第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

(1) 経営方針・経営戦略等

①会社の経営の基本方針

当社は、医療用医薬品を主力とする医薬品メーカーであります。社会の高齢化が進むなか、医療技術の進歩と国民意識の健康福祉指向を背景に、医療ニーズの増大と多様化に対応する医薬品の開発とその安定供給に努めることにより生命関連産業の一員としての本分を尽くし、株主をはじめとした関係者の皆様の期待に応えていくことを経営の基本方針といたしております。

 

②目標とする経営指標

経営指標につきましては、特定の経営指標を定めておりませんが、当社は健全性、収益性、効率性、成長性などを総合的に勘案し、持続的かつ安定的な企業価値の向上を重視しております。

 

③中長期的な会社の経営戦略

当社の売上の主力は血液体液用薬であり、その主柱であります人工腎臓用透析剤の需要見通しが中期戦略のポイントとなります。人工透析を必要とされる患者さんに対する関連製品の迅速かつ安定的な供給を行うために基幹政策として建設した岡山・茨城両工場の生産性向上を図るとともに、現下の厳しい経営環境に対処すべく、新しい医療ニーズに応えた製品の開発・育成により透析関連製品と並ぶ新たな主力製品群を確立し、将来に向けて安定した成長を目指してまいります。

 

(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

当社は人工腎臓用透析剤や輸液製剤といった基礎的な医薬品を多く取り扱っており、安定供給への重大な責任を有しております。

地震等の自然災害やパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症等、突発的に発生する事象に備えて、安定供給に支障を来たしかねない事象が判明した際には、直ちに緊急対策会議を開催し、優先してその解消に努める等の対策を常日頃より行っております。

製造設備に関しても大規模な拠点を東西に分散設置し、製品保管庫を各地に設けており、想定外の需要が生じた場合にも対応可能な在庫数量を確保していることに加え、製品が全体的に重量物の占める割合が高いため、物流コストの上昇による影響は大きく、必然的に売上原価や販売費及び一般管理費は非常に高くなる傾向となっております。

そのため、優先的に対処すべき課題として、既存の主力製品を中心に、市場へのさらなる浸透による販売強化に全力を挙げて取り組み、透析剤メーカーとしてトップシェアを堅持するため、新規透析剤の開発や、後発医薬品を含めた製品ラインアップの拡充に努める等、事業基盤の更なる強化を図っております。

さらに、徹底した品質管理による大規模な製造設備の使用、これまで積み上げてきたブランド力や知識、経験等が当社の核となる技術であります。

それらを活用しながら、他社製品の受託製造等、新たな収益の拡大につなげるとともに、より経営資源を効率的に活用し、製品原価率低減等の相乗効果を図るために、新規事業及び領域への推進を開始しております。

 

今後の見通しにつきましては、コロナ禍による制約が解消され、社会経済活動は緩やかな回復傾向が続くことが期待されます。一方で、エネルギー価格や原材料価格の高騰、ウクライナや中東情勢の長期化、各国の金融政策による為替の変動等の様々な要因により、社会経済情勢は不安定な状況が続くものと予想されます。

このような環境のもと、安定供給の社会的使命を全うした上で、同時に経営基盤の強化を行い、全てのステークホルダーから信頼され続けるため、企業価値の向上に一層取り組んでまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

 

当社は、社是の一つとして「社会寄与につながる経営方針」を、経営理念の一つとして「会社の存立も個人の生活も、社会の恩恵なしには維持できない。とくに人の健康と生命に密接に関与する医薬をつくる企業には、それにふさわしい倫理が求められ、これを踏みはずさないものだけが繁栄を持続し得るのである。」と掲げております。

 

日本に透析療法が導入された1950年代後半、当社はいち早く透析液の開発に着手し、1964年、日本初の透析液である「人工腎臓灌流原液“フソー”」を発売、透析治療に従事されている医療関係者の方々のご尽力により透析療法は驚異的な発展普及を遂げ、今や全国35万人もの患者さんが透析療法によって命と日常をつないでおられます。当社は、透析治療のパイオニアとして透析関連医薬品・医療機器をラインナップとして充実させ、透析治療を受ける患者さんに寄り添いながら歩んでまいりました。これら透析剤をはじめ、輸液や注射剤など、医療に欠かすことができない基礎的な医薬品を多く製造販売している当社は、その安定供給が社会的使命であり、岡山、大阪、茨城に量産工場、全国12拠点の配送センターを配することで全国における安定供給体制に万全を期しております。

加えて、2000年に体外受精用組織培養液を上市し、生殖補助医療(ART)分野に進出、2017年にはブランドを「HiGROW」に統一し、不妊に悩むカップル、ひいては日本が直面している重要な問題である少子化対策への貢献を期待しております。当社は長らく、安定供給体制に主眼を置いた「いのち、支えて」を旗印にその事業を営んでまいりましたが、ART分野への本格的な進出を機に、新たに「いのち、育む」を加え、サステナブルな社会の実現に向けての取組みも鋭意進めております。

また、環境面においては、1970年に大阪市清掃局森之宮工場と蒸気導入協定を結び、都市型工場である城東工場の無煙化を達成、近年では、茨城工場のボイラーの燃料転換を行い、茨城工場におけるCO2排出量を年間約30%削減させるとともに、再生可能エネルギーの活用やCO2フリー電力の導入を検討するなど、環境負荷低減のための取組みを推進しております。その他、毎年度実施している大阪府及び大阪市の社会福祉事業への寄附や大規模災害等に際してのマッチング形式での寄附、2023年11月にはNPO法人等への支援と健康経営の推進を目的としてチャリティウォークを実施するなどしております。このように当社は、その事業特性上、様々な形で早くから社会との共生を目指して取り組んでまいりましたが、昨今のサステナビリティを巡る議論を踏まえ、様々な課題に対して事業活動を通じて貢献すべく、その取組みをさらに加速させていくこととしております。

 

(1) ガバナンス

当社は、このサステナビリティ推進体制をより強化していくため、取締役会の監督の下、任意の機関として、2023年4月にサステナビリティ委員会を設置しております。

サステナビリティ委員会において、サステナビリティ基本方針・戦略・計画を策定、決定した上で、気候変動や生物多様性などの環境問題、人権や労働環境などの社会問題、ダイバーシティ推進を図るなど人的資本に関する事項など、特定した当社のマテリアリティに対応した専門部会を設置し、各種活動の進捗状況を管理し、推進してまいります。

サステナビリティ委員会は年2回開催し、取締役会はサステナビリティ委員会から少なくとも年1回の報告を受け、サステナビリティ基本方針に沿ってサステナビリティ委員会が活動しているかどうか、及び戦略・計画の策定・進捗状況を監督し、計画の見直しや投資判断、リスクと機会の分析等についてそれぞれの専門の立場から助言を行うこととしております。

 


 

(2) 戦略

当社は、取締役会や経営会議での議論を経て「気候変動」と「人的資本」が当社にとって重要なサステナビリティ項目であると認識しており、それぞれの項目における戦略は以下の通りです。

 

[気候変動関連]

当社は、かねてより取り組んでいる気候変動に関するリスクや機会について、経営企画室主導のもと、各事業本部が出席する検討会を第100期に14回実施いたしました。その結果、今後起こりうる気候変動は当社事業に大きな影響を及ぼす可能性があると評価し、具体的な影響分析とその対策についての検討を行いました。第101期は、当社事業に中程度以上の影響を与えうるとして特定した6つのリスク・機会要因について、それぞれへの対策の検討と実施に向けた準備を進めました。

①想定されるリスク・機会の抽出と評価

各事業本部で各々の管掌下で想定しうるリスクと機会を洗い出し、集約した上でそのリスク・機会の発現頻度、影響額、回避・リスク移転可能性等の観点からその重要性を評価いたしました。なお、気候変動シナリオは、低炭素社会の実現に向けカーボンプライシングが導入されるなどの気候変動対策が積極的に採られ、気候変動によるリスク・機会は現状のまま推移すると想定した1.5℃シナリオ※1と、気候変動対策が進まず地球温暖化がさらに進むことを想定した4℃シナリオ※2を用いました。

※1: 「Net Zero Emissions by 2050 Scenario(NZE)」(IEA)など

※2: 「Stated Policies Scenario(STEPS)」(IEA)

 

②特定されたリスク・機会と対策


1.5℃シナリオにおいては、カーボンプライシング導入に伴う原資材調達コスト及び課税負担の増加が見込まれており、サプライヤーとの協働や生産効率の向上・再生可能エネルギーの活用等によって中長期的にその影響を軽減させる取組みを推進いたします。

4℃シナリオにおいては、当社が最も重要視する医薬品の安定供給に支障を及ぼす物理的な影響が想定されるため、事業継続計画(BCP)と歩調を合わせて対策を推進し、中期的な視点でリスクの軽減に取り組んでまいります。

 

 

[人的資本関連]

当社は、様々な技術の革新が著しいこの製薬業界において、人的資本への投資は重要なテーマであると認識しており、人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針を以下の通り検討しております。

①人材育成方針

当社は、業務に必要なスキル習得の研修はもとより、自己研鑽のための研修にも力を入れており、また、入社4年目研修や次世代リーダー研修など、各部門・年次・職位・職能で求められる能力の習得を目的とした研修も実施しております。

当社の競争優位の源泉である透析剤については5号シリーズまで開発が終了しておりますが、新たな価値を付加した透析剤の開発を見据え、また、透析関連製品のラインナップをより拡充するためにも、この分野におけるパイオニアとして、医学専門家を招いて技術指導をしていただくことで、より付加価値の高い製品の開発に向け尽力するなど、各領域の専門知識の習得にも力を入れております。

今後はこれらの研修を従業員個々のキャリアプランに計画的・体系的に組み込み、リスキリングの機会提供も含め、従業員のキャリアビジョン実現と企業価値向上を両輪で回し、継続的に人材の育成に取り組んでまいります。

 

②社内環境整備方針

当社は、2023年4月より新人事制度を導入し、従業員が自身でキャリアプランを描けるようジョブローテーションも取り入れたキャリアパスを設定し、経営人材へのステップアップもイメージに入れることでモチベーションの維持・向上を図るとともに、明確な評価項目・評価基準を設定し、報酬との連動に透明性を持たせることで自己実現とやりがいにつなげ、当社の経営理念の達成に向けた方向性を一つにすることが、企業価値向上の礎になるものと考えております。また、多様な人材、優秀な人材を確保するため、近年は積極的にキャリア採用を行っております。

そのうえで、従業員のエンゲージメントを高めるため、社内コミュニケーション活性化のための新たな社内報やアプリ、働きやすい職場づくりのための福利厚生の充実など検討しております。

また、当社はサステナブルな社会の実現に向けて生殖補助医療(ART)分野にも注力していることから、子を望む社員や子を育てる社員への手厚いサポートは、当社が率先して行うべきことであると認識しております。

加えて、健康経営への投資やダイバーシティマネジメントの推進なども検討しており、今後、サステナビリティ委員会の主導でこれらの取組みを強力に推進してくこととしております。

 

(3) リスク管理

当社は、代表取締役社長が委員長であるリスク管理委員会や経営会議において、当社を取り巻く全社的なリスクについて特定・評価し、対応方針を策定しております。気候変動問題については当社もその重要性を認識し、それらからもたらされるリスクは当社事業に大きな支障をきたす可能性があると評価しております。気候変動に関するリスクや機会については、サステナビリティ委員会が管掌することとなり、重要性評価プロセスは従来の全社リスク管理の手法と同様に、外部環境や内部環境の把握、リスクや機会の洗い出し、発生頻度・影響額を勘案して重要性を評価いたします。

 

(4) 指標と目標

[気候変動関連]

当社では2013年度の温室効果ガス(GHG)排出量(Scope1・2)を基準として、中期的には2030年度までに25%削減、長期的には2050年度までにネットゼロを達成目標とし、また、それぞれの目標年度に向けたマイルストーンを設定することで目標達成に向け取組みを進めていくことといたします。

Scope3については2025年度をめどにその把握に努め、目標を設定した上でその削減に取り組むことといたします。

Scope1・Scope2排出量(t-CO2)

Scope

2013年度

2021年度

2022年度

2023年度

2030年度
(中期)

2050年度
(長期)

Scope1

14,145

14,021

11,831

11,085

2013年度比

25%削減

ネットゼロ

Scope2

11,215

9,785

9,963

10,258

 

Scope3排出量(t-CO2)

2025年度をめどに排出量を把握し、削減目標を設定いたします。

 

 

[人的資本関連]

当社では、上記の戦略において記載した内容について、以下の項目を指標としてその推進に取り組んでまいります。各指標の目標については、サステナビリティ委員会において検討し策定してまいります。

 

人的資本関連指標

・ 管理職に占める女性労働者の割合 ※

・ キャリア採用比率

・ 従業員エンゲージメントスコア

・ 男性労働者の育児休業取得率 ※

 

※管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率についての実績は、「第1 企業の状況 5 従業員の状況 (3) 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異」に記載しております。

 

 

3 【事業等のリスク】

有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において当社が判断したものであります。

(1) 医療費抑制策・法的規制等に関するリスク

医薬品事業は、薬事行政のもと様々な規制を受けています。医療費抑制策の一環として、医療用医薬品の薬価引き下げや後発医薬品の使用促進等の政策がとられており、このような医療政策が当社の経営成績に重要な影響を及ぼす可能性があります。また、医薬品事業は所管官庁等の許認可等を受けて活動しています。

当社は、定期的な研修や内部通報制度の整備等により関連法令等の遵守に努めておりますが、法令違反等により許認可等が取り消された場合等には、製品の回収、販売中止等により当社の経営成績は重要な影響を受ける可能性があります。

 

(2) 医薬品の開発及び発売に係るリスク

医薬品の開発には、多大な経営資源の投入と長い時間を要しますが、有効性や安全性が審査当局による承認に必要な水準に達しないことが判明した場合又は想定される場合には、開発の継続を断念する事や、追加の試験を実施することがあります。その場合には投下資本の回収が困難になる可能性や、製品の上市が遅延する可能性があります。

当社では、開発を多角的な視点から評価するプロセスを採り入れるなど、選択と集中を図ることにより効率化に努めておりますが、これら内在する研究開発に関するリスクを完全に排除しうるものではありません。

 

(3) 特定の製品への依存に関わるリスク

医薬品事業の主力製品である人工腎臓用透析剤は厳しい市場競争下にあり、透析剤メーカーとしてトップシェアを占める当社では、その市場競争力を高めるべく、新規透析剤の開発や製造原価の低減に努めるとともに、新たな医療ニーズに応える新領域や新規事業の展開を推進しておりますが、革新的な製品や治療技術の登場などにより市場環境が想定を超える変化をした場合、業績に重大な影響を与える可能性があります。

 

(4) 医薬品の副作用・安全性に係るリスク

医薬品には、発売後予期せぬ副作用が確認される可能性があります。当社は人工腎臓用透析剤や輸液製剤といった基礎的な医薬品を多く取り扱っているため、リスクが顕在化する可能性は比較的低いと思われますが、医薬品を販売している限りリスクが顕在化する可能性はあります。

当社では、製造物責任などの賠償責任に関する保険に加入していますが、製品に重大な副作用やその他の安全性の問題が発生した全ての場合に、保険金が支払われる保証はなく、製品の回収、販売中止等により売上の減少や回収費用の負担、ブランド・イメージの著しい悪化の可能性があります。

 

(5) 自然災害・パンデミックなどによるリスク

当社は、人工腎臓用透析剤や輸液製剤といった基礎的な医薬品を多く取り扱っているため、安定供給への重大な責任を有しております。そのため、突発的に発生する地震等の自然災害やパンデミック、事故等による工場の操業停止に備えて、これらの製品の製造拠点を東西に分散し、製品保管庫を各地区に設けております。また、社内に安定供給マニュアルに基づく委員会を設置し、常日頃から情報収集に努めるとともに、原材料の調達や製造ラインの異常など安定供給に支障を来たしかねない事象が判明した際には、直ちに緊急対策会議を開催し、優先してその解消にあたるなど、当社医薬品を必要としている患者さんにその供給を途絶えさせない取り組みを実施しております。

しかし、広域・長期に影響を及ぼすような自然災害やパンデミック、事故等により製品の供給が困難となった場合、当社の事業に重要な支障を来たす可能性があります。

なお、パンデミックとなった新型コロナウイルス感染症に関しては、リスク管理委員会において対策を実施し、事業継続に最低限必要な社員を除き在宅勤務や時差出勤を行うことで接触機会を低減させる等の感染対策に取り組んでまいりました。今後も医薬品の安定供給の社会的使命を全うするため、引き続き事業活動の継続に向けた取り組みを行ってまいります。

 

(6) 訴訟リスク

知的財産権の侵害、製造物責任法違反、環境汚染、労務問題、公正取引等に関する訴訟を提起される可能性があります。訴訟を提起され敗訴した場合、巨額の損害賠償金の発生や、経営成績及び社会的信頼に重要な影響を及ぼす可能性があります。

なお、係属中の重要な訴訟の詳細については、「第5 経理の状況 1 財務諸表等 (1)財務諸表 注記事項 (貸借対照表関係) 6 偶発債務」に記載しております。

 

(7) 情報セキュリティに関するリスク

当社は、研修等を通じて従業員に対し情報管理の徹底を促すとともに、情報システムのセキュリティ対策を進めておりますが、情報の不適切な取扱いやシステム不備、サイバー攻撃等により、個人情報や当社の機密情報が流出した場合や業務が阻害された場合、ブランド・イメージが悪化し、社会的信頼が失墜する可能性があります。

 

(8) 売掛債権の回収に関するリスク

当社は、販売管理規程及び経理規程等に従い、営業本部及び総務本部が主要な取引先の状況を定期的にモニタリングし、取引相手ごとに期日及び残高を管理するとともに、財務状況等の悪化等による回収懸念の早期把握や、前受金を受領することにより、回収に関するリスクの軽減を図っております。ただし、取引先の予期せぬ財務状況の悪化等により、債権回収が滞る場合には、当社の経営成績及び財務状態に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) 棚卸資産の評価損に関するリスク

当社は、基礎的な医薬品を多く取り扱っており、安定供給への重大な責任を有しているため、想定外の需要が生じた場合にも対応可能な在庫数量を確保しております。そのため、滞留により破棄する数量を最小限に抑えるよう、需要予測に基づいた生産計画等を行い、適切な在庫管理に努めておりますが、販売数量に関する趨勢が変動した場合には、棚卸資産の評価損や廃棄損が発生する可能性があります。

 

(10) 固定資産の減損に関するリスク

一部の投資の意思決定に際し、回収可能価額を使用価値により測定しております。使用価値は見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値により測定を行い、重要な仮定は、販売単価、市場規模、市場シェア及び割引率等であります。ただし、重要な仮定の変動により、減損損失が発生する可能性があります。

 

(11) 有価証券などの価格変動リスク

当社は、有価証券などの価格変動リスクのあるものを保有しており、これらの価格が下落した場合、投資有価証券評価損が発生する可能性があります。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1) 経営成績等の状況の概要

当事業年度における当社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

① 財政状態及び経営成績の状況

当事業年度におけるわが国の経済は、新型コロナウイルス感染症の5類感染症への移行に伴う行動制限の緩和等により社会経済活動の正常化が進み、緩やかな回復基調で推移しました。一方、ウクライナ情勢や中東情勢の長期化、資源・原材料価格の高騰や物価の上昇、円安の進行に加え令和6年能登半島地震の影響等、依然として先行き不透明な状況が続いております。

医薬品業界では、薬価制度改革をはじめとして後発医薬品の使用促進策の強化等、医療費適正化諸施策が引き続き推進されており、経営のさらなる強化が求められるなか、研究開発費の増加、開発リスクの増大等、収益環境の厳しさが増しております。

このような状況のもと、当社は、主力製品の人工腎臓用透析剤キンダリー等、人工透析関連製商品及び輸液等のより強固な浸透を図るとともに、後発医薬品の販売促進にも注力してまいりました。

その結果、当事業年度の業績につきましては、売上高は後発医薬品の販売増等により554億7百万円と前期と比べ43億91百万円(8.6%)の増加となりました。利益面につきましては、原資材価格の高騰により売上原価率が上昇したことが影響し、営業利益は19億64百万円と前期と比べ2億42百万円(11.0%)の減少、経常利益は18億68百万円と前期と比べ3億47百万円(15.7%)の減少、また、当期純利益は13億77百万円と前期と比べ2億28百万円(14.2%)の減少となりました。

 

当事業年度の総資産は、現金及び預金の減少等があったものの、売掛金や商品及び製品の増加、また、2024年1月に稼働を開始した茨城工場第2製剤棟の人工腎臓用粉末型透析剤製造設備への新規ライン増設による建物(純額)や機械及び装置(純額)の増加等により前事業年度末から33億35百万円(4.6%)増加し、758億2百万円となりました。

負債は、未払法人税等や設備関係支払手形の減少等があったものの、電子記録債務や買掛金、長期借入金の増加等により前事業年度末から23億23百万円(6.3%)増加し、391億40百万円となりました。

純資産は、2023年9月に自己株式立会外買付取引(ToSTNeT-3)による減少があったものの、2024年3月に従業員持株会向け譲渡制限付株式インセンティブとしての自己株式の処分や繰越利益剰余金及びその他有価証券評価差額金の増加により前事業年度末から10億12百万円(2.8%)増加し、366億61百万円となり、自己資本比率は48.4%となりました。

 

② キャッシュ・フローの状況

当事業年度末の現金及び現金同等物の残高は、前事業年度末に比べ28億94百万円減少し、51億20百万円となりました。

 

 (営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、売上債権の増加等があったものの、税引前当期純利益や減価償却費の計上等により6億27百万円の収入となりました。(前事業年度は28億53百万円の収入)

 

 (投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却による収入があったものの、有形固定資産の取得による支出等により35億36百万円の支出となりました。(前事業年度は13億73百万円の支出)

 

 (財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得による支出等があったものの、長期借入金の増加により14百万円の収入となりました。(前事業年度は8億13百万円の支出)

 

 

 

③ 生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

当事業年度における生産実績は次のとおりであります。

事業の名称

生産高(百万円)

前年同期比(%)

医薬品事業

27,051

7.4

 

(注) 金額は、卸売価格によっております。

 

b.受注実績

当社は、主に見込生産を行っているため、記載を省略しております。

 

c.販売実績

当事業年度における販売実績は次のとおりであります。

事業の名称

販売高(百万円)

前年同期比(%)

医薬品事業

55,245

8.7

不動産事業

161

△7.7

合計

55,407

8.6

 

 

(注) 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合

 

相手先

前事業年度

当事業年度

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

㈱スズケン

9,904

19.4

10,889

19.7

アルフレッサ㈱

9,012

17.7

9,719

17.5

㈱メディセオ

6,829

13.4

7,816

14.1

東邦薬品㈱

6,179

12.1

6,678

12.1

 

 

 

(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当事業年度末現在において判断したものであります。

 

① 当事業年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

当社の当事業年度の経営成績等は、売上高は554億7百万円と前年同期と比べ43億91百万円(8.6%)の増加となりました。利益面では、売上総利益は138億38百万円と前年同期と比べ98百万円(0.7%)の増加、営業利益は19億64百万円と前年同期と比べ2億42百万円(11.0%)の減少、経常利益は18億68百万円と前年同期と比べ3億47百万円(15.7%)の減少、また、当期純利益は13億77百万円と前年同期と比べ2億28百万円(14.2%)の減少となりました。

主な事業内容である医薬品事業においては、後発医薬品の販売増等により、売上高は552億45百万円と前年同期と比べ44億5百万円(8.7%)の増加となりました。利益面につきましては、売上高の増加により売上総利益は137億99百万円と前年同期と比べ1億46百万円(1.1%)の増加となりましたが、販売費及び一般管理費の増加により、営業利益は19億25百万円と前年同期と比べ1億93百万円(9.2%)の減少となりました。

当社は人工腎臓用透析剤や輸液製剤といった基礎的な医薬品を多く取り扱い、安定供給への重大な責任を有していることから、地震等の自然災害やパンデミックとなった新型コロナウイルス感染症等、突発的に発生する事象に備えて、安定供給に支障を来たしかねない事象が判明した際には、直ちに緊急対策会議を開催し、優先してその解消に努める等の対策を常日頃より行っております。

製造設備に関しても大規模な拠点を東西に分散設置し、製品保管庫を各地に設けており、想定外の需要が生じた場合にも対応可能な在庫数量を確保していることに加え、製品が全体的に重量物の占める割合が高いため、物流コストの上昇による影響は大きく、必然的に売上原価や販売費及び一般管理費は非常に高くなり、営業利益率は低くなる傾向となっております。

その上で、製造原価の低減等のコスト削減に努めておりますが、当事業年度に関しましては、売上総利益は増益となったものの、営業利益以下各利益で減益の結果となりました。

医薬品の安定供給の社会的使命を全うし、同時に経営基盤の強化を行っていくことが今後も必須であると考えております。

なお、文中に記載した内容を以下の表に示しております。(割合(%)には、売上高に対する比率を記載しております。)

 

前事業年度

当事業年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

売上高

51,015

100.0

55,407

100.0

売上原価

37,275

73.1

41,568

75.0

販売費及び一般管理費

11,533

22.6

11,874

21.4

 うち、運送費及び保管費等

2,714

5.3

2,809

5.1

営業利益

2,206

4.3

1,964

3.5

 

 

② 経営成績に重要な影響を与える要因

当社の経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

③ 資本の財源及び資金の流動性に関する状況

当社の資本の財源及び資金の流動性について、主要な資金需要は、製品製造に使用される原材料の調達、商品の仕入、販売費及び一般管理費並びに生産設備の新設、更新や、透析医療のさらなる活性化や新領域への研究開発に係るものであります。

これらの資金需要につきましては、営業活動によるキャッシュ・フロー及び自己資金のほか、生産設備投資・研究開発の計画に照らして、金融機関からの借入による資金調達にて対応していく方針であります。

 

当事業年度におきましては、2024年1月に稼働を開始した茨城工場第2製剤棟の人工腎臓用粉末型透析剤製造設備への新規ライン増設に関する投資や、研究開発活動を当該方針のもと資金調達を行いました。翌事業年度におきましては、資本的支出として、主に各工場の医薬品製造装置への投資や、透析医療のさらなる活性化と新領域への研究開発活動を推進していく予定であり、その資金調達につきましても、必要に応じ、当該方針の通り対応いたします。

なお、2024年5月13日付で、今後の当社の事業拡大に伴い運転資金の増加が見込まれることから、より強固な財務基盤を構築するとともに金融費用の圧縮を行うことを目的として、株式会社三井住友銀行をアレンジャーとするシンジケートローン契約を締結いたしました。

 

④ 目標とする経営指標について

経営指標につきましては、特定の経営指標を定めておりませんが、当社は、医療用医薬品を主力とする医薬品メーカーであり、社会の高齢化が進むなか、医療技術の進歩と国民意識の健康福祉指向を背景に、医療ニーズの増大、多様化に対応する医薬品の開発とその安定供給に努め、「より良き医薬」のスローガンのもと、生命関連産業の一員としての本分を尽くしております。その上で、株主をはじめとした関係者の皆様の期待に応えていくことを経営の基本方針としながら、健全性、収益性、効率性、成長性などを総合的に勘案し、持続的かつ安定的な企業価値の向上を重視し、経営を行ってまいります。

 

(3) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社の財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しております。この財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりであります。

 

① 棚卸資産の評価

当社の棚卸資産の評価は、各在庫品目について滞留により破棄することが見込まれる数量を算出し、該当数量分の正味売却価額を零として評価損の金額を算出した上で、収益性の低下に基づき簿価を切り下げております。その際、当事業年度の販売数量に関する趨勢を踏まえた各在庫品目の将来の販売予測数量を重要な仮定として用いております。当該仮定として用いた販売数量に関する趨勢が変動した場合には、翌事業年度以降の医薬品部門売上原価に追加の評価損を計上する可能性があります。

 

② 固定資産の減損

当社は、一部の製造設備において減損テストを実施するにあたり、回収可能価額を使用価値により測定しております。使用価値は見積将来キャッシュ・フローの割引現在価値により測定を行い、重要な仮定は、販売単価、市場規模、市場シェア及び割引率等であります。

使用価値の算定結果は、一定のリスクを反映させた上で不確実性を評価しておりますが、重要な仮定の変動により、翌事業年度以降の財務諸表において、減損損失が発生する可能性があります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

 

6 【研究開発活動】

当社における研究開発活動は、研究開発センターを中心に行っており、企業価値の源泉を向上するべく鋭意研究開発をすすめております。輸液及び人工腎臓用透析剤関連を中心に透析医療のさらなる活性化を図るとともに、新たな医療ニーズに応える新領域の開発を推進しております。

なお、当事業年度の研究開発費は、総額1,469百万円と前年同期と比べ8.5%の増加となっております。