第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1)経営方針

  [経営理念]

   富士電機は、地球社会の良き企業市民として、

   地域、顧客、パートナーとの信頼関係を深め、誠実にその使命を果たします。

 

   ●豊かさへの貢献

   ●創造への挑戦

   ●自然との調和

 

  [経営方針]

   1.エネルギー・環境技術の革新により、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献します。

   2.グローバルで事業を拡大し、成長する企業を目指します。

   3.多様な人材の意欲を尊重し、チームで総合力を発揮します。

 

(注)本有価証券報告書における「富士電機」の表現は、当社並びに子会社及び関連会社から成る企業集団を指します。

 

 

(2)経営環境及び優先的に対処すべき課題

1.2024年度経営計画

 当社は、2024年5月に「利益重視経営による更なる企業価値向上」を基本方針とする、2026年度を最終年度とする3ヵ年中期経営計画を発表しました。その初年度にあたる2024年度の経営計画は下記のとおりです。

 2024年度は売上高1兆1,140億円、営業利益1,090億円、親会社株主に帰属する当期純利益765億円を経営目標に掲げ、各事業で以下の重点施策に取り組みます。

 

2023年度

実績

2024年度

経営計画

増減

売上高

11,032億円

11,140億円

+108億円

営業利益

1,061億円

1,090億円

+ 29億円

親会社株主に帰属する

当期純利益

754億円

765億円

+ 11億円

 

〔エネルギー〕

 お客様の脱炭素化ニーズに対し、再生可能エネルギーや、エネルギーマネジメントシステム、蓄電システム並びに周辺の受変電設備を含めたまるごと提案を推進し受注拡大を図ります。

 今後も成長が期待される国内外のデータセンターや半導体工場向けに無停電電源装置(UPS)や受変電設備などの受注拡大と競争力ある製品開発を推進します。

 また、省エネ・小型化を実現する受配電・制御機器の新製品の投入を通じて器具事業の売上拡大を図ります。

 

〔インダストリー〕

 強いコンポーネントを創出し、その強いコンポーネントでシステムを強化し、事業拡大を進めます。グローバルで地産地消の生産体制を強化し、リードタイムの短縮、原価低減を通じて、インドをはじめとする海外事業の収益力を強化します。

 鉄鋼などの素材分野、化学分野におけるプラント設備の更新需要に対し、省エネ商材や制御システムを組み合わせ、お客様のグリーントランスフォーメーション(GX)、デジタルトランスフォーメーション(DX)に貢献する一括提案を強化します。

 

〔半導体〕

 電動車向けや再生可能エネルギー向けパワー半導体の需要拡大に対し、引き続き生産能力増強に注力するとともに、変動する需要に応じた柔軟な生産対応に取り組みます。次世代材料であるSiCの採用が加速する電動車向けでは、高効率な新製品の開発・量産を通じてさらなる売上拡大を図ります。

 

〔食品流通〕

 環境負荷の低減や人手不足への対応などの社会課題に対し、デジタル技術を活用して省エネやオペレーションの効率化を実現する高付加価値商材の提供を通じて収益力を強化します。外食や流通業など新分野への新商材の展開を図り、事業拡大を図ります。

 

 

2.企業価値向上を支える経営基盤の強化

 企業価値向上を支える経営基盤の強化に向け、ESGの主要課題に対し、グローバルに活動を推進します。

 

〔環境〕

 「環境ビジョン2050」における2030年度目標の達成に向け、再生可能エネルギーの調達・導入を進めるとともに、製品によるCO2削減貢献量の拡大を推進します。

 

〔社会〕

 多様な人財の活躍推進並びに働きがいの向上に取り組みます。多様な人財の獲得、女性社員やシニア社員の更なる活躍を推進します。リスキリングの推進、柔軟な働き方の拡充に取り組みます。

 

〔ガバナンス〕

 経営リスクが多様化するなかで、取締役会の実効性向上に取り組むとともに、コンプライアンスプログラムの拡充や企業倫理通報制度の活性化を通じたコンプライアンスの強化を図ります。さらにBCPの継続的改善によりリスク対応力の強化に取り組みます。

 

 

(3)2026年度中期経営計画の経営目標(連結)

 当社は、2026年度を最終年度とした3ヵ年中期経営計画「熱く、高く、そして優しく2026」を策定しました。

 当社は、創立100周年に当たる2023年度を最終年度とする5ヵ年中期経営計画において、目標に定めた売上高1兆円・営業利益率8%以上を1年前倒しで達成しました。2024年度は次なる100周年に向けた新たなスタートとなります。経営の原点に返り、経営スローガンに掲げる「熱く、高く、そして優しく」を新中期経営計画の呼称とし、コア技術であるパワーエレクトロニクス技術に更に磨きをかけ、エネルギー・環境事業でサステナブルな社会の実現に貢献してまいります。

 

1.重点戦略

「利益重視経営による更なる企業価値向上」を基本方針とし、以下の重点戦略に取り組みます。

■収益力の更なる強化

資本コストを意識した事業運営を徹底し、更なる成長に必要なキャッシュを創出していきます。また、デジタル活用による更なる生産性の向上を図ります。

■成長戦略の推進

成長分野の半導体、エネルギー、インダストリーへ重点投資を行い、パワー半導体、エネルギーマネジメント、モビリティなどの成長領域での新製品投入による事業拡大を図ります。合わせて、GX分野での2027年度以降の市場拡大を見据え、新事業の創出を目指します。海外事業では、インフラ投資が拡大しているインドを中心に取り組みを強化します。

■経営基盤の強化

持続的な企業価値向上を支える「環境」「人財」「ガバナンス」への取り組みを更に強化し、事業環境変化への対応を進めます。

 

2.業績目標(連結)

 

2023年度実績

2026年度中期経営計画

増減

売上高

11,032億円

12,500億円

+1,468億円

営業利益

1,061億円

1,400億円

+339億円

営業利益率

9.6%

11.2%

+1.6pt

親会社株主に帰属する

当期純利益

754億円

900億円

+146億円

純利益率

6.8%

7.2%

+0.4pt

※前提為替レート:1US$=140円、1EURO=150円、1人民元=19.5円

〔財務指標〕

ROE(自己資本利益率)

13.5%

12%以上

ROIC(投下資本利益率)

11.5%

10%以上

自己資本比率

47.4%

50%程度

ネットD/Eレシオ

0.2倍

0.2倍程度

配当性向

25.6%

30%目安

 

※経営スローガン「熱く、高く、そして優しく」

「熱く」 …新しい技術や製品を生み出し、社会に貢献する「熱い」気持ち

「高く」 …目標を「高く」掲げて、それに邁進していく気概、心意気

「優しく」…お客様、仲間、家族に感謝し、大切に思う「優しさ」

 

 

 (注)上記のうち、将来の経営目標等に関する記載は、本有価証券報告書の提出日現在において当社が合理的と判断した一定の前提に基づいたものであります。これらの記載は、実際の結果とは実質的に異なる可能性があり、当社はこれらの記載のうち、いかなる内容についても、確実性を保証するものではありません。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

富士電機のサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書の提出日現在において当社が判断したものであります。

 

(1) ガバナンス

 富士電機は、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載の経営理念、経営方針の実践により、安全・安心で持続可能な社会の実現に貢献します。その実現に向けて、ガバナンス全般は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載のとおりですが、サステナビリティ関連については、以下の体制で推進しています。

 環境、人権・人財活躍推進の課題については、SDGs推進委員会において、半期に1回、方針・施策の審議、推進管理、評価、取締役会への報告を行います。また、コンプライアンスについては、遵法推進委員会において、半期に1回、コンプライアンス・プログラムの実施状況及び計画の審議を行い、審議内容を、年1回、取締役会に報告します。その他の課題については、各委員会において、方針・施策を審議し推進しています。

 

サステナビリティ課題の取組推進体制

 

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(2) 戦略

 サステナビリティに係る経営の重要課題(マテリアリティ)を「エネルギー・環境事業の推進」並びに、経営基盤の強化として、「環境ビジョン2050の推進」、「ウェルビーイングの実現」、「ガバナンスの更なる徹底」と定め、事業を通じたSDGsの発展、脱炭素化などサステナブルな社会への貢献と企業価値向上を目指し、グローバルに活動を推進しております。

 なお、取り組み状況の詳細は、ホームページ及び統合報告書で開示しております。

 ESGサイト:https://www.fujielectric.co.jp/about/csr/index.html

 統合報告書(富士電機レポート):https://www.fujielectric.co.jp/about/ir/library/index09.html

 

経営の重要課題(マテリアリティ)

マテリアリティ

エネルギー・環境事業の推進

「成長戦略の推進」

・新製品投入を核にした売上拡大

・海外事業の拡大

「収益力の更なる強化」

・デジタル活用による生産性向上

環境ビジョン2050の推進

温室効果ガス排出量の削減

サーキュラーエコノミーの推進

ウェルビーイングの実現

人権尊重

多様な人財の活躍推進

働きがいの向上

ガバナンスの更なる徹底

コーポレート・ガバナンスの実効性向上

グローバルコンプライアンスの徹底

リスクマネジメントの強化

 

■ 気候変動関連

気候変動関連については、地球環境保護への取り組みを経営の重要課題の一つと位置づけ、1992年に環境保護基本方針を制定・開示しています。地球環境保護に貢献する製品・技術の提供、製品ライフサイクルにおける環境負荷の低減、事業活動での環境負荷の削減などを規定し、社長COOがコミットしています。

 

本方針は、ホームページで開示しております。https://www.fujielectric.co.jp/about/csr/global_environment/protection_policy.html

 

2019年度には中長期的な環境活動の道標である「環境ビジョン2050」を制定し、脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現を柱として、グローバルに環境活動に取り組んでいます。2050年にサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指すことを掲げ、2030年にはサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量46%超削減、生産時の温室効果ガス排出量46%超削減を目標として定め、具体的な取り組みに着手しています。

 

環境ビジョン2050

富士電機の革新的クリーンエネルギー技術・省エネ製品の普及拡大を通じ

「脱炭素社会」「循環型社会」「自然共生社会」の実現を目指します

脱炭素社会の実現

サプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指します

循環型社会の実現

環境負荷ゼロを目指すグリーンサプライチェーンの構築と3Rを推進します

自然共生社会の実現

企業活動により生物多様性に貢献し生態系への影響ゼロを目指します

 

 2020年6月にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)提言への賛同を表明しております。

 TCFD提言に沿って、気候変動に起因する重要なリスク・機会、適応策について毎年評価を行い、開示しています。

 2023年度は、異常気象多発に伴う浸水リスクの特定、並びに被害の最小化に向けた浸水対策に加え、生産増に伴う温室効果ガス排出量の削減に必要な環境投資額等を開示しました。

 なお、TCFDが推奨する4つの開示項目「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標と目標」及び取り組み状況の詳細は、ホームページで開示しております。

 ESGサイト:https://www.fujielectric.co.jp/about/csr/index.html

 統合報告書(富士電機レポート):https://www.fujielectric.co.jp/about/ir/library/index09.html

 

■ 人的資本

 企業行動基準において、「富士電機とその社員は、企業活動にかかわるすべての人との関係において、人権を尊重します。加えて、多様な人財の活躍を推進し、一人ひとりが働きがいを持って、健康と安全に配慮した職場づくりに取り組みます。」と定めており、①「世界人権宣言」など人権に関する国際規範及び、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」を踏まえ、人権に関する悪影響を事前に認識し、防止し、対処するために人権デュー・デリジェンス、②多様な人財の就労や活躍を可能にする人事・処遇制度の構築及び、社員一人ひとりの成長とチームの総合力の発揮を実現する人財育成の強化、③社員の健康と安全を最優先し、効率的で働きやすい職場環境づくりに積極的に取り組んでおります。

 

 

(3) リスク管理

 「富士電機リスク管理規程」に基づきリスクを体系的、組織的に管理しています。同規程のもと、適切に管理・対処することでリスクの顕在化を未然に防止し、リスクによる影響の最小化を図っています。

 同規程に定めるリスク管理プロセス(PDCAサイクル)は以下のとおりです。

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 なお、富士電機の経営成績及び財務状況に影響を及ぼす可能性のある主要なリスクは、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

 

 

(4) 指標・目標

 上記「(2)戦略」において記載したサステナビリティに係る経営の重要課題の推進の取り組みの方向性を明確にし、的確な進捗管理を可能とするための、具体的な指標・目標を設定し、取り組みを着実に実行しております。

 なお、「サステナビリティに係る経営の重要課題の推進」に関する指標・目標と実績の詳細は、ホームページ及び統合報告書で開示しております。

 ESGサイト:https://www.fujielectric.co.jp/about/csr/index.html

 統合報告書(富士電機レポート):https://www.fujielectric.co.jp/about/ir/library/index09.html

 

■ 気候変動関連

 2050年にサプライチェーン全体でカーボンニュートラルを目指すことを掲げ、2030年度にはサプライチェーン全体の温室効果ガス排出量削減46%超削減、生産時の温室効果ガス排出量46%超削減、製品による社会のCO2排出量削減5,900万トン超/年、を目標として定め、具体的な取り組みに着手しています。

 

環境ビジョン2050・2030年度目標と進捗

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※赤枠は、「環境ビジョン2050」の2030年度目標

■ 人的資本

人的資本に関する取組に関する指標としては、毎年実施している社員意識調査における代表設問の回答結果を用いております。

指標

2026年度目標

2023年度実績

会社満足度

3.8pt以上

3.8pt

ウェルビーイング指数

3.6pt以上

3.5pt

※会社満足度:総合的な会社満足度を示す代表設問「富士電機で働いていることに満足している」に対する評価

 ウェルビーイング指数:仕事のやりがいやワークライフバランス等、社員のウェルビーイングに関連する項目を

 総合的に評価

 いずれも5段階評価、3.5pt以上が健全と評価できるレベル

※調査対象範囲は当社及び国内外連結子会社(富士古河E&C㈱を除く)

 

 (人的資本に関する2023年度の主な取組)

①  人権尊重

・人権啓発活動の推進

②  多様な人財の活躍

・経営人財の育成強化

 - 選抜研修

 - ライン後継者計画制度

・女性の活躍推進 (注)1

 - 女性採用比率21%

 - 女性役職者数336名(2026年度目標450名)

・シニア社員の活躍推進 (注)1

 - 選択定年延長制度選択率85.5%

- 選択定年延長制度の柔軟化(定年年齢の変更を認める)

・障がい者の職域拡大 (注)2

 - 障がい者雇用率3.02%

③  働きやすい職場づくり

・介護事情を有する社員の働き方の柔軟化

(在宅・サテライト勤務の日数制限緩和、積立休暇の半日取得)

(注)1.当社並びに当社と同一の人事制度を採用する子会社(6社)

   2.特例子会社制度によるグループ適用会社(6社)

 

3【事業等のリスク】

 富士電機は、事業等のリスクに関し、組織的・体系的に管理し、適切な対応を図って、影響の極小化に努めております。現在、富士電機の経営成績及び財務状況に影響を及ぼす可能性のある主要なリスクには以下のものがあります。なお、将来に関する事項につきましては、本有価証券報告書提出日(2024年6月25日)現在において、当社が判断したものであります。

 

 

リスク項目

リスク内容

経営戦略

事業戦略

事業環境

・富士電機は、成長が見込める事業に対し迅速に経営資源を集中させ、事業の拡大・発展を目指し、設備投資、研究開発投資を行っています。多額の資金を必要とする半導体の設備投資については、顧客との物量・価格面での交渉をもとに設備投資の判断を行うとともに、研究開発投資については、事業戦略との整合性や事業への貢献度を重視し、ロードマップに基づき、富士電機の将来を支える基盤・先端技術の研究開発を進め、主要な開発テーマは定期的に経営陣にて審議するとともに、市場の変化に応じてロードマップを随時見直しています。しかし、半導体分野の製品サイクルは短く、また製品需給の変動や競争が激しいことから、投資を回収できない可能性があり、そうした場合には、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、エネルギー・環境事業を通じ持続可能な社会の実現に貢献して行くとともに、地球環境保護への取り組みを経営の重要課題と位置付け、サプライチェーン全体で脱炭素社会、循環型社会、自然共生社会の実現を目指す「環境ビジョン2050」を推し進めています。また、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に賛同表明し、長期的な視点に立った気候変動によるリスク分析を行っています。しかし、パリ協定等の環境規制の強化や、ESG評価機関からの取り組み評価により、富士電機の一部事業(石炭火力発電事業)への批判が強まった場合は、富士電機の評判や業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、世界各地に事業拠点を展開し、各地域の市場・顧客に向けて製品・サービスを提供しています。各国における感染症等の拡大に伴う経済活動の制限は、営業活動の制約や工場の稼働停止、現地工事の出張規制等、富士電機の事業活動にさまざまな影響を及ぼしており、こうした制限が強化された場合には、事業活動への影響が更に拡大することが懸念され、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

コーポレート・ガバナンス

・4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要に記載の通り、富士電機は、平時より経営の透明性や監査機能の向上を図ることにより、コーポレート・ガバナンスの強化に取り組んでいますが、予期せぬ事態の発生により、内部統制や監査機能に不備が生じ、コーポレート・ガバナンスが機能不全に陥った場合は、経営に混乱をきたす等、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

事業再編・

提携・撤退

・富士電機は、各事業分野における競争力強化のため第三者とのM&A・合弁・業務提携等の協業に積極的に取り組んでおり、事業戦略、技術、製品及び人事等の統合に向け、経営理念や経営方針、企業行動基準、経営計画や事業戦略等を共有するとともに、経営会議等により緊密なコミュニケーションを図ること等により、良好な関係構築に取り組んでいますが、制度、文化面などの相違から十分な成果が得られない場合は、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

受注・営業・

販売促進

・富士電機は、国内市場のみならず海外市場への積極的な展開を図っており、特に中国をはじめとしたアジア市場向けの販売拡大に注力しています。富士電機は世界の各市場に営業拠点を展開して顧客動向を把握し、その情報を一元管理して分析と対策の検討を行う等、機会損失を回避する取り組みを行うとともに、海外及び国内の市場動向による業績影響の極小化に向け、コストダウンや総経費の圧縮に努めておりますが、民間設備投資や公共投資をはじめとする各国における市場環境の悪化、各市場における製品需給の急激な変動や競争の激化、及びそれらに伴う価格レベルの大幅な下落があった場合は、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、エネルギー分野、インダストリー分野等において、大型プラント案件の受注活動を行っており、各案件において適正な利益を確保できるよう、受注時における見積りの精度向上、受注後のプロジェクト管理の強化等に取り組んでおりますが、受注後の予期せぬ仕様変更、工程遅延や自然災害等による採算悪化により、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

リスク項目

リスク内容

開発・設計

エンジニアリング

・富士電機は、研究開発を加速するため研究開発体制を整備し、常に市場・顧客のニーズや最新の技術動向を見極めつつ、パワーエレクトロニクス技術やパワー半導体技術を中心に強いコンポーネントとシステムを創出する研究開発、及び要素技術の複合により顧客価値を生むソリューションの研究開発に注力しています。しかし、急速な技術の進歩により他社に優位性を奪われたり、計画どおりに開発が進まずに適切な時機に市場への製品投入ができない可能性があり、そうした場合には、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

調達・手配

・富士電機は、原材料価格高騰リスクに対して商品スワップ取引を行う等、リスクの軽減に努めていますが、円安を背景とした原材料・部品価格の上昇に加え、新興国の急激な需要増等の情勢変化によっては素材・原材料の需給逼迫が見込まれ、これらの価格が大幅に上昇した場合には、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

生産・製造

出荷・物流

据付・引渡

サービス

・富士電機は、経営会議での営業部門と事業部門の情報共有等により、常に最新の物量動向を把握するとともに、生産性向上や地産地消の推進等で物量変動に対応できる最適な生産管理体制を構築していますが、予期せぬ事態により、製品需要の増(減)など物量動向の変化への対応が遅れた場合には、在庫不足(過剰)を招き、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、サプライチェーン改革活動に基づく地産・地消での「地域完結型」ものつくりの推進、グローバル調達の推進等に取り組んでおりますが、予期せぬ事態により、ヒト・モノの移動が制限され物流網が寸断された場合、サプライチェーンが機能せず、納期遅延等により富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

品質保証

・富士電機は、生産・販売する製品・サービスについて、品質管理体制を整備し、高い品質水準の確保に努めるとともに、必要な保険に加入しておりますが、予期せぬ事態により品質問題が発生した場合、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

人的資源・

労務

・富士電機の事業活動は人財に大きく依存しており、技術・生産・販売・経営管理などの各分野において優秀な人財の確保・育成に向け、グローバル競争力強化につながる「プロフェッショナルな人財の育成」に注力し、積極的に社員の教育・研修を実施するとともに、キャリア採用拡大等により、優秀人財の確保に取り組んでいますが、そうした必要な人財を確保・育成できない場合、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

10

財務・会計

・富士電機は、資金調達コストを最小化するべく、社債・CP・短期借入・長期借入の最適ミックスを常に検証し、機動的・安定的な資金調達が可能となるよう取り組んでいますが、金利が想定以上に上昇した場合、有利子負債に対する金利負担の増大を招くことにより、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、債権の長期滞留調査や取引先の財務状況のモニタリング等、与信管理強化を図ることにより、売上債権の回収促進に取り組んでいますが、経済活動制限や景気低迷等により、取引先の資金繰りが悪化して債権回収不能となった場合、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

 

リスク項目

リスク内容

11

法務・倫理

・富士電機は、さまざまな事業分野及び世界の各地域において、各国の法令、規則等の適用を受けて事業活動を行っております。当社は代表取締役が委員長を務める「富士電機遵法推進委員会」において法令遵守の徹底を図るとともに、規制法令毎に社内ルール、監視、監査、教育の各側面において役割・責任を明確にしたコンプライアンスプログラム及び内部者通報制度等のコンプライアンス体制を整備しておりますが、法令違反等が発生した場合には、富士電機の社会的信用や業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、訴訟等の法的紛争に備え、適切なタスクフォースの組成により、必要プロセス(事実調査、是正措置、再発防止、社内処分、開示)を迅速に行う体制を構築しておりますが、予期せぬ多額の賠償を命じられた場合、それらの決定の内容によっては、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、知的財産権を効果的に守り、他社の権利を尊重した製品・技術の開発を進めておりますが、技術革新のスピードが加速していること、事業活動がグローバルに展開していることから、知的財産権の係争が発生した場合、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

12

政治情勢

社会経済動向

・富士電機は、為替変動リスクによる業績への影響を最小限に止めることを目的として、一定の基準に従って為替予約を実施しておりますが、米ドルを中心とした対円為替相場の変動により富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

・富士電機は、中国やアジアを中心に多くの海外市場で事業展開しており、地政学リスクの最新情報を常時注視するとともに、想定外のリスクに備え、生産・販売拠点の分散化を図っておりますが、海外の国々で次のような事象が発生した場合は、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

○予期しえない法律・規制、不利な影響を及ぼす租税制度の変更

○不利な政治的要因の発生

○社会騒乱、テロ、戦争等による社会的混乱

13

株主・投資家の動向

・富士電機は、財務情報に係る開示や非財務情報の積極的な開示並びに株主・機関投資家とのコミュニケーションを重視するとともに、ディスクロージャーポリシーに則った誠実且つ正確な情報開示を行う等、当社経営への理解を促す取り組みを行っておりますが、株主・投資家の意向と当社経営の意向に齟齬が生じる等により、役員選任議案に反対票を投じられたり、その他当社経営に対する株主提案を受けた場合、経営に混乱をきたす等、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

14

自然災害・

事故

・富士電機は、世界各地に事業拠点を展開しており、災害や事故発生時において製品・サービスの供給を継続し、顧客や社会に対する責任を果たすため、社内に危機管理対応の専門部門を設置し、防火・防災の取り組み、事業継続計画(BCP)の策定及び必要な保険に加入する等、「事業継続力強化」に取り組んでおります。しかし、これら事業拠点において大規模な災害や事故等が発生した場合には、生産設備の破損、操業の中断、製品出荷の遅延等が生じ、富士電機の業績及び財務状況に大きな影響を及ぼす可能性があります。

15

外部からの

攻撃

・富士電機は、多様化・高度化するサイバーセキュリティ脅威への対応のため、対策システムの整備及びセキュリティ対応組織(CSIRT/SOC)を設置し、攻撃の監視・制御を実施するとともに、新たな脅威の出現に備え、防御、検知システムの増強、サイバー訓練などの対応力強化を継続的に進めていますが、外部攻撃(サイバーテロ等)により機能不全、情報漏洩等の問題が発生し、社会的信用を失墜させた場合、富士電機の業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

(1)経営成績

 当社は、2023年度を最終年度とする中期経営計画「令和.Prosperity2023」に掲げる「売上高1兆円」、「営業

利益率8%以上」を2022年度において1年前倒しで達成しました。2023年度は当社創立100周年の年であり、更な

る成長に向けて、パワエレ事業、パワー半導体事業の拡大を中核とする「成長戦略の推進」、グローバルでのもの

つくり力強化による「収益力の更なる強化」、及び、ESG(環境、社会、ガバナンス)を中心とした「経営基盤の

継続的な強化」を引き続き推し進めるとともに、外部環境変化への適応力を一層強化し、売上・利益の拡大を目指

しました。

 

 当期における当社を取り巻く市場環境は、脱炭素化やデジタル化に向けた投資の拡大を背景に、自動車の電動

化、省エネ、デジタルインフラ等の継続したニーズの高まりにより、製造業やデータセンター等の設備投資が堅調

に推移しました。その一方で、中国経済の低迷継続等を背景に工作機械関連等の需要は低調に推移しました。

 

 当連結会計年度の売上高は、前連結会計年度に比べ9.3%増収の1兆1,032億14百万円となりました。部門別には、「エネルギー」、「インダストリー」、「半導体」、「食品流通」全ての部門が前連結会計年度を上回りました。国内売上高は、前連結会計年度に比べ7.4%増収の7,707億90百万円となりました。また、海外売上高は、前連結会計年度に比べ13.8%増収の3,324億23百万円となりました。なお、売上高に対する海外売上高の比率は、前連結会計年度に比べ1.2ポイント増加して30.1%となりました。

 売上原価は、前連結会計年度に比べ9.2%増加し7,999億25百万円となりました。売上高に対する売上原価の比率は、前連結会計年度に比べ0.1ポイント減少して72.5%となりました。

 販売費及び一般管理費は、前連結会計年度に比べ4.9%増加し1,972億22百万円となりました。売上高に対する販売費及び一般管理費の比率は、前連結会計年度に比べ0.7ポイント減少して17.9%となりました。

 営業利益は、原材料価格及び動力費の高騰影響や、生産能力増強に係る費用の増加があったものの、物量の増加

に加え、製品販売価格の値上げや原価低減の推進、為替影響等により、前連結会計年度に比べ171億84百万円増加し、1,060億66百万円となりました。売上高に対する営業利益の比率は、前連結会計年度に比べ0.8ポイント増加して9.6%となっております。

 営業外収益(費用)は、前連結会計年度の10億70百万円の費用(純額)から、17億56百万円の収益(純額)となり、前連結会計年度に比べ28億26百万円の収益(純額)の増加となりました。これは、債務保証損失を6億60百万円計上した一方、前連結会計年度において11億48百万円であった為替差損が当連結会計年度は24億19百万円の差益に転じたことなどによるものであります。

 これらの結果、経常利益は、前連結会計年度に比べ200億11百万円増加し、1,078億22百万円となりました。

 特別利益は、固定資産売却益及び投資有価証券売却益を計上し、85億54百万円となりました。なお、主に投資有価証券売却益の計上額が減少したことにより、前連結会計年度に比べ26億円減少しております。

 特別損失は、固定資産処分損及び投資有価証券評価損、投資有価証券売却損を計上し、23億44百万円となりました。なお、固定資産処分損が増加した一方、投資有価証券評価損の計上額が減少したこと、前連結会計年度に関係会社整理損失引当金繰入額を計上したことにより、前連結会計年度に比べ8億76百万円の減少となりました。

 以上により、税金等調整前当期純利益は1,140億32百万円となり、前連結会計年度に比べ182億86百万円の増加となりました。親会社株主に帰属する当期純利益は、法人税、住民税及び事業税等の税金費用319億61百万円を税金等調整前当期純利益から控除し、更に、非支配株主に帰属する当期純利益67億17百万円を控除した結果、753億53百万円となり、前連結会計年度に比べ140億5百万円の増加となりました。

 

 

 セグメント別の内容は、次のとおりであります。

■エネルギー部門

 売上高:3,427億60百万円(前期比 2.8%増加) 営業損益:301億46百万円(前期比 15億85百万円増加)

 発電プラント分野及び器具分野の需要減少等があったものの、エネルギーマネジメント分野における大口案件の増

加及び施設・電源システム分野の需要拡大により、売上高、営業損益ともに前期を上回りました。

 ・発電プラント分野は、前期の再生可能エネルギー大口案件の影響等により、売上高は前期を下回りました。営業

  損益は、売上高の減少及び大口案件の費用増により、前期を下回りました。

 ・エネルギーマネジメント分野は、太陽光発電向け大口案件の減少があったものの、産業向け変電機器及び電源機

  器の大口案件の増加等により、売上高、営業損益ともに前期を上回りました。

 ・施設・電源システム分野は、データセンター及び半導体メーカ向け案件の増加により、売上高、営業損益ともに

  前期を上回りました。

 ・器具分野は、機械セットメーカ及び半導体製造装置関連の需要減少等により、売上高、営業損益ともに前期を下

  回りました。

  なお、当連結会計年度の受注高は2,320億円(富士電機㈱のエネルギー部門単独ベース)となっております。

 

■インダストリー部門

 売上高:4,199億11百万円(前期比13.5%増加) 営業損益:342億64百万円(前期比 75億9百万円増加)

 オートメーション分野、社会ソリューション分野及び設備工事分野の需要増加等により、売上高、営業損益ともに前期を上回りました。

 ・オートメーション分野は、ファクトリーオートメーションにおけるコンポーネントの生産増を主因に、売上高、

  営業損益ともに前期を上回りました。

 ・社会ソリューション分野は、原子力関連機器案件や放射線機器案件の増加等により、売上高、営業損益ともに前

  期を上回りました。

 ・設備工事分野は、空調設備工事の大口案件等により、売上高、営業損益ともに前期を上回りました。

 ・ITソリューション分野は、大口案件等の増加により、売上高は前期を上回りましたが、営業損益は案件差等によ

  り前期と同水準となりました。

  なお、当連結会計年度の受注高は1,976億円(富士電機㈱のインダストリー部門単独ベース)となっておりま

  す。

 

■半導体部門

 売上高:2,280億37百万円(前期比 10.6%増加) 営業損益:361億64百万円(前期比 39億78百万円増加)

 ・半導体分野は、第4四半期において部材調達影響による生産減及び売上減があったものの、電動車(xEV)向け

  パワー半導体の需要拡大により、売上高は前期を上回りました。営業損益は、パワー半導体の生産能力増強に係

  る費用の増加、原材料価格の高騰があったものの、売上高の増加により、前期を上回りました。

  なお、当連結会計年度の受注高は1,873億円(富士電機㈱の半導体部門単独ベース)となっております。

 

■食品流通部門

 売上高:1,072億87百万円(前期比 12.6%増加) 営業損益:88億3百万円(前期比 44億53百万円増加)

 ・自販機分野は、国内の需要拡大に加え、原価低減の推進等により、売上高、営業損益ともに前期を上回りまし

  た。

 ・店舗流通分野は、コンビニエンスストア向け店舗設備機器の改装需要拡大に加え、カウンター機材の大口案件増

  加により、売上高、営業損益ともに前期を上回りました。

  なお、当連結会計年度の受注高は1,019億円(富士電機㈱の食品流通部門単独ベース)となっております。

 

■その他部門

 売上高:631億54百万円(前期比 5.6%増加) 営業損益:43億11百万円(前期比 5億62百万円増加)

 

 

(注)当連結会計年度より、組織構造の変更に伴い、報告セグメントを従来の「パワエレ エネルギー」、「パワエレ インダストリー」、「半導体」、「発電プラント」及び「食品流通」から、「エネルギー」、「インダストリー」、「半導体」及び「食品流通」に変更しております。なお、各セグメントの前期比につきましては、前期の数値を変更後の報告セグメントの区分に組み替えたうえで算出しております。

 

 生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。

① 生産実績

 富士電機の生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではないため、セグメントごとに生産規模を金額又は数量で示すことはしておりません。

② 受注実績

 富士電機の生産・販売品目も広範囲かつ多種多様にわたっており、受注生産形態をとらない製品も多く、セグメントごとに受注規模を金額又は数量で示すことはしておりません。このため受注実績については、「(1) 経営成績」におけるセグメント別の内容に関連付けて示しております。

③ 販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

エネルギー

342,760

102.8

インダストリー

419,911

113.5

半導体

228,037

110.6

食品流通

107,287

112.6

その他

63,154

105.6

消去

△57,936

-

合計

1,103,214

109.3

 

 

 

(2)財政状態

 当連結会計年度末の総資産額は1兆2,711億74百万円となり、前連結会計年度末に比べ896億22百万円増加しました。

 流動資産は7,630億72百万円となり、前連結会計年度末に比べ495億19百万円増加しました。これは、前連結会計年度末に比べ売掛金が209億10百万円、契約資産が195億99百万円、棚卸資産が274億44百万円、それぞれ増加したことなどによるものであります。

 固定資産は5,080億64百万円となり、前連結会計年度末に比べ401億18百万円増加しました。このうち、有形固定資産と無形固定資産の合計は3,369億18百万円となり、前連結会計年度末に比べ289億73百万円増加しました。また、投資その他の資産は1,711億45百万円となり、前連結会計年度末に比べ111億44百万円増加しました。これは、前連結会計年度末に比べ投資有価証券が、その他有価証券の時価評価差額相当分の増加を主因として、99億67百万円増加したことなどによるものであります。

 当連結会計年度末の負債合計は6,097億1百万円となり、前連結会計年度末に比べ2億18百万円増加しました。

 流動負債は4,753億42百万円となり、前連結会計年度末に比べ285億16百万円増加しました。これは、前連結会計年度末に比べ1年内償還予定の社債が150億円減少した一方で、コマーシャル・ペーパーが360億円増加したことなどによるものであります。

 固定負債は1,343億59百万円となり、前連結会計年度末に比べ282億98百万円減少しました。これは、前連結会計年度末に比べ長期借入金が135億円、リース債務が181億84百万円、それぞれ減少したことなどによるものであります。

 なお、当連結会計年度末の有利子負債残高は1,629億6百万円となり、前連結会計年度末に比べ203億67百万円減少しました。また、同残高の総資産に対する比率は12.8%となり、前連結会計年度末に比べ2.7ポイント減少しました。

 

 当連結会計年度末の純資産合計は6,614億72百万円となり、前連結会計年度末に比べ894億3百万円増加しました。これは、前連結会計年度末に比べ利益剰余金が582億13百万円、為替換算調整勘定が155億50百万円増加したことなどによるものであります。これらの結果、自己資本比率は47.4%となり、前連結会計年度末に比べ3.6ポイント増加しました。

 

 セグメント別の内容は、次のとおりであります。

■エネルギー部門

 当連結会計年度末のセグメント資産は3,280億24百万円となり、売掛金、契約資産、前渡金の増加を主因として、前連結会計年度末に比べ244億95百万円増加しました。

 

■インダストリー部門

 当連結会計年度末のセグメント資産は3,791億63百万円となり、売掛金、契約資産、棚卸資産の増加を主因として、前連結会計年度末に比べ393億91百万円増加しました。

 

■半導体部門

 当連結会計年度末のセグメント資産は3,554億3百万円となり、棚卸資産、有形固定資産の増加を主因として、前連結会計年度末に比べ406億99百万円増加しました。

 

■食品流通部門

 当連結会計年度末のセグメント資産は644億94百万円となり、棚卸資産の減少を主因として、前連結会計年度末に比べ89億76百万円減少しました。

 

■その他部門

 当連結会計年度末のセグメント資産は364億23百万円となり、前連結会計年度末に比べ4億70百万円増加しました。

 

(3)キャッシュ・フロー

 当連結会計年度における連結ベースのフリー・キャッシュ・フロー(「営業活動によるキャッシュ・フロー」+「投資活動によるキャッシュ・フロー」)は、224億39百万円の現金及び現金同等物(以下「資金」という。)の増加(前連結会計年度は666億65百万円の増加)となり、前連結会計年度に対しては、442億26百万円の資金流入額の減少となりました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において営業活動による資金の増加は848億58百万円(前連結会計年度は1,161億63百万円の増加)となりました。これは、売上債権及び契約資産、棚卸資産が増加した一方で、税金等調整前当期純利益の計上などによるものであります。
 前連結会計年度に対しては、313億5百万円の資金流入額の減少となりました。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において投資活動による資金の減少は624億18百万円(前連結会計年度は494億98百万円の減少)となりました。これは、投資有価証券を売却した一方で、有形固定資産を取得したことなどによるものであります。
 前連結会計年度に対しては、129億20百万円の資金流出額の増加となりました。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において財務活動による資金の減少は458億67百万円(前連結会計年度は771億93百万円の減少)となりました。これは、主として、コマーシャル・ペーパーが増加した一方で、長期借入金並びにリース債務の返済などによるものであります。
 前連結会計年度に対しては、313億26百万円の資金流出額の減少となりました。

 当連結会計年度における資本の財源は営業活動によるキャッシュ・フローであり、その主な内訳は、税金等調整前当期純利益1,140億32百万円、減価償却費518億75百万円、契約負債の増加によるもの43億57百万円、売上債権及び契約資産の増加によるもの△356億99百万円、法人税等の支払額△314億81百万円、棚卸資産の増加によるもの△213億60百万円、投資有価証券売却損益△68億55百万円、などとなっております。
 なお、当社グループは事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としており、設備投資に係る資金については、基本的に、社債及び長期借入金より調達することとしております。

 これらの結果、当連結会計年度末における連結ベースの資金は、前連結会計年度末に比べ186億21百万円(22.1%)減少し、655億43百万円となりました。

 

(4)経営上の目標の達成状況(連結)

 当社は、創立100周年に当たる2023年度を最終年度とする5ヵ年中期経営計画において、目標に定めた売上高1兆円・営業利益率8%以上を1年前倒しで達成しました。

 2023年度連結実績は、次のとおりとなっております。

 

 

2023年度

中期経営計画

2023年度

実績

増減

売上高

10,000億円

11,032億円

+1,032億円

営業利益

800億円

1,061億円

+261億円

営業利益率

8.0%

9.6%

+1.6pt

親会社株主に

帰属する当期純利益

550億円

754億円

+204億円

 

 

(5)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。連結財務諸表を作成するにあたり、当社グループが採用している重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)」に記載しているとおりであります。連結財務諸表の作成には、資産、負債、収益及び費用の額に影響を与える見積り及び仮定を必要とします。これらの見積り及び仮定は、過去の実績や当連結会計年度末時点で入手可能な情報を総合的に勘案し合理的に判断しておりますが、見積り特有の不確実性が存在するため、実際の結果は異なることがあります。

 当社が連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは以下のとおりであると考えております。

 

①履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき一定の期間にわたり認識する収益について

 当社グループは、個別受注生産による製品の販売及び工事契約による請負、役務の提供(以下、工事契約等)については、履行義務の充足に係る進捗度を見積り、当該進捗度に基づき一定の期間にわたり収益を認識する方法(履行義務の充足に係る進捗度の見積りはコストに基づくインプット法)を適用しております。履行義務の充足に係る進捗度は案件の原価総額の見積りに対する連結会計年度末までの発生原価の割合に基づき算定しております。当該見積りについて将来の事業環境の変動等により見直しが必要となった場合、翌連結会計年度以降の連結財務諸表において認識する収益及び費用の金額に影響を与える可能性があります。

 

②固定資産(のれんを含む)の減損判定

 当社グループは、保有する固定資産(のれんを含む)について減損の兆候がある場合は、当該資産又は資産グループについて減損損失を認識するかどうかの判定を行い、減損が必要と判定された場合は帳簿価額を回収可能価額まで減額し、当該減少額を減損損失として計上しております。減損損失を認識するかどうかの判定及び減損損失の測定に用いられる当該資産又は資産グループから得られる将来キャッシュ・フローの見積り及び仮定等について将来の事業環境の変動等により見直しが必要となった場合、翌連結会計年度以降の連結財務諸表において減損損失が発生する可能性があります。

 

③投資有価証券の減損判定

 当社グループは、上場株式は相場価格を用いて時価を算定しております。期末における当該時価が取得原価に比べ50%以上下落した場合は減損処理を行い、30~50%程度下落した場合には、回復可能性を考慮して減損処理を行っております。また、非上場株式等の市場価格のない株式等については、財政状態の悪化により実質価額が著しく低下した場合は、回復可能性を考慮して減損処理を行っております。将来の市況悪化又は投資先の業績不振等、現在の見積り及び仮定に反映されていない事象が発生した場合、翌連結会計年度以降の連結財務諸表において評価損が発生する可能性があります。

 

④繰延税金資産の回収可能性

 当社グループは、将来の課税所得を合理的に見積り、回収可能性を判断したうえで繰延税金資産を認識しております。将来の課税所得の見積りについて、将来の事業環境の変動等により見直しが必要となった場合、翌連結会計年度以降の連結財務諸表において認識する繰延税金資産及び法人税等調整額の金額に影響を与える可能性があります。

 

⑤退職給付債務の算定

 当社グループには、確定給付制度を採用している会社が存在します。確定給付制度の退職給付債務は、数理計算上の仮定を用いて算定しており、当該数理計算上の仮定には、割引率、退職率、昇給率等の様々な計算基礎があります。当該見積り及び当該仮定について、将来の不確実な経済条件の変動等により見直しが必要となった場合、翌連結会計年度以降の連結財務諸表における退職給付に係る資産、退職給付に係る負債及び退職給付に係る調整累計額の金額に影響を与える可能性があります。

 

 なお、当連結会計年度末の退職給付債務の算定に用いた主要な数理計算上の仮定は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 (退職給付関係)(9)数理計算上の計算基礎に関する事項」に記載しているとおりであります。

 

 

5【経営上の重要な契約等】

 当社は、2023年12月21日開催の取締役会において、当社の100%子会社である富士電機ITセンター株式会社の権利義務の全てを合併により承継する決議を行い、同日に、同社と合併契約を締結しました。

合併の概要は以下のとおりです。

 

(1)合併の目的

 当社は、エネルギー・環境事業を通じて、社会・環境課題の解決、お客様価値の創造に貢献してまいりました。今後の更なる成長に向けて、パワエレ事業、パワー半導体事業の拡大を中核とする「成長戦略の推進」、グローバルでのものつくり力強化による「収益力の更なる強化」、及び、ESG(環境、社会、ガバナンス)を中心とした「経営基盤の継続的な強化」を引き続き推し進めるとともに、外部環境変化への適応力を一層強化し、売上・利益の拡大を目指しています。この推進には、デジタル技術の活用による競争力の強化と、それを支えるIT基盤の強化がより一層重要になるものと考えています。

以上の観点から、当社グループ内のIT基盤に関する企画、開発、保守、運用を担当する当社100%出資の連結子会社である富士電機ITセンター株式会社を、2024年4月1日付けで当社に統合するとともに、保守、運用機能を共通サービス子会社である富士オフィス&ライフサービス株式会社(当社100%出資、連結子会社)に移管いたします。

これにより、ITの企画、開発に係るリソースを当社に集約することでIT基盤を強化し、DX推進、サイバーセキュリティ強化等の取組みを加速してまいります。

 

(2)合併の方法

 当社を存続会社、富士電機ITセンター株式会社を消滅会社とする吸収合併。

 

(3)合併に際して発行する株式及び割当

 当社100%子会社との合併であるため、本合併による新株式の発行及び資本金の増加並びに合併交付金の支払いはありません。

 

(4)合併の期日

 2024年4月1日

 

(5)引継資産・負債の状況

 富士電機株式会社は、以下の2023年3月31日現在の富士電機ITセンター株式会社の貸借対照表その他同日現在の計算を基礎とし、これに合併に至るまでの増減を加除した一切の資産、負債及び権利義務を合併期日において引継ぎいたします。

資産

金額

負債

金額

  流動資産

3,324百万円

  流動負債

2,117百万円

  固定資産

1,695百万円

  固定負債

1,357百万円

資産合計

5,019百万円

負債合計

3,474百万円

 

 

 

(6)吸収合併存続会社となる会社の概要

(1)商号

富士電機株式会社

(2)事業内容

エネルギー、産業、輸送その他社会インフラに関する各種機器、

システム及び半導体デバイス、自動販売機、店舗設備機器の開発、

製造、販売、サービス並びにこれらに関するソリューションの提供

(3)設立年月日

1923年8月29日

(4)本店所在地

川崎市川崎区田辺新田1番1号

(5)代表者の役職・氏名

代表取締役会長CEO 北澤 通宏

代表取締役社長COO 近藤 史郎

(6)資本金

47,586百万円

(7)発行済株式数

149,296,991株

(8)決算期

3月31日

(9)大株主及び持株比率(2023年3月31日現在)

日本マスタートラスト信託銀行㈱(信託口)18.62%

㈱日本カストディ銀行(信託口)13.27%

朝日生命保険相互会社 2.77%

(10)直近事業年度の財政

  状況及び経営成績

2023年3月期(連結)

  純資産

572,068百万円

  総資産

1,181,552百万円

  1株当たり純資産

3,620.23円

  売上高

1,009,447百万円

  営業利益

88,882百万円

  経常利益

87,811百万円

  親会社株主に帰属する

  当期純利益

61,348百万円

  1株当たり当期純利益

429.50円

 

6【研究開発活動】

富士電機は、パワー半導体、パワーエレクトロニクス、計測・制御、冷熱などのコア技術を活用して、創エネルギーからエネルギー安定供給や省エネルギー、オートメーション、モビリティの電動化など、多くの先端的なシステムを手掛けています。

当連結会計年度における富士電機の研究開発費は36,059百万円であり、各部門の研究成果及び研究開発費は次のとおりです。

また、当連結会計年度において富士電機が保有する国内外の産業財産権の総数は13,268件です。

 

■エネルギー部門

 発電プラント分野では、地熱発電プラントの発電効率や稼働率の向上に向けて、タービンの汚損抑制や高腐食性蒸気に対する耐久性向上などの要素技術を開発しました。タービン翼の汚損抑制のためDLC(Diamond-Like Carbon:非晶質炭素膜)コーティングによるスケールの付着量の低減技術を開発し、実機への適用を進めています。高腐食性蒸気対策では、腐食速度のシミュレーション技術を確立し、発電用蒸気中の腐食成分や温度圧力条件に適したタービン材料の選定が可能となり、タービンの耐久性向上を実現しました。また、地熱発電所向けメンテナンスサービスとして、発電機内に侵入する硫化水素ガスを測定し、金属ボルトやパッキンなど周辺部品の劣化状態を推定する技術を開発しました。運転中の発電機から、劣化要因となる腐食性ガスを測定して固定子巻線の劣化状態を推定する実用化済の技術と合わせることで、地熱発電プラントの寿命推定精度を向上し、保守・保全プランを提案します。また、工場・施設などの電源向けに、自動車用の固体高分子形燃料電池モジュールを適用した定置型の水素発電システムの開発を進めています。日本産業規格(JIS)に準拠した安全性試験(JIS C 62282-3-100)と性能試験(JIS C 62282-3-200)を完了し、加えて、連続運転試験を実施し、10年の耐久性が得られる見通しを得ました。

 エネルギーマネジメント分野では、富士電機インド社において、業界最高レベルの変換効率98.8%を実現した太陽光発電向けのセントラル型PCS(Power Conditioning System)「PVI1500CI」(DC1,500V、1,000~4,000kVA)を開発し発売しました。インド政府は2030年までに二酸化炭素排出の50%削減を目指しており、インドの太陽光発電市場は年間8~10GW規模で拡大すると予想されています。PVI1500CIは、日本で販売実績のあるPVI1500CJをベースとし、1,000kVAの電力変換モジュールを4台組み合わせることにより、最大4,000kVAの大容量に対応します。国内では、再生可能エネルギーの普及拡大に向けた電力需給調整力の一つとして、定置用蓄電池の導入が期待されています。蓄電池システム向けに、重耐塩仕様の屋外設置型・2,600kVA蓄電池用PCS (PVI1400CJ-3)を開発し発売しました。また、蓄電池の高電圧化に対応し、最大入力電圧をDC1,500Vとした2,750kVA蓄電池用PCS「PVI1500CJ-3/2750B」を開発し発売しました。高電圧化により同一容量での電流値が下がることで接続配線を削減できます。さらに、電力市場で取引する事業者に対し、蓄電池の充放電計画の策定など運用を支援することにより、収益拡大に貢献する蓄電池運用システムの開発を進めています。蓄電池の充放電計画の策定機能を開発し、シミュレーションにより収益改善への有効性を確認しました。

 変電分野では、設置面積を大幅に削減した154kV,200MVAの特別三相変圧器を開発しました。特別三相変圧器は、三相変圧器を3個の単相変圧器に分割して輸送し、現地で再組立てが可能な構造の変圧器です。今回、単相変圧器の構造を改良し、負荷時タップ切換器を単相変圧器内に収納することで、当社同仕様の三相変圧器に対して、本体部分の設置面積を20%削減しました。

 施設・電源システム分野では、工場設備や医療設備、放送・通信設備向けに200V系の中容量無停電電源装置「UPS6600FX」(20~50kVA)に加えて、「UPS7600FX」(50~100kVA)を開発し発売しました。中容量UPSシリーズは、インバータやコンバータなどの電力変換部をユニット構造として交換を容易にし、冷却ファンや制御電源などの部品を長寿命化したことにより、メンテナンスコストの削減に貢献します。また、データセンターの大容量化のニーズに対応するため、業界最大クラスとなる単機容量2,400kVAの大容量モジュール型無停電電源装置「UPS7500WX」を開発し発売しました。商用電源が正常な際に、電力損失が少ない商用電源から給電する「高効率運転モード(HEモード)」を搭載し、電力交換効率98.5%を実現しました。また、周辺盤を組み合わせた一体設計とすることで、設置面積を従来比25%削減し、業界最小クラスを実現しました。

 器具分野では、これまで業界を牽引してきた国内トップシェアの電磁開閉器を35年ぶりにフルモデルチェンジした「SC-NEXTシリーズ」の定格通電電流値11~18Aと20~38Aを開発し発売しました。内部構造の見直しにより横幅寸法を従来比で28%削減し、制御盤の小型化や高性能化に貢献します。また、コイルの改良により消費電力を従来比で最大73%削減し、業界トップの低消費電力を実現しました。さらに、プラスチック材料の98%にリサイクル可能な材料を採用し、環境に配慮した製品としました。

 当連結会計年度における当部門の研究開発費は9,116百万円です。

 

■インダストリー部門

 ファクトリーオートメーション分野では、工作機械やファン・ポンプ、搬送ライン向けの汎用インバータ「FRENIC-Ace シリーズ」を刷新し、発売を開始しました。海外で広く普及し、高速通信が可能な通信規格であるEthernetを標準搭載したタイプや、省スペース化が可能なフィンレスタイプなどの機種をそろえ、インバータのメンテナンスに有効な予兆保全機能を強化しました。本製品は、日本、東南アジア、欧米などにグローバルに展開していきます。

FAコンポーネント分野では、製造現場の装置・機械の監視・操作に用いられ、IoTシステムのゲートウェイ機器としても活用されるプログラマブル表示器「MONITOUCH V10シリーズ」を開発し発売しました。クアッドコアCPUの搭載とアプリケーションの最適化により、業界トップの操作性と視認性、通信処理の高速化を実現しました。また、ロボット・印刷機・金属加工機・搬送装置向けに中容量(2.9kW~7.5kW)対応のサーボシステム「ALPHA7」シリーズを開発し発売しました。国際標準規格IEC 61800-5-2などで定義された各種安全機能にも対応し、安全操業に貢献します。さらに、「ALPHA7」用の診断オプションを開発し発売しました。当社独自のアナリティクス・AI(MSPC)を適用した異常診断機能により、加工装置など設備の正常時のデータ(診断モデル)と稼働中のデータの差異を解析することで異常の検知や原因分析ができます。これにより、装置の安定稼働に貢献します。また、加工機械・包装機械向けのサーボシステム「ALPHA5 Smart」シリーズの後継品として、容量0.2kW~4.4kWの「ALPHA7S」シリーズを開発し、発売しました。「ALPHA5 Smart」シリーズに比べて周波数応答を2倍以上の3.2kHzに高速化し、モータの位置や速度を検出するセンサー(エンコーダ)の分解能を従来の20bitから24bitに高精度化したことで、機械のタクトタイム短縮と加工精度の向上に貢献します。

駆動制御システム分野では、鉄鋼、クレーン、自動車、石油化学など国内外の様々な産業向けに出力電圧400V及び690Vのプラント用インバータ「FRENIC-GS」を開発し発売しました。本製品は国際規格(IEC、CE、ULなど)に対応するとともに、冷却構造とスタック収納構造の刷新により、業界最高レベルの小型・高出力化、省配線化を実現しています。さらに、制御LANと情報LANを分離することで高速・高精度な制御を行いながら、詳細な設備の監視が可能となりました。これらにより、顧客の生産性向上、安定操業、保全作業の省力化に貢献します。また、国内鉄鋼圧延プラント設備を中心に1970年代に多数納入された直流電動機(日本電機工業会規格 JEM1109に準拠)の互換型として「800番/600番互換型鉄鋼圧延補機用誘導電動機」を開発し発売しました。本誘導電動機は既設の直流電動機に外形寸法を合わせたとともに、出力や回転速度及び過負荷耐量を含めた電気仕様、耐震強化構造や冷却方式についても既設の直流電動機と同等仕様としたことにより、短期間でのシステムの置き換えを可能としました。

 計測制御システム分野では、ソフトセンサを構築するためのツールとして、業界で初めて自動機械学習を適用した「推算用モデル式構築/演算ツール」を開発し発売しました。ソフトセンサは、リアルタイムで測定することが難しい濃度や強度などの値を、温度や圧力、流量などの容易に収集できるデータを使って推算する技術で、化学や鉄鋼、製薬などのプラント・工場で用いられます。このソフトセンサを監視制御システムに実装することで、製造過程の製品状態をリアルタイムで推算でき、原料やエネルギーのムダを抑えることが可能となりますが、一方でソフトセンサを構築するためには多くの作業が必要で、構築に時間がかかっていました。今回開発した「推算用モデル式構築/演算ツール」は、ソフトセンサを構築する工程を自動化したことで作業の大幅な時間短縮を実現し、顧客の作業効率を改善します。

 原子力分野では、原子力発電所の廃止措置で発生する廃棄物の円滑な処理に向けて、迅速に放射性元素濃度を分析するため、試料の前処理を含めた分析システムの開発を進めています。また、原子力発電所で発生する廃液や焼却灰を固化して処分するため、一般的に使用されているセメントに比べてセシウムの閉じ込め効果が高いジオポリマーを用いた安定固化技術の開発を進めています。

 放射線機器・システム分野では、任意の場所で中性子線の線量率の測定が可能な可搬型モニタリングポストを開発し発売しました。内部機器の改良などにより小型軽量にしたことで、移動式架台に機器類を実装して容易に運搬できます。また、内蔵したGPSによって取得した位置情報と線量率データと合わせて保存することで、自然災害時などにおける安全管理を支援します。

 情報制御システム分野では、製造業のDX(デジタルトランスフォーメーション)に貢献するため、MES(Manufacturing Execution System:製造実行システム)を提供しています。MESは、複数の「MainGATE」のパッケージで構成されています。従来は分かれていた製造の実行指示、製造管理、統合マスタ管理を一つに統合したパッケージを開発し発売しました。新たに搭載した製造実績データの連携機能により、操業の効率化・品質管理・設備保全などに活用できます。さらに、国際標準の通信規格OPC UAに準拠したことで、連携可能な監視制御システムや基幹業務システムが拡大しました。また、製造実績分析パッケージ「MainGATE/PPA」の機能を拡張した「MainGATE/MPA」を開発し発売しました。生産管理の国際標準規格ISO22400-2に準拠し、そこで定められた製造現場の主要な4つのオペレーション領域毎(品質/生産性/保全/在庫)に分析テンプレートを準備し、KPI(重要業績評価指標)からプロセスデータまでのドリルダウン分析を可能とすることで、データ活用による製造工程のDXを支援します。さらに、製造現場に設置される様々な機器のデータを収集するエッジコントローラ「FiTSAΣ B5」を開発し発売しました。メモリ容量を拡大したことで従来製品比2倍のデータを収集・蓄積することが可能となり、詳細な生産設備の監視や収集データの分析を支援し、生産性向上に貢献します。また、オフィス業務のDX実現に向けて、これまでオンプレミスのWEBシステムとして多数の導入実績のある、民間企業向けのワークフロー「ExchangeUSE」と行政向けの文書管理システム「e-自治体」について、クラウドを利用するSaaSサービスの製品として新たに開発し発売しました。オンプレミス製品として提供してきた豊富な機能から、顧客の業務に合わせて最適な機能を選択して利用できるため、短期間かつ低コストで導入可能です。

 フィールドサービス分野では、回転機故障予兆監視システム「Wiserot」において、無線周波数帯域に315MHzに加えて912MHzを追加して無線式振動センサの無線通信距離を従来の20mから150mに延長した長距離版を開発し発売しました。これにより、高所を含め屋内外の様々な場所に設置された回転機に対応でき、予兆監視システムを容易に構築できます。

 当連結会計年度における当部門の研究開発費は10,788百万円です。

 

■半導体部門

 産業モジュール分野では、低損失で高温動作が可能な第7世代IGBT技術を適用した製品の系列を拡大しています。鉄道や再生可能エネルギー分野における高耐圧化の要求に応えるため、大容量モジュール「HPnC」(High Power next Core)パッケージに、最新の第7世代IGBT/FWD「Xシリーズ」チップを搭載した1,700V耐圧品、2,300V耐圧品を開発し発売しました。3,300V耐圧品のサンプル展開もあわせて進めています。風力発電システム向けには、電力安定化回路に対して最適化した第7世代IGBTモジュール1,700V/600A DualXTを開発し、量産を開始しました。このモジュールの適用により、電力変換装置の信頼性向上に貢献します。また、太陽光発電システム向けに最適化したIGBTモジュール1,200V/800A(M276パッケージ)を新たに開発し、サンプル展開を開始しました。従来の1200V/600Aから定格電流を拡大したことにより、装置の小型化に貢献します。エアコンやサーボシステム向けには、第7世代IGBT/FWDチップを搭載したモールドタイプの小容量IPM(Intelligent Power Module)650V/10~30Aを開発し発売しました。モールド構造の採用により高密度実装化することでモジュールの外形寸法を大幅に小型化(従来ケース構造比40%)しました。また、最新のチップを適用することで、従来製品に対して、電力損失を10%低減し、電磁ノイズも約1/3に低減しました。これらにより、機器の小型化と省エネに貢献します。さらに、鉄道や再生可能エネルギー分野向けのパワエレ機器の小型・軽量化、高効率化のため、第2世代SiCトレンチゲートMOSFETを搭載した1,700V/200,300,400A(M295パッケージ)のAll-SiCモジュールを開発し、量産を開始しました。また1,200V耐圧製品の開発も完了し、量産化の準備を進めています。第2世代SiCチップの適用により、従来のSi-IGBTチップに比べて総損失を約70%低減しました。また、今回新たに開発したM295パッケージは、従来の標準パッケージ(M276)に比べて配線インダクタンスを24%削減したことで、ノイズや故障の原因となるサージ電圧を低減できます。これらにより、インバータなどの顧客装置の効率向上や信頼性向上に貢献します。

 車載モジュール分野では、中国の電動車市場向けに、RC-IGBTチップと冷却性能の改善により、電力密度をさらに高めた直接水冷型パワーモジュール750V/820A(M675パッケージ)を開発し、量産を開始しました。また、2026年以降のxEV(電動車)モデル向けに、損失を低減し信頼性を高めた次世代IGBT及びSiCの開発を進めています。これらの製品を通じて、電動車の高効率化と小型軽量化に貢献します。

 IC分野では、LED照明用第4世代臨界PFC-ICを開発し、量産を開始しました。力率向上とTHD(全高調波歪率)改善機能により、国際標準規格IEC61000-3-2で定められた高調波電流規制Class Cに準拠しました。また、当第2四半期から量産を開始した第4.5世代LLC電流共振ICと組み合わせて適用することで、電源システムにおける軽負荷時の効率向上、待機電力の低減、電源部品の削減によるコストダウンに貢献します。また、スイッチング電源向けに、第7世代PWM制御ICの量産を開始しました。ICの間欠動作機能を追加することにより、電源待機時の消費電力を低減し、省エネルギーに貢献します。さらに高電圧入力端子の耐圧を従来の500Vから業界最高の710Vに高耐圧化したことで、海外の電力供給が不安定な地域でも適用可能になります。

 感光体分野では、耐久性と画質を向上させたオフィス向けカラー複写機用感光体を開発し、量産を開始しました。高耐摩耗性の樹脂と高感度特性を備えた電荷輸送材を採用し、それらの配合比率を最適化することで、従来品よりも長期間にわたり安定した画像品質を実現しました。また、オフィス向け中速カラープリンタ用の有機感光体を開発し、量産を開始しました。添加剤の種類と量を最適化する事で感度を向上させるとともに、温湿度変化に対して特性変動が少ない電荷発生材を採用することで、従来品よりも色ムラの無い画像品質を実現しました。

 当連結会計年度における当部門の研究開発費は12,452百万円です。

 

■食品流通部門

 自動販売機(自販機)分野では、省エネルギー(省エネ)性能を向上させた「サステナ自販機」の機種拡大を進めました。2023年度は小型機を中心とした15機種を追加し、合計24機種に拡大しました。この自販機は、インバータ制御によるコンプレッサの高効率化、庫内構造と断熱材の最適化による侵入熱量の低減などを進めることにより、従来機と比べて年間消費電力量を最大20%削減しました。業界最高レベルの省エネを実現し、“2023年度省エネ大賞”の製品・ビジネスモデル部門において、経済産業大臣賞を受賞しました。

 店舗分野では、外食産業やオフィス向けに、ドリップタイプの業務用全自動コーヒーマシン「Cafe Mania」を開発し発売しました。新規に開発した超微細ファインメッシュフィルタでコーヒーを抽出することで、豆本来の香りや風味を残しながら、雑味を極限までなくしました。また、レストランやオフィスでの使いやすさに配慮し、清掃やメンテナンスの際に取り外して洗浄する部品を減らすとともに、簡単に脱着できる構造としました。また、平型冷凍ショーケースの消費電力量削減のため、ショーケースの上部に取り付け可能な「省エネフード」を開発し発売しました。商品の取出しやすさを維持しながら、天井からの輻射熱による熱負荷の侵入を低減し、冷凍機の負荷を削減することで省エネを実現しました。

 当連結会計年度における当部門の研究開発費は3,666百万円です。

 

■新技術・基盤技術分野

 太陽光発電や風力発電で発電し、貯蔵した電力を電力取引市場で売買するビジネスが拡大しています。そこで、電力取引における独立系発電事業者(IPP)や特定卸供給事業者(アグリゲーター)などの収益最大化に向けて、EMS(Energy Management System)に搭載する、電力取引市場の価格予測技術を開発しています。主な電力取引市場には、取引当日の発電機不調や気温変化による発電量の需給を調整するための「時間前市場」や電力需給のバランスを調整するため、蓄電池の充放電量などを取引する「需給調整市場」があります。これらの市場向けに各々価格予測技術を開発し、高精度に予測できることを確認しました。また、卸電力や需給調整などの新たな電力取引市場での収益向上のため、充放電を計画的に行う蓄電池システムの制御技術を開発しました。その中で当社は、蓄電池に水素製造装置を組み合わせて、これらを最適に制御するハイブリッド制御技術を開発しました。水を電気分解して水素を生成する水素製造装置により、蓄電池に貯蔵できない余剰な電力を無駄なく水素として貯蔵し、これを活用することで、収益の最大化に貢献します。

 エネルギー利用効率向上や生産性向上のため、デジタル技術を活用した製造現場のスマート化が進展しています。これに伴いネットワーク化が進んでいますが、外部からのサイバー攻撃による情報流出や生産停止のリスクは増大しており、サイバーセキュリティ対策の重要性が増しています。そこで、制御システムにおけるセキュリティの国際標準規格であるIEC62443への対応に向けたセキュリティ検証技術の開発を進めています。現在、当社コントローラ製品を対象として、規格に準拠するために必要な暗号化や電子証明書を用いたセキュアなプログラム起動技術などの要素技術を抽出し、認証取得に向けた機能を開発しました。今後は順次、当社製品への適用を進める予定です。

 当社の半導体事業は、需要の拡大により多くの案件に対応するため、開発リードタイムの短縮が課題となっています。この課題を解決するため、シミュレーション技術の高度化を進めています。この中で、パワー半導体の電気回路と熱の連成解析において、従来の3Dモデルと同等の解析精度を維持し、かつ、1/1000の短時間で計算できる1Dモデルの技術を確立しました。今後、本技術をパワー半導体モジュールの設計ツールへ展開することで、開発リードタイムの短縮に貢献していきます。

 近年、分散型電源の利用が拡大する中、太陽光発電や燃料電池、蓄電池など、直流で動作する電源設備が増えています。これらを直流バスで接続する直流配電システムの高効率化に向け、低損失かつ広範囲な電圧変動に対応可能なDC/DCコンバータを開発しています。現在、小型化・高効率化に向けて、当社SiCモジュールを適用して検証を進めています。試作機の性能評価の結果、変換効率は、定格電圧条件(入力600V/出力750V)で業界トップクラスの98%を達成しました。

 SiCデバイスの性能を向上させるため、計算科学を用いて、デバイス特性の変動要因となる結晶欠陥の発生や抑制メカニズムの解明に取り組んでいます。今回、機械学習を活用した大規模な分子動力学計算(2千~1万原子規模)の技術を確立し、製造条件の違いによる結晶欠陥の発生メカニズムを明らかにしました。この技術を活用して製造プロセスの最適化を行い、デバイスの性能向上に貢献します。

 カーボンニュートラルの実現に向けて、工場排熱を有効利用する産業向けのヒートポンプがこれまで以上に注目されています。これに対応すべく、工場の生産工程で廃棄されていた60℃から100℃の排熱を活用し、自動販売機で培ったヒートポンプ技術を適用して高効率に蒸気を生成する排熱回収型150℃蒸気発生ヒートポンプ技術を開発し、製品化に向けた取組を進めています。これにより、工場の省エネルギー化やCO2排出量の削減に貢献します。

 将来の水素社会実現に向けて、水素製造装置のコスト低減が見込めるAEM(Anion Exchange Membrane)型水電解水素生成技術の開発に取り組んでいます。性能向上や長期信頼性などの技術課題の抽出と対策を検討するため、水電解セルの開発を進めており、現在、単セルの試作と耐久性の検証を行っています。本開発は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「燃料電池等利用の飛躍的拡大に向けた共通課題解決型産学官連携研究開発事業」において、「アニオン膜型アルカリ水電解セルの要素研究と実用化技術の確立」として採択され、2024年度末までにAEM型水電解スタックでの性能及び耐久性の検証を実施します。

 水素と同様に次世代燃料として期待されているアンモニアの社会実装に向けた取り組みとしては、NEDOがグリーンイノベーション基金事業として公募した「次世代船舶の開発」プロジェクトへ「アンモニア燃料船サプライチェーン構築における周辺機器開発」を提案し、採択されました。本事業では、2024年度から2027年度にかけて、アンモニアの高感度漏えい検知などの安全対策技術の開発を実施します。

 

■その他部門

 当連結会計年度における当部門の研究開発費は34百万円です。