第2【事業の状況】

1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】

 文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものです。

 

(1)経営方針

 当社グループは、従来から一貫して経営理念を「ユニークで存在感のある企業集団として、社会と環境に貢献する」と定め、経営方針としては、「ユニークな中堅メーカーとしての強みを生かして、顧客満足度の最大化を推進し、利益の最大化を目指す」としております。株主を中心とし、更に従業員、取引先、地域社会、環境面での様々なステークホルダーに貢献し、その活動を通じて当社グループの企業価値の向上を追求することをもって経営方針としております。

 

(2)経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社が経営上の目標の達成状況を判断する客観的な指標としては、収益稼得水準の観点から営業利益を最も重視しており、これに持分法による投資損益等を反映した経常利益や、株主に対する還元の基準となる親会社株主に帰属する当期純利益についても重要視しております。加えて、投下資本の生産性を示す指標としてROAやROEについても、重要な経営指標と考えております。

 

(3)中長期的な経営戦略

 当社グループは、将来目指すべき姿として長期目標(営業利益100億円、ROE8%)を定め、更なる成長の機会探索と既存事業の体質強化に取り組んでおります。

 また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を考慮し、発表を延期しておりました第5次中期経営計画は、第4次中期経営計画で探索し始動した成長分野の取り込みを本格的に進めていく期間とし、中計の対象期間は変更せず、2020年度から2022年度の最終年度とした第5次3ヶ年計画を策定いたしました。

 第5次中期経営計画の最終年度においては、売上高825億円、営業利益45億円、ROE6.5%を目指し、その中で「成長戦略施策」としては、

偽造防止機能や意匠性等を付与した高付加価値の「パッケージ分野の強化」

②特殊機能紙における既存/新技術を活かした「環境対応型製品の開発」

③合成繊維・セルロースナノファイバー等の付加価値の高い「高機能シート分野での上市・拡販」

④固形燃料事業の拡大や廃棄物の再資源化を目指した「廃棄物利活用事業の強化・新規立上げ」

⑤環境対応樹脂(生分解性)を使用したラミネート技術での「新ブランド『NatuLami(ナチュラミ)』の立ち上げ」

 などを掲げております。

 

 上記の成長戦略に加えて、アフターコロナの新常態における市場変化に対応するべく、当社グループの「既存事業の体質強化」の施策として、

日本製紙株式会社と連携した「段原紙・クラフト紙の生産体制の強化」

⑦全社的な「業務プロセスの見直し」による収益基盤の安定

⑧特殊素材事業での「工場設備・生産体制の見直し」によるコスト削減

などを重点に取り組んでまいります。

 

(4)経営環境

 ①企業構造

 当社は、2010年、特種製紙株式会社と東海パルプ株式会社を吸収合併することで設立され、主たる事業である製紙業においては「産業素材事業」「特殊素材事業」「生活商品事業」、製紙以外の事業領域については「環境関連事業」によって構成されております。また、横の連携も円滑に行うことを目的とした“事業本部制”を採用することにより、各セグメントが持つ技術や生産力をより相乗的に発揮できるように運営を行っております。

 「産業素材事業」は、段ボール原紙やクラフト紙等の産業用紙事業において日本製紙株式会社と合弁事業を行っており、当事業の売上については、その大半が持分法適用会社である日本東海インダストリアルペーパーサプライ株式会社向けのものです。したがって、当事業の業績は主に持分法利益の取り込みにより経常利益に反映されることになります。

 「特殊素材事業」は、ファンシーペーパー等の特殊印刷用紙及び特殊機能紙など高付加価値製品の製造・販売を行っており、事業の主体は特種東海製紙本体となります。

 「生活商品事業」は、子会社2社により構成されており、業務用ペーパータオルや食材紙、トイレットペーパーといった衛生用紙、ラミネート紙及びコート紙の製造・販売を行っております。

 「環境関連事業」は、当社保有の南アルプス社有林の有効活用を目的とした自然環境活用事業、当社サプライチェーンを起点としたリサイクルビジネスの拡大を目的とした資源再活用事業によって構成され、今後の新規事業の要の一つとしてさらなる拡大を進めてまいりたい事業分野であります。

 以上のように、規模の経済が働く事業分野においては他企業との合弁事業にて、独自の強みを活かすことのできる「多品種・小ロット・高付加価値」事業である特殊素材事業については、特種東海製紙本体により事業を推進、他のセグメントについては基本的に子会社による事業展開を行う体制を採っており、この事業本部制は適切に機能していると判断しております。

 

 ②市場環境・顧客動向

 a.産業素材事業

 当事業においては、段ボール等包装材に用いられる段ボール原紙、クラフト紙の製造を行っております。新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、一時的な需要の減少があったものの、生活様式の変化に伴う宅配ニーズの増加や巣篭りニーズの増加等、根強い需要が見込まれ、加えてアジアを中心とした底堅い段ボール需要も想定されており、産業用包装素材の需要については今後も堅調に伸長するものと認識しております。

 b.特殊素材事業

 当事業においては、出版向けやハイエンドパッケージ向けファンシーペーパー、特殊機能紙など、小ロット多品種・高付加価値・高価格製品の製造・販売を行っております。従来からのデジタル化の流れによる出版部数の伸び悩みに伴って、出版向けファンシーペーパー等の特殊印刷用紙については、市場が縮小傾向にあるとともに、今般の新型コロナウイルス感染症拡大の影響により需要が減少いたしました。一部では需要の回復はみられるものの市場縮小傾向の流れは変わらないと考えております。他方で、特殊機能紙については、特殊印刷用紙と同様に、一時的な需要の落ち込みはあったものの、中国をはじめとする海外需要も回復に向い、またコロナ感染をきっかけとした社会構造の変化による新たな潜在的ニーズもあり、これらの動きに伴う商機を追求していきたいと考えております。

 c.生活商品事業

 当事業が主に扱っているトイレットペーパーにつきましては、国内人口減少に伴う需要減少がある反面、インバウンド需要の高まりから業界では堅調な伸びとなっておりました。しかしながら、新型コロナウイルスの感染拡大以降、海外からの観光客が減少したことに伴い、これまで伸長してきた商業施設向け商品のインバウンド需要が減少しました。他方で、ペーパータオルについては、社会全般の衛生意識の向上に伴って需要増加の傾向にあります。

 また、ラミネート等の加工品は新型コロナウイルス感染症拡大の影響に伴う経済活動の低下によって一時的な需要が大きく減少いたしましたが、厳しいながらも需要の回復が見え始めております。

 d.環境関連事業

 当事業においては、資源リサイクルを積極的に推進すべく産業廃棄物中間処理業等を営む中で、主に廃プラスチック等を有効活用した固形燃料(RPF)及び原燃料用木質チップの製造・販売等を行っております。足元では、新型コロナウイルスの影響による経済活動の停滞により、業績にも一時的な影響が出ておりますが、中長期的には国内の社会課題解決に向けた動きとともに、環境負荷低減を目指した資源リサイクルの活動は重要性を増し、関連する事業のニーズは今まで以上に伸びるものと認識しております。

 

 ③競合他社の状況

 当社グループは製紙業を主たる事業としており、事業セグメントごとに異なった競合他社が多数存在します。いずれの事業セグメントにおいても、総需要に対して生産能力が超過気味であるという構造になっており、業界全体での競争は厳しさを増しているということが、共通認識となっております。その中で、比較優位にある分野を強化しつつ如何に差別化できる業務を行っていくかが極めて重要であると認識しております。

 

(5)優先的に対処すべき事業上及び財務上の課題

 ①紙製品への需要減退

 国内人口の減少、少子化およびデジタル技術の発展に伴う電子媒体の利便性向上等の構造変化に加え、新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、情報媒体としての紙製品への需要は大幅に減退しており、当社グループはこれに対処するべく、以下の4点の課題解決に取り組んでまいります。

 a.既存事業の体質強化

 急速な市場変化に対応するため、業務プロセスの全社的な見直しをはじめとした既存事業の体質強化を進めてまいります。ウィズ/アフターコロナにおける新常態で想定される事業環境に向け、コストダウンのための生産体制の効率化と原価低減に加えて、財務体質の一層の筋肉質化により、安定した収益基盤の獲得を目指してまいります。

 b.環境対応型紙製品の開発

 脱プラスチック・脱炭素化への社会的要請が紙製品の新たな需要を生む可能性があると見込んでおります。環境対応樹脂を使用した製品、リチウムイオン二次電池のセパレータ向けCNF製品等の開発およびプラスチック容器に代替するウェットモウルド事業の推進により環境負荷低減に努めてまいります。また、今後注力するパッケージ分野においては、当社グループが培ってきた様々な技術を複合的に活用することで紙製品需要の新規開拓に努めてまいります。

 c.製紙以外の新たな事業領域の拡大

 新たにセグメント化された環境関連事業は、成長市場かつ当社グループ保有の経営資源を活用可能な分野として認識しております。当セグメントでは、南アルプス社有林の有効活用を目指すとともに、資源再活用事業における固形燃料の生産体制の強化および産業廃棄物処理等の領域拡大に取り組むことで、製紙以外の新たな収益基盤の構築を図ってまいります。

 d.優位性のある紙製品の拡大

 高水準な品質管理と技術力により他社との差別化を図ってまいります。高い品質が求められる特殊機能紙については製品への異物混入を極めて低位に抑えることでシェアの維持・拡大に努めてまいります。また、兼ねてより開発に注力しております非セルロース系繊維素材については、継続的な機能性強化に取り組むとともに、多様な顧客ニーズに対応した拡販を推進してまいります。

 

 ②持続可能な社会に向けた対応

 カーボンニュートラルをはじめとした持続可能な社会の実現に向けた取り組みを推進し、脱プラスチック化に関わる新たな紙素材の開発に加え、化石燃料使用量のさらなる削減により製造に関わる化石燃料起源CO₂の発生減少に努めてまいります。また、グループ内の廃棄物ゼロエミッション化を目指し、ボイラーから発生する廃棄物の再資源化の検討を進めてまいります。

 

 ③経営資源の有効活用

 企業価値の最大化という目的を達成するために、中長期的な目線に立ち、積み上げられた財務余力、人材および知的財産を成長分野へと向けて、M&Aも視野に入れた事業ポートフォリオの変更・再構築とともに、新たな事業の創出を目指してまいります。

 

 

 

 

2【事業等のリスク】

 有価証券報告書に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、経営者が連結会社の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況に重要な影響を与える可能性があると認識している主要なリスクは、以下のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において当社グループが判断したものであります。

 

(1)需要及び市況の変動

 当社グループは製紙業を主たる事業としており、事業セグメントごとに異なったリスクがあるものと認識しております。

 ①産業素材事業

 当事業は段ボール原紙やクラフト紙等の産業用包装材を主に扱っております。経済環境の悪化に伴って物流活動が停滞した場合、また、悪天候により農産物の収穫量・流通量が著しく低下した場合、産業用包装材の需要が減少し、当事業の業績に負の影響を与える可能性があります。また、当事業の海外展開先である中国及びASEAN諸国の政情や経済状況が著しく変動した場合、販売量の減少や市場価格の下落等の要因で、当事業の業績に負の影響を与える可能性があります。これらのリスクへの対応については、生産コスト低減施策を通じ、さらなる低コスト・高能率の生産体制を作りあげてまいります。

 ②特殊素材事業

 当事業が扱っている出版向けファンシーペーパー等の特殊印刷用紙及び特殊機能紙は、「多品種・小ロット高付加価値」が特徴の高価格製品群となっております。出版部数の伸び悩みに伴い、当事業の主力製品群である特殊印刷用紙の市場そのものが縮小傾向にありますが、他方で、ハイエンドパッケージ向け新製品の開発や中国市場の開拓等、積極的な製品展開に努めております。しかしながら、特に高価格の特殊印刷用紙においては、景況変動の影響をいち早く受けやすく、経済活動が停滞した場合、需要が著しく減少し、当事業の業績に負の影響を与える可能性があります。今般のコロナ禍ではリスクが顕在化し、当連結会計年度において、商業印刷、出版、パッケージ向け等の特殊印刷用紙の需要が減少いたしました。需要は回復基調にあるものの、当該リスクへの対応については、引き続き、新たな潜在的ニーズの追求に努めると共に、今後の市場動向を注視してまいります。

 ③生活商品事業

 当事業が主に扱っているトイレットペーパーにつきましては、国内人口減少に伴う需要減少がある反面、インバウンド需要の高まりから、業界では堅調な伸びとなっておりました。しかしながら、商業施設向け商品が多数あり、新型コロナウイルスの感染拡大以降、観光客減少に伴い、インバウンド需要が減少しております。この状況が長期化する場合、販売数量の減少等を通じて、当事業の業績に負の影響を与える可能性があります。当該リスクへの対応としては、市販品の拡販及び顧客ニーズを取り込み、製品のさらなる品質向上を推進し、生産効率を維持してまいります。

 またペーパータオルにつきましては、社会全般の衛生意識の高まりから需要は堅調であるものの、競合他社が同事業へ参入する動きもあり、長期的には供給が需要を超える可能性があります。ネットワークを強化しつつ、機能性を高めた製品の投入を検討するなどして存在感を顕示してまいります。

 

(2)原燃料価格の変動

 製紙業においては多量の原燃料を使用するため、その事業の主たる原料価格に変動があった場合、当該事業の業績に負の影響を与える可能性があります。

 産業素材事業において主たる原料である段古紙の価格は、中国およびASEAN諸国をはじめとした海外情勢の影響を受けやすくなっております。したがって、海外情勢に著しい変化があった場合、調達価格が高騰し、当該事業の業績に負の影響を与える可能性があります。

 生活商品事業において使用する上質の古紙の価格は、ペーパーレス化の進展に伴い、年々その発生量が減少し、古紙需給の影響を受けやすい状況となっております。したがって、更なるペーパーレス化の進展により、上質の古紙の発生量が減少した場合、調達価格が高騰し、当該事業の業績に負の影響を与える可能性があります。

 古紙の調達価格上昇リスクについては、運送費のより安価な近場からの安定調達に注力するとともに、長年の取引関係を勘案した安定調達先の確保に努め、さらに段古紙については、日本製紙株式会社との共同調達の実施などにより対応しております。

 特殊素材事業において多量に使用するパルプについては、その多くを諸外国から調達しております。調達価格は海外市況の影響を受けるため、パルプ生産国の経済活動に著しい変化があった場合や、世界的な需要が高まった場合においては、調達価格が高騰し、当該事業の業績に負の影響を与える可能性があります。パルプの調達価格上昇リスクの対応については、調達先を国内外で多様化するとともに、各取引先との良好な関係作りに注力しております。また、当社グループ全体としては、島田工場で製造している未晒パルプシートの海外輸出も行うことにより、購入パルプ価格の上昇の影響を緩和する施策も行っております。

 

(3)取引先の信用リスク

 当社グループの取引先の経営状況が、市場の変動や業界再編成等により財務上の問題に直面した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクが顕在化する可能性については、現時点では確認しておりませんが、新型コロナウイルスによる影響が長期化した場合、社会全般における倒産リスクが高まるものと認識しており、各事業本部が密に連携し、一層の管理体制強化を図ってまいります。

 

(4)資金調達

 資金調達については、現状の経済情勢下においては重大なリスクはないものと認識しておりますが、変異株による新型コロナウイルス感染症拡大が更に広がり、更に厳しい要請下での緊急事態宣言期間が長期におよぶ状況となった場合は、金融機関からの資金調達が困難になる可能性があると考えております。当該リスクが顕在化する可能性は、現時点では認識しておりませんが、手許流動性の確保のため、現預金の積み増し及び既存取引行2行とのコミットメント契約を締結し、非常事態に備えております。

 

(5)環境関連の法的規制

 当社グループは、各種事業において環境関連の法規制の適用を受けております。このため、これらの規制の改定等に対応することにより、事業活動が制限されたり、高額な費用負担や環境対策設備の設置等、コストの増加につながることがあり、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。当該リスクへの対応について、当社グループは社長直轄の部署として安全・環境統括室を設置しており、環境関連の法改正及び環境保全に係る社会的要請の動向に、引き続き注視してまいります。

 

(6)災害や感染症及び事故による影響

 当社グループは、製造ラインの突発的な中断による潜在的なマイナス影響を最小限にするため、定期的な予防保全を行っております。また、災害事故等不測の事態発生に備え、影響を最小限にするための教育・訓練等を実施しており、特に地震対策については、当社内に緊急時の対応組織を設け、臨機応変に対応することにしております。しかし、これらの影響を完全に防止または軽減できる保証はありません。また、当社グループの工場及び施設の多くは静岡県にあり、大規模な地震やその他の操業を中断する事象が発生した場合には、当社グループの業績及び財務状況に影響を及ぼす可能性があります。

 また、従業員が重大な感染症に罹患した場合、従業員及びその家族への感染拡大を防ぐため、工場の操業を停止する可能性があり、停止の期間やその範囲は想定しておりません。今般の新型コロナウイルスの世界的な拡大を受け、当社グループでは、各都道府県の感染状況や政府機関の判断を随時注視しながら、リモートワークの導入をはじめとした社内施策を講じ、感染防止に努めております。

 

(7)環境の激変に伴う所有資産価値の変動

 ①投資有価証券の減損に係るリスク

 当社グループは、時価のある有価証券を保有しておりますが、時価が著しく下落した場合には、取得原価と時価との差額を当該期の損失とすることとなり、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 ②固定資産の減損に係るリスク

 当社グループは、多くの製紙業に関係する生産設備等の有形固定資産を有しております。当連結会計年度においては、新型コロナウイルス感染症拡大の影響等に伴い特殊素材事業、生活商品事業および環境関連事業の一部の資産グループに減損の兆候がみられ、割引前将来キャッシュ・フローの総額が固定資産の帳簿価額を下回った特殊素材事業および生活商品事業の一部の資産グループにおいては帳簿価額を回収可能価額まで減額し、帳簿価額の減少額を減損損失として計上しております。引き続き、「固定資産の減損に係る会計基準」の適用に伴い、このような資産又は資産グループについて、時価の下落や当該資産又は資産グループから得られる将来キャッシュ・フローの状況によっては減損処理が必要な場合があり、そうした場合、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 ③のれんの減損に係るリスク

 当社グループは、前事業年度に株式会社駿河サービス工業を連結子会社化したことに伴い、のれんを計上しております。当該のれんにつきましては、事業価値及びシナジー効果が発現された結果得られる将来の収益力を適切に反映したものと考えておりますが、景気変動等の影響により収益性が低下した場合には、減損損失計上により、当社グループの業績及び財政状態に影響を及ぼす可能性があります。

 

3【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析】

(1)経営成績等の状況の概要

 当連結会計年度における当社グループ(当社、連結子会社及び持分法適用会社)の財政状態、経営成績及びキャッシュ・フロー(以下「経営成績等」という。)の状況の概要は次のとおりであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況

 当連結会計年度におけるわが国経済は、新型コロナウイルス感染症の影響により、経済活動が大きく停滞しました。段階的な経済活動の再開を受けて一部業種に持ち直しの動きがみられたものの、感染再拡大により先行きは依然として不透明な状況が続いております。

 このような状況の中、当社グループは、事業基盤の強化・変革、成長戦略を推進するとともに、新型コロナウイルス感染症の影響に伴う売上減に対応するため、グループ全体で原価低減や経費削減に努めてまいりました。

 特殊素材事業におきまして、研究開発本部は、偽造防止の既存技術を利用し新市場に対する提案を行うことと並行して新たな技術開発及びその技術を使った製品の開発を開始しました。また継続して環境負荷低減をターゲットにした製品、特殊繊維を使用した製品開発を行っております。パッケージ企画本部は、TOKYO PACK 2021で、機能性、意匠性を付与した新たなパッケージ用紙を提案いたしました。また、ウエットモウルドの製造販売に参入することといたしました。

 産業素材事業におきましては、連結子会社の新東海製紙株式会社において、工場能率の改善による原価低減効果など、更なるコスト面・品質面での競争力向上に取り組んでおります。

 生活商品事業におきまして、連結子会社の株式会社トライフは、日本製紙株式会社の子会社である日本製紙クレシア株式会社と両社の持つペーパータオル用紙事業の営業機能を統合することで7月に合意し、11月1日付で統合いたしました。これにより、両社が持つ従来の販売網を活用し双方の商品を販売することによる新たな顧客開拓の促進や販売拡大を図ってまいります。

 当社グループは、これらの3事業に加え、新たに自然環境の活用や資源の再活用を目指した環境関連事業をセグメント化し、将来の収益基盤の強化を図ってまいります。自然環境活用分野では、4月1日付で当社の南アルプス社有林等に係る事業を分割し、連結子会社として十山株式会社を設立いたしました。また、社有林内に豊かな自然環境を活かしたウイスキー製造を目指して井川蒸溜所を建設し、11月に本格稼働を開始いたしました。

 

a.財政状態

 当連結会計年度末の資産合計は、前連結会計年度末に比べ4,564百万円減少し、128,091百万円となりました。

 当連結会計年度末の負債合計は、前連結会計年度末に比べ7,172百万円減少し、47,804百万円となりました。

 当連結会計年度末の純資産合計は、前連結会計年度末に比べ2,607百万円増加し、80,286百万円となりました。

 

b.経営成績

 当連結会計年度の経営成績は、売上高76,403百万円(前年同期比5.2%減)、営業利益3,227百万円(前年同期比12.4%増)、経常利益5,970百万円(前年同期比10.8%増)、親会社株主に帰属する当期純利益5,594百万円(前年同期比51.4%増)となりました。

 

 セグメントごとの経営成績は、次のとおりであります。

 なお、当連結会計年度より、報告セグメントごとの業績をより適切に反映させるため、全社費用の配分基準を見直し、事業セグメントの利益の算定方法の変更を行っております。また、当連結会計年度より、従来「その他」としていた「環境関連事業」について量的な重要性が増したため、報告セグメントとして記載する方法に変更しております。これに伴い、前年同期比較においては、前年同期の数値を変更後のセグメント情報に組み替えた数値で比較しております。

 

1) 業素材事業

 主力製品である段ボール原紙及びクラフト紙につきましては、日本東海インダストリアルペーパーサプライ株式会社向けの売上が減少したことなどにより、当セグメントの売上高は37,130百万円(前年同期比5.2%減)となりました。利益面につきましては、水力発電による売電事業が渇水の影響などもあり、営業利益は1,177百万円(前年同期比2.6%減)となりました。

2) 殊素材事業

 特殊印刷用紙につきましては、新型コロナウイルス感染拡大の影響により、商業印刷、出版、パッケージ向けの需要が急減し、期後半以降、需要の回復の兆しがみられたものの、依然として厳しい状況が続いております。他方、特殊機能紙につきましては、期前半までの需要減少が大きく、通期の販売数量・金額はともに前年同期を下回りましたが、期後半以降、国内需要は回復基調になり、海外向け一部製品は前年実績を上回る状況が続きました。原価面につきましては、パルプをはじめとした主要原燃料価格の低下と経費削減によるコストダウンを行い、利益は前年同期を上回りました。

 この結果、当セグメントの売上高は18,746百万円(前年同期比14.4%減)、営業利益は1,302百万円(前年同期比16.5%増)となりました。

3) 生活商品事業

 ペーパータオルは、新型コロナウイルスの感染拡大以降、社会全般の衛生意識の向上に伴い需要が増加し、販売数量が前年同期を大幅に上回りました。また、更なる拡販及び競争力の強化を図るため、日本製紙クレシア株式会社と業務提携を行いました。一方、トイレットペーパーにつきましては、販売価格は維持したものの、新型コロナウイルス感染症の影響により業務用が低調に推移し販売数量は前年同期を大幅に下回りました。また、ラミネート等の加工製品につきましては、新型コロナウイルス感染拡大に伴う経済活動の停滞によって需要が減少しており、販売数量が前年同期を大幅に下回りました。利益面につきましては、ペーパータオルの販売数量増に加え、原価低減及び経費削減の推進等により増益となりました。

 この結果、当セグメントの売上高は16,584百万円(前年同期比7.1%減)、営業利益は833百万円(前年同期比57.8%増)となりました。

4) 環境関連事業

 2020年1月に子会社化した株式会社駿河サービス工業が連結対象となったことなどにより増収となりました。利益面では、新型コロナウイルス感染症の影響により観光事業の売上高が前年同期を大幅に下回ったこと、ウイスキー等の将来成長事業に係る先行費用が増加したことなどにより、減益となりました。

 この結果、当セグメントの売上高は8,773百万円(前年同期比29.8%増)、営業利益は70百万円(前年同期比41.5%減)となりました。

 

②キャッシュ・フローの状況

  当連結会計年度末における現金及び現金同等物(以下「資金」という。)は13,197百万円となり、前連結会計年度末に比べ3,289百万円の増加となりました。

  当連結会計年度末における各キャッシュ・フローの状況とそれらの要因は次のとおりであります。

(営業活動によるキャッシュ・フロー)

  営業活動の結果得られた資金は11,638百万円となり、前連結会計年度に比べ623百万円の増加となりました。主な要因は、関連会社からの配当金の受取額の増加であります。

(投資活動によるキャッシュ・フロー)

  投資活動の結果得られた資金は893百万円(前連結会計年度は9,598百万円の使用)となりました。主な要因は、投資有価証券の売却収入によるものであります。

(財務活動によるキャッシュ・フロー)

  財務活動の結果使用した資金は9,242百万円となり、前連結会計年度に比べ9,008百万円の増加となりました。主な要因は、借入金の返済によるものであります。

 

③生産、受注及び販売の実績

a.生産実績

 当連結会計年度における生産実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

 

生産高(百万円)

 

前年同期比(%)

産業素材事業

40,911

△2.6

特殊素材事業

15,845

△16.3

生活商品事業

14,986

△0.8

環境関連事業

141

648.0

合計

71,884

△5.5

 (注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 金額は、販売価格によっており、自社利用分も含まれております。

3 上記の金額には消費税等は含まれておりません。

 

b.受注実績

  当連結会計年度における受注実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

受注高(百万円)

前年同期比(%)

受注残高(百万円)

前年同期比(%)

特殊素材事業

73

79.3

17

100.0

環境関連事業

2,528

△50.9

1,897

△31.8

合計

2,601

△49.8

1,914

△31.1

 (注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

    2 受注実績は、土木・造園工事について記載しております。

    3 上記の金額には消費税等は含まれておりません。

 

c.販売実績

 当連結会計年度における販売実績をセグメントごとに示すと、次のとおりであります。

セグメントの名称

 

販売高(百万円)

 

前年同期比(%)

産業素材事業

35,196

△5.5

特殊素材事業

18,151

△14.3

生活商品事業

16,379

△6.8

環境関連事業

6,676

44.1

合計

76,403

△5.2

 (注)1 セグメント間取引については、相殺消去しております。

2 主な相手先別の販売実績及び当該販売実績の総販売実績に対する割合は次のとおりであります。

相手先

前連結会計年度

(自 2019年4月1日

至 2020年3月31日)

当連結会計年度

(自 2020年4月1日

至 2021年3月31日)

販売高(百万円)

割合(%)

販売高(百万円)

割合(%)

日本東海インダストリアルペーパーサプライ株式会社

31,301

38.8

29,705

38.9

    3 上記の金額には消費税等は含まれておりません。

(2)経営者の視点による経営成績等の状況に関する分析・検討内容

 経営者の視点による当社グループの経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容は次のとおりであります。

 なお、文中の将来に関する事項は、当連結会計年度末現在において判断したものであります。

 

①財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

a.経営成績等

 1) 財政状態

  (資産)

 当連結会計年度末の総資産は、128,091百万円となり、前連結会計年度末に比べて4,564百万円の減少となりました。主な要因は、投資有価証券の売却による減少、減損損失の計上により有形固定資産が減少したことによるものであります。

  (負債)

 当連結会計年度末の負債は、47,804百万円となり、前連結会計年度末に比べて7,172百万円の減少となりました。主な要因は、有利子負債の減少によるものであります。

  (純資産)

 当連結会計年度末の純資産は、80,286百万円となり、前連結会計年度末に比べて2,607百万円の増加となりました。主な要因は、親会社株主に帰属する当期純利益の計上による利益剰余金の増加によるものであります。自己資本比率は57.3%となり、前連結会計年度末に比べて3.8ポイント上昇しました。

 

 2) 経営成績

  (売上高)

 当連結会計年度の売上高は76,403百万円となり、前連結会計年度に比べて4,200百万円(5.2%減)の減少となりました。セグメントごとの売上高につきましては、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載しております。

  (売上総利益)

 当連結会計年度の売上総利益は11,087百万円となり、前連結会計年度に比べて284百万円(2.6%増)の増加となりました。これは主に、原燃料価格が下落したことによるものであります。

  (営業利益)

 当連結会計年度の営業利益は3,227百万円となり、前連結会計年度に比べて356百万円(12.4%増)の増加となりました。これは主に、売上総利益が増加したことによるものであります。

  (経常利益)

 当連結会計年度の経常利益は5,970百万円となり、前連結会計年度に比べて581百万円(10.8%増)の増加となりました。これは主に、持分法による投資利益が増加したことによるものであります。

  (親会社株主に帰属する当期純利益)

 当連結会計年度の親会社株主に帰属する当期純利益は5,594百万円となり、前連結会計年度に比べて1,899百万円(51.4%増)の増加となりました。これは主に、投資有価証券売却益等の特別利益が増加したことによるものであります。

 

b.経営成績等の状況に関する認識及び分析・検討内容

 当社グループの経営成績等に重要な影響を与える要因につきましては、「第2 事業の状況 2 事業等のリスク」に記載のとおりであります。

 

c.経営方針、経営戦略、経営上の目標の達成状況を判断するための客観的な指標等

 当社グループが経営上の目標の達成状況を判断する客観的な指標としては、収益稼得水準の観点から営業利益を最も重視しており、また営業外の活動を反映する経常利益や、株主に対する還元の基準となる親会社株主に帰属する当期純利益についても重要視しております。加えて、投下資本の生産性を示す指標としてROAやROEについても、重要な経営指標と考えております。当社グループは、将来目指すべき姿として長期目標(営業利益100億円、ROE8%)を定め、更なる成長の機会探索と既存事業の体質強化に取り組んでおります。

 当連結会計年度における営業利益は32億円、経常利益は59億円、ROEは7.8%となりました。第5次中期経営計画を推進することで、引き続き当該指標の改善に邁進していく所存でございます。

 

d.セグメントごとの財政状態及び経営成績の状況に関する認識及び分析・検討内容

 「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ①財政状態及び経営成績の状況」に記載のとおりであります。

 

②キャッシュ・フローの状況の分析・検討内容並びに資本の財源及び資金の流動性に係る情報

 当連結会計年度のキャッシュ・フローの状況につきましては、「第2 事業の状況 3 経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析 (1)経営成績等の状況の概要 ②キャッシュ・フローの状況」に記載のとおりであります。

 また、資本の財源及び資金の流動性につきましては、次のとおりであります。

  (資金需要)

 当社グループの事業活動における資金需要の主なものは、運転資金需要と設備資金需要の二つがあります。運転資金需要の主なものは紙パルプ製造・販売における原材料及び商品仕入れ、製造費や販売費及び一般管理費等の営業費用であります。また、設備資金需要の主なものは紙製造工程の維持更新投資、エネルギー関連投資、研究開発関連投資等、固定資産購入によるものであります。

 

  (財務政策)

 当社グループは、短期運転資金等の短期性資金については、主に金融機関からの短期借入金にて調達し、長期運転資金及び設備投資等の長期性資金については、内部資金及び金融機関からの長期借入金並びに金融機関を引受先とする社債(私募債)発行等により調達しております。なお、資金の性格、今後の資金需要、金利動向等の調達環境、予想される貸借対照表の流動比率及び借入金長短比率等を総合的に考慮し、調達額及び調達方法を適宜判断して実施しております。

 また、新型コロナウイルス感染症拡大の影響に備えて、新たに取引銀行2行との貸出コミットメントライン契約に加え、現預金残高の積み上げにより一定程度の手許流動性を確保しております。

 

③重要な会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定

 連結財務諸表の作成に当たって用いた会計上の見積り及び当該見積りに用いた仮定のうち、重要なものについては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (重要な会計上の見積り)」に記載のとおりであります。

 また、新型コロナウイルス感染症の影響につきましては、「第5 経理の状況 1 連結財務諸表等 (1)連結財務諸表 注記事項 (追加情報)」に記載しております。

 

4【経営上の重要な契約等】

 該当事項はありません。

5【研究開発活動】

 当社グループ(当社及び連結子会社)の研究開発活動は、原材料の開発、製品開発と生産工程に関わる技術開発及び新事業探索に重点をおいて行っております。また、引続き将来のための4つの技術 NaSFA(Nano technology,Security,Fusion,Art)の更なる検討、展開を進めております。

 研究開発は、フィブリック事業本部、パッケージ企画本部、研究開発本部が中心となり進めております。

 当連結会計年度における各セグメント別の研究の目的、主要課題、研究成果は次のとおりであります。

 なお、当連結会計年度の研究開発費の総額は916百万円でありますが、報告セグメントに含まれない戦略的研究開発費247百万円を含んでおります。

 

(1)産業素材事業

 産業素材事業では、ライナー、中芯、クラフト紙の品質改善とコストダウンに注力しております。原材料・処方・設備などの全ての面で検討、見直しを行っております。

 当セグメントに係る研究開発費は24百万円であります。

 

(2)特殊素材事業

 特殊素材事業では、前期から取り組んでいる開発案件のうち、2件の新製品を上市しました。当期は新型コロナウイルス感染症の影響を受け、海外をターゲットとした製品開発はユーザー評価が進まず、軒並み停滞しました。これを機に、広くニーズを探る開発から、より将来性があると考えられる、環境対応型製品やデジタルトランスフォーメーションに関わる技術開発に力を入れ、新規事業分野への参入の足掛かりとすべく開発を進めております。なお開発の比重は下がるものの、既存技術を利用した製品開発も検討しており、当期に技術開発は完了し、次期には2件の新製品を上市する見込みです。

 パッケージ分野では、食品向けパッケージを含む、2件の新製品を上市しました。パッケージ企画本部は、TOKYO PACK 2021で、機能性、意匠性を付与した新たなパッケージ用紙を提案いたしました。また、ウエットモウルドの製造販売に参入することといたしました。

 当セグメントに係る研究開発費は424百万円であります。

 

(3)生活商品事業

 生活商品事業では、当期も環境配慮型製品の開発に注力しております。ペーパータオルは包装フィルムを紙に代替した新製品を完成しました。紙コート技術では、酸素透過性の低いハイバリアコート品を、紙ラミネート技術では、バイオマス樹脂や生分解性樹脂の加工技術を、それぞれ完成しました。

 当セグメントに係る研究開発費は59百万円であります。

 

(4)環境関連事業

 環境関連事業では、南アルプスの社有林内に豊かな自然環境を活かしたウイスキー製造を目指して「井川蒸溜所」の建設を行い、11月より本格稼働を開始いたしました。社有林の天然湧水、気候風土を活かした最高のウイスキーを製造できるようテストを重ねております。

 当セグメントに係る研究開発費は159百万円であります。

 

(5)知的財産について

 期間中に出願した特許等の知財の件数は35件(特許18件、意匠4件、商標13件)、登録された特許等の知財の件数は23件(特許9件、意匠2件、商標12件)となりました。