企業理念:JFEグループは、常に世界最高の技術をもって社会に貢献します。
行動規範:挑戦。柔軟。誠実。
JFEグループは鉄鋼、エンジニアリング、商社の3つの事業を中心とした企業グループです。
鉄を中核として、エネルギー技術や資源リサイクル技術等幅広い分野に領域を広げており、世界最高の技術に裏打ちされた3つの事業が生み出し続けるシナジーを、持続可能な社会の構築に向けて更に拡大していきます。
鉄鋼事業は、世界有数の生産規模と高い技術開発力を有する銑鋼一貫メーカーのJFEスチール㈱を中核としており、お客様や社会の多様なニーズにお応えする鉄鋼製品をグローバルに供給しています。
また商社事業は、JFE商事㈱を中核として、鉄鋼製品を中心に、鉄鋼原料・非鉄金属・化学品・資機材・船舶から食品・エレクトロニクスまで幅広く取り扱い、サプライチェーン全体の付加価値を向上させるサービスをグローバルに提供しています。
鉄鋼・商社事業の競争優位の源泉は、①お客様のニーズに基づいた最先端の「技術開発力」と、②製造現場で培われてきた「生産」の実力、および③JFEスチール㈱とJFE商事㈱が一体となって長年築いてきた強固なお客様との信頼関係に基づく「販売力」の3つを基礎としています。これらをベースに、お客様のニーズに沿った新たな価値を創造し、最適なソリューションを提供し続けてきました。これらの競争優位性は私たちが長年の努力により積み重ねてきた貴重な財産であり、他社が容易に真似できない持続的成長のドライバーです。
世界各地のお客様の高度なご要望にお応えすることで、業界をリードする技術力を蓄積してきました。幅広い分野での高機能・高品質の商品やサービスの開発と提供を通じて新たな価値を創造し、世界中の産業や社会の発展と人々の生活の進化に貢献しています。また、優れた環境保全・省資源・省エネ技術により、世界で最も低いレベルの環境負荷で鉄鋼製品を生産することができ、その技術を世界各地の環境対策に役立てるとともに、成長の機会として活用しています。
JFEスチール㈱の競争力の第一の源泉は、東西2製鉄所への拠点集約により固定費が抑えられ、高効率生産が可能であることです。特に世界有数の規模を誇る西日本製鉄所は、年間2,000万トンレベルの鋼材を生産でき、コストや商品ラインナップ、技術力の観点からも高い競争力を持っています。現場では長年の努力を通じて優れた製造・商品技術や知的財産、ノウハウ等が無数に蓄積されており、これらにより培われた製造実力は、同社固有の競争力の源泉です。なお、事業環境の変化に対応した国内最適生産体制を構築し、当該競争力を維持・向上させるため、東日本製鉄所(京浜地区)において2023年9月に高炉を含む上工程(製銑、製鋼)および熱延設備を休止いたしました。
○ニーズへの対応力と安定したお客様基盤(鉄鋼事業・商社事業)
長年のお取引による数多くのお客様との双方向のコミュニケーションにより、お客様との信頼関係を構築してきました。お客様との綿密なニーズの摺り合わせや、開発初期段階からの協働等の取り組みを通じて新たな価値を創造し、お客様の課題解決に貢献してきました。結果として、他社が容易に入り込むことができない堅固なお客様基盤を構築しています。
JFEスチール㈱と戦略的に連携を取りながら日本、中国、北米、ASEANの4極を主軸にグローバル展開する鋼材SCMを構築しています。日本で製造されるJFEスチール材のみならず、JFEスチール㈱の海外製造拠点やJFEグループのアライアンス先で製造される鋼材も含めたJFEブランドを、世界各地に製造拠点を展開するお客様へ良質なサービスとともに提供しています。またお客様のニーズに合わせ、スリット等の切断加工製品や、環境規制・省エネを背景に拡大している自動車用モーターコアや高効率変圧器用トランスコア等の鋼材加工部品をグローバルに提供できる体制を整えています。
変化が激しいグローバル市場においてお客様のニーズを先取りし、中核商社としてJFEグループの全体最適を考えながらトレードビジネスや事業を展開し、お客様への価値貢献を最大化しています。こうした他社にはないグループ全体最適を追求する商社事業モデルを通じ、グローバル市場におけるグループ全体の競争優位性を維持拡大していきます。
エンジニアリング事業は、JFEエンジニアリング㈱を中核として、ガス・石油・水道パイプライン、再生可能エネルギー発電設備、都市ごみ焼却炉、水処理システム、橋梁・港湾構造物等、人々が生活する上で不可欠となるインフラの構築等を行っており、それらのEPC(設計・調達・建設)、O&M(運転・維持管理)に加え、リサイクル・発電事業等の事業運営を展開しています。
また数多くの国内支店・営業所、海外現地法人・海外支店を有することでグローバルかつきめ細かな販売ネットワークを構築しており、長年にわたり、官公庁や、大手電力会社・ガス会社等様々な民間企業のお客様へ高度な技術・サービスを提供しています。
エンジニアリング事業の競争力の源泉は、時代の変化に対応する先進かつ多種多彩な商品・サービスや、高度なプロジェクト遂行能力、ものづくりのノウハウを強みにした事業運営に至るまでの幅広い事業展開を基礎としています。
○高度な基盤技術、多種多彩な商品技術
造船事業がベースの加工・組立技術と鉄鋼事業がベースの素材・燃焼技術を融合・進化させた高度な技術力を強みとして、エネルギー・環境や橋梁等幅広い分野で事業を展開してきました。
とりわけ、世界的な課題となっている地球温暖化に対しても、次世代エネルギーの創出や、高効率発電プラントによるCO2排出量の抑制等、課題解決に向けた技術を数多く保有しており、これらの技術に基づいた新たなビジネスモデルの企画・立案・推進に積極的に取り組んでいます。
エネルギー・環境や橋梁等様々な分野で、設計から引き渡しまで、お客様のニーズに即した高機能・高品質な施設を数多く建設してきました。また、国内最大級の鋼構造物製作工場をはじめとする生産拠点を有しており、高品質・低コストでの製品供給を可能としています。更に、アジア諸国を中心とした海外拠点にグローバルエンジニアリング体制を構築し、一段と競争力を強化しています。
環境・上下水等のプラントを中心として、長きに亘りオペレーション・メンテナンスのノウハウを培い、公共サービス分野で数多くの官民連携事業を手掛けています。また、自らが建設したプラントで、リサイクル事業や再生可能エネルギー発電事業を行い、循環型社会、持続可能な社会の構築に取り組んできました。こうした、ものづくりや運営ノウハウを強みにした官民連携事業やエネルギーサービス事業等の運営型事業領域を更に拡大していきます。
JFEグループを取り巻く事業環境は、新型コロナウイルスの影響も一服し経済活動が正常化に向かう等、総じて緩やかな回復基調となったものの、中国経済の低迷やロシアによるウクライナ侵攻の長期化、中東情勢の悪化等、先行きについては不透明な状況が継続すると考えられます。また、温暖化をはじめとする地球環境に対する危機感はますます高まっており、気候変動問題への取り組みはより一層重要な経営課題となっています。
<第7次中期経営計画>
こうしたなか、当社グループは、第7次中期経営計画(2021~2024年度)で掲げた施策を推進し、社会の持続的発展と人々の安全で快適な生活のために「なくてはならない」存在を目指して、変革に向けた挑戦を続けています。「JFEグループ環境経営ビジョン2050」で示した気候変動問題への取り組みをはじめ、人材の活躍推進、地域社会への貢献やサプライチェーンにおける人権尊重等の取り組みを推進することにより、環境的・社会的持続性を確かなものといたします。また、鉄鋼事業においては、構造改革完遂後の競争力の高い生産体制を構築して、「量」から「質」への転換を着実に推進するとともに、インド等を中心とした海外戦略やDXの推進、ソリューションビジネスの拡大等を通じて、更なる収益の拡大を進めてまいります。更に、脱炭素化の進展を事業機会ととらえ、高機能電磁鋼板等の環境負荷低減に資する高付加価値品の供給や再生可能エネルギー発電の拡大等、成長戦略を推進することにより、強靭な経営基盤を確立し経済的持続性を確保いたします。
(注)1 D/Eレシオ:格付け評価上の資本性を持つ負債について、格付け機関の評価により資本に算入しております。
2 鉄鋼事業のトン当たり利益:(連結セグメント利益÷単体出荷数量)
<各事業会社の取り組み>
◆ JFEスチール㈱においては、人口の減少により国内の鉄鋼市場は縮小に向かう一方、海外では、汎用品の価格競争激化に加え、鉄鋼製品の地産地消の流れが強まることが想定されており、第7次中期経営計画において掲げた「量」から「質」への転換を徹底するとともに、成長戦略を着実に推進してまいります。
同社では、2023年9月に予定どおり東日本製鉄所(京浜地区)の上工程および熱延設備を休止いたしました。粗鋼生産能力の削減による固定費削減に加え、DX推進を通じた生産効率の向上等による大幅なコスト削減を実現するとともに、高付加価値品比率の向上や賃金の上昇および物流費の高騰を踏まえた販売価格の改善を進めてまいります。
また、今後電力需要の拡大が見込まれるインドにおいては、JSWスチール・リミテッドと方向性電磁鋼板製造販売会社を共同で設立いたしました。今後も現地生産化を通じた事業戦略の深化や環境負荷低減等に関する高度な製造・操業・研究ノウハウを提供するソリューションビジネスの拡大等、成長戦略を着実に推進いたします。
更に、自動車の電動化の進展による高機能電磁鋼板の需要拡大を見据え、西日本製鉄所(倉敷地区)において電動車用の無方向性電磁鋼板の製造能力を増強すべく追加の設備投資を決定いたしました。また、洋上風力発電の風車を支える着床式基礎構造物向けの大単重厚鋼板についても、今後日本各地でプロジェクトが本格化することから、製造能力の増強を完了する等、成長分野への投資を着実に実施し収益の拡大に努めてまいります。
◆ JFEエンジニアリング㈱においては、『くらしの礎を「創る」「担う」「つなぐ」-Just For the Earth』というパーパスのもと、世界の人々のくらしを支え、地球を守り次世代につなげることを使命として事業を推進してまいります。
第7次中期経営計画の達成に向け、Waste to Resource(※1)分野、カーボンニュートラル分野、橋梁改築工事等の基幹インフラ分野を中心とした受注の拡大に取り組むとともに、既に受注したプロジェクトの着実な遂行やコスト削減、更には資機材費・労務費の上昇や建設業への時間外労働の上限規制適用にも適切に対応し、収益の確保に努めてまいります。
また、洋上風力発電用の基礎構造物の製造・供給拠点として2024年4月から本格稼働した笠岡モノパイル製作所の早期安定稼働に向けて取り組むほか、安定的な収益の確保を目指して、運営型事業の拡大にも取り組んでまいります。
更には、2023年10月に実施した同社の国内水エンジニアリング事業と月島ホールディングス㈱の水環境事業の統合によるシナジー効果の実現に努めていくとともに、今後も海外事業の拡大に加えて、M&Aや業務提携等を活用した事業の拡大や競争力強化を図ってまいります。
◆ JFE商事㈱においては、電磁鋼板の世界No.1グローバル流通加工体制の構築に向け、グローバル4極体制(日本・米州・中国・ASEAN)に加え、今後成長が見込まれる欧州の電動車向けの需要を捕捉するべく、初めてセルビアに加工・販売拠点を設置いたしました。
自動車向け鋼材については、ニューコア・JFEスチール・メキシコ・S.DE R.L.DE C.V.に隣接する加工センターにおいて、レーザーブランキング設備(※2)を導入し、グループ連携によるサプライチェーン強化を図っております。
また、海外建材事業では、鋼製薄板建材製品の製造・販売会社であるスタッドコ・ビルディング・システムズ・US・LLCおよびスタッドコ・コーポレーションを買収いたしました。同社は米国、豪州において事業を展開しており、今回の買収により新たに米国東部エリアと豪州に拠点を獲得いたしました。米国においては、2022年に買収したセムコ・LLCとのシナジーを追求しプレゼンスの向上と収益の拡大を図ってまいります。また、豪州においても、今後安定した成長が見込まれる薄板建材の需要を捕捉し、収益の安定化を目指すとともに、脱炭素化の進展を事業機会ととらえ事業の拡大を図ってまいります。
更に、鋼材加工拠点における再生可能エネルギーの活用を進めており、栃木の鋼材加工センターにおいても新たに太陽光パネルを設置いたしました。引き続き他拠点の脱炭素化にも取り組んでまいります。
今後も第7次中期経営計画の達成に向け、マーケットにおけるグループの存在感を高めるとともに、収益の拡大に努めてまいります。
<グループ共通の取り組み>
○気候変動問題への取り組み
当社グループは、気候変動問題への対応を経営の最重要課題と位置付け、「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を掲げ、「鉄鋼事業のCO2排出量削減」と「社会全体のCO2削減への貢献」を両輪として脱炭素への道程を示すとともに、この課題への対応を成長の機会ととらえ、様々な取り組みを進めています。
鉄鋼事業においては、2050年のカーボンニュートラル実現に向けた具体的なロードマップを策定・公表し、その中間目標である2030年度CO2排出量30%以上削減(2013年度比)の達成に向けて、既存プロセスの省エネルギー・高効率化や電気炉技術の活用等に取り組んでいます。西日本製鉄所(倉敷地区)においては高炉の改修時期にあわせて2027年度に高効率・大型電気炉を導入することを検討しています。様々な開発技術を適用することで、既存の大型電気炉では実現困難であった高品質・高機能鋼材を大量かつグリーンに供給できる体制の実現を目指しています。
更に、複線的に開発に取り組んでいるカーボンリサイクル高炉等の超革新技術の試験炉建設に着手しており、2024年度以降に順次稼働を予定しています。引き続き、研究開発を推進するとともに、超革新技術の早期実装化を目指してまいります。
また、脱炭素化の社会的要請が高まるなか、自社のCO2排出削減技術により創出した排出削減量を適用したグリーン鋼材「JGreeX®(ジェイグリークス)」の供給を2023年度より開始しました。「JGreeX®」の環境価値を認めて頂き、船舶や建築物等の種々の用途に採用されています。今後もカーボンニュートラル社会の実現に貢献できるグリーン鋼材の市場創出に積極的に取り組んでまいります。
社会全体のCO2削減への貢献に関しては、世界的に需要の高まる電動車向けモーターや変圧器の効率性向上に資する電磁鋼板等の環境配慮型商品の供給や、再生可能エネルギーによる発電事業等の拡大にも取り組んでおり、洋上風力発電においては、国内初となる着床式基礎構造物の製造工場を稼働させました。当社グループの総力を挙げて、洋上風力発電ビジネスの事業化を推進してまいります。
なお、気候変動問題への取り組みを加速させるインセンティブとして、2023年度より気候変動に関する指標を役員報酬の業績連動指標として導入いたしました。引き続き、気候変動問題の解決に向けた取り組みを強力に推進することにより、持続可能な社会の実現に貢献してまいります。
〇DX推進
第7次中期経営計画では、DXを創立以来最大の変革の鍵となる重要な戦略として位置付けています。長年にわたる事業の中で蓄積し続けてきた膨大な操業データやノウハウ、技術は、他社が容易に真似ることのできない貴重な財産であり、世界最高水準の技術で社会を支える当社グループの価値創造の源泉です。鉄鋼事業においては、製鉄所・製造所の基幹システムのクラウド環境への完全移行を、製造業としては他社に先駆けて次期中期経営計画期間中に完了する予定であり、レガシーシステム(※3)からの脱却による事業継続性と発展性の確保に加え、様々な最新テクノロジーの導入により蓄積されたデータやノウハウの高度活用が可能となります。生産性の向上と競争力強化を実現すべくCPS(Cyber Physical System ※4)によるインテリジェント製鉄所の具体化に向けた取り組みを加速いたします。また、エンジニアリング事業においては、GRC(Global Remote Center ※5)をベースとした洋上風力事業のプラント操業支援サービスを展開する等、グループ全体でDX戦略を推進し、差別化を図ってまいります。
更に、高度化するサイバー攻撃や情報漏洩リスクへの対策はグローバルに事業展開を行う上で避けて通ることのできない極めて重要な課題です。2024年4月にはグループのサイバーセキュリティ業務を担う会社を新たに設立し、人材の獲得・育成、およびセキュリティ監視等の体制整備を進めております。今後も、グループ全体のサイバーセキュリティ対策の一層の強化を進めてまいります。
〇人的資本・人権尊重
複雑化・多様化する変化の激しい経営環境下で、当社グループが将来にわたって持続的な成長を成し遂げるためには、人的資本への投資を通じて従業員の能力や活力を最大限に引き出すことが不可欠です。ダイバーシティ&インクルージョンの取り組みや、DX人材等経営戦略に対応した人材育成を進めるとともに、従業員が働きがいを感じられる環境整備に努めてまいります。また社員が安心して働く上での基本要件である、安全で健康的な職場環境づくりに向けた取り組みにも注力してまいります。
また、当社グループは、人権が尊重・擁護される社会の実現に向けて人権デューディリジェンスに取り組んでおります。サプライチェーンにおける人権尊重の実現に向け、2023年度にはサプライヤーの人権リスクに関する調査を実施しており、今後、調査結果を踏まえ必要な対応を進めてまいります。引き続き、サプライチェーンも含めたすべてのステークホルダーに対する人権尊重の取り組みを拡大してまいります。
〇京浜地区の土地利用転換
2023年9月に上工程および熱延設備を休止した東日本製鉄所(京浜地区)の土地利用については、既に売却を決定している南渡田エリア北地区北側・扇町地区の解体工事を2024年4月より開始し、約400haにおよぶ大規模土地利用転換の先鞭となる事業がはじまりました。南渡田エリア北地区北側については事業パートナーとともに、革新的な素材を生み出す研究開発拠点として2027年度のまちびらきに向けて整備を進めてまいります。
扇島地区は、国の重点課題の解決に資する公共・公益性の高い土地利用への転換を図るべく、土地利用構想「OHGISHIMA2050」を取りまとめ、2028年度の一部土地利用開始に向けて精力的に事業を推進してまいります。
また水江地区では、リサイクル拠点の拡張整備の一環として、首都圏最大級となるプラスチックリサイクル施設「Jサーキュラーシステム川崎スーパーソーティングセンター」の建設を開始しました。
今後も、川崎市をはじめとする行政や近隣エネルギー企業を含む地域の企業と連携し、地域・社会の持続的発展に貢献してまいります。
〇財務健全性の確保
中長期の成長に向けた攻めの経営には安定した財務基盤の確立が必要であり、選択と集中に基づく効果的な投資の実行と財務健全性の確保を両立させることが重要です。中長期の成長に向けた戦略投資のための資金確保ならびに財務体質の強化を目的として2023年度には海外募集による新株式発行及び自己株式の処分ならびに転換社債型新株予約権付社債の発行を行いました。
なお、成長戦略やカーボンニュートラルに資する投資を実施した一方で、構造改革によるコスト削減や販価改善等による収支改善を進めた結果、当期末の有利子負債残高は、前期に比べ327億円減少し、1兆8,302億円となりました。また、増資による現預金の増加により、ネット有利子負債残高(※6)は、前期に比べ1,564億円減少し、1兆5,871億円となりました。この結果、第7次中期経営計画の財務目標として掲げているDebt/EBITDA倍率は3.2倍、D/Eレシオは58.0%となりました。引き続き、事業や資産の見直しによる徹底した資産圧縮と、棚卸資産圧縮等によるCCC(Cash Conversion Cycle)の改善により、投資に向けた必要資金を確保するとともに財務健全性の確保に努めてまいります。
〇コーポレートガバナンス
当社はグループの経営課題を着実に実行するため、株主利益に適うグループ経営および健全なコーポレートガバナンスの要としてその機能を充実させるとともに、更に効率的な運営を図ってまいります。
なお、JFEエンジニアリング㈱が2017年6月および2020年6月に沖縄県竹富町と契約した海底送水管更新工事に関して、入札談合等関与行為防止法違反容疑および公契約関係競売入札妨害容疑で、同社社員3名が起訴され、2022年8月に1名(同社元社員)が、2023年10月に2名が、那覇地方裁判所において有罪判決を受けました。
本事案を厳粛かつ真摯に受け止め、特定した発生原因を踏まえた再発防止策を実行することにより、早期の信頼回復に努めてまいります。
JFEグループは、社会との信頼関係の基本である、コンプライアンスの徹底、環境課題への取り組み、安全の確立について、グループをあげて真摯な努力を継続してまいります。また、第7次中期経営計画で掲げた施策を完遂し、企業としての持続的な成長と株主の皆様をはじめすべてのステークホルダーにとっての企業価値の向上に努めることにより資本市場の評価を高めてまいります。
(注)1 上記の記載には、2024年5月7日の決算発表時点の将来に関する前提・見通し・計画に基づく予測や目標が含まれております。
2 ※1 Waste to Resource:リサイクルや廃棄物発電等
3 ※2 レーザーブランキング設備:レーザー切断による型抜き加工設備
4 ※3 レガシーシステム:老朽化・肥大化・複雑化・ブラックボックス化したシステム
5 ※4 Cyber Physical System:製造プロセスの仮想モデルと現実のプロセスのリアルタイム融合化技術
6 ※5 Global Remote Center:AI/ビッグデータ基盤を備えた次世代の国内外プラント遠隔監視サービス
拠点
7 ※6 ネット有利子負債残高:有利子負債残高-現預金および現金同等物
当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
JFEグループの企業価値の毀損防止と向上の観点から、リスクマネジメントを含むグループ全体のサステナビリティへの取り組みを監督・指導する体制として、JFEホールディングス㈱社長を議長とし、副社長、執行役員、常勤監査役、各事業会社社長等で構成される「グループサステナビリティ会議」を設置しています。「グループサステナビリティ会議」のもとに「グループコンプライアンス委員会」、「グループ環境委員会」、「グループ内部統制委員会」、「グループ情報セキュリティ委員会」、「開示検討委員会」、および「企業価値向上委員会」を設置し、グループとしての方針審議や方針の浸透状況の監督、課題や発生した問題および対処事例等についての情報共有を行い、JFEグループのサステナビリティへの取り組みを監督・指導しています。また、「グループサステナビリティ会議」における審議事項のうち、グループの基本方針、活動計画、重要施策の内容および重要事態発生時の対応等について、取締役会に定期的に報告し審議することにより、指示監督を受けています。
特に気候変動問題については、「JFEグループ企業行動指針」の中で、地球環境との共存を図るとともに、快適な暮らしやすい社会の構築に向けて主体的に行動することを定めており、環境保全活動の強化や気候変動問題への対応等の「地球環境保全」は持続可能な社会を実現する上で非常に重要な課題として認識しています。
「グループサステナビリティ会議」は、約3ヶ月に1回程度開催し、独占禁止法、公務員等に対する贈収賄を含む汚職防止に関する法令等の遵守、および人権、人事労働、安全・防災、環境、気候変動、品質、財務報告、反社会的勢力への対応、情報セキュリティ等のESGリスクも含むリスクマネジメントや社会貢献等の多岐にわたる範囲を対象として、グループの取り組みに関する方針審議(重要案件に対する指示・指導を含む)、方針の浸透状況の監督、および課題、発生した問題への対処事例等についての情報共有、水平展開を行っています。
各事業会社においても各々の会議体を設置しており、JFEグループの企業価値の毀損防止と向上の観点からグループ全体の取り組みを推進するため、グループサステナビリティ会議と連携して運営しています。JFEスチール㈱では、「サステナビリティ会議(議長:社長)」の中に、コンプライアンス、地球環境、リスクマネジメント、安全・防災、顧客満足、社会貢献等の委員会・部会を設け、対象分野ごとの積極的な活動を展開するとともに、グループ会社を含めたサステナビリティ意識の浸透を図る活動を進めています。JFEエンジニアリング㈱およびJFE商事㈱においても、コンプライアンスや環境に関する委員会等を設け、サステナビリティの実現に向け取り組んでいます。
JFEホールディングス㈱が持株会社として、「内部統制体制構築の基本方針」に基づきグループの包括的なリスク管理を担っており、当社の取締役会がリスク管理の監督およびその実効性を確認する体制を構築しています。
具体的には、事業活動、コンプライアンス(独占禁止法・公務員等に対する贈収賄を含む汚職防止に関する法令等の遵守等)、企業理念や「JFEグループ企業行動指針」等の会社方針・規程の遵守、環境、気候変動、人事労働、安全・防災、セクシュアルハラスメント・パワーハラスメント等の人権侵害、品質管理、財務報告、情報セキュリティ等のESGリスクも含むリスクについて責任を有する執行役員等がその認識に努め、必要に応じてJFEホールディングス㈱のCEO(社長)が議長を務める「グループサステナビリティ会議」において確認・評価し、その対処方針やリスク管理に関する活動計画について審議・決定しています。
取締役会はリスク管理に関するグループとしての方針および活動計画等について定期的に報告を受けるとともに、リスク管理に関わる重要事項について審議・決定することを通じてリスク管理の監督および実効性の確認を行っています。
特に、気候関連リスクの企業レベルでの特定・評価については、TCFDから提言されたフレームワークに従いシナリオ分析を踏まえて行っています。事業に影響を及ぼす重要な要因を選定し、より詳細な影響を分析することによって第7次中期経営計画等の事業戦略策定に活用しています。
「グループサステナビリティ会議」「グループ経営戦略会議」または「経営会議」では、経営に影響を及ぼす可能性のあるリスクについてモニタリングしています。モニタリング方法としては、各事業会社の環境委員会等で審議した気候関連問題について四半期に一度報告を受けており、対策を講じています。JFEグループ環境委員会ではリスクに関する情報の集約と管理の強化を行い、リスクの発生頻度や影響の低減を図るだけでなく、機会の最大化に取り組んでいます。
JFEグループは、さまざまなステークホルダーのニーズに対し、グループの資本をどのように投入すれば、社会に対するマイナスの影響を最小化し、当社グループならではの社会的価値創造の最大化につながるのかという観点から、重要課題の特定とKPIの設定による課題への取り組みを推進してきました。2016年には、グループ事業特性を踏まえた「社会からの期待事項」として35項目のCSR関連課題を網羅的に抽出し、①ステークホルダーからの期待度、②事業との関連性(社会への影響度)の両軸から優先順位付けを行うことにより、CSR重要課題(5分野・13項目)を特定しました。
2021年度には、第7次中期経営計画の策定において、「環境的・社会的持続性(社会課題解決への貢献)」を確かなものとし、「経済的持続性(安定した収益力)」を確立することが、JFEグループの持続的な発展のために重要であると認識し、これまでのCSR重要課題に、経済面の重要課題を加えて再編し、「経営上の重要課題」を特定しました。
特定した経営上の重要課題は以下の13項目です。このうち、サステナビリティに関する項目として、「気候変動問題解決への貢献」「労働安全衛生の確保」「多様な人材の確保と育成」「コンプライアンスの徹底」「人権の尊重」の課題の分野に分類される重要課題を選定しました。
<経営上の重要課題>
[ガバナンス・リスク管理]
気候変動問題に関するガバナンスについては「(1)サステナビリティ全般に関するガバナンス」に、リスク管理については「(2)サステナビリティ全般に関するリスク管理」に、それぞれ記載しております。
気候変動問題に関わるさまざまなリスク・機会は、JFEグループの事業戦略に以下のように統合されています。JFEグループは、2021~2024年度の事業運営の方針となる「JFEグループ第7次中期経営計画」を策定し、グループの中長期における持続的な成長と企業価値の向上を実現するために、気候変動問題への取り組みを経営の最重要課題と位置付けています。
そして、「環境的・社会的持続性の確保」を主要施策の一つとして掲げ、2050年カーボンニュートラルの実現に向けた「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を策定することで、気候変動問題への取り組みを事業戦略に組み込むとともに、TCFDの理念を経営戦略に反映し、気候変動問題解決に向けて体系的に取り組んでいます。シナリオ分析をはじめとするTCFD提言に沿った情報開示を進めると同時に事業に影響を及ぼす重要な要因を選定し、特定したリスクと機会、評価を経営戦略に反映しています。
「JFEグループ環境経営ビジョン2050」では、カーボンニュートラルの実現に向けて、「鉄鋼事業のCO2排出量削減」「社会全体のCO2削減への貢献拡大」「洋上風力発電ビジネスへの取り組み」という3つの戦略を軸に企業活動を行っていくことを掲げています。製鉄プロセスにおいては、CO2排出削減に向けた取り組みとともに、水資源・エネルギーの再利用に加え、環境に配慮した商品・プロセス技術の開発や資源循環ソリューションの提供を通じて積極的に環境負荷低減を推進していきます。
JFEグループは、鉄鋼事業会社であるJFEスチール㈱が所属する日本鉄鋼連盟にて策定された、3つのエコと革新的製鉄プロセス開発を柱とする低炭素社会実行計画を推進しています。この計画では、日本鉄鋼連盟として、2030年度までに900万t‐CO2削減を目標としてきました。2020年に低炭素社会実行計画のフェーズⅠが終了、「カーボンニュートラル行動計画」と改め、フェーズⅡ目標として2030年度のエネルギー起源CO2排出量を2013年度比30%削減へと改訂されました。JFEスチール㈱もこの計画の目標達成に向けて積極的な活動を推進しています。
日本鉄鋼連盟は、これらの取り組みに加え、最終的な「ゼロカーボン・スチール」の実現を目指した2030年以降の「長期温暖化対策ビジョン」を策定し公表しました。JFEスチール㈱もこの長期ビジョンの策定に中核的な立場で参画しました。更に、2021年「我が国の2050年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針」を発表し、日本鉄鋼業として早期のゼロカーボン・スチールの実現に向けて、果敢に挑戦することを宣言しました。
また、JFEグループは、鉄鋼事業を取り巻く環境変化に対応すべく事業構造改革を実施していく中で、地球規模の気候変動問題の解決を通じた持続可能性の向上を目指しています。2020年を気候変動問題への更なる対応強化の節目の年と位置付け、『2030年度のCO2排出量を2013年度比で20%以上削減、2050年のカーボンニュートラル実現を目指す』というCO2削減目標を掲げました。
2021年5月、JFEグループは、気候変動問題への取り組みを経営の最重要課題と位置付け、「JFEグループ第7次中期経営計画」において2050年カーボンニュートラルの実現に向けた「JFEグループ環境経営ビジョン2050」を策定し、新たなCO2削減目標を公表しました。加えて2022年2月には、2030年度のCO2排出量削減目標を上方修正し、『2013年度比で30%以上の削減』を目標としました。更に、JFEスチール㈱の国内の主要グループ会社においてもJFEスチール㈱と同レベルのCO2削減目標を策定しました。国内外のグループが一丸となって気候変動問題への取り組みを事業戦略に組み込むとともに、TCFDの理念を経営戦略に反映し、CO2排出量削減に向けた取り組みを体系的に推進していきます。
なお、2023年度における技術開発の進捗等を精査、検証した結果、現時点の削減目標は適切であると判断しております。引き続きトランジション技術の開発を着実に進め、更なるCO2排出量の削減への取り組みを継続してまいります。
(注) ※ 鋼材の製造時または使用段階で、省エネ、省資源、廃棄物・環境負荷物質の排出量削減、有害物質の不使用に貢献できる商品または技術
2023年度のCO2排出量(Scope1~3)を含むKPI実績については、
JFEグループは、社会の持続的発展と人々の安全で快適な生活のために「なくてはならない」存在としての地位を確立することを目指しています。複雑化する変化の激しい経営環境の下で、将来にわたって企業価値を向上させ続けるためには、これを支える一人ひとりの従業員の力が重要です。当社は「JFEグループ人材マネジメント基本方針」や「JFEグループ健康宣言」を制定し、人的資本への投資を通じて従業員の能力や活力を最大限に引き出す施策に取り組んでいます。
具体的には、「労働安全衛生の確保」および「多様な人材の確保と育成」を人的資本に関する経営上の重要課題として定め、定量的なKPIを設定して取り組みを推進しています。
安全な作業環境を整備し労働災害を防止することは、多様な社員が安心して働くための基本的な要件と考えています。そこで、JFEグループは「安全はすべてに優先する」という基本姿勢のもと、死亡災害件数(0件)および休業災害度数率に関するKPIを定め、取り組みを推進しています。第7次中期経営計画では安全対策への優先的な投資(グループ全体で年間100億円規模)を実施し、類似の災害や繰り返しの災害を防止するための活動強化に加え、最新技術の活用により設備そのもので災害の発生を防止する取り組みに注力しています。例えばAIやセンサーの活用により、作業者を検知し自動で設備を止める技術の開発と適用を進めています。
これらの労働災害防止の取り組みを加速させるインセンティブとするため、2022年度より役員の業績連動報酬に安全に関する指標を導入しています。
安全で魅力に富み働きがいのある職場を実現するため、2016年に「JFEグループ健康宣言」を制定し、健康保険組合や産業保健スタッフと連携して特定保健指導実施による生活習慣の改善等、従業員の健康保持・増進に取り組んでいます。また、喫煙率の低減による受動喫煙の防止等、従業員だけではなく家族の健康保持・増進にも繋がる取り組みに注力しています。
変化の激しい経営環境においては、様々な価値観や考え方が融合する中でこれまでになかった発想や解決法が生まれ、企業価値の持続的な向上に繋がると考えています。そのためJFEグループではダイバーシティ&インクルージョンの推進を重要な経営課題として位置付け、性別、国籍や価値観、異なるライフスタイル等多様な背景を持つ人材が能力を発揮できる環境づくりに取り組んでいます。特に女性の活躍について、取締役会での議論を経て、2022年度より女性管理職登用・女性採用比率等について更なる意欲的なKPIへの見直しを行いました。各事業会社では経営層との議論を通じた全社方針の策定と展開を図るとともに、女性管理職の候補者を拡大する「採用」、社内外ネットワーキングの充実やロールモデル提示等の「定着」、女性社員の個別育成計画作成等の「配置・育成」の観点から様々な施策を推進しています。
従業員一人ひとりの能力向上と、海外事業の拡大に対応したグローバル人材の育成に重点を置き、研修・教育の充実を図っています。またJFEグループの経営戦略の一つであるDX戦略の推進に必要な人材の確保・育成にも注力しています。例えばJFEスチール㈱では実際の業務や製造プロセスを熟知する社内人材を、習熟度別にリスキリングすることにより、社内データサイエンティストの養成を進めています。2023年度末時点で610名を養成済みであり、2024年度末には660名まで増員していきます。
多様な人材が活き活きと能力を発揮するために、従業員が働きがいを感じられるための社内環境の整備に取り組んでいます。
JFEグループでは、多様な社員が一人ひとりの事情に応じた、柔軟な働き方を選択できるようにすることで、働きがいや充実感を得ながら仕事をし、その上で会社の生産性向上につなげていくことを目指し、「新しい働き方」の取り組みを推進しています。例えば在宅勤務制度の拡充によるテレワークの推進、コアレスフレックス制度の導入、チャット・WEB会議ツールの導入、RPAの推進、ペーパーレス化等を実施しており、これらの取り組みを通じてより付加価値の高い働き方を目指しています。またワークライフバランスの充実を図るため、年休奨励日の設定等により、休暇を取得しやすい風土を醸成しています。
当社および各事業会社ではエンゲージメントサーベイを年1回実施して社員意識を定期的に把握し、働きがい等に関する課題の特定や施策の検討を行っています。例えばJFEスチール㈱では、人事制度のみならず企業文化変革も含めた多面的な施策を推進する「人財戦略本部」を2024年4月に新設し、社員の働きがいを高め、会社と社員がともに成長することを目指す企業改革の取り組みを推進しています。今後、会社の「ありたい姿」の策定や、より働きやすい職場環境実現のための製造現場を中心とした事務所・福利厚生施設等への投資、社員一人ひとりの働きがいを向上させることを目指した人事賃金制度改訂をはじめとして、一連の施策を展開していく予定です。
(※ST:JFEスチール㈱、EN:JFEエンジニアリング㈱、SH:JFE商事㈱)
(注)1 ※1 特定保健指導実施率の実績は未確定である為、2022年度の実績を記載しております。2023年度
の実績については、確定次第
2 ※2 2024年4月1日時点の実績を記載しております。
JFEグループは、幅広く国内外でビジネスを展開していく上で、お客様をはじめ、株主・地域社会等すべてのステークホルダーとの信頼関係が重要であり、「コンプライアンスの徹底」は、その信頼関係の基盤であると考えています。コンプライアンス違反に起因する不正や不祥事は、長期にわたり築き上げた信頼関係を一瞬にして損なうものです。こういったことから、JFEグループでは、企業理念・行動規範に基づいた企業活動を実践するための指針として、「JFEグループ企業行動指針」を制定し、企業倫理の徹底について、JFEグループ役員・従業員に対する周知を図っております。また、組織を構成する全員がコンプライアンスの知識や認識を深め、日々実践していくことが重要だと考え、eラーニングやコンプライアンスガイドブックの作成・読み合わせ等を通じて独占禁止法、下請法、公務員への贈賄等の腐敗行為の防止等に関する教育を行っています。
2023年度のKPI実績については、
JFEグループは、人権尊重が企業の社会的責任であるとともに経営基盤の一つであると考え、企業行動指針に企業活動において一切の差別を行わないことを明示し、活動してきました。2018年度には取り組み姿勢をより明確に示すため、「JFEグループ人権基本方針」を制定し、グループ各社ならびにその役員および従業員だけが順守すべき規範にとどまらず、サプライチェーンをはじめとするすべてのステークホルダーに対しても人権の尊重・擁護への協力を求めています。
また、2021年度より「ビジネスと人権に関する指導原則」に則って、人権デューディリジェンスを開始しており、昨今の人権に関する意識や課題の変化を踏まえ、2023年4月にJFEグループ人権基本方針を改正しました。
更に、外部の専門家を講師として招き、企業活動と人権問題に関する最新の動向等を知ることを目的として、「ビジネスと人権」に関するセミナーを開催する等啓発活動も継続しています。
今後も、人権が尊重・擁護される社会の実現に向けて、グループ一丸となってサプライヤーやお客様、従業員も含めたすべてのステークホルダーに対する人権尊重の取り組みを推進してまいります。
2023年度のKPI実績については、
本報告書に記載した当社グループの事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には、以下のようなものがあります。ただし、以下は当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではなく、記載されたリスク以外のリスクも存在します。それらのリスク要因のいずれも投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループのリスク管理体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③経営体制・内部統制体制 c. 内部統制体制・リスク管理体制の整備の状況」に記載しております。
鉄鋼事業・商社事業においては、各製品市場と地域市場において、競合他社との競争に直面しております。国内鋼材販売は、建築・土木、自動車、産業機械、電気機械等各需要分野に広がっており、販売形態も多岐にわたっております。また、これら国内向けに加え、JFEスチール㈱は43%程度(単独・金額ベース)、JFE商事㈱は53%程度(単独・金額ベース・JFEスチール材含む)を海外に輸出しております。主な輸出先はタイ等のASEAN、韓国、中国向けとなっております。従いまして、今後の少子高齢化に伴う国内市場の縮小や、国内およびアジアをはじめとする世界経済の状況等を背景とした国内外の鋼材需給の動向が当社グループの鋼材の販売量や価格に影響を及ぼす可能性があります。とりわけ海外市場においては、中国の内需減少に伴う輸出の増加や、新興国における鉄鋼生産能力の拡大という構造的な変化により、ますます競争が激化していく可能性があります。また、海外主要国において関税引き上げやアンチダンピング・セーフガード措置等の輸入規制が課せられた場合には、当社グループの輸出取引が制約を受け、業績に影響を及ぼします。一方、当社グループの輸出量が少ない米国、EU等においても、各種輸入規制が行われた結果、その市場から締め出された鋼材が当社グループの主要輸出エリアに還流することにより市場が影響を受け、結果として当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、2022年にウクライナにおいて発生したような国際的な紛争も、国内外の鋼材需給の動向の変化を通じて当社グループの鋼材の販売量や価格に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、国内外の鋼材需給の変化に対応して生産数量の最適化を図るとともに、長期的な鋼材需給の動向を見据えて設備の統廃合等による最適な生産体制の構築を図ってまいります。この一環として、2023年9月にJFEスチール㈱東日本製鉄所(京浜地区)の上工程(製銑、製鋼)および熱延設備を休止し、国内の生産体制を高炉8基体制から7基体制へ変更し、粗鋼生産能力を約400万トン(約13%)削減いたしました。一方で、基幹製鉄所であるJFEスチール㈱西日本製鉄所への戦略的な投資を行い、コスト競争力を向上させることで、市場環境が変化しても収益を確保できる体制を整えてまいります。販売面でも新興国ミルに対して技術優位性の高い商品の販売比率の拡大を進め、収益基盤の安定化を図ってまいります。更に、海外での垂直分業体制や海外鉄鋼メーカーへの出資による鋼材の現地製造を進めることで、海外市場環境の変化に柔軟に対応するグローバル供給体制の確立を進めてまいります。
商社事業においては、鉄鋼製品を中心に、製鉄原材料、非鉄金属製品、食品等の仕入、加工および販売を行っており、国内外の各製品市場において市場環境の変化に適切に対応できる流通販売網を構築しております。具体的には、国内においては流通再編等を通じ販売力の強化を進めるとともに、基盤強化に必要な設備の更新をタイムリーに進めております。また海外においてはグローバル4極体制における流通加工機能の強化を積極的に推進し、高付加価値分野におけるJFEスチール材の販売強化を進めております。更に、JFEグループ材(アライアンス先含む)や他サプライヤーの製品も活用しながら顧客におけるプレゼンスの維持・強化を図ってまいります。
エンジニアリング事業においては、エネルギープラント・ごみ焼却炉等の環境施設・橋梁を中心とした設備のEPC(設計・調達・建設)を行っております。また、DBO(設計・建設・運転)案件における設備の運転保守の受託や、リサイクル・発電・電力小売等の運営型事業を自ら行っております。上記事業のポートフォリオは、公共インフラ(ごみ焼却施設、橋梁等)関連が過半を占めているため、国内経済状況および国・自治体の方針・政策の影響等による国内公共事業の縮小は、応札案件の減少に直結し、その結果、受注高が減少する可能性があります。
また、海外についても同様に対象国の経済状況や政策の変化により、受注高が減少する可能性があります。また、プロジェクト遂行にあたり、資機材等の価格が上昇した場合、建設コストが上昇することになります。建設コスト上昇の影響に左右されない競争力を確保するために、技術開発等を進めてまいります。また、長期安定的な収益源として運営型事業を強化し、収益の安定化を図ってまいります。
鋼材の原材料として鉄鉱石、原料炭、合金鉄・非鉄金属・スクラップ等を調達しております。近年これらの原材料の価格は世界的な需給構造変化、主要原産国である豪州・ブラジルにおける自然災害や事故の発生、更には2022年にウクライナにおいて発生したような国際的な紛争等により上昇しており、それを鋼材価格に反映できなかった場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、製鉄プロセスに使用する電気・天然ガス等を購入しておりますが、これらの価格も世界的な需給変化、環境規制強化や国際的な紛争等に起因して上昇しており、それを鋼材価格に反映できなかった場合、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
更にこれら原材料・エネルギーについて、生産国における自然災害や事故の発生、国際的な紛争、サプライチェーンの混乱等により調達が困難となった場合、当社グループの生産量・販売量の減少を通じて当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、安価原料の使用技術を開発し、その使用比率の増加を図ることで原料調達におけるコスト削減とコスト変動の低減を図ってまいります。また、調達ソースの分散化等により、調達不安定化のリスクの低減を図ってまいります。更に、製鉄所内の発電所等のリフレッシュを計画的に進めることにより、調達エネルギーのコスト削減とコスト変動の低減を図ってまいります。
当社グループ向けに原材料を販売するとともに、当社グループ外への原料販売も行っています。従って、当社グループの活動水準に変化があった場合や、原材料生産国における自然災害や事故の発生、また国際的な紛争、サプライチェーンの混乱等、仕入環境や販売環境に変化があった場合、商社事業の販売量に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、原料調達における低廉化や新たな調達ソースの開発等により、原材料サプライチェーンのリスク低減を図ってまいります。また、当社グループ以外への販路開拓を進め、販売量の維持安定化を進めます。
鉄鋼事業においては、高炉、コークス炉、転炉、連続鋳造機、圧延機、焼鈍炉、発電所等の多数の大規模な製造設備を用いて鉄鋼製品の生産を行っております。これらの設備の中には稼働後数十年を経て更新時期を迎えたものもあります。持続的な安定生産を実現する国内製造基盤を確立するため、第5次中期経営計画以降、集中的な設備投資を計画し、老朽設備の更新を順次進めてまいりましたが、これらの設備において設備・システムトラブルが発生した場合、生産量の減少や修繕コストの増加等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、重要設備の更新投資を計画的に進め、製鉄所の製造実力の強靭化を図ってまいります。2019年度より高炉の操業安定化を中心に高炉付帯設備の劣化対応やDX・AI・IoT技術の活用等による基盤整備投資を実施してきましたが、第7次中期経営計画では全プロセスへの水平展開を図っております。
当社グループは収益基盤の維持・向上、事業拡大を目指し、多額の設備投資および事業投資を行っております。
鉄鋼事業では、安定生産基盤の確立に加え、生産性・コスト競争力の更なる進展のために、国内製造拠点への戦略的な投資を継続しております。東西製鉄所においては、コークス炉の更新、電磁鋼板製造ラインの増強等を行い、これらの設備の最新鋭化・能力増強を図ってまいりますが、これらの稼働が遅れた場合や鋼材需要が変化した場合、予定どおりのコスト削減効果や拡販効果が発揮されず、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、主要工事の進捗確認を定期的に実施することで、計画的な実施を図っております。また、世界の経済状況や需要動向を常に注視し、変化が生じた場合には、当初の設備投資計画に対して、投資時期や規模等の適切な見直しを行います。
当社グループは、国内投資に加え、海外成長機会を捉えるための事業投資も推進しております。海外各国における政情や経済情勢の変動、合弁相手先企業の状況の変化等の不測の事態により、期待する収益の獲得や投資回収が困難となる等、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、世界の経済状況や需要動向を常に注視し、変化が生じた場合には、当初の事業投資計画に対して、投資時期や規模等の適切な見直しを行います。また、事業投資の意思決定の過程では、個社・各地域のリスク評価を行い、そのリスクに応じたフォローを行うことで、リスクの管理を図っております。
当社グループは、お客様の高度なご要望にお応えすることで、グローバルで戦うことができる技術力を磨いてまいりました。当社グループの収益基盤を維持・向上していくためには、今後も社会に貢献する世界最先端の新製品・新技術の開発・新規事業の探索を行っていく必要があります。これらが計画どおり実施できなかった場合や各種環境変化により計画どおりの効果が発揮されなかった場合、新商品の提供機会を逸することによる販売量の減少、十分な付加価値を付与できないことによる収益性の低下、受注機会の逸失等により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、鉄鋼事業では自動車・インフラ建材・エネルギー分野を主軸とし、開発の加速化を図ってまいります。また、これまで以上にお客様のご要望を的確にとらえた開発を推進してまいります。例えば、自動車分野では、お客様との交流を深めてEVI(Early Vendor Involvement)を進化させ、先進ハイテンやその利用技術等の先端技術の提案を続けるとともに、建材分野では、新たな付加価値をお客様と共に創り出すソリューション提案活動「JFESCRUM®」を展開することで、鉄の価値創造に努めています。また、エンジニアリング事業ではプラントの自動運転・遠隔監視等、最先端のAI・IoTを活用した技術開発やエネルギーサービス等の新たな商品・サービスの提案を積極的に進めております。
更に、当社グループでは、技術開発の進捗状況のフォローを行い、市場環境の変化に応じた開発計画の見直しを適宜実施しております。
当社グループは、鉄鋼製品をはじめとした多種多様な製品・サービスをお客様に提供しています。当社グループの製品品質は品質設計・製造部門から独立した品質保証部門により確認し、また、品質保証体制は品質監査部門によりチェックを行うことで保証しておりますが、製品やサービス、品質管理体制等に問題が発生した場合には、補償金の支払いや、社会からの信用失墜により、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、グループ会社を含めて品質管理体制を統括する組織を本社内に設置し、品質不具合の撲滅に向けた体制構築を進めております。お客様へ提供する品質データについては、自動測定・伝送化を一層拡充することで、人為的なミスや改ざんの根絶に努めております。また、鋼材の中間素材の識別管理の強化、品質保証体制の社内診断による強化等により、お客様への異常材の流出の未然防止を図っております。
また、エンジニアリング事業における設備のEPC(設計・調達・建設)では、調達した建設資材および機器を使用して建設工事を行っており、設備引渡し後も一定期間は契約不適合責任を負っております。建設した設備において、契約不適合責任のある不具合が生じた場合、請負者の責任において改修工事を実施することになり、追加コストが発生する可能性があります。こうしたリスクに対しては、品質保証体制を整備し、調達品および工事の検査によってリスクの軽減を図っております。
エンジニアリング事業における設備のEPC(設計・調達・建設)では、プロジェクト遂行にあたり、資機材の購入、外注業者の起用を行っており、工期が数年間に及ぶプロジェクトもあります。また、運営型事業では、設備の運転に必要な電気・燃料等を購入しており、運営期間が20年間以上に及ぶ事業もあります。市況・景気変動に伴う建設資材費および外注労務費の変動は建設コストに、電気・燃料費等の変動は運営コストに影響を与え、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、受注前の段階(応札段階)においてリスクの洗い出しを実施し、契約条件への織り込み等の対策を行うことで、受注後の変動リスクの軽減を図っております。更に、受注後においては、プロジェクト経験者による第三者視点でのフォローを実施し、リスクを早期に発見し軽減するよう努めております。
(8)重大な労働災害(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)
多様な事業を展開する当社グループの中には、高所作業、高温作業、重量物の運搬、ガス関連設備での作業等災害の発生率が比較的高い作業を行う職場もあります。当社グループは、高齢者や女性を含め、多様な人材が災害を被ることなく安心して働ける作業環境の整備を進めておりますが、万が一生産設備等の重大事故や重大な労働災害が発生した場合には、事業活動が制約を受け、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対して、各事業会社では重大事故・重大災害の撲滅に努めております。鉄鋼事業では、安全文化醸成の取り組みに先進的なデュポン社による安全に対する診断を行い、これに基づいた内部監査制度を導入しております。また、作業員が立入禁止区域に入ると警報を発して自動でラインを停止させるAI活用画像認知システムや、ガス濃度や重機との近接をリアルタイムでモニタリングして災害を未然に防ぐシステム等の導入を進めております。
当社グループは大量のCO2を排出する鉄鋼製造プロセスを有しており、当社グループの気候変動問題への対応は、当社グループの事業の持続性に関わる極めて重要な経営課題と認識しております。当社グループのカーボンニュートラルに向けた取り組みが十分でなかった場合や革新的な技術開発が達成できなかった場合は、コスト競争力を失う、お客様との取引が縮小する、資金調達が困難になる等により、国際的な競争力を失い、当社グループの業績等に多大な影響を及ぼす可能性があります。
これに対して当社グループは、CO2排出量を2013年度比で2024年度末に約18%、また2030年度に30%以上削減すること、更に2050年にカーボンニュートラル実現を目指すことを経営目標として掲げ、達成に向けて社内の体制を整備し、迅速かつ効率的な推進を図っております。
また、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)のグリーンイノベーション基金事業として「製鉄プロセスにおける水素活用」プロジェクトに参画し、高炉における水素還元技術開発、高炉排ガスの低炭素技術開発(カーボンリサイクル高炉、CCU(Carbon Capture and Utilization))、 直接水素還元技術開発、電気炉での不純物除去技術開発等の超革新技術の開発にも積極的に取り組んでおります。更に、2027年度に改修時期を迎える高炉を休止し高効率・大型電気炉へプロセスを転換することを検討しているほか、電気炉での高品質鋼材製造に有効な低炭素還元鉄生産の事業化調査、CCS(Carbon Capture and Storage)の活用に向けた技術開発、グリーン水素を用いたe-fuel(合成燃料)製造とCO2船舶輸送のサプライチェーン構築等、CO2排出量削減に向けて複線的な取り組みを進めております。
加えて、当社グループはマスバランス方式を適用することにより鉄鋼製造プロセスにおけるCO2排出量を従来の製品より大幅に削減したグリーン鋼材「JGreeX®」の供給を2023年度上期より開始し、既に造船、建築、変圧器用等に採用頂いております。引き続き、CO2削減価値をサプライチェーン全体で負担する社会分配モデルの実現に向けて取り組んでまいります。
一方、これらのカーボンニュートラルプロセスの導入には多大な技術開発費、設備投資費を要し、大幅な製造コストの上昇は不可避であると考えています。国家戦略として、「GX実現に向けた基本方針」や、脱炭素成長型経済構造への円滑な移行の推進に関する法律により、脱炭素に向けた技術開発や設備投資に対する長期的かつ継続的な政府の支援がコミットされましたが、既に補助金という形で具体的な支援措置が示されている他鉄鋼生産国と同等の支援が得られない場合、更には既に国際的に高い水準にある日本の産業用電力価格が更に上昇する場合は、他国に対して日本の鉄鋼メーカーのコスト競争力が低下し、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。カーボンニュートラル実現に向けては、低価格で大量のグリーン水素や国際的に競争力がある安価な非化石電力の調達が必要不可欠となりますが、これらが国際的に競争力のある価格で供給されない場合、環境価値が適切に鋼材価格へ反映されない場合にも当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。これらを実行していく上では、社会全体でのコスト負担のあり方の検討や環境価値を適切に評価しグリーン調達を促すような政府等による更なる支援が必要と考えております。
なお、タクソノミーや炭素国境調整といった政策・制度においては、世界的な保護主義を招く懸念があり、脱炭素への円滑な移行を阻害する恐れがあります。また、グリーン鋼材に関して、国際機関や民間機関を含めて、世界各地で様々な基準や閾値、定義やCO2定量方法の基準が乱立している状況においては、国際的に取引されている鋼材貿易に混乱を引き起こす懸念があります。したがって、鉄鋼業におけるCO2排出量の測定手法やデータ収集に関しては国際的に共通の枠組みが必要であり、この点に関しては、2023年4月に開催されたG7(先進7か国)気候・エネルギー・環境大臣会合において、日本政府の提案に基づき、取り組みを進めることで合意がなされています。引き続き、政府や関係機関とともに、主要鉄鋼生産国との間で共通の手法を定めるための議論を深め、排出削減努力を適切に評価し正当な対価をいただける仕組み作りが進むよう、また、環境規制が適切な制度として制定されるよう、関係機関に働きかけてまいります。
大規模な地震・台風等の自然災害、新型インフルエンザ等感染症の急速な感染、戦争、内乱、暴動、テロ活動等は、当社グループの事業活動に支障をきたし、業績等に影響を及ぼす可能性があります。例えば、新型コロナウイルス感染症のような感染症の大流行により、世界的な移動制限や都市部のロックダウン等が行われ、当社グループの事業活動に支障をきたすとともに、需要産業の生産水準が大幅に低下することにより販売数量が減少し、当社グループの業績等に大きな影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループが事業活動を行っている地域において国際的な紛争等が発生した場合においても、需要産業の生産水準が大幅に低下することにより販売数量が減少し、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。更に、大型台風により設備や建屋の損壊や製鉄所の浸水が生じた場合には、生産量の減少等により当社グループの業績等に影響する可能性があります。あるいは、当社グループの原料の調達先で港湾施設の機能停止により一定期間の生産・出荷停止が生じた場合には、生産量の減少等により当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
近年激甚化する国内の台風や豪雨に対しては、製鉄所内の排水設備の増強等を実施しております。また、原料の主要な調達先である海外での大規模気象災害に対しては、代替調達先の確保、調達ソースの分散、設備能力の増強を図ってまいります。なお、非常事態に対するBCPを策定しており、例えば大規模地震では、津波に対する避難場所の設置や、通信規制・停電等の状況下での全社指揮命令機能の維持、データのバックアップ等の対策を実施しております。また、新たな感染症のリスクに対しては、全従業員の健康と安全を第一に考え、安心して働けるよう、衛生管理の徹底や時差出勤・在宅勤務等の柔軟な事業運営や、インフラ構築等の環境整備を進めるとともに対策検討チームを発足させ、迅速な対応をとる体制を構築しております。
当社グループはCO2の排出抑制効果の大きいエコプロダクトや環境配慮型技術を販売しております。自動車車体に適用されるハイテンは、アルミニウムや炭素繊維等の他素材と比べコスト優位性を有し、また軽量化にも貢献するため、他素材への置換は限定的と考えますが、他素材の大幅なコストダウンが実現した場合には鋼材需要が減少し、当社グループの業績に影響する可能性があります。これに対しては、継続的なコストダウンや性能向上に努め、他素材への置換を抑止するとともに、樹脂等の軽量素材を組み合わせたマルチマテリアル構造等も提案し、鉄と他の素材とを組合せた部材の開発を行い、素材としての持ち味をより引き出し、鉄の需要のすそ野を広げるとともに、軽量化へ貢献していきます。
当社グループは、事業を展開する上で、顧客および取引先の機密情報や個人情報、また、当社グループの機密情報や個人情報を有しております。これらの情報は、外部流出や改ざん等が無いように、グループ全体で徹底した管理を実行しております。過失や盗難、外部からの攻撃等によりこれらの情報が流出もしくは改ざんされた場合、技術優位性の喪失、損害賠償の発生、社会的な信用失墜等により、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対して当社グループでは、情報管理の諸規定を制定することで、サイバー攻撃やシステムの不正利用による情報漏洩やシステム障害を防止する対策を実施しております。また、情報セキュリティを中心にITに関する重要課題を審議する「JFEグループ情報セキュリティ委員会」を設置し、そこで決定した方針に基づき、情報セキュリティ施策の立案と実施推進を図る社内チームである「JFE-SIRT」にてグループ全体の情報セキュリティ管理レベルの向上を推進しております。
当社グループは、成長する海外での需要を捕捉するため、鉄鋼事業・商社事業における現地の鋼材生産・加工ラインへの投資や現地鉄鋼会社との資本提携、エンジニアリング事業における新興国のインフラプロジェクトの受注等、積極的な海外事業展開を推進しております。事業実施地域における政治・経済情勢の変化、テロ・その他の動乱、法改定、大規模自然災害等の不測の事態が発生した場合、生産量の減少、資本提携先とのシナジー効果の減少、法令改定に起因した費用の発生、物流費の増大、連結財政状態計算書に計上したのれんの減損、受注プロジェクトの製造コストの変動等により、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、事業投融資の審査の過程で各国のリスクに応じた事業のリスク評価を行うことで慎重な投資判断を行うとともに、不測の事態が発生した場合の影響を軽減するために、監視体制の強化、現地での調達ソースの分散化等を図っております。
また商社事業では貿易取引を行っており、対象国の状況により輸出入ができなくなるリスクや、外貨事情等により相手国政府が対外送金を停止した場合の代金回収リスクを負う可能性があります。これに対しては貿易保険等を活用しております。
当社グループの業績は、為替レートの変動の影響を受けます。外貨建て取引による外貨の受け取り(製品輸出額等)と外貨の支払い(原材料輸入額等)で相殺されない部分がある場合、為替レートの変動は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対しては、為替予約等を利用したヘッジ取引を適宜実施しております。
円安が進行した場合、円換算の原材料コストの上昇等を通じて当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対しては、製品販売価格への反映を図ってまいります。
また、円高が進行した場合、自動車等の需要産業の輸出競争力低下による国内鋼材需要が減少すること、および当社グループの製品の海外市況における競争力が低下することにより、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これらに対しては、主に(1)、(5)に記した対応による国内鋼材シェアの確保、および海外での垂直分業体制や海外鉄鋼メーカーへの出資による鋼材の現地製造を進めることで、海外市場環境の変化に柔軟に対応するグローバル供給体制の確立を進めてまいります。
当社グループは、大規模な鉄鋼製品製造設備等、多くの固定資産を保有しております。当社グループが保有している固定資産について、収益性の低下等に伴い投資額の回収が見込めなくなった場合は、その資産の減損損失の計上を行うことにより、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、主に上記の(1)~(5)、(9)、(11)に記した対応により資産価値の維持向上に努めてまいります。
当社グループでは、国内の生産年齢人口の減少に伴い、労働力や有能な人材を確保するための各種施策の強化、人材育成による個々の能力向上、省力化による労働生産性向上に取り組んでおりますが、当社グループおよび当社グループのサプライチェーンを構築する企業において、労働力の確保や人材育成が十分でなかった場合、安定的な生産体制や競争力が損なわれることにより当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、ダイバーシティ&インクルージョンを経営課題として位置付け、採用ソースを拡大して多様な人材の確保・活用を図るとともに、多様な人材や意見を尊重する企業風土を醸成し、定着率や生産性の向上に努めてまいります。更に、職場環境の改善や各種制度の充実、IT技術の活用による省力化・効率化についても推進して労働力不足に対応してまいります。
また、適切な労務管理が行われなかった場合、人材の流出や当社グループの信用の著しい低下につながり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。これに対しては、適正な労働時間管理や人権啓発研修の実施、ハラスメント相談窓口の設置等により未然防止を図っております。
当社グループは、事業活動に必要な個々の技術や商標の使用権利を保護する目的で、日本および海外諸国において多数の知的財産権を保有しております。当社グループにおいて事業を遂行する際には、当社外で保有されている知的財産権の調査を行い、その侵害を回避する対策をとっておりますが、万一、第三者より当社グループによる知的財産権の侵害を主張された場合、損害賠償金やロイヤリティの支払い、事業差し止め等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。また、第三者により当社グループの知的財産権が無効化される場合には、対象となる事業の競争力の低下等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。更に、第三者により当社グループの知的財産権が侵害される場合や、社内外の情報保持者により知的財産情報が漏洩する場合には、技術・ブランド価値の低下や損害金の回収不履行等により当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、当社グループは海外を含めて当社外の知的財産権の調査・監視体制を強化することで、その侵害の未然防止を図っております。また、海外地域を重点的に重要技術の権利化を進めるとともに第三者による模倣技術・模倣品の監視体制を強化し、当社グループの知的財産権の侵害の抑止を図っております。更に、情報管理に対する社内教育の拡充、退職者等の守秘義務の管理強化を図っております。
当社グループの中核である鉄鋼事業は、大規模な設備を有しており、その設備の維持更新に多額の資本を必要とするため、財務健全性の維持が重要です。近年、減価償却費を上回る設備投資を行ってきたことから、有利子負債は高水準で推移しております。そのため金融市場の不安定化や金利上昇、また格付機関による当社信用格付の引下げがあった場合等には、資金調達の制約を受け資金調達コストが増加する可能性があります。
これらに対しては、財務管理指標としてDebt/EBITDA倍率やD/Eレシオを用いて、当社グループ全体ならびに各事業会社の財務管理を行っております。また一部の借入金等について、金利スワップを利用したヘッジ取引を実施しております。足元では、有利子負債を削減するため、棚卸資産圧縮等によるCCC(Cash Conversion Cycle)の改善、保有株式の縮減等の資産圧縮および設備投資・投融資の優先順位見直し等を行い、財務健全性の維持に取り組んでおります。
当社グループが保有している株式等の価値が変動した場合は、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当社グループは、上場株式について、その株式保有の意義が認められる場合を除き、保有しないことを原則としており、上場会社株式の売却を進めております。
当社グループが保有する売上債権について、取引先の倒産により貸倒損失が発生した場合、当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。このため、徹底した与信管理を行っており、一部リスクの高い取引については信用保険を活用しております。
当社グループは、日本国内および事業展開する各国において、環境、労働・安全衛生、通商・貿易・為替、知的財産、租税、独占禁止法等の経済法規、建設業法等の事業関連法規、その他関連する様々な法令・公的規制の適用を受けております。これら法令・公的規制が厳格化された場合、(1)、(9)等で述べた影響の他にも、当社グループの事業活動が制約を受けることや対策費用が発生すること等により当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。また、当社グループは、内部統制体制の充実を図りこれら法令・公的規制の遵守に努めておりますが、これら規制等を遵守していないと判断された場合、行政処分を課される等により当社グループの業績等に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、法令の制定・改廃の検討段階での意見提出を行う等により、法令の適切な制定・改廃に向けた活動を継続してまいります。また、法令の制定・改廃が生じた場合には、当該法令に関する主管部署が業務への影響度を評価し、社内の関係部署に周知する体制を整えております。また、法令テーマ別にコンプライアンス研修を行い、定期的に従業員への周知・徹底を図っております。
当社グループは世界各国から原材料や資機材を調達しておりますが、これらのサプライチェーンにおいて人権問題が発生した場合、調達や生産への影響に加え、当社グループの信用の毀損につながり、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。
これに対しては、人権尊重に関するグループ全体の考え方を示す方針として2018年に「JFEグループ人権基本方針」を定めるとともに、昨今の人権に関する意識や課題の変化を踏まえ、2023年4月に本方針を改正いたしました。各事業会社においては、「調達ガイドライン」や「調達基本方針」「サプライチェーンにおけるサステナビリティ基本方針」等を制定し、人権尊重・法令遵守・環境保全に配慮した購買を行っております。また、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に則った人権デューディリジェンスも開始しており、今後、当社グループにおける人権リスクの特定、是正に向けた取り組みの検討および実行等のプロセスを継続してまいります。
(23)退職給付債務(鉄鋼事業・エンジニアリング事業・商社事業)
当社グループの従業員退職給付費用および債務は、割引率等数理計算上で設定される前提条件に基づいて算出されております。金利の変動、制度資産の公正価値の変動、および退職金制度の変更等があった場合、当社グループの業績と財務状況に影響を及ぼす可能性があります。
当社および連結子会社は、多数の持分法適用関連会社を有しております。持分法適用関連会社の損失は、当社および連結子会社の持分比率に応じて、連結財務諸表に計上されます。また、当社および連結子会社は、持分法適用関連会社の回収可能価額が取得原価または帳簿価額を下回る場合、当該持分法適用関連会社の株式について減損損失を計上しなければならない可能性もあります。なお、当社および連結子会社は、一部の持分法適用関連会社の金銭債務に対して債務保証を行っておりますが、将来、これら債務保証の履行を求められる状況が発生した場合には、当社グループの業績および財政状態に影響を及ぼす可能性があります。これらに対しては、持分法適用関連会社の収益向上の取り組みをモニタリングするとともに、必要な諸施策を実施し、リスク低減に努めております。
なお、現時点では予期できない上記以外の事象の発生により、当社グループの事業活動および業績等が影響を受ける可能性があります。
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度における当社グループの経営成績等の状況の概要は、「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 a.当連結会計年度の経営成績の分析」に記載しております。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度のキャッシュ・フローについては、「(2) 経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容 ② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 b.キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性についての分析」に記載しております。
③ 生産、受注及び販売の実績
当社グループにおける生産実績については鉄鋼事業の粗鋼生産量を、また受注実績についてはエンジニアリング事業の受注実績・受注残高を記載しております。
鉄鋼事業は、特定顧客からの受注については反復循環的に生産しているため、受注実績の記載を省略しております。エンジニアリング事業は、請負工事を中心としているため、生産実績を金額あるいは数量で示すことはしておりません。商社事業は、受注生産形態をとらない製品が多いため、生産実績・受注実績を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
a.生産実績
当連結会計年度における生産実績は、以下のとおりであります。
b.受注実績
当連結会計年度における受注実績は、以下のとおりであります。
当連結会計年度における販売実績は、以下のとおりであります。
(注) 主な相手先別の販売実績および総販売実績に対する割合については、各販売先への当該割合が100分の10未満のため、記載を省略しております。
鉄鋼事業において、長期的な鋼材需給の動向を見据えた設備の統廃合等による最適な生産体制の構築の一環として、2023年9月にJFEスチール㈱東日本製鉄所(京浜地区)の上工程(製銑、製鋼)および熱延設備を休止し、国内の生産体制を高炉8基体制から7基体制へ変更しております。
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は以下のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、特に記載のあるものを除き、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表はIFRSに準拠して作成しております。
重要性のある会計方針については「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性のある会計方針」、重要な見積りについては「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 4.重要な会計上の判断、見積りおよび仮定」に記載しております。
a.当連結会計年度の経営成績の分析
JFEグループは、「常に世界最高の技術をもって社会に貢献します。」という企業理念の実践を通じて、企業としての持続的な成長を図り、株主の皆様をはじめすべてのステークホルダーにとっての企業価値の向上に努めてまいりました。
当連結会計年度の国内および海外経済は、総じて緩やかに回復したものの、中国経済の停滞や、地政学リスクの拡大に加え、国内における土木建築分野を中心に人手不足や資材高騰の影響等もあり、足踏み状態が続きました。
このような状況のもと、JFEグループでは、主原料や諸物価の価格転嫁による国内販売価格の改善や高付加価値品比率を上昇させる取り組みとともに、構造改革完遂による固定費削減等により、収益基盤の強化を進めてまいりました。その結果、輸出市況が低迷する厳しい事業環境の中、事業利益および親会社の所有者に帰属する当期利益ともに前連結会計年度に比べ増益となりました。
当連結会計年度のセグメント別の業績は、以下のとおりです。
鉄鋼事業は、国内外の軟調な鋼材需要や、海外鋼材市況の低迷等を背景に、当連結会計年度の連結粗鋼生産量は2,480万トンと前連結会計年度に比べ減少しました。売上収益については、販売数量の減少や海外鋼材市況の悪化等を受け、3兆7,160億円と前連結会計年度に比べ1,651億円(4.3%)の減収となりました。
セグメント利益については、海外鋼材市況の悪化や棚卸資産評価差等の一過性の減益要因等があったものの、構造改革の効果発現、および継続的な販売価格改善やコスト削減の取り組み等により、前連結会計年度に比べ559億円(38.1%)の増益となる2,027億円となりました。
エンジニアリング事業は、Waste to Resource(リサイクルや廃棄物発電等)分野を中心とした受注済プロジェクトを着実に遂行した結果、売上収益は5,399億円となり前連結会計年度に比べ274億円(5.4%)の増収となり過去最高を更新しました。セグメント利益は売上収益の増加およびコスト削減に努めたことにより、前連結会計年度に比べ109億円(80.9%)の増益となる243億円となりました。
商社事業は、過去最高益であった前連結会計年度と比較し、鋼材販売数量の減少、販売管理費の増加、北米事業を中心に利益率が低下したことにより、年間の売上収益は1兆4,764億円、セグメント利益は489億円となり、前連結会計年度に比べそれぞれ377億円(2.5%)の減収、162億円(24.8%)の減益となりました。
以上の結果、当社単体業績等と合わせ、当連結会計年度における連結での売上収益は5兆1,746億円となり、前連結会計年度に比べ941億円(1.8%)の減収となりました。事業利益は2,982億円となり、前連結会計年度に比べ624億円(26.5%)の増益となりました。税引前利益は2,683億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は1,974億円となり、前連結会計年度に比べそれぞれ581億円(27.6%)、348億円(21.4%)の増益となりました。
当連結会計年度のキャッシュ・フローについては、営業活動によるキャッシュ・フローが4,789億円の収入(前連結会計年度に比べ収入が832億円増加)であったのに対し、投資活動によるキャッシュ・フローは有形固定資産、無形資産及び投資不動産の取得による支出を中心として3,252億円の支出(前連結会計年度に比べ支出が509億円増加)であったことから、これらを合計したフリー・キャッシュ・フローは1,537億円の収入(前連結会計年度に比べ収入が322億円増加)となりました。
また、財務活動によるキャッシュ・フローは、海外募集による株式の発行による収入520億円および自己株式の処分による収入624億円ならびに転換社債型新株予約権付社債の発行による収入900億円等に対し、長期借入金の返済による支出1,306億円等により、合計では454億円の支出(前連結会計年度に比べ支出が647億円減少)となりました。
この結果、当連結会計年度末の有利子負債残高は前連結会計年度末に比べ327億円減少し、1兆8,302億円となり、現金及び現金同等物の残高は前連結会計年度末に比べ1,237億円増加し、2,430億円となりました。
なお、有利子負債は、社債、借入金及びリース負債であります。
当社グループの資本の財源及び資金の流動性については、次のとおりです。
当社グループの運転資金需要のうち主なものは、原材料等の仕入、製造費用、受注建設工事の費用支払および販売費及び一般管理費等の営業費用です。投資資金需要の主なものは、鉄鋼事業における収益向上、GX(グリーントランスフォーメーション)、DX(デジタルトランスフォーメーション)等の戦略投資および製造基盤整備を目的とした設備投資です。
運転資金は、主に金融機関からの借入やコマーシャル・ペーパーの発行等により調達しております。投資資金は、自己資金を基本としておりますが、自己資金を上回る資金需要については、金融機関からの長期借入金や社債の発行等で調達しております。
当社グループでは、複数の金融機関との間でコミットメントラインを設定することにより、十分な資金の流動性を確保しております。
c.目標とする指標の達成状況
JFEグループは、2021年5月に公表した第7次中期経営計画(2021~2024年度)の中で、以下の財務・収益目標を掲げています。
2023年度は主原料や諸物価の価格転嫁による国内販売価格の改善や高付加価値品比率を上昇させる取り組みとともに、構造改革完遂による固定費削減等により、収益基盤の強化を進めてまいりました。その結果、輸出市況が低迷する厳しい事業環境の中、事業利益および親会社の所有者に帰属する当期利益ともに前連結会計年度に比べ増益となりました。引き続き、第7次中期経営計画の目標達成に向けて取り組んでまいります。
■第7次中期経営計画
(注)1 D/Eレシオ:格付け評価上の資本性を持つ負債について、格付け機関の評価により資本に算入しております。
2 鉄鋼事業のトン当たり利益:(連結セグメント利益÷単体出荷数量)
なお、当連結会計年度の分析につきましては、「② 当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容 a.当連結会計年度の経営成績の分析」に記載しております。
(注)1 ※1 東国製鋼㈱のグループ再編に伴い、2023年6月1日付で契約相手方が東国ホールディングス
㈱となっております。
2 ※2 2024年3月14日付改訂の主たる内容は、メランティスチール・プライベート・リミテッドから
JFEスチール㈱に対してJFE・メランティ・ミャンマー・ホールディング(当時)の株式が譲渡
されたことに伴う、契約相手方の変更であります。
3 ※3 合同会社CEPCO-Rは、中部電力㈱の連結子会社であります。
4 ※4 2023年4月1日付で契約相手方の名称が「月島機械㈱」から「月島ホールディングス㈱」に変
更されております。
なお、2022年12月5日に締結した合弁契約に基づき、2023年6月27日に2023年10月1日を効
力発生日とする4つの吸収分割契約を締結いたしました。
・JFEエンジニアリング㈱と月島アクアソリューション㈱の間の吸収分割契約
対価:月島JFEアクアソリューション㈱(以下「統合会社」)の株式622,400株
・JFE環境テクノロジー㈱と月島アクアソリューション㈱の間の吸収分割契約
対価:統合会社の株式8,100株(JFEエンジニアリング㈱に対し、剰余金の配当として交
付)
・JFE環境テクノロジー㈱と月島テクノメンテサービス㈱の間の吸収分割契約
対価:統合会社の株式500株(JFEエンジニアリング㈱に対し、剰余金の配当として交
付)
・JFE環境サービス㈱と月島テクノメンテサービス㈱の間の吸収分割契約
対価:統合会社の株式49,000株(JFEエンジニアリング㈱に対し、剰余金の配当として交
付)
また、2023年10月1日付で各社の商号が変更されました。
・月島アクアソリューション㈱は、月島JFEアクアソリューション㈱に商号変更。
・月島テクノメンテサービス㈱は、月島ジェイテクノメンテサービス㈱に商号変更。
5 2024年4月24日付でJFE商事・アメリカ・ホールディングス・インクは、スタッドコ・グローバル・ホールディングス・インクとの間で、スタッドコ・ビルディング・システムズ・US・LLCおよびスタッドコ・コーポレーションに関する持分購入契約を締結しております。
(2) 技術に関わる契約
② 技術供与契約
当社グループ(当社および連結子会社)は、世界最高の技術をもって社会に貢献することを企業理念とし、顧客ニーズを先取りした独自新商品の開発、高品質な商品を効率的に生産する技術の開発、カーボンニュートラル達成に寄与する商品および製造技術の開発、ならびにグループ全体としてのシナジーを活かした開発により、常に業界をリードし、新たな分野を開拓していくというグループ共通の開発コンセプトの下、各事業会社が創造性にあふれる研究開発を展開しています。また、各事業会社において、AI・IoT・ビッグデータ等のデータサイエンス技術の活用を推進するための組織を設置し、ロボティクス技術を積極的に活用して、製造設備の生産性や商品・サービスの付加価値向上に向けた研究開発等を積極的に推進しています。
グループ全体の研究開発戦略の策定や横断的に取り組むべき重要課題の選定・推進については、当社社長を議長とする「グループ経営戦略会議」の場で、各事業会社が一体となって取り組んでいます。
今後も、経営環境の変化に柔軟に対応しつつ高い収益力を確保するとともに、市場・社会からの高い信頼を獲得し、将来の経営基盤を育成・発展させるべく、積極的な研究開発に取り組んでいきます。
当連結会計年度における研究開発費は
なお、当連結会計年度における主な事業別の研究の目的、主要課題および研究成果は以下のとおりです。
鉄鋼事業では、社会の持続的な発展と人々の安全で快適な生活のために、「カーボンニュートラル」達成に向けたイノベーションの推進、および「デジタル」による製造基盤強化と新たな成長戦略の実行に向け、CO2削減に大きく貢献する超革新プロセス技術の検討、お客様や社会のニーズを先取りした新商品・利用技術の開発を強力に推進しております。
以下、当連結会計年度の主な研究成果を挙げます。
<プロセス分野>
JFEスチール㈱は、デジタルツイン技術を活用した設備設計により、同社の西日本製鉄所(福山地区)のコークス炉において、省エネルギー効果とCO2削減効果のある新設備の技術開発を行い、このたび工程運用を開始しました。本件は、一般社団法人環境共創イニシアチブ(SII)助成金事業に採択されています。製鉄業においては、製銑工程でのエネルギー利用とCO2排出割合が大きく、高効率運転と均質で高品質な原料の製造は、カーボンニュートラルの実現に向けて重要な役割を担っています。同社の西日本製鉄所(福山地区)の5コークス炉D団においては、仮想空間上に構築したコークス炉のデジタルツインの情報から、部分的に燃焼用の空気の不足による燃料の未燃が発生し、燃料原単位に影響を与えていることを解明しました。従来、炉内の空気量の調整は全体量で行っていましたが、デジタルツイン技術を用いたことで、部分的に空気供給量を制御する機構が高効率操業に有効であることを確認でき、更に燃焼最適化のための補助空気量の算出にも成功しました。部分燃焼最適化の実現により、従来比で燃料使用削減量約5%、CO2排出削減量6,600トン/年の効果を達成しました。
また、JFEスチール㈱は最新のDX・ロボティクス技術を活用し、グラインダー研削作業を自動で行うロボットシステムを知多製造所の小径シームレス管工場に導入しました。同社が独自開発した「ティーチングレス技術」により、手入れ工程において微細なきず等の不良部位検出から研削作業までをロボットが自動で行うことが可能となりました。今後は、本システムを他工場・他製造プロセスにも展開していくことで、より安全で快適な職場環境を提供し、生産性の向上につなげていきます。
更に、JFEスチール㈱は最新のデータサイエンス技術により、原料ベルトコンベアの設備異常および操業異常を自動監視するシステムを開発し、同社の東日本製鉄所(千葉地区)と西日本製鉄所(倉敷地区)の原料ヤードに導入しました。今後は、本システムを全地区に展開していくことで、原料ヤードにおける搬送トラブルの未然防止を通じた更なる生産性向上と操業の安定化を推進します。
<製品分野>
石油メジャー等が参画する「海洋石油・天然ガスに係る日本財団とDeepStarの連携技術開発助成プログラム(以下、「本プロジェクト」)の水素関連技術開発において、JFEスチール㈱製品の電縫鋼管(マイティーシーム®)を用いた、高圧水素輸送用ラインパイプ材の特性評価に関する研究開発が採択されました。本プロジェクトにおいて、DeepStarメンバーである石油メジャーのExxonMobil社(米国)、TotalEnergies社(仏国)と連携し、高圧水素輸送用の鋼管材料等の評価基準および方法を確立し、世界初の高圧水素輸送向けパイプラインの実用化を目指します。今回の研究開発は、JFEスチール㈱の東日本製鉄所(千葉地区)にあるスチール研究所で、高圧水素パイプラインに求められる必要特性についてECA技術等を用いた研究を実施するとともに、鋼管材料から切り出した材料試験片を用いて、高圧水素環境試験での性能評価を行います。石油メジャーのニーズを踏まえた技術開発を推進し、各社と共同で脱炭素化に貢献するべく、連携強化を図っていきます。
また、JFEスチール㈱の「JFEトポロジー最適化技術」が、いすゞ自動車㈱(以下、「いすゞ」)の「新型エルフ」のトラックの乗車部分であるキャブ設計手法として採用されました。両社は共同でキャブの構造最適化に取り組み、「JFEトポロジー最適化技術」を用いた設計により、室内空間の最大化と車体の軽量化の両立を達成しました。本技術はこれまで普通乗用車や軽自動車に採用されてきましたが、トラックのような商用小型貨物車への採用は今回が初となります。新型エルフのフルモデルチェンジに伴い、居住性を向上させるために室内空間を最大限広げる一方で、車体を軽量化するため、いすゞは「JFEトポロジー最適化技術」を採用し、両社が協業で主要骨格の新設計を実施いたしました。新部品形状の設計および高効率接合位置の検出のためにトポロジー最適化からなるCAE技術を駆使した結果、前モデルに対し大幅な軽量化を達成いたしました。なお、本成果については、いすゞより2023年7月の自動車技術会フォーラム「車体の最新技術2023」にて発表されています。
更に、JFEスチール㈱は橋梁等の鋼構造物の耐久性を高める新たな溶接施工法「FLExB®溶接」を開発しました。本溶接施工法は、2023年5月に国土交通省の新技術情報提供システム(NETIS)に登録されました。今回、新しく開発したFLExB®溶接は、ガセットプレート(補強用鋼板)と呼ばれる接合部材の短辺側を先に溶接し、その短辺溶接部を挟み込むように長辺側を溶接します。更に溶接ビードを延ばすことで疲労損傷を抑制できる技術です。これにより、溶接部の疲労き裂の起点になる箇所の応力レベルを軽減し、疲労き裂の発生を遅らせるとともに、疲労き裂の進展を抑えることで、疲労損傷への耐久性を高めることを実現しました。FLExB®溶接による耐久性向上の効果により、従来よりもJSSCの疲労等級が1等級向上しました。従来の溶接施工法より作業を単純化できることに加え、溶接施工後に疲労強度向上を目的として実施していた表面処理等の作業工程を省略でき、施工能率の向上にも寄与します。
<表彰>
JFEスチール㈱が開発してまいりました商品、技術は社外からも高く評価されております。例えば、「超大型コンテナ船の建造を実現した極厚高強度鋼板の開発」の成果が認められ、令和5年度科学技術分野の文部科学大臣表彰科学技術賞(開発部門)を受賞しました。同社の同賞受賞は6年連続となります。また、「自動車の燃費と衝突安全性を向上する超高強度薄鋼板」の成果が認められ、令和5年度全国発明表彰経済産業大臣賞を受賞しました。
また、JFEスチール㈱が開発した「サイバーフィジカルシステムによる高炉操業の自動化」が、第70回(令和5年度)大河内記念技術賞を受賞しました。更に、「鋼と炭素繊維強化樹脂層を複合させた超高圧水素蓄圧器の開発」の成果が認められ、環境省主催の令和5年度気候変動アクション環境大臣表彰を開発・製品化部門(緩和分野)で受賞しました。
エンジニアリング事業では、「Waste to Resource」、「カーボンニュートラル」、「複合ユーティリティサービス」、「基幹インフラ」の4事業分野にそれらを支える技術基盤である「DX」を加えた5つを重点分野と位置付け研究開発を推進しています。当連結会計年度は、特に「カーボンニュートラル」を最注力分野として重点的な投資を実施しました。具体的には、急拡大する日本の洋上風力発電事業の発展に大きく貢献するべく洋上風力のモノパイル基礎の製造技術に取り組む他、膜分離法と物理吸着法のハイブリッド型を用いた低消費エネルギーCO2分離回収技術等、脱炭素社会の実現に貢献する新規技術開発に取り組んでおります。
また、JFEエンジニアリング㈱は積水化学工業㈱と共同で、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)から公募された「グリーンイノベーション基金事業/廃棄物・資源循環分野におけるカーボンニュートラル実現」を受託し、廃棄物から化学品原料を製造する「廃棄物のケミカルリサイクル(Waste-to-Chemical)プロセス」の確立に取り組んでいます。本開発は、JFEエンジニアリング㈱が開発中である幅広い廃棄物をガス化し高品質な精製合成ガスを安定供給する技術と、積水化学工業㈱が開発中である廃棄物由来の精製合成ガスからエタノールを製造する技術を組み合わせたプロセスです。化学品合成に必要な水素も自らのプロセス内で生成するため、水素ネットワークの構築を待たずに早期の社会実装が期待される革新的な技術となります。
JFEエンジニアリング㈱が開発した商品・技術は社外からも高く評価されております。基幹インフラ分野においては、「簡便な杭式桟橋の補強工法」の成果が認められ、第25回国土技術開発賞に入賞しました。