文中における将来に関する事項は、当期末現在において、当社グループが判断したものであります。
(1)会社の経営の基本方針
タツタ電線グループは、グループの経営理念・企業行動規範に基づき、社会の持続的な発展がグループの持続的成長の大前提であるとの認識のもと、社会に役立つ製品・サービスを提供するとともに事業活動のあらゆる段階で環境負荷の低減を図ることにより、環境・社会・経済面の企業価値を高めてまいります。
また、当社は社会に役立つ製品・サービスを提供し事業拡大を目指すとともに、当社グループが事業活動を行う中で社会や環境に与える負荷を低減することを重要課題と認識しております。特に、地球環境の保護は世界的な課題であり当社グループも社会の一員として積極的な役割を果たしてまいりたいと考えております。このために、カーボンニュートラルの達成、省資源・省エネルギー、リサイクルなどにも精力的に取り組んでまいります。
当社グループは、これらの活動を通じてより良い社会の実現とその持続的な発展に貢献してまいります。
(2)中長期的な会社の経営戦略
当社グループの経営理念を実現すべく、当社グループは2017年から2025年までの9年間における当社の事業運営のあり方について、グループの有するコアコンピタンスや今後の社会の課題やニーズ、トレンドを踏まえ、コアビジネスである電線・ケーブル事業及び電子材料事業の今後の目指すべき方向・ありたい姿(ビジネスモデル)を定めた長期事業戦略である「2025長期ビジョン」を策定いたしました。
長期ビジョンでは、既に当社が相当以上の競争力を有する事業の更なる強化に加え、社会的ニーズが今後高まると予想されたIoTやロボット、車載機器、医療機器向けなどのフロンティアに対して当社グループが集中して取り組み、事業の拡大と事業ポートフォリオを変革していくことを目指しており、これはSDGsにおいて取り組むべき課題や新型コロナウイルス感染症問題で顕在化した社会の課題への対応にも貢献できるものと考えております。
この実行にあたっては、当社の有する各事業の成長段階・競争力等に応じ「利益追求事業」「成長追求事業」「中長期育成事業」の3つのグループに分類したうえで、第1期(2017~2019年度)、第2期(2020~2022年度)、第3期(2023~2025年度)に区切り、事業展開を進めております。
しかしながら、大幅な事業拡大を計画していた「成長追求事業」及び「中長期育成事業」については、一定の進捗はありましたものの、新型コロナウイルス感染症問題により顧客企業との接触が制限されるとともに顧客企業側においても新規材料認定活動が停滞する等により、新規製品開発・拡販に大幅な遅れが生じております。また、「利益追求事業」についても、ロシアによるウクライナ侵攻問題に端を発した資源・エネルギー価格の高騰、半導体等部品の供給不足による生産停滞とその後のスマートフォン販売の急減等により、第2期(2020~2022年度)は目標未達となりました。
2023年度は、2025長期ビジョンに掲げる方向性に変更はないものの、まずは足元の業績回復を最優先課題としてグループを挙げて集中して取り組み、一定の成果をあげました。しかし、資源・エネルギー価格が高水準で推移し、それに伴う物価・労務費の上昇等、不透明な事業環境が継続していることを踏まえ、中長期の事業計画・目標については、2024年度も検討を継続することといたしました。
(3) 対処すべき課題
① 各セグメントの課題
ⅰ)電線・ケーブル事業セグメント
カーボンニュートラル、5G、FA化・ロボット化等、社会の変化に伴う「送配電ネットワーク整備」「機能性ケーブル」へのニーズの高まりにより電線・ケーブル事業の事業機会が拡大しており、この機会獲得が重要な課題となっています。この状況を踏まえ、当社は、電線・ケーブル事業セグメント総体の市場対応力を強化して「新市場・海外市場への展開」「高機能・差別化新製品の開発」及び「事業提携を含めた製品ラインアップ拡充と生産販売体制強化策の企画・実行」を進めるべく、2021年7月に通信電線事業本部と機器用電線事業本部を「ワイヤー&ケーブル事業本部」として統合し、2022年7月には、業務の効率化、意思決定の迅速化、情報の更なる共有による市場開拓及び差別化新製品の開発を加速すべく、子会社の営業機能を当社に集約するとともに管理体制を簡素化いたしました。さらに、2024年4月より子会社を含めた製品ブランドの統合を行いました。
2023年度は産業機器電線分野における需要の鈍化はあったものの、インフラ電線分野での増販、原材料価格高騰による販売価格見直しの浸透に加え、品種構成改善、コスト削減等に努め、一定の収益回復を達成しました。
しかしながら、今後も生産資材価格・エネルギー価格の変動や、物流費・労務費などのコスト上昇が予想されることから、コスト削減と適切な販売価格の確保が重要課題と認識し、引き続き注力してまいります。
ⅱ)電子材料事業セグメント
主力製品である機能性フィルムにつきましては、スマートフォン・タブレット等の携帯通信機器を主用途としております。2023年のスマートフォン販売量は買い替え需要長期化等により停滞しました。しかしながら、携帯通信機器は今後さらなる通信高速化に向けてミリ波対応基地局・機種の普及が予想されるとともに、フォルダブルフォン(折り畳み式スマートフォン)の増加も予想されております。当社はミリ波対応の電磁波シールドフィルム、フォルダブルフォンに対応した高屈曲フィルムを既に開発しており、本格的な普及に合わせて事業機会拡大につなげてまいります。一方で、機能性フィルムの用途拡大も課題となっております。当社は、今後ますます成長が予想される車載向けセンサーやカメラ、インバーター、パワーウインドウ、ヘッドライト、計器類等の電子部品の電磁波遮断を目的にした高耐熱シールドフィルムを開発いたしました。当社としては、車載向けシールドフィルムをスマートフォン向けに次ぐ事業の柱とすべく精力的に取り組んでまいります。
また、2023年度には当社のFPC用電磁波シールドフィルムや導電性ボンディングフィルムの価値を再定義するとともに、市場での存在感をさらに強化すべく、新ブランド「WILMINAⓇ」の展開を開始しました。当社は、引き続き、高速伝送が求められるモバイル機器分野やデジタル化が加速する車載分野などで、顧客ニーズにマッチした高性能・高品質な製品の開発に積極的に取り組んでまいります。
成長追求事業である機能性ペースト事業につきましては、2025長期ビジョンにおいて機能性フィルム事業に次ぐ柱の事業として事業開発に取り組んでおります。新型コロナウイルス感染症問題による顧客企業の認定活動の停滞等もあり収益貢献が大幅に遅れておりますが、顧客企業での材料認証も進展しつつあります。また、既に投資しているスタートアップ企業とも日本国内での製造に関して合意しており、引き続き精力的に取り組み、収益貢献の早期化を目指してまいります。
ⅲ)その他事業セグメント
成長追求事業である医療機器部材事業については、当社の有する樹脂形成技術と精密電線加工技術、さらにはセンサー事業により培ったセンシング技術の活用が可能であり、主要顧客のニーズに沿った開発テーマに対応することでニッチトップの製品群の開発・事業展開を進めるとの方針のもと、主要医療機器メーカーからのOEM製品群の生産を通じた基盤構築を進めつつ、当社の独自性を加えたニッチトップ製品群の開発を進めております。特に、低侵襲医療分野は身体に与える負荷が小さく術後のQOL向上にも貢献するものであり、新たな機能の付加に対するニーズが高く新規治療法の開発も含め市場成長が期されるとともに、当社光ファイバや合金、微細電線、チューブなどのコア技術を用いることで新たな医療技術開発にも貢献できると考えております。2021年度末から開始している大手医療機器メーカーからのOEM製品については、生産・販売量を順調に拡大しており、さらなる投資を予定しております。長期ビジョンに対しては遅れを生じておりますものの、今後もスタートアップ企業を含む関係分野企業との協業等により独自性のあるグループを形成し医療機器部材事業の成長を推進してまいります。
株式会社タツタ環境分析センターが行っている環境分析事業は、ダイオキシン類分析、作業環境測定、土壌・地下水調査、水質・大気などの環境分析をはじめ、製品・材料や産業廃棄物分析等の幅広い分析に対応して環境ニーズの高まりに貢献しつつ一定の収益をあげております。今後さらなる成長を目指し、ダイオキシン分析の短納期化や土壌分析等地盤環境事業のワンストップ化、分析サービス対応エリアの拡大等、成長戦略を継続するとともにDX化による効率化・サービスの品質向上を進めてまいります。
②企業・大学等とのコラボレーションによる事業強化・新規事業育成
当社の成長には既存事業の強化と新たな事業の育成が重要な課題であり、新規事業創出のカギとなる要素技術の早期拡充に向けて自社内のリソースの活用はもとより、他社・大学等とのコラボレーションによるオープンイノベーションに取り組んでいます。当社グループの強みを活かすという視点から、カーボンニュートラル・再生エネルギー関連分野、5G・IoT・AI・DX等の電子材料関連分野、メディカル関連分野、環境・センシング関連分野を中心に、当社の事業方向性に合致し、社会課題の解決に資する差別化技術を開発・保有しているスタートアップ企業への投資と協業を推進しています。2020年度から7社のスタートアップ企業への投融資(計約6億円)を行い、各社の成長をサポートするとともに当社との連携による新規事業の創出を目指しております。
研究開発分野では大学との協働も進めており、現在、複数の大学との共同研究を行っております。2024年3月には産学連携による新規事業創出の拠点として関西大学イノベーション創生センター内にラボを設立しました。当社といたしましては、これらのコラボレーションを推し進め、収益力の強化と新規技術・事業の開拓を目指してまいります。

③DX(デジタル・トランスフォーメーション)推進
当社グループは、製造・開発・営業・事務の各面でのDX化を推進しております。DXを企業文化として定着させ継続して推進する上では人材育成が重要課題と考えており、DX研修プログラムを体系化し大幅に拡充いたしました。引き続き環境整備と課題対応を進め、ビジネススタイル・ビジネスモデルの変革、そして新たな付加価値の創造へとつなげてまいります。
「1 経営方針、経営環境及び対処すべき課題等 (1)会社の経営の基本方針」に記載しましたとおり、当社グループは、社会の持続的な発展が当社グループの持続的成長の大前提であるとの認識のもと、サステナビリティ経営に取り組んでいます。「ESG委員会規程」を制定し、「ESG」を事業活動の持続可能性(サステナビリティ) の観点における環境、社会、ガバナンスに関する事項と定義するとともに、当社グループ経営におけるサステナビリティ情報の認識や重要性を判断する機関としてESG委員会を設置・運営しています。2021年4月より、社会そして当社グループ事業が長期的に持続していくために重要と考えるグループのマテリアリティを「地球環境保全への貢献」「社会に役立つ先進的かつ高品質な製品・サービスの提供」「安全で働きがいのある職場の実現」「人権の尊重」「地域社会との共存共栄」「コーポレート・ガバナンスの徹底」と設定し、グループ全社で取組みを展開しております。
当社グループは、これらの活動を通じて、事業の持続的な成長を目指していくとともに、より良い社会の実現とその持続的な発展に、社会の一員として積極的な役割を果たしてまいります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
サステナビリティ経営を横断的に推進するため、2020年10月より、代表取締役社長が委員長、当社取締役および執行役員、グループ会社の取締役を委員とする「ESG委員会」を設置し、「経営役員会」「内部統制委員会」等と並ぶ社長執行役員直轄の会議体と位置づけ、原則、年に2回(必要な場合は都度)開催をしています。ESG委員会では、ESGに関する取組み状況をモニタリングするとともに、事業活動の持続可能性の観点からのESGに関連する重要事項に関する議論・協議をおこない、結果は経営役員会、取締役会に答申、報告をしております。
総務人事部・経営企画部が事務局を担当し、各事業部門と連携し、ESG全般に関する基本的な考え方および重要課題等をESG委員会に付議するとともに、サステナビリティに関する目標設定や進捗の取り纏め、達成内容の評価等の管理を行います。
特に、気候変動対応については、ESG委員会の傘下に設備技術を管掌する執行役員がトップを務めるカーボンニュートラル推進分科会を設置し、2025年カーボンニュートラルにむけた取組みを監督し、ESG委員会に報告します。

(2)リスク管理
当社グループのマテリアリティの設定にあたっては、サステナビリティの方針に基づき、2020年度、総務人事部および経営企画部が、本社関連部門、事業部門と連携のうえ、社会的課題やステークホルダーの要請・期待などを勘案し、マテリアリティ、具体的取組事項、KPI案をまとめ、ESG委員会に付議、ESG委員会では事業活動の持続可能性の観点からリスクや機会について協議し、委員会で決定した内容を経営役員会、取締役会に諮問・報告をおこなっております。
ESG委員会では、ESGに関する取組みを全体総括するとともに、サステナビリティの観点から各マテリアリティに関するリスクや機会について評価をおこない、必要な場合はマテリアリティ、具体的取組事項、KPIの見直し等を実施しております。確認されたリスク事項に関しては、経営役員会、取締役会に報告するとともに、リスク管理委員会と連携し、グループ全体のリスクマネジメントに統合しリスクを反映しております。
(3)戦略と目標指標
当社グループのサステナビリティに関するマテリアリティ、具体的取組み、KPIは以下のとおりです。
『環境』

気候変動対応は、温暖化による自然災害の増加、生態系への影響など、当社グループが事業活動を将来にわたっておこなう安定した社会基盤の前提を大きく変化させるものであり、特にCO2排出量の削減は当社経営戦略に影響を与える可能性のある喫緊の重要課題であると認識しております。
2022年3月にTCFD(気候関連財務情報タスクフォース)への賛同を表明し、TCFDの考え方に基づきシナリオ分析を行い事業活動に与えるリスクと機会を抽出、経営戦略へ盛り込む活動を実施しております。
<TCFD提言に対する当社の取組み>
(ガバナンス)
気候変動に対するリスク及び機会を監視、管理するガバナンスは、「(1)ガバナンス」に記載しております。
(リスク管理)
気候変動に関連するリスク及び機会を識別・評価・管理するプロセスは、「(2)リスク管理」に記載しております。
(戦略)
2050年における気候変動シナリオをもとに、当社グループへの影響を分析しました。結果、気候変動は当社グループに与える財務的なネガティブインパクトは限定的と分析しております。
当社グループ経営に少なからずマイナスの影響を与えうると想定されるものの、リスクへの対応が可能であることや、気候変動対策に貢献する製品の販売など事業機会の獲得が期待できるものと考えております。
気候変動シナリオは以下の世界観を前提に作成しております。気候変動に関するリスクはそれぞれのシナリオをもとに、各事業本部・関係部署が協働して抽出・分析しております。
■影響分析結果
・1.5℃シナリオ(機会・リスク)
・4℃シナリオ(機会・リスク)
(目標と指標)
・カーボンニュートラルの推進
当社グループは、国内3工場に太陽光発電設備を設置するなどの「創エネルギー」、省エネ設備への更新や職場等における省エネ活動等の「省エネルギー」に全社で取組み、CO2排出量の削減を積極的に推進しております。
カーボンニュートラルにつきましては、社会的要請に加え顧客企業の要望等を踏まえ、再生可能エネルギー由来電力やカーボンニュートラルLNGへの切り替えを計画的に進めております。機能性フィルム事業においては、CO2クレジットの購入も活用し、2022年4月より実質的にカーボンニュートラル(Scope1および2)を実現しております。その他の国内各事業所・関係会社においては2025年度カーボンニュートラル(Scope1および2)の達成を計画しております。
○カーボンニュートラル(Scope1+Scope2)に関する指標
CO2排出量実績(国内グループ会社)
*カーボンニュートラルLNGへの切り替え、CO2クレジット購入によるオフセットを含む
2022年度にはカーボンニュートラルLNG、再生可能エネルギー由来電力の活用等により、大幅にCO2排出量を削減いたしました。2023年度には、一部事業における再生可能エネルギー由来電力の利用割合を引き上げることでさらに削減を行いました。また、2022年度に投資決定し構築を進めてきた機能性フィルム事業の京都工場物流センターの稼働(2024年4月竣工)は、物流の効率化に加え、積載効率向上が輸送回数の低減につながり、サプライチェーン上のCO2排出量(Scope3)の削減にも貢献します。
・省エネルギーの推進
電力・ガスの再生可能エネルギーへの切替えやCO2クレジットの購入は、コスト増となるため、指標として「製品原単位あたり使用エネルギー」を設定し、年1%以上削減を目標にしております。また、省エネ活動の見える化を企図し、新たに太陽光発電等の自家発電による再生可能エネルギーの導入や省エネ機器への更新等による省エネ効果を測る指標として、「エネルギー使用合理化期待効果」を加え、省エネルギーを徹底するとともに製品・サービスへの価格転嫁を推進しております。
〇省エネルギーに関する指標2023年度実績(単体)
製品原単位あたり使用エネルギー:対前年1.6%削減、エネルギー合理化期待効果:対前年3.1%削減
・リサイクルの推進
廃棄物の削減のため、再資源化率95%以上を目標に掲げております。
グループ(国内)として再資源化率95%以上を達成しております。国内全事業所での目標達成を推進するとともに、推進対象範囲をグループ全体として海外子会社への展開を進めてまいります。
〇リサイクルに関する指標2023年度実績(国内グループ会社)
再資源化率:98.8%
・環境配慮型製品・サービスの提供
環境負荷を低減するため、環境に配慮した新製品・改良品の開発や省資源に取り組んでおります。電線・ケーブル事業では、従来の塩化ビニルと同等の難燃性を保持しながら、ハロゲン元素や鉛などの重金属を含まず、リサイクル性の高い被覆材を使用したエコ電線・ケーブルを開発しております。電子材料事業では、原材料をリサイクル材に置き換える取組みやハロゲンフリー、RoHS、UL、鉛フリーハンダリフローなどの環境適合性を考慮して製品開発を行っております。また、環境分析事業では、ダイオキシン類分析、作業環境測定等の環境分析や産業廃棄物分析を行っております。
『社会』 2023年度から、KPI項目として「男性育児休業等の取得率50%以上」を追加しました。

当社グループは、電線・電子材料関連のフロンティアを開拓し、独創的な先端部品・素材を供給するサプライヤーとして、消費者の新しい生活様式や社会課題、技術革新など事業を取り巻く変化を新しい製品・市場の創出の機会と捉え、市場対応力やBtoB顧客ニーズにこたえる製品開発力を磨くとともに、大学との技術交流による要素技術の拡充やスタートアップ企業等との協働を積極的に推進するなど、社会に役立つ先端的かつ高品質な製品・サービスの開発に取り組んでおります。
一方で、社会変容が引き起こす流動性や不確実性といったリスクに備え、企業のレジリエンスを高めることも重要と認識しております。
顧客の期待に応える安定品質、安定供給に向けては、当社は1994年よりISO9001(品質マネジメントシステム)、1999年よりISO14001(環境マネジメントシステム)の認証を受け、品質・環境マネジメントシステムを維持し各事業所において継続的な改善活動を実施しております。特に、機能性フィルム事業では、2016年よりISO22301(事業継続マネジメントシステム(BCMS))の認証を取得し、2023年にはISO27001(情報セキュリティマネジメントシステム)の認証を受けるなど、大規模災害やサプライチェーンの断絶、サイバー攻撃等による情報システム障害など、不測の事態を想定したBCPを策定し、サプライヤーとのコミュニケーションも含み、継続的に演習、見直し、改善を通じ、サプライチェーンの強靭化に向けた取組みを進めております。
<人材の多様性の確保を含む人材の育成に関する方針及び社内環境整備に関する方針>
当社は、人材育成方針を定め、意欲・能力のある者が積極的にチャレンジし、イノベーションの創出や事業のグローバル成長をけん引するプロフェッショナルな人材の育成に取り組んでおります。
[人材育成方針]
(1)基本的考え方
経営理念、企業行動規範の遵守を基本とし、企業の持続的発展と中長期的な企業価値向上の実現を担う人材を
育成いたします。
(2)人事制度との連動
人事制度上の役割等級定義表に基づき、各階層に必要とされる役割、スキルに応じた人材を育成いたします。
(3)当社が求める人材像
①グローバルな視点から全社経営レベルでの的確な現状認識と将来見通しを踏まえ、将来構想を策定できる人材
②多様性を受容し、他部門との円滑な調整を図りながら組織や部門、職場を統率できる人材
③社会情勢変化や技術革新等に対し、スピード感を持ってチャレンジし、自律的に対応することができる人材
④大志と高い倫理観を持ち、生涯にわたって学び、自己研鑽できる人材
多様なキャリアパス・自律的な働き方を促し、社員の多様性を事業の推進や製品開発に活かし、持続的な成長発展につなげていくための人事施策を進めるため、2022年4月には、人事諸制度を見直しました。
また、当社グループは、企業行動規範において「従業員の人格・個性を尊重し、安全で働きやすい多様性に富んだ職場環境を確保します」を掲げ、多様な人材が相互に人権を尊重し、適材適所で生き生きと力を発揮する活力ある職場環境の実現に推進しております。
日本での少子化に伴う労働人口の減少、就業に対する価値観の多様化等、社会が変化するなか、ダイバーシティ&インクルージョン、働き方改革、健康経営といったワークライフ・マネジメントを推進し、女性、障がい者、高齢者、外国人、様々な職歴をもつキャリア採用者など、多様な人材の採用、起用を積極的かつ継続的に行いながら、各種休暇制度やテレワークの導入など、さまざまなライフステージにおいて、それぞれの特性や能力を最大限活かせる社内環境の整備、およびマネジメント層の教育など従業員の意識改革に取り組んでおります。
2023年度は、社内環境の整備の一環として、当社は年次有給休暇の計画的付与制度、時間単位年休制度を導入しました。さらに、2024年4月には、「女性活躍推進に関する行動計画」とは別に、単独で「次世代育成支援対策推進に関する行動計画」を策定するなど、子育てを行う労働者の活躍推進に向けた環境整備を進めております。
〇安全衛生/多様性に関する指標2023年度実績(単体)
重大災害:0件、休業災害:1件、年休取得率:82.5%、 障がい者雇用率:3.1%、
女性従業員の採用比率:12.8%
※障がい者雇用率は、2022年7月1日から2023年6月30日の実績です。
※管理職に占める女性労働者の割合、男性労働者の育児休業取得率は「
※各指標に関する目標及び実績は当社の目標及び実績。グループで主要事業を営む当社においては、関連指標の管理とともに具体的な取組みをおこなっておりますが、グループ会社全てでは実施しておりません。
『ガバナンス』

「
かかる認識に基づき、当社は、事業環境が大きく変動する中にあって、経営の迅速な意思決定と健全性・透明性を確保しつつ、持続的な成長と中長期的な企業価値の向上の実現には、継続的なコーポレートガバナンスの徹底をはかっていくことが重要と考えております。
当社グループにおいては、リスク管理委員会において当社グループにおけるリスク全般について損害規模・発生頻度をもとに重要性を可能な限り定量的に評価し、特に重要なリスクについては所管する部署を決めたうえで年2回開催されるリスク管理委員会において管理状況を確認し必要に応じて対策を実施することとしています。年度初めに開催するリスク管理委員会において前年度のリスク管理状況を確認するとともに当該年度のリスク管理方針を定め、下期初に開催するリスク管理委員会においては期中の管理状況の確認を行っております。リスク管理委員会における協議内容は経営役員会、取締役会に報告しております。

また、気候変動に関するリスクについてはESG委員会においてリスクの識別・評価・管理を行いその状況を経営役員会・取締役会・リスク管理委員会に報告しています。
経営役員会、取締役会においては、リスク管理委員会・ESG委員会の報告に対する議論を行うほか、毎月の収支見通し、業務執行状況報告等を通じてリスクのモニタリング、対応の監督を行い、リスク発現の回避とともにリスクが発現した場合の影響の軽減に努めております。
当社グループの事業運営に重要な影響を及ぼす可能性のある事項には以下のようなものがありますが、リスク発現の規模や継続期間によっては当社グループの財政状態、経営成績およびキャッシュフローのみならず、中長期の経営戦略に重大な影響を及ぼす可能性があります。
なお、文中における将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において、当社グループが判断したものであります。
① 事業全体及びセグメント情報に記載された区分ごとの状況
当期における日本経済は、新型コロナウイルス感染症の法的位置づけが5類へ移行され、経済活動が正常化に向かうとともに、企業収益、設備投資、生産、個人消費等の各面で緩やかな持ち直しが続きました。世界経済も一部の地域において弱さがみられるものの、同感染症の影響が緩和される中で持ち直している状況にあります。しかしながら、世界的な金融引き締めが進む中での金融資本市場の変動や物価上昇、高水準で推移する資源価格や原材料価格、ロシア・ウクライナ情勢の長期化、中東情勢緊迫化等、依然として先行き不透明な状況が続いています。
当社製品の主要原料である銅の当期の国内建値平均価格は、前期を上回る水準となりました。
この間において、国内銅電線の需要は足元で一部電線の需給ひっ迫はありますものの総体としては前期をやや上回る水準で推移する一方で、産業機器電線分野では一部向け先で需要の鈍化もみられました。機能性フィルムの主要用途であるスマートフォンの販売量は世界的な物価上昇、中国を中心とした景況悪化、買い替え需要の長期化等により低迷し、素材需要もその影響を受けました。
こうした環境のもと、当期の売上高は64,119百万円(前期比4.3%増)、営業利益は2,547百万円(前期比49.7%増)、経常利益は2,688百万円(前期比44.2%増)、親会社株主に帰属する当期純利益は1,765百万円(前期比82.4%増)となりました。
(単位:百万円)
なお、当社は、2022年12月21日付けで公表した「ENEOSホールディングス株式会社の完全子会社(JX金属株式会社)による当社株式に対する公開買付けの開始予定に関する意見表明のお知らせ」でお知らせしましたとおり、各国競争法上のクリアランスの見込みが立ち次第JX金属株式会社は当社株式に対する公開買付けを開始する予定としておりました。
その後、2024年6月12日付けで公表した「(開示事項の経過)ENEOSホールディングス株式会社の完全子会社(JX金属株式会社)による当社株式に対する公開買付け実施に向けた進捗状況のお知らせ」でお知らせしましたとおり、当社は、2024年6月11日、JX金属株式会社より、同日、中国の競争法に基づき必要な手続及び対応に関してクリアランスの取得を完了したとの連絡を受けました。また、2024年6月20日付けで公表した「ENEOSホールディングス株式会社の完全子会社(JX金属株式会社)による当社株式に対する公開買付けに関する賛同の意見表明及び応募推奨のお知らせ」でお知らせしましたとおり、JX金属株式会社は、本公開買付けを2024年6月21日より開始することを決定したとのことです。
本公開買付け及びその後の一連の取引により当社は公開買付者の完全子会社となり、上場廃止となる予定です。
今後、両社の経営資源の効率的活用、電子材料分野における事業競争力の更なる強化、電線・ケーブル分野の事業基盤の強化等の事業シナジーを具現化し、企業価値向上に努めてまいります。
セグメントごとの業績の概況は次のとおりです。
<電線・ケーブル事業セグメント>
(単位:百万円)
産業機器電線分野における需要の鈍化はありましたものの、インフラ電線分野において電力会社や発電所向け及び建設電販向け等で増販(前期比8.0%増)となったこと、さらには原材料価格高騰による販売価格の見直し等により、売上高は47,096百万円(前期比7.1%増)となりました。営業利益は上記に加え、品種構成改善、コスト削減等に努めた他、銅価変動影響もあり、2,063百万円(前期比168.5%増)となりました。
<電子材料事業セグメント>
(単位:百万円)
当社主力製品である機能性フィルムは、主要用途であるスマートフォンの買い替え需要の長期化等により生産台数も低水準で推移したこともあり販売量が減少(前期比8.9%減)し、売上高は14,548百万円(前期比3.4%減)、営業利益はコスト削減等に努めましたものの1,147百万円(前期比21.6%減)となりました。
<その他事業セグメント>
(単位:百万円)
医療機器部材は新規製品の拡販もあり増収となりましたが、センサー、環境分析の各事業では需要停滞、諸コストの増加もあり、売上高は2,502百万円(前期比1.6%増)、営業利益は26百万円(前期比83.6%減)となりました。
当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 上記の金額は、販売価格であり、セグメント間の内部振替前の数値です。
当連結会計年度における受注状況をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) セグメント間の取引については相殺消去しております。
当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。
(注) 1 セグメント間の取引については相殺消去しております。
2 主な相手先別の販売実績及び総販売実績に対する割合は、次のとおりであります。
当期末における総資産は、前期末に比べ2,661百万円増加し、61,119百万円となりました。これは、建設仮勘定および短期貸付金が増加したこと等によるものです。
負債の部は、前期末に比べ643百万円減少し、9,932百万円となりました。これは、退職給付に係る負債が減少したこと等によるものです。
純資産の部は、前期末に比べ3,304百万円増加し、51,186百万円となりました。これは、親会社株主に帰属する当期純利益の計上及び退職給付に係る調整累計額が増加したこと等によるものです。
以上の結果、自己資本比率は前期末に比べ1.8ポイント上昇し、83.7%となっております。
(3)キャッシュ・フローの状況
(現金及び現金同等物)
当期末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は、1,780百万円となり、前期末に比べ533百万円の増加となりました。
各キャッシュ・フローの状況とそれらの増減要因は、次のとおりであります。
(営業活動によるキャッシュ・フロー)
営業活動によるキャッシュ・フローは、税金等調整前当期純利益2,437百万円、減価償却費1,897百万円等の資金増加要因から、売上債権の増加429百万円、未払消費税等の減少290百万円等の資金減少要因を差し引いた結果、3,279百万円の収入となり、前期に比べ1,402百万円の収入増加となりました。
(投資活動によるキャッシュ・フロー)
投資活動によるキャッシュ・フローは、主に有形固定資産の取得による支出1,980百万円、短期貸付金の増加652百万円等により、2,726百万円の支出となり、前期に比べ1,870百万円の支出増加となりました。
(財務活動によるキャッシュ・フロー)
財務活動によるキャッシュ・フローは、自己株式の取得による支出により、0百万円の支出となり、前期に比べ1,111百万円の支出減少となりました。
(資本の財源及び資金の流動性に係る情報)
当社グループは、中長期的な企業価値向上に向け今後も積極的な投融資、研究開発を継続していく予定であります。必要資金は、当面は自己資金により調達する予定でありますが、必要な場合には借入も実行いたします。
(4)重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定
当社グループの連結財務諸表は、我が国において一般に公正妥当と認められている会計基準に基づき作成されております。当社グループの重要な会計方針については、すべて「第5 経理の状況 1連結財務諸表等 注記事項(連結財務諸表作成のための基本となる重要な事項)、(重要な会計上の見積り)」に記載しております。
該当事項はありません。
当社グループの研究開発活動は、当社各事業部の技術部門および研究開発部門において推進されております。当連結会計年度における研究開発費の総額は
当連結会計年度における各セグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果は次のとおりであります。
電力会社向けの当社主力製品である架空配電線の品質の向上と生産性アップ、安定供給や環境負荷低減のための使用材料の多様化など、社会的要請に応えながら日々開発に努めております。更に、一般市販用電線分野では、時代に合わせた電気の安定供給や環境・社会課題に貢献できるよう、様々な現場ニーズに基づく品種拡大、独自仕様製品の開発に取り組んでおります。
当事業部門に係る研究開発費は、
電子材料については、機能性フィルムおよび機能性ペーストに関して、一層の製品競争力強化を図ることを目的とした素材開発や製品開発、それらの加工技術開発に取り組むとともに、国内外の外部機関との連携等を含め、電子材料の周辺分野および新規分野をターゲットとした製品開発、用途開発を、強化・推進しました。また、ボンディングワイヤに関しては、銅ワイヤ、銀ワイヤの製品開発を推進しました。
当事業部門に係る研究開発費は、
上記に加え、医療機器用部材の商品化に向けての研究開発および中長期的な商品開発に向けた研究開発費用が115百万円発生しております。当該費用は、セグメントに配分されない全社費用としております。