第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 経営方針・経営戦略等

① 当社グループミッション等

当社グループでは、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッション(存在意義)のもと、「健康で快適な生活」と「環境との共生」の実現を通して、社会に新たな価値を提供することをグループビジョン(目指す姿)として掲げています

また、グループバリュー(共通の価値観)として「誠実」「挑戦」「創造」を定めており、すべてのステークホルダーの皆様に対し「誠実」に経営することを通じて、社会の課題解決や事業環境の変化に積極果敢に「挑戦」し、絶えず新たな価値を「創造」することで、事業を通じて企業の社会的責任を果たしていくことを基本方針としています

 

② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等

<経営環境・経営課題>

当社グループは、創業以来100年間、「生活基盤の確立」「物資豊富な生活」「豊かで便利・快適な生活」「新興国での需要」といった各時代のニーズに応えてきました。

国連で採択された「SDGs」(持続可能な開発目標)に象徴されるように、社会課題に対する意識は世界的に高まっています。近年、人びとの価値観は大きく変化し、社会課題や環境課題が顕在化しています。いのちや健康、衛生に対する意識が高まるとともに、リモートワークの普及などを通じて人びとの働き方や暮らしが大きく変わり、個人の生きがい、働きがいがより一層重要視されるようになりました。また、「誰一人取り残さない」というSDGsの原則にあるように、自社のみならず、取引先を含めたサプライチェーン全体における人権尊重の取り組みが、企業活動の前提として求められています

地球環境への関心も高まっており、特に気候変動リスクの主要因である温室効果ガスの排出量の削減は、人類の喫緊の課題です。また、プラスチックについて、不適切な廃棄による環境汚染問題や資源の有効活用の観点などから、海洋プラスチック汚染対策やサーキュラーエコノミー(循環型社会)に向けた取り組みが求められるなど、各国での規制がより一層強化されています。

これらの課題は1つの企業・産業で解決できないものも多く、企業や産業を超えた共創が益々重要になってきます。例えば、住宅とエネルギー、医療と住宅等のように、これまでの産業の境界を越えて相互に関連しあうテーマ・課題が多く存在しています。また、デジタル技術の急速な進歩普及が、これらの共創を加速させ、産業間の垣根は益々低くなっていくことが予想されます。このような環境は、マテリアル・住宅・ヘルスケアの3つの領域を持つ当社にとっては大きな事業機会であると認識しています。当社は、3つの領域にまたがり人財・コア技術・マーケティングチャネル等、多様な資産を有しており、これらをデジタルの力で繋げ、活かすことで、当社独自のアプローチで社会課題の解決に貢献できると考えています。不確実性の高い時代だからこそ、当社の持つ多様な資産を最大限活用しながら先手を打ち、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つのサステナビリティの好循環を追求していきます。

 

ⅰ サステナビリティマネジメントの強化

当社グループは、2021年度に「サステナビリティ基本方針」を制定しました。これは、サステナビリティに関する方針をより具体的に記述することで、当社グループの方針を明示するとともに、サステナブルな社会の実現に向けた行動を一段と推進していくことを狙いとするものです

 


 

経営方針・経営戦略>

● 旭化成の2030年の目指す姿

COVID-19をはじめとする社会の大きな変化は、人類が取り組むべき課題を浮き彫りにしました。その課題は、当社が掲げてきた「Care for People」「Care for Earth」(人と地球の未来を想う)と重なるものであり、世界共通の課題の解決に向けた貢献を加速させていきます。当社は5つの価値提供分野として、カーボンニュートラル/循環型社会に貢献する「Environment & Energy」、安全・快適・エコなモビリティに貢献する「Mobility」、より快適・便利なくらしに貢献する「Life Material」、人生を豊かにする住まい・街に貢献する「Home & Living」、生き生きとした健康長寿社会に貢献する「Health Care」にフォーカスして事業展開を進めています。

 

我々が直面する課題は、産業の垣根が低くなるにつれて、様々な業界にわたって相互に関連してきます。これは多様な事業を持つことで、様々な分野での知見を有する当社にとって大きな事業機会であると認識し、この事業機会に対して当社グループの「コア技術」「変革のDNA」「多様な人財」を以て、更なる成長を目指します。その結果として、2030年近傍には、営業利益4,000億円、ROE15%以上、ROIC10%以上を展望します。また、当社グループのGHG排出量目標として2013年度比で30%以上の削減を目指します


 

 

・ 中期経営計画2024 ~Be a Trailblazer~の進捗状況

2022年4月に発表しました中期経営計画2024 ~Be a Trailblazer~(以下、「中計」)は、2030年の目指す姿に向けたファーストステップと位置づけ、利益成長、ROE、ROICを重要指標として、「次の成長事業への重点リソース投入」と「成長投資の刈り取りと戦略再構築事業の改革」による事業ポートフォリオ進化を進めています。中計2年目となる2023年度は、石油化学品における市況・需要の低迷や、LIBセパレータ事業における車載向けの拡販遅延、及び民生向け需要の低迷が影響し、営業利益は1,407億円と当初の想定を下回りました。経営環境は徐々に改善すると見込んでおり、中期的な視点で成長を目指すスタンスは変わっておらず、再び成長軌道へ回帰させることを目指します。2024年度の業績予想は営業利益:1,800億円、ROE:5.5%、ROIC:4.5%となっています

 

ⅰ 事業ポートフォリオ進化の基本方針

事業ポートフォリオの進化にあたっては、“成長の為の挑戦的な投資”と“構造転換や既存事業強化によるフリー・キャッシュ・フローの創出”の両輪を回すことが重要と考え、「スピード」「アセットライト」「高付加価値」の3つを強く意識して推進しています。「アセットライト」については、旧来の設備産業的な考えにこだわらず、各事業に応じて最適なビジネスモデル、スキームを追求していきます。この考え方には2つの視点があり、既存事業の視点では、既に保有しているアセットの最大活用による利益創出を目指します。特にマテリアル領域ではカーボンニュートラルに向けたGHG排出量削減の視点から、EXITの可能性等も含めた検討を進めています。また、新規事業の立ち上げの視点では、研究開発投資を一から自前で行い、事業化の設備も自己所有で行うことにはこだわらず、他社資本の活用など、最適な資本のかけ方を追求していきます。新規事業展開において「アセットライト」を志向することは「スピード」の向上にも繋がり、結果的に旭化成が優位なポジションを築ける分野にフォーカスされ「高付加価値」に繋がると考えています

具体的な事業ポートフォリオマネジメントとしては、事業を主に「成長性」と「収益性・資本効率」の2軸で評価を実施し、4象限それぞれのポジションに応じた戦略を立案しアクションを実行しています。4象限の右上を「重点成長」と位置づけ、M&Aも活用しながら積極的な拡大施策を展開しています。また将来の成長事業としての潜在性が高い事業が右下の「戦略的育成」事業であり、本中計期間においては特に蓄エネルギーのセパレータについての拡大施策に注力しています。一方、4象限の中でも左下に位置する「収益改善・構造転換」事業については構造改革を加速させており、次の2つのアプローチで進めています。

① より筋肉質な事業への転換や、これまで培ってきたノウハウや顧客基盤の最大活用を通じて資本効率の改善

② 事業売却や撤退を通じて、今後成長が期待される事業に人財、資金、技術・事業基盤をシフトさせる事でのグループとしての生産性向上

現状では②の視点を重視し、先手を打って事業の撤退や売却を進め、リソースをハイポア™やヘルスケア等の分野へシフトさせる事に注力しています。


 

ⅱ 成長戦略

中期経営計画2024においては、次の成長を牽引する10の事業を「10のGrowth Gears(以下、GG10)」として設定しました。Growth Gearには旭化成の成長を回すギアとともに、社会の変革を回していくギアという2つの意味を込めており、持続可能な社会の実現への貢献を加速していきます。「次の成長の為の挑戦的な投資」をGG10にフォーカスする考え方は変わりませんが、業績が想定を下回っている状況も踏まえGG10の中でもリソースアロケーションの優先順位をより明確にして推進しています。ヘルスケア領域における「クリティカルケア」、「グローバルスペシャリティファーマ」、「バイオプロセス」と、マテリアル領域のライフイノベーション事業の「デジタルソリューション」を“重点成長”分野と位置づけ、過去投資からの利益刈取りに注力しながらも、非連続成長を含む積極投資を継続させる予定です。環境ソリューション事業における「水素関連」、「CO2ケミストリー」、「蓄エネルギー(セパレータ)」の3つは、先行的投資の側面が強い“戦略的育成”分野と位置付けています。GG10のそれ以外の事業は“収益基盤拡大”分野と位置づけ、安定収益創出を維持しながら、その収益基盤を確度高く強化できる投資を検討しています。

各事業分野の進捗については、ヘルスケア、住宅の成長事業については計画に沿った利益成長を見込んでおり、拡大投資も想定通りに実施予定です。一方、マテリアルの環境ソリューションはハイポア™における中期視点での成長機会がよりクリアになったことを踏まえ、投資額が増加する一方で利益が低迷しています。足元では電気自動車の市場に不透明感が出ていますが、中期的な成長期待は変わらず、設備の稼働を高めて販売を拡大させることでの利益回復を目指します。デジタルソリューションについては汎用的な製品が市場の影響を受けたことで利益成長が鈍化しましたが、最先端半導体プロセス向けでの高い成長が期待できる感光性樹脂材料「パイメル」の増産を決定するなど、中期的な成長を追求します。自動車内装材については市場の成長鈍化の影響で一時低迷していましたが、需要の回復にあわせて順調に成長しています。


 

 

ⅲ 構造転換や既存事業強化からのフリー・キャッシュ・フロー創出

当初計画より業績が下回る状況を鑑み、事業の構造転換をこれまで以上に加速しています。中計期間中においては売上高で合計1,000億円以上の事業の改革実行を目指しています。既に約400億円の事業は実行済であり、追加で約1,000億円程度に相当する複数の事業の検討に着手しており、目標は達成できる見通しです

また、中期視点での石油化学チェーン関連事業(売上高6,000億円規模)に関しては、水島のナフサクラッカーを起点とした事業は、西日本におけるパートナー候補と検討を開始しており、2024年度中には改革の方向性を明確にする予定です。ナフサクラッカーとつながりが薄い事業についてはベストオーナー視点での検討を加速しており、早ければ2024年度中の意思決定を目指します


 

ⅳ 財務・資本政策

(外部環境・課題)

2022~2023年度は事業環境悪化により、営業キャッシュ・フローは当初想定より減少しました。このような状況においても、中長期的な成長に資する案件への投資は、採算性をより精査しながら着実に実行しています。財務健全性を示すD/Eレシオは想定の水準を維持できているものの、生産性向上やコスト削減などによる体質強化を図り、アセットライトを意識した事業モデルへの転換などを通じて、当社グループのキャッシュ創出力や資本効率を持続的に高めていきます

 

(具体的な方針・戦略)

■ 資金の源泉と使途の枠組み

中計3年間のトータルとして、営業キャッシュ・フロー、投資キャッシュ・フローのいずれも、計画していた水準と変わっていません。投資キャッシュ・フローに関しては、中計で計画している成長戦略に沿った、M&Aを含む投資を実行した場合の想定として8,000~9,000億円と見立てています。また株主還元については、3年間累計の還元総額で1,500億円~となる見込みです。資金調達は有利子負債で行うことを基本とし、現段階では2,500~4,500億円の増加を見込んでいますが、事業売却や投資の際の他社資本活用など、より戦略的観点でのキャッシュ手当も積極的に検討しています。D/Eレシオは0.7程度、ネットD/Eレシオ0.6程度を見込んでおり、十分な財務健全性を維持できると考えています。


 

 

■ 設備投資・投融資

意思決定ベースの投資額として、中計3年間の累計として約1兆円超を計画し、その中でGG10は約6,000億円と見立てていました。現時点での見通しとしましては、ハイポア™の北米展開によりGG10の投資規模が約7,000億円と増加する一方、GG10ではない事業については必要性を精査して圧縮を進めています。総額としては円安の影響もあり、当初計画よりも微増という水準になりますが、他社資本や補助金を戦略的に活用し、また案件ごとにハードルレートを明確に定めた上で「環境価値」「投資効率」「投資スキーム」の視点を重視することで、財務規律を更に強化した投資判断を徹底していきます


 

■ 株主還元

2023年度は石油化学関連事業を中心とした減損損失計上により当期純利益が大きく落ち込みましたが、配当を通じた安定的な株主還元を実現する方針を重視し、1株当たり配当金は36円と前年と同額としています。引き続き安定的な株主還元を行う方針は堅持し、1株当たり配当金は現状水準の維持・向上を予定しています。自己株取得は資本構成適正化に加え、投資案件や株価の状況等を総合的に勘案して検討・実施していきます。配当政策については、「第4 提出会社の状況 3 配当政策」と合わせてご参照ください。

 

■ 資本効率の改善と企業価値の向上

現中期経営計画ではこれまで以上に資本効率を重要視しています。PBRについては2021年度以降1倍を下回る状況が続いていますが、2022年度末のPBRと比較して2023年度末は改善しています。自己資本は当期純利益が低迷している中で、還元は維持しているものの、為替換算調整勘定の影響でここ数年増加しています。PBRを分解したROEとPERについては、収益低迷と減損によりROEが想定株主資本コストの8%を下回っています。これらの指標の状況を踏まえて、改善に向けて次の5つの取り組みに注力しています

①ポートフォリオ変革加速

②収益力向上

③投資マネジメント強化

④資本コスト低減

⑤資本構成の最適化

この中でも特に「ポートフォリオ変革加速」と「収益力向上」に重点的に取り組んでおり、それらを通じたPBR水準の向上を追求します。


 

ⅴ 経営基盤の強化

経営環境の不透明さが増す中では、事業を支える土台となる経営基盤をより強固にすることが重要であると考えています。経営基盤強化として、「無形資産の最大活用」「Green(グリーントランスフォーメーション)」「Digital(デジタルトランスフォーメーション)」「People(人財のトランスフォーメーション)」「リスクマネジメントの強化」「コーポレート・ガバナンスの最適化」について重点的に取り組んでいます。

 

 

■ 無形資産の最大活用

当社グループでは、3領域にまたがり、人財、コア技術、マーケティングチャネル等、多様な無形資産を持ち、活用できることが強みであり、デジタルを活用し、これらの無形資産を最大限コネクトさせることによって、戦略構築や新事業の創出を推進しています

具体例はマテリアル領域の取り組みである「P-PaaS: Product based Platform as a Service」です。単なるモノ売りではなく、当社ノウハウや、顧客接点等の無形資産を活かしたソリューション型事業への転換に取り組んでいます。旭化成の素材・製品の付加価値をベースとして、顧客の価値向上となるプラットフォームを提供するというコンセプトをP-PaaSと表現し、その可能性を追求しています。例えばイオン交換膜法食塩電解プロセスにおいてスマート電解槽により予兆保全・最適運転提案といったデータドリブン型サービスを提供するなど、単なるモノ売りではないソリューション型事業も拡大させています

無形資産の更なる活用に向けて、従来のモノ売りビジネスとは異なる新たな収益モデルのアプローチとして、テクノロジーバリュー事業開発(TBC)の取り組みも開始しました。これは、当社グループに蓄積した膨大なテクノロジーからなる、パテント、ノウハウ、データ、アルゴリズム等の無形資産を価値化し、ライセンスに限定しない様々な形態で、スピード&アセットライトを両立する収益化を目指すものです。従来型のビジネスモデルに比べて、TBCでは、設備投資の抑制、共創の段階から早期収益化、環境変化への迅速な対応が可能になると考えています。現在取り組んでいる事例としては、リチウムイオンキャパシタ(LiC)技術のライセンスを中心とした多用途展開や、超イオン伝導性電解液技術の電池メーカーへのオファー実施等の実績があります。

また、当社グループでは、従来から知財情報の戦略的活用を志向しており、事業戦略に知財情報を活用するIPランドスケープ(以下、IPL)活動を全社的に推進してきました。知財部門の強みであるIPLと知財の実務能力を融合させることで、知財部独自の視点に立った事業戦略モデル案の策定・提言活動を実施しています。

企業の強みとなる無形資産を活用して競争力の維持・強化を図り、中長期的な企業価値を創造するサステナブルなビジネスモデルを構築し、それを巡る企業経営者と投資家との間の相互理解と対話・エンゲージメントを促進させる必要性が増し、企業価値向上に知財面から貢献する意義が益々高まってきました。上記の背景から、当社グループでは2022年度に社長直下に知財インテリジェンス室を創設し、無形資産の多面的な可視化による情報解析等を通して、経営・事業戦略策定に貢献しています。今後も、グループ全体での無形資産の活用をさらに加速し、企業価値向上に繋げていきます

 

■ Green(グリーントランスフォーメーション)

・ カーボンニュートラルでサステナブルな社会の実現に向けた活動

(温室効果ガス(GHG)の削減)

当社グループは持続可能な社会の実現に向けて、2050年時点でのカーボンニュートラル(実質排出ゼロ)を目指すこと、また、2030年に2013年度対比でGHG排出量を30%以上削減する目標を、2021年に表明しました。当社グループの事業活動に直接関わるGHG排出量であるScope1(自社によるGHGの直接排出)、Scope2(他社から供給された電気・熱・蒸気の使用に伴う間接排出)の排出量が対象です。カーボンニュートラルの実現に向け、エネルギー使用量の削減、エネルギーの脱炭素化、製造プロセスの革新、高付加価値/低炭素型事業へのシフトなど、様々な取り組みを加速させていきます。取り組みにおいては、グループ全体を俯瞰して進めるために2022年度に設置したカーボンニュートラル担当の役員(2024年度からは「GX担当」役員)とカーボンニュートラル推進プロジェクトを中心に、施策等を整理しながら進めています。カーボンニュートラル推進プロジェクトでは、グループ内のGHG削減計画やその前提となるシナリオ分析を取りまとめ、グループ全体の観点での妥当性の検討などを実施しています

 

GHG排出量削減への具体的な取り組みの重要な柱であるエネルギーの低炭素化・脱炭素化においては、次のような取り組みを進めています。まず、自社で保有している火力発電所の燃料の転換等の施策を進めており、燃料を従来の石炭から液化天然ガス(LNG)に転換する工事を行ってきた火力発電所を2022年3月に完工させ、発電所の運転に伴うGHG排出量の削減を実現させました。また、過去数十年にわたって活用してきた水力発電設備について、グリーンボンドによる資金も活用しながら、今後も長く活用できるよう、設備の更新と効率化の工事を順次進めています。太陽光発電に関する取り組みも進めており、事業子会社の旭化成ホームズ㈱では、賃貸住宅「ヘーベルメゾン™」の屋根に太陽光発電設備を設置し、発電した電気を事業に活用しています。さらに、社外から電力を購入している国内外の工場では、証書、クレジット等を活用し、電力に関するGHG排出量の削減に取り組んでいます

以上のような自社のGHG排出量の削減への注力に加え、当社グループでは製品やサービスでバリューチェーン全体のGHG排出量削減に貢献することも重要なテーマとして取り組んでいます。当社では第三者専門家の視点を入れて妥当性を確認した、GHG排出量削減効果を期待できる製品・サービスを「環境貢献製品」として拡大・普及することを進めています。2023年度までの累計で、23の「環境貢献製品」を社内認定しています。これらの「環境貢献製品」によるGHG削減貢献量を、2030年度には2020年度の2倍以上とし、また売上高に占める割合も高めていくことを目標としています

「環境貢献製品」に位置づけられていくような新たな事業の創出は当社グループが注力するところです。例えば、持続可能な炭素・水素循環型社会の実現へ向けて、当社は事業化への取り組みを進めています。詳細は、「6 研究開発活動 3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体(「全社」) ①炭素・水素循環型社会実現への貢献」をご参照ください。水素に関しては、米国の連邦、州、自治体の各政府機関の脱炭素化を水素を活用して支援するために設立された「日本水素フォーラム」へも参画しました。

持続可能な社会に向けては、社外との連携を含めた様々な切り口からの取り組みが考えられます。そこで当社グループでは、新たな取り組みとして、「Care for Earth」投資枠を設定しました。水素、蓄エネルギー、カーボンマネジメントなどの環境分野の課題解決に取り組むアーリーステージのスタートアップ企業を対象に、2027年度までの5年間にグローバルで1億ドルの出資を実施していこうというものです。2023年10月には、第一号案件となる、非化石由来のレザーを開発する米国のスタートアップNFW社への出資に参画しました。

以上のような事業活動での取り組みの他、関連する基盤の整備も進めています。当社グループのGHG排出量の削減はもとより、製品のバリューチェーン全体でのGHG排出量削減を進めるためには、当社製品に関わるGHG排出量を的確に把握することが必要です。そこで、製品のカーボンフットプリント(原料採掘から製品生産までのGHG排出量)算定に関する取り組みを主要製品で推進するとともに、算定のシステム化も進めました。

なお、当社では、気候変動が企業の財務に与える影響を分析し開示するよう求める「TCFD提言」の枠組みに基づく検討を行い、結果を開示しています。詳細は、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ共通 ②気候変動関連」をご参照ください

 

 

(サーキュラーエコノミーへの対応)

当社グループでは、限りある資源を持続可能なものとして活用していくための取り組みを進めています。例えば、世界で広く用いられている汎用プラスチックの1つであるポリスチレンについて、グループ会社のPSジャパン㈱が2023年8月にケミカルリサイクルの実証プラントを本格稼働しました。また、同様に汎用プラスチックであるポリエチレンについては、消費財メーカー、成型メーカー、リサイクル業者等のサプライチェーンの関係者や大学と協力し、リサイクル技術の開発に関する取り組みを推進しています。さらに、自動車向けエアバッグや自動車部品等に使用されるポリアミド66について、マイクロ波化学株式会社と共同で、マイクロ波を用いたケミカルリサイクルの実証試験を開始しました

使用済みプラスチックを廃棄物とせずに資源として活用していくためには、消費者も含めた社会全体での資源循環の取り組みが必要です。そこで当社では、プラスチックの循環を可視化するプラットフォーム「BLUE Plastics(Blockchain Loop to Unlock the value of the circular Economy、ブルー・プラスチックス)」の開発を進めています。2023年6月には、株式会社ファミリーマート、伊藤忠商事株式会社、伊藤忠プラスチックス株式会社、コカ・コーラ ボトラーズジャパン株式会社との協業で、株式会社ファミリーマートの都内店舗での実証を行いました。消費者が使用済みペットボトルを回収BOXに投函したあと、それがリサイクル素材に加工されるまでを、消費者のスマートフォンのアプリでトレース(追跡)できるサービスの実証実験です。この取り組み等を通じて、デジタルプラットフォームによるトレーサビリティの価値の確認など、プラスチック資源循環の可能性を引き続き検討していきます

また、当社グループでは複数の製品について、持続可能な製品の国際的な認証制度の一つであるISCC PLUS認証を取得しました。当認証は、製品がバイオマス原料や再生原料等を使用して製造されていることを、サプライチェーンでのマスバランス方式管理の観点も含め、第三者機関が確認・認証するものです。今後、当社グループは、顧客や社会からの期待に応じ、当認証取得製品を提供していきます。なお、プラスチックや循環経済に関する諸課題への対応は、同業他社を含むバリューチェーンの各社での共通的なテーマでもあることから、当社グループはCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)、循環経済パートナーシップ(J4CE)、サーキュラーパートナーズ(CPs)、一般社団法人 日本化学工業協会、日本プラスチック工業連盟等のアライアンスや業界団体の活動にも参画し、課題への取り組みを他社と推進しました。

 

 

■ Digital(デジタルトランスフォーメーション)

DX戦略による構造転換と成長牽引事業の成長加速、無形資産の価値最大化に注力しています。推進にあたっては、「デジタル導入期」「デジタル展開期」「デジタル創造期」「デジタルノーマル期」からなるデジタル変革ロードマップを策定し、Asahi Kasei DX Vision 2030の達成に向けた取り組みを進めています。2023年度は「デジタル創造期」として、「デジタル基盤強化」「経営の高度化」「ビジネス変革」の3つを柱に成果結実を目指した取り組みを実施し、2024年度からの「デジタルノーマル期」に繋げています。また、DXの成功要因である「人」「データ」「組織風土」により一層注力し、DXの“X”である「変革」をさらに加速し、全社横断型の経営基盤づくり、事業モデルの変革や新規事業の創出を目指していきます


これまでの取り組みにより、当社は経済産業省が東京証券取引所と共同で選定する「DX銘柄2021」から「DX銘柄2024」まで4年連続で選出されました

また、当社グループ全体でのDXに関する活動が認められ、様々な団体からの表彰等、評価を頂いています。

オープンバッジ大賞 一般社団法人オープンバッジ・ネットワーク(人材育成)

日経クロステックCIO/CDOオブ・ザ・イヤー2023特別賞 株式会社日経BP(DX全般)

日本DX大賞2023 UX部門 優秀賞 日本DX大賞実行委員会(DX全般)

IT賞 IT最優秀賞 公益社団法人企業情報化協会IT賞審査委員会(サステナビリティ)

・GOODFACTORY賞 ファクトリーマネージメント賞 一般社団法人日本能率協会(DX全般)

 

(DX推進体制の強化)

グループ全体でDXを加速していくために、推進体制の強化に継続して取り組んできました。2021年4月にデジタル共創本部を設立後、いくつかの組織改編を経て、2023年7月にDX経営推進センターにプロダクト開発部、2024年4月にはCXトランスフォーメンション推進センターにCX共創推進部加入と、旭化成内のDX関連部場のさらなる集約、強化をしています。また、各事業部門のトップとデジタル共創本部の連携体制(リレーションシップマネージャー制度)を継続運営し、各事業における課題・重点テーマ等を共有し、密に連携して具体的な取り組みを進めています

 

 

(人財の育成)

デジタル人財の育成も積極的に実施しており、グループ全従業員がデジタルリテラシーを身につけ、デジタル活用のマインドセットで働く「4万人デジタル人財化」構想の下、DXオープンバッジ教育プログラムを進めています。このプログラムはレベル1から5までの5段階で、デジタルリテラシーとスキルを向上させていく構成になっています。このような育成プログラムの実施や採用を通じて、高度なデジタル技術とデータを活用し、事業の課題解決や、新しい価値・ビジネスモデルを創出できるデジタルプロフェッショナル人財の育成・獲得を積極的に進めています。2023年度末にデジタルプロフェッショナル人財1,728名を育成・獲得しています。また、2023年度には、本プログラムに「生成AIコース」を新設したことで、受講者数も急増、業務への貢献にもつながり、今後もデジタル技術の進化に合わせたプログラムの拡充を続けていきます

また、企業のデジタル人材育成を目的とした有志団体「未来のデジタル人材の会」が2023年12月より本格的に活動開始、会長が旭化成で他8社の企業が参加しています。デジタル人材育成に取り組む企業間の相互協力・連携により、デジタル人材の育成をより活発なものにするとともに、将来的には社会全体のデジタル人材育成に貢献します。

 

(デジタル変革ロードマップにおける創造期)

2023年度まで「デジタル創造期」として、デジタル基盤強化、経営の高度化、ビジネスモデル変革を推進していました。デジタル基盤の強化では、デジタル人財の育成・獲得の加速、デザイン思考等を活用したアジャイル開発のグループ全体への浸透、データ活用促進等を進めてきました。経営の高度化では、経営の見える化/意思決定への活用、知的財産活用の高度化、人財を活かすための活用、先端研究開発、カーボンフットプリントの見える化等に取り組んでいます。ビジネスモデル変革では、無形資産の価値化/共創の加速、マーケティングの革新、サプライチェーン連携、新事業創出、スマートファクトリー等に取り組んできました。この3つの視点で共通の技術やノウハウを生かし、グループを横断するプロジェクトとして行うとともに、領域毎に具体的テーマを継続して進めています。また、DXの進捗を測るKPI(2024年度目標)として「DX-Challenge 10-10-100」を定めました。2023年度末で、デジタルプロフェッショナル人財を2021年比で10倍(グローバル全従業員のうち2,500名程度)の目標に対し1,728名、グループ全体のデジタルデータ活用量を2021年比で10倍の目標に対し11倍、そして通常活動のDX活用による利益貢献に加え、選定した重点テーマで100億円の増益貢献(2024年度までの3年累計)に対して70億円の実績となっています。今後も、デジタルで多様な資産を最大限に活用し、ビジネスモデルを最速で変えていきます。


 

■ People(「人財」のトランスフォーメーション)

当社は1922年に創業し、2022年に100周年を迎えましたが、この間事業ポートフォリオを大きく変革してきました。1960年代には石油化学事業と繊維事業が売上高の大半を占めていましたが、社会課題の解決に向けた事業展開により、現在は3領域経営を進めています。大きな変革を遂げながら成長してきましたが、今後も、持続可能な社会に向けてさらなる変革が必要です

そのなかで現中計では、従業員に求める心構えとして「A-Spirit」という言葉を掲げています。旭化成の「A」と、アニマルスピリットの「A」をかけたもので、具体的には、野心的な意欲、健全な危機感、迅速果断、進取の気風、という4つのことを強く意識し、チャレンジングな人間、チャレンジングな人財であってほしいと伝えています。また、そのような想いから、挑戦・成長を自ら求めていく「終身成長」と、多様性を促す「共創力」を人財戦略の柱としています。これらは、当社グループが100年かけて培ったグループバリュー、多様性、自由闊達な風土などの無形資産をさらに磨き、活かしきるということでもあります。


A-Spiritsの体現に向けて、課題と考えているのは次の3つです

① 自律的なキャリア形成

A-Spiritsや「終身成長」は、他律的、受動的な姿勢では体現できません。実現したい夢や意思、自身で思い描くキャリア、それらを原動力にして様々なテーマにチャレンジすることが重要です。今後事業ポートフォリオ転換を進め、高付加価値事業を創出するためには、自ら成長・挑戦機会を求め自律的に動く人財が、従来以上に必要と考えています。

② 個とチームの力を引き出すマネジメント力の向上

失敗を恐れず思い切って挑戦し、その挑戦(失敗も含め)から学び、また次の挑戦に繋げていくためには、マネージャーによる支援が不可欠です。当社には高い専門性を持った人財や挑戦心あふれる人財が数多く在籍していますが、それを最大限に生かし切りビジネス上の成果に繋げられるよう、マネジメント力の向上も課題と考えています。

③ 多様性を活かす

当社は幅広い技術、多様な事業、多様な市場との接点を有しており、これらをつなげ、活かすことで、当社ならではの価値を創造できると考えています。各事業がそれぞれ責任をもって自分の事業を伸ばしつつ、シナジーによって独自の新しい価値を創出することにもより一層力を入れていきます。

 

以上の課題認識に対して、現中計の中では様々な人事施策を講じています。具体的な施策概要は「2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 人的資本に関する開示」に記載しているほか、当社統合報告書及びサステナビリティウェブサイトにも記載しています。

統合報告書;

https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/asahikasei_report/pdf/23jp_68.pdf

サステナビリティウェブサイト;

https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/social/human_resources/

主要KPIとしては、「高度専門職任命者数」「従業員エンゲージメント(成長行動指標)」「ラインポスト+高度専門職における女性比率」を掲げており、下図のとおり順調に推移しています。


 

また、2022年度より次の3点を役員報酬に連動させ、取り組みを推進しています。

指標

指標の算定方法

2023年度目標値・基準値

2023年度実績値

働きがい

メンタルヘルス不調による

休業者率

0.70%

1.16%

DX

デジタルプロフェッショナル

人財総人数

1,750名

1,728名

ダイバーシティ

ラインポスト及び高度専門職における女性の占める割合

4.4%

4.4%

 

具体的な取組みについては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (2) 人的資本に関する開示」を参照ください。

 

■ リスクマネジメントの強化

詳細は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」をご参照ください

 

■ コーポレート・ガバナンスの最適化

詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」をご参照ください

 

 

ⅵ 財務・非財務主要KPI

中期経営計画2024の実行、そして、その先の目指す姿の実現のために、財務・非財務のKPIを明確にして、各施策を実行していきます。財務KPIにおいては、利益成長・資本効率・事業ポートフォリオ転換の視点で、2024年度目標・2030年度目標を設定し、具体的な施策の実行を進めていきます。非財務KPIに関しては、10の成長を牽引する事業(GG10)における有効特許件数の割合、デジタルプロフェッショナル人財と高度専門職の育成・獲得、そして、当社GHG排出量、環境貢献製品を通じたGHG削減貢献量を主要なKPIとして設定し推進を加速していきます

 

中期経営計画2024で設定した財務・非財務主要KPI一覧


 

③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等

各セグメントにおいて次の成長を牽引する事業(GG10)に重点的にリソースを投入していきます。GG10の詳細は「②当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅱ 成長戦略」をご参照ください。各セグメントの経営方針・経営戦略は以下のとおりです。

 

 「マテリアル」セグメント

本セグメントにおいては石油化学関連の収益安定化を図りながら、付加価値の高い事業の構成比を高めることで利益成長を目指します。

 

価値提供分野「Environment & Energy」、「Mobility」、「Life Material」

●基本戦略:カーボンニュートラルの実現に向け、既存の延長線ではない戦略・戦術でポートフォリオ変革を図り、収益性と投資効率の向上を目指す

経営指標営業利益、営業利益率、ROIC

 

経営環境・経営課題

本セグメントにおいては、「第1 企業の概況 3 事業の内容」に記載のとおり、セパレータ、イオン交換膜、石油化学関連製品を中心とする環境ソリューション事業、自動車用途向け製品を中心とするモビリティ&インダストリアル事業、電子部品・電子材料、繊維、消費財を中心とするライフイノベーション事業を運営しています。これらの事業において、ビジネスモデルや市場の状況、競争優位性等の事業環境は、製品群によって大きく異なるため、各事業が置かれている環境認識に基づいた経営課題に対して取り組んでいます。本セグメント全体の観点では、事業ポートフォリオの転換を最も重要な経営課題と認識し、次の成長分野への重点的な投資を行う一方で、既存アセットを最大活用することでのキャッシュ創出や事業の構造改革を推進しています。本セグメントにおける経営環境は以下のとおりと認識しています

ⅰ 環境ソリューション事業

主要国における電気自動車等の環境対応車の需要の急速な立ち上がりと、それに向けたリチウムイオン電池需要の高まり

カーボンニュートラルの動きを受けた、石化関連製品の中長期視点でのサステナビリティ対応の加速・脱炭素に貢献する技術やソリューションに対するニーズの急速な高まり

 

ⅱ モビリティ&インダストリアル事業

次世代モビリティで求められる安全、快適、環境特性に優れた素材ニーズの高まり

 

ⅲ ライフイノベーション事業

電気自動車の普及やAIを活用したデジタル社会への進展に伴う、先端半導体技術のニーズの高まり

通信技術の高度化や衛生意識の変容等、新たなライフスタイルによる様々なセンシングニーズの高まり

 

 

<経営方針・経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです。

ⅰ 環境ソリューション事業

■ 価値提供の方向性:独自の技術・知見を活かした新しい価値の創出

これまでに培った技術や知見などの事業基盤を活かした、旭化成が目指す2つのサステナビリティ(“持続可能な社会への貢献”と“持続的な企業価値向上”)の好循環の実現への貢献

■ 主な取り組み

グリーンソリューション推進(水素関連の事業化推進、CO2ケミストリーの多面的展開)

・蓄エネルギー分野の深耕(セパレータ事業の成長追求、知見を活かした新しい事業展開)

カーボンニュートラルに向けた取り組み推進(石化事業の中期的な転換、バイオ製造品化学技術による石化製品のグリーン化)

イオン交換膜によるリカーリングサービスの拡充

ⅱ モビリティ&インダストリアル事業

■ 価値提供の方向性:提案型事業へのシフト

電気自動車等の環境対応車に求められるサステナビリティ要求に対する、軽量かつ安全な製品のコンセプト提案、環境調和型素材の提案

・キーカスタマーへの横断的なマーケティング強化

■ 主な取り組み

・自動車内装材事業:Sage Automotive Interiors, Inc.の事業を軸にして、買収したAdient plcのファブリック、中国の合弁会社のパートナーであるOmnova社の合成皮革、更に環境特性に優れた人工皮革「Dinamica®」を加えた幅広い素材ラインナップと高いデザイン力を融合させた内装材プラットフォームの構築

・エンジニアリング樹脂事業:自動車構造部品や自動車用リチウムイオン電池構造部品に向けたエンジニアリング樹脂発泡体「サンフォース®」や連続繊維複合材料「レンセン®」の展開加速やCAE(Computer Aided Engineering)等のデジタル技術活用を通じた自動車メーカーの開発パートナーとしての価値提供

 

ⅲ ライフイノベーション事業

■ 価値提供の方向性:先進・独自技術による高付加価値素材の提供

・デジタル社会の進展で求められるニーズへの、特徴ある部品・部材、ソリューションの提供

・生活者の視点に立った、健康で快適な暮らしに貢献する製品・サービスの提供

■ 主な取り組み

・電子材料、基板材料事業:AI活用等、DXの加速による先端半導体の進化を支える革新材料開発の強化

・電子部品:省エネ・快適市場において競争力のあるセンシングデバイス・ソリューションの展開

電子材料と電子部品との融合による特徴ある部材・部品、ソリューションの展開

新事業の展開加速:半導体プロセス材料の事業拡大に向けた共同研究・開発の促進、次世代パワーデバイス用途に最適な電流センシングデバイスの製品展開、ミリ波センシングや高音質オーディオICなどを活用した快適・安全・安心な車室空間ソリューションの提供

・ヘルスケアマテリアル事業:医薬品添加剤、食品添加物用途としての結晶セルロース「セオラス®」の安定供給向上及び海外展開の加速

 

Ⅱ 「住宅」セグメント

●価値提供分野:「Home & Living」

●基本戦略  :国内事業では高付加価値化の推進・顧客価値の最大化、海外事業では市場変動に左右されない強い経営基盤を構築し、収益性の向上と更なるキャッシュ創出を目指す

経営指標  :営業利益、営業利益率、売上高FCF率

 

 

<経営環境・経営課題>

国内の建築請負事業では、住宅展示場来場者数の減少やお客様ニーズの多様化により、新規集客・受注活動に影響が出ていますが、DXを活用したweb集客・紹介活動の拡大等集客におけるビジネスモデルの転換や都市・近郊・郊外それぞれのエリア特性・お客様のニーズに合わせたサービスの実施、高付加価値化へシフトしていくことで引続き高品質な住まいの提案に努めていきます。また、気候変動に伴う自然災害の多発化、人生100年時代におけるライフスタイル・ワークスタイルの多様化、脱炭素化の加速、及び省エネ性能の高い住宅による環境への配慮等、住宅を取り巻くニーズは変化し続けています。今後は、災害に強く安心できるレジリエンス(防災力)の高い住宅、環境負荷を低減する住宅やシニア、子育て世帯が安心かつ快適に生活できる住宅等の事業機会は益々広がっていくと考えています

海外事業では、住宅価格や住宅ローン金利高止まりの影響はあるものの、供給不足を背景とする潜在的な需要は高く、今後も海外市場で事業展開の拡大を行っていく必要があると考えています。

 

<経営方針・経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです

ⅰ デジタル技術を活用したマーケティング等による集客、受注活動の推進や生産性の向上

ⅱ サステナビリティ活動の推進

旭化成ホームズ㈱が参加しているRE100目標達成に向けた早期実現の推進

2023年7月SBT(Science Based Targets)認定書の取得

2023年7月TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)への賛同を表明

2024年4月環境省の「エコ・ファースト制度」において、「エコ・ファースト企業」に認定

ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)・ZEH-M(ゼッチ・マンション)普及に向けた取り組みの推進

環境貢献度の高い断熱材「ネオマフォーム™」の拡販

30by30の取り組みとして環境省が認定する自然共生サイトに「あさひ・いのちの森」が認定

ⅲ レジリエンスの強化

耐震性、耐火性の高い住宅や防災科学技術研究所とのリアルタイム地震被害推定システム研究など、安心できる住まいを実現させる取り組みの推進

「ジャパン・レジリエンス・アワード(強靭化大賞)2024」において、以下の3つのテーマが「最優秀賞」を受賞

-国立研究開発法人防災科学技術研究所と共同で開発中の防災情報システム「LONGLIFE AEDGiS」

-マンションの防災共助DX+リアルサポート「GOKINJO」

-マンション建替え研究所

ⅳ 海外事業の展開加速

・豪州事業

事業を開始したニューサウスウェールズ州のほか、新たにビルダーを買収するなど他州にも事業エリアを拡大し、豪州ビルダー着工ランキング3位になるまでに成長しています。ビルダー単独・サプライヤー単独では成しえない多様な価値提供による競争優位性の高い豪州モデルを確立させることで、豪州における注文住宅の建築請負及び分譲住宅の販売においてトップブランドを目指します

北米事業

大手建築部材サプライヤーErickson社、基礎工事や設備工事を行うAustin社、配管工事を行うBrewer社、住宅の建築工事を行うサプライヤーFocus社とともにシナジーの効果を目指す体制の構築に努めます。そして、旭化成ホームズ㈱が持つ工業化住宅のノウハウを通じて、米国の戸建て住宅建築工程の中核となる業種(配管・基礎・躯体・電気・空調)を結合し工業化建築を推進することで、施工合理化と高品質な建物の提供を目指します。今後は、更なるエリア拡大も目指して事業を拡大していきます。

 

 

Ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

●価値提供分野:「Health Care」

●基本戦略  :医薬・医療機器の双方でグローバル市場の幅広い事業機会を捉え、グループの利益成長を牽引

●経営指標  :EBITDA、EBITDAマージン、ROIC

 

<経営環境・経営課題>

医薬事業においては、COVID-19感染拡大を契機としたオンラインでの企画の強化やチャネルの拡大など、病院訪問を前提としないMR(医薬情報担当者)活動の推進に加え、COVID-19の5類感染症への移行後は対面活動も強化するとともに、日米における主力医薬品の販売が伸長することにより売上は堅調に増加しています。また、医療事業においては、生物学的製剤市場の継続的な成長と製薬会社における新薬の開発及び商業生産化へのニーズの高まりにより、ウイルス除去フィルターの需要が増加しています。足元ではCOVID-19関連特需の一服やそれに伴う顧客の在庫調整により一時的な需要の停滞が見られますが、調整局面終了後は需要増加基調が継続するものと予測しており、安定生産と生産能力増強を通じて供給責任を果たしていきます。クリティカルケア事業においては、半導体等の部材調達難や北米景気後退などを背景に除細動器の受注、販売の成長が一時的に停滞していましたが、足元では部材調達難が改善しており、今後は市場環境回復に合わせた成長を継続していく見通しです

中長期的には、医療費削減圧力が高まることによる国内の市場成長の鈍化が予想される一方、先進諸外国においては、より良い医療に対するニーズの高まりや長寿社会の進展に伴い、引き続き安定的な市場成長が継続すると認識しています。そのため、「ヘルスケア」セグメントの中長期的な成長のための課題は、グローバルにおける事業展開を加速することであり、当社グループに足りない経営資源を追加・補強する手段としてM&Aやライセンス導入による事業開発を位置付けています

今後は、2021年度にクリティカルケア事業のZOLL Medical Corporationが買収したRespicardia,Inc.とItamar Medical Ltd.や、2022年度に医療事業の旭化成メディカル㈱が買収したBionova Scientific, LLCなど、過去に投資実行した案件の収益成長による投資成果の刈り取りを図るとともに、既存事業の成長とM&A等の事業開発の活用を継続することで成長を続け、医薬・医療機器の双方でグローバル市場における幅広い事業機会を捉え、当社グループの成長を牽引する柱となることを目指します

 

<経営方針と経営戦略>

本セグメントにおける主な取り組みの方針・進捗は、以下のとおりです

ⅰ クリティカルケア事業

心肺蘇生、心疾患、睡眠時無呼吸症などの重篤な心肺関連疾患領域をターゲットとし、既存事業の持続的成長、及び企業買収を通じた既存事業強化と周辺領域への拡大により成長を追求します。

・医療従事者向け除細動器や公共施設向けAED(自動除細動器)などの救命救急医療の市場リーダーとして、引き続き技術革新や製品・サービス開発に投資して製品ポートフォリオを多様化するとともに、米国外も含めたグローバルでの市場成長を着実に捉えていきます。

・着用型除細動器「LifeVest」は臨床的価値の訴求により市場浸透率を更に高め、標準的な治療法として確立させることを目指します。

・2021年度にRespicardia,Inc.(中枢性睡眠時無呼吸症治療 植え込み型神経刺激デバイス)及びItamar Medical Ltd.(睡眠時無呼吸症在宅検査・診断ソリューション)の買収により、心疾患患者が併発することの多い睡眠時無呼吸症の診断や治療のための画期的なデバイスを獲得し、新たな分野に進出しました。当該2社の事業拡大と既存の心疾患関連事業とのシナジー創出により、確実な成果の結実を目指します。

ⅱ 医薬事業(海外)

・免疫・移植周辺を中心とした疾患領域、及び大病院市場へフォーカスし、旭化成ファーマ㈱とVeloxis Pharmaceuticals, Inc.の連携のもとで事業開発、臨床開発、販売を推進していきます。

Veloxis Pharmaceuticals, Inc.の腎移植手術患者向け免疫抑制剤「Envarsus XR」の販売が着実に伸長しています。また将来に向けたパイプライン強化のため、OSE Immunotherapeutics SAから導入したCD28阻害薬「VEL-101」(臓器移植における新規免疫抑制薬)の開発を進めています

 

ⅲ 医薬事業(国内)

重点領域(整形外科領域、救急集中治療、免疫)における新薬上市と販売の拡大を継続します。整形外科領域においては、骨粗鬆症治療薬「テリボン®オートインジェクター」の更なる市場への浸透を図ります。免疫領域においては、関節リウマチ治療剤「ケブザラ®」と、2021年度にサノフィ株式会社より導入した免疫調整剤「プラケニル®」の更なる市場浸透を図ります。研究開発においては、オープンイノベーションや事業開発を活用し、重点領域におけるパイプラインを拡充しています。2022年度には、発作性夜間ヘモグロビン尿症に対する補体C3阻害薬「エムパベリ®」及び慢性肝疾患における血小板減少症改善薬「ドプテレット®」に関して、日本国内における独占販売契約をSwedish Orphan Biovitrum Japanと締結し、2023年度に薬価基準収載と発売を開始しました。

 

ⅳ 医療事業

生物学的製剤の市場成長に合わせたウイルス除去フィルター「プラノバ™」の市場ポジション・販売拡大を目指し、生産能力増強、生産効率化及び製品開発を引き続き進めていきます。2019年度のVirusure Forschung und Entwicklung GmbH (ウイルス等安全性試験受託サービス等)の買収、2021年度のBionique Testing Laboratories LLC (マイコプラズマ試験受託サービス)の買収により、製薬企業向けバイオセーフティ試験受託サービス事業へ参入しています。更に2022年度のBionova Scientific, LLC (次世代抗体医薬品CDMO)の買収により、バイオ医薬品CDMO事業へも参入しています。これらの多様な事業展開を通じて、製剤の安全性と生産性向上に貢献する製薬企業にとってのプレミアムパートナーとなることで製薬市場の成長を取り込みます

 

 

(2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

① 事業上の課題

「(1) 経営方針・経営戦略等 ③ 各セグメントの経営方針・経営戦略等」に記載の項目に加えて、以下の事業上の課題があります。

 

Ⅰ 「マテリアル」セグメント

ⅰ 環境ソリューション事業

環境ソリューション事業は、石油化学製品において中国の設備増強と内製化が進展することによりアジアの輸出需要が大きく減少する可能性があります。そのため、石化事業の再編を推進していくとともに、適正な生産計画に基づく収益性管理やキャッシュ管理を推進していきます。一方で、中長期的には世界的な脱炭素化の流れの中で、当社の触媒技術を活用したバイオ化学品製造技術を確立し、新たな価値提供を追求していきます

リチウムイオン電池用セパレータは、急激に成長する電気自動車の需要とともに競合他社のキャパシティ増加や販売政策により価格競争が激化していく可能性があります。米国でIRA法が成立したことで、競争優位な北米に先行して生産拠点を構え、顧客と強いパートナーシップを結びつつ、安定的かつ高水準の品質を強みに、様々な顧客ニーズに対応していきます。また、米国、日本、韓国での増強を図りつつ、生産技術の大幅な改良を図り、コスト競争力の高い製品を追求していきます。また、同事業は、各国の規制・環境問題や供給制約の顕在化等によるサプライチェーンの変化、テクノロジーの変化により、事業環境が急激に変化することが中期的なリスク要因と考えられるため、事業環境の動向の把握と迅速な対応を続けていきます。

 

 モビリティ&インダストリアル事業

モビリティ&インダストリアル事業は、世界の自動車業界の動向に影響を受ける場合があります。2023年度の自動車関連部材については、COVID-19、半導体不足による影響が改善したこともあり、自動車生産台数の増加による関連製品の需要増が見られました。事業運営は、ロシア・ウクライナ情勢や中東情勢等の影響によるサプライチェーン混乱及び米国ストライキや中国経済の減速等、年間を通じて見通しづらい環境下にあります。そのような中で各国の自動車関連市場を注視するとともに、サプライチェーンと在庫管理を強化し、変化する需要に柔軟に対応していきます

一方、中長期的には自動車の「CASE」と呼ばれる技術革新の進展が加速し、又は変化していくことにより、新たなニーズが生まれてくると考えています。特に低炭素社会の実現に向けて、電気自動車等の環境対応車の需要拡大や資源の有効活用など、欧州を中心に自動車業界における環境負荷低減の動きが今後継続するものと考えており、このような社会ニーズに向けた対応が必要です

車室空間には、これまでにない快適性やデザイン性に加えて、リサイクル原料の使用、車体軽量化による自動車燃費の向上、電動化等、環境負荷低減に繋がる製品が求められています。環境特性に優れた人工皮革「Dinamica®」は、需要増加に対応するため供給能力を増強するとともに、米国子会社のSage Automotive Interiors, Inc.との連携を強化し、2020年に買収した大手自動車シートサプライヤーの米国Adient plcのファブリック事業や、中国の合弁会社のパートナーであるOmnova社の合成皮革事業との統合効果を発現させていきます。また、車体軽量化に寄与する構造部品向けのエンジニアリング樹脂製品や樹脂発泡体の展開もグローバルに加速していきます。今後も顧客要求に迅速に対応するべく、グローバル市場におけるキーカスタマーへの事業横断的なアプローチやデジタルマーケティングを強化し、持続的に成長できるビジネスモデルの構築を推進していきます。

 

 

 ライフイノベーション事業

ライフイノベーション事業は、AI需要の高まり、デジタルトランスフォーメーションの進展や次世代通信の普及に伴う情報通信高度化の需要が益々拡大しており、情報通信機器に用いられる電子材料や電子部品のニーズは年々増加しています。特に自動車の電動化がもたらす変化として、車両の高機能化だけでなく、充電設備の整備も急速に進められており、様々なセンシングデバイスの高度化・高信頼性化が求められています。半導体のニーズが益々拡大する一方で、米中デカップリングによるサプライチェーンの混乱や分断がもたらす影響を的確に捉えて、対応を進めていきます。特に世界各国の半導体ファウンドリ(foundry)やOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly & Test)を活用する分業体制が業界全体として展開されているため、半導体製造に関わるサプライチェーンの動向に影響を受ける可能性があります。半導体生産に必要なレアガス(希ガス)やレアメタル(希少金属)などの原材料不足や、大規模災害・パンデミック・地政学問題などの影響を受けての需要変化による製造リードタイムの長期化など、電子部品事業において環境変化が見通しにくい状況となっています。そのような中で、半導体製造関連の主要サプライチェーンの状況(特に米国、中国、台湾)の動向をモニタリングし、リスクの発生状況を常時評価し、迅速に対応していきます。今後も市場動向を注視しながらデジタル社会で求められる最先端のニーズを捉えて、電子材料と部品の双方を有するユニークさを活かし、特徴ある材料・部品、ソリューションを提供していきます。

 

Ⅱ 「住宅」セグメント

国内事業においては、日本国内の個人消費動向・金利・地価・住宅関連政策ないし税制の動向や地政学問題等の発生によりサプライヤーからの部材調達に影響を受ける場合があります。当社は、発注情報の早期確定やスペックの見直し、内製化、複数社からの購買等リスク軽減を検討し対応していきます。

また、カーボンニュートラルに向けた対応や脱炭素等の環境意識が高まる中、対応の遅れにより競争優位性や企業ブランド・製品ブランドへの影響が考えられます。RE100やSBTのフレームワークに基づいた評価・管理・報告を実施し継続的にPDCAを循環させ、定期的な状況報告を実施することでサステナビリティへの取り組みを推進し対応していきます

加えて、事業の特性上、大量の個人情報を扱っているため、個人情報の漏洩等があれば、当社グループの信用を毀損するリスクがあります。そのため、情報を端末に置かないデータ保存のクラウド化等個人情報保護の徹底した対策を講じています

 

Ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

医薬品や医療機器等の事業においては、一般的に、その販売数量や販売単価等が定期的な薬価・保険償還価格の改定の影響を受ける場合があります。特に新薬の研究開発期間は長期にわたることに加え、新薬が承認取得に至る確率が高くないことなどから、製品化の確度や時期について正確な予測が困難な状況にあり、計画どおりに製品化できなかった場合は業績に影響を与える可能性があります。医薬品や医療機器が製品化した場合でも、競合品の開発・上市の動向、有害事象の報告、後発品の上市等により、業績に影響を与える可能性があります。そのため、当社グループでは医薬事業と医療事業の両方を持つことで、多様な成長力・競争力を獲得し、イノベーション獲得機会の増加を図るとともに、医療規制等将来の不確実性への対応力を高めていきます。また、パイプラインの拡充、製品導出・導入、共同開発、グローバル展開の加速等に努めることで持続的な安定成長を図ります。

加えて、大規模自然災害・パンデミック・地政学問題などによる原材料・部品の不足、調達リードタイムの長期化、調達コストの増加の影響を受ける可能性があります。弊社の医薬品、医療機器を必要とする患者や医療従事者へ安定的に製品供給するため、原材料や製品在庫の管理、サプライヤーとの関係強化などサプライチェーン強化を進めていきます。

 

 財務上の課題

「(1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等」 <経営方針・経営戦略> ⅳ 財務・資本政策の項目をご参照ください。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1) サステナビリティ共通

当社グループでは、サステナビリティの追求を経営の柱として位置づけており、「サステナビリティ基本方針」として明確にしています。すなわち、当社グループはグループミッションである「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献」するため、「持続可能な社会への貢献」と「持続的な企業価値向上」の2つのサステナビリティの好循環を追求すること、その実現に最適なガバナンスを追求すること、そして、持続可能な社会への貢献による価値創造/責任ある事業活動/従業員の活躍の促進の3点を実践すること、を方針としています

 

① サステナビリティマネジメント及び旭化成グループのマテリアリティ

■ ガバナンス

当社は、「世界の人びとの“いのち”と“くらし”に貢献します。」というグループミッションのもと、社会への貢献による持続的な成長と中長期的な企業価値の向上を目指しており、事業環境の変化に応じた、透明・公正かつ迅速・果断な意思決定を行うコーポレート・ガバナンスを追求しています。その中で、サステナビリティは、事業の機会とリスクの両面に関わる重要な事項として、複数の委員会を含むガバナンス体制としています。具体的には、社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」「リスク・コンプライアンス委員会」「環境安全・品質保証委員会」「DE&I委員会」を設置し、事業部門責任者や関係するスタッフ部門を委員として、議論・方針確認などを行っています(重要な提案事項がある場合は、決裁権限基準に従い経営会議・取締役会に個別に提案され、審議・決定されます)。これらの委員会での議論内容を含む実施状況は取締役会に報告され、取締役会は監督と助言を行っています。サステナビリティ推進委員会には、より専門的な議論を行うための専門委員会である「地球環境対策推進委員会」「人権専門委員会」を設置しています。また、専任部署であるサステナビリティ推進部を設置し、当社グループのサステナビリティ全般を推進する機能としています。

サステナビリティマネジメント体制


■ 戦略

当社グループは目指すべき「持続可能な社会」を、グループビジョンに示す「健康で快適な生活」「環境との共生」に照らして定めています。すなわち、「健康で快適な生活」の観点では、“Care for People”のキーワードによる、“「ニューノーマル」での生き生きとしたくらしの実現”、「環境との共生」の観点では、“Care for Earth”のキーワードによる、“カーボンニュートラルでサステナブルな社会の実現”の二つです。COVID-19をはじめとする社会の大きな変化は、人類が取り組むべき課題を一段と浮き彫りにしています。この認識のもと、当社は創業来100年で培ってきた多様な人財・技術・事業を活かしながら、また、事業活動の前提となる基盤的な活動に注力しながら、5つの価値提供分野「Environment & Energy」「Mobility」「Life Material」「Home & Living」「Health Care」において、世界共通の課題の解決に向けた貢献を加速させていきます

 

 

■ リスク管理

サステナビリティを追求する上で、多様なリスクを的確に認識し、対応を積極的に図ることが重要です。そこで当社では、一段と激しくなる事業環境や経営環境の変化を踏まえ、リスク管理体制を強化しています。サステナビリティに関する事項を含む具体的なリスクに関する認識と管理体制は3 事業等のリスク」をご参照ください。

 

■ 指標と目標

当社では、経営における重要課題(マテリアリティ)を以下のように定めています。いずれもサステナビリティを追求していく上で重要な要素であり、これらに重点を置いた経営活動を行い、定量的な管理が可能なものは、指標や目標を設定して管理しています。

旭化成グループのマテリアリティ


 

「中期経営計画2024」では、以下を目標としています。


また、事業の前提の一つである「安全」については、「休業災害件数」「休業度数率」等により管理し、徹底を図っています。

 

 

② 気候変動関連

■ ガバナンス

当社では気候変動に関する取り組みを中心とするグリーントランスフォーメーション(GX)を重要な経営課題と捉え、経営戦略の中核テーマの一つと位置づけて取り組んでいます。気候変動に関する方針や重要事項は取締役会で、また、関連する具体的事項は経営執行の意思決定機関である経営会議で、審議・決定を行っています(具体的には、中期経営計画、GHG排出量の削減目標、設備投資計画などの決定と実績の進捗確認等)。なお、中期経営計画や年度経営計画の策定においては、各事業部門とコーポレートでGHG削減を含めGX等について議論を行い、グループとして取りまとめた上で、経営会議・取締役会に提案し、審議・決定をしています

当社では、取締役会・経営会議でのこれらの決定を事業レベルで推進するため、社長を委員長とする「サステナビリティ推進委員会」を設置し、事業の各執行責任者が気候変動を含むサステナビリティに関する課題の共有と議論を実施しています。委員会の結果は取締役会に報告し、全社での取り組みのあり方等についての議論につなげています。

また、当社ではGHG削減目標達成に向けて、担当役員のもと、専任のプロジェクト体制(カーボンニュートラル推進プロジェクト)で、シナリオを検討しています。検討では、社長・経営企画担当役員ほかで方向性を定期的に議論しながら内容の深化を進めています。

なお、マテリアル領域と住宅領域では、事業本部/事業会社にサステナビリティ担当部署を設置し、カーボンニュートラルやサーキュラーエコノミーに向けた取り組みを事業部並びに全社サステナビリティ部門と連携しながら推進しています。詳細は旭化成レポートをご参照ください。

https://www.asahi-kasei.com/jp/ir/library/asahikasei_report/pdf/23jp_57.pdf

 

■ 戦略

[機会]

当社はカーボンニュートラルな社会への転換をはじめとするメガトレンドを見据え、事業ポートフォリオ変革を推進しています。具体的には、中期経営計画において、重点的に資源投入する成長牽引事業「Growth Gears(GG) 10」を定め、これらに3年間で約6,000億円の投資の意思決定をする目標です

特に、水素関連、蓄電池用セパレータ、デジタルソリューション、クリティカルケアに、重点的に経営資源を投じていきます。併せて、脱炭素関連として、2024年度までの3年間で約600億円の投資を実行する構えとしています

また、気候変動対応を含む環境分野のスタートアップ企業を対象として、2023~2027年度の5年間に1億ドルの投資枠を設定しています。加えて、サプライチェーン全体の観点から社会のGHG削減量の削減等に貢献する製品・サービス(環境貢献製品)の売上高比率を高め、2030年度におけるGHG削減貢献量を2020年度比2倍以上にしていく目標を掲げています。

当社の事業展開の方向性は、気候変動の緩和及び適応においてさまざまな製品・サービスを事業機会として提供しうると認識しています。

 

[リスク]

「+1.5℃」シナリオでは、主としてカーボンニュートラル化に向けたカーボンプライシング等の政策による規制が強まるとともに、カーボンニュートラルに適した素材への需要シフトをリスクとして想定しています。さらに、循環型経済への移行加速やカーボンニュートラルな社会に向けた革新技術の登場による、市場構造変化もリスクとして想定しています

「+4℃」シナリオでは、主として酷暑・大雨・洪水などの物理的リスクを想定しています。特に、風水害の甚大化により、当社の製造拠点の被災とその損害額を国内外の主要拠点についてリスク認識しています。

これらのリスクは濃淡がありながらも、今後の気候変動の中でいずれも発現しうるものと当社では捉えており、リスク低減の取り組みを進めていきます。

 

 

■ リスク管理

当社は気候変動リスクを「グループ重大リスク」の一つとして位置づけ、重点的な管理を行っています。

第三者保証を伴うGHG排出量実績を年1回、把握するとともに、目標への進捗状況と併せ、カーボンニュートラル推進プロジェクトで共有し、今後の取り組みを議論・確認しています。

また、中期経営計画の策定や毎年の見直しの中でも、GHG排出量削減への取り組み等を確認し、事業戦略や施策につなげています。さらに、四半期、月次でも、関連する事項の把握を行っています。

設備投資においては、インターナルカーボンプライシングを考慮して採算性を評価し、実施を決定しています。なお、カーボンニュートラルに向けた行動を一段と推進するため、2023年7月にインターナルカーボンプライシングを10,000円/t-CO2から15,000円/t-CO2に引き上げました。

 

■ 指標と目標

当社は、以下の指標を気候変動のリスク・機会に関係するものとして位置付けています。


 

③ 責任ある事業活動へ向けた取り組み

■ 環境安全・品質保証活動

当社グループは、提供する製品・サービスのすべてのライフサイクルにおいて環境・安全・健康・品質に配慮する「環境安全・品質保証活動」を実施しています。昨年度は重大な保安事故・労働災害や製品事故は有りませんでしたが、ここ数年では、当社のベンベルグ工場での火災など重大な事故が発生しています。従業員一同「安全は経営の最重要課題」であることを認識し、危機感を持って安全活動に取り組んでいます。また、全員参加の品質経営として品質担当役員が各事業所を訪問し、現場最前線で働くメンバーと双方向でコミュニケーションをするタウンホールミーティングや、グループ全員が品質リスクを理解し、日々の業務を行うための品質リスク教育を国内海外の各拠点で実施しています。環境安全・品質保証に関するリスクマネジメントの詳細は「3 事業等のリスク (4) 当社グループ全体に係るリスク」もご参照ください。

 

■ コンプライアンス、人権の尊重

当社グループは、事業・業務に関する法令・諸規則や社内ルールの遵守を徹底し、事業活動においては、グループミッションに基づくグループバリュー(共通の価値観)として「誠実な行動」を促進しています。その実効性を高めるため、2019年度以降、各部署で「グループ行動規範」の読み合わせ活動を継続実施しており、従業員一人ひとりのコンプライアンス意識の底上げを図っています。また、グループ全体のコンプライアンス体制の強化を図るために、リスク・コンプライアンス委員会を設置し、当社グループ全体のコンプライアンスに関する取り組み状況を確認し、取締役会に報告しています。

「人権の尊重」については、当社グループは国際人権憲章(世界人権宣言並びに国際人権規約)を支持するとともに、国連グローバル・コンパクトの署名企業として、グローバル・コンパクトの人権に関する原則、及び国連「ビジネスと人権に関する指導原則」「子どもの権利とビジネスの原則」にも賛同しています。当社グループでは、従来、多様性の尊重を含む人権に関するグループの考え方を「グループ行動規範」にて明示し、従業員研修等を通じてグループ内浸透を図ってきていますが、人権尊重の重要性を踏まえ、2022年に「旭化成グループ人権方針」を取締役会で決定し、公開しました。さらに、人権尊重について議論・方向付けし、また、「旭化成グループ人権方針」に沿った行動を推進するための場として人権専門委員会を新設し、2023年度は第2回委員会を開催しました。第2回委員会では、世の中の人権動向の共有、当社グループにおける人権尊重取り組み事項の整理などを行っています。当社グループは「旭化成グループ人権方針」のグループ内での普及啓発の継続の他、人権に関するリスクの抽出、軽減・対応など、「人権デュー・ディリジェンス」に関する取り組みを進めていきます。

 

■ ステークホルダーとの対話の強化

当社グループでは、ステークホルダーの皆様に適切な情報開示を行うとともに、双方向のコミュニケーションを取ることが重要と考えています。当社は毎年1回、投資家やメディアの皆様向けに開催する「経営説明会」において、サステナビリティに関する当社グループの戦略や取り組みをご説明し、また、製造地区の地域の皆様や、サプライヤーの各社との対話も随時実施しています。

 

(2) 人的資本に関する開示

■ 戦略、指標と目標

前提となる人財戦略の概要については「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> ⅴ 経営基盤の強化 ■ People (「人財」のトランスフォーメーション)」に記載のとおりであり、人財戦略の柱は、社員一人ひとりが挑戦・成長し続ける「終身成長」、当社の多様性を活かしコラボレーションを推進する「共創力」の2つを置いています

「終身成長」については、一人ひとりが自らのキャリアを描き、成長に向けた学び・挑戦を進めること、そして、個とチームの力を最大限引き出し成果に結びつけるマネジメント力の向上に、一層取り組んでいきます

「共創力」については、多様性を“拡げる”という視点と“つなげる”という視点から、様々な取り組みを実行しています。具体的には下記のような取り組みを進めています

 

(人財育成方針)

 高度専門職制度の拡充によるプロフェッショナル人財の育成強化

 概要:高度専門職制度とは、新事業創出、事業強化へ積極的に関与し、貢献できると期待できる人財に対しふさわしい処遇を行い、社内外に通用する専門性の高い人財を増やしていく仕組みです。各事業の拡大に必要な専門領域を特定し、各専門領域で課長待遇のエキスパートから執行役員待遇のエグゼクティブフェローまで役割定義を定め、その定義に沿って任命を行っています。高度専門職を設置する専門領域は事業方針に合わせて毎年見直しを行い、事業戦略と人財育成方針をリンクさせているほか、就任者のミッションの一つに「自身の後進の育成」を明確に位置付けることで、技術レベルをサステナブルに維持向上させる仕組みとしています。

 KPI:高度専門職の人数をKPIとして注視しており、現行制度にリニューアルした2016年度90名から順調に増え、前中計最終年度である2021年度時点で259名となっていました。2022年度からの新中計では2024年度300名を目標としていましたが、直近の増加ペースを踏まえて目標を引き上げ、2024年度までに360名まで増やすことを新たな目標としています。(2023年度実績347名)

 

 

エンゲージメント向上 「KSA(活力と成長アセスメント)」

 狙い:個人と組織の状態を可視化しマネジメントのPDCAを回すことで、活力や挑戦・成長行動を高めること。

 概要:毎年1回全従業員を対象にサーベイを実施し、3指標「上司部下関係・職場環境」「活力」「成長につながる行動」の組織毎の結果をラインマネージャーにフィードバックしています。各組織が当事者意識を持ち課題や目指したい状態、今後の取り組みについて話し合う「職場対話」を推進し、職場づくりを学ぶ研修も展開しています。

 KPI:モニタリング指標に定める「成長につながる行動」は2023年度3.72まで向上しました(2022年度3.71、2021年度3.69)。上司向け研修の拡大(延べ681名受講)により、2020年の導入時から推奨してきた「職場対話実施率」は2023年度73.9%まで向上し、対話実施者の51.9%が改善アクションに着手し順調に進展しています。今後は、職場対話の推進に加え、その内容や改善アクションの質にも重点を置き、要支援組織の抽出、サポート、当活動の効果検証に取り組みます。


 

 

DE&I、女性活躍推進

 狙い:急速に変化する事業環境に対応し継続的に新たな価値を生み出していくためには、人財の多様性を活かし共にビジネスを創り出していく「共創力」を高めることが不可欠であると考え、当社ではDE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)を経営課題のひとつとして位置づけています。「共創力」を発揮していくためには、多様性を“拡げる”“つなげる”という2つの視点が重要であり、多様な技術・事業・人財を有機的につなげることで、当社ならではの価値が発揮できると考えています。

 概要・KPI:女性の活躍推進については、2022年度からKPIとして、管理職の中でも真に指導的役割を果たすポジション(ラインポスト及び高度専門職)の女性比率を2030年度までに10%以上にするという目標を掲げました(2023年度実績4.4%)。またその比率を役員報酬にも連動させており、2024年度に5.0%以上を目標としています。

上記を達成するとともに、女性リーダーを継続的に輩出できる仕組みとして候補者母集団を形成するための様々な取り組みを実施しています。2013年より継続的に実施しているメンタープログラムでは累計132名の新任女性管理職が参加し、直属の上司ではない斜めの関係の上位職が、各自のキャリア形成や課題解決に向けて主体的に考える機会を提供し成長を促すとともに、その後の自己成長に対する意欲を高めています。

また、ラインポストに就いている女性管理職のさらなる成長意欲や視座向上に向けて、2023年度は女性の社外取締役(2名)と女性管理職とのラウンドテーブルを実施しました。2名の社外取締役から、自らのキャリアや経験談及び女性管理職への期待を語ってもらい、経営に必要な観点での視野拡大や、参加者の今後の挑戦や活躍に向けた意識と行動変革の後押しに繋げています。

多様な働き方やキャリア形成を応援する施策としては、女性管理職や育児休業を取得し家事・育児にも携わる男性など、社内で活躍する多様な人財を紹介する「ロールパーツモデルチャンネル」を社内のイントラネットで展開しています。「自身の周囲にロールモデルが少ない」という社員の意見に対応して、様々なロールモデルとなる社員を紹介することで女性社員のキャリアアップへの挑戦意欲を高め、性別に捉われることなく仕事と家庭を両立させるなど中長期的なキャリア形成のイメージを持ってもらうことを狙いとしています。

また、一人ひとりの多様性を活かし組織力を最大限発揮させるためには、各自に内在するアンコンシャスバイアスを知りコントロールする方法を習得することが重要であるとの考えから、2023年度に役員及び部長職全員に対してアンコンシャスバイアス研修を実施しました。2024年度には全課長層にも展開し、職場の心理的安全性を高め、すべての社員の活躍を支援できる管理職の育成を図っています。

指導的立場に就く女性社員を増やしていくための上記の全社施策と並行して、各領域においてバイネームでの女性人事計画を立て、実際の登用に繋がる取り組みを実施しています。また、2023年度に社長を委員長とするDE&I委員会を設置し、グループ全体における進捗状況の確認や課題改善に向けて、定期的にモニタリング及び意見交換を行っています。これらの様々な取り組みにより、1994年に3名だった女性管理職は313名に増加しています(2024年3月31日現在)。また女性の執行役員は2名、取締役は2名、監査役は1名となっています(2024年6月25日現在)。


 

障がい者については特例子会社「旭化成アビリティ」での雇用をメインに、継続的に法定雇用率の達成を維持しています。2023年度の障がい者の法定雇用率2.3%のところ、グループ全体での年間雇用率は2.4%でした。直近の2024年3月末時点では2.58%(715名)となっており、2024年度法定雇用率2.5%への引き上げに対しても備えを進めています。


キャリア採用に関しては、グループの強みである人財の多様性をさらに強化するために、多様な経験やバックグラウンド有する人財の中途採用を積極的に行っています。また、管理職への登用についても中核人財の多様性を確保しており、グループ国内正社員における管理職の16.4%をキャリア採用者が占めています(2024年3月31日現在)。

当社グループにおける海外従業員比率は現在4割強を占めています。海外拠点の主要なポジションへの外国籍及び現地採用の人財登用を拡大し、優秀な人財は各事業に留めることなくグループ全体に貢献する人財として育成を行っています。その結果、グループ経営への参画も進み、現在6名の外国人の執行役員が在籍しています。

女性・外国人・キャリア入社者の中核人材登用に関してはコーポレート・ガバナンスに関する報告書にも記載しているほか、障がい者雇用に関する取組みや各種データ類はサステナビリティレポートを参照ください。

https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/social/human_resources/

 

 

シニア活性化と定年延長

 狙い:「終身成長」というコンセプトのもと、60歳を超えても専門性を磨き、環境に合わせて挑戦し変化し続ける人財を応援し、シニア人財の持てる力をより一層引き出すこと。

 概要:2023年度から定年を65歳に引き上げました。60歳到達前に、改めて本人に自分のwill/can/mustを考えてもらい、それに沿った職務をマッチングする、という仕組みにしており、2023年度は600名超のマッチングを行いました。自身の意欲や能力に沿った業務に就いていただくことで、本人の働き甲斐は勿論、若手への伝承や刺激を与えていただくことも期待しています。

 

マネジメント力強化並びに次世代経営人財の育成

 狙い:マネジメント層の成長、経営層候補の充実を旭化成グループ全体の成長につなげること

 概要:組織マネジメントで重要度の高い新任部長向けのプログラムを継続的に充実させています。新任部長の一人ひとりにコーチがつき、KSAを用いて組織課題を分析し、アクションプランの実行を支援しています。また本プログラムを受講した部長の上司に受講後の状況を確認し、行動変容の状況をモニタリングしています。

また、次世代経営人財育成プログラムとして、各事業領域や事業会社のリーダー層からアセスメントや経営層との対話により選抜されたメンバーをグループ役員*1)候補として毎年プールし、育成のためエグゼクティブコーチングや異業種交流研修により個々の強みを強化しています。

 KPI:2017年に次世代経営人財育成プログラムを開始し、2023年度の状況としてはグループ役員35ポジションに対して91名(事業部長39名・部長層52名)をプール人財として育成しており、「グループ役員の後継準備率」は260%に達しています。また、2018年度以降、当プール人財から継続的にグループ役員が任命されており、現在のグループ役員35名の過半数が本プログラムから選出されています。

*1) 執行役員の中から旭化成グループ全体の企業価値向上に責任と権限を有する者として、旭化成の取締役会決議に基づきグループ役員を任命しており、具体的には旭化成株式会社の上席執行役員以上及びそれに相応する事業会社の執行役員がこれにあたります。

 

(社内環境整備方針)

経営戦略と人財戦略を連動させる仕組み

2021年度に社長をトップとした人財戦略プロジェクトを立ち上げ、2022年度からの中期経営計画に連動した人財戦略を策定しました。現在実行している人事施策はこれをベースにしています

人事部門トップが取締役会メンバーであるほか、社長と人事担当役員・人事部長によるミーティングを毎月1回実施し、経営戦略と人財戦略が常に連動する仕組みにしています。また各事業部門トップと人事担当役員・人事部長の定期ミーティングも実施し、ポートフォリオ転換を含めた事業課題を人事課題に落とし込み、施策に反映させています。さらには、人事施策が各事業現場にてうまく活用されていくためのキーとなる、各事業の企画部門トップとも毎月1回議論する場を設けて、人事施策の目的を共有し、企画段階から具体的な活用場面を想定した検討を行うようにしています。

また、経営戦略と人財戦略の連動をさらに進めるため、現在人事処遇制度の見直しについても検討しています。従来以上に挑戦・成長を評価し、力のある人を早期に登用する、また多様な人財の活躍を促進する仕組みとすることで、「A-Spirits」の体現に繋げていく考えです。

 

 

みんなで学ぶ、学習プラットフォーム「CLAP」の推進

 狙い:従業員一人一人の自律的なキャリア形成と成長の実現を通し、組織活性化や成果につなげること。

 概要:CLAP(Co-Learning Adventure Place)では従業員がいつでも学べるよう、1万を超える社内外のコンテンツを整備し、旭化成及び5事業会社の全従業員約20,000人を対象に2022年12月に展開を開始しました。その上で、主体的に学び続けるための支援として、「みんなで学ぶ」環境を作るラーニングコミュニティの展開を強化しています。2023年度は新入社員向けに「新卒学部」という同期とともに学び合う9か月のコミュニティ活動を導入し、一人当たりのe-Learning学習時間は前年度新人の3.5倍に増える結果となりました。今後は、継続的に学び続ける従業員の増加に向けて、ラーニングコミュニティを取り入れた学び方の変革に継続的に着手していきます。

 KPI:2022年12月の運用開始以降、2024年3月末までに17,573名(約88%)がCLAPにログイン完了し、14,999名(約75%)がCLAPで学び始めています。また、キャリアの可能性を広げる学びの幅を主に外部コンテンツで、専門性を高める学びの深さを社内知見を活用した社内カリキュラムで提供していますが、2024年3月末時点で約190の社内カリキュラムが職場や人事の育成担当により制作・公開されています。

 

人財の可視化、事業領域を超えた人事異動、公募人事制度

 狙い:多様な人財を活かしきること。

 概要:幅広い技術、多様な事業、多様な市場との接点といった当社グループの強みを活かすべく、以前より事業領域を越えた人事異動を積極的に行っています。一例としては、当社の住宅事業は近年海外に進出しましたが、この事業展開にあたっては、グループ全体の人財・ノウハウなどの経営基盤を活用することで、スピーディに展開することができました。海外事業の拡大によって業績も伸び、キャッシュ創出力も高めています。2022年度からはタレントマネジメントシステムも導入し、人財の可視化を進め、グループ全体での人財の活用力を一層高めていきます。

また、公募人事制度については2003年度から運用しており、累計で約500名の人財が自らの意思で部署を異動し、新たな環境に挑戦しています。

 

人事部門の組織ケーパビリティの向上、キャリア開発室の設置

 狙い:人的資本経営を実践するための実働部隊である人事部門の組織能力を強化すること。

 概要:人事部門に今後必要となる能力について改めて定義づけを行い、その中でもデータ利活用スキルとキャリアコンサルティング能力については特に力を入れて向上に努めています。データ利活用スキルについては大阪大学開本教授監修のもと独自のプログラムを内製し、データの収集や分析に関するノウハウを人事メンバー全員が習得するように取り組んでいます(2024年3月31日時点で88名が受講済)。また、国家資格キャリアコンサルタントの資格取得も奨励しており、2024年4月時点で33名が資格を取得しています。2022年度には従業員のキャリア形成を支援するためにキャリア開発室を設置し、シニア層及び若手・中堅層に対してキャリア施策を充実させています。人財戦略及び具体策については、旭化成レポートにも記載がありますので、あわせて参照ください。

また、人事関連の諸データに関しては当社サステナビリティレポートにも掲載しています。

https://www.asahi-kasei.com/jp/sustainability/esg_data/

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループは、広範にわたる事業により安定的な事業運営を実現していますが、個々の事業では事業の性格により異なる市場リスク・投資リスクをはじめ様々なリスクを内在しています。これらのリスクは予測不可能な不確実性を含んでおり、当社グループの財政状態や業績に重要な影響を及ぼす可能性があります。これらのリスクの回避及び発生した場合の対応に必要なリスク管理体制及び管理手法を整備し、リスクの監視及び管理等の対策を講じますが、これらすべてのリスクを完全に回避するものではありません。しかしながら、以下のような取り組みを通じて当社グループはリスク低減とリスク感度の向上に努めています。

将来の事項に関する記述につきましては、有価証券報告書提出日現在において入手可能な情報に基づき、当社グループが合理的であると判断したものです

 

(1) リスクマネジメントの強化

当社グループが「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにおける多様な事業でグローバル展開を加速する一方で、米中デカップリング、ロシア・ウクライナ情勢、中東情勢等の国際関係の緊張の高まりなどにより、当社グループを取り巻く事業環境は激しく変化しています。新たなリスクや複雑化するリスクが当社グループに及ぼす影響は従来以上に大きくなっており、グループ全体のリスクを可視化して対応策を強化することが必要であり、具体的な対策を推進しています

 

(2) リスクマネジメント体制と関係者の役割

取締役会の監督のもと、リスクマネジメント全体についての責任者である社長を、リスク・コンプライアンス担当役員が補佐します。同役員は、社長の指示のもとリスクマネジメント全体を把握して、個別のリスク対策について各部門長(スタッフ部門担当役員・事業部門長等)に指示・支援を行います。また、リスク・コンプライアンス担当役員のもとにリスクマネジメントチームを設置し、同チームは社内各部門の活動モニタリング、具体的なリスク対策支援、スタッフ部門と事業部門の組織間連携強化を推進します。そして、社長が委員長となるリスク・コンプライアンス委員会で、リスクマネジメントに関する経営レベルの決定事項や指示事項を各部門長に周知徹底しています


 

 

(3) リスクマネジメントのPDCAサイクルの強化

各組織における自律的なリスク管理を基本とし、その中でもリスクの対応状況について取締役会が定期的に監督する特に重要なリスクを「グループ重大リスク」、各事業部門における年度経営計画のアサインメントの達成を阻害する可能性があるリスクで当該年度に重点的に取り組むものを「事業重要リスク」と定め、PDCA管理を強化しています

リスクマネジメントのPDCAサイクル(グループ重大リスクと事業重要リスク)


 

(4) 当社グループ全体に係るリスク

グループ重大リスクとして設定したリスクについて

① 国内外の生産拠点における事故発生リスク(環境事故、保安事故、労災)

国内外に広く生産拠点を展開している当社グループにとって、事故発生による事業への影響は大きく、事業継続に支障をきたす可能性があります。当社グループでは、安全な操業を継続することは、社会からの信頼、従業員や地域社会の安全、環境配慮等における価値を守るための最重要事項と認識しています。そのため重篤な労災や保安事故の防止に向け、発生した事故の教訓を生かし、不安全行動による重篤災害撲滅を目指したLSA(ライフセービングアクション)活動の推進や、工場等の機械のリスクアセスメント実施における専門技術者の育成及び工場設備等の点検強化、各生産拠点におけるプロセス安全技術の維持を目的とした保安防災伝承活動の展開、防消火技術の向上等を進めています。また、現場の監査における専門家等第三者の視点の導入、人材育成を含む安全文化の醸成強化に努めています。今後はこれらの活動の全社レベルでの更なる活動定着を進めていきます。

 

② 国内外の品質不正リスク

製品の設計・検査の不備、不適切な顧客対応や報告が行われた場合や、法規制・規格等の遵守不備があった場合、リコールや当社ブランドに対する社会的信頼の喪失や製品の生産・流通の停止等により、当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。当社グループでは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにわたり、様々な製品を提供していますが、それぞれの製品の品質を確保することは、お客様をはじめ、全てのステークホルダーの方々の信頼をいただくために最重要と認識しています。品質不正の発生を防ぐため、各拠点の品質保証活動の健全性を確認する点検や、現場従業員の品質意識向上を目的として品質担当役員が現場を訪問し双方向でコミュニケーションをするタウンホールミーティングや、グループ全員が品質リスクを理解し日々の業務を行うための品質リスク教育を国内海外の各拠点で実施しています。

 

③ 国内外の環境安全・品質保証に関わる法規制要求事項の未遵守リスク

環境安全・品質保証に関わる法規制等の未遵守の状態が発生した場合、リコールや当社ブランドに対する社会的信頼の喪失や製品の生産・流通の停止等により当社グループの業績に影響が生じる可能性があります。環境安全・品質保証に関わる法規制等の遵守を徹底するために、関連法規等の内容を定期的に更新するとともに専門家等の第三者による確認も経たうえで社内へ周知し、チェックシート等を活用し現場従業員がその遵守状況を確認できる仕組みを構築しています。また、上記取組の継続とともに、当社グループにおいて様々な製品に使用している化学品の法規制等の管理を徹底するためのシステムの運用も実施しています。

 

 

④ 経済安全保障・グローバルサプライチェーンにおけるリスク

当社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントからなる多様な事業を運営しており、事業ごとに原材料や部品、施工業者、物流経路、倉庫、販売先に至るまで、国内外で多様なサプライチェーンを構成しています。そのため、経済安全保障に関する世界各国の政策動向が事業運営やサプライチェーンに影響を及ぼす可能性があり、また、世界中で発生する自然災害、保安事故、人権問題、地政学問題、経営破綻等による、取引先との取引回避や取引先の機能不全に起因してサプライチェーンが途絶する可能性があり、主なリスクとして以下のものを認識しています

 

・ 経済制裁・輸出管理規制の強化等の経済安全保障リスクや地政学による企業活動に関するリスク

当社グループは、製品の輸出や海外における現地生産等、幅広く海外で事業展開をしており、安定的な国際通商のメリットを享受しています。そのため、何らかの理由により二国間あるいは多国間の通商環境や地政学情勢が変化することにより、海外の会社との取引や出資、その他事業活動に影響を受けるリスクがあります。特に、米中デカップリング、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中東情勢の不安定化等、近年国際関係の緊張が高まっており、これに伴って日本や諸外国において、経済安全保障の観点から経済制裁、輸出管理規制、外国直接投資規制を強化する動きが続いています。これらの規制に対応することにより、取引先との取引の停滞・中断、資金の移動の遅延・停止、事業遂行の遅延・不能等により、業績に影響を及ぼすなどのリスクがあります。地政学や法規制の動向には常に注意を払っており、経営層や事業部門・スタッフ部門の管理者層への情報共有を通じてグループ全体の感度向上を図るとともに、対応部署の明確化を通じて社内体制強化の検討も進めています。また、適時に規制内容を理解することや関係当局に事前に相談することに加えて、経済制裁については外部の顧客スクリーニングシステム等を利用して慎重な取引審査を行うなどにより、適切な対応に努めています。

 

・ サプライチェーン上の人権課題に関するリスク

サプライチェーン上の人権課題に適切な対応がとられていない場合は、取引先との取引停止、法令による罰則の適用、当社グループに対する社会的信頼の喪失等により、事業継続に支障をきたす可能性があります。当社グループでは2022年に「旭化成グループ人権方針」を制定し、自らの活動及び事業のバリューチェーン全体におけるステークホルダーの全ての皆さまの人権の尊重を、基本的な考え方に据えています。人権尊重について議論・方向付けし、また、「旭化成グループ人権方針」に沿った行動を推進するための場として2022年度に新設した人権専門委員会については、2023年度に第2回委員会を開催し、世の中の人権動向の共有、当社グループにおける人権尊重取り組み事項の整理などを行いました。従来、取り組んでいる社内報、eラーニング等を活用した人権に関する啓発活動を継続するとともに、サプライチェーンにおける人権デュー・ディリジェンスの実施の具体化を進めていくことを今後の課題として認識しています。

 

・ 原料・資材の調達リスク

サプライチェーンが各国・地域の法規制の動向や突発事象などにより影響を受ける場合に、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。当社グループではサプライヤーの選定におけるリスク評価や監査の実施、サプライヤー及び販売先のモニタリングなどを通じて、リスクを低減させることに加えて、主要製品・事業における原材料の調達ルートの多様化や適正な水準の在庫の確保を通じて、安定操業に向けて取り組んでいます。また、強靭で持続可能なサプライチェーンを維持するための、体系的かつ継続的なサプライチェーンリスクマネジメント(SCRM)の実施へ向けて、2022年度からグループを横断して、リスクの洗い出し・評価・対策の設定を開始しました。サプライチェーンに関連する各部門(製造、経営企画、営業、技術開発などの各部署)との連携や、実効性のあるリスク対策の実施に取り組んでおり、進捗状況を定期的にモニタリングしてSCRMを推進しています。

 

 

⑤ サイバーセキュリティ、通信インフラに関するリスク

昨今のサイバー攻撃の急増・巧妙化が進む一方で、サイバーセキュリティ対策が不十分であった場合は、システム停止により事業継続が困難になる可能性があります。安心・安全・安定したIT基盤の運用は経営の大前提であり、当社グループは情報セキュリティ対策を重大な経営課題と認識し、サイバー攻撃の検知・対応ツールの強化、インシデント発生時の迅速で漏れの無い情報フローの構築を推進するほか、eラーニングやメール訓練等による従業員のセキュリティ意識の向上施策を実施しています。今後は、経営陣とのサイバーセキュリティ対策に関するディスカッションを強化しつつ、グローバル全体でのサイバーセキュリティ対策や従業員のセキュリティ意識向上施策を継続展開していきます。

 

⑥ 大規模災害やパンデミック、海外有事(テロ、紛争)に関するリスク

近年頻繁に発生している自然災害やテロ・個別紛争等のリスクは年々高まっており、リスク顕在時には従業員安全の確保や事業継続に支障を来す可能性があります。国内外に幅広く拠点を展開している当社グループでは、まずは国内の事業所、製造拠点を想定した、緊急事態発生時の情報伝達フローの明確化等を目的とした関係規程の改定、パンデミックの再発に備えたマニュアル整備等を含めて、各種緊急事態対応マニュアルの再整備を進めています。また、国内の各製造拠点においては自然災害について、拠点ごとのリスク想定、減災計画、緊急時対応計画を策定し、訓練を含めた対応を進めています。今後は、国内における規程・マニュアルの周知及び事務所地区を中心とした自然災害訓練等の実施、海外拠点・工場、国内に独立して存在する工場における減災対応・マニュアル整備を進めていきます。

 

⑦ M&Aに関するリスク

当社グループは、事業ポートフォリオの進化にあたっては、「成長の為の挑戦的な投資」と「構造転換や既存事業強化からのフリー・キャッシュ・フロー創出」の両輪を回すことが重要と考え、事業投資、新規事業の創出や事業ポートフォリオの転換の手段として、国内外におけるM&Aを通じた事業展開を行っています。ZOLL Medical Corporation(2012年度)、Polypore International Inc.(2015年度、以下、Polypore社という)、Sage Automotive Interiors, Inc.(2018年度)、Veloxis Pharmaceuticals A/S(2019年度)などの大型買収や近年の「住宅」セグメントや「ヘルスケア」セグメントを中心とした買収などにより、のれん及び無形固定資産残高は増加傾向にあります。M&Aの結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価については、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどによって合理的に算定された価額を基礎として算定しており、事業計画等の不確実性を伴う仮定が反映されています。

そのため、事業計画等において初期に期待した投資効果が発現しなかった場合や関係会社の経営が悪化した場合、被買収企業との事業統合が遅延した場合など、のれんや無形固定資産の減損等により当社グループの業績に影響が及ぶ可能性があります。当社グループでは、買収検討の対象企業のデューデリジェンス(詳細調査)を慎重に行い、買収後の事業統合の計画を入念に検証することで、リスクの低減に努めています。しかし、過去の大型買収が海外での新規市場や成長市場に関する案件であり、想定外の事業環境の変化への対応を誤ると、投資額の回収が困難となるリスクを抱えています。業界動向を見通すことが難しい事業については、より一層の精査をすることやリスクをより慎重に見積もることで対処していきます。

 

⑧ 気候変動に関するリスク

当社グループは、気候変動に関して生じる変化を重要なリスク要因として認識しています。当社グループではTCFD提言に賛同するとともに、TCFD提言の枠組みに基づき、気候変動が事業に及ぼす影響の分析、対応策の検討を行っています。詳細は「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組 (1) サステナビリティ共通 ②気候変動関連」の記載をご参照ください。

 

 

上記以外のリスクについて

上記に記載したリスク以外にも、当社グループの事業運営全体にかかわるリスクに対して日々の事業活動の中でリスク低減に努めており、主なリスク項目は以下のとおりです

 

① 通商に関するリスク

当社グループは、原材料の購入や製品の輸出、海外における現地生産等、幅広く海外で事業を展開し、国際貿易や資金決済に関する二国間あるいは多国間の協定や枠組みのメリットを享受しています。これらの協定や各種枠組み等の変更や新規規制の導入などにより、関税の増加、通関の遅延・不能、資金決済の遅延・不能が生じ、代金回収や事業遂行の遅延・不能、業績悪化等が発生するリスクを負っています。当社グループでは、適時に規制内容を理解することや、関係当局に事前に相談し、対策を講じることによって、これらのリスクの低減に努めています。

また、グループ会社間の国際的な取引価格については、当社グループ税務方針に基づき、日本国政府及び相手国政府の移転価格税制を遵守していますが、税務当局から取引価格が不適切であるとの指摘を受ける可能性や、協議が不調となった場合に二重課税や追徴課税を受ける可能性があります。そのため、重要性の高いグループ会社間取引については、事前確認制度の活用、あるいは、外部専門家の意見も参考にしながら、各国の移転価格税制を踏まえた独立企業間価格を設定しています

 

② 事業競争力に関するリスク

当社グループは、「マテリアル」「住宅」「ヘルスケア」の3つのセグメントにおいて、付加価値の高い製品・サービスを提供していますが、類似の製品や技術による競合企業のキャッチアップ、新たな競合企業の参入等によって競争環境が激化することや、デジタル技術や脱炭素化に貢献する技術等急速な技術革新による産業構造の変化、急激な需要構造・市場構造の変化などにより、当社グループの各事業の競争力を損なう可能性があります。当社グループでは、競合製品の競争力や産業構造の変化をタイムリーかつ的確に見通すことに努めるとともに、製品やサービスの絶え間ない差別化や模倣困難なビジネスモデルの構築、知的財産等による高い参入障壁を設けることにより、これらのリスクの低減に努めています

 

③ 市況変動によるリスク

・ 原油・ナフサ価格変動リスク

当社グループは、原油やナフサを原料とした石油化学製品の製造・販売事業を展開しています。また、各原料市況並びに需給バランスから固有の市況を形成しており、その変動は当該事業や誘導品からなる当社グループの各事業に影響を及ぼします。特に、事業規模が大きいアクリロニトリル事業は市況の変動の影響が大きいため、販売価格のフォーミュラの見直し等、収益の安定化に努めています。

 

・ 為替変動リスク

当社グループは、輸出入及び外国間等の貿易取引において、外貨建ての決済を行うことに伴い、円に対する外国通貨レートの変動による影響を受けます。そのため、取引においては、先物為替予約等によるヘッジ策やCMS(キャッシュ・マネジメント・システム)の活用による、安定的かつ効率的な資金活用を目指しています。当社グループは、収益の多くが外貨建てであることに加え、当社の報告通貨が円であることから、外国通貨に対して円高が進むと、当社グループの業績にマイナスのインパクトを与えます。当社の試算では、米ドル・円レートが1円変動すると連結営業利益に年間11億円の変動をもたらします。

 

(5) 各セグメントに係るリスク

「マテリアル」、「住宅」、「ヘルスケア」の各セグメントでは、事業上の課題やリスクへの対策検討を実施する中で事業重要リスクのPDCA管理も実施しています。各事業の課題やリスクに関する詳細は「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (2) 優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題」をご参照ください。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

本項の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの分析は、将来のリスク、不確実性及び仮定を伴う予測情報を含んでいます。これらの記述は、現時点で当社が入手している情報を踏まえた一定の前提条件や見解に基づくものであり、「3 事業等のリスク」等に記載された事項及びその他の要因により、当社グループの実際の業績はこれらの予測された内容とは大幅に異なる可能性があります。

なお、2022年10月31日(米国東部時間)に行われたFocus Plumbing LLC、Focus Framing, Door & Trim LLC、Focus Electric LLC、Focus Concrete, LLC及びFocus Fire Protection LLCとの企業結合について前連結会計年度において暫定的な会計処理を行っていましたが、当連結会計年度に確定したため、前連結会計年度との比較・分析にあたっては、暫定的な会計処理の確定による見直し後の金額を用いています。

 

(1) 経営成績等の状況の概要及び経営者の視点による分析・検討内容

① 経営成績

Ⅰ 当社グループ全体

当社グループの当連結会計年度(2023年4月1日~2024年3月31日、以下、「当期」)における世界経済は、欧州においては金融引締めによる消費者マインド悪化により景気が弱含みを見せ、また、中国ではCOVID-19収束により経済活動の正常化が進みつつも、不動産市場の引き続きの低迷を受けて生産・消費の回復は緩やかとなる一方で、米国においては実質賃金上昇を受けた消費増加によって景気回復が続きました。

このような環境の中で、当社グループの当期における連結業績は、「マテリアル」セグメントで中国を中心とした想定以上の需要減速や市況下落の影響を受けましたが交易条件が改善し、「住宅」及び「ヘルスケア」セグメントは堅調に推移したことから、売上高は2兆7,849億円で前連結会計年度(以下、「前期」)比584億円の増収となり、営業利益は1,407億円で前期比130億円の増益となりました。一方、持分法による投資損失381億円を計上したことなどにより経常利益901億円で前期比308億円減益となりました。汎用石化・樹脂資産グループに関連する設備等の減損損失を計上しましたが、前期比では減損損失が減少したこと、Asahi Kasei Energy Storage Materials, Inc.株式譲渡に伴う税金費用の減少等があったことから、親会社株主に帰属する当期純利益は438億円と黒字に転換しました。その結果、EPS(1株当たり当期純利益)は31.60円と前期比97.90円の増加となりました

資本効率について、当期のROICは5.9%で前期比2.0%の改善、ROEは2.5%で前期比8.0%の改善となりました。米国連結子会社間の株式譲渡による法人税等の益がある一方、「マテリアル」セグメントでの業績低迷や基盤マテリアル事業等の一部事業で減損損失を計上したことなどから低水準となりました。

財務健全性については、有利子負債の減少と純資産の増加を受けて、D/Eレシオは0.51となりました。

 

〈当社グループの業績〉

 

経営指標

2021年度

2022年度

2023年度

前期との

差異

収益性

売上高

(億円)

24,613

27,265

27,849

+584

営業利益

(億円)

2,026

1,277

1,407

+130

売上高営業利益率

(%)

8.2

4.7

5.1

+0.4

EBITDA

(億円)

3,508

3,050

3,229

+179

売上高EBITDA率

(%)

14.3

11.2

11.6

+0.4

親会社株主に帰属する当期純利益又は当期純損失(△)

(億円)

1,619

△919

438

+1,358

EPS

(円)

116.68

△66.30

31.60

+97.90

資本効率

ROIC

(%)

6.6

4.0

5.9

+2.0

ROE

(%)

10.3

△5.5

2.5

+8.0

財務健全性

D/Eレシオ

 

0.45

0.57

0.51

△0.06

 

 

Ⅱ セグメント別

ⅰ 「マテリアル」セグメント

売上高は1兆2,617億円前期比549億円の減収となり、営業利益は426億円で前期比15億円の増益となりました。需要減速による数量因やその他因(在庫影響、操業度など)によるマイナスの影響を受けましたが、市況下落による売値因のマイナスを原燃料因や円安による為替因で大きくカバーしたことで交易条件が改善し、減収増益となりました。

 

・ 環境ソリューション事業

基盤マテリアル事業は、中国を中心とする石化関連全般の需要低迷による販売量の減少や、在庫受払差、定修影響などにより、減益となりました。主力事業であるアクリロニトリル事業についても、販売価格の原材料連動フォーミュラ化を進め安定的な収益を創出できるよう努めているものの、販売数量の減少や市況の下落により交易条件が悪化したことにより、減益となりました。セパレータ事業は、前期の操業度悪化による在庫影響や価格改定があった一方で、前期のPolypore減損に伴う広義ののれん(無形固定資産・のれん)の償却費減少により、増益となりました。なお、リチウムイオン電池用セパレータは、電気自動車等の環境対応車やスマートフォン等の民生機器、また蓄電システム(ESS)等の需要動向に影響を受けますが、販売数量は車載・民生用途ともに前期比で概ね横ばいとなりました。

 

・ モビリティ&インダストリアル事業

本事業は、自動車内装材やエンジニアリング樹脂等、自動車用途の製品の割合が大きいため、その業績は、グローバルでの自動車生産台数増減の影響を強く受けます。自動車内装材については、自動車減産影響の改善や能力増強を受けて販売量が増加したことに加え、交易条件が改善し、増益となりました。エンジニアリング樹脂については、自動車用途や太陽電池用途の販売量が増加したことに加え、交易条件が改善し、増益となりました。

 

・ ライフイノベーション事業

電子部品や電子材料を中心とするデジタルソリューション事業は、AIサーバーやハイエンドスマートフォン向け製品が堅調に推移した一方で、在庫受払差の影響等により減益となりました。その他の事業(繊維事業や消費財事業等)は、生活関連製品が堅調な国内需要に支えられたことに加え、原料高に伴う価格改定が進捗したこと、ベンベルグが生産復旧により堅調に推移していることにより、増益となりました。

 

ⅱ 「住宅」セグメント

売上高は9,544億円前期比554億円の増収となり、営業利益は830億円で前期比76億円の増益となりました。


・ 住宅事業

建築請負部門は、物件の大型化・高付加価値化による平均販売単価の上昇や固定費の削減が進んだものの、資材価格の高騰や工事数量の減少により、減益となりました。不動産部門は、賃貸管理事業の堅調な推移に加え、分譲マンション事業も都心部の高額物件の販売が多かったことから、増益となりました。海外事業部門は、北米事業は木材市況下落に対し高い売値を維持できた前年度に対して収益率が悪化し減益となった一方、豪州事業が資材費・労務費高騰の影響を大きく受けた前年同期に対して、当期は価格転嫁が進捗し、増益となりました。

 

・ 建材事業

原燃料価格高騰の影響を受けた前期に対して、当期は価格転嫁が進捗し、増益となりました。

 

ⅲ 「ヘルスケア」セグメント

売上高は5,538億円前期比569億円の増収となり、営業利益は485億円前期比66億円の増益となりました

 

・ 医薬・医療事業

医薬事業においては、免疫抑制剤「Envarsus XR」など主力製剤の販売が順調に推移しましたが、前期に計上されたライセンス一時金収入の減少や、Veloxisの販管費増加により、減益となりました。医療事業においては、次世代抗体医薬品CDMO事業を手掛けるBionova Scientific, LLCの新規連結による減益影響に加え、ウイルス除去フィルター「プラノバ」の顧客の在庫調整に伴う販売量減少により減益となりました。

 

・ クリティカルケア事業

「LifeVest®」の保険償還状況の改善や、除細動器の価格転嫁の進捗、部材調達難の改善に伴うAED(自動体外式除細動器)の販売量の増加により、増益となりました。

 

Ⅲ 生産、受注及び販売の状況

ⅰ 生産実績

当社グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではないため、セグメントごとに生産規模を金額あるいは数量で示すことはしていません

このため、生産の状況については、「Ⅱ セグメント別」における各セグメントの業績に関連付けて示しています

 

ⅱ 受注状況

当社グループは注文住宅に関して受注生産を行っており、その受注状況は次のとおりです。その他の製品については主として見込生産を行っているため、特記すべき受注生産はありません

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

住宅

393,947

110.8

520,357

103.4

 

 

ⅲ 販売実績

当期における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

販売実績(百万円)

前期比(%)

マテリアル

1,261,729

95.8

住宅

954,405

106.2

ヘルスケア

553,786

111.5

その他

14,958

106.7

合計

2,784,878

102.1

 

(注) 1 セグメント間の取引については、相殺消去しています。

2 前期及び当期において、主要な販売先として記載すべきものはありません。

 

 

② 財政状態

当期末の総資産は、為替の円安や期末日の休日要因などにより、現金及び預金や、受取手形、売掛金及び契約資産が増加したことなどから、前期比2,088億円増加し、3兆6,627億円となりました。

流動資産は、現金及び預金が869億円、受取手形、売掛金及び契約資産が432億円、棚卸資産が363億円増加したことなどから、前期比1,618億円増加し、1兆6,500億円となりました。

固定資産は、投資有価証券が243億円、有形固定資産が184億円減少したものの、繰延税金資産が386億円、無形固定資産が186億円、退職給付に係る資産が160億円増加したことなどから、前期比470億円増加し、2兆127億円となりました。

流動負債は、コマーシャル・ペーパーが410億円減少したものの、支払手形及び買掛金が327億円、前受金が155億円増加したことなどから、前期比24億円増加し、9,146億円となりました。

固定負債は、繰延税金負債が76億円減少したものの、社債が300億円、長期借入金が165億円、退職給付に係る負債が47億円増加したことなどから、前期比532億円増加し、8,995億円となりました。

有利子負債は、前期比224億円減少し、9,170億円となりました。

純資産は、配当金の支払500億円があったものの、為替換算調整勘定が1,524億円増加したことや親会社株主に帰属する当期純利益を438億円計上したことなどから、前期末の1兆6,954億円から1,532億円増加し、1兆8,486億円になりました。

その結果、1株当たり純資産は前期比110.36円増加し1,308.20円となり、自己資本比率は前期末の48.1%から49.5%となりました。D/E レシオは前期末から0.06ポイント改善し0.51となりました。

 

③ キャッシュ・フローの状況

Ⅰ キャッシュ・フローの状況

当期における営業活動によるキャッシュ・フローは2,953億円の収入、投資活動によるキャッシュ・フローは1,426億円の支出となり、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動によるキャッシュ・フローと投資活動によるキャッシュ・フローの合計)は1,527億円の収入となりました。財務活動によるキャッシュ・フローは943億円の支出となり、これらに加え、現金及び現金同等物に係る換算差額による増加297億円、会社分割に伴う現金及び現金同等物の減少24億円がありました。以上の結果、現金及び現金同等物の当期末残高は、前連結会計年度末に比べ856億円増加し、3,335億円となりました。

 

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当期における営業活動によるキャッシュ・フローは、法人税等の支払348億円、投資有価証券売却益271億円、売上債権及び契約資産の増加191億円などの支出があったものの、減価償却費1,526億円、減損損失928億円、持分法による投資損失381億円、のれん償却額296億円、税金等調整前当期純利益288億円、仕入債務の増加186億円などの収入があったことから、2,953億円の収入(前期比2,045億円の収入の増加)となりました。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

当期における投資活動によるキャッシュ・フローは、投資有価証券の売却による収入376億円、貸付金の回収による収入81億円、事業譲渡による収入73億円などの収入があったものの、有形固定資産の取得による支出1,477億円、無形固定資産の取得による支出242億円、貸付けによる支出139億円などの支出があったことから、1,426億円の支出(前期比710億円の支出の減少)となりました。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

当期における財務活動によるキャッシュ・フローは、長期借入れによる収入655億円、社債の発行による収入600億円などの収入があったものの、長期借入金の返済による支出545億円、配当金の支払500億円、コマーシャル・ペーパーの減少410億円、社債の償還による支出400億円、短期借入金の減少237億円、リース債務の返済による支出93億円などの支出があったことから、943億円の支出(前期比2,061億円の支出の増加)となりました。

 

当社グループの連結キャッシュ・フローの推移

(単位:億円)

 

2021年度

2022年度

2023年度

営業活動によるキャッシュ・フロー①

1,833

908

2,953

投資活動によるキャッシュ・フロー②

△2,210

△2,136

△1,426

フリー・キャッシュ・フロー③(①+②)

△377

△1,228

1,527

財務活動によるキャッシュ・フロー④

423

1,118

△943

現金及び現金同等物に係る換算差額⑤

210

157

297

現金及び現金同等物の増減額⑥(③+④+⑤)

256

47

880

現金及び現金同等物の期首残高⑦

2,162

2,429

2,479

連結の範囲の変更に伴う増減額⑧

11

2

-

会社分割に伴う減少額⑨

-

-

△24

現金及び現金同等物の期末残高(⑥+⑦+⑧+⑨)

2,429

2,479

3,335

 

 

Ⅱ 流動性と資金調達の源泉

(資本の財源及び資金の流動性について)

2025年3月31日に終了する連結会計年度においては、各セグメントが安定的なキャッシュ・フローを創出することを見込んでいます。加えて、財務規律の強化や事業ポートフォリオ転換などを通じた収益体質の強化にも取り組み、更なるキャッシュの創出に継続的に努めています。

また、当社グループでは、D/Eレシオ0.7を目安に健全な財務体質を維持しつつ、これを背景に金融情勢に機動的に対応し、金融機関借入、社債やコマーシャル・ペーパーの発行など多様な調達手段により、安定的かつ低コストの資金調達を図ります。同時に資金の年度別返済の集中を避けることで借り換えリスクの低減も図っています。

これらの資金を、経営基盤の強化・変革、持続可能な社会の実現と企業価値の継続的な向上のための戦略的な投資、及び株主の皆様への還元に活用していきます。

なお、当社グループでは、CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)とグローバル・ノーショナル・キャッシュ・プーリングを導入しており、国内外の金融子会社、海外現地法人などにおいて集中的な資金調達を行い、子会社へ資金供給するというグループファイナンスの考え方を基本としています。グローバル拡大への対応とグループ経営の深化の視点から、今後も連結ベースでの資金管理体制の更なる充実と資金効率化を図ります。

 

(2) 重要な判断を要する会計方針及び見積り

当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されています。この連結財務諸表を作成するにあたり重要となる会計方針については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載されているとおりです。

当社グループは、退職給付会計、税効果会計、貸倒引当金、棚卸資産の評価、投資その他の資産の評価、訴訟等の偶発事象などに関して、過去の実績や当該取引の状況に照らして、合理的と考えられる見積り及び判断を行い、その結果を資産・負債の帳簿価額及び収益・費用の金額に反映して連結財務諸表を作成していますが、実際の結果は見積り特有の不確実性があるため、これらの見積りと異なる場合があります。

当社グループの財政状態又は経営成績に対して重大な影響を与え得る会計上の見積り及び判断が必要となる項目は以下のとおりです。なお、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

① 棚卸資産の評価

当社グループで保有する棚卸資産は取得原価をもって貸借対照表価額とし、収益性の低下により期末における回収可能価額が取得原価よりも下落している場合には、回収可能価額まで棚卸資産の評価を切り下げています。回収可能価額は、商品及び製品については正味売却価額に基づき、原材料等については再調達原価に基づいています。経営者は、棚卸資産の評価に用いられた方法及び前提条件は適切であると判断しています。ただし、当社グループは、主に「マテリアル」セグメントを中心として市場価格の変動リスクに晒されており、将来、経営環境の悪化等により市場価格が下落した場合には棚卸資産の簿価を切り下げることになります。

 

② 企業結合取引の結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価

当社グループは、企業結合取引の結果取得した無形固定資産の企業結合日時点における時価について、コスト・アプローチ、マーケット・アプローチ、インカム・アプローチなどの合理的に算定された価額を基礎として算定しています。

経営者は、無形固定資産の時価の見積りに用いられた、事業計画に含まれる将来の販売数量の見込みや割引率等についての主要な仮定について合理的であると判断しています。

 

③ 有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の減損

当社グループは、有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)について、帳簿価額が回収できない可能性を示す事象や状況の変化が生じた場合に、減損の兆候があるものとして、減損損失の認識の判定を行っています。減損の存在が相当程度に確実と判断した場合、減損損失の測定を行い、当該資産の帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しています。回収可能価額は、使用価値と正味売却価額のうち、いずれか高い金額としています。使用価値は、将来の市場の成長度合い、収益と費用の予想、資産の予想使用期間、割引率等の前提条件に基づき将来キャッシュ・フローを見積もることにより算出しています。

経営者は、減損の兆候及び減損損失の認識に関する判断、及び回収可能価額の見積りに関する評価は合理的であると判断しています。ただし、予測不能な市場環境の悪化等により有形固定資産及び無形固定資産(のれんを含む)の評価に関する見積りの前提に重要な変化が生じた場合には、減損損失を計上する可能性があります。

 

④ 繰延税金資産の評価

当社グループは、繰延税金資産のうち、回収可能性に不確実性があり、将来において回収が見込まれない金額を評価性引当額として設定しています。繰延税金資産の回収可能性については、課税所得及びタックスプランニングの見積りにより計上していますが、特に課税所得の見積りには将来に関する予測や情報が含まれています。将来の予測や情報に基づき、繰延税金資産の一部又は全部が回収できない可能性が高いと判断した場合には、将来回収が可能と判断される額までを繰延税金資産に計上しています。経営者は、繰延税金資産の回収可能性の判断及び前提となる課税所得やタックスプランニングの見積りは適切であると判断しています。ただし、将来、経営環境の悪化等により、想定していた課税所得が見込まれなくなった場合は、評価性引当額を設定することにより繰延税金資産が取崩される可能性があります。

 

⑤ 退職給付債務及び費用

当社グループは主として従業員の確定給付制度に基づく退職給付債務及び費用について、割引率、昇給率、退職率、死亡率、年金資産の長期期待運用収益率等の前提条件を用いた数理計算により算出しています。割引率は測定日時点における、従業員の給付が実行されるまでの予想平均期間に応じた長期国債利回りに基づき決定し、各前提条件については定期的に見直しを行っています。長期期待運用収益率については、過去の年金資産の運用実績及び将来見通しを基礎として決定しています。

経営者は、年金数理計算上用いられた方法及び前提条件は適切であると判断しています。ただし、前提条件を変更した場合、あるいは前提条件と実際の数値に差異が生じた場合には、数理計算上の差異が発生し、当社グループの退職給付債務及び費用に影響を与える可能性があります。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

合弁会社株主間契約

契約会社名

契約締結先

内容

合弁会社名

契約締結日

契約期間

旭化成㈱

(当社)

PTT Public Company Limited

合弁会社株主間契約 等

PTT Asahi Chemical Co., Ltd.

2008年3月24日

締結日から合弁会社の存続する期間

 

 

 

6 【研究開発活動】

当社グループにおける研究開発活動は、長期視点で次世代の事業を創出するためにグループ横断的に中長期的なテーマを開拓するコーポレートの研究開発機能と、事業競争力の強化に必要なテーマを深掘りする各事業の研究・技術開発機能の体制で推進しています。当社及び連結子会社の研究費、主たる研究開発活動の概要及び成果は以下のとおりです。

 

 

当連結会計年度

 

マテリアル

43,834

百万円

 

住宅

3,565

百万円

 

ヘルスケア

47,783

百万円

 

その他

137

百万円

 

95,319

百万円

 

全社

11,278

百万円

 

合計

106,597

百万円

 

 

 

1 コーポレートの研究開発における基本方針

(1) ミッションとあるべき姿

コーポレートの研究開発のミッションを以下のとおり定め、研究開発におけるコア技術の育成・獲得・深耕及びイノベーションによる新事業創出を当社グループの成長戦略の両輪として、様々な社会課題を成長のエンジンへ転換し、持続的な成長を実現する原動力とすることを、あるべき姿として目指していきます。

(コーポレートの研究開発のミッション)

コア技術の育成・獲得・深耕

差別性・優位性の高い製品・サービス開発のためのコア技術の深化及び外部技術獲得・育成

イノベーションによる新事業創出

自社の研究開発のマネジメントの強化に加え、CVCやオープンイノベーション等、社外との連携も加速

技術基盤機能の深化と進化

当社グループを支える技術基盤機能の深化と進化

 

 

(2) 重点戦略分野等

重点戦略分野として、「脱炭素・水素(カーボンニュートラル)」「膜・セパレーション技術」「化合物半導体」の3分野を設定して研究開発テーマに資源配分を進めています。また、これらを含めた研究開発を進めるにあたっては、オープンイノベーションを通じて共創による開発を進めるとともに社会実装を加速し、さらに、DXや知的財産権のフル活用により無形資産の価値の最大化を図り、新事業創出による持続可能な社会への貢献を目指していきます。無形資産の価値の最大化については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1) 経営方針・経営戦略等 ② 当社グループ全体の経営方針・経営戦略等 <経営方針・経営戦略> v 経営基盤の強化 ■ 無形資産の最大活用」もご参照ください。

 

2 新事業創出に向けた研究開発の加速のための取り組み

(1) CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)の活動

当社グループは、2008年に日本国内でCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)を設立し、2011年から米国を拠点として、スタートアップ企業への投資を通して最先端技術・ビジネスを獲得し、新事業の創出を行ってきました。現在は、米国、ドイツ、中国の拠点でグローバルな活動の幅を広げ、3年間で7,500万ドルの投資枠を設けて、1社当たり500万ドルまでの投資に関しては本社での決裁を不要とするなど、スピーディな意思決定、手続きができるような仕組みを運用しています。

2023年4月には、「Care for Earth」投資枠を設定し、水素、蓄エネルギー、カーボンマネジメント、バイオケミカルなどの環境分野の課題解決に取り組むアーリーステージのスタートアップ企業を対象に、2027年度までの5年間にグローバルで1億ドルの出資を実施していく予定です。この投資枠を使い、同年12月にはアニオン交換型の水電解装置用の膜を開発するIonomr Innovations Inc.(本社:カナダ・バンクーバー市、以下「Ionomr社」)への出資参画を決定しました。詳細は「3 主な研究開発活動 (1) 当社グループ全体 ② 膜・セパレーション技術の開発」をご参照ください。

 

(2) オープンイノベーションによるミッシングパーツの取り込み

研究テーマの探索/研究開発/事業開発のそれぞれの段階で、アセットライト、高付加価値化、スピードアップの実現へ向けて産官学のパートナーと連携を進めています。外部のオープンイノベーションプラットフォームも積極的に活用し、例えば、サステナブルな価値の提供を目指すオープンイノベーションプログラム「Asahi Kasei Value Co-Creation Table 2023」を昨年度に引き続き進めており、従来の商流にとらわれない新たなパートナーとの共創を加速しています。

 

(3) 社内基盤の強化(事業開発視点を重視した独自のアジャイル型ステージゲート管理や、オープンイノベーション文化の醸成)

研究開発テーマのポートフォリオ管理や適切な資源配分を目的として、アジャイル型ステージゲート制度を導入しています。探索、研究、開発、事業開発、事業化準備の各ステージの要件や、各研究開発テーマのステージ上の位置付けを明確にし、研究開発テーマを次のステージに移行させる判断にあたっては、技術視点のみならず、顧客価値視点を重視し、ビジネスモデル、事業戦略、特許戦略、品質保証、製造、環境安全対応等、ステージごとに必要な審査を強化しています。さらに、審査プロセスを通じて、研究開発部門の内外のメンバーから多面的な助言を得ることや、各事業との連携を深め、既存事業との関係性の整理・明確化、パートナー連携の活用強化や出口戦略の多様化に取り組んでいます。また、研究開発に関わる高度専門人材があふれ出る仕組みの構築と風土の醸成へ向けて、働き方やDE&I、キャリア支援、組織の支援や個の支援の各場面において、挑戦・成長を促して多様性を拡げるためのキャリア施策とマネジメント施策を進め、社内での対話を通じた共創・イノベーションを目指しています。

 

3 主な研究開発活動

(1) 当社グループ全体(「全社」)

① 炭素・水素循環型社会実現への貢献

 i バイオエタノールからのバイオ化学品製造の実証

バイオエタノールからバイオ基礎化学品を製造するプロセス開発・設計を進めており、4~5万トン規模のプラントについて2027年稼働を目標に検討を進めています。GHG排出量を削減し、自社基礎化学品や誘導品のCFP低減を推進するとともに、ISCC認証やバイオマスバランスアプローチを適用したバイオ化学品サプライ事業を目指し、実証実験を通じたデータ取得や技術のパッケージングを実施していきます。

 

 ii アルカリ水電解システムの開発

カーボンニュートラルを実現するための取り組みとして、再生エネルギーを活用したアルカリ水電解システムの開発を実施しています。国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下、NEDO)の「グリーンイノベーション基金事業/再エネ等由来の電力を活用した水電解による水素製造」に対し、2021~2030年度を事業期間と想定した「大規模アルカリ水電解水素製造システムの開発及びグリーンケミカルプラントの実証」と題したプロジェクトとして、福島県浪江町での10MW級アルカリ水電解システム及び中規模グリーンケミカルプラントの検証や、マレーシアでの60MW級アルカリ水電解システム及びグリーンケミカルプラントの実証を、日揮ホールディング株式会社と進め、水素を用いたエネルギー貯蔵・利用の実用化に向けた技術開発事業の拡充・強化を行っています。マレーシアのプロジェクトは「(2) 「マテリアル」セグメント 環境ソリューション事業」もご参照ください。また、同基金の助成を受けて、多様な実証実験が可能な水素製造用のアルカリ水電解パイロット試験設備が2024年5月に当社川崎製造所にて本格稼働しました。同設備に組み込む電解セルは商業機と同じサイズの設備であり、部材の性能や長期耐久性といった開発品の評価試験から、水電解システム全体の信頼性を確認することができるため、当社の水電解技術の開発と事業化を大きく加速させていきます。

 

 iii CO2ケミストリー技術、CO2分離回収システムの開発

当社グループでは、CO2を原料に使用するポリカーボネート(PC)樹脂製造プロセスを世界で初めて確立し、有毒な化合物(ホスゲン)を使用しない、CO2を原料に代替することによる地球環境負荷の低い製法で、社会へ新たな価値を提供してきました。また、2018年に実証が完了したCO2を原料とするジフェニルカーボネート製造プロセスや、現在開発中であるCO2誘導体利用技術のイソシアネート製法など、更なる展開を進めていきます。加えて、ゼオライトを吸着材として用いたCO2分離回収システムの開発も進めており、2022年9月には当社と岡山県倉敷市とでバイオガス精製システムの性能評価、実証を行う契約を締結し、ゼオライト系CO2分離回収システムの実証開始へ向けて取り組んでいます。

 

膜・セパレーション技術の開発

当社グループのコア技術である相分離技術をベースに膜・セパレーション技術の研究開発を進めることにより、既存事業の強化に加えて、新たな事業展開を加速しています。

 i バイオプロセスFO(正浸透)膜

医薬品製造プロセスで使用されるバイオプロセスFO(正浸透)膜においては、FOシステムとMDシステムのハイブリッドにより、非加熱・非加圧で濃縮できるため医薬品の変性を防ぐとともに、凍結時間の短縮やエネルギー負荷の低減の実現を通じて医薬品製造プロセスを革新するものであり、既に複数の顧客候補と実証実験に取り組んでいます。

 

 ii アニオン交換型の水電解装置用の膜

水電解にはアルカリ水電解型を含めていくつかの方式がありますが、性能・コストの両面で大幅な改善が期待される次世代膜として、アニオン交換型の水電解装置用の膜(Anion-Exchange Membranes、AEM)への展開にも取り組んでいます。2023年12月にCVCの「Care for Earth」投資枠で出資参画したカナダのIonomr社が手掛けるアニオン交換型の水電解は、再生可能エネルギーを利用する際に特に求められる負荷変動対応で優れる他、希少金属を使わないことからコスト面でのポテンシャルも期待されています。今後、研究開発面での同社とのコラボレーションを進め、AEMに関する知見を蓄えるとともに、当社が保有する知見・技術を活用し、同社の膜の性能向上も支援していきます。

 

化合物半導体の開発(深紫外LED/深紫外レーザーや窒化アルミニウム(AlN)系材料の開発)

 i 深紫外LED/深紫外レーザー

現在、殺菌、ウイルス不活性化に最も効果の高い、波長265nmを高出力で実現できる深紫外LEDの展開を実施していますが、更なる高出力化に向けた研究や、基板の大口径化や高品質化にも継続して取り組んでいます。また、名古屋大学との協力により、深紫外レーザーの開発を行っており、2019年にはUV-C帯の世界で最も短波長のレーザー発振に成功しました。また、その技術をさらに進化させ、2022年11月には深紫外半導体レーザーの室温連続発振に世界で初めて(※)成功し、電池駆動も可能なレーザー発振の成功により、実用化に向けて飛躍的に前進しています。今後は、ガス分析等センシングへの応用、局所殺菌、DNAや微粒子などの計測・解析といった、ヘルスケア・医療分野への応用の検討を進めていきます。

 

 ii 窒化アルミニウム(AlN)系材料

窒化アルミニウム(AlN)系材料は、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)よりも電力損失が小さく、耐圧が高いポテンシャルを有することから、エネルギー効率に優れ、次世代のパワーデバイスへの適用やRF(高周波)アプリケーションへの展開が期待されています。2023年8月には当社グループのCrystal IS, Inc.が4インチ(直径100mm)のAlN単結晶基板の製造に世界で初めて(※)成功しました。各種デバイス生産能力・効率の大幅な向上への貢献を目指してさらなる改善を行っていきます。また、名古屋大学との協力により、同年12月には電流-電圧特性、電圧-容量特性、電流注入による発光特性において非常に良好な特性を示す、理想的なAlN系の「pn接合」の実現に世界で初めて(※)成功しました。pn接合は半導体デバイスの根幹をなす基本構造であり、本成果はAlN系デバイスの今後の発展の礎となるものであり、産学連携をさらに強化していきます。

※これまでの学会発表や論文などから当社グループ調べによるもの

 

セルロースナノファイバー系材料の開発

バイオ由来のセルロースナノファイバーと、樹脂又は繊維をナノコンポジット化することで、素材の高機能化と環境技術を両立し、サステナビリティに貢献する製品の実現を目指しています。当社グループでは、セルロースナノファイバーからセルロースナノファイバーコンポジットまでの一貫製造プロセスを保有していることの特長を活かし、低コスト、低環境負荷、高機能を満たす製品開発及びマーケティング活動を通じた事業化の検討を進めています。2023年6月には、プラスチックの合成繊維にセルロースナノファイバーを10質量%混ぜて成形した材料で、一般的なフェルトの防音材と比べて厚さが40分の1の0.5mmという薄さながら同等の防音性能を実現しました。開発品は幅広い周波数領域で吸音かつ遮音性能を併せ持ち、薄膜でも立体的に成形できる特徴があります。モーターやコンプレッサーなどの形状に合わせたケースに成形し、騒音源を囲うような使い方を想定し、今後、自動車向けの防音材としての製品化を目指していきます。

 

(2) 「マテリアル」セグメント

・ 環境ソリューション事業

セパレータ事業では、高分子設計・合成や、製膜加工や塗工などのコア技術を活かして、「省資源・省エネルギー・コストダウン」「環境負荷軽減」「再生可能エネルギーの普及」に向けた開発を推進しています。電気自動車等の環境対応車、電子機器、電動ツールや蓄電システム用途に展開するリチウムイオン電池用高機能セパレータ等の環境・エネルギー関連素材の展開に注力していきます。

イオン交換膜事業では製造型リカーリングを推進しており、「メンテナンス最適化」、「トラブルレス」、「運転条件最適化・簡易化」の顧客課題をソリューション開発により解決するため、顧客とのデータ基盤の構築やシステムの構築に向けた取り組みを行い、ソリューション提案を推進しています。

技術ライセンス事業では、脱炭素社会の実現に向けてCO2を原料としたポリマー製造技術を確立し、ライセンス事業を推進しています。CO2を原料とした化学品には、エンジニアリング樹脂に使用されるポリカーボネート、リチウムイオン電池用電解液としてエチレンカーボネート、ジメチルカーボネートがあります。脱炭素原料の世界的な需要の高まりからグローバルに多くの引き合いを受けており、事業の拡大に向けて体制の強化を進めています。

水素事業基盤の構築へ向けて、NEDOのグリーンイノベーション基金(GI基金)事業として、マレーシアにて、日揮ホールディングス株式会社やPetronasグループのGentari社とともに、60MW級アルカリ水電解システムにより年間8,000トン程度の水素をケミカルプラントへ供給する実証に取り組みます。変動運転のためのマルチモジュール制御技術の開発や、運転最適化のための統合制御システムの開発を進め、早期事業化を図ります。

 

・ モビリティ&インダストリアル事業 

機能材料事業では、自動車構造部材を重点マーケット領域と定め、自動車の更なる軽量化を実現するため、ポリアミド66とガラス繊維織物による連続繊維強化複合材料「レンセン®」の開発が進捗しています。また、3Dプリンタ―用フィラメントとして変性PPE「ザイロン®」を原料とするフィラメントを開発し、北米にて試験販売を開始しました。当社独自の樹脂CAE(Computer Aided Engineering)技術を駆使して、部品設計まで手掛けたソリューションを提供し、新規用途開拓と海外展開を加速していきます。環境負荷低減に貢献する取り組みでは、自動車内装材事業における人工皮革「Dinamica®」のサステナビリティ強化や米国スタートアップNFWとの非石化由来レザーの共同開発など、バイオマス由来原料、リサイクル原材料の積極的な活用を検討しています。

 

・ ライフイノベーション事業

電子材料事業では、微細化、高集積化、高速化を支える最先端半導体・実装プロセス革新に向け、感光性ポリイミド「パイメル™」や感光性ドライフィルム「サンフォート™」など先進・独自の技術による高付加価値製品の展開を進めています。特にDXの加速によって、知財データの活用や、マテリアルズインフォマティクス(MI)などによる、開発競争の強化を図っています。自律成長に加え、技術導入等による価値創出を模索し、電子部品事業との融合も図り、デジタル社会で求められるニーズに対し特徴ある部品、部材、ソリューションを展開していきます。

電子部品事業では、デジタル社会の進展に対応し、「音」「磁気」「ガス」のセンシング技術を主軸に、省エネ・健康・快適に繋がるソリューションを提供できる技術及び製品の開発を推進しています。豊富な技術資産と柔軟なエンジニア組織運営により、センサ技術、アナログ信号処理技術、アルゴリズム技術等を融合し、独自のソフトウェアを活かした高機能電子部品の開発のみならず、モジュール型ビジネスへの展開にも積極的に取り組んでいきます。特に電気自動車(EV)化に伴うパワー系のセンシングソリューション、またサウンドマネジメントソリューションのトレンドを的確に掴んだ、特徴のあるソリューション提案を進めています。

また、生活者の視点と健康で快適な暮らしへの貢献を意識し、新事業領域として、新規セルロース素材の事業化や、高機能テキスタイルの開発などにも取り組んでいます。

繊維事業では、アパレルと衛生材料を重点マーケット領域と定め、キュプラ繊維「ベンベルグ®」やポリウレタン弾性繊維「ロイカ®」を軸に、独自性を活かし、かつ、サステナビリティに対応した付加価値の高い製品創出や生産プロセス革新のための研究開発を進めています。

 

(3) 「住宅」セグメント

住宅事業では、「ロングライフの実現」を支えるコア技術について、重点的な研究開発を続けています。シェルター技術については、安全性(耐震・制震技術、火災時の安全性向上技術)、耐久性(耐久性向上・評価技術、維持管理技術、リフォーム技術)に加えて、居住性(温熱・空気環境技術、遮音技術)、環境対応性(省エネルギー技術、低炭素化技術)の開発を行っています。また、住ソフト技術については、都市部における二世帯同居やシニア等の住まい方についての研究を推進するとともに、住宅における生活エネルギー消費量削減と人の生理・心理から捉えた快適性を研究し、健康・快適性と省エネルギーを両立させる、環境共生型住まいを実現する技術開発に注力しています。

建材事業では、「良質空間を追求し、グッド・マテリアルを通じて、未来を見据え新たな価値を創造する」を事業ビジョンとし、軽量気泡コンクリート(ALC)、フェノールフォーム断熱材、杭基礎、鉄骨造構造資材の4つの事業分野において基盤技術の強化を推進しています。

 

(4) 「ヘルスケア」セグメント

医薬事業では、自社オリジナル製品の研究開発で培った経験をもとに、免疫領域(SLE、移植等)、整形外科領域(骨、疼痛等)及び救急領域を中心に、有効な治療方法がない医療ニーズを解決することによって、「健康でいたい」と願う世界中の人びとのQOL(Quality of Life)向上を図ることを目指して、積極的な研究開発を行っています。創薬技術や創薬シーズ、創薬テーマについては、世界中の企業や大学とのコラボレーションを積極的に推進することによって、絶えざる革新を日々進めています。

医療事業では、治療の可能性を広げ、医療水準を向上させる製品、技術、サービスを提供するために、グループ総力を挙げた研究開発に取り組んでいます。グループのコア技術である膜、フィルター、吸着材等による濾過・分離技術を、化学、機械工学、医薬分野での幅広い知見や保有技術と高度に融合させることで、人工腎臓、血液浄化治療、輸血製剤の白血球除去、製剤のウイルス安全性確保やプロセスエンジニアリングをはじめとしたバイオプロセス分野における技術をさらに発展させていきます。

クリティカルケア事業では、突然の心停止からの生存率を向上する心肺蘇生領域における技術開発を原点とし、重篤な心肺関連疾患の診断・治療・管理領域にも研究開発を広げています。予後が悪く医療ニーズの高い、心不全・急性心筋梗塞・呼吸機能障害等におけるアンメットメディカルニーズに対する新規治療法や技術の発展と提供を通じ、患者様と臨床医に役立つことを使命としています。

 

(5) 「その他」

エンジニアリング分野等に関する研究開発を行っています。