第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針

 当社グループは、下記の企業理念を経営の基本方針として、常にお客様に魅力ある商品・サービスを提供して持続的な成長を図るとともに、ステークホルダーの期待に応え、信頼される企業集団を目指しております。

 

当社の企業理念

グローバルな視野に立ち、常に新しい考え方と行動で企業の成長をめざすと共に、魅力ある企業集団の実現を通じて豊かな社会の発展に貢献する。

 

 当社は自動車部品で培った「金属の熱処理・塑性加工技術」、「シミュレーション技術」、情報通信分野の部品における「精密・微細加工技術」、「金属接合技術」などのコア技術を駆使し、自動車及び情報通信分野へ多くのキーパーツを提供しております。

 今後ますます進む自動車の電動化、情報通信の高度化等、激変する事業環境への対応を加速し、将来に向けた安定的な収益基盤を確立するとともに、カーボンニュートラルをはじめとする社会課題に積極的に取り組み、「持続可能な社会」への貢献を目指します。

 

(2)経営戦略等

 当連結会計年度は、2021年度にスタートさせた中期経営計画「2023中計」の最終年度となりました。この「2023中計」においては、「CSR活動の更なる推進」、「激変する事業環境への対応加速」、「持続的な成長に向けての“もうけ”の確保」を基本方針とし、企業価値並びに収益力の向上を目指して取り組んでまいりました。

 売上高は6,500億円の計画に対し1,169億円の増収となる7,669億円の実績、営業利益は400億円の計画に対し54億円の減益となる346億円の実績となりました。

 2024年度は、2026年度を最終年度とする中期経営計画「2026中計」の初年度となります。この「2026中計」においては、「人を大切にし、社会へ貢献する」、「サステナビリティ活動の更なる推進」をスローガンに、「人を大切にする」、「社会へ貢献する」、「ちゃんと買って ちゃんと造って ちゃんと売る」を基本方針としております。新たな経営管理指標としてROICや自己資本比率等を設定し、収益性、効率性、健全性、成長性の多角的な観点から企業価値の向上を目指して取り組んでまいります。

 

 

 

 

 

(3)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループは、「2026中計」における経営目標を次のとおり定めております。

 自動車関連市場、情報通信関連市場とも増収を計画しており、自動化推進や生産性改善を進め利益率の向上を目指します。

 

2023年度目標経営指標と実績及び2026年度目標経営指標

 

 

 

2023年度

目 標

2023年度

実 績

目標比

2026年度

目 標

2023年度

実績比

売上高

(億円)

6,500

7,669

1,169

8,500

830

営業利益

(億円)

400

346

△54

520

173

経常利益

(億円)

420

478

58

570

91

親会社株主に帰属する当期純利益

(億円)

250

391

141

430

38

ROE

 

8.0%

10.4%

10%以上

ROIC

 

6.1%

7%以上

自己資本比率

 

58.7%

50%以上

配当性向

 

30%程度

24.2%

30%以上

(注)2026年度目標値の主な前提条件:全世界自動車生産台数98百万台、HDD生産台数118百万台、為替レート145円/米ドル

 

(4)経営環境

 当連結会計年度における世界経済は、金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念などによる不透明さはあるものの、日本では緩やかな景気回復傾向にあり、米国では景気拡大傾向が続いています。

 当社グループの主要な事業分野であります自動車関連市場においては、国内をはじめ、一部の国を除く海外におきましても、前期より自動車生産台数が増加しております。

 

当連結会計年度における自動車生産台数

 

台 数

前期比

内日系

前期比

全世界

93,486千台

7.6%

26,779千台

5.8%

国別

国内

8,485千台

9.5%

北米(米国・カナダ)

12,343千台

5.8%

4,322千台

19.1%

メキシコ

4,044千台

15.4%

1,248千台

33.8%

タイ

1,856千台

△0.5%

1,579千台

△2.2%

中国

29,864千台

10.4%

3,859千台

△10.8%

(注)上記台数は各拠点の決算期に応じて集計しております。

 

 もう一方の主要な事業分野であります情報通信関連市場につきましては、HDDの世界生産台数が前期比で減少し、当社の主力製品でありますHDDサスペンションの総需要も減少しました。また、半導体プロセス部品に関しては、前期に需要が落ち込んでおり、回復には至りませんでした。

 

(5)事業上及び財務上の対処すべき課題

<事業全般>

 世界経済は、金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念などによる不透明さはあるものの、総じて持ち直しの動きが続くことが期待されます。自動車の電動化の動きに一部鈍化の兆しが見られる一方で、情報通信の高度化の進展により半導体市場については再加速も見込まれるところです。また、原材料価格や物流、エネルギーコストの高騰や、安定的な人材確保の難しさが高まるなど、当社グループを取り巻く事業環境は大きく変化しており、このような激変する事業環境への対応を加速しながら、持続的に成長していくことが当社グループの課題であります。

 2024年度はグループ経営方針として、「人の価値:従業員、ステークホルダーを大切にする」「社会的価値:社会課題の解決に貢献する」「経済的価値:儲かる会社を目指す」「製品の価値:なくてはならないキーパーツを提供する」を掲げ、グループ一丸となってこの4つの価値の更なる進化に取り組んでまいります。

 

<懸架ばね事業>

 懸架ばね事業では、価格競争の激化、鋼材をはじめとする諸資材の価格高騰、北米拠点での安定的な労働力確保の難しさといった課題を抱えております。これに対し、グローバル全拠点での安定生産、供給体制の確立を図るべく取り組んでまいります。北米拠点での売価改善、生産性改善、最適受注戦略の推進や、ばねの付加価値向上、モノづくり改革の促進等に取り組み、収益力の強化に努めてまいります。

 自動車業界では、半導体供給不足による影響は概ね解消され、電動化並びに自動運転化が急速に進展しております。懸架ばねそのものの需要には大きな影響はないと考えられる一方、ますます強まる軽量化、高耐久化、省スペース化への要請に応えるべく、加工技術並びに新鋼種の開発等を加速させてまいります。

 

<シート事業>

 シート事業は、原材料や物流、動力光熱費等の価格高騰の影響を受けたものの、半導体供給不足等による自動車メーカーの生産調整の影響は概ね解消されました。販売数量が回復したことに加え、円安による在外子会社の円貨換算額の増加等により大幅な増収増益となり、営業利益は過去最高益を更新しました。引続き、高品質、高機能の独立系サプライヤーとして、顧客志向の徹底と品質第一の2点を軸にグローバルに事業を展開してまいります。

 当社シート事業の強みは、金属加工、ウレタン、縫製などシートに必要な各種工程を内製しており、車酔い低減シートなど、シートコンプリート品の総合的な設計開発力を保有していることであります。これらの強みを活かし、電動化並びに自動運転化で求められる軽量化や乗り心地向上に応えるシートの開発に取り組んでまいります。

 

<精密部品事業>

 自動車関連事業につきましては、半導体供給不足等による影響は概ね解消されたものの、原材料や物流、動力光熱費等の価格高騰の影響を受けています。電動化の加速を見据え、キーパーツ部品の一つであるモーターコアについて、現在工法の見直しや新技術開発を進めており、2023年11月に竣工した厚木工場新建屋やNHKスプリングメキシコ社での工場棟建設準備等、グローバルでの生産体制拡充を進めています。さらに、内燃機関用製品の今後の需要動向を慎重に見極めながら、ますます進展する電動化関連製品の開発も進めてまいります。

 情報通信関連事業のHDD用サスペンションにつきましては、HDDメーカーの生産調整により数量が一時的に減少しましたが、今後も高容量化は進み、サスペンションに要求される機能は高度化し、かつ需要も増加すると考えております。継続的に開発力・技術力・品質を向上させつつ、適切に生産能力を増強し収益確保に努めてまいります。また、さらなる競争力の向上を目指し、AIを活用したAOIの導入等の合理化施策を進めてまいります。

 なお、2024年度より、資源配分に係る意思決定、業務管理区分及びマネジメントへの報告体制をより経営実態に適した形に見直すためにセグメント区分の変更を行っており、当事業よりDDS(ディスクドライブサスペンション)事業を分離しました。

 

<産業機器ほか事業>

 半導体プロセス部品につきましては、今後の旺盛な需要に対応すべく、宮田工場のさらなる増強を進めております。本格的な需要回復は2025年度以降となる見込みですが、伊勢原工場、宮田工場の二工場体制で最適な生産配分を実施し、一層の収益力の向上に取り組んでまいります。また、金属基板につきましては、車載LED向けをはじめとした従来製品の拡販、パワーモジュール、AC-DC、DC-DCコンバーターといった自動車の電動化に対応した製品の開発及び拡販を進めるとともに、駒ヶ根工場とNHKマニュファクチャリングマレーシア社新工場の増強を行ってまいります。

 その他事業につきましては、選択と集中を進めてまいります。

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月26日)現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)基本方針

 当社グループは、「なくてはならないキーパーツ」を提供し続ける事により、持続可能な社会の実現と社会課題の解決に貢献してまいります。

 また、当社グループの果たすべき法的、倫理的、社会的責任について「グローバルCSR基本方針」を2016年に制定し、

 「透明性を維持すること」

 「倫理的に行動すること」

 「地球環境を保全すること」

 「人をはぐくむこと」

 「グループ・グローバルで取り組むこと」

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の5つを宣言し、コーポレート・ガバナンスの充実及び法令遵守の徹底に努めております。

 当社は、本業における競争力・経営基盤の強化を図り、企業価値を高め、その成果をステークホルダーに還元することにより、社会から信頼される会社であり続ける事を目指します。

 

(2)マテリアリティ(重要課題)

 当社は、持続可能性に関する経営課題を明確にし、基本方針及びこれまでの取組実績を踏まえ、下表のマテリアリティ(重要課題)に取組んでおります。

区分

マテリアリティ(重要課題)

主な取組

事業活動

「ニッパツグループ環境チャレンジ」

・CO2排出量の削減

・環境負荷物質の削減

・以下の目標達成に向けた取組

-2039年までにカーボンニュートラル達成

-2039年までに産業廃棄物ゼロ達成

・環境貢献型製品の創出

・モーターコアや金属基板など電動車関連製品の開発・生産

・社会課題の解決に寄与する製品開発

・ビッグデータ需要に対応するHDD関連部品や半導体プロセス部品の開発・生産

経営基盤

・人の価値の最大化

・人材の確保と育成

・ダイバーシティ推進

・働き方改革

・人事制度改革

・安全・安心な職場づくり

・人権の尊重

・人権尊重への取組みの強化

・コンプライアンス

・役員、従業員への継続的な教育

・グループ経営

・上記の項目のグループ、グローバルでの取組

 当社は、持続可能性に対し重要な財務的影響を与え、かつ、環境や社会にも重大な影響を与える課題について、 ①地球環境保全への対応「ニッパツグループ環境チャレンジ」、②人の価値を最大限に引き出すことの2つを特定し、各々の分野への対応を通じて、持続的な企業価値向上に努めております。

 

(3)サステナビリティ全般に関するガバナンス及びリスク管理

 当社は、2024年4月にサステナビリティ推進委員会を立上げました。サステナビリティ経営推進のための重要事項について、内容に応じて、サステナビリティ推進委員会、経営戦略会議、取締役会で協議・審議のうえ、決定しています。

 また、当社では、様々な観点からリスクを想定して未然防止を図り、影響を最小限にとどめるため、リスク管理規程を制定し、代表取締役社長を最高責任者、企画管理本部本部長を推進責任者とするリスク管理体制を構築しております。

 リスク発生が予見される事項は、リスク管理マニュアルを策定するとともに、重要度に応じて経営トップに報告する体制を構築しております。

 

(4)地球環境保全への対応

 当社は、地球環境保全への対応として、CO2排出量削減による脱炭素社会の構築と産業廃棄物ゼロの実現をマテリアリティ(重要課題)に掲げております。

 当社グループでは1993年に環境ボランタリープランを公表以降、グループ全体で地球環境保全活動に取り組んでまいりましたが、持続可能な社会の実現と将来の当社グループのありたい姿をさらに明確にするため、2021年9月に、「ニッパツグループ環境チャレンジ」を宣言いたしました。

 

「ニッパツグループ環境チャレンジ」

①2039年までにカーボンニュートラルを達成する。そのために、2030年までにCO2排出量を2013年度比50%減にする。

②2039年までに産業廃棄物ゼロを目指す。そのために、2030年までに産業廃棄物量を2013年度比95%減にする。

 

 現在、2026年度までの中期経営計画に沿って、生産本部毎にCO2・産業廃棄物(非資源化物)低減に向けた施策を推進し、地球環境対策委員会を通じて達成状況を確認するとともに、同委員会にて更なる低減方策を協議しながら取組んでおり、2023年度まで計画のとおり進捗しています。2024年度では、CO2排出量について海外グループ会社の目標設定完了を目指すとともに、SCOPE3の情報収集や集計に向けて準備を進めてまいります。

 

<CO2・産業廃棄物の排出量及び低減に向けた主な取組>

項目

排出量

低減に向けた主な取組

推進中の主な施策

2022年

2023年

CO2

(千t-CO2)

136

120

省エネ推進

設備の電化、燃料転換、ライン再編

生産工程や製品開発における技術革新

太陽光発電などへの設備投資

再生可能エネルギー電力購入

工場照明器具更新、フォークリフト電化、設備の電化・放熱ロス防止、エアリーク改善、LPGからLNGへの切替、空調設備更新など

非資源化物

(t)

71

38

リサイクル業者の再検証

有償リサイクルの無償化、有価物化の推進

材質判定機による廃プラの有価物化、汚泥リサイクル業者の再検証

(注)上記排出量は当社及び国内連結子会社を集計対象としております。

 

ア)ガバナンス

 「ニッパツグループ環境チャレンジ」の宣言に基づき、地球環境対策委員会では事業ごとの長期の環境活動計画をとりまとめる等、当社グループで持続可能な社会の実現に向けて活動を強化しています。

 地球環境対策委員会は年2回開催され、環境チャレンジに関する中長期目標の設定、実現に向けたシナリオの策定を行い、活動を推進しております。推進の進捗状況は、経営戦略会議へ定期的に報告し、経営戦略へ反映しております。

 

イ)戦略

 当社グループでは、各生産本部、グループ会社にて2026年の目標値を定め、「省エネ推進」「設備の電化」「生産工程や製品開発における技術革新」「太陽光発電などへの設備投資」「再生可能エネルギー電力購入」に分類される具体的施策を立案し、投融資審議会において、十分な審査を行ったうえで実施しております。計画に対する施策の実施状況については、継続的に地球環境対策委員会にて各生産本部、グループ会社からの報告を受け、これに対するフォローを行っております。

 

<物理リスク> 気候変動による災害など物理的影響に関連するリスク

影響する項目

リスク

機会

対応

急性

・異常気象による大規模災害

・河川の氾濫、巨大台風、渇水、津波、高潮、落雷などによる生産支障

・BCP対応の強化による顧客信頼の獲得及び受注拡大

・津波避難場所、海抜高さを各所に明示

・避雷針や避雷器を設置

・BCPのレジリエンス体制の強化

・緊急時電源の確保

(非常用電源確保と自家発電設備の活用)

・建設地、建物耐久性の確認と改善

・耐久、耐水、耐熱性に優れた製品の企画、開発

慢性

・気象情報

・降水、気象パターンの変化

・温暖化の進行に伴う製品耐久性の不足による品質不具合

・製品の耐久性の充実による付加価値及び収益向上

 

<移行リスク> 脱炭素社会への移行に伴い発生するリスク

影響する項目

リスク

機会

対応

政策・規制

・電動化の促進施策(ZEV(注1)、燃費、ガソリン車規制)

・政府のカーボンニュートラル宣言(CP(注2)制度、補助金の拡大)

・顧客のエコカー開発が加速、ガソリン車の部品の売上が減少

・燃料、エネルギーへの課税(炭素税)に伴うエネルギーコストの増加及び収益悪化

・GX(注3)構想及びCPなど気候変動施策への対応に遅れが生じた場合の評価低下(格付機関・投資家・NGO・顧客など)

・ZEV(注1)であるEV/FCEV用の製品開発が進み売上が増加

・国の支援(補助金等)を活用した製品、工法開発が進み収益が向上

・GX構想及びCPなど気候変動施策への対応を迅速に実施できた場合には、マネジメントプロセスが改善

・EV/FCEV用の製品及び部品開発

市場

・CASE、MaaS市場拡大

・省エネ製品、高分子・LEDの技術を活かした新分野の市場拡大

・車の価値、使い方の変化で従来製品の売上が減少

・環境負荷の大きい製品の不買化

・先行的な気候変動対応への取り組みや、省エネ製品開発により市場に提供する製品・サービスにおいて付加価値を創出し、優位性や事業機会を確立

・GHG(注4)低排出製品・サービス開発のためにイノベーションが拡大し、HDD関連市場において低消費電力デバイスの市場が拡大

・半導体デバイスの高性能化と低消費電力化による半導体プロセス部品事業の拡大

・レジリエンス(気候変動への対応力)を構築することで競争優位性を確保し、企業価値が向上

・半導体やエレクトロニクスの未来像を見据え、最先端の研究開発を推進

・革新的な技術を備えた付加価値の高い製品をタイムリーかつ継続的に供給

・製品の軽量化への取り組みなど、排出されるCO2がより少ない製品の開発

技術

・エネルギー転換

・再生可能エネルギー技術の進歩、普及

・省エネ技術の普及

・エネルギー転換に伴い生産技術分野でコストが増加し、財務負担が増加

・技術普及に乗り遅れ、CO2低減が進まず炭素税等で収益が悪化

・製造段階での省エネ、低コスト、製品の開発による事業拡大、収益向上

・GHG低排出製品・サービス開発のためにイノベーションが進み、収益向上

・再エネ、省エネ技術を活用した環境に配慮した生産工程の整備が進み収益向上

・工場エネルギーの最適化を推進

・再生可能エネルギーの積極的な導入

評判

・顧客の評価の変化

・投資家の評判の変化

・環境負荷の小さい(脱炭素など)製品が発注条件となり、対応ができず失注

・脱炭素の製品開発ができ、競合他社に優位性が増し、受注拡大

・環境に優しい材料開発、製品設計

(注)

ZEV:

Zero Emission Vehicleの略。走行時にCO2等の排出ガスを出さないEV/FCEV等。

 

CP:

Carbon Pricingの略。炭素税や排出量取引により炭素に価格付けを行うこと。

 

GX:

Green Transformationの略。温室効果ガス排出削減目標の達成に向けた取組を成長の機会と捉え、排出削減と競争力の向上の実現に向けた変革のこと。

 

GHG:

Greenhouse Gasの略。CO2等の温室効果ガスのこと。

 

 

ウ)リスク管理

 当社では、代表取締役社長を最高責任者、企画管理本部本部長を推進責任者とするリスク管理体制を構築し、気候関連のリスク(物理リスク及び移行リスク)を含め管理しております。リスク管理においてはリスクの未然防止を図り、被害を最小限にとどめるとともに、再発を防止するための対策を決定し、進捗管理をしております。

 一方で、リスク管理において取締役会が明確に関与するガバナンスプロセスの構築は、これから実現すべき課題であると認識し、今後取り組んでまいります。

 

エ)指標・目標

 当社グループは、エネルギー使用量から算出するCO2排出量について削減目標を掲げ、地球環境保全活動に取り組んでおります。2020年度までは売上高原単位で管理しておりましたが、2021年度からは、カーボンニュートラル達成を目指し、CO2総排出量で管理しております。

 

<中長期目標>

項目

目標年

目標値

CO2排出量

2030年

SCOPE1+SCOPE2におけるCO2排出量2013年度比50%減

2039年

SCOPE1+SCOPE2におけるCO2排出量ゼロ化

産業廃棄物量

2030年

2013年度比95%減

2039年

産業廃棄物ゼロ化

(注)1 SCOPE1:事業者自らによる燃料の使用によるCO2排出量

2 SCOPE2:他社から供給された電力等の使用によるCO2排出量

 

(5)人の価値を最大限に引き出すこと

 当社を取り巻く社内外の環境は大きく変化してきており、将来にわたり社会に必要とされる会社であり続けるために人と組織のあるべき姿も変わりつつあります。当社のものづくりがこれからもお客様や社会の課題解決に貢献し続けるためには、人の価値を最大に引き出す継続的な取り組みが一層重要になると考えています。

 

ア)ガバナンス

 人事に関する重点施策は、経営戦略会議又はその下部機関である人事政策委員会で議論・審議を行い決定し、事業の目指す方向性と人事戦略との整合を図り推進する体制を整えています。各本部長はそれぞれの部門の活動状況を確認し、重要事項について経営戦略会議や取締役会で報告をする事で、適宜施策の見直しや組織運営・職場環境改善に繋げる体制を取っています。

 

イ)戦略

<方針>

 2026中計グループ基本方針では、「人を大切にし、社会へ貢献する」をスローガンに、「ステークホルダーとの信頼関係の一層の強化」「安全・安心な会社、働きがいのある働きやすい職場づくり」「多様な人材の成長支援と活躍推進」を方針に掲げ、人づくり、組織づくり、制度・風土づくりの取り組みを進めます。

 経営戦略と人事戦略を連動させ、取り組みの成果が経営方針の実現に結びつくよう2024年度に「求める人材像」と「目指す組織像」を制定しました。一人一人の「個の力」と個を活かす「組織の力」を融合させ、多様な人材が成長とやりがいを感じ、誰もが持てる力を発揮できる組織風土を醸成していく事で人の価値の最大化に繋げます。社訓・企業理念、外部環境の変化や将来の事業の方向性を踏まえ、当社で活躍する人の価値のさらなる進化を図るための様々な取り組みへ果敢に挑戦していきます。

 

 

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<実行施策と取り組み状況>

 当社が求める人材の確保と育成に向けた取り組みを強化し、目指す組織像を実現するための雇用環境整備を進めています。具体的な取り組みとして、「人材の確保と育成」「ダイバーシティ推進」「働き方改革」「人事制度改革」「安全・安心な職場づくり」に関する各種施策を実行しています。

 

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<人材の確保と育成>

 2023年度は、求める人材像と目指す組織像の策定を行いました。策定した求める人材像を礎とし、人事制度と人材育成の連動を高めるために、教育体系の整備や研修内容の見直しを実施していきます。また、従業員意識調査の結果ではキャリアに関するスコアに課題があり、自律的なキャリア形成に繋がる施策として、40代総合職を対象としたキャリア研修を実施しました。キャリア採用活動では、2024年度にクラウドを活用したリファレル採用を開始しました。

 

<ダイバーシティ推進>

 2021年度に発足したダイバーシティ推進プロジェクトを中心に、2023年度は、女性リーダー研修、管理職向けダイバーシティ研修、仕事と育児の両立支援セミナーの開催、労使共催イベントとして親子クッキング教室等を実施いたしました。2026中計では、ダイバーシティ推進の取り組みをグループ会社にも展開していきます。なお、ダイバーシティ推進プロジェクトは、サステナビリティ推進委員会に統合して分科会活動での推進体制に変更をいたしました。

 

<働き方改革>

 2018年度よりスタートしたSmart Work Projectでは、これまで在宅勤務制度やコア無しフレックス制度の導入など、多様で柔軟な働き方を促進する取り組みや、総労働時間の削減や年休取得促進など、ワークライフバランス向上の取り組みを労使で一体となって取り組んできました。これまでの取り組みにより一定の成果を得る事が出来たため、Smart Work Projectは2023年度で発展的解消をし、今後の働き方改革の取り組みは、DX推進とエンゲージメント向上に向けた取り組みを加速していきます。

 

<人事制度改革>

 2023年度は、年功要素を減らし貢献に応じたメリハリのある仕組みとなるよう管理職の人事制度改定を実施しました。これに引き続き、組合員の人事制度についても、策定した求める人材像・目指す組織像の実現に向け、等級制度・評価制度・賃金制度の見直しなど、人事制度改革の取り組みを進めていきます。

 また、ベースアップや諸手当、福利厚生の拡充を通じた人への投資も強化しています。2023年度は公的資格等を保有する人材に支給するライセンス手当制度を大幅に拡充しました。また、2024年4月には大幅なベースアップも実施しております。

 

<安全・安心な職場づくり>

 女性や高年齢者を含めた従業員が安全・安心に働ける職場作りと多様性の推進を目指して、各工場における重筋作業の軽減を目指した取り組みを強化しています。健康推進の取り組みでは、2023年度はメンタルヘルス教育や健康イベントの開催、食育活動等を実施しています。また、ハラスメント撲滅に向けて、コンプライアンス通信の発行等による情報発信やハラスメントに関するテーマ別研修、コンプライアンス意識調査を毎年実施しており、法令及び企業倫理を順守するための啓発を行っています。

 

ウ)リスク管理

 人の価値を最大限に高めるための方針や戦略の策定、指標と目標の決定、進捗管理等がさらに効果的に実施されるために、取締役会が監督やモニタリングをより適切に実施できるリスク管理体制の強化をすべく体制整備を検討していきます。

 

エ)指標及び目標

 目指すべき姿(目標)とモニタリングすべき指標については、従来から管理している指標の集計方法や集計項目を見直し、更なる開示を今後検討してまいります。

 

分類

指標

実績

2030年度目標

女性活躍推進

女性管理職比率

2.8

5

 

総合職新卒採用における女性採用比率

11.1

20

 

男性の育児休業取得率

47.2

60

従業員エンゲージメント

エンゲージメント診断結果

67.1pt

75.0pt

(注)1 実績と目標は提出会社の状況のみとなります。

2 女性管理職比率、総合職新卒採用における女性採用比率は2024年4月1日における実績となります。男性の育児休業取得率、エンゲージメント診断結果は2023年度の実績となります。

3 当社で実施するエンゲージメント診断は、従業員体験(Employee Experience)に着目した調査で満点を100とします。業務遂行、人事評価、人材育成、人材配置、仕事環境、企業文化等の多岐にわたる項目によるエンゲージメント診断を毎年定期的に行い、状況を把握し、従業員エンゲージメント向上のための施策を継続的に行っています。

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性がある事項について、以下のとおり記載いたします。当社グループは、これらのリスク発生の可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の対応に努めてまいります。

 なお、文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月26日)現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)世界経済の急激な変動

 当社グループでは、主要な事業分野であります自動車関連及び情報通信関連の製品をグローバルに供給していることから、世界的な景気の変動に強く影響されます。日本、アジア、米国及び欧州など世界の主要市場での、予測を超える急激な景気後退と需要の縮小は、当社グループの経営成績及び財政状態に多大な影響を与える可能性があります。

 特に、各種資材の価格高騰や為替変動による影響及び長引くロシアのウクライナ侵攻や各国間の不安定な政治情勢等により、世界経済は先行き不透明な状況が続いており、これらの影響の収束時期についての見通しを立てることは難しく、そのリスクを合理的に算定、想定することは困難であります。

 

(2)為替レートの変動

 当社グループの事業には、海外における製品の生産と販売が含まれております。各地域における売上、費用、資産を含む現地通貨建ての項目は、連結財務諸表の作成のために円換算されており、換算時の為替レートにより、円換算後の価値が影響を受ける可能性があります。

 また、日本で生産し輸出する事業において、他の通貨に対する円高は、グローバル市場における当社グループ製品の相対的な価格競争力を低下させます。一方、海外からの原材料の調達において、他の通貨に対する円安は、原材料調達コストを高騰させます。したがって、予測を超えた為替変動が当社グループの業績及び財務状態に影響を与える可能性があります。

 当社グループは、機動的な為替ヘッジ取引を行い、短期的な変動による悪影響を最小限に抑えるよう努めておりますが、リスクを完全に排除することは困難であり、当社グループの経営成績及び財政状態に少なからず影響を与える可能性があります。

 

(3)原材料・諸資材・エネルギーの価格変動並びに、原材料・部品の不足

 当社グループは、鋼材などの主要原材料及び諸資材、電気・ガス等のエネルギーを外部より調達しております。これらの供給元とは、取引基本契約を締結し、安定的な取引を行っております。市況の変化による原材料・諸資材・エネルギー価格の大幅な変動については、販売価格への転嫁を前提としておりますが、価格転嫁の反映時期がずれることにより、業績に与える影響が会計期間を超える可能性があります。

 また、供給元の不慮の事故や自然災害、輸出又は輸入規制の変更、ロシアのウクライナ侵攻をはじめとする各国間での政治情勢によるサプライチェーンへの影響や資源高などにより、原材料や部品の不足が生じないという保証はありません。その場合は、生産活動の低下を招くことで、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

(4)新製品開発力

 近年、自動車産業では「CASE」といわれるコネクテッド・自動運転・シェアリング&サービス・電動化に代表される技術革新が進展しており、技術革新がもたらす開発ニーズに適切に対応していくことが当社グループの重要な課題の一つであります。

 当社グループでは、当社研究開発本部が主体となって、新技術の基礎研究及び応用研究を積極的に行っており、継続して魅力ある新製品を開発できるものと考えておりますが、新製品の開発と市場への投入プロセスは複雑かつ不確実であり、以下をはじめとする、様々なリスクが含まれます。

・長期の開発期間を要する新製品開発について、必要となる資金と資源を継続的に充当できないリスク。

・大規模投資・資源投入により新製品を開発するも、回収不能となるリスク。

・競合他社との競争激化による販売価格の下落により、収益性が低下するリスク。

・競合他社による新技術の開発や市場ニーズの変化に伴う開発途中段階での技術の新規性の喪失により、コスト優位性が低下するリスク。

 上記のリスクをはじめとする諸要因から、将来の成長と収益性を低下させ、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

(5)知的財産権の侵害

 当社グループの製品は、広範囲にわたる技術を利用していることから、第三者による知的財産権不正利用の防止や知的財産権の侵害抑止への対策が完全とは言い切れません。また、当社グループが意図せず他社の知的財産権を侵害したとして製品の販売中止や賠償金の支払いを求められる可能性もあります。その場合、係争となることやライセンス費用又は和解費用を負担することで、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

(6)製品の品質不具合

 当社グループは各生産拠点において、世界的に認められた品質管理基準に従って製品を製造しております。しかし、全ての製品において欠陥がなく、将来にわたってリコールが発生しないという保証はありません。また、製造物賠償責任については保険に加入していますが、最終的に負担すべき賠償額が、この保険によって十分にカバーされるという保証はありません。大規模なリコールや製造物賠償責任につながるような製品の欠陥は、多額のコストや当社グループの評価に重大な影響を与え、それにより売上が低下し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

(7)法的規制等

 当社グループは、事業展開する各国において、事業・投資の許可、国家安全保障又はその他の理由による輸出制限、関税をはじめとするその他の輸出入規制等、様々な政府規制の適用を受けております。また、通商、独占禁止、特許、消費者、租税、為替、雇用、環境・リサイクル関連等の法規制を受けております。

 このような多岐にわたる法的規制等に対しては、継続的にコンプライアンスの実践に努めておりますが、万一、これらを順守できなかった場合、当社グループには、直接的な費用の増加や社会的制裁、風評被害等、有形無形の損害が発生する可能性があります。

 

(8)人権・労働環境等

 当社グループは、国内外で事業を展開しており、原材料や資材を調達するサプライヤーも多くの国や地域に及びます。これらの国や地域においては、人権や労働安全衛生等に係る問題への企業の対応に関心が高まっており、法令及び規制も変化しています。

 当社グループやサプライチェーンにおいて、児童労働、強制労働、外国人労働者への差別、ハラスメント等、種々の人権に係る問題や、労働災害などが発生し、これに適切に対応できなかった場合、生産や調達への影響に加え、当社グループの社会的な信用が低下し、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

(9)海外市場への事業展開

 当社グループの事業展開においては、地域・国によっては、文化的な違い、法制度の違い、社会的・政治的不安定さ等から、社会的共通資本(インフラ)が未整備なことによる当社グループの事業活動の制限等、以下に掲げるような予期せぬ事態が発生するリスクが内在しており、これらが発生した場合には、現地での生産に支障が起きる可能性があります。

・予期しない法律又は規制の変更や、労働市場の変化などによる人材確保の難しさ、労働争議の発生及び人件費の急激な上昇

・過激なデモ、暴動、テロその他の要因による社会的混乱

 また、これらの事態が長期化すれば、当社グループの経営成績及び財政状態に一層大きな影響を与えるおそれもあります。

 

(10)災害等による影響

 地震、台風、水害等の自然災害や火災、停電等の事故、感染症が発生した場合、製造拠点の設備故障、損壊による追加費用発生や最適なサプライチェーンが維持できないことにより、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 当社では、当社グループのリスク管理も対象範囲とするサステナビリティ推進委員会を設置し、対象となる事象の予見と未然防止、事象発生の報告、再発防止策の検討等を実施しております。平時においては企業活動にかかわるリスクについての洗い出し、BCP(事業継続計画)やリスク管理規程等を定めるとともに、教育・啓発活動の実施によりリスク発生の未然防止の推進を実施しております。リスクが顕在化した場合には、迅速に対策本部を設置し、その指揮のもとに所管部門及び関係部門が一体となって対応を行う体制となっております。しかし、各生産拠点で発生する大規模災害や、広範囲にわたる停電、感染症の発生、当社グループの保有する設備の損壊、製品の輸送手段や経路の断絶等、生産・納入活動の中断事象が発生した場合には、これらのリスク管理活動の実施にもかかわらず、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

(11)情報セキュリティに関するリスク

 当社グループの事業活動における情報システムの重要性は非常に高まっており、ハード面・ソフト面を含めた適切なセキュリティ対策を講じております。しかしながら、これらの対策にもかかわらず、想定を超えるサイバー攻撃、不正アクセスなどにより、基幹情報システムの停止や企業情報・個人情報の流出等が発生した場合、当社グループの経営成績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

経営成績等の状況の概要

(1)経営成績

 当連結会計年度における世界経済は、金融引締めに伴う影響や中国経済の先行き懸念などによる不透明さはあるものの、日本では緩やかな景気回復傾向にあり、米国では景気拡大傾向が続いています。

 当社グループの主要な事業分野であります自動車関連市場においては、国内の自動車生産台数は8,485千台で前期比9.5%の増加となりました。また、北米(米国・カナダ)においては12,343千台で前期比5.8%増加、中国では29,864千台で前期比10.4%の増加、タイでは1,856千台で前期比0.5%の減少となりました(いずれも台数は各拠点の決算期に応じた集計)。

 もう一方の主要な事業分野であります情報通信関連市場につきましては、HDD(ハードディスクドライブ)の世界生産台数が前期比で減少し、当社の主力製品でありますサスペンションの総需要は減少となりました。

 以上のような経営環境のもと、売上高は766,934百万円(前期比10.6%増)、営業利益は34,652百万円(前期比20.2%増)、経常利益は47,814百万円(前期比28.1%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は39,188百万円(前期比82.0%増)となりました。

 

(2)当連結会計年度のセグメント別の売上高及び営業利益の概況

[懸架ばね事業]

 懸架ばね事業は、半導体供給不足等による自動車メーカーの生産調整が概ね解消し、北米労働市場のひっ迫による人件費高騰、及び人材が定着しない事による生産性悪化により固定費が増加したものの、下期における売価改善が押し上げ要因となり、売上高は171,148百万円(前期比16.5%増)、営業利益は1,599百万円(前期は営業損失2,734百万円)となりました。

営業利益の主な増減要因は以下のとおりであります。

売上変動及び品種構成差    △25億円

材料市況            28億円

為替              12億円

合理化             86億円

固定費その他         △59億円

 

 

[シート事業]

 シート事業は、半導体供給不足等による自動車メーカーの生産調整が概ね解消し、円安による在外子会社の円換算額の増加等もあり、売上高は324,122百万円(前期比18.4%増)、営業利益は19,121百万円(前期比161.5%増)となりました。

営業利益の主な増減要因は以下のとおりであります。

売上変動及び品種構成差     61億円

材料市況            11億円

為替              10億円

合理化             62億円

固定費その他         △25億円

 

[精密部品事業]

 精密部品事業は、自動車関連事業において、半導体供給不足等による自動車メーカーの生産調整が概ね解消したものの、情報通信関連事業において、HDDメーカーの生産調整により数量が減少しました。この結果、売上高は161,701百万円(前期比1.4%増)、営業利益は7,117百万円(前期比38.0%減)となりました。

営業利益の主な増減要因は以下のとおりであります。

売上変動及び品種構成差    △68億円

材料市況            20億円

為替              24億円

合理化             3億円

固定費その他         △22億円

 

[産業機器ほか事業]

 産業機器ほか事業は、自動車生産台数の回復により関連事業の売上は増加したものの、半導体市場の低迷の影響を受けて半導体プロセス部品の数量が減少し、またレジャー分野の数量減少により、売上高は109,962百万円(前期比2.9%減)、営業利益は6,813百万円(前期比46.7%減)となりました。

営業利益の主な増減要因は以下のとおりであります。

売上変動及び品種構成差    △52億円

材料市況           △1億円

為替              8億円

合理化             8億円

固定費その他         △22億円

 

 

(3)経営成績の分析

①売上高、営業利益

 「(2)当連結会計年度のセグメント別の売上高及び営業利益の概況」に記載のとおりです。

 

②営業外損益

 営業外損益は、13,161百万円の利益となり、前連結会計年度に比べ4,682百万円の増加となりました。為替レートの変動による為替差益が1,663百万円増加したことが主な要因となります。

 

③特別損益

 特別損益は、9,011百万円の利益となり、前連結会計年度に比べ16,017百万円の増加となりました。当連結会計年度において、投資有価証券売却益を計上したことが主な要因となります。

 

④法人税等

 税金等調整前当期純利益に対する税効果会計適用後の法人税等の負担率は30.0%となり、前連結会計年度の23.9%と比べ増加いたしました。当連結会計年度においては、投資有価証券の売却による課税所得の増加により税額控除の影響が相対的に減少したことや、海外拠点における固定資産減損損失の計上等により、負担率が増加いたしました。

 

⑤非支配株主に帰属する当期純利益

 非支配株主に帰属する当期純利益は、前連結会計年度の1,532百万円に対し564百万円となりました。

 

⑥親会社株主に帰属する当期純利益

 親会社株主に帰属する当期純利益は39,188百万円で、前期比82.0%の増益となりました。1株当たり当期純利益は173.27円となり、前連結会計年度に比べ78.77円増加しました。

 

(4)財政状態の状況

当連結会計年度末の総資産については、為替が円安に推移した影響に加え、自動車関連事業の回復による営業債権の増加、保有上場株式の時価の上昇による投資有価証券や退職給付に係る資産の増加および投資有価証券の売却により現金及び預金等が増加しました。その結果、総資産は前連結会計年度末に比べ84,249百万円増加し、690,289百万円となりました。

 負債については、自動車関連事業の回復による仕入債務の増加や、投資有価証券の売却による未払法人税の増加、投資有価証券の時価の上昇に伴う繰延税金負債が増加したことにより、前連結会計年度末に比べ29,536百万円増加し、269,715百万円となりました。

 純資産については、親会社株主に帰属する当期純利益による利益剰余金の増加等に加え、保有上場株式の時価の上昇により、その他有価証券評価差額金および退職給付に係る調整額が増加したほか、為替が円安に推移した影響したことによる為替換算調整勘定の増加により、前連結会計年度末に比べ54,713百万円増加し、420,574百万円となりました。

 

(5)キャッシュ・フローの状況

 当連結会計年度における現金及び現金同等物は前期末に比べ35,220百万円増加し、93,065百万円(前期比60.9%の増加)となりました。

 営業活動によるキャッシュ・フローは、自動車関連事業の回復等による経常利益の計上や棚卸資産の減少等により、66,706百万円の増加(前期は13,656百万円の増加)となりました。

 投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却による収入があったものの、有形固定資産の取得による支出等により、10,349百万円の減少(前期は41,758百万円の減少)となりました。

 財務活動によるキャッシュ・フローは、短期借入金の純減、配当金の支払、自己株式の取得による支出により、20,996百万円の減少(前期は11,546百万円の減少)となりました。

 営業活動によるキャッシュ・フローに投資活動によるキャッシュ・フローを加算したフリー・キャッシュ・フローは56,356百万円の増加となりました。

 

 

生産、受注及び販売の実績

(1)生産実績

 当社グループの生産実績は、販売実績と近似しておりますので、記載を省略しております。

 

(2)受注実績

 当社グループの受注実績は、販売実績と近似しておりますので、記載を省略しております。

 

(3)販売実績

 当社グループの販売実績は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(収益認識関係)1.顧客との契約から生じる収益を分解した情報」をご参照ください。

 

財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

 文中における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月26日)現在において判断したものであります。

 

(1)重要な会計方針及び見積り

 当社グループの連結財務諸表は、わが国において公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、期末日における資産・負債の報告金額、並びに報告期間における収益・費用の報告金額に影響を与える見積り及び仮定を設定する必要があります。当社グループは、以下の重要な会計方針が、当社グループの連結財務諸表の作成において使用される重要な判断と見積りに大きな影響を及ぼすと考えております。

 また、当連結会計年度末時点において行った重要な会計上の見積もりに用いた仮定のうち、翌連結会計年度以降の連結財務諸表に特に重要な影響を及ぼすリスクがあると考えている項目については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」をご参照ください。

 

① 重要な収益及び費用の計上基準

 当社グループにおける重要な収益及び費用の計上基準につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項) (4)会計方針に関する事項  (ホ)重要な収益及び費用の計上基準」をご参照ください。

 

② 貸倒引当金

 当社グループは、債権の貸倒れによる損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に再建計画などを考慮した上で、回収可能性を検討し、回収不能見込額を計上しております。

 

③ 固定資産の減損

 当社グループが有する固定資産について、損益報告や経営計画などの企業内部の情報、経営環境や市場価格などの企業外部の要因に関する情報に基づき、資産又は資産グループ別に減損の兆候の有無を確認しております。この判定により減損損失を認識すべきと判断した場合には、その帳簿価額を回収可能価額まで減損処理を行っております。

 回収可能価額は、不動産鑑定結果などに基づく売却可能価額又は将来の経営計画に基づく将来キャッシュ・フローの割引現在価値で算出しており、経済環境の変化などによる、時価の変動、経営計画との乖離、割引率の変動により、減損額の算定に影響を与える可能性があります。

 なお、原材料価格の大幅な上昇、及び経済環境の変化等による自動車生産台数の減少に関して、当連結会計年度末時点で入手可能な情報に基づき、翌連結会計年度以降の一定期間にわたり当影響が引き続き影響するものとの仮定に基づいております。これらの仮定に対して、その後の得意先の稼働調整などにより大きな差が生じた場合には、今後の固定資産の減損処理に影響を与える可能性があります。

 

 

④ 投資の減損

 当社グループは、投資の評価にあたっては、時価の回復可能性があると認められる場合を除き、時価が取得原価に比べ50%以上下落した場合に減損処理を実施し、下落率が30%以上50%未満の場合には時価の回復可能性の判定を行い、回復可能性がないと判断した場合は減損処理を行っております。

 回復可能性の判断においては、帳簿価額を下回った期間の長さ及び下落幅、当該会社の財務状況及び将来の展望を考慮しますが、市場の変化や経済環境の変化などにより投資の評価額が影響を受ける可能性があります。

 

⑤ 繰延税金資産

 当社グループは、繰延税金資産の計上にあたっては、連結会計年度末時点の将来減算一時差異に対して翌期以降で適用される法定実効税率を用いて計上しておりますが、将来的な課税当局による法定実効税率の変更により、繰延税金資産が増減し、利益を増減させる可能性があります。

 また、繰延税金資産を、回収可能性が高いと考えられる金額へ減額するために、評価性引当額を計上しております。評価性引当額の必要性を評価するにあたっては、将来減算一時差異の解消スケジュール、将来の経営計画に基づく課税所得及び、慎重かつ実現可能性の高い継続的な税務計画を検討しますが、経営環境・経営計画の変化により、繰延税金資産の全部又は一部を将来実現できないと判断した場合、当該判断を行った期間に繰延税金資産の調整額を費用として計上します。同様に、計上金額の純額を上回る繰延税金資産を今後実現できると判断した場合、繰延税金資産の調整により当該判断を行った期間に利益を増加させることになります。

 

⑥ 退職給付費用

 当社グループにおける退職給付費用及び債務は、その計算の際に使われた仮定により変動いたします。これらの仮定には、割引率、発生した給付額、利息費用、年金資産の期待収益率及び死亡率などの要因が含まれております。

 割引率は、国債などの低リスクの債券の利回りに基づいて設定しており、年金資産の期待収益率は、企業年金基金などの年金資産における長期の収益率を基に設定しております。

 これらの仮定と実際の結果との差額や、年金資産の時価の増減による影響は連結包括利益計算書を通じて即時認識されます。当社グループは使用した仮定が妥当なものであると考えておりますが、実績との差異又は仮定自体の変更により、退職給付費用及び退職給付に係る資産・負債に影響を与える可能性があります。

 

(2)当連結会計年度の経営成績の分析

 「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要」に記載のとおりです。

 

 

(3)資本の財源及び資金の流動性についての分析

① キャッシュ・フロー

 「4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 業績等の概要」に記載のとおりです。

 

② 財務戦略の基本的な考え方

 当社グループは、企業価値向上のために、適宜適切なタイミングで経営資源を配分することを財務戦略の基本としており、経営環境の変化に対応した機動的な資本政策を遂行し、資本コストを意識した株主還元及び効率性と安全性のバランスが取れた資本構成を実現することが重要であると考えております。

 このたび「2026中計」において、新たな財務指標を設定いたしました。当社グループの自己資本比率は50%超と健全性が高く、2024年2月に格付投資情報センター(R&I)による格付において「シングルAフラット」に格上げとなりました。今後も50%以上の水準を維持することを目標と定め、引き続き信用格付の維持・向上と更なるリスク耐性の強化を図ってまいります。また、従来からのROEに加え、投下資本の効率性をより重視した財務指標としてROICを新たに採用いたしました。7%以上を目標に各事業部門と連携しながら効率性の向上に努めてまいります。

株主還元については、株主の皆様への利益配当を最重要事項と認識しており、連結業績及び配当性向等を総合的に勘案し、安定的な配当を継続することを基本とし、配当性向を30%以上とすることを目標としております。

「2026中計」に先駆けて、2024年2月の取締役会において12,000千株、18,000百万円のいずれかを上限とする自己株式取得を決議し、買付を行ってまいりましたが、2024年5月において買付を完了し、累計で11,698千株、18,000百万円を取得いたしました。これにより、当連結会計年度末で保有する自己株式は、22,408千株でありましたが、買付終了時では発行済株式数の11.9%に相当する29,048千株となっております。

なお、保有している自己株式については、保有する上限を発行済株式数の5%程度を目安として、それを超える数については、原則として消却する方針でございますが、消却時期については、財務状況や事業環境などを考慮しながら、総合的に判断してまいります。

 

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③ 資金調達の考え方

 当社グループでは、製品製造のための材料及び部品、研究開発費等、事業活動に係る運転資金については、営業キャッシュ・フローで獲得した資金を主な財源としておりますが、債権回収までに必要な資金については、コマーシャル・ペーパーや銀行借入によって、連結売上高の1.5ヶ月分を目安に流動性の保持を図っております。

 設備投資資金については、カーボンニュートラル対応を含め、各事業の設備投資計画に基づき、国内外での資金調達について、市場金利動向や為替動向、あるいは既存借入金の返済時期等を総合的に勘案し、銀行借入及び社債の発行等によって資金を賄っております。

 当連結会計年度末時点における有利子負債残高は前期末に比べて3,086百万円減少し、47,414百万円となっております。

 また、当社グループでは、グループ間融資によって資金融通を行う事で資金効率を高めております。一部の海外関係会社については、現地金融機関より調達をしております。その際、当社が関係会社の借入に対し債務保証の差入れを行うことがあります。

 なお、原材料価格や物流、エネルギーコストの高騰や、急激な為替変動等、先行き不透明な状況が続いておりますが、営業キャッシュ・フローの下振れリスクに備えて、コミットメントライン契約や当座貸越枠に加え、政策保有株式の売却等により手元流動性を確保する体制を整えております。今後も、非常時に備えた資金調達の確保に努めてまいります。

 

5【経営上の重要な契約等】

技術受入契約

契約会社名

相手方の名称

国名

契約品目

契約内容

契約期間

日発精密工業

株式会社

アキュメントグローバルテクノロジーズ社

オランダ

トルクスパンチ

特許及び製造技術の実施権の許諾

(注)

2017年4月23日~

2026年4月22日

株式会社スミハツ

パンドロールUK社

イギリス

パンドロール

eクリップ

OEM契約(注)

2018年3月23日~

2028年3月22日

(注) ロイヤルティとして売上高の一定率を支払っております。

 

6【研究開発活動】

 当社グループは、「創造挑戦型」の基礎技術の研究開発から「開発提案型」の新製品開発、さらには生産技術の開発にいたるまで、積極的な研究開発活動を行っております。あわせて活発な特許出願により、製品や技術の差別化を図る取り組みを強化しております。また、昨今の四輪車、二輪車の電動化に伴い、市場動向やお客様のニーズを迅速に研究開発へ反映させるため、マーケティング機能を有する電動化事業推進室にて、新製品及び新規事業開拓を進めてまいりました。さらに、2024年4月より、営業本部内に「EV営業部」を発足し、電動化関連含む開発営業、マーケティング機能を拡充し、加速して推進してまいります。

 世界全体の課題となっている気候変動への対策としては、「ニッパツグループ カーボンニュートラル宣言」に基づき、2030年には2013年度比でCO2排出量を50%まで削減、2039年にはCO2排出量を実質ゼロにすべく取り組んでおります。電化・エネルギー置換・省エネといった活動を開始するとともに、各製品の製造及び製品の技術開発を通してCO2排出量実質ゼロに挑戦しております。

 現在、研究開発は、本社研究開発本部、技術本部及び電動化事業推進室、各生産本部の開発部門、技術部門、設計部門等、また、各関連会社の開発部門等の、グループ全体の従業員数により鋭意推進されております。研究開発スタッフは全体で1,066名であり、これは全従業員数の6.0%に当たります。

 当連結会計年度における当社グループ全体にて支出した研究開発費総額は、19,335百万円であり、これはグループ全体の売上高の2.5%に当たります。

 当連結会計年度における事業セグメント別の研究開発活動は、以下のとおりであります。なお、上記の研究開発費には、本社研究開発本部、技術本部及び電動化事業推進室で行われている各事業部門に共通する材料技術、加工技術、接合技術、分析技術、解析技術等の基礎研究開発の費用2,392百万円が含まれております。

 

(1)懸架ばね事業

 懸架ばね事業では、自動車メーカー各社の電動化への対応として、高い品質と付加価値を兼ね備えた製品の開発を推進するとともに、環境問題であるカーボンニュートラルの達成に向けた計画を実行に移し、CO2の削減を進めております。

 懸架ばねでは、BEV(Battery Electric Vehicle)化に伴う車両の電費性能の向上に寄与する軽量化や、空力性能の向上にも貢献する部品のコンパクト化、車両重量増といったニーズに対応すべく、主力製品であるコイルばね、スタビライザ、板ばねを中心に新しい技術開発や製品開発を推進しております。

 金属ベローズを用いた高耐久・軽量・コンパクトなアキュムレータでは、従来のブレーキ用に加え、サスペンション用として海外客先への対応を進めております。

 当事業に関する研究開発費の金額は、4,266百万円であります。

 

(2)シート事業

 シート事業では、競合他社に対し優位性を持つための基盤技術となる「安全性能」「快適性のロジック」「バーチャル技術」などの開発に取組んでおり、これらを土台として、市場ニーズや環境課題に応じた高付加価値製品の開発を行っております。

 軽量化の取組みでは、生産台数の伸びが予想される電気自動車の航続距離伸長へ貢献するために、省電力技術の他、更なる軽量化を検討しており、アルミを用いた軽量化フレームや、フレーム部品の一部を金属から樹脂に置き換えた軽量化フレームの開発を進めております。今後は、金属フレームの軽量化、薄型化に加え、ばねやウレタンを含めたシート全体での軽量化・薄型化を狙ったアイテムの開発にも取り組んでまいります。

 自動運転に向けたアイテムでは、自動運転でのニーズを考慮し、運転姿勢・休息姿勢両方において快適な姿勢をとることができ、長時間着座時の疲労低減や温熱快適性、動画視聴時に課題となる車酔い低減にも配慮したシートを開発し、一部アイテムは自動車メーカーと量産を想定した開発を進めております。

 地球環境に配慮したシートの開発では、部品をバイオマス原料やリサイクル原料を使用したものに代替し、CO2排出量削減に効果の高い技術の開発を進めております。また、シート廃却時のリサイクルにも目を向け、リサイクル率向上を考えた、部材の単一素材化や、分別を考えた解体しやすい構造のシート開発も進めております。

 当事業に関する研究開発費の金額は、5,994百万円であります。

 

 

(3)精密部品事業

 精密ばね分野においては、自動車産業の変革期に対応すべく、電動化関連製品の開発に注力しております。モータ関連では、小型高回転化に移行するにあたって必要となる高効率モータ用のモーターコアの独自工法の開発を進めており、実用化の目処を立てております。インバータ関連では、従来のばね技術を活かしたパワーモジュールを冷却するための押え板ばねを製品化しております。この分野では、今後、熱マネジメント技術が必須となることから、設備導入を進め、評価、解析技術の拡充を図るとともに、次世代ばねの開発に取り組んでおります。従来製品に関するところでは、線ばね、皿ばねなどの製品においては、解析システムを構築し、これら製品の最適設計及び更なる信頼性向上を進め、HDD用メカニカルパーツにおいては、次世代HDDに対応するための材料開発、製品開発を進めております。

 HDDサスペンションにおいては、10枚Disk搭載で容量20~24TBのCLA/TSAを全ての客先向けに量産開始、また熱補助型磁気記録(HAMR:Heat Assisted Magnetic Recording)用TSAの量産も開始しており、引き続き生産効率を改善した量産設備の海外展開、歩留まり改善等によるコスト低減、品質向上を進めております。26TB以降用のTSAは現在開発中ですが、HDD記録容量向上にはディスク一枚当たりの更なる記録密度向上や多盤化が必須で、磁気ヘッド位置決め特性改善とサスペンションの薄型化が必要となっております。多盤化では関連部品も同様に薄型化し、データセンターにおける冷却用高速ファン等の外部外乱による磁気ヘッド位置決め特性劣化も生じるため、いずれの場合においても特に共振特性高性能化が求められ、薄型サスペンション用の部材開発と共にデザイン最適化を進めております。

 当事業に関する研究開発費の金額は4,738百万円であります。

 

(4)産業機器ほか事業

 半導体プロセス部品事業においては、半導体の多積層化と微細化がさらに進み、その実現のために求められる機能、特性の多様化、高精度化に応えるための開発に取り組んでおります。

 半導体製造プロセスの多様化から、耐熱、耐食性に優れた、一般的に難削材料とされる金属材料を用いた製品の試作・開発にも取り組み、中核となる接合技術に加え、それら難削材料の高精度・高効率加工の深耕を図っております。また、耐絶縁性、耐プラズマ性に優れたセラミック溶射を金属基材に施すことにより付加価値の高い製品の開発、生産を継続しております。

 固相拡散接合技術を用いた半導体製造装置上部部品では、コンタミの発生リスクを極限まで低減した高清浄度製品の提供を実現しております。

 金属基板(IMS:Integrated Metal Substrate)事業については、近年、パワー半導体市場の活況に伴いEV/HEV車載用及び産業用途向けの基板の需要が増加し、高品質、高信頼性に加え高清浄度に対する要求が高まっております。金属基板は高密度・大容量化に伴い、放熱性や耐ノイズ性のニーズが高まっており、それに応えるべく優れた高放熱絶縁材料の開発を継続的に推進しております。開発した絶縁材は高い放熱性を持つとともに優れた耐熱性と耐久性を備え、セラミック代替を目指しております。

 その一方で、厚銅エッチングや特殊金属加工、徹底した自動化などの加工技術開発にも注力しており、高品質で生産性の高い生産ラインの構築と将来的な需要の伸びに対応する生産能力の拡充に取り組んでおります。

 ゴルフシャフト事業では、肉厚調整・熱処理技術・解析技術を駆使して、あらゆる階層向けに商品を展開しており、前年度より建設を進めていた新開発棟が2023年4月に竣工し、開発体制がより充実したものとなっております。

そこから生み出された新ブランドのドライバー用カーボンシャフトは、当社独自の理論と製法によるシャフト挙動の

制御により、ヘッドスピードに応じた理想の飛距離を獲得することを可能にしております。

 また、neoシリーズの集大成と言える最軽量グレード750GHneoの成立にも寄与しております。いずれも新たなラインアップ商品として、2024年初頭に市場リリースを果たしました。また、シャフト用に特化して開発した三価クロムメッキにより、環境へも配慮しつつ、高級感のある色調(ブラック及びシルバー)を実現し、ユーザーの満足度を高めております。

 当事業に関する研究開発費の金額は、1,942百万円であります。