文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在(2024年3月31日)において当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
当社グループは、次の使命を掲げております。
「創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放する事を絶対的な使命とします。」
当社グループは、この使命の実現に向け、医薬品開発分野におきまして、網羅的に非臨床試験と臨床試験を受託できる研究機関として事業基盤の確立を図ってまいりました。半世紀を超えて長年培った研究実績や豊富な経験を活かして、最新の設備と確かな技術であらゆる疾患分野における医薬品開発のサポートを実施しております。
一方、科学技術の進展により、医薬品の開発環境は大きく変化します。このような新しい環境の変化にも迅速に対応し、世界に通用するビジネスモデルを構築して、当社の理念を共有でき優れた発想や卓越した才能を持つバイオベンチャーなどと共存共栄を図っていくTR事業にも積極的に取り組んでまいります。
社会貢献と企業価値の極大化を経営の基本方針として、株主、顧客、取引先、従業員等すべてのステークホルダーの期待に応えるべく努力を重ねてまいります。
(2)目標とする経営指標
当社グループは、企業価値を向上させるため、各事業の創出する利益を極大化することを重視し、営業利益、経常利益の増大および利益率の改善を経営目標にしています。また資本収益性の指標についてはROE(自己資本利益率)とROIC(投下資本利益率)を重視し、取締役会での報告事項としております。さらに、資本コストを意識した経営を実践すべく、資本コストを上回る高ROEの維持・向上を図るとともに、財務健全性の維持と株主還元のバランスの最適化に努めています。
(3)中長期的な会社の経営戦略
当社は2022年10月に「統合報告書」を発行し、その中で当社の展望として「2028Vision」を掲げ、2028年度の財務KPIとして「売上高500億円、経常利益200億円、売上高経常利益率40%、配当性向30~40%」としました。さらに2023年11月発行の「統合報告書2023」において、2028年度の財務KPIとして、「ROE10%以上」「ROIC10%以上」を設定しました。これは現在の基幹事業であるCRO事業が引き続き業績をけん引するという考えを基に作成しております。具体的には、第1の成長エンジンである実験用NHPを用いた非臨床事業、第2の成長エンジンである新日本科学PPDで実施している国際共同治験の受託による臨床事業の2つのエンジンが引き続き収益をけん引することを前提としていますが、中長期的には当社TR事業のオリジナルである経鼻投与プラットフォーム技術を活用した経鼻投与製剤が将来の成長エンジンになるように注力してまいります。簡単に真似のできないビジネスモデルによる成長エンジンを拡大および増加させることで持続的成長を推進する経営戦略を進めてまいります。
(4)経営環境
医薬品業界は、国内外において研究開発のスピードアップと費用の効率化ならびに規制当局への対応簡素化を期待してCRO(Contract Research Organization:医薬品開発業務受託機関)へのアウトソーシング(外部委託)の動きが引き続き活発化しております。加えて核酸医薬、次世代抗体医薬、ペプチド医薬、遺伝子治療、細胞治療、再生医療などの新規創薬モダリティ(治療手段)の研究開発が本格化してきています。このようなトレンドを受け、CRO事業を主力事業とする当社は、“ダントツのCRO”としてクライアントから第一に指名される存在になることを目指しており、顧客ニーズを満たす迅速な対応とサービスの向上ならびに継続的な品質の向上に注力しております。
(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題
こうした中で、当社グループが対処すべき課題は次のとおりです。
① CRO事業の更なる強化
医薬品業界では、国内、海外問わず、ワクチン開発、治療薬開発が急速に進んでおります。また、昨今の医薬品開発において、低分子医薬から抗体医薬・核酸医薬、さらに再生医療・遺伝子治療へと創薬モダリティの多様化に伴う医薬品開発難度の上昇に起因する医薬品の研究開発費増加が進み、迅速かつ質の高いCROへのアウトソーシングのニーズが高まっております。こうした中、次のような観点からCRO事業の強化を図ってまいります。
サービス拡充という観点からは、ワクチン並びに感染症治療薬開発にCROとして参画するとともに、従来型の安全性試験に加え、候補化合物選定のための創薬スクリーニングから臨床試験に至るまで一貫して開発に必要な試験を受託することで、開発者側の視点に立ったより付加価値の高いサービスを提供することを目指します。2024年3月期に新規の実験用NHP繁殖・育成施設が完成し稼働を開始しました。国内での実験用NHP繁殖体制を強化し、輸入リスクの軽減と品質向上を目指しております。
また、上述した創薬モダリティの多様化が進む中、再生医療分野で京都大学iPS細胞研究所との共同研究経験を活かしたiPS細胞を用いた安全性試験に関する受託業務を行ってきたように、今後とも常に業界の動きに逸早く対応した幅広いサービスを提供してまいります。
オペレーションの観点からは、作業工程におけるロボット化や自動化等のDX推進による内部業務プロセスの見直しと改善を進め、新たな時間的価値創出を目指すGENJIプロジェクトと名付けた社内活動などによる業務革新、コストの削減、試験の早期開始などに努めるとともに、年々需要が高まっている新規創薬モダリティ医薬品開発に不可欠な実験動物(NHP)のサプライチェーンマネジメントについても、日本・中国・カンボジアのグループ関連施設における検疫・繁殖・育成能力をそれぞれ増強することにより、リスク分散を図りつつ今後の事業成長に必要な品質の高い実験動物を安定的に確保できる体制を構築していきます。また、非臨床事業の大型受注に対応できる体制構築を主目的として2022年12月に建設着手した、鹿児島本社敷地内での新社屋・研究棟の建設は、計画通り5月末に竣工予定です。新築した建物は、RC(鉄筋コンクリート)造地上8階建・2棟・延床面積13,022㎡で、バイオアナリシス研究部門、分析研究部門、IT部門、研究スタッフエリア、会議室、役員室などを配置しており、2024年6月から順次稼働してまいります。
人財育成という観点からは、若手研究員を中心にサイエンスレベル向上に注力してまいります。顧客に対してより効果的で効率的な試験を提示できる提案型CROを目指しており、国内外の複数の学会において研究成果の発表及び論文発表を行っております。
② 第3の収益エンジンとしてのTR事業の推進
TR事業では、当社グループの医薬品開発における機能、経験とネットワークに、独自の知的財産に基づく基盤技術を加えることで、創薬型の医薬品開発事業へとパラダイムシフトするという戦略に基づき、次の複数のプロジェクトに取り組んでまいります。
当社のTR事業が有する経鼻投与基盤技術の応用性評価を行うためのフィージビリティ試験や応用領域の拡大を図るための拡張技術研究に基づいて、経鼻吸収による全身作用を企図した複数の候補化合物の新規事業化をこれまで進めてまいりました。併せて、高い噴射性能と利便性を併せ持つ、独自の経鼻投与デバイスも開発し、さらなる改良を重ねております。未充足医薬品市場を確実に捉え、経鼻投与基盤技術のフィージビリティ試験を繰り返すことによって、経鼻吸収による全身作用を企図した候補化合物について絞り込みを行った結果、経鼻神経変性疾患レスキュー薬を臨床開発段階へと進展させました。現在、その開発は、本剤の開発権をライセンスアウトした連結子会社のSNLD社が引き継いでおり、2024年1月に臨床第2相前期試験における患者様への投薬を完了しました。また、更なる利便性向上を企図した、TR-012001の改良開発品(TRN501)についても2024年1月に臨床第1相試験の治験届を提出し、すでに遂行段階にあります。SNLD社では、今後臨床開発体制をさらに強化して、経鼻による神経変性疾患のオンデマンド薬開発を米国を中心としてグローバルに行っていく予定です。
また、2023年6月8日に完全子会社としたSatsuma社では、当社からライセンスを受けた経鼻偏頭痛治療薬を米国で開発しており、同社の完全子会社化によりグローバルな水準における開発から市販製造体制構築までのノウハウや製造設備を取得すると共に、経験豊富な人材をグループ内に取り込み、当該基盤技術を用いた新たな製品開発にも展開させてまいります。現在Satsuma社は、当社TR事業の経鼻投与基盤技術を応用した製品の第一号を目指して、医薬品開発の最終段階に鋭意取り組んでおります。
また、鼻から脳へと薬物を送達させる技術(Nose-to-Brain送達技術)研究においては、アカデミアとも連携し、分子イメージング法なども活用しながら、血中から脳へと移行し難い有効成分が、注射よりも高効率に脳へと移行することを確認しており、その研究成果を科学雑誌に投稿申請しました。現在、脳移行性をさらに高めるための製剤や投与デバイスの改良研究を進めており、臨床研究段階へと進展させるべく、基礎データの収集に集中してまいります。
さらに、経鼻ワクチンに関する研究については、呼吸器感染症の流行を抑制し得る新規経鼻ワクチンを世界に先駆けて開発することを目的として、2023年1月に近畿大学生物理工学部と共同研究契約を締結し、さら同年4月には近畿大学名誉教授・医学部客員教授の宮澤正顯(まさあき)氏をトップに擁し当社TRカンパニー経鼻粘膜ワクチン研究開発センターを立ち上げました。経鼻ワクチンの研究においては、ワクチンの効果を高めるためのアジュバント製剤に関する研究にも取り組んでおり、今後、その研究開発を推進するために、ワクチン開発会社や研究機関との更なる連携体制構築を目指してまいります。まず製剤研究とデバイスの改良をベースに非臨床POCの取得にのぞみ、事業化を目的とした早期の臨床試験入りを目指してまいります。一方、連結子会社の株式会社Gemsekiでは、これまで推進してきたグローバルな創薬シーズ・技術のライセンス仲介事業を推進すると共に、同社を無限責任組合員としたファンドによる投資事業を活発化しております。当社との事業シナジー創出に向けた検討を進めるとともに、国内外の顧客に対し、当社グループが保有する豊富な創薬経験とグローバルネットワークを活用した開発支援サービスを幅広く提供してまいります
③ SDGs/ESGへの取組みを通した非財務価値の向上
企業価値を向上させていくためには、従来の財務面のパフォーマンスに加えて、ESG(環境、社会、ガバナンス)をはじめとした非財務面のパフォーマンスを向上させることが求められています。当社は、「環境、生命、人材を大切にする会社であり続ける」という企業理念のもと、世の中がSDGs/ESGに注力し始める以前から財務価値の向上と共にサステナビリティへの取組みを通じた非財務価値の向上にも継続して取り組んでまいりました。
「2028Vision」に合わせ、環境・社会・ガバナンス(ESG)の視点を取り入れたマテリアリティ(重要課題)を再検討し、「事業を通じた社会課題の解決」として3つ、「社会要請に応える経営基盤の強化」として4つ、計7つのマテリアリティを今回特定しました。これらのマテリアリティに取り組むことは、SDGs達成と持続可能な社会の実現にも寄与するものです。
(https://www.snbl.co.jp/cms/wp-content/uploads/2024/02/1f6382774bd6d082d3a29123558e8530.pdf)
環境については、気候変動を地球環境保全のための重大な課題の一つと認識し、脱炭素社会の実現に向けて積極的に取り組んでいます。2015年からは再生可能エネルギーであり、ベースロード電源としても注目が高まっている地熱発電事業を鹿児島県指宿市で実施しており、年間で約4,000tのCO2排出量の削減に貢献しています。当社全体の温室効果ガス排出量についても、2030年に温室効果ガスの排出量と吸収量をプラスマイナスゼロの状態にするカーボンニュートラルの達成をめざす長期目標を設定しました。
さらに、気候変動が企業に与える影響についてリスクと機会を分析し情報開示を求める国際的なフレームワークTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)に賛同を表明し、同フレームワークに基づき、気候変動が当社へもたらすリスクと機会を織り込んだシナリオ分析を含む当社の気候変動対応を開示しています。(https://www.snbl.co.jp/esg/tcfd/)
生物多用性の保全に向けても、当社は鹿児島県指宿市に約103万坪の自然豊かな広大な敷地を有しており、同敷地の9割を占める森林を地域の森林組合の協力のもと適切に管理することで、地域の生物多様性の保全に貢献しています。
社会に関する非財務パフォーマンスについては、人権尊重に関するポリシーの制定、女性が働きやすく活躍できる環境の整備、男性の育児休暇取得の推奨などダイバーシティの推進に取り組んでいます。
また、人財こそ他社差別化を図り企業戦略を実現するための源泉と捉え、当社独自の人材育成制度であるSNBLアカデミーにおいて、各世代、役割や目的に応じた社内教育プログラムを展開することで、さらなる非財務価値の向上に取り組んでいます。加えて、健康経営を実践するために、代表取締役社長自身が最高健康責任者(CHO)を務め、「生活習慣病対策」、「メンタルヘルス対策」、「喫煙対策」の3つの分野でKPIを設定し、従業員の健康状態の向上を図っています。(https://www.snbl.co.jp/esg/esgdata/)
ガバナンスに関して、当社は、常に最良のコーポレート・ガバナンスを追求し、その充実に取り組んでいます。当社のコーポレート・ガバナンスに関する取組みについては、「4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載しているほか、「コーポレート・ガバナンス報告書」や「サステナビリティレポート」をはじめとして、当社のホームページに掲載しています。
④ 優秀な人材の確保と育成
当社グループの事業継続及び拡大にあたっては、各分野における専門的な知識・技能を有する技術系研究員等の人材を多数確保する必要があります。また、クラウド化、AIなどのデジタル技術の発展やオンライン化によるビッグデータの獲得・活用など、IT技術が急速に浸透している中、変化する経営環境に適応するためのマネジメント能力を備えた人材を必要としています。当社グループの競争力を強化する上で最も強く求められるのは、顧客から高く評価される質の高いサービスの提供であり、これを実現するためには優秀な人材の確保とレベルアップが必要であります。
こうした人材の確保や教育研修のために、当社では新卒採用を強化し、社内教育機関の「SNBLアカデミー」を中心として、職種、職位に応じた研修を最重要課題として取り組んでおります。また、女性が社員の過半数を占める当社では、女性活躍に注力しており、産休・育休からの復帰も100%の状況となる中、引き続き女性の管理職登用数の増加に努めてまいります。
当社は、企業理念「環境、生命、人材を大切にする会社であり続ける」を経営判断の根底としています。世の中の変化を先取りしながら価値創造を支える土台である経営基盤を強化し、6つの経営資源(財務資本と5つの非財務資本)を活用して、新規事業の創出と既存事業の創出価値の最大化を図ることで、事業活動を通した資本増強という好循環を生み出しています。
当社の使命である「創薬と医療技術の向上を支援し、人類を苦痛から解放する」ことを念頭に、多様なステークホルダーに寄り添い、事業活動を通して創出した経済的価値および社会的価値をもって、世の中に幸せの連鎖を創造する会社を目指すことを2028Visionとして掲げています。
(1)ガバナンス
当社は、当社グループ全体のサステナビリティの取組みを中長期的な視野で体系的に拡充し推進させていく目的から、当社取締役会の任意の諮問機関として「SDGs委員会」を設置し、毎月開催しています。
SDGs委員会は独立社外取締役を委員長として、サステナビリティに関する重要な案件について審議・策定しています。取締役会ではSDGs委員会からの報告を基に、サステナビリティに関する基本方針や重要事項を決定の上、社内の取組みに関する監督が適切に図られるように体制を整えています。
SDGs委員会では、サステナビリティ関連のリスクを以下の手順で管理しています。
(リスク及び機会の識別及び評価)
当社は持続的な企業価値の向上に向けて、当社へのリスク・機会を検討の上、「事業を通じた社会課題の解決」および「社会要請に応える経営基盤の強化」の2つの観点からマテリアリティを特定しています。マテリアリティの特定プロセスは「(3)リスク管理 ①マテリアリティの特定」にて記載しています。
マテリアリティはSDGs委員会にて定期的に見直し・更新の検討をしており、直近では2022年10月に更新し、7つのマテリアリティを特定しています。
(リスクの管理)
SDGs委員会において、特定した7つのマテリアリティにおける当社の対応方針を議論し、各マテリアリティにKPIを設定することで課題解決に向けた取組みをモニタリングしています。各マテリアリティにおける当社の取組みは「(2)戦略 ①マテリアリティの特定」に記載しています。
(サステナビリティ関連のリスク及び機会に関する取締役会の役割)
取締役会ではSDGs委員会からの報告をもとに、サステナビリティに関する基本方針、ポリシー、リスクと機会、目標、行動計画、および進捗状況に関する監督を行っております。SDGs委員会には社外取締役が委員長として、取締役副社長、専務取締役が委員として参加しており、委員会における検討・審議に参加しております。
(2)戦略
先述の通り、当社ではサステナビリティ関連のリスク及び機会を検討の上、優先度の高いテーマをマテリアリティとして特定しています。サステナビリティの推進に当たっては「新日本科学サステナビリティ基本方針」を基軸とし、社員一丸となって取組みを進めるとともに、下表の通り、各マテリアリティに対応するための取組みを進めています。
<新日本科学サステナビリティ基本方針>
1.マテリアリティの特定と事業を通じた環境・社会課題の解決
自社の財務的影響に加えて、環境・社会的影響を考慮したダブルマテリアリティの考え方に基づき、事業を通じて環境・社会課題の解決に貢献することで、持続的な企業価値の向上を目指します。
2.ステークホルダーとの双方向の対話を通じた信頼の獲得
積極的かつ公平な情報開示に努め、ステークホルダーとの双方向の対話を通じて、社会からの要請に応えていくことで、信頼される企業を目指します。
3.サステナビリティの社内浸透
社員へのサステナビリティ教育を促進し、社員一人ひとりがサステナビリティ推進を実践しています。
①マテリアリティの特定
持続的な企業価値の向上に向けて、「事業を通じた社会課題の解決」及び「経営基盤の強化」の視点から、7つのマテリアリティを特定しています。
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事業を通じた社会課題の解決 |
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マテリアリティ |
社会課題 |
当社の取組み |
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創薬と医療技術向上の支援 (医薬品アクセスの向上) |
製薬企業の新たな創薬モダリティの研究開発のパートナーと成り得るCROの不足
世界的な実験用NHPの不足に伴う医薬品開発の遅れ
ドラッグラグによる地域間における医薬品アクセス格差 |
当社は他社では実施困難な技術および評価系を保有し、自社グループ内での実験用NHPの繁殖・供給体制を構築することで、顧客のニーズに迅速に対応できる体制を整えています
世界約50か国に拠点を持つPPDグループとJVを組み、国際共同治験を実施することでドラッグラグの解消に貢献しています |
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健康な人生の提供 (Wellbeingな暮らし) |
高齢化社会に伴う社会保障費の増加
日本の医療分野におけるビッグデータ(リアルワールドデータ)活用の遅れ |
ウェルビーイングをコンセプトとした3つのホテル事業を通して、ウェルビーイング体験を提供しています
製薬企業、医療機関、アカデミアとのネットワークを有効活用しつつ、デジタル技術とリアルワールドデータを活用した事業化の支援を積極的に推進しています。 |
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美しい地球環境の保全 |
気候変動における世界的な対応の遅れ
自然資本喪失に伴う経済的損失の拡大
絶滅危惧種ニホンウナギの生態系サービス損失の恐れ |
再生可能エネルギー地熱発電事業を展開し、2030年カーボンニュートラル実現に取り組んでいます
当社保有の約100万坪(330ha、指宿市)の森林を保全しています
シラスウナギの人工種苗研究に成功し、ニホンウナギの大量生産にむけた準備を進めています |
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経営基盤の強化 |
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働く楽しさを実感できる 組織づくり |
人的資本への投資
企業の存在意義と連動した人材の育成
社員の働きがいの改善による生産性の向上
社員の健康管理と積極的な疾患予防体制の構築 |
人材こそ企業価値の源泉と捉え、当社独自の人材育成機関であるSNBLアカデミーを通して、新入社員から管理職候補社員まで幅広い層に向けた育成プログラムを展開しています
LGBTQ+の理解を深め、性別に関係なく誰もが働きやすく活躍できる職場を構築しています。
医師でもある代表取締役会長兼社長自身が最高健康責任者(CHO)とメディポリス国際陽子線治療センター理事長を兼務し、当社常勤5名の医師と協力して社員の健康管理を実践しています |
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DX/RPA推進によるビジネスの進化 |
DX実現による2025年の崖の克服
DXを実現する人材の育成 |
全社部門横断的にDX人材育成に取り組んでいます
紙原本での品質管理が主流であるCRO業務において、紙記録から電磁的記録への変更、業務工程の見直しにより紙の使用枚数削減を目的としたプロジェクトを実施しています |
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ステークホルダー エンゲージメントの向上 |
ステークホルダーとの信頼関係・パートナーシップの構築
サプライチェーン全体でのサステナビリティの強化
株主・投資家との双方向のコミュニケーションの促進 |
お客様からのフィードバックを活かし、顧客満足度の向上に取り組んでいます
サプライヤー行動規範を策定し、サプライチェーン全体でサステナビリティの実践に取り組んでいます
IR広報ブログ、統合報告書、ESGデータブックの発行を通して、当社の取組みを分かりやすい形で発信しています |
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企業理念を実現する ガバナンスの構築 |
コンプライアンスの強化
透明性の高い経営の実現 |
監査役会、会計監査人の機関を設置し、1/3以上の独立社外取締役を選任することで取締役会の監査・監督機能を強化しています
e-learning形式のコンプライアンス研修を毎月実施することで、社員のコンプライアンス意識の向上を図っています |
②気候変動への取組みとTCFD対応
気候変動問題への対応は、当社のサステナビリティ推進の取組みにおける最重要課題の一つであり、2021年10月にはパリ協定目標に即し、2030年までに国内の自社事業活動におけるScope1およびScope2排出量をネットゼロとする「カーボンニュートラル目標」を宣言しました。
当社は2020年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明し、気候変動に関連する当社のリスクおよび機会を継続的にモニタリングし、TCFD提言に沿った情報開示の拡充に取り組んでいます。
(https://www.snbl.co.jp/esg/tcfd/)※TCFD提言に沿った情報開示は毎年夏頃に見直し・更新しています。
③人材育成方針
当社は、「人財」こそが他社との差別化を図り企業価値向上を実現するための源泉と捉え、従業員の個性を尊重し、社員一人ひとりが会社の一員として連帯感を持ち、それぞれの適性を活かして能力を発揮し、弱みを補完でき感謝し合う組織を構築しています。
本方針のもと、人的資本経営の目指すべき姿として「FY2028人財戦略Vision」を策定しました。当社は、「人材」を社会の財産である「人財」とするために、社員の生きがい・働きがいを向上させることで、社員一人ひとりの夢の実現を応援しています。当社の理念に共感する多様な人材が集まり、当社で働くことを通して自己実現を達成するとともに、幅広いステークホルダーの皆様への価値を創出する、この好循環を推し進めていきます。
<独自の人材育成>
2002年に新設したSNBLアカデミーでは、社員への「企業理念の浸透」と「Transformation」を目標とした独自の社内教育を実施しています。毎年10数名の選抜された中堅社員を対象に、経営者マインドの醸成、企業理念の浸透を主軸として、永田社長が直接研修する「永田塾」など、新入社員から将来の管理職/経営者候補まで幅広い人財を育成する複数のプログラムを展開しています。
<企業理念の浸透>
当社では毎月1回、役員/部長クラスが集まる経営理念会議を開催するとともに、毎週月曜日に社長が自らの言葉で社員に向けたビデオメッセージを全社配信し、経営トップ自らが理念の浸透を図り、組織の一体感を醸成しています。
2001年からはその日の振り返りを、「出来事・気づき・教訓・宣言」の4項目で文字に書き出すMy理念実践(4行日記)に全社員が毎日取り組んでいます。日々、自身が企業理念に沿った行動を取れていたか振り返るとともに、毎月ランダムでマッチングされるメンター役の社員からのフィードバックを通して、組織全体で企業理念の浸透に取り組んでいます。
④社内環境整備方針
当社は、人種、宗教、障がい、性別など、多様なバックグラウンドを持つ人財が、それぞれの強みを活かし、弱みは補完し、感謝し、尊敬し合う組織の構築に努めています。このDiversity & Inclusionの経営を推進することで、事業に新たな価値を生み出し、継続的にイノベーションを創出しています。
多様性の確保にあたっては、「人財マネジメントに関するポリシー」を定め、社長自らがその重要性を発信するとともに、取締役への評価項目にも多様性に関する取組みや成果が組み込まれています。
<人権尊重の取組み>
当社は、「人権尊重に関するポリシー」を制定しています。「ビジネスと人権に関する指導原則」の理念に賛同し、「国際人権章典」および「労働における基本的原則および権利に関する国際労働機関(ILO)宣言」等の人権に関する国際規範ならびに国内の関連法令などに加え、企業理念である「環境・生命・人材を大切にする会社であり続ける」に則った独自の倫理綱領を軸として、役職員、取引先、地域コミュニティ等の全ステークホルダーに対して人権を尊重した事業活動を推進しています。
<差別およびハラスメント防止の取組み>
当社は、「差別およびハラスメント防止に関するポリシー」を制定しています。業務における不正、ハラスメント、労働関連、健康関連、人事評価に関する相談窓口を複数設置し、匿名での相談も可能となっています。また別途、社内外に通報窓口を設置しており、通報があった場合は内部監査部が事務局となり、総務人事担当役員が委員長を務める内部通報対応委員会を設置し対応することで、不正行為の未然防止、早期発見および是正を図っています。
<柔軟な働き方の実現>
当社では社員の就業継続に向けて、さまざまな制度を設けており、2023年度における社員の育休からの復職率・定着率は100%となっています。男性の育児休暇取得についても、育休対象者とその上司に制度を案内するなど、積極的に取り組んでおり、男性の育児休暇取得率は140%(2022年度は64.7%)となっています。
社員の多様なキャリアの実現に向けても各種制度を設けています。
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柔軟な働き方を支える制度 |
キャリア支援制度 |
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テレワーク勤務 |
複線型人事 |
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フレックスタイム制度 |
職種の転換 |
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時差出勤 |
勤務地の限定 |
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時間単位での有給休暇 |
再雇用 |
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事業所併設託児所 |
資格の取得支援 |
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保育料補助制度 |
学位取得/海外留学に向けた社内奨学金 |
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ランチョンセッションの定期開催 |
昇格要件の公開 |
<女性活躍の推進>
当社では、女性活躍の推進をDiversity & Inclusionの最重要課題と認識し、2028年度までの目標値を設定の上、その達成に向けた各種施策を実施しています。
(ⅰ)管理職に占める女性の割合を30%以上(既に係長職は40%以上が女性)
(ⅱ)女性の育児休業取得率 100%、男性の育児休業取得率 100%
具体的には採用段階から活躍事例を積極的に発信するとともに、採用手法・プロセスを多様化し、管理職候補人材を早い段階から社内で発掘し、登用を見据えた人材プールを戦略的に作成しています。また、アンコンシャスバイアス研修や女性特有の健康課題に関する理解を促進する研修の実施を通して社内の継続的な意識改革を行うとともに、事業所併設託児所の設置など女性が躊躇なくキャリアアップに挑戦できる制度・環境を整備しています。
女性活躍の推進にあたっては、1991年から積極的な女性採用を進め、2007年には託児所を設置しました。その後、女性が職場において十分な能力を発揮するために必要なものが何か、現場の声を吸い上げることができる仕組みとして、2014年には「働くなでしこ委員会」を発足し、同委員会によるアンケートの実施等を通して各種施策の導入に取組むことで、結婚・出産を理由として退職する女性の割合は38.5%(2007年度)から0%(2023年度)に改善しています。
⑤動物福祉への考え方
国際的に普及している動物実験の基本理念である「3Rの原則;Replacement(代替法の利用)、Reduction(動物利用数の削減)、Refinement(苦痛の軽減)」に則り、動物の生理、生態、習性などを十分に配慮した適正な動物の飼育・管理を行っています。さらに動物に対する感謝の念をもって科学上の利用に努めています。
(3)リスク管理
①マテリアリティ毎の機会とリスク
当社は、持続的な企業価値の向上に向けた重要課題として、7つのマテリアリティを特定しています。マテリアリティの特定プロセスは下記の通りです。
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STEP1 社会課題・社会要請の把握と集約 各種ガイドライン(SDGs、GRIガイドライン等)や、ESG評価機関の指標、日本政府のガイドラインなどを参考に、事業を通じて解決する「社会課題」および経営基盤の強化に向けた「社会要請」を洗い出し、類似項目の整理や当社への関連性を加味し30項目に集約。 |
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STEP2 重要なステークホルダーの特定 各事業部を交えて当社の重要なステークホルダーを特定するとともに、ステークホルダーからの期待・要請を整理。 |
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STEP3 優先度の高い課題・要請の抽出 当社の将来ありたい姿を踏まえて、30項目の「社会課題」および「社会要請」に対する、当社へのリスク・機会を検討の上、優先度の高い課題・要請をマテリアリティ候補として抽出。 |
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STEP4 マテリアリティと機会・リスク・KPIの特定 抽出したマテリアリティ候補について、機会・リスク・目指す姿を整理の上、重要な7項目をマテリアリティとして特定。 |
2022年度に社内で整理したマテリアリティごとの主な機会とリスクは下表の通りです。
②動物福祉に係る社内リスク管理体制
当社はIACUC(Institutional Animal Care and Use Committee:動物実験委員会)を設置し、定期的に関連法令、基準、指針、ガイドラインなどへの適合性について、施設および実験の実施状況を調査しています。
職員は、業務に従事する前に動物福祉に関する法令や動物の健康管理、取扱いの教育訓練の受講を義務付け、定期的な継続研修を実施しています。
第三者評価として、2011年に国際的な認証機関であるAAALAC Internationalによる認証を取得しています。現在、当社グループの動物飼育施設はいずれも定期的に訪問調査を受け、認証を更新しています。
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<AAALAC Internationalについて> AAALAC International(国際実験動物ケア評価認証協会)は、動物のケアと使用プログラムに関して「実験動物の管理と使用に関する指針(the Guide)」等の指針に基づく評価認証を行う、唯一の国際的な第三者機関であり、現在50か国の1,040を超える組織が同機関の認証を受けています。 |
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(4)指標および目標
①サステナビリティに関する指標について
当社は、ESGに関する各種指標を含めた非財務情報を、当社ウェブサイト、統合報告書、ESGデータブックなどで開示しています。
※この有価証券報告書提出日においては、掲載されている情報は2022年度の実績となります。
・当社ウェブサイト
https://www.snbl.co.jp/esg/
・統合報告書
https://www.snbl.co.jp/ir/library/ar/
・サステナビリティレポート
https://www.snbl.co.jp/esg/esgdata/
②サステナビリティに関する目標について
③人的資本に関する指標および目標について
当社はマテリアリティの1つに「働く楽しさを実感できる組織づくり」を掲げています。同マテリアリティにおける非財務KPIとして以下の指標を設定しています。
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サブマテリアリティ |
KPI(指標) |
目標 |
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ダイバーシティ&インクルージョンの推進 |
・ |
・ |
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・ |
・ |
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人的資本経営の推進 |
・一人当たりの研修時間数 ・読書習慣の浸透(※1) |
・実績管理 ・実績管理 |
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健康経営の推進 |
・SNBL健康経営推進指標(10項目) |
・FY 3/2027:各指標の目標達(※2) |
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社員と会社の共成長 |
・従業員満足度調査 ・従業員エンゲージメント調査 |
・実績管理 ・実績管理 |
(※1) 年間読書量7冊以上の社員割合
当社の戦略・事業その他を遂行する上でのリスクについて、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると考えられる主な事項は以下の通りであります。以下に記載したリスクは、当社の全てのリスクを網羅したものではなく、記載以外のリスクも存在し、投資家の判断に影響を及ぼす可能性があります。主なリスクは、「各事業領域におけるリスク」と「各事業領域共通のリスク」に分類しています。
なお、本文中における将来に関する事項は、特段の記載がない当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
(1)各事業領域におけるリスク
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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CRO事業 |
◆非臨床事業 ①実験動物を安定的に調達できないリスク ②非臨床試験において、実験動物(特にNHP)を用いた試験の優位性が低下するリスク ③試験施設における感染症等の発生のリスク ④動物福祉に関する法令、指針、基準に反した行動が行われるリスク |
◆非臨床事業 ①実験動物の不足による、試験計画の見直し、試験数の減少 ②競合他社との差別化が十分に図れないことによる、当社の市場優位性の低下 ③感染症の発生による、試験計画の見直し、試験の一時的中断 ④法令による処罰、訴訟の提起、社会的制裁を受け、お客様からの信頼の失墜 |
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◆臨床事業 ①被験者に健康被害が生じるリスク |
◆臨床事業 ①治験の中断・中止 |
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主な対策 |
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◆非臨床事業 ①当社はCROとして唯一、自社グループ内における実験用NHPの繁殖供給体制を確立しており、安定的な調達体制を整えています。 ②現状、NHPはヒトとの遺伝子類似性が9割以上もあることから、非臨床試験における優位性は高いとされており、特に抗体医薬品、核酸医薬品や遺伝子治療薬等のバイオ医薬品の非臨床試験における当該需要は拡大する傾向にあるものと考えております。一方で、Microphysiological systems(MPS)をはじめとした動物や人由来の細胞や組織を用いたin vitro試験についても、動物実験の一部を代替する目的で研究が進んでおり、当社においても導入へ向け検討を進めています。 ③GLP基準に基づく研究施設は、試験従事者等の入退出管理を含めて、安全管理・衛生管理には万全の態勢を構築しております。また、当社グループの在外企業においては、所在する各国における関連法律・制度による諸規制を受けておりますが、いずれも国内と同様に、安全管理・衛生管理には万全の態勢を構築しております。 ④当社はGLP基準に適合した業務遂行を行うと共に、実験動物を用いるに際しては「動物の愛護及び管理に関する法律」、「実験動物の飼養及び保管並びに苦痛の軽減に関する基準」等の適用法令及び動物実験に関する指針を遵守し、実験動物の適正な管理を行うと共に、実験動物の苦痛の軽減に努め、試験に用いる実験動物数の削減につながる代替法の開発にも注力しております。 |
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◆臨床試験 ①医薬品の開発元であるクライアントとしっかりと連携しながら、GCP基準に準拠した業務遂行を行っております。医薬品の安全性情報について、国内チームだけでなく、グローバル(PPD)の部門とも協働しながら、世界中の医薬品に関する情報を集積し、分析・評価し、適切な安全対策をとることによって、健康被害が生じるリスクの軽減に努めております。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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TR事業 |
①開発パイプラインの期待された有効性有用性の確認ができず、研究開発が中止となるリスク ②被験者に健康被害が生じるリスク |
①費やした多額の費用の回収不能 ②治験の中断、中止 |
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主な対策 |
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①現在の開発パイプラインは、既に医薬品として承認された有効成分を用いた新製剤です。そのため、有効成分自身の有効性は担保されています。一方で、新製剤としての有効性については、GCP及び治験薬GMP基準に準拠した業務遂行を行うと共に、当社の非臨床事業と連携して、適切な評価動物の選択や評価方法の選択を含めた非臨床試験の実施による事前評価も行っております。 ②現在の開発パイプラインは、既に医薬品として承認された有効成分を用い新製剤です。そのため、その有効成分を含む既存承認薬の使用実績から、有効成分自身に関する健康被害リスクを予測することができるため、それに基づいた対策を講じております。一方で、新製剤としての健康被害リスクに対しては、GCP及び治験薬GMP基準に準拠した業務遂行を行うと共に、適切な非臨床試験による評価や想定する製品ライフサイクルを踏まえたリスク管理にも努めております。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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メディポリス事業 |
◆ホスピタリティ事業 ①景気動向や海外情勢の影響を受けるリスク ②食品の衛生事故が発生するリスク |
◆ホスピタリティ事業 ①個人消費の低迷や観光需要(訪日外国客の減少など)による稼働率の低下 ②一時的な営業停止、営業許可の取消、お客様からの信頼の失墜 |
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◆発電事業 ①生産井の蒸気量が減衰するリスク ②還元井の熱水還元能力が低下するリスク ③発電設備・蒸気熱水処理設備の故障リスク |
◆発電事業 ①、②、③発電量の減少、発電停止 |
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主な対策 |
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◆ホスピタリティ事業 ①国内外それぞれに対してマーケティングを強化し、それぞれに適したアプローチを行うことで、継続的な顧客集客ができる体制を構築している。また、パンデミックのような有事の際は、グループ企業である強みを活かし、人の移動によって人件費のコントロールを行うことでコストの最小化を図ることができる。 ②衛生管理マニュアルを作成、衛生管理責任者を設置し、常にチェックをしている。また、毎月の糞便検査により、感染拡大を未然に防ぐ手段を講じている。感染が発覚した際は、感染者は再検査で陰性になるまで自宅待機としており、該当者が触れた部位に関してはハイクロソフト水で除菌を行っている。 |
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◆発電事業 ①現在のところ、生産井から噴気する蒸気量の減衰は確認されておりません。今後も随時蒸気量をモニタリングし、減衰が確認された場合には、補充井掘削等の必要蒸気量を供給するための対策を検討および実施してまいります。 ②熱水還元能力が低下する主要因としては、熱水に含まれるスケールが析出し、還元井内部を閉塞させていることが考えられます。当社では、定期的に還元井内部のスケール除去工事を実施することで長期的に熱水還元が継続出来るよう努めております。 ③日常点検や発電設備を停止して行う年次点検を基にした予防保全を実施しております。 |
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(2)各事業領域共通のリスク
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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人権 |
①当社の事業活動により、サプライチェーンの取引先を含めて、直接または間接的に人権に影響を及ぼすリスク |
①企業に対する社会からの要請に十分に応えられないことによる企業価値の低下 |
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主な対策 |
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①当社は、「人権尊重に関するポリシー」を制定しています。「ビジネスと人権に関する指導原則」の理念に賛同し、「国際人権章典」および「労働における基本的原則および権利に関する国際労働機関(ILO)宣言」等の人権に関する国際規範ならびに国内の関連法令などに加え、当社企業理念である「環境・生命・人材を大切にする会社であり続ける」に則った独自の倫理綱領を軸として、役職員、取引先、地域コミュニティ等の全ステークホルダーに対して人権を尊重した事業活動を推進しています。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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環境 |
①気候変動による物理的リスク ②脱炭素社会への移行リスク ③環境対応の不足、遅れによるレピュテーションリスク |
①温暖化による自然災害の激甚化等による一時操業停止 ②対応費用や炭素税などによるコストの上昇 ③企業に対する社会からの要請に十分に応えられないことによる企業価値の低下 |
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主な対策 |
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当社は2020年10月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」提言への賛同を表明し、気候変動に関連する当社のリスクおよび機会を継続的にモニタリングし、TCFD提言に沿った情報開示の拡充に取り組んでいます。 https://www.snbl.co.jp/esg/tcfd/ (※TCFD提言に沿った情報開示は毎年夏頃に見直し・更新しています) |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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サプライチェーン |
①自然災害や感染症、地政学リスクの影響等によりサプライチェーンが分断するリスク |
①原材料の調達が困難となることによる事業活動の一時制限や中断 |
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主な対策 |
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①当社は、これらサプライチェーンに係るリスクに備え、サプライヤー行動規範の制定、損害保険の加入、事業継続計画(BCP)の策定、備蓄機能の強化、サプライヤーとの情報共有体制の構築など、安定的なサービス提供のための体制を整備しております。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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法的規制・ コンプライアンス |
①法令違反や社会の要請に反した行動が行われるリスク |
①法令による処罰、訴訟の提起、社会的制裁を受け、お客様からの信頼の失墜 |
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主な対策 |
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①当社は企業理念である「環境、生命、人材を大切にする会社であり続ける」に基づいた倫理綱領を制定し、ステークホルダーに対して新日本科学グループの一員として希求される行動規範を「コンプライアンス行動指針」としてまとめ、全役職員に理念手帳を配布し指針の周知徹底を図っています。また、コンプライアンスに関する最新情報や事例について、毎月e-learningによる社内研修を実施しています。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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財務・税務 |
①外国為替相場の変動による円換算後の価値が変動するリスク ②市場金利の変動による支払利息が変動するリスク |
①特に米ドルに対する円高進行が経営成績に悪影響を及ぼす可能性 ②市場金利の上昇に伴う支払利息の増加により金融収支が悪化する可能性 |
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主な対策 |
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①必要に応じて為替予約を利用するなどして為替変動リスクを低減しています。 ②長期借入金の大半を固定金利による調達とすることで、金利変動リスクの低減を図っています。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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情報セキュリティ |
①サイバー攻撃、情報セキュリティ事故、情報漏洩等に関するリスク |
①個人情報や重要な営業機密の情報漏洩によるお客様の信頼の失墜や損害賠償の発生、サイバー攻撃による業務の一時停止 |
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主な対策 |
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①当社グループでは秘密情報を厳重に管理すると共に、役職員に対しては、個別に秘密情報の保全を義務付ける機密保持契約を締結し、在籍中、退職後を問わず、厳重に機密保持が遵守されるように注力しております。 また、セキュリティインシデントを想定した訓練を定期的に実施するとともに、社内ネットワークへのウイルス拡散を防止するため、パソコン毎にセキュリティソフトウェア製品を導入しております。加えて、ランサムウェア等による情報漏洩対策として、パソコン毎にEDR(Endpoint Detection and Response)製品を導入しております。また、クラウドサービスの利用拡大に対処すべく、当社のセキュリティモデルを従来の境界型セキュリティモデルからゼロトラストセキュリティモデルへ転換し、認証と認可(アクセス権限のポリシー)がより厳密にコントロール可能な状態下でクラウドサービスを利用しております。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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知的財産権 |
①第三者に当社の知的財産権を侵害され、事業活動に不利益が生じるリスク ②当社の事業活動が第三者の知的財産権に抵触するとして指摘を受けるリスク |
①当社技術の保護及び不利益回復のための、警告状の送付、侵害行為の差止請求、損害賠償請求等の訴訟提起等の対応を要する可能性 ②係争によるレピュテーション低下や事業戦略・事業計画の見直し、事業活動の一時制限や中断の可能性 |
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主な対策 |
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当社は、「知的財産に関するポリシー」を策定し、その権利を確実に保全することで企業価値の向上に努めています。 有価証券報告書提出日現在、当社グループの開発に関連した特許権等の知的財産権について、第三者との間で訴訟やクレームが発生したという事実はありませんが、このような問題を未然に防止するため、事業展開に際しては顧問弁理士・弁護士への相談や特許事務所を活用して知的財産権の侵害等に関する事前調査を実施しています。 |
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事業分野 |
想定するリスク |
リスクが顕在化した場合の主な影響 |
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情報技術 |
①DXの取組みが進まず、競合劣後となるリスク ②DX人財の確保・育成が進まないリスク |
①業務生産性の向上や付加価値の創出が進まないことによる市場競争力の低下 ②DX推進の取組の遅延 |
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主な対策 |
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①当社は、持続的な企業価値の向上にはDXによるビジネスモデルの深化が不可欠であると認識し、既存ビジネスモデルの深化と新規ビジネスモデルの創出の両面に取り組んでいます。 主力事業である非臨床事業では、顧客体験価値の向上(Front-End革新)と時間価値の創出(Back-End革新)を同時に実現するDXに取り組んでいます。財務会計や管理会計といった領域におけるDXにも積極的に取り組んでおり、DXを通して、データ連携によるプロセスの自動化・簡素化、専門性を更に高めるナレッジの共有や各事業へのサポート体制の構築を目指しています。AIに専門性を持つチームを立上げ、併せてプロジェクトマネジメントスキルをもつ人材を主要プロジェクトに投入することで、DXプロジェクトの着実な遂行を行っています。 ②DX人財の育成に向けては、社内従業員を対象として、DX人材育成研修を実施しており、社内公募で募ったメンバーに対してe-learning形式のDX研修を実施しています。(※本研修の対象者は全社員)また、社内でDX推進プロジェクトを推進する際は、適宜、参画メンバーを幅広く社内公募で募って推進しています。加えて、AIに専門性を持つチームの立上げとDXプロジェクトの遂行を通じ、社内のDXに対する意識とナレッジを高めています。 |
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(1)経営成績等の状況の概要
当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。
① 財政状態及び経営成績の状況
当連結会計年度における売上高は26,450百万円と前連結会計年度に比べて1,359百万円(5.4%)の増加となっております。
営業利益は4,162百万円と前連結会計年度に比べて1,082百万円(20.6%)の減少、経常利益は7,015百万円と前連結会計年度に比べて2,178百万円(23.7%)の減少となり、親会社株主に帰属する当期純利益は固定資産除売却損54百万円、減損損失34百万円を計上したこと等から、5,531百万円と前連結会計年度に比べて528百万円(8.7%)の減少となりました。
当社グループのセグメント別業績は次のとおりであります。
(a) CRO事業
売上高は25,909百万円と前連結会計年度に比べて1,909百万円(8.0%)の増加となり、営業利益は、6,998万円と前連結会計年度に比べて662百万円(10.5%)の増加となりました。
(b) トランスレーショナル リサーチ事業(TR事業)
売上高は13百万円と前連結会計年度に比べて前連結会計年度に比べて3百万円(19.7%)の減少となり、営業損失は2,465百万円(前連結会計年度:営業損失879百万円)となりました。
(c) メディポリス事業
売上高は569百万円と前連結会計年度に比べて114百万円(16.8%)の減少となり、営業損失は254百万円(前連結会計年度:営業損失203百万円)となりました。
② キャッシュ・フローの状況
当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という)は前連結会計年度末に比べて1,077百万円(11.7%)増加して、10,274百万円となりました。
当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動の結果獲得した資金は2,106百万円と前連結会計年度に比べて1,897百万円(47.4%)の減少となりました。
主な内訳は、税金等調整前当期純利益6,974百万円、減価償却費1,774百万円、持分法による投資利益2,751百万円、棚卸資産の増加額5,003百万円、前受金の増加額1,487百万円、利息及び配当金の受取額2,447百万円及び法人税等の支払額1,223百万円であります。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動の結果使用した資金は6,907百万円と前連結会計年度に比べて977百万円(16.5%)支出が増加となりました。
主な内訳は、有形固定資産の取得による支出8,583百万円があったことに対して定期預金の払出による収入1,507百万円があったこと等によるものであります。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動の結果獲得した資金は5,318百万円と前連結会計年度に比べて947百万円(15.1%)の減少となりました。
主な内訳は、長期借入れによる収入が17,700百万円あったことに対し、長期借入金の返済による支出6,230百万円を行ったこと、短期借入金の純増減額△3,903百万円及び配当金の支払額を2,072百万円行ったためであります。
③ 生産、受注及び販売の実績
(a) 生産実績
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(千円) |
前期比(%) |
|
CRO事業 |
28,662,089 |
101.2 |
|
トランスレーショナル リサーチ事業 |
11,670 |
70.8 |
|
メディポリス事業 |
477,550 |
79.5 |
|
報告セグメント 計 |
29,151,310 |
100.7 |
|
その他事業 |
936,444 |
169.4 |
|
合計 |
30,087,755 |
102.0 |
(注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。
2 金額は、販売価格によっております。
(b) 受注実績
当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
受注高(千円) |
前期比(%) |
受注残高(千円) |
前期比(%) |
|
CRO事業 |
28,388,157 |
109.4 |
33,538,610 |
113.7 |
|
トランスレーショナル リサーチ事業 |
11,670 |
70.8 |
- |
- |
|
メディポリス事業 |
477,550 |
79.5 |
- |
- |
|
報告セグメント 計 |
28,877,378 |
108.7 |
33,538,610 |
113.7 |
|
その他事業 |
1,036,123 |
164.3 |
865,865 |
644.8 |
|
合計 |
29,913,501 |
110.0 |
34,404,475 |
116.1 |
(注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。
2 金額は、販売価格によっております。
(c) 販売実績
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
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セグメントの名称 |
金額(千円) |
前期比(%) |
|
CRO事業 |
25,660,795 |
107.3 |
|
トランスレーショナル リサーチ事業 |
11,670 |
70.8 |
|
メディポリス事業 |
477,550 |
79.5 |
|
報告セグメント 計 |
26,150,016 |
106.6 |
|
その他事業 |
300,452 |
54.7 |
|
合計 |
26,450,468 |
105.4 |
(注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。
2 金額は、販売価格によっております。
3 最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績に対する割合は、当該割合が10%未満であるため記載を省略しております。
(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容
経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次の通りであります。
なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。
① 財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容
当社グループの当連結会計年度の財政状態及び経営成績は、次のとおりであります。
(a) 概要
医薬品業界は、国内外において研究開発のスピードアップと費用の効率化並びに規制当局への対応簡素化を期待してCROへのアウトソーシングの動きが引き続き活発化しています。加えて核酸医薬、次世代抗体医薬、ペプチド医薬、遺伝子治療、細胞治療、再生医療などの新規創薬モダリティ(治療手段)の研究開発が本格化してきています。このようなトレンドを受け、CRO事業を主力事業とする当社は、“ダントツのCRO”としてクライアントから第一に指名される存在になることを目指しており、顧客ニーズを満たす迅速な対応とサービスの向上並びに継続的な品質の向上に注力しております。
(b) CRO事業
CRO事業は、細胞・実験動物等を用いる非臨床試験(または前臨床試験)を受託する非臨床事業と、臨床試験を受託する臨床事業から構成されます。
当社の非臨床事業は、業界では国内最大手であり、海外では実験用NHPを用いた数多くの試験実績から第2グループの一角を占めています。非臨床事業業績の先行指標である受注高は、2020年3月期から当連結会計年度までの4年平均成長率(CAGR)は20.1%(イナリサーチ社を除くと16.0%)と順調に拡大しています。当社がこれまで実施してきた以下の取組みが成果を表してきております。
・CROとして唯一構築できている「自社グループ内における大型実験動物繁殖・供給体制」が新たな創薬モダリティの研究開発の本格化等により重要性を増し、加えて世界的な実験用NHPの枯渇により受注に繋がっております。また、国内での実験用NHP繁殖体制を強化し、輸入リスクの軽減と品質向上を目指しております。当連結会計年度には新規の繁殖・育成施設が完成し、稼働を開始しました。
・試料中の医薬品等開発候補品(被験物質)やバイオマーカーの濃度分析をバイオアナリシスと呼びます。新たな創薬モダリティの有効性・安全性評価に必要な最新鋭装置を導入し、被験物質やバイオマーカーの評価系を早い時期から構築してきたことが、上記「自社グループ内における実験用NHP繁殖・供給体制」構築と相乗効果を発揮し、新たな創薬モダリティに関連した受注に繋がっております。
・これらの取組みを評価いただき国内製薬企業と新たなプリファード契約を締結し受注増に繋がっております。また、当連結会計年度に入り海外大手製薬数社が新たな契約締結へ向けたデューデリジェンスを本格化しておりましたが、第3四半期に複数社からパイロットとなる受注を得ることができました。
・大手製薬企業との創薬段階における包括的研究受託契約も順調に推移し、既に複数の企業から創薬段階の研究を受注しております。
・研究員を中心にサイエンスレベル向上に注力しております。当社は、顧客に対してより効果的で効率的な試験を提示できる提案型CROを目指しており、当連結会計年度には国内外の複数の学会において研究成果の発表及び論文発表を行いました。また、韓国、日本国内においてSNBLセミナーを開催し、多くの顧客と科学的なディスカッションを行い、当社のこれらまでの経験や取組みを広くご理解いただきました。
上記取組みの結果、2024年3月期における非臨床事業の受注高は27,411百万円と過去最高となり、前年度から2,490百万円(10.0%)の増加となりました。2024年3月末の受注残高は33,212百万円となりました(2023年3月末比3,964百万円増)。国内製薬企業、ベンチャー企業の受注高は順調に増加し、国内受注高は前年度比4,019百万円(24.6%)増加の20,359百万円となりました。海外からの受注額は、前年度比1,529百万円(17.8%)減少の7,052百万円となり、総受注額に占める海外受注比率は25.7%(前年度は34.4%)となりました。しかしながら、受注の先行指標である足元の問い合わせ状況は好転しており、海外顧客からの問い合わせ及び当社訪問件数も増加しております。なお、2022年7月に連結子会社となった株式会社イナリサーチ(以下、イナリサーチ)の2024年3月期の受注高は3,540百万円となっております。
(c) トランスレーショナル リサーチ事業(TR事業)
トランスレーショナル リサーチ事業(TR:Translational Research、以下TR事業)とは、自社研究開発のほか、国内外の大学、バイオベンチャー、研究機関などにおいて基礎研究から生まれる有望なシーズや新技術を発掘し、付加価値を高めて事業化または株式上場、あるいはM&Aにつなげる研究開発型の事業です。
1997年以来、TR事業の主軸として探求してきた当社経鼻投与基盤技術は、独自の担体組成をベースとした、粉体製剤技術と独自設計の投与デバイス(医療機器)を組み合わせたプラットフォーム技術です。鼻粘膜上での十分な停留性と、速やかな薬物吸収に基づく即効性を特徴としており、加えて注射に比べて投与が簡易で製剤の室温保存も可能という強みがあります。
経鼻投与の事業化については、プロジェクトを数種に絞り込んでおります。当社連結子会社である株式会社SNLDでは、国内でパーキンソン病のオフ症状治療のための経鼻On-demand therapy(要求に応じた治療)薬(開発コード:TR-012001)の開発を進めており、2024年1月に臨床第2相前期試験における患者様への投薬を完了しました。現在、安全性・忍容性・即吸収性を確認し、Proof-of-Concept(POC)取得に至るデータの固定と解析を鋭意進めております。また、更なる利便性向上を企図した、TR-012001の改良開発品(TRN501)については、2024年1月に臨床第1相試験の治験届を提出し、すでに遂行段階にあります。2024年6月に、日本人健康成人への投薬開始を予定しております。
当社は経鼻偏頭痛治療薬(開発コード:STS101)の開発を進める米国Satsuma社に経鼻投与技術のライセンス供与をしていましたが、2023年4月16日にSatsuma社の買収に関する契約を締結、公開買付けを実施し、2023年6月8日に同社を完全子会社としました。STS101は、偏頭痛に対して豊富な効果実績を有するジヒドロエルゴタミンを有効成分とし、臨床試験で速やかで持続的な吸収と高い安全性が確認された、使い勝手と携帯性に優れた経鼻剤です。Satsuma社は、2023年3月17日にFDA(米国食品医薬品局)に新薬承認申請書(NDA)を提出し、2024年1月17日にFDAから審査完了報告通知を受領しました。Satsuma社では、FDA見解に基づいて、本年2月に製造した製剤の安定性情報までを組み入れた上で、本年10月までに本剤の新薬承認の再申請を行うべく準備を進めています。
もう1つの経鼻製剤開発プロジェクトとして、経鼻粘膜免疫作用を期待した経鼻ワクチンの研究を行っております。多くのワクチンの目的は発症阻止または重症化予防ですが、当社が目指す経鼻ワクチンは、感染そのものを起こさせないこと(これを「遮断免疫」と言います)を狙って開発しています。2023年4月には近畿大学名誉教授・医学部客員教授の宮澤正顯(まさあき)氏を当社TRカンパニー経鼻粘膜ワクチン研究開発センターのトップに迎えました。国立研究開発法人 日本医療研究開発機構(AMED)内に設置した先進的研究開発戦略センター(SCARDA)が公募した令和5年度「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業(一般公募)」に係る研究開発課題の中から「感染症ワクチンへの応用が期待される新規モダリティの研究開発」について、当社の「粉体噴射型IgA産生誘導経鼻ワクチンシステムの開発」が採択されました。新規ワクチン国策研究開発の大型予算を得て、複数の呼吸器系ウイルスに対し上気道に遮断免疫能を付与する粉体型経鼻ワクチンの開発を本格化することになりました。
子会社の株式会社Gemsekiは、創薬シーズ・技術に関するライセンス仲介事業をグローバルベースで展開するとともに、同社を無限責任組合員としたファンドを組成し、ベンチャー企業への投資事業を行っております。ライセンス仲介事業においては、Gemsekiの仲介により、複数の案件でオプション契約や共同研究契約が締結されました。2023年5月には、国立大学法人北海道大学と株式会社ティムスのオプション契約が締結されたことを開示いたしました。また、本オプション契約に基づいて、2023年10月に国立大学法人北海道大学、株式会社ティムス及び国立大学法人金沢大学の共同研究契約が締結されました。その他、合意書締結等に至った案件もでており、創薬シーズ・技術の導出・導入、産学連携に貢献しております。
投資事業は、既存投資先への追加投資を含むベンチャー企業への投資を積極的に検討しております。国内外の複数の既存投資先との継続的なコミュニケーションの過程で、Gemsekiのライセンス仲介事業や当社との事業シナジー創出に向けた検討を進めております。医薬品・医療機器を創出し育てていくために必要な支援を当社グループ内でワンストップで提供するとともに、当社グループ間でのシナジー創出を目指しております。
(d) メディポリス事業
当社は、鹿児島県指宿市の高台に103万坪(3,400,000㎡)の広大な敷地「メディポリス指宿」を保有しており、この自然資本(約9割が森林)を活用したメディポリス事業を社会的利益創出事業として展開しています。社会的利益創出事業は、企業理念である「環境、生命、人材を大切にする会社であり続ける」ことを体現するものであり、当社は経済的利益のみならず、社会や環境課題といった視点からの社会的利益を一体的に創出しています。具体的には、再生可能エネルギーを活用した発電事業や人々のWellbeing(ウェルビーイング)、つまり全人的な健康の実現をメインコンセプトとしたホテル宿泊施設の運営(ホスピタリティ事業)などを行っております。
発電事業は、2015年2月より1,500キロワット級のバイナリー式地熱発電所を運営しています。本発電所は、当連結会計年度第4四半期より発電機の開放点検並びに修繕を実施しておりました。これに伴い、地熱発電所の稼働停止が発生しておりましたが、2024年5月に修繕が完了し、稼働を再開しております。また、新規発電プロジェクトとして、ホテルで浴用や床暖房に使用している泉源の余剰蒸気を活用した温泉発電所の計画を進めております。本プロジェクトは2024年3月期の売電開始に向けて最終的な調整段階に入っておりましたが、発電設備の初期不良が見つかり、現在、一部設備の新品交換を含めた修繕作業を行っております。売電開始は2025年3月期第4四半期を予定しております。なお、本温泉発電所は固定価格買取制度におけるFIT認定(期間15年、売電単価40円/kWh)を取得済みであることから、遅延による本プロジェクトの期待収益に与える影響は軽微であります。
ホスピタリティ事業は、お客様のニーズに合わせる形でホテル施設(宿泊部屋総数74室)を宿泊棟と機能ごとに3つに区分しており、ヒーリングリゾートホテル「別邸 天降る丘」、研修滞在型施設「指宿ベイヒルズHOTEL & SPA」、メディポリス国際陽子線治療センターの患者様専用宿泊施設「HOTELフリージア」がそれぞれ稼働しております。なお、メディポリス国際陽子線治療センターは2011年1月に治療を開始して以来、6,400件を超えるがん患者さんの陽子線治療の実績を積み重ねています。ホスピタリティ事業を行っている意義は、主に2点あります。1つは、企業価値向上という視点で、人々のWellbeingに貢献する企業であるという点です。もう1つは、新日本科学における顧客へのおもてなしマインド向上への貢献という点にあります。ホスピタリティ事業を通して、新日本科学グループとしてのおもてなしマインドを一層強化し、それを主力のCRO事業にも還元していくことは、当社が世界で戦っていくうえで重要な役割を果たすことになると考えています。
(e) 財政状態の分析
当連結会計年度における前連結会計年度末からの財政状態の変動は、以下のとおりとなりました。
当連結会計年度末の総資産は、前連結会計年度末に比べ19,060百万円(33.3%)増加し、76,302百万円となりました。流動資産は、「受取手形、売掛金及び契約資産」が1,018百万円(21.4%)増加したことや「棚卸資産」が5,043百万円(68.8%)増加したことなどにより、前連結会計年度末に比べ6,938百万円(29.0%)増加して30,837百万円となりました。
固定資産は、「有形固定資産」が7,478百万円(39.6%)増加したことや「投資有価証券」が3,255百万円(27.2%)増加したことなどから、前連結会計年度末に比べ12,121百万円(36.4%)増加して45,464百万円となりました。
負債は、前連結会計年度末に比べ11,258百万円(36.5%)増加し、42,141百万円となりました。「有利子負債」が増加したことや「前受金」が増加したことによるものであります。
純資産は、前連結会計年度に比べ7,801百万円(29.6%)増加し、34,160百万円となりました。「利益剰余金」が増加したことや「為替換算調整勘定」が増加したことによるものであります。
(f) 当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因について
当社グループは、医薬品開発に係わるGLPやGCPといった法的規制に対する適合性の調査等で高い評価を受けております。しかしながら、クライアントの創薬開発競争が激化し国際化、高度化及び大型化していく中で、当社グループは、サービスの質を継続的に高めていくと共に、グローバル化し複雑化していく顧客ニーズに対し的確に対応しつつ成長を維持していくために、設備、人材面での投資が不可欠となっております。人材の育成には時間を要する部分があり、また施設に対する投資も規模の経済性の観点からも先行的に行う必要が生じます。
とりわけ、日本よりもはるかに巨大な市場を有する米国等の海外クライアントからのニーズに迅速かつ的確に対応していくためには、海外の規格や法的規制に対応可能な体制を整えることが戦略的に重要であると考えております。海外の規格や基準に適合性をもつためには、十分なる準備や適合性に関する調査への対応が必要であります。
従って、事業のグローバルな競争力の向上と事業規模拡大のためには、これらに継続的に取り組む必要があり、その結果、当社グループの経営成績に影響を与える可能性があります。
(g) 戦略的現状と見通し
CRO事業は、中長期的な視点で国内外の顧客からの要望に対して、確実に応えられる体制構築に取り組んでおります。抗体医薬、核酸医薬、遺伝子治療、再生医療などの新規創薬モダリティ分野の研究支援では、最新装置の導入及び評価系の構築などの投資へも積極的に取り組んでおり、他施設では実施困難な案件を受託できております。また、新型コロナウイルスに対するワクチンあるいは治療薬の研究・開発についても、当社のリードタイム短縮などの取組みを顧客に評価いただき、多くの案件を受託しております。
TR事業は、当社独自の経鼻投与基盤技術を用いた既存薬剤の投与経路変更による医薬品開発など、パートナー企業とのアライアンス構築を進めており、特に国外の製薬企業との、複数の候補薬剤ライセンスアウト・共同開発交渉を継続します。また、米国で経鼻偏頭痛治療薬の新薬承認申請をしているSatsuma社に対し、支援をしてまいります。当社連結子会社であるSNLD社では、当社TRカンパニーが業務委託契約を結び、ハンズオンで開発をサポートしています。パーキンソン病のオフ症状治療のための経鼻レスキュー薬の第1相臨床試験は2023年1月に終了しており、次相での薬効を的確に把握するための臨床試験の準備を進めるとともに、それに続くポートフォリオとして、当社の経鼻投与基盤技術に親和性のあるレスキュー薬として主に中枢神経作動薬を調査中です。経鼻粘膜免疫作用を期待したワクチンの研究開発については、経鼻粘膜ワクチン研究開発センターを主体として活動推進してまいります。また、子会社Gemseki社は、創薬シーズ・技術に関するライセンス仲介事業をグローバルベースで積極的に展開すると共に、投資事業を推進してまいります。
メディポリス事業では、従来の地熱発電所に加えて、既存の泉源を活用した温泉発電所の稼働開始に向けた準備を進めております。ホテル事業は、サービスの質のさらなる向上に加え、積極的なインバウンドの受け入れ体制強化にも注力し、より強固なブランディングを通して集客力の強化を行ってまいります。その他、メディポリス指宿の資源を最大限活用すべく、地熱由来の電力を使用したグリーン水素製造を含む様々な取組みを検討しております。
(h) 経営者の問題認識と今後の方針について
当社グループの経営陣は、現在の事業環境及び入手可能な情報に基づき最善の経営方針を立案するよう努めておりますが、ここ数年の世界的な新薬開発における国際化、大型化、高度化等の動向に鑑みますと、環境の変化に対応して経営施策を機動的かつ柔軟に展開していくことが要求されております。
CRO事業においては、海外顧客からの引き合いは引き続き活発に推移しており、グローバルな大手製薬企業からも継続的な受注に成功しております。この20年間、米国非臨床事業運営で培ったノウハウと米国での勤務経験を積んだ人材資産を活用して、海外顧客からの受託拡大を実現しております。
これら顧客ニーズに応えている大きな要因は、当社が構築している「自社グループ内での実験用NHPの繁殖・供給体制」、サプライチェーンマネジメントであります。新型コロナウイルス感染の蔓延などによる医薬品開発への実験動物需要増加が世界的に顕著となっており、その供給不足がCRO業界の課題となっております。当社では長年にわたり確立してきたサプライチェーンにより、以前と同様に安定的な実験動物の供給を実現しております。今後もこれらサプライチェーンマネジメントの強化施策を実施してまいります。その一環として、中国における実験動物繁殖・供給施設であるSNBL CHINAを中国上場企業のPharmaronグループとの合弁事業とすることで拡充し、カンボジアの当社グループ施設の繁殖体制強化とともに、日本国内の繁殖育成を強化します。今後も効率的かつ効果的に各種実験を適切なタイミングで行えるオンリーワンの事業価値を継続して提供してまいります。
TR事業では、遮断免疫作用を有する新規経鼻ワクチンの研究を推進しており、ワクチンの効果を高めるためのアジュバント製剤に関する研究にも取り組んでおります。新規経鼻ワクチンの研究開発を目的として、2023年1月に共同研究契約を締結した近畿大学と連携強化し、ワクチン開発会社や研究機関との更なる連携体制も構築しながら、ワクチンの開発推進に当社も独自技術で寄与していくことを計画しております。また、鼻から脳へと薬物を送達させる技術(Nose-to-Brain送達技術)研究においては、臨床研究段階へと進展させるべく、臨脳移行性をさらに高めるための製剤や投与デバイスの改良研究を進めております。
昨今の医薬品開発においては、低分子医薬品から抗体医薬・核酸医薬、さらに再生医療・遺伝子治療へと創薬モダリティの多様化が進んでおります。当社グループは、こうした業界の動きに一早く対応し、常に新たな創薬ニーズに応えるべく取り組んで参りました。特に再生医療分野においては、京都大学iPS細胞研究所との共同研究に基づくiPS細胞を用いた治療に向けた安全性試験に関する研究開発経験を活かして受託しているほか、重要投資先である株式会社リジェネシスサイエンスを通じたライセンス事業にも取り組んでおります。
今後とも創薬モダリティの多様化により生じる顧客からの様々な新規ニーズに迅速に対応し、付加価値の高いサービスを効率的に提供してまいります。
② キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報
(a) 資金需要
当社グループの資金需要は、主に設備投資等の投資及び運転資金等となっております。設備投資等の投資を行うにあたっては、案件ごとに投資の回収可能性や収益向上の点から検討を行い、重要なものについては取締役会での決議を経て決定するなど、社内の所定の手続に従って決定しております。計画については、「第3設備の状況 3設備の新設、除却等の計画(1)重要な設備の新設等」に記載のとおりです。
(b) 資金の源泉
営業キャッシュ・フローからの収入で賄いきれないものについて、借入により調達しております。また、設備投資の一部についてファイナンス・リースを利用しております。なお、当連結会計年度における現金及び現金同等物等の残高は10,274百万円となっております。
(c) 有利子負債
当連結会計年度末における借入金及びリース債務を含む有利子負債残高は26,331百万円となっております。
③ 重要な会計上の見積り及び当該見積に用いた仮定
当社の連結財務諸表は、「連結財務諸表の用語、様式及び作成方法に関する規則」(昭和51年大蔵省令第28号。
以下「連結財務諸表規則」) に基づいて作成しております。
なお、当社グループの連結財務諸表で採用する重要な会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項 連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項 4.会計方針に関する事項」に記載しております。
当社は、2023年4月16日開催の取締役会において、当社の経鼻投与技術のライセンス先である米国のバイオテクノロジー企業であるSatsuma Pharmaceutical,Inc.の買収に関する契約締結を決議し、2023年6月8日に株式を取得しております。詳細は、「第5 経理の状況 1連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(企業結合等関係)」に記載の通りであります。
当連結会計年度の研究開発活動は、科学技術の急速な進展により医薬品の開発環境が大きく変化している中、新しい環境にも迅速に対応した質の高い開発支援ができるよう、当社グループの各セグメントにおいて最先端と思われる技術を開発利用しております。
当連結会計年度における研究開発費は、
(1) CRO事業
当社の安全性研究所及び薬物代謝分析センターをはじめとする研究施設では、質の高い試験成績を迅速に委託者に提供できるよう、基礎データの蓄積や解析を行うだけではなく、評価方法の妥当性を検証するための事前検討や新技術獲得のための基礎研究や技術改良に日々取り組んでおります。また、いずれの施設も動物福祉に積極的に取り組み、国際的な認証団体であるAAALAC Internationalにより適合施設として認証されております。さらに、海外グローバル製薬企業からの注目度が上がるなか、きめ細やかで迅速且つ確実な顧客対応を行うため、2023年1月にGlobal Services and Communications Division(GSC 統括部)を新設しグローバル対応力のさらなる強化を図っております。
医薬品開発の主流は、低分子化合物から抗体や核酸、ペプチドに代表されるバイオ医薬品、iPS細胞に代表される再生医療あるいは遺伝子治療に移行しております。当社は、これらの業界の動きに対応するため、種々の評価系や試験系の検討を実施しております。例えば、抗体医薬ではこれまで日本では受託できる機関がなかった組織交差反応性試験を立ち上げ受託実績を積み上げました。さらに、既存技術より高感度にバイオマーカーを測定できる高感度免疫分析装置SMC×PROやElispotを用いた受託では、高品質な測定結果について製薬企業より評価頂いております。抗体医薬は実験用NHPのみに反応性がみられるものが殆どであり、日本で唯一の実験用NHPを用いた生殖発生毒性試験を実施できる施設として、次世代への影響を評価する試験実績を増やしております。
近年新たながん治療として注目されているがん免疫療法の分野におきましても、その有効性評価が可能な細胞機能解析装置であるフローサイトメーターの最上位機種LSRFortessa X-20を、国内CROでいち早く立ち上げました。当該機種は、非臨床分野のみならず、臨床分野にも応用可能な高性能機種です。
遺伝子治療の領域では、PCR装置を用いた評価系が必須となっております。当社では他社に先駆けてPCR検査エリアの設置と処理能力の増強を図りました。その上で、第二世代のdigital droplet PCRを2020年に導入し、実績を積み上げております。また、2024年5月に竣工予定の新研究棟に新たにPCR検査エリアを新設し、処理能力のさらなる増強を図る予定です。
血漿あるいは血清中の薬物の濃度測定には、液体クロマトグラフ質量分析計(LC-MS/MS)が使用されますが、最上位機種であるSCIEX Triple Quad7500を導入し立ち上げました。当該機種はこれまでにない感度で微量分析物の定量を実現可能です。核酸医薬品や生体内に含まれる微量な物質の血漿あるいは血清中濃度の測定が可能であり、非臨床分野のみならず、臨床分野にも応用可能な高性能機種です。近年、様々なモダリティの医薬品に関する分析が増えていることから、低分子および新モダリティ医薬品のどちらも分析可能な高分解能機種であるOrbitrap Exploris 240を導入しました。近年開発が盛んな抗体-薬物複合体(ADC)は抗体と薬物の結合比や代謝物の分析が求められますが、本装置の導入により分析が可能となりました。
また、実験用NHPの感染実験が実施可能な施設を活用し、各種ウイルスに対するワクチンなどに関して企業や大学との共同研究を行っており、フェレットやマウスを用いた感染実験も確立しております。
これまでの安全性研究所における収益の柱であった安全性評価に加え、近年では医薬品の有効性評価に関わる業績が向上しております。特に当社は実験用NHPを用いた非臨床試験では国内でトップクラスの業績を有しており、これまで培ってきた実績を基礎に実験用NHPを主体とした各種病態モデルを確立し、臨床への外挿性が高い有効性評価手法が国内外の製薬企業より評価を頂いております。それら病態モデルの中でも、臨床でiPS細胞の適用が進められている加齢性黄斑変性症の薬効試験は国内でも少数の試験施設でしか受託体制は整っていないため、当該モデルの確立後から既に複数試験の受託をしております。引き続き、時代に応じて変化する創薬ニーズに対応した新しい病態モデルの確立も積極的に進めております。
有効性評価の実績には、業界に先駆けて導入を進めた各種イメージング機器を用いた非臨床試験数の増加も寄与しております。当社で導入しているMRI、CT、及び血管造影装置はすべて臨床でも使用している機器となります。そのうち近年更新したMRIでは脳活動の機能的評価も可能となりました。すなわち、実験用NHPなどの大動物を用いてヒトと近似の病態モデルを作出し、ヒトと同じ機器を用いて動物を傷つけることなく薬物の評価を継時的にできる技術が高く評価されております。従来、非臨床試験ではイメージングを用いた有効性評価及び安全性評価は一般的ではありませんでしたが、新薬創出の難易度が高まり、動物福祉のさらなる向上が求められている製薬業界において、イメージングを用いた新しい評価系へのニーズは国内外の製薬企業を問わず今後も増加することが予想されます。
これらの研究活動には、外部アカデミア等との共同研究も含まれております。すなわち、京都大学iPS細胞研究所とは再生医療分野の安全性研究について、岐阜薬科大学とは寄附講座を開設した上で眼科疾患を中心とした病態モデル作出について、九州大学とは共同研究講座を開設した上でがん免疫研究について協働しております。
なお、これらの研究成果については海外や国内の学会等において発表したり、国内外の学術雑誌へ論文として掲載
しております。
現在、新たな受託サービス構築を目的として、「再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(AMED)」へ参画しMicrophysiological System(MPS)の社会実装へ向け活動しております。MPSとは,MEMS(micro electro mechanical systems)技術を用いて作製された微小な空間に,生体(in vivo)に近い培養環境を再構築したin vitro培養系のことです。ヒト由来の細胞を使用することで、動物実験では評価が難しい副作用等を評価することを目的として開発が進んでいます。2025年3月期には新たな受託サービスとする予定です。
以上の活動における研究開発費は、
(2) トランスレーショナル リサーチ(TR)事業
TRカンパニーはCROと異なる研究開発機関で、その経鼻投与基盤技術は、独自に発見した担体をベースにした粉体製剤技術と独自設計の投与デバイス(医療用具)を組み合わせたプラットフォーム技術であり、鼻粘膜からの速やかな薬物吸収に基づく即効性を特徴としており、加えて注射に比べて投与が簡易で製剤の室温保存も可能という強みがあります。この経鼻投与基盤技術を各種薬物に応用した研究を進めながら、技術改良や同基盤技術に付加すべきオプション技術の研究にも鋭意取り組んでおります。経鼻吸収研究開発は、本事業の根幹であり、すでに5種類以上の応用実績を有し、早期に市場への投入が期待されます。特に、完全子会社であるSNLD社では、パーキンソン病薬理学のエキスパートが常駐し、第1相臨床試験と第2相試験を施行中で、経鼻パーキンソン病治療候補薬の安全性と有効性を精査中です。本薬品の臨床的な価値の向上を積極的に進めております。
経鼻ワクチンに関する研究では、遮断免疫作用を有する新規経鼻ワクチンの研究が進んでまいりました。新規経鼻ワクチンの研究開発を目的として、2023年1月に共同研究契約を締結した近畿大学等と連携強化し、ワクチン開発会社や研究機関との更なる連携体制を構築しながら、ワクチンの開発推進に当社も独自技術で寄与していくことを計画しております。令和5年度 「ワクチン・新規モダリティ研究開発事業」につき、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(Japan Agency for Medical Research and Development:AMED)の主要機関である先進的研究開発戦略センター(Strategic Center of Biomedical Advanced Vaccine Research and Development for Preparedness and Response:SCARDA)より日本発のワクチン創出のための公募があり、当カンパニー「経鼻粘膜ワクチン研究開発センター」より応募した「粉体噴射型 IgA 産生誘導経鼻ワクチンシステムの開発」が採択され、非臨床POCの取得まで助成を受けることが可能になりました。
以上、TRカンパニーでは、経鼻パーキンソン病治療薬と経鼻ワクチンの開発を2つの基幹プロジェクトに据えております。
一方、血液脳関門(Blood Brain Barrier)の存在により、静脈注射でも脳内に送達できない薬物について、鼻から脳へと薬物を送達させる技術(Nose-to-Brain送達技術)の研究開発活動にも注力しております。中枢神経系疾患にする医薬へのアンメットメディカルニーズは非常に高く、治療薬の開発は製薬企業における重点領域となっています。アカデミアとも連携し、分子イメージング法なども活用しながら、血中から脳へと移行し難い有効成分が、注射よりも高効率に脳へと移行することを確認しており、臨床研究段階へと進展させるべく、脳移行性をさらに高めるための製剤や投与デバイスの改良研究を進めています。経鼻製剤の製造については、開発型医薬品受託製造企業であるシオノギファーマ株式会社と経鼻投与製剤等の製造開発推進に向けた業務提携契約を締結しており、製品化を見据えた研究開発体制を強化しております。
さらに、経鼻投与基盤技術の応用性評価を行うためのフィージビリティ試験や応用領域の拡大を図るための改良技術研究を通じて、自社開発候補化合物の拡充を探索しており、経鼻吸収用に応用するための有力な中枢神経系化合物候補が挙がっております。また、経鼻投与デバイスについては、高い噴射性能に加えて、使用目的に応じた使い勝手の更なる向上や、製造コストの更なる低減を目的とした新規投与デバイスの基本設計を概ね完了いたしました。当社よりスピンアウトした経鼻偏頭痛薬の開発会社であるSatsuma Pharmaceuticals, Inc.(米国 ノースキャロライナ州)は、開発中の経鼻偏頭痛薬について、2023年3月に米国食品医薬品局(FDA)へ新薬承認申請を行い、本年1月にFDAから審査完了報告通知を受領しました(Complete Response Letter:CRL)。本CRLでは、臨床試験結果に関連した懸念や追加の臨床試験に関する言及は無かった一方で、主に製剤関連の指摘がありました。本年2月には本CRLに関するFDAとの会議を実施し、本年10月までに再申請を行うべく準備を進めております。
当カンパニーは、引き続き、これらの開発・技術支援及び知財管理をしております。一方で、TRカンパニー内に設置した基礎研究室において、遺伝子情報をwet(実験)とdry(大容量ICT)の両環境で扱い、特定の疾患で発現遺伝子の量的変化を解析し、マーカーの同定や治療法の特定について取り組んでおります。現在、神奈川がんセンター等のアカデミアと共同研究を進めております。
以上の活動における研究開発費は、
(3) その他
その他の研究開発費は、55,070千円であります。