当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下のとおりであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営方針
当社グループは、「私たちは誠実を旨とし、本物・安心・健康な『食』の提供を通じて、人々の豊かなくらしとしあわせに貢献します」をグループ理念と定め、グループ理念の実践により、社会への責任を果たしてまいります。
また、当社グループは、グループ理念を通じて以下のグループビジョンの実現を目指します。
・地球環境に配慮し、世界の『食』に貢献する21世紀のエクセレントカンパニーを目指します。
・お客様の立場に立ち、お客様にご満足いただける価値創造企業を目指します。
・持続可能な『食』の資源調達力と技術開発力を高め、グローバルに成長を続ける企業を目指します。
(2)経営戦略等
安全で高品質な商品を、お客様のもとにお届けすることが当社グループの使命であり、食品安全を含めた品質保証体制、危機管理体制及びグループガバナンス体制の構築に、継続して取り組んでまいります。
また、2022年度から2024年度までの3ヵ年を対象とする、グループ中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」を策定いたしました。計画の策定にあたりましては、企業価値向上と持続的成長の実現に向け、長期経営ビジョンを次の3つに再定義しております。
① 事業活動を通じた経済価値、社会価値、環境価値の創造により、持続可能な地球・社会づくりに貢献する
② 総合食品企業として、グローバルに「マルハニチロブランド」の提供価値を高め、お客様の健康価値創造に貢献する
③ 水産資源調達力と食品加工技術力にもとづく持続可能なバリューチェーンを強化し、企業価値の最大化を実現する
以上の長期経営ビジョンの実現に向けて、非連続な成長のロードマップをバックキャストで描き、中期経営計画では、「経営戦略とサステナビリティの統合」「価値創造経営の実践」「持続的成長のための経営基盤強化」の3つのコンセプトに取り組んでまいります。
① 経営戦略とサステナビリティの統合
・ 経営戦略とサステナビリティを一体として実現する、当社グループの価値創造のあり方として、Maruha Nichiro Value(MNV)を定義
② 価値創造経営の実践
・ 価値創造経営を推進するガバナンス体制の構築
・ マテリアリティの特定、財務・非財務KGIの設定
・ 事業ポートフォリオに基づく資源配分
・ 成長ドライバー領域への戦略投資
・ 水産・食品の枠組みを超えたバリューチェーンの価値最大化
③ 持続的成長のための経営基盤強化
・ 多様化する消費者のニーズに対応した健康価値の創造と提供
・ イノベーションエコシステムの構築
・ 人的資本経営の推進
・ コーポレートブランドの発信強化
・ 知財リスク対応と無形資産の活用・強化推進
・ DX推進基盤の構築とデジタル技術の活用
「海といのちの未来をつくる」というブランドステートメントのもと、人々の豊かなくらしとしあわせに貢献するというグループ理念の実現に向けて、変化の激しい経営環境の中にあっても、「経済価値」「社会価値」「環境価値」の創造に引き続き取り組み、企業価値の更なる向上、持続的な成長を目指してまいります。
(3)経営環境
国内経済はコロナ禍からの経済活動の正常化が進み、円安傾向にも影響され、インバウンド需要が拡大し、外食・旅行等のサービス消費の拡大が見込まれております。
一方で、中東の情勢悪化や長期化するウクライナ情勢、為替相場の急激な変動や物価の高騰、資源価格の変動、金融引き締めに伴う世界経済の鈍化も想定され、引き続き予断を許さない状況が継続すると考えております。
(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
当社グループは2022年度から2024年度までの3ヵ年を対象とするグループ中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」の最終年度を迎えます。
当社グループは、「魚」をコアにした水産食品企業グループであり、製品・サービスの特性、市場及び顧客の種類などの要素で多面的にとらえて編成した複数の事業ユニットを、主に事業類似性の観点から、分割・集約したうえで、「水産資源」、「加工食品」、「食材流通」及び「物流」の4つを報告セグメントとしておりましたが、同種の事業を同じ視点で評価できる組織体系を構築し、バリューチェーンの強化を図るため、次期より、事業セグメントを「水産資源」、「食材流通」及び「加工食品」の3区分に変更するとともに、事業ユニットの編成についても、併せて見直しを行います。
「水産資源」については、海外ユニットを廃止し、北米ユニットを新設するとともに、アジア事業(ペットフード、加工事業等)を「加工食品」の加工食品ユニットに移管します。
「食材流通」については、加工食品ユニットより農産関連事業を移管するとともに畜産ユニットの名称を農畜産ユニットに変更します。また、「水産資源」より水産商事ユニットを移管します。
各事業の次期における対処すべき課題は次のとおりであります。
水産資源事業
漁業ユニットは、燃料代の高止まりが予想されますが、事業環境の変化に対応した漁業オペレーションを実施するとともに、自社加工度を高めるなど販売ルートを多様化することにより、収益の向上に努めてまいります。
養殖ユニットは、引き続き飼料代等の高騰による原価上昇が予想されますが、国内におけるマグロ・ブリ・カンパチの養殖を主軸とし、技術改善とコスト削減、販売価格の安定化、輸出拡大に取り組み、収益の向上に努めてまいります。
北米ユニットは、北米・欧州事業拠点における収益基盤の強化、販売促進を進めてまいります。北米ではすりみ・フィレ製品の相場の軟調、また人件費高騰やインフレ等により生産コストの上昇が続いておりますが、生産アイテムの最適化、生産・販売一体となった事業運営等により、収益力の改善に努めます。欧州は、更なる販売網の拡大を図り、高収益商材の拡販等を進め、収益の向上に努めてまいります。
食材流通事業
水産商事ユニットは、資源国の漁獲・生産状況と主要な需要国の変化の激しい消費動向を把握し、効率的な調達と販売を行うことにより、収益の拡大に努めてまいります。またグループ内協業を加速させ、水産物バリューチェーンの構築を行うほか、鮮魚のワンストップサプライヤーを目指します。
食材流通ユニットは、外食・宅配生協・量販店・介護・CVS・給食など顧客起点での販売を更に強化し、冷凍食品・水産品・畜産品・農産品などすべてのカテゴリーの商品をお客様に提案してまいります。また海外も含めグループ内の全体最適を推し進め、生産・販売両面での効率化を推進し、収益の向上に努めてまいります。
農畜産ユニットは、円安や人件費高騰による調達コストの上昇など厳しい事業環境が見込まれますが、国内外にわたる多様な調達網を活用して市場のニーズに対応し、グループ内連携の強化及び付加価値商品の開発により収益力の向上を図ってまいります。
加工食品事業
加工食品ユニットは、マーケティングや研究開発部門との連携を強化し、商品開発力を向上させるとともに、積極的な販促活動を展開し、売上の拡大とブランド認知の向上を図ります。国内においては、事業構造の見直しと転換を図りつつ、省人化設備導入やDXを推進し生産性向上を進め、収益力の向上を図ってまいります。また海外では加工食品やペットフードの生産・販売の更なる拡大を目指してまいります。
ファインケミカルユニットは、医療原薬事業の拡大、機能性表示取得による既存製品の深掘り、新商品の販売などを行い、事業規模拡大に努めてまいります。
(5)目標とする経営指標
中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」における財務KGIは次のとおりであります。
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24年度計画 (A) |
27年度目標 (B) |
23年度実績 (C) |
差異 (A)-(C) |
差異 (B)-(C) |
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MNEV(億円) |
120~ |
110~ |
119 |
1~ |
△9 |
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売上高(億円) |
10,500 |
10,000~ |
10,307 |
193 |
△307 |
|
営業利益(億円) |
300 |
310~ |
265 |
35 |
45 |
|
EBITDA(億円) |
500 |
500~ |
460 |
40 |
40 |
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ROIC |
4.3% |
5%~ |
4.2% |
0.1pt |
0.8pt |
|
ROE |
9% |
9%~ |
10.8% |
△1.8pt |
△1.8pt |
|
ネットD/Eレシオ |
~1.1倍 |
~1.0倍 |
1.2倍 |
△0.1pt |
△0.2pt |
(注)1.MNEV(Maruha Nichiro Economic Value):事業活動の成果に伴う経済付加価値額として、投下資本利益率(ROIC)と加重平均資本コスト(WACC)の差(MNEVスプレッド)に、投下資本を乗じ算出しております。
2.24年度計画は2024年5月に更新しております。
文中の将来に関する事項は、有価証券報告書提出日現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とは様々な要因により大きく異なる可能性があります。
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近年、社会や地球環境などのサステナビリティ課題への関心が世界的にますます高まり、事業を取り巻く外部環境も日々変化しております。当社グループは、変化への対応、社内への重点課題の浸透、社内外のステークホルダーの意見を経営に反映していくことを重視し、2022年度より開始した中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」に伴い、前中期経営計画で取り組んでいたマテリアリティを見直しました。マテリアリティの見直しに際しては、社外有識者、社内従業員へのアンケートを通して社内外ステークホルダーの意見を取り込み、経営陣による議論、検討を重ね、下表に示す9つのマテリアリティを特定しました。 マテリアリティそれぞれで抽出した機会とリスク、主要な取り組みは次のとおりであり、「環境価値の創造に関するマテリアリティ項目」と「社会価値の創造に関するマテリアリティ項目」に分類して記載しております。 |
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環境価値の創造に関する マテリアリティ項目 |
関連する機会とリスク(○機会 ●リスク) |
主要な取り組み |
|
気候変動問題への対応 |
○天然水産物の漁獲量減少を補う養殖水産物の販売機会の拡大 ●CO₂排出量削減対策による生産コストの増加 ●海水温上昇に伴う魚種や漁場の変化による漁獲量・売上の減少 ●気候変動による原材料の調達不全リスクの増大 |
・CO₂排出量削減ロードマップの策定 ・CO₂排出量削減施策の実施(太陽光パネル設置、再生可能エネルギーへの切替え) ・省エネルギー設備の増強 ・エネルギー効率の改善 ・ノンフロン冷凍機への転換 ・調達先の迅速な変更や取扱魚種の変更 ・代替調達ルート、代替原料の模索 |
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循環型社会実現への貢献 |
○容器包装プラスチック使用量削減によるコスト削減 ○フードロス削減によるコスト削減 ○廃棄物削減の取り組みによるコスト削減 ●容器包装プラスチックの環境配慮型素材切替えによるコスト増加 ●廃棄物削減、リサイクルへの取り組み遅延による企業価値毀損 |
・容器包装のプラスチック使用量削減と環境配慮型素材への切替え促進 ・フードロス削減活動の推進 ・製造トラブルの削減 ・原材料・資材・商品の廃棄削減 ・廃棄物の有価物化 |
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海洋プラスチック問題への対応 |
○漁具管理強化、紛失減によるコスト減少 ○海洋プラスチック問題へ積極的に取り組む企業としてイメージ向上 ●海洋に流出しづらい漁具への切替えによるコスト増加 |
・漁具管理ルールの策定と運用 ・海洋に流出しづらい漁具への切替え ・海岸クリーンアップ活動の積極的実施 |
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生物多様性と生態系の保全 |
○持続可能な水産資源の提供による企業価値向上 ○自社養殖場の認証レベル管理による環境保全 ●サプライチェーンにおける社会・環境問題への対応によるコスト増加 ●認証取得・維持にかかるコストの上昇 |
・生物多様性リスク評価の実施 ・定期的な水産資源調査の実施と不明魚種、資源に心配のある魚種への対応 ・持続可能な漁業・養殖認証(MSC・ASC等)取得水産物の取り扱いの推進 ・持続可能な養殖認証の取得の推進 ・輸入水産物のトレーサビリティ確認の強 化 ・国内外ダイアローグへの参加 ・自社養殖場における認証レベル管理 |
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社会価値の創造に関する マテリアリティ項目 |
関連する機会とリスク(○機会 ●リスク) |
主要な取り組み |
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安全・安心な食の提供 |
○品質事故、品質クレーム減少によるコスト削減 ○お客様の満足度向上によるブランドへの信用獲得 ○ステークホルダーへの適切な情報公開による信頼獲得 ●製品の品質クレーム・トラブルによるお客様の信頼低下による収益力の低下 |
・グループ品質保証規程に基づく品質保証活動の徹底 ・品質に関する人財育成 ・サプライヤ-との協働による食品安全・食品防御レベルの向上 ・パッケージ、WEBサイト、業者間での適切な製品品質情報の開示 |
|
健康価値創造と持続可能性に貢献する食の提供 |
○お客様の満足度向上によるブランド価値向上 ○ステークホルダーへの適切な情報公開による信頼獲得 ○お客様の健康価値創造と持続可能性に配慮した食を提供する企業ブランドの確立 ●製品基準を満たす製品開発コストの増加 |
・健康価値創造と持続可能性に貢献する食の製品基準の策定 ・「消費者志向経営」(未来次世代のために取り組む企業)に関する社内啓発研修の実施 ・健康価値創造と持続可能性に貢献する企業という社外評価方法の構築 |
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多様な人財が安心して活躍できる職場環境の構築 |
○性別・年齢・国籍等にとらわれない人財登用による社内モチベーションの向上 ○イノベーションが起きやすい環境づくり ○人財獲得競争での優位性獲得 ●人財開発及び職場環境改善コストの発生 |
・新卒採用比率男性50%・女性50%の継続 ・取締役会・管理職の女性登用の推進 ・仕事と介護・育児・治療の両立支援 ・従業員の健康維持及び増進 ・従業員エンゲージメントの評価方法の確立と向上 ・グローバル人財育成の推進、等級別研修の拡充 ・選抜研修の推進等を含めた人財育成プログラムの確立 |
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事業活動における人権の尊重 |
○ステークホルダーへの適切な情報公開による信頼獲得 ○グループ内、サプライチェーン上での人権リスク軽減 ●人権問題への対応遅延による企業価値毀損 |
・社内人権啓発研修の開催 ・国内グループ製造拠点での外国人技能実習生調査と改善対応 ・サプライチェーン上での人権調査と改善対応 |
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持続可能なサプライチェーンの構築 |
○サプライチェーン上での社会・環境課題へのリスク低減 ●サプライチェーン上における社会・環境問題対応によるコスト増加 ●サプライチェーンにおける社会・環境問題への対応遅延による原材料調達不全リスクの増大 |
・「調達基本方針」「サプライヤーガイドライン」「腐敗防止宣言」のサプライヤーへの周知徹底 ・システムを利用したサプライヤーの登録、モニタリングの実施、リスクの有無確認とフィードバック |
(1)ガバナンス
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当社グループにおける「サステナビリティ推進委員会」は、代表取締役社長が委員長を務め、マルハニチロ㈱取締役を兼務する役付執行役員、関連部署担当役員、関連部署長を委員、社外取締役、監査役をオブザーバーとし、構成されております(2024年度より取締役常務執行役員が委員長、代表取締役社長は委員)。 「サステナビリティ推進委員会」では、グループサステナビリティ戦略全般の企画立案や目標設定及びグループ各社の活動評価をしており、主に中期経営計画のマテリアリティの進捗状況を積極的に討議しております。各マテリアリティの推進体制では、マテリアリティ“循環型社会実現への貢献”のプラスチック使用量削減とフードロス削減及び“健康価値創造と持続可能性に貢献する食の提供”において、2022年度よりプロジェクトを立ち上げ、プロジェクトオーナーを管掌役員、プロジェクトリーダーを関連部署長として、部署横断的な取り組みを推進しております。加えて、2023年11月より“気候変動問題への対応”で“CO₂排出量削減プロジェクト”も立ち上げ、プロジェクトオーナー、プロジェクトリーダー含むプロジェクトメンバーで各種施策の取り組みを進めております。 |
<マルハニチログループサステナビリティ推進体制図> |
(2)リスク管理
当社グループでは、法務・リスク管理部を中心に、マルハニチロ㈱各部署やグループ各社のリスク管理責任者、リスク管理担当者が連携してリスク管理業務に取り組む体制を整えております。法務・リスク管理部は、マルハニチロ㈱の各部署及びグループ各社より抽出されたリスクの評価・分析にもとづきリスクマトリクスを作成し、当社グループとしてのリスクの仕分けとリスクの大きさの優先順位を決定することで、事業活動に潜むさまざまなリスクを日常的に管理し、業務改善に繋げております。また、法務・リスク管理部は、リスクの拡大やクライシスを未然に防ぐ業務のほか、企業の存続が危ぶまれるような重大な事件・事故、大規模自然災害などの有事においては、非常事態に対応するクライシスマネジメントの中心的な役割を担っております。
(3)重要な戦略・指標及び目標(気候変動)
<戦略>
気候変動リスクに対する戦略は、TCFDフレームワークに基づき策定しております。当社グループは、生産・調達から食卓までの水産物を中心とした幅広いバリューチェーンで事業を行っており、気候変動は水産資源や原料調達への影響や大規模な自然災害による事業活動の停止など、グループの事業に影響を及ぼす可能性が考えられます。このため2021年度の養殖事業に続いて、2023年度は水産のバリューチェーンを網羅的に対象として以下のとおりTCFD提言に基づくシナリオ分析を実施しました。TCFDフレームワークを参照し、水産バリューチェーンの事業ユニット別に気候変動のシナリオ分析を実施し、気候変動リスクと機会の特定、財務インパクトの評価を行い、その対応策を検討しました。明確化された重要なリスクと機会に対して対応策を講じることで、リスクの低減と機会の確実な獲得につなげ、気候変動に対してレジリエントな状態を目指してまいります。
A)リスク重要度評価
対象となる水産バリューチェーンの各事業におけるリスク・機会項目を一覧化、その上で特に対象事業へのインパクトの大きいとみられる項目を特定しました。その結果、「移行リスク」ではカーボンプライシングによる自社コストの増加のほか、燃料価格の高騰による漁業操業コストの上昇、「物理的リスク」では海水温の上昇に伴う漁場や魚種の変化や水産物調達コストの増加や、激甚災害による操業停止による売上減少及び復旧コストの増加などが特定され、これらのリスクについてシナリオ分析を実行しました。
B)シナリオ群/対応策の定義
国際エネルギー機構(IEA:International Energy Agency)、国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change)、その他国際機関が発行する資料などを参照し、4℃及び1.5℃(養殖事業は2℃)の2つのシナリオを設定しました。シナリオ分析の時間的範囲は、5年未満を短期、5年から10年を中期、10年超を長期として設定しました。
4℃シナリオにおいては、物理的リスクの顕在化による漁獲量や売上の減少や水産物等の調達コストの増加、工場や調達先の被災による生産・物流の停止が発生し、物理的リスクへの対応が求められました。今後は漁業権へのアクセスを確保し、養殖技術における改良技術の開発/生産や物流の複線化や事業継続計画の精緻化にも注力してまいります。
1.5℃及び2℃シナリオにおいては、脱炭素の規制拡大に伴う各事業での低炭素化と高付加価値商品・代替品の開発がリスク及び機会として特定され、再生可能エネルギーへの投資が求められ、漁船の操業コストや保管料・物流コストの増加が想定されました。対策として脱炭素に向けた省エネルギーやオンサイト太陽光、オフサイト太陽光をはじめとした再生可能エネルギーの導入を進めております。また、代替タンパクを原料とする商品や環境配慮型商品、気候変動に対応した冷涼なメニュー・新商品開発が機会として特定され、対応を進めてまいります。当社グループでは、他社と共同研究中の「細胞培養魚肉」についても、世界最速商業化を目指しております。
<指標及び目標>
指標と目標については、CO₂排出量を指標とし、2030年度までにCO₂排出量の2017年度比30%以上削減、2050年度までのカーボンニュートラル達成を達成目標としております。目標達成に向けて、2030年度までの期間を、更に3つの段階に分け、より細かい目標を設定しております。フェーズ1(2022~2024年度)ではCO₂削減率10%、フェーズ2(2025~2027年度)にはCO₂削減率20%、フェーズ3(2028~2030年度)はCO₂削減率30%以上を目標にしており、最終的には2050年度末までにカーボンニュートラルを目指してまいります。
(4)人的資本に係る戦略・指標及び目標
当社グループは、持続的な企業価値向上の源泉は、従業員一人ひとりであると考えております。「企業は何よりも人にある」という理念のもと、人的資本への投資を強化し、一人ひとりの持つスキル・能力・知識を高めて、価値創造を実現し、社会的課題を解決する人財を育成するとともに、多様な人財が安心して活躍できる職場環境の構築を目指しております。
<人財育成戦略及び社内環境整備戦略>
当社グループは、長期経営ビジョンの達成に貢献する、新しいバリューを生み出す人財(チェンジメーカー)の創出に向けて、以下の3点をポリシーとして目指すべき人事施策の全体像を作成しました。
①非連続の成長に貢献できる中核人財の輩出及びグループ全体としての最適配置
②事業運営、事業戦略実行に必要な人財の確保
③従業員の自律的キャリア形成支援、成長実感を得られる機会の提供
各施策の実行に向けて、2023年に職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)を作成しました。職務記述書をハブとして、各施策が有機的に機能し、持続的な企業価値の向上につなげるよう取り組んでまいります。
中期経営計画「海といのちの未来をつくるMNV 2024」
目指すべき人事施策の全体図
①人財育成
a)グローバル人財育成プログラム
当社グループでは海外市場への展開拡大や資源アクセスの強化を重点テーマとして取り組んでおります。そのテーマの実現に向けて、2018年度より「グローバル人財育成プログラム」をリニューアルして、異なる文化や価値観を持つ人々と協働し、マネジメントを行える人財の育成を行っております。
当該プログラムは従業員の自己申告による応募からの選抜となっており、異文化対応、リーダーシップなどの研修の受講や1年間海外の関連会社へ派遣する「海外トレーニー制度」などの機会を提供しております。修了認定を得るためには、語学力・コミュニケーション能力など4つの基準及び役員に対する最終プレゼンテーションを通過する必要があります。プログラム修了認定者はグローバル人財プールとして管理し、計画的に海外現地法人の管理や事業運営の中核を担わせて経験を積ませることにより、海外で当社のガバナンスを利かすことができる経営人財を育成しております。
また、成長ドライバー領域と位置づける冷凍食品の海外市場展開を担う人財の育成を目的に、2023年度より海外の関連会社へ3か月程度の短期派遣を継続的に行う取り組みを開始しました。海外での実践の場を経験する機会を広く提供することで、海外でのマーケティングや商品開発を担う人財を育成してまいります。
b)経営リーダー人財育成プログラム
持続的な企業価値創造には、全社視点で経営や事業を捉えて、グループ内のリソースを活かすことができる中核人財の中長期的な育成が必要との考えから2018年度より「経営リーダー人財育成プログラム」を運営・推進しております。
当該プログラムは部長層、課長層、非管理職層それぞれからポテンシャルが高い人財を選抜して、経営に関する教育を経た後、アウトプットを中長期で行う機会を提供し、経営リーダー人財の育成を行っております。
c)サステナビリティ人財
サステナビリティ戦略の推進、特に当社の持続的な成長にとって重要となる「生物多様性と生態系の保全」への取り組みに向けて、2024年度に国際的な水産資源管理の推進を目的に水産資源推進室を新設し、国際的な漁業・養殖認証規格制度や国内外の水産行政等に精通した人財を配置しております。今後、更なる人財の育成・確保に取り組んでまいります。
d)教育体系
この他にも、当社では階層別やテーマに応じた教育研修プログラムを運営し、役職や職務に応じて求められる能力、役割期待やビジネススキルなどを学ぶ機会を提供し、人財育成に取り組んでおります。
また、所属組織で行うOJT制度に加えて、2022年度からメンター制度を導入し、所属組織を超えた人間関係の構築や人財育成意識の早期熟成に取り組んでおります。
<教育体系図>
②人財配置戦略
従業員のキャリア形成や将来を見据えた人財育成を基本方針として、グループ全体最適の観点を持って人財配置を戦略的に行っております。
長期経営ビジョンにおいて掲げております水産・食品の枠組みを超えたバリューチェーンの価値最大化に向けては、セグメントを横断した人財配置を推進するとともに、非管理職層については管理職登用までに2職種3部署をローテーションすることを推進しており、当社グループ事業への理解の深耕、多角的な視野の獲得、変化への対応力強化を行っております。
また、次期中期経営計画の達成に必要な人財の質・量をともに確保するために、サクセッションプログラムのリニューアルと動的な人財ポートフォリオの作成に取り組み、全体最適の人財配置を実現する仕組みの構築を目指してまいります。
③従業員のキャリア形成支援
従業員自らが自身のキャリアを考え、挑戦し、成長を実感できることが、自律的な組織作りにつながり、企業価値創造につながるという考えから、従業員のキャリア形成を支援する取り組みを進めております。
2023年度は職務記述書を作成して各組織の職務内容と必要な能力を従業員に公開し、従業員が自身のキャリアを検討する際の基盤を構築しました。また、2022年度からFA制度を導入しております。入社10年未満の従業員を対象として、同一部署に5年以上在籍した場合に、上長の了承なしで本人が希望する部署に異動することが可能となっており、導入以来、制度の利用が進んでおります。
副業制度については、2022年度に導入しました。社外で多様な業務経験を積むことにより、視野拡大や能力開発につながり、自律的なキャリア形成を実現していくことを支援するとともに社内でのイノベーションの創造を期待しております。
また、従業員が自ら手をあげて参画する社内プロジェクトを複数立ち上げて、キャリア形成のために挑戦する機会を提供しております。2023年度は事業の新規戦略の策定やAIツールの業務適用の検討などのプロジェクトに47名が参画しました。
2021年度から導入した1on1ミーティングについては、職場環境・関係性の構築を目的として開始しましたが、今後はキャリア相談に対する管理職のコーチングスキル向上を図り、従業員のキャリア形成を支援する場として活用することを検討しております。
④ダイバーシティ&インクルージョンの推進
性別・国籍・障がいの有無などの様々な違いを尊重し、従業員一人ひとりの能力を最大限に発揮することが、当社グループの持続的な成長には重要なことであるという考えから、「ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を策定し、従業員の意識啓発及び行動変容につなげるための取り組みを進めております。
a)女性活躍推進
当社グループが新たな食の可能性に挑み、世界の人々に生きる活力を提供し続けるためには、これまで男性従業員が多くを占めていた営業等の職種においても女性従業員の配置を進め、多様な視点を活かしていくことが不可欠と考えております。海外現地への女性従業員の配置についても2024年度に実施しました。女性従業員比率を高めていくとともに、女性従業員が活躍できる機会の提供や意思決定層への登用を進めております。
〇採用比率・女性従業員比率
2024年4月入社の新卒新入社員における男女比は男性50%、女性50%となっており、2022年度から3年連続で男女比はほぼ半々で推移しております。
<新卒入社の男女比推移(男性:女性)>
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2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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60.3:39.7 |
50:50 |
47.7:52.3 |
50:50 |
非正規社員の正規社員登用の直近3年間の登用者数における女性比率は93.1%(男性2名:女性27名)となっております。また、女性従業員の育児休業取得率は100%を8年間継続しております。これらにより、従業員における女性比率は年々高まっており、2024年4月1日時点の女性比率は29.3%となりました。
<
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2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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24.6% |
26.2% |
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29.3% |
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〇女性管理職比率
女性従業員の管理職比率は2030年度目標15%の達成に向けて積極的な登用を進めております。2024年4月1日時点の女性管理職比率は7.7%となりました。
<
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2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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4.5% |
5.5% |
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7.7% |
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○「えるぼし(2段階目)」認定の取得
2017年度、厚生労働省「えるぼし」を取得し、5つの評価項目のうち「採用」「労働時間等の働き方」「多様なキャリアコース」の3つの基準を満たしております。また、女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画(2021-2025)を2021年3月に策定しております。
b)障がい者雇用
「障がいのある方たちと共に働く」の方針のもと、当社においては、2022年度より障がい者が活躍できる部署を新設し、社内の一部の業務を担うとともに業務効率化にもつながる体制を整備しました。工場においては定着支援のための「キーチーム」の設立などの取り組みを進め、直営6工場の障がい者雇用率は3.78%となっております。また、支社においても障がい者の方々がより多くの職場で活躍できるよう、業務の選択と集中を行って障がい者の方々が担える業務を増やしており、今後も継続して雇用者数も増やしてまいります。
<
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2022年度 |
2023年度 |
2024年度 |
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2.32% |
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2.50% |
c)キャリア採用
長期ビジョンの達成に向けて、質・量が充足していない人財層については社外人財の活用を積極的に進めております。2023年度の採用者にしめるキャリア採用の比率は30.6%となっております。また、当社を一度退職し、その後に得た知見・人脈・経験を活かして、再び活躍していただく「ジョブ・リターン制度」を導入しております。
⑤健康経営/Well-being
当社グループは「本物・安心・健康な食の提供を通じて、人々の豊かなくらしと幸せに貢献する」ことをグループ理念として掲げており、様々な事業活動を通じて世の中の健康づくりに貢献していくことが存在意義であります。このことを実現するには従業員が健康な状態であることが重要なファクターであると考え、2018年健康経営方針を策定し、担当役員の統括の下、人事部・健康推進室(産業医、保健師、臨床心理士)、マルハニチロ健康組合で組織体制を作り、健康経営の推進に取り組んでおります。
<健康経営推進体制図>
具体的な取り組みとしては、水産由来栄養素の摂取推奨と塩分制限、野菜・果物の摂取、更には運動イベントの要素を組み合わせた「well-Bチャレンジ」と称する社内イベントを毎年開催し、生活習慣病の改善に取り組んでおります。その他にも、仕事の合間のリフレッシュ・運動機会の提供を目的に短い時間で実践できるエクササイズを提供するイベント、歩行姿勢や推定野菜摂取量を測定するイベントなど、健康意識や行動の変容につなげる取り組みを行っております。
また、従業員のストレスケアとして、関係性の質の向上にも寄与する1on1ミーティングや、ストレスチェックにおける高ストレス者が多い職場の従業員や新入社員などを対象とした臨床心理士との面談を実施しております。これらの活動を今後も継続して、世の中の健康づくりに貢献する健康価値創造のリーディングカンパニーを目指してまいります。
上記の取り組みを通し、「健康経営銘柄2022」「健康経営優良法人(ホワイト500)2024」「MSCI日本株女性活躍指数(WIN)」「MSCIジャパンESGセレクト・リーダーズ指数」「スポーツエールカンパニー(スポーツ庁)」「東京都スポーツ推進企業」に選定されております。
Well-beingへの取り組みとしては、従業員がプライベートも含めた未来を考える機会や、誰もが尊重され、従業員一人ひとりが自分らしく健康に活き活きと働き、強みを存分に発揮する基盤について考える機会の提供として、2022年度より「ゼンカツ(=全員活躍)オープン講座」と称する講義やワークショップを実施しております。テーマは、ライフ&キャリアデザイン、レジリエンス、介護と仕事の両立など、従業員のアンケートにより関心の高いもの、周囲に受講して欲しいものを選定しております。今後も更にWell-beingを実現するための取り組みを進めてまいります。
⑥従業員エンゲージメント
当社グループでは従業員のエンゲージメントを、企業価値を高める重要な要素と位置づけており、2021年度から従業員のエンゲージメントレベルを図るパルスサーベイを実施しております。サーベイ結果については、継続的にスコアの分析を行い、改善が必要な部門へは、人事部より状況を確認し、今後のアクションプラン検討等の支援を行っており、サーベイ結果を元に各部門がアクションサイクルを回してスコア向上を図る仕組みの構築を目指します。
2023年度からはグループ会社へのエンゲージメントサーベイを開始しました。2024年度にはエンゲージメント評価方法を確立するとともに、2030年度までの目標を設定します。
⑦社内環境の整備
a)柔軟な働き方の実現
2018年度から本社・支社のフレックスタイム勤務化に取り組み、2021年度には全部署コアタイムなしのフレックスタイム勤務となっております。在宅勤務については、2020年度から制度化し、2022年度からは自宅だけでなく、実家での勤務も可能としております。また、育児・介護との両立支援、専門知識やスキルの取得、副業などを目的として利用できる週休3日制を2022年度から導入しております。
b)男性の育児休業取得促進
男性がより育児休業を取得しやすい企業風土の醸成を後押しするため、「男性育休100%宣言」への賛同並びに「イクボス企業同盟」へ加盟しております。経営層・管理職層向けのマネジメントセミナー、ライフワークバランスに関するセミナーを開催し、従業員全体の意識改革を進めております。また、男性社員がより育児休業を取得しやすい環境を整えるため、育児休業中の給与を一部サポートする制度を導入しております。
これらの施策が子育てに関わる従業員の前向きな「仕事と育児の両立」の実現支援にも寄与し、女性従業員はもちろんのこと、男性従業員の育児休業取得率(短期含む)等が評価された結果、2023年に4つ目の「くるみん」認定を取得しました。
これらの取り組みを今後も継続して、当社中期経営計画の社会価値創造に関するマテリアリティのひとつ「男性の育児休業+休暇取得率 2030年度 100%」を達成させてまいります。
<
|
2021年度 |
2022年度 |
2023年度 |
|
35.50% |
52.30% |
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⑧企業風土/カルチャー改革への取り組み
当社グループが持続的に社会に貢献し続けると同時に従業員のWell-beingを実現していくためには、取り巻く環境とサステナブルに融合し、共生を可能とする組織カルチャーが必要であると考えています。その実現に向けて、役職員一人ひとりのマインドセット変革と実践を推進してまいります。2024年度より「当社グループの目指す未来の共有と共感」、そして「改革を身近に感じられること」を重点においたカルチャー改革を実行してまいります。具体的には、自己変革と自己成長が起こりやすくなるようなワークプレイス改革や食を通じての多数のステークホルダーとの共創に取り組みます。従業員と経営が一体となった公募制のプロジェクトを複数立ち上げて、次の100年先を見据えた心躍る将来について多くの従業員が想い、語り、実践できるような推進活動を目指します。
有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
|
リスク |
当該リスクが顕在化した場合に連結会社の経営成績等の状況に与える影響の程度 |
||
|
中 |
大 |
||
|
当該リスクが顕在化する可能性の程度 |
高 |
・市場ニーズの変化 ・債権管理 ・為替・金利変動 ・カントリーリスク |
・原材料価格の変動 ・原油価格の高騰 ・自然災害・感染症及び事故等 ・労働力の確保 |
|
中 |
・税務 ・知的財産 ・固定資産の減損 ・投資有価証券の減損 |
・情報管理 ・コンプライアンス ・資金調達 |
|
|
リスク項目 |
影響度 |
発生 可能性 |
関連する機会とリスク(○機会 ●リスク) |
主要な取り組み |
|
原材料価格の 変動 |
大 |
高 |
●原材料の需要動向、為替や漁獲高の変動などによる仕入価格の高騰等 ●棚卸資産の評価損 |
・取扱品目、調達先、調達時期の分散化 ・仕入価格、販売価格の適正維持 ・在庫水準の適正化 |
|
原油価格の 高騰 |
大 |
高 |
●動燃料コストの上昇 ●発送配達費等の上昇 |
・設備の省エネ化や効率的な操業 ・カートンモジュール化等による保管配送の効率化 ・在庫水準の適正化 |
|
地震など自然災害・感染症及び事故等 |
大 |
高 |
●地震など自然災害による生産設備の破損及び操業停止、物流機能の麻痺等による商品供給不能 ●養殖事業における予防困難な魚病等の発生による養殖魚の斃死 ●台風、赤潮等による養殖魚の斃死 |
・生産、保管拠点の分散と再編 ・事業継続計画(BCP)の策定 ・衛生管理の徹底、フレックスタイム勤務による時差出勤、在宅勤務等による従業員感染防止 ・共済、保険制度への加入 ・病気に強い魚、養殖方法の研究 |
|
労働力の確保 |
大 |
高 |
○DX推進による、ビジネスモデルの変革、企業風土の改革 ●労働力不足による操業停止、生産性の低下 |
・業務プロセスの標準化、変革による生産性の向上 ・適正な賃金体系の構築 ・労働力確保に視点をおいた操業エリアの選択及び生産拠点の再編 ・機械による省人化の更なる促進 ・キャリア採用の有効活用など人員募集方法の工夫 ・デジタル技術の有効活用 |
|
情報管理 |
大 |
中 |
●個人情報・機密情報の漏洩等 ●重要な情報の盗難、紛失、誤用、改鼠等 ●情報システムの停止等 ●サイバー攻撃による対応費用の発生 ●情報漏洩等による社会的信用の低下 |
・規程、マニュアル等の整備 ・従業員に対する教育の継続 ・システム管理体制の構築、運用 ・サイバー攻撃への対処(インフラの整備、インシデント対応訓練) |
|
コンプライアンス |
大 |
中 |
●食品衛生法、倉庫業法、独占禁止法等の法的規制違反による対応コストの発生 ●全てのステークホルダーからの信頼低下 |
・規程、マニュアル等の整備 ・従業員に対する教育の継続 ・内部通報制度、内部監査 |
|
資金調達 |
大 |
中 |
●金融危機等による資金の枯渇 ●各種リスク要因により計画未達による追加の資金調達等 |
・資金調達先及び期間の適度な分散 ・財務体質の維持・強化 ・各種リスク要因の適時の分析と対応 ・最新の情報に基づく適時の計画の見直し ・CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の適正化による資金効率向上 ・資金調達方法多様化の検討 |
|
市場ニーズの変化 |
中 |
高 |
○適切な市場マーケティングによる顧客層の拡大 ●国内の少子高齢化、人口減少に伴う需要減 |
・冷凍食品・介護食領域等での研究開発力・技術力強化と商品ラインナップ拡充 ・グループ全体での海外市場展開拡大 |
|
債権管理 |
中 |
高 |
●予期せぬ得意先の経営破綻の発生 ●追加的な貸倒損失や貸倒引当金の計上 |
・情報収集、与信管理及び債権保全等 |
|
為替・金利変動 |
中 |
高 |
●輸入製商品の仕入価格への影響 ●借入金の調達金利への影響 ○●為替による海外子会社業績の円貨への換算への影響 ●金利の変動による海外子会社業績への影響 |
・為替予約及び変動金利から固定金利へのスワップ等 ・財務体質の維持・強化 ・資金調達方法多様化の検討 ・CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)の適正化による資金効率向上 |
|
カントリーリスク |
中 |
高 |
●海外事業において進出国及びその周辺諸国の政治、経済、社会、法制度等の変化による経済活動の制約 ●テロ、暴動及び戦争の発生による経済活動の制約、サプライチェーンや流通網の遮断等 |
・進出国の適度な分散 ・進出国及び進出エリアに関する情報収集 ・資源アクセス強化による調達先の適度な分散 ・加工食品事業における、外国産原料から国産原料への変更可否を検討 |
|
税務 |
中 |
中 |
●各国における租税制度の改正、税務行政の変更や税務申告における税務当局との見解の相違等による追加的な税務負担等 ○●将来課税所得の見積り変更等による税金費用の減少又は増加 |
・各国における税法の遵守 ・各国における税制や税務行政の変更への対応策の実行 ・税金及び税金関連費用を踏まえた事業計画又は仕組みの計画・実行 |
|
知的財産 |
中 |
中 |
○競合他社に対する優位性の確保 ○●使用許諾料等 ●損害賠償、使用差止等 |
・適切な出願戦略の推進 ・ブランド・商標保護体制の整備 ・知財教育及び啓発による知財人材の育成 ・発明報奨制度 ・社内担当者や弁理士事務所等を通じた日常的な調査・確認 |
|
固定資産の減損 |
中 |
中 |
●物流事業の物流センター及び加工食品事業の生産拠点等の立地条件の悪化、設備の老朽化・陳腐化及び販売不振等による収益悪化による減損 ●金利の急激な上昇 |
・投資審議会・経営会議等における投資計画及び投資金額の適切性に関する審議 ・投資後の定期的なモニタリング及びフォローアップ |
|
投資有価証券の減損 |
中 |
中 |
●急激な株価変動や投資先の業績不振等による資産価値の下落及び減損等 |
・個別銘柄による投資価値の定期的な検証 ・当社が継続的に保有する意義や合理性が認められなくなった政策保有株式の売却による縮減 |
文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)経営成績等の状況の概況
① 経営成績の状況
当期におけるわが国経済は、コロナ禍からの経済活動の正常化が進む中、インバウンド需要の回復等により景気は緩やかな回復傾向となりました。
一方、中東情勢の悪化やウクライナ情勢の長期化、為替相場の急激な変動や物価の高騰、資源価格の変動など、引き続き予断を許さない状況が続いております。
このような状況のもと、当社グループにおいては、長期経営ビジョンの実現に向けて、引き続き「経営戦略とサステナビリティの統合」「価値創造経営の実践」「持続的成長のための経営基盤強化」に取り組んでまいりました。
(長期経営ビジョン)
①事業活動を通じた経済価値、社会価値、環境価値の創造により、持続可能な地球・社会づくりに貢献する
②総合食品企業として、グローバルに「マルハニチロブランド」の提供価値を高め、お客様の健康価値創造に貢
献する
③水産資源調達力と食品加工技術力に基づく持続可能なバリューチェーンを強化し、企業価値の最大化を実現す
る
その結果、売上高は1,030,674百万円(前期比1.0%増)、営業利益は26,534百万円(前期比10.3%減)、経常利益は31,106百万円(前期比7.1%減)、親会社株主に帰属する当期純利益は20,853百万円(前期比12.1%増)となりました。
各セグメントの経営成績は次のとおりであります。
水産資源事業
水産資源事業は、国内外で漁業を行う漁業ユニット、国内において主にブリ、カンパチ、マグロの養殖を行う養殖ユニット、国内外にわたり水産物の調達・市場流通も含む販売ネットワークを持つ水産商事ユニット、中国・東南アジア・北米・欧州において水産物・加工食品の生産・販売を行う海外ユニットから構成され、国内外の市場動向を注視しながら、収益の確保に努めました。
漁業ユニットは、漁船の稼働低下による漁獲量の減少及び燃油代の高騰により減収減益となりました。
養殖ユニットは、マグロ・カンパチの販売価格が堅調に推移し売上は前年並み、餌料費等の高騰による原価上昇に加え、ブリ販売相場下落の影響により減益となりました。
水産商事ユニットは、主に冷凍マグロ、鮭鱒など海外輸入水産物の販売価格が引き続き低迷した結果、減収減益となりました。
海外ユニットは、北米ではアラスカのスケソウダラ漁獲枠の増枠による供給増により増収も、コロナ後の中国加工含めたロシア製品の大幅供給増により、すりみ、フィレの相場は軟調な展開が続き、販売単価の低下により減益、欧州は前期に子会社化したイギリス水産加工販売会社及びオランダの食品卸会社が堅調で増収増益、アジアにおいてはタイのペットフードが主要販売先である北米での在庫調整により販売低調、減収減益となり、全体においては増収減益となりました。
以上の結果、水産資源事業の売上高は591,119百万円(前期比1.2%減)、営業利益は10,997百万円(前期比48.6%減)となりました。
加工食品事業
加工食品事業は、家庭用冷凍食品・缶詰・フィッシュソーセージ・ちくわ・デザート・調味料・フリーズドライ製品等の製造・販売を行う加工食品ユニット及び化成品の製造・販売を行うファインケミカルユニットから構成され、お客様のニーズにお応えする商品の開発・製造・販売を通じて収益の確保に努めました。
加工食品ユニットは、価格改定が浸透し、主力製品の販売伸長なるも、前期の広島工場における火災損失分の売上をカバーしきれず減収、生産性向上及び価格改定効果により増益となりました。
ファインケミカルユニットは、医薬用コンドロイチンやヘパリンの販売が好調に推移し増収も、機能性表示食品制度の運用方法の見直しによる取引先の買い控え及びペルーのアンチョビー禁漁による原料の値上がり等が影響し、減益となりました。
以上の結果、加工食品事業の売上高は104,954百万円(前期比1.6%減)、営業利益は5,249百万円(前期比68.5%増)となりました。
食材流通事業
食材流通事業は、多様な業態に対して水産商材や業務用商材の製造・販売を行う食材流通ユニット、国内外の畜産物を取り扱う畜産ユニットから構成され、グループにおける原料調達力、商品開発力、加工技術力を結集して業態ニーズにお応えする商品を提案し、収益の確保に努めました。
食材流通ユニットは、グループ内の連携を強化し、市場の変化に合わせた業態ニーズを把握し販路拡大に努めたこと、価格改定に努めたこと等により増収、業務効率及び工場の生産性向上等により増益となりました。
畜産ユニットは、全般的な畜肉相場の上昇に伴う売価の上昇及び輸入食肉の販売が堅調に推移したことから、増収増益となりました。
以上の結果、食材流通事業の売上高は315,262百万円(前期比6.0%増)、営業利益は7,276百万円(前期比135.7%増)となりました。
物流事業
物流事業は、水産品をはじめ畜産品や冷凍食品の集荷活動による着実な保管需要の取り込みに加えて、電気料金等のコスト上昇を価格に反映したことなどにより、売上高は17,607百万円(前期比0.1%減)、営業利益は2,306百万円(前期比45.6%増)となりました。
② 財政状態の状況
総資産は671,801百万円となり、前期に比べ34,574百万円増加いたしました。これは、主として投資有価証券及び売上債権の増加によるものであります。
負債は426,321百万円となり、前期に比べ1,617百万円増加いたしました。これは、主として未払金等の増加によるものであります。
非支配株主持分を含めた純資産は245,480百万円となり、前期に比べ32,957百万円増加いたしました。
各セグメントの資産は次のとおりであります。
水産資源事業の総資産は369,364百万円となり、前期に比べ14,949百万円増加いたしました。これは、主として投資有価証券及び有形固定資産の増加によるものであります。
加工食品事業の総資産は81,537百万円となり、前期に比べ4,512百万円増加いたしました。これは、主として棚卸資産の増加によるものであります。
食材流通事業の総資産は118,377百万円となり、前期に比べ1,589百万円増加いたしました。これは、主として売上債権の増加によるものであります。
物流事業の総資産は49,916百万円となり、前期に比べ2,612百万円増加いたしました。これは、主として長期貸付金の増加によるものであります。
③ キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、営業活動の結果得られた資金を、主として設備投資及び借入金の返済に使用した結果、当連結会計年度末には36,905百万円と前連結会計年度末に比べ3,545百万円増加いたしました。
営業活動によるキャッシュ・フロー
営業活動の結果得られた資金は53,604百万円(前連結会計年度は24百万円の支出)となりました。これは、主として税金等調整前当期純利益及び減価償却費によるものであります。
投資活動によるキャッシュ・フロー
投資活動の結果使用した資金は18,927百万円(前連結会計年度は23,860百万円の支出)となりました。これは、主として設備投資によるものであります。
財務活動によるキャッシュ・フロー
財務活動の結果使用した資金は32,943百万円(前連結会計年度は30,288百万円の収入)となりました。これは、主として借入金の返済によるものであります。
④ 生産、受注及び販売の実績
(ⅰ) 生産・仕入実績
当連結会計年度における生産・仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
水産資源事業(百万円) |
569,369 |
102.8 |
|
加工食品事業(百万円) |
80,799 |
102.9 |
|
食材流通事業(百万円) |
220,046 |
98.7 |
|
物流事業(百万円) |
14,732 |
96.7 |
|
報告セグメント計(百万円) |
884,946 |
101.6 |
|
その他(百万円) |
2,877 |
73.9 |
|
合計(百万円) |
887,824 |
101.5 |
(注)セグメント間の取引については相殺消去しております。
(ⅱ) 受注実績
当社グループは見込み生産を行っているため、該当事項はありません。
(ⅲ) 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
|
セグメントの名称 |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前年同期比(%) |
|
水産資源事業(百万円) |
591,119 |
98.8 |
|
加工食品事業(百万円) |
104,954 |
98.4 |
|
食材流通事業(百万円) |
315,262 |
106.0 |
|
物流事業(百万円) |
17,607 |
99.9 |
|
報告セグメント計(百万円) |
1,028,944 |
100.9 |
|
その他(百万円) |
1,730 |
432.3 |
|
合計(百万円) |
1,030,674 |
101.0 |
(注)1.セグメント間の取引については相殺消去しております。
2.主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合については、販売実績額が総販売実績額の100分の10
以上となる販売先がないため省略しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
(売上高)
売上高は前連結会計年度を10,218百万円上回る1,030,674百万円となりました。
セグメント別の主な増減の内訳は、食材流通事業の増収17,945百万円、水産資源事業の減収7,361百万円となります。
食材流通事業の主な増収要因は、食材流通ユニットにおけるグループ内連携を強化し、市場の変化に合わせ、業態ニーズを把握した販路拡大及び価格改定、畜産ユニットにおける輸入食肉の堅調な販売等によるものであります。
一方で、水産資源事業の主な減収要因は、水産商事ユニットにおける冷凍マグロ、鮭鱒等の海外輸入水産物の販売価格低迷、漁業ユニットにおける漁船の稼働低下による漁獲量の減少等によるものであります。
連結会計年度のセグメント別売上高
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
|
水産資源事業 |
598,481 |
591,119 |
△7,361 |
△1.2 |
|
加工食品事業 |
106,637 |
104,954 |
△1,683 |
△1.6 |
|
食材流通事業 |
297,316 |
315,262 |
17,945 |
6.0 |
|
物流事業 |
17,620 |
17,607 |
△12 |
△0.1 |
|
その他 |
400 |
1,730 |
1,330 |
332.3 |
|
合計 |
1,020,456 |
1,030,674 |
10,218 |
1.0 |
(売上原価、販売費及び一般管理費)
売上原価は、売上高の増加に伴い、前連結会計年度から11,654百万円増加し、896,856百万円(前期比1.3%増)となりました。売上原価の売上高に対する比率は、0.3ポイント悪化し、87.0%となりました。販売費及び一般管理費は、労務費等の増加により、前連結会計年度から1,605百万円増加し、107,284百万円(前期比1.5%増)となりました。販売費及び一般管理費の売上高に対する比率は、0.1ポイント悪化し、10.4%となりました。研究開発費は、前連結会計年度から157百万円増加し、1,810百万円(前期比9.5%増)となりました。
(営業利益)
営業利益は前連結会計年度を3,041百万円下回る26,534百万円(前期比10.3%減)となりました。
セグメント別の主な増減の内訳は、水産資源事業の減益10,379百万円、食材流通事業の増益4,189百万円となります。
水産資源事業の主な減益要因は、海外ユニットにおけるタイでのペットフードの北米における在庫調整、北米でのすりみ、フィレの販売単価の低下、漁業ユニットにおける漁船稼働低下による漁獲量減少及び燃油代の高騰によるものであります。
一方で、食材流通事業の主な増益要因は、食材流通ユニットにおける業務効率化・工場の生産性向上等、畜産ユニットにおける全般的な畜肉相場の上昇に伴う販売価格の上昇等によるものであります。
なお、営業利益の売上高に対する比率は、2.6%(前連結会計年度は2.9%)となりました。
連結会計年度のセグメント別営業利益
|
|
|
|
(単位:百万円) |
|
|
セグメントの名称 |
前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
|
水産資源事業 |
21,376 |
10,997 |
△10,379 |
△48.6 |
|
加工食品事業 |
3,115 |
5,249 |
2,133 |
68.5 |
|
食材流通事業 |
3,087 |
7,276 |
4,189 |
135.7 |
|
物流事業 |
1,583 |
2,306 |
722 |
45.6 |
|
その他 |
278 |
1,184 |
906 |
325.7 |
|
調整額 |
134 |
△480 |
△614 |
- |
|
合計 |
29,575 |
26,534 |
△3,041 |
△10.3 |
(経常利益)
経常利益は前連結会計年度を2,394百万円下回る31,106百万円(前期比7.1%減)となりました。主な増減の内訳は、営業利益の減少3,041百万円、持分法による投資利益の減少756百万円、支払利息の増加1,172百万円、為替差益の増加945百万円となります。
(親会社株主に帰属する当期純利益)
親会社株主に帰属する当期純利益は前連結会計年度を2,257百万円上回る20,853百万円(前期比12.1%増)となり、1株当たり当期純利益は413円61銭(前連結会計年度は363円68銭)となりました。増減の内訳は、経常利益の減少2,394百万円、特別利益の増加5,182百万円、特別損失の減少1,558百万円、法人税等の増加4,110百万円、非支配株主に帰属する当期純利益の減少2,021百万円となります。
なお、特別損益は、前連結会計年度に比べ6,740百万円の増益となりました。これは主に、受取保険金を計上したことによる特別利益の増加5,182百万円並びに当連結会計年度において損害賠償金等を計上したものの、前連結会計年度に比べ固定資産処分損及び火災損失の減少により、特別損失が1,558百万円減少したことによるものであります。
法人税等合計は前連結会計年度に比べ4,110百万円増加しており、法人税等合計の税金等調整前当期純利益に対する比率が8.7ポイント増の31.1%となっております。
② 財政状態の状況に関する認識及び分析・検討内容
(総資産)
総資産は前連結会計年度末に比べ34,574百万円増加し、671,801百万円(前期比5.4%増)となりました。総資産のうち、流動資産は前連結会計年度末に比べ12,345百万円増加し、404,985百万円(前期比3.1%増)となり、固定資産は前連結会計年度末に比べ22,228百万円増加し、266,816百万円(前期比9.1%増)となりました。
主な増減の内訳は、投資有価証券の増加13,743百万円並びに売上債権の増加6,649百万円となります。
売上債権は前連結会計年度末に比べ増加しておりますが、販売好調に伴う増加や外貨換算による円安の影響等によるものであり、正常な範囲内と考えております。
また、売上債権回転日数については49.0日(前期比1.9日増)、棚卸資産回転日数については87.6日(前期比1.7日減)となっており、いずれも正常な水準の範囲内と判断しております。
売上債権回転日数及び棚卸資産回転日数
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
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売上高(a) |
1,020,456 |
1,030,674 |
10,218 |
1.0 |
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売上原価(b) |
885,201 |
896,856 |
11,654 |
1.3 |
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受取手形、売掛金 及び契約資産(c) |
131,769 |
138,418 |
6,649 |
5.0 |
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棚卸資産(d) |
216,698 |
215,333 |
△1,364 |
△0.6 |
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売上債権回転日数(日) |
47.1 |
49.0 |
1.9 |
4.0 |
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(c)÷(a)×365 |
||||
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棚卸資産回転日数(日) |
89.4 |
87.6 |
△1.7 |
△1.9 |
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(d)÷(b)×365 |
||||
なお、セグメント別資産の内訳は、次のとおりであります。
連結会計年度のセグメント別資産
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(単位:百万円) |
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セグメントの名称 |
前連結会計年度 (2023年3月31日) |
当連結会計年度 (2024年3月31日) |
前期比 |
増減率 (%) |
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水産資源事業 |
354,414 |
369,364 |
14,949 |
4.2 |
|
加工食品事業 |
77,025 |
81,537 |
4,512 |
5.9 |
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食材流通事業 |
116,787 |
118,377 |
1,589 |
1.4 |
|
物流事業 |
47,304 |
49,916 |
2,612 |
5.5 |
|
その他 |
9,998 |
12,072 |
2,073 |
20.7 |
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調整額 |
31,696 |
40,532 |
8,836 |
27.9 |
|
合計 |
637,227 |
671,801 |
34,574 |
5.4 |
(負債)
負債は前連結会計年度末に比べ1,617百万円増加し、426,321百万円(前期比0.4%増)となりました。負債のうち、流動負債は前連結会計年度末に比べ7,520百万円増加し、272,969百万円(前期比2.8%増)となり、固定負債は前連結会計年度末に比べ5,903百万円減少し、153,352百万円(前期比3.7%減)となりました。
主な増減の内訳は、借入金の減少29,788百万円、社債の増加13,000百万円、未払金の増加6,034百万円、未払法人税等の増加3,609百万円となります。
また、有利子負債残高は、前連結会計年度末に比べ16,788百万円減少し、284,351百万円となりました。
(純資産)
非支配株主持分を含めた純資産は前連結会計年度末に比べ32,957百万円増加し、245,480百万円(前期比15.5%増)となりました。
主な増減の内訳は、親会社株主に帰属する当期純利益等による利益剰余金の増加15,799百万円、その他有価証券評価差額金の増加6,751百万円、為替換算調整勘定の増加5,704百万円及び非支配株主持分の増加4,141百万円となります。
なお、自己資本比率はその他有価証券評価差額金等の増加に伴う純資産の増加により、30.8%となり、前連結会計年度末(28.0%)に比べ、2.8ポイント好転いたしました。
また、1株当たり純資産は利益剰余金の増加等により、前連結会計年度末の3,534円39銭から4,112円65銭となりました。
自己資本比率及び1株当たり純資産
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 (2023年3月31日) |
当連結会計年度 (2024年3月31日) |
前期比 |
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自己資本(a) |
178,312 |
207,128 |
28,816 |
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総資産(b) |
637,227 |
671,801 |
34,574 |
|
自己資本比率(%)(a)÷(b) |
28.0 |
30.8 |
2.8 |
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1株当たり純資産 |
3,534円39銭 |
4,112円65銭 |
578円27銭 |
③ キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
連結キャッシュ・フローの状況
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(単位:百万円) |
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前連結会計年度 (自 2022年4月1日 至 2023年3月31日) |
当連結会計年度 (自 2023年4月1日 至 2024年3月31日) |
前期比 |
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営業活動によるキャッシュ・フロー |
△24 |
53,604 |
53,629 |
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投資活動によるキャッシュ・フロー |
△23,860 |
△18,927 |
4,932 |
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財務活動によるキャッシュ・フロー |
30,288 |
△32,943 |
△63,231 |
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現金及び現金同等物に係る換算差額 |
2,131 |
1,811 |
△320 |
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現金及び現金同等物の増減額 |
8,535 |
3,545 |
△4,990 |
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新規連結に伴う現金及び現金同等物 の増加額 |
394 |
- |
△394 |
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現金及び現金同等物の期末残高 |
33,360 |
36,905 |
3,545 |
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、53,604百万円の収入(前連結会計年度は24百万円の支出)となりました。税金等調整前当期純利益35,891百万円及び減価償却費16,216百万円があったこと等によるものであります。
前連結会計年度に比べて営業活動の結果得られた資金が53,629百万円増加いたしましたが、主な増減の内訳は、棚卸資産の増減額による増加41,701百万円、保険金の受取額の増加8,468百万円、売上債権の増減額による増加5,795百万円となります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、18,927百万円の支出(前連結会計年度は23,860百万円の支出)となりました。水産資源事業及び加工食品事業における生産拠点を中心に、有形固定資産の取得による支出16,666百万円、投資有価証券の取得による支出3,090百万円、利息及び配当金の受取額1,935百万円等によるものであります。
前連結会計年度に比べて投資活動の結果使用した資金が4,932百万円減少いたしましたが、主な増減の内訳は、無形固定資産の取得による支出の減少7,627百万円、有形固定資産の取得による支出の減少3,693百万円となります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、32,943百万円の支出(前連結会計年度は30,288百万円の収入)となりました。借入金の返済による支出33,459百万円、配当金の支払額5,038百万円、社債の発行による収入12,929百万円等によるものであります。
前連結会計年度に比べて財務活動の結果使用した資金が63,231百万円増加いたしましたが、主な増減の内訳は、借入金の返済による支出の増加71,902百万円、配当金の支払額の増加2,155百万円、社債の発行による収入の増加7,963百万円となります。
(資金の流動性)
当連結会計年度末における現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末に比べ3,545百万円増加し、36,905百万円となりました。
手元流動性確保のため、主要な金融機関との関係維持・強化を図るほか、当座貸越枠等の調達手段を備えております。
また、当社グループは各社が月次に資金繰り計画を作成するなどの方法により流動性リスクを管理しております。
(財務政策)
当社グループは、中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」において、再定義した長期経営ビジョンの実現に向けて、基本的な考え方である「経営戦略とサステナビリティの統合」「価値創造経営の実践」「持続的成長のための経営基盤強化」に取り組んでまいりました。
引き続き、成長への投資を最優先としながらも、財務基盤の強化を図ってまいります。運転資本の効率的な運用にも取り組み、より強固な財務体質を目指してまいります。
また、当社グループは国内連結子会社を含めたキャッシュマネジメントシステム(CMS)を導入しており、運転資金及び設備投資資金の調達は、主に当社の借入及びグループ各社の事業活動から生じるキャッシュ・フローを資金集中することによる自己資金によっております。
(資金調達の方法及び状況)
短期運転資金は自己資金及び金融機関からの短期借入を基本としており、設備投資や長期運転資金の調達につきましては、金融機関からの長期借入を基本としております。また、長期資金においては、社債による直接調達も組み入れております。
社債の発行実績については、2022年11月2日、環境持続型の漁業・養殖事業等に資金使途を限定した本邦初となる債券「ブルーボンド」(第1回無担保社債)の発行により5,000百万円を調達、2023年8月31日には第2回無担保社債の発行を通じて13,000百万円を調達しております。
今後も資金調達の多様化・安定化に努めるとともに、調達した資金を通じた環境課題解決への貢献にも取り組んでまいります。
(資金需要の動向)
当社グループでは、設備投資、運転資金、借入金の返済及び利息の支払い並びに配当及び法人税の支払い等に資金を充当しております。
また、中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」における成長及びインフラへの投資として、既存領域での海外資源アクセスへの増強、海外生産拠点の生産設備の更新、家庭用冷凍食品に係る生産設備の更新、冷蔵庫のスクラップ&ビルド等への投資のため、並びに成長ドライバー領域への戦略投資として、海外市場への展開拡大、冷凍食品事業、介護事業、ファインケミカル事業、ペットフード事業領域の強化に向けた投資のため資金を充当してまいります。
設備投資を目的とした資金需要のうち主なものは、食品生産拠点、漁船等の購入費用、物流センターの増設費用等であり、運転資金需要のうち主なものは、商品及び原材料の仕入、製造費用、生産拠点及び物流センターの運営費、販売費及び一般管理費等の営業費用であります。
各セグメントの資金需要の動向は次のとおりであります。
水産資源事業
漁船、漁業許可権利金、食品生産拠点、養殖設備等の購入・建設費用並びに商品及び原材料の仕入、養殖魚や養殖のために必要なエサ代、製造費用、生産拠点の運営費等の運転資金が必要となります。
加工食品事業
食品生産拠点の購入・建設費用並びに商品及び原材料の仕入、製造費用、生産拠点の運営費等の運転資金が必要となります。
食材流通事業
食品生産拠点の購入・建設費用並びに商品及び原材料の仕入、製造費用、生産拠点の運営費等の運転資金が必要となります。
物流事業
物流センターの増設費用及び物流センターの運営費等の運転資金が必要となります。
④重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。この連結財務諸表の作成にあたって、当社の経営者は、重要な判断と見積りや計画の策定に対し、過去の実績や現状を勘案し合理的に判断しておりますが、これらは不確実性を伴うため、将来生じる実際の結果と大きく異なる可能性があります。
連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、下記については、重要なものとして、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
(ⅰ)固定資産の減損
(ⅱ)棚卸資産の評価
(ⅲ)繰延税金資産の回収可能性
その他の重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定は以下のとおりであります。
(ⅳ)貸倒引当金
当社グループは、売上債権、貸付金等の貸倒損失に備えるため、一般債権については貸倒実績率により、貸倒懸念債権等特定の債権については個別に回収可能性を検討し、回収不能見込額を計上しております。
個別の回収可能性の検討にあたっては、取引先の財政状態、担保物の見積回収可能価額などの見積り・前提を使用しております。
当連結会計年度においては、流動資産で△400百万円、固定資産で△1,494百万円の貸倒引当金を計上しております。
取引先の財政状態、担保物の見積回収可能価額には不確実性を伴い、これらに対する経営者による判断が売上債権、貸付金等の貸借対照表価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(ⅴ)投資有価証券の減損
当社グループは、その他有価証券のうち、市場価格のない株式等以外のものについては、期末日における時価が取得原価に比べ50%以上下落した場合に原則として減損処理を行い、30~50%程度下落した場合に、回復可能性を判断して減損処理を行うこととしております。市場価格のない株式等については、当該有価証券の発行会社の1株当たり純資産額が、取得価額を50%程度以上下回った場合には回復可能性がないものとして判断し、30%~50%程度下落した場合には当該有価証券の発行会社の財政状態及び将来の展望などを総合的に勘案して回復可能性を判断しております。
個別の回収可能性の検討にあたっては、当該有価証券の発行会社の財政状態、将来の展望などの見積り・前提を使用しております。
当連結会計年度においては、投資有価証券として52,773百万円計上しております。
有価証券の発行会社の財政状態、将来の展望などには不確実性を伴い、これらに対する経営者による判断が連結貸借対照表価額に重要な影響を及ぼす可能性があります。
(ⅵ)退職給付会計
当社グループは、確定給付型の制度として、確定給付企業年金制度及び退職一時金制度を採用しております。また、一部連結子会社では、確定拠出制度を採用しております。
当社においては、退職給付信託を設定しております。
退職給付型の制度において、退職給付債務及び関連する勤務費用は、数理計算上の仮定を用いて退職給付見込額を見積り、割り引くことにより算定しております。数理計算上の仮定には、割引率、退職率及び死亡率など年金数理計算上の見積り・前提を用いております。
割引率については、デュレーション法(加重平均期間アプローチ)により算出した期間に対応する国債のイールド・カーブから抜粋した利回りを加重平均割引率とする方法を採用しております。
当連結会計年度においては、退職給付に係る負債として21,761百万円を計上しております。
これらの見積り・前提に用いる割引率、退職率及び死亡率などについては、現時点で妥当と判断したデータその他の要因に基づき設定しておりますが、実際の結果がこれらの見積り・前提と異なる場合には、将来の退職給付費用及び退職給付債務に重要な影響を及ぼす可能性があります。
なお、退職給付関係に関する事項は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (退職給付関係)」に記載のとおりであります。
⑤経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標
中期経営計画「海といのちの未来をつくる MNV 2024」において掲げております「価値創造経営の実践」における「財務KGI」の進捗状況は次のとおりであります。
当社グループでは、中期経営計画の最終年度となる2024年度計画において、MNEV12,000百万円以上、売上高1,050,000百万円、営業利益30,000百万円、EBITDA50,000百万円、ROIC4.3%、ROE9.0%及びネットD/Eレシオ1.1倍以下を目標にしております。
売上高は前連結会計年度を10,218百万円上回る1,030,674百万円となり、営業利益は前連結会計年度を3,041百万円下回る26,534百万円となり、EBITDAは営業利益の減少等により前連結会計年度を1,485百万円下回る45,963百万円となりました。また、ROICは運転資本等の増加及び経常利益の減少等により前連結会計年度の4.8%から0.6ポイント悪化し、4.2%となりました。ROEは前連結会計年度の11.0%から0.2ポイント悪化し、10.8%となり、ネットD/Eレシオは有利子負債が減少したことにより前連結会計年度の1.5倍から0.3ポイント減少し、1.2倍となりました。
この結果、MNEVは前連結会計年度を2,049百万円下回る11,931百万円となりました。投下資本利益率を意識した効率的な事業運営により、当社グループ全体の企業価値の向上に繋げてまいります。
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2022年度 |
2023年度 |
2024年度計画 (最終年度) |
前期比 |
計画比 |
|
MNEV(百万円) |
13,981 |
11,931 |
12,000 |
△2,049 |
△68 |
|
売上高(百万円) |
1,020,456 |
1,030,674 |
1,050,000 |
10,218 |
△19,326 |
|
営業利益(百万円) |
29,575 |
26,534 |
30,000 |
△3,041 |
△3,466 |
|
EBITDA(百万円) |
47,449 |
45,963 |
50,000 |
△1,485 |
△4,037 |
|
ROIC(%) |
4.8 |
4.2 |
4.3 |
△0.6 |
△0.1 |
|
ROE(%) |
11.0 |
10.8 |
9.0 |
△0.2 |
1.8 |
|
ネットD/Eレシオ(倍) |
1.5 |
1.2 |
1.1 |
△0.3 |
0.1 |
(注)1.MNEV(Maruha Nichiro Economic Value):事業活動の成果に伴う経済付加価値額として、投下資本利益率(ROIC)と加重平均資本コスト(WACC)の差(MNEVスプレッド)に、投下資本を乗じ算出しております。
2.2024年度計画(最終年度)は2024年5月に更新しております。
特記すべき事項はありません。
当社グループでは「世界においしいしあわせを」お届けするために、おいしさ、栄養、健康をはじめ、持続可能な水産資源の追求や、食品加工における卓越した技術・価値の創出等『食』の未来へ新たな価値を提供するため、食品・水産素材に関する基礎研究から、事業化に向けた応用研究・技術開発まで、幅広い領域での研究開発に取り組んでおります。
特に、中期経営計画に掲げている、「イノベーション・エコシステム」を効率的に推進するために、①フードテック領域、②マリンテック領域、③バイオテック領域等の領域に注力いたしました。
当連結会計年度における研究開発費の総額は
主なセグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果は次のとおりであります。
水産資源事業
世界的な人口増加と新興国の経済成長により、良質かつヘルシーなたんぱく源である魚の需要が世界規模で急増しているなか、水産、養殖分野での取り組みの重要性が高まっております。特にSDGs目標14「海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する」に貢献することを目指して、養殖魚のエサとなる天然魚や魚粉原料をできる限り使用しない飼料開発のための昆虫ミールに着目した研究や、魚類の生理機能を活用した飼育方法による生産性の向上等に取り組んでおります。また、おいしさの部分においても、呈味成分等を詳細に分析することで客観的な指標を見出し、更に高いレベルの品位を目指して改良を進めております。
沿岸域での海面養殖だけではなく、台風や赤潮等の自然環境に影響されにくく、残餌や糞により海洋環境を汚すことのない閉鎖循環型陸上養殖については、研究助成を受けて産官学と連携を取りながら、山形県遊佐町において、サクラマス陸上養殖実証試験に係る研究開発を進めておりました。助成研究は2020年度で終了となりましたが、事業化に向けた研究を継続中であり、遺伝子情報を活用した高成長種苗の育種や高密度飼育技術の開発・検討に取り組んでおります。この陸上養殖研究の知見を生かし、2022年10月、三菱商事株式会社との合弁により、富山県入善町でサーモンの陸上養殖事業を行う「アトランド株式会社」の設立に至りました。デジタル技術も活用した陸上におけるサーモンの持続可能で安定的かつ効率的な生産体制の構築、地産地消型ビジネスモデルの実現、低・脱炭素化への貢献を目指し、施設の稼働開始、初出荷に向けて、サクラマスと並行してアトランティックサーモンの飼育試験を山形県遊佐町にて鋭意取り組んでおります。
種苗生産研究では、2020年4月に、増養殖事業部傘下の「南さつま種苗センター」を、中央研究所管轄の新会社として組織変更した「㈱マルハニチロ養殖技術開発センター」の本格稼働により、2023年度は更なる技術の革新に取り組み、陸上施設内でブリ類の稚魚に大きな被害を与える特定の魚病に罹患していないSPF種苗の作出を行い、種苗導入先への魚病拡散防止と環境保全に取り組みました。ブリでは、これまで天然親魚からの採卵でしたが、より養殖に適した人工孵化親魚から採卵して完全養殖を達成しており、高成長系統の選抜育種も併用し、養殖の生産性を更に上げていく予定であります。また、2021年3月に、完全養殖クロマグロ育種改良のための基盤・応用技術の開発に関して、国立研究開発法人水産研究・教育機構と協働していくことで合意し、共同研究を進めております。この取り組みによって、人工種苗を用いたクロマグロ養殖の体質強化と持続的発展に資する技術開発を推進してまいります。
水産・養殖現場では、AI(人工知能)、IoT(Internet of things)、ICT(情報通信技術)を活用して、生産性向上や省力化を目指した取り組みを進めております。それら技術と水産・養殖現場の課題を適切にマッチングさせ、費用対効果が出るような技術開発を行い、AI画像認識技術を活用した魚の尾数をカウントするシステム「かうんとと」、IoTを利用した養殖向けの環境データモニタリングシステムを実用化しております。また、人手で行っている養殖魚へのワクチン接種の省人化のため、ワクチン自動接種機の検討を進め、養殖現場に導入することができました。現在は、AI画像認識技術を利用して稚魚を計数する技術開発、マグロの大きさを測定する技術開発に取り組んでおります。なお、東京海洋大学が主催する「海洋AIコンソーシアム」に協力機関として参加し、東京海洋大学の行う卓越大学院プログラム、その他の海洋AIに関する教育及び研修に関する支援(インターンシップの学生の受け入れ等)を進めております。
エビについては調理後の食感や味を向上させるために浸漬剤による処理を行っており、エビの加工現場で用いる独自配合の浸漬剤の開発・実用化を進めております。これら浸漬剤を用いた処理により、素材が持つ美味しさを保ちつつ、品質を向上させることができ、特に食感や色の改良が認められております。これらエビの浸漬に関する技術は、特許を出願、取得しております。更に、浸漬処理の技術は、エビだけではなく、その他の水産物への応用にも取り組んでおります。
魚介類の国内での消費量が減少し続けるなか、魚介類の価値を高めるための一つの取り組みとして、魚由来の成分の健康に及ぼす影響、更に、日常の食生活の中で魚を中心とする食事の健康への効果を実証するための各種検討を進めております。
また、水産加工現場から排出される未利用資源の有効利用に関する技術開発を行い、環境負荷低減の取り組みを進めております。
加工食品事業
食品の見た目、香り、味や食感等の特徴を官能評価で数値化し、プロファイリングを行い、栄養成分や物性等の美味しさに関わる科学的な要素を分析し比較することで、理論的に食品の特徴をコントロールする取り組みを行っております。
食塩を控える等健康志向の強い消費者に対応できるよう、減塩しても美味しさが変わらない技術や噛みやすく飲み込みやすい食感(物性)が必要な介護食を安定して製造するための技術開発に取り組み、当社商品への応用展開を進めております。
特定保健用食品は、からだの生理学的機能等に影響を与える保健効能成分(関与成分)を含み、その摂取により、特定の保健の目的が期待できる旨の表示(保健の用途の表示)をする食品であり、この販売には、食品の有効性や安全性について国の審査を受け、許可を得なければなりません。
当社では、長年続けてきた魚油由来の健康成分であるDHAとEPAに関する研究成果をもとに、2004年に中性脂肪が高めの方を対象にした特定保健用食品「リサーラ」の販売を開始しました。また、日本人の死因で2番目に多い疾患である心血管疾患に着目し、2024年にはDHAとEPAを関与成分とし、心血管疾患に対するリスク低減効果の可能性がある「疾病リスク低減表示特保」として日本で初めて許可を取得したフィッシュソーセージ「DHA入りリサーラソーセージω(オメガ)」の発売をいたしました。疾病リスク低減表示特保とは、関与成分の疾病リスク低減効果が医学的・栄養学的に確立されている場合に限り、「特定保健用食品(疾病リスク低減表示)」として消費者庁から許可されている食品であり、本製品は、疾病リスク低減表示の個別評価第一号に当たります。また、機能性表示食品においても、開発にいち早く取り組みました。その結果、業界初やカテゴリー初となる機能性表示食品を次々に開発し、これまでに、DHA・EPAを関与成分とした中性脂肪を低下させる機能がある食品、DHAを関与成分とした情報の記憶をサポートする機能がある食品として、多数の品目について消費者庁で届出を受理されております。また、多様な生理活性を有する脂質研究を基に多くの医薬品を創製してきた小野薬品工業株式会社と協業し、エビデンスに基づく機能性脂質製品の商品開発に共同で取り組んでおります。具体的には、当社水産加工現場から排出される未利用資源よりDHAが結合したリン脂質を含むイクラ油を基にしたサプリメントを共同で開発しました。これには睡眠の質を向上させ、あるいは一時的な活気・活力の向上と日中の眠気の軽減に役立つ機能があることを臨床試験で確認し、機能性表示食品として受理され、2022年3月より「レムウェル」(小野薬品ヘルスケア)の販売に至りました。両社は、信頼できるパートナーとして、お互いの知見や事業ノウハウを有効活用し、引き続き脂質のもつ有用な生理活性に着目して、食品と医薬品の間に位置する予防・未病の分野を開拓し、より多くの方へ生涯にわたる健康をお届けしてまいります。
DHA以外に、当社が原料調達等での優位性を有する他の素材についても検討を進めており、サケ白子に含まれるプロタミンの抗菌性を活用した口腔ケア等への応用研究、スケソウダラ由来魚肉タンパク質の機能性研究等、水産物由来の機能性成分に関する研究を推進しております。
また、新たな取り組みとして、持続可能な“次世代の魚タンパク”の商業化生産を目指し、2021年8月に細胞培養スタートアップのインテグリカルチャー株式会社と「魚類」の細胞培養技術の確立に向けた共同研究を開始しました。同社は、細胞農業(細胞培養)が普及する世界の実現に向けて、培養コストの低価格化と、細胞培養の大規模化技術の開発を行う革新的なスタートアップ企業です。同社が独自に展開する食品グレード培養液と汎用大規模細胞培養システム “CulNet System™”は、これまで牛と家禽の細胞で有効性が確認されており、本研究ではこれらを新たに魚類の細胞にも拡張してまいります。検証に必要な生きた魚(細胞)の提供を当社が担って、研究を推進してまいります。
更に、技術面及び法整備を含めた世界的な事業環境の変化を見据え、2023年8月 UMAMI Bioworks Pte Ltd.(本社:シンガポール)と協業契約を締結し、魚類の細胞培養技術の確立に向けた取り組みを推進いたします。同社は、シンガポールに本社を置くバイオテクノロジー企業で、培養魚の自動生産プラットフォームを構築しております。シンガポールは細胞性食品における法整備の可能性や市場形成の展望が世界的にも有望視されているなか、UMAMI Bioworksは培養魚研究開発においてすでに実用化に近い段階にあり、試食可能な細胞性水産物の開発に成功しております。当社は今回の協業を通じて、UMAMI Bioworksの細胞培養プラットフォームと当社の水産サプライチェーンを活用して、細胞性水産物の普及に向けた取り組みを推進します。
2023年1月からは、細胞性食品(いわゆる「培養肉」)のルール形成を行う団体である一般社団法人日本細胞農業研究機構に参画して活動を進めております。当社は創業以来、良質な魚タンパクの供給を通じて人々の食と健康に貢献してまいりました。魚類細胞性食品の生産技術が実現できれば、世界中で高まる魚需要に対して、持続可能な次世代の魚タンパク質の提供が可能になると考えております。
食材流通事業
自然解凍冷凍食品、フローズンチルド商品等、多様な流通カテゴリーからなる当社商品に関して、商品の安全性担保のための基盤となる微生物制御技術の研究を進めております。独立行政法人製品評価技術基盤機構との共同研究では、近年注目を浴びているマトリックス支援レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析法(MALDI-TOF MS)を用いた、食中毒原因菌であるセレウス菌(Bacillus cereus)の迅速かつ精密な識別・同定(菌種特定)法を2018年に確立いたしました。更に、当該分析法を用いた同定精度向上とともに、食中毒菌等の迅速検出技術、増殖予測技術についても研究を進めており、「MALDI-TOF MSを用いた食品希釈液からの直接同定方法の開発」について日本農芸化学会2022年度大会で発表し、「トピックス賞」を受賞しました。安全、安心な商品の提供に貢献するため、当社グループ内における高度な微生物管理が要求される新商品の開発や生産等につなげてまいります。
地球温暖化や海洋環境変化等に起因する水産物の供給量や価格が不安定な状況になっていることを背景に、将来的な水産物の資源枯渇に対応するため、代替食品製造の技術開発を進めております。社内関連部署との取り組みとして、代替食品を用いた新商品の開発を進め、大豆たんぱくで作った常温トレー入りの「お魚屋さんの大豆たんぱく」シリーズを立ち上げ、「さけ風フレーク」と「かつお風しぐれ煮フレーク」を量販店の水産売り場にて販売を開始しました。なお、「さけ風フレーク」は1パック(30g)当たり、約5.5gのたんぱく質を含んでおり、実際の鮭を使用したフレークと同程度のたんぱく質量となっております。現在、「お魚屋さんの大豆たんぱく」シリーズ以外にも代替食品の開発を進めており、代替食品の可能性の追求を目指しております。
更に、水産・食品分野のリーディングカンパニーとして、関連学会での発表はもとより、関連セミナーにおける講師、理科授業の実施等、成果や技術力の情報発信に加え、社会に対する貢献活動に継続して取り組んでまいりました。