文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。なお、業績見通し等の将来に関する記述は、当社が現時点で入手している情報や合理的であると判断する一定の前提に基づいており、実際の業績等は様々な要因により大きく異なる可能性があります。
(1) 住友化学の目指す姿
当社は、別子銅山の煙害という環境問題の克服と農産物の増産をともに図ることから誕生した起源を持ちます。創業以来100年以上にわたり、絶えざる技術革新と事業の変革を遂げながら、事業を通じて人々の豊かな生活を支えてまいりました。
住友には「自利利他公私一如」(住友の事業は、住友自身を利するとともに、国家を利し、かつ社会を利するものでなければならない)という言葉がありますが、当社はその事業精神を体現し、経済価値と社会価値を一体的に創出し続けることを目指しております。
(2) 現状認識
当社は2000年代以降、石化事業の抜本的競争力強化、ライフサイエンス事業のクリティカルマスの確保、ICTを中心とした新規事業の育成という3つのコア戦略を進め、中長期的な収益力強化に取り組んできました。その結果、グローバルでの事業展開の進展や、健康・農業、情報電子等の非石化事業の拡大によるスペシャリティ化の進展という点において、一定の成果を示しました。
一方で、技術のコモディティ化の加速や中国等での大型プラントの新増設等の外的要因に加え、5事業部門がそれぞれの成長を目指すことで経営資源が分散されたこと、また、医薬品での目利き・開発力が不足したこと等の内的要因も重なり、特にラービグ リファイニング アンド ペトロケミカル カンパニー(以下「ペトロ・ラービグ社」という。)をはじめとした石化事業や住友ファーマ株式会社(以下「住友ファーマ」という。)の業績が低迷しました。その結果、2023年度は創業以来最大となる3,118億円の最終赤字を計上するなど、既存の5事業部門をエンジンとした成長モデルは限界を迎えていると認識しております。

(3) 短期集中業績改善策
こうした足元の状況を踏まえ、2024年度業績でのV字回復の確実性を高めるとともに、並行して進めている抜本的構造改革に向けた財務体質強化のため、昨年11月から短期集中業績改善策に取り組んでおります。
この改善策では、事業再構築、在庫削減、投資厳選、資産売却及び余資活用の項目で、2024年度末までに約5,000億円のキャッシュ創出を目標としておりましたが、当初の想定を上回る進捗であることから、さらに1,000億円積み増し、目標を約6,000億円に上方修正しております。事業再構築では、中国のディスプレイ用ケミカル事業や米国のポストハーベスト事業の譲渡等、ベストオーナー視点でノンコア事業の売却を次々と進めております。在庫の削減については、2023年度末において目標の半分にあたる750億円を削減し、投資の厳選については、2022年度からの3年間累計で1,500億円の削減を見込みます。政策保有株式の売却についても、当初計画を既に上回るなど順調に進捗しています。全体としては、現時点で約4,000億円のキャッシュ創出が確実な状況であります。

(4) 2024年度の業績の見通しについて
2024年度業績については、コア営業利益は1,000億円、親会社の所有者に帰属する当期利益は200億円の黒字と、V字回復を見込んでいます。コア営業利益は、前年度比2,490億円の大幅な改善となりますが、その半分以上を占める住友ファーマでは、経費削減や治験費用の絞り込み、人員削減等により約1,100億円のコスト削減効果に加え、基幹3製品の最大限の拡販等により、総額で1,340億円の改善を見込みます。住友ファーマ以外では、農薬や半導体材料等の先行投資の効果や、これまでの事業再構築、減損効果を含め、既に実施済みの案件により660億円の改善を見込みます。その他、石化市況の回復等の外部環境改善により190億円、今後の短期集中業績改善策の寄与で300億円改善する見込みです。

(5) 抜本的構造改革
2024年度のV字回復後の持続的成長の実現のためには、当社が抱える構造的な経営課題に対して抜本解決策を講じる必要があります。当社は、「抜本的構造改革」と題し、既存事業の立て直しを図る「再興戦略」、そして新たな長期成長モデルの確立や新規成長ドライバーの育成を図る「成長戦略」に取り組んでおります。
抜本的構造改革(再興戦略)
住友ファーマについては、徹底した販管費及び研究開発費の合理化により、身の丈に合ったコスト構造に絞り込み、止血することが最優先の取り組みです。加えて、当社として、企業再生の外部専門家等の起用や、複数の経営人材の派遣等によるガバナンス強化、同社に対する債務保証等、従来より踏み込んだ対応を実施します。また、基幹3製品の拡販やがん領域2品目の開発加速、再生・細胞医薬の新会社設立及びグループでの一体運営等により、業績を回復軌道に戻すとともに、持続可能な成長モデルの構築に向け、あらゆる選択肢を追求していきます。
ペトロ・ラービグ社については、当社とサウジアラビアン オイル カンパニー(以下「サウジ・アラムコ社」という。)で「共同タスクフォース」を結成し、収益力強化を含む、緊急度の高い課題解決に向け、短期集中で取り組むことを両社で合意しました。
国内のエッセンシャルケミカルズ事業については、エチレンプラントの合理化やポリオレフィンにおける企業連携等、生き残りをかけた事業再編に取り組みます。

抜本的構造改革(成長戦略)
抜本的構造改革(成長戦略)の方針として、長期的に目指す企業像を「Innovative Solution Provider」と定め、社会が直面する課題に対し、当社の革新的な製品や技術によるソリューションを提供していく決意を示しました。
その実現に向けて、本年10月に、現在の5つの事業部門を4つに再編し、それぞれの事業領域において、食糧、ICT、ヘルスケア、環境という4つの社会課題に取り組むこととしました。当社は、これまで培ってきた様々なトップランナーの技術・製品群により、社会にソリューションを提供していますが、今後も、GX・DX・BXを切り口とした重要アセットを活用し、次々とイノベーティブなソリューションを生み出すことで、グローバルに存在感のある企業であり続けることを目指します。

成長戦略における各事業領域の戦略
新たな4つの各事業領域において、経営戦略上の位置付けを明確にし、メリハリのあるポートフォリオ戦略を展開します。
農業・ICT関連の「アグロ&ライフソリューション」「ICTソリューション」は、当社の中核となる成長ドライバーと定め、経営資源を重点的に投下することで、2030年にはそれぞれコア営業利益1,000億円を目標とします。
一方、新たな成長領域である先端医療事業やCDMO事業を手掛ける「アドバンストメディカルソリューション」、従来の石油化学から環境負荷低減技術を軸とした価値創造に舵を切る「エッセンシャル&グリーンマテリアルズ」は、2035年に両者合わせて1,000億円のコア営業利益を目指します。
今後に向けて
まずは最大の経営課題である2024年度業績のV字回復を達成し、同時に、住友ファーマの徹底的なスリム化及びペトロ・ラービグ社の位置付け見直し等の抜本的構造改革を進めることで、成長軌道へと回帰します。
その後は、財務体質を強化するとともに、農業関連・ICT関連へ経営資源を集中し、2030年を目途に新たな成長モデルを構築します。以降は、環境負荷低減技術の社会実装、再生・細胞医薬事業の本格展開等の施策により、さらなる成長の実現を目指します。

当社グループのサステナビリティに関する考え方及び取組は次のとおりであります。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社は、約400年の歴史を持つ「住友家」の事業を起源とし、現在もその事業経営の根本精神を継承しております。そして、その住友の事業精神を踏まえ、住友化学としての基本精神や使命、価値観を整理し、「経営理念」として明文化しております。
住友の事業精神を表す「自利利他 公私一如」は、「住友の事業は自社の発展のみではなく、社会にも貢献するものでなければならない」という意味で、当社グループが創業から大切にしてきた考え方であり、Creating Shared Valueにも通じるものであります。当社グループの持続的な成長(自利)と、社会への価値創出(利他)を実現します。これにより、経済価値と社会価値を一体的に創出(公私一如)し、企業価値の向上を目指します。

サステナビリティ推進基本原則では、住友化学グループにとってのサステナビリティの推進を「事業を通じて持続可能な社会の実現に貢献するとともに、自らの持続的な成長を実現する」と定義し、その達成を通じて企業価値の向上に取り組むこととしております。
また「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題 (5)抜本的構造改革」にありますように、長期的に目指す企業像を「Innovative Solution Provider」と定め、社会が直面している課題に対し、当社の革新的な製品や技術によりソリューションを提供することを目指しております。
当社の目指す姿につきましては、「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題」も合わせてご参照ください。

(2)サステナビリティ全般
①ガバナンス
当社は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1) コーポレート・ガバナンスの概要」に記載の企業統治の体制を採用しております。この体制において、当社グループの経営に関わる重要事項について、広範囲かつ多様な見地から審議する会議・委員会を設置することで、業務執行や監督機能等の充実を図っており、サステナビリティに関しては、「サステナビリティ推進委員会」を設置しております。
サステナビリティ推進委員会は、グループの取り組みを総合的に把握し、サステナビリティへの貢献を俯瞰的に検証し、社会課題解決への統合的な取り組みを加速させることを目的として、とりまく状況を踏まえ、課題や取り組みの方向性について審議するとともに、取り組みの具体化に向けて各執行機関に必要な指示・提言を行っております。同委員会では、委員長である社長の下、各事業部門統括役員・コーポレート部門統括役員・海外地域統括会社社長を委員として任命しつつ、さらに、社外取締役・社外監査役もオブザーバーとして毎回参加して活発な議論を展開しております。取締役会の取り組みや実効性評価につきましては、「
サステナビリティ推進委員会 体制図(2024年3月31日現在)

(関連する他の主要会議・委員会)
・経営会議
サステナビリティに関連した事項を含む、経営戦略や設備投資等経営に関わる重要事項の審議
・レスポンシブル・ケア委員会
気候変動など環境関連課題への対応を含む、レスポンシブル・ケアに関する年度方針や中期計画、具体的施策の策定、実績に関する分析及び評価
・カーボンニュートラル戦略審議会
2050年カーボンニュートラル実現に向けたグランドデザインの立案・審議及び推進
・リスク・クライシスマネジメント委員会
地震災害や異常気象による風水害、パンデミック、治安悪化等、個別のリスク・クライシスの対処方針等を審議
・人権尊重推進委員会
グループ全体に向けた人権尊重に関する啓発の実施、バリューチェーン全体における人権尊重のための施策の立案と実行
②リスク管理
当社では、当社グループの各組織がその本来業務の一部として、自らの業務遂行上のリスクを適切に管理するために様々な対策を講じております。それに加えて、各種の会議体が連携して、当社グループのリスクマネジメントを推進しております。事業継続のための基盤に関わるリスクについては、内部統制委員会で、リスクの状況を把握したうえでグループ全体に係わる重要なリスクを識別し、リスク主管組織と連携してリスクへの対策を推進するとともに対応状況の把握をしております。また経営戦略に関わるリスクと機会について、経営上の重要事項に関しては、経営会議で審議しております。中長期的な環境・社会問題に関する事項については、サステナビリティ推進委員会で審議し、当社グループの経営諸活動が社会や自社のサステナビリティの実現に繋がる提言を行っております。
リスクと機会の詳細は、「
リスクマネジメント推進体制図

③戦略
当社グループでは、企業理念に基づき、前述のガバナンス体制において、リスク・機会を把握・評価した上で、経済価値と社会価値をともに継続的に創出するための「経営として取り組む重要課題」を特定しました。これらの重要課題について、中期経営計画へと落とし込み様々な施策を遂行するとともに、社会状況の変化等を踏まえ、定期的に確認し、必要に応じて見直しを行っております。特定・見直しのプロセスは以下をご覧ください。
(重要課題の特定プロセス)

(経営として取り組む重要課題)
「経営として取り組む重要課題」は、「持続的な価値創出のための重要課題」と「事業継続のための基盤」に分類され、「持続的な価値創出のための重要課題」のうち、環境・食糧・ヘルスケア・ICT関連を「社会価値創出に関する重要課題」、イノベーションの推進、DXによる競争力強化、及び人材(DE&I、育成・成長、健康))を「将来の価値創造に向けた重要課題」と位置づけ、各取り組みについて主要取り組み指標「KPI」を設定して、進捗状況の可視化と管理を行っております。また「事業継続のための基盤」は、当社がかねてよりグループを挙げて進めてきた、労働安全衛生・保安防災、製品安全・品質保証、人権尊重、サイバーセキュリティ、コンプライアンス、及び腐敗防止であり、引き続き取り組んでまいります。

④指標及び目標
当社グループは、「経営として取り組む重要課題」の「持続的な価値創出のための重要課題」の各取り組みについて設定した主要取り組み指標「KPI」を活用して、取り組みの進捗状況の可視化と管理を進めるとともに、社内外のステークホルダーとの対話を推進し、取り組みの充実と加速につなげてまいります。各KPIと実績は以下のとおりであります。詳細については、
経営として取り組む重要課題とKPI
(注) 1 Scope1:事業者自らによる温室効果ガスの直接排出(燃料の燃焼、工業プロセス)
Scope2:工場外からの電力・熱の購入等による間接的な排出
2 当社の「サステナビリティレポート2024」で開示予定であり、KPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証手続きの実施中の、暫定値であります。
3 気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献するグループの製品・技術
4 2021年度を100とする。
5
6 詳細は
7 詳細は
8 特許分析ツール LexisNexis PatentSight® により、Patent Asset IndexTMを算出して評価。
数値は暦年で集計。
9 Patent Asset IndexTM。法的状態が有効な特許について、量的指標(件数)と質的指標(出願国
及び被引用回数より算出)を総合した指標。
10 ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン
11 経済産業省が2016年に創設し、地域の健康課題に即した取り組みや日本健康会議が進める健康増進
の取り組みを基に、特に優良な健康経営を実践している法人を顕彰する制度
(健康経営は、NPO法人健康経営研究会の登録商標)
気候変動対応に関連し、当社は、2017年6月にTCFD提言が公表されると同時にその支持を表明しました。同提言の4つの開示項目「ガバナンス」「リスク管理」「戦略」「指標及び目標」に沿った当社グループの気候変動問題への取り組みは以下のとおりであります。
①ガバナンス
「(1) サステナビリティ全般 ①ガバナンス」に記載の枠組みにおきまして、気候変動については特に以下の体制で対応を行っております。

②リスク管理
当社では、持続的な成長を実現するため、事業目的の達成を阻害する恐れのある様々なリスクを早期発見し、適切に対応していくとともに、リスクが顕在化した際に迅速かつ適切に対処すべく、リスクマネジメントに関わる体制の整備・充実に努めております。気候変動問題は、その発生の可能性と影響度の観点からの評価等を通じて、当社グループの中長期的な主要リスクの一つとして位置付けられており、グループ全体のリスク管理プロセスに統合されております。
具体的な手順
国内外のグループ会社を含めた各組織で、顕在化する可能性(頻度)と顕在化した際の財務影響度の観点から個別リスクの評価を行い、社長を委員長とする内部統制委員会にてグループ全体での取り組みが必要な全社重要リスクを審議・特定の上、承認しております。個別リスクの重要度は、「個別リスクの発生可能性×当社グループ事業への財務または戦略面での影響度」により判断されます。このプロセスを踏まえ、気候変動問題に関するリスクと機会を下表のとおり特定しております。

③戦略
当社は、「経営として取り組む重要課題」の一つとして掲げている環境分野への貢献の中に「気候変動の緩和と適応」を明記しており、2021年12月、2050年のカーボンニュートラル実現に向けたグランドデザインを策定しました。前述のリスク管理のプロセスで特定した気候変動問題に関するリスクと機会に対して、「責務」(当社グループの温室効果ガス(GHG)排出量をゼロに近づける)と「貢献」(当社グループの製品・技術を通じて、世界のGHGを削減する)の両面から気候変動への取り組みを推進しております。
(シナリオ分析)
気候変動に関するシナリオ分析とは、複数のシナリオを考慮した上で、気候変動の影響や気候変動に対応する長期的な政策動向による事業環境の変化を予想し、その変化が自社の事業や経営に与える影響を検討する手法であります。現在、当社では、世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて1.5℃に抑制するために様々な施策がとられるシナリオ、このまま対策を講じず4℃上昇するシナリオについて、「リスク」・「機会」の側面から分析し、当社事業へのインパクトや今後とっていくアクションを検討しております。シナリオ分析の全文については、

(カーボンニュートラル実現に向けた投資)
2019年度から、社会全体のカーボンニュートラルの実現に貢献すべく、個別の投資案件についてGHG排出量の増減が見込まれる場合、インターナルカーボンプライス(1トン当たり 10,000円)を反映した経済性指標を算出し、投資判断を実施しております。
(投資規模)
カーボンニュートラル関連投資について、2013年度から2030年度にかけて、合計約2,000億円規模の投資を想定しております。
(「責務」に関する具体的な取り組み)
エネルギー由来(自家発電燃料)のGHG削減:燃料転換
・愛媛地区において、既存の化石燃料に代わってLNGを用いた火力発電所の運転を開始
・千葉地区において、既存の石油コークス発電設備を廃止し、高効率なガスタービン発電設備の運転を開始
プロセス由来のGHG削減
・バイオテクノロジーを駆使した排水処理により、排水処理能力の向上とともに、発生する汚泥量、排水処理に伴うGHG排出量、燃料使用量の削減を実現
エネルギー由来(購入電力)のGHG削減:再生可能エネルギーの利用
・大分工場において、購入電力を100%再エネ電力化することで約20%、重油から都市ガスに燃料転換することで約10%のGHG削減を達成し、トータルで2013年度比で約30%のGHG削減を実現
(「貢献」に関する具体的な取り組み)
・炭素資源循環システムの構築
ごみや廃プラスチックを化学品の基礎原料であるメタノール、エタノール、オレフィン等に変換し、新しいプラスチックの原料として利用するケミカルリサイクル技術の開発
・カーボンネガティブへの挑戦
土壌中に存在する有用微生物の菌を植物の根に付着・共存させることで、植物の光合成によるCO2吸収を促進、地中にも炭素化合物の形でCO2が固定化される技術の開発
・その他の炭素資源循環に関する技術・製品の開発(メタンガスから水素を製造する技術等)
(外部連携の取り組み)
・製品のカーボンフットプリント計算ツールの普及(無償提供)
・地域連携による取り組み(京葉臨海コンビナート カーボンニュートラル推進協議会、港湾脱炭素化推進計画)
各取り組みの詳細や、その他の気候関連情報については、
④指標及び目標
(気候関連のリスクに対する指標)
前述のリスク管理のプロセスにおいて特定した気候関連のリスクについて、指標と取り組みは以下のとおりであります。
(ⅰ) GHG排出量の削減(Scope1+2)
当社グループの気候関連のリスクに対する指標であるGHG排出削減目標は、総合化学企業として世界で初めてScience Based Target(SBT)に認定されました。2030年のGHG排出量(Scope1+2)の削減目標は50%(※1)で、2021年12月にSBTのWell Below2.0℃基準の認定を取得しております。当社グループは、当GHG排出削減目標を「(1)サステナビリティ全般」に記載の「経営として取り組む重要課題」の目標として設定し、「環境負荷低減への貢献」の取り組みを進めております。2030年までは、既存プラントの製造プロセスにおける徹底した省エネや燃料転換と、現時点で利用可能な最善の技術(BAT)の活用による目標達成を目指します。一方、2050年のネットゼロに向けては、既存技術のみでの対応は難しく、カーボンネガティブやCCUS(※2)等、革新的な技術が必要になります。この開発と早期の実装を目指し、検討を進めてまいります。
※1:2013年度比
※2:工場等から排出されたCO2の回収・有効利用・貯留
(CCUS:Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)

(GHG排出量(Scope1+2))
算出にあたっては、連結売上高99.8%以内の主要な連結グループ会社を対象範囲とし、GHG排出量をGHGプロトコルに基づいて算定しております。2022年度までの数値については、当社のサステナビリティデータブック2023の数値を記載しており、同数値は、KPMGあずさサステナビリティ株式会社による第三者保証を取得しております。サステナビリティレポート2024で開示予定の2023年度分については、当該第三者により保証手続き実施中であり、暫定値は504万トンであります。詳細については、

(ⅱ) GHG排出量の削減(Scope3)
GHG排出量(Scope3)については、2030年度までにグループ主要会社のGHG排出量(Scope3(カテゴリ1及び3)を2020年度比で14%削減することを目標として設定しており、2021年12月にSBTのWell Below2.0℃基準の認定を取得しております。GHG排出量(Scope3)削減にあたっては、サプライヤーエンゲージメント(お取引先様情報交換会の開催等)に取り組んでおり、国際NGOであるCDPが実施した「サプライヤー・エンゲージメント評価」において、最高評価である「サプライヤー・エンゲージメント・リーダー」に5年連続で選定されております。
Scope3温室効果ガス排出量

当連結会計年度の実績につきましては、
(気候関連の機会に対する指標)
前述のリスク管理のプロセスにおいて特定した気候関連の機会について、指標と取り組みは以下のとおりであります。
当社グループは、気候関連の機会に対する指標として、Sumika Sustainable Solutions(SSS)を活用しております。SSSとは、気候変動対応、環境負荷低減、資源有効利用の分野で貢献するグループの製品・技術を自社で認定し、その開発や普及を促進する取り組みで、これまで認定された製品・技術数は、累計で81であります。認定製品の売上収益は、2023年度は5,887億円であり、2030年度には1兆2,000億円を目指しております。

また当社製品・技術のカーボンニュートラル(CN)に対する貢献度合いをより明確に示すため、新たな指標として「Science Based Contributions」(SBC)を策定しました。SBCは、当社が販売・供与したSSS認定製品・技術の活用を通じて、社会でどの程度の量のGHGが削減されたかを定量的かつ科学的に算定するものです。対象製品の製品CFP(カーボンフットプリント)や販売量、ライセンスプラントの生産能力等を基に算出した数値であり、算出方法は外部有識者により確認いただいております。社会での当社製品・技術の貢献に関して、SBCを用いたステークホルダーの皆様への積極的な情報開示を通じて理解促進に努めるとともに、世界のCN実現に向けた取り組みを推進してまいります。

企業の競争力の大きな源泉は「人」であり、人材の確保・育成は当社の将来の価値創造に向けた重要課題です。当社は、最重要の経営資源と考えている人材の確保と育成を長期的な視点で推進するとともに、エンゲージメントの強化を通じて、当社グループの持続的成長を実現します。
(基本理念)
100年余の歴史を有する当社は、これまで一貫して「人こそ最重要の経営資源」という考えを堅持し、「人材確保」「公平な処遇」「育成・成長」の3要素を変わらぬ人事理念として継続しております。
(人事制度体系)
当社の人事制度では、各人の役割や責任の大きさと達成した実績に、その過程で発揮した能力や行動を合わせて評価することとしております。本制度によって、意欲と能力がある社員は早期に上位の役割にチャレンジすることが可能となり、社員の「成長したい」という自発的な意欲の醸成を図っております。
人事制度の理念・狙い

また、グループ各社のグローバルな事業展開を支える人材の充実を図るため、海外グループ会社のマネージャー以上の層を対象に住友化学本体管理社員と共通の人事制度を導入し、当社グループのコア人材として、グローバルポジションホルダー(GPH)に任命し、企業理念に基づいた価値観の共有をはじめ、育成・成長並びに活躍機会の提供を推進しております。

①戦略
当社グループでは「サステナビリティ推進基本原則」に基づき、「経営として取り組む重要課題」の一つとして、「人材:DE&I、育成・成長、健康」を掲げ、国内外の主要グループ会社約100社が、各国・各社でそれぞれの環境に応じたKPIを設定し、グループ全体で、将来の価値創造に向けた戦略を展開しております。
(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I))
当社グループは、「DE&I推進に関するグループ基本原則」を定め、その方針のもと、多様な従業員の個性や属性の違いを尊重し、総合化学会社ならではの多様性に富んだ「知と経験」を互いに受け入れ活かし合うことができる組織風土を醸成するため、グループ全体でDE&Iの取り組みを推進しております。
また、当社は、ノーマライゼーションの社会の実現に向けて、障がい者雇用に取り組んでおります。2017年には、障がい者の社会参画を支援し、勤労意欲のある障がい者の雇用機会を提供するために、株式会社住化パートナーズを設立しました。今後も引き続き、障がいのある人が活躍できる環境を、当社・住化パートナーズ一体となって提供してまいります。
(育成・成長)
当社は、多様な人材が、その能力・資質を伸長することができる教育体系を構築し、階層別のマネジメント強化プログラムや、グローバルビジネス展開に対応した語学力向上等、ポジションや役割に応じた研修体系を整えております。
また、自らが学び、成長していくことを促進するため、「SUMIKA ラーニング・スクエア」と称して、年齢や職種等に関わらず、従業員が必要な時に必要なタイミングで知識・スキルのアップデートを行えるよう、学びのプラットフォームを整備し、自ら選択し、受講できる自己応募型研修プログラムを提供しております。加えて、「いつでも、どこでも、何度でも」をキーワードに意欲・能力のある全ての従業員の自律的キャリア形成をサポートすべく、スマートフォンやパソコンでの学習が可能なオンラインプログラム「自己啓発講座」も提供するなど、自律的・自発的な「学び」を支援しています。

(健康)
社員が心身ともに健康な生活を送り豊かな人生を実現できるよう、社員の健康課題の解決・改善に向けた様々な支援施策を推進しております。取締役会や経営会議において、その取り組みの方向性について議論するとともに、毎年開催する産業医連絡会において、施策や目標の設定に対し医学的見地から意見をいただくなど各施策の有効性を高める体制・仕組みとしております。
このような体制の下、会社・健康保険組合共同で策定した「すみか健康社員宣言」において、運動習慣の定着を目的とした提携スポーツジムの拡充、睡眠改善のためのプログラム、禁煙を目指す社員へのサポート等、「食事」「運動」「睡眠」「禁煙」「こころ」の5分野で、具体的なアクションアイテムに取り組んでおります。
②指標及び目標
(当社の「人材:DE&I、育成・成長、健康」のKPI)
(ⅰ) ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)
女性活躍推進について、採用、育成、昇進、環境整備等の各施策の進捗をトータルに反映しうるものとして「管理社員への登用率」に焦点をあてたKPIを設定しています。また、全員活躍の実現に向け、男女共同参画の観点から男性社員の育児休業取得を促進するKPIも設定し、DE&I推進の取り組みをさらに加速させております。
(注)管理社員:課長職相当以上
(参考)
・住友化学本体の部長職と海外グループ会社幹部人材の合計に占める、外国人幹部人材の割合:20.2%
(2024年4月時点)
・管理社員に占める経験者採用者(中途採用者)の比率:25.3%(2024年4月時点)
・障がい者雇用率:2.56%(2023年6月時点)
(ⅱ) 育成・成長
自己応募型研修プログラムの受講率を「育成・成長」についてのKPIとして設定し、意欲・能力のあるすべての従業員の能力向上・人材育成を進めております。
(ⅲ) 健康
「健康経営優良法人(ホワイト500)」(※)をKPIとして設定し、従業員のからだとこころの健康保持のため、様々な健康保持増進施策に取り組んでおります。

※「健康経営優良法人(ホワイト500)」は、経済産業省が2016年に創設した健康経営優良法人制度(特に優良な健康経営を実施している企業等を顕彰する制度)において、上位500法人が認定され、健康管理に関する様々な施策や取り組みを評価するものです。
(グループ会社における「人材:DE&I、育成・成長、健康」のKPI)
国内外の主要グループ会社約100社が、各国・各社の状況に応じて具体的なKPIを設定し、グループ全体で取り組みを進めております。また当社グループでは、各社がKPIを設定するために実施すべき最重要プロセスを、以下のとおり定めております。
グループ会社における「人材:DE&I、育成・成長、健康」についてのKPI設定状況は以下のとおりであります。
(注)1 1社につき複数のKPIを設定しております。
人的資本・多様性についての詳細は、
事業等のリスクのうち、投資家の判断に重要な影響を及ぼす可能性があると当社グループが認識している主要なリスクを以下に記載しております。ただし投資家の判断に影響を及ぼす可能性のあるリスクは、これらに限定されるものではありません。なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。
当社グループではこのようなリスクを最小化するとともに、これらを機会として活かすためのリスク管理体制の整備・充実に努めております。詳細は、「第4 提出会社の状況 4 コーポレート・ガバナンスの状況等 (1)コーポレート・ガバナンスの概要 ③企業統治に関するその他の事項 (ハ)リスク管理体制の整備の状況」に記載しております。
当社グループは、総合化学メーカーとして様々な事業を行っており、事業に関わるリスクは多種多様であります。事業に係る市場リスクについては、主に以下のようなものがあります。
(価格競争)
当社グループの事業は価格競争に晒されております。海外企業の国内市場参入、関税引き下げ等による輸入品の流入、ジェネリック品の台頭等、様々な理由により当社グループの製品群は今後も厳しい価格競争に晒されるものと予想されます。当社グループはコストの低減に努めておりますが、価格競争を克服できない場合、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
経営環境の著しい悪化等による収益性の低下や市場価格の下落等により、当社グループの保有する有形固定資産等について減損損失が発生し、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
経営環境の著しい悪化等による将来の課税所得に関する予測・仮定の変更や税制改正による税率変更等により繰延税金資産の一部ないしは全部が回収できないと判断された場合、繰延税金資産は減額され、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(海外マーケット)
当社グループの海外売上収益は売上収益の6割以上を占め、特にアジア市場での販売が多く、近年では南米等でも事業を拡大しております。そのため、特定の地域での経済情勢の悪化、あるいは顧客企業の業績状況の変化等による値下げ要求が発生した場合、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(エッセンシャルケミカルズ)
エッセンシャルケミカルズ部門の主要原料であるナフサは、中東地域の治安や世界の経済情勢に多大な影響を受け、時に急激な価格変動を起こすことがあります。ナフサの価格が急激に上昇した場合、製品価格への転嫁が遅れること等により、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
ナフサやその他の原料品の一部については、特定の地域や購入先に依存しております。購入先を複数にする等、主要原料が購入できないリスクを低減するように努めておりますが、時に主要原料の不足が生じないという保証はありません。必要な主要原料が確保できない場合には、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(エネルギー・機能材料)
エネルギー・機能材料部門では、電気自動車(EV)用途を中心に、リチウムイオン二次電池部材を供給しておりますが、各国におけるEV優遇政策の転換により市場が減退した場合、また技術革新により次世代の電池が主流となり、かつ当社グループがこれに対応できなかった場合、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(情報電子化学)
情報電子化学部門の製品は、技術革新のスピードが速く、タイムリーに新製品を開発・提供していく必要があります。当社グループが顧客ニーズを満足させる新規製品を有効に開発できない場合、また他社において画期的な技術革新がなされた場合、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(健康・農業関連事業)
健康・農業関連事業部門の農薬や家庭用殺虫剤の出荷は、世界各地域における異常気象等の理由による作物の生育状況や病害虫の発生状況に左右されます。また、飼料添加物は急激な価格変動を起こすことがあります。作物の生育状況が悪くなった場合、病害虫の発生が少なくなった場合、あるいは急激な価格変動が起こった場合、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(医薬品)
医薬品部門では、新薬開発の難度が高まる中、開発が今後計画どおりに進み承認・発売に至るとは限らず、また、有効性や安全性の観点から開発が遅延し、または開発を中止しなければならない事態も起こり得ます。そのような事態が発生した場合には、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
国内においては、急速に進展する少子高齢化等により国家財政が悪化する中、先発医薬品の価格抑制や後発医薬品の使用促進等の医療費抑制策が図られ、さらなる医療制度改革の議論が続けられております。また、米国においても薬価抑制を企図した制度改革が決定・導入される可能性があり、中国においても国民医療費抑制を企図する医療制度変更が推進される可能性があります。これら医療制度改革は、その方向性によっては、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(為替レート変動)
当社グループは、国内で製造した製品を海外に輸出するとともに海外から原料品を輸入しておりますが、製品輸出高は原料品輸入高を上回っております。外国通貨に対して円高が進行した場合、海外で生産された製品に対する価格競争力が低下することに加え、輸出手取額の減少が輸入支払額の減少を上回ることになります。さらに、近年では南米やインド等海外での事業活動の拡大とともに、それぞれの地域の通貨で米ドルやその他通貨に対する為替レートの変動影響も大きくなっています。このようなリスクに対し、為替予約等の通貨ヘッジ取引や、円建輸出取引を行うこと等により、為替レートの短期的な変動によるリスクを最小限にするように努めておりますが、中長期的な為替レートの変動によるリスク等を完全にヘッジすることは出来ないため、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、海外の関係会社の経営成績は、連結財務諸表作成のために円換算されております。換算時の為替レートにより、円換算後の価値が影響を受ける可能性があり、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
為替レート変動がコア営業利益に与える影響は、米ドルに対して円が1円の円高となった場合、年間15億円程度の減益と試算しております。
(金利変動)
当社グループは、資金需要に対してその内容や財政状態及び金融環境を考慮し、調達の金額・期間・方法等を判断しております。今後の金利の変動に備え、固定金利・変動金利を適宜組み合わせて調達を行っておりますが、金利が上昇した場合には支払利息が増加し、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
(株式相場変動)
当社グループが保有する有価証券の多くは、市場性のある有価証券であるため、株式相場が大幅に下落した場合、当社グループの財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、世界各国に生産・販売の拠点を持ち、海外売上比率は6割を超えております。そのため、貿易摩擦による関税の引き上げ、地域紛争によるサプライチェーン分断等、地政学的問題が発生した場合には、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、海外における事業活動には法律や規制の変更、労務環境の違いによる争議等の発生、人材の採用と確保の難しさ、テロ・戦争・その他の要因による社会的混乱等のリスクが内在しており、これらのリスクが顕在化した場合は、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社とサウジ・アラムコ社が共同で設立したペトロ・ラービグ社は、サウジアラビアのラービグにおいて、石油精製・石油化学の統合コンプレックス事業(「ラービグ第1期計画」及び「ラービグ第2期計画」)を運営しております。当社は、プロジェクト総投資額に対し、不測の事態による損害に備え、独立行政法人日本貿易保険の規約・限度額に従い、海外投資保険等に加入しております。また、当社はペトロ・ラービグ社に対する貸付金及び長期未収利息を、純損益を通じて公正価値で測定する金融資産(FVTPLの金融資産)に分類し、割引キャッシュ・フロー法により公正価値を算定しております。加えて、ペトロ・ラービグ社の行っている銀行借入の一部に対して債務保証を行っております。ペトロ・ラービグ社は当連結事業年度において、新興国を中心とした新増設設備の稼働や、世界的な景気減速に伴う市況悪化、第2期計画プラントの定期修繕等を要因として業績が低迷しております。その結果、同社の資本金に対する累積損失比率は2024年3月末時点で46.51%に至っております。将来の不確実な経済条件の変動の結果によって、ペトロ・ラービグ社に対する投資の回収可能価額が大きく減少した場合、貸付金及び長期未収利息の公正価値が大きく変動した場合、及び債務保証が履行された場合には、当社グループの経営成績並びに財政状態に影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、事業拡大や競争力強化等を目的として、国内外において企業買収・資本提携等を実施しておりますが、当社グループ及び出資先企業を取り巻く事業環境の変化等により、当初期待していたシナジー等の買収効果を得られない可能性があります。事業環境や競合状況の変化等により期待する成果が得られないと判断された場合、あるいは適用される割引率が高くなった場合にはのれん等の減損損失が発生し、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、需要家のニーズに合わせた新技術・新製品をスピーディーに上市するため、積極的に研究開発を行っております。当社グループの研究開発は、次世代事業の創生のための探索研究を含んでいるため研究開発期間が長期間にわたる場合があり、また、研究開発テーマが実用化されず、新製品の開発が著しく遅延または断念される場合には、競争力が低下し、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、研究開発現場へのAI/MIの実装とその徹底活用、アカデミアやスタートアップとの連携(オープンイノベーション)強化により研究開発を推進してまいります。
当社グループは、気候変動問題を社会が直面する重要課題の一つと捉えており、その解決に向け、総合化学企業として培ってきた技術力を活かし、気候変動問題に対して、製品の製造工程の合理化等によるさらなる環境負荷低減という責務と温室効果ガス(GHG)削減に資する製品の開発による貢献等に積極的に取り組んでおります。この問題に適切な対応ができない場合、当社グループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、地球規模で私たちの生活に大きな影響を及ぼしている気候変動問題の解決に向け、「責務」と「貢献」の両面から取り組んでまいります。
プラスチックは、自動車や航空機から電子機器、生活用品、各種包装材に至るまで、様々な用途に用いられる素材として人々の生活を支えていますが、使用後の適切な処理・再利用が十分に行われていないために環境汚染を引き起こしているという問題があります。この問題に適切な対応ができない場合、当社グループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、技術開発等を通じて、プラスチック資源循環の実現に取り組むことで、循環社会実現後のプラスチック市場において有利な地位に立つ可能性があります。
当社グループは、製造設備の停止や製造設備に起因する事故等による潜在的なリスクを最小化するため、関係法令への対応は勿論のこと、リスクに基づいて、設備の定期的な点検や安全諸施策を実施しております。しかしながら、リスクは常に一定ではなく、製造設備で発生する事故、台風や地震等の自然災害等による影響を完全に防止・軽減できる保証はありません。
事故等により、工場周辺に物的・人的被害を及ぼした場合、事業活動に支障をきたすほか、多額のコストや当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、事故・災害に至る可能性のあるリスクについて、適宜情報共有を図り、対応事項の改善見直しを実施しております。
当社グループは、世界的に認められている厳格な品質管理基準に従って、各種製品を製造しておりますが、すべての製品について欠陥が無く、将来にわたってリコールが発生しないという保証はありません。大規模な製品事故は、多額のコストや当社グループの評価に重大な影響を与え、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
また、農薬や医薬品等は各国の厳しい審査を受けて承認されておりますが、科学技術の進歩や市販成績が蓄積された結果から、新たに品質問題や副作用が見つかることもあります。このように上市後予期せぬ品質問題や副作用が発見された場合には、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
ITの活用を通して、業務の生産性向上や事業の競争力確保、新たなビジネスモデルの創出を追求するデジタル革新が加速している一方で、サイバー攻撃の巧妙化等、情報システムに関するリスクはますます高まっており、事業運営に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、情報、情報システム及び情報通信ネットワークを正しく管理し、漏えいや紛失を未然防止する対策、及びセキュリティインシデント発生時の影響を最小限に抑える対策を講じ、サイバーセキュリティを経営課題と捉え、適切に対応してまいります。
当社グループでは、DXによる「事業の競争力強化」及び「新たな価値創造」を加速させております。しかしながら、デジタル技術の適用が著しく遅延した場合や、他社がデジタル技術を活用して生産性や競争力を向上させる、あるいは新たなビジネスモデルを創造するなど事業環境の急変により、当社グループの競争力が相対的に低下することで経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループでは、コンプライアンスを企業経営の根幹と位置づけ、当社コンプライアンス委員会の指導・監督の下、グループ全体でのコンプライアンス推進体制を構築・運用しております。また、当社コンプライアンス委員会傘下の地域法務・コンプライアンス統括(RLCO)からのグループ会社に対する指導・支援を強化する等、グループ全体でのコンプライアンスの徹底に注力しております。しかしながら、このような施策を講じても、コンプライアンス上のリスクを完全には排除することはできない可能性があり、国内外の法令等に抵触する等のコンプライアンス違反が発生した場合には、当社グループの社会的な信用が低下し、また損害賠償責任や罰金が課される等、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、事業展開する各国の規制に従い、業務を遂行しております。将来における法律、規則、政策、実務慣行、解釈及びその他の政策変更並びにそれらによって発生する事態が、当社グループの業務遂行や経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。また、将来的に環境及び化学品安全等に対する法的規制が強化され、新たな対策コストが発生する可能性があります。
当社グループは、人権尊重を事業継続のための基盤の一つと位置付けており、「住友化学グループ 人権の尊重に関する基本方針」を制定するとともに、推進体制として「人権尊重推進委員会」を設置し、人権デュー・デリジェンス等の人権尊重の取り組みをグループ一体となって行っております。しかしながら、このような施策を講じても、人権問題に関するリスクを完全には排除することができない可能性があり、当社グループのバリューチェーン上で人権問題が発生した場合、当社グループの事業活動に悪影響を及ぼす可能性があります。
当社グループは、他社と差別化できる技術とノウハウを蓄積し事業の競争力を強化してきましたが、当社グループ独自の技術・製品とノウハウの一部は、厳正な管理を行っているものの、予期せぬ事態により外部に流出する可能性に加え、特定の地域ではこれらの知的財産の完全な保護が不可能なため、第三者が当社グループの知的財産を使用して類似製品を製造することを効果的に防止できない可能性があります。また、将来的に知的財産に係る紛争が生じ、当社グループに不利な判断がなされる可能性があります。そのような事態が生じた場合には、当社グループの経営成績並びに財政状態に悪影響を及ぼす可能性があります。
世界的な感染症の流行が発生した場合、当社グループの事業運営や経営成績等に悪影響を及ぼす可能性があります。当社グループはこのようなグループ全体に影響を及ぼすリスクに対し、リスク・クライシスマネジメント委員会を設置し、対処方針を審議しております。また、事業継続計画を策定しており、感染状況の段階に応じた事業運営を行うこととしております。
当社グループは、国内及び海外事業に関連して、訴訟、係争、その他の法律的手続きの対象となるリスクがあり、将来重要な訴訟等が提起された場合には、当社グループの経営成績並びに財政状態に重要な悪影響を及ぼす可能性があります。
当連結会計年度における当社グループの財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要並びに経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末において当社グループが判断したものであります。
当社グループの連結財務諸表は、IFRSに準拠して作成しております。
連結財務諸表で採用する重要性がある会計方針は、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等(1)連結財務諸表 連結財務諸表注記 3.重要性がある会計方針」に記載しております。
連結財務諸表の作成にあたっては、過去の実績や状況に応じ合理的だと考えられる様々な要因に基づき、見積り、判断及び仮定を行っておりますが、実際の結果は、見積り及び仮定に関する不確実性があるために、翌連結会計年度に係る連結財務諸表に重要な影響を及ぼす可能性があります。
当社グループの財政状態または経営成績等に重要な影響を及ぼす会計上の見積り、判断及び仮定は、以下のとおりであります。
・非金融資産の減損
有形固定資産、のれん及び無形資産の減損テストにおいて、資金生成単位を判別したうえで、当該資金生成単位における使用価値と処分コスト控除後の公正価値のうちいずれか高い方を回収可能価額として測定しております。当該処分コスト控除後の公正価値算定上の仮定、あるいは使用価値算定の基礎となる資金生成単位の使用期間中及び使用後の処分により見込まれる将来キャッシュ・フロー、割引率等の仮定は、将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があり、将来にわたり、有形固定資産、のれん及び無形資産に係る減損損失額に重要な修正を生じさせるリスクを有しております。
・共同支配企業に対する投融資の評価
当社は、当社の持分法適用会社であるペトロ・ラービグ社に対する投資について、減損の兆候の有無を判断しており、減損の兆候が存在する場合には減損テストを実施しております。回収可能価額は公正価値で算定しており、公正価値は市場価格を用いております。回収可能価額は将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があり、将来にわたり、持分法で会計処理されている投資の金額に重要な影響を生じさせる可能性を有しております。
ペトロ・ラービグ社に対する貸付金及び長期未収利息について、純損益を通じて公正価値で測定する金融資産(FVTPLの金融資産)に分類し、公正価値ヒエラルキーレベル3に区分するとともに、割引キャッシュ・フロー法により公正価値を算定しております。公正価値の算定にあたっては、重要な観察不能インプットとして将来キャッシュ・フローの総額及び割引率を使用しております。将来キャッシュ・フローの見積りには、主要製品の将来における販売価格・マージン及びペトロ・ラービグ社の全社的な操業度等の仮定を置いております。これらの仮定や割引率は、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があります。
・繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産については、将来減算一時差異等を利用できる将来課税所得が生じる可能性が高い範囲内で認識しております。当該回収可能性の判断は、当社グループの事業計画に基づいて決定した将来の各事業年度の課税所得の見積りを前提としております。当該将来の課税所得の見積りは、将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があり、将来にわたり、繰延税金資産の計上額に重要な修正を生じさせるリスクを有しております。
・引当金の測定
引当金は、将来において債務の決済に要すると見込まれるキャッシュ・フローの期末日における最善の見積りに基づいて測定しております。将来において債務の決済に要すると見込まれるキャッシュ・フローは、将来の起こりうる結果を総合的に勘案して算定しております。これら引当金の測定において使用される仮定は、将来の不確実な経済条件の変動によって影響を受ける可能性があり、将来にわたり、引当金の測定額に重要な修正を生じさせるリスクを有しております。
・金融商品の公正価値
特定の金融商品の公正価値を評価する際に、市場で観察可能ではないインプットを利用する評価技法を用いております。当該観察不能インプットは、将来の不確実な経済条件の変動の結果によって影響を受ける可能性があり、見直しが必要となった場合、連結財務諸表に重要な影響を与える可能性があります。
(2) 経営成績
当連結会計年度の世界経済は、欧米における金融政策引き締めの継続や中国における景気低迷の長期化等の影響を受け、緩やかな減速傾向となりましたが、石油化学や半導体分野においては製品市況の低迷や需要の本格回復の遅れ等により厳しい市場環境となりました。また、国内経済についても、物価上昇による消費下押し等を背景に景気回復は足踏み状態となりました。
このような状況に加え、医薬品におけるラツーダ(非定型抗精神病薬)の米国での独占販売期間終了等の影響もあり、当連結会計年度の売上収益は、前連結会計年度に比べ4,484億円減少し、2兆4,469億円となりました。損益面では、コア営業損益は1,490億円の損失、営業損益は当期に多額の減損損失や事業構造改善費用を計上したことにより4,888億円の損失、親会社の所有者に帰属する当期損益は、3,118億円の損失となりました。各段階損益ではそれぞれ前連結会計年度を大幅に下回る結果となっております。
売上収益は、医薬品においてラツーダの独占販売期間終了により販売が減少しました。エッセンシャルケミカルズにおいては原料価格の下落に伴い市況が低水準で推移し、さらに石油化学品の需要減少等により出荷も減少しました。健康・農業関連事業においては南米での農薬のジェネリック品の高騰売価が落ち着いたことに加え、流通在庫の増加の影響により出荷が減少しました。また、メチオニン(飼料添加物)の市況も下落しました。
この結果、売上収益は、前連結会計年度の2兆8,953億円に比べ4,484億円減少し、2兆4,469億円となりました。

コア営業損益は、すべてのセグメントで悪化しました。医薬品においてラツーダの独占販売期間終了に伴い販売費及び一般管理費は減少しましたが、減収による売上総利益の減少の影響が上回りました。また、エッセンシャルケミカルズにおいてペトロ・ラービグ社の業績が悪化したことに加え、健康・農業関連事業においても売上総利益の減少の影響が残りました。この結果、コア営業損益は、前連結会計年度の928億円に比べ2,418億円減少し、1,490億円の損失となりました。

金融収益及び金融費用は、為替相場が円安で推移し為替差益を計上したことにより、260億円の利益となりましたが、前連結会計年度の312億円の利益に比べ52億円減少しました。この結果、税引前損益は、前連結会計年度の2億円に比べ4,630億円悪化し、4,628億円の損失となりました。
(法人所得税費用/親会社の所有者に帰属する当期損益及び非支配持分に帰属する当期損益)
法人所得税費用は27億円となり、税引前損益から法人所得税費用を控除した当期損益は、4,654億円の損失となりました。
非支配持分に帰属する当期損益は、主として住友ファーマ等の連結子会社の非支配持分に帰属する損益からなり、前連結会計年度の539億円の損失に比べ998億円悪化し、1,536億円の損失となりました。
以上の結果、親会社の所有者に帰属する当期損益は、前連結会計年度の70億円に比べ3,188億円悪化し、3,118億円の損失となりました。
当連結会計年度のセグメント別の業績の概況は、次のとおりであります。
なお、セグメント損益は、持分法による投資損益を含む営業損益から非経常的な要因により発生した損益を控除した経常的な収益力を表す損益概念であるコア営業損益で表示しております。
(その他)
上記5部門以外に、電力・蒸気の供給、化学産業設備の設計・工事監督、運送・倉庫業務、物性分析・環境分析業務等を行っております。これらの売上収益は前連結会計年度に比べ、156億円減少し698億円となり、コア営業損益は前連結会計年度に比べ23億円減少し81億円の利益となりました。
生産、受注及び販売の実績は、次のとおりであります。
当社グループ(当社及び連結子会社)の生産品目は広範囲かつ多種多様であり、同種の製品であっても、その容量、構造、形式等は必ずしも一様ではなく、また受注生産製品の規模は小さいため、セグメントごとに生産規模及び受注規模を金額あるいは数量で示すことはしておりません。
このため生産の状況については、セグメントごとの経営成績に関連付けて示しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 上記販売実績は、外部顧客への売上収益を示しております。
2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合については、当該割合が100分の10以上の相手先がないため、記載を省略しております。
(3) 財政状態
当連結会計年度末の資産合計は前連結会計年度末に比べ2,307億円減少し3兆9,348億円となりました。現金及び現金同等物が減少したほか、減損により、のれん及び無形資産や有形固定資産が減少しました。
負債合計は、前連結会計年度末に比べ941億円増加し、2兆7,705億円となりました。有利子負債は、前連結会計年度末に比べ1,021億円増加し、1兆5,635億円となりました。
資本合計(非支配持分を含む)は、円安により在外子会社に係る邦貨換算差額が増加しましたが、多額の当期損失を計上したことにより、前連結会計年度末に比べ3,248億円減少し、1兆1,644億円となりました。親会社所有者帰属持分比率は、前連結会計年度末に比べて3.6ポイント減少し、24.5%となりました。
(4) キャッシュ・フロー
当連結会計年度の営業活動によるキャッシュ・フローは、減損損失等の非資金損益項目の増加や運転資金の減少等の影響はあったものの、税引前損益が大きく減少したことにより、前連結会計年度に比べ1,629億円減少し、513億円の支出となりました。
投資活動によるキャッシュ・フローは、前連結会計年度に貸付金の回収による収入があったこと等により、前連結会計年度の194億円の支出に比べ928億円支出が増加し、1,122億円の支出となりました。
この結果、フリー・キャッシュ・フローは、前連結会計年度の922億円の収入に対して、当連結会計年度は1,636億円の支出となりました。
財務活動によるキャッシュ・フローは、有利子負債の増加等により492億円の収入となりました。また、当連結会計年度末の現金及び現金同等物の期末残高は、売却目的で保有する資産への振替額も加味すると、前連結会計年度末に比べ884億円減少し、2,174億円となりました。
当社グループの資金需要及び資本の財源並びに資金の流動性は、次のとおりであります。
当社グループの資金需要には、通常の営業活動に必要となる運転資金や既存設備の定期修理のための資金に加え、中期経営計画(2022-2024年度)の基本方針の一つである「事業ポートフォリオの高度化(事業の強化と変革)」を推進するための投資に必要となる資金があります。成長への目配りもしながら案件を徹底的に厳選するとともに、資産売却やCCC(キャッシュ・コンバージョン・サイクル)短縮等により財務体質の改善に努めてまいります。
また、当社グループは株主還元についても、経営上の最重要課題の一つと考えております。各期の業績、配当性向並びに将来の事業展開に必要な内部留保の水準等を総合的に勘案の上、安定的な配当を継続することを基本とし、中長期的に配当性向30%程度を安定して達成することを目指しております。
当社グループの財務活動の方針は、低利かつ中長期にわたり安定的な資金調達を行うこと、及び十分な流動性を確保することです。D/Eレシオ(有利子負債/純資産)については、フレキシブルな資金調達が可能な現在の当社格付を維持することを考慮し、中長期的に0.7倍程度を目安としております。当社グループは、営業活動によるキャッシュ・フローのほか、銀行借入、資本市場における社債及びコマーシャル・ペーパー(当連結会計年度末の当社発行枠2,500億円)の発行等により、必要資金を調達しております。
当社グループは、当連結会計年度より導入したキャッシュマネジメントシステム及びグループファイナンス等により手元資金の最大活用を図っており、現金及び現金同等物の保有額は事業遂行上必要な水準に維持することを目指しております。当連結会計年度末の現金及び現金同等物は2,174億円であり、流動比率(流動資産/流動負債)は116.1%であります。
また、大手邦銀のシンジケート団による1,300億円のコミットメント・ライン及び大手外銀のシンジケート団による215億円のマルチカレンシー(円・米ドル・ユーロ建)によるコミットメント・ラインを有しており、事業等のリスクの顕在化等による突発的な資金需要に備え、手元流動性を確保しております。
(5) 経営方針・経営戦略等又は経営上の目標の達成状況
「第2 事業の状況 1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等」に記載のとおりであります。
(注) 「第2 事業の状況 5 経営上の重要な契約等」はIFRSの開示要請に基づくものが含まれます。また、IFRSにより要求されている、関連するその他開示項目は「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1) 連結財務諸表 連結財務諸表注記 39.コミットメント」に記載のとおりであります。
(3) 稲畑産業株式会社の株式譲渡に関する契約
当社は、2024年1月、当社が保有する稲畑産業株式会社の株式の一部売却に係る株式引受契約を締結し、2024年2月までに本売却を完了しました。なお、本売却に伴い稲畑産業株式会社は当社の持分法適用会社から除外されております。
(4) 住化カラー株式会社の株式譲渡に関する契約
当社は、2024年3月、当社が保有する住化カラー株式会社の全株式を日本ピグメント株式会社に譲渡する契約を締結しました。
(5) ペース インターナショナル LLC及びペース チリ S.p.Aの株式譲渡に関する契約
当社は、2024年3月、当社の連結子会社であるベーラント バイオサイエンス LLCが保有するペース インターナショナル LLCの全株式及び当社グループが保有するペース チリ S.p.Aの全株式をアグロフレッシュ ソリューションズ インコーポレーテッドに譲渡する契約を締結し、同月中に株式譲渡を完了しました。
(6) 住化電子材料科技(合肥)有限公司及び住化電子材料科技(重慶)有限公司の持分譲渡に関する契約
当社は、2024年3月、当社グループが保有する住化電子材料科技(合肥)有限公司及び住化電子材料科技(重慶)有限公司の全持分を鎮江潤晶高純化工科技股份有限公司に譲渡する契約を締結しました。
(7) 借入契約
住友ファーマは、当連結会計年度において、前連結会計年度に実施したマイオバント サイエンシズ リミテッドの完全子会社化に係る資金の一部の追加借入として、短期資金借入契約を締結しており、これらに関連する借入契約の契約期限を2024年9月末まで延長しております。なお、これらの借入契約に対し、当社が債務保証を行っております。
(8) 当連結会計年度において終了した経営上の重要な契約等
当連結会計年度において契約終了の合意もしくは契約期間満了に伴い終了した、経営上の重要な契約等は以下のとおりであります。
技術導入関係
販売契約等
当社グループ(当社及び連結子会社)は、事業拡大と収益向上に寄与すべく、独自の優位性ある技術の確立を基本方針とし、各社が独自に研究開発活動を行っているほか、当社グループ全体としての効率性を念頭に置きながら、互いの研究開発部門が密接に連携して共同研究や研究開発業務の受委託等を積極的に推進しております。
当連結会計年度においては、2022年度から2024年度までの中期経営計画に従い、引き続き、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4分野に研究資源を重点投入するとともに、異分野技術融合による新規事業の芽の発掘とその育成に取り組んでまいりました。
これに基づき、当連結会計年度に計上された研究開発費は、前連結会計年度に比べ116億円減少し、
セグメントごとの研究開発活動を示すと次のとおりであります。
エッセンシャルケミカルズ分野では、持続可能な社会の実現に向けて、資源循環に関する研究開発成果の早期社会実装を目指すとともに、既存ビジネスのグローバル競争力強化に注力しております。
資源循環技術では、総合リサイクル企業であるリバー株式会社との間で締結された業務提携契約に基づき、使用済み自動車から得られる廃プラスチックのマテリアルリサイクルに関する共同技術開発が進行しております。2023年12月には、廃プラスチックの精度の高い選別及び異物除去を行う実証プロセスが完成し、2024年度からの実証実験及びサンプル提供を開始することで、2025年度の製品供給を目指しております。アクリル樹脂に関しては、株式会社日本製鋼所と共同で開発した二軸混練押出機を使用した熱分解プロセスにより、メチルメタクリレート(MMA)モノマーのケミカルリサイクルを実現する基本技術を確立しました。これにより、愛媛工場に設置した実証プロセスを通じて2023年度からのサンプル提供が開始され、実証実験が進行中です。これらのプロセスによって得られるマテリアルリサイクルポリプロピレン及びケミカルリサイクルMMAモノマーは、当社のリサイクル技術を活用したプラスチック製品等に適用される「Meguri(メグリ)」ブランドの対象製品となります。
包装用ポリオレフィン材料の開発においては、素材メーカーとしての強みを活かし、剛性と耐熱性を単一の樹脂で両立するポリエチレン及びポリプロピレンのモノマテリアル包材の開発を継続して推進しております。
また、事業のグローバル競争力を強化するため、モノマー製品の触媒・プロセス改良、合成樹脂の製造プロセスの改良、既存素材の高性能化、新規高付加価値製品の開発にも力を注ぎ、当連結会計年度にはプロピレンオキサイド単産法、塩酸酸化、MMAモノマー、ポリオレフィン等のライセンス関連プロセスにおける触媒の高性能・長寿命化、安全性及び安定生産性の向上に関する改良研究を継続して実施しました。
なお、エッセンシャルケミカルズ部門における当連結会計年度の研究開発費は
エネルギー・機能材料分野では、環境・エネルギー関連事業を拡大させるため、リチウムイオン二次電池用部材、スーパーエンジニアリングプラスチックス、無機材料、機能性樹脂材料等の幅広い製品領域で、既存製品の競争力強化や新規製品創出に向けた研究開発に取り組んでおります。
当連結会計年度において、リチウムイオン二次電池用各種部材は、自動車向けを中心に、性能向上の要請や需要拡大に応えるため、開発を鋭意進めました。耐熱セパレータでは、性能向上とコスト削減を両立させる技術開発が進捗し、幾つかの新規顧客での採用が決定しました。また、京都大学産学共同研究講座「固体型電池システムデザイン」では、圧力を加えなくても電極との界面接合が可能になる柔軟な固体電解質の実用化に向けた材料開発が進捗しております。
機能樹脂分野では、ICT分野、モビリティ分野、ライフ&ヘルスケア分野向けにスーパーエンジニアリングプラスチックスの需要が増大しております。ポリエーテルサルホン(PES)では、半導体工程部材や高機能膜向けの開発・拡販を積極的に進めております。また液晶ポリマー(LCP)では、高流動性や高剛性を活用した電動車用エレクトロニクス材料に加え、高周波特性に優れたグレードによる高速通信コネクタやフィルム用途グレードの開発を進めており、LCPの製造については、愛媛工場での生産能力増強工事が計画通りに完了し、稼働を開始しました。
無機材料分野では、世界に先駆けて超微粒αアルミナの量産技術の開発に成功し、量産を開始しました。次世代半導体向けの研磨材用途のほか、超微細な粒子で焼結させやすい特長により、高強度・耐薬品性が必要な半導体製造装置用部材等の先端分野や、高強度・審美性が求められる人工関節や歯科材料といったライフサイエンス分野等、新たな領域での利用が見込まれております。
なお、エネルギー・機能材料部門における当連結会計年度の研究開発費は
情報電子化学分野では、日本国内に留まらずグローバルな技術・研究開発能力を結集し、IT関連の先端技術進化を支える新規材料・部材・デバイスに関する新製品の開発に積極的に取り組み、高成長・高収益を目指してまいります。
当連結会計年度において、まず、ディスプレイ材料分野においては、ハイエンドディスプレイの主流の一つであるOLEDパネルに対し、当社独自のキーコンポーネントである液晶塗布型位相差フィルムを中小型モバイルまで用途拡大するとともに、薄型化に寄与し耐久性や折り曲げ特性に優れた液晶塗布型偏光板についても開発を完了し拡販を積極的に進めております。今後は、より高機能化する様々なディスプレイに対応する新規機能性フィルム等各種高機能材料の開発・事業化を加速してまいります。また、当社の高分子有機EL材料を用いた中型パネルは、技術確立が完了し、国内外の主要セットメーカーによって各種モニター・ディスプレイとして採用されました。この中型パネルの技術をベースとして、モニターのみならずノートPCやタブレット等のいわゆるIT-OLEDを製造すべく、主要パネルメーカーがより生産性の高い大型基板を用いた印刷法パネル量産に向けた検討を進めており、当社はパネルメーカーとの共同開発の中で、材料の改良、量産実証を進めております。
半導体材料分野においては、AI半導体対応のプロセス技術革新により半導体プロセスの前工程・後工程において新たな市場が形成され始めております。前工程用材料では、半導体集積度向上という命題に対し、微細加工分野において、当社独自の有機分子レジストにより、最先端技術である次世代超短波長EUV(極端紫外線)光源向けフォトレジストの性能の向上及びトップシェアの獲得を目指していくとともに、従来の液浸ArFレジストや多層配線用厚膜レジストについてもラインナップを拡充・強化してまいります。また、技術転換期にある後工程材料については、今後の成長分野と位置付け積極的に事業参入していくために、韓国をはじめとした海外拠点とのグローバルな連携により研究開発体制を一層強化することで、次世代材料の開発・事業化を加速してまいります。
化合物半導体材料分野においては、今後大きな成長が期待される次世代パワー半導体デバイスに用いられる大口径GaN(窒化ガリウム)基板等を中心にさらなる事業基盤強化を図るとともに、高速・大容量通信、省エネ、自動運転等の技術を支え、より高度な社会の実現に貢献すべく、高周波デバイス用各種エピウェハの設計開発も行っております。
IoT次世代技術として拡大が見込まれる高速通信用デバイス分野においても、窓ガラス等に貼り付け可能なフレキシブル透明アンテナやそれを用いた中継器の開発を加速し公共エリア等での実証実験を進めております。加えて、自動運転技術等に欠かせないセンシングデバイス分野においては、薄膜形成を中心とした要素技術を活用し、鉛フリーで環境に優しい新規圧電薄膜材料やフォトニクス構造を用いたセンサー技術の開発に取り組んでおります。
また、モバイル端末等に使用されるイメージセンサー用途に対しては、ディスプレイ・半導体双方の領域で蓄積した技術とノウハウを活用し、高解像度・高感度化に貢献する多様な機能材料の開発を行っております。
なお、情報電子化学部門における当連結会計年度の研究開発費は
健康・農業関連事業分野では、世界の食糧増産、健康・衛生や環境の改善といった課題解決を通じてサステナブルな社会の実現に貢献するため、環境負荷低減効果を重視した技術による新製品やアプリケーション、競争力のある製造プロセスの開発を加速化し、コア事業のさらなる強化と周辺事業の拡大に取り組んでおります。
当連結会計年度において、国内農業関連事業については、ブドウの着色促進用途として開発を続けてまいりました天然物由来の植物生長調整剤であるアブシシン酸含有製品の「アブサップ液剤」を上市しました。また、近年上市しました殺虫剤「アレス」、殺菌剤「インディフリン」についても、新製品の開発を進めております。コメ事業においては消費者や生産地のニーズに合う特徴のある新品種の開発を継続しております。さらに、省力化・環境負荷低減技術の開発やDXの活用を通じて農業生産者への革新的なソリューションの提供を拡大すべく、農薬、肥料、コメ事業の製品ポートフォリオ拡充及び付随するサービスに関する研究開発を進めております。海外農業関連事業においては、有効成分「インディフリン」含有製品をアルゼンチンで上市しました。また、当社新規殺菌剤「パベクト」は欧州及び南米市場を中心とした展開が期待されており、鋭意開発を進めております。バイエル社との雑草防除体系の創出プロジェクト(当社が新規除草剤、バイエル社が耐性作物の開発を担当)では、新規PPO除草剤である「ラピディシル」の登録申請を米国、カナダ、ブラジル及びアルゼンチンで完了し、大きく開発を進展させたことに加え、本剤は多様な雑草に効果を示すことから、土壌からの二酸化炭素の放出抑制に資する不耕起栽培に適しており、カーボンニュートラルへの貢献が期待できます。コルテバ・アグリサイエンス社との種子処理技術の開発、商業化プロジェクトにも引き続き取り組んでおります。さらに、当社が戦略的分野と位置付けているバイオラショナル事業では、米国のFBサイエンス社の買収を通じ、成長著しいバイオスティミュラント分野への本格参入を果たしました。バイオスティミュラントは天然物由来の農業資材で、非生物的ストレスに対する防御機能を誘導し作物の健全な成長を促すとともに、栄養素の吸収を促進することによって作物の品質改善や増収効果をもたらします。当社は、化学農薬、バイオラショナルの強固な基盤をもとにリジェネラティブ農業への貢献を追求いたします。
生活環境事業については、重点強化領域の市場セグメントにおける新製品の開発と製品群の拡充を推進しております。引き続き強い市場ニーズのある天然物由来製品に対応すべく、グループ会社と共同で、新規ボタニカル殺虫剤の登録申請、これに続くボタニカル成分の開発及び登録申請に向けたデータ取得を順調に進めております。業務用殺虫剤分野では、ゴキブリ防除用新製品「ヴェンデッタ360」を上市するなど、さらなる新製品の開発に取り組んでおります。熱帯感染症対策資材分野では、抵抗性を持つ蚊へ卓効を示す室内残留散布剤の普及に取り組むと同時に、蚊の発生源対策として幼虫防除用新製品の開発・登録を引き続き進めていくことで、長期残効性蚊帳と併せて熱帯感染症を媒介する蚊に対して総合的な防除を可能とする製品拡充に取り組んでおります。また、グループ会社と共同で感染症拡大防止へ向けた抗ウイルス製品の開発も継続しております。
アニマルニュートリション事業については、競争力強化のためメチオニンの合理化製法の開発やプロセス改善に加え、機能性飼料添加物分野における製品ラインナップ拡充のため、飼料効率の改善と安心・安全な畜産物生産に貢献できる新規製品の開発に取り組んでおります。また、近年問題となっている家畜排泄物由来の温室効果ガス(GHG)の低減を目的として、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構や国内大学等との共同研究プロジェクトに参画し、引き続きメチオニンを含むアミノ酸バランス改善飼料の技術普及を推進しております。
ファーマソリューション事業については、当社の有機合成プロセスの技術力を駆使した新薬の受託製造品目の拡充、及びジェネリック原薬の製法開発に取り組んでおり、有望な複数の開発品・新製品に対して商業生産へ向けた準備を進めております。核酸医薬原薬につきましては、長鎖RNA需要の成長に対応するため、大分工場内に新工場を建設し、2023年8月より稼働を開始しました。新工場の稼働開始に合わせて研究機能の一部を大分に移管したことにより、迅速なスケールアップを可能にするとともに競争力のある要素技術の獲得、独自技術の拡張を目的とした研究開発を推進しております。
なお、健康・農業関連事業部門における当連結会計年度の研究開発費は
医薬品分野では、精神神経領域、がん領域及びその他領域において、医薬品、再生・細胞医薬、非医薬等による多様なアプローチで人々の健康で豊かな生活に貢献するため、住友ファーマ及び日本メジフィジックス株式会社における自社研究に加え、技術導入、ベンチャー企業やアカデミアとの共同研究等、あらゆる方法で先端の技術を取り入れて研究開発活動に取り組んでおります。
当連結会計年度においては、精神神経領域では、①他家iPS細胞由来ドパミン神経前駆細胞(開発コード:CT1-DAP001/DSP-1083)について、2023年12月、日本において、京都大学医学部附属病院が実施していたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(医師主導治験)の2年間の観察期間が終了しました。また、米国において、カリフォルニア大学サンディエゴ校が非凍結細胞(CT1-DAP001)を用いたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(医師主導治験)を開始しました。さらに、同じく米国において、凍結細胞(DSP-1083)を用いたパーキンソン病治療に関するフェーズ1/2試験(企業治験)を開始しました。②他家iPS細胞由来網膜色素上皮細胞(開発コード:HLCR011)について、日本において、網膜色素上皮裂孔を対象としたフェーズ1/2試験を開始しました。③ウロタロント(開発コード:SEP-363856)について、2023年7月、米国において、統合失調症を対象として実施していた2本のフェーズ3試験の解析結果を得ましたが、いずれの試験においても主要評価項目を達成することができませんでした。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止し、大塚製薬株式会社に開発を委ねることとしました。④SEP-4199について、米国及び日本において、双極Ⅰ型障害うつを対象としたフェーズ3試験を実施していましたが、被験者登録の進捗の大幅な遅れにより、試験を中止しました。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。⑤EPI-589について、米国におけるパーキンソン病を対象としたフェーズ2試験並びに米国及び日本における筋萎縮性側索硬化症(ALS)を対象としたフェーズ2試験の結果を踏まえ、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。
がん領域では、①TP-3654について、米国及び日本において、骨髄線維症を対象としたフェーズ1/2試験を推進しました。②DSP-5336について、米国及び日本において、急性白血病を対象としたフェーズ1/2試験を推進しました。
その他の領域では、①「ジェムテサ」(一般名:ビベグロン)について、2024年2月、米国において、前立腺肥大症を伴う過活動膀胱に対する適応追加申請を行いました。②「オブジェムサ」(一般名:ビベグロン)について、2023年5月、欧州において、提携先が過活動膀胱に対する承認申請を行いました。③レルゴリクス配合剤の「ライエクオ」(一般名:レルゴリクス・エストラジオール・酢酸ノルエチンドロン配合剤)について、2023年11月、欧州において、提携先が子宮内膜症に対する適応追加承認を取得しました。④rodatristat ethylについて、米国において、肺動脈性肺高血圧症(PAH)を対象としたフェーズ2試験を実施していましたが、期待した有効性及び安全性が認められなかったことから、すべての試験を中止しました。その後、本剤の開発方針を検討した結果、住友ファーマにおける開発を中止しました。⑤「ゼンレタ」(一般名:lefamulin)について、2023年11月、中国において、市中肺炎を適応症とした承認を取得しました。⑥ユニバーサルインフルエンザワクチンについて、2024年3月、ベルギーにおいて、TLR7アジュバント(開発コード:DSP-0546LP)を添加して作製した新規のユニバーサルインフルエンザワクチン製剤のフェーズ1試験の開始申請を提出しました。
放射性医薬品については、AMEDによるCiCLE事業の研究開発課題として採択されたセラノスティクス(治療と診断の融合)薬剤開発プロジェクト「CRADLE(Consortium for Radiolabeled Drug Leadership)」を日本メジフィジックス株式会社が中心となって推進しました。
なお、医薬品部門における当連結会計年度の研究開発費は
全社共通及びその他の研究分野においては、上記5事業分野の事業領域を外縁部へ積極拡大するための研究及びマテリアルズ・インフォマティクス等のデータ科学・計算科学をはじめとする共通基盤技術開発の強化により、環境、ヘルスケア、食糧、ICTの重点4分野における次世代事業の創出加速を進め、社会的課題の解決の実現を推進しております。また、カーボンニュートラル実現の視点からの研究開発の重要性が増していることから、当社は、2021年12月に公表した住友化学グループのカーボンニュートラル・グランドデザインに基づき、「責務」として自らが発生するGHG排出量を2030年度までに2013年度比50%削減、さらに2050年度までにネットゼロ達成に向けた取り組みを進めるとともに、「貢献」についてはGHG削減に貢献する製品・技術の開発、社会実装及びライセンスを通じたグローバル展開に取り組んでおります。当連結会計年度においては、次の進展がありました。
環境分野では、創エネ・蓄エネにつながる次世代電池、地球温暖化対策となるGHG排出削減や資源リサイクルによる環境負荷低減に関する技術開発を加速しております。具体的には、炭素資源循環技術の確立を目指し、グリーンイノベーション基金事業の助成を受けた様々なプロジェクトを進行中です。千葉工場の袖ケ浦地区において、エタノールからプロピレンを直接製造する実証に向けたパイロット設備の建設に着手しました。2025年前半に同設備を完成させるとともに、早期の社会実装を目指してまいります。愛媛工場においては、CO2からメタノールを高効率に製造する実証パイロット設備を新設し、2023年12月より運転を開始しました。本技術は、国立大学法人島根大学と共同開発を進めてきた内部凝縮型反応器(Internal Condensation Reactor)により、従来技術の課題を解決したものになります。2028年までには実証を完了し、2030年代の事業化及び他社へのライセンス供与を目指してまいります。
また、当社は、合成生物学のパイオニア企業である米国ギンコバイオワークス社と、バイオものづくりの連携を強化し、合成生物学を用いた機能化学品の開発に着手しました。今回の取り組みで、ギンコバイオワークス社は、菌株設計の技術を生かした商業化に必要な菌株開発を担い、当社は、製造プロセスの開発及びそのスケールアップによる商業化に向けた検討を行います。両社は、化石資源を原料とした製造方法に代わって、微生物の発酵生産によって機能化学品を量産化することで、よりカーボンフットプリントの低い製品を提供し、カーボンニュートラル社会の実現への貢献を目指してまいります。
ヘルスケア分野では、再生・細胞医薬や体調モニタリング等の先端医療・予防・診断に関する技術の開発に引き続き取り組んでおります。名古屋大学大学院と、住友ファーマ、当社及び藤田医科大学らの共同研究グループにおいて、ヒト胚性幹細胞(ヒトES細胞)及びヒト人工多能性幹細胞(ヒトiPS細胞)を用い、高効率かつ高純度で下垂体ホルモン産生細胞を作製する方法を開発しました。本研究の成果は下垂体の機能が低下した患者に対する再生医療の実現に向け、一歩前進したものと言えます。
食糧分野では、当社の保有技術を活かすことが可能と思われる機能性飼料やバイオラショナル資材等の食糧の品質・収量向上に資する技術の開発に取り組んでおります。
ICT分野では、有機ELディスプレイ材料、5G・6G等の通信対応材料、次世代半導体関連材料及びイメージセンサー材料等の技術開発に引き続き取り組んでおります。環境に配慮したデバイスの実用化に向けて、次世代量子デバイスの重要材料の一つとして期待される「強相関電子材料」の研究開発を行うため、2023年4月より東京大学大学院、東京工業大学、国立研究開発法人理化学研究所のそれぞれに研究拠点を設け、共同研究を開始しました。研究員が複数の組織で開発を実施するクロスアポイントメントも活用しながら、プロジェクト間の連携を進め、研究成果の最大化や早期の社会実装を目指してまいります。
以上の研究開発の早期の事業化に向け、下記のような取り組みも強化しております。
デジタル技術の活用により、研究開発活動の生産性向上の取り組みを継続、深化させ、顧客接点強化や顧客満足度向上等事業の競争力強化(DX戦略2.0)を計るとともに、新規ビジネスモデルの構築による事業創出(DX戦略3.0)にも取り組んでおります。DX戦略3.0による新たな価値創造として、天然素材のデジタル・ネットワーキング・プラットフォームBiondo(ビオンド)を2024年7月に公開予定です。本サービスは天然素材の有効活用を促すための3つのサービスを提供するものであり、当社の強みである網羅分析技術による成分分析サービス、天然素材と機能性成分に関する豊富なデータベース及びプラットフォーム上でのマッチングサービスを、ウェブサイト上で総合的に提供するものになります。天然素材の新たな価値の発見により有効活用を促し、資源循環へ貢献を目指します。また、生成AIを活用した当社版「ChatGPT」として「ChatSCC」を開発し、約6,700名の全従業員を対象に運用を開始しました。足元では生産性の飛躍的向上を実現するとともに、将来的には当社独自データの有効活用による既存事業の競争力確保、さらには新規ビジネスモデルの創出へとつなげてまいります。
また、千葉地区にて環境負荷低減技術や新素材の開発拠点として2024年6月末に新たな研究棟が稼働開始予定です。これにより、環境負荷低減テーマの加速と早期実現化を目指し、研究体制の強化を図ってまいります。
なお、全社共通部門における当連結会計年度の研究開発費は
このように、新製品・新技術の研究開発及び既存製品の高機能化・既存技術の一層の向上に取り組みつつ、食糧、ICT、ヘルスケア、環境の4つの重点分野の社会課題をイノベーティブな技術で解決する企業(Innovative Solution Provider)を目指してまいります。