第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項については、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであり、その達成を保証するものではありません。

 

(1)当社グループの企業理念

当社グループは、創立者である渋沢栄一が座右の銘の一つとしていた『順理則裕』を企業理念としています。『順理則裕』とは、「なすべきことをする、なすべからざることはしない。順理を貫くことで、世の中をゆたかにし、自らも成長する。」という会社の創業精神です。いわゆるCSV(Creating Shared Value:社会課題の解決に貢献するとともに、経済的価値の向上を図り、企業価値を高める)の考え方を、当社グループは創業当時から140年以上にわたり受け継いできました。

2019年、当社グループは、あらためて渋沢栄一の創業精神に立ち戻り、時代の変化に対応しながら、社会への貢献を通じて成長軌道を描き続ける会社となるために、企業理念体系「TOYOBO PVVs」として再整理しました。

 

■企業理念体系「TOYOBO PVVs」

 

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(2)サステナブル・ビジョン2030(2022年5月発表)

当社グループは、企業理念体系「TOYOBO PVVs」に基づいて、長期ビジョン「サステナブル・ビジョン2030」を策定しています。今後の事業環境の変化や社会トレンドを想定し、「人」と「地球」に関する5つの社会課題とサステナビリティ目標およびアクションプランを設定しています。当社のコア技術をベースにしたイノベーションにより5つの社会課題解決へ貢献していくことで、「安心してくらせる「ゆたか」な社会の実現と企業価値向上のスパイラルアップ」という当社グループのありたい姿を実現していきます。

 

■サステナブル・ビジョン2030の全体像

 

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(3)マテリアリティ

当社グループは、ステークホルダーの要請・期待に応え、めざす姿「人と地球に求められるソリューションを創造し続けるグループ」を実現するため、マテリアリティ(サステナブルな会社であるための重要課題)を特定しています。ステークホルダーにとっての影響度と当社グループにとっての影響度の2軸から、優先度の高い目標を明確にし、「事業を通じて社会課題解決に貢献する」「人的資本」「環境・ものづくり」「事業基盤」の4つの領域に整理しました。

 

■マテリアリティマップ

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(4)2025中期経営計画(2022~2025年度)(2022年5月発表)

① 基本方針

「2025中期経営計画(2022~2025年度)(以下、「2025中計」といいます。)」は、2025年を「サステナブル・ビジョン2030」で掲げる目標達成に向けた通過点として、当該期間を「つくりかえる・仕込む4年」と位置づけています。「安全・防災、品質の徹底」「事業ポートフォリオの組替え」「未来への仕込み」「土台の再構築」の4つの施策の取組みを通じて、「サステナブル・グロース」への変革を図ります。

 

■基本方針と4つの施策

 

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② 2025中計前半(2022~2023年度)の振り返り

イ)経営環境

2025中計の策定にあたり、当社グループを取り巻く経営環境を、以下のように想定いたしました。

・ステークホルダー資本主義により企業のあり方が変わる

・脱炭素、循環型経済、EV(電気自動車)化の進展

・技術進歩・実装の加速(DX(デジタル・トランスフォーメーション)、ライフサイエンスなど)

・国内市場漸減、資源価格の高止まり、調達リスクの高まり

・人々の意識・価値観・行動の変容

 

しかしながら、ロシア・ウクライナ戦争の長期化や中東情勢緊迫化による地政学リスクの高まり、原燃料価格の高止まり、円安の進行、中国経済の減速など、経営環境は、当初の想定を大きく上回るスピードと大きさで変化しています。

 

ロ)2025中計前半の業績

このような変化の激しい経営環境の中で、当社グループの事業においては、原燃料価格高騰による交易条件の悪化、サプライチェーンにおける在庫調整の長期化による数量減に加えて、事業拡大や基盤整備のための固定費の増加もあり、当社グループの稼ぐ力が大きく低下しました。一方で、成長事業への大型投資の先行もあり、有利子負債が増加しました。

 

■稼ぐ力の低下

 

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ハ)4つの施策の進捗

i)施策1:安全・防災、品質の徹底

安全・防災については、「ゼロ災」をめざして、階層別安全ワークショップ、安全意識調査結果の活用などによる安全文化の醸成、および現場総点検、防災総点検、老朽設備更新を含む安全・防災投資、安全・防災研修の充実などによる安全基盤の整備を内容とする「安全防災ロードマップ」に沿った取組みを継続しています。2023年度は、労災件数は前年度比で改善には至りませんでしたが、前年度に引き続き重大インシデント・ゼロを達成しました。また、労働環境のリスク低減のため、労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)の適合証明取得を進めています。2024年3月末時点で、敦賀事業所、岩国事業所、宇都宮工場の3拠点で取得し、引き続き、他の事業所・工場での取得を進めていく予定です。

品質については、「品質保証体制再構築ロードマップ」に沿って、PL/QAアセスメントの徹底、品質データのオンライン化、品質の中核人材育成(Qaceセミナー)(※)を含む製品安全・品質保証教育の充実化や品質不正に関する研修などのコンプライアンス教育の強化、品質保証マニュアルの多言語化(海外拠点への共有)などを進めています。組織風土改革と品質文化づくり、安全・安心を最優先にしたモノづくりを推進することで、ゆるぎない信頼の獲得をめざしています。

(※) Qace:Qa_assurance Qc_control Qe_ensuranceの頭文字をとったもの

 

ii)施策2:事業ポートフォリオの組替え

「収益性」と「成長性」の2軸で各事業を「重点拡大事業」「安定収益事業」「要改善事業」「新規育成事業」に層別し、それぞれの位置づけに応じた事業運営を行います。「収益性」は営業利益を使用資本で除した使用資本利益率(ROCE)、「成長性」は年平均売上高成長率(CAGR)を指標としています。「収益性」は資本コストをベースにハードルレート6.5%、「成長性」は業界の年平均売上高成長率を参考にハードルレート4.5%を目安として設定しています。なお、当社グループ全体の資本効率性指標はROICとしていますが、各事業の層別においてはROCEを用いています。

フィルム事業およびライフサイエンス事業は、当社グループに優位性があり、市場の拡大が見込めるものとして「重点拡大事業」に位置づけ、中長期の成長拡大をめざして積極的な投資をしています。また、環境・機能材事業は、安定収益事業に位置づけられていましたが、今後の事業環境を踏まえ、各商材のもつ成長機会および潜在力を再評価し、第三の柱とすべく、三菱商事株式会社との合弁会社である東洋紡エムシー株式会社により、成長拡大を図ります。

「要改善事業」については、当初、衣料繊維事業、エアバッグ用基布事業、医薬品製造受託事業の3事業が位置づけられ、正常化に向けた対策を講じ、グループ全体の資産効率の向上に取り組んできました。しかしながら、事業環境変化により収益性が低下している包装用フィルム事業と不織布マテリアル事業のそれぞれの位置づけを要改善事業に変更しました。

 

■事業ポートフォリオ(位置づけの変化)

 

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iii)施策3:未来への仕込み

4つのコア技術「高分子技術」「バイオ・メディカル技術」「環境技術」「分析・シミュレーション技術」を融合させ、リニューアブルポリマー100%を目標とする「新循環プラスチックソリューション」、水・空気などの環境浄化やCOの回収・利用に貢献する「環境アクティブクリーンソリューション」、人々が健康に寿命を全うできる社会をめざす「Well-Beingソリューション」の3つの領域でイノベーションを創出していきます。

また、気候変動対応として、カーボンニュートラルに向けて策定した「GHG排出量削減ロードマップ」に沿って、Scope1,2の2050年ネットゼロ達成に向けて取り組むと同時に、バリューチェーン全体のGHG排出量の削減を進めます。加えて、浸透圧発電や風力発電に使われる材料、良質な水域・大気の維持に貢献する海水淡水化膜やVOC(揮発性有機化合物)回収装置などの拡販を通じて、事業の成長をめざします。

さらに、DXの実現に向けて、IT環境を整備し、ビジネス・イノベーションを加速・推進するための基盤づくりを進めています。当社はこの取り組みについて、経済産業省の認定基準を満たしていることが評価され、2024年2月に「DX認定事業者」の認定を取得しました。

 

iv)施策4:土台の再構築

当社グループが持続的に成長していくために必要な基盤の再構築として、「人的資本」「人権の尊重」「モノづくり現場力」「事業基盤の整備」「ガバナンス・コンプライアンス」「組織風土改革」を進めます。

「人的資本」では、「人」こそが最も重要な経営資本と位置づける「人材マネジメント方針」のもと各種施策を実行しています。具体的には、次世代経営人材の育成、ダイバーシティの推進、モノづくりを支える現場リーダーの育成、健康経営の推進などの取組みを進めていくことで、従業員の幸せと当社グループの持続的成長、そして、従業員エンゲージメントの向上につながると考えています。

「人権の尊重」については、2020年10月に制定(2024年2月更新)した「東洋紡グループ人権方針」、2024年2月に制定した「東洋紡グループダイバーシティ推進方針」にのっとり、外国人技能実習生の就業状況を把握し、特に海外グループ会社において児童労働や強制労働がないことの確認を進めています。また、役員・従業員向けに「ビジネスと人権」に関する研修機会を提供し啓発に努めています。

「モノづくり現場力」においては、技術者教育体系の整備や階層別教育の強化を行い、デジタル技術の活用(スマートファクトリーなど)、全社の知恵を結集するための現場交流や3Sの取組みなどにより、生産革新活動の全社展開を進めていきます。

「事業基盤の整備」においては、全社・事業所拠点構想の検討、老朽化したインフラのリニューアル投資やレガシーシステムの更新などに取り組んでいきます。

「ガバナンス・コンプライアンス」においては、グループガバナンスの強化として、リスクマネジメント体制の整備を行っています。具体的には、グループ管理総括部は、リスク内在部門(事業)、リスク主管部門(スタッフ)と連携しながら、リスクアセスメント(重大リスクの抽出、モニタリング)、リスク最小化のための資源配置を行い、グループ会社へも展開しています。コンプライアンスについては、研修や勉強会を充実させ徹底を図るとともに、内部通報窓口のアクセシビリティ向上により違反の早期発見と是正に努めています。また、内部監査部は、監査計画および報告を取締役会に行い、内部監査機能の実効性を確保しています。

「組織風土改革」においては、カエル推進部による企業理念体系「TOYOBO PVVs」の浸透活動を軸に、組織の垣根を越えて、気づきを改善・改革につなげる働きかけや「カエ続ける」ことを文化として定着させるための取組みを行っています。また、「まじめな雑談」による対話の促進を通じて心理的安全性の向上に努めています。

 

③ 2025中計後半の課題(2025年度以降を見据えたアクション)

2025中計の後半2年間において、企業価値の向上のためのアクションとして、「稼ぐ力を取り戻す」「使用資本の圧縮(投資の絞り込み他)」「次の成長ステージへ(新の創出)」に取り組みます。

イ)稼ぐ力を取り戻す

i)価値に見合ったプライシングの徹底

製品価格の設定については、コストベースから価値ベースでの実施を徹底していきます。加えて、経営によるプライシングの実行フォローも進めていきます。

ii)要改善事業対策

事業ポートフォリオの組替えにおいて、要改善事業には、当初の衣料繊維事業、医薬品製造受託事業、エアバッグ用基布事業に、包装用フィルム事業、不織布マテリアル事業が加わりました。全ての事業において、2025年度までに、事業の正常化・黒字化をめざします。

a.包装用フィルム事業は、製品価格改定の徹底や生産体制の見直しに加え、当社に強みがある環境配慮製品へのシフト加速や、海外展開の強化を進めます。

b.不織布マテリアル事業は、国内生産体制の見直しと外部生産委託の拡大、開発品の強化を進めます。

c.衣料繊維事業は、東洋紡せんい株式会社(2022年4月発足)によるグループ会社の統合・再編、富山事業所の3拠点の集約が、2024年3月に完了しました。さらに、不採算商材からの撤退などの事業構造改革に加え、製品価格の改定を進め、2023年度黒字化を達成しました。引き続き、資産効率改善の追求を進めていきます。

d.医薬品製造受託事業は、2023年7月にFDAからのWarning Letterが解除されたことを受け、事業の正常化に向けた取組みを進めます。

e.エアバッグ用基布事業は、2023年度よりタイのエアバッグ用原糸の新工場の商業生産が始まるなど事業正常化に向けた取組みを進めています。

iii)経費の絞り込み、コストダウン

全社プロジェクトによって、当社グループ全体の業務改革を推進していきます。事業所・工場の競争力強化(共通部門費見直し、事業再配置)、間接材費のコストダウン、業務効率・生産性向上(業務品質を上げつつコストを下げる)を実行していきます。

iv)成長投資の確実な回収

フィルム、ライフサイエンス、環境・機能材など成長分野に、積極的に設備投資を実施してきました。これら投資案件を計画通りに立ち上げ、確実に収益拡大につなげ、投資回収できるよう進めていきます。主な成長投資は以下のとおりです。

 

■主な成長投資

 

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ロ)使用資本の圧縮

2025年度以降の持続的な成長を見据えて、使用資本の適正化のために、「投資の絞り込み」「ポートフォリオ改革(要改善事業の正常化、ハードルレートROCE6.5%に基づく層別と対策実行)」「非事業用資産の売却」の対策を講じていきます。

このうち、「投資の絞り込み」において、2025中計策定時は、2022~2025年度の4年間累計2,400億円の設備投資を計画していましたが、今般、投資案件を見直すことで、総額600億円を圧縮し、4年間累計1,800億円とします。成長投資は、事業ポートフォリオの位置づけが変わった包装用フィルム事業関連の投資案件を中心に見送ることにより1,150億円から780億円に、つくりかえる投資は、優先順位の精査により920億円から840億円に、安全・防災・環境投資は、安全・防災、品質に関する投資は優先順位を下げることなく着実に実行しながら330億円から180億円に絞り込み、資本効率を重視した経営を進めていきます。

 

■設備投資の見直し

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ハ)次の成長ステージへ(新の創出)

i)成長戦略

a.フィルム

「人」中心のデジタル社会実現へ貢献する製品として、液晶偏光子保護フィルム、セラミックコンデンサ用離型フィルムを中心に拡販していきます。

・液晶偏光子保護フィルムは、液晶テレビに使われています。当社独自の技術を駆使した超複屈折ポリエステルフィルムです。現在約60%の面積シェア(当社推定)をさらに高めていく予定です。今後、フィルムの薄肉化に加え、既存生産ライン改造により更なる増産体制を確立していきます。

・セラミックコンデンサ用離型フィルムは、セラミックコンデンサの製造工程に使われています。平滑性に優れることが当社の強みです。市場の成長に応じて、2024年度には、ハイエンドのセラミックコンデンサ用離型フィルムを、原反からコーティングまで1工程で製造する、当社独自の設備を新設・稼働予定です。

更に、新規高機能フィルムの開発として、PENフィルムの風力発電(絶縁)用途や燃料電池セル用シール材用途への展開などを推進していきます。

 

b.ライフサイエンス

バイオ事業は、高機能たんぱく質を作る技術を強みに、生化学診断薬用原料酵素、遺伝子検査用原料酵素、研究用試薬、診断薬、診断システムまで幅広く展開しています。拡大計画は以下の通りです。

・生化学診断薬用原料酵素は、現在、海外売上高比率が約70%とグローバルに展開しています。2024年度の新設備稼働(生産能力約1.5倍)により、更なる海外展開の拡大を進めます。

・遺伝子検査用原料酵素は、2024年度の新設備稼働(生産能力約3倍)により、感染症ソリューションビジネスの拡大をめざします。

メディカル事業は、製膜技術に強みがあり、その強みを生かして、慢性血液浄化膜に加えて、急性血液浄化膜の市場などに拡大していきます。拡大計画は以下の通りです。

・人工腎臓用中空糸膜は、海外展開を見据えた、中空糸膜製造からダイアライザへの加工・製品化までの一貫生産工場(ニプロ株式会社と共同)が2024年度から稼働します。

・急性血液浄化膜やプロセス膜への用途拡大として、CART膜(腹水濾過濃縮)、ウイルス除去膜、培地濾過膜の展開を進めていきます。

・バイオマテリアルの拡大として、合成系コーティング材料(抗血栓)などの展開を進めていきます。

c.環境・機能材

当社は、三菱商事株式会社と機能素材の企画、開発、製造および販売を行う合弁会社として東洋紡エムシー株式会社を当社51%、三菱商事㈱49%の出資比率で設立し、2023年4月に事業を開始しました。東洋紡エムシー㈱は、当社の技術力と、三菱商事㈱の総合力を融合し、グローバル市場でさらなる成長をめざします。特に、自動車の軽量化に資するエンジニアリングプラスチック、5G・6G通信の普及に貢献する接着剤・塗料原料などの「モビリティ・電子材料」分野、海水淡水化膜、VOC回収装置、浮体式洋上風力発電の係留ロープに使用可能な超高強力繊維などの「環境ソリューション」分野での成長をめざします。拡大計画は以下の通りです。

・「モビリティ・電子材料」分野においては、エンジニアリングプラスチックは、EV化対応、および三菱商事㈱の海外ネットワークを活用した外資系OEM(完成車メーカー)への展開、低圧成形用ポリエステル樹脂は、プリント基板、および電子部品保護用途での拡大、ポリオレフィン用接着付与材は、低誘電率性能を強みに、5G・6Gでの高速・大容量通信用途への拡大を進めます。加えて、溶剤フリー、常温流通可能な高耐熱接着素材”Vitrimer”(※)の実用化として、電子材料接着シートとしての展開をめざします。

(※)“Vitrimer”はFONDS ESPCI PARISの登録商標です。

・「環境ソリューション」分野においては、EV化に伴うリチウムイオンバッテリーセパレータ工場向けのVOC回収装置・エレメントの拡大、アクア膜は、海水淡水化用RO(逆浸透)膜に加え、省電力海水淡水化や浸透圧発電に使用されるFO(正浸透)膜、排水処理、製塩、有価物回収などに使用されるBC(ブラインコンセントレーション)膜の拡大、超高強力ポリエチレン繊維は、洋上風力発電(浮体式)用係留策への展開を進めます。

 

また、東洋紡エムシー㈱は、2024年4月、OEMへ直接アプローチして共同開発を進める新組織「モビリティ事業推進ユニット」を立ち上げました。モビリティ業界では、急速な技術革新が起こり、異業種の新興メーカーも台頭するなど、その事業環境は劇的に変化しています。新組織ではOEMの先行開発段階からそのニーズをつかみ、一体となって開発に取り組むことで、より付加価値の高い製品をグローバル市場へ投入していきます。

 

ii)イノベーションの創出

2025中計の施策の1つ「未来への仕込み」において、4つのコア技術「高分子技術」「バイオ・メディカル技術」「環境技術」「分析・シミュレーション技術」を融合させ、リニューアブルポリマー100%を目標とする「新循環プラスチックソリューション」、水・空気などの環境浄化やCOの回収・利用に貢献する「環境アクティブクリーンソリューション」、人々が健康に寿命を全うできる社会をめざす「Well-Beingソリューション」の3つの領域におけるイノベーション創出に挑戦しています。

イノベーションの創出を加速させるために、コーポレート研究と事業部開発の連携、R&Dのオープンイノベーション(例:米国バイオベンチャーへの出資、国立大学法人神戸大学との包括連携協定)、マーケティングイノベーション(例:東洋紡エムシー㈱モビリティ事業推進ユニット)を推進し、新の創出をめざします。また、年間研究開発投資額(知的財産関係費用を含む)は、売上高比率3.6~3.8%を目安としています。

3つの領域における主な「新の創出」テーマは以下のとおりです。

 

■3領域での新の創出

 

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④ 財務目標

2025中計において、「売上高」「営業利益」「営業利益率」「EBITDA」「当期純利益」「自己資本利益率(ROE)」「投下資本利益率(ROIC)」「D/Eレシオ」「Net Debt/EBITDA倍率」を重要財務指標としています。持続的な成長に向けて、積極的な投資マインドを社内に形成するため、営業利益に減価償却費を加えた「EBITDA」を指標に加えるとともに、資本効率を重視した経営を推進する目的で、投下資本利益率(ROIC)を指標に加え、成長性と効率性の両側面から経営資源の最適な配分に努めます。

また、社債の発行体格付の維持向上等を通じて資金調達の安定性を確保する観点から、有利子負債と自己資本の比率(D/Eレシオ)を重視しています。2018~2021年度の中期経営計画では、D/Eレシオ1.0倍未満を目標とし、その目標を達成しました。2025中計では、将来の成長に向けた先行投資を、時機を逸することなく実施していくため、D/Eレシオの目標を1.2倍未満とし、キャッシュ・フローの創出力と有利子負債とのバランスを失することなくコントロールするため、Net Debt/EBITDA倍率の指標を加え、4倍台を目安にコントロールし、財務状態を安定的に管理していく方針です。

しかしながら、経営環境が当初想定から大きく変化し、営業キャッシュ・フローの減少に加え、フィルムやライフサイエンスなどの成長事業への大型投資による投資キャッシュ・フローの増加や、事業ポートフォリオ組替えの遅れによる使用資本の増加によって有利子負債が増加し、2024年3月末において、D/Eレシオは1.26倍、Net Debt/EBITDA倍率は7.5倍となり、財務状態が悪化しました。これらを踏まえ、2025年度の財務指標見通しを以下の通りとし、あわせて、上記「使用資本の圧縮(投資の絞り込み他)」の通り、総額600億円の設備投資額圧縮を踏まえ、キャッシュフロー・アロケーションを見直しました。

2025中計後半のアクション(「稼ぐ力を取り戻す」「使用資本の圧縮(投資の絞り込み等)」「次の成長ステージへ(新の創出)」)を確実に実行し、企業価値の向上に努めます。

 

■財務指標(2025年度見通し)

 

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■キャッシュフロー・アロケーション(2022年度~2025年度)

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⑤ 資本コストと株価を意識した経営

当社グループでは、資本コストを意識した経営を推進しており、2025中計の重要財務指標にROE、ROIC等を採用しています。現状、PBRが1.0倍を下回る状態にあることを重く受け止め、ROE、ROICをいかに高めるかが重要課題と認識しています。2025中計の施策の1つである「事業ポートフォリオの組替え」を推進することにより、グループ全体の資産効率、収益性の改善を通じてROEを向上させるとともに、「未来への仕込み」において、成長の具体策と成果を示し成長期待を高めていくことに加えて、「安全・防災、品質の徹底」や「土台の再構築」によりリスクの低減を進めていくことで、PBRの向上を図ってまいります。

 

■資本コストと株価を意識した経営|各施策によるROE、PBRの改善

 

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⑥ 2024年度経営方針

2025中計後半の課題を受け、2024年度の経営方針を「未来をつくるために稼ぐ力を取り戻す」とし、以下の5つのアクションを進めてまいります。

・安全・防災、品質、コンプライアンスの徹底(大前提)

・価値に見合ったプライシングの徹底

・要改善事業(低収益・赤字セグメント)対策

・成長投資の確実な回収と新の創出

・投資、経費の絞り込み、コストダウン

 

⑦ 株主還元方針

「第4提出会社の状況 3配当政策」に記載のとおりです。

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

 文中の将来に関する事項は、当社グループが当連結会計年度末現在において合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の結果とはさまざまな要因により大きく異なる可能性があります。

 

(1)サステナビリティ戦略

当社グループは、創立者である渋沢栄一が座右の銘の一つとしていた『順理則裕』を企業理念としています。2019年、改めて創業の精神に立ち戻り、時代の変化に対応しながら、社会への貢献を通じて、成長軌道を描き続ける会社となるべく、企業理念体系「TOYOBO PVVs」として再整理しました。さらにこの企業理念体系を具体的にするべく、2022年5月に長期ビジョン「サステナブル・ビジョン2030」を策定・公表しました。

「サステナブル・ビジョン2030」は、今後の事業環境の変化を想定し、企業理念体系のビジョン「素材+サイエンスで人と地球に求められるソリューションを創造し続ける」を基軸として、当社グループの「2030年のありたい姿」と「サステナビリティ指標」およびその「アクションプラン」を示すものです。当長期ビジョンでは「サステナブル・グロースの実現」、すなわち「社会のサステナビリティに貢献するサステナブルな(成長を実現する)会社」をめざします。

 

① ガバナンス

当社グループは、社長執行役員を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、統括執行役員会議メンバー(事業本部長、コーポレート・スタッフ部門の管掌役員)が出席し、全社的なサステナビリティ活動を推進しています。同委員会は、当事業年度から年6回開催し、当社グループのマテリアリティ(重要課題)として設定した項目に関し、リスクと機会を踏まえてKPIを設定し、その進捗状況と施策の有効性を報告・確認しています。また、2024年度以降は社会動向の変化に伴うリスクと機会の検証状況についても報告する予定です。

同委員会での議論は取締役会に適宜報告します。

 

② 戦略

「サステナブル・ビジョン2030」では、サステナビリティ経営に向けたアプローチを「“Innovation”と3つの“P”、すなわち“People” “Planet” “Prosperity”」と整理しました。この“Innovation”は、1. 「人」と「地球」を最終的な「お客さま」と捉えたマーケティング思考、2.「素材+サイエンス」に基づき、独自の工夫やアイディアによるサイエンスベースド・イノベーション、3.多様なパートナーとのオープンイノベ―ション等を通じた価値共創、を意味します。

また、“People”は、「人」を中心とした社会課題の解決策を、“Planet”は「地球」全体を意識した社会課題の解決策を、そして当社グループが考える“Prosperity”とは、企業理念にのっとり、課題解決を通じて「ゆたか」な社会を実現し、同時に当社グループの企業価値も向上させることを意味します。その実現に向けて、当社グループが事業等を通じて解決に貢献する5つの社会課題――「People」に関する「従業員のウェルビーイングとサプライチェーンの人権」「健康な生活&ヘルスケア」「スマートコミュニティ&快適な空間」、「Planet」に関する「脱炭素社会&循環型社会」「良質な水域・大気・土地&生物多様性」――を設定し、これらの解決にチャレンジします。

 

③ リスク管理

当社グループでは、サステナビリティ委員会において、社会動向の変化を踏まえ、マテリアリティ各項目のリスクと機会について変動の有無を検証し、活動に反映しています。

当社グループは、社長執行役員を委員長とするリスクマネジメント委員会を設置し、統括執行役員会議メンバー(事業本部長、コーポレート・スタッフ部門の管掌役員)が出席し、全社的なリスクマネジメント活動を推進しています。本委員会は、当事業年度において2回開催しました。本委員会では、グループ全体のリスク管理方針を策定するとともに、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括し、実効的かつ持続的な組織・仕組みの構築と運用を目指すことにより、リスク管理体制の強化に努めています。当社グループに重大な影響を与えるリスクを中心に、当該リスクの主たる担当部門を選定し、その回避・低減策を策定しています。各部門が中心となって対応し、本委員会でその活動状況を確認しています。

なお、リスクマネジメント活動の起点として、全社的なリスクに関するアセスメントを実施、各種リスクシナリオをベースとして影響度(※)と発生可能性(※)の2軸で評価した結果に基づき、重視すべき全社重大リスクを抽出しています。なお当該リスクについては、「3 事業等のリスク」に記載のとおりです。

(※)影響度と発生可能性の詳細

影響度:「影響範囲」、「業務停止期間」、「人的被害」、「レピュテーション」、「財務」に関して「大規模の被害に相当」、「中規模の被害に相当」、「小規模の被害に相当」の3段階で評価

発生可能性:「頻繁に発生」、「度々発生」、「稀に発生」の3段階で評価

④ 指標と目標

 マテリアリティの取組みの進捗管理を確実なものとするため、マテリアリティごとに担当役員を決定し、KPI(目標)を設定しています。事業活動によるマイナスの影響を最小化しつつ、プラスの影響を最大化する取組みを整理していきます。なお、この進捗はサステナビリティ委員会で管理し、指標・目標は年1回見直ししています。

 

(2)気候変動への対応(TCFD提言への取組み)

当社グループでは、気候変動が当社グループやステークホルダーにもたらす影響の大きさを認識するとともに、「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標としています。2020年1月に、TCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure:気候関連財務情報開示タスクフォース)提言に賛同し、同提言にのっとった取組みと開示を進めています。

2022年5月、脱炭素社会・経済に向けた移行計画(「カーボンニュートラルへのロードマップ」)を含む「サステナブル・ビジョン2030」を公表しました。パリ協定が求める水準と整合させ、事業活動における温室効果ガス(GHG)排出量(以下、Scope1,2)を2030年度までに2013年度比で46%(2020年度比で27%)以上削減することを目標とし、科学的根拠に基づいた目標として、SBT(Science Based Targets)認定を取得しています。さらに、2050年度までにネットゼロにすることをめざしています。また、東洋紡グループのバリューチェーン全体のGHG排出量を上回る削減貢献量創出の実現を、2050年度の目標としています。

 

■カーボンニュートラルへのロードマップ

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① ガバナンス

気候変動関連課題の最高責任者である社長執行役員(取締役社長)を委員長とする「サステナビリティ委員会」を設置し、気候変動関連課題の解決に向けた上位方針や目標設定について審議しています。取締役会はその報告を定期的に受け、上位方針や目標などの重要事項を承認し、活動の進捗を監督しています。

2023年度は、サステナビリティ委員会を6回開催し、その結果を受け、取締役会において定期報告のほか臨時報告を行いました。この結果、取締役会で次の内容を決議し、GHG排出量削減取組みを加速しています。

・サステナビリティ委員会傘下の委員会体制を見直し、新たに「気候変動・生物多様性委員会」を設置

・経済産業省が設立した「GXリーグ」に正式参画し、GXリーグにおける自主的な排出量取引制度(GX-ETS)に向けた自主目標を承認し公表

また、GHG排出量削減の実効性を高めるために、削減状況と連動した役員報酬(インセンティブ)について検討を開始し、2025年度の報酬からの導入をめざしています。

 

■体制図

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② 戦略

(イ)概要

当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」の中で「脱炭素社会&循環型社会」の実現を重要なサステナビリティ目標の一つとしています。また、TCFD提言に沿い、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策および指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。

 

(ロ)シナリオ分析

温暖化対策の進展によってさまざまなシナリオが考えられる中、以下「シナリオ分析の概要」シナリオを典型的なものとして参照しました。

今世紀末までの世界の平均気温の上昇が1.5℃に抑えられるシナリオと、4℃まで上昇するシナリオのそれぞれについて、2050年までの事業への影響と、当社グループの新たな機会を検討しました。

なお、前事業年度まで2℃未満シナリオを参照していた部分については、世界的潮流にのっとり、当事業年度より1.5℃シナリオを参照し、検討しました。その結果、2℃未満シナリオとの差異は認められませんでした。

 

■シナリオ分析の概要

設定シナリオ

1.5℃シナリオ

4℃シナリオ

社会像

今世紀末までの平均気温の上昇を1.5℃に抑える努力を追求し、持続可能な社会の発展をかなえるため、大胆な政策や技術革新が進められる。脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。

〈事例〉

●炭素税の導入・炭素価格の上昇

●自動車の電動化シフト、再生可能エネルギーの拡大

パリ協定に即して定められた約束草案等の各国政策が実施されるも、今世紀末までの平均気温が成り行きで最大4℃まで上昇する。温度上昇等の気候の変化が、事業に影響を及ぼす可能性が高い社会になる。

〈事例〉

●大雨による洪水被害の増大

参照シナリオ

●「NZE」(IEA WEO2023)

●「APS」(IEA WEO2023)

●「SDS」(IEA WEO2021/ETP2020)

●「SSP1-1.9」(IPCC AR6)

●「RCP2.6」(IPCC AR5)

●「Global Ambition scenario」(OECD Global Plastics Outlook)

●「SSP5-8.5」(IPCC AR6)

●「RCP8.5」(IPCC AR5)

●「STEPS」(IEA WEO2023/ETP2020)

リスクと機会の傾向

移行面(規制強化などの社会変化)でのリスクおよび機会が顕在化しやすい

物理面(気象の変化など)でのリスクおよび機会が顕在化しやすい

 

(ハ)シナリオ下のリスクと機会の洗い出し

1.5℃シナリオと4℃シナリオを踏まえ、気候変動に特化した当社グループのリスク・機会の抽出を行いました。抽出されたリスク・機会の項目を集約し、社会の変化という観点でまとめ直した上で、それぞれの対策案を検討しています(下表:「シナリオ別のリスク/機会とその対策」)。「サステナブル・ビジョン2030」を踏まえ、影響度と発生可能性の2軸による評価の結果、特に重要であると認識したリスクと機会は後述の通りです。また、分析の対象とした期間は、「短期」を3年程度、「中期」を2030年まで、「長期」を2050年までとしています。

当社グループでは、原材料調達を含むサプライチェーン全体でのGHG排出量の削減を、リスク低減と機会創出の両面で捉えています。具体的には、Scope1,2の計画的な削減により、将来の炭素価格負担を軽減するとともに、お客さまからの脱炭素化要求に確実に応えられるように備えます。

また、原材料をリサイクル材やバイオマス由来素材へシフトすることにより、石油由来資源への依存度を下げ、将来の事業リスクを低減するとともに、事業機会の獲得・拡大につなげていきます。

さらに、水資源の希少化による様々な高度水処理の需要の高まりに対し、低エネルギーで淡水の造水が可能な海水淡水化用膜や、水資源のリサイクルを促進する高効率濃縮用膜の開発・販売により、事業拡大につなげていきます。

また、従来技術からの置き換えによるGHGの削減貢献製品の事業拡大を見込んでいます。当社グループの代表的製品として、活性炭素繊維(Kフィルター)を用いたVOC回収装置があります。EV関連の生産工場等で発生する揮発性有機化合物(VOC)(※)の除去を省エネルギーで行い、さらに有機溶剤の回収・再利用を可能とすることでGHGの削減と環境負荷低減の両面に寄与します。

(※)Volatile Organic Compounds

■シナリオ別のリスク/機会とその対策

社会の変化およびその影響

リスク/機会項目

当社グループの対策

区分

期間

内容

脱炭素社会への移行に伴う影響

(広範囲に及ぶ政策・法規制・技術・市場の変化等)

移行・

リスク

短期

炭素価格の導入

・GHG排出量削減計画の推進

(省エネルギー、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入他)

・インターナルカーボンプライシング制度の活用

中期~

長期

原燃料価格の上昇

(炭素価格の転嫁等)

・非石油由来資源へのシフト

・サプライヤーへの働き掛け・連携(低炭素原料開発等)

・原材料調達手段の多様化(複数購買・現地調達を拡大)

省エネルギー化推進・高効率設備導入等に伴うコスト増加

・生産プロセスの革新・超高効率化の追求

・GX経済移行債やトランジションファイナンス等の活用

・バリューチェーン全体における生産の高効率化

(関係会社との統合・連携強化、M&A等)

製品製造時の低炭素/脱炭素化要求への対応に伴うコスト増加

・再生可能エネルギーの導入・調達拡大

・生産プロセスの高効率化、省エネルギー化推進

・製品価格への転嫁

石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり

・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速

・石油由来資源に依存する汎用素材事業の見直し

移行・

機会

中期

低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加

・原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速

・微生物(酵母)を活用したバイオ事業の生産プロセス革新(バイオものづくり)

・原材料(リサイクル材やバイオマス由来素材)の調達課題(材料の逼迫)への対応

・低炭素/脱炭素型素材での製品開発・商品企画の推進

・革新的な低炭素/脱炭素型素材の開発加速

・低炭素/脱炭素型製品の生産/品質管理体制の強化

GHG排出削減貢献につながる製品の需要拡大

・削減貢献視点でのお客様を含めたサプライチェーンでの連携

・従来技術からの置き換えによる削減貢献に寄与する製品開発・商品企画(※)の加速

(※)省エネルギー型の海水淡水化膜、溶剤の燃焼処理を回避し再利用を可能にするVOC回収装置、廃液処理由来のGHG排出の低減に寄与する水現像フレキソ版、GHG多排出工程である塗装を代替する塗装代替フィルム等

再生可能エネルギー・蓄電池関連市場の拡大

・再生可能エネルギー/蓄電池関連事業(※)の製品開発・商品企画の強化

・東洋紡と三菱商事による合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」の立ち上げによるメガトレンドの先取りや海外展開、ソリューション提供力の強化

(※)浸透圧発電用膜、浮体式洋上風力用スーパー繊維・フィルム、リチウムイオン二次電池(LIB)工場用VOC回収装置、水素発生装置関連素材等

 

 

社会の変化およびその影響

リスク/機会項目

当社グループの対策

区分

期間

内容

気候変動の進行に伴う影響

(資産に対する直接的な損傷や、サプライチェーンの寸断による間接的な影響、技術・市場の変化等)

物理的・

リスク

短期~

中期

自然災害による原材料の供給停止

・在庫水準見直し、複数購買の拡大

・物流ルートの多様化

水害(洪水・高潮等)による設備損壊、操業停止

・生産設備/動力設備等の高耐久化や高台移設/かさ上げ

・生産拠点の分散・移転

・BCP訓練実施

物理的・機会

中期

土木工事の需要増加

・減災/復旧工事用製品(※)の拡充

(※)防砂シート、コンクリート剥離防止シート、軟弱路床改善素材等

水不足や干ばつによる海水淡水化の需要増加

 

淡水希少化による産業排水の無排水(ZLD)化(※)の需要増加

 

(※)Zero Liquid

Discharge

・海水淡水化用膜(RO/FO膜等)(※)の販売拡大

・RO/FO膜等の省エネルギー/高耐久性化開発

・高効率濃縮用膜(BC膜)(※)のシステム開発

・RO/FO/BC膜等の生産/品質管理体制の強化

・三菱商事の海外ネットワークを生かした「東洋紡エムシー株式会社」による販売力の強化

(※)Reverse Osmosis, Forward Osmosis,Brine Concentration

長期

気温上昇に伴う感染症対策(予防・治療)の需要増加

・食品パッケージ関連製品の需要拡大

・感染症関連製品・技術の研究開発促進

 

(ニ)特に重要であると認識したリスクと機会

<重要リスク1:水害(洪水・高潮等)による建物・設備への被害リスク>

当社グループの主力工場である、敦賀・岩国・犬山工場はいずれも河川や沿岸付近にあり、かつ低地にあることから水害リスクを有しています。気候変動が進行する場合、海面上昇や降雨パターンの変化により、水害リスクはさらに高まると想定しています。2030年代における水害による資産減少額(建物および装置等の被害額)を簿価より試算した結果、当該3工場の合計金額は最大で約600億円となりました。なお、当該3工場の水害による資産減少額は、当該3工場の建物や装置等の簿価に国土交通省が公表している水害による被害率(※)を乗じて、概算しています。

(※)国土交通省『治水経済調査マニュアル(案)』(令和2年4月)

(リスクを低減するための施策)

当社グループは、工場における水害リスクを気候関連の重要リスクと捉え、生産設備や動力設備等の高台移設/かさ上げ等の水害対策の強化を順次実施しています。

(シナリオ分析に使用した主なパラメータ)

・東アジアにおける海面上昇幅 (「RCP8.5」,IPCC AR5)

 

<重要リスク2:炭素価格の導入>

2030年度のScope1,2は、2020年度(実績90万トン-CO)を基準とした成り行き(BAU)(※)シナリオにおいて、売上拡大に伴い約130万トン-COに増加します。BAUシナリオにおいて2030年度の炭素価格単価を1.5万円/トン-COと想定した場合の年間コストは約200億円となります。

(※)Business As Usualの略。ここでは特段のGHG排出削減対策を行わなかった場合を指します。

(リスクを低減するための施策とその費用)

当社グループは、Scope1,2の増加を気候関連の重要リスクと捉え、2030年度までの脱炭素社会・経済に向けた移行計画(「カーボンニュートラルへのロードマップ」)を含む「サステナブル・ビジョン2030」を2022年度に公表しました。このロードマップでは、エネルギー削減・省エネルギー化(生産効率向上含む)、燃料転換等、再生可能エネルギー導入を含むエネルギーの最適化等により2030年度のScope1,2を65.5万トン-CO以下に低減することを目標としています。この場合の炭素価格による年間コストは、約100億円となり、BAUシナリオと比較し、約100億円のコスト削減効果があります。

 

このカーボンニュートラルへのロードマップに沿った2025年までの環境関連の累積投資額は、「2025中計」の安全・防災・環境投資額に含まれる計画です。なお、「1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)2025中期経営計画 ③2025中計後半の課題(2025年度以降を見据えたアクション)」に記載のとおり、資本効率を重視した経営を進めるべく同投資額を330億円から180億円に絞り込み、優先順位を付けて進めていきます。

(シナリオ分析に使用した主なパラメータ)

・炭素価格(Net Zero Emissions by 2050 Scenario, IEA WEO 2023)

 

<重要リスク3:石油由来資源の削減や代替化する要請の高まり>および

<重要機会1:低炭素/脱炭素型素材や製品の需要増加>

当社グループの主力事業であるフィルム事業はグループ全体の売上高の4割以上を占めます。また、現状のフィルム事業の売上高のうち、約90%が石油由来資源に依存したものです。今後の脱炭素に向けた社会変化(移行)の中で、お客さまを含む社会から石油由来資源の使用量削減や代替化の要請が高まることが予想され、気候関連の重要リスクとして認識しています。また、同時に低炭素/脱炭素型素材や製品の需要は増加し、事業機会が存在すると認識しています。

(リスクを低減する/機会を実現するための施策とその費用)

当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」において、石油由来資源の使用量低減につながる技術や取組み(※)をグリーン化と定義し、2030年度にフィルム製品の60%でグリーン化を実現することを目標に設定し、2023年度においてその比率は13%となりました。石油由来資源の使用量を減らすフィルム製品は、低炭素/脱炭素型製品でもあり、フィルム製品のグリーン化を推進することで、リスクの低減と共に、事業機会の獲得・拡大を図ります。フィルム事業の2030年度の目標売上高である約2,200億円のうち、約1,300億円が、当機会の獲得・拡大によるものです。

このフィルム製品のグリーン化を実現するための当期の費用は、グリーン化フィルムに関する研究開発投資額であり、フィルムセグメントの研究開発費である41億円に含まれます。

(※)バイオマス原料を用いたフィルムの開発、薄型軽量素材のフィルム開発(高強度化)、使用後のフィルムのリサイクルを容易にするための環境配慮設計(モノマテリアル化)、リサイクル原料を使用したフィルム開発およびリサイクル化自体の技術開発

 

<重要機会2:水資源の希少化による様々な高度水処理の需要の高まり>

気候変動の進行により、全世界で水不足や干ばつの発生リスクが高まると認識しています。今後、多くの地域で工業用水だけでなく生活用水の確保にも課題が生じ、淡水や淡水のリサイクル需要がますます高まると予測しています。

当社グループは、1970年代に紡糸技術を活用して開発されたRO膜により海水淡水化事業に乗り出しました。RO膜はその素材特性により、塩素殺菌に優れた耐久性があります。特に閉鎖性海域などの微生物が増殖しやすい海水での海水淡水化に強みがあり、中東湾岸諸国での安定的な淡水の供給に貢献しています。

また、この技術を応用して、高効率に溶液を濃縮するBC膜を開発・販売しています。工場排水の排水処理・リサイクルや無排水(ZLD)化、電池リサイクル工場での有価物(リチウムなど)回収などで売上拡大を見込んでいます。

(機会を実現するための施策とその費用)

当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」において、2030年度に、膜による海水淡水化で1,000万人分の水道水相当量を造水する目標を設定し、2023年度時点で、その造水量は520万人分となりました。今後も、三菱商事との合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」の立ち上げによるソリューション提供力の強化により、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。

これらの目標の実現、事業機会獲得のための当期の費用は、水処理膜に関する研究開発投資額であり、環境・機能材セグメントの研究開発費である49億円に含まれます。

 

<重要機会3:温室効果ガス排出削減貢献につながる製品の需要拡大>

当社グループでは、従来技術からの置き換えによるGHGの削減貢献に寄与する製品・設備・ソリューションを数多く有しています。

EV関連、半導体、製薬、印刷等の工場で発生する揮発性有機化合物(VOC)を省エネルギーで除去し、有機溶剤の回収・再利用を可能とする装置(VOC回収装置)もその一つです。当社グループでは、1970年代からVOCの吸着材である活性炭素繊維(Kフィルター)と、それを用いたVOC回収装置を開発・販売しています。最新型のVOC回収装置では、加熱した窒素等を用いてVOCを脱着する方式を採用し、さらに窒素の循環使用を可能にしました。この装置は、非常にコンパクトで運転エネルギーが少なく、不純物の少ない高品質の有機溶剤が回収でき、従来技術である燃焼方式と比較し、GHG削減効果が高いことが評価されています。

また、Kフィルターは、塩化メチレンなど、低沸点のVOCも回収できる優位性があります。この特徴を活かし、塩化メチレンが多く発生するEV用リチウム電池のセパレータ製造工程での採用が世界中で広がっています。

将来的には、次世代電池である全固体電池や半導体等の生産工場での用途展開を進めます。また、脱炭素社会実現の観点から、可燃性VOCの焼却方式からの置き換え需要も高まると予測しており、GHGの削減貢献に寄与するソリューションを積極的に展開していきます。

(機会を実現するための施策とその費用)

2023年度は、東洋紡と三菱商事による機能素材分野における合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」の事業を開始しました。三菱商事の持つ海外拠点やエンドユーザーとの接点を活かし、メガトレンドの先取りや海外展開、ソリューション提供力強化を行います。

当社グループは、「サステナブル・ビジョン2030」において、リチウムイオン電池セパレータ向けのVOC回収装置による、2030年度の処理風量目標を70億Nm3/年としました。2023年度時点で、その処理風量は、60億Nm3/年となり、今後も、社会課題の解決を通じた事業機会の獲得・拡大を図ります。

この目標を実現するための当期の費用は、VOC回収装置に関する研究開発投資額であり、環境・機能材セグメントの研究開発費である49億円に含まれます。

 

③ リスク管理

当社グループは、グループ全体の気候変動課題を含むリスクを一元的に管理する「リスクマネジメント委員会」を2021年度に設置しました。本委員会では、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括するほか、グループ全体のリスク管理に関する方針を策定し、PDCAサイクルを回すことにより、実効的かつ持続的な組織・仕組みの構築と運用および、リスク管理体制の強化に努めています。

(1)サステナビリティ戦略 ③リスク管理」に記載した、全社的なリスクに関するアセスメントの結果を踏まえ、気候変動により激甚化する水害(洪水・高潮等)リスクを含む自然災害リスク等を、当社グループの重要なリスクとして管理しています。

 

 

④ 指標と目標

当社グループは、気候変動に対する目標を設定し、それぞれの施策を進めています。Scope1,2とScope3に対する目標はパリ協定が求める水準としており、2022年12月にSBTイニシアチブにより科学的根拠に基づいた目標(Science Based Targets)として認定されました。売上高が前期比3.6%増加する中、2023年度のScope1,2は82万トン-CO(※)となりました(前期実績89万トン-CO、前期比約8%削減)。2023年10月に岩国事業所の自家発電所をリニューアルし、燃料を石炭からLNG等に変換したことなどによりScope1の大幅な削減につながりました。

(※)2023年度のScope1,2排出量に含まれる国内の都市ガス燃焼起源CO₂排出量については、環境省の「算定・報告・公表制度における算定方法・排出係数一覧」(令和5年12月12日更新・令和6年1月16日一部修正)を使用して算出しています。

 

カテゴリ

指標

目標

主な施策

2023年度

実績

GHG

GHG排出量

Scope1,2

2030年度:

27%削減(SBT)

(基準年度:2020年度)

※2013年度比:46%削減に相当

・エネルギー削減・省エネルギー化、生産効率向上、燃料転換、再生可能エネルギー導入等

2020年度比

9%削減

82万トン-CO₂)

2050年度:ネットゼロ

・カーボンフリー燃料導入、再生可能エネルギー調達、生産プロセス革新等

(注1)

Scope3

(カテゴリ1と11)

2030年度:

12.5%削減(SBT)

(基準年度:2020年度)

・カテゴリ1(※):

原材料のリサイクル材やバイオマス由来素材へのシフト加速

(※)購入した原材料・サービスに関連する活動(製造など)に伴う排出

・カテゴリ11(※):

VOC回収装置の省エネルギー化等

(※)販売した製品の使用に伴う排出

2020年度比

107%増加

480万トン-CO₂)

 

(注2)

気候関連の機会

フィルム製品のグリーン化比率

(移行リスクの低減も兼ねる指標として設定)

2030年度:60%以上

・マテリアル/ケミカルリサイクルの推進、バイオマス原料の開発と採用増、フィルムの減容化等

13%

膜による海水淡水化

2030年度:

1,000万人分の水道水相当量

・海水淡水化膜(RO/FO膜等)の販売拡大

・RO/FO膜等の省エネルギー化/高耐久性化開発

・RO/FO膜等の生産/品質管理体制の強化

・合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」による営業体制の強化

520万人分

リチウムイオン電池セパレータ向け

VOC回収装置の処理風量(※)

 

(※)これまでに販売し稼働している装置による処理風量

2030年度:70億Nm3/年

・お客様のGHG削減貢献視点での営業活動の強化(お客様との連携)

・合弁会社「東洋紡エムシー株式会社」による営業体制の強化

・EV用リチウム電池のセパレータ製造工程以外の分野への販売強化

60億Nm3/年

 

 

カテゴリ

主な施策、2023年度実績

環境関連投資

・計画:2022-25年度累計180億円(安全・防災・環境投資額の合計)

・施策:自家発電設備の低炭素化、再生可能エネルギー設備の導入等

・2023年度実績:岩国事業所の自家火力発電所の低炭素化、犬山工場・宇都宮工場・総合研究所の太陽光発電設備の導入

インターナルカーボンプライシング

・2022年度に制度導入し、当期も運用中

  社内炭素価格設定 10,000円/トン-CO

・CO排出量の増減を伴う設備投資、開発設備への投資判断の拡大

報酬

GHG排出量削減の状況と連動した役員報酬(インセンティブ)について2025年度の報酬からの導入をめざし検討を開始

 

(注)1.2050年度までにネットゼロにすることをめざしています。なお、2023年度の再生可能エネルギーによる発電量は896MWhです。

2.2022年度実績です。

2023年度の実績については、2024年8月頃に当社ウェブサイトの統合報告書にて公表予定です。

(https://www.toyobo.co.jp/sustainability/report/)

 

 

(3)人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針

当社グループは、「現場が主役」の考え方のもと、“人材マネジメント方針”に基づき、経営方針・事業戦略の実現に向けた人事・労務施策を展開し、企業価値の向上をめざしています。

人材マネジメントに関する実行責任者は、人事部門を統括する役員(常務執行役員)が選任されています。当社では、人事部門が主体となって、各事業所やグループ会社の人事部門責任者と定期的に情報交換・議論の場を設け、人材マネジメント関連の施策立案・実行につなげています。

① 人材マネジメント方針

企業理念体系「TOYOBO PVVs」を根本とした経営方針・事業戦略を実現するためには、「人」こそが最も重要で大切な経営資本であり、「人」=従業員が誇りとやりがいを持ち活躍する“人材マネジメント”の仕組み構築が必要不可欠です。

具体的には、「TOYOBO PVVs」を体現するという“かえない”ものを柱にしつつ、経営方針や事業戦略の変化に応じて能力や専門性を“かえ続ける”人材活躍サイクルを実現します。同時に従業員が安心して働ける環境の土台を構築していきます。

これらの実現が、従業員の幸せと当社グループの持続的成長につながると確信しています。

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② 人材の育成に関する課題と戦略

(イ)”かえない“もの をめざす人材育成

<めざす人材・育成方針>

企業理念体系である「TOYOBO PVVs」を体現できる人材として、「Values:大切にすること」で示す「変化を恐れず、変化を楽しみ、変化をつくる」ことができ、そして、「TOYOBO Spirit:挑戦・信頼・協働」を実践できる人材の育成と組織開発をしていきます。

<課題>

企業理念体系は、2019年に策定されて以降、当社グループ内に理解が浸透しつつありますが、行動として実践できる人材育成と組織開発を継続していくことが必要です。

<戦略>

「TOYOBO PVVs」を体現する人材・組織を創出し続けるために、新卒新入社員研修、キャリア入社者研修、グループ会社管理者研修、管理職昇格者研修など各種研修の機会に「TOYOBO PVVs」に関する講義と対話を通じ、引き続き浸透を図っています。また、人事考課における行動評価に「TOYOBO Spirit」を含めることで、従業員の行動の変容と定着を促進しています。

〇指標:従業員一人当たりの教育投資額(教育時間)

 

 

(ロ)“かえ続ける”もの をめざす人材育成

<めざす人材・育成方針>

経営方針や事業戦略の変化に応じて能力や専門性を高める施策を充実させていきます。

次世代経営人材として、自ら率先して「変化をつくる」人材を育成していくとともに、当社グループが地球全体で事業活動を進めていくための人材を育成していきます。

<課題>

当社グループでは、各部門・各事業所・工場独自の教育体系を持ち、技術伝承・知識習得を図っていましたが、一部は重複や不足する内容がありました。

<戦略>

■全社共通教育

当社グループにとって必要な共通知識を階層別・職種別・目的別に定め、全社の教育体系のもと、運営しています。

■技術者教育

技術者育成を担う技術総括部が中心となり、各事業所で実施されている研修体系を検証し、各部門に共通する技術を学ぶ技術者教育体系を整備し、モノづくり人材育成を進めています。

■専門技術・知識

部門で異なる専門技術・知識は、各部門で教育しています。さらには、必要な資格の取得を昇格要件と連携することで、それぞれの部門・等級に求められる能力や専門性を確保し、高めています。

■次世代経営人材育成

選抜した人材に対して、経営幹部育成のための社内外の研修を計画しています。当社グループでは、次世代経営人材の育成施策を討議する「人材会議」を運用しています。主にマネジメントポストの後継者を討議する「全社人材会議」と、主に業務専門性の高いポジションの後継者討議をする「部門人材会議」の二つの会議を連携させることで、人材の発掘と育成を実践し、より効果を高めていきます。

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■グローバル人材育成

当社では、国内従業員を対象に、海外グループ会社で行う「短期海外業務研修」を実施しています。若手、中堅の従業員にとってグローバルビジネス参画への強い動機付けとなり、キャリアアップの大きな機会ともなっています。また、海外グループ会社の現地幹部候補を対象として、日本で教育を受ける「ナショナルスタッフ研修」を実施しています。いずれも新型コロナウイルス感染症の影響で中断していましたが、短期海外業務研修は2022年度下期から、ナショナルスタッフ研修は2023年度から再開しています。

■能力開発支援

2022年7月からスタートした新人事制度では、個人の能力向上につなげるために、等級毎の期待能力を明示し、年1回実施する人事考課時に行うキャリア開発シートの作成と上司との面談を通じ、将来のキャリアや能力開発を考える機会を設けています。そのうえで、自身のキャリアの強みや弱みに基づいて、自己啓発として自身が必要な知識・スキルを学ぶことができるよう、公開研修やe-learning等のメニューを整え、自律的な学び・能力開発を支援しています。

〇指標:海外基幹人材の日本での研修受講者数、従業員一人当たりの教育投資額(教育時間)

 

③ 社内環境に関する課題と戦略

<めざす社内環境・整備方針>

安全・安心な職場環境を構築したうえで、従業員が「成長」「誇り」「やりがい」(=「働きがい」)を感じることができる職場を実現していくことが、従業員の幸せと当社グループの持続的成長につながると考えています。

・安全・安心な職場の構築

従業員の心身の健康保持・増進を進め、多様な人材それぞれが働きやすい職場環境や各種制度を備えた当社グループをめざしています。

・ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン

東洋紡グループダイバーシティ推進方針を定め、Diversity(多様性:ダイバーシティ)、Equity (エクイティ:公平性)、Inclusion (インクルージョン:一体性)という3つの要素を柱としたダイバーシティを推進します。

・新人事制度の定着

「働きがい」を感じることができる新人事制度を定着させて、人材活躍のサイクルが機能することが、人的資本の最大化につながり、当社グループの経営方針・事業戦略の実現に貢献すると考えています。

<課題>

当社は、従来からダイバーシティ推進に取り組んできましたが、2021年4月、管理職に占める女性比率と男性の育児休業取得率の向上をめざして目標を定め、施策を展開しています。

業務集中による長時間労働が常態化した場合は、過重労働による健康障害が発生するリスクがあります。

<戦略>

■ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン

当社グループでは、働き方・キャリア・性別・国籍・人種・信条の異なる人たちの中にあって、互いを認め合い、協力して目標に向けた努力をすることが、個人と組織の成長につながると理解しています。異なる意見、多様な人材の存在価値を認め合い、高い目標へと力を合わせて努力することを大切にしています。

女性の活躍推進のため、人事・労務総括部にダイバーシティ推進グループを設置し、2015年から女性の活躍推進活動に取り組んでいます。上司向けセミナー、女性リーダー育成セミナー、各事業所での進捗報告に関する説明会などを継続して実施し、従業員の意識改革を図っています。女性管理職(課長職以上)比率の数値目標を設定し、当該目標の達成に向け、新卒採用の女性比率を40%とする取組みを推進しています。また、社外のイニシアチブへも積極的に参画し、活動しています。こうした活動を通じ、当社(東洋紡㈱)は、女性活躍推進に関する「えるぼし(2段階目)」認定を2021年12月に取得しています。

また、育児支援として総合研究所内(滋賀県大津市)に企業内保育園「おーきっずⓇ」を開設しています。育児休業からの早期復帰、計画的な復帰を可能にするだけでなく、安心して出産できる環境の整備にもつながっています。

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障がい者雇用率の向上については、労働環境の問題点の洗い出しを行い、整備につなげています。具体的な整備事案として、敦賀事業所、犬山工場の事務所をバリアフリー化し、その他の事業所についても順次バリアフリーを意識した建物改良、積極的な障がい者の採用を進めています。

ジェンダーマイノリティを含め多様な人材が働きやすい職場づくりを推進するため、全従業員向けのLGBTQ+相談窓口を設置しました。窓口を安心して利用できるよう、相談者の氏名などのプライバシーを守ること、相談・通報により相談者に不利益が生じないことを保証し、匿名での相談も受け付けています。

〇指標:管理職に占める女性比率

 

■健康経営

当社グループは、従業員の健康に配慮した働きやすい職場づくりを行うため、従業員の心身の健康保持・増進に向けて取り組んでいます。健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に実践する「健康経営」に着手し、従業員の健康保持・増進、生産性の向上などを通じて組織の活性化や業績向上に寄与する取組みを推進しています。健康管理最高責任者(CHO)である人事部門を統括する役員(常務執行役員)のもと、労務部、産業医・看護職、健康保険組合が連携する推進体制を構築し、「TOYOBO健康経営宣言」における以下の重点施策に取り組んでいます。

・従業員の健康意識向上(啓発・教育)への取組み

・従業員の生活習慣改善(運動・食事・禁煙支援など)への取組み

・メンタルヘルス対策の強化(高ストレス従業員・職場への改善対応など)への取組み 

 

当社では、2022年度以降、受動喫煙やニコチン依存について解説する禁煙セミナーやオンライン禁煙外来の案内、女性特有の健康課題に対する理解促進を目的としたセミナーを開催するなど、従業員に対する啓発活動を強化しています。健康診断は、生活習慣病やがんなど、法定項目以上に充実した検査を実施しています。がん検診については、健康保険組合と協働で希望者(本人・被扶養者)に実施し、家族も含めた疾病の早期発見・早期治療に努めています。必要な場合には診療所での検査・治療、専門医療機関への紹介も行っており、健康に関する相談体制・環境整備を行い、従業員の健康保持・増進を支援しています。

また、年1回、管理職向けにメンタルヘルスの研修を実施し、啓発・教育に取り組んでいます。全従業員を対象とするストレスチェックの結果を基に、高ストレス従業員への個別対応を行うとともに、集団分析結果を各職場の管理職向けにフィードバックするなどの対応に取り組んでいます。

グローバル展開の加速に伴って海外赴任者が年々増加しています。海外赴任者には赴任前に人間ドック受診・予防接種の義務付け、現地での医療体制支援および渡航先情報の提供などの支援を行っています。

 

当社(東洋紡㈱)は、経済産業省と日本健康会議が共同で実施する「健康経営優良法人認定制度」において、「健康経営優良法人2024(大規模法人部門)ホワイト500」に2年連続で認定されました。引き続き「ホワイト500」の認定取得継続をめざします。今後も従業員の健康保持・増進に積極的に取り組むなど、健康経営をより一層強化・推進することで、企業価値のさらなる向上をめざします。

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〇指標:健康経営ホワイト500認定

■多彩な人材が働きやすい職場環境と制度の整備

従業員が意識を変えて効率的に働き、仕事と私生活の充実を図ることができるよう、「働き方改革」に取り組むとともに、育児・介護、フレックスタイム、テレワークなどの制度を整備しています。当社は、法定基準を上回る内容の「育児短時間勤務」「介護休職」などの制度を導入している他、5日間の「育児休職」制度を設けています。子どもが生まれた男性従業員に個別に制度の案内を行い、上司からも取得を勧めることで、男性の育児休業取得を促しています。「男性の育児休業取得は当たり前」となるよう、引き続き奨励していきます。こうした活動を通じ、当社(東洋紡㈱)は、高い水準で子育て支援に取り組む企業として、「プラチナくるみん」認定を2023年6月に初めて取得しました。

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また、60歳で定年退職した従業員で、本人が希望し、通常勤務が可能と認められた者を再雇用するシニア社員制度を導入し、雇用を推進しています。再雇用されたシニア社員は、若手の育成や技術伝承の担い手として活躍しています。

〇指標:男性の育児休業取得率、年休取得率

 

■超過重労働による健康障害撲滅

当社では、健康障害の要因となり得る長時間労働の常態化を防ぐため、各事業所において労使で一定のラインを設定し、長時間労働につながる動きをチェックし、過度な労働時間の削減を進めています。また、各事業所で労使が協力し「定時にカエルデー」を設定して定時帰宅を促し、自分や家族のために時間を使うよう働きかけています。なお、3ヶ月連続で一定の基準を超えた場合、経営層に、状況および対応策を報告することとしています。

〇指標:年間法定時間外労働削減(2024年度以降は、長時間労働による健康障害防止に重点化を図るため、「過重労働者比率」に変更)

■新人事制度の定着

2022年7月から運用がスタートした新人事制度においては、従業員全員が「成長」「誇り」「やりがい」を感じることができるように、「能力向上を促進・支援」「職責に応じた処遇と評価」「マネジメント力の強化」「多様な専門人材の活躍推進」という四つの方針を掲げて実行しています。

■エンゲージメントサーベイ

上記各種戦略・施策への取組みの結果が、最終的に社員エンゲージメントの向上につながるものと考えています。2021年度から、全役員・全従業員を対象とする「組織風土・働きがい調査」を開始しました。同調査によって定期的に従業員エンゲージメントの状況を把握し、従業員が誇りとやりがいを持って主体的に業務に取り組める環境を整えていきます。

〇指標:エンゲージメントサーベイに基づく従業員の「働き方肯定度」の肯定的回答率

 

※本稿において「当社グループ」と記載していない箇所は、特段の注記がない箇所を除き、東洋紡㈱および、主要な子会社である東洋紡エムシー㈱、東洋紡STC㈱における記載です。各国の法規制・慣習を含む地域の特性および事業形態・事業規模、それらを背景とした人事制度も異なることから連結会社ベースでの記載が困難であり、東洋紡㈱と同一の人事制度を適用している主要な子会社を対象に施策を展開しています。

 

 

④ 指標と目標

上記方針に関する指標の内容および、当該指標による目標と当期の実績は以下のとおりです。

戦略項目

指標(KPI)

目標

2022年度実績

2023年度実績

人材育成

海外基幹人材の日本での研修受講者数(注2)

15人/年

(注1)

コロナ禍のため

開催中止

7

従業員一人当たりの教育投資額(教育時間)

50千円/年

(21時間)

(注1)

50千円/年

(17.97時間)

50千円/年

(18.22時間)

社内環境整備

(土台の構築)

管理職に占める

女性比率

5.0%以上

(注1)

4.7%

5.5%

年休取得率

75%以上

(注1)

80.2%

83.2%

年間法定時間外労働削減(360時間超の人数/対象者数)(注3)

2.0%以下

(2019年度比

20%削減)

(注1)

4.2%

4.3%

過重労働者比率

(3ヶ月連続で一定の基準を超えた人数/対象者数)(注3)

2025年度実績

対前年度(2024年度)比率改善

※2024年度より運用

男性の育児休業取得率

取得率80%以上、

平均取得日数14日

以上(2020年度比

20%増加)(注1)

取得率104.3%

平均取得日数14.8日

取得率 97.7 %

平均取得日数19.3日

健康経営ホワイト500

認定

取得・維持

(注1)

健康経営優良法人2023(大規模法人部門)ホワイト500 認定

健康経営優良法人2024(大規模法人部門)ホワイト500 認定

エンゲージメントサーベイに基づく従業員の「働き方肯定度」の肯定的回答率

①「日常業務のやりにくさがない」

②「一人一人の多様な意見や考え方を尊重」

肯定的回答率の

向上

① 38%

② 50%

2022年度以降

隔年実施のため、未実施

(注)1.2025年度目標です。

2.「海外基幹人材の日本での研修受講者数」を除き、東洋紡㈱および、主要な子会社である東洋紡エムシー㈱、東洋紡STC㈱における目標と実績です。各国の法規制・慣習を含む地域の特性および事業形態・事業規模、それらを背景とした人事制度も異なることから連結会社ベースでの記載が困難であり、東洋紡㈱と同一の人事制度を適用している主要な子会社を対象として各種指標と目標を設定し、施策を展開しています。

3.「年間法定時間外労働削減」については、2024年度以降は長時間労働による健康障害防止に重点化を図るため、指標を「過重労働者比率」に変更します。

 

3【事業等のリスク】

当社グループの経営成績及び財政状態等の状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主なリスクは以下のとおりです。ただし、以下に記載したリスクは当社グループに関するすべてのリスクを網羅したものではありません。

なお、記載内容のうち、将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

当社グループは、グループ全体のリスクを一元的に管理する「リスクマネジメント委員会」を2021年に設置しました。本委員会では、リスクマネジメント活動(特定・分析・評価・対応)を統括する他、グループ全体のリスク管理に関する方針を策定し、PDCAサイクルを回すことにより、実効的かつ持続的な組織・仕組みの構築と運用及び、リスク管理体制の強化に努めています。

 

サステナビリティ推進体制

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当社グループでは、事業を通じて社会課題の解決に貢献し、従業員が誇りとやりがいをもって働き続けられる会社、持続的に成長できるサステナブルな会社をめざし、2025中期経営計画を策定しています。「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおり、2025中期経営計画では2025年度を最終年度とし、当社グループが特に重視する経営指標の目標を示しています。これらの目標については、策定時に当社グループが入手可能な情報に基づいて策定したものですが、政治的・社会的情勢の不安定化に端を発する地政学リスクの影響については不確定要素が多く、原燃料価格の高止まり、急激な為替相場の変動など事業環境の不透明な状況が続くことが見込まれます。

加えて、以下の(1)から(16)のリスクもしくは以下に記載したリスク以外のリスクが顕在化し直接的または間接的に影響を受けるなど外部環境が変化した場合、種々の対策を講じているものの、それらの対策が有効に機能しない場合や想定以上の事態が生じた場合などには、2025中期経営計画で定めた目標が達成できない可能性があるとともに、当社グループの経営成績および財政状態等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 

<既発生もしくは発生の蓋然性の高いリスク>

(1)災害・事故・感染症の発生

当社グループは、国内外の各地で生産活動等の企業活動を行っており、事故防止のため、それぞれの工場や事業所で老朽設備の更新や設備管理の充実をはかるとともに、事故を想定した訓練やオペレータ教育を推進するなど、可能な限り災害・事故の発生や感染症の拡大を未然に防ぐように努めています。しかしながら、それらの工場ほかで大規模な地震、風水害、雪害などの自然災害や火災等の事故および感染症の世界的な流行、原子力発電所の事故等が発生した場合、あるいは取引先において同様の災害等が発生した場合など、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

2018年9月発生の敦賀事業所第2火災事故、2020年9月発生の犬山工場火災事故を踏まえ、当社グループは、「安全衛生の確保は企業活動の大前提」である事を再徹底し、大きな火災事故を二度と起こさないという強い決意のもと、全社をあげて安全・防災に取り組んでいます。

2022年4月より「私たちは『安全最優先』を徹底します。―労働安全、環境安全、製品安全、設備安全―」を当社グループの安全宣言とし、スローガンは「自分を守る、仲間を守る、気付きを声に出す」としました。経営上最重要課題である安全と保安防災に関する各種の取組みを着実に進めるため、社長直轄の組織として「安全防災本部」を設置しています。同組織は、各分野の専門家を委員とする安全防災会議を主催し、安全・防災活動の有効性を評価するとともに全社の方針案を策定し、サステナビリティ委員会で方針決定をします。進捗については、適宜取締役会に報告します。

また、同組織が中心となって、当社の各事業所・工場およびグループ会社に赴いて安全環境アセスメントを実施し、現地の活動を点検しています。特に火災・爆発リスクについては、第三者の専門家により現地の管理状況を定期的に点検しています。

当社は、労働環境のリスク低減のため、労働安全衛生マネジメントシステム(ISO45001)の適合証明取得を進めています。2024年3月末時点で、敦賀事業所岩国事業所、宇都宮工場の3拠点が取得しています。

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(2)政治・経済情勢の悪化

当社グループは、フィルム、ライフサイエンス、環境・機能材、機能繊維などの各種製品を、国内外の各地で生産し、国内外の様々な市場で販売しています。インフレ圧力の後退に対する各国金融政策の見直しや、政治的・社会的情勢の不安定化に端を発する地政学的情勢の変動によって、当社グループおよび仕入先の生産拠点や主要市場等において深刻な政治的混乱や景気後退などが生じた場合には、当社グループの生産や販売が縮小する可能性があります。また、それらの事象による影響が長期にわたって続くことが予想される場合には、固定資産の減損損失の計上や繰延税金資産の取崩が生じるなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

販売及び委託加工に際しては、当社グループは与信取引を行っており、取引先の信用悪化や経営破綻などによる与信リスクを負っています。当社グループでは、売上債権等の貸倒れによる損失に備えるため、与信管理規程のもと、取引先別の信用度に見合う取引限度額を設定し管理を行うとともに、主な取引先の信用状況を決算期ごとに把握することに努めております。また、過去の貸倒実績率等に基づき貸倒引当金を計上することにより、与信リスクの低減を図っています。しかしながら、景気後退などにより重要な取引先が破綻した場合には、貸倒引当金を大幅に超える貸倒損失が発生するなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

 

(3)第三者認証登録内容における不適切行為等

当社は、米国の第三者安全科学機関であるUL Solutions(以下「UL」といいます)によって認証を受けているエンジニアリングプラスチック製品の一部の品番について、認証に関する確認試験時に、顧客に販売している製品と異なる組成のサンプルを提出していたことや、UL認証を取得している製品を製造する登録を受けていない工場で製造を行っていること等(以下「本件不適切行為」といいます)を確認しました。本件不適切行為についてULに報告等を行った結果、2020年10月28日付でUL認証を取り消された1製品に加えて、3製品について2021年2月3日付にてUL認証登録を取り消され、他の3製品の一部品番(以下、本件不適切行為のあった製品を「本件不適合製品」と総称します)について当社よりUL認証登録の取消しを申し入れた結果、2021年3月26日付にて認証を取り消されました。これまで本件不適合製品を使用した最終製品に関して事故等の報告は受けていません。現在、UL認証はお客さまと相談させて頂きながら順次再取得を進めています。

また、本件に関連し、ISO(国際標準化機構)の登録認証機関であるLRQAリミテッドによる特別審査を受けた結果、2021年1月28日付で、当社が取得しているISO9001認証のうち、本件不適合製品を担当する部門に関わる認証範囲について認証を取り消されましたが、2024年5月3日にISO9001の認証を再度取得しました。

当社は、度重なる不適切な事案を重く受け止め、既に実施した第三者による調査等も踏まえて、実効性のある再発防止策を策定し、確実に実施してきました。再発防止策の一つとして、2022年3月17日付「品質に関する不適切な事案の類似案件調査に関するご報告」にて公表したとおり、2021年2月から同年3月にかけて無記名式で、2021年7月から2022年1月にかけては記名式で品質に関する不適切な事案の有無を調査する目的のアンケートを国内外の当社グループ役員、社員(契約社員や派遣社員を含む)を対象に実施し、品質に関する重大な不適切事案は確認されませんでした。さらに、2023年11月から2024年2月にかけて、再度、記名式で国内の当社グループ役員、社員(契約社員や派遣社員を含む)を対象に、品質に関する調査票を配布し、100%回収しました。当連結会計年度末において、品質に関する重大な不適切事案は確認されていません。引き続き、適切な品質管理体制の再構築やガバナンスの向上に取り組むことにより、信頼の回復に全力で努めます。

 

(4)訴訟等

当連結会計年度末において、当社グループの業績に重要な影響を及ぼすことが明らかな訴訟等の事案はありません。一部の製品において特許権の抵触の疑いがあるとして通知を受け、ライセンスの協議を進めていましたが、当社特許権とのクロスライセンスについて合意しています。

その他にも、当社グループは国内外の各地で生産活動ほかの企業活動を行っており、その過程において、製造物責任、環境、労務、知的財産等に関し、当社グループに対し訴訟を提起される可能性があります。訴訟等において、当社グループの主張が最終的に認められない場合には、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

<中長期的なリスク>

(5)原材料の購入

当社グループの、フィルム、ライフサイエンス、環境・機能材、機能繊維などの各種製品は、石油化学製品であるポリエステル、ナイロン、ポリオレフィン樹脂などが主要な原材料です。「(1)災害・事故・感染症の発生」および「(2)政治・経済情勢の悪化」にて記載した、自然災害、事故、感染症や、経営破綻、事業撤退、縮小および深刻なサプライチェーンの混乱などが取引先において発生した場合、必要量の原材料が確保できなくなる可能性があります。また、原油価格や為替の変動、当該原材料等の急激な需給バランスの変動などにより、購入価格が高騰し、当社グループの生産、販売へ影響を及ぼす可能性があります。

これらに対し、当社グループでは、販売価格への転嫁や製造コストの低減に努めているほか、適正な取引方針を確立し、仕入先の分散による複数社購買等による原材料調達手段の多様化や、植物由来原料やリサイクル原料の使用を進めるグリーン化の取組みなど、持続可能な社会の発展を支える責任ある調達・物流を行っています。また、法令順守、公正な取引、環境配慮、人権尊重などに対応する「CSR調達ガイドライン」および環境配慮のための「グリーン調達ガイドライン」を制定しています。

 

(6)製品の欠陥等

当社グループは、製品の欠陥等の発生リスクを未然に防止するため、所定の品質管理規程に基づいて、フィルム、ライフサイエンス、環境・機能材、機能繊維などの各種製品を生産しています。しかしながら、全ての製品に欠陥がなく、将来的に不具合が発生しないという保証はありません。特に、エアバッグ用基布などの自動車の安全に係わる製品や医薬品製造受託事業などにおいて何らかの原因により製品の安全性や品質に懸念が生じた場合には、お客様の生命にかかわるとともに、製品回収等により、お客様ならびに関係先に対する補償につながるリスクがあります。当社グループは、製造物責任賠償保険に加入しているものの、最終的に負担する損害額は保険によって十分カバーされないリスクがあります。このため、重大な製品の欠陥などが発生した場合には、多額の損害賠償の支払いや当社グループの信用失墜が生じるなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、PL(Product Liability:製造物責任)およびQA(Quality Assurance:品質保証)を統括する品質保証本部会を設けています。品質保証本部会は品質を統括する役員、各事業本部を担当する品質保証総括部長と品質保証統括部員で構成され、毎月開催しています。また、各事業本部の部長クラスを推進委員としたPL/QA推進委員会を年6回計画しており、2023年度も計6回開催しました。

また、事業推進から独立した品質保証本部および他部門の品質保証担当者によるPL/QAアセスメントを実施し、各部門、グループ会社のPS(Product Safety:製品安全)活動を客観的に確認し、改善の機会としています。さらに、PSとPLのリスク度合いを判定する基準を設け、この基準に基づき、製品開発から販売までの各段階で審査を行い、リスクに事前に対応することで、お客さま等に掛かるリスクの低減に努めています。

 

(7)人材の確保

当社グループでは、人材を最も重要な経営の源と考えています。多様な個性や意見を持つ従業員一人ひとりの成長をサポートし、社内で活躍・キャリアアップできる環境を整えることで、グループ全体の存続・発展が可能になると考えています。一方、少子高齢化に伴う労働力人口の減少や雇用情勢の変化などで、高度な専門性を有した人材や将来の幹部になりうるリーダーシップを兼ね備えた人材を確保、育成できない場合は、組織の競争力が低下し、事業活動が停滞するなどの可能性があります。

当社グループでは、成長戦略実現への寄与を目指し、次世代経営人材の育成や主体的に学び成長できる環境づくりに力を入れています。併せて、人材の多様性を活かすことを主眼に、キャリア採用者の教育や女性活躍推進活動、障がい者雇用、LGBTQ+に向けた施策にも積極的に取り組んでいます。

なお、当社グループの人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針については、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。

 

(8)気候変動

地球温暖化に伴う気候変動の影響が、台風や集中豪雨といった自然災害の増加や亜熱帯化による自然生態系の変化といった形で顕在化し、社会にも多大な影響を及ぼしつつあります(物理リスク)。一方、移行リスクとして、脱炭素社会への移行に伴う社会変化が、温室効果ガス排出に対する規制強化や炭素税導入などにより、原材料価格の上昇や化石燃料の使用が難しくなることなどが想定されます。当社グループは2020年1月にTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosure)提言に賛同し、同提言にのっとった取組みと開示を進めています。また、TCFD提言に沿い、パリ協定に基づく気候変動シナリオを前提とした将来リスクと事業機会を分析・整理しました。それらリスクと機会の影響と財務インパクトを特定した上で、対応策とそれに基づく指標・目標を設定し、経営戦略の強靭性(レジリエンス)向上を図ります。なお、当該リスクについては、「2 サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載のとおりです。

 

(9)環境負荷

当社グループは、水質汚濁、大気汚染、土壌汚染や化学物質管理に関する法令や規制の適用を受けており、これらの法令や規制がさらに強化されることで、対応コストの上昇や、収益機会の減退による当社グループの売上減少など、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、持続可能な形で資源を利用する循環型社会の実現に向け、環境負荷を低減する製品・技術を積極的に展開しています。プラスチック製品においては、バイオマス(植物由来)原料やリサイクル原料の使用促進と減容化を進めるとともに、高い機能性を保持するバイオマスプラスチックの実用化に取り組んでいます。

また、水資源保全の取組みとして、水資源の確保を事業継続上の重要課題と認識し、製造工程で使用する冷却水などは、一度使用した水を再利用するなどの使用量削減と循環利用を推進しています。

生物多様性保全の取組みとして、事業所や工場からの排水や排ガス中の有害物質を適切に処理した上で排出しています。そして、これらが誤って流出することのないよう、監視装置を設置するとともに、当該化学物質の使用量・排出量を極小化できるよう製造工程の改善にも努めています。また、当社グループの販売するVOC回収装置などにより、お客さまの環境負荷低減にも貢献しています。

化学物質管理の取組みとして、調達から使用、廃棄に至るまでをカバーする化学物質管理を行い、法規制対象物質の使用状況等の調査に活用しています。また、「東洋紡化学物質管理区分」を定め、取り扱う化学物質を3段階に分類した上で、ランクごとに管理内容を定め、効率的な使用や代替化を進めています。

 

 

(10)情報セキュリティ

当社グループは、DXとデータの利活用によるビジネスイノベーション加速・推進に取り組み、事業の遂行に関連して顧客情報や機密情報など多くの重要情報を管理しています。また、世界各国で個人情報・データ保護のための法規制の強化が行われています。当社グループはこれらの情報資産について様々なセキュリティ対策を講じていますが、自然災害等による通信障害、システムへの不正アクセスや想定を超えるサイバー攻撃を受けた場合、従業員の過誤など、システムの障害に伴う事業活動の停止、顧客情報や機密情報等の漏洩、詐欺被害などにより、社会的信用の低下や多額の費用負担が発生し、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループは、「情報セキュリティポリシー」を定め、情報セキュリティに関する各種規程を整備し、全情報資産の適切な運用・管理・活用に努めています。

また、代表取締役社長が任命した最高情報セキュリティ責任者(CISO)をリーダーとした情報セキュリティ部会(TOYOBO-CSIRT)を設置し、海外法規制対策、技術的対策の継続的な改善のほか、従業員教育による意識レベル向上、セキュリティ人材の育成を進めるとともに、事故対応体制の強化に取り組んでいます。

 

(11)法規制およびコンプライアンス

当社グループは、事業を展開する各国において、製品の製造、品質、安全、環境、競争、輸出入、情報、労働、会計などに関する様々な法令等による規制を受けています。たとえば、主要な事業所で、環境関連の法規制強化や取水制限などが行われる場合、あるいは、現在使用している化学物質が使用禁止になる場合や使用濃度規制が行われる場合には、生産活動ほかの事業活動が大幅に制限され、あるいは、同規制を順守するために、多額の設備投資や租税ほかの費用負担を余儀なくされる可能性があります。海外の主要市場国において、アンチダンピング法などの規制により、関税引き上げ、数量制限などの輸入規制が課せられた場合には、輸出取引が制約を受け、当社グループの売上減少が生じるなど、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。さらに、これらの規制に対し、当社グループおよび取引先において、不順守や違法行為が発生した場合には、当社グループの信用失墜や行政処分など多額の損害が生じる可能性があります。

また、当社グループでは、コンプライアンス活動の核として企業理念である「順理則裕」を掲げ、コンプライアンスを重視した経営を推進していますが、製品・サービスや労働・安全、サプライチェーン全体におけるコンプライアンス上のリスクを完全には回避できない可能性があり、国内外の法令等に抵触するなどのコンプライアンス違反が発生した場合には、当社グループの信用低下や行政処分、損害賠償責任が課されることなどにより、多額の損害が生じるおそれがあります。

このようなリスクを踏まえ、当社グループでは、社内通報制度やコンプライアンスアンケートを通じた不適正事案の早期発見、是正や未然防止に加え、コンプライアンスを推進するため、具体的に様々な取組みを実施しています。例えば、「東洋紡グループ企業行動憲章」および行動規範である「東洋紡グループ社員行動基準」の解説や違反事例等をまとめたコンプライアンスマニュアルを、当社を含むグループ従業員に配付するとともに、職場にて読合わせを実施しルールの徹底に努めています。また、国内外グループ会社の管理者層を対象としたコンプライアンス勉強会を実施するとともに、コンプライアンス違反等のケーススタディを掲載した「コンプライアンスミニスタディ」を毎月発行するなどコンプライアンス意識の向上を図っています。

 

(12)海外での事業活動

当社グループは、米国をはじめ、欧州、中国、東南アジア、中南米などグローバルに事業を展開しています。そのため、世界経済全体の動向に加え、各国の法令・規制や政策等の予期しない改定変更、またはテロ、戦争、政変、疫病やその他の要因による社会的混乱などが生じた場合は、当社グループの事業等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、これらリスクに対し、グループ各社での情報収集や、公的機関だけにとどまらず外部コンサルタントからの情報等を通じて早期に認識し、顕在化する前に具体的かつ適切に対処できるよう、国ごとに「危機管理マニュアル」を策定し、海外有事に対する退避マニュアルを充実させるなど、海外リスクマネジメント体制の整備強化に努めています。

また、当社グループは、各国の税法に準拠し、適正に納税を行い、各国の移転価格税制などの国際税務リスクについても適切に対処しています。しかしながら、税務当局との見解の相違により、結果として追加課税が発生する可能性があります。

 

 

<財務リスク>

(13)為替レートの大幅変動

当社は、海外から原材料の一部を輸入し、国内で生産した製品の一部を海外へ輸出しています。製品輸出高と原材料輸入高の差は大きくないため、中期的に見ると為替変動による業績に与える影響額は大きくないものと考えています。しかし、短期的に著しい変動があった場合は、製造リードタイムが比較的長い製品などは業績に対して影響を与える可能性があります。このようなリスクに対して、先物為替予約などによりリスクを最小限にするよう努めていますが、完全にリスクが回避できるわけではありません。

また、海外の連結子会社や持分法適用会社の経営成績は、連結財務諸表作成において円換算されるため、換算時の為替レートにより連結財務諸表に影響を及ぼします。加えて、円高が進行した場合、在外子会社等の換算差額を通じて自己資本が減少するなど、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

 

(14)金利の大幅上昇

当社グループは、事業資金を主に金融機関からの借入や社債の発行などにより調達しています。これらの有利子負債のうち、金利変動リスクに晒されている借入金の一部は、支払金利の変動リスクを回避するために、金利スワップを主としたデリバティブ取引を利用しています。また、当社グループは「有利子負債と純資産(非支配株主持分を除く)の比率(D/Eレシオ)」および「純有利子負債のEBITDA(営業利益と減価償却費の和)に対する倍率(Net Debt/EBITDA倍率)」を重視しています。当連結会計年度末ではD/Eレシオは1.26倍、Net Debt/EBITDA倍率は7.5倍となりました。

 

(15)株価の大幅下落

当社グループは、市場性のある株式を保有しており、株価変動リスクを負っています。株価が大幅に下落した場合には、その他有価証券評価差額金の減少や売却時に損失が発生する可能性があります。また、当社の企業年金においては、年金資産の一部を市場性のある株式により運用しており、株価の下落は年金資産を減少させるリスクがあります。当社は、純投資目的以外の目的である投資株式について、将来の事業戦略や事業上の関係などを踏まえ、当社の持続的な成長や中長期的な企業価値の向上に資するかどうかを毎年、取締役会で個別に検証を行い、株式保有継続の可否判断を行っています。当連結会計年度において、当社および当社の子会社は、保有する投資有価証券の一部を売却し、33億円の売却益を計上しました。

 

(16)固定資産の減損

当社グループは、工場用土地、建物、製造設備など事業用固定資産を保有し、生産・販売活動を行っています。これらの製造設備で生産される製品は市場や技術開発等の環境変化の影響を受け、収益状況が大きく低下する可能性があります。また、土地の時価下落等により保有資産の評価額が著しく低下するリスクもあります。収益性が低下した場合や保有資産価値が大幅に低下した場合、当該資産について減損損失の計上が求められるなど、当社グループの業績等に重要な影響を及ぼす可能性があります。

なお、当連結会計年度において、当社および一部の子会社が保有する固定資産のうち、休止予定資産や事業用資産について合計8億円の減損損失を計上しました。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度(以下、「当年度」といいます。)における当社グループを取り巻く事業環境は、米国では政策金利が据え置かれる中、堅調な個人消費が経済活動を牽引し景気が拡大しましたが、中国では不動産不況の長期化や消費の低迷により景気が減速しました。国内においては、自動車生産やインバウンド需要の回復により、景気は緩やかに持ち直しました。

こうした事業環境のもと、液晶偏光子保護フィルム“コスモシャインSRF”、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使用されるVOC回収装置は、強い需要に牽引され、それぞれ販売を伸ばしました。一方、包装用フィルムは、需要の回復遅れにより流通在庫の調整が長期化しました。PCR検査用試薬は、新型コロナウイルス感染症の収束に伴い、需要が大幅に減少しました。

以上の結果、当年度の売上高は4,143億円と前年度比3.6%の増収、営業利益は90億円と前年度比10.6%の減益、経常利益は70億円と前年度比5.6%の増益、親会社株主に帰属する当期純利益は25億円(前年度は親会社株主に帰属する当期純損失7億円)となりました。

 

なお、当社は、機能素材の開発、製造および販売を行う東洋紡エムシー株式会社を設立し、2023年4月1日より三菱商事株式会社(本社 東京都千代田区)との合弁会社として事業を開始しました。当社グループの製品・技術開発力と三菱商事株式会社の幅広い産業知見・経営力を掛け合わせ、持続可能な社会の実現と合弁事業の成長拡大を図ります。

 

セグメント別の概況は、次のとおりです。

なお、当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しています。以下の前年度比較については、前年度の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しています。

 

(フィルム)

包装用フィルム事業では、原燃料価格高騰を受け、製品価格の改定を進めましたが、需要回復の遅れにより低調な荷動きが続いたことに加え、新機台の立上げ費用が嵩みました。

工業用フィルム事業では、液晶偏光子保護フィルム“コスモシャインSRF”は強い需要に牽引され、販売を大きく伸ばしました。セラミックコンデンサ用離型フィルムはサプライチェーン全体における在庫調整の影響を受け、本格的な需要回復に至らず苦戦しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比105億円(7.2%)増の1,565億円、営業利益は同11億円(65.6%)増の27億円となりました。

 

(ライフサイエンス)

バイオ事業では、新型コロナウイルス感染症の収束に伴い、PCR検査用試薬の需要が大幅に減少しました。

メディカル事業では、人工腎臓用中空糸膜の販売が堅調に推移しました。

医薬品製造受託事業では、FDAからのWarning Letterが解除されたことにより、GMP(医薬品等の製造および品質管理基準)対応費用が減少し、収益性が改善しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比36億円(9.4%)減の346億円となり、営業利益は同48億円(51.8%)減の44億円となりました。

 

(環境・機能材)

樹脂・ケミカル事業では、エンジニアリングプラスチックは、自動車生産の回復により販売を伸ばし、加えて製品価格の改定が進みました。工業用接着剤“バイロン”は、中国向け電子材料用途の販売が低調でした。

環境・ファイバー事業では、環境ソリューションは、リチウムイオン電池セパレータ製造工程で使用されるVOC回収装置の販売が拡大しました。高機能ファイバーは、釣糸用途で“イザナス”の販売が低調でした。不織布マテリアルは、衛材用途や土木・建築用途の販売減に加え、原燃料価格高騰の影響を受けました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比45億円(4.1%)増の1,153億円、営業利益は6億円(15.3%)増の47億円となりました。

 

(機能繊維・商事)

衣料繊維事業では、国内生産拠点の集約や不採算商材からの撤退などの事業構造改革に加えて、製品価格の改定が進み、収益性が改善しました。

エアバッグ用基布事業では、自動車生産の回復に伴い販売量が増加したことに加え、製品価格の改定が進み、収益性が改善しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比33億円(3.6%)増の957億円、営業損失は10億円(前年同期は営業損失25億円)となりました。

 

(不動産、その他)

当セグメントでは、不動産、エンジニアリング、情報処理サービス、物流サービス等のインフラ事業は、それぞれ概ね計画どおりに推移しました。

この結果、当セグメントの売上高は前年度比4億円(3.1%)減の122億円、営業利益は8億円(37.8%)増の30億円となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、前年度比138億円(176.9%)収入が増加し、216億円の収入となりました。主な内容は、減価償却費198億円および税金等調整前当期純利益56億円による資金の増加と運転資本の増加による資金の減少43億円です。

 

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、前年度比228億円(63.2%)支出が増加し、588億円の支出となりました。主な内容は、有形及び無形固定資産の取得による支出566億円および投資有価証券の売却による収入38億円です。

 

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、前年度比530億円(86.5%)収入が減少し、83億円の収入となりました。主な内容は、長期借入れによる収入501億円および社債の発行による収入100億円と、長期借入金の返済による支出304億円、社債の償還による支出100億円、短期借入金の減少による支出36億円および配当金の支払額35億円です。

 

この結果、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の残高は、前年度末比269億円減の333億円となりました。

 

 

③生産、受注及び販売の実績

(イ)生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

フィルム

155,378

3.5

ライフサイエンス

31,473

△24.5

環境・機能材

123,011

3.4

機能繊維・商事

96,237

△0.9

不動産

その他(うち製造)

22,017

△3.9

合計

428,117

△0.6

(注)1.金額は平均販売価格によっており、セグメント間の内部振替前の数値によっています。

2.外注生産を含んでいます。

3.不動産の生産実績はありません。

4.当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更し、「前連結会計年度比(%)」については前連結会計年度の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しています。

 

(ロ)受注実績

当社グループの製品は一部の受注生産を除き見込生産を行っています。

(ハ)販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前連結会計年度比(%)

フィルム

156,531

7.2

ライフサイエンス

34,564

△9.4

環境・機能材

115,327

4.1

機能繊維・商事

95,665

3.6

不動産

4,070

0.4

その他

8,108

△4.8

合計

414,265

3.6

(注)1.総販売実績に対する販売実績の割合が100分の10以上となる販売先はありません。

2.セグメント間の取引については相殺消去しています。

3.当連結会計年度より報告セグメントの区分を変更し、「前連結会計年度比(%)」については前連結会計年度の数値を変更後のセグメント区分に組み替えた数値で比較しています。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識および分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

①重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積りおよび当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5経理の状況 1連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりです。

 

②当連結会計年度の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

(イ)財政状態の分析

総資産は、前年度末比181億円(3.1%)増の6,070億円となりました。これは主として現金及び預金が減少した一方で、設備投資により有形固定資産が増加したことによります。

負債は、前年度末比94億円(2.6%)増の3,769億円となりました。これは主として退職給付に係る負債が減少した一方で、借入金が増加したことによります。

純資産は、為替換算調整勘定や退職給付に係る調整累計額が増加したことなどにより、前年度末比87億円(3.9%)増の2,301億円となりました。

 

また、財政状態に関する各種指標(連結ベース)は次のとおりです。

回次

 

第162期

第163期

第164期

第165期

第166期

決算年月

 

2020年3月

2021年3月

2022年3月

2023年3月

2024年3月

自己資本比率

(%)

36.4

37.8

37.6

32.2

32.5

時価ベースの自己資本比率

(%)

20.8

25.8

18.8

15.6

16.4

自己資本当期純利益率

(%)

7.8

2.3

6.8

△0.3

1.3

キャッシュ・フロー対

有利子負債比率

(年)

4.0

5.3

11.2

29.4

11.5

インタレスト・カバレッジ・レシオ

(倍)

32.2

28.0

14.0

5.9

16.2

有利子負債自己資本比率

(D/Eレシオ)

(倍)

0.98

1.01

0.98

1.21

1.26

自己資本比率:非支配株主持分を含まない期末純資産/期末総資産

時価ベースの自己資本比率:株式時価総額[期末株価終値×自己株式控除後の期末発行済株式数]/期末総資産

自己資本当期純利益率:親会社株主に帰属する当期純利益/非支配株主持分を含まない期末純資産の期首・期末平均

キャッシュ・フロー対有利子負債 比率 :期末有利子負債/営業キャッシュ・フロー

インタレスト・カバレッジ・レシオ   :営業キャッシュ・フロー/(連結キャッシュ・フロー計算書)利息の支払額

有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ):期末有利子負債/非支配株主持分を含まない期末純資産

 

当社グループは、財務の健全性の指標として特に有利子負債自己資本比率(D/Eレシオ)を重視しています。当連結会計年度末のD/Eレシオは1.26倍となりました。

 

(ロ)経営成績の分析

2025中期経営計画の二年目にあたる当連結会計年度は、期初において売上高4,300億円、営業利益150億円を計画し事業活動を進めましたが、包装用フィルムの数量減やPCR検査用試薬の需要減等により、売上高、営業利益ともに計画に対し未達となりました。

売上高については、液晶偏光子保護フィルムは販売を伸ばし、加えて、原燃料価格高騰に対して価格改定を進めましたが、包装用フィルムの在庫調整局面の長期化などにより期初の計画には届きませんでした。

営業利益については、医薬品製造受託事業におけるFDAからのWarning Letterが解除されたことを受けて当該対応費用が減少したものの、包装用フィルムの新機台の立上げや、環境・機能材事業における東洋紡エムシー㈱の事業開始など、事業拡大に関連する費用が増加したほか、研究開発等の基盤固めに関連する費用の増加などにより、期初の計画を下回りました。

親会社株主に帰属する当期純利益については、営業利益が当初計画を下回ったものの、為替差益や投資有価証券売却益を計上したことなどから、25億円となりました。この結果、「自己資本当期純利益率(ROE)」は1.3%となりました。

(単位:億円)

 

2023年度

(計画(*))

2023年度

(実績)

増 減

(実績-計画)

売上高

4,300

4,143

△157

営業利益

150

90

△60

親会社株主に帰属する当期純利益

40

25

△15

(*) 期初において計画した計画値

 

2023年度の事業環境(当初想定との差異)

セグメント

事業

期初想定

期初想定との差異

フィルム

包装用

流通在庫の調整が段階的に解消

在庫調整の長期化で需要回復遅れ

工業用

液晶偏光子保護フィルムは需要堅調

強い需要あり

セラミックコンデンサ用離型フィルムは下期から本格的な需要回復

本格的な需要回復には至らず

ライフサイエンス

バイオ

PCR検査用試薬の需要大幅減

5類感染症移行により、需要は激減

メディカル

人工腎臓用中空糸膜は需要堅調

堅調に推移

環境・機能材

樹脂・

ケミカル

自動車生産の回復(半導体不足の解消)

(期初想定のとおり)

電子材料用途(中国・アジア)の需要回復

需要回復遅れ

環境・

ファイバー

VOC回収装置は需要堅調

受注は堅調

不織布マテリアルは競争激化

事業環境の競争激化(衛材、土木)

機能繊維・

商事

エアバッグ

自動車生産の回復(半導体不足の解消)

(期初想定のとおり)

 

当社グループは足元の業績を受け、2025中期経営計画の後半2年において、企業価値の向上に取り組みます。具体的なアクションについては「1経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (4)2025中期経営計画 ③2025中計後半の課題(2025年度以降を見据えたアクション)」に記載のとおりです。

 

(ハ)経営成績に重要な影響を与える要因について

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因については、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおりです。また、包装用フィルムの需要回復時期を注視しています。

 

(ニ)当社グループの資本の財源および資金の流動性について

a.キャッシュ・フロー

当連結会計年度のキャッシュ・フローの分析については、「(1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりです。

b.契約債務

2024年3月31日現在の契約債務の概要は以下のとおりです。

 

年度別要支払額(百万円)

契約債務

合計

1年以内

1年超3年以内

3年超5年以内

5年超

短期借入金

68,385

68,385

長期借入金

98,706

13,069

21,604

27,422

36,611

リース債務

7,154

1,136

1,490

883

3,645

上記の表において、連結貸借対照表の1年内返済予定の長期借入金は、長期借入金に含めています。

当社グループの第三者に対する保証は、関係会社の借入金等に対する債務保証です。保証した借入金等の債務不履行が保証期間内に発生した場合、当社グループが代わりに弁済する義務があり、2024年3月31日現在の債務保証額は、7,375百万円です。

c.財務政策

当社グループは、2025中期経営計画レビューの見通しを実現すべく、安全・防災・環境対応を最優先としつつ、同時に成長事業への積極投資を行っていきます。必要資金に関しては、内部資金または外部調達により資金を調達し、外部調達は、直接金融・間接金融を活用し、D/Eレシオは1.4倍未満、Net Debt/EBITDA倍率は4倍台を目安として管理していきます。

また、マーケット環境の一時的な変化など、不測の事態への対応手段確保のため、当連結会計年度末において、複数の金融機関との間で合計17,500百万円のコミットメントライン契約を締結しています。(借入未実行残高17,500百万円)。

 

5【経営上の重要な契約等】

該当事項はありません。

(注)従来記載していた「Kフィルターによる溶剤吸着処理装置に関する技術援助の供与」については、2023年4月1日より契約会社を当社から東洋紡エムシー株式会社へ契約を継承しており、重要性を判断した結果、記載を省略しています。

 

6【研究開発活動】

当社グループは、「私たちは、素材+サイエンスで人と地球に求められるソリューションを創造し続けるグループになります」というビジョンを掲げています。「素材+サイエンス」として、自社保有のコア技術のさらなる進化に加え、積極的なオープンイノベーションの考え方の下、新製品の拡大、新事業の創出に注力しました。

当社グループの研究開発は、セグメントごとに担当事業部が直接運営する事業部研究開発部門と、中長期的視点から次代を担う新事業・新製品・新技術の創出を図る全社共通のコーポレート研究部門とに大別されます。これらの研究開発のマネジメントはイノベーション推進会議の方針のもとイノベーション戦略部が担当し、各部門相互の連携を図りながら、当社グループの総合力を発揮した研究開発活動を推進しました。

 

(フィルム)

包装用フィルム分野においても、環境配慮商品に対するニーズが高まっており、バイオマス原料を使用した“バイオプラーナ”として、ポリエステル、ナイロン、シーラントの各該当フィルム製品の採用も拡大しています。薄肉化(プラ減量化)では、新機台立ち上げに伴い開発を進めている、高耐熱・高剛性のポリプロピレンフィルム“パイレンEXTOP”のうち、F&Gタイプと超高耐熱タイプについて試験販売を開始しました。その他、ナイロンやシーラントフィルムでも薄肉化の開発に取り組んでおり、包装材の減容化・モノマテリアル化を促進し、循環型経済の実現に貢献できるよう努めていきます。

工業フィルムでは環境に配慮したリサイクル原料を使用したフィルム製品“クリスパー”、“カミシャイン”、“リシャイン”の開発・改良、販売促進に加え、環境負荷の少ないリサイクルシステムの開発も積極的に進めています。また、バイオマス原料を用いたポリエステルフィルムの開発を推進しています。さらに電子情報通信分野、自動車分野で拡大しているセラミックコンデンサ用離型フィルム“コスモピール”においても、薄層化による減量化、リサイクルによる環境対応に注力しています。また、液晶ディスプレイに最適な超複屈折フィルム“コスモシャインSRF”は、既存設備改造による増産検討およびバイオマス原料による新製品の開発を積極的に進めています。加えて、力学的・熱的特性に優れたポリエチレンナフタレートフィルム“テオネックス”の開発を進め、自動車分野やエネルギー分野に貢献する商品としていきます。

以上、当事業に係る研究開発費は41億円です。

 

(ライフサイエンス)

感染症診断領域では、SARS-CoV-2、インフルエンザ、RSVをひとつのデバイスで同時に判定できる簡易抗原検査キットの開発に成功し、販売を開始しました。また、研究試薬領域では、次世代シークエンサーでより詳細な遺伝子発現解析が可能になるキットの開発に成功し、販売を開始しました。

医療機器分野では、2024年2月に医療機器開発推進のためのメディカル研究所が竣工し4月より運用開始しました。骨再生誘導材“ボナーク”は、歯科領域での展開に加え、新たに口腔外科領域の先天性疾患である口唇口蓋裂に対する保険適用申請を行いました。

血液浄化領域の製品“リムサイト”は厚生労働省より製造販売承認を取得しました。さらに血液浄化商品群の拡充のための製品開発を進めています。

以上、当事業に係る研究開発費は16億円です。

 

(環境・機能材)

モビリティ分野において、東洋紡エムシー株式会社は、OEM(完成車メーカー)へ直接アプローチして共同開発を進める新組織「モビリティ事業推進ユニット」を立ち上げました。先行開発段階からそのニーズをつかみ、一体となって開発に取り組むことで、より付加価値の高い製品をグローバル市場へ投入していきます。この新組織は、東洋紡エムシー社長直轄の営業・開発一元組織で、営業メンバーによるプリセールスグループと開発技術者による先行開発グループで構成されています。重点テーマを①質量低減金属代替(軽量化)②次世代内外装(樹脂化・機能性)③次世代環境対応(リサイクル)④新素材・新技術(加工技術の深化)⑤フッ素代替(規制対応)とし、量産開発段階における素材提供ではなく、次世代自動車の企画構想段階からOEMと一体となって共同開発を進めます。

樹脂・ケミカル分野では、電子材料の接着剤用途向けに、“ビトリマー(Vitrimer(※))”と呼ばれる新しい架橋樹脂を応用することで、溶剤フリーで常温流通(輸送・保管)を可能にした環境配慮型のポリエステル系高耐熱接着シートを新たに開発しました。電子材料向けの接着剤用途などで展開する共重合ポリエステル樹脂“バイロン”に、ポリマー間の架橋状態を維持しながら熱可塑性樹脂のように圧力や熱などに応答可能な“ビトリマー”の特徴を応用することで、本接着シートの製品化を実現し、電子材料メーカー向けにサンプル提供を開始しました。“ビトリマー”の特徴を生かすことで再成形性・自己接着性・自己修復性などを有する高機能なポリマーが実現できると考えており、接着シートに留まらず、積極的に研究開発を進めていきます。(※)“Vitrimer”はFONDS ESPCI PARISの登録商標です。

環境・ファイバー分野では、循環型経済(サーキュラーエコノミー)の実現に向けて経済産業省が立ち上げた産官学の協議体「サーキュラーパートナーズ(Circular Partners)、略称:CPs」に参画しました。工場のVOCガスを回収・再利用する装置の性能向上に取り組むと共に、環境に配慮した三次元網状繊維構造体“ブレスエアー”の新製品(2製品)の開発を行っています。1つは、水平リサイクル型三次元網状構造体“ブレスエアーメビウス”、もう一つは生分解性樹脂を用いた“テルスエコー”です。従来品である“ブレスエアー”は軽量・高反発で、耐久性に優れることから、1996年の上市以来、一般用・業務用寝具、新幹線などの鉄道車両や船舶の座席シート、オートバイやベビーカーなどの幅広い用途で採用されてきました。新製品(2製品)もその特性を引き継ぎます。今後、サーキュラーパートナーズへの参画を通じて、リサイクル原料の一層の活用やリサイクル技術の高度化といった取り組みを推進するとともに、他の会員との連携を強化し、資源循環に向けたエコシステムの形成・参画を加速することで循環型経済の早期の実現に貢献できるよう努めていきます。スーパー繊維“イザナス”は、洋上風力発電設備の係留索用途として、高耐クリープ性を有する原糸の開発を進めており、採用に向けた実証実験も控えています。中空糸型正浸透膜(Forward Osmosis=FO膜)は、デンマークのベンチャー企業SaltPower社が世界で初めて実用化に成功した浸透圧発電プラントに採用され、稼働を開始しました。また、海水淡水化においても浸透圧差を駆動力として利用するFO膜法は、従来の蒸発法やRO膜法に比べて、少ない電力で海水から真水を取り出すことができます。当社グループのFO膜を採用したトレビ社(Trevi Systems Inc.)の海水淡水化実証実験(米・ハワイ州)が終了し、海水から1日当たり500㎥の真水を造り出すことに成功、海水からの真水回収率は65%を超えました。当社グループはトレビ社への出資を通して、世界の水不足をはじめとする環境課題の解決に貢献していきます。

以上、当事業に係る研究開発費は49億円です。

 

(機能繊維・商事)

衣料繊維分野では、持続可能な商品開発としてナイロン工場で発生する屑を再利用するマテリアルリサイクルのほか、産業廃棄物をケミカルリサイクルによりバージン原料に近づけた“looplon”シリーズの商品拡大中です。

また、ポリエステル分野でも製造工程中にでる廃材や廃棄製品を脱色させてからポリエステル原料に戻し再度ファイバー化する“T2T”を開発しており、廃棄焼却によるCO削減や化石原料使用低減に貢献しています。

工業材料分野では、安全・防災・環境対応資材として、断熱シート製品の拡販、寒冷紗の改良、FRP型保護材開発、新エネルギー要素技術開発、塗膜防水および路面緑化の検討を行っています。

機能資材分野では、第2種医療機器製造販売業、化粧品製造販売業、医薬部外品製造販売業の各許可証を得て、今後商品の拡大を積極的に行います。

機能樹脂分野では、リサイクルPET安全コーン“ECONEO”の上市を行いました。

エアバッグ用基布事業では、カーボンニュートラルの取り組みとして、植物由来のバイオ原料やリサイクル原料によるポリエチレンテレフタレート(PET)繊維を使った新規織物の開発に取り組みます。又、製造工程におけるCO削減を目指してタイの織物工場に太陽光発電システムを導入します。尚、現在主流のナイロン織物に関しましては、昨年稼働したタイのナイロン原糸工場で生産された原糸を使用してグローバルに安定した織物供給体制構築に取り組んでいきます。

以上、当事業に係る研究開発費は4億円です。

 

(全社共通)

イノベーション部門においては、全社成長戦略(ソリューション志向)に基づいた価値提供領域及び大型テーマの設定とテーマ推進の加速をはかりました。

全社共通の研究開発組織であるコーポレート研究所は、当社グループの将来を担う新製品・新技術の開発を行うだけでなく、各種分析・評価業務、コンピューターシミュレーションなどデジタル技術を用いた解析業務を通じて、研究開発全般および当社の製造、販売活動をも支援する全社インフラとしての機能も有しています。また、総合研究所に設置したデジタル戦略室の活動においては、MI(Materials Informatics)技術の展開を所内全域に広めており、各研究員のMI技術能力の向上とともに、開発実務への応用を進めました。

一方、研究開発の中心拠点である総合研究所では所内インフラのリニューアルを進めており、第一期工事として2023年1月に竣工した「パイロットプラント棟」の運用を開始しました。

具体的な研究開発例として、東洋紡エムシー株式会社と共同開発した電子材料の接着剤用途向け環境配慮型ポリエステル系高耐熱接着シートや、細胞が分泌し細胞間の情報伝達や細胞の修復に重要な役割を果たすことが明らかになっているエクソソームを精製する精密ろ過膜の開発が挙げられます。今後、社会課題の解決に向け、早期の市場投入を目指した研究開発を加速していきます。

新規事業企画・開発においては、引き続き、オープンイノベーションの考え方の下、ナショナルプロジェクトへの参画や国内外の企業、大学、研究機関との連携を積極的に進めました。また、2022年4月に神戸大学と、同年6月には大阪公立大学と包括連携協定を締結し、それぞれの大学と「環境、ライフサイエンス分野における共同研究の成果を社会に実装する」こと 、「大阪を起点とした地域社会の発展、社会課題の解決に向けた貢献を目指す」ことを狙いとした取り組みを進めています。

以上、当事業に係る研究開発費は43億円です。