第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。

(1)経営の基本方針

当社グループは、経営理念『「いつも」を支え、「いつも以上」を創ります。』のもと、誠実な企業活動により暮らしの安心を支え、果敢な挑戦により新たな価値を創出し、多様な人々との協働により社会に貢献することを経営の基本方針に、鉄道、不動産、国際物流、流通、ホテル・レジャーなど幅広い事業を営んでおります。

それぞれの事業において、サステナビリティを重視して社会課題の解決に努めることにより、持続的な成長を目指すとともに、多様なステークホルダーの皆さまと「共創による豊かな社会」の実現に貢献してまいります。

 

(2)中長期的な経営戦略及び対処すべき課題

今後の見通しにつきましては、緩やかな景気回復基調の継続が期待される一方、緊張する国際情勢や海外景気の下振れリスク、為替、金利や物価の動向、人手不足の深刻化などの懸念材料もあり、楽観を許さない企業環境が続くものと予想されます。

当社グループとしては、計画の最終年度を迎えている「近鉄グループ中期経営計画2024」に基づき、引き続き事業基盤の底固めと財務内容の改善に努めながら、グループ横断での成長戦略をこれまで以上に推進いたします。具体的には、元気なまちづくりと観光魅力の創出を通じた近鉄沿線の地域活性化に注力するのに加え、大阪・関西万博をビジネスチャンスと捉えて各事業で積極的に施策を展開し、グループの収益向上に結びつけてまいります。また、首都圏など沿線以外の地域や海外での一層の事業展開、外部パートナーとの連携による事業領域拡大などを目指すとともに、さまざまな課題解決と新たな価値創出のためにDXを強力に進め、さらに、人財の採用、育成、離職防止に関する取組みも一段と強化してまいります。

各部門別の中長期的な重点施策は以下のとおりであります。

① 運輸

運輸業におきましては、鉄軌道部門で、より安全・安心・快適な輸送サービスを提供していくための設備投資を計画しており、本年秋には新型一般車両の投入を開始するほか、車内防犯カメラやホームドアの設置等、安全対策やサービス向上施策を引き続き強化してまいります。また、さらなる利便性向上と海外からのお客様への対応を目的として、QRコード乗車券対応エリアの拡大とクレジットカード等のタッチ乗車システムの導入を予定しているほか、自治体等との連携による沿線の活性化にも継続して取り組みます。

このほか、統合型リゾート(IR)開業を見据えて、夢洲と近鉄沿線観光地を直通で結ぶ車両の開発を引き続き検討してまいります。

② 不動産

不動産業におきましては、既存のアセット事業及びマンション事業に加えて仲介・リフォームなどのハウジング事業の強化を図り、これらを3本柱として確立させてまいります。これとともに、顧客ターゲットや事業エリアの拡大にも取り組んでまいります。

また、近鉄沿線の再開発事業については、各拠点の特性に合わせ、スマートシティ、コンパクトシティ、エコシティ等の機能を導入したまちづくりを行い、交流人口・定住人口の増加を目指す計画であります。

さらに、グランピングによる宿泊機能とジップラインやアスレチックなどのレジャー機能を融合したアウトドア体験型複合施設「志摩グリーンアドベンチャー」を本年7月に三重県志摩市で開業するなど、新たな事業領域への挑戦も継続してまいります。

③ 国際物流

国際物流業におきましては、㈱近鉄エクスプレスでは、長期ビジョン「“Global Top10 Solution Partner”~日本発祥のグローバルブランドへ~」の実現に向け、航空・海上貨物の取扱物量の拡大を図るべく、既存ビジネスの維持・拡販、新規ビジネスの販売活動を強力に推進します。また、成長を支える経営基盤としてオペレーションの核となるIT機能の強化にも力を注ぎ、業務基幹システムの機能拡充などにも取り組んでまいります。

④ 流通

流通業におきましては、百貨店部門で、あべの・天王寺エリアの魅力最大化の取組みをさらに加速させ、「あべのハルカス近鉄本店」について、国内外を問わず広域から多くのお客様に訪れていただける都市型百貨店を目指し、売場の改装や新規ブランド店舗の導入を進めます。また、地域中核店・郊外店については、「タウンセンター化」をより一層加速させるため、地域特性に応じた改装などを実施してまいります。さらに、フランチャイズ事業については、好調な事業の多店舗展開を推進するとともに、新たな業態開発にも取り組みます。

ストア・飲食部門では、駅ナカ商業施設の活性化やクラフトビールなどの製造小売業の強化を図るとともに、スーパーマーケットについては、プライベートブランドの開発など他社との差別化に重点を置いた取組みを進めてまいります。

 

⑤ ホテル・レジャー

ホテル・レジャー業におきましては、ホテル部門で、お客様へのサービス向上等を通じて「都ブランド」の価値を高めるとともに、引き続き所有・直営型と運営受託型の2軸で事業を展開し、新たな運営受託ホテルの獲得に向けた取組みなどにも注力いたします。

旅行部門では、KNT-CTグループにおいて、内部統制システムの一層の強化、企業風土の改革及びコンプライアンス意識の徹底に引き続き取り組みます。また、多様化するライフスタイルに対応した旅の提案に努めるとともに、旅行関連サービスの提供や新規事業の創出などによる事業ポートフォリオの多様化も図ってまいります。

 

(3)目標とする経営指標

「近鉄グループ中期経営計画2024」の最終年度である令和6年度において、営業利益860億円以上、純有利子負債1兆700億円未満、純有利子負債/EBITDA倍率7.0倍程度、自己資本比率21%以上の連結経営指標目標を設定しております。

(注)純有利子負債=借入金+社債+リース債務(IFRS第16号による計上分を除く)-現金及び預金

   EBITDA=営業利益+減価償却費(IFRS第16号による計上分を除く)+のれん償却費

 

2【サステナビリティに関する考え方及び取組】

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は、次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

(1)サステナビリティ共通

① ガバナンス

第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等」で記載のとおり、当社グループは、『「いつも」を支え、「いつも以上」を創ります。』を経営理念として、誠実な企業活動により暮らしの安全を支え、果敢な挑戦により新たな価値を創出するとともに、多様な人々との協働により社会に貢献することを目指しております。これらの活動を通じてお客さま、地域社会、株主、従業員など多様なステークホルダーの皆さまとの信頼関係を維持・強化していくために、コーポレート・ガバナンスの充実を図り、経営の健全性の向上に努めております。

その一環で、長期的な視点での社会課題解決と企業価値向上を図ることを目的として、当社社長を委員長とし、当社役員及び主要グループ会社のCSR担当役員により構成するCSR委員会を、年2回程度定期的に開催し、サステナビリティを巡る諸課題について検討してまいりました。令和6年3月には、同委員会が担ってきた役割をサステナビリティ推進委員会、リスク管理委員会、法令倫理委員会に分化した上で、サステナビリティ推進委員会、リスク管理委員会は主要グループ会社の社長が委員を務める体制にあらため、サステナビリティ・ガバナンスの強化を図っております。

取締役会では、サステナビリティの視点も含め、事業リスクや機会に対応する重要案件について確認しております。また、近畿日本鉄道㈱をはじめとするグループ会社の取締役会などで、気候変動にともなう激甚災害への対応、安全性の向上を目的とするインフラの強靭化投資ほか重要な事案について審議しております。

 

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② 戦略

令和3年11月、社会課題解決・企業価値向上の視点で長期的に取り組む方針として、「近鉄グループサステナビリティ方針」を取締役会に付議して策定しました。同方針において、社会課題と事業との関連性等を踏まえて、7つの「サステナビリティの重要テーマ」を定めており、当社及びグループ各社が実践することにより、持続的な成長を目指すとともに「共創による豊かな社会」の実現に貢献してまいります。

 

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各重要テーマにおいて目指している方向性及び認識しているリスクと機会は以下のとおりです。

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なお、気候変動、人的資本については、それぞれ(2)、(3)にも戦略を記載しておりますので、ご覧ください。

 

 

③ リスク管理

事業等のリスクを適切に管理する包括規程として「リスク管理規程」を定めるとともに、グループ横断的なリスク管理体制を整えるために令和6年3月、当社社長を委員長とし、主要グループ会社社長と当社役員が委員を務めるリスク管理委員会を設置しました。同委員会において各種リスクの把握・評価を行い、取締役会に報告しております。サステナビリティに関するリスクとしては、「人財不足」「沿線人口の減少・沿線の魅力低下」「人権侵害」「法令違反」「気候変動」を重要リスクと特定し、同委員会からサステナビリティ推進委員会(旧CSR委員会)に連携しております。また、これらの重要リスクについては、当社及びグループ各社において対応計画を検討・決定し、実行するとともに、その状況についてリスク管理委員会等がモニタリングを行うなど運用状況を評価、改善することにより、リスク管理を行っております。なお、グループ横断的なリスク管理体制及び具体的なリスク及びその対応につきましては、「3.事業等のリスク」に記載しておりますので、ご覧ください。

一方、サステナビリティの重要テーマに関連する機会を捉えるため、サステナビリティ推進委員会(旧CSR委員会)において経営陣が幅広い視点から議論を行っているほか、エリアの活性化、駅を中心としたまちづくり、観光振興、地方支援等に資する施策について、取締役会及び経営会議、常務役員会、グループ戦略会議等の会議体において審議、報告を行うこととしております。

 

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④ 指標及び目標

「サステナビリティの重要テーマ」ごとに、当社グループ全体又は主要事業会社として評価指標(KPI)を複数設定し、目標達成に取り組んでおります。気候変動、人的資本については、それぞれ(2)、(3)に指標及び目標を記載しておりますので、ご覧ください。また、第三者からの評価によってサステナビリティ活動の進捗や課題を客観的に把握し、効果的な対応につなげるため、総合的な評価指標として、当社グループに対するESG外部評価の維持・向上を掲げております。

 

 

(2)気候変動

① 戦略

当社グループは「サステナビリティの重要テーマ」の一つに「脱炭素・循環型社会実現への貢献」を掲げ、気候変動を事業等における主要なリスクの一つと認識し、省エネルギー・省CO2、省資源、リサイクルなどさまざまな取組みを推進しております。

長期的な視点から気候変動のリスク・機会に対応するため、TCFDの枠組みに沿って、各事業におけるリスクと機会の洗い出しとリスクへの対応、機会の取込みの方向性、また、世界観の整理を行いました。さらに鉄道事業において、リスク評価「大」とした項目について、将来の気温上昇を予測するシナリオのうち「2℃シナリオ」、「4℃シナリオ」それぞれで、令和12年(2030年)と令和32年(2050年)の事業に与える影響額を試算しました。「炭素税等の導入」「エネルギーコストの増加」「災害激甚化」のリスクが高い一方で、鉄道の環境優位性が他の交通機関からの転換による機会にもつながると見込んでおります。これらの結果を参考に、リスクの最小化・機会の最大化を図り、脱炭素・循環型社会の実現に貢献してまいります。

 

② 指標及び目標

当社グループは、令和3年10月に策定した「近鉄グループ環境目標」を令和5年11月に改定しました。2050年のCO2排出量を実質ゼロとする目標の達成に向け、令和12年度(2030年度)における国内事業所のCO2排出量(総量)の削減目標を、平成27年度(2015年度)比で40%以上削減から50%削減に引き上げるとともに、海外事業所を含めて令和4年度(2022年度)比で20%削減する新目標を設定しました。また、エネルギー使用量については、引き続き平成27年度比で20%以上削減することを目標としております。なお、令和4年度のCO2排出量は、平成27年度比で40.9%削減、エネルギー使用量は14.3%削減となりました。

 

国内

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※対象範囲:省エネ法定期報告対象会社(~令和4年度:14社、令和5年度~:16社)

 

国内+海外

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※対象範囲:国内の省エネ法定期報告対象会社(16社)+ 近鉄エクスプレスグループ(海外)

詳細については「近鉄グループ統合報告書」をご参照ください。なお、「近鉄グループ統合報告書2023」では61~75ページに記載しております。

https://www.kintetsu-g-hd.co.jp/csr/csr_report.html

 

 

(3)人的資本

当社グループ各社はそれぞれ異なる事業を行い、各社を取り巻く状況も様々であることから、各社個別に人的資本に関する基本方針を立てて取り組んでおります。そのため、本項目では当社単体に加え、近畿日本鉄道㈱及び㈱近鉄エクスプレスの人材に関する基本的な方針を記載します。なお、その他の主要な事業を営む会社に関する情報については当社ホームページに掲載しておりますのでご参照ください。

https://www.kintetsu-g-hd.co.jp/csr/humancapital/pdf/kintetsu_HR_strategy_2023.pdf

 

① 当社

a.全体方針

当社は、グループ全体の持続的な成長を牽引する人材を輩出していくために、高い意欲、能力、人格を備えた総合職の採用・育成及び力を発揮しやすい環境整備に取り組みます。

 

b.人材の多様性確保を含む人材育成の方針

(a) 方針

グループ経営理念である『「いつも」を支え、「いつも以上」を創ります。』を、当社社員がグループの幅広いフィールドで中核人材として体現していくために、異なる知識、経験、個性を持つ多様な社員を採用し、守るべきものを守ったうえで新しい世界に踏み出していける高い意欲、能力、人格を備えた人材に育成いたします。

(b) 具体的取組み

・将来のグループ経営幹部育成を念頭に置いた「あるべき人材像」と「職位に応じた要件」を定め、新入社員から部長クラスまで、それらに基づいた採用、階層別研修、評価、登用などを行うことでグループを牽引する人材の育成に努めております。

・育成においてグループを跨ぐジョブローテーションを重視しており、タレントマネジメントシステムを用いて社員毎に情報を一元管理することで、社員個々の特徴、強み・弱みを押さえた配置転換に活用しているほか、1on1ミーティングによる成長支援とエンゲージメント向上にも力を入れております。

・特に経営理念を体現するための取組みとして、近鉄沿線の生活基盤を支えるという使命感を強く持ち、沿線の一員としてのアイデンティティを確立するための沿線地誌研修や、新たな価値を生み出していくための感性や判断力を磨き、教養を高めるための美術鑑賞研修、寺社仏閣研修を実施しております。

・幅広い事業でグローバル化への対応が求められるため、前述の沿線・日本文化の理解を国際人材の基礎としつつ、ビジネスレベルの外国語ができる人材の採用と育成に力を入れております。

・「近鉄グループ中期経営計画2024」において重点施策の1つとして掲げる「DXによる新規事業・サービスの創出」を実現するため、情報系人材の採用と育成に力を入れております。

・現状では男性の新卒社員が社員の大部分を占めるため、女性採用とキャリア採用に積極的に取り組んでおります。

 

 

(c) 指標及び目標

No.

指標

令和5年度

実績

目標

目標年度

備考

総合職採用者数に占める女性の割合

38.1

30%以上

令和7年度

総合職採用者数は毎年度40人程度を想定

総合職採用者数に占めるキャリア採用の割合

28.6

20%以上

(毎年)

 

 

 

 

当社籍管理職に占める女性の割合

4.6

7%以上

令和7年度

令和6年3月31日現在、当社籍管理職431人中20人が女性。

当社籍社員の多くが近畿日本鉄道㈱からの転籍社員であり、平成11年まで女性の深夜業が原則禁止されていたため、女性の採用数が少なかったことが大きく影響しております。

管理職登用に相応しい経験、能力等を備えた者は性別によらず登用しております。

ビジネスレベルの外国語資格を有する総合職の人数

76

100

令和7年度

TOEIC700点以上の人数。

当社籍総合職は令和6年3月31日現在750人。

能力開発研修の総合職1人あたりの受講時間

31.8時間

20時間

(毎年)

延受講時間÷年度末当社籍総合職人数

No.5のうちIT・DX研修の受講時間

2.2時間

3時間

(毎年)

 

総合職情報系人材(DX人材)の採用者数

9

5人以上

(毎年)

 

 

c.社内環境整備方針

(a) 方針

全ての社員が能力を存分に発揮して活躍できるよう、働きやすい環境整備と働きがいの向上及び健康の増進を目指します。

(b) 具体的取組み

・当社籍社員の多くがグループ会社へ出向しているという特性に鑑み、全社員の勤務状況やキャリア志向、家庭環境等についての自己申告を当社人事部が毎年直接収集すること、人事部員が全社員と積極的・計画的に面談、懇談の機会を持つことで、社員のケアと改善施策立案に活かしております。

・社員のエンゲージメント向上等を目的とした1on1ミーティングを効果的に行うため、当社籍課長級社員を対象に部下マネジメント研修を実施しております。

・フレックスタイム制度や育児・介護と仕事の両立支援制度、社員向け保育所・診療所の充実等、多様な社員が働きやすい制度・設備の拡充に努めております。

・社員の健康増進を目的として、当社社長が委員長を務めるサステナビリティ推進委員会(令和6年3月にCSR委員会から変更)を中心とした健康経営推進体制を構築しており、疾病予防対策、禁煙対策、感染症予防対策及びメンタルヘルス対策等に取り組んでおります。

(c) 指標及び目標

No.

指標

令和5年度

実績

目標

目標年度

備考

当社籍総合職の離職率

2.4

2.0%以下

(毎年)

 

当社籍総合職に占める人事部直接面談者の割合

34.9

40%以上

(毎年)

 

当社籍課長級社員の部下マネジメント研修受講済割合

76.1

100

令和6年度

当社籍課長級社員は令和6年3月31日現在222人。

障がい者雇用率

1.8

2.3%以上

令和5年度

令和6年度以降は、目標を2.5%以上とします。

 

 

② 近畿日本鉄道㈱

a.全体方針

近畿日本鉄道㈱は「ありたい姿」である「魅力あふれる沿線を創出し、選ばれ親しまれる近鉄~安全・快適なサービスを提供し、輝く地域とともに~」の実現に向けて、人材の確保と育成、社内環境整備を行っております。

 

b.人材の多様性確保を含む人材育成の方針

(a) 採用について

〇方針

資質や能力を備える人材を確保するべく、柔軟で開かれた採用を行い、多様な人材を確保します。

〇具体的取組み

・総合職と鉄道職、新卒採用と中途採用、正社員とパート・アルバイトなど、多様な雇用形態で柔軟に採用を行い、必要な人材の確保に努めております。

・女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画において目標を定め、女性の計画的かつ積極的な採用に努めております。

(b) 育成について

〇方針

社員一人ひとりを経営に係る大切な財産と捉え、日常業務での指導や継続的な各種研修による成長支援を通じて、目指すべき人材像である「3つの基礎的な『ちから』」と「組織風土を創る発展的な『ちから』」の育成に取り組みます。

(参考)近畿日本鉄道の目指すべき人材像

■3つの基礎的な『ちから』

全社員が備えるべき能力で、①業務を遂行するちから、②組織人としてのちから、③自らを高めるちから、から構成される。

■組織風土を創る発展的な『ちから』

監督職以上が備えるべき能力で、①マネジメント力、②リーダー力、③価値創造・飛躍の力、から構成される。

 

〇具体的取組み

・職位や役職に応じ、豊富な研修メニューを実施しております。

・鉄道事業会社として安全を最も重視し、過去に発生させた重大事故を風化させないための研修を実施しております。(総谷トンネル列車衝突事故現場での実地学習、過去の事故・故障に関する展示施設での事例学習)

・社員各人が設定した年間目標に対して定期的な面談を通じて上司が伴走することで、社員の自律的な成長を促すことを目的とした面談評価制度を導入しております。

・新入社員に対しては、先輩社員が業務のOJTを行うエルダー制度、担当助役が公私のアドバイスを行うアドバイザー制度を実施し、手厚い育成支援体制を構築しております。

(c) 指標及び目標

No.

指標

令和5年度

実績

目標

目標年度

鉄道運輸部門の採用者に占める女性比率

11.3%※1

30%以上

(毎年)

鉄道技術部門の採用者に占める女性比率

4.1%※1

5%以上

配偶者が出産した男性に占める育児休業取得率、平均取得期間

72.7%

2.1か月

50%以上

3か月以上

専門技能習得・安全意識を高めるための研修の実績

125,083名※2

296,963時間※3

法令倫理・ダイバーシティ推進に関する研修の実績

21,754名※2

21,944時間※3

その他研修の実績(例:汎用的なスキル習得を目的とした研修等)

9,815名※2

18,901時間※3

従業員一人当たりの年間平均研修時間

49.0時間※4

50.0時間

令和7年度

※1.令和6年4月新卒入社者の実績を記載

※2.延べ人数を記載

※3.延べ時間を記載

※4.研修実績の延べ時間を期首社員数で除した数を記載

 

 

c.社内環境整備方針

(a) 働きやすい環境づくりについて

〇方針

多様な人々との協働により、社会に貢献することを経営理念に掲げ、社員一人ひとりが持てる能力を最大限に発揮できる環境づくりに力をいれております。

〇具体的取組み

・子育てサポート企業として厚生労働省の「くるみんマーク」を、女性活躍推進に取り組む企業として大阪市の「大阪市女性活躍リーディングカンパニー認証」をそれぞれ取得しております。

・女性の計画的かつ積極的な採用に対応し、女性社員用設備を充実させております。

・職場における多様性を重視し、人権・同和研修を階層別や役職別に実施するほか、新任助役向けにはダイバーシティ推進研修を実施しております。

(b) 安全・健康について

〇方針

お客様に安心してご利用いただける輸送サービスを提供するためには、社員の健康管理が不可欠であると考え、社員の健康保持・増進に向けた施策を積極的かつ継続的に取り組んでおります。

〇具体的取組み

・健康経営優良法人として経済産業省の「ホワイト500」を5年連続で取得しております。

・肥満者比率、高ストレス者割合、喫煙率について、社内で低減目標を設定しております。

・労働安全管理方針・労働衛生管理方針を定め、全社を挙げて取り組んでおります。

・健康診断項目を拡充するとともに、脳ドック等受診時の費用補助制度を新設しました。

(c) 指標及び目標

No.

指標

令和5年度

実績

目標

目標年度

離職率

2.1%※5

2.0%以下

(毎年)

有給休暇取得率

90.9%

90.0%以上

障がい者雇用率

2.4%

2.3%以上

~令和5年度

2.5%以上

令和6年度~

2.7%以上

令和8年度~

肥満者割合

31.8%

30.0%未満

令和6年度

高ストレス者割合

17.7%

15.0%未満

喫煙率

11.5%

10.0%未満

度数率(労働災害の発生の頻度)※6

0.74

0.00

(毎年)

強度率(労働災害の重さの程度)※7

0.06

0.00

※5.離職者を期首社員数で除して算出(離職者には定年退職者・再雇用満了者を含まない)

※6.100万延べ実労働時間当たりの労働災害による死傷者数

※7.1,000延べ実労働時間当たりの延べ労働損失日数(労働災害により労働不能となった日数)

 

③ ㈱近鉄エクスプレス(以下、「KWE」とする。)

a.全体方針

KWEグループは、社内において多様な視点や価値観を持つ従業員の存在が会社の持続的な成長につながると考え、これを推進するため多様性の確保と相互尊重に満ちた組織づくりを進めており、それらを、コーポレートHRのビジョン、及びミッションにという形で方針の制定を行っております。

[コーポレート HR ビジョン]

従業員が誇りを持てる企業となるために、従業員を惹きつけ、定着させ、育成していきます。

そして従業員のエンゲージメント向上を通じて、個人と組織の持続的な成長を導きます。

[コーポレート HR ミッション]

個々人が自分自身を成長させ、組織に貢献するよう動機づけられる就業環境を構築することを通じて、全ての従業員が長く充実したキャリアを享受できるようにすることを目指します。

 

 

b.人材の多様性確保を含む人材育成の方針

(a) 方針及び具体的取り組み

令和5年度は、「KWEグループダイバーシティと機会均等に関する基本方針」を制定しました。これに基づき、KWEグループでは、以下の4つの観点でグローバルに活躍できる人材の育成を行っております。

・KWEグループのお客様の業種や国籍が多様化する中で、世界中の様々な都市でサービスを提供しているKWE各法人の経営に一層の多様性を取り入れていくこと

・多様な民族性や文化的背景を持つ従業員にとって、採用や育成、配置、登用の仕組みや、従業員一人一人への期待役割がはっきりしていること

・仕事や役割、発揮したパフォーマンスや業績がきちんと評価され、処遇がしっかり結びついていること

・会社が従業員を計画的に育てる文化を作り、従業員一人一人に成長の機会が与えられていること

(b) 指標及び目標

KWEグループでは、国内外の多様な従業員の育成の指針となるKWEグループリーダーシップコンピテンシーを策定し、将来の経営幹部候補の計画的な育成に取り組んでおります。またグローバルで求められる最新のビジネススキルの学習のためLinkedIn Learningを導入し、個々の従業員の学びのニーズに応えております。

KWEでは、次のような取り組みを行っております。

・個々の経験や能力を発揮しやすい人事制度の導入(=役割等級制度)

・若手社員の育成の目的としてOJT制度(=サンシャイン・ステップアップ制度)

・階層別・目的別・役割別の研修の実施

・管理職に能力強化のためのテーマ別研修の実施

・管理職候補者のマネジメントスキル向上の施策(管理職候補者への通信教育等)実施

・将来の経営人材育成のための選抜研修の実施(年間38名)※令和5年度実績 年間37名

・海外駐在員育成のための海外研修プログラムの充実と機会の提供(年間25名)※令和5年度実績 年間23名

・自発的な学習機会の提供とラインナップの充実

 

c.社内環境整備方針

(a) 方針及び具体的取り組み

KWEグループでは、全ての従業員の健康と安全を重視した職場環境づくりを進めており、一部の法人ではISO45001の認証取得等を通じて、現場でレベルでの活動に注力してきました。この取組みをグローバルレベルでより強化することを目的に「KWEグループ労働安全衛生基本方針」、及び、「KWEグループ安全衛生管理規定」を制定し、KWEグループ労働安全衛生委員会を定期的に開催することで、従業員の健康と安全のための施策を進めております。

(b) 指標及び目標

KWEグループは、従業員が健康で安心して働くことができる職場でその能力を遺憾なく発揮し、お客様と社会に最大限の価値を提供することを目指します。

KWEでは、次のような取り組みを行っております。

・安全衛生推進センターの設立による社員の健康管理の充実

・障害者雇用促進のための社内環境整備と従事する人材の育成

・女性管理職社員の比率向上 ※令和5年度実績12.4%

・ダイバーシティに関する継続的な教育

・テレワーク(在宅勤務)の制度化と、運用ガイドラインの制定

・育児・介護短時間勤務者の制度適用対象範囲の拡大と運用ガイドラインの制定

・有給休暇取得率の向上 ※令和5年度実績 71.4%

・障害者が安心して勤務できる組織の創設と労働環境の整備 ※令和5年度雇用率実績2.53%

・従業員定着率の向上

・健康経営優良法人2024の認定取得とそれをベースにした企業活動の充実

①脳・心疾患・がんによるアブセンティーズムの改善

②メンタル不調によるアブセンティーズム・プレゼンティーズムの改善

③サーベイを活用した従業員エンゲージメントの向上

 

健康関連の最終的な目標指標の現状と目標値

 

 

2020年

2021年

2022年

2023年

目標値

プレゼンティーズム

35.4%

34.7%

33.5%

33.5%

33.0%

アブセンティーズム

1.3%

3.4%

2.8%

2.9%

2.5%

ワークエンゲージメント

49.8%

50.2%

50.8%

55.0%

※プレゼンティーズム算出方法:WHO-HPQ(世界保健機関が公開している「健康と労働パフォーマンスに関する質問紙」)を使用

※アブセンティーズム算出方法:傷病により1か月以上休業した人数÷従業員の人数

※ワークエンゲージメント算出方法:㈱近鉄エクスプレス実施のストレスチェック結果より

 

3【事業等のリスク】

当社グループでは、企業経営におけるリスクの把握・回避と影響の軽減、再発防止、有事における対応力強化、そしてリスク管理の意識向上を目的に、令和6年3月、下図のとおり、グループ横断的なリスク管理体制を再整備・強化しました。

本体制のもと、お客様・従業員の生命・健康に関わる「安全」、社会から当社グループへの「信頼」、当社グループに金銭的損失を与える「経済損失」という3つの視点から、当社及びグループ各社において具体的なリスクを抽 出・把握しました。そのうえで、把握したリスクを影響度・発生頻度の二軸で評価して近鉄グループ全体のリスクマップを作成し、対処すべき重要リスクを特定いたしました。

当社及びグループ各社において、これらのリスクへの対応計画を決定して実行し、リスク管理の運用状況や対応計画の実施状況を本リスク管理体制のもと、モニタリングしてまいります。

 

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特定した重要リスクを踏まえ、「第2 事業の状況」「第5 経理の状況」等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識しているリスク及びリスクへの対応につきましては、以下のようなものがあります。

なお、文中における将来に関する事項は、本有価証券報告書提出日現在において、当社グループが判断したものであります。

 

(1)主に「安全」に関わるリスク

① 大規模事故等の発生

万一大規模事故や大規模火災、テロ等が発生した場合、その復旧や損害賠償に巨額の費用が必要となるほか、長期間にわたる事業の中断が発生する可能性があり、業績に深刻な影響を与えるおそれがあります。

当社グループでは、公共交通機関として多数のお客様の輸送に当たる鉄軌道事業やバス事業をはじめ、その他の各事業においてもお客様の安全の確保を第一義に考えております。このため、運輸安全マネジメントの推進・徹底、従業員の教育・訓練、鉄軌道事業における運転保安設備の新設、更新、増強ほか各事業において計画的に投資を継続するなど、各種の安全対策に万全を期しております。

② 大規模自然災害の発生

南海トラフ地震等とそれらに伴う津波や、気候変動の影響により激甚化している大規模な風水害などが発生した場合、長大橋梁・鉄道トンネル・線路等鉄道施設の毀損、特急券オンライン発券システムの停止・損壊などのほか、ホテルや百貨店、賃貸施設、レジャー施設等についても大きな被害が生じるおそれがあり、当社グループにおいて大規模な損害及び復旧費用が発生する可能性があります。また、当社グループの経営資源が大阪府、奈良県、三重県をはじめ、近鉄沿線に集中していることから、特に南海トラフ地震が発生した際は、グループ全体の業績に深刻な影響を与えるおそれがあります。

このため、鉄軌道事業における駅や高架橋、シールドトンネルの耐震補強、橋梁洗堀対策、電気設備等の浸水対策等の計画的な実施、各事業における耐震補強など防災対策工事の推進、従業員の教育・訓練、さらに大規模地震に対する事業継続計画の定期的な見直し等、大規模な災害・事故等の発生に備えた危機管理体制の整備を一層推し進めております。

 

 

③ 労務管理の不足

運輸業をはじめ労働集約型の事業を幅広く展開している当社グループにおいては、自責・他責によらない事故の発生、就業環境等に起因するメンタル面の不調等、心身両面での健康被害や死傷者の発生等の労働災害が生じる可能性があります。また、働き方改革など労働環境改善のための法改定への対応が遅れた場合、従業員が心身両面での健康被害を受けるおそれに加え、ステークホルダーからの信用低下や業績悪化を招く可能性があります。

当社グループでは、労働安全衛生の向上を図るため、安全管理意識の徹底や設備面の充実によるバックアップ等を進めております。また、働きやすい職場環境の整備、従業員との対話や各種支援制度の充実、「近鉄グループ健康経営宣言」に基づく健康経営の積極的な推進などを通じて、従業員のエンゲージメント向上、心身の健康増進を図っております。さらに、グループ全体で法令遵守の徹底や必要な情報の収集・共有に努めております。

④ 感染症の拡大

新規または既存の感染症の発生・拡大に伴う経済活動の規制、顧客の事業活動の停止、移動需要や観光需要の激減が生じた場合、収支の著しい悪化、従業員の罹患による事業中断の可能性があります。また、アフターコロナ社会において、感染症がもたらした社会構造や行動様式の変化により、通勤・出張需要の減少、オンラインビジネスの拡大などが定着したように、事業形態や事業収支への影響が恒常的なものになるおそれがあります。

当社グループでは、社会・経済環境、行動様式の変化に応じた各事業の構造改革や新サービスの創出を進めるとともに、感染症が発生した場合には感染予防と拡大防止に全力で取り組んでまいります。

⑤ 商品・サービスの品質、安全性、表示の信用棄損

主として一般消費者を顧客としている流通業及びホテル・レジャー業において、当社グループが販売する商 品・提供するサービスの品質や、食品類等の表示について信用毀損が生じた場合、お客様の減少による減収や損害賠償、争訟費用等のコスト発生により業績が悪化するおそれがあります。

当社グループでは、関係法令の遵守状況の確認や品質・衛生管理・食品類等の表示のチェック、従業員に対する定期的な研修などを実施し、商品・サービスの品質安全性の確保、適切な表示に努めております。

 

(2)主に「信頼」に関わるリスク

① 人権侵害

国内及び海外で幅広く事業を展開する当社グループは、従業員のみならずサプライチェーンなど多岐にわたる人々の支えのもと事業を営んでおります。グループ内やサプライチェーンにおいて人権侵害や各種ハラスメントが発生した場合、被害者の方の心身の健康被害につながるほか、社会的信用の低下や企業イメージの悪化、取引先企業からの取引停止、売上減少のおそれがあります。

当社グループでは、令和4年11月に人権に関する国際規範に基づき制定した「近鉄グループ人権基本方針」のもと、人権リスクの特定、教育や研修を通じた予防・軽減、相談窓口等による救済・是正等、人権デュー・ディリジェンスの実施に努めており、グループ内及びサプライチェーンにおける対応を進めてまいります。

② 情報セキュリティの不備

当社グループは、定期乗車券の発売やカード会員の募集、ホテル業、百貨店業、旅行業等の営業を通じ、お客様の個人情報その他の機密情報を保有しております。万一これらの情報への不正なアクセス、情報の紛失、改ざん、漏洩、消失等が起こった場合、損害賠償等による費用が発生するほか、信用失墜などにより業績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

また、想定を超えるコンピュータシステム障害、通信障害、近年巧妙化しているコンピュータウイルスやサイバーテロ等により、システムが長時間にわたり機能しなくなる等の不測の事態が発生した場合にも、業績等に悪影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、情報の漏洩等を防ぐため、法令、「近鉄グループ情報セキュリティ基本方針」並びに各社 が制定する規程等に基づき、各社がその責任において情報セキュリティを確保し、情報を厳重に管理しているほか、デジタル人材の採用・育成強化を実施しております。また、不正アクセスやコンピュータウイルスに対しては、ハード・ソフトの両面からセキュリティ体制の強化に取り組んでおります。

③ 法令違反

当社グループの役員、従業員ほか、会社関係者の各種法令違反、犯罪・不祥事、反社会勢力との取引等が発生した場合、社会的信用の失墜・企業イメージの著しい低下を招くとともに、行政・司法からの処分、ペナルティーの支払い、収支への影響、事業継続への支障のおそれがあります。

当社グループでは、近鉄グループ経営理念の一つに「わたしたちは、誠実な企業活動により、暮らしの安心を支えます。」を掲げ、法令遵守を最優先に事業を営んでおります。さらに、社員一人一人が遵守すべき「近鉄グループ企業行動規範」、法令や企業倫理の遵守に関する「法令倫理指針」を制定し、周知の徹底・教育の充実を図っております。また、令和6年3月にCSR委員会が担っていた機能のうち法令倫理遵守に特化した「法令倫理委員会」を独立させて機能強化し、主要会社役員が委員となって、法令及び企業倫理に則った誠実な企業行動の確立に努めております。

④ 新規事業特有のリスク

新たな事業機会を求めて新規事業に取り組む場合、業界やエリア特有の法令・商慣行の認識不足による法令・契約違反や、不慣れなオペレーションによる安全確保の不備、労働災害を発生させる可能性があり、それにより、お客様や取引先へのご迷惑や従業員の心身の健康阻害、また、企業イメージ・社会的信用の低下を招くおそれがあります。

当社グループでは、新規事業特有のこのようなリスクを踏まえ、マニュアル・規程類の整備や業務システムによるバックアップ、また、外部パートナーや有識者とも連携し、当該業界固有の仕組み等に関する関係者への教育や潜在的リスクに対する情報収集、対応力の強化等を図ってまいります。

(3)主に「経済損失」に関わるリスク

① 人材不足

当社グループにおいては、鉄軌道事業をはじめとする多くの事業が労働集約型であり、人材の安定的な確保が不可欠であります。しかしながら、少子高齢化により生産年齢人口の減少が続いており、また、終身雇用を前提としない働き方の浸透や、労働市場の流動化が進んでいることから、今後十分な人材が確保できない場合及び優秀な人材がグループ外に流出した場合は、事業機会の損失や競争力低下により、事業運営への支障や収支に影響を及ぼす可能性があります。また、社会インフラである交通サービスを計画通りに提供できず、皆様の生活にご迷惑をおかけするおそれがあります。

当社グループとしては、採用区分や採用エリアの拡大など多様な形態の採用活動により、引き続き適材適所の人材の確保に努めるとともに、働きがいがあり働きやすい魅力ある職場環境の整備、業務の合理化・システム化等による効率的な運営体制の構築、グループ全体で人材を有効活用する仕組みづくり等に取り組んでおります。

② 沿線人口の減少、沿線の魅力低下

少子高齢化及び都心への人口移転により、近鉄沿線での人口、特に就労人口及び通学人口が減少しており、今後もその傾向が続くと予想されます。この状況は鉄軌道事業収入、流通業収入や不動産業収入等、各事業の需要減少を招き、収支に悪影響を及ぼすと見込まれます。また、沿線の街や観光地の賑わいが乏しくなり魅力が低下することによって、定住人口や交流人口がさらに減少するおそれがあります。

当社グループとしては、お客様・地域社会のニーズに対応した商品・サービスの拡充、競争力のあるエリアでの不動産業等の展開、テクノロジーを活用した新たなビジネスモデルや効率的な運営体制の構築などの諸施策を積極的に進めてまいります。また、グループ各社間のみならず、自治体ほか幅広い関係者との連携を強化し、まちづくり推進、産業振興等による沿線の定住人口の減少抑制・増加、沿線観光資源の活用、観光魅力の向上による交流人口の拡大を目指してまいります。

③ 競合他社への顧客転移

近鉄線と競合する高速道路網の整備等によりモータリゼーションが一層進展しているほか、一部路線が鉄道他社と競合しております。また、沿線の観光地は、他の観光地と競合関係にあるため、観光客が減少し、鉄軌道事業のほかホテル・レジャー業の収入が影響を受ける可能性があります。さらに、大阪・奈良・三重地区等で競合する他の百貨店や異業態の新店舗開業・改装により、流通業の収入が影響を受ける可能性があります。

当社グループとしては、関係者と連携しながら、持続可能で魅力ある公共交通サービスの提供、豊富な沿線観光資源の活用やお客様・地域社会のニーズに対応した商品・サービスの拡充に努めるほか、競争力のあるエリアでの不動産業等の展開、テクノロジーを活用した新たなビジネスモデルや効率的な運営体制の構築などの諸施策を積極的に進め、グループ各社の連携によりグループ事業全体の基盤強化を図ってまいります。

④ 事業領域等の偏り

当社グループは、近畿・東海を主たる事業エリアとする鉄軌道事業など人の移動を前提とするBtoC事業に事業領域が偏っていました。その結果、新型コロナウイルス感染症の拡大により、人流が激減したことが損益の大幅な悪化をもたらしました。グループの事業が特定の事業領域及び事業エリアに偏っていることは、外部環境の急激な変化に柔軟に対応しきれず、事業収支の大幅な悪化を招く可能性があります。

これに対して、令和3年に工業用製品を製造する㈱サカエをグループに加え、令和4年には物流業界で世界的にフォワーディング事業を展開する㈱近鉄エクスプレスを完全子会社化して、国際物流業をグループの中核事業とするなど、M&Aなどを活用してバランスある事業ポートフォリオを構築するとともに、海外へも事業エリアを拡大しております。この流れを継続深化するとともに、グループ間連携の強化によってグループ全体の企業価値向上を図ってまいります。

⑤ 気候変動

気候変動の物理的リスクのうち、急性リスクとして、大型台風、豪雨に伴う風水害や土砂災害により列車が運行不能になるおそれがあります。また、旅行やホテルのキャンセルや、買物・レジャーの出控えが発生します。慢性リスクとしては、猛暑等により空調などの電力使用量やエネルギーコストが増加するおそれがあります。また移行リスクとして、法律等の規制強化や、旅行や日常生活における消費者行動の変化により、大規模な設備投資や事業構造の見直しを迫られるおそれがあります。鉄道事業においては、「炭素税等の導入」「エネルギーコストの増加」「災害激甚化」リスクの影響が特に大きいと見込んでおります。

当社グループとしては、TCFDの枠組みに沿って気候関連の影響に関するシナリオ分析を行い、戦略検討やリスク管理、統合報告書等での情報開示を進めております。激甚化する災害に備え鉄道の防災・安全対策を推進するとともに、令和5(2023)年11月に、2050年カーボンニュートラルを目指す「近鉄グループ環境目標」における令和12(2030)年度のCO2排出量削減目標を引き上げ、各事業で省エネルギー、省資源等の取組みを一層推進し、気候変動への対応に努めております。

 

 

⑥ デジタル社会の進展

ITの進化により在宅勤務やオンライン会議の環境が整備されてきた中、コロナ禍を経てこれらが急速に普及し、公共交通機関を利用した通勤や遠距離の出張が減少しております。今後この動きやデジタル化の進展による新たな技術革新、生産性向上等がさらに進んだ場合は、人流に依拠する鉄道・バスなどの運輸収入やオフィスビルなどの不動産賃貸収入が減少したり、生産性が低下したりするおそれがあります。

当社グループとしては、交流人口を拡大するため、乗ること自体を目的とした鉄道車両の開発、伊勢志摩や奈良など沿線観光地の一層の魅力向上等により観光旅客の増加を図るとともに、競争力のあるエリアでの不動産事業の展開に加え、施設のリニューアル等により資産価値の維持・向上を図ってまいります。また、令和5年にデジタル推進室を設置してグループ全体のビジョンの策定、グループ共通顧客基盤の整備ほかDX施策の推進、DX人材の確保と育成等に努めております。

これらの取組みにより、近鉄沿線の交流人口の増加、新しい生活様式に適応したサービスの提供やデジタル技術を活用した新サービス創出、生産性向上等による業績の向上に努めてまいります。

⑦ 景気、個人消費動向、国際情勢等の変動

運輸業、不動産業、流通業及びホテル・レジャー業は、いずれも主に一般消費者を顧客としており、景気、個人消費動向等の経済情勢のほか、冷夏、暖冬などの異常気象や天候不順等の影響により、業績が悪化するおそれがあります。また、これらの事業は、天災・悪天候や通商問題、テロ攻撃・戦争等による国際情勢の悪化により訪日外国人が減少し、業績が悪化するおそれがあります。

また、国際物流業は、国内外の経済・景気動向、顧客企業の輸送需要、政治的又は社会的な要因の地政学リスク、それに伴うテロ攻撃や地域紛争、天災・悪天候、パンデミックなど様々な要因により、業績が悪化するおそれがあります。

当社グループとしては、構造改革の実施による損益分岐点の引き下げを図るとともに、BtoB事業の育成・強化による事業ポートフォリオのリスク耐性強化等を通じて、事業環境の変化、顧客の動向・ニーズに迅速かつ柔軟に対処して、業績の向上に努めてまいります。

⑧ 原油、電気料金、資材価格等の高騰

原油等の資源価格、電気料金、資材価格等の上昇は、当社グループの鉄軌道事業、バス事業、タクシー事業、国際物流業などに大きな影響を与えます。また、不動産業におけるマンション建築工事費や飲食店業、ホテル業、百貨店業等におけるエネルギーコストの上昇は、利益減の要因となります。

当社グループとしては、各事業において原価の抑制に努めているほか、各社及びグループ共同で資源の供給会社に対する価格交渉を随時行っております。また、新型車両導入や設備更新等による省エネの推進、資源価格に左右されない再生可能エネルギーの調達拡大の検討を進めております。

⑨ 貨物運賃・運送原価の高騰

国際物流業の航空貨物輸送においては、チャーター便を利用した輸送スペースを確保する際には、チャーター契約が固定的な仕入となることから、輸送需要が想定以上に低迷した場合は販売価格の下落により業績に影響を与える可能性があります。

これに対し、従前より取り組む機材スペースの部分的な確保や市場価格での買付けの比重を高めるなど、業績への影響を最小限に抑えるべく対処してまいります。また、安定的な供給スペースとサービスの提供による物量の拡大と継続的な成長を図るために、航空会社との関係を強化するとともに集中購買も進め、事業環境の変化に迅速かつ柔軟に対処してまいります。

他方、物流に関わる人材不足も顕在化しており、今後の情勢によっては、運送、荷役原価も大きく変動する可能性があります。仕入原価が想定以上に上昇し、一方顧客から適正料金の収受が困難となった場合は、業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

これらの可能性に対し、航空会社、船会社、トラック会社などの実運送事業者との協力関係の強化や集中購買の強化を図るとともに、顧客からの環境変化に応じた適正料金収受に努める等、事業環境の変化に迅速かつ柔軟に対処し、業績への影響を最小限にすべく努めております。

⑩ 法令による規制等

鉄道事業法(昭和61年法律第92号)の定めにより旅客運賃の設定・変更は国土交通大臣の認可を受けなければならず、鉄軌道事業における運賃の設定・変更を制限される可能性があります。

当社グループの事業活動においては各種法令の規制を受けており、法令改正の内容によっては、業績に影響を及ぼす可能性があります。

当社グループでは、国内外の法令に関する情報を収集することで、当社グループの業績への影響を最小限とするよう努めております。

⑪ 大規模投資・新規投資の失敗、保有資産の価値棄損

駅周辺再開発や観光振興に向けた大規模投資、成長に向けた新規事業への投資等を決定・着手した後の投資額の大幅な増額や、社会情勢の変化等によって完成後に期待した収益を創出できなかった場合、また、不動産市況の低迷や地価の下落に伴う販売用土地及びマンションの販売不振、不動産賃料収入の減少が生じた場合には、投資回収の遅れや固定資産及び販売土地建物についての評価損失の計上などにより、業績が悪化するおそれがあります。

当社グループとしては、経済動向や投資効果等を慎重に見極めて判断を行うとともに、地価変動の影響を極力避けるための保有資産の入替え、競争力のあるエリアでの事業展開、付加価値の高い案件への投資や新規物件の開発促進、低利用地の更なる有効利用等によって業績向上に努めております。

 

⑫ 為替レートの変動

国際物流業や旅行業は、グローバルに事業を展開しているため、各地域における通貨の変動が業績及び財務状況に影響を与える可能性があります。

これに対し、当社グループでは、外貨建債権・債務及び外貨建予定取引に係る為替の変動リスクを回避する目的で、為替予約取引や通貨スワップ取引等を利用しております。取引の運用にあたっては、社内管理規程等に則って執行と管理が行われており、投機目的及びレバレッジ効果の高い取引は行わない方針としております。

⑬ 調達金利の変動

景気の急激な変動や金融市場の混乱等により、今後市場金利が上昇又は乱高下した場合や、信用格付業者による格付が引き下げられた場合には、調達金利が上昇し、業績等に悪影響を及ぼす可能性があります。なお、令和5年度末の連結有利子負債残高は1兆2,368億93百万円、令和5年度の連結営業外費用における支払利息及び社債利息は102億24百万円であります。

当社グループでは、有利子負債残高の削減に努めており、また、金利変動による影響を軽減するため、金利の長期固定化を図っております。

⑭ 株式相場の変動

株式相場の変動により、時価のある投資有価証券の価格が下落し、業績等に悪影響を及ぼす可能性があります。また、年金資産(退職給付信託を含む。)の一部は上場株式で運用しており、株価の下落は退職給付費用の増加や掛金拠出の増加につながるおそれがあります。

当社グループでは、定期的に投資有価証券の市場価格を把握し、リスクを抑制しております。年金資産の運用については、外部の専門家によるアドバイスを参考にしつつ、定期的に運用状況の確認と見直しを行っております。

⑮ 企業買収等

当社グループ各社は、今後の成長に向けた競争力強化のため企業買収等を行っており、また、将来行うことがあります。

当社グループとしては、個々の案件の規模等に応じて、取締役会及び各社における各種の会議体での審議並びに投資先に対するデュー・ディリジェンスを十分に実施することにより、企業買収等の検討を進めるとともに、買収先の資産効率の向上及び利益の最大化に努めてまいります。

なお、買収先企業の業績が買収時の想定を下回る場合、又は事業環境の変化や競合状況等により期待する成果が得られないと判断された場合には、企業買収等を行ったグループ各社においてのれん等の減損損失が発生し、当社グループの業績に影響を及ぼす可能性があります。

平成27年5月には、持分法適用関連会社であった㈱近鉄エクスプレスがグローバルにロジスティクス事業を展開するAPL Logistics Ltdの買収を行ったほか、令和4年7月には、当社が㈱近鉄エクスプレスの発行済株式を対象とする公開買付けにより、同社を連結子会社化しております。

令和6年3月末時点において、当社の連結財務諸表で上記の買収に関連する固定資産2,825億76百万円(顧客関連資産450億29百万円、商標権362億44百万円及びのれん592億64百万円を含む。)が計上されております。

 

4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

当連結会計年度(以下、4において「当期」という。)における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下、4において「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

① 財政状態及び経営成績の状況

当期の世界経済は、米国をはじめ一部地域で底堅さが見られたものの、金融引締めや中国の景気低迷の影響があり、また、中東でも地政学リスクが顕在化するなど、予断を許さない情勢が続きました。わが国経済は、コロナ禍からの経済活動の正常化が進み、個人消費やインバウンド需要を中心に緩やかな回復基調にあった一方、物価上昇などの懸念材料もあり、先行き不透明な状況で推移しました。

このような情勢のもと、当社グループでは、運輸業、流通業、ホテル・レジャー業において回復が進んだ需要の取込みに努めるなど、各事業で収益向上に取り組みました。また、近畿日本鉄道㈱が運賃改定を実施したほか、令和4年7月に連結子会社化した㈱近鉄エクスプレスの業績が通期で寄与したこともあり、連結営業収益は前期に比較して4.4%増の1兆6,295億29百万円、営業利益は30.2%増の874億30百万円、経常利益は13.4%増の846億38百万円となりました。一方、前期は特別利益として㈱近鉄エクスプレスの連結子会社化に伴う段階取得に係る差益を計上していたこともあり、法人税等を控除した後の親会社株主に帰属する当期純利益は45.9%減の480億73百万円となりました。

 

各報告セグメントの経営成績は、次のとおりであります。

なお、当連結会計年度より、報告セグメントの区分を変更しており、以下の前期比較については、前期の金額を変更後のセグメント区分に組み替えて比較しております。詳細は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項(セグメント情報等)」に記載のとおりであります。

 

a.運 輸

運輸業におきましては、鉄軌道部門で、防災工事や保安度向上工事を着実に進めるなど、安全・安心を目指した取組みに注力しました。また、バリアフリー設備整備工事や駅改装工事を実施し、お客様の利便性・快適性の向上に努めました。

営業面では、コロナ禍からの回復が進む中、お客様誘致を図るため、観光特急「しまかぜ」運行開始10周年記念キャンペーン等を実施しました。また、自治体等との協力関係の強化に努め、ラッピングトレインやサイクルトレインの運行、駅での賑わいイベントの開催など、地域とともに沿線活性化に取り組みました。

なお、近畿日本鉄道㈱において、安全・安心・快適な輸送サービスを継続し公共交通としての使命を果たしていくため、前年4月に運賃改定を実施いたしました。

当期の営業収益は前期に比較して14.7%増の2,118億97百万円、営業利益は157.4%増の322億95百万円となりました。

 

 

業   種

単 位

当   期

(令和5年4月~令和6年3月)

前期比(%)

鉄軌道事業

百万円

153,027

19.0

バス事業

百万円

32,525

8.1

タクシー業

百万円

9,808

5.9

鉄道施設整備業

百万円

25,775

14.5

その他運輸関連事業

百万円

12,866

11.8

調整

百万円

△22,106

営業収益計

百万円

211,897

14.7

 

 

(近畿日本鉄道㈱ 運輸成績表)

区   分

単 位

当   期

(令和5年4月~令和6年3月)

前期比(%)

営業日数

366

0.3

営業キロ程

キロ

501.1

客車走行キロ

千キロ

271,875

0.4

旅客人員

定期

千人

320,195

4.2

定期外

千人

201,640

3.9

千人

521,835

4.1

旅客運輸収入

旅客収入

定期

百万円

48,119

16.4

定期外

百万円

98,212

21.7

百万円

146,332

19.9

荷物収入

百万円

9

△25.4

合計

百万円

146,341

19.9

運輸雑収

百万円

6,685

2.5

営業収益計

百万円

153,027

19.0

乗車効率

27.7

(注)乗車効率の算出は、延人キロ/(車両走行キロ×平均定員)によります。

 

b.不動産

不動産業におきましては、不動産販売部門で、関西圏、首都圏、名古屋圏を中心に引き続きマンション分譲に注力したほか、近鉄沿線の住宅地で新しい郊外居住をコンセプトにした戸建住宅の販売などにも取り組みました。また、不動産賃貸部門では、大和西大寺駅前で「人と街と緑が交わる商業施設」をコンセプトにした「Coconimo SAIDAIJI」を開業したほか、あべのハルカスでは、開業10周年を記念して1月から特別イベントを実施し、一層の来場促進を図りました。さらに、豪州の不動産を投資対象としたファンドへ出資するなど、新たな収益の確保に努めましたが、一方で、前期に一部の保有資産を売却した影響があり、減収減益となりました。

当期の営業収益は前期に比較して3.9%減の1,575億18百万円、営業利益は5.7%減の151億14百万円となりました。

 

業   種

単 位

当   期

(令和5年4月~令和6年3月)

前期比(%)

不動産販売業

百万円

78,191

△5.2

不動産賃貸業

百万円

39,112

△9.5

不動産管理業

百万円

44,139

5.0

調整

百万円

△3,925

営業収益計

百万円

157,518

△3.9

 

 

c.国際物流

国際物流業におきましては、航空貨物輸送で、自動車、電子部品関連などで海上貨物輸送へと移行する動きが加速したため、取扱物量が大幅に減少し、競争激化が進みました。また、海上貨物輸送では、取扱物量は増加したものの、コロナ禍において急騰していた海上運賃市況が正常化しました。これらに伴って航空、海上双方の貨物輸送における販売価格の低下が進みました。

ロジスティクスでは、自動車関連品においては北米及びインドの鉄道輸送が堅調に推移したものの、その他の品目において需要が減少した影響を受けました。

7月以降の業績が計上対象であった前期と比べて、当期の営業収益は3.2%増の7,338億23百万円、営業利益は24.6%減の175億92百万円となりました。

 

区   分

単 位

当   期

(令和5年4月~令和6年3月)

前期比(%)

日台韓

百万円

196,533

△16.7

米州

百万円

93,157

△6.4

欧州・中近東・アフリカ

百万円

54,332

△3.3

東アジア

百万円

99,299

△15.5

東南アジア・オセアニア

百万円

86,170

△21.7

APLL

百万円

221,296

74.0

その他

百万円

6,011

39.3

調整

百万円

△22,977

営業収益計

百万円

733,823

3.2

 

d.流 通

流通業におきましては、百貨店部門で、旗艦店である「あべのハルカス近鉄本店」において、特選ブランド強化などのため継続的に改装を実施するとともに、収益力の向上を図るため、フランチャイズ事業による店舗展開を進めました。また、大阪・関西万博のオフィシャルストア1号店も開業しました。一方、地域中核店・郊外店においては、生活機能、商業機能、コミュニティ機能を融合した「タウンセンター」への変革を引き続き推進しました。

ストア・飲食部門では、スーパーマーケット近商ストア学園前店をリニューアルするなど、お客様のニーズに合わせた売場づくりに努めました。また、オリジナルクラフトビール醸造所「大和醸造」の直営3号店となるレストランを奈良三条通りでオープンするなど、新規事業の拡大も進めました。

当期の営業収益は前期に比較して4.6%増の2,120億70百万円、営業利益は113.6%増の57億76百万円となりました。

 

業   種

単 位

当   期

(令和5年4月~令和6年3月)

前期比(%)

百貨店業

百万円

113,651

5.2

ストア・飲食業

百万円

98,419

3.9

調整

百万円

営業収益計

百万円

212,070

4.6

 

 

e.ホテル・レジャー

ホテル・レジャー業におきましては、ホテル部門で、インバウンド需要の急回復を踏まえた営業戦略を推進し、客室単価及び稼働率の上昇につなげました。また、都ホテル 京都八条及びホテル近鉄ユニバーサル・シティでは、リニューアル工事が完成しました。なお、米国でホテルを営むKINTETSU ENTERPRISES CO. OF AMERICAについては、当社の直接出資から㈱近鉄・都ホテルズの傘下に組み入れる再編を行いました。

旅行部門では、KNT-CTホールディングス㈱が、子会社である近畿日本ツーリスト㈱の新型コロナウイルス関係業務等における過大請求を踏まえ、再発防止と企業風土改革に全力で取り組みました。また、営業面では、旅行機運の高まりに伴う需要の着実な取込みを図り、新たな事業分野への取組みも積極的に進めました。

水族館部門では、インバウンドの増加により入館者数がコロナ禍前の水準まで回復する中で、快適な観覧環境づくりを目指し、変動価格制を取り入れて繁忙期の入館者の分散化を図りました。

当期の営業収益は前期に比較して6.1%増の3,187億10百万円、営業利益は39.3%増の134億77百万円となりました。

 

業   種

単 位

当   期

(令和5年4月~令和6年3月)

前期比(%)

ホテル業

百万円

41,061

35.3

旅行業

百万円

255,546

1.3

映画業

百万円

3,570

6.8

水族館業

百万円

9,946

46.4

観光施設業

百万円

8,586

9.8

調整

百万円

営業収益計

百万円

318,710

6.1

 

f.その他

その他の事業におきましては、営業収益は前期に比較して8.5%増の385億58百万円、営業利益は3.1%増の35億67百万円となりました。

 

資産合計は、前期末に比較して295億60百万円増加し、2兆4,543億16百万円となりました。これは、受取手形、売掛金及び契約資産が減少した一方で、現金及び預金や棚卸資産が増加したことによるものであります。

負債合計は、前期末に比較して532億74百万円減少し、1兆8,712億19百万円となりました。これは、借入金の返済及びコマーシャル・ペーパーの償還を進めたことによるものであります。

純資産合計は、前期末に比較して828億35百万円増加し、5,830億97百万円となりました。これは、利益剰余金が純利益の計上から配当を差し引き増加したほか、その他の包括利益累計額で為替換算調整勘定が増加したことによるものであります。

 

② キャッシュ・フローの状況

当期における現金及び現金同等物の期末残高は2,416億57百万円で、前期末に比較して334億69百万円増加しました。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

営業活動によるキャッシュ・フローは、段階取得に係る差益を除いた税金等調整前当期純利益が増加したことなどにより、前期に比較して165億20百万円収入が増加し、1,505億12百万円の収入となりました。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

投資活動によるキャッシュ・フローは、固定資産の取得が増加したことなどにより、前期に比較して144億41百万円支出が増加し、562億96百万円の支出となりました。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

財務活動によるキャッシュ・フローは、借入金の返済及び社債の償還が増加したことなどにより、719億95百万円の支出(前期は448億17百万円の収入)となりました。

 

③ 生産、受注及び販売の実績

当社グループは、受注生産形態をとらない事業が多く、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。

このため、生産、受注及び販売の状況については、「① 財政状態及び経営成績の状況」における各報告セグメントの経営成績に関連付けて記載しております。

 

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

なお、文中の将来に関する事項は、当期末現在において判断したものであります。

 

① 重要な会計上の見積り及び見積りに用いた仮定

当社グループの連結財務諸表は、わが国において一般に公正妥当と認められる会計基準に基づき作成しておりますが、この作成にあたり、当期末の資産及び負債並びに当期に係る収益及び費用の報告金額に影響を与える事項について、過去の実績や現在の状況等に応じた合理的な判断に基づき仮定及び見積りを行っております。これらのうち主なものは以下のとおりでありますが、見積り特有の不確実性があるため、実際の結果と異なる場合があります。

なお、会計上の見積りを行う上で、当社グループの主要な事業で用いた仮定については、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 注記事項(重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 

a.固定資産の減損

当社グループは、運輸業、不動産業、国際物流業、流通業、ホテル・レジャー業等、多くの事業を展開する特性上、多額の固定資産を保有しており、これらの固定資産の回収可能額については、将来キャッシュ・フロー、割引率、正味売却価額等の前提条件に基づき見積もっております。このうち賃貸施設、百貨店店舗、ホテルやレジャー施設等につきましては、不動産市況の著しい下落や消費環境の悪化による収益性の低下等のリスクをはらんでおります。従って、当初見込んでいた収益が得られない、あるいは正味売却価額が下落したことにより、将来キャッシュ・フローが減少するなど前提条件に変更があった場合、固定資産の減損を実施する可能性があります。

b.繰延税金資産の回収可能性

当社グループは、繰延税金資産の回収可能性を判断するに際して将来の課税所得を合理的に見積もり、タックスプランニングを行った上で、税務上の繰越欠損金や将来減算一時差異のうち、将来課税所得を減算できる可能性が高いものについて繰延税金資産を認識しております。従って、今後、経営環境の変化や将来の収支予測の変更などにより将来の課税所得の見積額やタックスプランニングが変更された場合には、繰延税金資産が増額又は減額される可能性があります。

c.退職給付債務及び費用の計算

当社グループは、退職給付債務及び費用の計算について、割引率や年金資産の長期期待運用収益率等の前提条件に基づき行っており、実際の結果が前提条件と異なる場合、又は前提条件が変更された場合には、その影響額は数理計算上の差異や過去勤務費用として累積され、将来にわたって規則的に認識されます。従って、年金資産の運用結果が長期期待運用収益率と乖離した場合のほか、割引率や長期期待運用収益率の見直しあるいは退職給付制度の変更がなされた場合には、退職給付債務及び費用に影響を与える可能性があります。

 

② 当期の経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

(経営成績に重要な影響を与える要因)

当社グループの経営成績に重要な影響を与える要因につきましては、「3 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

(経営成績の状況に関する分析)

経営成績に重要な影響を与える各要因を踏まえた当期の経営成績の状況に関する分析は、次のとおりであります。

a.営業収益及び営業利益

営業収益は、運輸業、流通業及びホテル・レジャー業で増収となったことに加え、令和4年7月に連結子会社化した㈱近鉄エクスプレスの業績が通期で寄与したことにより、連結営業収益は前期に比較して4.4%増の1兆6,295億29百万円、営業利益は30.2%増の874億30百万円となりました。

運輸業では、鉄軌道部門で新型コロナウイルス感染症の影響が縮小して人流が増加し、定期、定期外とも回復傾向にあることに加え、前年4月に実施した運賃改定の効果もあり、運輸業全体の営業収益は、前期に比較して14.7%増の2,118億97百万円、営業利益は157.4%増の322億95百万円となりました。

不動産業では、不動産販売部門でマンション分譲戸数が減少したほか、不動産賃貸部門で前期に一部の賃貸物件の証券化による売却収入があったこと等により、不動産業全体の営業収益は、前期に比較して3.9%減の1,575億18百万円、営業利益は5.7%減の151億14百万円となりました。

国際物流業では、㈱近鉄エクスプレスの業績が通期で寄与することから増収となったものの、輸送需要の低迷による販売単価の低下が影響したことにより、国際物流業全体の営業収益は、前期に比較して3.2%増の7,338億23百万円、営業利益は24.6%減の175億92百万円となりました。

流通業では、百貨店部門であべのハルカス近鉄本店の改装効果等による来店客数の増加に加え、外商売上も高額品を中心に好調に推移したほか、ストア・飲食部門で観光需要の回復により駅ナカ店舗やレストラン等で利用客が増加したため、流通業全体の営業収益は、前期に比較して4.6%増の2,120億70百万円、営業利益は113.6%増の57億76百万円となりました。

ホテル・レジャー業では、ホテル部門でインバウンド需要の急速な回復等により宿泊利用が大きく増加し、稼働率や平均客室単価が上昇したため増収となりました。また、旅行部門では旅行需要が順調に回復したほか、水族館部門ではインバウンドの回復による入館者数の増等により、ホテル・レジャー業全体の営業収益は、前期に比較して6.1%増の3,187億10百万円となり、営業利益は39.3%増の134億77百万円となりました。

b.経常利益

当期における経常利益は、㈱近鉄エクスプレスの連結子会社化により持分法による投資利益が減少したものの、営業利益の増加がそれを上回るため、前期に比較して13.4%増の846億38百万円となりました。

c.親会社株主に帰属する当期純利益

当期における親会社株主に帰属する当期純利益は、前期に特別利益として㈱近鉄エクスプレスの連結子会社化に伴う段階取得に係る差益を計上していたこともあり、前期に比較して45.9%減の480億73百万円となりました。

 

(経営判断のために採用している経営指標とその達成状況及びその理由)

当社は、令和3年度から令和6年度までの4カ年を計画期間とする「近鉄グループ中期経営計画2024」に基づき、グループ経営を推進しております。

本経営計画の基本方針は「コロナ禍から回復し、新たな事業展開と飛躍に向かうための経営改革」であり、「営業利益」、「純有利子負債残高」、「純有利子負債/EBITDA倍率」、「自己資本比率」を重要な指標として位置付けております。

 

 

当期実績

(令和6年3月期)

経営指標目標

(令和7年3月期)

営業利益

874億円

860億円以上

純有利子負債残高

1兆10億円

1兆700億円未満

純有利子負債/EBITDA倍率

6.6倍

7.0倍程度

自己資本比率

21.2%

21%以上

 

 

③ キャッシュ・フローの状況の分析内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

当社グループでは、令和6年度を最終年度とする「近鉄グループ中期経営計画2024」において、コロナ禍から回復し、新たな事業展開と飛躍に向かうための経営改革をおこなうことを基本方針としております。事業継続のための投資、将来を見据えた成長投資を、投資規律・効率を重視しながら厳選して行うとともに、原則としてグループ各社の事業活動に必要な資金を当社が一元的に調達することで、資金調達の安定と最適な財務バランスの実現を図ってまいります。

資金需要の主なものは、各事業の運営資金、販売用不動産など棚卸資産の取得に加え、既存設備の維持更新、安全関連投資及び所有不動産の建替や改装といった設備投資に関するものであります。

これらの資金需要に対応すべく、短期資金については、各事業が生み出す営業キャッシュ・フローに加え、当座貸越やコミットメントラインなどによる金融機関からの借入れ、コマーシャル・ペーパーの発行などにより資金の流動性を確保しております。また、長期資金については、金融機関からの借入れ、シンジケート・ローンの組成、社債の発行及びリースなどの多様な選択肢の中から最適な調達手段を採用しております。さらに、返済年限の長期化を図り、原則として固定金利で調達することで金利上昇リスクに対応するとともに、年度別返済額を平準化することで将来の借り換えリスクの低減にも努めております。

 

5【経営上の重要な契約等】

特記すべき事項はありません。

 

6【研究開発活動】

特記すべき事項はありません。