第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当グループが判断したものです。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当グループは「輪と和を通じて、より大きく社会に貢献する」を経営理念とし、「株主、社員、地域、歴史・文化、環境」重視を基本方針とする経営を推進しています。グループの中核をなす医薬品事業は「世界の人びとの健康に貢献できる独創的な医薬品を開発し提供する創薬研究開発型企業を目指す」を経営ビジョンとし、「患者さんのために」という観点から医薬品の研究開発、品質の高い医薬品製造、適正使用のための医薬情報活動、効率的な業務とトータルマーケティング体制の構築に向けて積極的に取り組んでいます。また、グループ各社は医薬品事業を補佐するとともに、その技術を活かし、国内外で事業活動を展開しています。

 

(2) 目標とする経営指標

当社は、最重要経営指標をROEとし、将来の「あるべき姿」としてROE8%以上を目標としています。「あるべき姿」実現のため、研究開発投資(AI創薬をはじめとする創薬研究、新規テーマの導入、臨床テーマの開発推進、研究開発設備の拡充など)、DXなどへのICT戦略投資、生産設備をはじめとする設備投資などを積極的に展開し、その過程においては、あらゆる観点から効率性を追求し収益性を改善させていきます。

(3) 会社の対処すべき課題

国際情勢の悪化、円安の進行、原材料・エネルギー価格や物流費の高騰、気候変動等により、世界並びにわが国経済の見通しは、一層の不透明感を増しています。また、わが国においては、少子高齢化が進展する中で、国民皆保険制度を維持するための社会保障制度の再構築が進められ、医療用医薬品に対しては、毎年の薬価改定をはじめとした薬価制度改革や、後発品使用促進策等の薬剤費抑制策が実施されています。このような状況下、製薬産業には、医薬品の安定的な供給、希少疾病や新興感染症、難治性疾患の治療、生活の質(Quality of life)の向上におけるイノベーションが求められています。研究開発競争が激化する一方、新薬の研究開発は高度化、困難化し、大きな投資を必要としており、研究開発リスクはますます増大しています。

 

激変する経営環境において、当社が将来にわたって社会的使命を果たし、安定的に成長していくための第一義的課題は、医療ニーズに応じた特長ある新薬を継続的に上市していくこと、高品質な製商品を安定して供給できる体制を構築、維持すること、そして、適切な情報提供活動により必要な患者さんに適正に処方される販売体制を構築することにあります。当社は、創薬研究開発型企業としての持続的成長を成し遂げるため、2020年4月より中期5ヵ年経営計画「PEGASUS」をスタートさせ、以下の4つの課題に取り組んでいます。

① 国内売上の拡大

重点戦略製品の育成、ライセンスイン、臨床開発後期ステージの開発プロジェクトの事業化により、新薬を中心とする製品ラインナップを構築するとともに、希少疾病領域における情報提供・販売体制を構築し、国内医療用医薬品事業の売上を拡大します。また、ヘルスケア食品事業においては、高品質な製品の提供と新製品の開発によって収益を拡大します。

② 海外収益基盤の強化

既存製品の海外収益を確保することに加え、リンザゴリクスを海外で発売し、新たな海外収益を獲得します。さらに、ライセンスアウトによる新たな海外収益基盤の構築を進めます。

③ 開発パイプラインの拡充

低分子にフォーカスした創薬研究を推進するとともに、領域戦略に合致したライセンスインにより、将来の安定成長を支える研究開発パイプラインを構築します。

④ 経営環境の変化に対応する経営基盤の強化

法令及びコンプライアンスを遵守し、高品質な製商品の安定供給と生産性の向上に努めます。また、ステークホルダーとの良好な関係を維持するとともに、ガバナンス体制の更なる強化を図り、サステナビリティ経営を推進します。

 

また、「資本コストや株価を意識した経営の実現」に向け、創薬研究開発型企業として持続的な価値を創出するとともに、ROE8%以上、PBR1倍以上、及び政策保有株式の対純資産割合10%以下の財務状態であることを「あるべき姿」として、資本収益性の向上に取り組んでいます。

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社のサステナビリティに関する考え方及び取組は、以下のとおりです。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社が判断したものです。

 

(1)サステナビリティ基本方針

当社は、「純良医薬品を通じて社会に貢献する」「会社構成員を通じて社会に奉仕する」という経営理念のもとに、事業活動を通じて、世界の人びとの健康に貢献するとともに地球環境や社会課題の解決を目指し、企業価値向上と持続可能な社会の同時実現に取り組みます。

・イノベーションの創出を通じて、革新的な製品(医薬品、食品)を開発・提供することにより、世界の人びとの健康と医療の向上に貢献します。

・環境問題は人類共通の課題であることを認識し、気候変動対策をはじめ、自主的、積極的な地球環境保全活動に取り組みます。

・事業活動に関わるすべての人びとの人権を尊重するとともに、従業員の多様性、人格、個性を尊重した働きがいのある職場づくりに取り組みます。

・コーポレート・ガバナンスを強化・充実し、倫理性、透明性、公平性の高い企業活動により、ステークホルダーとの良好な関係を保ち、持続的な企業価値の向上に取り組みます。

 

(2)マテリアリティ

当社事業との関連性とステークホルダーへの影響度の二軸から重要度の高い項目を絞り込み、事業活動と経営基盤に関するマテリアリティを7つに分類しました。事業活動に関するマテリアリティ分類としては、「社会的に有用な製品の開発・提供」「高品質な製品の安定供給」及び「医療関係者、患者さんとのコミュニケーション」、経営基盤に関するマテリアリティ分類としては、「ガバナンスの強化・充実」「働きがいのある職場づくり」「環境への取り組み」及び「良き企業市民としての社会貢献」を定め、そこから15の具体的なマテリアリティを特定しました。

 

マテリアリティの特定プロセス


 

中期経営計画「PEGASUS」と連動する目標および活動指標(KPI)については、各マテリアリティの関係部門により検討されたKPI項目と目標値を、サステナビリティ推進委員会で検討・設定後、取締役会に付議・報告し、決定しました。

なお、各マテリアリティの具体的な内容、主な取り組み、KPI目標および2023年度の実績については、コーポレートサイトに掲載しています。https://www.kissei.co.jp/sustainability/materiality/

 

 

ガバナンス

当社のサステナビリティ活動は、サステナビリティ推進委員会が中心となり推進しています。当委員会は、サステナビリティ関連課題に精通する取締役を委員長とし、取締役会の諮問機関としてコーポレート・ガバナンス体制に組み込まれ、取締役会との連携を密にして活動しています。

サステナビリティ推進委員会では、マテリアリティの特定や、主な取り組みに対するKPIの設定、進捗状況の確認など、サステナビリティ活動における諸施策を立案するとともに、関係部門との連携のもと、これを推進しています。その活動内容は、半期に1回以上の頻度で取締役会および監査役会に付議・報告され、取締役会が管理、監督しています。

なお、当社のコーポレート・ガバナンス体制については、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」に記載しています。

 

リスク管理

当社は、取締役会の諮問機関として、リスク管理委員会及びコンプライアンス委員会を設置し、全社的なリスク管理の基本方針及び管理体制を「リスク管理規程」に定めるとともに、リスク管理委員会が、当社並びにグループ会社において発生し得るリスクの発生防止に係る管理体制を整備し、その進捗状況を監視しています。また、コンプライアンス委員会では、コンプライアンス推進の適正化を図るとともに、コンプライアンス・プログラムの実践に取り組んでいます。

サステナビリティ関連リスクについても重要な経営リスクの一つとして捉えており、サステナビリティ推進委員会で特定したリスクについては、年に1回以上の頻度で事業活動に及ぼす影響度の見直しを行い、影響度に応じて費用対効果と緊急度を勘案し、優先順位をつけて対応策を講じています。その管理状況については、サステナビリティ推進委員会より取締役会および監査役会に付議・報告するとともに、リスク管理委員会へ報告し、全社の総合的リスクマネジメントにつなげています。

 

戦略

(1) 人的資本に関する取り組み

当グループは、「輪と和を通じて、より大きく社会に貢献する」というグループ経営理念のもと、「キッセイグループ行動憲章」において、従業員の多様性、人格、個性を尊重し、その資質の向上に努めるとともに、安全で働きやすい労働環境を確保することを当グループの行動原則としています。

なお、人的資本に関する戦略並びに指標及び目標については、当グループ各社において関連するデータの管理とともに具体的な取り組みを実施していますが、その内容は各社の業態や人事諸制度の違いなどから、必ずしも同一ではないため、提出会社の取り組みについて記載しています。

 

①人材育成方針

経営理念にあるとおり、当社の存在意義は純良医薬品・会社構成員を通じた社会に対する貢献と奉仕にあります。新薬開発の高度化、開発リスクが高まる中で、中長期的に継続して独創的な医薬品を開発し上市するには、経営環境の変化に的確かつ迅速に対応し、より高度な専門性を持ち独自性と卓越性を有した自律的かつプロフェッショナルな人材を育成していく必要があります。このような考えのもと、当社では「自律型人材の育成」をメインビジョンとして掲げ、以下の3点を人材育成方針としています。

・会社は、社員の成長と会社の発展の同時実現を目指す教育・学習環境を提供する。

・会社は、管理者らによる実効性の高い指導・育成を支援し、計画的な次世代育成を促進する。

・会社は、社員の自己啓発を奨励し、自発的な能力・キャリア開発を支援する。

 


 

②社内環境整備方針

自律型人材を育成していく環境整備として、当社は「働きがいのある職場づくり」を経営基盤に関するマテリアリティの一つとして特定しています。「働きがいのある職場」では、社員一人ひとりが「仕事へのやりがい、使命感」、「仕事の達成感」あるいは「仕事を通じた自己の成長」を実感しているものと考え、社員のエンゲージメントを重視し、定期的に測定しています。その分析結果をもとに、新たな人事施策の検討・実施につなげるとともに、次のような取り組みをしています。

 

(複線型人事制度の運用)

現在の経営環境は予見性に乏しく、常に変化の渦中にあります。このような中で当社が持続的な成長を遂げるためには、「年齢や年数」にとらわれることなく早期から存分に能力を発揮し、社員同士がお互いに強く刺激し合うことによって生まれる高次の一体感を醸成させること、そして、これまでの仕事観や価値観の転換を促し、他人や標準モデルとの比較ではなく、自らが起こすべき行動や果たすべき結果に対して、より健全な緊張感の宿る企業文化へと進化させていくことが重要であると考えます。このような考えのもと、次の3つをコンセプトとする多様性と将来性を重視した複線型人事制度を運用しています。

・果たしている役割の適正な処遇反映

果たしている役割(行動の発揮と担当職務)に焦点を当てた「役割資格制度」を運用し、発揮されている行動のレベルを問う「行動評価」、担当職務の大きさやその遂行実績を問う「職務評価」等の結果を処遇に反映しています。

・スペシャリストの活躍機会の強化

複雑、高度化する事業環境において、一層の活躍が期待される高度専門人材をより適正に処遇することで、社員の貢献意欲に応えるとともに、多様なキャリア開発を支援することを目的として、管理職については、主に組織や人のマネジメントを担うライン管理職以外に、高度専門性を駆使して経営課題に取り組むことに主眼をおくプロフェッショナル管理職を設けることにより、キャリアパスを複線化しています。

・チャレンジ意欲の奨励

資格制度において、上位等級への昇格判定に必要な期間として設けていた標準滞留年数を廃止し、昇格制度に「昇格志願」のステップを組み入れることにより、成長意欲の高い人材の早期昇格を推進しています。

 

(教育制度の運用)

人事制度と連動する形で、階層別研修を拡充しマネジメント層の強化を図っているほか、社員のより能動的な学習やリスキリングを促すために、eラーニングの拡充を通じて時間や場所の制約を受けない学習環境を整備し、ビジネス・IT知識、英会話などの継続的学習を奨励しています。

 

 

主な階層別教育及びその他の教育

プログラム

目的

新任部門長教育

部門長に求められる役割の本質と実践方法を学び、組織運営から事業経営への早期移行を促す。

中堅管理職教育

これまでのマネジメント経験を踏まえ、さらに高く、広い視点からの方針策定・組織運営の実践を目指す。

新任管理職教育

管理職に必要な知識、高度なマネジメント知識と役割にふさわしい専門知識を向上させ、期待役割発揮を支援する。

マネジメント基礎教育

マネジメントの原理・原則、人材育成に関する知識などを習得すると同時に、次期管理職候補として中核的役割を果たし、管理職へのトランジションに向けた動機づけを行う。

メンター研修

先輩社員が新入社員のOJTをメンターとして担当することにより、新入社員の早期戦力化を図るとともに、メンター自身の指導力向上、リーダーとしての成長を促す。

外部Web学習サービス

DXを推進できる人材を発掘し育成する。

通信教育(100コース)

社員の自己啓発を促進し、能動的かつ継続的に学習する意識の向上を図るとともに、リスキリングを促進する。

 

 

(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョンとジェンダー平等の推進)

様々な考え方や価値観を持った社員が相互に認め合い、刺激し合うことが企業にとってダイナミズムと創造性をもたらすとの認識のもと、「キッセイ薬品行動憲章」において「従業員の多様性、人格、個性を尊重し、倫理観の高揚と資質の向上に努めること」を行動規範の一つとして掲げ、全ての取締役及び社員がその実践を基本としています。

具体的には、「プラチナくるみん」の認定維持を通じた次世代育成支援や、女性活躍推進法に基づく女性社員が活躍できる基盤整備、65歳までの継続雇用制度の運用、障がい者がそれぞれの能力を発揮しながら業務に従事できる環境の提供などに取り組んでいます。

 

(健康経営の推進)

当社の経営理念の実現と行動憲章の実践のためには、まず社員一人ひとりが、心とからだの両面において健康でなければならないという考え方から、「キッセイ薬品健康宣言」を制定しています。そして、キッセイ健康保険組合と緊密に連携を取りながら、社員及びその家族の健康保持、増進に努めるとともに、社員一人ひとりが、「生きがい」や「働きがい」を感じながら、その能力を十分に発揮できる、健康的で活力のある職場風土づくりに取り組んでいます。

また、2024年3月に「健康経営優良法人2024(大規模法人部門)」の認定を取得し、2020年以降5年連続の取得となりました。

 

(2) 気候変動に関する取り組み(気候関連財務情報開示タスクフォース提言に基づく情報開示)

気候変動対策については、経営基盤のマテリアリティの一つとして「気候変動への対応」を特定しています。気候変動が当社事業に及ぼす影響については、サステナビリティ推進委員会の下部組織であるTCFDプロジェクトチームが中心となり、気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures:「TCFD」)の枠組みで、1.5℃シナリオ※1及び4℃シナリオ※2を想定し、グループの中核を担う医薬品事業において自社事業所が受ける影響を対象とし、リスクと機会を特定しました。特定したリスクと機会については、財務的な影響度と発生可能性の大きさから分析、評価を行い、事業戦略に与える影響度から優先順位に応じて、対応策を検討しました。

※1.1.5℃シナリオはIEA NZEシナリオ等を参考に想定    

※2.4℃シナリオはIPCC RCP8.5シナリオ等を参考に想定

 

①シナリオ分析の結果

移行リスク(1.5℃シナリオ)

分類

優先度が高いリスク

当社への影響

影響度

対応策

事業リスク

移行リスク

脱炭素関連の政策・法規制強化

CO2排出量に対する炭素税の加算

2030年度の想定炭素価格130$/t-CO2※3から影響額を約2億円と試算

・再生可能エネルギーの導入や省エネ設備への更新、省エネ活動の一層の推進によるCO2排出量の削減

CO2排出量規制等の新規創設・強化される脱炭素政策に対応した、設備投資コストの増額

・設備更新時のエネルギー効率の高い省エネ設備等への計画的な置き換え(助成金の利用等も考慮)

気候変動に対する取り組み

気候変動への取り組み不足による、ステークホルダーからの当社に対する評価の低下

・気候変動問題への持続的な取り組みと適切な開示によるステークホルダーからの信頼獲得

 

※3 炭素価格:IEA WEO 2021(Net Zero Emissions by 2050 Scenario)の2030年先進国炭素税の設定を使用

*影響度:大(年間5億円以上)、中(年間1億~5億円)、小(年間1億円以下)を基準として評価

*事業リスクは影響度と発生頻度、対応順等を考慮し総合的に評価

 

物理的リスク(4℃シナリオ)

分類

優先度が高いリスク

当社への影響

影響度

対応策

事業リスク

物理的リスク(急性)

気象災害の激甚化、発生頻度上昇

洪水被害により当社重要拠点が浸水し、操業停止となる。復旧に際して必要となる費用(総計約36億円)、および開発計画への影響、安定供給への影響

・洪水等の災害発生により想定される拠点被害について、適切な対応策を講じることによる損害の最小化

 

原材料調達先の被災による製造の中断、および交通網の遮断による安定供給への支障

・各製品の特性に応じた在庫の確保と分散保管による安定供給体制の維持向上

・サプライヤーの複線化による調達リスクの軽減

 

物理的リスク(慢性)

自然災害発生率の増加に伴う保険料率の増加

・保険料と実際のリスクを適切に判断し、リスクヘッジに資する保険に加入

 

気温上昇

気温上昇に伴う、空調コスト増加が想定されるが影響は限定的

・社員への省エネ啓発活動の継続と推進

・高効率/省エネ設備の導入、切り替え

 

水不足

水資源枯渇に伴う水の使用制限による操業中断、水資源確保のためのコスト増加

・周辺の取水環境の情報収集の強化と、水資源取得リスク※4を想定した緊急時対応体制の構築

 

※4 水リスクについては、AQUEDUCT Water Risk Atlasを使用し、リスクを判定

*影響度:大(年間5億円以上)、中(年間1億~5億円)、小(年間1億円以下)を基準として評価

*事業リスクは影響度と発生頻度、対応順等を考慮し総合的に評価

 

 

機会

分類

項目

当社への影響

影響度

機会

資源の効率性

高効率な新規技術/設備導入により、エネルギー調達コストや原材料コストの削減

エネルギー源

エネルギー源は重油、ガス、電力を使用。電力の再生可能エネルギー利用率は77%となる。再生エネルギーの導入に加え、燃料転換による将来の化石燃料枯渇に対する事業の安定化

製品/サービス

気温上昇に伴い罹患率が増加する疾患領域に対する既存医薬品の需要の高まり

市場

気温上昇に伴い罹患率が増加する疾患領域に対する治療薬需要の増加、開発機会の拡大

レジリエンス

気候変動リスク評価と気候変動対策の継続的実施によるリスク最小化、事業安定性の強化

その他

気候変動への積極的な取り組みと適切な開示によるステークホルダー(顧客、従業員、投資家、学生)からの信頼獲得、評価向上による企業価値創出

 

*影響度:大(年間5億円以上)、中(年間1億~5億円)、小(年間1億円以下)を基準として評価

 

1.5℃シナリオによる脱炭素化への移行リスクとしては、将来の脱炭素関連の政策・法規制の強化によるコストの増加や、気候変動への取り組み不足によるステークホルダーからの評価低下があげられました。脱炭素化が達成されず平均気温が4℃上昇するとした4℃シナリオにおいては、物理的リスクのうち、急性リスクとしては台風や豪雨等での水害による影響が、また慢性リスクとしては、気温上昇による空調コストの増加や水資源確保のためのコスト増加等の可能性を認識しています。一方で、高効率設備導入によるエネルギー調達コストの削減や気候変動に対する積極的な取り組みや適切な情報開示による企業価値の向上等を「機会」として捉え、今後も脱炭素化とレジリエンスの強化を推進し、持続的な企業価値の向上を図ります。

なお、これらのシナリオ分析・評価の結果、事業戦略に重大な影響を及ぼす恐れのあるリスクは特定されませんでした。

 

指標及び目標

(1) 人材育成方針及び社内環境整備方針に関する指標と目標について

①働きがいのある職場づくりと社員のエンゲージメントレベル

当社の経営基盤に関するマテリアリティの一つである「働きがいのある職場づくり」を推進するために、当社では社員のエンゲージメントを重視し、「人事に関する意識調査」としてエンゲージメントレベルや人事諸制度への満足度を定期的に測定しています。社員が自分の会社や仕事についてどう思い、人事諸制度をどのように捉え、何を重要視しているかなどを把握し、人事施策の検証、効果的な推進に活用しています。

この調査は、総合満足度と5つのカテゴリー(エンゲージメント、職務満足、目標管理制度、処遇・キャリア、人事制度・ワークシチュエーション)で構成された調査で、各設問について「満足度」と各設問が会社生活においてどの程度重要であるかを「重要度」として測定しています。そして、満足度と重要度の二つの指標からポートフォリオ分析を行い、「重点維持項目」「維持項目」「重点改善項目」「改善項目」を特定しています。現中期5ヵ年経営計画「PEGASUS」中に実施した調査の結果(2022年)は下表のとおりです。

次期中期経営計画年度に実施予定の調査では、人事制度や教育制度の運用を通じて、エンゲージメント・職務満足に関する設問の平均点を3.30ポイント以上にすることを目標としています。

 

 

人事に関する意識調査結果

項目

エンゲージメント・職務満足に関する設問

満足度評価尺度の平均

2019年

2022年

エンゲージメント

キッセイ薬品をもっとよくしたい

3.61

3.56

キッセイ薬品の社員であることを誇りに感じている

3.26

3.27

将来もキッセイ薬品とともに成長していきたい

3.40

3.38

キッセイ薬品の経営ビジョンに共感している

3.53

3.58

職務満足度

目標以外の業務でも必要だと思った事は上司に提案し実行している

3.22

3.23

仕事にやりがいを感じている

3.18

3.22

仕事は会社の目標達成に重要な意味を持っている

3.40

3.42

仕事は自分の能力を十分活かすことができる

3.15

3.17

仕事の達成感を感じることができる

3.10

3.13

仕事を通じて成長を実感できている

3.09

3.12

仕事を通じて社外顧客に満足感をもってもらえる製品やサービスを提供できている

2.97

3.00

エンゲージメント・職務満足に関する設問の平均

3.26

3.28

 

※満足度評価尺度:「大いにそう思う(4点)」「ある程度そう思う(3点)」「あまりそう思わない(2点)」

「全くそう思わない(1点)」

 

②ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン指標における2023年度実績と2024年度目標

項目

2023年度実績

2024年度目標

女性社員の育児休業取得率

100%

100%

出産後1年後の在職率

100%

100%

男性社員の育児休業取得率

62.0%

80%以上

男性社員の平均勤続年数に対する女性社員の平均勤続年数の割合

81.6%

80%以上の維持

障がい者雇用率

2.67%

2.5%以上

 

 

その他指標における2022年度実績と2023年度実績

項目

2022年度実績

2023年度実績

育児短時間勤務者数

33名

25

介護短時間勤務者数

1名

3

 

 

③健康経営指標における2023年度実績と2024年度目標

項目

2023年度実績

2024年度目標

ストレスチェック受検率

97.2%

100%

メモリアル休暇取得率

99.3%

100%

 

※年次有給休暇の取得促進を目的として、年3日を誕生日などの記念日に計画的に取得する制度

 

 

(2) 気候変動に関わる指標と目標について

気候変動に関わる指標としては、経営基盤のマテリアリティ「気候変動への対応」におけるKPIとして、CO2排出量の削減及び再生可能エネルギーの利用率を設定しています。2050年カーボンニュートラルに向けて、当社における中期的な目標として以下を設定し、活動を推進しています。

・2030年度CO2排出量目標(Scope1+2):2013年度比46%削減

・2030年度再生可能エネルギー利用率:全電力使用量の74%以上

2022年度より再生可能エネルギーを順次導入した結果、2023年度の再生可能エネルギー利用率は約77%で、2030年度の目標である74%を前倒しで達成し、CO2排出量は2013年度比で年間約7,200トンの削減となりました。今後は、再生可能エネルギーの利用を積極的に推進するとともに、Scope1のCO2排出量の削減に注力してまいります。

 

CO2排出量

(単位:トン)

 

2021年

2022年

2023年

Scope1

10,270

10,374

10,485

Scope2

5,729

3,702

759

 

 


 


 

3 【事業等のリスク】

当グループの財政状態及び経営成績に影響を及ぼす可能性のある主なリスクには以下のようなものがあります。文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当グループが判断したものです。

なお、当該リスクが顕在化する可能性の程度や時期、当該リスクが顕在化した場合に当グループの経営成績等の状況に与える影響については、合理的に予見することが困難であるため記載していません。当社は、リスク管理の基本方針及び管理体制を「リスク管理規程」において定めるとともに、取締役会の諮問機関であるリスク管理委員会のもと、当グループにおいて発生し得るリスクの発生防止に係る管理体制を整備し、その進捗状況を監視しています。

 

(1) 医薬品の研究開発に係るリスク

新薬の研究開発から承認・発売までは多額な費用と長い期間を要します。当社は創薬研究から非臨床試験、臨床試験、承認申請、承認取得まで、想定されるスケジュールと定期的な見直しによって中長期的な業績を試算していますが、有用な化合物を順調に発見できるとは限らず、また開発中の新薬あるいは効能追加等について、予測しているとおりの有用性を証明できるかどうか、いつ承認を得ることができるかを確実に予測することはできません。

また、海外における開発・販売等の権利を許諾した化合物あるいは製品については、導出先企業の経営状況やポートフォリオの変化、また許諾地域での開発、薬務規制等への対応に関して、想定通りに進捗しない可能性があります。

 

(2) 医薬品行政の動向によるリスク

日本国内においては、人口の少子高齢化に対応した社会保険制度の再構築が進められ、医療においては国民皆保険制度を維持するため、毎年の薬価改定を始めとした薬価制度改革などの薬剤費抑制策が実施されています。今後、更なる医療保険制度の改定を含む医療・薬務行政の抜本的な改革や規制の厳格化があった場合は、業績あるいは財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(3) 他社医薬品との競合によるリスク

販売しています医薬品と同種の適応をもつ他社医薬品との競合に加え、先発医薬品の特許満了後に発売される同成分の後発医薬品との価格的な競合に直面します。これらの競合は既存製品の売上に大きな影響を及ぼす可能性があります。

 

(4) 医薬品副作用発現によるリスク

医薬品には、開発段階では発見できなかった未知の副作用が発現する可能性があります。予期せぬ副作用や重篤な有害事象が発現した場合には、その使用方法が制限されたり、場合によっては販売中止になる可能性もあります。

 

(5) 医薬品の品質に関するリスク

最新の法令、規則及びガイドライン等を遵守して製造管理・品質管理体制を構築していますが、品質上の問題の発生により製品回収等を行うことになった場合は、業績あるいは財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(6) 知的財産に関するリスク

当グループが知的財産権を適切に保護できない場合には、他の第三者が当グループの技術等を使用して、当グループの市場における競争優位性を阻害する可能性があります。一方、当グループの事業が他の第三者が所有する知的財産権に抵触した場合は、係争やそれに伴う損害賠償、当該事業の中止につながる可能性があります。

 

(7) 訴訟に関するリスク

現在、当グループの経営に影響を与えるような訴訟は提起されていませんが、当グループが国内外で継続して事業活動を行う過程において、特許関連、製造物責任、環境関連、労務関連、公正取引等に関し訴訟を提起される可能性があります。

 

(8) 情報セキュリティ及び情報管理に関するリスク

当グループが使用する各種情報システムに対するサイバー攻撃等により業務が阻害される可能性があります。また、当グループが保有する個人情報や機密情報の保護・管理については、社内規程の制定、社員への教育・訓練等を通じて、情報流出の防止に細心の注意を払っていますが、予期せぬ事態により情報の流出・漏洩が発生する可能性があります。これらが顕在化した場合には、当グループの社会的信用の低下等により、業績あるいは財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(9) サプライチェーンに関するリスク

地震、台風等に起因する火災、水害等の事故や、新型インフルエンザ等によるパンデミックの発生、さらには地域紛争の勃発などにより、当グループの事業所及び取引先が直接あるいは間接的に多大な被害を受けた場合、サプライチェーンが寸断されることにより、事業活動が縮小または停滞し、活動再開までに時間的、金額的損失が発生することで、業績あるいは財政状態に重大な影響を与える可能性があります。

新たな感染症等の発生によるパンデミックに対しては、「リスク管理規程」並びにその他社内規程等に基づき、従業員及び関係者の安全確保と製品の安定供給を重視した対策を実施しています。

 

(10) 保有資産に関するリスク

当グループは、保有する事業用資産及び投資有価証券等について、四半期毎にグループ会計方針に従って評価を行っています。事業用資産については、将来における投資額の回収が見込めない状況になった場合には、減損損失を計上する可能性があります。また、投資有価証券等については、市場価格のあるものは相場価格の変動により、市場価格のない非上場株式等については当該会社の純資産、将来の事業計画等を総合的に勘案し、減損損失を計上する可能性があります。

 

(11) 繰延税金資産の回収可能性に関するリスク

繰延税金資産の回収可能性について、回収可能性を判断する十分な課税所得を得られない場合には、繰延税金資産の取崩しが発生する可能性があります。

 

(12) 環境保全に関するリスク

医薬品の研究や製造の過程で使用される化学物質等の中には、環境に影響を与える物質も含まれています。各事業所においては厳格な管理を実施し環境保全に努めていますが、これらが周辺の環境汚染の原因と判断された場合、事業所に対する法的な措置が講じられたり、環境の回復や改善のための費用等の発生により、業績あるいは財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

当グループは、経営理念に基づき、グループ行動憲章において「環境問題の重要性を認識し、自主的、積極的にその保全に取り組みます。」と定めています。具体的には、当社及びグループ会社におけるISO14001環境マネジメントシステムの推進、100%再生可能エネルギー電力の利用等によるCO2排出量削減、長野県内の再生可能エネルギー電源の拡充を目的とする「信州Green電源拡大プロジェクト」への参画などを行いました。

環境保全と関連する気候変動リスクについては、「第2  事業の状況  2  サステナビリティに関する考え方及び取組」に記載しているほか、当社ウェブサイト及び統合報告書等で情報開示を行っています。

 

なお、上記以外にも様々なリスクがあり、ここに記載されたものが当グループのすべてのリスクではありません。

 

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものです。

 

(1)経営成績

当連結会計年度におけるわが国経済は、コロナ禍からの回復と歩調を合わせ社会経済活動が正常化する一方で、不安定な世界情勢に加え歴史的な円安水準や物価高騰の影響などにより、先行き不透明な状況で推移しました。

医薬品業界においては、薬価制度改革をはじめとする医療費抑制策の一環として、2022年4月の薬価改定に続き、2023年4月にも薬価の中間年改定が実施されるなど、引き続き厳しい経営環境のもとに推移しています。また、情報サービス業界において旺盛なICT需要が継続する一方、建設請負業界、物品販売業界においては設備投資意欲に持ち直しの動きが見られるものの、足元の景気は個人消費を中心に力強さに欠け、依然として厳しい競争環境下にありました。

このような状況下、当連結会計年度の業績は以下のとおりとなりました。

 

前連結会計年度
(自  2022年4月1日
    至  2023年3月31日)

当連結会計年度
(自  2023年4月1日
    至  2024年3月31日)

増減率(%)

売上高(百万円)

67,493

75,579

12.0

営業利益又は営業損失(△)(百万円)

△1,129

4,017

経常利益(百万円)

598

6,142

925.9

親会社株主に帰属する
当期純利益(百万円)

10,528

11,160

6.0

 

・売上高の状況

医薬品事業の売上高は、63,348百万円(前連結会計年度比12.6%増)となりました。当社は、2023年4月に慢性特発性血小板減少性紫斑病治療薬「タバリス錠」を、同年12月に透析患者におけるそう痒症治療薬「コルスバ静注透析用シリンジ」をそれぞれ新発売しました。これら新製品の売上に加え、過活動膀胱治療薬「ベオーバ錠」、2022年度に新発売した顕微鏡的多発血管炎・多発血管炎性肉芽腫症治療薬「タブネオスカプセル」並びに潰瘍性大腸炎治療薬「カログラ錠」の伸長、さらにはコ・プロモーションフィーなども増加し、増収となりました。

情報サービス事業の売上高は8,399百万円(前連結会計年度比1.4%増)、建設請負事業の売上高は3,022百万円(前連結会計年度比29.0%増)、物品販売事業の売上高は809百万円(前連結会計年度比30.4%増)となりました。

・利益の状況

利益面では、増収に加え、売上原価率の改善、研究開発費を主とした販売費及び一般管理費の減少などにより、営業利益、経常利益、親会社株主に帰属する当期純利益は、増益となりました。なお、営業外収益として有価証券売却益及び有価証券評価益を、特別利益として投資有価証券売却益をそれぞれ計上しています。

 

生産、受注及び販売の実績は、次のとおりです。

① 生産実績

当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

医薬品事業

30,599

18.5

情報サービス事業

3,013

13.6

物品販売事業

810

47.0

合計

34,422

18.5

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.金額は、販売価格によっています。

 

② 商品仕入実績

当連結会計年度における商品仕入実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

医薬品事業

21,542

5.7

情報サービス事業

2,180

△27.0

物品販売事業

295

18.5

合計

24,018

1.7

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.金額は、仕入価格によっています。

 

③ 受注状況

当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前期比(%)

受注残高(百万円)

前期比(%)

情報サービス事業

7,125

△3.7

345

△15.0

建設請負事業

3,550

18.6

2,268

34.0

合計

10,675

2.8

2,613

24.5

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.医薬品事業は販売計画に基づく生産計画により生産しています。

 

④ 販売実績

当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりです。

セグメントの名称

金額(百万円)

前期比(%)

医薬品事業

63,348

12.6

 

泌尿器科用薬剤

21,270

17.9

 

腎・透析科用薬剤

12,830

△5.6

 

希少疾病用薬剤

6,079

446.1

 

代謝内分泌科用薬剤

5,631

△9.2

 

産婦人科用薬剤

696

△15.2

 

眼科用薬剤

400

△24.5

 

その他の薬剤

7,328

8.2

 

ヘルスケア食品

3,545

2.4

 

技術料

714

△32.2

 

その他

4,850

4.3

情報サービス事業

8,399

1.4

建設請負事業

3,022

29.0

物品販売事業

809

30.4

合計

75,579

12.0

 

(注) 1.セグメント間取引については、相殺消去しています。

2.医薬品事業における主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合

相手先

前連結会計年度

当連結会計年度

金額(百万円)

割合(%)

金額(百万円)

割合(%)

アルフレッサ㈱

11,183

16.6

11,446

15.1

㈱スズケン

8,471

12.6

8,934

11.8

㈱メディセオ

8,496

12.6

8,632

11.4

 

 

(2)財政状態

・資産の状況

当連結会計年度末の総資産は260,929百万円となり、前連結会計年度末に比べ39,729百万円増加しました。流動資産は現金及び預金などが減少しましたが、売掛金、棚卸資産などが増加したことにより、3,910百万円増加し104,551百万円となりました。固定資産は投資有価証券の増加などにより、35,818百万円増加し156,377百万円となりました。

・負債の状況

当連結会計年度末の負債は39,793百万円となり、前連結会計年度末に比べ13,407百万円増加しました。流動負債は、契約負債、短期借入金が減少しましたが、未払法人税等、「その他」に含まれる未払金が増加したことなどにより、2,705百万円増加し17,663百万円となりました。固定負債は繰延税金負債の増加などにより10,701百万円増加し、22,129百万円となりました。

・純資産の状況

当連結会計年度末の純資産は221,136百万円となり、前連結会計年度末に比べ26,321百万円増加しました。その他有価証券評価差額金が増加したほか、自己株式の取得と消却を行いました。

この結果、自己資本比率は、前連結会計年度末の87.7%から84.3%となりました。

 

(3)キャッシュ・フロー

当連結会計年度における現金及び現金同等物は、前連結会計年度末より2,997百万円減少し、当連結会計年度末では45,887百万円(前連結会計年度末比6.1%減)となりました。

当連結会計年度における各キャッシュ・フローの状況は次のとおりです。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動の結果、当連結会計年度において1,677百万円の支出となりました。法人税等の支払額の減少などの一方で、売上債権及び契約資産の増加などがありました。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動の結果得られた資金は、特定金銭信託の払戻による収入が増加したことに加え、長期前払費用の取得による支出が減少したことなどにより、前連結会計年度末に比べ2,689百万円増の8,690百万円となりました。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動の結果使用した資金は、自己株式の取得や配当金の支払いなどにより、前連結会計年度末に比べ6,586百万円支出増の10,006百万円となりました。

 

(4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しています。この連結財務諸表の作成にあたっては、過去の実績や状況を踏まえ合理的と判断される前提に基づき、継続的に見積りを行っていますが、見積り特有の不確実性があることから、実際の結果と異なる可能性があります。

なお、連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5  経理の状況  1  連結財務諸表等(1)連結財務諸表  注記事項  (重要な会計上の見積り)」に記載しています。

 

5 【経営上の重要な契約等】

(1) 技術導出契約

契約会社名

契約先

契約内容

対価の受取

契約期間

国名

社名

当社

韓国

JWファーマシューティカル社

糖尿病治療薬ミチグリニドの韓国における独占的開発及び販売権

契約一時金

一定率のロイヤルティ

2003年3月~

製品の販売を終了するまで

当社

韓国

JWファーマシューティカル社

前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシンの韓国における独占的開発及び販売権

契約一時金

原薬供給

2004年3月~

本特許満了日と製品発売から10年目までのいずれか遅い方の期間

その後は1年毎自動更新

当社

イタリア

レコルダッチ社

前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシンの欧州、中東、アフリカ、オセアニアにおける独占的開発及び販売権

契約一時金

原薬供給

2004年12月~

本特許満了日と製品発売から10年目までのいずれか遅い方の期間

その後は2年毎自動更新

当社

日本

エーザイ㈱

糖尿病治療薬ミチグリニドのアセアン8ヵ国における独占的開発及び販売権

製剤供給

2007年6月~

2022年6月 

その後は1年毎自動更新

当社

日本

エーザイ㈱

糖尿病治療薬ミチグリニドの中国における独占的開発及び販売権

契約一時金

製剤供給

2007年9月~

2022年9月 

その後は1年毎自動更新

当社

日本

エーザイ㈱

前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシンのアセアン10ヵ国、インド、スリランカにおける独占的開発及び販売権

契約一時金

製剤及び原薬供給

2009年3月~

2024年3月 

その後は1年毎自動更新

当社

韓国

JWファーマシューティカル社

慢性特発性血小板減少性紫斑病治療薬ホスタマチニブの韓国における開発及び販売権

契約一時金

製剤供給

2021年6月~

いずれかの当事者により終結されるまで

当社

中国

バイオジェニュイン社

子宮筋腫及び子宮内膜症治療薬リンザゴリクスの中国における独占的開発及び販売権

契約一時金

原薬供給

一定率のロイヤルティ

2021年9月~

いずれかの当事者により終結されるまで

 

当社

台湾

シンモサバイオファーマ社

子宮筋腫及び子宮内膜症治療薬リンザゴリクスの台湾における独占的開発及び販売権

契約一時金

原薬供給

一定率のロイヤルティ

2022年11月~

本特許満了日、規制上の販売独占期間、製品発売から15年目のうち最も遅い日までの期間

当社

英国

セラメックス社

子宮筋腫及び子宮内膜症治療薬リンザゴリクスの北米及び日本などのアジアの一部を除く全ての国における独占的開発及び販売権

契約一時金

原薬供給

一定率のロイヤルティ

2023年4月~

本特許満了日、規制上の販売独占期間、製品発売から15年目のうち最も遅い日までの期間

 

(注)1.当社とアッヴィ社(米国)との前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシンの米国他における開発権及び販売権を許諾するライセンス契約は、重要性が低下したため、記載を省略しています。

2.当社とインマジンバイオファーマシューティカルズ社(中国)との慢性特発性血小板減少性紫斑病治療薬ホスタマチニブの中国における開発権及び販売権を許諾するサブライセンス契約は、2023年12月に終結しました。

3.当社とアファメドセラピューティクス社(中国)とのパーキンソン病治療薬KDT-3594の中国他における開発権及び販売権を許諾するライセンス契約は、2024年5月に終結しました。

 

(2) 技術導入契約

契約会社名

契約先

契約内容

対価の支払

契約期間

国名

社名

当社

日本

塩野義製薬㈱

脊髄小脳変性症治療薬ロバチレリンの国内での開発及び販売権

契約一時金

一定率のロイヤルティ

2006年12月~

本特許満了日と製品発売から15年目までのいずれか遅い方の期間

当社

スイス

ビフォー・フレゼニウス・メディカル・ケア・リーナル・ファーマ社

高リン血症治療薬スクロオキシ水酸化鉄の国内での開発及び販売権

契約一時金
一定率のロイヤルティ

2010年9月~

製品発売後10年と後発品の発売のいずれか遅い方の期間

当社

スイス

ビフォー・フレゼニウス・メディカル・ケア・リーナル・ファーマ社

顕微鏡的多発血管炎及び多発血管炎性肉芽腫症治療薬アバコパンの国内での開発及び販売権

契約一時金
一定率のロイヤルティ

2017年6月~

本特許満了日、規制上の販売独占期間、製品発売から10年目のうち最も遅い日までの期間

当社

アメリカ

ライジェルファーマシューティカルズ社

慢性特発性血小板減少性紫斑病治療薬ホスタマチニブの日本、中国、韓国、台湾での開発及び販売権

契約一時金

一定率のロイヤルティ

2018年10月~
いずれかの当事者により終結されるまで

当社

アメリカ

CGオンコロジー社

膀胱がん用剤CG0070(開発番号)の日本、韓国、台湾等アジア20ヵ国(中国を除く)での開発及び販売権

契約一時金

一定率のロイヤルティ

2020年3月~

ロイヤルティ等の支払義務がなくなるまで

 

 

(3) 商品導入契約

契約会社名

契約先

契約内容

対価の支払

契約期間

国名

社名

当社

日本

ファイザー㈱

フラグミン静注の国内での販売権

2022年4月~

2026年3月

当社

日本

わかもと製薬㈱

リズモンTG点眼液の国内での共同販売権

契約一時金

1999年6月~

2009年11月 

その後は1年毎自動更新

当社

日本

アストラゼネカ㈱

ゾラデックス1.8mgデポの国内での販売権

契約一時金

2022年7月~

2028年6月 

当社

日本

住友ファーマ㈱

フルスタン錠の国内での販売権

2001年3月~

2011年8月 

その後は1年毎自動更新

当社

スイス

MSDインターナショナル社

マリゼブ錠の国内での販売権

契約一時金

2020年1月~

 2024年8月 

マリゼブ錠の国内での資産(製造販売承認、商標権)の購入

2020年1月~

自社製造品の販売開始後1年目まで

当社

日本

フェリング・ファーマ㈱

ミニリンメルトOD錠及びデスモプレシン製剤の国内での販売権

契約一時金

2020年1月~

2029年3月 

但し、有効特許がある期間、遅くとも2032年2月まで、自動更新

 

 

 

(4) 取引契約関係

契約会社名

契約先

契約内容

契約期間

国名

社名

当社

日本

第一三共㈱

前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシンの国内での製剤の開発、製造、販売における実施権許諾及びそれにかかる共同開発及び共同販売

2001年3月~

開発又は販売終了するまで

前立腺肥大症に伴う排尿障害改善薬シロドシンの第一三共エスファ㈱への国内でのオーソライズド・ジェネリックの事業化に関する特許等の再実施権許諾

当社

日本

JCRファーマ㈱

腎性貧血治療薬エポエチンカッパ(遺伝子組換え)[エポエチンアルファ後続1]の国内での共同開発及び販売権

2005年12月~

製品発売後10年 

その後は1年毎自動更新

当社

日本

JCRファーマ㈱

腎性貧血治療薬ダルベポエチン アルファ(遺伝子組換え)[ダルベポエチン アルファ後続1]の国内での事業化

2019年3月~

製品発売後10年 

その後は1年毎自動更新

当社

日本

EAファーマ㈱

潰瘍性大腸炎治療薬カロテグラストメチルの国内での共同開発及び販売権

2015年3月~

両社が終了に合意するまで

当社

日本

EAファーマ㈱

潰瘍性大腸炎治療薬ブデソニドの国内での共同開発及び共同販売促進活動

2015年3月~

本特許満了日と製品発売から15年目までのいずれか遅い方の期間

 

当社

日本

杏林製薬㈱

過活動膀胱治療薬ビベグロンの国内での共同開発及び共同販売権

2016年3月~

本特許満了日と製品発売から15年目までのいずれか遅い方の期間

当社

日本

丸石製薬㈱

透析そう痒症改善薬ジフェリケファリンの透析領域における国内での共同開発及び共同販売権

2017年3月~

開発又は販売終了するまで

当社

日本

㈱三和化学研究所

二次性副甲状腺機能亢進症治療薬ウパシタ静注透析用シリンジの国内での共同販売促進活動

2021年6月~

2031年3月 

その後は相手方と合意した期間の満了まで

 

 

 

6 【研究開発活動】

当グループの中核である医薬品事業では、経営ビジョンである「世界の人びとの健康に貢献できる独創的な医薬品を開発し提供する創薬研究開発型企業を目指す」の実現のため、研究開発におけるコア領域を定め、積極的に研究開発投資を行うことにより、新薬創出と開発の加速を図っています。また、グローバル市場への進出と拡大を目指し、創製品の技術導出及び導入品のサブライセンスによる国際展開を推進しています。

医薬品事業における当連結会計年度の研究開発の状況は次のとおりです。

筋層非浸潤性膀胱がん治療薬CG0070(開発番号)は、技術導入元であるCGオンコロジー社(米国)が主導する国際共同第Ⅲ相臨床試験に参画し、日本国内における臨床試験が進められています。また、当社が創製した子宮筋腫・子宮内膜症治療薬リンザゴリクス(一般名、開発番号:KLH-2109)は、子宮筋腫を適応症として国内第Ⅲ相臨床試験を進めています。なお、脊髄小脳変性症治療薬ロバチレリン(一般名、開発番号:KPS-0373)については、2023年7月に承認申請を一旦取り下げ、追加臨床試験の実施可能性を検討中です。

海外においては、リンザゴリクスについて、子宮筋腫を適応症とする2024年度上半期中の欧州における本剤の発売に向け、技術導出先であるセラメックス社(英国)により市場導入準備が進められています。当社が、インマジンバイオファーマシューティカルズ社(中国)との間で締結した、慢性特発性血小板減少性紫斑病治療薬ホスタマチニブ(一般名、開発番号:R788)の中国における開発権及び販売権を許諾するサブライセンス契約は、2023年12月に終結しました。また、アファメドセラピューティクス社(中国)との間で締結した、当社創製のパーキンソン病治療薬KDT-3594(開発番号)の中国他における開発権及び販売権を許諾するライセンス契約についても2024年5月に終結しました。

当社は、創薬研究開発型企業として持続的成長を図るため、低分子にフォーカスした創薬研究体制を一層強化し、創薬テーマをスピーディーかつ継続的に臨床開発ステージに進めること及び、領域戦略に合致したライセンス活動により製品ポートフォリオの拡充を図っています。なお、研究開発費の総額は9,323百万円です。

情報サービス事業では、医療・介護等の社会課題解決に向けたシステム開発をはじめ、各分野向けパッケージソフトの開発、次世代技術の取り込みを推進しており、研究開発費の総額は150百万円です。物品販売事業においては、研究開発費は発生していますが、少額のため記載を省略しています。なお、建設請負事業において研究開発費は発生していません。

当連結会計年度の研究開発費の総額は9,474百万円です。