第一部【企業情報】

第1【企業の概況】

1【主要な経営指標等の推移】

(1)連結経営指標等

回次

第18期

第19期

第20期

第21期

第22期

決算年月

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

売上高

(千円)

1,199,909

1,286,284

2,234,568

2,953,272

2,426,817

経常利益又は経常損失(△)

(千円)

891,792

788,730

507,409

119,670

40,191

親会社株主に帰属する当期純損失(△)

(千円)

1,016,520

812,572

575,094

305,313

31,415

包括利益

(千円)

1,063,822

736,500

567,820

287,354

136,095

純資産額

(千円)

6,058,146

5,391,055

7,250,789

7,575,222

8,311,593

総資産額

(千円)

6,553,042

6,047,488

8,095,322

8,355,848

9,052,627

1株当たり純資産額

(円)

84.76

75.17

88.11

89.01

93.41

1株当たり当期純損失金額(△)

(円)

14.27

11.38

7.57

3.62

0.37

潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額

(円)

自己資本比率

(%)

92.3

89.0

89.5

90.7

91.8

自己資本利益率

(%)

株価収益率

(倍)

営業活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

689,803

648,883

246,244

140,534

11,451

投資活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

1,217,887

1,416,764

2,144,054

1,087,496

404,424

財務活動によるキャッシュ・フロー

(千円)

6,566

4,410

2,384,754

482,872

544,050

現金及び現金同等物の期末残高

(千円)

4,585,626

2,601,406

2,636,976

1,914,569

2,939,057

従業員数

(人)

113

106

98

92

96

(外、平均臨時雇用者数)

(8)

(7)

(23)

(31)

(16)

(注)1.潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額については、18期、19期及び21期は潜在株式が存在していないため、記載はしておりません。20期及び22期は潜在株式が存在するものの、1株当たり当期純損失金額であるため記載しておりません。

2.自己資本利益率については、親会社株主に帰属する当期純損失を計上しているため記載しておりません。

3.株価収益率については、親会社株主に帰属する当期純損失を計上しているため記載しておりません。

4.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号 2020年3月31日)等を第20期の期首から適用しており、その後の連結会計年度に係る主要な経営指標等については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっております。

 

(2)提出会社の経営指標等

回次

第18期

第19期

第20期

第21期

第22期

決算年月

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

売上高

(千円)

428,601

605,511

1,284,256

1,550,728

941,480

経常損失(△)

(千円)

563,659

559,360

381,835

111,525

61,957

当期純損失(△)

(千円)

905,463

997,427

541,272

296,701

205,222

資本金

(千円)

6,767,487

6,802,191

1,715,318

2,023,770

2,322,198

発行済株式総数

(株)

71,406,891

71,667,391

82,270,891

85,141,191

89,013,591

純資産額

(千円)

6,544,903

5,667,893

7,548,937

7,865,546

8,368,607

総資産額

(千円)

6,879,896

6,091,009

8,189,586

8,387,295

8,776,486

1株当たり純資産額

(円)

91.69

79.12

91.73

92.42

94.05

1株当たり配当額

(円)

(うち1株当たり中間配当額)

(-)

(-)

(-)

(-)

(-)

1株当たり当期純損失金額(△)

(円)

12.71

13.96

7.13

3.52

2.40

潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額

(円)

自己資本比率

(%)

95.1

93.1

92.1

93.8

95.3

自己資本利益率

(%)

株価収益率

(倍)

配当性向

(%)

従業員数

(人)

34

34

31

28

26

(外、平均臨時雇用者数)

(3)

(4)

(21)

(29)

(14)

株主総利回り

(%)

151.7

170.7

93.8

99.6

65.7

(比較指標:TOPIX)

(%)

(88.2)

(122.8)

(122.3)

(125.9)

(173.9)

最高株価

(円)

475

547

455

370

324

最低株価

(円)

196

296

198

189

155

(注)1.潜在株式調整後1株当たり当期純利益金額については、18期、19期及び21期は潜在株式が存在していないため、記載はしておりません。20期及び22期は潜在株式が存在するものの、1株当たり当期純損失金額であるため記載しておりません。

2.自己資本利益率については、当期純損失を計上しているため記載しておりません。

3.株価収益率については、当期純損失を計上しているため記載しておりません。

4.最高株価及び最低株価は、2022年4月4日より東京証券取引所グロース市場におけるものであり、それ以前については、東京証券取引所JASDAQ(グロース)におけるものであります。

5.「収益認識に関する会計基準」(企業会計基準第29号) 2020年3月31日)等を第20期の期首から適用しており、その後の事業年度に係る主要な経営指標については、当該会計基準等を適用した後の指標等となっております。

 

2【沿革】

 当社は、細胞技術を中心とした次世代医療ビジネスの確立を目的として、京都大学再生医科学研究所・所長の中辻憲夫教授(当時)と東京大学医科学研究所幹細胞治療研究センターの中内啓光教授(当時)の技術シーズを基盤として2003年2月に設立されました。

年月

  事項

2003年2月

東京都港区西新橋において株式会社リプロセル(資本金10百万円)を設立

2003年5月

東京大学医科学研究所と共同研究契約を締結

2003年6月

京都大学と共同研究契約を締結

2003年12月

本店を東京都千代田区内幸町に移転

2004年8月

当社の第一号ビジネスとして、Nanog抗体の製造販売を開始(研究試薬)

2005年4月

ヒトES細胞用の培養液、剥離液、凍結保存液の製造販売を開始(研究試薬)

2005年6月

東京都港区白金台に研究所を設立

2006年12月

衛生検査所登録を行い、臨床検査事業を開始

2007年6月

本店を東京都港区白金台に移転

2007年11月

京都大学山中伸弥教授がヒトiPS細胞を発明

当社の培養液がヒトiPS細胞の樹立及び培養に使用される

2009年3月

世界で初めてiPS細胞の樹立方法に関する知財の商業利用ライセンスをiPSアカデミアジャパン㈱から取得

2009年4月

世界で初めてヒトiPS細胞由来心筋細胞の製造販売を開始(細胞製品)

2010年6月

本店を横浜市港北区新横浜に移転

2010年10月

世界で初めてヒトiPS細胞由来神経細胞の製造販売を開始(細胞製品)

2011年5月

独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発プロジェクト「ヒト幹細胞産業応用促進基盤技術開発」に採択

2012年6月

世界で初めてヒトiPS細胞由来肝細胞の製造販売を開始(細胞製品)

2012年6月

世界で初めてヒトiPS細胞アルツハイマー病モデル細胞の製造販売を開始(細胞製品)

2012年9月

2012年度産学官連携功労者表彰・厚生労働大臣賞を受賞

2012年12月

ReproCELL USA Inc.がボストンに販売拠点を設立

2013年6月

大阪証券取引所JASDAQ(グロース)に上場

2013年7月

東京証券取引所と大阪証券取引所の統合に伴い、東京証券取引所JASDAQ(グロース)に上場

2013年10月

京浜臨海部ライフイノベーション国際戦略総合特区として新横浜地区(㈱リプロセル)が採択

2014年2月

次世代の創薬・医療ビジネスの創造にフォーカスしたベンチャーキャピタルファンド「Cell Innovation Partners, L.P.」の無限責任組合員への出資等を行う子会社、RCパートナーズ株式会社を設立

2014年6月

NEDOプロジェクト「2013年度 イノベーション実用化ベンチャー支援事業」に係る助成事業への採択

2014年7月

3次元培養デバイスの開発・製造・販売を手掛けるReinnervate(英国)の株式取得(連結子会社化)

2014年9月

ヒト生体試料のバンキング及び提供を手掛けるBioServe(米国)を株式取得(連結子会社化)

2014年10月

iPS細胞向け研究試薬の製造・販売を手掛けるStemgent(米国)の iPS 細胞事業部門を米国子会社 ReproCELL USA により事業買収し、同子会社名を Stemgent に社名変更

2015年1月

造血幹細胞の増幅方法に関する国内特許成立

2015年7月

当社事業「創薬応用可能な高機能なヒト iPS 細胞由来肝細胞キットの試作品開発」が「2014年度補正ものづくり・商業・サービス革新補助金」に採択

 

 

年月

  事項

2015年8月

当社事業「大量供給可能で高機能なヒト iPS 細胞由来心筋細胞の試作品開発」が「2015年度革新的ものづくり産業創出連携促進事業補助金」に採択

2015年11月

創薬支援サービス(CROサービス)を手掛けるBiopta Limited 社の株式取得(完全子会社化)

2016年7月

英国子会社Reinnervate Ltd.とBiopta Ltd.が合併し、REPROCELL Europe Ltd.へ社名変更

2016年7月

ヒトiPS細胞を用いた効率の良い膵前駆細胞及び膵β細胞の生産方法の研究に関して東京工業大学との共同研究契約を締結

2016年9月

米国子会社Bioserve Biotechnologies, Ltd.とStemgent Inc.及びBiopta Inc.が合併し、REPROCELL USA Inc.へ社名変更

2016年11月

Steminent Biotherapeutics Inc.(台湾)と同社開発にかかる細胞医薬品「Stemchymal®」の日本における共同開発及び販売に関する契約を締結

2016年11月

慶應義塾大学及び順天堂大学との共同事業「iPS細胞由来神経細胞を用いた創薬支援のためのアプリケーション開発」に対する「横浜市特区リーディング事業助成金」採択

2016年12月

iPS細胞を作製する次世代RNAリプログラミングキット「StemRNA™ -NM Reprogramming Kit」の販売開始

2017年2月

造血幹細胞の増幅方法に関する米国特許成立

2017年4月

REPROCELL EUROPE Ltd.の新施設Centre for Predictive Drug Discoveryの開設

2017年7月

AMED公募事業「平成29年度 再生医療の産業化に向けた評価基盤技術開発事業(再生医療技術を応用した創薬支援基盤技術の開発)」の分担研究企業に採択

2018年4月

米国Q Therapeutics Inc.との合弁会社「株式会社MAGiQセラピューティクス」を日本に設立。iPS細胞を活用した再生医療を開始

2018年4月

Bioserve Biotechnologies India Pvt. Ltd. を海外子会社としてインドに設立

2018年10月

当社の投資先であるGenAhead Bio社と共同で遺伝子改変技術を用いた疾患モデル細胞の作製サービスを開始

2018年10月

株式会社ファンケルと共同でヒトiPS細胞由来の感覚神経細胞の開発に成功し、受託製造サービスを開始

2018年12月

厚生労働省の薬事・食品衛生審議会再生医療等製品・生物由来技術部会において、当社が開発中の 再生医療製品Stemchymal®が、希少疾病用再生医療等製品として指定

2019年5月

殿町・リプロセル再生医療センター開設

2020年2月

再生医療製品ステムカイマル®の第 II 相臨床試験における第1例目の被験者への投与開始

2020年3月

再生医療向け臨床用iPS細胞の作製サービスの開始

2020年6月

新型コロナウイルスの研究用生体試料の提供を開始

2021年3月

新型コロナウイルスPCR検査サービスを開始

2021年3月

殿町・リプロセル再生医療センターが厚生労働省関東信越厚生局より「特定細胞加工物製造許可」を取得

2021年5月

再生医療製品ステムカイマル®の第II相臨床試験における全被験者への投与終了

2021年6月

米国メリーランド州に臨床用iPS細胞の製造施設「Seed iPSC Manufacture Suite (SiMS)」を開設

2022年1月

当社の新型コロナウイルスPCR検査キットを、地方自治体によるPCR等検査無料化事業へ提供開始

2022年4月

東京証券取引所の市場区分の見直しにより、東京証券取引所のJASDAQ(グロース)からグロース市場に移行

2022年5月

再生医療製品ステムカイマルの第II相臨床試験完了

2022年10月

カリフォルニア州再生医療機構(CIRM)と臨床用iPS細胞事業での協力に関する基本合意書締結

2022年10月

「ALSに対するヒトiPS細胞由来グリア前駆細胞の細胞移植による細胞治療の企業治験開始のための研究開発」が、AMED公募事業に採択

2022年11月

iPS細胞由来の再生医療等製品の受託製造事業の開始(Histocell社(スペイン)、BioBridge Global社(米国)との業務提携)

2023年4月

郵送検査サービス「ウェルミル」開始

2023年5月

間葉系幹細胞を用いた再生医療等製品製造のための製造受託サービス提供開始

2023年6月

子宮頸がんを対象とした腫瘍浸潤リンパ球輸注療法に関して慶應義塾大学医学部産婦人科学教室と共同研究契約を締結

2024年2月

腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL 療法)の新規パイプライン化決定

 

3【事業の内容】

 当社グループは当社(株式会社リプロセル)、米国子会社のREPROCELL USA Inc.、英国子会社のREPROCELL Europe Ltd.、インド子会社Bioserve Biotechnologies India Pvt. Ltdなどの連結子会社5社及び関連会社2社により構成されております。

 

 当社の中核事業領域であるiPS細胞は、山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の発明以降、世界中で研究が盛んに行われております。

 最近では、iPS細胞を活用した病態解明や再生医療への応用など、実用的な研究開発が多く行われるようになりました。2017年には、希少難病の患者から作製したiPS細胞を活用して病態を解明し、新薬候補の治験へつなげた事例が報告され、さらに、再生医療に関しても、iPS細胞を使った加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷等の臨床研究及び治験が進められております。

 当社では、前者のようにiPS細胞を病態解明や創薬研究に使用する事業を「研究支援事業」、後者の再生医療を「メディカル事業」と位置付け、二つのセグメントに分け、推進しております。

 短中期的な収益の柱である「研究支援事業」と、中長期的な成長事業である「メディカル事業」の両方を組み合わせることで、短期→中期→長期と、持続的な成長を目指します。

 

事業内容

内容

研究支援事業

 研究支援事業では、大学/公的研究機関を主要顧客とする(1)研究用製品の製造販売と、製薬企業等が中心の(2)研究受託サービス、及び(3)細胞測定機器の販売を実施しています。

 

(1) 研究用製品

 研究用製品は研究試薬と細胞に分けられます。

 研究試薬:培養液、抗体、リプログラミング試薬、成長因子など、iPS細胞の研究に使用する試薬を販売しております。当社の研究試薬はiPS細胞に特化している点が特徴です。当社の初期製品である「Primate ES Cell medium」は、京都大学の山中教授が世界で初めてヒトiPS細胞の作製に成功した際に使用されていた培養液であり、その後、日本の研究者の間でスタンダードとなりました。

 細胞:REPROCELL USAでは、がん細胞、血液、血清など60万個のヒトの生体試料のバンクを保有しており、製薬企業を中心に研究用資材として提供しております。また、顧客ごとのカスタムコレクションも行っております。

 

(2) 研究受託サービス

 研究受託サービスでは、iPS細胞関連の受託サービスと、ヒトの生体試料を用いた創薬試験受託を実施しています。

 iPS細胞サービス:顧客ごとにカスタマイズし、付加価値の高いサービスを提供しております。iPS細胞患者由来疾患モデル、iPS細胞遺伝子編集、各種分化誘導など、技術難易度が高く付加価値の高いサービスを中心に実施しています。

 創薬試験受託:手術等で得られた余剰のヒトの組織を使って新薬候補化合物の薬効薬理試験を行っております。REPROCELL EuropeはGLP(Good Laboratory Practice: 医薬品の非臨床試験の安全性に関する信頼性を確保するための基準)に準拠した施設を保有しており、信頼性の高いサービスを提供しております。

 

(3) 細胞測定機器

 ナニオンテクノロジーズ社(ドイツ)の電気生理実験機器の日本国内での販売をしております。

 

 

事業内容

内容

メディカル事業

 メディカル事業では、(1)再生医療の研究開発、(2)iPS細胞再生医療等製品の受託製造、(3)臨床検査受託サービスを実施しております。

 

(1) 再生医療の研究開発

 再生医療では、台湾のステミネント社から導入したステムカイマル、iPS細胞から作製するiPS神経グリア細胞、腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法の3つの再生医療製品の開発を行っております。

 ステムカイマル:ステムカイマルは脊髄小脳変性症を対象とした再生医療製品であり、症状の進行を抑制する効果が期待されています。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。2022年5月、日本での第II相臨床試験が完了しており、現在、承認申請の準備を進めております。

 iPS神経グリア細胞:筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び横断性脊髄炎を対象とした研究開発を進めております。現在、前臨床試験を実施しており、製造施設として、再生医療用の細胞加工施設「殿町・リプロセル再生医療センター」を保有しております。

 TIL療法:患者本人のがん組織に含まれる腫瘍浸潤リンパ球を採取して体外で大量に培養し、患者に戻す養子免疫療法の一種です。進行子宮頸がんを対象としたTIL療法の事業化を慶應義塾大学医学部産婦人科学教室と共同で進めています。

 

(2) iPS細胞再生医療等製品の受託製造

 最先端の「RNAリプログラミング技術」を利用し、安全性が高く、臨床応用に最適な臨床用iPS細胞を作製します。さらに、iPS細胞のゲノム編集、マスターセルバンクの製造、分化細胞の製造まで、幅広く受託製造を行います。

 日米欧の3極の規制全てに準拠していることが強みになります。

 

(3) 臨床検査受託サービス

 日本では、2005年に衛生検査所として登録して以来、臓器移植に関連したHLAタイピング及び抗HLA抗体検査等の臨床検査受託サービスを実施しています。また、2023年4月から、「ストレス」、「更年期」、「男性ホルモン」などの郵送検査サービス(ウェルミル)を実施しています。

 

 

 

 

iPS細胞技術プラットフォームと事業セグメント

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(1) 研究支援事業

 研究支援事業では、大学/公的研究機関及び製薬企業等の研究所を顧客として、研究試薬や細胞などの研究用製品及びiPS細胞作製受託などの研究サービスを提供しております。最先端技術を集約した製品・サービスを上記研究機関に提供することで、画期的な新薬や治療法の開発に貢献してまいります。現在、世界中の製薬企業では、動物愛護の観点や、ヒトと動物の種の違いによる試験結果の差といった問題点などから「動物実験からヒト細胞実験」への大きなシフトが進んでいます。今後、ヒト細胞実験が普及することで、これまで十数年かかっていた新薬開発のプロセスが大幅に短縮され、さらに、従来と比べて性能の高い新薬が開発できることが期待されています。中でもヒトiPS細胞はその中心的存在として注目を集めており、例えば、アルツハイマー病患者から作製したiPS細胞を研究で使うことで、アルツハイマー病の病態解明及び新薬開発が加速されると期待されています。

 

 当社グループでは、RNAリプログラミング技術及び各種細胞への分化誘導技術など、ヒトiPS細胞に関する世界最先端の技術プラットフォームを保有しており、さらに、がん細胞やヒト組織を医療機関から調達する幅広いネットワークも保有しております。これら技術優位性の高い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を最大限活用することで、上記の「動物実験からヒト細胞実験」へのシフトを先取りした事業を進めております。具体的には、研究試薬製品、iPS細胞を用いた病態モデル細胞の作製サービス、ヒト生体試料のバンキングと提供、ヒト組織を用いた新薬の薬効薬理試験サービスなどがあります。

 上記に加え、ナニオンテクノロジーズ社(ドイツ)の細胞測定機器などの研究機器の販売を行っております。これらの機器は、当社のiPS細胞及び疾患モデル細胞を創薬スクリーニングに応用するためのものであり、細胞と機器を一元化して販売することで、総合的なソリューションを顧客に提供しております。

 

 また、研究支援事業では、自社開発品だけでなく他社製品の導入及び代理店販売にも積極的に取り組んでおります。2023年6月には、Vernal Biosciences社(米国)と日本における独占代理店契約を締結し、GMPグレードのmRNA及び脂質ナノ粒子の販売を開始することになりました。2023年12月には、Preci社(ウクライナ)と代理店契約を行い、初代ヒト肝細胞の日本国内での販売を開始しております。また、ニッピ社とは、全世界での代理店契約を締結し、MatriMix(511)を販売しております。今後とも、研究支援事業のポートフォリオを積極的に拡大することで、成長を目指します。
 

研究支援事業の事業系統図

 

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(2) メディカル事業

 再生医療分野においては、ヒト体性幹細胞やヒトiPS細胞の臨床応用を目指した研究が世界中で盛んに行われており、将来、再生医療製品がグローバルで巨大産業に成長することが見込まれています。

 特にiPS細胞は、体の様々な細胞に分化させる事が可能であることから、有効な治療法のない難病に対する臨床応用に大きな期待が寄せられています。iPS細胞の臨床応用に関する技術課題は安全性の確保ですが、当社では高品質で臨床応用に最適なiPS細胞を作製するRNAリプログラミング技術を開発・保有しております。この技術優位性を活かし、iPS細胞の早期の臨床応用を実現してまいります。

 

メディカル事業では以下の事業を推進しております。

 

(a) 体性幹細胞製品ステムカイマル

 ステムカイマルは台湾のSteminent Biotherapeutics Inc.(以下、ステミネント社)が開発した脂肪由来の間葉系幹細胞製品であり、当社は脊髄小脳変性症を対象とした日本における独占的商業ライセンス契約を締結しております。また、当該製品に関する特許が2024年1月に日本でも成立しております。

 脊髄小脳変性症は、小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が変性してしまうことにより、徐々に歩行障害や嚥下障害などの運動失調が現れ、日常の生活が不自由となってしまう原因不明の希少疾患です。ステムカイマルの投与により、症状の進行を抑制する効果が期待されています。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。

 日本国内で、第II相臨床試験を実施し、安全性及び有効性の評価を行いました。2020年2月に、第1例目の被験者への投与を開始し、2022年5月に全被験者の観察期間も含め全て完了しております。本臨床試験の結果を、2023年5月に開示いたしましたが、以下に要旨を記載します。

 安全性に関して、全被験者において重篤な有害事象は認められず、安全性が確認されております。

 有効性評価を、主要評価項目であるSARAスコア*で実施したところ、実薬群のSARAスコアの上昇が自然歴と比較して抑制されていることが確認できました。さらに、ベースライン(Visit2、投与前)から52週目(Visit8)までの変化量の統計解析を実施した結果、ベースライン11以上の部分集団で、実薬群がプラセボ群と比べて統計的に有意に改善する結果となりました(P値0.042)。

 また、ステミネント社が実施した台湾における第II相臨床試験においても、安全性の問題はなく、また、実薬群のSARAスコアの上昇が自然歴と比較して抑制されていること、さらに、ベースラインの高い部分集団においてSARAスコアの変化量に関する解析で、プラセボ群に対して実薬群で改善効果が認められております。これらの結果は日本の結果と類似しており、日本のデータを裏付けるものとなりました。

 日本では、2018年12月に希少疾病用再生医療等製品として指定されております。これにより、開発に係る経費の助成金(最大50%)、優遇税制措置、及び優先審査等の支援措置を受けることができます。

 当社では、病気と闘っている患者様へ少しでも早く新しい治療法が届けられるよう、承認申請の準備を進めております。

*SARAスコア:脊髄小脳変性症の症状の評価に広く用いられている指標であり、歩行、立位、会話、指先の運動などを総合的に数値化します。0~40点の範囲で、症状が悪化するほど、スコアは増加します。

 

(b) iPS神経グリア細胞製品

 iPS細胞から神経グリア細胞を作製し、各種神経変性疾患に対するiPS細胞再生医療製品として研究開発を行っております。現在、iPS神経グリア細胞を用いた前臨床試験(動物実験)を実施しております。また、iPS神経グリア細胞の製造のため「殿町・リプロセル再生医療センター」(神奈川県ライフイノベーションセンター内)の整備を進め、2021年3月に厚生労働省関東信越厚生局より再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき「特定細胞加工物製造許可」(施設番号:FA3200006)を取得しております。

 2022年10月には、AMED 公募事業「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」に採択されました。本事業の支援により、研究開発を加速させ一日も早い臨床試験の開始を目指しております。

 

(c) 腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法

 2023年6月、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室と「先進医療B(進行子宮頸がんに対する骨髄非破壊的前処置及び低用量IL-2を用いた短期培養抗腫瘍リンパ球輸注療法の第II相臨床試験)における、腫瘍浸潤リンパ球(TIL, Tumor Infiltrating Lymphocyte)の製造法の技術移転」に関する共同研究契約を締結しました。

 腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)とは、患者本人のがん組織に含まれる腫瘍浸潤リンパ球と呼ばれる免疫細胞を採取して体外で大量に培養し、患者に戻す養子免疫療法の一種です。TIL療法は米国を中心に、1980年代より主に進行悪性黒色腫に対して実施され、治療効果が報告されてきました。悪性黒色腫に対するTIL療法の成績は、腫瘍が縮小した患者(奏効率)が約7割で、病変が完全に消失する割合(完全奏効)は約2割とされ、さらに、完全奏効の患者では少数の例外を除き再発しないことが知られています。そして、2024年2月には、Iovance Biotherapeutics社(米国)の転移性メラノーマを対象としたTIL療法が米国FDAで承認されました。固形がんを対象とした初の細胞療法の承認事例となります。薬価は515,000ドルとなっております。

 TIL療法は、高度なTILの培養技術が必要なため、実施可能な施設は世界でも約10施設程度に留まります。当社は、本共同研究の中で技術移転を受け、慶應義塾大学が実施している「子宮頸がんを対象とした腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)」に関する臨床試験の細胞加工を実施する予定です。さらに、その後は、細胞加工だけでなく、当社の再生医療等製品の第3のパイプラインとしてTILの事業化を進めてまいります。本事業を起点として、がん免疫療法の分野で事業を展開してまいります。

 

(d) iPS細胞再生医療等製品の受託製造

 iPS細胞による再生医療の研究開発は世界中で精力的に行われており、日本でも、加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷等の臨床研究及び治験が進められています。再生医療に用いるiPS細胞には高い安全性と品質、さらに各国の医療ガイドラインに準じることが必要とされます。

 安全性の高いiPS細胞を作製するためには、iPS細胞を作るプロセスである「リプログラミング」が重要になります。リプログラミング技術は様々報告されていますが、当社では遺伝子変異リスクを最小化し、外来遺伝子やウイルス残存リスクの最も低い最先端のRNAリプログラミング技術を開発・保有しております。本技術を利用することで、臨床応用に最適なiPS細胞を作製することができます。

 製薬企業向けとして、「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」、個人向けとして「パーソナルiPS」の二つを提供しております。

 「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」では、医薬品製造の規制であるGMP(Good Manufacturing Practice)に準拠してiPS細胞を大量製造し、再生医療製品の出発材料として製薬企業等に提供します。当社のiPS細胞は、日米欧の3極の規制に準拠しているため、日米欧で幅広く使用できることが強みになります。

 2022年10月には、世界最大規模の再生医療支援機構であるカリフォルニア州再生医療機構とIndustry Alliance Programに関する基本合意書を締結いたしました。同機構が推進している多数の再生医療プロジェクトにおいて当社の臨床用iPS細胞を提供しております。

 2023年10月、Gameto社(米国)と、臨床用iPS細胞の提供及びライセンス契約を行いました。

 さらに、BioBridge社(米国)及びHistocell社(スペイン)と提携を行い、iPS細胞の作製だけでなく、その後工程である各種目的細胞への分化誘導及び再生医療等製品の製造までを行える体制を構築しました。ドナー細胞の確保→iPS細胞の作製→分化細胞の製造までの全工程を日米欧の規制に準拠して受託製造する高付加価値なサービスとして提供しております。

 さらに、iPS細胞に加えて、間葉系幹細胞を用いた再生医療等製品及びそのセクレトーム・エクソソームの受託製造に関しても、Histocell社と共同で実施することになりました。間葉系幹細胞を用いた臨床試験は、現在、世界中で数多く行われており、当社で開発しているステムカイマルも間葉系幹細胞になります。

 

メディカル事業のパイプライン

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(参考情報)

※1:筋萎縮性側索硬化症(ALS)

体を動かすための神経系(運動神経)が変性してしまい、筋力の低下による運動障害や嚥下障害等の症状があらわれる病気です。運動神経のみが変性するため、意識や五感は正常であり、知能の低下もありません。病状の進行が極めて速い一方で、有効な治療法は確立されていません。日本では指定難病とされており、国内患者数は約1万人とされています。

※2:横断性脊髄炎

脊髄の一部分が横方向にわたって炎症を起こすことによって発生する神経障害です。通常、腰部の痛み、筋肉衰弱、つま先や脚の異常な感覚などの症状が突然発症することで始まり、その後急速に、麻痺や閉尿や排便制御の喪失などの深刻な症状がみられます。原因は特定されておらず、有効な治療法は確立されていません。国内患者数は約1.5万人とされています。

 

 

 

4【関係会社の状況】

名称

住所

資本金又は出資金

(千円)

主要な

事業の内容

議決権の所有割合又は

被所有割合

(%)

関係内容

(連結子会社)

 

 

 

 

 

REPROCELL USA Inc.

(注)2、3、4

米国メリーランド州

千米ドル

26,833

研究支援事業

100.0

(0.1)

役員の兼任あり。

REPROCELL Europe Ltd.

(注)2,5

英国グラスゴー

千ポンド

9,260

研究支援事業

100.0

役員の兼任あり。

RCパートナーズ㈱

神奈川県横浜市港北区

10,000

全社

100.0

役員の兼任あり。

株式会社MAGiQセラピューティクス

(注)6

神奈川県横浜市港北区

28,010

メディカル事業

50.0

役員の兼任あり。

Bioserve Biotechonologies India Pvt. Ltd.

(注)3

インドテランガーナ州

千ルピー

443,878

研究支援事業

100.0

(0.9)

役員の兼任あり。

(持分法適用関連会社)

 

 

 

 

 

Cell Innovation Partners Ltd.

(注)3

英国領ケイマン諸島

9,000

研究支援事業

50.0

(50.0)

Cell Innovation Partners, L.P.

英国領ケイマン諸島

909,000

研究支援事業

38.5

(注)1.「主要な事業の内容」欄には、セグメントの名称を記載しております。

2.特定子会社に該当しております。

3.議決権の所有割合の( )内は、間接所有割合で内数であります。

4.REPROCELL USA Inc.については、売上高(連結会社相互間の内部売上高を除く。)の連結売上高に占める割合が10%を超えております。

主要な損益情報等      (1)売上高             994,815千円

(2)経常利益           151,081千円

(3)当期純利益         141,860千円

(4)純資産額           342,735千円

(5)総資産額           539,957千円

5.REPROCELL Europe Ltd.については、売上高(連結会社相互間の内部売上高を除く。)の連結売上高に占める割合が10%を超えております。

主要な損益情報等      (1)売上高             643,088千円

(2)経常損失(△)     △9,999千円

(3)当期純損失(△)   △9,999千円

(4)純資産額           153,985千円

(5)総資産額           341,557千円

6.持分は100分の50以下であるが、実質的に支配しているため子会社としたものであります。

5【従業員の状況】

(1)連結会社の状況

 

2024年3月31日現在

セグメントの名称

従業員数(人)

研究支援事業

67

8)

メディカル事業

6

5)

報告セグメント計

73

13)

全社(共通)

23

3)

合計

96

16)

(注)1.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数(パートタイマー、人材会社からの派遣社員)は、年間の平均人員を( )外数で記載しております。

2.全社(共通)として記載されている従業員数は、管理部門に所属しているものであります。

 

(2) 提出会社の状況

 

 

 

 

 

2024年3月31日現在

従業員数(人)

平均年齢(歳)

平均勤続年数(年)

平均年間給与(円)

26

(14)

33.8

4

10か月

5,451,144

 

セグメントの名称

従業員数(人)

研究支援事業

13

7

メディカル事業

6

5

報告セグメント計

19

12

全社(共通)

7

2

合計

26

14

(注)1.従業員数は就業人員であり、臨時雇用者数(パートタイマー、人材会社からの派遣社員)は、年間の平均人員を( )外数で記載しております。

2.平均年間給与は、賞与及び基準外賃金を含んでおります。

3.全社(共通)として記載されている従業員数は、管理部門に所属しているものであります。

 

(3) 労働組合の状況

労働組合は組成されておりませんが、労使関係は円満に推移しております。

 

(4) 管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率及び労働者の男女の賃金の差異

 提出会社及び連結子会社は、「女性の職業生活における活躍の推進に関する法律」(平成27年法律第64号)及び「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(平成3年法律第76号)の規定による公表義務の対象ではないため、記載を省略しております。