第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 経営方針

タムラグループは、コーポレートスローガンを「オンリーワン・カンパニーの実現を目指す」と掲げ、経営の基本方針を企業理念として以下のとおり定めています。

MISSION

私たちは、タムラグループの成長を支える全ての人々の幸せを育むため、世界のエレクトロニクス市場に高く評価される独自の製品・サービスをスピーディに提供してまいります。

VISION

① タムラグループは、世界的視野にたち、エレクトロニクス産業が求める事業を経営基盤とします。

② タムラグループは、市場本位をつらぬき、世界のお客様が求める技術を事業基盤とします。

③ タムラグループは、公正な視点で社員を評価し、努力によって成果をもたらす人を最も賞賛します。

④ タムラグループは、国際社会の一員として行動し、各国の法規制を順守し文化・慣習を尊重します。

⑤ タムラグループは、地球環境の保全に努め、資源の有効化と再資源化を推進します。

GUIDELINE

① 私たちは、パートナーシップを大切にする。

② 私たちは、革新する勇気を大切にする。

③ 私たちは、多彩な個性を大切にする。

④ 私たちは、社会的な責任を大切にする。

(2) 中長期の経営戦略

タムラグループでは、上述の経営方針に基づき、長期ビジョンと中期経営計画を策定し事業戦略を展開しています。

① 長期ビジョン

タムラグループが100周年を迎える2024年を最終年度とする第13次中期経営計画を策定するにあたり、長期ビジョンを見直しました。取締役も入り議論を重ね、創業の精神や企業理念を基盤とし、事業課題、環境・社会課題、ステークホルダー課題などを踏まえて、「世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー」を長期ビジョンに設定しました。第13次中期経営計画は、長期ビジョン実現のための第一歩です。

② 第13次中期経営計画(2022年4月1日~2025年3月31日)

第13次中期経営計画「Energize the Future 100」においては、世界的なカーボンニュートラルへの潮流を事業機会ととらえ、創業100周年とその先の力強い未来を創る変革を進めています。

世界に展開するタムラグループにとって、地球環境の変化、地政学的変化、技術の進化、人的資本の重大性増大など、大きな事業環境の変化が起こり続けています。その中で、機敏に機会をつかみ、リスクを低減することが、企業価値創出の根幹と考えています。第13次中期経営計画ではサステナビリティ戦略と事業戦略の統合をさらに深化させ、全社一体となって不確実な未来に立ち向かう施策を展開しています。

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a.事業戦略と財務目標

事業戦略は、①新製品・新事業創出とグローバル展開による成長戦略と、②収益および資産効率向上の二本柱で進めます。

まず、成長戦略においては、カーボンニュートラルに貢献する分野としてパワーエレクトロニクス、モビリティ、およびIoTの3分野に引き続き注力します。成長に向けて、新製品・新技術による売上比率を現在の一桁台から30%にすること、また、欧米市場向けの売上比率を10%台から20%超へ引き上げることを目標としています。事業部間の融合施策を進め、課題である電子部品事業の収益力を強化し、電子化学実装事業とともに当社を支える両輪となる事業に育てる計画です。

次に、事業収益・資産効率向上については、以下のとおり財務目標を掲げています。

■財務目標

 

2023年3月期

2024年3月期

2025年3月期

営業利益(億円)

30

50以上

60以上

営業利益率

3.2%

5%

6%

ROE

8%

 

■財務目標達成のためのガイドライン

 

2023年3月期

2024年3月期

2025年3月期

連結売上高(億円)

940

約1,000

1,000以上

事業別営業利益率

 

 

 

電子部品

1.5%

4%

5%

電子化学実装

8.7%

9%

10%

情報機器

4.2%

12%

15%

ROIC

6%

 

 第12次中期経営計画で苦戦した利益率の改善を早期に行い、業績を立て直すことを最優先とします。価格転嫁やコスト管理の徹底、成長戦略を通じた高付加価値品の拡大に加え、前中期経営計画で進めた生産改善の効果を実現し、収益性の改善を図っています。また、社内ではROICを指標として採用し、資産効率向上を進めています。

b.サステナビリティ戦略

さらに、これら事業戦略と両輪で進めるサステナビリティ戦略については、マテリアリティを軸に展開しています。マテリアリティは、ステークホルダーにとっての重要性とタムラグループにとっての重要性という二つの軸を基準に選定し、2021年5月に発表したものですが、中期経営計画の議論の過程でその項目を一部見直し、KPIと目標を設定しました。

サステナビリティの中でも重要視している、温室効果ガス削減については、2030年までに2013年対比で51%削減することとしています。第13次中期経営計画期間においては、それに向けて33%の削減を目標としています。その達成に向けて、自社工程の省エネによる電気使用量削減に取り組むとともに、太陽光発電設備の設置や再生エネルギーの調達にも力を入れています。

また、「人が憧れる会社」、「人が集まる会社」を目指し、働きがいの実現を図ります。人材戦略として、人権・安全教育の充実、心理的安全性プログラムの展開などを進め、グローバルに実施する従業員サーベイ(エンゲージメント調査)の結果を年3ポイントずつ向上させることを目標としています。日本では、グローバルなステークホルダーの期待に応えられる多様性を確保することを目的に、管理職における女性比率、外国人比率、および中途採用比率を、2025年3月期にそれぞれ10%、5%、および50%とすることを目標としています。

c.中期経営計画の進捗

中期経営計画初年度である2023年3月期は、堅調な需要、価格改定や為替の影響により、計画を上回る好調な滑り出しとなりました。しかし、2024年3月期は、中国市場の減速や巣ごもり需要の一巡などの影響で、需要が低調に推移したことに加え、基幹システム更新費用の計上などにより、営業利益および営業利益率が中期経営計画に対してわずかに未達となりました。さらに2025年3月期においても、上期において不透明な事業環境が継続すると予想されることから、財務目標の達成は厳しい見通しとなっています。

 

一方で、中期経営計画に掲げた、収益性の改善や資産効率向上に向けた各種施策の成果は利益率の改善として徐々に顕在化しています。また、カーボンニュートラルに貢献する事業成長についても着実に進展しています。北米市場向けの大型トランス・リアクタの堅調な需要に対応すべく、メキシコ工場の生産能力を1.5倍に増強し、2024年3月に本格稼働を開始しました。北米では今後もデータセンター関連を中心とした需要が活況を呈すると見込まれるため、メキシコ工場では再度生産能力を増強し、2025年3月期後半に稼働を開始する計画です。これらの施策により、欧米売上比率20%超えの目標は、最終年度を待たずに達成しました。

さらに、将来のパワーエレクトロニクスを支えるワイドバンドギャップ半導体に対応した、素材から差別化した新しい磁性受動部品の研究開発を推進するため、国立大学法人東北大学産学連携先端材料研究開発センターに「株式会社タムラ製作所 仙台アドバンスドラボ」を開設しました。この研究室では、磁性受動部品に用いる材料の研究開発や新材料を使用した試作部品の評価を行い、次世代の磁性受動部品の事業化を目指しています。

■財務目標(2024年3月期)

 

目標

実績

営業利益(億円)

50以上

49

営業利益率

5.0%

4.6%

ROE

4.1%

 

■財務目標達成のためのガイドライン(2024年3月期)

 

目標

実績

連結売上高(億円)

1,000

1,066

事業別営業利益率

 

 

電子部品

4%

4.1%

電子化学実装

9%

7.9%

情報機器

12%

15.7%

ROIC

3.8%

 

サステナビリティ戦略についても、働きがいの実現や脱炭素社会の実現に向けた施策を着実に実行し、目標に向けて着実に進展しています。温室効果ガス削減については、国内主要5拠点(本社、坂戸、入間、狭山、児玉)の再生エネルギー使用率100%を引き続き達成し、目標に向けて大きく前進しています。また、働きがい改革としては、社内有志が参加する心理的安全性プログラムなどを推進しています。その結果、従業員サーベイ(エンゲージメント調査)の結果は、目標を大きく上回り、前期比で7ポイント改善しました。

各KPIの進捗は以下のとおりです。

マテリアリティ

2025年3月期 目標

2024年3月期 実績

①持続的な事業成長

新製品・新市場向け売上比率: 30%

22%

②製品品質の向上

不良損金率:15%削減(第12次中期経営計画期間平均対比)

44%増加

③適正なサプライチェーン

主要調達先SAQ実施率:100%

SAQ実施中

④コンプライアンス

コンプライアンス研修実施率:100%

94%

⑤働きがいの実現

①グローバル従業員サーベイ実施ポイント向上:3pt/年

②日本多様性:女性・外国人・中途採用管理職比率:10%、5%、50%

①7pt改善

②9.9%、0.6%、42.2%(2024年4月1日時点)

⑥地域社会との共生

社会貢献費:経常利益の1%

1.1%

⑦地球環境保全・脱炭素社会の実現への貢献

①サステナビリティ貢献製品比率:27%

②温室効果ガス(スコープ1&2)削減:33%以上(2013年対比:各工場の状況に応じ基準値を調整済)

①24%

②39%

⑧情報開示の充実

①統合報告書発行

②TCFD準拠情報開示

改善の上発行・開示

 

創業100周年を迎える2025年3月期は、第13次中期経営計画の最終年度でもあります。事業環境は決して楽観できるものではありませんが、目標に向けて、創業100周年とその先の力強い未来を創る変革を引き続き推し進め、持続的な成長と企業価値の向上を目指します。

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

タムラグループでは、企業理念や創業の精神に基づき、長期ビジョン「2050ありたい姿」を定め、「世界のエレクトロニクス市場に高く評価される脱炭素社会実現のリーディングカンパニー」となることを目指しています。この実現に向けた第一歩として、2022年4月から2025年3月までの3カ年を対象とする第13次中期経営計画を策定しています。本中期経営計画においては、事業戦略とサステナビリティ戦略を統合して取組みを推進しています。

(1) ガバナンス

タムラグループでは、取締役会が、サステナビリティに関する基本方針・戦略の決定とその執行の監督を行い、社長を議長とする執行役員会以下の執行部門で具体的施策を推進しています。

気候変動や人的資本をはじめとするサステナビリティ課題については、マテリアリティを軸にサステナビリティ戦略を定め、事業戦略と統合し、一体となった施策を展開しています。また、サステナビリティ課題に取り組むことによる機会と取り組まないことによるリスクを特定し、ステークホルダーにとっての重要性とタムラグループにとっての重要性という二つの基準を軸に、マテリアリティを設定しています。

2024年4月に、執行役員会は、効率的・効果的な施策推進のため、その下部機関としてサステナビリティ委員会を設置しました。サステナビリティ委員会は、社長、事業担当執行役員およびサステナビリティ主管部門執行役員などで構成されています。委員会を年に2回開催し、サステナビリティ戦略の進捗を管理するとともに関連議題を審議の上、執行役員会に報告します。

また、リスク管理委員会を執行役員会の下部機関として設置し、グループリスクマネジメント(ERM)体制を構築しています。リスクマネジメントの体制については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください。

※ 本項は2024年6月26日時点の情報を記載しています。

ガバナンス体制図(2024年4月~)

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(2)戦略

① 気候変動

タムラグループは、気候変動への対応を重要課題と捉え、2022年6月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しました。ステークホルダーとの建設的なコミュニケーションを推進するため、TCFDのフレームワークに基づき、情報開示に取り組んでいます。

タムラグループとして認識している、気候変動に関するリスク(移行リスクおよび物理的リスク)と機会は以下のとおりです。

移行リスクとしては、炭素税や温室効果ガス排出規制強化への対応に伴うコストの増加、石油化学製品、金属鉱物資源などの原材料価格の上昇、低炭素原材料の調達や自社の製造プロセスの低炭素化に向けた設備投資によるコストの増加等が想定されます。物理的リスクとしては、気候変動に起因する自然災害激甚化や気候パターンの変化に伴う事業所の被災、サプライチェーンの寸断による営業機会損失等が想定されます。これらのリスクに対しては、BCM(事業継続マネジメント)の推進と、損失が発生またはその恐れがある場合に速やかに経営陣に対し情報を伝達するアラームエスカレーションシステムの運用により対応しています。

一方、機会としては、太陽光発電、風力発電などの再生可能エネルギー発電施設の増加、化石燃料使用から電力使用への切替えやIoT推進などに伴う電力需要の増加、新興国の発展などにより、事業機会が増大すると認識しており、この機会を最大化するために、タムラグループの主力事業であり、カーボンニュートラルに貢献する事業成長分野でもあるパワーエレクトロニクス、モビリティ、およびIoTの3分野に注力する取組みを進めています。

TCFDに基づく情報開示の詳細は、当社ウェブサイトをご参照ください。

https://www.tamura-ss.co.jp/jp/sustainability/e_report/tcfd.html

 

② 人的資本

タムラグループでは、事業目標の推進や、サステナブルな事業の実現のためにはそれを担う人材こそが重要であると考えています。そのため、「人が憧れる会社」「人が集まる会社」を目指して、人材戦略を進めています。

第13次中期経営計画においては、グローバルに進める働きがい改革と、日本における人材の多様性確保を重点施策としています。働きがい改革では、働きがいをもって働く人材が増えることで会社が活性化し、戦略を推進することができるという考えのもと、働きがいを実現するための「土壌」である心理的安全性を中心に取組みを行っています。また、日本は海外拠点に比べ相対的に多様性が低いため、グローバルなステークホルダーの期待に応えられる企業を目指し、女性、外国人、および中途採用者の管理職登用を推進しています。

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(3)リスク管理

タムラグループは、直接または間接的に経営または事業運営に影響を及ぼす可能性のあるリスクに対して迅速かつ的確に対処するため、リスク管理・危機管理規程、内部通報規程、情報管理規程などの社内規程を整備し、それに基づいたグループリスクマネジメント(ERM)を行っています。気候変動および人的資本に関するリスクもその一環として、上述のガバナンス体制のもとで管理しています。

 

(4)指標及び目標

サステナビリティ戦略については、8項目のマテリアリティを軸に、それぞれの項目について管理指標(KPI)および目標値を設定し施策を展開しています。マテリアリティの8項目、KPI、目標、2023年度の実績については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。

① 気候変動

タムラグループは、2050年までのカーボンニュートラル達成を見据え、2030年度までにスコープ1(*1)およびスコープ2(*2)の温室効果ガス排出量を2013年度対比(*3)で51%削減することを目指しています。第13次中期経営計画においては、最終年度(2024年度)までに33%削減することを目標としています。

この目標に向かって、2023年度は自社工程の省エネによる電気使用量削減に取り組むとともに、太陽光発電設備の設置や再生可能エネルギーの調達などを推進し、2023年度の削減目標(30%)を大きく上回りました。

温室効果ガス排出量削減目標と実績(2013年度対比)

項目

2030年度目標

中期計画最終年度2024年度目標

2023年度実績

削減率

51%

33%

39%

 

*1:スコープ1(直接排出量):自社の工場や事務所、車両等から排出される温室効果ガス排出量

*2:スコープ2(間接排出量):他社から供給された電気等を自社が使用したことによる温室効果ガス排出量

*3:各工場の状況に応じ、2013年基準値を調整しています。

② 人的資本

第13次中期経営計画の目標としては、働きがい改革の効果を測る指標として従業員エンゲージメント調査のスコア向上(+3ポイント/年)と、人材多様性の進捗を測る日本独自の指標として、中核人材である管理職の女性、外国人、および中途採用者の比率をそれぞれ10%、5%、および50%と定めています。2023年度は、グローバルでのエンゲージメント調査のスコアは、2022年度から7ポイント向上しました。多様性については、女性、外国人、および中途採用者の管理職に占める割合(2024年4月1日時点)はそれぞれ9.9%、0.6%、および42.2%となり、外国人比率について課題を残すものの目標に向けて前進しました。

働きがい改革効果

項目(グローバル)

中期計画目標

2023年度実績

従業員エンゲージメントスコア

ポイント向上/年

+3ポイント/年

+7ポイント

人材多様性

項目(日本国内)

中期計画最終年度

2024年度目標

2023年度実績

(2024年4月1日時点)

管理職の女性比率

10

9.9

管理職の外国人比率

5

0.6

管理職の中途採用者比率

50

42.2

 

3【事業等のリスク】

タムラグループは、持続的な成長と企業価値の向上を目指し、経営成績、財務状況などに影響を及ぼす可能性のあるリスクに適切に対応すべく、グループリスクマネジメント(ERM)体制を整備しています。また、その一環として、リスク管理・危機管理規程の制定に加え、取締役会の監督のもと執行役員会を中心にリスクへの対応方針を決定し、さらに執行役員会をサポートし、そのマネジメント活動を推進するために、リスク管理委員会を設置しています。リスク管理委員会は、代表取締役社長を委員長とし、事業担当執行役員などで構成されています。リスクマネジメントのプロセスは以下の表に示すとおりです。

グループリスクマネジメント(ERM)プロセス

ステップ

担当

内容

リスクアセスメント(年1回)

リスク管理委員会

タムラグループを取り巻く潜在リスクを抽出し、発生可能性と影響度、現状対応度の3つの視点で評価し、優先して取り組むべきリスク、部門横断的に対応が必要なリスクを、重要リスク案として特定する。リスクオーナーを決定し、対策案を策定する。

重要リスク案と対策案の検討

執行役員会

リスク管理委員会で特定した重要リスク案とその対策案を審議し、取締役会に上程する。

承認

取締役会

重要リスクとその対策を承認する。

対策実施

執行役員会

執行部門

執行役員会から執行部門に対し、対策実行を指示し、執行部門で実行する。

進捗確認(年2回)

リスク管理委員会

執行部門の対策進捗状況を確認し、執行役員会に報告する。

進捗確認・是正

執行役員会

執行部門の対策進捗を確認し、必要に応じ是正対策を指示する。結果を取締役会に報告する。

進捗確認

取締役会

リスクマネジメントの進捗を監督する。

 

また、リスクが顕在化した場合またはその恐れがある場合に、経営陣に対し迅速に情報を伝達し、対応する仕組みとして、アラームエスカレーションシステムをグループで運用しています。特に、重大な危機が発生した場合には、危機管理対策本部を設置し、代表取締役社長が直接指揮を執るなど、グループに対する損失などを最小限にとどめる体制を構築しています。

タムラグループのリスクには以下のようなものがあります。なお、文中の将来に関する事項は当連結会計年度末において、当社が判断したものです。事業などのリスクはこれらに限られるものではありません。関連する記述は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③企業統治に関するその他の事項 a.会社の機関の内容および内部統制システムの整備の状況」をご参照ください。

(1) 事業環境に関するリスク

タムラグループは、カーボンニュートラルに貢献する成長戦略を進めており、パワーエレクトロニクス、モビリティ、IoTの3分野に注力しています。特にモビリティ分野は、電子部品・電子化学材料・実装装置という幅広い製品が関わり、タムラグループでは中長期的な成長を期待して開発投資や設備投資を進めてきました。しかし、当該分野は各国の景況、補助金政策の変動に加え、最終顧客である自動車メーカーの販売戦略や競争力の影響を受けます。また、当社が事業を展開するそれ以外の分野においても経済環境や各国政策などの動向が事業に影響します。このような事業環境の変動は、タムラグループ製品の需要に変化をもたらす可能性があり、その結果タムラグループ製品の需要拡大が進まない場合には、設備投資の回収が遅れるなど、タムラグループの業績や財務状況に影響を及ぼす可能性があります。タムラグループでは、市場のニーズを常に見極め、時代の変化を先取りした製品・サービスを提供することで、リスクの回避と成長戦略の推進に努めています。

(2) 素材価格に関するリスク

電子部品関連事業における銅や鉄、電子化学実装関連事業における錫や石油化学製品などの素材価格の変動は、利益に対して影響を与えるリスクがあります。主要な素材については、定期的な相場連動による価格改定により価格変動の影響を吸収できるように対策していますが、素材価格が急激に変動し価格改定が追い付かないような場合は、企業収益を圧迫する可能性があります。タムラグループでは、価格改定に加えて、設計変更による材料比率の低減や代替部材の開発、予約購入によるリスクヘッジなどの手段なども講じて、素材価格の変動による影響の低減を総合的に進めています。

 

(3) 海外展開におけるリスク

タムラグループは、中国に多くの生産・販売拠点を有しています。競争力のある製品の製造と中国市場の展開のためにその重要性は変わりませんが、世界の経済圏の分断が進む中、各国の政策動向によっては事業活動に困難が生じる可能性があります。タムラグループは中国の他にも、欧米やアジアにも拠点を配しており、地産地消をより強化して、地域毎の対応力を高める取組みを進めています。

(4) 自然災害をはじめとする緊急事態に対するリスク

タムラグループの本社所在地は東京にあり、日本国内では埼玉県および東北地方に製造拠点を有しています。日本の生産高はグループ全体の3割程度ですが、電子化学事業では、日本の製造事業所が生産した材料を用いて生産活動を行う海外拠点もあり、当該地域で大地震などの自然災害が発生した場合には、建物や機械設備、棚卸資産の被害に加え、日本のみならず海外拠点の生産活動に影響を及ぼす可能性があります。また、タムラグループは、日本の他にも、中国を含むアジアや欧米などの世界各地で事業活動を行っており、各地域で生じる可能性のある様々な自然災害や感染症のほか、政治的要因や経済的要因による社会的混乱などにより、事業活動の停止や遅延が生じる可能性があります。タムラグループでは、このようなリスクを想定し、緊急事態対策構築ガイドラインを整備して、グローバルに販売・生産体制を連携し、事業継続できるように対策しています。また、緊急事態に備えた事前準備計画の策定、緊急事態発生時の出張者を含めた社員安否確認システムの構築と初動対応計画の策定、事業復旧計画の策定などの取組みを行っています。

(5) 製品補償に関するリスク

大規模な製品補償や製造物責任賠償につながるような製品の欠陥は、会社の評価に重大な影響を与え、業績と財務状況に悪影響を及ぼす可能性があります。対策として、製造物責任賠償保険に加入していますが、保険で賠償額を十分にカバーできる保証はありません。これに対して、タムラグループでは、品質方針の周知徹底による意識の改革、製品不具合再発防止策の強化、工場監査チェックシートの改訂、タムラグループ内における品質指標の標準化、国際的な品質マネジメント規格の技法を活用した品質保証プロセスの改善などにより、品質を強化する取組みを進めています。

(6) 知的財産権に関するリスク

タムラグループは、独自に開発した設計・製造工程に関する技術および製品などの特許権やその他の知的財産権を所有しています。これら知的財産保護のための様々な取組みを行っていますが、完全な保護は難しく、想定している効果を得られない可能性があります。また、タムラグループは、第三者の知的財産権を侵害しないよう留意し、調査を行っていますが、全ての知的財産権を完全に調査完了することは時間・コスト・技術的観点を考慮すると困難であり、さらに、特許権利者が自己の知的財産権をどのように解釈し、どの範囲まで権利行使手続きを行うかを予想することは極めて困難です。万一、タムラグループの製品が第三者の知的財産権に近似する場合には、当該第三者より損害賠償請求、使用差し止めなどの訴えを起こされる可能性があり、その結果、和解やライセンス契約の締結、または多額の損害賠償金の支払いが必要となる可能性や、タムラグループの製品やサービスの一部の製造販売などができなくなる可能性があります。

(7) 情報セキュリティに関するリスク

タムラグループに対し、サイバー攻撃やコンピュータウイルスの侵入などがあった場合には、機密情報の外部流出、身代金目的でのデータ暗号化などのリスクが顕在化し、その対応費用の増加や、信用低下による売上減少などにより、タムラグループの業績および財務状況に影響を及ぼす可能性があります。これに対して、タムラグループは、機密情報の適切な保護および管理のために、情報管理に関する規程を定め、情報に関するリスクマネジメントに取り組んでいます。サイバー攻撃や情報漏洩などに備えたネットワークへのセキュリティ対策、データへのアクセス制御や外部記憶装置の使用制限などの技術的安全管理措置、不正な侵入の防止を目的としたIDカード認証システムの導入などの物理的安全管理措置および、従業員に対する適正な情報の取扱に関する教育などの対策を情報セキュリティにおける重点施策として取り組んでいます。

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

① 財政状態及び経営成績の状況

1) 財政状態

当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ30億5千6百万円増加し、1,148億4千3百万円となりました。流動資産は12億7千1百万円増加し、固定資産は17億8千4百万円増加しています。これは主に、流動資産は現金及び預金の増加、固定資産は株式市況の影響および関係会社への出資による投資有価証券の増加によります。

当連結会計年度末の負債の合計は、前連結会計年度末に比べ18億2千2百万円減少し、570億4千6百万円となりました。これは主に、借入金の減少によります。

有利子負債合計(短期借入金・1年内返済予定の長期借入金・短期リース債務・長期借入金および長期リース債務の合計額)は14億1千3百万円減少し、338億9千9百万円となりました。

当連結会計年度末の純資産は、前連結会計年度末に比べ48億7千8百万円増加し、577億9千6百万円となりました。これは主に、利益剰余金が14億1千8百万円増加、円安を受け為替換算調整勘定が19億1千4百万円増加したことによります。この結果、自己資本比率は50.10%となりました。

(自己資本比率は、純資産より新株予約権・非支配株主持分を控除して計算した比率を用いています。)

2) 経営成績

当連結会計年度(2023年4月1日~2024年3月31日)における世界経済は、地政学的リスクの高まりによる不透明感が継続し中国や欧州では景気の停滞が続きましたが、北米市場は底堅く推移しました。当社グループの事業に関わるエレクトロニクス市場では、半導体不足が緩和され自動車関連などの生産活動は回復基調で推移したものの、中国市場の減速や巣ごもり需要の一巡により、家電や産業機器関連の需要は低調に推移しました。

その結果、当社グループの当連結会計年度の売上高は、1,066億2千2百万円(前期比1.3%減)とわずかに減少しました。しかしながら、営業利益は、基幹システム更新費用などにより経費が増加したものの、電子部品関連事業の売上構成の改善や情報機器関連事業の増収などに加え円安効果もあり49億4千万円(同2.3%増)と増加し、営業利益率は前期並みの4.6%となりました。経常利益は、前期の為替差損に対し今期は為替差益が計上されたことなどにより、49億5千6百万円(同14.5%増)と増加しました。親会社株主に帰属する当期純利益も、第2四半期に英国子会社の年金バイアウトに伴う特別損失を計上したものの、22億4千万円(同9.4%増)と増加しました。

セグメントの業績は、次のとおりです。

なお、売上高はセグメント間の内部売上高を含めており、セグメント利益はセグメント間取引消去及び本社部門負担の未来開発研究費用控除前の営業利益と調整を行っています。

(電子部品関連事業)

巣ごもり需要の一巡や中国市場の減速を背景に、主要顧客の在庫調整の影響が続き、電動工具向けチャージャ、エアコン用リアクタ、および産業機械向けトランス・リアクタは当連結会計年度を通して低調に推移しました。一方、半導体不足の緩和に伴い、車載向け昇圧リアクタや自動販売機向けLED製品の売上が伸長しました。米国では、データセンター向け大型トランス・リアクタが堅調に推移しました。

その結果、売上高は725億3千5百万円(前期比0.6%減)と減収ながら、売上構成の改善によりセグメント利益は29億5千9百万円(同12.0%増)と、増益となりました。

(電子化学実装関連事業)

電子化学事業では、車載向け需要は回復基調で推移しましたが、中国市場の停滞や情報機器向けの需要減速により、ソルダーペーストおよびソルダーレジストの売上は前期を下回りました。また、半導体需要の減速により、半導体用ソルダーペーストは軟調に推移しました。実装装置事業では、中国における設備投資抑制の影響を受けたものの、日系企業への拡販や保守サービス活動の強化により、前期並みの売上を確保しました。

その結果、売上高は312億4千4百万円(前期比4.6%減)、セグメント利益は24億6千3百万円(同6.2%減)と、減収減益となりました。

(情報機器関連事業)

放送局の更新需要に対して、IP対応の次世代音声卓の売上が本格化したことにより、売上・利益ともに大きく伸長しました。

その結果、売上高は30億1千6百万円(前期比23.4%増)、セグメント利益は4億7千4百万円(前期は6百万円のセグメント損失)と、増収および黒字転換しました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末の現金及び現金同等物(以下「資金」という)につきましては、前連結会計年度末に比べ33億7千2百万円増加し、169億9千2百万円となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益が40億1千5百万円、減価償却費が39億4千万円、棚卸資産の減少が29億1千5百万円となったことなどにより、95億5百万円の資金収入となりました。また、前連結会計年度末と比べ、営業活動によるキャッシュ・フローは、73億2千4百万円増加しました。これは、売上債権および棚卸資産が増加から減少へ転じたことなどによります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、日本および中国における生産設備を中心とした有形固定資産の取得による支出が29億9千3百万円となったことなどにより、26億6千7百万円の資金支出となりました。また、前連結会計年度末と比べ、投資活動によるキャッシュ・フローは、2千5百万円減少(資金支出の増加)しました。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、短期運転資金を返済したことなどにより、40億1千2百万円の資金支出となりました。また、前連結会計年度末と比べ、財務活動によるキャッシュ・フローは、46億4百万円減少(資金収入から資金支出へ転換)しました。これは、短期借入金が増加から減少へ転じたことなどによります。

③ 生産、受注及び販売の実績

1) 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

電子部品関連事業

69,140

95.2

電子化学実装関連事業

31,129

94.9

情報機器関連事業

3,317

131.8

報告セグメント計

103,587

96.0

合計

103,587

96.0

(注)1. セグメント間取引については、相殺消去しています。

2. 金額は、販売価格によっています。

2) 受注実績

当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

電子部品関連事業

56,714

72.0

47,097

74.9

電子化学実装関連事業

30,994

93.6

9,430

99.0

情報機器関連事業

1,485

55.0

1,957

56.3

報告セグメント計

89,193

77.8

58,485

77.0

合計

89,193

77.8

58,485

77.0

(注) セグメント間取引については、相殺消去しています。

 

3) 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

電子部品関連事業

72,532

99.4

電子化学実装関連事業

31,086

95.2

情報機器関連事業

3,004

125.5

報告セグメント計

106,622

98.7

合計

106,622

98.7

(注)1. セグメント間取引については、相殺消去しています。

2. 最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績および当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりです。

相手先

前連結会計年度

(自  2022年4月 1日

至  2023年3月31日)

当連結会計年度

(自  2023年4月 1日

至  2024年3月31日)

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

牧田(昆山)有限公司

5,850

5.4

株式会社マキタ

2,043

1.9

マキタ EU S.R.L.

1,418

1.3

合計

9,312

8.6

当連結会計年度については、当該割合が100分の10以上の相手先がないため記載していません。

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

当連結会計年度は、売上高は1,066億2千2百万円、営業利益は49億4千万円、営業利益率は4.6%となりました。売上高は、中国市場の減速や、家電市場および産業機器関連市場の需要が低調に推移したことにより、前年度を下回りました。営業利益は、電子部品関連事業の売上構成の改善などに加え円安の追い風もあり増加したものの、中期計画2年目の目標である営業利益50億円・営業利益率5.0%には届きませんでした。

各事業セグメント別で見ると、それぞれの事業課題が顕在化しています。

セグメントごとの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。

(電子部品関連事業)

電子部品関連事業は、主要顧客における在庫調整の影響を受け、売上高は725億3千5百万円と前年度を下回りました。しかしながら、売上構成の改善などでセグメント利益は29億5千9百万円となり、セグメント利益率は4.1%と改善しました。

電動工具向けチャージャ、エアコン用リアクタなど主力製品における顧客の在庫調整が続いたなか、大型トランス・リアクタは、米国データセンター向け需要が活況なことから売上が拡大しました。生成AIの広がりから、米国データセンター向け需要は引き続き堅調に推移する見込みです。拡大する受注に対応するため、米国向けの当該製品を生産するメキシコ工場の生産能力を増強します。データセンター関連需要は世界で拡大していくことが見込まれるため、世界8拠点で大型トランス・リアクタを生産できる当社の強みを活かし、各地域での参入を目指します。

大型トランス・リアクタに加え、パワーエレクトロニクス向け製品として、パワー半導体をインバータの仕様に合わせて最適に動作させるゲートドライバモジュール、インバータの動作を制御するための電流を検知する電流センサを製造・販売しています。これらは、パワーエレクトロニクスシステムの特性を決定する主要部品です。主要部品をトータルで提供できる強みを活かし、特に欧米において、電鉄などのモビリティ市場、発電や送配電システムなどのエネルギー市場、工場ロボットなどの産業機器市場を中心にトータルソリューションを顧客に提案し、戦略市場と位置付ける欧米市場のプレゼンス拡大を図ります。

(電子化学実装関連事業)

電子化学実装関連事業は、従来から収益性が高く、当社グループの利益を牽引してきましたが、当連結会計年度のセグメント利益は、電子部品関連事業に及ばない24億6千3百万円、セグメント利益率は当事業セグメントとしては低水準の7.9%という結果に終わりました。

売上や生産面では、電子化学事業は中国市場の停滞や半導体関連の市場停滞が収益悪化に影響しました。実装装置事業は、中国市場における顧客の投資抑制の影響を受けました。

こうした状況に左右されず、本質的な収益性の改善を図るためには、当事業においても付加価値の高い新製品・新市場への展開が必須と認識しています。将来的に市場拡大が見込まれるパワー半導体向けの高耐熱接合材の開発や、自動車の電動化に向けた車載用ソルダーペースト・ソルダーレジストの開発、環境負荷の低減に資する省エネタイプのリフロー装置の開発などを確実に推進し、収益性の改善につなげていきます。

(情報機器関連事業)

当事業の主力市場である放送業界において、当連結会計年度は放送局の大口の更新需要があり、売上高は30億1千6百万円、セグメント利益は4億7千4百万円と、売上が伸長し黒字転換しました。更新需要は2025年3月期も継続すると見込まれており、着実な納入により売上・利益を確保することを課題として認識しています。

② 資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループは、設備投資およびその他の事業資金については、自らの事業活動により獲得した内部資金で対応することを基本方針としています。しかし、成長投資や一時的な運転資金の充足のために資金需要が生ずる場合には、時々の金融市場の状況を踏まえた適切な手段により外部からも調達できるよう多様化を図っており、現時点においては銀行からの借入を実施しています。不測の事態に備え、機動的な短期運転資金としてコミットメントライン契約を維持しており、手許流動性を高められるよう対応しています。

中期経営計画においては、生産設備の増強や更新を引き続き進めてまいります。自己資本の他、ファイナンス・リースや銀行借入の利用を予定しています。

③ 重要な会計上の見積り方針及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

6【研究開発活動】

当社グループは、「オンリーワン・カンパニーの実現」をスローガンに、タムラならではの「オンリーワン技術」で市場ニーズに応える製品づくりを進めています。

当連結会計年度は、各事業において中期経営計画で掲げる「パワーエレクトロニクス」・「モビリティ」・「IoT」という3つの成長市場に向けた製品開発を進めると共に、既存の事業部門の枠を越えた全社未来開発を推進しました。当連結会計年度における各セグメント別の研究開発活動は、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

電子部品関連事業

54

電子化学実装関連事業

314

情報機器関連事業

55

報告セグメント計

424

全社(共通) (注)

363

合計

788

(注) 「全社(共通)」の区分は、各セグメントに配分できない未来開発研究費用です。

 

① 電子部品関連事業

パワーエレクトロニクスとモビリティ関連において、市場拡大が期待される製品の開発を強化しました。

主な研究開発内容と開発成果は次のとおりです。

・大電力パワースイッチング半導体の駆動に使用するゲートドライバモジュールの開発を進めています。IGBT、SiC-MOSFETのどちらにも対応可能で、機器の設計が大幅に簡素化されます。次世代パワー半導体での使用を想定した、高耐圧・高周波対応モデルの開発を進めています。

・電流センサは、省エネ・創エネ・蓄エネなどの場面で使用されることを想定して開発を進めています。電流レンジ・精度レンジなどのラインナップを充実させました。

・世界的なEV市場の拡大に向けて、充電用トランス・コイル(車載用・定置用)の開発を進めました。

研究開発費用は、5千4百万円です。

② 電子化学実装関連事業

パワーエレクトロニクス・モビリティ・IoTの各領域に対して、電子化学材料から実装装置までの幅広い分野で、技術開発・製品開発を推進しました。

主な研究開発内容と開発成果は次のとおりです。

・パワー半導体チップ接合や基板下接合用に、新たな高耐熱接合材の開発を進めています。SiC、GaN、酸化ガリウムなど、高性能化が期待される次世代パワー半導体での適用を目指しています。

・車載機器用の高耐熱高信頼ソルダーレジストの開発を進めています。「DSR-2200ACRシリーズ」は、次世代車載基板に要求される過酷環境下での耐塗膜クラック性、耐熱性、絶縁信頼性、密着性などの長期信頼性に優れている製品です。

・リフロー装置は、更なる省エネ化、高速段取り替えや予防予知機能などに関して開発を進めています。

研究開発費用は、3億1千4百万円です。

③ 情報機器関連事業

ネットワーク化や多様化する情報サービスのニーズに対応した製品開発を推進しました。

主な研究開発内容と開発成果は次のとおりです。

・フルIP対応音声調整卓「NTXシリーズ」を開発しました。NTシリーズで培った、システム内の電源、伝送経路、同期信号の2重化などの信頼性を継承し、信号処理部の集約化を図ったモデルです。音声通信には、ST-2110を採用しIP化を実現しました。信号処理部(X-CORE)の冗長構成、信頼性を確保。PTPマスターを持たないシステムへ対応できるよう独自の音声同期モードに対応します。

・「NT MATRIX」は、DSPエンジンを搭載し、純粋な音声信号分配、PCからルーティングマトリックスだけではなくミックスおよび信号処理も可能な汎用オーディオインターフェースユニットです。国際放送機器展2023では、新たに開発したリモートフェーダー、スイッチパネルとの組み合わせによるOTC(One Touch Controller)システムおよび直感的な操作でカスタマイズが可能なGUIソフトウェア「Custom UI」を展示しました。

研究開発費用は、5千5百万円です。

④ 未来開発関連事業

当社創業100周年とその先を支える新製品新市場の創出に向けて。事業部横断による研究開発を進めています。カーボンニュートラル社会の実現に向け、ワイドバンドギャップパワー半導体が期待されていますが、その性能を十分に発揮するためには、トランス・リアクタなどの磁性部品や、パワーエレクトロニクス回路の技術進化が必要不可欠です。特に、当社が保有する素材技術に着目し、独自のコア技術の強みを生かすことで、高周波化や大電流化が進む将来のエレクトロニクス市場において期待される新製品の開発を産学共同で進めています。

研究開発費用は、3億6千3百万円です。