第2 【事業の状況】

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

(1) 経営方針

 「私たち三菱電機グループは、たゆまぬ技術革新と限りない創造力により、活力とゆとりある社会の実現に貢献します。」という企業理念は、社会における私たちの存在意義そのものです。この企業理念の下、三菱電機グループは「成長性」「収益性・効率性」「健全性」の3つの視点によるバランス経営に加えて、「事業を通じた社会課題の解決」という原点に立ち、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけています。これにより、企業価値の持続的向上を図り、社会・顧客・株主・従業員をはじめとしたステークホルダーへの責任を果たしていきます。

 

(2) 経営環境及び対処すべき課題

①経営環境

 世界経済の先行きは、引き続き消費の拡大が見込まれるものの、欧米を中心とした各国の金融引き締めの継続や中国における不動産不況等の影響により、緩やかな成長に留まることが見込まれます。さらに、ウクライナ情勢の長期化や米中対立など地政学的リスクの高まりに伴い、想定を超えた経営環境の変化も懸念されます。

 

②対処すべき課題

「ありたい姿(循環型 デジタル・エンジニアリング企業)」の実現へ向けた変革の加速

 三菱電機グループは、お客様から得られたデータをデジタル空間に集約・分析するとともに、グループ内が強くつながり、知恵を出し合うことで新たな価値を生み出し、社会課題の解決に貢献する「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を進めています。

 この変革をさらに加速するためのデジタル基盤として、「Serendie(セレンディ)」を構築しました。Serendieを活用し、多様な人財が技術力と創造力を発揮することにより、新たなソリューションを提供します。そのために、デジタルによって経営や事業を変革する「DX人財」、新たな市場を開拓する「共創活動」、AIやモデルベース等の先進的な「デジタル技術開発」、経営のインフラとなる生産や業務の「プロセス改革」を強化します。

 2023年4月に設立した「DXイノベーションセンター」は、上述の取組みを牽引するとともに、各事業部門によるソリューション事業の創出・拡大を後押ししていきます。

 

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経営体質の強化

 三菱電機グループは、「収益性」と「資産効率」の向上のため、ROIC*1を活用した事業運営を進めることで、資産効率とキャッシュ創出力を重視した経営に取り組んでいきます。これにより、重点成長事業については生産体制強化やM&A等の積極的な投資をスピーディーに実行する一方、収益性・資産効率の改善が見込まれない課題事業は撤退や売却の検討を進める等、事業ポートフォリオ戦略に基づくリソースシフトを強力に推進していきます。

 

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 さらに、グローバルでのエンジニアリングチェーン・サプライチェーンの最適化及びグループ経営の効率化にも取り組みます。また、足元の経済動向を踏まえ、経営環境の変化に柔軟に対応したオペレーションを徹底していきます。

 あらゆる事業運営のベースとなる人財については、人的資本価値の最大化に向け、2024年度から新しい人事制度を導入しました。「成長に繋がる適正評価の実現」と「自律的キャリア開発支援」をコンセプトに、等級・評価・報酬制度を刷新し、従業員のキャリアオーナーシップに基づく自律的な成長を促すとともに、マネジメント層にはグローバル基準でのジョブグレード制度を新たに適用し、ジョブ型人財マネジメントへの転換を図ります。

 

本質的なサステナビリティ経営の推進

 三菱電機グループは、サステナビリティの実現に向けて注力する5つの課題領域(「カーボンニュートラル」、「サーキュラーエコノミー」、「安心・安全」、「インクルージョン」、「ウェルビーイング」)を明確化しています。これらの課題領域において、事業を通じ社会課題を解決することで、社会の持続可能性と三菱電機グループの事業発展をトレード・オフの関係にするのではなく、この2つが両立する「トレード・オン」に挑戦していきます。

かかる中、当社は、2024年4月に「サステナビリティ・イノベーション本部」を新設しました。同本部が中心となり、グローバルかつサステナビリティの視点で社会課題を解決する新たな事業創出に取り組むとともに、持続的成長を支える経営基盤の強化を包括的、戦略的に推進し会社を変革していきます。

 

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 カーボンニュートラルについては、当社の長期環境経営ビジョンである「環境ビジョン2050」において、2050年度までにバリューチェーン全体での温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すこととしています。また、その中間目標として、2030年度までに自社工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロを目指すこととしました。これら目標の達成に向け、技術革新により社会全体の脱炭素化に貢献する事業を育成するとともに、自社の技術も活用して自社排出の削減を進めていきます。加えて、TCFD*2の提言に基づいた気候変動に係るリスクと機会の開示に向けた取組みを継続していきます。

 ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョンについては、多様な人財が活躍し、新たな価値を創出するために協働することを目指し、従業員の働き方や多様性を認め合えるような職場環境・風土の実現に向けた各種取組みを推進します。また、国際的に合意されている人権の保護を支持・尊重することを企業活動の前提とし、従業員やサプライチェーンの人権尊重に取り組みます。

 サステナビリティに関する具体的な考え方や取組みについては、「第2 事業の状況 2 サステナビリティに関する考え方及び取組」を参照ください。

 

当社が進める3つの改革の深化・発展と倫理・遵法の徹底

 当社は、これまで明らかになった品質不適切行為の全容及び調査委員会・ガバナンスレビュー委員会からの指摘、提言を真摯に受け止め、2021年より信頼回復に向けた3つの改革(品質風土、組織風土、ガバナンス)への取組みを開始し、新しい三菱電機の創生に向けた変革に全力で取り組んでいます。エンジニアリングプロセスの変革を目指す「品質風土改革」、双方向コミュニケーションの確立を図る「組織風土改革」、予防重視のコンプライアンスシステムの構築を進める「ガバナンス改革」の3点は、確実に進捗しています。特に「ガバナンス改革」においては、外部の視点を入れながら、不正が起こらない・起こさないガバナンス/内部統制の仕組みの構築を進めています。

 三菱電機グループのコンプライアンス・モットーである“Always Act with Integrity”(いかなるときも「誠実さ」を貫く)に基づき、品質不適切行為やこれまで発生した労務、サイバーセキュリティの問題の風化防止を含む、再発防止に向けた各種取組みを進めていきます。

 

*1 ROIC(投下資本利益率):各事業部門での把握・改善が容易となるように、「資本」「負債」ではなく、資産項目(固定資産・運転資本等)に基づいて算出する三菱電機版ROIC

*2 TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures):G20の財務大臣・中央銀行総裁からの要請により設置された、民間主導による気候関連財務情報の開示に関するタスクフォース

 

中期経営計画 2025年度目標

 これら施策を通じ、中期経営計画における2025年度財務目標の達成に取り組んでいきますが、一部事業における市況悪化の影響等を受け、目標は一部見直しを行います。今後は「連結売上高5兆円+(変更なし)」「営業利益率8%+(変更前10%)」「ROE9%(変更前10%)」「キャッシュ・ジェネレーション3.3兆円/5年(変更前3.4兆円/5年)」を新たな目標とし、追加の構造対策や、更なる価値の創出に取り組むことで営業利益率8%を上回る業績の達成を目指していきます。キャピタル・アロケーションは当初の計画を維持し、成長投資を最優先として重点成長事業を中心に2.8兆円を振り向けつつ、利益成長を通じた株主還元についても更に強化して0.6兆円を目標とする方針としています。

 なお、セグメント別の事業戦略および営業利益率は次のとおりです。

 

セグメント

事業戦略

インフラ

広範な社会インフラ事業におけるグローバルレベルの顧客基盤・ストックを活かし、「世界の重要インフラの安定稼働とカーボンニュートラルの実現」と「日本・アジアの安全保障への貢献」に取り組みます。そのために脱炭素コンポーネントや防衛・宇宙事業への重点的なリソース投入と、事業間シナジーを生む統合ソリューションであるE&F(Energy&Facility)ソリューションの推進に注力します。

インダストリー・

モビリティ

コアコンポーネントとデジタル技術の統合で、未来の“ものづくり”と“快適な移動”を支えます。インダストリー領域では重点成長事業におけるコンポーネントの提供価値拡大と、FAデジタルソリューションの事業モデル構築を推進します。モビリティ領域では新会社 三菱電機モビリティ㈱の下、環境変化に対応した事業ポートフォリオの再構築や事業運営の効率化などをスピーディーに行います。

ライフ

人々の生活を支える空調や昇降機などの設備事業に加え、お客さまとつながり続けることができる保守や運用管理などの循環型事業を通じて、あらゆる生活空間における快適で安全・安心な生活環境を創造するソリューションプロバイダとなることを目指します。顧客価値の創出を推進し、「グリーンエナジーソリューション」「安全・安心&快適ソリューション」「ビルマネジメントソリューション」を提供します。

ビジネス・

プラットフォーム

「事業DX」と「業務DX」の両輪の取組みを通じて循環型 デジタル・エンジニアリングを推進させるための経営基盤を構築していきます。構築した経営基盤と、「グローバルオペレーション&メンテナンス(O&M)」を中心とした各種サービスを各ビジネスエリア・事業本部に提供することにより、統合ソリューションの創出を支え続けるとともに、情報システム・サービス事業の強化を図ります。

セミコンダクター・

デバイス

社会のGX・DX実現に必要不可欠なキーデバイスの提供を通じて、三菱電機グループの統合ソリューションをコンポーネントから強化していくことに加え、社内関連事業の知見を幅広く取り込み、顧客目線で付加価値の高いデバイスの開発に取り組みます。特にパワーデバイス事業では、三菱電機が強い技術と豊富な市場実績を保有するSiC(Silicon Carbideの略:炭化ケイ素)を中核とした成長基盤の強化に取り組み、事業の成長をさらに加速していきます。

 

<営業利益率のセグメント別内訳>

セグメント

2023年度

実績

中期経営計画

2025年度目標

インフラ

3.0%

7%

インダストリー・モビリティ

7.0%

9%

ライフ

7.1%

9%

ビジネス・プラットフォーム

5.9%

9%

セミコンダクター・デバイス

10.3%

12%

 

 三菱電機グループは、上記施策を着実に展開することにより、更なる企業価値の向上を目指します。

 

 

 なお、上記における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月25日)現在において当社が判断したものです。

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

(1)サステナビリティ全般

①ガバナンス

ア.サステナビリティの考え方

三菱電機グループは、事業を通じた社会課題の解決という原点に立ち、サステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけることを経営方針に掲げています。社会からの期待や要請・意見を活動に反映させ、社会や環境に与えるネガティブな影響を最小化し、持続可能な社会の実現に向けて取り組んでいます。

 

イ.サステナビリティの実現に向けた推進事項

サステナビリティの実現に向け、以下の4点を推進事項としています。

価値創出

事業成長と社会の持続可能性を両立させる社会課題解決型事業の創出・発展

基盤強化

三菱電機グループの持続的成長を支える、環境、社会、ガバナンスをはじめとした経営基盤強化

リスク管理

長期的な社会や環境の変化に対するリスクの予測、及び企業経営に与える影響の抑制又は最小化

取組みの開示と対話

透明性の高い情報開示を通じた、社会・顧客・株主・従業員をはじめとするステークホルダーとのコミュニケーションにより、社会からの期待や要請・意見を企業経営に反映

 

ウ.サステナビリティ推進体制

三菱電機グループは、三菱電機の執行役会議から委嘱を受けたサステナビリティ委員会*でサステナビリティの取組みに関する方針・計画を決定しています。サステナビリティ委員会はサステナビリティを担当する上席執行役員が委員長を務め、コーポレート部門で機能別の役割を担当するチーフオフィサーの他、事業部門の執行役等で構成しています。

サステナビリティ委員会での議論の内容は、執行役会議及び取締役会に報告されます。取締役会では、サステナビリティ経営を三菱電機グループの「重要議題」(2023年7月から2024年6月においては、事業ポートフォリオ戦略、サステナビリティ戦略、人財戦略、ECM/SCM戦略、デジタル戦略(事業DX)、情報システム戦略(業務DX))とし、リスク管理及び収益機会としての観点から十分に議論するとともに、執行役のサステナビリティへの取組み状況についても監督しています。サステナビリティの取組み推進については、執行役の報酬指標の一つとしており、サステナビリティ・ESG関連領域等非財務事項での業績指標達成度はインセンティブ報酬へ反映しています。

複数部門に関わるサステナビリティ課題に対しては、サステナビリティ委員会の下に設置した部会やプロジェクトで取り組んでいます。倫理・遵法、品質の確保・向上、環境保全活動、社会貢献活動、ステークホルダーの皆様とのコミュニケーションなどの具体的な取組みについては、担当部門が責任を持って推進しています。

サステナビリティ委員会で定めた方針・計画や部会・プロジェクト等で推進する具体的な取組みについては、社内各部門・国内外関係会社に共有し、グループ全体で連携して課題解決に取り組んでいます。

なお、2024年4月には、サステナビリティの実現に向けて体制を強化しました。従来のサステナビリティ推進、環境推進、DE&I等を担当する部門を統合するとともに、社会課題を解決する新たな事業創出の機能を持つサステナビリティ・イノベーション本部を新設しました。

* 「価値創出」と「基盤強化」をより戦略的、統合的に強化すべく、2024年度から執行役を中心とする会議体へ刷新。

会議体名称

目的、主な議論等

サステナビリティ委員会

三菱電機グループにおけるサステナビリティの取組みに関する方針、計画の議論、情報共有(四半期毎に開催)

カーボンニュートラル部会

三菱電機グループのカーボンニュートラルに関する取組みの推進

人権部会

三菱電機グループにおける人権に関する取組みの改善、課題解決等の迅速な対応

法定開示プロジェクト

グローバルなサステナビリティ法定開示に対応するための活動の推進

 

サステナビリティ推進体制

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②戦略

三菱電機グループは、経営レベルでサステナビリティに取り組み、長期的に推進していくため、「事業を通じた社会課題解決」「持続的成長を支える経営基盤強化」の2つの面から5つのマテリアリティを特定しています。マテリアリティへの取組みを通じて社会課題解決と事業成長を同時に成し遂げる「トレード・オン」で、サステナビリティの実現を追求します。マテリアリティへの取組みについては、目標/取組み指標(KPI)を設定し、PDCAサイクルによる継続的な改善活動を実施しています。

 

三菱電機グループのマテリアリティ(重要課題)

マテリアリティ

重要とした理由

持続可能な地球環境の実現

気候変動をはじめとする環境問題、資源・エネルギー問題は、世界的な課題です。三菱電機グループは、持続可能な地球環境の実現を目指し、これらの解決に貢献します。

安心・安全・快適な社会の実現

三菱電機グループは、創立以来、家電から宇宙まで幅広い分野にわたって製品やサービスを提供することにより、社会に貢献してきました。企業理念にある「活力とゆとりある社会」を実現するため、事業を通じて多様化する社会課題の解決を目指しています。

あらゆる人の尊重

人権は世界的な課題であり、あらゆる人を個人として尊重する必要があります。三菱電機グループは、すべての活動において人権を尊重します。また、すべての従業員がいきいきと働ける職場環境を実現します。

コーポレート・ガバナンスと

コンプライアンスの持続的強化

コーポレート・ガバナンスとコンプライアンスは、会社が存続するための基本です。三菱電機グループは、これらを持続的に強化します。

サステナビリティを志向する

企業風土づくり

三菱電機グループは、すべての活動を通じてサステナビリティの実現へ貢献します。そのために、ステークホルダーと積極的にコミュニケーションを行い、中長期視点で取組みを推進する風土を醸成します。

 

③リスク管理

三菱電機グループは、海外向け売上高比率が5割超を占め、幅広い事業分野で「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を目指しています。また、顕在化した各種コンプライアンス事象を真摯に受け止め、内部統制システムの改善等に取り組んでいます。三菱電機グループは、社会、顧客、株主、従業員を始めとするステークホルダーへの責任を果たしサステナビリティを実現するために、予防重視の内部統制システムの強化を図りながら、事業遂行に伴うリスクを適切に管理しています。具体的には、リスク管理を事業遂行に組み込み、事業の規模・特性等に応じてリスクを管理するとともに、グループ全体に共通する重要なリスクについてはグループ全体の経営に与える影響度に応じた重点付けを行いながら管理しています。

また、経済安全保障、AI等の技術革新、サステナビリティなどの分野における新たなリスクへの対応についても、組織横断的で柔軟なチーム行動により効果的に取り組んでいきます。

リスク対応体制や認識している具体的なリスクについては「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」を参照ください。

 

④指標及び目標

マテリアリティへの取組みについては、目標/取組み指標(KPI)を設定し、PDCAサイクルによる継続的な改善活動を実施しています。

 

マテリアリティ

目標/取組み指標(KPI)

範囲

持続可能な

地球環境の

実現

2050年度

バリューチェーン全体での

温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す

2030年度[Scope 1*1、2*2]

温室効果ガス排出量 実質ゼロを目指す

三菱電機グループ

2030年度[Scope 3*3]

温室効果ガス排出量を 2018年度比30%以上削減

三菱電機グループ

「カーボンニュートラル」へ貢献できる製品やサービス、ソリューションの提供

三菱電機グループ

サーキュラーエコノミー実現への貢献

2035年度

廃プラスチック 100%有効利用

三菱電機グループ

(国内)

安心・安全・

快適な社会の

実現

事業を通じた安心・安全、

インクルージョン、ウェル

ビーイングの実現

「安心・安全」へ貢献できる製品やサービス、ソリューションの提供

三菱電機グループ

「インクルージョン」、「ウェルビーイング」へ貢献できる製品やサービス、ソリューションの提供

三菱電機グループ

あらゆる人の

尊重

国際規範に基づく人権の取組み定着と責任あるサプライ

チェーンの実現

2027年度

国際規範に則った人権デューデリジェンスの実践

三菱電機

グループ

2027年度

RBA*4プロセスに基づくサプライチェーンにおける人権への負の影響低減

三菱電機

グループ

多様・多才な人財が集い、

活躍する職場環境の実現

2025年度従業員エンゲージメントスコア*5

70%以上(当社)、60%以上(国内関係会社の一部)

三菱電機

グループ

(国内)

2030年度

経営層*6に占める女性&外国人比率 30%以上

当社

2030年度

女性管理職比率 12%以上

当社

コーポレート・

ガバナンスと

コンプライアンスの持続的強化

3つの改革

3つの改革(品質風土改革、組織風土改革、ガバナンス改革)の推進、

取締役会による3つの改革のモニタリング及び適切な情報開示

三菱電機グループ

 

品質不適切行為の

再発防止

未然防止の品質体制構築

三菱電機グループ

 

取締役会の実効性の向上

社外取締役 50%超の継続

当社

 

“Always Act with Integrity”の理解と浸透

コンプライアンス研修の継続的実施

三菱電機グループ

サイバーセキュリティ成熟度の向上

2028年度

サイバーセキュリティ成熟度モデルのレベル2以上*7をグローバルで達成

三菱電機

グループ

サステナビリティを志向する企業風土づくり

従業員によるサステナビリティの理解と実践

2025年度

従業員意識サーベイ「企業理念・目標に沿った業務の実施」良好回答率 75%以上

当社

社内外のステークホルダーとのコミュニケーションの推進

統合報告書の公開、サステナビリティ説明会の開催、Web・リアルイベントによる当社サステナビリティ取組み紹介、社内向けサステナビリティワークショップの実施

三菱電機

グループ

*1 自社における燃料使用に伴う直接排出

*2 外部から購入した電力や熱の使用に伴う間接排出

*3 Scope 1、2 を除くバリューチェーン全体からの間接排出

*4 RBA(Responsible Business Alliance):グローバルサプライチェーンにおいて社会的責任を推進する企業同盟

*5 毎年実施する「従業員意識サーベイ」の対象5設問に対する良好回答割合の平均値。「当社で働くことの誇り」「貢献意欲」「転職希望」「他者に対する当社への入社推奨」「仕事を通じた達成感」

*6 取締役、執行役、上席執行役員

*7 米国防総省が発行するサイバーセキュリティ成熟度モデルの認証の枠組み(CMMC ver2)

 

人財/人的資本に関する実績は、「(3)人財/人的資本 ③指標及び目標」を参照ください。その他の2023年度実績や2024年度目標については2024年10月公開予定の「統合報告書2024」を参照ください。過去の目標や実績等についてはサステナビリティレポートのバックナンバーを参照ください。

https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/sustainability/download/index.html
 

 

(2)気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)の提言に基づく開示情報

三菱電機グループは、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD:Task Force on Climate-related Financial Disclosures)の提言への賛同を表明しており、TCFDの提言に従った取組みの推進、及び情報の開示を行っています。

 

①ガバナンス

ア.推進体制

三菱電機グループは2022年度、経営方針においてサステナビリティの実現を経営の根幹に位置づけました。2023年度からは気候変動への対応をはじめとする「価値創出」と「基盤強化」に向け、さらなるガバナンスの強化を図っています。

気候変動対応に関しては、サステナビリティ委員会の下に「カーボンニュートラル部会」を設置し、自社グループからの排出及びバリューチェーンでのカーボンニュートラル目標等に関して議論しています。短期・中期のリスク・機会とその財務影響等については、同委員会の下に設置されていた「TCFD検討プロジェクト」(2024年6月終了)からサステナビリティ・イノベーション本部に管轄を移し、分析しています。

 

イ.取組み方針

2050年までの長期環境経営ビジョンである「環境ビジョン2050」の下、2030年度までに工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロ、2050年度までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出実質ゼロとすることを目指しています。2024年2月には、「環境ビジョン2050」に基づく短期計画を更新し、同年同月にSBTイニシアチブから認定を取得した目標より達成レベルの高い計画として、「環境計画2025(2024~2025年度)」を策定しました。

 

②戦略

三菱電機グループは、脱炭素社会への移行を、事業のリスクではなく全ての事業において共通する機会と捉えています。この認識の下、「環境ビジョン2050」や「環境計画2025」、及びSBTに関する取組みを事業戦略に織り込み、技術開発や事業開発を進めています。

 

ア.事業戦略

三菱電機グループが展開する幅広い事業の中で、電化、再生可能エネルギーの普及促進、省エネルギー、エネルギーマネジメント、スマート制御を、社会が脱炭素に向かうための重要な要素としています。

 

イ.短期・中期・長期の気候変動のリスク及び機会

三菱電機グループでは、外部機関(IEA等)が示す気候シナリオや国や地域ごとの経済発展予測などを参考にし、各事業に影響を与えることが予想される気候関連のリスク及び機会を短期・中期・長期の視点で分類し、影響度を評価しています。

 

<期間>

短期:2025年度までの期間(「環境計画2025」や中期経営計画の期間)

中期:2030年度までの期間

長期:2050年度までの期間(「環境ビジョン2050」最終年)

 

<影響度の大きさ>

各事業において予想される事象が重大なリスク(影響度大)に該当するかどうかは、サステナビリティ担当上席執行役員のもと、関係する事業部門の執行役・部門長が判断しています。また、三菱電機グループの総合的なリスクマネジメントのプロセスにおいても確認しています。

 

短期・中期・長期の気候変動に係るリスクと機会

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(ア) 気候変動に係るリスク

気候変動に係るリスクは、脱炭素社会への移行に関連するリスク(移行リスク)と、温暖化が進展した場合の物理的影響に関連するリスク(物理的リスク)に大別されます。これらのリスクは、費用の増加(生産・社内管理・資金調達コスト等)、収益の減少等を招くおそれがあります。

三菱電機グループの事業戦略の前提とする脱炭素社会への移行が進む場合は、あらゆる製品・サービスにおける温室効果ガス排出抑制に対する社会的要請の増大、エネルギー需給の変動、再生可能エネルギーの発電量の増加によるエネルギーミックスの変化、自動車の電動化(EV化)の進展などが予測されます。また、その実現に向けて温室効果ガス排出に対する法規制の強化や技術開発負荷の増大・技術開発の遅れといった移行リスクが、物理的リスクと比べて高くなると考えられます。

移行リスクに対して、例えば、温室効果ガスの排出抑制が法規制により強化されたとしても、三菱電機グループでは既に環境計画の推進及びSBTへの参画を通じた温室効果ガスの排出削減に取り組んでおり、その影響は軽微であると考えます。素材価格が高騰したとしても、既に取り組んでいる温暖化対策や省資源、リサイクル性の向上等を図る環境配慮設計をより一層推進していくことでその影響は軽微であると推測します。また、新技術の開発についても、空調の冷媒規制といった法規制の強化や低炭素・高効率技術の開発競争を見据え、短期・中期・長期の研究開発投資を戦略的に組み合わせています。加えて、省エネ等の温暖化対策を含む環境活動にかかる設備投資も実施しています。

一方、世界各国で気候変動対策よりも経済発展が優先された場合、大雨や洪水の多発や異常気象の激甚化、慢性的な気温上昇等が予測され、災害による操業停止やサプライチェーンの寸断といった物理的リスクが、移行リスクに比べて高くなると考えられます。

洪水等の物理的リスクに対しては、BCP(Business Continuity Plan)を策定し、年1回の見直しを行うとともに、生産拠点の分散化を進めています。また、サプライチェーンにおいても複数社からの購買に努め、サプライヤーにも複数工場化に取り組んでいただくよう要請するなど、生産に支障をきたす事態を避ける取組みを進めていきます。

 

(イ) 気候変動に係る機会

気候変動に係る機会としては、三菱電機グループは多岐にわたる事業を有し、気候変動に起因する社会課題の解決に貢献する製品・サービス・ソリューションを幅広く提供可能であることを強みとしていることから、短期から長期にわたる持続可能な成長機会を有していると考えています。

脱炭素社会に移行する場合、あるいは気候変動対策よりも経済発展が優先された場合のいずれにおいても、気候変動に起因する社会課題解決へのニーズがより顕在化していくものと予測されます。

三菱電機グループでは、脱炭素社会に向けた電力供給の多様化に備え、大容量蓄電池制御システム、スマート中低圧直流配電ネットワークシステム、分散型電源運用システム/VPP(Virtual Power Plant)システム、マルチリージョン型デジタル電力供給システム(マルチリージョンEMS)などを提供しています。これにより、再生可能エネルギー拡大や電源分散化に伴う電力の有効活用、系統安定化ニーズに応えることができます。また、自動車の電動化(EV化)の進展に起因する電動化製品の需要増加は、半導体デバイス事業における高効率パワー半導体であるSiC(Silicon Carbideの略:炭化ケイ素)の需要拡大及び製造コスト削減につながり、鉄道・電力、産業、民生などの分野でのSiCの適用拡大が見込めます。

気候変動対策よりも経済発展が優先された場合であっても、世界経済の発展と購買力増加による需要増や気候変動に対する適応需要の増加に対し、空調事業等のエネルギー効率の高い製品やサービス、ソリューションの提供を通じて、脱炭素社会実現へ貢献しつつ収益機会の拡大が期待できます。

 

ウ.カーボンニュートラル(CN)移行計画

三菱電機グループは、「2050年度までにバリューチェーン全体で温室効果ガス排出量実質ゼロ」および「2030年度までに工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロ」を目指し、CNへの移行計画を策定、推進しています。

 

工場・オフィスからの排出量削減に向けたロードマップ

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工場・オフィスにおける温室効果ガス削減の取組みとしては、「省エネ・電化・非エネルギー用途の排出削減」、「太陽光発電等による自家発電拡大」、及び「グリーン電力証書・非化石証書等の調達」を推進しており、さらに「クレジット等の調達」も並行することで、上記目標の実現を目指します。

 

また、2050年の目標を踏まえた開発戦略として、バリューチェーンおよび社会全体のカーボンニュートラルの実現に貢献する事業の創出・拡大を目指し、「グリーン by エレクトロニクス」、「グリーン by デジタル」、「グリーン by サーキュラー」の3つのイノベーション領域の研究開発を加速します。

 

カーボンニュートラル達成に向けた開発ロードマップ

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「グリーン by エレクトロニクス」では、三菱電機が強みとするコアコンポーネントであるパワーエレクトロニクスやモーターの高効率化・小型化等の研究開発を進め、FA機器、空調等の省エネや電動化に貢献します。また、ビルのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化や地球温暖化係数の低い冷媒を用いた空調冷熱システム、新たな材料を用いたパワーデバイスの研究開発を進めます。

「グリーン by デジタル」では、先進デジタル技術の活用により、エネルギー効率向上や再生可能エネルギーの利用拡大を図ります。再生可能エネルギーを活用した発電と空調・給湯用ヒートポンプ等の使用電力量の電力需給バランスを取るエネルギー・マネジメント・システム(EMS)を欧州で実証する等研究開発を推進します。これらの活動を通じて、バリューチェーン全体における温室効果ガスの排出量削減に貢献します。

「グリーン by サーキュラー」では、CO2の回収・貯留・有効利用(CCUS)やカーボンリサイクルといった資源循環を中心とする研究開発を推進します。これまでリサイクルが難しかった複合材を含む廃棄プラスチックのリサイクルをはじめ、三菱電機製品のみならずリサイクルできるプラスチックの対象範囲を拡大する研究開発を進め、炭素の循環利用実現に貢献します。

これらのグリーン関連領域における事業の創出と拡大に向けて、グリーン関連の研究開発投資として、2024年度から2030年度までの7ヵ年で約9,000億円の投資を計画しています。

 

エ. シナリオ分析に基づく気候変動へのレジリエンス

(ア)概要

三菱電機グループでは、事業戦略で前提としている脱炭素社会に向かう場合(2℃以下シナリオ*1)と、気候変動対策よりも経済発展が優先される場合(4℃シナリオ*2)の2つのシナリオを想定し、長期的未来の不確実性を考慮したシナリオ分析を行いました。不確実な未来の時点として2040年度を設定し、ベースライン(事業計画の延長)を2℃以下シナリオとして、4℃シナリオに移行したときの財務影響を分析しました。

 

*1 脱炭素技術の要求が高まるとともに、規制強化による開発競争も激化。社会の電化が進み、電力総需要が増加し、再生可能エネルギーの比率も上昇。

<参照した公開シナリオ>

・IEA(International Energy Agency)のWorld Energy Outlook 2023、APS(Announced Pledges Scenario)

・IPCC(Intergovernmental Panel on Climate Change)の第6次報告書(AR6)で採用されているSSP1(Shared Socioeconomic Pathway、SSP2を現状相当とし比較)

*2 現状程度あるいはそれ未満の脱炭素活動により物理的なリスクが顕在化。2℃以下シナリオよりも消費者の購買力は増加。一方、大雨や洪水といった異常気象は激甚化。

<参照した公開シナリオ>

・IEAのWorld Energy Outlook 2023、STEPS(The Stated Policies Scenario)

・IPCC 第6次報告書で採用されているSSP5(SSP2を現状相当とし比較)

 

(イ)シナリオ分析の結果

三菱電機グループのすべての事業セグメントで気候関連のリスクと機会の検討を行いました。移行リスクについては、「電力システム」、「電子デバイス」、「自動車機器」の3事業が、4℃シナリオにおいて気候変動による影響が相対的に大きいと評価し、財務影響を定量的に試算しました。

一方、物理的リスクは、異常気象の激甚化を異常気象の頻度上昇による不可避のリスクと捉え、全事業セグメントにわたる三菱電機グループの主要な製造拠点を対象に財務影響を試算しました。

 

4℃シナリオへの移行に伴い、財務へ影響する主な移行リスクは、「エネルギーミックスの変化」、「エネルギー需要推移の変化」、及び「EV化の遅れ」です。

電力システム事業は、「エネルギーミックスの変化」及び「エネルギー需要推移の変化」の影響を直接受けるため、再生可能エネルギー普及の遅れ、電化の遅れによる電力総需要の伸び悩みなどから、減益が見込まれます。自動車機器事業及び電子デバイス事業は、「EV化の遅れ」から、EV向け自動車機器の需要減や、SiCの製造コストが下がらないことによる他分野への普及鈍化等が懸念されますが、その影響は軽微と考えます。

3事業では4℃シナリオにおいて機会の減少による影響があるものの、当該事業を含む三菱電機グループの全事業において気候変動はリスクよりも機会としての側面の方が強いと捉えています。4℃シナリオ時は2℃以下シナリオ時と比較して各国において経済優先の施策が採られるため、高性能な製品・サービスが選択され需要の高まりは旺盛になります。例えば、「空調・家電」事業に関しては、温室効果ガス削減やエネルギー使用低減への性能上の要求は減らず、同時に気候変動への適応需要の増加も見込まれます。

また、物理的リスクの異常気象の激甚化による財務影響は、移行リスクの影響よりも小さいことが推測されます。

以上の分析により、電力システム事業における移行リスク、及び全事業での物理的リスクに起因する減益が見込まれるものの、空調・家電事業をはじめとする多くの事業において機会的側面での増益が見込め、結果として三菱電機グループへの影響は通常の事業運営で起こりうる想定の範囲内で、増益方向に軽微に変動すると推測されます。従って2℃以下シナリオから4℃シナリオへ移行したとしても「重大な財務影響」はないと考えます。

 

社会が4℃シナリオに進展した場合の三菱電機グループへの財務影響(営業利益への影響)

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③リスク管理

ア.気候変動に係るリスクと機会を扱うプロセス

三菱電機グループの気候変動を含む地球環境に係るリスクと機会の選別・評価・管理は、事業戦略の意思決定プロセスと、三菱電機グループの総合的なリスクマネジメントプロセスによって行っています。

三菱電機各部門(各事業本部/コーポレート部門)/国内外関係会社は、自らに関連する気候変動に係るリスク項目を洗い出し、リスクへの対応と機会としての活用について検討し、事業戦略・部門戦略に主体的に織り込みます。

並行して、三菱電機グループの総合的なリスクマネジメントプロセスの中で、気候変動に係るリスク管理含め、さまざまなリスク分野について、経営に重大な影響を及ぼす事項を選別・評価し、適正な管理を行います。

 

イ.三菱電機グループのリスクマネジメント体制と地球環境リスクの位置づけ

三菱電機グループの気候変動に係るリスクを含む地球環境リスク等のリスクは、三菱電機各部門/国内外関係会社が主体的にリスクマネジメントを遂行することに加えて、リスクマネジメント担当執行役(CRO:Chief Risk Management Officer)の指示により、コーポレート部門(リスク所管部門)が各専門領域での知見に基づき、選別・評価・管理を行います。

リスク所管部門が選別・評価した各専門領域のリスクは法務・リスクマネジメント統括部が集約し、個別のリスク間の相対比較等を通じてグループ経営に及ぼす影響を評価し、CROが委員長を務めるリスク・コンプライアンス委員会で経営判断を行います。

上記のプロセスを経て総合的に評価されたリスクは経営層を含む関係者に共有されます。気候変動を含む地球環境リスクは、グループのマテリアリティの1つである持続可能な地球環境の実現に大きな影響を及ぼすことから、三菱電機グループでは地球環境リスクを重要性の高いリスクと位置付けています。

 

ウ.地球環境に関するリスクのマネジメントプロセス

気候変動を含む地球環境リスクは、上述の三菱電機グループリスクマネジメント体制に則り、CROの指示を受けてサステナビリティ担当上席執行役員及びリスク所管部門であるサステナビリティ・イノベーション本部が選別・評価・管理を行います。

サステナビリティ担当上席執行役員及びサステナビリティ・イノベーション本部は、総合的に評価されたリスクの結果を踏まえ、地球環境リスクに関する法規動向、技術動向、市場動向、社外評価等を考慮して細分化したリスクの選別・評価を行います。その結果を踏まえて、リスクを管理するための中期的な施策として環境計画を、単年度の施策として環境実施計画を策定します。

グループ内の各組織(事業本部、関係会社等)は、それらを基に自組織の環境実施計画を毎年策定し、サステナビリティ担当上席執行役員及びサステナビリティ・イノベーション本部にその成果を報告します。

サステナビリティ担当上席執行役員及びサステナビリティ・イノベーション本部は、各組織の成果及び社会動向等を考慮して地球環境リスクの選別・評価結果を見直し、結果を法務・リスクマネジメント統括室に報告するとともに、必要に応じて環境計画の修正及び次年度環境実施計画への反映を行います。

 

④指標及び目標

三菱電機グループは、バリューチェーンでの温室効果ガス排出量(Scope 1、2、3)を算定・把握しています。算定・把握に当たっては、「GHGプロトコル」や環境省の「サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量算定に関する基本ガイドライン」などを参考にしています。

 

ア.長期目標

三菱電機グループは、2050年までの長期環境経営ビジョンである「環境ビジョン2050」の中で、バリューチェーン全体で温室効果ガス排出の削減を推進し、2050年の排出量実質ゼロを目指すという目標を掲げています。

 

イ.中期目標

三菱電機グループは、「2030年度までに工場・オフィスからの温室効果ガス排出量実質ゼロを目指す」という目標を定めています。

 

<SBT(Science Based Targets)イニシアチブの認定を取得した三菱電機グループの削減目標>

なお、2030年度に向けた三菱電機グループの温室効果ガス排出量削減目標を以下の通り更新し、2024年1月にSBTイニシアチブの認定を取得しました。この新たな目標は、パリ協定の「1.5℃目標」を達成するための科学的根拠に基づいた目標であると認められています。Scope 1及びScope 2の目標は「1.5℃以内に抑える水準」として、またScope 3の目標は「2℃を十分下回る水準」としてそれぞれ認定されています。

・Scope 1及びScope 2:2030年度までに温室効果ガス排出量を2021年度基準で42%削減

・Scope 3*:2030年度までに温室効果ガス排出量を2018年度基準で30%削減

* Scope 3の対象は、従来のカテゴリー11(販売した製品の使用)のみから全てのカテゴリーに拡大

 

ウ.短期目標

三菱電機グループは、環境ビジョン2050で掲げた行動指針のもと、具体的な活動目標を定めた環境計画を策定しています。「環境計画2023(2021~2023年度)」では、「製品・サービスによる環境貢献」「事業活動における環境負荷低減」「イノベーションへの挑戦」「新しい価値観・ライフスタイルの発信」のそれぞれについて指標と目標を設定し、活動を推進してきました。

2024年度には新たに「環境計画2025(2024~2025年度)」を策定しました。「環境計画2025」では、前述の中期目標の達成に向けて2025年度の温室効果ガス排出量削減目標を設定した他、「カーボンニュートラル」「サーキュラーエコノミー」に貢献するLC-CO2*1排出量の簡易算定や、政府が掲げる「30by30*2」の実現に寄与する「ネイチャーポジティブ」領域での目標等を設定しました。

 

*1 ライフサイクル CO2。製品ライフサイクル全体を通して排出される全ての CO2

*2 2030年までに陸と海の30%以上を健全な生態系として効果的に保全しようとする目標

 

エ.目標の進捗

GHG排出量のうち、Scope1、2の2023年度の会社算定値は、下表のとおりです。

ロケーションベースでは、三菱電機グループの生産規模拡大等により、2022年度から増加し1,064ktとなりましたが、環境計画2025で基準年度とした2013年度の排出量1,430ktに対しては、約26%の削減となりました。温室効果ガス排出量削減の取組みは、環境計画2025で掲げる、2025年度末「2013年度比 53%以上削減」という目標達成に向けて引き続き取り組んでいきます。

マーケットベースでも、再生可能エネルギーの利用が進み、削減が進んでいます。

Scope1、2の温室効果ガス排出量(三菱電機グループ) (単位:kt-CO2)

 

2021年度

2022年度

2023年度

Scope1、2

合計

ロケーションベース

1,161

1,046

1,064

マーケットベース

1,095

951

906

注)2021年度と2022年度は第三者検証を経た実績値。2023年度は、第三者検証を実施中のため、提出日現在の会社算定値。

 

第三者検証後の実績値は、2024年10月公開予定の「統合報告書2024」を参照ください。

https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/sustainability/download/index.html

 

(3)人財/人的資本

①ガバナンス

ア.人財に対する考え方

三菱電機グループは、2025年度に向けた中期経営計画において、経営基盤の強化とDXの推進等による統合ソリューションの提供拡大により、脱炭素化への対応等、活力とゆとりある社会の実現へ貢献することを掲げています。この持続的な成長実現の原動力は人であり、「人=将来の価値を生み出す資本」ととらえる「人的資本経営」を、より一層推進します。また、グローバル競争がますます激化する事業環境下、三菱電機グループが社会からの信頼を取り戻し、「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」として発展するために、人財=多様・多才な「個」の力を総結集し、あらゆる変革を成し遂げていきます。

 

イ.推進体制

三菱電機グループはCHRO(Chief Human Resource Officer)を責任者とし、人財戦略を策定しています。その過程の中で、経営戦略と人財戦略の連動を意識し、まずは、経営戦略実現の障害となる人財面の課題を洗い出し、各Chief Officerや、ビジネスエリアオーナーとの議論を重ねて、自社固有の優先課題と対応方針を整理し、取締役会での監督も受けて策定しました。今後も、改善の進捗状況を定期的に取締役会で進捗/経過を報告しつつ、計画的に進めていきます。

 

②戦略

HRの基本理念とともに、「人財」「組織」「風土」に関する「ありたい姿」を掲げて、人財育成、および、社内環境整備(含む:組織風土の改善)に努めています。

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ア.人財育成

「従業員の成長なくして事業の発展や社会貢献は成し得ない」との認識に立ち、全従業員を対象にした教育研修の投資によって、全体の底上げを図るとともに、自ら考え、主体的に行動し、挑戦し続けることで、「Changes for the Better」を実践する「多様・多才な人財」を育てます。

 

取組み事例

(ア)人と組織が共に成長する最適な人財マネジメント

「成長に繋がる適正評価の実現」と「自律的キャリア開発支援」をコンセプトに、等級・評価・報酬制度を 20年ぶりに刷新しました。これまで以上に従業員のキャリアオーナーシップを尊重した自律的な挑戦・成長を支援するとともに、年功的要素を廃し、実際に発揮されたパフォーマンスに直結した透明性・納得性の高い人事評価を徹底、若手優秀層の早期抜擢などを加速します。

なお、2023年4月に策定した「キャリア開発コンセプト」では、従業員一人ひとりが自分のキャリアについてより主体的・積極的に考え、行動することを促すとともに、会社が個々人の成長実現に伴走・支援していく姿勢を改めて明確化しました。

こうした多様・多才な人財が自律的にキャリアを構築しながら能力を存分に発揮し、活躍できる環境を整備することで、従業員と会社のさらなる成長を実現していきます。

 

 

キャリア開発コンセプト

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(イ)一人ひとりの能力開発を支援する人財育成体系

三菱電機グループの育成制度では、OJTをベースに日常的な業務ノウハウとマインドを伝承していくとともに、OJTでは身につきにくい知識やスキルの習得、キャリア形成を、オンライン研修も積極的に活用しながら、Off-JTで補完しています。Off-JTでは、「倫理・遵法など社会人として身につけるべき知識の付与」「社内外の優れた講師による知識やスキル研修及び動機付け研修」「スキルアップのための検定や競技」「海外拠点や国内外の大学での実習や留学」を実施しており、これらを通して関係会社を含め、グループ従業員全体のレベルアップを図っています。

新卒者や経験者採用者に対しては、全員に研修を実施し、社会人としての意識付けを図るとともに、基礎知識の付与や、経営理念、コンプライアンスなどの初期教育を実施しています。

また、三菱電機では、個々人がそれぞれの役割・期待に応え活躍することを目的に、その各段階で求められる能力やスキルを付与する機会として、階層別研修を導入しています。本研修では特に、若手層に対してはコミュニケーション力強化、中堅層や管理職層に対してはリーダーシップ、後進(部下・後輩)の育成を含むマネジメント力強化に重きを置いており、職場全体での育成風土の醸成に取り組んでいます。

管理職については、自部門で仕事をする従業員一人ひとりに応じた支援を行えるよう、職場内でのコミュニケーションの活性化策や傾聴法、ストレス対処法などのスキルの習得支援を図っており、風通しよくコミュニケーションをとることができる職場を実現するために、その中核となる人財の育成を推進していきます。

また、「社内外の優れた講師による知識やスキル研修及び動機付け研修」関連では、技術・ビジネス強化を目的に、一人ひとりのニーズに応じて選択受講できるグループ共通講座「MELCOゼミナール」(約470講座)を展開すると共に、最上位講座として「技術系アドバンスコース」を設定して当該分野を担うキーパーソンの育成にも注力しています。

加えて、グループ内で各種「知の共有」ネットワークを構築しており、その最大組織である「技術部会」では、約2万名が参加して相互研鑽活動を行っています。

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(ウ)デジタル人財の確保・育成

私たちが目指す「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」に向け、DX(デジタルトランスフォーメーション)に関わる多様・多才な人財の強化に取り組みます。具体的には、上述の全社員教育をベースとした「育成」に加え、採用やM&A等の活用による「人財強化」、スキルレベルの見える化等による「評価」を実施し、三菱電機グループ全体のDX化を推進します。

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イ.社内環境整備

持続的成長を実現していくためには、従業員一人ひとりが限られた時間の中でその能力を最大限発揮できる職場環境づくりが重要と考えているため、誰もが安心して、いきいきと働ける職場環境の実現に向けて、多様性の尊重やエンゲージメント向上を図り、環境の改善をとおして、組織としての一体感・連携を促進します。

 

取組み事例

(ア)多様性の尊重:ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン

a. ジェンダーバランス

三菱電機は、若年層から業務経験の付与や研修機会の提供を計画的に行い、育成するとともに、社内に対して各種両立支援制度の積極的な情報発信を実施する等の施策を策定しました。

また、若手女性社員向けに、ワーク・ライフ・インテグレーションを意識し、前向きなキャリアビジョンを形成するための気づきの機会を提供する「若手女性社員向けのキャリアフォーラム」や、育児休職者が円滑に職場復帰し、育児をしながら能力を最大限発揮できるよう、「上司と部下 仕事と育児の両立支援ハンドブック」を配布するとともに、2022年度には、育児休職復職者・上長ペア研修を導入し、復職前・復職後に定期的に上長面談の場を設けることをルール化しました。また、2023年度には、経営層及び全管理職向けにアンコンシャス・バイアス研修(=女性社員育成の阻害要因を学ぶ)を実施し、計画的・意図的な育成が行える組織状態を目指す等、女性がキャリアを積みやすい環境整備を進めています。

 

b. 障がい者

三菱電機グループでは、サステナビリティやダイバーシティ推進の観点から、各社で障がい者の積極的な活用を図っており、障がい者が働きやすい職場環境の整備を目指し、バリアフリー化などの取組みも進めています。

三菱電機では、2014年10月に主に知的障がい者の方に適した業務を社業とする特例子会社*「メルコテンダーメイツ株式会社」を設立しました。2024年3月15日時点で特例子会社を含めた雇用率は2.54%となっています。

メルコテンダーメイツ株式会社の社名は、健常者社員、チャレンジド社員(障がいがある社員)の双方が対等な職場のパートナーであることと、慈しみ合う仲間たちという意味を表現しています。同社はクリーンサービス事業、カフェ事業、名刺事業、給食事業、健康増進事業(マッサージ施術)などを中心に事業を展開しており、2024年3月15日時点で135名の障がい者を雇用しています。また、2017年度にクッキー工房を開設して以降、名古屋事業所、姫路事業所、伊丹事業所を開設しました。今後も徐々に事業を拡大し、チャレンジド社員の雇用を更に推進していく計画です。

* 「障害者の雇用の促進等に関する法律(障害者雇用促進法)」により一定の要件を満たしたうえで、厚生労働大臣の許可を受けて、親会社(三菱電機株式会社)の1事業所(親会社に雇用されている)とみなされ、特例として親会社の障がい者雇用率に含まれる会社。

 

c. LGBTQ

三菱電機では多様性を互いに尊重し、一人ひとりの能力を最大限に発揮し、いきいきと働ける職場環境の実現を目指して、性の多様性(LGBTQ)への理解を深める取組みを推進しています。2021年6月には、LGBTQ当事者にとっても働きやすい職場環境を整備することを社長メッセージとして発信しました。毎年6月を「三菱電機プライド月間」として位置付け、多様な性を理解する取組み(経営層・人事部門向けのLGBTQ理解のセミナーや従業員向けのeラーニング)を行っています。LGBTQ当事者だけでなく職場の上司や同僚等も相談できる「社外相談窓口」を設置しました。

これらの活動に対して、社外から様々な評価を獲得しています。

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(イ)組織風土改革

三菱電機グループは、グループ内で2019年度までに複数の労務問題が発生したことを真摯に受け止め、「風通しよくコミュニケーションができる職場づくり」「メンタルヘルス不調者への適切なケアの徹底」等を目指し、「三菱電機 職場風土改革プログラム」に取り組んできました。本プログラムについては、2021年度に短期重点施策の適用を完了させ、2022年度は長期取組み施策とした「エンゲージメント向上」「コミュニケーション活性化」「組織文化・マインド醸成」に関する施策を展開してきましたが、今後は、それらの取組みを3つの改革の中の「組織風土改革」と一体化させ、より一層強力に実行しています。また、従業員がいきいきと活躍できる職場環境を実現するための指標として「働きがい」や「ワークライフバランス」等についての指標(KPI)を定め、定期的にモニタリングすることにより、更なる組織風土や職場環境の改善や定着に引き続き取り組んでいきます。

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③指標及び目標

マテリアリティ「あらゆる人の尊重」の目標として、人財に関する目標/取組み指標(KPI)を「(1)④指標及び目標」に掲載しています。それらを含めた人財に関する当社の主な実績及び目標は下表のとおりです。なお、多様性に関する指標のうち、女性管理職比率、男性育児休業取得率、男女賃金格差については、「第1 企業の概況 5 従業員の状況」にも記載しています。

下表は提出会社の数値です。連結子会社についても、多様性推進に向けて取組みを進めています。

[単位は、従業員一人当たりの年間人財育成・研修投資額は千円/人、それ以外は]

区分

指標

分類

実績

目標

2019

年度

2020

年度

2021

年度

2022

年度

2023

年度

2025

年度

人財育成

自身のキャリア希望を当社で実現できると感じていると回答した従業員の割合

正規雇用*1

-

48.0

43.0

42.0

43.0

-

従業員一人当たりの年間人財育成・研修投資額*2

全従業員

-

-

86

124

147

-

社内環境整備

働きがいと働きやすさ

従業員エンゲージメントスコア(三菱電機で働くことの誇りややりがいを感じている従業員の割合)

正規雇用

-

63.0

54.0

54.0

55.0

70.0

仕事と生活のバランスが取れていると回答した従業員の割合

正規雇用

-

66.0

65.0

66.0

68.0

70.0

多様性

女性管理職比率

-

2.0

1.9

2.3

2.6

3.1

4.5

男性育児休業取得率

-

59.1

64.9

67.8

76.1

85.1

-

男女間賃金格差

全従業員

58.5

60.7

61.0

61.5

62.4

-

正規雇用

62.3

63.5

63.6

63.6

64.4

-

非正規雇用

66.5

63.5

62.4

63.2

61.8

-

障がい者雇用率

-

2.3

2.3

2.4

2.5

2.5

-

*1 正規雇用労働者には、正規雇用の従業員、及びフルタイムの無期化した非正規雇用の従業員を含む。

*2 研修費用及び研修主管部門における費用の合計額。従業員には臨時従業員等を含む。

 

 なお、上記における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月25日)現在において当社が判断したものです。 

 三菱電機グループのサステナビリティに関する最新の取組み状況については、2024年10月公開予定の「統合報告書2024」を参照ください。 

https://www.MitsubishiElectric.co.jp/corporate/sustainability/download/index.html 

 

3 【事業等のリスク】

(1) 三菱電機グループのリスクマネジメント体制

 三菱電機グループは、各部門及び国内外の関係会社が主体的にリスクマネジメントを遂行することに加えて、三菱電機の各コーポレート部門(リスク所管部門)がそれぞれの専門領域において各部門及び国内外の関係会社を統括/評価し、更にCRO(Chief Risk Management Officer)及び法務・リスクマネジメント統括部がグループ全体を統括することによって、適切かつ迅速な判断が可能な体制を構築しています。

 各種のリスクについてグループ全体の経営に与える影響度に応じた重点付けを行いながら、大規模災害や社会的リスクなどの従来型リスクへの対応にとどまらず、経済安全保障、AI等の技術革新、サステナビリティなどの分野における新たなリスクに対する探索と備えも含めて、リスクマネジメント・コンプライアンス委員会で経営判断し、機動的かつ戦略的に推進します。特に経営の監督と執行にかかわる重要事項については、取締役会、執行役会議において審議・決定します。

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(2) 事業等のリスク

 三菱電機グループは、海外向け売上高比率が5割超を占め、幅広い事業分野で「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」への変革を目指しています。また、顕在化した各種コンプライアンス事象を真摯に受け止め、内部統制システムの改善等に取り組んでいます。

 事業の遂行に当たっては、様々な要素が三菱電機グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性があります。具体的に三菱電機グループの財政状態及び経営成績や、投資家の判断に影響を及ぼす可能性がある要因のうち、主なものは以下のとおりです。

 

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①地政学的リスクの高まりによる社会・経済・政治的混乱の影響について

 ウクライナや中東等をめぐる国際情勢の緊張の高まりは、地政学的リスクのレベルを引き上げ、社会情勢を不安定化させるとともに、世界経済の回復に対しても減速をもたらしています。また2024年に主要各国・地域で行われる選挙の結果が多国間・二国間の政治・経済関係に影響を与えることなどにより、企業にとって予見困難なリスク顕在化の可能性が増しています。

 三菱電機グループは、社会インフラから家庭電器まで広範な領域で事業を展開し、海外向けが売上高の5割超を占めています。また、日本国内向けの売上には国内で利用される製品だけでなく、顧客の製品に組み込まれて海外に輸出される製品も含まれています。地政学リスクの高まりによる社会・経済・政治的混乱により、当社製品の需要や、当社製品を組み込んだ顧客の製品の販売動向が変化した場合には、三菱電機グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 こうした各国の経済安全保障政策の急激な変化に対応すべく、政策動向や法制度の調査・分析、全社における機微技術管理、情報セキュリティ、投資、開発、サプライチェーン等に関わる経済安全保障の観点から見た統合的なリスク制御を行っています。

 

②サプライチェーン(部材調達)環境の変化について

 半導体は、足元では需給緩和状況にあるものの、PC・スマートフォンの底打ちや生成AI向けの需要増を背景に、今後再び逼迫懸念が生じる可能性があります。また、感染症・自然災害等による供給混乱、各種経済安全保障規制の拡大、人権課題への対応など、サプライチェーンの強靭化が必要となっていることに加え、特定の国・地域の緊張関係によるサプライチェーンへの影響等も想定されます。

 これらの状況も踏まえ、三菱電機グループは、適正価格での部材調達に基づくレジリエントなサプライチェーン構築に向け、様々なリスクに対応可能な調達BCP対策を推進し、競争力ある製品・サービスを継続的に市場に供給して参ります。

 

③情報セキュリティを取り巻く環境について

 三菱電機グループの顧客・ステークホルダーの皆様からお預かりした情報、営業情報や技術情報、知的財産などの企業機密が、コンピューターウイルスの感染や不正アクセスその他不測の事態により、滅失もしくは社外に漏洩した場合、または工場の生産に影響を与えるようなサイバー攻撃事案が発生した場合は、三菱電機グループの事業活動及び業績に影響を及ぼす可能性があります。加えてソフトウエア又はハードウエアの大規模障害、三菱電機グループ及び三菱電機グループ管理外のシステムに未知の脆弱性があった場合や外部事業者が提供する情報通信サービスの停止、大規模災害等により、情報システムが機能不全に陥る場合は、三菱電機グループの事業が影響を受ける可能性があります。また、当社が顧客に納入した製品に未知の脆弱性があった場合、顧客の提供するサービス及び社会に大きな影響を与える可能性があります。

 かかるリスクの増大への対応として、情報セキュリティ基盤強化活動を推進し、巧妙かつ多様化する最新のサイバー攻撃パターンへの対策強化及びレジリエントな情報システムの維持・強化を進めていきます。また、人的情報漏洩防止策の強化も含めて機密情報の保全を図ります。

 

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④技術革新の加速と競争の激化について

 技術革新(ゲームチェンジ)の加速と競争の激化に伴い、国際的な法規制や社会的な価値観、社会構造が変化し続けています。そのような不確実性が高まる事業環境の変化を踏まえ、国際的な法規制を遵守しリスクを抑えつつ、チャンスに変えていく迅速かつ柔軟な対応が求められています。

 三菱電機グループは、これらの変化に耐えうる強固な経営基盤を構築します。研究開発においては、大学など社外研究機関との連携や、顧客との共創などを通じて、グループ内外の知見を融合することにより未来社会をデザインし、新しい価値のタイムリーな創出を図ります。

 

⑤人権に関する法規・規制及び社会的要請等の高まりについて

 三菱電機グループは、人権に関して以下のリスクを認識しています。

 ・各国で制定が進む企業に人権の取組みを求める法令に適時適切に対処しなければ法令違反となるリスク

 ・人権侵害に加担した企業とみなされた場合に企業に課される経済制裁リスク

 ・人権侵害に関わる企業への信頼の低下などのレピュテーションリスク

 かかるリスクに対し、三菱電機グループとして国連「ビジネスと人権に関する指導原則」など国際規範に基づく取組みを強化しています。

 また、グローバルサプライチェーンにおいて社会的責任を推進する企業同盟であるRBA(Responsible Business Alliance)のプロセスを積極的に活用するなど、三菱電機グループのバリューチェーンにおける人権デューデリジェンスの取組みを加速・強化します。

 

⑥持続可能な地球環境の実現に関する法規・規制及び社会的要請の高まりについて

 三菱電機グループは、地球環境リスクのうち気候変動に係るリスクを最優先に対応しています。気候変動に係るリスクは、脱炭素社会への移行に関連するリスク(移行リスク)と、温暖化が進展した場合の物理的影響に関連するリスク(物理的リスク)に大別されます。これらのリスクは、費用の増加(生産・社内管理・資金調達コストなど)、収益の減少などを招くおそれがあります。

 かかるリスクに対し、気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)提言に沿って、「ガバナンス」「戦略」「リスク管理」「指標及び目標」の観点から事業運営を強化します。事業のリスクを制御するとともに機会創出に取り組み、社会課題の解決を促進します。

 

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⑦感染症・大規模災害(地震、津波、台風、水害、火山噴火、火災)等の影響について

 三菱電機グループは、製造・販売拠点、研究開発拠点、及び本社を含む主要施設を日本国内外に多数有しており、感染症や大規模災害(地震、津波、台風、水害、火山噴火、火災)等により三菱電機グループの拠点が被害を受けることで、事業活動が中断する可能性があります。また、サプライチェーンの混乱に伴い調達、生産、物流等に影響が生じ、多額の損失が発生する可能性があります。

 これらに対し、三菱電機グループは感染症や大規模災害等の緊急事態の際は、全社緊急対策室を設置し、全社の情報を一元管理するとともに、各事業拠点単位での安全確保と事業活動の復旧・継続(BCP)に取り組みます。また、安定調達に向けたサプライチェーンを構築し、BCPを強化していきます。

 

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⑧製品やサービスの品質及び関連するコンプライアンスリスクについて

 製品やサービスの欠陥や瑕疵等による損失計上や、関連するコンプライアンス違反の発生による社会的評価の低下等は、経営全般に影響を及ぼす可能性があります。

 かかるリスクに対し、品質保証体制を強化するとともに、予防機能を重視した実効的な内部統制システムを構築していきます。

 

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⑨金融市場(為替相場、株式相場)リスクの影響について

 上記①~⑧項で示した複雑化する各個別リスク、あるいはそれらの複合リスクにより、為替相場、株式相場が影響を受ける場合、三菱電機グループは、以下の影響を受ける可能性があります。

 

<為替相場>

 三菱電機グループの売上は北米、欧州、中国がおよそ10%ずつを占めていることに加え、当社における米ドル建てやユーロ建てでの輸入部材購入、アジア地域の製造拠点における当該地国以外の通貨建て輸出売上や輸入部材購入があります。

 為替予約等により為替の変動の影響を回避するようにしていますが、為替レートの急変により、当社の想定している為替レートから大きく変動すると、三菱電機グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

<株式相場>

 三菱電機グループは、「政策保有株式は原則保有しない」という考え方を基本方針としていますが、一方で、事業運営上、必要性が認められると判断した株式については保有することがあります。株式相場の下落は、三菱電機グループが保有する市場性のある株式の価値の減少や、年金資産の減少をもたらす可能性があります。

 かかるリスクへの対応として、保有株式については、採算性、事業性、保有リスク等の観点から総合的に保有意義の有無を判断し、毎年、執行役会議及び取締役会にて検証・確認を行っています。保有意義が希薄と判断した株式は、当該企業の状況等を勘案した上で売却を進めるなど縮減を図ることとしています。

 

 なお、上記における将来に関する事項は、有価証券報告書提出日(2024年6月25日)現在において当社が判断したものです。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

三菱電機グループが当連結会計年度中にとった主な施策及び翌連結会計年度以降に向けての施策については、「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」などに記載のとおりですが、これらの施策の実施状況を踏まえた当連結会計年度に関する財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの分析は以下のとおりです。

 

(1) 業績概要

 当連結会計年度の景気は、日本では緩やかな回復が続いてきましたが、足元では個人消費の回復に足踏みがみられました。米国では金融引き締めなどの影響を受けつつも個人消費を中心に回復が継続しました。中国では輸出の停滞に加え、不動産不況等を背景に内需も減速し、持ち直しの動きに弱さがみられました。欧州では金融引き締めなどの影響により、企業・家計部門ともに停滞しました。

 このような状況の中、三菱電機グループは、これまでの事業競争力強化・経営体質強化に加え、ビジネスエリア経営体制での事業変革・ポートフォリオ戦略の加速による収益力最大化に、従来以上に軸足を置いて取り組んできました。この結果、当連結会計年度の業績は、以下のとおりとなりました。

 

<連結決算概要>

 

前連結会計年度

当連結会計年度

前連結会計年度比

売上高

50,036億円

52,579億円

2,542億円増

営業利益

2,623億円

3,285億円

661億円増

税引前当期純利益

2,921億円

3,658億円

736億円増

親会社株主に帰属

する当期純利益

2,139億円

2,849億円

710億円増

 

①売上高

 売上高は、為替円安の影響や価格転嫁の効果などにより、前連結会計年度比2,542億円増加の5兆2,579億円となりました。ライフ部門では、ビルシステム事業は国内・アジア(除く中国)・欧州向けで増加し、空調・家電事業は上期を中心に空調機器の需要が堅調に推移し増加しました。インフラ部門では、社会システム事業は国内外の公共事業や海外の交通事業の増加、電力システム事業は国内外の電力流通事業で増加し、防衛・宇宙システム事業は防衛システム事業・宇宙システム事業の大口案件により増加しました。インダストリー・モビリティ部門では、FAシステム事業はデジタル関連分野やリチウムイオンバッテリーなどの脱炭素関連分野における需要の落ち込みなどにより減少しましたが、自動車機器事業は電動化関連製品や自動車用電装品などが増加しました。セミコンダクター・デバイス部門は、パワー半導体の堅調な需要により増加し、ビジネス・プラットフォーム部門では、システムインテグレーション事業・ITインフラサービス事業が増加しました。

 

<売上高における為替影響額>

 

前連結会計年度

期中平均レート

当連結会計年度

期中平均レート

当連結会計年度

売上高への影響額

連結合計

-

-

約1,640億円増

内、米ドル

136円

145円

約490億円増

内、ユーロ

142円

158円

約610億円増

内、人民元

19.7円

20.2円

約90億円増

 

②営業利益

 営業利益は、ビジネス・プラットフォーム部門での減益はありましたが、ライフ部門、インダストリー・モビリティ部門、インフラ部門、セミコンダクター・デバイス部門での増益により、前連結会計年度比661億円増加の3,285億円となりました。営業利益率は、売上原価率の改善などにより、前連結会計年度比1.0ポイント改善の6.2%となりました。

 売上原価率は、為替円安の影響に加え、価格転嫁の効果などにより、前連結会計年度比1.3ポイント改善しました。販売費及び一般管理費は、前連結会計年度比892億円増加し、売上高比率は前連結会計年度比0.5ポイント悪化しました。その他の損益は、固定資産減損損失の減少などにより前連結会計年度比164億円増加し、売上高比率は前連結会計年度比0.2ポイント改善しました。

 

③税引前当期純利益

 税引前当期純利益は、営業利益の増加などにより、前連結会計年度比736億円増加の3,658億円、売上高比率は7.0%となりました。

 

④親会社株主に帰属する当期純利益

 親会社株主に帰属する当期純利益は、税引前当期純利益の増加などにより、前連結会計年度比710億円増加の2,849億円、売上高比率は5.4%となりました。

 なお、ROEは前連結会計年度比1.3ポイント改善の8.2%となりました。

 

事業の種類別セグメントの業績は、次のとおりです。

① インフラ

社会システム事業の事業環境は、国内外の交通分野における需要回復の動きが継続し、国内外の公共分野における投資も堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高は国内外の交通事業や海外の公共事業の増加などにより前連結会計年度を上回り、売上高は円安の影響に加え、国内外の公共事業や海外の交通事業の増加などにより、前連結会計年度を上回りました。

電力システム事業の事業環境は、国内電力会社の設備投資の動きが継続し、再生可能エネルギーの拡大に伴う電力安定化の需要などが国内外で堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高は国内外の電力流通事業や国内の発電事業の増加などにより前連結会計年度を上回り、売上高は円安の影響に加え、国内外の電力流通事業の増加などにより前連結会計年度を上回りました。

防衛・宇宙システム事業は、受注高は防衛システム事業の大口案件の増加により前連結会計年度を上回り、売上高は防衛システム事業・宇宙システム事業の大口案件の増加により前連結会計年度を上回りました。

この結果、部門全体では、売上高は前連結会計年度比107%の1兆366億円となりました。

営業利益は、売上案件の変動や費用の増加はありましたが、前連結会計年度の防衛・宇宙システム事業の採算悪化の影響などにより、前連結会計年度比38億円増加の314億円となりました。

 

② インダストリー・モビリティ

FAシステム事業の事業環境は、半導体などのデジタル関連分野やリチウムイオンバッテリーなどの脱炭素関連分野において、国内外で需要が減少しました。このような状況の中、同事業は、受注高・売上高ともに前連結会計年度を下回りました。

自動車機器事業の事業環境は、一部半導体部品の需給状況の改善などによる新車販売台数の増加、電動車を中心とした市場の拡大により、電動化関連製品などの需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、モーター・インバーターなどの電動化関連製品や自動車用電装品、ADAS*関連機器の増加に加え、円安の影響や価格転嫁の効果などにより、受注高・売上高ともに前連結会計年度を上回りました。

この結果、部門全体では、売上高は前連結会計年度比103%の1兆7,106億円となりました。

営業利益は、FAシステム事業は円安の影響はありましたが、機種構成の変動や売上高の減少、費用の増加などにより減少し、自動車機器事業は円安の影響に加え、売上高の増加、前連結会計年度の固定資産減損損失の影響などにより増加しました。部門全体では、前連結会計年度比242億円増加の1,201億円となりました。

* ADAS:Advanced Driver Assistance System / 先進運転支援システム

 

③ ライフ

ビルシステム事業の事業環境は、需要回復の動きが国内外で継続しました。このような状況の中、同事業は、円安の影響や、国内・アジア(除く中国)・欧州向けの増加などにより、受注高・売上高ともに前連結会計年度を上回りました。

空調・家電事業の事業環境は、上期を中心に世界的な脱炭素化の動きを受けて空調機器の需要が国内外で堅調に推移しましたが、下期に欧米における空調機器の需要減少がありました。このような状況の中、同事業は、円安の影響や価格転嫁の効果に加え、欧州・アジア向けの空調機器の増加などにより、売上高は前連結会計年度を上回りました。

この結果、部門全体では、売上高は前連結会計年度比105%の2兆522億円となりました。

営業利益は、売上高の増加や円安の影響に加え、価格転嫁の効果や物流費の改善、土地の売却などにより、前連結会計年度比443億円増加の1,456億円となりました。

 

④ ビジネス・プラットフォーム

情報システム・サービス事業の事業環境は、レガシーシステムの更新や、デジタルトランスフォーメーション導入関連の需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高は前連結会計年度並みとなり、売上高はシステムインテグレーション事業・ITインフラサービス事業の増加などにより前連結会計年度比105%の1,420億円となりました。

営業利益は、費用の増加などにより、前連結会計年度比4億円減少の83億円となりました。

 

⑤ セミコンダクター・デバイス

電子デバイス事業の事業環境は、電鉄・電力向けのパワー半導体の需要が堅調に推移しました。このような状況の中、同事業は、受注高は電鉄・電力向けパワー半導体の増加などにより前連結会計年度を上回り、売上高は円安の影響に加え、産業、自動車、電鉄・電力向けパワー半導体の増加などにより前連結会計年度比103%の2,898億円となりました。

営業利益は、円安の影響などにより、前連結会計年度比6億円増加の298億円となりました。

 

⑥ その他

売上高は、物流の関係会社における減少などにより、前連結会計年度比99%の8,435億円となりました。

営業利益は、売上高の減少などにより、前連結会計年度比16億円減少の317億円となりました。

 

顧客の所在地別の売上高の状況は、次のとおりです。

① 日本

自動車機器事業やビルシステム事業などの増加により、前連結会計年度比104%の2兆5,594億円となりました。

 

② 北米

空調・家電事業などの減少はありましたが、自動車機器事業や社会システム事業などの増加により、前連結会計年度比111%の6,970億円となりました。

北米のうち米国については、空調・家電事業などの減少はありましたが、自動車機器事業や社会システム事業などの増加により、前連結会計年度比111%の5,817億円となりました。

 

③ アジア

空調・家電事業やビルシステム事業などの増加はありましたが、FAシステム事業などの減少により前連結会計年度比97%の1兆1,770億円となりました。

アジアのうち中国については、FAシステム事業などの減少により、前連結会計年度比91%の5,323億円となりました。

 

④ 欧州

空調・家電事業や自動車機器事業などの増加により、前連結会計年度比121%の7,330億円となりました。

 

⑤ その他

その他の地域にはオセアニアなどが含まれており、前連結会計年度比108%の912億円となりました。

 

(2) 生産、受注及び販売の実績

① 生産実績

 三菱電機グループの生産品目は広範囲かつ多種多様であり、ソフトウエアやサービスなどの無形財も多く含まれることから、セグメントごとの生産規模を金額あるいは数量で示していません。

 

② 受注実績

 当連結会計年度における受注実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、次のとおりです。

事業の種類別セグメントの名称

受注高(百万円)

前連結会計年度比(%)

インフラ

1,605,357

137

インダストリー・モビリティ

1,531,307

91

ライフ(空調・家電を除く)

645,193

114

ビジネス・プラットフォーム

146,121

101

セミコンダクター・デバイス

307,269

112

(注) 1 「インフラ」の受注状況は、「第2 事業の状況 4 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1) 業績概要 事業の種類別セグメントの業績 ①インフラ」に記載のとおり、防衛システム事業の大口案件の増加などに伴い、前連結会計年度比137%の1兆6,053億円となりました。

2 「ライフ」セグメントのうち空調・家電事業については、受注生産形態をとらない製品が多く、受注規模を金額で示していません。

 

③ 販売実績

 当連結会計年度における販売実績を事業の種類別セグメントごとに示すと、次のとおりです。

事業の種類別セグメントの名称

販売高(百万円)

前連結会計年度比(%)

インフラ

1,036,613

107

インダストリー・モビリティ

1,710,602

103

ライフ

2,052,291

105

ビジネス・プラットフォーム

142,058

105

セミコンダクター・デバイス

289,848

103

その他

843,577

99

消去

△817,075

-

5,257,914

105

(注) 各種類別セグメントの金額には、セグメント間の内部売上高(振替高)を含めて表示しています。

 

(3) 資産及び負債・資本の状況分析

 総資産残高は、前連結会計年度末比5,848億円増加の6兆1,673億円となりました。退職給付に係る資産が2,876億円、現金及び現金同等物が1,195億円増加したことがその主な要因です。退職給付に係る資産の増加は、株価上昇等によるものです。

 負債の部は、買入債務が553億円減少した一方、契約負債が668億円、その他の金融負債が252億円増加したことなどから、負債残高は前連結会計年度末比816億円増加の2兆3,009億円となりました。なお、リース負債を除く社債・借入金残高は前連結会計年度末比109億円減少の2,412億円、借入金比率は3.9%(前連結会計年度末比△0.6ポイント)となりました。

 資本の部は、配当金の支払い969億円による減少等はありましたが、親会社株主に帰属する当期純利益2,849億円及び為替円安・株価上昇等を背景としたその他の包括利益3,653億円の計上等により、親会社株主に帰属する持分は前連結会計年度末比5,002億円増加の3兆7,393億円、親会社株主帰属持分比率は60.6%(前連結会計年度末比+2.6ポイント)となりました。

 

<財政状態計算書関連指標>

 

前連結会計年度末

当連結会計年度末

前連結会計年度末比

売掛債権回転率

3.71回転

3.73回転

0.02回転増

棚卸資産回転率

4.14回転

4.19回転

0.05回転増

借入金比率

4.5%

3.9%

0.6ポイント減

親会社株主帰属持分比率

58.0%

60.6%

2.6ポイント増

(注) 1 売掛債権回転率は、売上債権と契約資産の合計より算出しています。

   2 借入金比率は、リース負債を除く借入金・社債残高より算出しています。

 

(4) 資本の財源及び資金の流動性

①財務戦略に関する基本的な考え方

三菱電機グループは、健全な財務体質を維持するため、業績向上による資金収支の改善に加え、棚卸資産の縮減活動、売掛債権の回収促進といった資産の効率化、グループ内資金の更なる有効活用による資金の効率化に引き続き取り組んでいきます。

また、2025年度に向けた中期経営計画におけるキャピタル・アロケーション方針のもと、成長投資を最優先としつつ、利益成長を通じた株主還元強化を踏まえた資本政策の実行により、更なる資本効率の向上を図っていきます。

なお、成長戦略を進めて行く中で、必要となります設備投資、研究開発、M&A等の資金につきましては、重点成長事業を中心とした営業活動において創出されたキャッシュ・フローを源泉に、自己資金の活用を図りつつ、必要に応じて金融機関等から機動的に資金調達を行っています。

 

②キャッシュ・フローの状況

当連結会計年度は、営業活動によるキャッシュ・フローが4,154億円の収入となった一方、投資活動によるキャッシュ・フローが941億円の支出となったため、フリー・キャッシュ・フローは3,213億円の収入となりました。これに対し、財務活動によるキャッシュ・フローは2,401億円の支出となったことなどから、現金及び現金同等物の期末残高は、前連結会計年度末比1,195億円増加の7,653億円となりました。

営業活動によるキャッシュ・フローは、当期純利益の増加に加え、棚卸資産への支出の減少等により、前連結会計年度比2,487億円の収入増加となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、有価証券等の取得の増加はありましたが、有価証券等の売却収入の増加等により、前連結会計年度比544億円の支出減少となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得の増加や短期借入金の調達の減少等により、前連結会計年度比1,205億円の支出増加となりました。

 

③財源及び流動性

運転資金需要のうち主なものは、生産に必要な材料購入費の他、製造費、販売費及び一般管理費等の営業費用であり、投資を目的とした資金需要は、設備投資、M&A等によるものです。

短期運転資金は、自己資金と金融機関からの短期借入等により、設備投資や長期運転資金は、自己資金の活用を図りつつ金融機関からの長期借入及び社債により調達を行っています。

なお、環境課題の解決に貢献する事業の資金調達のため、2023年12月に当社として初めてのグリーンボンドを発行しました。

また、当連結会計年度末における現金及び現金同等物の残高は7,653億円、社債、借入金及びリース負債残高は3,946億円です。社債、借入金及びリース負債の内訳は、短期借入金716億円、社債498億円、長期借入金1,197億円、リース負債1,533億円です。

三菱電機グループは、上記施策を着実に展開することにより、更なる企業価値の向上を目指します。

 

(5) 重要な会計上の見積り及び見積りを伴う判断

当社の連結財務諸表はIFRSに基づいて作成しています。これらの連結財務諸表の作成にあたって、経営者は、資産、負債、収益及び費用の金額に影響を及ぼす判断、見積り及び仮定を使用する必要があります。実際の業績は、これらの見積りとは異なる場合があります。当社の連結財務諸表の金額に重要な影響を与える可能性のある主要な会計上の見積り及び仮定は以下のとおりです。

 

①一定の期間にわたり履行義務を充足する契約における見積総費用

 インフラ部門、ライフ部門及びビジネス・プラットフォーム部門における一定の要件を満たす特定の工事請負契約については、当該工事請負契約の当期末時点の進捗度に応じて収益を計上しています。進捗度は、当連結会計年度までの発生費用を工事完了までの見積総費用と比較することにより測定しています。

 見積総費用は、契約ごとに当該工事請負契約の契約内容、要求仕様、技術面における新規開発要素の有無、過去の類似契約における発生原価実績などのさまざまな情報に基づいて算定しています。

 工事請負契約は、契約仕様や作業内容が顧客の要求に基づき定められており契約内容の個別性が強く、また比較的長期にわたる契約が多いことから、作業工程の遅れ等による当初見積りに対する原価の増加や、新規開発技術を利用した工事遂行における当初想定していない事象の発生による原価の変動など、工事の進行途中の環境の変化によって、見積総費用が変動することがあります。

 経営者は、四半期ごとに当四半期までの発生費用と事前の見積りとの比較や、その時点での工事の進捗状況等を踏まえた最新の情報に基づいて見直した工事請負契約の見積総費用を妥当なものと考えていますが、将来の状況の変化によって見積りと実績が乖離した場合は、三菱電機グループが認識する収益の金額に影響を与える可能性があります。

 

②引当金の認識及び測定

 受注工事損失引当金は、インフラ部門、ライフ部門及びビジネス・プラットフォーム部門における工事請負契約において、当該工事の見積総費用が請負受注金額を超える可能性が高く、かつ予想される損失額を合理的に見積もることができる場合に、将来の損失見込額を引当金として計上しています。当連結会計年度末における受注工事損失引当金の残高は、57,157百万円です。

 見積総費用は、契約ごとに当該工事請負契約の契約内容、要求仕様、技術面における新規開発要素の有無、過去の類似契約における発生原価実績などのさまざまな情報に基づいて算定しています。

 工事請負契約は、契約仕様や作業内容が顧客の要求に基づき定められており契約内容の個別性が強く、また比較的長期にわたる契約が多いことから、作業工程の遅れ等による当初見積りに対する原価の増加や、新規開発技術を利用した工事遂行における当初想定していない事象の発生による原価の変動など、工事の進行途中の環境の変化によって、見積総費用が変動することがあります。

 経営者は、四半期ごとに当四半期までの発生費用と事前の見積りとの比較や、その時点での工事の進捗状況等を踏まえた最新の情報に基づいて見直した将来工事損失見込額を妥当なものと考えていますが、将来の状況の変化によって見積りと実績が乖離した場合は、三菱電機グループの損益に影響を与える可能性があります。

 製造上やその他の不具合に対し、製品の種類や販売地域及びその他の要因ごとに定められた期間又は一定の使用条件に応じて製品保証を行っており、期末日現在において将来の費用発生の可能性が高く、その金額を合理的に見積もることができる場合に、製品保証引当金を計上しています。将来の発生費用は、主に過去の無償工事実績及び補修費用に関する現状に基づいて見積っています。当連結会計年度末における製品保証引当金の残高は、61,856百万円です。

 経営者は、発生費用の見積り額を妥当なものと考えていますが、将来の状況の変化によって見積りと実績が乖離した場合は、三菱電機グループの損益に影響を与える可能性があります。

 

③有形固定資産の回収可能価額

 有形固定資産は、減損の兆候の有無を判断しており、減損の兆候が存在する場合は、減損テストを実施しています。

 資産又は資金生成単位の見積回収可能価額は、使用価値と処分コスト控除後の公正価値のうちいずれか大きい方の金額としています。使用価値の算定における見積将来キャッシュ・フローは、貨幣の時間的価値及び当該資産に固有のリスクを反映した税引前割引率を用いて現在価値に割り引いています。資産又は資金生成単位の帳簿価額が見積回収可能価額を超過する場合には、当期の純損益において減損損失を認識しています。

 経営者は、使用価値の算定における見積将来キャッシュ・フロー及び処分コスト控除後の公正価値の見積りはいずれも妥当なものと考えていますが、三菱電機グループのビジネスや前提条件の変化等によって見積りが変更となることにより資産又は資金生成単位の見積回収可能価額が変動し、結果として、将来において有形固定資産の減損損失の認識に影響を与える可能性があります。

 これらの前提条件を用いた見積りは、合理的であると判断していますが、翌連結会計年度において、経済環境の変化等により、見直しが必要となった場合、減損損失の計上が必要となる可能性があります。

 

④のれん及び無形資産の回収可能価額

 耐用年数を確定できる無形資産は、減損の兆候の有無を判断しており、減損の兆候が存在する場合は、減損テストを実施しています。のれん及び耐用年数を確定できない無形資産については少なくとも1年に一度、同時期に減損テストを実施しています。

 重要なのれんはライフ部門に含まれる空調・家電事業及びビルシステム事業に配分されたのれんであり、減損テストの回収可能価額は、主として経営者が承認した今後5年度分の事業計画及び成長率を基礎としたキャッシュ・フローの見積り額を現在価値に割り引いた使用価値で算定しています。割引率は、税引前の加重平均資本コストを基に算定しており、当連結会計年度における主要な割引率は、9.6%~13.4%です。成長率は、のれんが配分されている資金生成単位グループが属する市場の長期期待成長率を参考に算定しており、当連結会計年度における主要な成長率は0.8%~2.0%です。

 経営者は、事業計画や成長率を基礎としたキャッシュ・フローの見積り額や割引率は妥当なものと考えていますが、三菱電機グループのビジネスや前提条件の変化等によってキャッシュ・フローの見積り額や割引率が変更となることにより使用価値が変動し、結果として、将来においてのれん及び無形資産の減損損失の認識に影響を与える可能性があります。

 

⑤繰延税金資産の回収可能性

 繰延税金資産は、将来減算一時差異、未使用の税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除のうち、将来課税所得に対して利用できる可能性が高いものに限り認識しています。繰延税金資産は期末日に見直し、税務便益が実現する可能性が高くない場合は、繰延税金資産の計上額を減額しています。

 三菱電機グループは繰延税金資産の実現可能性の評価にあたり、繰延税金資産の一部又は全部が実現する可能性が実現しない可能性より高いかどうかを考慮しています。繰延税金資産の実現は、最終的には将来減算一時差異、未使用の税務上の繰越欠損金及び繰越税額控除が減算可能な期間における将来課税所得によって決定されます。その評価にあたり、予定される繰延税金負債の戻入、予測される将来課税所得及び税務戦略を考慮しています。

 経営者は、当連結会計年度末の認識可能と判断された繰延税金資産が実現する蓋然性は高いと考えていますが、繰延期間における将来の見積課税所得が減少した場合には、実現する可能性が高いと考えられる繰延税金資産は減少することとなります。

 

⑥確定給付制度債務の測定

 三菱電機グループは、従業員を対象とする従業員非拠出制及び拠出制の確定給付型退職給付制度を採用しています。従業員の確定給付制度債務は、割引率、退職率、一時金選択率や死亡率など年金数理計算上の基礎率に基づき算定しています。確定給付制度債務の現在価値及び制度資産の公正価値の再測定による変動は、発生した期においてその他の包括利益として一括認識し、直ちに利益剰余金に振り替えています。

 割引率は、将来の毎年度の給付支払見込日までの期間を基に割引期間を設定し、割引期間に対応した期末日時点の優良社債の市場利回りに基づき算定しており、当連結会計年度末の割引率は1.5%です。

 経営者は、年金数理計算上の基礎率の算定は妥当なものと考えていますが、実績との差異又は基礎率自体の変更により、確定給付制度債務の金額に影響を与える可能性があります。

 

⑦金融商品の公正価値

 三菱電機グループは、主に取引関係維持・強化を目的として保有している資本性金融商品をその他の包括利益を通じて公正価値で測定する金融資産に指定しています。このうち非上場株式及び出資金の公正価値については、投資先の純資産等に関する定量的な情報及び投資先の将来キャッシュ・フローに関する予想等を総合的に勘案して算定しています。

 経営者は、公正価値の見積りは妥当なものと考えていますが、投資先の業績や将来キャッシュ・フロー等の見積りの前提条件が変動した場合は、三菱電機グループのその他の包括利益の金額に影響を与える可能性があります。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1)技術供与契約

契約会社名

相手方の名称

契約の内容

契約締結日

期限

三菱電機㈱

(当社)

Access Advance LLC

動画圧縮技術規格必須特許実施

許諾(HEVC)

2016. 5.23

許諾特許最終消滅日まで

三菱電機コンシューマー・

プロダクツ(タイ)社

ルームエアコン・パッケージ

エアコン製造技術使用許諾

1990. 6. 1

自動延長

三菱電機エア・コンディショニング・システムズ・ヨーロッパ社

空調機の製造技術使用許諾

2005.10. 1

自動延長

サイアム・コンプレッサー・

インダストリー社

空調用圧縮機の製造技術使用許諾

2002. 4. 1

自動延長

三菱電機(広州)圧縮機有限公司

空調用圧縮機の製造技術使用許諾

2011.12.28

2024.12.31

三菱電機自動化機器製造(常熟)

有限公司

サーボモーター製造技術使用許諾

2023. 1. 1

2033.12.31

三菱電機自動化機器製造(常熟)

有限公司

サーボアンプ製造技術使用許諾

2023. 1. 1

2033.12.31

三菱電機ビルソリューションズ㈱

(連結子会社)

三菱エレベータ・アジア社

昇降機の製造技術使用許諾

2022. 4. 1

自動延長

 (注) 上記契約に基づく報償料は、売上に応じた金額を受領します。一部の契約については所定金額を受領します。

 

(2)吸収分割契約

当社は、2023年10月31日開催の当社執行役会議において、2024年4月1日を効力発生日とし、当社の自動車機器事業を吸収分割の方式により、Melco自動車機器事業分割準備株式会社(2023年11月1日付設立。現 三菱電機モビリティ株式会社。以下、「準備会社」という。)に承継させること(以下、かかる吸収分割を「本吸収分割」という。)を決定し、2023年11月15日付で、準備会社との間で吸収分割契約を締結、2024年4月1日付で本会社分割を実施しています。本吸収分割の概要は以下のとおりです。

 

①本吸収分割の目的

当社は、各事業の特性に見合った施策を実施し、収益性・資産効率向上を図るべく、経営戦略として掲げる事業ポートフォリオ戦略と経営体質改善を推進しています。

特に、自動車機器事業においては、収益改善が課題であり、また、CASE(注)をはじめとして、産業構造が急速に転換する中、意思決定プロセスを簡素化し、よりスピーディーな事業運営を行うため、自動車機器事業を分社化します。これにより、一段の「事業運営の効率化」と「事業ポートフォリオの再構築」を図ります。

(注)「Connected(つながる)」「Autonomous(自動化)」「Shared & Service(利活用)」「Electric(電動化)」の頭文字を取ったモビリティ変革を表す言葉

 

②本吸収分割の方法

当社を吸収分割会社とし、準備会社を吸収分割承継会社とする吸収分割方式です。

 

③本吸収分割に係る割当ての内容

準備会社は、本吸収分割に際し、当社に対して普通株式1株を交付します。

 

④本吸収分割の日程

執行役による吸収分割決定(注)

2023年10月31日

吸収分割契約締結日

2023年11月15日

吸収分割実施日(効力発生日)

2024年4月1日

(注) 当社において、本吸収分割は、会社法第784条第2項の規定に基づく簡易吸収分割であり、当社の株主総会の承認を要しないため、執行役会議における審議を踏まえた執行役社長の決定により実施しました。

 

⑤本吸収分割に係る割当ての内容の算定根拠

準備会社は当社の100%子会社であることを踏まえ、当社と準備会社の合意により、本吸収分割に際して当社に割り当てる株式数を決定しました。

 

⑥分割する資産、負債の項目及び金額

資産

負債

項目

帳簿価額

項目

帳簿価額

資産合計

241,685百万円

負債合計

194,248百万円

(注) 負債の額には、本取引に際して認識した当社への負債185,854百万円を含んでいます。

 

⑦本吸収分割後の吸収分割承継会社の概要(2024年4月1日現在)

商号

三菱電機モビリティ株式会社

本店の所在地

東京都千代田区丸の内二丁目7番3号

代表者の氏名

代表取締役社長 加賀 邦彦

資本金の額

10,000百万円

事業の内容

・各種電気機械器具、車両機械器具、船舶機械器具、各種輸送機械器具、産業機械器具、工作機械器具に関する機器・システム、サービスの製造・販売・保守・修理

・情報処理、情報通信、情報提供に関する機器・システム、サービスの製造・販売・保守・修理

・その他の機械器具及び電気・電子部品の製造・保守・修理・販売

・上記に関連するソフトウエアの作成、販売及びエンジニアリング業

・上記に附帯関連する一切の事業

 

(3)株式譲渡契約

当社は、2024年6月18日付で、当社の連結子会社である三菱電機ロジスティクス株式会社の普通株式の一部(議決権に対する所有割合66.6%)をセイノーホールディングス株式会社に譲渡する株式譲渡契約を締結しました。本取引は関係当局の承認を前提として、最終的な株式譲渡を、2024年10月1日を目途に実施する予定です。(「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 33 後発事象」及び「第5 経理の状況 2 財務諸表等 (1) 財務諸表 注記事項 (重要な後発事象)」参照)

 

6 【研究開発活動】

当社は、サステナビリティの実現を経営の根幹に据え、「循環型 デジタル・エンジニアリング企業」としてグループ内外の知見を融合したソリューションの提供を目指し、研究開発を推進します。

事業競争力を生み出すコア技術を強化するとともに、機器・システム・サービスの機能・性能・品質・信頼性を支える基盤技術の深化を図り、ゲームチェンジなど将来に備えた新技術の探索・創出をバランス良く推進します。また、複雑で多様化する社会課題の解決に向け、産学官連携によるオープンイノベーションをグローバルに推進し、新しい価値創出を目指します。

当連結会計年度における三菱電機グループ全体の研究開発費の総額は2,218億円(前連結会計年度比104%)であり、事業セグメントごとの主な研究開発成果は以下のとおりです。

 

(1) インフラ

交通システム、ネットワークソリューション機器、発電機・電動機などの回転機、脱炭素に貢献する高効率な送変電機器や受配電機器、監視制御システム、電力情報システム、宇宙関連システム、及びこれらを組み合わせたソリューション(E&Fソリューション)の開発を行っています。当該分野における研究開発費は332億円であり、主な成果は以下のとおりです。

① IoTプラットフォーム「INFOPRISM」を適用した水防災情報システム

水位・雨量や水門・排水機場など流域施設の情報を提供する機能、水防担当職員の業務を支援する機能を持つ水防災情報システムを開発しました。データ収集・蓄積、高度なセキュリティー、AIデータ解析等、IoTソリューション機能をまとめた当社IoTプラットフォーム「INFOPRISM」を適用して実現しました。「INFOPRISM」を利用した流域データのセンシング等によって、流域施設の最適運転や業務の省力化に資するサービスにより、安心・安全な社会の実現に貢献します。

② 家電リサイクルで回収した再生プラスチックをセンサー用無線通信端末に初採用

家電リサイクルで回収したポリカーボネート系プラスチック(PC/ABS)を耐久性と難燃性を確保したプラスチックとして再生化する技術を開発し、ガス検針システム等に活用が進んでいるセンサー用無線通信端末への採用を開始しました。当該部材の新規使用プラスチック量を約70%削減可能です。今後、再生PC/ABSを適用する製品及び部材を増やすことで、持続可能な生産消費形態の確保に貢献します。

③ 統合型系統安定化システム

電力系統事故時の周波数低下対策機能を備えた統合系統安定化システムを開発しました。事故検出後、事故前に受信した最新の系統状態を基に目標制御量を算出し、即座に必要最低限の負荷遮断を実施します(主制御)。また、直接的な検出ができない再生可能エネルギー電源等の脱落については、計測可能な電気量を基に需給アンバランス量を推定し補正制御で対処します。これにより再生可能エネルギーが主力化した系統での事故発生時にも、周波数低下による系統停電を抑止し電力の安定供給を図ることが可能となり、カーボンニュートラルの実現に貢献します。

④ 小型月着陸実証機「SLIM*1」が世界初*2となる月面への高精度着陸を達成

当社が宇宙航空研究開発機構(JAXA)から受注し全体のシステム開発を担当したSLIMが、世界初となる高精度月着陸を2024年1月20日午前0時20分(日本時間)に達成しました。着陸後のデータを分析した結果、SLIMプロジェクトの目的として設定されていた誤差100メートル以内の精度での月面着陸を達成したことが確認されました。JAXAによると、SLIMの着陸地点は、当初の目標地点から東側に55メートル程度の位置と推定されています。この結果は、数キロメートル~十数キロメートルの誤差が生じていた従来の着陸精度を大きく上回るもので、当社の航法誘導制御技術、高周波デバイスなどの集大成で生み出された世界初の成果です。今後も先端技術の更なる強化を図り、持続的な宇宙探査活動の確立や人類の活動領域の拡大等に貢献します。

 

(2) インダストリー・モビリティ

FAシステム、サーボモーターなどの駆動機器、配電制御機器、メカトロ機器、産業用ロボット、電動パワーステアリングなどの自動車用電装品、予防安全(自動運転)システム、ADAS*3などの競争力強化に向けた開発を行っています。当該分野における研究開発費は683億円であり、主な成果は以下のとおりです。

① AI 外観検査ソフトウエア「MELSOFT VIXIO」

外観検査工程における自動化を促進するため、AI技術「Maisart*4」を搭載した「AI外観検査ソフトウエア MELSOFT VIXIO(メルソフト ヴィクシオ)」を開発しました。生産ライン上での外観検査システムをプログラミングレスで簡単に構築することができ、システムの構築にかかる工数の削減と生産品の品質確保に貢献します。

② 国内初*5レベル4*6認可の無人自動運転移動サービス車両の運行開始

自動運転移動サービスの実現に向けた実証実験(RoAD to the L4 テーマ1*7)に参画し、研究開発と福井県吉田郡永平寺町における実証を進め、2023年5月21日よりレベル4自動運転サービスの運行を開始しています。当社は前方カメラ・ミリ波レーダー・超音波ソナーを活用し、歩行者・自転車だけでなく、動物や倒木、落石も検知して停車可能な自動運行装置を開発しました。引き続き自動運転移動サービスの実現に向けた技術の向上に取り組み、交通事故の撲滅や快適な移動機会提供を通じた安心・安全な社会の実現をはじめ、労働者不足などの社会課題解決に貢献します。

 

(3) ライフ

昇降機、ビル管理システム、空調機器、調理家電、家事家電、照明機器、電材住設機器などの開発を行っています。当該分野における研究開発費は633億円であり、主な成果は以下のとおりです。

① ビルセキュリティーシステム「MELSAFETY-G」クラウドタイプ

ビル管理業務の管理・運用負荷軽減を実現する三菱統合ビルセキュリティーシステム「MELSAFETY-G」クラウドタイプを開発しました。入退室管理を中心に、エレベーター・空調・照明などのビル設備との連携をクラウド上のサーバーで行うことで、管理者は専用パソコンの所有やシステムの各種更新などが不要になります。これにより管理者の利便性向上と管理・運用負荷軽減に貢献します。

② 2024年度 ルームエアコン「霧ヶ峰 Z シリーズ」

運転開始時の電力消費を削減*8する起動制御技術と、連続暖房時間を従来の約6.5倍*9にする霜取り技術を開発しました。さらに、2022年6月施行の省エネ法に基づく2027年度省エネ基準を全容量帯(冷房能力2.2kW~9.0kW)で先行達成しました。これらの高い省エネ性や快適性の改善が評価され、2023年度省エネ大賞を受賞しました。これからも快適性と省エネ性を両立する高度な技術開発によりカーボンニュートラルの実現に貢献します。

③ IoT対応 三菱IHクッキングヒーター「レンジグリルIH」

「スマートスピーカー*10」連携により複雑な調理設定の手間を従来比約3分の1に軽減*11する音声操作やスマートフォンのアプリと連携した操作を実現するIoT機能を搭載した「レンジグリルIH」を開発しました。使用頻度が高い「電子レンジ」機能と「レンジグリル加熱」機能などをより簡単に操作できるようになり、家庭での調理の負荷軽減と食生活を楽しく豊かにすることに貢献します。

 

(4) ビジネス・プラットフォーム

デジタル変革を牽引する情報技術などの開発を行っています。当該分野における研究開発費は13億円であり、主な成果は以下のとおりです。

① スマート工場ソリューション「kizkia-Meter」

カメラ映像から複数のアナログメーター(複数針、不等間隔メモリ計器等)の読み取りを行う「kizkia-Meter(きづきあ-メーター)」を開発しました。読み取りミス削減による作業品質均一化や、異常時の自動通知により早期異常検出を実現し、工場における設備監視業務の省力化・効率化に貢献します。

 

(5) セミコンダクター・デバイス

様々な事業分野を支える半導体デバイスなどの開発を行っています。当該分野における研究開発費は125億円であり、主な成果は以下のとおりです。

① xEV*12用SiC*13/Siパワー半導体モジュール「J3シリーズ」

脱炭素社会の実現に貢献する自動車向け半導体のキーデバイスとして、xEV用SiC/Siパワー半導体モジュール「J3シリーズ」を開発しました。当社製T-PM*14の最新世代として、従来品比約70%の熱抵抗と40%のモジュールサイズを実現*15しました。今後xEV用インバーターへ同モジュールの採用が進むことで、小型化、電費改善を実現し、自動車の電動化の普及に貢献します。

② SBD*16内蔵SiC-MOSFET*17モジュール

大型産業機器向け「耐電圧3.3kV SBD内蔵SiC-MOSFETモジュール」を開発しました。SBD内蔵SiC-MOSFETのサージ電流*18集中のメカニズムを世界で初めて*19解明し、新構造のSBD内蔵SiC-MOSFETとモジュール構造の最適化により、当社従来技術と比べて5倍以上のサージ電流耐量*20と66%のスイッチング損失低減*21を実現しました。同モジュールを搭載したインバーターの高信頼化、小型化、高効率化を通じてカーボンニュートラルの実現に貢献します。

③ 5G Massive MIMO*22基地局用GaN*23電力増幅器モジュール

第5世代移動通信システムの通信網拡大に寄与するデバイスとして、「5G Massive MIMO基地局用GaN電力増幅器モジュール」を開発しました。高効率に有利なGaN-HEMT*24を搭載し、当社独自の回路技術を適用することで、400MHzの広い周波数帯域で43%以上の電力付加効率と低歪特性を実現しました。今後5G Massive MIMO基地局への採用により、低消費電力化、回路設計負荷軽減、製造コスト削減に貢献します。

 

(6) その他・共通(新技術・基盤技術)

社会課題解決、新たな価値の創出・提供に向け、新技術・基盤技術の研究開発を推進しています。当該分野における研究開発費は429億円であり、主な成果は以下のとおりです。

① 業界最高クラス*25の伝熱性能を実現した鉛直アルミ扁平管熱交換器

業界最高クラスの伝熱性能を持つ鉛直アルミ扁平管熱交換器を開発しました。この熱交換器は、鉛直上向きに延びるアルミ扁平管と、二重管構造の高性能冷媒分配器を採用することで、より多数の細径アルミ扁平管に冷媒を均等に行き渡らせることが可能となりました。これにより、伝熱性能が最大で約40%向上*26し、熱交換器内部の冷媒量の削減も実現しました。空調機の省エネと冷媒量の削減により、カーボンニュートラルの実現に貢献します。

② 教師データ不要で短時間で分析ができる「行動分析AI」

当社AI技術「Maisart」のひとつとして、製造現場の人の作業分析を教師データ*27不要で実現する「行動分析AI」を開発しました。作業中には同じ身体動作が繰り返し行われることに着目し、循環する身体動作の確率的生成モデルを世界で初めて*28作業分析に適用することで、作業分析にかかる時間を最大99%削減*29できることを実証しました。一人ひとりの作業を撮影した動画から、改善すべきポイントを短時間で見える化でき、製造現場の生産性向上に貢献します。

③ 欧州「REACT」プロジェクトでヒートポンプのデマンドレスポンス実証実験を実施

欧州の実証プロジェクト「REACT」において、ヒートポンプ*30をデマンドレスポンス*31で制御するシステムを開発し、アイルランドのアラン諸島でエネルギー自立化への効果を検証する実証実験を実施しました。本プロジェクトは、再生可能エネルギーの最大限の活用と電力需給のバランスの実現により、省エネ10%向上、温室効果ガス60%削減、再生可能エネルギー利用率50%向上を目指したものです。このプロジェクトで得られた成果を活用していくことで、カーボンニュートラルの実現に貢献します。

④ 3Dモデルを活用した加工プログラムの自動作成技術

製品の3Dモデルの形状・穴径などの情報を基に、工具交換まで自動で行う加工プログラムの自動作成技術を開発しました。この技術を人工衛星の構体パネル製造に適用することで、機械加工の準備時間を40%削減しました。今後更なる製品適用を推進し、生産性向上に貢献します。

⑤ 大型製品向け3Dスマート計測技術の確立

人工衛星・昇降機など大型製品の寸法・位置計測を自動化する技術を開発しました。レーザー測定器の位置・方向と、製品を搭載した回転台の角度を制御しながら、製品に取り付けた計測用ターゲットの位置を自動で計測することで、熟練者に依存していた高難度作業を自動化し、省力化と生産性向上に貢献します。

⑥ 圧縮機用外殻容器向け突き合わせ溶接の高速化

業務用空調機向け圧縮機に対し、溶接品質と溶接速度の向上を両立するプラズマ溶接方式を開発しました。溶接トーチ*32の本数を先行トーチと追従トーチの2本に増やすことで強度低下の原因になるアンダーカット*33を抑制しつつ溶接速度の倍速化に成功しました。今後更なる製品適用を推進し、生産性向上に貢献します。

 

*1 Smart Lander for Investigating Moonの略:小型月着陸実証機

*2 2024年1月20日現在(当社調べ)

*3 Advanced Driver Assistance Systemの略:先進運転支援システム

*4 Mitsubishi Electric's AI creates the State-of-the-ART in technologyの略:全ての機器をより賢くすることを目指した当社のAI技術ブランド

*5 2023年3月30日現在(当社調べ)

*6 安全を確保しつつ自動走行し、自動運行が困難な状況(故障、天候の急変など)が生じた場合には、安全に停止すること

*7 経済産業省と国土交通省が共同で進めてきた「自動運転レベル4等先進モビリティサービス研究開発・社会実装プロジェクト」、2022年度に限定エリア・車両での遠隔監視のみ(レベル4)で自動運転サービスの実現に向けた取組みで、国立研究開発法人産業技術総合研究所、ヤマハ発動機株式会社、株式会社ソリトンシステムズ、当社が参加

*8 消費電力量削減:暖房時約 7.6%、冷房時約 8.1%。Zシリーズ冷房能力 4.0kW クラス

*9 最大連続暖房運転時間。MSZ-ZW4023S:90 分、MSZ-ZW4024S:600 分の比較。Zシリーズ冷房能力4.0kW クラス

*10 Amazon Alexa 対応端末を使用。Amazon、Alexa及び関連するすべてのロゴは Amazon.com, Inc. またはその関連会社の商標

*11 右 IH 火力 6、切タイマー15 分を設定する場合

*12 電気自動車、ハイブリッド車、プラグインハイブリッド車や燃料電池車などの電動車全般

*13 炭化ケイ素

*14 Transfer molded Power Moduleの略:トランスファーモールド型パワー半導体モジュール

*15 トランスファーモールド型パワー半導体モジュールの2in1タイプである「CT300DJH120」との比較

*16 Schottky Barrier Diodeの略:半導体と金属の接合部に生じるショットキー障壁を利用したダイオード

*17 Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistorの略:金属酸化膜半導体製の電界効果トランジスタ

*18 回路からパワーモジュールに対し、定格電流を超える電流が瞬間的に流れる突発的な動作

*19 2023年6月1日現在(当社調べ)

*20 サージ電流が発生した場合にパワーモジュールが耐えられる限界電流

*21 FMF750DC-66A(3.3kV/750A)比

*22 Multiple Input Multiple Outputの略:複数のアンテナを用いて通信を行う技術

*23 窒化ガリウム

*24 High Electron Mobility Transistorの略:高電子移動度トランジスタ

*25 2023年11月1日現在、冷房と暖房を行う定置の空調機において(当社調べ)。

*26 従来の水平アルミ扁平管熱交換器との比較

*27 AIの機械学習に用いる、例題と正解がセットになったデータ

*28 2024年1月25日現在(当社調べ)

*29 お客様との実証実験における結果。人手による作業分析、また一般的な作業分析AIにおける教師データ作成にかかる時間との比較

*30 外気と屋内の間で熱を移動させることで、高いエネルギー効率で暖房や冷房をしたり、水を温めたりする機器

*31 電力供給量の変動に応じて、節電や需要機器側の電力消費の調整により電力需要をコントロールし、電力の需給バランスを調整する仕組み

*32 金属材料などの加熱、溶接及び切断を行うときに用いる先端器具

*33 溶接中に溶融凝固した金属の側面が母材表面に対して凹む現象