第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

(1) 経営方針

当連結グループは、「豊かな大地、豊かな街を未来へ 安全で持続可能な社会の実現に貢献します」というビジョンを掲げ、全従業員がグループ共通の行動規範であるスピリット「Challenge Customer Communication」の下、「お客さまの課題をともに解決する、身近で頼りになるパートナー」として、お客さまの期待に応え、革新的な製品・サービス・ソリューションを協創し、ともに新たな価値を創造し続けます。

これにより事業競争力とグループ経営力の強化を追求し、収益性の向上とキャッシュの創出力を高め、また、SDGsやESG等を経営課題として、持続可能な社会の構築と事業成長を実現することにより、企業価値の増大と更なる株主価値向上をめざします。

 

(2) 中期経営計画の進捗

当社は、2023年を初年度とする新中期経営計画(BUILDING THE FUTURE 2025 未来を創れ)を推進しています。2025年度までに着実な成長を実現し、成果へ結びつけることができるよう、事業環境の変化に対応しながら、中期経営計画の目標達成をめざします。

 

事業環境の変化

企業を取り巻く社会・技術・経済環境の変化に伴い、競争環境も大きく変化しています。電動化を含む、脱炭素技術開発の加速や、施工現場のデジタル化、自動運転等、異業種との競争・連携が活発化しています。


 

 

日立建機のグループアイデンティティ

当社グループは、2022年、米州の独自展開、資本関係の変化といった事業環境の変化を受け、独自のグループアイデンティティを策定しました。

ミッションに掲げているように、お客さまの期待や課題に迅速にお応えして、卓越した技術をベースに、革新的な製品・サービス・ソリューションを、お客さまや連携パートナーと協創していきます。

そして、この取り組みを通じて、ビジョンである豊かな大地、豊かな街を未来へつなげるための新たな価値を創造し、安全で持続可能な社会の実現に貢献していきます。


 

 

 

中期経営計画の経営戦略の柱

今中期経営計画では、4つの経営戦略の柱を掲げており、中でも「革新的ソリューション」に最大限注力することで、日立建機グループは真のソリューションプロバイダーになることをめざしています。それこそが、我々のグループアイデンティティの中のミッション「お客さまの期待に応え、革新的な製品・サービス・ソリューションを協創し、ともに新たな価値を創造し続ける」ということになります。

 


以下の図は、経営戦略の柱にもとづく中期経営計画の主要な重点施策です。2023年度の取り組み成果を5件紹介します。


 

1.1)顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供

~コンストラクション・コンパクト事業でのお客さま・異業種パートナーと協創してエコシステムを構築~

当社グループは電動ショベルの開発・販売を始めていますが、建設土木業界全体としての普及率は高くありません。それは、実際の建設現場には、ハードだけを提供したとしても解決ができない課題が、依然として多く存在しているためです。

こうした課題に対してソリューションを提供するためには、日立建機単独では対応が難しく、異業種のパートナー企業との協業が不可欠です。

具体的な事例として、電動の建設機械に欠かせないインフラである可搬式充電設備での協業について紹介します。

日本市場向けには、九州電力(株)との共同開発を開始しました。また、欧州市場向けには伊藤忠商事(株)からファイナンスの支援や協力を受けて、オランダアルフェン社の可搬式充電設備の販売・レンタルを開始します。次に、パートナー企業との協創を実現する場として、新たな研究拠点「ZERO EMISSION EV-LAB」を千葉県市川市に開設しました。電動の建設機械・機材が稼働する現場を再現したデモエリアや、来場者と意見交換し、新たなアイデアを生み出すコミュニケーションエリアを設け、お客さまや異業種のパートナーと建設現場のゼロ・エミッション実現に向けての課題や可能性について探索できる場にしていきます。

 


 

1.1)顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供
~マイニング事業での、デジタルプラットフォームによるサイトソリューションを構築~

当社グループの事業領域である、採掘(Pit)から選鉱(Plant)領域の多様なタッチポイントにおいて、日本、カナダ、オーストラリアの3拠点から複数の鉱山現場での稼働状況をモニタリングしています。

鉱山機械・鉱山運営・ソフトウエアなどの専門分野に精通した人財が、先進的デジタル技術を駆使して、複数の鉱山現場からリアルタイムに取得したあらゆるデータを蓄積・分析・解析し、それぞれのお客さまが直面している課題に対して、ソリューションを提供しています。

現時点では、掘削、運搬工程が主なモニタリング範囲ですが、順次範囲を拡大し、鉱山全体の効率化・最適化に貢献する取り組みをめざしています。

 


 

 

2)バリューチェーン事業の拡充

~再生品生産能力を拡張、グローバル最適生産体制を確立~

国内では、現在、土浦工場と常陸那珂工場に分散している再生工場を、2024年度中に兵庫県にある播州工場に集約・統合し、再生のマザー工場として、グローバル連携を強化します。

集約・統合によってスペース制約を改善し、再生部品の取り扱い量を増やすことで、2030年度には再生事業の売上収益を約800億円まで伸ばす計画です。

海外では、米州の再生事業を強化しています。これまでは、各代理店が対応できる範囲で再生事業を行っていましたが、2023年度以降は、日立建機アメリカInc.が米州全域の再生事業を統括し、日立建機トラックLtd.が超大型油圧ショベル、ダンプトラック向け部品の再生を行います。さらに、H-E Parts社は、得意とする鉱山機械のクーリングシステムやエンジンの再生を担います。

このように国内外の生産能力を拡張し、資源循環型ビジネスの実現をめざします。

 


 

 

3)米州事業の拡大

~販売チャネルを多様化およびファイナンス事業を拡充~

2023年8月より、北米市場で高付加価値製品のZAXIS-7シリーズを納入開始しています。

さらに、北米全土から販売サービス員を約100人を集めて、ZAXIS-7シリーズの操作性や特長を説明する講習会を実施し、順調に販売台数を拡大しています。

代理店にとって従来製品のZAXIS-6シリーズだけでなく、高付加価値製品のZAXIS-7シリーズを提供することにより、お客さまのニーズに対応した製品やサービスを提供し、販売チャネルの多様化にもつなげていきます。

また、ファイナンス事業を拡充することも進めています。伊藤忠商事(株)、東京センチュリー(株)、日立建機の各米国法人が出資しているファイナンス合弁会社「ZAXIS Finance」が2023年5月から米国お客さま向け、9月からは米国代理店向けファイナンスを提供開始しました。ZAXIS Financeのオペレーション開始により、日立建機アメリカの売掛債権の増加を抑えながら販売を加速することができます。

引き続き重点市場である米州の体制強化を推進し、さらなる成長をめざします。

 


 

 

4)人・企業力の強化

~人財がグローバルに活躍できる育成の場や機会の提供~

当社グループは、人財戦略を中長期的な成長をめざす上での最重要課題として認識しています。この度、人的資本に関する情報開示の国際的なガイドラインであるISO30414の認証を取得しました。これに合わせ、Human Capital Reportを初めて発行しました。機械メーカーでは初めての認証取得となり、今後はガイドラインに基づいて様々な情報発信を積極的に行います。

情報開示を強化し、ステークホルダーの皆さまとの対話をより深めていくことで、人財戦略の継続的な改善につなげます。

次に、開発リソースの集約と、イノベーション推進に関する取り組みについてです。

2023年5月より、土浦工場にて、新棟「Orange Innovation Plaza」が稼働開始しました。研究・開発部門を中心に、約3,000人が一堂に会して、次世代に向けた開発に取り組んでいます。

若手社員の意見をもとに、さまざまなコミュニケーションスペースを用意し、部門を越えたコラボレーションの活性化につなげます。

さらに、新規事業を継続的に創出できる企業文化をめざす取り組みを開始しています。

2023年から、「KENKI βUSINESSCHALLENGE」、略してKβC と称し、価値創造のノウハウを学び新規事業の事業化をめざしています。

こちらの取り組みは、毎年継続的に開催することで、社員の持続的な挑戦を奨励し、企業文化の変革を促進します。

 


 

 

中期経営計画の定量的目標

2025年度の目標については、財務目標及びESG関連目標とも、当初の中期経営計画で定めた数値に変更はありません。

収益性としては、調整後営業利益率13%以上と定め、売上に対しての稼ぐ力である“キャッシュ創出の能力指標”としてEBITDAマージン率18%以上をめざします。

効率性では、ROIC目標9%以上を安定的に維持し、投下資本の運用効率を意識して事業を展開し、資本収益性の向上を図ります。

また、獲得した収益を株主の皆さまへ還元を行うため、配当性向は“30%〜40%を目安に安定的かつ継続的に実施”とし、株主利益の最大化を図ります。

 


 


 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1) はじめに

日立建機グループは、私たちのありたい姿、ミッション等を定めた「日立建機グループアイデンティティ」を策定しています。

サステナビリティ経営を推進していく際にも、「日立建機グループアイデンティティ」の視点を導入し、さまざまな取り組みを行っています。


 

(2) サステナビリティ基本方針

日立建機グループは、マテリアリティ(重要課題)を実践することで、サステナビリティを推進し、持続的な社会の発展に貢献していくことをめざして、サステナビリティ基本方針を策定しています。建設機械を通じて社会の持続的発展に貢献し、企業価値向上に努めてまいります。「サステナビリティ基本方針」は当社ホームページをご覧ください。

https://www.hitachicm.com/global/ja/sustainability/management/

 

※日立建機グループは2023年4月より国連グローバル・コンパクトに参加しました。

国連グローバル・コンパクトの10原則をグループ、グローバルで推進していきます。

 

 

(3) ガバナンス

サステナビリティに関わる重要事項は、CSR推進責任者会議、環境推進責任者会議で議論した上で、執行役、主要グループ会社社長からなるサステナビリティ推進委員会(年2回開催)に報告されます。執行役社長兼COOは、サステナビリティ推進委員会の議長を務めており、気候変動、サーキュラーエコノミーなど経営に関わる重要事項の審議・承認を行っています。重要事項に関しては、執行役会および取締役会にて審議・承認され、適切に監視・監督が行われています。また、審議・承認された内容は、海外グループ会社からなるグローバルサステナビリティ推進責任者会議、およびその下部組織であるグローバルサステナビリティワーキンググループにも共有されています。


<ガバナンス体制図>

 

 

 

(4) 戦略

① マテリアリティの特定

日立建機グループでは、社会情勢や各国の政策・規制等の変化を踏まえ、2021年度にマテリアリティを刷新しました。特定プロセスにおいては、SDGsやESGといった社会課題の視点と、自社の企業価値の向上および毀損につながる外部環境の視点の両面で、中長期的なリスクと機会を検討し、4つのテーマを抽出しました。社内外のステークホルダーの意見を取り入れながら議論を重ね、2021年7月の執行役会にて承認を受け、取締役会にて報告しました。マテリアリティごとにKPI(重要業績評価指標)を設定し、サステナビリティ・ガバナンス体制のもとで進捗管理を行っています。なおマテリアリティは、外部環境の変化等を踏まえ、今後も随時見直しを行っていきます。


 

 

4つのマテリアリティに基づき、サステナビリティ課題に対応する「環境戦略」「技術戦略」「人財戦略」について報告します。

 

 

② 環境戦略

―カーボンニュートラル実現に向けて―

日立建機グループは、2050年までにバリューチェーン全体を通じてのカーボンニュートラル実現に向け、 製品開発および生産工程の両面でロードマップを策定し、CO₂排出量の削減に取り組んでいます。

製品においては、CO₂排出量の削減に貢献する環境配慮製品をお客さまや社会に提供するための指標として、CO₂排出量を2010年度比で2025年度に22%削減、2030年度に33%削減する目標を設定し、推進しています(図1)。この目標達成に向け、コンパクトからマイニングの超大型機まで全製品レンジの開発を進め、燃費低減に加えて電動化建機の早期市場投入、水素燃料製品の技術面での見極め、さらにはお客さまの使用段階でのCO₂ 排出量の削減を実現するソリューションの提供を進めています(図2)。

また、生産工程においては、CO₂排出量を2010年度比で2025年度に40%削減、2030年度に45%削減する目標を設定し、推進しています(図3)。CO₂排出量の削減手段には省エネ、再生可能エネルギーへの転換 (設備投資による自家発電、再生可能エネルギー電力導入)、電化、燃料転換等があります(図4)。

こうしたサプライチェーン全体でのカーボンニュートラル実現に向けた取り組みは、2023年度から日本国内で本格稼働する「GXリーグ※1」の考えに合致するものであり、日立建機は2023年5月に「GXリーグ」へ参画しました。これにより当社の取り組みを促進するとともに、参画企業や団体と協働し、経済社会システム全体の変革に貢献していきます。

※1 GX(グリーントランスフォーメーション)リーグ:経済産業省主導で立ち上げられた、2050年カーボンニュートラルに向けて「産・学・官・金」が連携し、経済社会システム全体の変革に取り組む協働の場。

 


 

(図2)


 


 


 

 

―TCFD提言への対応―

2020年7月に全社のコーポレート部門と事業部門の部門長およびキーマンによる社内タスクフォースを設立し、同年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明しました。2022年には、1.5℃と4℃を想定したシナリオ分析、気候変動リスクの発生可能性や財務的影響について評価を行っています。TCFDフレームワーク*に基づき、気候変動がもたらすリスクと機会および対応する戦略についての開示を行い、持続可能な事業展開をめざして、本提言に沿った推進強化に努めています。

 


 

* TCFDフレームワーク …TCFD提言の取り組みの詳細については、「日立建機グループ統合報告書2023」P43-45を参照ください。

 

―サーキュラーエコノミーへの取り組み―

日立建機グループは、再生・中古車・レンタル・サービスといったバリューチェーン事業を通じて、廃棄量をさまざまな角度から減らす4つのR(Reduce・ Reuse・Recycle・Renewable)の活動を、グループ全体で取り組んでいます。製品の利用過程においては、新車がお客さまの手に渡り、利用されて、その役目を終えるまでの「製品ライフサイクル」を1.5倍にすることをめざして、バリューチェーン事業を拡大し、顧客価値の最大化と資源消費の最小化を両立していきます。具体的には、当社の強みである「ConSite」や部品再生、本体再製造を活用することで、車体稼働年数を10年から15年に長期化することをめざします。このことにより、廃棄物の削減、投入資源の抑制を実現し、最終的にはCO₂排出量の削減にも貢献します。

 

 

③ 技術戦略
―Global e-Serviceの進化―

日立建機では、建設機械をご利用いただいているお客さまに、インターネットを通じて機械の稼働状況や保守情報を一括管理するシステム「Global e-Service(以下、GeS)」を提供しています。GeSはメンテナンス情報だけでなく、稼働中の機械のCO₂排出量、アイドリング時間、燃料消費量の管理情報など環境に関する情報もお客さまへフィードバックすることができ、お客さまの環境経営にも役立てることができるソリューションです。2000年から国内向けサービスを提供開始し、機器保守業務、アフターサービス業務を支援する約90のアプリケーションを取り揃え、現在では全世界で多くのお客さまにご利用いただいています。

現在GeSは全世界で約43万台の機械に搭載され、日々膨大な情報のやり取りがあります。GeSで対象とする業務領域のデジタル化が拡大・浸透する中、提供機能の多様化に加え、グローバル生産体制への対応やお客さまからの要望の高度化により、オペレーションの複雑化が課題となっています。

現中期経営計画期間における取り組みとして、バリューチェーン全体での付加価値・利便性を最大化するため、GeSのモダナイゼーション※1を推進するとともに、GeSとDX基盤※2を相互に連携・強化することで、ユーザビリティの向上・DXによる価値向上・オープンイノベーションの創出をめざし、機器保守、アフターサービス業務支援のデジタルプラットフォームとして進化させていきます。

これにより販売代理店がお客さまへ迅速にサービスを提供できる仕組みづくりを加速させ、これまでGeSに点在していた各種機能や情報を集約します。その結果、画面操作数の大幅削減や業務の動線の最適化を可能にし、高効率なデジタルプラットフォームを提供することで、お客さまの満足度向上につなげます。さらに、再生事業や中古車売買など新たな市場との連携や開拓、異業種パートナーとの協創により、新たな価値創出に取り組みます。

 

※1 モダナイゼーション:古いIT資産(ハードウェアやソフトウェア)や開発手法を最新の製品や設計に置き換えること

※2 DX基盤:日立建機が提供するアプリケーションの開発効率の向上を目的に整備した開発共通基盤

 


 

 

―デジタル人財の育成―

急速な技術革新への対応やこれに対応した経営戦略の実行のため、デジタル人財の育成とリテラシーの向上に取り組んでいます。この取り組みでは、まずデジタル人財の基礎となる目標をやり抜くスキルとマインドを習得するために「自己変革プログラム」を実施し、受講者は全世界のグループ会社で5,400名を超えました。

並行して国内では、2022年度から2023年度末までをデジタル人財育成の強化期間とし、デジタルリテラシーに関する研修を実施するとともに、業務部門とDX部門でチームを組み、実践を通してデジタル推進リーダーを育成するプログラムも実施し、受講者は合計で1,100名を超えました。さらに2024年度からは、これらのプログラムに加え、全部門共通で必要とされるデジタル専門スキルをもった人財の育成を促進するため、プロジェクトマネージャとデータサイエンティストを育成するプログラムを開始しました。

 

④ 人財戦略
人的資本に関する戦略

「第2の創業期」にある現在、日立建機グループは、既存事業の拡大に加え、デジタルソリューションを中心とした成長事業の深化と、今後の柱となる新規事業の探索をしてまいります。

上記のような事業構造の大きな変革局面においても、日立建機グループにとって人とは財産・資本、すなわち「人財」であり、会社の成長に欠かせない「人的資本」です。それを「Kenkijin」と称しております。そして、変革が必要な今こそ、Kenkijinが個性・強みを最大限に発揮できるよう、育成の強化や変革に臨む組織・風土の醸成等、数々の取組みが不可欠と考えます。こうした取組みにより会社と事業を変革し、顧客に対する新たな価値を創造して企業価値の向上に努めることが、日立建機グループにおける「人的資本経営」です。

そして、人的資本経営を進める上での基本思想として、2つの思いを特に大切にしております。

第一は、「会社と個人は、対等の関係」です。基礎を成す考え方として従業員と会社は双方にとって「選び・選ばれる関係」と捉えた上で、会社は従業員のキャリア形成や成長を支援することを通じて、新たな価値創造や企業価値の向上につなげていくことをめざします。

第二は、「チームで勝つ」です。成長事業の深化や新規事業の探索等の新たな取組みに、チームで挑んでまいります。特にソリューション・サービスにおいて、現場の従業員がお客さまに寄り添って最適なサービスに気付き提供するには、組織や立場に関係なく一体となったチームが不可欠です。そこで、誰もが個性や強みを発揮できる環境を整えることで、多様な個人の組合せにより「チームで勝つ」ことをめざします。

 


 

 

(5) リスク管理

情報通信技術の発展や地政学リスク、経済情勢の変化など、社会を取り巻く事業環境は日々変化しています。日立建機グループでは、このような事業環境を日頃から把握・分析し、社会的課題や当社の競争優位性、経営資源などを踏まえ、備えるべきリスクと、さらなる成長機会の両面からリスクマネジメントを実施し、リスクをコントロールしながら経営戦略へと反映しています。2022年4月には、全社的リスクマネジメントを担うERM(Enterprise Risk Management)委員会を発足しました。

事業運営を踏まえ全社的な対応方針、経営判断が必要なリスク、グローバルに展開している事業の根幹を揺るがすようなリスクおよび機会について、CSO(最高戦略責任者)をはじめとする経営メンバー主導のもと、全体管理・対策を迅速に対応する体制をとっています。基本的に期1回の開催とし、突発的な全社的リスク対応への要請や、委員長あるいは各委員会・関連部門の要請に応じて、臨時開催も実施します。なお、倫理・法令違反については、コンプライアンス管理委員会で議論し、事案発生防止に向けた啓発、再発防止策の実施を行っています。

2022年度は、ロシア・ウクライナ情勢についてリスク対策本部を立ち上げ、グループ会社を含む方針や対応について迅速に決定し、対応しました。


<ERM委員会を設置>

 

 

(6) 指標と目標

日立建機グループが特定したマテリアリティに対する目標値(2030年度)は、以下のとおりです。

※2023年度の各種実績につきましては、提出会社ウェブサイト、統合報告書等で開示していく予定です。


 

 


 


 

 

3 【事業等のリスク】

当連結グループは、生産、販売、ファイナンス等幅広い事業分野にわたり、世界各地において事業活動を行っています。そのため、当連結グループの事業活動は、市況、為替、ファイナンス等多岐に亘る要因の影響を受けます。

当連結会計年度末現在予見可能な範囲で考えられる主な事業等のリスクは次のとおりです。

 

 

項目

リスク

対策







当連結グループの事業は、需要の多くはインフラ整備等の公共投資、資源開発や不動産等の民間設備投資等に大きく影響を受けます。各地域の急激な経済変動により、需要が大きく下振れするリスクがあり、工場操業度の低下や在庫水準の過不足、競合激化による売価下落等による収益悪化リスクがあります。

需要動向や各地域の市況の変化(災害、法規制、他)による影響を軽減するため、毎月、現地から先々の見通しを取得し、その最新計画をもとに生産工場と連携し生産対応を進めています。

在庫管理においては各個社に基準在庫月数を設定し、機会損失及び在庫過剰とならないよう、適正在庫量をめざして先々を見据えた生産・供給コントロールを行っています。

想定を超える急激な変動が発生した場合には、臨時での販売生産会議を開催し、各業務担当執行役の承認の下、生産対応を速やかに進める対応をとっています。







為替相場の変動は、外国通貨建ての売上や原材料の調達コストに影響を及ぼします。また、連結決算における在外連結子会社の財務諸表の円貨換算額にも影響を及ぼします。通常は外国通貨に対して円高になれば財政状態や経営成績にマイナスの影響を及ぼします。

これら為替変動リスクを軽減するため、現地生産を行い、また、先物為替予約等を行っています。しかし、これらの活動にも関わらず、為替相場の変動は、財政状態や経営成績に悪影響を及ぼす可能性があります。







当連結グループは有利子負債を有しており、市場金利の上昇は支払利息を増加させ、利益を減少させるリスクがあります。また、年金資産に関しても、市場性のある証券の公正価値や金利等の変動が、財政状態や経営成績に悪影響を与えるリスクがあります。

これらの金融市場の変動に対応するため、固定金利調達を行うことにより金利変動リスクの影響を軽減しています。また、年金資産については、運用状況を常に監視し、安全で安定的な運用をめざしています。




調

当連結グループの製品原価に占める部品・資材の割合は大きく、その調達は、素材市況の変動に影響を受けます。鋼材等の原材料価格の高騰は、製造原価の上昇をもたらします。また、部品・資材の品薄時には、適時の調達・生産が困難になり、生産効率が低下する可能性があります。

資材費の上昇については、VEC活動を通じて原価低減に努めると共に、生産においても、自動化やデジタル技術活用による生産性向上で原価低減を図っています。これに加え、製造原価上昇に見合った適正な販売価格の確保に努めることにより対応していきます。

また、部品・資材の品薄時には、代替品への切り替えにより、生産への影響を回避していきます。




当連結グループの主要製品である建設機械は、割賦販売、ファイナンスリース等の販売ファイナンスを行っております。お客さまの財政状態の悪化により貸し倒れが発生し、収益に影響を与えるリスクがあります。

専門部署を設け、極端な債権の集中が生じないように、与信管理や遅延債権管理を徹底して、債権管理にあたっています。







当連結グループの事業活動は、政策動向や数々の公的規制、税務法制等の影響を受けています。具体的には、事業展開する国において、事業や投資の許可、輸出入に関する制限や規制等、また、知的財産権、消費者、環境・リサイクル、労働条件、租税等に関する法令の適用を受けています。これらの規制の強化や変更は、対応コスト及び支払税額の増加により、収益へ影響を与えるリスクがあります。

法務部門が、知的財産や環境等の各部門やグループ各社の法務部門と協力して、各国の法令動向や当連結グループの事業や製品への影響を調査しています。

影響を察知した場合は、必要な部門に情報を提供し、対応に当たる体制を整備しています。

 

 

 

 

項目

リスク

対策









当連結グループが取り扱う建設機械は、気候変動(CO2削減等)及び環境負荷(排ガス、騒音)等の社会問題への対応が求められており、環境規制の適用を受けています。これらの要求に応えるため、開発や、サービス・販売・生産・調達体制の構築といった投資が必要になり、経営に財務的なインパクトを与えるリスクがあります。

環境に配慮した事業運営は、当連結グループが積極的に取り組むべき課題と認識し、より高度な環境対応技術の開発に向けた先行研究やリソースの確保(人財確保、施設導入等)の中長期的な計画を立案すると共に、TCFDのリスク評価及び管理プロセスを導入することで、財務的なインパクトの平準化に努めています。





予期せぬ製品の不具合により事故が発生した場合、製造物責任に関する対処あるいはその他の義務に直面する可能性があり、収益を減少させるリスクがあります。

社内で確立した厳しい基準のもとに、品質と信頼性の維持向上に努めています。

万が一事故が発生した場合に備え、充分な保険を付保して、費用や賠償責任の負担による財務的インパクトを軽減しています。







当連結グループは国際的な競争力を強化するために、販売代理店、供給業者、同業他社等さまざまな提携・協力を講じて製品の開発、生産、販売・サービス体制の整備・拡充を図っています。これらの提携・協力による期待する効果が得られない場合、あるいは紛争や争訟等の結果、提携・協力関係が解消された場合には、業績に影響を与えるリスクがあります。

提携・協力関係を構築する際には、事前調査や契約条件等を精査したうえで慎重に決定する体制と基準を整備しています。万が一、提携・協力関係に障害や解消の必要性等が生じた場合は、法務部門と関係部門が協力して対応し、業績に与える影響を最大限抑制する体制としています。

10






国内外の取引については、安全保障貿易管理法令や国際的な規制が適用されます。当連結グループの製品・技術・顧客・用途等に適用される法令や国際的な規制が変更された場合、取引が継続不能となり、業績に影響を与えるリスクがあります。

国内外の取引においては、当連結グループの製品・技術・顧客・用途等に適用される法令や国際的な規制を精査し、慎重に判断しています。法令や国際的な規制の変更等の動向について、常に情報を収集し当連結グループ内への周知を行う等、確実な法令遵守とリスク管理を行う体制としています。

11








当連結グループは事業活動において、顧客情報・個人情報等に接することがあり、営業上・技術上の機密情報を保有しています。万が一、情報漏洩等の事故が発生した場合には、評判・信用に悪影響を与えるなどのリスクがあります。

また、開発・生産・販売等の拠点を多くの国に設け、それらの拠点とネットワークを介してグローバルに事業を展開しています。近年増加傾向にあるサイバー攻撃による被災等が発生するリスクがあります。

各種情報の取り扱い、機密保持に関する管理体制及び取扱規則を定め、不正なアクセス、改ざん、破壊、漏洩、紛失等を防止する合理的な技術的対策を実施するなど、適切な安全措置を講じています。

また、サイバー攻撃への耐性を向上させるため、サーバーの堅牢化や、工場ネットワークの分離対策を推進すると共に、情報セキュリティの事業継続計画(IT-BCP)の構築を推進しています。加えて経営リスクになり得るサイバー攻撃に関しては、2023年7月に日立建機CSIRT(Cyber Security Incident Response Team)を構築、情報セキュリティ委員会の直下に配属し、グローバルで組織的なサイバーリスク対応を推進しています。

12




当連結グループが提供する製品・サービスが第三者の知的財産権(特許等)に抵触した場合、第三者から訴訟を提起されるリスクがあります。

また、第三者の技術情報を不正に取得・使用した場合、第三者から訴訟を提起されるリスクがあります。

当連結グループは、第三者の知的財産権を尊重する方針のもと、知的財産に関する専門の部門を設置し、第三者の知的財産権を侵害しないように、第三者の知的財産権の監視・対策を実行しています。

また、第三者の技術情報の取得・使用に当たっては、事前の検討と取得後の適正な管理を徹底する体制としています。

 

 

 

 

項目

リスク

対策

13















当連結グループは開発・生産・販売等の拠点を多くの国に設け、グローバルに事業を展開しています。それらの拠点において、地震・水害等の自然災害、感染症の流行、戦争、テロ、事故、第三者による非難・妨害等が発生するリスクがあります。

現在のロシア・ウクライナ情勢による経済活動への影響には不確実性が存在し、当社の事業活動に影響を及ぼすリスクがあります。

災害等により、材料・部品の調達、生産活動、販売・サービス活動に影響が発生する可能性を事前に察知した場合、グループ各社及び取引先と連携して、遅延や中断を最小限に食い止める体制を構築しています。

ロシア・ウクライナ情勢については、常に最新の情報を入手し、従業員の安全確保を最優先の事項として対応すると共に、国の方針や規制の範囲内で当社の事業活動を円滑に継続できるよう対応しています。

 

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

1.経営成績等の状況の概要

(1) 業績

 当連結会計年度において、スペシャライズド・パーツ・サービスビジネスセグメントにおけるノンコア事業を非継続事業に分類しています。これにより、売上収益、営業利益、税引前当期利益は非継続事業を除いた継続事業の金額を表示し、前連結会計年度の金額を組替えて比較及び分析を行っています。

 

① 売上収益

当連結会計年度の連結売上収益は前連結会計年度比11.1%増加1兆4,059億2千8百万円となりました。

 

② 売上原価、販売費及び一般管理費

当連結会計年度の売上原価は、前連結会計年度比9.4%増加9,707億5千8百万円となりました。売上原価の売上収益に対する比率は前連結会計年度より1.1ポイント減少69.0%となりました。

また、販売費及び一般管理費は前連結会計年度比10.7%増加2,671億4千2百万円となりました。

 

③ 営業利益

営業利益は、前連結会計年度より19.9%増加1,626億9千万円となりました。営業利益の売上収益に対する比率は前連結会計年度より0.9ポイント増加し11.6%となりました。

 

④ 金融収益及び金融費用

金融収益及び金融費用は、前連結会計年度の151億1千5百万円の損失(純額)から当連結会計年度56億5千6百万円の損失(純額)と、損失が94億5千9百万円減少しました。これは主に、為替差損が、前連結会計年度107億5千5百万円から当連結会計年度18億6千4百万円と、88億9千1百万円減少したことによるものです。

 

⑤ 税引前当期利益

税引前当期利益は、前連結会計年度より39.5%増加1,604億7千6百万円となりました。

 

⑥ 法人所得税費用

当連結会計年度における法人所得税費用は、前連結会計年度より17.6%増加し、441億8千6百万円となりました。

 

(2) キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度末における現金及び現金同等物は1,435億3千万円となり、当連結会計年度期首より315億3千8百万円増加しました。各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりです。

 

(営業活動に関するキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の営業活動に関するキャッシュ・フローは、当期利益1,162億9千万円をベースに、減価償却費596億9千3百万円、法人所得税費用446億8千4百万円等を計上する一方、棚卸資産の増加637億3千8百万円等の計上がありました。

この結果、当連結会計年度は730億3千5百万円の収入となり、前連結会計年度に比べて収入が991億7千万円増加しました。

 

(投資活動に関するキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の投資活動に関するキャッシュ・フローは、主として、有形固定資産の取得457億2千8百万円、無形資産の取得98億7千5百万円があったことで390億3千5百万円となり、前連結会計年度と比べて支出が36億1千2百万円減少しました。

これにより、営業活動に関するキャッシュ・フローと、投資活動に関するキャッシュ・フローを合計したフリー・キャッシュ・フローは340億円の収入となりました。

 

(財務活動に関するキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の財務活動に関するキャッシュ・フローは、主として、短期借入金の増加279億2千6百万円、社債及び長期借入金による調達534億7千6百万円等があったものの、社債及び長期借入金の返済392億6千8百万円、配当金の支払(非支配持分株主への配当金を含む)375億6千3百万円等により89億1千7百万円の支出となり、前連結会計年度と比べて収入が960億6百万円減少しました。

 

(3) 生産、受注及び販売の実績

① 生産実績

当連結会計年度の生産実績は、次のとおりです。

 

セグメントの名称

生産高(百万円)

前連結会計年度比
(%)

建設機械ビジネス

1,412,729

114

スペシャライズド・パーツ・サービスビジネス

合計

1,412,729

114

 

(注) 1.金額は、販売価格によっています。

2.スペシャライズド・パーツ・サービスビジネスセグメントのビジネスは、マイニング設備及び機械のアフターセールスにおける部品開発、製造、販売及びサービスソリューションの提供を主たる目的としており、ビジネスの性質上、生産実績の記載に馴染まないため、記載を省略しています。

3.当連結会計年度において、生産実績に著しい変動がありました。その内容等については、「第2「事業の状況」4「経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析」2.財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(2) 当連結会計年度の経営成績の分析」をご参照願います。

 

② 受注実績

当連結グループの製品は、そのほとんどが見込生産のため受注実績の記載は省略しています。

 

③ 販売実績

当連結会計年度の販売実績は、次のとおりです。

 

セグメントの名称

販売高(百万円)

前連結会計年度比
(%)

建設機械ビジネス

1,282,273

111

スペシャライズド・パーツ・サービスビジネス

123,655

112

合計

1,405,928

111

 

(注) 1.総販売実績に対し10%以上に該当する販売先はありません。

 

2.財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析

(1) 重要な会計方針及び見積り

当連結グループは連結財務諸表の作成に際し、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、財政状態及び経営成績の金額に影響を与える見積りを行っていますが、特に以下の重要な会計方針が、提出会社の連結財務諸表の作成における重要な見積りに大きな影響を及ぼすと考えています。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

当該仮定は当連結会計年度末時点における最善の見積りであると判断していますが、実際の経済活動の推移が今後この仮定から乖離した場合には翌期以降の重要な会計上の見積りの判断に影響を及ぼす可能性があります。

 

① 棚卸資産

当連結グループは、棚卸資産は取得原価と正味実現可能価額のいずれか低い方の金額で評価しており、実際の将来需要または市場状況が悪化した場合は、評価減が必要となる可能性があります。

 

② 有形固定資産及び無形資産

当連結グループは、有形固定資産及び無形資産について減損の兆候の有無の判定を行い、その帳簿価額が回収不可能であるような兆候がある場合、減損テストを実施しています。将来の営業活動から生ずる損益またはキャッシュ・フローの悪化等により回収可能価額が低下した場合には追加の減損損失の計上が必要になる可能性があります。

また、耐用年数を確定できない無形資産及びのれんについては、減損の兆候の有無にかかわらず、毎年、主に第4四半期において、その資産の属する資金生成単位ごとに回収可能価額を見積もり、減損テストを実施しています。のれんが発生している連結子会社の超過収益力が低下した場合には、追加の減損損失の計上が必要になる可能性があります。

 

③ 営業債権及びその他の金融資産

金融資産については、減損を示す客観的な証拠が金融資産の当初認識後に発生しておりその金融資産の見積将来キャッシュ・フローが帳簿価額を下回る場合、当該金融資産について減損損失が発生する可能性があります。

また、営業債権にかかる減損損失については、事業を行う国あるいは地域の特有な商慣行を含む事業環境に関連した潜在的なリスクを評価した上で算定した将来の回収可能額の見積りに基づいて減損損失を計上しており、将来の市況悪化や取引先の業績不振により、現在の簿価に反映されていない損失または簿価の回収不能が発生した場合、減損損失の計上が必要となる可能性があります。

 

④ 繰延税金資産

繰延税金資産は、未使用の税務上の繰越欠損金、税額控除及び将来減算一時差異のうち、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しています。将来において業績及び課税所得が見積額より悪化した場合、繰延税金資産に対し追加の評価減の計上が必要となる可能性があります。

 

⑤ 退職給付に係る負債

当連結グループは、退職給付制度に基づく確定給付債務及び制度資産の測定に当たっては、数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出しています。これらの前提条件には、割引率、昇給率、退職率及び死亡率などが含まれます。将来において、実際の結果が前提条件と異なる場合、または前提条件が変更された場合、退職給付に係る負債、退職給付費用及び退職給付制度の再測定に影響を及ぼす可能性があります。

 

なお、会計上の見積りを行う上での及びロシア・ウクライナ情勢の影響についての影響の考え方は以下のとおりです。

 

ロシア・ウクライナ情勢の影響について

当連結会計年度末の連結財政状態計算書には当社の連結子会社である在ロシアの日立建機ユーラシアLLC(以下、HCMR)の財政状態計算書が含まれております。

このHCMRの財政状態計算書のうち、主要な項目としては代理店に対して有する売上債権が8,949百万円、棚卸資産が4,857百万円含まれています。売上債権については全期間の予想信用損失を見積り、貸倒引当金を計上していますが、当該見積りは代理店の財政状態やその顧客の属する産業の状況、直近の回収状況等を考慮し、回収期間にわたり直近の状況が継続するとの仮定に基づいております。棚卸資産についても、受注の状況を踏まえた今後の販売計画を考慮した上で評価しております。

当該仮定は当連結会計年度末時点における最善の見積もりであると判断しておりますが、ロシア・ウクライナ情勢による経済活動への影響には不確実性が存在し、実際の経済活動の推移等が見積りから乖離した場合には、翌期以降の会計上の見積りに影響を及ぼし、貸倒引当金及び棚卸資産の評価に重要な変更をもたらすリスクがあります。

 

(2) 当連結会計年度の経営成績の分析

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

当連結グループは、2024年3月期より2026年3月期を最終年度とする3カ年の中期経営計画「BUILDING THE FUTURE 2025 未来を創れ」を新たに策定し、①顧客に寄り添う革新的ソリューションの提供、②バリューチェーン事業の拡充、③米州事業の拡大、④人・企業力の強化、の4つの経営戦略を掲げて、持続的な成長と企業価値の向上に取り組んでいます。

このような取り組みの中で、第4四半期連結会計期間より、IFRS会計基準に則して、スペシャライズド・パーツ・サービスビジネスセグメントにおけるノンコア事業を非継続事業に分類することとしました。これにより、当連結会計年度および前連結会計年度について、売上収益、調整後営業利益(売上収益から、売上原価並びに販売費及び一般管理費の額を減算して算出した指標)、営業利益、税引前当期利益は非継続事業を除いた継続事業の金額を表示し、当期利益及び親会社株主に帰属する当期利益は、継続事業及び非継続事業の合算を表示しています。

当連結会計年度(2023年4月1日~2024年3月31日)における油圧ショベル需要は、市況が低迷している中国において前年度から大幅に減少しました。加えて、主要国での選挙影響等によって顧客の投資意欲の鈍化が見られたアジアや金利の高止まり等の影響を受けている西欧でも減少しました。一方で、日本と北米では安定した公共投資や民間設備投資が追い風となり、堅調な需要水準を維持しました。

マイニング需要は、資源価格が健全なレベルで推移し顧客の高い投資意欲が継続したこと、さらに高い稼働率に伴うオーバーホール需要及び定期メンテナンス需要に支えられ、全体的に堅調に推移しました。

このような環境下、2022年3月から本格的な独自展開を進めている米州事業が前年度比で大幅に増加したほか、これまで注力してきたマイニング事業及びバリューチェーン事業が大きく伸長しました。

これらの結果に為替影響等も加わって、売上収益は2年連続で過去最高を更新する1兆4,059億2千8百万円(対前年同期増減率11.1%)と大幅な増収となりました。

利益項目についても、資材費や物流費を中心としたコスト増加の影響が続いたものの、原価低減や販売価格の引き上げに取り組み、売上収益の増加に為替影響も加わった結果、調整後営業利益は、売上収益同様、2年連続で過去最高を更新する1,680億2千8百万円(同23.0%)と大幅な増益となりました。

また、親会社株主に帰属する当期利益についても、非継続事業における構造改革費用の計上等があったものの、金融収益・費用や持分法投資損益の改善により、過去最高の932億9千4百万円(同32.9%)となりました。

 

① 建設機械ビジネス

当連結会計年度における売上収益は1兆2,823億3千2百万円(同11.1%)、調整後営業利益は1,535億3千8百万円(同23.9%)と増収増益になりました。

米州における独自事業が前年度から引き続き堅調に拡大しているほか、コンストラクション・マイニング事業ともに、新車販売だけでなく部品サービスを中心としたバリューチェーン事業も好調に推移し、前年度比で業績は大幅に伸長しました。

 

② スペシャライズド・パーツ・サービスビジネス

当事業は、主としてマイニング設備及び機械のアフターセールスにおける部品サービス事業を行うBradken Pty Limited及びその子会社と、サービスソリューションを提供するH-E Parts International LLC及びその子会社で構成されています。

当連結会計年度における売上収益は、マイニングの市場環境が堅調に推移した結果、1,298億8千9百万円(同11.4%)と増収になりました。調整後営業利益も、売上収益の増加と為替影響、取り組んできた事業構造改革の結果、高収益事業が伸長したこと等により、144億9千万円(同14.2%)と売上収益を上回る伸びになりました。

 

なお、上記、①②の売上収益については、セグメント間調整前の数値です。

 

 

また、変化に強い企業体質づくりと成長戦略の刈取りを促進すべく策定した2023年度から3か年の中期経営計画の達成・進捗状況は、以下のとおりです。

 

指標

2023年度目標

当連結会計年度実績

前連結会計年度比

収益性

営業利益からその他の収益及びその他の費用を除いた利益率13%以上をめざす

12.0%

1.2%pt増

効率性

ROE13%以上をめざす

13.1%

2.1%pt増

ネットD/Eレシオ

0.4以下をめざす

0.57

0.03減

株主還元

連結配当性向を30%~40%を目安とする

34.2%

0.9%pt増

 

(注) 2023年度目標の前提となる為替レートは、米ドル141円、ユーロ152円、人民元20.1円、豪ドル95円としています。

 

(3) 経営成績に重要な影響を与える要因

当連結グループに与える業績変動要因、並びに国内外の政治的・経済的変動及び需要変動による影響については3[事業等のリスク]に記載のとおりです。

 

(4) 財政状態の分析

[資産]

流動資産は、前連結会計年度末に比べて、18.6%1,686億4千5百万円増加し、1兆775億5千万円となりました。これは主として棚卸資産が1,015億3千7百万円、営業債権が40億8千3百万円増加したことによります。

非流動資産は、前連結会計年度末に比べて、5.5%393億5千7百万円増加し、7,574億5千5百万円となりました。これは主として、有形固定資産が542億1千万円増加したことによります。

この結果、資産合計は、前連結会計年度末に比べて、12.8%2,080億2百万円増加し、1兆8,350億5百万円となりました。

 

[負債]

流動負債は、前連結会計年度末に比べて、18.4%1,128億7千8百万円増加し、7,277億4千8百万円となりました。これは主として社債及び借入金が853億5千8百万円、営業債務及びその他の債務が178億9千6百万円増加したこと等によります。

非流動負債は、前連結会計年度末に比べて5.9%182億4千9百万円減少し、2,928億4千4百万円となりました。これは主として社債及び借入金が172億4千3百万円減少したことによります。

この結果、負債合計は、前連結会計年度末に比べて10.2%946億2千9百万円増加し、1兆205億9千2百万円となりました。

 

[資本]

資本合計は、主に利益剰余金の積上げにより前連結会計年度末に比べて、16.2%1,133億7千3百万円増加し、8,144億1千3百万円となりました。

 

(5) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
① キャッシュ・フロー

当連結グループのキャッシュ・フローの分析・検討内容は、1.経営成績等の状況の概要(2) キャッシュ・フローの状況に記載のとおりです。

 

 

② 資本の財源及び資金の流動性

当連結グループは、成長投資の実行と財務の健全性向上及び株主還元を最適なバランスで行うため、資本効率を高めつつ適切な水準の流動性を維持し、調達手段の多様化を図ることとしています。

資金調達にあたっては、長短、直間のバランスを考慮し金融機関からの借入や社債の発行を実施すると共に、債権の流動化等による調達手段の多様化を図っています。また、コミットメントライン契約を締結し適切な水準の流動性を確保する様にしています。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 業務提携契約

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約品目

契約内容

契約期間

日立建機株式会社

株式会社クボタ

日本

ミニショベル

OEM購入

1995年4月19日から2005年5月16日まで

以後2年毎の自動更新

日立建機株式会社

ベル エクイップメントLtd.

南アフ
リカ

アーティキュレートダンプトラック

サトウキビ・森林伐採機

OEM購入

2000年9月5日から5年間

以後1年毎の自動更新

日立建機株式会社

ディア アンド カンパニー

米国

油圧ショベル及び関連部品

OEM供給

2022年3月1日から5年間

以後相手方の申し入れにより延長可能。

 

 

(2) 技術提携契約

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約品目

契約内容

契約期間

日立建機株式会社

株式会社中山鉄工所

日本

自走式クラッシャ

1 共同開発

2 部品の相互供給

1 1993年9月1日から2年間

以後1年毎の自動更新

2 1995年7月25日から1995年12月1日まで

以後1年毎の自動更新

 

 

(3) その他の契約

 

契約会社名

相手方の名称

国名

契約内容

契約期間

日立建機株式会社

株式会社日立製作所

日本

移行サービス契約

原則として2023年8月23日から1年間

日立建機株式会社

株式会社日立製作所

日本

日立ブランドに関する使用許諾

2023年8月23日から1年間を経過する日の属する月の末日まで

日立建機株式会社

HCJIホールディングス株式会社

日本

資本提携契約

2022年1月14日から無期限

日立建機株式会社

Weld Holdco 他

米国

ACME社の持分移転と紛争等の解決

 

 

 

6 【研究開発活動】

当連結グループは、新たな付加価値の創造、品質・信頼性の向上を目的に、新技術や新製品の開発を積極的に推進しています。研究・開発本部の先行開発センタを主体に、研究・開発、生産・調達、品質保証の各本部、及びグループ会社の研究開発従事者が、緊密な連携を取りながら研究開発を推進しています。また、広範かつ高度な技術獲得のため、株式会社日立製作所、国内外の大学との依頼研究、共同研究を行っており、これらの研究活動を通して、高度技術人財の育成を同時に図っています。

当連結会計年度の研究開発費の総額は、31,425百万円です。

セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりです。

 

(1) 建設機械ビジネス

基軸製品である油圧ショベル、超大型ショベルに加え、ミニショベル、ホイールローダ等において、次期排ガス規制に対する技術開発を進めているほか、「低炭素」をキーワードに、クリーン化、省エネルギー化を考慮した製品開発を進め、国内の特定特殊自動車(オフロード法)排出ガス基準に適合した中型油圧ショベル、ホイールローダ、道路機械を開発しています。

2023年8月には、杭打ち工事などに用いられるリーダレス型基礎機械RX3300-7を日本国内向けに受注を開始しました。従来モデルRX3300-3から15年ぶりのモデルチェンジとなるRX3300-7は、当社の独自技術により簡単な操作で精度の高い杭打ち作業が可能であるほか、油圧システム「TRIASⅢ(トライアス スリー)」および周囲環境視認装置「AERIAL ANGLE(エアリアル アングル)」の搭載により、お客様の作業効率と安全性の向上に寄与します。

2023年9月には、2014年の特定特殊自動車(オフロード法)排出ガス基準に適合した、新型ホイールローダZW-6シリーズとして、ZW330-6、ZW550-6の2機種を日本国内向けに受注を開始しました。両機種にてエンジン回転数を最適に制御する「アクティブエンジンコントロール」の改良により燃費性能を改善したほか、ZW330-6はエンジン制御の最適化によるスムーズな積み込み作業およびエネルギーを機体にダイレクトに伝える「ロックアップトルクコンバータ」の標準搭載による登坂走行時(5%勾配)の最高速度の従来機からの向上を実現し、ZW550-6はエンジンレスポンスの改善による作業量の向上を実現しています。また、両機種にて排出ガスの後処理装置にPM除去フィルタレスの「尿素SCRシステム」を採用したことで、定期的なPM除去フィルタの清掃や交換などのメンテナンスが不要となり、長期的なメンテナンスコストやメンテナンス中のダウンタイムの低減と環境性能の向上を実現しています。

2023年11月には、2014年の特定特殊自動車(オフロード法)排出ガス基準に適合した、12tクラスのホイール式油圧ショベルZX125W-7を日本国内向けに発売しました。燃費低減と高い作業性を実現する最新油圧システム「HIOS Ⅴ(ハイオス ファイブ)」を搭載することにより、複合動作や高負荷時の操作性を維持しつつ、燃費性能を向上しました。新機能の「エコガイダンス」は、現場状況に応じて推奨される作業モードなどをメッセージで表示し、燃料消費を抑えた運転操作を支援します。また、新機能として、車体の停止に合わせて作業ブレーキが作動する「オートワーキングブレーキシステム」、走行時に走行モードの変速を自動で行う「オートマティック・トランスミッション」を追加し、新設計の運転室の採用とあわせ、作業時の利便性や快適性を向上し、オペレータの負担も軽減します。

2023年12月には、2014年の特定特殊自動車(オフロード法)排出ガス基準に適合した、新型油圧ショベルZAXIS-7シリーズとして、50tクラスの大型油圧ショベルZX470-7と、同機種の重掘削仕様機をベースとするZX530LCH-7を日本国内向けに受注を開始しました。両機種ともに高出力のエンジンと新型油圧システムを搭載することにより、従来機から作業量および燃費性能を向上し、ランニングコストの低減を実現しています。また、運転室内はシートのデザインやペダルのレイアウトを、人間工学を元に人体への負担を抑えるよう設計したことで、オペレータの疲労軽減に寄与しています。

2024年1月には、2014年の特定特殊自動車(オフロード法)排出ガス基準に適合し、作業性能の向上と燃費低減を両立させた16tクラスの油圧ショベルZX160LC-7と、24tクラスの油圧ショベルZX240-7の2機種を、日本国内向けに受注を開始しました。ZX160LC-7は油圧システム「HIOS Ⅳ(ハイオス フォー)」、ZX240-7は最新油圧システム「TRIAS Ⅲ」を搭載し、作業負荷やオペレータの操作量に応じて最適な油圧制御を行うことで、低燃費と高い作業性を実現しています。両機種ともに「AERIAL ANGLE」を標準搭載し、安全性の向上に寄与します。また、遠隔から機械の状態診断とソフトウエア更新を行うサービスソリューション「ConSite Air(コンサイト エアー)」を適用し、ダウンタイムの抑制に貢献します。さらに、居住空間を拡大した新設計のキャブを採用し、ロックレバーやマルチモニタ、各種スイッチなどのレイアウトを改善することで、オペレータの居住性と操作性を向上しています。

併せて、同2024年1月に、中型ホイールローダZW180-7、ZW220-7の2機種を、日本国内向けに受注を開始しました。中型ホイールローダとしては約8年ぶりのモデルチェンジとなる両機種では、積み込み作業時の走行速度を自動で制限する「アプローチスピードコントロール」を新たに搭載し、操作性の向上と低燃費を実現しました。また、「AERIAL ANGLE」と、バケット内の積載重量を計測できる荷重判定装置「ペイロードチェッカー」をそれぞれ標準搭載することで、安全性と生産性の向上にも寄与します。また、「ConSite Air」を適用し、ダウンタイムの抑制に貢献します。さらに、電気式フロント操作レバーの採用などでオペレータの操作性の向上、フィルタの交換頻度を減らすことでメンテナンス費を削減します。

2024年2月には、東南アジア市場向け油圧ショベルZAXIS-7GシリーズのZX350-7G、ZX490-7G、ZX690-7G、ZX890-7Gの4機種を、タイ向けに受注を開始し、東南アジア各国で順次受注を拡大する予定です。油圧効率の向上や燃費低減の実現、「AERIAL ANGLE」および「ConSite Air」への対応により、お客様の課題に対応します。

 

提出会社は、さまざまなビジネスパートナーとのオープンイノベーションによる連携を推進します。身近で頼りになるパートナーとして、社会課題を解決するソリューション「Reliable Solutions」を、お客さまと協創し提供していくと共に、環境価値・企業価値の創出に努めていきます。

当連結会計年度の建設機械ビジネスにおける研究開発費は、28,297百万円です。

 

当連結会計年度の主な成果は、次のとおりです。

リーダレス型基礎機械RX3300-7

大型ホイールローダZW330-6、ZW550-6

ホイール式油圧ショベルZX125W-7

大型油圧ショベルZX470-7、ZX530LCH-7

中型油圧ショベルZX160LC-7、ZX240-7

中型ホイールローダZW180-7、ZW220-7

東南アジア市場向け油圧ショベルZX350-7G、ZX490-7G、ZX690-7G、ZX890-7G

 

(2) スペシャライズド・パーツ・サービスビジネス

マイニング設備向けの事業では、交換性、摩耗寿命、安全性を考慮した、競争力の高いバケット消耗品の爪やマイニングショベル用の足回り製品の開発を行っています。

また、お客さまの生産性向上に寄与する、油圧ショベルの特性とお客さまの掘削条件を反映した高効率バケットの製品化開発も行っています。

固定プラント及び鉱物加工向けの事業では、電子厚さ測定装置やレーザースキャニング技術とディスクリート素子モデリングソフトウェアを使用して製品の設計を最適化し、ミルライナーや表面摩耗の寿命を延ばし、処理能力を向上させる開発を行っています。また、IoTを活用した製品ソリューションの提供についても研究を進めています。

当連結会計年度のスペシャライズド・パーツ・サービスビジネスにおける研究開発費は、3,128百万円です。