第2 【事業の状況】

 

1 【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) 会社の経営の基本方針

当社グループは、「今までにない発想と、限りない技術の追求をもって、人々が躍動する世界を創造し続ける。」を企業理念として、人と世界を結び、瞬時に多くの情報を伝えるインターフェイスであるディスプレイや、ディスプレイ技術を応用した新たなソリューションを世界のお客様にお届けしています。

製品の開発・提供においては、当社グループの価値創造の源泉である「世界初、世界一」の独自技術とそれを支える人財を強力な経営基盤として活用するとともに、製品を通じて社会と人の課題解決を目指すサステナビリティ経営を経営戦略の中心に据え、全てのステークホルダーの皆様のための価値創造を目指してまいります。

この実現に向けてグループ一丸となって取り組む成長戦略として、2022年5月に「METAGROWTH 2026」を策定いたしました。「META」は「広範囲で、高度な、普遍的な」を意味し、「METAGROWTH」は当社グループの今後の飛躍的な成長を表しております。

以下は、「METAGROWTH 2026」の2026年に向けた基本方針であります。

 

「世界初、世界一」の独自技術により、社会と人の課題を解決し、

PersonalTech For A Better World を実現

価値創造を METAGROWTH

 

 

(2) 中長期的な会社の経営戦略

① 全体戦略

当社グループは、私たちの存在で、社会が、世界が、コミュニティが今より良くなる社会の実現に向けて、現代社会の基盤技術であるディスプレイの探索と深化を進め、他の追随を許さない競争優位性を確立し、社会の発展にとって不可欠な企業として顧客価値・社会価値を創造いたします。

以下は、「METAGROWTH 2026」における3つの重点施策です。

 

(ⅰ) 「世界初、世界一」テクノロジーリーダーシップ

・ eLEAP、HMO、メタバース向けの超高精細ディスプレイ、透明ディスプレイ等、既に「世界初、世界一」独自技術で実証しているように、当社は、グローバルディスプレイ業界においてテクノロジーリーダーシップを取り戻しました。この盤石な技術基盤をさらに強化し、飛躍的な顧客価値創出と株主価値向上を実現してまいります。

(ⅱ) 革新的な技術、飛躍的な成長

・ グローバルディスプレイ業界はテクノロジー産業であり、テクノロジーカンパニーである顧客のニーズは、高いコストパフォーマンスを持つ優れたテクノロジーです。当社は、圧倒的なコストパフォーマンスを有するeLEAP等、「世界初、世界一」独自技術を通じて顧客ニーズに対応し、顧客の価値創造と競争優位性をサポートいたします。

・ コモディティ競争に参加せず、唯一無二の革新的な技術で抜本的な収益力向上と飛躍的な成長を実現いたします。

(ⅲ) GreenTech・サステナビリティ経営

・ 環境性能に優れたeLEAP、HMO等のGreenTechにより環境問題に取組むとともに、ESG意識の高い顧客の付加価値創出に寄与します。

・ 企業の存在意義は社会貢献にあり、サステナブル社会に資する経営を堅持してまいります。

・ 「世界初、世界一」への挑戦ができる会社として、社員一人ひとりの成長を支え、風通しの良い企業文化を促進いたします。

 

 

② 6つの成長ドライバー

当社グループの「世界初、世界一」の独自技術を「6つの成長ドライバー」として位置付けました。技術基盤を価値創造の源泉とし、脱過当競争・脱コモディティ化により収益性の抜本的な改善を図ります。

 

成長ドライバー

特徴

1

eLEAP
(次世代OLED)

・高輝度、長寿命、高精細

・幅広い画面サイズ・解像度に対応

・環境に優しいGreenTech、高いコストパフォーマンス

2

HMO(High Mobility Oxide)
(高移動度酸化物半導体)

・超低消費電力、高精細化、大画面化を実現するバックプレーン技術

・基盤技術として第8世代、第10世代生産ラインへ適用可能

3

メタバース
(超高精細ディスプレイ)

・圧倒的なリアリティと没入感

・高い歩留りと安定した品質

4

AutoTech

・EVに対応した統合コックピットの実現

・HUDの進化による安全性の向上

5

Rælclear(レルクリア)
(透明インターフェイス)

・世界最高の透過率

・双方向コミュニケーションで社会貢献

6

新技術・新商品・新事業

・独自技術の用途拡大

・課題解決型の新規事業

 

 

(3) 目標とする財務指標

当社グループは、成長戦略「METAGROWTH 2026」策定時に、2027年3月期を最終年度とする5か年の財務目標(KPI)を設定いたしました。しかしながら、その後の世界的インフレに伴うエネルギー費・部材費・加工費の高騰等により、事業環境が大幅に変化したことに加え、同戦略にて成長ドライバーと位置付けるeLEAP事業の中国での立ち上げに向けて中国・蕪湖経済技術開発区と2023年9月29日付で覚書を締結し、現在、2024年10月の最終契約締結を目指している状況にあるなど、事業環境が大きく変動をしており、戦略的施策も展開中であることから、これらの影響を見定め、精査した上で新たな財務指標を設定する予定です。

 

(4) 経営環境及び対処すべき課題

競争環境の厳しさやエネルギー費・部材費・加工費の高止まりから液晶事業は依然として大幅な赤字となっております。また、営業キャッシュ・フローの赤字も続いており、こうした状況を早期に解消し、業績改善を図ることが、当社の最重要課題であると認識しております。同時に、将来の成長に向けた体制構築も不可欠であり、特に次世代OLED「eLEAP」の事業拡大は喫緊の課題として対応を進めております。また、当社は、2024年3月末時点で東京証券取引所プライム市場の上場維持基準(流通株式比率)を充たしておらず、2028年3月末までの適合猶予期間内の基準適合は重要課題となっております。さらに、持続的成長への取組みも企業価値向上のために不可避な課題であると認識しており、当社は、これら全ての課題の解決に向けた取組みに注力してまいります。

 

① 収益力の改善

競争力強化と収益力向上策の一環として、当社は旧東浦工場(現東浦エンジニアリングセンター)の建物売却を2024年4月1日に完了し、鳥取工場のパネル生産も2025年3月までに終了することを決定しております。引き続きコスト削減に全力を注ぎつつ、エネルギー費、部材費・加工費の高止まりに対応するための戦略を検討し、これらのコスト増を可能な限り販売価格に反映させることに引き続き努めてまいります。また、車載分野における不採算製品からの撤退、及び液晶スマートフォン事業の戦略的縮小の方針を継続しながらも、主力工場である茂原工場における規模の経済性確保を考慮した受注活動も継続してまいります。設備投資や研究開発については、将来の収益力向上に寄与する案件を厳選し、キャッシュ・フロー重視の経営に引き続き努めてまいります。

さらに、成長戦略「METAGROWTH 2026」に基づき、「世界初、世界一」の独自技術であるeLEAPや高移動度酸化物半導体バックプレーン技術HMO等の成長ドライバーに経営リソースを集中し、事業ポートフォリオの変革を加速化します。これにより、顧客価値を創出し、過当競争及びコモディティ化からの脱却による収益力の抜本的な改善を目指します。また、知的財産権の更なる活用によるロイヤリティ収入獲得にも取り組んでまいります。

 

② eLEAP事業の拡大

当社が開発したeLEAPは、ファインメタルマスク(FMM)を利用した生産方式による既存のOLEDと比較して2倍の輝度、3倍の寿命、自由成型、高い環境性等の優位性を有しており、これらの特性により顧客からの関心は非常に高まっています。さらに、コスト面での優位性も有しているため、当社はeLEAPを今後の成長を支える重要な柱と位置付けており、その事業拡大が持続的な成長に寄与すると考えています。

eLEAPの量産は、2025年3月期下期から茂原工場で開始する予定です。しかし、強い顧客需要に対応するためには、大規模な生産能力の確保が必要となります。そのため、中国安徽省蕪湖市の蕪湖経済技術開発区と2023年9月にeLEAPの事業立ち上げに関する覚書を締結し、現在は2024年10月末までの関係当局からの許認可取得と蕪湖経済技術開発区との最終契約締結に向けて協力して取り組んでおります。eLEAPの生産能力確保とその先の事業拡大に向けて引き続き注力してまいります。

 

③ 上場維持基準への適合

当社の流通株式比率は、東京証券取引所プライム市場の「流通株式比率」の上場維持基準(35%以上)に適合しておりません。当社は、事業再生支援目的でいちごトラストとの資本提携契約を締結し出資を受けていることから、2028年3月末までを適合に向けた計画期間とする特例適用が認められており、同計画期間内での基準適合に向けて取り組んでおります。

適合のためには、2024年3月31日時点で78.2%の当社普通株式を保有するいちごトラストの持株比率低下が必要となります。また、いちごトラストが保有する当社のE種優先株式の普通株式を対価とする取得請求権の行使や第13回新株予約権の行使がなされた場合、一時的に流通株式比率が一層低下する可能性があります。

このため、当社は、いちごトラストと適合に向けた協議を継続するとともに、早期の業績改善を図り、広く投資家への訴求も続けてまいります。

 

④ 持続的成長と企業価値向上の実現

当社グループは、企業の存在意義は社会貢献にあるという信念のもと、「GreenTech・サステナビリティ経営」を成長戦略「METAGROWTH 2026」の柱の一つと位置付け、社会・環境問題の解決による持続可能な社会の実現と当社グループの持続的成長の両立を目指しております。また、この取組みをとおして、企業価値向上に努めてまいります。

技術・製品の開発においては、環境や社会への貢献を重要な基準とし、ESG意識の高い顧客の付加価値創出にも寄与します。例えば、eLEAPは、生産過程での有機材料の廃棄ロスやCO2排出量を大幅に低減する、環境に配慮した製品であり、バックプレーン技術HMOは、ディスプレイの消費電力の大幅低減によるエネルギー効率の向上に貢献します。他にも、聴覚障がい者、高齢者、外国人の情報アクセシビリティを向上する透明インターフェイスRælclearや、照明の配光特性(光の広がり方)を制御可能にした自由照明LumiFree、スマートリングを用いたセルフケア健康見守りサービスVirgo等、社会・環境の課題解決に貢献する製品やサービスの事業拡大に取り組んでおります。

加えて、温室効果ガスの排出量削減にも取り組み、数年内のパリ協定が求める水準と整合した温室効果ガス排出削減中長期目標の「SBT」の認定、及び事業を再生可能エネルギー100%で賄うことを目標とする「RE100」への加盟を目指してまいります。

 

 

2 【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組みは、次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1) サステナビリティに関する考え方

当社グループの企業理念「今までにない発想と、限りない技術の追求をもって、人々が躍動する世界を創造し続ける。」を実現するための前提となる、人、社会、地球の健全性確保に向けて「サステナビリティ基本方針」の3つの柱を掲げています。

 

① 企業倫理の遵守

当社は、人、社会、地球が健全であるために、企業倫理を遵守した経営を実施していくことを目的として、全ての役員及び従業員が遵守すべき具体的指針となる「JDI倫理規範(JDI Ethics)」を制定し、活動の基盤としています。JDI倫理規範は、人権の尊重や職場環境整備、地球環境保全への取組み、地域社会との良好な関係維持や社会通念に反する不適切な行為を行わないこと、誠実に社会的良識に従い行動すること等を謳っています。

 

② ステークホルダーとの共生と共創

当社は、「社会」「お客様及び取引先」「競合会社」「株主・投資家の皆様」「従業員」等のステークホルダーとの関係を良好に保つとともに、社会的価値の共創に努めます。

 

③ 持続可能な成長

当社では、上記の施策を基に、豊かなグローバル社会の実現への貢献、サプライチェーン全体の環境負荷低減、地域社会をはじめとする社会への幅広い貢献等に取り組むとともに、ガバナンス経営による効率化と健全性を実現し、企業として持続可能な成長を目指してまいります。

 

(2) サステナビリティへの取組

① ガバナンス

当社は、環境マネジメントシステムやコンプライアンス委員会等、環境・社会・ガバナンスに関する委員会やマネジメントシステムを設置し、サステナビリティ関連課題に取り組んでおります。グループ全体のサステナビリティ活動は、これを推進する主管部署としてCFO管掌下に設置したサステナビリティ推進部にて、各委員会やマネジメントシステムにおけるESG課題への取組みを俯瞰したうえで取組みを推進しています。また、サステナビリティ推進部は、各委員会・マネジメントシステムと連携し、サステナビリティ活動に関する基本計画の策定、教育・啓発の実施、リスクと機会の評価等を行い、その内容を取締役会へ報告しています。

取締役会は、サステナビリティ推進部、各委員会・マネジメントシステムの運営組織からの報告を受け、重要な課題や対応策についての議論と監督、及び重要な決定事項について承認を行います。また、監査委員会及び内部監査部は、サステナビリティ推進部が行うリスクマネジメントの有効性・妥当性についての監査を実施し、サステナビリティ関連の非財務情報開示活動における支援を行い、必要に応じて改善の提案をしています。

上記体制に加え、各事業部・機能部門では、事業活動を通じて社会課題を解決するための独自技術の開発、新規事業の創出に取り組んでいるほか、生産技術統括部内に設置されたサステナビリティ技術部では、各生産拠点の省エネルギー推進や再生可能エネルギーの利用拡大に向けた検討を行っています。

ガバナンスの詳細については、第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」を参照下さい

 

 

② 戦略

「企業の存在意義は社会貢献にある」との信念を基に、社会と人の課題解決を目指すサステナビリティ経営を経営戦略の中心に据えています。事業を通じた取組みを進めることで、持続的な成長と企業価値向上を実現します。また、当社グループが取り組むべきマテリアリティ(重要課題)を特定し、それぞれに対する取組みを通じて顧客価値と社会価値を創造し、社会の発展に貢献する企業としての地位を確立します。

当社グループのマテリアリティは、以下のとおりです。

 

分野

マテリアリティ

重点取組事項

価値創造/事業を通じた社会課題の解決

社会と人の課題を解決する独自技術の開発・提供

・「世界初、世界一」の技術力を活かし顧客価値を創造します。

・透明インターフェイス「Rælclear(レルクリア)」等、社会課題の解決に貢献する製品・技術を開発し、新規事業として展開します。

・環境性能に優れた次世代OLED「eLEAP」、超低消費電力バックプレーン技術「HMO」、利用エネルギー削減に貢献する自由照明「LumiFree」等のGreenTechの市場拡大により環境負荷の低減を目指します。

GreenTechによる環境問題への貢献

経営基盤の強化

サステナブルなサプライチェーンの構築

・品質、コスト、納期に加え、サプライヤー様の人権や環境等のサステナビリティへの取組みを評価し、協力関係のもと、サステナブルなサプライチェーンの実現を目指します。

コンプライアンスの徹底

・法規制の遵守のみならず、社会規範・企業倫理に則して行動します。

リスクマネジメントの強化

・事業活動における様々なリスクを適切に管理・評価し、優先度に応じた事前対策の実施を通して、重大な影響を及ぼすリスクが発現した場合の損失の最小化を図ります。

人的資本

優秀な人財の確保と育成

・新たな価値の創造に向けて「世界初、世界一」の技術を開発に挑戦を続けるエンジニアを含む、当社グループの成長に貢献する優秀な人財を確保・育成します。

・社員のエンゲージメントを高めるための施策を積極的に推進します。

多様性ある人財登用

・社員一人ひとりの人権を尊重し、多様な人財がその能力を最大限発揮できるよう様々な働き方を可能とする職場環境を整え、新たな発想、価値創造を追求します。

環境

気候変動への対応

・TCFD提言に基づいたシナリオ分析結果により特定したリスク・機会への対応を適切に実践します。詳細は「(3) 気候変動への対応」を参照下さい。

 

 

③ リスク管理

当社グループでは、全社的なリスク管理は、「第2 事業の状況 3 事業等のリスク」に記載のとおり「リスク管理規則」で定めるリスク管理フローに沿って実施しています。気候変動への対応を含むサステナビリティに係るリスクについては全社的なリスク管理において重要リスクとして特定し、サステナビリティ推進部が主担当部門としてこれを管理するとともに、マテリアリティとも関連付けた対応を行っています。サステナビリティに係るリスクは、前述の推進体制の下でモニタリングされ、その内容は取締役会へ報告されます。

 

④ 指標及び目標

当社グループでは、各マテリアリティに設定した取組方針や行動計画、指標・目標を定期的にモニタリングし、取組みの強化を図っています。以下は、各マテリアリティに対する2023年度の実績・成果及び今後の行動計画・目標です。

気候変動に関する指標及び目標は、「(3) 気候変動への対応」を参照下さい。

 

 

価値創造/事業を通じた社会課題の解決

マテリアリティ

2023年度実績・成果

行動計画・目標

社会と人の課題を解決する独自技術の開発・提供

・GreenTech eLEAPの量産開始に向け試作を開始

・セルフケア健康見守りサービスVirgoの事業化を決定。ドライバーの運転挙動と健康の相関性に関する共同研究開始

・コミュニケーションストレスの低減に貢献するRælclearが総務省「情報アクセシビリティ好事例2023」に選定

・eLEAPのグローバル展開による生産能力拡大及びエコシステムの構築

・スマートリングVirgoの100万人アクティブユーザー獲得(2029年)

・LumiFreeの光利用効率の改善(目標透過率 +10%)と照明器具の普及(目標CAGR20%≦)(2024~2027年度)

GreenTechによる環境問題への貢献

 

 

経営基盤の強化

マテリアリティ

指標

2023年度実績

2024年度目標

サステナブルなサプライチェーンの構築、

サプライヤーサステナビリティ自己監査実施率

100%

95%以上

サプライヤー自己監査

 80点以上のサプライヤーの割合

85%

80%以上

コンプライアンスの徹底

倫理規範教育受講率

100%

100%

人権・ハラスメント教育受講率

99%

100%

リスクマネジメントの強化

全リスク項目に対する軽減策フォロー率

100%

100%

リスク回避力強化の教育実施率

(2024年度より実施予定)

100%

 

 

人的資本

マテリアリティ

2023年度実績・成果

行動計画・目標

優秀な人財の確保と育成

・新卒13名、中途93名(注)を採用

・社内公募制度の常設化(実績15名)

・昇格者研修の実施、管理職昇格者向け研修のカリキュラム見直し、他

・自己啓発学習への支援内容の拡充

・技術教育を含む専門分野別教育の他、各階層別・選抜・グローバル教育等の充実

・管理職向けマネジメント研修の新規企画、実施

 

多様性ある人財登用

・男性の育児休暇取得について人権・ハラスメント教育で意識向上を啓蒙

・より柔軟な働き方を可能とするフレックスタイム制度の改定(実施2024年4月~)

・管理職に対するダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DEI)理解研修の実施

・女性リーダークラスの育成・支援施策の実施

 

(注)株式会社JOLEDから当社子会社JDI Design and Development合同会社への転籍を経て、当社に入社した社員を含みます。

マテリアリティ

指標

2023年度実績

目標

多様性ある人財登用

女性管理職比率

1.9

3.8%

2026年度

採用した労働者(正社員)に占める女性の割合

12.8

20%以上

2021~2025年度の平均)

男性の育児休業取得率
(配偶者出産休暇を含む)

86

80%以上

2025年度

 

(注)実績及び目標は、国内生産拠点が対象です。

 

(3) 気候変動への対応

当社は、気候変動への対応をマテリアリティの一つとして位置付け、2022年度からTCFD提言に基づいたシナリオ分析を開始し、気候変動に関する重要リスク・機会の特定、それらが及ぼす財務的影響の評価をいたしました。この分析結果に基づき、気候変動対応策の経営戦略への組み込みを図るとともに、ステークホルダーに対する情報開示にも積極的に取り組んでまいります。

以下は、TCFD提言に沿った取組み事項です。

 

① ガバナンス

当社グループは、気候変動問題を経営重要課題の一つと認識し、環境・社会・ガバナンスに関する委員会やマネジメントシステムを複数設置し、ESG課題に取り組む中で、気候変動問題についても対応しております。気候変動問題に対する最高責任者はCEOです。

取締役会は、年に一度の気候変動問題を含むサステナビリティ関連報告及び適時適切なマネジメントシステムからの報告を受け、必要に応じた議論と課題についての監督、及び重要な決定事項についての承認を行います。

 

② 戦略

当社グループは、温室効果ガス排出量削減に向け、脱炭素社会を実現するための省エネの推進、再生可能エネルギー活用の検討等を行っています。気候変動による気温上昇が社会に及ぼす影響は甚大と認識し、2022年度から1.5℃、4℃シナリオを用いて、2050年までのシナリオ分析を実施しました。このシナリオ分析に基づいて特定された重要なリスクと機会を踏まえて、戦略的な気候変動対策の策定を目指してまいります。下表は当社のリスク・機会要因と事業へのインパクトに対する対応策の一例です。

 

当社のリスク・機会、事業インパクト及び対応策の一例

分類

リスクと機会

対応策

移行
リスク

新たな規制

炭素税上昇に伴う原材料コスト増加

・サプライチェーンサステナビリティ推進ガイドブックへの気候変動要素の追加(2024年予定)

・調達基本契約書の条項への気候変動項目の追加(2024年予定)

炭素税上昇に伴う製造委託費増加

・委託先の排出量や削減活動に関する調査の実施

・サステナビリティ推進ガイドブックに気候変動要素の追加(2024年予定)

炭素税による課税コスト増加

・再エネ導入の推進

・SBT設定と当該目標達成に向けた取組み推進

評判

気候変動問題への取組み姿勢が不十分とされ、顧客のサプライチェーンから外れることによる売上減少

・再エネ導入の推進

・TCFDフレームワークに基づく活動の推進

物理
リスク

急性リスク

自然災害の頻発化・甚大化によるサプライチェーン混乱からの売上減少

・主要サプライヤーへの製造/供給拠点のマルチ化要請

・サプライチェーン推進ガイドブックへのBCP項目の追加(2024年予定)

・販社での製品在庫の一定量確保

慢性リスク

自然災害の頻発化・甚大化によるBCP対応コスト増加

・危機管理委員会発足(2023年)による継続的なBCP見直し

機会

製品・サービス

温室効果ガス削減等に貢献するeLEAP及び大幅な消費電力低減を実現するHMO技術のライセンス提供による収入増加

・ライセンス提供による技術収入の拡大

・新規顧客層への販売拡大に向けた戦略立案

市場の変化

低消費電力を実現するeLEAPの需要増加

・他社へのeLEAP技術提供による供給網の拡大

・継続的な技術改良による市場優位性の確保

 

 

(シナリオ分析の結果)

2050年の1.5℃世界では、eLEAP、HMO等の低炭素社会への移行に有効な独自技術の活用により、大きな機会獲得が期待できることが分かり、これら技術を成長ドライバーとする成長戦略「METAGROWTH 2026」の推進が、長期的な機会をもたらすことを確認いたしました。

また、対応策の実行によるリスク低減を図り、当社の強みである独自技術によって、2050年1.5℃世界の実現を目指してまいります。

 

③ リスク管理

サステナビリティ推進部が主管部署となり、気候関連を含む全社リスクの識別・評価、管理プロセスについて、リスク管理規則に基づき適切な管理を実施しています。

各リスクの担当各部門では、事業活動に係わるリスク管理フローに沿って、想定される新たな規制、製品・サービス、市場に関する気候関連リスク及び機会の特定を行っています。

 

④ 指標と目標

環境負荷の指標であるScope1、Scope2に加え、Scope3排出量についても、該当カテゴリ全ての排出量を算定し開示しています。これらの温室効果ガス排出量データについては、2024年度に第三者保証の取得を目指しています。温室効果ガス排出量削減に向けては、2025年度の再生可能エネルギー比率の目標達成に取り組むとともに、バリューチェーン全体の中長期的な削減目標の設定に向けても検討を進めており、数年内のSBT認定取得を目指してまいります。

 

気候変動への対応

指標

2023年度実績

目標

エネルギー起源CO2排出削減量

2,035t-CO2

2024年度:897t-CO2

再生可能エネルギー比率

0.02%

2025年度:5.0%
(2022年度基準)

 

(注)実績及び目標は、国内生産拠点が対象です。

 

気候変動の詳細については、当社ホームページの「TCFD提言に基づく情報開示」にて開示しています。

 

 

3 【事業等のリスク】

当社グループでは、「内部統制システム構築の基本方針」に規定する「損失の危機の管理」に基づき、リスクの未然防止及び発生時の影響の最小化に向けて「リスク管理規則」等の必要な規則及び体制を整備しています。リスク管理規則では、「リスクを特定・分析し、対策を講じる」プロセスを毎年実行し、持続的、かつ円滑な事業運営を図ることを目的としたリスク管理の運用ルールを定め、サステナビリティ推進部が主管部門となって運用を行っています。

具体的には、リスク管理フローに基づき、担当各部門が、想定されるリスクの発生可能性(頻度)と起こった場合の影響度(売上・利益への影響等)を評価し、重要度の高いリスクを優先に回避策・軽減(低減)策・移転策を検討・立案・実行しています。これらの対策については、サステナビリティ推進部が、担当各部門に対してヒアリング等を通じた実施状況の確認及び有効性の評価を行っています。年度毎のリスク評価結果は、マネジメントレビューを経て、取締役会に報告されるとともに、全社員に展開されます。また、事業計画や中期事業計画等の策定においては、その策定プロセスの中でリスクを分析し、対策も併せて計画に織り込んでいます。

 

当社グループでは、事業のリスクを以下のとおり「事業活動リスク」「財務リスク」「経済リスク」「自然・事故災害リスク」「法務・コンプライアンスリスク」「労務リスク」「社会リスク」「政治リスク」の8つに分類しています。

なお、文中における将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社グループが判断したものです。

 

(1) 事業活動リスク

① 市場動向・競争環境の変動

当社グループが製造・販売するディスプレイ製品は、それを搭載する完成品市場の変動、及び競争環境の変動の影響を受けます。景気の変動、消費者嗜好の変化、季節性等により完成品市場が大きく変動した場合、売上高の減少、過剰在庫に伴うコスト増や評価損の発生、又は工場稼働率低下による機会損失が生じる可能性があります。また、競合他社との競争激化により、売上高の減少や販売価格の低下が生じる可能性があります。このため、当社グループは、顧客の需要動向を注視し、適切な在庫管理や生産管理に努めるとともに、製品ポートフォリオの変革を通じた売上高の維持・拡大、及び販売価格の維持・向上を目指しておりますが、これらの取組みが十分に成果を上げない場合は、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 技術・研究開発

当社グループは、高度な技術を必要とするディスプレイの製造・販売を行っているため、技術の優位性の確保は、当社グループの競争力にとって極めて重要です。当社グループは、長いディスプレイ事業で培った技術力を基礎に、次世代OLED「eLEAP」等の新たな「世界初、世界一」の独自技術を開発するなど、高い技術優位性を有していると認識しており、この維持・向上のために弛まぬ研究開発活動を継続しております。かかる研究開発において、当社グループでは、他社競合の開発・製品化状況の把握や顧客動向を鑑みた明確な開発方針のもと、研究開発対象の厳選、開発段階での進捗レビュー及び継続是非の判断を実施しています。しかしながら、当社グループの技術が顧客に採用されない場合や、他社の技術開発により当社グループの技術優位性が相対的に低下した場合は、売上高の減少により当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

③ 生産活動

ディスプレイ事業は、大規模な生産設備及び多くの従業員の雇用を要する、固定費比率が比較的高い事業です。当社グループは、生産性が低い国内外工場の生産停止や売却を行い、固定費率低減に取り組んでおりますが、新技術への対応等により設備投資負担が増加することがあります。設備投資を行う際には、将来のキャッシュ・フローの見積りに基づく残存価額の回収可能性を評価して投資決定を行っていますが、需要減や競合状況等の変化による事業収益性の低下により、投資回収に遅延が生じる可能性があるほか、当該資産が十分なキャッシュ・フローを創出できないと判断される場合には、減損の認識が必要となり、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、生産性の低い工場の閉鎖や研究開発の中止により、設備の減損や従業員への割増退職金の支払が生じた場合は、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

また、当社グループが生産する製品は、精緻な生産技術と成熟したスキルを要するカスタム品が大半であり、製品ごとに部材や製造装置の設定が変更となることが多く、特にノウハウの蓄積が少ない新技術を採用した製品の生産においては、製品の歩留り向上に時間を要することや、品質トラブルが生じることがあります。加えて、顧客との契約に基づく供給義務の履行のため、歩留りが低い状況においても製品の製造を継続する必要が生じる場合もあります。そのような問題の極小化のため、開発、設計、プロセス、製造、品質保証の各分野の綿密な摺合せ、問題発生時の早期解決に向けた体制構築、生産ライン従事者向け教育プログラム完備等を図っておりますが、そうした対策をもってしても、歩留りの悪化や品質トラブルが生じた場合には、当社グループの製品の評価に影響を及ぼす可能性、又は当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 調達活動

当社グループは、原材料・部品等を複数のサプライヤーから購入しており、それら原材料・部品等の供給遅延、供給不足又は価格高騰等が生じた場合は、当社グループにおける生産の遅延、代替調達による費用増、調達コストの上昇が生じる可能性があります。加えて、調達した原材料・部品等に欠陥・瑕疵、仕様の不備が存在した場合には、顧客への製品供給の遅延、顧客からの返品や評価減の発生、当社グループ製品の品質及び評価への影響が生じる可能性、又は当社グループやその顧客に対するクレームや訴訟に発展する可能性があります。当社グループは、仕入品の品質管理やサプライヤーの多様化によるこれらリスクの低減に努めておりますが、原材料・部品等の一部については、その特殊性からサプライヤーが限定されているものやサプライヤーの切替えが困難なものもあり、これら調達品に係るリスクが顕在化した場合は、当社グループの財政状態や業績に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑤ 他社との協業・提携

当社グループは、競争力強化や収益性向上、長期的な供給体制の維持、及び新技術・新製品の開発のため、部材サプライヤー、装置メーカー、顧客を含む外部企業との協業を行っており、今後も更なる競争力強化のため、外部企業との新たな協業を推進するほか、戦略的提携や出資・買収等を実施する可能性があります。これらの協業、戦略的提携及び出資・買収等が、資金の制約、戦略上の目標変更、技術管理又は製品開発等における問題の発生、若しくは関係当局からの許認可等の規制、市場の変動等により、維持又は実施できなくなった場合、又は実施後に十分な成果が得られない場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑥ 特定のアプリケーション及び顧客への依存

当社グループの売上高は、特定のアプリケーション又は製品、及び特定の顧客への販売に相当程度依存しています。当社グループは、新技術・新商品・新事業の立ち上げにより、アプリケーションや製品、顧客の分散化に取り組んでおりますが、依存度の高い市場における製品需要の減退や顧客のブランド力の低下、又はそれら市場における当社グループ製品の顧客要求への不適応や競争力低下等が生じた場合には、当社グループの業績に悪影響を与える可能性があります。

 

⑦ 気候変動リスク

当社グループは、2022年度からTCFDの枠組みに基づくシナリオ分析を実施し、気候変動に伴うリスクと機会を明確化しております。今後脱炭素化(カーボンニュートラル)への取組みを強化してまいりますが、かかる取組みに伴う費用負担の増加、取組みが顧客からの要求水準に満たないことによる顧客との取引の減少、将来的なカーボンプライシングの導入、更に、慢性的な気温上昇に伴う自然災害の頻発化・甚大化によるサプライチェーンの混乱や生産性の低下、BCP対応コストの増加が、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

⑧ 特定人物への依存

当社代表執行役会長CEO兼取締役であるスコット キャロンは、経営方針や事業戦略の決定において重要な役割を果たしております。また、同氏は、当社の筆頭株主であるいちごトラストとの間の投資一任契約に基づき、いちごトラストから投資運用に関する権限を受託しているいちごアセットマネジメント・インターナショナル・ピーティーイー・リミテッドへの投資助言を行う、いちごアセットマネジメント株式会社の代表取締役社長を兼任しております。当社グループは、同氏に過度に依存しない体制を構築するために、取締役会等における役員相互の情報共有や経営組織の強化を図っておりますが、現状において、何らかの理由により、同氏が当社グループの業務を継続することが困難になった場合には、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(2) 財務リスク

① 資金調達・資金繰り

当社は、当連結会計年度において、運転資金の調達を目的として、いちごトラストとの間で(1)2023年5月30日、(2)同年6月28日、(3)同年7月28日、(4)同年8月17日、(5)同年10月30日、(6)2024年1月30日及び(7)同年2月28日にShort-Term Loan Agreementを締結し、これらに基づきそれぞれ(1)40億円、(2)80億円、(3)40億円、(4)40億円、(5)40億円、(6)50億円及び(7)45億円の元本総額335億円を調達しました。世界的なインフレ高進やサプライチェーンにおけるリスクの継続に備えた手許資金確保の重要性に鑑み、今後も資金需要に応じた機動的な借入実施、いちごトラストによる第13回新株予約権の行使要請(調達総額最大約1,734億円)のほか、低効率資産の売却及び営業債権等の流動化も含め、引き続き適時適切な資金調達策を講じてまいります。

しかしながら、いちごトラストにより当該新株予約権の行使がなされない場合、若しくは行使が一部に留まり十分な資金が確保できない場合、かつ、いちごトラストや金融機関等からの調達、その他の手段による調達が十分に実行できない場合には、手許資金が当社の事業遂行上必要な水準を下回る可能性があります。なお、第13回新株予約権の半数の行使期間は2023年6月1日から2028年5月31日、残り半数の行使期間は2023年12月1日から2028年11月30日となっております。

 

② 筆頭株主との関係

いちごトラストは、2024年3月31日現在、当社の議決権数の78.2%を保有する支配株主であり、当社の株主総会の特別決議を要する事項(他社との合併等の組織再編、重要な資産や事業等の売却、定款の変更等)及び普通決議を要する事項(取締役の選解任、剰余金の処分や配当の決定等)について、拒否権を含む重大な影響力を有しております。また、いちごトラストとの間の投資一任契約に基づき、いちごトラストから投資運用に関する権限を受託しているいちごアセットマネジメント・インターナショナル・ピーティーイー・リミテッドへの投資助言を行う、いちごアセットマネジメント株式会社の代表取締役社長であるスコット キャロンは、当社の代表執行役会長CEO兼取締役です。

この状況に対し、当社は、2021年3月期に指名委員会等設置会社に移行しており、社外取締役が過半数を占める監査委員会、指名委員会及び報酬委員会を設けることで独立性の担保を図っています。また、当社によるいちごトラスト及びその関係会社との取引において利益相反の懸念を回避する観点から、スコット キャロンは、かかる取引に関する取締役会の審議及び決議には参加いたしません。

また、いちごトラストは、当社の企業価値向上を支援するスポンサーとして、長期的視点から株式を保有する意向を当社に対して示しておりますが、一方で、当社は「(2)財務リスク ④上場維持基準への不適合」に記載のとおり、東京証券取引所プライム市場における上場維持基準の適合に向けて、いちごトラストの持株比率低下を図る必要があります。今後、当該上場維持基準への適合のため、又はその他の理由により、いちごトラストが当社株式の一部又は全てを売却した場合、その売却の方式、タイミング、規模等によっては、当社株式の需給関係及び市場価格に影響を与える可能性があります。

なお、当社第2位の株主である株式会社INCJは、2024年3月31日現在、当社の議決権数の2.8%を保有しております。同社は、産業競争力強化法等の一部を改正する法律(平成30年法律第26号)による改正前の産業競争力強化法に基づく経済産業大臣の認可を得た上で行われた、旧株式会社産業革新機構(現株式会社産業革新投資機構)からの新設分割により設立された会社であるところ、当該認可に係る告示(20180913経第4号)における「認可条件」として、産業競争力強化法(設立時の名称は「産業活力の再生及び産業活動の革新に関する特別措置法(産活法)」)に基づき設立されておりますが、同法により2025年3月までに保有する全ての株式等を処分する必要があります。

 

③ 株式の希薄化

当社の2024年3月31日現在の発行済株式数は、普通株式3,880,388,022株、及びいちごトラストが保有する普通株式の取得請求権を有し議決権のないE種優先株式5,540株です。また、いちごトラストに対し、普通株式を目的とする第13回新株予約権を発行しております。E種優先株式の全てが普通株式に転換された場合に交付される株式数2,308,329,640株(議決権数23,083,296個)に、第13回新株予約権が全て行使された場合に交付される株式数3,852,444,400株(議決権数38,524,444個)を合算した総数は6,160,774,040株(議決権数61,607,740個)であり、2024年3月31日現在の普通株式の発行済株式総数3,880,388,022(議決権数38,803,443個)を分母とする希薄化率は158.77%(議決権ベースの希薄化率は158.77%)に相当します。

上記のE種優先株式の普通株式への転換請求権、又は第13回新株予約権が行使された場合、株式の希薄化を生じ、株価に影響を及ぼす可能性があります。また、当社は、今後も新株式、新株予約権又は新株予約権付社債等を発行する可能性があり、これらの発行及び行使により、株式の希薄化、株価への影響を生じる可能性があります。

 

④ 上場維持基準への不適合

2024年3月31日現在、当社の「流通株式比率」は17.3%であり、東京証券取引所プライム市場の上場維持基準である35%以上を満たしておりません。当社は、事業再生支援目的でいちごトラストと資本提携定契約を締結し出資を受けていることから、2028年3月末までを適合に向けた計画期間とする特例適用が認められており、同計画期間内の基準充足に向けて取り組んでおります。

適合のためには、2024年3月31日現在で78.2%の当社普通株式を保有するいちごトラストの持株比率低下が必要となります。また、いちごトラストが保有する当社のE種優先株式の普通株式を対価とする取得請求権の行使や第13回新株予約権の行使がなされた場合、一時的に流通株式比率が一層低下する可能性があります。このため、当社は、いちごトラストと適合に向けた協議を継続するとともに、成長戦略「METAGROWTH 2026」に沿って、早期の業績等改善を図り、広く投資家への訴求も続けてまいります。

しかしながら、こうした取組みをもってしても、2028年3月末までの計画期間内に上場維持基準に適合しない場合は上場廃止となります。

 

⑤ 継続企業の前提に関する重要事象等

当社グループは、当連結会計年度において7期連続で営業損失及び重要な減損損失を、10期連続で親会社株主に帰属する当期純損失を計上したことにより、継続企業の前提に重要な疑義を生じさせるような状況が存在しております。

当該状況を解消するため、当社グループは、全社的な事業構造改革として、設備利用効率の改善、資産規模の適正化による生産性向上、及びサプライチェーンの見直し等によるコストの更なる削減に取り組んでおります。この戦略的取組みの一環として、2023年3月に生産を終了した東浦工場の建物の譲渡契約を、同月末にソニーセミコンダクタマニュファクチャリング株式会社との間で締結し、2024年4月1日付で譲渡を完了いたしました。また、2023年8月2日開催の取締役会において、LTPS技術と比較してディスプレイの高性能化への対応が限定的であるa-Si技術を採用する鳥取工場について、2025年3月までに生産終了することを決議いたしました。

上記施策に加え、技術基盤を価値創造の源泉とし、脱過当競争・脱コモディティ化により収益性の抜本的な改善を図るための成長戦略「METAGROWTH 2026」を2022年5月13日付で発表し、引き続き事業モデルの変革を推進しております。本成長戦略における主な事業戦略として、同年3月30日に発表した高移動度酸化物半導体バックプレーン技術「HMO」、同年5月13日に発表した次世代OLED「eLEAP」のほか、車載及びVR製品、並びにそれらに関連する知的財産権の積極活用等を中心に製品・事業ポートフォリオを再編し、早期の黒字体質の安定化と事業成長を図っていく方針であります。

上記「METAGROWTH 2026」の拡大と加速化への寄与を目的とし、2023年5月31日、株式会社JOLEDの事業の一部であるOLEDディスプレイに関する技術開発ビジネス関連事業を当社子会社JDI Design and Development合同会社が承継する事業譲渡契約を、当社を含む3社間で締結し、同年7月18日付で実施を完了いたしました。

さらに、中国安徽省蕪湖市の蕪湖経済技術開発区と2023年9月にeLEAPの事業立ち上げに関する覚書を締結し、現在は2024年10月末までの関係当局からの許認可取得と蕪湖経済技術開発区との最終契約締結に向けて協力して取り組んでおります。

以上のように、今後も事業モデルの改革を進め、収益性の更なる向上に向けた経営資源の最適化に引き続き取り組んでまいります。

財務面では、世界的なインフレ高進やサプライチェーンにおけるリスクの継続に備えた手許資金確保の重要性に鑑み、当社はいちごトラストより、当連結会計年度において新規借入(2023年5月から2024年2月まで計7回、元本総額335億円)を実施したほか、本有価証券報告書提出日までに、当該新規借入に係る弁済期日を延長(2023年7月28日付元本総額40億円及び同年10月30日付元本総額40億円並びに2024年1月30日付元本総額50億円につき2024年7月31日まで、2023年5月31日付元本総額40億円及び同年8月17日付元本総額40億円並びに2024年2月28日付元本総額45億円につき2024年8月30日まで、2023年6月29日付元本総額80億円につき2024年9月30日まで)することについて、いちごトラストとの間で合意いたしました。今後も資金需要に応じた機動的な借入実施、いちごトラストによる第13回新株予約権の行使要請(調達総額最大約1,734億円)のほか、低効率資産の売却及び営業債権等の流動化も含め、引き続き適時適切な資金調達策を講じてまいります。

一方で、昨今の世界的な原材料費の高騰、エネルギー費高止まりによる動力費や輸送費の負担増加、及び世界的高金利の影響等により早期の業績回復による黒字転換が遅延し、当社グループ資金繰りに重要な影響を及ぼす可能性を勘案すると、現時点では継続企業の前提に関する重要な不確実性が認められます。

 

(3) 経済リスク

① 為替相場の変動

当社グループの顧客や取引先には、欧米や中国等の海外企業が多く含まれ、為替相場の変動により外貨建で取引されている製品・サービス等の売価や費用が影響を受け、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。加えて、海外子会社の現地通貨建の資産・負債は、連結財務諸表作成の際には円換算されるため、当社グループの財政状態は為替相場の変動による影響を受けます。

 

(4) 自然・事故災害リスク

① 災害・その他の要因による影響

当社グループは、製造拠点を日本及びフィリピンに、販売拠点を日本、米国、ドイツ、中国、韓国、台湾に展開しています。また、中国及び台湾のEMS(電子機器受託製造)企業と提携し、後工程生産を委託しています。これらの各拠点が、地震、津波、豪雨、洪水、落雷等による自然災害、コンピュータウィルスの感染、部品調達先等の罹災によるサプライチェーン上の混乱、疫病の発生や蔓延、戦争、テロ行為、暴動あるいは労働争議等により被災した場合には、生産・出荷や販売活動が停止する恐れがあります。また、災害により電力供給量の低下や物流ルートの遮断等、社会インフラが不安定化した場合には、生産能力の低下、原材料の調達難、製品供給の遅延等、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

かかる災害による損害の発生に備え、当社グループは、建物、構築物、装置、在庫及び運搬中の貨物の代替コスト及び、事業の中断、製造物責任等に対して適切と判断するレベルの補償範囲をカバーする各種保険に加入しておりますが、当該保険には免責金額が設定されているものがあるなど、全ての損害額がカバーされるものではありません。

 

② 環境に係わる法規制への対応

当社グループの事業は、国内外の様々な法令、規則等による制約を受けています。また、世界各地域において、大気汚染、土壌汚染、水質汚濁、有害物質、廃棄物処理、製品リサイクル、地球温暖化防止、エネルギー等に関する様々な環境関連法令の適用を受けています。当社グループは、これらの規制に細心の注意を払いつつ事業を行っておりますが、製品の製造販売活動や設備投資が制約を受けるなど、事業展開に支障が生じる可能性があるほか、各種の法規制が制定又は変更された場合には、その遵守対応のための費用が増加する可能性があります。また、当社グループにおいてこうした法規制の違反が発生した場合には、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性や社会的評価に影響を与える可能性があります。

 

(5) 法務・コンプライアンスリスク

① 重要な訴訟の発生

当社の過年度決算における不適切な会計処理により損害を被ったとして、2020年7月16日付で、当社の株主1名及び当該株主が代表取締役を務めていた国内法人株主2名から、当社並びに当社の元取締役10名に対し、連帯して約3,858百万円の損害賠償を請求する訴訟が提起されております。当社は、原告の主張を踏まえて適切に対応してまいります。

 

② 知的財産権

当社グループは、当社技術の保護に向け、適切な国・地域での知的財産権の取得に努めていますが、一部の国・地域によっては固有の事由により知的財産権による保護が十分にされていない可能性があります。また、当社グループは、第三者からの使用許諾を受けて第三者の知的財産権を使用する場合がありますが、今後、必要な使用許諾を第三者から受けられなくなる可能性や、当社グループにとって不利な条件での使用許諾しか受けられなくなる可能性、競合他社が当社グループより有利な条件で第三者から使用許諾を受け当社グループの競争力が相対的に低くなる可能性があります。

 

③ 訴訟その他法的手続

当社グループが製造・販売する製品のうち、特に先端技術を用いた製品は、欠陥や瑕疵が出荷時までに発見されにくいことがあり、製品の出荷後に品質問題が認識された場合には、製品の回収及び修理、デザインの変更等に多大な費用や人的資源を要する可能性、顧客との関係及び当社グループへの信用に影響を及ぼす可能性、欠陥や瑕疵を理由に当社グループ又はその顧客に対する訴訟が提起される可能性があります。

また、当社グループは、競争法に抵触する恐れのある行為を行わないよう教育を実施しておりますが、国内外において、競争法違反に関する調査の開始又は訴訟の提起がされる可能性があります。これらの調査や訴訟の結果、当社グループに対して、複数の国・法域において課徴金や損害賠償の支払が命じられる可能性があります。かかる規制当局による処分や訴訟について、その結果を予測することは困難ですが、その解決には相当の時間及び費用を要する可能性があるとともに、その結果によっては、当社グループの事業、業績、財政状態、及び社会的評価に影響を及ぼす可能性があります。

 

④ 内部統制

当社グループは、コンプライアンス遵守、財務報告の適正性確保を達成するために内部統制システムを整備し、運用してまいりましたが、2020年3月期に、過年度決算において架空在庫計上や費用先送り等による不適切な会計処理を継続的に行っていたことが判明し、財務報告に係る内部統制に重要な不備があったことが判明しております。当社は、財務報告に係る内部統制の重要性を十分認識しており、不備を是正するため、2020年4月にガバナンス向上委員会を設置の上、同委員会が検討・策定した内部統制機能の強化を含む再発防止策について、具体的な詳細を定め、全社一丸となって実行いたしました。

その結果、2021年3月期末日においては、開示すべき重要な不備が解消しており、2021年以降、内部統制は有効である旨を記載した内部統制報告書を提出しております。当社は、再発防止に向けて、財務報告に係る内部統制の整備及び運用を重要な経営課題の一つとして位置付け、グループを挙げて関係会社の管理体制等の点検・改善等に取り組んでおりますが、将来にわたって常に有効な内部統制システムを整備及び運用できる保証はなく、また、内部統制に本質的に内在する固有の限界があるため、今後、上記の対応が有効に機能しなかった場合や、財務報告に係る内部統制の不備又は開示すべき重要な不備が発生した場合には、当社グループの財務報告の信頼性に影響が及ぶ可能性があります。

 

(6) 労務リスク

① 人材確保

当社グループは、優秀な人材の採用と育成を重要課題と認識しておりますが、優秀な人材の確保激化により、そのような人材を確保できない場合や、人材の育成が計画通りに進捗しない場合などには、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。また、専門性の高い優秀な人材が競合他社に移籍した場合には、その者が有する知識やノウハウの流出により、当社グループの競争力が相対的に低くなるおそれがあり、その結果、当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

(7) 社会リスク

① 情報セキュリティ

当社グループは、当社グループ・顧客・取引先の技術、研究開発、製造、販売及び営業活動に関する機密情報、並びにステークホルダーの個人情報を様々な形態で保持しており、これらの機密情報を保護するために適切な管理を行っていますが、かかる管理が将来にわたって常に有効である保証はありません。サイバー攻撃等により当社グループが保持・管理する情報が流出し、第三者がこれを不正に取得又は使用するような事態が生じた場合には、当社グループに対する損害賠償訴訟の提起などにより、当社グループの事業、業績、財政状態、及び社会的評価に影響を及ぼす可能性があります。

 

② 感染症の拡大

当社グループは、新型コロナウイルス感染症の世界的拡大時に、従業員に対する在宅勤務や時差出勤の推奨、作業スペースの隔離、不要不急な出張の禁止やウェブ会議システムの活用推進等の対策を実施し、社員やその家族の安全を優先しつつ、生産体制の維持を図りました。また、サプライヤーとの連携により、最大限の部材確保に努め、生産への影響の最小化を図りました。

新型コロナウイルスは感染症法上5類に位置付けられましたが、今後感染が再拡大した場合又は他の感染症が流行した場合は、当社グループ又は調達、生産、物流等の取引先における原材料・部材等の調達、生産の遅れ、又は販売先からの受注減少等により、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

③ サプライチェーンにおける人権に関わるリスク

2020年にオーストラリアのシンクタンクが、当社を含む複数の企業がウイグル人の強制労働によって製造されたとされる部品を調達しているとの報告書を出しました。これについて、当社は、強制労働を行っていたとされた、サプライヤーの下請企業2社について事実関係の調査を行いましたが、強制労働があったことを示す事実は確認されませんでした。強制労働があったことを示す事実は確認されなかったものの、その後、上記サプライヤーからは、当該下請企業2社との取引を停止し、それぞれ他のサプライヤーへの切り替えを完了したと報告を受けており、当社も当該事実を確認しております。

当社グループは、全てのサプライヤーに対して「JDIサプライチェーンサステナビリティ推進ガイドブック」を配布し、強制労働や児童労働をはじめとするいかなる人権侵害にも加担しないことを要請するとともに、「サプイヤーサステナビリティ自己監査票」による調査の実施、及び定期的なモニタリングを実行しておりますが、常にこれら施策が有効である保証はなく、サプライヤーにおいて人権侵害が起きた場合、当社グループの事業活動に必要な部材の調達が困難となることや、顧客、その他の取引先との取引が停止されることにより、当社グループの業績、財務状況、社会的評価に影響を及ぼす可能性があります。

また、米国で2022年6月に「ウイグル強制労働防止法(UFLPA)」に基づく輸入禁止措置が施行され、中国の新疆ウイグル自治区が関与する製品は、強制労働により生産されたとみなされ輸入が原則禁止されています。UFLPAに基づく輸出管理規制により、サプライヤーとの取引関係悪化や、国レベルでの制裁措置による貿易制限が生じた場合、当社グループの業績、財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 

(8) 政治リスク

① 地政学的リスク

当社グループは、日本とフィリピンに製造拠点を有し、中国と台湾に後工程の製造委託をしています。また、グローバルに販売拠点を有し、海外顧客への売上高が当社グループ全体の売上高の大きな割合を占めております。海外事業の展開にあたっては、地政学的リスク要因として、外国における経済情勢や政治情勢の不安定化、新興国でのインフレ等による賃金の上昇、現地従業員との関係悪化、外国為替管理の強化、予期しない法規制の新設又は変更、税制、法制度及び事業環境の差異及びその変更による不利益、課税等の行政上の措置、戦争及びテロ等の軍事的影響、反日感情による非買運動等があり、これらの要因が当社グループの事業、業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

4 【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」といいます。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりです。

なお、文中の将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において当社が判断したものであります。

 

(1) 経営成績

当連結会計年度(以下「当期」といいます。)における当社グループの経営環境は、半導体等の部材不足の緩和や円安によるプラス効果があったものの、従前よりの厳しい競争状況に加え、世界的なインフレによるエネルギー費・部材費・加工費の高止まりが続く、厳しい状況となりました。

こうした状況のもと、当社グループは、事業ポートフォリオの抜本的な変革を推進するとともに、固定費削減、アセットライト化による基礎的収益力の向上に取り組みました。この取組みの一環として、2023年8月には、ディスプレイの高性能化への対応が限定的であるa-Si技術を採用する鳥取工場について、2025年3月までに生産終了することを決定いたしました。なお、2023年3月に生産を終了した旧東浦工場につきましては、2024年4月1日に同工場の建物の譲渡を完了しております。

これらの施策に加え、技術基盤を価値創造の源泉とする成長戦略「METAGROWTH 2026」に基づき、収益性の抜本的改善を目指した事業ポートフォリオの変革を推進しました。本成長戦略においては、「世界初、世界一」の独自技術をベースとした「6つの成長ドライバー」を定め、これら成長分野の強化に取り組みました。また、これら成長ドライバーに関連する知的財産権の積極活用にも取り組みました。

成長ドライバーの中でも、当社が2022年5月に世界で初めてマスクレス蒸着及びフォトリソ方式による量産技術を確立した次世代OLED「eLEAP」は、その性能と環境性の高さから顧客から強い引き合いをいただいており、2025年3月期下期から茂原工場にて量産を開始する予定です。

また、eLEAP事業拡大のため、株式会社JOLEDからOLEDディスプレイに関する従業員及び知的財産権を含む技術開発ビジネスを承継するための事業譲渡契約を2023年5月に締結し、同年7月に事業譲受を完了しました。さらに、中国安徽省蕪湖市の蕪湖経済技術開発区と2023年9月にeLEAPの事業立ち上げに関する覚書を締結し、現在は2024年10月末までの関係当局からの許認可取得と蕪湖経済技術開発区との最終契約締結に向けて協力して取り組んでおります。これら取り組みを通じて「METAGROWTH 2026」の拡大と加速化を目指してまいります。

 

上記の結果、当期の売上高は、前期比31,593百万円減少11.7%減)の239,153百万円となりました。

旧東浦工場での2023年3月を以ての生産停止や茂原工場における液晶パネル生産能力の縮減により製造固定費を削減いたしましたが、売上高の減少、研究開発費の増加、及びエネルギー費・部材費・加工費の価格転嫁の遅れ等により、営業損失は34,145百万円(前期は44,386百万円の損失)となりました。

営業外損益では、旧東浦工場の建物の譲渡予定先との間で締結した2023年4月1日から2024年3月31日を対象期間とする業務委託契約に基づき業務受託料3,514百万円を営業外収益に計上したほか、同工場の維持費用として資産保全費用2,574百万円を営業外費用に計上いたしました。また、為替相場の変動により為替差益1,723百万円を営業外収益に計上いたしました。これらの結果、経常損失は33,188百万円(前期は42,924百万円の損失)となりました。

また、特別損失として減損損失11,115百万円を計上したこと等により、親会社株主に帰属する当期純損失は44,313百万円(前期は25,818百万円の損失)となりました。

なお、キャッシュ収益指標であるEBITDAは、マイナス28,221百万円(前期はマイナス36,198百万円)となりました。

 

 

アプリケーション分野別の売上高の状況は次のとおりです。

 

分野別売上高

 

 

 

 

 

(単位:百万円)

 

前連結会計年度

当連結会計年度

前期比

金額

割合

金額

割合

金額

増減率

車載

134,555

49.7%

133,216

55.7%

△1,339

△1.0%

スマートウォッチ・VR等

60,500

22.3%

73,522

30.7%

13,021

21.5%

液晶スマートフォン

75,689

28.0%

32,414

13.6%

△43,275

△57.2%

 

(車載)

計器クラスターやヘッドアップディスプレイ等の自動車用ディスプレイからなる当分野の当期売上高は、133,216百万円(前期比1.0%減)となり、全売上高に占める割合は、前期の49.7%から55.7%に上昇いたしました。

円安による増収効果が、不採算製品からの戦略的撤退に伴う売上の減少を補い、前期とほぼ同水準の売上高となりました。

 

スマートウォッチ・VR等

スマートウォッチやVR機器等の民生機器用ディスプレイ、医療用モニター等の産業用ディスプレイのほか、特許収入等を含む当分野の当期売上高は、73,522百万円(前期比21.5%増)となり、全売上高に占める割合は、前期の22.3%から30.7%に上昇いたしました。

スマートウォッチ用OLEDディスプレイは、旺盛な顧客需要を背景に前期比74%の大幅増収となりました。VR機器用高精細液晶ディスプレイは、顧客需要の急減により下期の販売が失速いたしましたが、通期では増収となり、当分野全体でも前期比増収となりました。

 

(液晶スマートフォン)

当分野はノンコア事業と位置付けてあり、当期売上高は、32,414百万円(前期比57.2%減)となり、全売上高に占める割合は、前期の28.0%から13.6%に低下いたしました。

エンジニアリングリソース等の経営資源をコア事業の次世代製品へ集中させるため、戦略的に当分野の縮小を進めてきたことから前期比減収となりました。

 

生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。

① 生産実績

当社グループの生産品目は、広範囲かつ多種多様であり、その性能、構造、形式、販売条件等は一様ではないこと、受注生産形態をとらない製品も多いこと等から、販売価格による生産額の集計は行っておりません。また、当社グループの生産体制は、主として国内の生産拠点で担っている前工程、海外の製造子会社による後工程に区分して管理されております。

そのため、前工程及び後工程の生産量の単純合計がそのまま連結ベースの生産量ともならないことから、生産実績を金額又は数量で示すことはしておりません。

 

② 受注実績

当社グループは顧客から提示された生産計画に基づく見込生産を行っているため、記載を省略しております。

 

 

③ 販売実績

当連結会計年度の販売実績を示すと、次のとおりであります。なお、当社のグループは単一セグメントであるため、アプリケーション分野別に記載を行っております。

 

 

(単位:百万円)

アプリケーション分野

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

前年同期比(%)

車載

133,216

△1.0

スマートウォッチ・VR等

73,522

21.5

液晶スマートフォン

32,414

△57.2

合計

239,153

△11.7

 

 

(注) 最近2連結会計年度の主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

 

 

(単位:百万円)

相手先

前連結会計年度

(自 2022年4月1日

至 2023年3月31日)

当連結会計年度

(自 2023年4月1日

至 2024年3月31日)

金額

割合(%)

金額

割合(%)

Apple Inc.グループ

83,226

30.7

66,443

27.8

 

 

(2) 財政状態

当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末比1,292百万円増加223,989百万円となりました。これは、茂原工場のeLEAP量産用設備を中心とする設備投資に伴う建設仮勘定16,017百万円の増加、原材料及び貯蔵品3,815百万円の増加、並びに現金及び預金3,118百万円の増加の一方で、売掛金11,634百万円減少、液晶ディスプレイ資産の一部に係る減損損失11,115百万円の計上があったこと等によるものです。

負債合計は、前連結会計年度末比40,062百万円増加138,327百万円となりました。これは主に、いちごトラストからの短期借入33,500百万円と、上記eLEAP量産用設備投資等に伴う未払金8,819百万円の増加によるものです。

純資産は、前連結会計年度末比38,769百万円減少し、85,661百万円となりました。これは主に、親会社株主に帰属する当期純損失の計上による利益剰余金44,313百万円の減少によるものです。

上記の結果、自己資本比率は38.1%となり、前期末比で17.6ポイント低下いたしました。

 

(3) 資本の財源及び資金の流動性についての分析

① キャッシュ・フローの状況

営業活動によるキャッシュ・フローは、売上債権の減少による収入増加や減損損失の計上(加算項目)等の一方で、税金等調整前当期純損失43,793百万円の計上により、17,576百万円の支出(前期は65,665百万円の支出)となりました。

投資活動によるキャッシュ・フローは、主に上記eLEAP量産用設備投資を含む固定資産の取得による支出と、株式会社JOLEDからの事業譲受に伴う1,000百万円の支出により13,433百万円の支出(前期は9,777百万円の収入)となりました。この結果、フリー・キャッシュ・フロー(営業活動によるキャッシュ・フローと固定資産の取得による支出の合計)は、29,669百万円の支出となりました。

財務活動によるキャッシュ・フローは、主にいちごトラストからの短期借入金33,500百万円により、32,901百万円の収入(前期は27,685百万円の収入)となりました。

これらの結果及び為替の影響により、当期末における現金及び現金同等物の残高は28,725百万円となり、前期末に比べ2,971百万円増加いたしました。

 

② 資金需要及び資金調達の状況

当社グループの主な資金需要は、生産、販売活動に必要な運転資金、先端技術の開発や生産性及び品質の向上を目的とした研究開発費及び設備投資です。他方、当社グループでは、過年度に実施した大規模な設備投資や事業環境の急速な変化等の結果、当期純損失の計上が継続していることから、これらの資金需要が自社グループのキャッシュ・フローで賄えておらず、当連結会計年度まで数年にわたりフリー・キャッシュ・フローの赤字が継続しております。そのため、当社グループは、後述の財務戦略の基本的な考え方に沿って、適宜資金調達を検討してまいります。

 

③ 財務戦略の基本的な考え方

当社グループは、将来の成長のための設備投資等の資金需要に対応しつつ、流動性リスクを軽減し、経営の安定化を図るため一定の手許流動性を維持することが肝要だと考えており、手許流動性の水準を考慮するにあたっては、連結売上高1.0か月分を目安に、手許現預金及び追加ファイナンスによって賄う方針です。

また、事業活動を支える資金調達及び資金管理に関しては、安定的に資金確保し、CCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)改善によるキャッシュ・フロー創出、グループ内CMS(キャッシュ・マネジメント・システム)等による資金効率化によって財務体質を強化することを目標として取り組んでいます。また、世界的なインフレ高進やサプライチェーンにおけるリスクの継続に備えた手許資金確保の重要性に鑑み、今後も資金需要に応じた機動的な借入実施、いちごトラストによる第13回新株予約権の行使要請(調達総額最大約1,734億円)のほか、低効率資産の売却及び営業債権等の流動化も含め、引き続き適時適切な資金調達策を講じてまいります。

 

(4) 重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成しております。この連結財務諸表を作成するにあたって、資産、負債、収益及び費用の報告額に影響を及ぼす見積り及び仮定を用いておりますが、これらの見積り及び仮定に基づく数値は実際の結果と異なる可能性があります。

連結財務諸表の作成にあたって用いた会計上の見積り及び仮定のうち、重要なものは「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載しております。

 

 

5 【経営上の重要な契約等】

(いちごトラストとのShort-term Loan Agreementの締結)

当社は2023年11月10日開催の取締役会の決議に基づき、2024年1月30日付でいちごトラストとの間でShort-term Loan Agreementを締結いたしました。借入の概要は下記のとおりであります。

 

2024年1月30日付Short-term Loan Agreement

(1)

借入先

いちごトラスト

(2)

借入金額

50億円

(3)

借入金利

10.0%(p.a.)

(4)

借入実行日

2024年1月30日

(5)

返済期限※

2024年4月26日(期限前弁済可)

(6)

担保の有無

 

※いちごトラストと2024年4月26日付でAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、返済期限は2024年7月31日に変更しております。

 

(いちごトラストとのAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTの締結)

当社はいちごトラストとの間で、2023年5月30日及び2023年11月10日開催の取締役会の決議に基づき、2023年5月30日付及び2023年6月28日付で締結したShort-term Loan Agreementに関し、返済期限及び借入金利の変更につき、それぞれ2024年2月22日及び2024年3月17日にいちごトラストとAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結いたしました。AMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENT締結後の各借入の概要は下記のとおりであります。

 

①2023年5月30日付Short-term Loan Agreement

(2024年2月22日付AMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENT)

(1)

借入先

いちごトラスト

(2)

借入金額

40億円

(3)

借入金利

10.0%(p.a.)

(4)

借入実行日

2023年5月31日

(5)

返済期限※

2024年5月31日(期限前弁済可)

(6)

担保の有無

 

※いちごトラストと2024年5月24日付でAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、返済期限は2024年8月30日に変更しております。

 

②2023年6月28日付Short-term Loan Agreement

(2024年3月17日付AMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENT)

(1)

借入先

いちごトラスト

(2)

借入金額

80億円

(3)

借入金利

10.0%(p.a.)

(4)

借入実行日

2023年6月29日

(5)

返済期限※

2024年6月28日(期限前弁済可)

(6)

担保の有無

 

※いちごトラストと2024年6月21日付でAMENDMENT TO SHORT-TERM LOAN AGREEMENTを締結し、返済期限は2024年9月30日に変更しております。

 

(株式会社JOLEDとの事業譲渡契約の締結)

当社は2023年5月30日開催の取締役会の決議に基づき、株式会社JOLEDの営むOLEDディスプレイに関する技術開発ビジネス及びそれに付随する一切の事業(当該事業に係る知的財産権及び従業員等を含む)の事業譲渡(以下「本件事業譲渡」という。)について、2023年5月31日付で株式会社JOLED及びJDI Design and Development合同会社との間で事業譲渡契約を締結いたしました。なお、当社は2023年6月28日開催の取締役会の決議に基づき、本件事業譲渡の完了日及び従業員の承継に関する修正覚書を株式会社JOLED及びJDI Design and Development合同会社と締結しております。

 

 

6 【研究開発活動】

当社は、先進の発想を具体化し、人々の生活と文化発展に貢献することを目標にし、商品開発から基礎的な要素技術開発まで幅広い研究開発活動を行っています。

顧客からの要求に即した商品開発及びそのための技術開発は事業部が担当しています。生産プロセス及び生産技術開発は生産・品質本部、近い将来から次世代までの技術開発はR&D本部が担当しています。また、大学、公的研究機関、関連メーカー、技術ベンチャーとの研究開発活動も積極的に行っています。

当連結会計年度には、株式会社JOLEDよりOLEDディスプレイに関する人材、知的財産権およびノウハウを継承し、当社の成長戦略の加速を図っています。

当連結会計年度の研究開発費は11,474百万円となりました。

 

当連結会計年度の主な研究開発の成果は、下記のとおりです。

・有機EL(OLED)ディスプレイ「eLEAP」のノートPC向け製品を開発

「eLEAP」は当社が世界で初めて開発した(当社調べ)マスクレス蒸着とフォトリソを組み合わせた方式で画素を形成するOLEDディスプレイです。eLEAPの量産開始準備と並行して、eLEAPの新たな用途開発にも取り組んでおり、顧客からの中型サイズへの要望に応え、14インチ型ノートPC用製品を開発し、サンプルの提供を開始しています。さらには、OLED層の生産プロセスが複雑なタンデム構造を使用せずにシングル構造で従来の同サイズのOLED製品の約3倍の輝度となる1600cd/m2品の開発を進めています。

当社は、OLEDに関連する登録特許をグローバルで8,000件以上保有し、500件以上のeLEAP固有特許を出願しております。さらに、生産設備やプロセスに関するノウハウを蓄積しており、強力な知的財産ポートフォリオを構築しております。

※ eLEAPはOLEDディスプレイの量産に使用されているファインメタルマスク(FMM)を用いた有機材料の蒸着方式と比較して、製品性能(発光領域の拡大による長寿命・省電力・高輝度、高精細化、フリーシェイプ)の優位性および生産性(製造時の基板の大型化、OLED材料効率など)の優位性があり、ディスプレイデバイスに革新的な飛躍をもたらすものと考えております。

 

・可視光を通過する透明な5Gミリ波対応液晶メタサーフェス反射板を開発

5G通信で利用するミリ波は、超高速・大容量・低遅延な通信サービスを提供可能である一方、電波の強い直進性により、ビルや樹木の影などに電波の届きにくい場所(カバレッジホール)を発生させやすい特徴を有します。このような場所へ5Gサービスを提供する方法として、基地局からの電波を特定方向に反射させるメタサーフェス反射板が注目を集めております。

開発したメタサーフェス反射板の試作品は、ミリ波を反射する一方で可視光を通過する特徴が確認されています。今回の成果により、窓ガラスや広告媒体上に透明な方向可変型液晶メタサーフェス反射板を設置することができ、様々なシーンにおいて、カバレッジホール対策ができるようになるものと期待されます。