第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

当社グループの経営方針、経営環境及び対処すべき課題等は、以下の通りであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)経営方針

 当社はiPS細胞及び体細胞に関する世界最先端の研究成果を広く一般的に利用できる形で事業化することで、研究開発をより促進し、さらに、再生医療など次世代医療を通じて人々の健康福祉に貢献することを目指しています。

 短中期的な事業の柱としてiPS細胞に関連した研究試薬や創薬支援サービスを提供する「研究支援事業」を推進し、中長期的な成長戦略として巨大市場が見込める「メディカル事業」へ積極的に投資することにより、当分野のマーケットリーダーを目指します。

 また、真のグローバル企業として成長していくことも当社の大きな基本方針としています。病気や医療ニーズに国境はなく、再生医療を含む次世代医療は全世界中の人々から求められています。現時点で、市場の大きい米国、欧州、日本、また将来大きな成長が見込めるインドにそれぞれ拠点を有しており、事業展開を進めております。

 さらに、再生医療分野において持続的な成長を可能にするために顧客、社員、事業パートナー、株主といった重要なステークホルダーのバランスの取れた関係を重視し、これらのステークホルダーと長期的にWin-Winの関係となれる体制を構築してまいります。また、我々は社会の一員であるという自覚を持ち、社会全体への貢献についても重視してまいります。

 

(2)経営戦略等

 当社の中核事業領域であるiPS細胞は、山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の発明以降、世界中で研究が盛んに行われております。

 最近では、iPS細胞を活用した病態解明や再生医療への応用など、実用的な研究開発が多く行われるようになりました。2017年には、希少難病の患者から作製したiPS細胞を活用して病態を解明し、新薬候補の治験へつなげた事例が報告され、さらに、再生医療に関しても、加齢黄斑変性、パーキンソン病に続き、重症心筋症及び角膜疾患でも臨床研究/試験が開始されました。

 当社では、前者のようにiPS細胞を病態解明や創薬研究に使用する事業を「研究支援事業」、後者の再生医療を「メディカル事業」と位置づけ、2つのセグメントに分け、推進しております。

 現時点では、研究支援事業の売上が約86%となっております。今後とも、短中期的な主力事業としてグローバルに推進してまいります。一方、メディカル事業では、現在、脊髄小脳変性症を対象とした再生医療製品ステムカイマル及び、筋萎縮性側索硬化症(ALS)等の神経系疾患を対象としたiPS神経グリア細胞の研究開発を進めております。これら再生医療製品は中長期的な成長事業として、積極的な投資を行い、早期の製造販売承認の取得を目指します。

 

 当社の基本事業戦略を下記にまとめます。

 

① 積極的なグローバル化の推進

 当社では、日本に加え、米国、欧州、インドにも拠点を保有しております。いずれの拠点も、販売、製造、研究開発の機能を有しており、各拠点が有機的に連携しながらグループシナジーを追求しています。

 営業では、各拠点がそれぞれの地域の顧客をカバーしており、時差や言語の壁なく営業活動を推進しております。日本市場に加え、バイオ業界における最大の市場である米国、それに続く欧州、さらに世界人口第2位を誇るインドの4拠点をカバーすることで、ターゲット顧客である世界中の多くの大学/公的研究機関及び製薬企業等にアクセスが可能になっております。各地域で製造している製品やサービスを別の地域で販売することで、売上を拡大してまいります。

 

② 研究支援事業とメディカル事業による連続的成長モデル

 研究支援事業では、医薬品のような製造販売承認は必要とされず、新しい技術を比較的短期間で事業化し収益を上げることができます。当社では、iPS細胞を中心とした幅広い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を有しており、競争優位性の高い製品やサービスを世界中で展開し短中期の収益の柱として推進しております。

 メディカル事業では、再生医療および臨床検査を実施しております。再生医療に関しては、上市までに臨床試験を行い製造販売承認を取得する必要があるため、研究支援事業より事業化に時間が必要とされますが、日本では2014年の法改正により、世界で最も再生医療の産業化に適した環境が整っていると考えられます。「医薬品、医療機器等の品質、有効性および安全性の確保等に関する法律(通称 薬機法)」では、治験において安全性が確認され、有効性が推定された再生医療等製品に対して早期承認(条件・期限付き承認)を与えることが可能になりました。これにより、患者様に対して新たな治療機会を早期に提供すると共に、治験期間の短縮や治験費用の削減が期待できます。

 経済産業省の報告書(「平成29年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 「根本治療の実現」に向けた適切な支援のあり方の調査」)によると、再生医療産業のグローバルでの市場規模は2030年で約5~10兆円となっており、今後、巨大市場に成長することが見込まれています。

 このように、再生医療を中長期的な成長事業と位置づけ、早期の製造販売承認の取得を目指します。

 短中期的な収益の柱である「研究支援事業」と、中長期的な成長事業である「メディカル事業」の両方を組み合わせることで、短期→中期→長期と、持続的な成長を実現します。

 

③ 最先端技術による持続的な技術優位性の確保

 iPS細胞は世界中で研究開発競争が繰り広げられており、飛躍的に技術が進歩してきました。当社は、引き続き技術開発を積極的に推進することで競争力の強化を図ってまいります。また、リプロセルグループ内の各要素技術を組み合わせ、シナジーを追求することで競争優位性の高い新規ビジネスの開発を行ってまいります。引き続き、世界中のトップ大学および企業等とのコラボレーションを通じて、世界最先端の技術を積極的に開発・導入してまいります。

 

(3)経営環境

 2020年に感染拡大が始まった新型コロナウイルスへの対応状況が、最近大きく変わってきました。今後とも、感染拡大は定期的に起こる可能性はあるものの、ワクチン接種率が高まってきたこともあり、今後、従来のような行動制限措置が行われる可能性は低くなりました。事業環境もパンデミック以前の状態に戻ってきております。

 

(4)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 当社が持続的に成長して企業価値を高めるとともに、我々のビジョンやミッションを達成するために優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題を以下のように考えております。

 

① 全社的課題

技術革新への対応

 iPS細胞は世界中で研究競争が行われており、短期間で技術革新が進んでいます。革新的な技術が開発された場合、既存技術は陳腐化し競争力を失います。このため、当社グループとしては、今後とも積極的に技術開発を推進し当分野のマーケットリーダーとなることを目指します。

 技術開発については自社開発だけでなく、これまでと同様、大学、公的研究機関、民間企業との連携及び共同開発を中心に進めてまいります。

 

② セグメント別課題

(1) 研究支援事業

(a) 多様化する顧客ニーズへの対応

 iPS細胞の研究は、大学・公的研究機関及び製薬企業で幅広く行われています。創薬研究は多種多様であるため、幅広いニーズに対応した製品・サービスが求められます。

 当社グループでは、研究試薬や細胞などの研究用製品、iPS細胞作製・遺伝子編集・分化誘導などの受託サービス、及び細胞測定機器を幅広く提供することにより、顧客ニーズに対応しております。

 

(2) メディカル事業

(a) 再生医療製品ステムカイマルの早期承認

 脊髄小脳変性症を対象としたステムカイマル第II相臨床試験(日本国内)は、2022年5月に観察期間も含め完了いたしました。今後の承認申請には、臨床試験の結果だけでなく、社内体制の整備、及び各種申請資料の準備が必要になります。今後、承認申請に向け、外部専門家の活用も含め、準備を加速してまいります。

 

 

(b) iPS細胞を用いた再生医療の早期実現と海外展開

 筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び横断性脊髄炎を対象とするiPS神経グリア細胞の研究開発に取り組んでおります。

 一般的にiPS細胞の再生医療では、がん化のリスクなど安全性の課題が指摘されています。当社グループでは、最先端技術であるRNAリプログラミング法により作製した臨床用iPS細胞を使用することで、安全性の課題を克服します。

 また、臨床応用の規制は各国で異なっており、海外展開の一つの課題となっています。当社グループでは、日米欧の規制に対応した臨床用iPS細胞を自社で作製することで、各国の規制に対応していきます。

 

(c) 腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法の早期の事業化

 進行子宮頸がんを対象とした腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法の事業化を慶應義塾大学医学部産婦人科学教室と共同で進めております。2024年2月に、Iovance Biotherapeutics社(米国)による転移性メラノーマを対象としたTIL療法が、固形がんを対象とした初の細胞療法として米国FDAで承認されており、今後、市場が拡大すると同時に、競争が激化することが想定されます。

 慶應義塾大学における先進医療を早期に進めるのと同時に、TILの最先端技術の研究開発にも積極的に取り組んでまいります。

 

(5)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

当社グループの経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標は、売上高と経常利益となります。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)ガバナンス

 当社グループではサステナビリティ関連のリスク及び機会を、その他の経営上のリスク及び機会と一体的に監視及び管理しております。詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ② 企業統治の体制の概要及び当該体制を採用する理由 イ) 会社の機関の基本説明 a.取締役会」をご参照ください。

 

(2)戦略

 当社グループの成長戦略を実現するためには、高度な専門的知識、技能及び経験を有する、多様な人材の確保及び育成が不可欠だと考えております。これを維持・向上するために基本的な人事施策の確実な実施を行っております。具体的には、フレックスタイム制度等、社員がワークライフバランスを実現しやすい制度、各社の取締役及び本部長クラスの優秀な人材を対象としたインセンティブ制度等、人材確保のための各種制度の整備並びに社内外の機会を捉えた社員教育を行っております。

 上記の点以外に現状重要性の高いサステナビリティ関連リスク及び機会を認識していないため、その他の戦略については記載を省略しております。

 

(3)リスク管理

 当社グループではサステナビリティ関連のリスク及び機会を、その他経営上のリスク及び機会と一体的に監視及び管理しております。詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ② 企業統治の体制の概要及び当該体制を採用する理由 イ) 会社の機関の基本説明 a.取締役会」及び「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要 ③ 企業統治に関するその他の事項 ロ) リスク管理体制の整備の状況」をご参照ください。

 

(4)指標及び目標

 上記(2)戦略で記載した、多様な人材の確保及び育成について、現時点では定量的な指標や目標は設定しておりませんが、達成に向けて進捗を注視していくとともに、指標や目標の設定要否についても引き続き検討する予定です。

 上記の点以外に現状重要性の高いサステナビリティ関連リスク及び機会を認識していないため、その他の指標及び目標については記載を省略しております。

 

3【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。あわせて、必ずしもそのようなリスクに該当しない事項についても、投資者の判断にとって重要であると当社が考える事項については、積極的な情報開示の観点から記載しております。また、本項の記載内容は当社株式の投資に関する全てのリスクを網羅しているものではありません。

 当社グループは、これらのリスクの発生可能性を認識した上で、発生の回避及び発生した場合の迅速な対応に努める方針でありますが、当社株式に関する投資判断は、本項及び本項以外の記載内容もあわせて慎重に検討した上で行われる必要があると考えております。

 なお、本項記載の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社が判断したものであります。

 

(1) 競合リスク

 iPS細胞の分野は、熾烈な研究競争が行われており、技術革新が速く、新規参入の動きが活発となっているため、従来の技術が陳腐化するリスクがあります。このため、当社グループは、世界的な大学や公的研究機関と連携し、常に世界最先端の技術開発に先行して取り組んでおります。

 新規参入は大手企業を含めて増加しており、研究開発を進めながら参入を検討している潜在的競合相手も少なくないと考えられます。さらに、後発参入製品は先発製品に比べ機能面やコスト面で少なからず優位性を有している可能性もあり、競争が激化することが想定されます。これら競合相手の中には、生産性や販売力、資金力で当社グループを上回る企業が含まれる可能性もあります。当社グループは今後とも、積極的に研究開発及び営業活動を行っていきますが、競合相手との競争状況によっては、計画どおりの収益を上げることができない可能性もあります。

 

(2) 研究開発活動に由来するリスク

 当分野の競争が激化する中、当社では公的資金の有効活用や産学連携により、日本、米国、欧州、インドの4拠点でこれまで研究開発に重点を置いた活動をしてまいりました。しかしながら、研究開発活動が常に計画どおりに進む保証はなく、当初の予定どおりに進まない場合、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 再生医療ビジネスに関するリスク

 現在当社グループでは、①体性幹細胞由来の再生医療製品ステムカイマル、②再生医療向けiPS神経グリア細胞及び③腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法(TIL療法)の3つのパイプラインがあります。

 再生医療製品の開発については、2014年11月25日に施行された「薬事法等の一部を改正する法律」に準拠し進めておりますが、臨床試験において、想定外の有害事象の発生及び有効性が証明できないなどの理由で、治験の中止または承認が得られないリスクがあります。また、承認申請及び審査の過程で遅延が起こるリスクがあります。

 

(4) 知的財産権に関するリスク

① 特許にかかる事項

 知的財産権に関して、当社グループの特許権が他社により侵害されるリスクがあります。このため、当社グループでは研究開発で得られた成果に関して、必要に応じて迅速に特許出願等を行っております。逆に、当社グループが他社の特許権を侵害するリスクも否定できないため、必要に応じて各種データベースや特許事務所を活用して情報収集を行い、可能な限り特許侵害リスクを軽減すべく対応しております。しかしながら、当社グループの調査範囲の及ばない抵触特許が存在した場合及び秘密裏に当社グループの特許が侵害された場合、当社グループの技術の優位性が損なわれ、多額の損害賠償を請求されるなど、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

② 職務発明にかかる事項

 当社グループにおける職務発明の取扱いに関しては、職務発明規程を作成し、運用しております。しかしながら、将来、発明者の認定及び職務発明の対価の相当性についての係争が発生した場合、当社グループの事業に影響を与える可能性があります。

 

(5) 経営上の重要な契約等に関するリスク

 当社の経営上重要と思われる契約は、当社が実施許諾を受けているiPS細胞事業に関する特許ライセンス契約であります。当該契約が期間満了、解除、その他の理由に基づき終了した場合、もしくは当社にとって不利な改定が行なわれた場合、または契約の相手方の経営状態が悪化したり、経営方針が変更されたりした場合には、当社の事業戦略及び業績に影響を与える可能性があります。

 

(6) 人材の確保に関するリスク

 当社グループの成長戦略を実現するためには、高度な専門的知識、技能及び経験を有する、多様な人材の確保及び育成が不可欠といえます。特に、海外では日本に比べ一般的に人材流動性が高く、優秀な人材ほど外部に流出するリスクが高くなります。海外子会社を含め、各社の取締役及び本部長クラスの優秀な人材を対象にインセンティブ制度を導入するなどして長期確保に努めており、さらに優秀な新規人材の採用も積極的に行っております。しかしながら、優秀な人材の確保及び採用が計画通りに進まない場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 為替変動リスク

 当社グループの海外売上比率は約6割であり、為替変動が業績及び財政状態に与える影響は少なくありません。主要取引通貨である米ドルと英ポンドに対して当初の見込みより円高に推移した場合、売上が減少し、さらに海外通貨預金及び子会社への貸付金に関わる為替差損の発生による損失の拡大が起こるリスクがあります。一方、円安に推移した場合は、売上の増大及び損失の縮小が見込まれます。

 

(8) 資金繰り及び資金調達等に関するリスク

 当社グループでは、研究開発活動の進捗に伴い多額の研究開発費が先行して計上され、継続的な営業損失が生じております。今後も事業の進捗に伴って運転資金、研究開発投資及び設備投資等の資金需要の増加が予想されます。今後、株式市場からの資金調達や、国の公的補助金等の活用など、資金調達手段の多様化により継続的に財務基盤の強化を図ってまいりますが、収益確保または資金調達の状況によっては、当社グループの業績及び財政状態に影響を与える可能性があります。

 

(9) 税務上の繰越欠損金

 当社には現在のところ税務上の繰越欠損金が存在しております。そのため、事業計画の進展から順調に当社業績が推移するなどして繰越欠損金による課税所得の控除が受けられなくなった場合には、通常の税率に基づく法人税、住民税及び事業税が計上されることとなり、親会社株主に帰属する当期純利益または親会社株主に帰属する当期純損失及びキャッシュ・フローに影響を与える可能性があります。

 

(10) レピュテーションに関するリスク

 当社グループは、製品の品質・安全性の確保、法令遵守、知的財産権管理、個人情報管理等に努めております。しかしながら、当社グループ及び当社グループを取り巻く環境や競合他社及び競業他社を取り巻く環境において何らかのレピュテーション上の問題が発生した場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(11) 自然災害、事故、テロ、戦争等に関するリスク

 当社グループが事業活動を行っている地域では、地震、台風等の自然災害の影響を受ける可能性があります。同様に火災等の事故災害、テロ、戦争等が発生した場合、当社グループの拠点の設備等に大きな被害を受け、その全部又は一部の操業が中断し、生産及び出荷が遅延する可能性があります。また、損害を被った設備等の修復のために多額の費用が発生し、結果として、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(12) 継続企業の前提に関する重要事象等

 iPS細胞及び再生医療製品等の研究開発及び治験費用が収益に先行して発生する等の理由から、継続的に営業損失が発生しており、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような事象または状況が存在しております。

 しかしながら、当社グループの当連結会計年度末の現金及び預金残高は2,939百万円、短期的な資金運用を行っている有価証券が3,627百万円あり、財務基盤については安定しております。今後、主力事業の営業強化、新規事業の立ち上げ、再生医療製品の早期の製造販売承認を通じて、早期の黒字化を目指してまいります。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

経営成績等の状況の概要

文中の将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

 

(1)経営成績

 当社の中核事業領域であるiPS細胞は、山中伸弥教授によるヒトiPS細胞の発明以降、世界中で研究が盛んに行われております。

 最近では、iPS細胞を活用した病態解明や再生医療への応用など、実用的な研究開発が多く行われるようになりました。希少難病の患者から作製したiPS細胞を活用して病態を解明し、新薬候補の治験へつなげた事例が報告され、さらに、再生医療に関しても、iPS細胞を使った加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷等の臨床研究及び治験が進められております。

 当社では、前者のようにiPS細胞を病態解明や創薬研究に使用する事業を「研究支援事業」、後者の再生医療を「メディカル事業」と位置付け、二つのセグメントに分け、推進しております。

 

 研究支援事業では、大学/公的研究機関及び製薬企業等を顧客として、研究試薬や細胞などの研究用製品、iPS細胞作製受託などの研究サービス、及び細胞測定機器を提供しております。研究用途であるため、医薬品のような製造販売承認は必要とされず、新しい技術を比較的短期間で事業化し収益を上げることができる特長があります。当社では、iPS細胞を中心とした幅広い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を保有しており、競争優位性の高い製品やサービスを世界中で展開し、短中期の収益の柱として推進しております。

 

 一方、メディカル事業では、再生医療等製品の研究開発、再生医療等製品の受託製造事業、臨床検査受託サービスを実施しております。

 

 再生医療に関しては、上市までに臨床試験を行った上で製造販売承認を取得する必要があるため、研究支援事業より事業化に時間が必要とされますが、日本では2014年の法改正により、世界で最も再生医療の産業化に適した環境が整っていると考えられます。「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(通称 薬機法)」では、治験において安全性が確認され、有効性が推定された再生医療等製品に対して早期承認(条件・期限付き承認)を与えることが可能になりました。さらに、2024年3月には、厚生労働省より、「再生医療等製品に係る条件及び期限付承認並びにその後の有効性評価計画策定に関するガイダンス」が発表されました。これらにより、患者様に対して新たな治療機会を早期に提供するとともに、治験期間の短縮や治験費用の削減が期待できます。

 

 また、経済産業省の報告書(「再生医療の実用化・産業化に関する研究会の最終報告」)によると、再生医療産業のグローバルでの市場規模は2030年で約17兆円となっており、今後、巨大市場に成長することが見込まれています。

 

 短中期的な収益の柱である「研究支援事業」と、中長期的な成長事業である「メディカル事業」の両方を組み合わせることで、短期→中期→長期と、持続的な成長を目指します。

 

 2020年に感染拡大が始まった新型コロナウイルスへの対応状況は、大きく変わっており、今後、従来のような行動制限措置が行われる可能性は低くなりました。事業環境もパンデミック以前の状態に戻ってきております。

 

 この結果、当連結会計年度の売上高は2,426百万円(前期比17.8%減)、営業損失は409百万円(前期356百万円の損失)、経常利益は40百万円(前期119百万円の損失)、親会社株主に帰属する当期純損失は31百万円(前期305百万円の損失)となりました。

 

 セグメント別の経営成績を示すと、次のとおりであります。

a.研究支援事業

 研究支援事業では、大学/公的研究機関及び製薬企業等の研究所を顧客として、研究試薬や細胞などの研究用製品及びiPS細胞作製受託などの研究サービスを提供しております。最先端技術を集約した製品・サービスを上記研究機関に提供することで、画期的な新薬や治療法の開発に貢献してまいります。現在、世界中の製薬企業では、動物愛護の観点や、ヒトと動物の種の違いによる試験結果の差といった問題点などから「動物実験からヒト細胞実験」への大きなシフトが進んでいます。今後、ヒト細胞実験が普及することで、これまで十数年かかっていた新薬開発のプロセスが大幅に短縮され、さらに、従来と比べて性能の高い新薬が開発できることが期待されています。中でもヒトiPS細胞はその中心的存在として注目を集めており、例えば、アルツハイマー病患者から作製したiPS細胞を研究で使うことで、アルツハイマー病の病態解明及び新薬開発が加速されると期待されています。

 

 当社グループでは、RNAリプログラミング技術及び各種細胞への分化誘導技術など、ヒトiPS細胞に関する世界最先端の技術プラットフォームを保有しており、さらに、がん細胞やヒト組織を医療機関から調達する幅広いネットワークも保有しております。これら技術優位性の高い「ヒト細胞ビジネスプラットフォーム」を最大限活用することで、上記の「動物実験からヒト細胞実験」へのシフトを先取りした事業を進めております。具体的には、研究試薬製品、iPS細胞を用いた病態モデル細胞の作製サービス、ヒト生体試料のバンキングと提供、ヒト組織を用いた新薬の薬効薬理試験サービスなどがあります。

 上記に加え、ナニオンテクノロジーズ社(ドイツ)の細胞測定機器などの研究機器の販売を行っております。これらの機器は、当社のiPS細胞及び疾患モデル細胞を創薬スクリーニングに応用するためのものであり、細胞と機器を一元化して販売することで、総合的なソリューションを顧客に提供しております。

 

 また、研究支援事業では、自社開発品だけでなく他社製品の導入及び代理店販売にも積極的に取り組んでおります。2023年6月には、Vernal Biosciences社(米国)と日本における独占代理店契約を締結し、GMPグレードのmRNA及び脂質ナノ粒子の販売を開始することになりました。2023年12月には、Preci社(ウクライナ)と代理店契約を行い、初代ヒト肝細胞の日本国内での販売を開始しております。また、ニッピ社とは、全世界での代理店契約を締結し、MatriMix(511)を販売しております。

今後とも、研究支援事業のポートフォリオを積極的に拡大することで、成長を目指します。

 

 この結果、売上高は2,079百万円(前期比3.1%増)、セグメント利益は445百万円(前期比21.5%増)となりました。

 

b.メディカル事業

 再生医療分野においては、ヒト体性幹細胞やヒトiPS細胞の臨床応用を目指した研究が世界中で盛んに行われており、将来、再生医療製品がグローバルで巨大産業に成長することが見込まれています。

 特にiPS細胞は、体の様々な細胞に分化させる事が可能であることから、有効な治療法のない難病に対する臨床応用に大きな期待が寄せられています。iPS細胞の臨床応用に関する技術課題は安全性の確保ですが、当社では高品質で臨床応用に最適なiPS細胞を作製するRNAリプログラミング技術を開発・保有しております。この技術優位性を活かし、iPS細胞の早期の臨床応用を実現してまいります。

 

メディカル事業では以下の事業を推進しております。

 

(a) 体性幹細胞製品ステムカイマル

 ステムカイマルは台湾のSteminent Biotherapeutics Inc.(以下、ステミネント社)が開発した脂肪由来の間葉系幹細胞製品であり、当社は脊髄小脳変性症を対象とした日本における独占的商業ライセンス契約を締結しております。また、当該製品に関する特許が2024年1月に日本でも成立しております。

 脊髄小脳変性症は、小脳や脳幹、脊髄の神経細胞が変性してしまうことにより、徐々に歩行障害や嚥下障害などの運動失調が現れ、日常の生活が不自由となってしまう原因不明の希少疾患です。ステムカイマルの投与により、症状の進行を抑制する効果が期待されています。ステムカイマルは、腕の血管から静脈注射(点滴)で投与するため、侵襲性が低い治療法になります。

 日本国内で、第II相臨床試験を実施し、安全性及び有効性の評価を行いました。2020年2月に、第1例目の被験者への投与を開始し、2022年5月に全被験者の観察期間も含め全て完了しております。本臨床試験の結果を、2023年5月に開示いたしましたが、以下に要旨を記載します。

 安全性に関して、全被験者において重篤な有害事象は認められず、安全性が確認されております。

 有効性評価を、主要評価項目であるSARAスコア*で実施したところ、実薬群のSARAスコアの上昇が自然歴と比較して抑制されていることが確認できました。さらに、ベースライン(Visit2、投与前)から52週目(Visit8)までの変化量の統計解析を実施した結果、ベースライン11以上の部分集団で、実薬群がプラセボ群と比べて統計的に有意に改善する結果となりました(P値0.042)。

 

 また、ステミネント社が実施した台湾における第II相臨床試験においても、安全性の問題はなく、また、実薬群のSARAスコアの上昇が自然歴と比較して抑制されていること、さらに、ベースラインの高い部分集団においてSARAスコアの変化量に関する解析で、プラセボ群に対して実薬群で改善効果が認められております。これらの結果は日本の結果と類似しており、日本のデータを裏付けるものとなりました。

 

 日本では、2018年12月に希少疾病用再生医療等製品として指定されております。これにより、開発に係る経費の助成金(最大50%)、優遇税制措置、及び優先審査等の支援措置を受けることができます。

 当社では、病気と闘っている患者様へ少しでも早く新しい治療法が届けられるよう、承認申請の準備を進めております。

 

*SARAスコア:脊髄小脳変性症の症状の評価に広く用いられている指標であり、歩行、立位、会話、指先の運動などを総合的に数値化します。0~40点の範囲で、症状が悪化するほど、スコアは増加します。

 

(b) iPS神経グリア細胞製品

 iPS細胞から神経グリア細胞を作製し、各種神経変性疾患に対するiPS細胞再生医療製品として研究開発を行っております。現在、iPS神経グリア細胞を用いた前臨床試験(動物実験)を実施しております。また、iPS神経グリア細胞の製造のため「殿町・リプロセル再生医療センター」(神奈川県ライフイノベーションセンター内)の整備を進め、2021年3月に厚生労働省関東信越厚生局より再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づき「特定細胞加工物製造許可」(施設番号:FA3200006)を取得しております。

 2022年10月には、AMED 公募事業「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業」に採択されました。本事業の支援により、研究開発を加速させ一日も早い臨床試験の開始を目指しております。

 

(c) 腫瘍浸潤性リンパ球輸注療法

 2023年6月、慶應義塾大学医学部産婦人科学教室と「先進医療B(進行子宮頸がんに対する骨髄非破壊的前処置

および低用量IL-2を用いた短期培養抗腫瘍リンパ球輸注療法の第II相臨床試験)における、腫瘍浸潤リンパ球(TIL, Tumor Infiltrating Lymphocyte)の製造法の技術移転」に関する共同研究契約を締結しました。

 腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)とは、患者本人のがん組織に含まれる腫瘍浸潤リンパ球と呼ばれる免疫細胞を採取して体外で大量に培養し、患者に戻す養子免疫療法の一種です。TIL療法は米国を中心に、1980年代より主に進行悪性黒色腫に対して実施され、治療効果が報告されてきました。悪性黒色腫に対するTIL療法の成績は、腫瘍が縮小した患者(奏効率)が約7割で、病変が完全に消失する割合(完全奏効)は約2割とされ、さらに、完全奏効の患者では少数の例外を除き再発しないことが知られています。そして、2024年2月には、Iovance Biotherapeutics社(米国)の転移性メラノーマを対象としたTIL療法が米国FDAで承認されました。固形がんを対象とした初の細胞療法の承認事例となります。薬価は515,000ドルとなっております。

 TIL療法は、高度なTILの培養技術が必要なため、実施可能な施設は世界でも約10施設程度に留まります。当社は、本共同研究の中で技術移転を受け、慶應義塾大学が実施している「子宮頸がんを対象とした腫瘍浸潤リンパ球輸注療法(TIL療法)」に関する臨床試験の細胞加工を実施する予定です。さらに、その後は、細胞加工だけでなく、当社の再生医療等製品の第3のパイプラインとしてTILの事業化を進めてまいります。本事業を起点として、がん免疫療法の分野で事業を展開してまいります。

 

(d) iPS細胞再生医療等製品の受託製造事業

 iPS細胞による再生医療の研究開発は世界中で精力的に行われており、日本でも、加齢黄斑変性、パーキンソン病、虚血性心筋症、脊髄損傷等の臨床研究及び治験が進められています。再生医療に用いるiPS細胞には高い安全性と品質、さらに各国の医療ガイドラインに準じることが必要とされます。

 安全性の高いiPS細胞を作製するためには、iPS細胞を作るプロセスである「リプログラミング」が重要になります。リプログラミング技術は様々報告されていますが、当社では遺伝子変異リスクを最小化し、外来遺伝子やウイルス残存リスクの最も低い最先端のRNAリプログラミング技術を開発・保有しております。本技術を利用することで、臨床応用に最適なiPS細胞を作製することができます。

 製薬企業向けとして、「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」、個人向けとして「パーソナルiPS」の二つを提供しております。

 「GMP-iPS細胞マスターセルバンク」では、医薬品製造の規制であるGMP(Good Manufacturing Practice)に準拠してiPS細胞を大量製造し、再生医療製品の出発材料として製薬企業等に提供します。当社のiPS細胞は、日米欧の3極の規制に準拠しているため、日米欧で幅広く使用できることが強みになります。

 2022年10月には、世界最大規模の再生医療支援機構であるカリフォルニア州再生医療機構とIndustry Alliance Programに関する基本合意書を締結いたしました。同機構が推進している多数の再生医療プロジェクトにおいて当社の臨床用iPS細胞を提供しております。

 2023年10月、Gameto社(米国)と、臨床用iPS細胞の提供及びライセンス契約を行いました。

 さらに、BioBridge社(米国)及びHistocell社(スペイン)と提携を行い、iPS細胞の作製だけでなく、その後工程である各種目的細胞への分化誘導及び再生医療等製品の製造までを行える体制を構築しました。ドナー細胞の確保→iPS細胞の作製→分化細胞の製造までの全工程を日米欧の規制に準拠して受託製造する高付加価値なサービスとして提供しております。

 さらに、iPS細胞に加えて、間葉系幹細胞を用いた再生医療等製品及びそのセクレトーム・エクソソームの受託製造に関しても、Histocell社と共同で実施することになりました。間葉系幹細胞を用いた臨床試験は、現在、世界中で数多く行われており、当社で開発しているステムカイマルも間葉系幹細胞になります。

 

 また、2024年1月、ヒトiPS細胞由来間葉系幹細胞(以下「iPSC-MSC」)に関する事業を新たに開始いたしました。iPSC-MSCは、iPS細胞の状態で大量に拡大培養し、その後に間葉系幹細胞に分化させて製造するため、単一ドナーのiPS細胞から半永久的に大量の間葉系幹細胞を製造することが可能となります。このため、ドナー間差及び培養スケールの課題を克服することが可能となります。現行の脂肪及び骨髄由来の間葉系幹細胞の第2世代の再生医療等製品と位置づけ、今後、事業展開をしてまいります。

 

 2024年1月には、セルコラブス社(スウェーデン)と日本における独占代理店契約を締結し、GMPグレードの間葉系幹細胞及びエクソソームの販売を開始することになりました。

 

 「パーソナルiPS」は、将来の疾患に備え、個人のiPS細胞を作製し保管するサービスです。個人のiPS細胞をあらかじめ作製することで、治療までの期間を短縮でき、さらに免疫拒絶のリスクを最小化した移植治療を実現します。販路拡大のため、関西電力株式会社が運営するECモールサイト「かんでん暮らしモール」に出店し、また、株式会社JTBと、国内及び訪日外国人を対象とした販売展開に関する業務提携を行っております。

 

(e) 臨床検査受託サービス

 2005年に衛生検査所として登録して以来、臓器移植にかかわるHLAタイピング及び抗HLA抗体検査等の臨床検査を実施しており、これまで全国300以上の医療機関との取引実績があります。

 2021年3月に、新型コロナウイルスPCR検査を開始し、行政、医療機関、法人、個人を中心に、累計33万件の検査を実施いたしました。

 また、PCR検査の郵送検査のノウハウを活かし、2023年4月から、新たな郵送検査「ウェルミル」を開始いたしました。ウェルミルは「ストレス」、「更年期」、「男性ホルモン」、「女性ホルモン」等の指標を自宅で簡単に測定できる郵送検査です。さらに、2024年3月には、唾液を用いた新たな検査項目を追加しております。定期的に測定することで、日々のセルフケアにお役立ていただくことができます。今後とも積極的に新しい臨床検査サービスを追加し、事業を拡大してまいります。

 

 上記のような通常の臨床検査に加え、製薬企業の臨床試験における検査受託サービスも実施しております。REPROCELL USAでは、米国ランタンファーマ社の開発する抗がん剤の第II相臨床試験における患者検体の処理及び検査に関する業務委託契約を2023年5月に締結いたしました。当社グループは、日本、アメリカ、イギリス、インドの4拠点に全て研究施設を有しており、今後とも、製薬企業のグローバルな臨床試験に対応できるサービスを提供してまいります。

 

 また、メディカル事業では、個別化医療にも取り組んでおります。REPROCELL EUでは、IBM Research社及び英国 STFC Hartree Centreと共同で、個別化医療に関する機械学習プラットフォーム(Pharmacology-AI)の開発に成功いたしました。今後、Pharmacology-AIを用いて、個別化医療にかかわるデータ解析や、医薬品開発に関するビッグデータの分析等の新規ビジネスを立ち上げていきます。

 

 この結果、売上高は347百万円(前期比62.9%減)、セグメント利益は220百万円(前期比293.4%増)となりました。

 

 なお、管理部門にかかる費用など各事業セグメントに配分していない全社費用が626百万円(前期542百万円)あります。

 

(2)キャッシュ・フロー

 当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は前連結会計年度末に比べて1,024百万円増加し、2,939百万円となりました。

 当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において営業活動の結果使用した資金は11百万円(前期は140百万円の使用)となりました。これは主に、税金等調整前当期純損失28百万円、仕入債務の減少額55百万円、未払金の減少額82百万円が発生した一方で、株式報酬費用52百万円、減損損失50百万円、売上債権の減少額61百万円が発生したことによるものであります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において投資活動の結果獲得した資金は404百万円(前期は1,087百万円の使用)となりました。これは主に、有価証券及び投資有価証券の売却及び償還による収入4,602百万円が発生した一方で、有価証券及び投資有価証券の取得による支出4,008百万円、有形固定資産の取得による支出171百万円が発生したことによるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

 当連結会計年度において財務活動の結果獲得した資金は544百万円(前期は482百万円の獲得)となりました。これは主に新株予約権の行使による株式の発行による収入538百万円が発生したことによるものであります。

 

生産、受注及び販売の実績

(1) 生産実績

 当連結会計年度の生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

研究支援事業(千円)

1,030,519

65.9

メディカル事業(千円)

112,451

合計(千円)

1,142,971

73.1

(注)金額は製造原価によっております。

 

(2) 受注実績

 当社は、主として需要予測に基づく見込生産を行っているため、該当事項はありません。

 

(3) 販売実績

 当連結会計年度の販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額(千円)

前年同期比(%)

研究支援事業(千円)

2,079,659

103.1

メディカル事業(千円)

347,157

37.1

合計(千円)

2,426,817

82.2

 

経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの分析は、以下のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、本書提出日現在において判断したものであります。

 

(1) 財政状態の分析

(資産の部)

 当連結会計年度末における流動資産は前連結会計年度末に比べて216百万円増加し、7,399百万円となりました。主な内訳は、現金及び預金の増加1,024百万円、流動資産のその他の増加40百万円、有価証券の減少837百万円であります。固定資産は前連結会計年度末に比べて479百万円増加し、1,653百万円となりました。主な内訳は、有形固定資産の増加98百万円、無形固定資産の増加9百万円、投資有価証券の増加376百万円であります。

 

(負債の部)

 当連結会計年度末における流動負債は前連結会計年度末に比べて71百万円減少し、678百万円となりました。主な内訳は、買掛金の減少36百万円、未払金の減少80百万円、前受金の減少31百万円、流動負債のその他の増加77百万円であります。固定負債は前連結会計年度末に比べて31百万円増加し、62百万円となりました。主な内訳は、繰延税金負債の増加30百万円であります。

 

(純資産の部)

 当連結会計年度末における純資産は前連結会計年度末に比べて736百万円増加し、8,311百万円となりました。主な内訳は、資本金の増加298百万円、資本剰余金の増加298百万円、その他有価証券評価差額金の増加116百万円であります。

 

(2) 経営成績の分析

「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 経営成績等の状況の概要」をご参照ください。

 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因として、継続的な研究開発費の支出があげられます。研究支援事業については、研究試薬製品、細胞製品ともに、積極的な研究開発を行っており、2024年3月期における研究開発費の総額は384百万円と、販売費及び一般管理費の約25%を占めており、今後も研究開発活動を積極的に推進する予定であります。

 

(3) キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 経営成績等の状況の概要」をご参照ください。

 当社グループの資本の財源及び資金の流動性について、当社グループの資金需要のうち主なものは、研究支援事業における製品・サービスの研究開発やグローバル展開の推進及びメディカル事業における再生医療製品の導入や開発等によるものの他、製造費、販売費及び一般管理費などの営業費用であります。

 当社グループは、事業運営上必要な流動性と資金の源泉を安定的に確保することを基本方針としております。しかしながら、事業収益がこれらの資金需要を賄うには十分ではないことから、公的助成金、第三者割当増資による調達資金を利用しています。なお、当社グループの当連結会計年度末の現金及び預金残高は2,939百万円、短期的な資金運用を行っている有価証券が3,627百万円あり、十分な流動性を確保しています。

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

(5) 経営戦略の現状と見通し

 2025年3月期の業績につきましては、売上高2,661百万円(当期比9.7%増)、営業損失325百万円(当期は409百万円の損失)、経常損失174百万円(当期は40百万円の利益)、親会社株主に帰属する当期純損失174百万円(当期は31百万円の損失)を見込んでおります。

 

 連結経常損失、連結当期純損失の予想額は、為替を一定の水準として推移することとして策定しており、為替損益を業績予想に織り込んでおりません。本業績見通しにおける外国為替レートは、1米ドル=135円、1英ポンド=170円、1印ルピー=1.65円を前提としております。

 

 2020年に始まった新型コロナウイルスについては、各国とも行動制限措置の緩和が進み、パンデミック以前の状況に戻ってきております。

 

(6) 経営者の問題意識と今後の方針について

 「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」をご参照ください。

 また、経営者の視点による経営成績等の状況についての認識及び分析・検討内容については、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 経営成績等の状況の概要」をご参照ください。なお、当社グループにおいては、事業計画に基づく事業の成長と早期の黒字化を重要指標として売上高、各段階損益について分析を行っております。

 

5【経営上の重要な契約等】

当社の経営上の重要な契約は次のとおりであります。

当社が実施許諾を受けている特許ライセンス契約

契約相手

契約書名

契約締結日

契約期間

契約内容

iPSアカデミアジャパン㈱

第2次実施権許諾契約

2016年10月1日

2016年10月1日から本特許の全ての特許権の満了まで

ヒトiPS細胞由来分化細胞の製造・販売、並びに各種受託サービスを実施するための非独占的通常実施権の許諾に関する契約。

Steminent Biotherapeutics Inc.

Collaboration and Commerciallization Agreement

2016年11月11日

2016年11月11日から2026年11月10日まで

再生医療製品「Stemchymal®」を日本において独占的に開発・販売するための権利の許諾に関する契約。

MAGiQ Therapeutics Inc.

CROSS-LICENSE

AGREEMENT

2018年4月6日

2018年4月6日から

本特許の全ての特許権の満了まで

iPS細胞由来神経グリア細胞(iGRP)の臨床開発・商業化ライセンス及びiGRPの独占的な製造に関する契約

(注)上記についてはロイヤリティとして売上高の一定率を支払っております。

 

6【研究開発活動】

 研究支援事業及びメディカル事業において積極的な研究開発を行っており、当連結会計年度の研究開発費の総額は384百万円と、販売費及び一般管理費全体の約25%と大きな割合を占めています。当社の技術開発については自社開発に固執することなく、むしろ外部との連携及び共同開発を中心に進めています。これまでも、大学や公的研究機関の世界最先端の研究成果を活用することで、世界最先端の製品の開発に成功してきた実績があり、今後ともその方針を継続する予定です。また、今後とも補助金等の公的資金を有効活用することで、研究開発活動を加速しています。当連結会計年度末の当社グループの研究開発従事人員数は17名です。

 

(1) 研究支援事業

 iPS細胞の研究は世界中で精力的に進められており、短期間で飛躍的な技術革新が進んでいます。当社グループとしても、研究開発活動を最重点領域と位置付け、引き続き注力してまいります。研究開発は当社グループにとって重要なアクティビティと位置付け、グループ会社間の技術シナジーの追求を図りながら、研究開発を継続的に実施してまいります。技術開発については自社開発に加え、東京大学・京都大学をはじめとした日本の大学の他、米国のハーバード大学、マサチューセッツ工科大学、英国のダーラム大学等の欧米の技術導入を積極的に推進していきます。

 研究支援事業に係る研究開発費は232百万円であります。

 

(2) メディカル事業

 台湾のステミネント社より体性幹細胞由来の再生医療製品ステムカイマルを脊髄小脳変性症の治療薬として導入し、日本で治験を実施しています。日本では、2014年に再生医療等製品に関する法整備が行われており、治験において早期に承認を得ることができる制度が整っています。さらに、ステムカイマルは、既に台湾において第Ⅱ相の試験が終了しており、その治験データを日本での治験に応用することができます。

 当社では、これらのメリットを最大限に活用し、ステムカイマルの早期承認を目指します。

 また、米国Q Therapeutics Inc.(Qセラ社)と共同で、再生医療向けiPS細胞由来神経グリア細胞(iGRP)の研究開発を行っております。iGRPは様々な中枢神経系疾患への効果が期待されますが、当社では筋萎縮性側索硬化症(ALS)及び横断性脊髄炎(TM)を対象疾患とした再生医療製品として開発を行ってまいります。

 メディカル事業にかかる研究開発費は152百万円であります。