休暇の積立制度の導入

子の看護休暇の有給化

 

 

c. ダイバーシティに関する方針、戦略

当社は、多様な一人ひとりの個性を尊重し、その特徴を活かすことこそが豊かな価値を生み出し、それが企業成長につながると考えております。中長期的な企業価値を向上させていくうえで、能力発揮度合いに基づく公正な評価を踏まえた登用・処遇を行い、女性、外国人、経験者採用者に限らず、多様な個性、特徴、多様な経験をもつ人財育成を行うことを心掛けております。

 

d. 安全に関する方針、戦略

当社は「安全はすべてに優先する」という言葉のもと、当社で働くすべての人々が、より豊かに、平和に、文化的な生活を維持するために、負傷・疾病を防止し、安全で健康的な労働条件を提供することを第一に優先し、すべての人々が、生き生きと働ける明るい快適な職場環境づくりを、全員が参加し、アイデアを自由に出し合うオープンな協議により進めることを労働安全衛生方針としております。

 

e. 賃金体系、昇格・昇給体系の改善

(a)男女間賃金格差

当社は、2024年3月末現在、3,037名の社員を有しており、国内589名、海外2,287名と約80%が海外人財で構成されております。国内の賃金格差状況は、全社平均でみると女性社員の年収は男性社員の70%程度となりますが、これは主に従事する業務による違いに起因します。同一等級での平均年収を比較すると、管理職での賃金格差はなく、非管理職では時間外労働の違いより約10%の賃金格差が生じています。

男性を100とした場合の女性の賃金(%)

全ての従業員

68.3

 

正社員

71.1

 

管理職

93.6

非管理職

89.4

 

 

(b)施策

多様な社員の活躍が当社成長の重要な一要素であることを認識し、ジェンダーギャップの解消とワークライフバランスの確保を積極的に推進しております。2024年3月期では、以下の施策を実施致しました。

・賃金制度の改定や昇格制度の運用改訂により、若年層を積極的に管理職へ抜擢することで、社内活

 性化及び男女間賃金格差の是正を図っており、管理職ポストへの女性登用の増加を目指します。

 

③リスク管理

当社が今後事業を継続、発展させていく上で、人財の確保・育成が重要であり、必要な人財の確保、社員の成長のための人財育成、社員個々人の能力発揮による組織の活性化が不可欠であると考えています。必要とする人財採用が困難となること、社員の離職や健康状態の悪化により人財育成が進まなくなること、社内環境の多様性が損なわれることにより個々人の能力発揮が阻害されることがリスクであり、社員に対し、安全で健康的な労働条件の提供及び、多様性のある社内環境を整備することでリスク低減に努めています。

・当社の人的資本リスクは経営戦略会議において識別・評価・管理しています。

・各部門、各事業拠点からの報告は安全衛生委員会や従業員代表委員会にて担当部門を交えて協議さ 

 れ、対策の要否や優先順位を考慮したうえで経営戦略会議に報告されます。

・審議の結果、重大な影響の恐れがある事案及び対応を、取締役会に報告・付議し決定します。

・人事部門、安全衛生委員会は、経営戦略会議ならびに取締役会の指示・指導に基づき、リスク低減計

 画を立案、遂行します。

・なお、当社はISO45001に基づく労働安全衛生マネジメントシステムを構築しており、人的資本リスク

 管理の中には当該マネジメントシステムに基づく法令遵守等のリスクモニタリングも組み込まれてい

 ます。

 

 

④指標及び目標

中期経営計画等で掲げている車載市場以外の第二の柱の確立、技術開発力の強化、生産力・コスト力・品質力の向上を図るため、必要な人財の確保と育成を目指しており、現在、新卒・中途採用ともに技術系人財の採用強化、金型製作会社のM&A、海外拠点を含む専門人財の採用を強化しています。また、給与水準の段階的な引上げにも取り組んでいます。

ダイバーシティの観点では、当社グループでは管理職に占める女性の割合は27.2%ですが、当社単体では2.6%に留まっており、課題として認識しています。このダイバーシティの課題と、社内環境に関する課題の解決に向け、下表の通り当社単体の指標・目標を設定し、取り組んでまいります。

 

課題

解決に向けた取り組み

指標・目標

2024年3月期実績

グローバルで多様な価値観を持った人財が活躍できる職場作り

・新卒での女性採用強化

・新卒採用に占める女性比率2025年 30%

・新卒採用に占める女性比率:14.3

・女性育成強化
・人事制度・評価制度改定による若年層の管理職への積極登用

・女性管理職比率2030年 5%

・女性管理職比率:2.6%

・海外拠点での外国人の重要ポジション登用による育成

・本社外国人役員比率2025年 10%

※執行役員含む

・本社外国人役員比率:5.9%
・海外法人代表者の現地化率:41.7%

・本社役員の経験者採用比率:76.5%

経営方針「顧客第一、業界No.1」を追求し、長期ビジョン売上1,000億円の実現とその先を見据えた組織体制作り

・次世代経営者候補の充足
・キャリアアップのための研修(リーダー研修、階層別研修)の実施

・グループ全体で人財の可視化

・1年間にキャリアアップのための研修を受講した正社員の割合2025年 35%(3年に1回受講)

・1年間にキャリアアップのための研修を受講した正社員の割合: 30.5%(3.3年に1回受講)
・海外コア人財を含めた管理

・離職防止による長期的な人材育成と組織体制作り

・正社員離職率5%未満維持

・正社員離職率:5.3%

・コンプライアンス意識の徹底

→eラーニング、弁護士による研修の実施

・コンプライアンス研修受講率100

・コンプライアンス研修受講率:89.9

安全・安心な職場環境作り

・安全衛生委員会主導での安全情報を各拠点へ展開し労働災害をなくす

・労働災害度数率0

・労働災害度数率:0.88

・ISO45001国際規格取得

・国内/海外全工場IS045001取得率100

・国内/海外全工場ISO45001取得率:87.5

・健康経営施策の推進
・多様な働き方を認める制度の確立
・自動化、設計、設備の標準化、AIなどの活用による業務負荷軽減

・子の看護休暇取得率2025年 100%

・子の看護休暇取得率:58.2%

・在宅勤務率2025年 30%

・在宅勤務率:18.9%

・ストレス反応偏差値55(評価B)

・ストレス反応偏差値:47.0(評価C)

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループの経営成績及び財政状態等に影響を及ぼす可能性のあるリスクは、以下のような事項があると考えております。また、以下に記載された項目以外のリスクが生じた場合においても、当社グループの経営成績及び財政状態等に重大な影響を及ぼす可能性があります。当社グループといたしましては、これらのリスクを認識し、リスク管理体制を整備した上で、リスクの未然回避及びリスク発生時の影響を最小限に抑えられるように努めております。

なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月26日)現在において当社グループが判断したものであり、当社グループの事業に関する全てのリスクを網羅したものではありません。

 

(1) 市場環境の変化について

当社グループは、主に自動車向け電装品メーカー、AV音響メーカー及び各種エレクトロニクス製品を製造するメーカーに対して、電子部品を供給することを主たる事業としております。

 連結売上高の過半数を車載関連市場向けが占めており、自動車関連製品、エレクトロニクス関連製品の需要動向は、いずれも世界の経済情勢に大きく影響を受けます。そのために、想定外の世界経済の悪化や自動車関連製品、エレクトロニクス関連製品市場の急激な変化によって当社グループ製品の需要が大幅に落ち込んだ場合は、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、売上高の第2の柱とすべくFA機器や通信機器等の非車載関連市場への販売強化を行っております。

 

(2) 為替変動について

当社グループは、電子部品の製造及び販売を世界各地に展開しており、当社と海外子会社並びに海外子会社間の取引は、米国ドル建て、ユーロ建て及びタイバーツ建てにて行っております。2024年3月期の連結売上高に占める海外売上高の割合は82.4%ですが、一方、海外生産比率も約87.1%となっております。

当社グループは、円高または円安が急激かつ長期に及んだ場合は、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、為替相場の変動リスクを軽減させるために、地産地消の推進、為替ヘッジ等の対策を講じております。

 

(3) 海外での事業展開について

当社グループは、グローバルな事業展開を積極的に推進しており、生産及び販売活動の多くを米国や欧州並びに中国その他アジア諸国にて展開しております。これらの海外市場への事業進出には、1)予期しない法律・環境等の規制又は税制の変更、2)不利な政治又は経済要因の発生、3)輸送遅延や電力停止などの社会インフラの未整備による混乱、4)政治変動、テロ行為、戦争、感染症の流行及びその他の社会的混乱等のリスクが常に内在されております。これらの事象が発生した場合は、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、海外展開にあたっては販売拠点、生産拠点ともにリスクを慎重に検討し、評価した上で判断しております。

 

(4) 量産拠点の集中について

当社グループは、茨城工場、フィリピン生産子会社及びベトナム生産子会社での複数拠点生産品を除いて、中国の上海生産子会社に生産が集中しております。何らかの原因でそれら生産拠点での操業が不可能になる不測の事態が生じた場合は、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、2016年9月に南通生産子会社を設立し、量産拠点の再構築を図っております。また、2025年稼動を目指して日本での第2量産拠点となる秋田に新工場を建設し、生産拠点の分散、地産地消、BCP対応を強化します。

 

 

(5) 価格競争について

当社グループが属している電子部品業界は、国内外において大手から中小まで様々な規模の同業者が存在する極めて競合色の強い業界であり、業界における価格競争は激化しております。販売価格の引下げ競争に巻き込まれた場合は、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、当社グループは、継続的な先行開発により「可動(フローティング)BtoBコネクタ(注)」等の独自技術の蓄積と新製品・新技術の開発を進め、顧客のTCO(Total Cost of Ownership)削減に貢献する製品の提案を行い、顧客価値の創造に取り組んでおります。

  (注)端子と端子のピッチ方向、ピッチ方向に対する垂直方向、篏合方向のすべて、またはいずれかに可動

     し、その篏合ずれを吸収するように設計したコネクタ。

 

(6) 製品の欠陥に係るリスクについて

当社グループは、国際標準規格である品質マネジメントシステムにより全ての製品を製造し、製品の欠陥、リコール等の発生を最小にする生産体制を取っており、製造物責任賠償に対する保険にも加入しております。しかし、大規模なリコールや製造物責任賠償につながるような製品の欠陥が発生した場合は、多額のコストや当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、車載を中心にお客様から高い信頼性を求められてきたノウハウを活かし、開発段階から出荷に至る全ての段階において細心の注意を払っております。

 

(7) 研究開発活動に係るリスクについて

当社グループの展開する市場では、技術革新とコスト競争について厳しい要求があり、新規製品を継続的に投入していく必要があります。技術の急速な進歩や顧客ニーズの変化により期待通りに新製品開発が進まない場合は、将来の成長と収益性を低下させ、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、当社グループでは、十分なマーケティング活動を行い、市場ニーズを的確に把握し、新技術や新製品開発、生産プロセス改革に必要な研究開発投資や設備投資を行っております。当社グループは、継続して新製品を開発できるものと考えております。

 

(8) 外部部品供給元への依存と原材料調達について

当社グループは、全ての主要原材料と一部部品の供給を外部業者に依存しております。これら外部業者とは安定供給のための協力関係を築いておりますが、需要の急激な変動に伴う供給不足や供給先からの供給遅延が起こった場合には、顧客への供給が不可能になる事や納期遅延を誘発する事により競争力を失うことがあります。また、原材料等の市場における需給関係の変化等により市況価格が急激に高騰した場合は、当社グループ製品の原価上昇を招き、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、原材料及び部品の市況の変化に対して、当社グループにおける内製化、グローバル調達による現地調達の推進等の原価低減に努めております。

 

(9) 事故や災害について

当社グループは、想定を超える大規模な災害が発生した場合は、停電又はその他事業運営の中断事象による影響を完全に防止又は軽減できる保証はなく、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。これに対して、地震を含めた防災対策を徹底しており、火災や風水害等による事故や災害による損害を防止するため、設備の点検、安全装置・消火設備の充実、各種の安全活動等を継続的に行っております。

 

 

(10) 重要な訴訟等に係るリスクについて

当社グループは、国内及び海外事業に関連して、訴訟、紛争、その他の法律的手続の対象となるリスクがあります。とりわけ、技術革新の激しい電子部品業界においては、知的財産権は重要な経営資源の一つであります。独自開発した技術等に関する特許申請、意匠登録等に基づき当社グループが保有する知的財産権が、第三者によって侵害や模倣された場合には、当社グループの事業活動に重大な影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは、第三者の知的財産権を侵害したとして損害賠償請求を受けた場合は、生産・販売活動が制約を受けることや損害賠償金等の支払いが発生し、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 当社グループは、特許権を含む知的財産権の管理と運営については、技術本部技術部技術管理課にて一元管理を行い、開発者や設計者と技術管理課の知的財産権担当者との間での情報共有及び知的財産権に関する問題提起やその解決について適宜対応がとれる体制を取っております。

 

 (11) 人材獲得に係るリスクについて

当社グループは、技術的変化及び競争関係が激しい電子部品業界に属しており、また海外売上高比率や生産に占める海外比率も高いため、多様な専門技術に精通した人材、グローバルでの経営戦略や組織運営といったマネジメント能力に優れた人材の確保、育成を継続的に推進していくことが重要となります。専門性の高い優秀な人材は限られていることから、優秀な人材を確保できない場合は、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性がありますが、当社グループは、事業の継続的発展のために、国内に加え海外でも採用を積極的に展開しております。

 

 (12) 情報セキュリティに係るリスクについて

当社グループは、事業活動を通して、お客様や取引先の個人情報及び機密情報を入手することがあり、営業上・技術上の機密情報も保有しております。

予想を超えるサイバー攻撃、不正アクセス、コンピューターウイルス侵入等により、万一これらの情報が流出した場合や重要データの破壊、改ざん、システム停止等が生じた場合には、当社グループの信用低下や業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

これに対して、当社グループでは、機密情報の管理方法を万全とするために「情報セキュリティ規程」の制定と情報セキュリティ委員会の設置を行い、機密情報管理体制の確立・徹底に努めております。また、役員及び従業員の情報セキュリティ意識の向上を目的に、eラーニング等の教育を定期的に実施しております。

なお、2018年5月施行のGDPR(EU一般データ保護規則)については、グローバルで該当個人情報の保護対策を強化しております。

 

(13) 新型コロナウイルスなどの感染症の世界的流行に係るリスクについて

新型コロナウイルスの世界的流行に対しては、2020年3月に本社内に社長及び執行役員を中心に構成した対策チームを発足し、また、各国や自治体による感染拡大防止政策に則り、従業員出勤時の体温測定、体調確認、マスク着用を徹底し、リモート会議、時差通勤、在宅勤務の推進などにより感染拡大防止に向けた取り組みを行いました。

今後も感染症の世界的流行に関して、感染状況や各国の政策により、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。生産活動については仮にロックダウン措置で稼動停止になった場合でも影響を最小限にすべく、BCP対応の見直しを2021年2月に行っており、在庫の増量、流動製品のスペア設備配置による生産設備のリードタイム短縮、流動製品の生産体制変更によるマルチ生産化の3つの取り組みを実施しております。

また、不測の事態が生じた場合の経営と雇用の安定化及び中長期での成長投資に備えて手許資金を確保すべく、グループ内における資金管理の最適化にも努めて参ります。具体的には、グループ会社間における資金の最適な配分や運転資金の最適化、設備投資効率の改善、経費支出の抑制などを実施して参ります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループ(当社及び連結子会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 

(1)経営成績

当連結会計年度における世界経済は、アメリカでは金融引き締めの影響を受けながらも、堅調な個人消費に支えられ成長が継続しましたが、中国での不動産市況の悪化等に伴う設備投資の低迷長期化や欧州における経済減速感等、世界経済全体としては力強さに欠ける状況が継続しました。

製造業全体では世界的な需要減を背景に主要生産国や地域で停滞感を示す一方で、当社グループの主要事業領域である自動車の生産・販売は、半導体等の部品不足が緩やかに解消したことにより回復傾向で推移したものの、年度後半において、中国顧客における生産調整、欧州でのEVへの補助金打ち切りなどを背景に減速感が見られました。

このような事業環境の中、当社グループにおいては、車載市場では、インフォテインメント分野での海外顧客との取引拡大や高速伝送対応の新製品の売上増加、xEV(EV、FCHV、PHV、HEV)需要を背景としたパワートレイン分野での増加があったものの、下期より一部地域において成長の減速感が出ました。また、コンシューマー市場での需要減少、インダストリアル市場での設備投資調整も継続しており、売上高は前期比4.5%増の552億7千1百万円に留まりました。

利益面では、為替影響、原材料価格の高騰を収益構造改善の取り組みにより吸収したものの、2024年4月から切り替えを実施した新ERPシステム関連費用や2025年稼働開始予定の秋田工場関連費用等の先行投資の固定費の増加に対し、計画した売上・操業度を確保できなかったことにより、営業利益は前期比14.5%減の59億3千6百万円、経常利益は前期比6.2%減の71億8千9百万円と減益になりましたが、親会社株主に帰属する当期純利益は為替差益により、前期比0.9%増の55億9千3百万円となりました。

  

セグメントの業績を示すと次のとおりであります。

〔日本〕

国内においては、車載市場は回復傾向にあるものの、コンシューマー市場とインダストリアル市場が落ち込み、売上高は前期比2.9%減の97億4千3百万円となりました。営業利益は2.2%減の36億2千6百万円となりました。

〔アジア〕

アジア地域においては、コンシューマー市場で減少したものの、車載市場がインフォテインメント分野を中心に伸長したことと、為替が円安に推移した結果、売上高は前期比3.7%増の292億4千1百万円となりました営業利益は6.8%増の45億9千5百万円となりました。

〔欧州〕

 欧州地域においては、車載市場でインフォテインメント分野を中心に増加したことと為替が円安に推移した結果、売上高は前期比15.2%増の96億5千2百万円となりました。営業利益は14.0%減の5億2千6百万円となりました。

〔北米〕

 北米地域においては為替が円安に推移した結果、売上高は前期比5.2%増の66億3千2百万円となりました。営業損失は6千9百万円(前期は営業利益3千7百万円)となりました。

 

 

 (2) 財政状態

当連結会計年度末の総資産は、先行投資に対し備えた現金及び預金の増加や、新ERP並びに秋田新工場建設等により、前連結会計年度末(2023年3月末)に比べ、143億6千4百万円増加し、968億5千6百万円となりました。主な増加要因は、現金及び預金80億5千1百万円の増加、固定資産44億6千5百万円の増加となりました。

負債は、秋田新工場建設資金として短期並びに長期借入金の増加等により、前連結会計年度末に比べ53億6千6百万円増加となりました。

純資産は、親会社株主に帰属する当期純利益による増加55億9千3百万円、配当による減少18億9千3百万円、為替換算調整勘定の増加50億5千万円等により前連結会計年度に比べ、89億9千7百万円増加し、770億1千6百万円となりました。

 

(3) キャッシュ・フロー

当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、運転資金の改善等により、法人税等の支払い増はありましたが、前期比11.4%増の129億3千4百万円の資金増加となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、秋田新工場並びに花巻工場建設に伴う有形固定資産取得、新ERPに伴う無形固定資産取得等により、90億8千9百万円の資金支出となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入金による調達及び株主配当金の支払い等により、23億1千3百万円の資金増加となりました。

この結果、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末に比べ80億5千1百万円増加し、266億9千2百万円となりました。

 

翌連結会計年度については、コネクタ生産設備等を中心に80億円の資本的支出を計画しており、その資金の調達源については、自己資金を想定しております。

 

(4) 生産、受注及び販売の実績

a. 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメント別に示すと、次のとおりであります。

 

区分

生産高(百万円)

前期比(%)

日本

5,366

105.1

アジア

36,145

103.5

欧州

北米

合計

41,511

103.7

 

(注) 1 金額は生産出荷高によっております。

 

b. 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメント別に示すと、次のとおりであります。

 

区分

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

日本

9,081

86.6

1,872

73.9

アジア

29,692

99.7

5,772

108.5

欧州

9,041

87.3

3,844

86.3

北米

6,675

99.8

967

104.6

合計

54,491

95.1

12,456

94.1

 

 

c. 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメント別に示すと、次のとおりであります。

 

区分

販売高(百万円)

前期比(%)

日本

9,743

97.1

アジア

29,241

103.7

欧州

9,652

115.2

北米

6,632

105.2

合計

55,271

104.5

 

(注) 1 販売実績の総販売実績に対する割合が100分の10以上の相手先はありません。

 

 

  (5) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表の作成にあたっては、資産、負債及び収益、費用の報告金額に影響を与える会計上の見積りを行う必要があります。経営者は、これらの見積りや仮定について、過去の実績等を勘案し合理的に判断しておりますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りや仮定と異なる場合があります。

当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針、会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しております。

 

  (6) 経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループでは、2024年5月に2027年3月期を最終年度とする中期経営計画を策定し、売上高、営業利益、営業利益率、親会社株主に帰属する当期純利益、EPS、ROE、ROIC、売上高研究開発費比率について目標を設定しております。なお、本中期経営計画に関しては、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (3)経営環境及び中長期的な会社の経営戦略」にも記載しております。

中期経営計画(2025年3月期~2027年3月期)における指標

 

2024年3月期

(実績)

 

2027年3月期

(目標)

売上高

553億円

 

650億円

営業利益

59億円

 

100億円

営業利益率

10.7%

 

15.4%超

親会社株主に帰属する当期純利益

56億円

75億円

EPS

237.75円

 

300円

ROE

7.8%

 

10.0%

ROIC

7.3%

 

10.0%

売上高研究開発費比率

2.4%

 

3.5%

 

※中期経営計画期間の為替レート設定は140円/ドル、155円/ユーロ、20円/人民元

(ただし2025年3月期は145円/ドル、160円/ユーロ、20円/人民元)

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループの研究開発活動は、豊かな価値を作り、社会貢献に努めるという経営理念のもとに重点市場である自動車機器、デジタル機器、インダストリアル機器に使用される製品及び新技術の開発を中心に取組んでおります。特にBtoBコネクタのうち、フローティングBtoBコネクタについては顧客の課題解決を目指し積極的に製品開発をしております。また、拠点においては、中国国内に展開する機器メーカーが相次いで現地での開発体制を積極的に整備するなか、当社は日本国内の設計開発部門の他に、上海に開設した技術センターにて技術強化を推進しております。その他の海外重要販売拠点では、技術スタッフの常駐化によるグローバル・エンジニアリング・ネットワークの構築を目指しており、今後も、欧米諸国と新興国への市場展開を考慮し、さらなる強化を進めて参ります。

 

最近の研究開発活動は次のとおりであります。

(1) モビリティ市場向け製品

自動運転の本格実用化に向けて統合ECU化によって制御が一元化される為、車両の安全性や効率性のパフォーマンスを向上させることができます。また、設計においても分散されていたECUが1つに集約されることにより、高速伝送信号ラインが増加していき、コネクタは更なる多極化へ進んでいきます。このような状況下で基板への省スペース化を図るために0.5㎜ピッチで300pinの高速伝送+電源付きハイブリッドコネクタの試作を開発し性能評価まで完了いたしました。

  また、高速伝送信号ではノイズが問題を引き起こす可能性がある為、高速伝送コネクタにフルシールドをしたBtoB試作開発も行いました。

  現在、お客様へサンプルを提供してお客様のセット基板で評価をしていただいております。

  その他、接触信頼性を強化した2点接点構造による樹脂レバータイプのAuto I-Lockコネクタ(注1)の量産を開始しました。

  (注1)FFCケーブルを挿入すると自動でロックがかかり、自動組立に適した弊社オリジナル製品

 

(2) インダストリアル市場向け製品

インダストリアル市場において産業用ロボットも今後普及していくと考えており、内部接続では高電流/高耐圧のコネクタが必要とされます。当社ではそこのニーズに対応するために30A/600Vの小型フローティングBtoBコネクタを開発しサンプル提供を行っており、現在量産に向けて準備しております。フローティング機構を設けることによりお客様での自動組立が容易となり、省スペース化に貢献していきます。極数は2~5、基板間は20~30㎜まで標準ラインナップとして準備をしてグローバル展開を行っていきます。

 

 

当連結会計年度における研究開発費の金額は1,339百万円で、セグメントごとの研究開発費は、日本は1,293百万円、アジアは45百万円であります。なお、当社のセグメントは生産・販売の管理体制を基礎とした地域別のセグメントから構成されており、研究開発活動の大部分を日本セグメントで行っているため、セグメントごとの研究開発活動の状況につきましては、記載を省略しております。